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特許7594434電力変換装置、回転機システム、及び診断方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-26
(45)【発行日】2024-12-04
(54)【発明の名称】電力変換装置、回転機システム、及び診断方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 29/024 20160101AFI20241127BHJP
   G01R 31/34 20200101ALI20241127BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20241127BHJP
【FI】
H02P29/024
G01R31/34 A
H02M7/48 M
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020216259
(22)【出願日】2020-12-25
(65)【公開番号】P2021114895
(43)【公開日】2021-08-05
【審査請求日】2023-05-12
(31)【優先権主張番号】P 2020004967
(32)【優先日】2020-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】牧 晃司
(72)【発明者】
【氏名】金子 悟
(72)【発明者】
【氏名】中村 明博
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 弘
(72)【発明者】
【氏名】大矢 将登
【審査官】三島木 英宏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/156386(WO,A1)
【文献】特開2006-331300(JP,A)
【文献】特開2012-257360(JP,A)
【文献】特開2016-195524(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 29/024
G01R 31/34
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機に流れる電流を計測する電流計測部と、
前記電流計測部において計測された電流から分析対象量を算出する分析対象量算出部と、
前記分析対象量算出部で算出した分析対象量の分布に関する統計量を逐次計算する統計量
逐次計算部と、
前記統計量逐次計算部で得た統計量から異常度を算出する異常度算出部とを備え、
前記統計量逐次計算部は、
計算で発生する加算残差を加算残差保存部に保存し、
前記統計量逐次計算部は、逐次計算する際に、発生する加算残差を前記加算残差保存部に保存し、それを毎回更新するものであり、前記加算残差保存部に保存していた加算残差に微小値をまず加算し、それを部分和に加え、そして部分和の増加分を求め、前記加算残差を更新する電力変換装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記統計量逐次計算部は、
前記統計量の分布に関して、さらに第2の統計量を導出し、
前記異常度算出部は、
前記第2の統計量から異常度を算出する電力変換装置。
【請求項3】
請求項に記載の電力変換装置において、
前記分析対象量算出部は、
前記分析対象量として相電流の基本周期を算出する電力変換装置。
【請求項4】
請求項に記載の電力変換装置において、
前記相電流が零となる時刻の間隔から前記相電流の前記基本周期を算出する電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置、モータや発電機といった回転機を備えた回転機システム、及び診断方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モータや発電機といった回転機が突発故障により停止すると、大きな損害が発生する。特に工場設備等に用いられる回転機の突発故障による停止は、生産設備の稼働率低下や生産計画の見直しを余儀なくされるなど、影響が大きい。そのため、実環境で使用している状態のまま高精度に故障予兆診断を実施し、回転機の突発故障を防止するニーズが高まっている。
【0003】
そのようなニーズを受けて、回転機の稼働時電流を計測し、その波形を周波数解析し、各種異常を診断する技術が知られている。そのような技術としては、稼働時電流の周波数解析により、電源周波数の側帯波のピークを抽出して異常診断する技術がある。
【0004】
さらに、観測対象に発生した異常を検出する技術として特許文献1が知られている。特許文献1では、観測対象から観測された変数の値の時系列データを取得し、一の時刻における当該変数の確率密度関数を定める統計量を、当該一の時刻における当該変数の値と、当該一の時刻よりも前の時刻における当該統計量とに基づいて算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-331300
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したような稼働時電流の周波数解析により、電源周波数の側帯波のピークを抽出して異常診断をする技術では、特徴周波数を有しない異常、例えば軸受摩擦の間歇的な増減などは検知できない。そのため、軽度な軸受劣化の場合、異常兆候を取り逃すことがあるという問題がある。
【0007】
また、特許文献1には、観測対象から得られる複数の観測値の中から、その観測対象に発生した異常を示す観測値を適切に選択することができると記載されている。しかしながら、回転機の故障予兆を高精度に検知することについては十分に考慮されていない。
【0008】
