(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-26
(45)【発行日】2024-12-04
(54)【発明の名称】モデル設定装置、血圧測定装置、およびモデル設定方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/022 20060101AFI20241127BHJP
A61B 5/02 20060101ALI20241127BHJP
【FI】
A61B5/022 400E
A61B5/02 310V
A61B5/022 A
A61B5/022 400M
(21)【出願番号】P 2020518360
(86)(22)【出願日】2019-05-10
(86)【国際出願番号】 JP2019018756
(87)【国際公開番号】W WO2019216417
(87)【国際公開日】2019-11-14
【審査請求日】2022-03-23
(31)【優先権主張番号】P 2018091651
(32)【優先日】2018-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147304
【氏名又は名称】井上 知哉
(74)【代理人】
【識別番号】100148493
【氏名又は名称】加藤 浩二
(72)【発明者】
【氏名】小川 莉絵子
(72)【発明者】
【氏名】足立 佳久
(72)【発明者】
【氏名】江戸 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】富澤 亮太
【審査官】牧尾 尚能
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/163019(WO,A1)
【文献】特開2015-027459(JP,A)
【文献】特開2015-054223(JP,A)
【文献】特開2017-209486(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0075209(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0109495(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/02- 5/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の脈波に基づいて当該生体の血圧を測定するための測定モデルを設定するモデル設定装置であって、
接触式の血圧計を用いて測定された
前記生体の実測血圧を取得する血圧取得部と、
前記接触式の血圧計で隠されていない前記
生体の領域において前記脈波を取得する脈波取得部と、
前記脈波を用いて、同じ種類の脈波パラメータを複数算出する脈波パラメータ算出部と、
複数の
前記脈波パラメータと、前記実測血圧とを用いて、前記生体の血圧として推定される予測血圧を算出するための血圧推定モデルを複数作成する血圧推定モデル作成部と、
複数の前記血圧推定モデルから算出された複数の前記予測血圧のそれぞれと、前記実測血圧と、の誤差を算出し
、複数の
前記血圧推定モデルのそれぞれに前記誤差が小さいほど高い順位を付与する血圧推定モデル評価部と、
複数の
前記血圧推定モデルの中から前記順位が高い順に、少なくとも1つの
前記血圧推定モデルを前記測定モデルとして選択するモデル選択部と、を備えることを特徴とするモデル設定装置。
【請求項2】
前記脈波取得部は、前記生体の体表における2つ以上の前記領域において前記脈波を取得し、
前記脈波パラメータ算出部は、前記脈波を用いて、前記2つ以上の前記領域
の間における少なくとも1つの脈波伝播時間と、少なくとも1つの波形特徴量とを、前記脈波パラメータとして算出することを特徴とする請求項1に記載のモデル設定装置。
【請求項3】
前記脈波取得部は、前記生体の体表における3つ以上の前記領域において前記脈波を取得し、
前記脈波パラメータ算出部は、前記脈波を用いて、前記3つ以上の前記領域のうち2つの前記領域
の間における脈波伝播時間を前記脈波パラメータとして算出することを特徴とする請求項1に記載のモデル設定装置。
【請求項4】
前記脈波パラメータ算出部は、前記生体の肌領域として抽出された前記領域から選んだ2つの前記領域のすべての組み合わせについて前記脈波伝播時間を算出することを特徴とする請求項2または3に記載のモデル設定装置。
【請求項5】
前記脈波取得部は、前記生体の体表における1つ以上の前記領域において前記脈波を取得し、
前記脈波パラメータ算出部は、前記脈波を用いて、前記1つ以上の前記領域の波形特徴量を前記脈波パラメータとして算出することを特徴とする請求項1に記載のモデル設定装置。
【請求項6】
前記脈波取得部は、前記生体の顔における前記脈波を取得することを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載のモデル設定装置。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のモデル設定装置を備え、
前記モデル選択部によって選択された前記測定モデルを用いて、前記生体の血圧を測定する血圧測定部を備えることを特徴とする血圧測定装置。
【請求項8】
前記脈波取得部によって取得した前記脈波の信号品質を評価する信号品質評価部をさらに備え、
前記モデル選択部は、前記測定モデルの候補を複数選択し、
前記血圧測定部は、前記血圧推定モデル評価部による評価と、前記信号品質評価部による前記信号品質の評価とに基づいて、前記モデル選択部が選択した複数の前記候補の中から前記測定モデルを選択し、前記生体の血圧を測定することを特徴とする請求項7に記載の血圧測定装置。
【請求項9】
前記脈波取得部が前記脈波を取得する際に前記生体に対して光を照射する光源と、
前記モデル選択部が選択した前記測定モデルで使用される前記脈波パラメータを精度良く算出するために光源を調節する光源調節部とを備えることを特徴とする請求項7または8に記載の血圧測定装置。
【請求項10】
生体の脈波に基づいて当該生体の血圧を測定するための測定モデルを設定するモデル設定方法であって、
