(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-26
(45)【発行日】2024-12-04
(54)【発明の名称】水処理システムおよび水処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/52 20230101AFI20241127BHJP
C02F 1/44 20230101ALI20241127BHJP
C02F 1/78 20230101ALI20241127BHJP
【FI】
C02F1/52 E
C02F1/44 A
C02F1/44 D
C02F1/78
(21)【出願番号】P 2021018191
(22)【出願日】2021-02-08
【審査請求日】2023-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】507214083
【氏名又は名称】メタウォーター株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000220675
【氏名又は名称】東京都下水道サービス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】野口 基治
(72)【発明者】
【氏名】粕谷 誠
(72)【発明者】
【氏名】原品 竜馬
【審査官】石岡 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-237110(JP,A)
【文献】特開2008-049247(JP,A)
【文献】特開2011-050843(JP,A)
【文献】特開2001-191086(JP,A)
【文献】特開2011-056478(JP,A)
【文献】特開2020-006332(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D21/00-21/34
C02F1/44、1/52-1/56、1/78、9/00
C02F3/00-3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下水処理場の最終沈殿池から得られる処理水からなる被処理水に
ポリ塩化アルミニウムからなる凝集剤を添加する凝集剤添加部と、
前記凝集剤添加部の下流に設けられ、前記凝集剤が添加された被処理水を膜ろ過する膜ろ過部と、
前記凝集剤添加部の上流に設けられた他の水処理部と、を備え、
前記他の水処理部に、被処理水のpH
が6.0~6.8になるように調整するpH調整部が設けられていることを特徴とする水処理システム。
【請求項2】
前記他の水処理部として、生物ろ過膜により被処理水を処理する生物処理部及び被処理水に対してオゾン処理を行うオゾン処理部の少なくとも一方を有し、
前記pH調整部は、前記生物処理部及び前記オゾン処理部の少なくとも一方に設けられている、請求項1に記載の水処理システム。
【請求項3】
前記他の水処理部として、被処理水に対してオゾン処理を行うオゾン処理部を有し、
前記被処理水のpHに基づいて、前記オゾン処理後の被処理水の溶存オゾン濃度が所定の範囲となるように、前記オゾン処理部においてオゾンを注入する溶存オゾン濃度制御装置を有する、請求項1
又は2に記載の水処理システム。
【請求項4】
下水処理場の最終沈殿池から得られる処理水からなる被処理水に
ポリ塩化アルミニウムからなる凝集剤を添加する凝集工程と、
前記凝集剤が添加された被処理水を膜ろ過する膜ろ過工程と、
前記凝集工程より上流に設けられた他の水処理工程と、を有し、
前記他の水処理工程で、被処理水のpHを測定し、該pHが
6.0~6.8になるようにpH調整を行うことを特徴とする水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば下水処理水、その他の各種の排水、水道原水等を被処理水として、膜ろ過処理を行うことにより、再生水などの浄化水を得るための水処理システム及び水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水資源の有効利用を図るために、各種の排水を膜ろ過して再生水を得る技術が開発されている。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、被処理水にオゾンを添加して該被処理水を酸化処理する酸化処理工程と、該酸化処理工程を経た水を逆浸透膜により処理する逆浸透膜処理工程とを有する水処理方法において、前記酸化処理工程の水又は酸化処理工程からの流出水のpHが8~10となるように、前記被処理水にpH調整剤を添加することを特徴とする水処理方法が記載されている。また、被処理水中の有機物濃度が高い場合には、効率的にオゾンによる酸化処理を行うために、オゾン酸化処理に先立ち、被処理水を予め凝集沈殿処理又は生物処理することが好ましいことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された方法では、凝集沈殿処理は好ましい態様として挙げられているだけで必須とされておらず、凝集沈殿処理を行う場合でも酸化処理工程に先立って行うことが好ましいとされているので、被処理水のpH変動などによって凝集沈殿処理におけるフロック形成が効果的になされず、逆浸透膜処理工程において、目詰まりが生じやすくなる可能性があった。 