本発明の目的は、高精度に回転機の故障の予兆を検知することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の好ましい一例としては、回転機に流れる電流を計測する電流計測部と、前記電流計測部において計測された電流から分析対象量を算出する分析対象量算出部と、前記分析対象量算出部で算出した分析対象量の分布に関する統計量を逐次計算する統計量逐次計算部と、前統計量逐次計算部で得た統計量から異常度を算出する異常度算出部とを備える電力変換装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、回転機の故障の予兆を高精度に検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1における電力変換装置、及びそれを用いた回転機システムの基本構成図。
図2】実施例1における電力変換装置が備える、回転機システムの異常を診断するフローチャート。
図3】実施例1において計測される代表的な相電流波形。
図4】実施例1において算出される代表的な電流ベクトルノルム波形。
図5】実施例1において得られる電流ベクトルノルムの代表的な瞬時値ヒストグラムの、正常状態と異常状態の比較図。
図6】実施例1において逐次計算された尖度の代表例。
図7】実施例2における電力変換装置、及びそれを用いた回転機システムの基本構成図。
図8】実施例2の電力変換装置が備える、回転機システムの異常を診断するフローチャート。
図9】実施例3における電力変換装置、及びそれを用いた回転機システムの基本構成図。
図10】実施例3の電力変換装置が備える、回転機システムの異常を診断するフローチャート。
図11】実施例4の電力変換装置が備える、回転機システムの異常を診断するフローチャート。
図12】実施例5の電力変換装置、及びそれを用いた回転機システムの基本構成図。
図13】実施例5の電力変換装置が備える、回転機システムの異常を診断するフローチャート。
図14】実施例6の電力変換装置、及びそれを用いた回転機システムの基本構成図。
図15】実施例6の電力変換装置が備える、回転機システムの異常を診断するフローチャート。
図16】実施例7における電力変換装置、及びそれを用いた回転機システムの基本構成図。
図17】実施例7における電力変換装置が備える、回転機システムの異常を診断するフローチャート。
図18】実施例7において計測される相電流波形の概略図。
図19】実施例7において得られる相電流の基本周期の分布の、正常状態と異常状態の比較図。
図20】実施例7において逐次計算された基本周期の分布の標準偏差の代表例。
図21】実施例8における電力変換装置、及びそれを用いた回転機システムの基本構成図。
図22】実施例8の電力変換装置が備える、回転機システムの異常を診断するフローチャート。
図23】実施例9の電力変換装置が備える、回転機システムの異常を診断するフローチャート。
図24】実施例10における電力変換装置、及びそれを用いた回転機システムの基本構成図。
図25】実施例10における電力変換装置が備える、回転機システムの異常を診断するフローチャート。
図26】実施例11における電力変換装置、及びそれを用いた回転機システムの基本構成図。
図27】実施例11における電力変換装置が備える、回転機システムの異常を診断するフローチャート。
図28】実施例12における電力変換装置、及びそれを用いた回転機システムの基本構成図。
図29】実施例12における電力変換装置が備える、回転機システムの異常を診断するフローチャート。
図30】実施例13における電力変換装置、及びそれを用いた回転機システムの基本構成図。
図31】実施例13における電力変換装置が備える、回転機システムの異常を診断するフローチャート。
図32】電力変換装置、及びそれを用いた回転機システムを組み込んだポンプの概略図。
図33】電力変換装置、及びそれを用いた回転機システムを組み込んだ空気圧縮機の概略図。
図34】電力変換装置、及びそれを用いた回転機システムを組み込んだ搬送テーブルの概略図。
図35】電力変換装置、及びそれを用いた回転機システムを組み込んだ工作機械の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施例を、図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0013】
図1は、実施例1における電力変換装置、及びそれを用いた回転機システムの基本構成図である。本回転機システムは、主回路11と電流センサ12a、12bを備える電力変換装置10と、電力変換装置10と接続されて電力の授受を行う電源20及び回転機30を備える。回転機30には軸受31が備えられ、回転軸の先には負荷機械40が接続されている。
【0014】
電力変換装置10は、さらに、電流センサ12a、12bで検出した相電流を計測する電流計測部13と、計測された相電流に対して三相二相変換を実施し電流ベクトルを算出する電流ベクトル算出部14と、算出された電流ベクトルに基づいて分析対象量を算出する分析対象直流量算出部15と、分析対象直流量算出部15にて算出した直流量の分布に関する統計量を逐次計算する統計量逐次計算部16と、統計量逐次計算部16にて得られた統計量から異常度を算出する異常度算出部17と、異常度算出部17で得られた異常度から診断結果を出力する出力部18といった処理部を備える。
【0015】
電流計測部13、電流ベクトル算出部14、分析対象直流量算出部15、統計量逐次計算部16、および異常度算出部17は、ROMなどの記録部にプログラムとして格納され、電力変換装置10のマイコンなどの制御部(図示省略)が、プログラムを読み出して、各処理部の処理を実行する。
【0016】