接触式の血圧計を用いて
前記生体の実測血圧を取得する血圧取得工程と、
前記接触式の血圧計で隠されていない前記
生体の領域において前記脈波を取得する脈波取得工程と、
前記脈波を用いて、同じ種類の脈波パラメータを複数算出する脈波パラメータ算出工程と、
複数の
前記脈波パラメータと、前記実測血圧とを用いて、前記生体の血圧として推定される予測血圧を算出するための血圧推定モデルを複数作成する血圧推定モデル作成工程と、
複数の前記血圧推定モデルから算出された複数の前記予測血圧のそれぞれと、前記実測血圧と、の誤差を算出し
、複数の
前記血圧推定モデルのそれぞれに前記誤差が小さいほど高い順位を付与する血圧推定モデル評価工程と、
複数の
前記血圧推定モデルの中から前記順位が高い順に、少なくとも1つの
前記血圧推定モデルを前記測定モデルとして選択するモデル選択工程と、を含むことを特徴とするモデル設定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、血圧予測モデルを設定するモデル設定装置などに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人体の血圧を測定する技術として、脈波伝播時間を利用する技術がある。例えば、特許文献1には、以下のような技術が開示されている。すなわち、画像データの近接する二領域ないしは三領域の各領域における代表色を各々算出し、その代表色に基づいて各領域における基本波を抽出する。そして、複数領域の内、近接する領域間において基本波の差信号を算出し、外部からのノイズを抑えた脈波伝播時間などの脈波情報を取得する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2016/163019号(2016年10月13日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
生体の血管網、輪郭、顔の大きさなどは、個人によって異なる。そのため、脈波情報を取得しやすい領域は、個人によって異なる。したがって、特許文献1の技術のように、すべての生体に対して同じ箇所から脈波情報を取得する場合、脈波情報を精度良く取得することができない場合があり、血圧を正確に測定できないという問題がある。
【0005】
本開示の一態様は、血圧を測定するための測定モデルであって、生体ごとに適した血圧の測定モデルを設定することができるモデル設定装置およびモデル設定方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本開示の一態様に係るモデル設定装置は、生体の脈波に基づいて当該生体の血圧を測定するための測定モデルを設定するモデル設定装置であって、前記生体の血圧を取得する血圧取得部と、前記生体の体表における領域において前記脈波を取得する脈波取得部と、前記脈波取得部で取得した脈波を用いて、脈波パラメータを複数算出する脈波パラメータ算出部と、前記脈波パラメータ算出部において算出された複数の前記脈波パラメータと、前記血圧取得部において取得された前記生体の血圧とを用いて、前記生体の血圧を推定するための血圧推定モデルを複数作成する血圧推定モデル作成部と、前記血圧推定モデル作成部において作成された複数の前記血圧推定モデルの評価を行う血圧推定モデル評価部と、前記血圧推定モデル評価部による評価に基づいて複数の前記血圧推定モデルの中から前記測定モデルを少なくとも1つ選択するモデル選択部と、を備える。
【0007】
上記の課題を解決するために、本開示の一態様に係るモデル設定方法は、生体の脈波に基づいて当該生体の血圧を測定するための測定モデルを設定するモデル設定方法であって、前記生体の血圧を取得する血圧取得工程と、前記生体の体表における領域において前記脈波を取得する脈波取得工程と、前記脈波取得工程で取得した脈波を用いて、脈波パラメータを複数算出する脈波パラメータ算出工程と、前記脈波パラメータ算出工程において算出された複数の前記脈波パラメータと、前記血圧取得工程において取得された前記生体の血圧とを用いて、前記生体の血圧を推定するための血圧推定モデルを複数作成する血圧推定モデル作成工程と、前記血圧推定モデル作成工程において作成された複数の前記血圧推定モデルの評価を行う血圧推定モデル評価工程と、前記血圧推定モデル評価工程による評価に基づいて複数の前記血圧推定モデルの中から前記測定モデルを少なくとも1つ選択するモデル選択工程と、を含む。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様によれば、血圧を測定するための測定モデルであって、生体ごとに適した血圧の測定モデルを設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の実施形態1に係る血圧測定装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】上記血圧測定装置が備える顔画像分割部によって分割された被検体の顔画像を示す図である。
【
図3】上記血圧測定装置が備える脈波パラメータ算出部による脈波伝播時間の算出方法を説明するためのものであり、(a)は、生体の血管を示す図であり、(b)は、脈波の伝播を示すグラフである。
【
図4】上記血圧測定装置が備えるモデル選択部による測定モデルの選択方法を説明するためのグラフである。
【
図5】上記血圧測定装置が備える血圧測定結果出力部の一例を示す図である。
【
図6】上記血圧測定装置の処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図7】(a)は、脈波波形の一例を示すグラフであり、(b)は、加速度脈波波形の一例を示すグラフである。
【
図9】本開示の実施形態2に係る血圧測定装置の構成を示すブロック図である。
【
図10】上記血圧測定装置が備えるモデル評価指数算出部がテスト用データから算出した、血圧推定モデルの誤差の標準偏差の分布を示すグラフである。
【
図11】上記評価指数算出部が算出した誤差の標準偏差のランキングを示す表である。
【
図12】脈波信号のパワースペクトルの一例を示すグラフである。
【