そこで、本発明は、被処理水を膜ろ過処理して浄化水を得る際に、膜の目詰まりが生じにくくして、メンテナンス作業を軽減できるようにした水処理システム及び水処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の水処理システムの1つは、被処理水に凝集剤を添加する凝集剤添加部と、前記凝集剤添加部の下流に設けられ、前記凝集剤が添加された被処理水を膜ろ過する膜ろ過部と、前記凝集剤添加部の上流に設けられた他の水処理部と、を備え、前記他の水処理部に、被処理水のpHを調整するpH調整部が設けられていることを特徴とする。
【0007】
本発明の水処理システムのもう1つは、被処理水に対してオゾン処理を行うオゾン処理部と、前記オゾン処理後の被処理水に凝集剤を添加する凝集剤添加部と、前記凝集剤が添加された被処理水を膜ろ過する膜ろ過部と、被処理水のpHを測定するpH測定部と、前記pH測定部で測定されたpHに基づいて、前記オゾン処理後の被処理水の溶存オゾン濃度が所定の範囲となるように、前記オゾン処理部におけるオゾン注入量を制御する溶存オゾン濃度制御装置と、を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の水処理システムによれば、被処理水を膜ろ過処理して浄化水を得る際に、膜の目詰まりが生じにくくして、メンテナンス作業を軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の水処理システムの一実施形態を示す説明図である。
【
図2】同実施形態におけるpH調整手順を示すフローチャートである。
【
図3】本発明の水処理システムの他の実施形態を示す説明図である。
【
図4】同実施形態における溶存オゾン濃度調整手順を示すフローチャートである。
【
図5】本発明の水処理システムの他の実施形態を示す説明図である。
【
図6】同実施形態におけるpH及び溶存オゾン濃度の調整手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者等は、前述した目的を達成するため、鋭意研究した結果、凝集沈殿処理を行った後に膜ろ過を行うようにすると共に、凝集沈殿処理の上流に設けられた水処理部でpH調整を行うことにより、あるいは溶存オゾン濃度を調整することにより、膜ろ過部の目詰まりを効果的に抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。
【0012】
(第1実施形態)
図1、2には、本発明の水処理システムの第1実施形態が示されている。
【0013】
図1に示すように、この実施形態における水処理システム101は、下水処理場の最終沈殿池200から得られる処理水を被処理水として、水処理を行うことにより、再生水を得るものである。
【0014】
ただし、被処理水としては、上記のような下水処理水に限らず、例えば、返流水、工場排水、ゴミ浸出水、屎尿、農業廃水、畜産排水、養殖排水などを処理した排水や、水道原水などを用いることもできる。
【0015】
この水処理システム101は、生物処理部300と、オゾン処理部400と、凝集剤添加部500と、膜ろ過部600とを備えている。以下、各処理部の構成について、順次説明することにする。
【0016】
生物処理部300は、ろ材に生物を繁殖させてろ材表面に生物膜を形成してなる生物ろ過膜を有する生物膜ろ過槽301を備えている。ろ材としては、通常の水処理用の生物ろ過膜に用いられるろ材を制限なく使用することができ、例えば、砂、アンスラサイト、ガラス、ガーネット、活性炭、繊維部材などの多孔性物質などを用いることができる。生物は、前記ろ材表面に生息し、被処理水由来の有機物を分解して、生物学的に除去する。下水処理場の最終沈殿池200から得られる被処理水は、配管201を通して生物処理部300の生物膜ろ過槽301に導入され、上記生物ろ過膜を通過して生物処理された後、配管302を通してオゾン処理部400に送られる。なお、最終沈殿池200と生物処理部300とを連結する配管201に被処理水のpHを測定するpH計202が設けられていてもよい。
【0017】
オゾン処理部400は、オゾン接触塔401とオゾン発生器402とを備えている。オゾン発生器402は、無声放電法、紫外線法、化学生成法、電解法などによりオゾンを発生するものであれば限定されないが、大量のオゾンを得るには、無声放電法が好ましい。オゾン発生器402は、電源投入により所定の濃度のオゾンを発生し、オゾン接触塔401内に設けられた散気装置403から被処理水中にオゾンを噴出する。被処理水は、オゾン接触塔401においてオゾン発生器402から投入されたオゾンと接触する。本発明においては、被処理水とオゾンとの接触の手段は、特に限定されるものではなく、上向流式であっても下向流式であってもよく、散気板または散気筒からオゾンを噴出させる方法であっても、イジェクタを用いて微細気泡(ナノバブル、マイクロバブル)としてオゾンを吹き込む方法であってもよい。オゾンによって被処理水中に浮遊する固形物の表面性状が改質されて、後の凝集剤添加部500における凝集改善効果がもたらされる。オゾン処理部400でオゾン処理された被処理水は、配管404を通して凝集剤添加部500に送られる。なお、配管404に、前記オゾン処理後の被処理水の溶存オゾン濃度を検出する溶存オゾン濃度計405を設けてもよい。