図1では、回転機30に流れる電流のうち2相の相電流を取得するように電流センサ12a、12bを、回転機30と電力変換装置10の主回路11の出力との間に設置しているが、3相の相電流それぞれに電流センサを設置してもよい。あるいは、シャント抵抗を利用してもよい。また、電力変換装置10内に設置した制御用の電流センサとは別に、診断用の性能を備えた電流センサを、回転機30などの電力変換装置10の外部に設置する構成としてもよい。
【0017】
また、回転機30に流れる電流を取得するように、主回路11の直流母線(図示は省略)の正側もしくは負側に電流センサを配置してもよい。または、主回路11内のスイッチング素子のエミッタあるいはソースと直流母線(負側もしくは正側)との間に電流センサを配置するようにしてもよい。
【0018】
回転機30の軸受において何らかの潤滑不具合が発生し、間歇的に摩擦が変動すると、モータ電流の振幅が瞬間的に増減する。その頻度が高まると、相電流の基本波周波数周辺(例えば±20Hz)の平均的なスペクトルレベルが上昇するので、従来は、FFT(高速フーリエ変換)などの周波数解析を実施して、その周波数成分を検出していた。しかし発生頻度が低く周波数成分にまでは変化が現れないような軽度な軸受異常の場合、従来の周波数成分に注目する手法では異常兆候を取り逃すという問題があった。
【0019】
そこで本実施例では、モータ電流の振幅の瞬間的な増減を発生頻度の低い時点で捉えるために、電流計測部13でモータ電流を計測した後、分析対象直流量算出部15でそれをいったん直流量に変換する。例えばそれは相電流を三相二相変換して得られた電流ベクトルのノルムであってもよいし、トルク電流(q軸電流)であってもよいし、零相電流であってもよい。そしてその直流量の瞬時値ヒストグラムを作成すると、平均値から大きく外れる事象が増えてくるという形で異常兆候が現れる。統計学の世界では、確率密度分布における外れ値の多さの指標として尖度がよく用いられる。尖度は、平均値周りの4次モーメントと分散の2乗の比と定義される無次元量なので、モータ負荷の大きさに直接左右されない利点がある。
【0020】
ただし、統計処理するデータをいったん全て蓄積するだけのメモリは、電力変換装置には通常搭載されない。そこで統計量逐次計算部において、1つのデータが入力される毎に逐次的に統計量計算値を更新する。
【0021】
図2は、本実施例の電力変換装置が備える、回転機システムの異常を診断するフローチャートである。最初に、ステップS100にて、診断モードを起動する。電力変換装置の設定項目から選択する方法のほか、診断モードを起動する機械式ボタンを押す形でもよいし、ディスプレイに表示された「診断モード」ボタンをタッチする形でもよい。あるいは特定の日時に自動的に起動するように設定してもよいし、相電流の基本波周波数の振幅が、ある特定の時間継続して、ある特定の範囲に入ったときに自動的に起動するように設定してもよい。あるいは、特定の回転機制御動作の前、乃至後に自動的に起動するように設定してもよい。
【0022】
次に、電流計測部13は、電流センサ12a、12bで検出した電流を入力して、少なくとも2相の相電流を計測する(ステップS101)。あるいは、全ての相の相電流を計測してもよい。あるいは、直流部の電流を計測して、時刻に応じて各相の相電流とみなしてもよい。電流計測は、電力変換装置10が回転機30を駆動するために生成する電圧パルスと同期して実施される。すなわち、電流センサ12a、12bからの信号を、電圧パルスと同期してサンプリングする。
【0023】
サンプリングは電圧パルス1回につき1回でもよいし、2回でもよい。複数回の電圧パルスにつき1回でもよい。例えば電圧パルス1回につき2回サンプリングすることで得た2相の相電流波形の例を図3に示す。電力変換装置10で、制御用に電圧パルスに同期した電流計測を行う場合には、その電流計測を、本実施例の故障の予兆検知にも利用できる。
【0024】
次に、電流ベクトル算出部14は、計測された相電流に対して下記の式(1)に従って三相二相変換を実施し、電流ベクトルを算出する(ステップS102)。ただし2相の相電流しか計測していない場合は、残る1相の相電流としては、式(2)が満たされると仮定して導出した値を用いる。
【0025】
【数1】
【0026】
ここで、iU、iV、は、U相、V相、W相の各相の計測電流を示し、iα、iβは、三相二相変換後の二相の固定軸α軸とβ軸での電流成分を示す。
【0027】
【数2】
【0028】
次に分析対象直流量算出部15は、得られた電流ベクトルに対して、式(3)で表現される電流ベクトルノルムを算出する(ステップS103)。図4に、算出した電流ベクトルノルムの例を示す。
【0029】
【数3】
【0030】
あるいは、さらに式(4)を用いて電流ベクトルを回転座標系に変換して、q軸電流(トルク電流)を算出し、それを電流ベクトルノルムの代わりに以後の分析に用いてもよい。なお式(4)に現れる回転子位置θは、回転機30に設置されたレゾルバやエンコーダといった回転位置センサの信号から得てもよいし、回転機30の速度起電力や電流に含まれる情報から推定してもよい。
【0031】
【数4】
【0032】
ここで、i、iは、それぞれd軸電流、q軸電流を示し、θは回転子位置を示す。
【0033】
軸受が劣化して間歇的に摩擦が増加する現象が発生すると、電流ベクトルノルムないしq軸電流の瞬時値が、平均値から大きく外れる事象が増えてくる。例えば電流ベクトルノルムの瞬時値ヒストグラムは、軸受劣化が進展すると、図5に示すように変化すると考えられる。
【0034】
なおこのような変化は、電流ベクトルノルムやq軸電流に限らず、零相電流に対しても生じうる。このような統計処理を高精度に実行するには、サンプル数は最低でも10000は必要になる。通常はそれを一括で格納・展開するメモリが必要になるほか、計算実行するマイコンの計算能力も必要になる。
【0035】
特に尖度のように次数が大きい量を計算する場合、平均値や分散を先に求める必要があり、計算量が非常に多くなる。電力変換装置に搭載されるマイコンの性能は年々向上しているものの、モータ制御にリソースの多くを割いており、異常検知に回せる余剰メモリや余剰計算能力には限界がある。