図13】上記血圧測定装置が備える測定モデル決定部による測定モデルの決定方法を説明するための表である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔実施形態1〕
以下、本開示の一実施形態について、詳細に説明する。
【0011】
本実施形態における血圧測定装置1Aは、生体である被検体に接触することなく被検体の血圧を測定(推定する)非接触式の血圧測定装置である。血圧測定装置1Aでは、後述するモデル設定装置100において設定された測定モデルを用いて、被検体の血圧を測定する。
【0012】
(血圧測定装置1Aの構成)
図1は、血圧測定装置1Aの構成を示すブロック図である。血圧測定装置1Aは、
図1に示すように、血圧取得部2と、脈波取得部10と、脈波パラメータ算出部20(脈波伝播時間算出部)と、血圧推定モデル作成部30と、血圧推定モデル評価部40と、モデル選択部50と、血圧測定部60と、血圧測定結果出力部70とを備えている。
【0013】
血圧取得部2は、被検体の血圧を測定する接触式の血圧計であり、例えば、カフ血圧計である。血圧取得部2が取得した血圧は、後述するモデル選択部50において測定モデルを設定する際に用いられる。血圧取得部2は、測定した被検体の血圧を、後述する血圧推定モデル作成部30、およびモデル評価指数算出部42に出力する。
【0014】
脈波取得部10は、被検体の体表における脈波を取得する。脈波取得部10は、撮像部11と、光源12と、光源調節部13と、顔画像取得部14と、顔画像分割部15と、肌領域抽出部16と、脈波算出部17とを備えている。
【0015】
撮像部11は、イメージセンサ(例えば、CMOS(Complementary Metal-Oxide Semiconductor)、CCD(Charge-Coupled Device)など)と、レンズとを含むカメラである。撮像部11は、一般的に用いられているRGBのベイヤー配列のカラーフィルタ(不図示)、または、RGBCyやRGBIRなどの血液量の増減を観察するのに適したカラーフィルタ(不図示)を備えている。撮像部11は、所定の時間間隔(例えば、フレームレートが300fps)で被検体を複数回撮像し、撮像した画像を顔画像取得部14へ出力する。
【0016】
光源12は、撮像部11において被検体を撮像する際に、被検体に対して光を照射する。
【0017】
光源調節部13は、後述するモデル選択部50で選択された測定モデルで使用される領域間の脈波伝播時間を精度良く算出するために該当する領域で一定の信号品質を有する脈波(例えば、後述するSNRが高い脈波)を検出できるように光源12を調節する。具体的には、光源調節部13は、光源12の光量、光源スペクトル、および被検体の肌に対する照射角度の少なくとも1つを調節する。
【0018】
顔画像取得部14は、撮像部11が撮像した被検体の画像から被検体の顔領域を抽出して顔画像として取得する。顔画像取得部14は、例えば、被検体の顔を含む動画像からフェイストラッキングを行うことにより、一定のフレームごとに被検体の顔画像を抽出してもよい。
【0019】
なお、設定された枠の中に被検体が顔を入れ、顔とカメラとが固定された状態で画像を撮影した場合には、顔画像取得部14は、フェイストラッキングなどの処理を行わなくても、被検体の顔を画像から抽出することができる。
【0020】
顔画像分割部15は、顔画像取得部14が抽出した顔画像を複数の領域に分割する。
【0021】
図2は、顔画像分割部15によって分割された被検体の顔画像を示す図である。
図2に示すように、顔画像分割部15は、被検体の顔画像を、縦10×横10の100個の領域に分割する。なお、顔画像分割部15による分割は、上記の分割方法に限られるものではない。顔画像分割部15は、顔画像取得部14が抽出した顔画像を少なくとも3つの領域に分割する。
【0022】
肌領域抽出部16は、顔画像分割部15が分割した領域のうち、髪の毛などによって肌が完全に隠れていない領域(換言すれば、一部でも肌が見える領域)を肌領域161として抽出する。
図2に示す例では、網掛けがついていない領域が肌領域161であり、肌領域抽出部16は、全部で52箇所を肌領域161として抽出する。
【0023】
脈波算出部17は、肌領域抽出部16が抽出した肌領域161のそれぞれについて、脈波を算出する。脈波算出部17における脈波の算出方法は特に限定されるものではない。例えば、脈波算出部17は、以下のようにして、各肌領域161における脈波を算出する。
【0024】
すなわち、脈波算出部17は、まず、1つの肌領域161における各色(撮像部11がRGBのベイヤー配列のカラーフィルタを備えている場合は、R,G、B)の輝度値(画素値)の平均値の時間変化の信号を取得する。次に、脈波算出部17は、取得した信号に対して独立成分分析を行い、色数と同じ数の独立成分を取り出す。次に、脈波算出部17は、取り出した独立成分に対して、例えば0.75~4.0Hzのデジタルバンドパスフィルタを用いて、高周波成分および低周波成分を除去する。次に、脈波算出部17は、高周波成分および低周波成分を除去した後の信号に対して高速フーリエ変換を行い、各独立成分の周波数のパワースペクトルを算出する。次に、脈波算出部17は、0.75~4.0Hzにおけるパワースペクトルのピーク(PR:Pulse Rate)を算出し、各独立成分のピーク値と比較して、最もピーク値が大きい独立成分を脈波(脈波信号)として算出する。脈波算出部17は、肌領域抽出部16が抽出した肌領域161のそれぞれについて、脈波信号を算出し、算出した脈波信号を脈波パラメータ算出部20に出力する。
【0025】
脈波パラメータ算出部20は、脈波取得部10で取得した各肌領域161の脈波(脈波信号)を用いて、各肌領域161間における脈波伝播時間PTT(Pulse Transit Time)を脈波パラメータとして算出する。
【0026】
図3は、脈波パラメータ算出部20による脈波伝播時間の算出方法を説明するためのものであり、(a)は、生体の血管を示す図であり、(b)は、脈波の伝播を示すグラフである。ここでは、まず、
図3の(a)に示す、脈波パラメータ算出部20が領域Aと領域Bとの間の脈波伝播時間PTT(A-B)を算出する方法について説明する。まず、領域Aと領域Bとの間の距離を距離Lとする。
図3の(b)に示すグラフには、領域Aにおいて算出された脈波と、領域Bにおいて算出された脈波とが図示されている。脈波パラメータ算出部20は、領域Aにおいて算出された脈波を時間方向にずらしていき、領域Aにおいて算出された脈波の波形と領域Bにおいて算出された脈波の波形との相互相関係数が最大となる時間差(ずれ幅)を、領域Aと領域Bとの間の脈波伝播時間PTTとして算出する。
【0027】
脈波パラメータ算出部20は、肌領域抽出部16が肌領域161として抽出した52領域から選んだ2つの領域の組み合わせ(全部で1326(=52C2)通り)について、それぞれ脈波伝播時間PTTを算出する。例えば、脈波パラメータ算出部20は、
図2に示す領域23と領域24との間の脈波伝播時間PTT(23-24)を算出する。
【0028】
脈波パラメータ算出部20は、算出した1326通りの脈波伝播時間PTTを後述する血圧推定モデル作成部30、評価用予測血圧算出部41、および血圧測定部60に出力する。
【0029】
なお、脈波パラメータ算出部20は、スプライン補間などの補間によって、より詳細に脈波伝播時間PTTを算出してもよい。また、脈波パラメータ算出部20は、脈波の極大値や脈波の立ち上がり点などの特徴点を検出し、その当該特徴点の時間差を算出することで脈波伝播時間PTTを算出してもよい。
【0030】
血圧推定モデル作成部30は、訓練用データとしての、脈波パラメータ算出部20において算出された脈波伝播時間PTTと、血圧取得部2において取得された被検体の血圧とを用いて、被検体の血圧を推定するための血圧推定モデルを作成する。
【0031】
ここで、脈波が血管を伝播する速度vは、血管のヤング率をE、血管壁圧をa、血管径をR、血液密度をρとした場合、下記の数式1(Moens-Kortewegの式)で表される。
【0032】
【数1】
また、血管のヤング率Eは、血圧Pに対して指数関数的に変化する。血管のヤング率ERは、P=0における血管のヤング率をE0とした場合、下記の数式2で表される。なお、γは、血管に依存する定数である。
【0033】
【数2】
また、脈波伝播時間をT、血管経路の長さをLとしたとき、血管経路の長さLは、下記の数式3で表される。
【0034】
【数3】
上記の数式1~数式3から、下記の数式4が導かれる。
【0035】
【数4】
数式4に示すように、血管経路の長さLが一定の場合、脈波伝播時間Tが血圧Pと相関関係を有することがわかる。そこで、血圧推定モデル作成部30は、脈波パラメータ算出部20が算出した脈波伝播時間を用いて血圧Pの血圧推定モデルを作成する。
【0036】
具体的には、血圧推定モデル作成部30は、まず、複雑度1の血圧推定モデルM1を作成する。本開示における「複雑度」とは、血圧推定モデルにおける説明変数の数であり、血圧推定モデルに用いる脈波伝播時間の数を意味する。すなわち、複雑度1の血圧推定モデルM1とは、説明変数として1つの脈波伝播時間を用いた血圧推定モデルである。血圧推定モデル作成部30は、脈波パラメータ算出部20において算出された1つの脈波伝播時間PTT1と、血圧取得部2において取得された被検体の血圧とに対して最小二乗法を用いた回帰分析を行うことにより、下記の式(1)に示す線形モデルである血圧推定モデルM1を作成する。
BP1=α1PTT1+α2 ・・・(1)
ここで、BP1は、予測血圧であり、PTT1は、任意の2つの領域間における脈波伝播時間であり、α1およびα2は、回帰分析を行うことにより得られる定数である。
【0037】
例えば、血圧推定モデルM1-1は、領域23と領域24との間の脈波伝播時間PTT(23-24)を用いて下記の式(2)によって表される。
BP1-1=α1-1PTT(23-24)+α2-1 ・・・(2)
また、例えば、血圧推定モデルM1-2は、領域23と領域33との間の脈波伝播時間PTT(23-33)を用いて下記の式(3)によって表される。
BP1-2=α1-2PTT(23-33)+α2-2 ・・・(3)
血圧推定モデル作成部30は、肌領域抽出部16が肌領域161として抽出した52領域から選んだ2つの領域のすべての組み合わせ(1326通り)について、複雑度1の血圧推定モデルM1(M1-1~M1-1326)を作成する。
【0038】
次に、血圧推定モデル作成部30は、複雑度2の血圧推定モデルM2を作成する。すなわち、血圧推定モデル作成部30は、説明変数として2つの脈波伝播時間PTT1およびPTT2を用いた血圧推定モデルM2を作成する。具体的には、血圧推定モデル作成部30は、脈波パラメータ算出部20において算出された互いに異なる2つの脈波伝播時間PTT1およびPTT2と、血圧取得部2において取得された被検体の血圧とに対して最小二乗法を用いた回帰分析を行うことにより、下記の式(4)に示す血圧推定モデルM2を作成する。
BP2=β1PTT1+β2PTT2+β3 ・・・(4)
ここで、BP2は、予測血圧であり、PTT1およびPTT2は、互いに異なる任意の2つの領域間における脈波伝播時間であり、β1、β2およびβ3は、回帰分析を行うことにより得られる定数である。
【0039】
例えば、血圧推定モデルM2-1は、領域23と領域24との間の脈波伝播時間PTT(23-24)および領域23と領域33との間の脈波伝播時間PTT(23-33)を用いて下記の式(5)によって表される。
BP2-1=β1-1PTT(23-24)+β2-1PTT(23-33)+β3-1
・・・(5)
血圧推定モデル作成部30は、脈波パラメータ算出部20が算出した1326個の脈波伝播時間から選んだ2つの脈波伝播時間のすべての組み合わせ(878475(=1326C2)通り)について、複雑度2の血圧推定モデルM2(M2-1~M2-878475)を作成する。
【0040】
以下同様にして、血圧推定モデル作成部30は、複雑度3の血圧推定モデルM3、複雑度4の血圧推定モデルM4、・・・を作成する。血圧推定モデル作成部30は、作成した血圧推定モデルを後述する血圧推定モデル評価部40(より詳細には、評価用予測血圧算出部41)に出力する。
【0041】