【0036】
そこで、本実施例では、統計量逐次計算部16が、n個のデータで求めた各種統計量を保持した状態からn+1番目のデータが入ってきたときに各種統計量を更新する式を導出し、逐次的に計算を進める(ステップS104)。
分析対象となる直流量をx(i=1,2,…,n)としたとき、平均値μ、分散σ 、歪度S、尖度Kは式(5)のように計算される。
【0037】
【数5】
【0038】
ここで式(5)のそれぞれの式の右辺に現れている、n個の総和の中身を展開して整理すれば、n個のデータで求めた各種統計量を保持した状態からn+1番目のデータが入ってきたときに各種統計量を更新する式が導出できる。それを用いれば、平均値、分散、歪度、尖度を順次、逐次計算することができる。逐次計算された尖度の代表例を図6に示す。正常状態と比較して、異常状態では尖度が大きくなっていることが分かる。
【0039】
分析対象直流量算出部15で算出した直流量に対して尖度という統計量を計算することで、軸受摩擦などの間歇的な異常を、正常と区別して精度高く検知することができる。
【0040】
次に、異常度算出部17は、統計量逐次計算部16にて得られた各種統計量から異常度を算出する(ステップS105)。例えば、得られた尖度をそのまま異常度とする。あるいは、尖度の移動平均を算出して異常度とする。
【0041】
そして、異常度算出部17は、算出した異常度があらかじめ設定した閾値を超えているか否かを判定する(ステップS106)。閾値を超えていた場合は故障予兆ありと診断して警告を発するように出力部18に指示する。閾値は、試験機等で別途検討した結果で決定してもよい。また、実環境での学習をすることで異常度算出部17が閾値を決めてもよい。例えば、学習期間中に複数回異常度を算出し、その平均値及び変動幅を求め、誤報を生じないレベルに閾値を設定する。
【0042】
あとで機械学習等において、精密診断できるように、算出した異常度を、回転機30の運転状態を規定するその他のパラメータと共に出力するようにしてもよい。そのような多変数データをロガー等で記録し、ベクトル量子化クラスタリングなどの機械学習のアルゴリズムで分析すれば、閾値判定では検知できなかったような微弱な異常も検知できる可能性がある。
【0043】
最後に、出力部18は、異常度算出部17にて得られた異常度や故障予兆判定結果などの診断結果を出力(ステップS107)して診断を完了する。表示方法はディスプレイ、ランプ、ブザーなど人間の五感に訴えるものでもよいし、紙や電子ファイルに記録されるものでもよい。あるいは通信ネットワークを経由して送信してもよい。
【0044】
このように本実施例の電力変換装置、及びそれを用いた回転機システムによれば、統計量に基づいて診断するため、周波数解析では検知できないような間歇的な軸受摩擦変動を感度よく検出できる。
【0045】
実施例1によれば、回転機システムの故障の予兆を、高精度、もしくは早期に検知する電力変換装置、及びそれを用いた回転機システムを実現できる。
【実施例2】
【0046】
図7は、実施例2における電力変換装置、及びそれを用いた回転機システムの基本構成図である。実施例1と同じ部分の説明は省略する。実施例1との相違点は、統計量逐次計算部16にて各種統計量を逐次計算する際に発生する加算残差を保存する加算残差保存部19を備える点である。
【0047】
電力変換装置10に通常搭載されるような低性能マイコンでは、倍精度浮動小数点数を実用的な速度では扱えない。そのため、各種統計量の逐次計算時に用いる変数の有効桁を減らさざるを得ず、サンプル数を増やした際に丸め誤差が問題となる。
【0048】
具体的には、式(6)で示すような4種類の総和を逐次計算で求めようとすると、nが大きくなればなるほど、非常に大きな部分和に対して微小量を足すことになるため、丸め誤差を生む恐れがある。
【0049】
【数6】
【0050】
そこで実施例2では、統計量逐次計算部16が逐次計算する時に、加算残差保存部19に、発生する加算残差(足し残り)を保存し、それを毎回更新するようにすることで、丸め誤差を回避する。すなわち、非常に大きな部分和に微小値を加算する際には、統計量逐次計算部16が、加算残差保存部19に保存していた加算残差に微小値をまず加算し、それを部分和に加える。そして、統計量逐次計算部16が、部分和の増加分(実際に足し込めた分)を求め、加算残差を更新する(ステップS204)。
【0051】
このようにすることで、加算残差が雪だるま式に増加するのを防ぎ、丸め誤差を一定量以下に抑えることができる。異常度算出部17は、統計量逐次計算部16で得られた統計量から異常度を算出する。
【0052】
図8は、実施例2の電力変換装置が備える、回転機システムの異常を診断するフローチャートである。実施例1のフローチャートとの相違点は、ステップS204において、加算残差を保存・更新しながら各種統計量を逐次計算する点である。
【0053】
特許文献1では、サンプル数と同じオーダーの非常に大きな値に、各時刻の変数の値を足していく処理が発生するため、サンプル数が変数の有効数字の桁数に近づくと丸め誤差の影響が無視できなくなり、計算が破綻する。そのため、電力変換装置10で通常採用される低性能マイコンでは、十分なサンプル数を扱えないという問題があった。
【0054】
実施例2では、丸め誤差を回避しながら統計量を逐次計算するため、電力変換装置10に制御用に搭載された低性能マイコンと小容量メモリでも診断を実行できる。したがって、低性能マイコンでも実用的な速度で高精度に診断ができる。
【0055】
実施例2によれば、低コストで高精度の回転機システムの故障の予兆を検知できる。
【実施例3】
【0056】
図9は、実施例3における電力変換装置、及びそれを用いた回転機システムの基本構成図である。実施例1もしくは実施例2と同じ部分は説明を省略する。
【0057】