なお、本実施形態では、血圧推定モデル作成部30が回帰分析によって線形の血圧推定モデルを作成する態様であったが、本開示の血圧測定装置はこれに限られない。本開示の一態様の血圧測定装置では、非線形の血圧推定モデルを作成してもよい。また、血圧推定モデルを作成する際には、最小二乗法を用いた回帰分析に限らず、L1正則化を導入したLassoによって過学習の抑制を考慮した推定を行ってもよい。
【0042】
血圧推定モデル評価部40は、血圧推定モデル作成部30において作成された血圧推定モデルの評価を行う。血圧推定モデル評価部40は、評価用予測血圧算出部41と、モデル評価指数算出部42とを含む。
【0043】
評価用予測血圧算出部41は、血圧推定モデル作成部30において作成された血圧推定モデルに対して、テスト用データとして脈波パラメータ算出部20から出力された脈波伝播時間PTTを適用することにより、血圧推定モデルにおける予測血圧を算出する。
【0044】
モデル評価指数算出部42は、評価用予測血圧算出部41が算出した予測血圧と、血圧取得部2が取得した血圧(テスト用データ)との平均二乗誤差(MSE:Mean Square error)を血圧推定モデルの評価指数として算出する。モデル評価指数算出部42は、複雑度の小さい血圧推定モデルから順番に血圧推定モデルの評価指数を算出し、モデル選択部50に出力する。
【0045】
なお、血圧推定モデルの評価指数は、平均二乗誤差に限られず、例えば、平均絶対誤差、誤差の標準偏差、自由度調整済み決定指数、AIC(Akaike's Information Criteria)などを用いることができる。
【0046】
モデル選択部50は、血圧推定モデル評価部40(より詳細には、モデル評価指数算出部42)による評価に基づいて、血圧推定モデル作成部30が作成した複数の血圧推定モデルの中から測定モデルを選択する。
【0047】
図4は、モデル選択部50による測定モデルの選択方法を説明するためのグラフである。
図4に示すように、モデル選択部50は、各複雑度における平均二乗誤差が最も小さい血圧推定モデル同士をプロットしたときに、平均二乗誤差が極小値となる血圧推定モデルを測定モデルとして選択する。モデル選択部50は、選択した測定モデルを後述する血圧測定部60に出力する。
【0048】
血圧測定装置1Aでは、血圧推定モデル作成部30における血圧推定モデルの作成のためのデータ(訓練用データ)と、血圧推定モデル評価部40における血圧推定モデルの評価のためのデータ(テスト用データ)とを異なるデータとする。これにより、モデル選択部50は、
図4に示すように、過学習に陥ることなく、テスト用データへの当てはまりが良い汎化性能にすぐれた測定モデルを選択することができる。
【0049】
なお、血圧推定モデル作成部30および血圧推定モデル評価部40は、モデル選択部50が測定モデルを選択した時点で、それぞれ血圧推定モデルの作成および血圧推定モデルの評価を中止する。これにより、血圧推定モデル作成部30および血圧推定モデル評価部40における計算量を削減することができる。
【0050】
以上のように、脈波取得部10、脈波パラメータ算出部20、血圧推定モデル作成部30、血圧推定モデル評価部40、およびモデル選択部50は、被検体の脈波に基づいて被検体の血圧を測定するための測定モデルを設定するモデル設定装置100として機能する。
【0051】
血圧測定部60は、モデル選択部50(モデル設定装置100)によって選択された測定モデルに対して、脈波パラメータ算出部20から出力された脈波伝播時間PTTを適用することにより、被検体の血圧を測定する。血圧測定部60により測定された被検体の血圧は、血圧測定結果出力部70によって出力される。
【0052】
図5は、血圧測定結果出力部70の一例を示す図である。血圧測定結果出力部70は、例えば、
図5に示すように、ディスプレイ(例えば、液晶ディスプレイ)であってよい。
【0053】
(血圧測定装置1Aの処理)
図6は、血圧測定装置1Aの処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0054】
図6に示すように、血圧測定装置1Aによる被検体の血圧測定およびモデル設定方法では、まず、撮像部11が被検体の顔画像を撮像する(S1)。次に、顔画像取得部14が、撮像部11が撮像した被検体の画像から被検体の顔画像を取得する(S2)。次に、顔画像分割部15が、顔画像取得部14が抽出した顔画像を複数の領域に分割する(S3)。次に、肌領域抽出部16が、顔画像分割部15が分割した領域のうち肌が完全に隠れていない領域を肌領域161として抽出する(S4)。次に、脈波算出部17が、肌領域抽出部16が抽出した肌領域161のそれぞれについて、脈波を算出する(S5)。ステップS1~S5は、被検体の顔における複数の領域において脈波を取得する脈波取得工程である。
【0055】
次に、脈波パラメータ算出部20が、ステップS5において取得した各肌領域161の脈波(脈波信号)を用いて、各肌領域161間における脈波伝播時間PTTを算出する(S6、脈波伝播時間算出工程、脈波パラメータ算出工程)。
【0056】
次に、現在血圧を測定しようとしている被検体の測定モデルがすでに存在しているかどうかを確認する(S7)。上記測定モデルが存在しない場合(S7でNO)、血圧取得部2が、被検体の血圧を取得する(S8、血圧取得工程)。
【0057】
次に、血圧推定モデル作成部30が、訓練用データとしての、脈波パラメータ算出部20において算出された脈波伝播時間PTTと、血圧取得部2において取得された被検体の血圧とを用いて、複雑度1の複数の血圧推定モデルを作成する(S9、血圧推定モデル作成工程)。なお、本工程で用いられる被検体の血圧は、被検体の顔画像の撮影と同時に測定された血圧である。
【0058】
次に、評価用予測血圧算出部41が、血圧推定モデル作成部30において作成された複数の複雑度1の血圧推定モデルに対して、テスト用データとして脈波パラメータ算出部20から出力された脈波伝播時間PTTを適用することにより、複雑度1の血圧推定モデルにおける予測血圧を算出する(S10)。
【0059】
次に、モデル評価指数算出部42が、血圧推定モデルの評価指数として、評価用予測血圧算出部41が算出した予測血圧と、血圧取得部2が取得した血圧との平均二乗誤差を算出する(S11)。ステップS10およびS11は、血圧推定モデルの評価を行う血圧推定モデル評価工程である。