実施例3では、電流ベクトル算出部14は無く、電流計測部13で計測した電流から零相電流算出部が分析対象直流量算出部15として、零相電流を算出する。算出した零相電流から統計量逐次計算部16が統計量を計算する。また、実施例3では、3相の電流をセンシングするように、電流センサ12a、12b、12cを配置している。
【0058】
図10は、実施例3における電力変換装置が備える、回転機システムの異常を診断するフローチャートである。実施例1もしくは実施例2との相違点は、分析対象直流量算出部(零相電流算出部)15が、3相の相電流を同時に計測して零相電流を算出する、もしくは零相電流を直接計測し、それを分析対象の直流量とする(ステップS301)点である。
【0059】
実施例3によれば、分析対象直流量算出部15における計算が簡素となり、より性能の低いマイコンでも診断が可能になる。
【実施例4】
【0060】
図11は、実施例4における電力変換装置が備える、回転機システムの異常を診断するフローチャートである。実施例4における電力変換装置、及びそれを用いた回転機システムの基本構成図は、実施例2における図7と同じである。実施例1から実施例3と同じ部分の説明は省略する。
【0061】
実施例1から実施例3との相違点は、統計量逐次計算部16は、計算して取得した第1の統計量の分布に関して、さらに第2の統計量を導出すること(ステップS405)、さらに、第2の統計量から異常度算出部17が異常度を算出する(ステップS406)点である。例えば、直流量の瞬時値ヒストグラムの尖度や平均値を1秒間逐次計算し、その最終値のヒストグラムを作る。そして、そのヒストグラムの統計量(平均値や分散)をさらに逐次計算する。
【0062】
実施例4によれば、統計量の分布に関して、導出した統計量を用いて診断することで、より軽微な異常兆候を捉えることができる。
【実施例5】
【0063】
図12は、実施例5における電力変換装置、及びそれを用いた回転機システムの基本構成図である。また図13は、実施例5の電力変換装置が備える、回転機システムの異常を診断するフローチャートである。実施例1から実施例4と同じ部分は説明を省略する。
【0064】
実施例1から実施例4との相違点は、回転機30の回転周波数を推定する回転周波数推定部21と、零と回転周波数とに挟まれた任意の周波数範囲の波形を抽出する特徴量波形抽出部22を備え、統計量逐次計算部16で得た統計量から求めた異常度と、特徴量波形抽出部22で抽出した波形から求めた異常度の双方を用いて、異常度算出部17が異常度を算出し、診断する点である。
次に、実施例2と相違する回転周波数推定部21、特徴量波形抽出部22、異常度算出部17の処理について説明する。
【0065】
分析対象直流量算出部15と並行して回転周波数推定部21は、回転機30の回転周波数を推定する(ステップS504)。分析対象直流量算出部15がステップS503にて回転子位置推定を実施する場合は、それと同時に回転周波数も推定可能である。回転位置センサが回転機30に設置されていない場合には、電力変換装置10の出力周波数、及び回転機30の極数から、回転周波数を推定してもよい。電力変換装置10の出力周波数は、相電流の情報から推定するか制御指令の情報から抽出する。
【0066】
誘導モータで最大で数%程度発生するすべりを無視すれば、電力変換装置10の出力周波数、及び回転機30の極数から、回転周波数を推定するには、次のようにする。回転周波数=電力変換装置の出力周波数/極対数、であるから、例えば出力周波数が50Hz、4極(極対数2)であれば回転周波数は25Hzと推定する。もし出力周波数が30Hz、6極(極対数3)であれば回転周波数は10Hzと推定する。出力周波数が100Hz、2極(極対数1)であれば回転周波数は100Hzと推定する。
【0067】
分析対象直流量算出部15で算出された電流ベクトルノルムもしくはトルク電流と回転周波数推定部21で推定した回転周波数の結果を受けて、特徴量波形抽出部22は、電流ベクトルノルムもしくはトルク電流に対して、特定された周波数範囲である零と回転周波数とに挟まれた周波数範囲の波形を抽出する(ステップS506)。
【0068】
特徴量波形抽出部22としては、電流ベクトルノルムもしくはトルク電流を、フィルタに通過させることで、特定周波数範囲を抽出するようにできる。
【0069】
次に、異常度算出部17は、特徴量波形抽出部22で得られた波形から第2の異常度を算出する(ステップS507)。例えば、得られた波形の絶対値もしくは二乗値を一定時間合算したものを異常度とする。あるいは、算出した異常度を、相電流の基本波周波数成分の振幅、あるいは電流ベクトルノルムもしくはトルク電流から抽出した直流成分で規格化してもよい。
【0070】
そうすることで、負荷変動で直流成分が時間変化する場合でも診断可能となる。また、異常度を外部に通信する場合に、通信負荷を軽減できる。実施例2に記載したように、統計量逐次計算部16で得られた統計量から算出する第1の異常度と、第2の異常度から、本実施例の異常度算出部17は、異常診断をする。
【0071】
異常度を個別に求める代わりに、最初からクラスタリングにより統合された1つの異常度を算出してもよい。本実施例のようにすることで、回転機システムのより幅広い異常現象を検出することができる。
【実施例6】
【0072】
図14は、実施例6における電力変換装置、及びそれを用いた回転機システムの基本構成図である。また図15は、実施例6の電力変換装置が備える、回転機システムの異常を診断するフローチャートである。
【0073】
実施例1から実施例5と同じ部分の説明は省略する。実施例1から実施例5との相違点は、回転周波数及びその倍数の周波数成分の大きさを抽出する特徴周波数成分抽出部23を備えることにある。
【0074】
特徴周波数成分抽出部23は、回転周波数推定部21から回転周波数を取得し、分析対象直流量算出部15から電流ベクトルノルムもしくはトルク電流を取得する。特徴周波数成分抽出部23は、電流ベクトルノルムもしくはトルク電流に対して、回転周波数及びその倍数の周波数成分の大きさを抽出する(ステップS606)