【0060】
次に、モデル選択部50が、各複雑度における平均二乗誤差が最も小さい血圧推定モデル同士をプロットしたときに、平均二乗誤差の極小値を得られたかどうかを判定する(S12)。換言すれば、モデル選択部50は、直前のステップS11で算出した複雑度における最小の平均二乗誤差が、1つ前のステップS11で算出した複雑度における最小の平均二乗誤差よりも大きいかどうかを判定する。なお、ステップS12を初めて行う場合には、比較対象となる最小の平均二乗誤差が存在しないため、ステップS12はNOとなる。
【0061】
平均二乗誤差の極小値が得られなかった場合(換言すれば、直前のステップS11で算出した複雑度における最小の平均二乗誤差が、1つ前のステップS11で算出した複雑度における最小の平均二乗誤差よりも小さい場合)(S12でNO)、血圧推定モデルの複雑度を1上げて(ステップS13)、ステップS9~S12を繰り返す。
【0062】
一方、平均二乗誤差の極小値が得られた場合(換言すれば、直前のステップS11で算出した複雑度における最小の平均二乗誤差が、1つ前のステップS11で算出した複雑度における最小の平均二乗誤差よりも大きい場合)(S12でYES)、モデル選択部50は、平均二乗誤差が極小値を示す血圧推定モデルを測定モデルとして選択する(S14)。ステップS12およびS14は、複数の血圧推定モデルの中から測定モデルを選択するモデル選択工程である。
【0063】
次に、血圧測定部60が、モデル選択部50によって選択された測定モデルに対して、脈波パラメータ算出部20から出力された脈波伝播時間PTTを適用することにより、被検体の血圧を測定する(S15)。なお、ステップS7において、現在血圧を測定しようとしている被検体の測定モデルがすでに存在している場合(ステップS7でYES)は、ステップS8~S14を行わずにステップS15を行う。
【0064】
最後に、血圧測定部60により測定された被検体の血圧を血圧測定結果出力部70によって出力する(S16)。
【0065】
以上のように、本実施形態におけるモデル設定装置100では、互いに異なる領域間から算出した複数の脈波伝播時間を用いて複数の血圧推定モデルを作成する。そして、複数の血圧推定モデルを評価して測定モデルを設定する。
【0066】
上記の構成によれば、被検体の血圧に相関が高い領域間の脈波伝播時間を用いて測定モデルを設定することができる。その結果、モデル設定装置100は、被検体ごとに異なる血管網、輪郭、顔の大きさなどに適合した測定モデルを設定することができるので、被検体の血圧を精度良く測定することができる。
【0067】
なお、本実施形態では、撮像部11が血圧測定装置1Aに備えられている構成であったが本開示の血圧測定装置はこれに限られない。本開示の一態様では、スマートフォンのインカメラや見守りロボット搭載のカメラなどによって撮像した画像を血圧測定装置に出力して、当該画像を用いて測定モデルを設定する態様でもよい。
【0068】
また、本実施形態では、被検体の顔画像を用いて測定モデルを設定する態様であったが、本開示の血圧測定装置はこれに限られない。本開示の一態様では、被検体の脈波を取得できる領域であれば、顔以外の領域の画像を用いて測定モデルを設定してもよい。ただし、顔画像を用いた場合、被検体に対する負担が少なく、被検体が自然な状態における血圧を測定することができる。
【0069】
また、本実施形態では、カメラを用いて生体に接触することなく脈波を取得していたが、これに限られない。本開示の血圧測定装置では、被検体の少なくとも3つの領域から脈波を取得できればよく、接触式のセンサを用いて脈波を取得してもよい。
【0070】
また、本実施形態では、脈波パラメータ算出部20において各複雑度において算出された脈波伝播時間PTTのすべての組み合わせについてそれぞれ血圧推定モデルを作成する態様であったが、本開示の血圧測定装置はこれに限られない。本開示の一態様では、少なくとも2つの脈波伝播時間PTTを用いて、複雑度の異なる少なくとも2つの血圧推定モデルを作成すればよい。
【0071】
また、本実施形態では、血圧推定モデル作成部30における血圧推定モデルの作成のためのデータ(訓練用データ)と、血圧推定モデル評価部40における血圧推定モデルの評価のためのデータ(テスト用データ)とを異なるデータとしていたが、本開示の血圧測定装置はこれに限られない。本開示の一態様では、血圧推定モデル作成部30において用いたデータから算出できる指標(例えば、自由度調整済み決定係数など)によって血圧推定モデルの評価、および測定モデルの選択を行う場合には、訓練用データと評価用データとを同じデータにすることができる。
【0072】
また、本実施形態では、血圧推定モデル作成部30において、複雑度の異なる複数のモデルを作成する態様であったが、この態様に限られない。本開示の一態様では、以下のようにモデル作成を行っても良い。すなわち、訓練用データを用いて作成した一つのモデルに対して、訓練用データとして脈波パラメータ算出部20で出力された脈波パラメータを適用し予測血圧を算出する。次に、血圧取得部2で取得した血圧に対する、算出した訓練用データの予測血圧の誤差の正負および大きさに応じて訓練用データを分類し、各分類に該当するデータを用いて、分類ごとにモデル作成を行う。具体的には、例えば誤差0を閾値とした時、正の誤差の群(1)と負の誤差の群(2)との2つに訓練用データを分類し、分類ごとにモデル作成を行う。その結果、ある一つのモデルでは適合度が低く、誤差が大きくなるデータについても、同様の誤差傾向のデータ(例えば、あるモデルに対して正の誤差が生じるデータ群)を同一分類として新たに再学習させることで、様々なデータの傾向に対応できるモデルを作成することが出来る。なお、正の誤差の群(1)で作成したモデルと、負の誤差の群(2)で作成したモデルとは、異なるパラメータを用いた血圧推定モデルでもよい。
【0073】
また、本実施形態では、モデル選択部50において、血圧推定モデル評価部40で算出した複数の被験者データを含むテスト用データから算出したモデル評価指数に基づいてモデル選択を行い、複数の被験者への汎化性の高いモデル選択を行う態様であったが、この態様に限られない。本開示の一態様では、各被験者の少なくとも1データを用いて、被験者ごとに最適なモデルを選択してもよい。
【0074】
また、本実施形態では、血圧推定モデルを作成するために、互いに異なる領域間から算出した複数の脈波伝播時間PTTを説明変数(脈波パラメータ)として用いていたが、本開示の血圧測定装置はこれに限られない。本開示の一態様では、脈波伝播時間PTTに加えて、各肌領域161から算出される脈波の波形特徴量を血圧推定モデルの説明変数として用いて血圧推定モデルを作成してもよい。また、本開示の一態様では、脈波伝播時間PTTを用いずに複数の波形特徴量のみを血圧推定モデルの説明変数として用いて血圧推定モデルを作成してもよい。また、本開示の一態様では、脈波伝播時間と波形特徴量以外に、例えば、脈拍数などを脈波パラメータとして用いることができる。
【0075】
図7の(a)は、脈波波形の一例を示すグラフであり、
図7の(b)は、加速度脈波波形の一例を示すグラフである。
図8は、上記波形特徴量を説明するための図である。上記波形特徴量は、
図7の(a)に示すような脈波波形、または、
図7の(b)に示すような、脈波信号を2回微分して得られる加速度脈波波形を用いて算出することができる。上記波形特徴量は、例えば、
図8に示すように、各特徴点a~eにおける振幅、当該振幅の比(例えば、特徴点bの振幅に対する特徴点aの振幅の比)、各波形特徴量の時間差(例えば、特徴点aと特徴点bとの間の時間差)などを用いることができる。
【0076】
なお、本実施形態で説明した脈波伝播時間PTTのみを用いるモデルの場合には、複数の脈波伝播時間を求めるために、少なくとも3つの領域において脈波を算出する必要があった。これに対して、波形特徴量のみを用いる場合には、1つの領域から複数の波形特徴量を算出することができるため、少なくとも1つの領域において脈波を算出すればよい。また、脈波伝播時間PTTと波形特徴量とを用いる場合には、少なくとも2つの領域において脈波を算出することにより、1つの脈波伝播時間PTTと複数の波形特徴量を得ることができる。
【0077】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0078】
図9は、本実施形態における血圧測定装置1Bの構成を示すブロック図である。血圧測定装置1Bは、
図9に示すように、実施形態1における血圧推定モデル評価部40、モデル選択部50および血圧測定部60に代えて、血圧推定モデル評価部40A、モデル候補抽出部80および血圧測定部90を備えている。
【0079】
血圧推定モデル評価部40Aは、実施形態1におけるモデル評価指数算出部42に代えて、モデル評価指数算出部42Aを備えている。
【0080】
モデル評価指数算出部42Aは、評価用予測血圧算出部41が算出した予測血圧と、血圧取得部2が取得した血圧(テスト用データ)との誤差の標準偏差を血圧推定モデルの評価指数として算出する。モデル評価指数算出部42Aは、算出した評価指数をモデル候補抽出部80に出力する。
【0081】
モデル候補抽出部80は、モデル評価指数算出部42が算出した評価指数が、一定の閾値よりも低い値の血圧推定モデルを血圧測定部90において血圧を測定するための測定モデル候補として抽出する。モデル候補抽出部80は、血圧測定部90において血圧を測定するための測定モデル候補を複数選択するモデル選択部としての機能を有する。
【0082】
図10は、モデル評価指数算出部42Aがテスト用データから算出した、血圧推定モデルの誤差の標準偏差の分布を示すグラフである。
【0083】
図10に示すように、モデル候補抽出部80は、例えば、誤差の標準偏差が非観血式血圧計の規格とされる8mmgHg以下の血圧推定モデルを測定モデル候補として抽出する。
【0084】
図11は、モデル評価指数算出部42Aが算出した誤差の標準偏差のランキングを示す表である。なお、本実施形態では、複雑度が1または2の血圧推定モデルを用いる例について説明する。
図11に示すように、モデル評価指数算出部42Aにより、1326個の複雑度1の血圧推定モデルおよび878475個の複雑度2の血圧推定モデルの計879801個の血圧推定モデルの誤差の標準誤差が得られる。例えば、順位1の血圧推定モデルは、領域68と領域88との間の脈波伝播時間PTT(68-88)と、領域65と領域96との間の脈波伝播時間PTT(65-96)とを用いた複雑度2の血圧推定モデルであり、誤差の標準偏差が5.02mmHgである。モデル候補抽出部80は、879801個の血圧推定モデルの中から誤差の標準偏差が8mmgHg以下の複数の血圧推定モデルを測定モデル候補として抽出し、抽出した測定モデル候補を血圧測定部90(より詳細には、測定モデル決定部92)へ出力する。
【0085】
血圧測定部90は、信号品質評価部91と、測定モデル決定部92と、血圧算出部93とを備えている。
【0086】
信号品質評価部91は、血圧を測定する際に用いられる各領域の脈波の信号品質を評価する。具体的には、信号品質評価部91は、以下の方法で算出した脈波信号のSNR(信号雑音比、Signal-to-Noise Ratio)を算出する。
【0087】
図12は、脈波信号のパワースペクトルの一例を示すグラフである。
【0088】
前提として、脈波は心臓のポンプ作用によって動脈に伝わる波であるため、脈波信号は心拍に合わせた一定の周期を持ち、
図12に示すように、脈波信号に周波数解析を行うと安静時データにおいては1Hz前後にピーク(PR)が確認できる。これを利用し、信号品質評価部91は、
図12に示すように、脈波信号の周波数のパワースペクトルにおける、PRの±0.05Hzのパワー和をSignal、0.75~4.0HzのSignal帯域以外のパワー和をNoiseとし、SNR=Signal/Noiseを算出する。信号品質評価部91は、算出したSNRを測定モデル決定部92に出力する。なお、Signalの帯域幅およびNoiseの帯域幅は上記の幅に限らず、適宜決定することができる。
【0089】