本実施例では、統計量逐次計算部16で得た統計量から求めた第1の異常度と、特徴周波数成分抽出部23で抽出した特定の周波数成分値から求めた第2の異常度の双方を用いて、異常度算出部17は異常度を算出(ステップS607)し、診断する。
【0075】
特徴周波数成分抽出部23は、電流ベクトルノルムもしくはトルク電流に、高速フーリエ変換(FFT(Fast Fourier Transform))の処理をして、取得したい特徴周波数成分を選択してもよいし、FFTをせずにフィルタを用いて、取得したい特徴周波数成分を抽出してもよい。
【0076】
実施例6では電流ベクトルノルムもしくはトルク電流に対して特徴周波数成分抽出部23が回転周波数及びその倍数の周波数成分の大きさを抽出する場合を示したが、実施例3のように零相電流に対して、特徴周波数成分抽出部23が回転周波数及びその倍数の周波数成分の大きさを抽出するようにしてもよい。
【0077】
なお異常度を個別に求める代わりに、最初からクラスタリングにより統合された1つの異常度を算出してもよい。本実施例のようにすることで、回転機システムのより幅広い異常現象を検出することができる。
【0078】
実施例6によれば、統計量から求めた異常度と、特徴周波数成分抽出部23で抽出した特定の周波数成分値から求めた異常度の双方を用いて診断することで、検知できる異常現象を増やすことができる。
【実施例7】
【0079】
図16は、実施例7における電力変換装置、及びそれを用いた回転機システムの基本構成図である。実施例1と同じ部分の説明は省略する。実施例1との相違点は、計測する相電流が少なくとも1相あればよい点と、電流ベクトル算出部14及び分析対象直流量算出部15の代わりに、計測した相電流の基本周期を周期毎に算出する相電流基本周期算出部24を分析対象量算出部として備える点である。なお図16では1相の相電流を計測するように電流センサが設置されているが、2相以上の相に設置してもよい。あるいは、シャント抵抗を利用してもよい。
【0080】
本実施例においては、モータ電流の基本周期の瞬間的な増減を発生頻度の低い時点で捉えるために、電流計測部でモータ電流を計測した後、振動の基本周期毎にその値を記録する。分析対象量としての相電流の基本周期の値は、相電流の値が零になる時刻の間隔から導出してもよい。零になるタイミングは1周期につき2回現れるが、相電流の値が負から正になるタイミングのみを用いてもよいし、正から負になるタイミングのみを用いてもよい。基本周期を算出する他の例としては、特定の振幅の値を満たす時刻の間隔から算出してもよい。例えば、相電流が極大のピークとなる時刻の間隔から基本周期を算出してもよい。
【0081】
そしてその基本周期の分布を求めると、平均値から外れる事象が増えてくるという形で異常兆候が現れる。確率密度分布におけるばらつきの多さの指標として、実施例1と同様に尖度を用いてもよいし、標準偏差を用いてもよい。標準偏差は、平均値周りの2次モーメントである分散の平方根であり、基本周期と同じ次元を有する。
【0082】
図17は、実施例7における電力変換装置が備える、回転機システムの異常を診断するフローチャートである。最初に、ステップS700にて、診断モードを起動する。前記電力変換装置の設定項目から選択する方法のほか、診断モードを起動する機械式ボタンを押す形でもよいし、ディスプレイに表示された「診断モード」ボタンをタッチする形でもよい。あるいは特定の日時に自動的に起動するように設定してもよいし、相電流の基本波周波数の振幅が、ある特定の時間継続して、ある特定の範囲に入ったときに自動的に起動するように設定してもよい。あるいは、特定の回転機制御動作の前、乃至後に自動的に起動するように設定してもよい。
【0083】
次にステップS701にて、少なくとも1相の相電流を計測する。あるいは、2相以上の相の相電流を計測してもよい。あるいは、直流部の電流を計測して、時刻に応じて各相の相電流とみなしてもよい。相電流波形の概略図を図18に示す。電流計測は、前記電力変換装置が前記回転機を駆動するために生成する電圧パルスと同期して実施される。すなわち、前記電流センサからの信号を、電圧パルスと同期してサンプリングする。サンプリングは電圧パルス1回につき1回でもよいし、2回でもよい。電圧パルス複数回につき1回でもよい。
【0084】
次にステップS702にて、計測された相電流に対して、基本周期の値を周期毎に算出する。軸受が劣化して間歇的に摩擦が増加する現象が発生すると、相電流の基本周期の値が、平均値から外れる事象が増えてくる。例えば基本周期の分布は、軸受劣化が進展すると、図19に示すように変化すると考えられる。
【0085】
次にステップS703にて、実施例1と同様の数式を用いて、分析対象となる直流量(ここでは相電流の基本周期)の平均値、分散、歪度、尖度を逐次的に計算する。逐次計算をある一定時間継続したところで平均値、分散、歪度、尖度を記録し、各値を零に戻してから逐次計算を再開する。標準偏差の値は、記録した分散の値の平方根を取ることで得られる。こうして得られる基本周期の分布の標準偏差の概略図を図20に示す。正常状態と比較して、異常状態では標準偏差が大きくなっていることが分かる。
【0086】
次にステップS704にて、得られた各種統計量から異常度を算出する。例えば、得られた標準偏差、乃至尖度をそのまま異常度とする。あるいは、標準偏差、乃至尖度の移動平均を算出して異常度とする。
【0087】
そしてステップS705にて、算出した異常度があらかじめ設定した閾値を超えているか否かを判定し、超えていた場合は故障予兆ありと診断して警告を発する。閾値は、試験機等で別途検討した結果で決定してもよいし、実環境での学習で決めてもよい。例えば、学習期間中に複数回異常度を算出し、その平均値及び変動幅を求め、誤報を生じないレベルに閾値を設定する。