測定モデル決定部92は、信号品質評価部91による脈波の信号品質に基づいて、モデル候補抽出部80が抽出した複数の測定モデル候補の中から測定モデルを決定する。具体的には、測定モデル決定部92は、モデル候補抽出部80が抽出した測定モデル候補のうち、測定モデル候補において用いられる各領域におけるSNRがすべての領域において0.15以上の測定モデル候補を測定モデルとして決定する。
【0090】
図13は、測定モデル決定部92による測定モデルの決定方法を説明するための表である。
図13に示す例では、順位2の測定モデル候補および順位4の測定モデル候補が、(条件1)誤差の標準偏差が8mmgHg以下であり、かつ、(条件2)各領域におけるSNRがすべての領域において0.15以上になっている。測定モデル決定部92は、この場合、より順位が高い順位2の測定モデル候補を測定として決定する。測定モデル決定部92は、決定した測定モデルを血圧算出部93へ出力する。なお、本実施形態では、SNRの閾値を0.15としたが、SNRの閾値は、これに限られず、適宜設定することができる。
【0091】
血圧算出部93は、測定モデル決定部92によって決定された測定モデルに対して、脈波パラメータ算出部20から出力された脈波伝播時間PTTを適用することにより、被検体の血圧を測定する。血圧算出部93(血圧測定部90)により測定された被検体の血圧は、血圧測定結果出力部70によって出力される。
【0092】
以上のように、本実施形態における血圧測定装置1Bでは、血圧測定部90が、血圧推定モデル評価部40(より詳細には、モデル評価指数算出部42A)による評価と、信号品質評価部91による脈波の信号品質とに基づいて、モデル候補抽出部80が抽出した複数の測定モデル候補の中から測定モデルを選択し、被検体の血圧を測定する。
【0093】
上記の構成によれば、血圧測定部90において被検体の血圧を測定する際に、複数の測定モデル候補の中から、測定時点において脈波の信号品質が高い測定モデル候補を測定モデルとして用いることができる。その結果、測定モデルを作成する時点と、血圧を測定する時点において、撮像環境が大きく異なるような場合においても、撮像環境に応じた適切な測定モデルを用いて血圧を測定することができる。これにより、安定して精度の高い血圧測定を行うことができる。
【0094】
なお、本実施形態では、条件1および条件2をともに満たす測定モデル候補が複数あった場合は、より順位が高い測定モデル候補を測定として決定する態様であったが、本開示の血圧測定装置はこれに限られない。本開示の一態様の血圧測定装置では、条件1および条件2をともに満たす測定モデル候補を用いて複数の血圧を算出し、当該複数の血圧の代表値(例えば、平均値、中央値)を血圧として算出する態様であってもよい。
【0095】
また、本実施形態では、モデル評価指数算出部42Aが算出した誤差の標準偏差のランキングを作成し、当該ランキングから測定モデルを決定する態様であったが、本開示の血圧測定装置はこれに限られない。本開示の一態様の血圧測定装置では、信号品質評価部91が評価した信号品質を用いて各領域のランキングを作成し、測定モデル候補の中からより上位のランキングの領域を用いる測定モデル候補を測定モデルとして決定する態様であってもよい。
【0096】
また、本実施形態では、複雑度が1または2の血圧推定モデルを用いる態様であったが、本開示の血圧測定装置はこれに限られない。本開示の一態様の血圧測定装置では、例えば、リアルタイムで血圧の測定を行いたい場合は、例えば、計算量を削減するために、複雑度が小さい血圧推定モデルのみ(例えば、複雑度1の血圧推定モデルのみ)を用いる態様であってもよい。
【0097】
また、本実施形態では、信号品質評価部91が脈波信号のSNRを用いて脈波の信号品質を評価する態様であったが、本開示の血圧測定装置はこれに限られない。本開示の一態様では、信号品質評価部91は、輝度値を用いて脈波の信号品質を評価してもよい。
【0098】
〔ソフトウェアによる実現例〕
血圧測定装置1Aおよび血圧測定装置1Bの制御ブロック(特に脈波取得部10、脈波パラメータ算出部20、血圧推定モデル作成部30、血圧推定モデル評価部40、モデル選択部50および血圧測定部60)は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0099】
後者の場合、血圧測定装置1Aおよび血圧測定装置1Bは、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータを備えている。このコンピュータは、例えば少なくとも1つのプロセッサ(制御装置)を備えていると共に、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な少なくとも1つの記録媒体を備えている。そして、上記コンピュータにおいて、上記プロセッサが上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。上記プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)等の他、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などをさらに備えていてもよい。また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0100】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。
【0101】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2018年5月10日に出願された日本国特許出願:特願2018-091651に対して優先権の利益を主張するものであり、それを参照することにより、その内容の全てが本書に含まれる。
【符号の説明】
【0102】
1A、1B 血圧測定装置
2 血圧取得部
10 脈波取得部
12 光源
13 光源調節部
20 脈波パラメータ算出部(脈波伝播時間算出部)
30 血圧推定モデル作成部
40、40A 血圧推定モデル評価部
50 モデル選択部
60、90 血圧測定部
80 モデル候補抽出部(モデル選択部)
91 信号品質評価部
100 モデル設定装置