【0088】
また、あとで機械学習等で精密診断できるように、算出した異常度を、前記回転機の運転状態を規定するその他のパラメータと共に出力するようにしてもよい。そのような多変数データをロガー等で記録し、ベクトル量子化クラスタリングなどの機械学習のアルゴリズムで分析すれば、閾値判定では検知できなかったような微弱な異常も検知できる可能性がある。
【0089】
最後にステップS706にて、診断結果を表示して診断を完了する。表示方法はディスプレイ、ランプ、ブザーなど人間の五感に訴えるものでもよいし、紙や電子ファイルに記録されるものでもよい。あるいは通信ネットワークを経由して送信してもよい。
【0090】
以上により、実施例7によれば、モータ電流の振幅方向ではなく時間軸方向に異常兆候が現れる場合においても、回転機システムの故障の予兆を、高精度、もしくは早期に検知する電力変換装置、及びそれを用いた回転機システムを実現できる。
【実施例8】
【0091】
図21は、実施例8における電力変換装置、及びそれを用いた回転機システムの基本構成図である。実施例7と同じ部分の説明は省略する。実施例7との相違点は、統計量逐次計算部16にて各種統計量を逐次計算する際に発生する加算残差を保存する加算残差保存部19を備える点である。また加算残差の更新方法については、実施例2と同様である。それにより、加算残差が雪だるま式に増加するのを防ぎ、丸め誤差を一定量以下に抑えることができる。
【0092】
図22は、実施例8における電力変換装置が備える、回転機システムの異常を診断するフローチャートである。実施例7との相違点は、ステップS803において、加算残差を保存・更新しながら各種統計量を逐次計算する点である。そうすることで、低性能マイコンでも実用的な速度で高精度に診断ができるようになる。
【0093】
実施例8によれば、低コストで高精度の回転機システムの故障の予兆を検知できる。
【実施例9】
【0094】
図23は、実施例9における電力変換装置が備える、回転機システムの異常を診断するフローチャートである。実施例9における電力変換装置、及びそれを用いた回転機システムの基本構成図は、実施例8における図21と同じである。実施例7乃至8と同じ部分の説明は省略する。
【0095】
実施例7乃至8との相違点は、統計量逐次計算部16は、計算して取得した第1の統計量の分布に関して、さらに第2の統計量を導出すること(ステップS904)、さらに、第2の統計量から異常度算出部17が異常度を算出する(ステップS905)点である。例えば、基本周期の分布の標準偏差や尖度や平均値を1秒間逐次計算し、その最終値のヒストグラムを作る。そして、そのヒストグラムの統計量(平均値や分散)をさらに逐次計算する。
【0096】
実施例9によれば、統計量の分布に関して導出した統計量を用いて診断することで、より軽微な異常兆候を捉えることができる。
【実施例10】
【0097】
図24は、実施例10における電力変換装置、及びそれを用いた回転機システムの基本構成図である。実施例1乃至2と同様の電流ベクトル算出部14と分析対象直流量算出部15、及び実施例7乃至8と同様の相電流基本周期算出部24を共に備える。
【0098】
図25は、実施例10における電力変換装置が備える、回転機システムの異常を診断するフローチャートである。実施例2のフローチャート(図8)と実施例8のフローチャート(図22)とを組み合わせた形となっている。図8もしくは図22と同じ部分の説明は省略する。
【0099】
ステップS1005においては、ステップS1002で計算された相電流の基本周期とステップS1004で計算された電流ベクトルノルム乃至トルク電流のそれぞれのヒストグラムに対して、統計量が逐次計算される。
【0100】
そしてステップS1006において、相電流の基本周期に関する第1の異常度と、電流ベクトルノルム乃至トルク電流に関する第2の異常度とが計算され、その両者を用いて異常診断が行われる。あるいは、異常度を個別に求める代わりに、最初からクラスタリングにより統合された1つの異常度を算出してもよい。
【0101】
実施例10によれば、回転機システムのより幅広い異常現象を検出することができる。
【実施例11】
【0102】
図26は、実施例11における電力変換装置、及びそれを用いた回転機システムの基本構成図である。実施例3と同様の分析対象直流量算出部(零相電流算出部)15、及び実施例7乃至8と同様の相電流基本周期算出部24を共に備える。
【0103】
図27は、実施例11における電力変換装置が備える、回転機システムの異常を診断するフローチャートである。実施例3のフローチャート(図10)と実施例8のフローチャート(図22)とを組み合わせた形となっている。図10もしくは図22と同じ部分の説明は省略する。
【0104】
ステップS1104においては、ステップS1102で計算された相電流の基本周期とステップS1103で計算された零相電流のそれぞれのヒストグラムに対して、統計量が逐次計算される。
【0105】
そしてステップS1105において、相電流の基本周期に関する第1の異常度と、零相電流に関する第2の異常度とが計算され、その両者を用いて異常診断が行われる。あるいは、異常度を個別に求める代わりに、最初からクラスタリングにより統合された1つの異常度を算出してもよい。
【0106】
実施例11によれば、分析対象直流量算出部15における計算が簡素となり、より性能の低いマイコンでも診断が可能になる一方、回転機システムのより幅広い異常現象を検出することができる。
【実施例12】
【0107】
図28は、実施例12における電力変換装置、及びそれを用いた回転機システムの基本構成図である。実施例10の基本構成図(図24)に対して、実施例5と同様に、回転周波数推定部21と特徴量波形抽出部22が追加された形となっている。そして統計量逐次計算部16で得た統計量から求めた異常度と、特徴量波形抽出部22で抽出した波形から求めた異常度の双方を用いて、異常度算出部17が異常診断を行う。
【0108】
図29は、実施例12の電力変換装置が備える、回転機システムの異常を診断するフローチャートである。実施例5のフローチャート(図13)と実施例10のフローチャート(図25)と同じ部分は説明を省略する。実施例10との相違点は、回転機30の回転周波数を推定する回転周波数推定部21と、零と回転周波数とに挟まれた任意の周波数範囲の波形を抽出する特徴量波形抽出部22を備え、統計量逐次計算部16で得た統計量から求めた異常度と、特徴量波形抽出部22で抽出した波形から求めた異常度の双方を用いて、異常度算出部17が異常度を算出し、診断する点である。
【0109】
回転周波数推定部21と特徴量波形抽出部22の処理については、実施例5と共通するので説明を省略する。異常度算出部17の処理は、相電流の基本周期に関する第1の異常度、電流ベクトルノルム乃至トルク電流に関する第2の異常度、特徴量波形抽出部22で得られた波形に関する第3の異常度、をそれぞれ算出する(ステップS1208)。そしてそれぞれの異常度を用いて異常診断が行われる。異常度を個別に求める代わりに、最初からクラスタリングにより統合された1つの異常度を算出してもよい。本実施例のようにすることで、回転機システムのより幅広い異常現象を検出することができる。
【実施例13】
【0110】
図30は、実施例13における電力変換装置、及びそれを用いた回転機システムの基本構成図である。実施例10の基本構成図(図24)に対して、実施例6と同様に、回転周波数推定部21と特徴周波数成分抽出部23が追加された形となっている。そして統計量逐次計算部16で得た統計量から求めた異常度と、特徴周波数成分抽出部23で抽出した周波数成分から求めた異常度の双方を用いて、異常度算出部17が異常診断を行う。
【0111】
図31は、実施例13の電力変換装置が備える、回転機システムの異常を診断するフローチャートである。実施例6のフローチャート(図15)と実施例10のフローチャート(図25)と同じ部分は説明を省略する。実施例10との相違点は、回転機30の回転周波数を推定する回転周波数推定部21と、回転周波数及びその倍数の周波数成分の大きさを抽出する特徴周波数成分抽出部23を備え、統計量逐次計算部16で得た統計量から求めた異常度と、特徴周波数成分抽出部23で抽出した波形から求めた異常度の双方を用いて、異常度算出部17が異常度を算出し、診断する点である。
【0112】
回転周波数推定部21と特徴周波数成分抽出部23の処理については、実施例6と共通するので説明を省略する。異常度算出部17の処理は、相電流の基本周期に関する第1の異常度、電流ベクトルノルム乃至トルク電流に関する第2の異常度、特徴周波数成分抽出部23で得られた周波数成分に関する第3の異常度、をそれぞれ算出する(ステップS1308)。そしてそれぞれの異常度を用いて異常診断が行われる。異常度を個別に求める代わりに、最初からクラスタリングにより統合された1つの異常度を算出してもよい。本実施例のようにすることで、検知できる異常現象を増やすことができる。
【0113】
実施例7から実施例13では、分析対象量としての相電流の基本周期を算出する例を用いて説明をした。それに限らず、相電流基本周期算出部を、基本周期の逆数である基本周波数を算出する相電流基本周波数算出部に置き換える構成としても同様な効果を得ることができる。
【実施例14】
【0114】
図32は、実施例1から実施例13における電力変換装置、及びそれを用いた回転機システムを組み込んだポンプの概略図である。電力変換装置と接続されたモータには、羽根車が付いており、水などの液体を吸引・送出する。異常診断を実施するのは一定速・一定負荷で回転している時間帯が望ましいので、例えば1日の中で送水量が比較的安定する夜間などに診断を実行する。
【実施例15】
【0115】
図33は、実施例1から実施例13における電力変換装置、及びそれを用いた回転機システムを組み込んだ空気圧縮機の概略図である。空気圧縮機においては、起動直後などにモータがほぼ無負荷運転となる時間帯が通常存在するので、そのタイミングで診断を実行するのが望ましい。
【実施例16】
【0116】
図34は、実施例1から実施例13における電力変換装置、及びそれを用いた回転機システムを組み込んだ搬送テーブルの概略図である。搬送テーブルにおいては、ワークの搬送工程と搬送工程の間にモータが一定速・一定負荷となる時間帯が通常存在するので、そのタイミングで診断を実行するのが望ましい。
【実施例17】
【0117】
図35は、実施例1から実施例13における電力変換装置、及びそれを用いた回転機システムを組み込んだ工作機械、特にサーボプレス機や射出成型機の概略図である。これらの工作機械では、加工対象物を加圧する前後で、モータがほぼ無負荷運転となる時間帯が通常存在するので、そのタイミングで診断を実行するのが望ましい。
【0118】
上記の実施例における電力変換装置10は、汎用インバータ、サーボアンプ、DCBLコントローラなどの電力変換装置に適用できる。また、上記したような電力変換装置を組み込んだ回転機システムへ適用できるとともに、風力発電システム、ハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池車、鉄道車両などにも上記の実施例は適用可能である。
【符号の説明】
【0119】
10 電力変換装置
11 主回路
12a、12b、12c 電流センサ
13 電流計測部
14 電流ベクトル算出部
15 分析対象直流量算出部
16 統計量逐次計算部
17 異常度算出部
18 出力部
19 加算残差保存部
20 電源
21 回転周波数推定部
22 特徴量波形抽出部
23 特徴周波数成分抽出部
24 相電流基本周期算出部
30 回転機
31 軸受
40 負荷機械
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35