【0018】
凝集剤添加部500は、凝集槽501と、凝集剤貯留槽502と、凝集剤を配管504を通して凝集槽501に注入するポンプ503とを有している。凝集剤の種類としては、例えば、PAC(ポリ塩化アルミニウム)、塩化第二鉄、硫酸バンド、高分子凝集剤、PSI(ポリシリカ鉄凝集剤)などを使用することができる。被処理水は、凝集槽501に設けられた急速攪拌部、緩速攪拌部などを経て、凝集剤と混合され、凝集フロックが形成される。なお、凝集手段としてはラインミキサを使用してもよい。凝集剤添加部500で凝集処理された被処理水は、配管506を通して膜ろ過部600に送られる。なお、凝集槽501の被処理水のpHを測定するpH計505を設けてもよい。
【0019】
膜ろ過部600には、図示しない分離膜が備えられており、凝集剤添加部500で形成されたフロックが上記分離膜にろ過されて取り除かれ、再生水として利用可能な清浄な処理水が得られる。分離膜としては、例えばMF膜又はUF膜を用いることができる。前段階で良好なフロックが形成されているため、膜面が閉塞されにくい。膜の材質は、高分子膜であってもセラミック膜であってもよく、膜形状は、モノリス型の他に、チューブラー膜、ハニカム膜、中空糸膜、平膜など任意である。また、膜は内圧式であっても外圧式であってもよい。更に、膜ろ過方式は、全量ろ過方式でもクロスフロー方式でもよい。
【0020】
本発明の1つの水処理システムの特徴は、凝集剤添加部500の上流に設けられた他の水処理部(この実施形態では、生物処理部300、オゾン処理部400が相当する)に、pH調整部700を設けたことにある。なお、本発明において、他の水処理部にpH調整部を設けるという意味は、他の水処理部における水処理を行う箇所(例えば、生物膜ろ過槽301、オゾン接触塔401など)に限定する意味ではなく、水処理部の水処理を行う箇所の前後部分(例えば配管など)に設ける態様も含むという意味である。
【0021】
この実施形態では、生物処理部300とオゾン処理部400とを連結する配管302にpH調整部700が設けられている。pH調整部700は、pH調整剤槽701と、pH調整剤槽701のpH調整剤を、配管703を通して配管302を通る被処理水に添加するポンプ702と、配管302を通る被処理水のpHを測定するpH計704と、pH計704から測定されたpH値を取得し、そのpH値に基づいてポンプ702に制御信号を送って、pH調整剤の添加量を調整するpH制御装置705とを有している。
【0022】
なお、この実施形態では、生物処理部300とオゾン処理部400とを連結する配管302にpH調整部700が設けられているが、pH調整部700は、例えば下水処理場の最終沈殿池200と生物処理部300とを連結する配管201(
図1の矢印Aの箇所)に設けることもできる。また、生物膜ろ過槽301や、オゾン接触塔401などの、水処理を行う箇所に設けることもできる。
【0023】
次に、この実施形態におけるpH制御装置705の制御フローを
図2に基づいて説明する。
図1、2に示すように、pH計704はpH値を測定する(STEP01)。次に、pH制御装置705は上記pH値が所定の範囲にあるか否かを判断する(STEP02)。pH制御装置705はpH値が所定の範囲にある場合には、処理を終了し(エンド)、pH値が所定の範囲にない場合には、STEP03に進み、ポンプ702を作動させ、配管302を通る被処理水にpH調整剤を添加する。
【0024】
次に、pH計704は再びpH値を測定し(STEP04)、pH制御装置705は上記pH値が所定の範囲にあるか否かを判断する(STEP05)。pH制御装置705はpH値が所定の範囲にない場合には、STEP03に戻り、pH調整剤を再び添加する(STEP03)。pH値が所定の範囲にある場合には、ポンプ702を停止し(STEP06)、処理を終了する(エンド)。このように、pH制御装置705は、pH値が所定の範囲にない場合に、STEP03、STEP04、STEP05の処理を繰り返すことにより、最終的に、被処理水のpH値を所定の範囲に調整する。
【0025】
上記STEP02で判断するpH値の範囲、言い換えると、pH調整部700で被処理水が調整されるpH値の範囲は、pH6.0~6.8であることが好ましく、pH6.3~6.8であることがより好ましい。pH値が上記範囲にあれば、凝集工程後の膜ろ過時に膜の目詰まりを防止する効果を良好に得ることができる。
【0026】
また、STEP01のpH値の取得は、オゾン処理部400に至る配管302にpH調整部700が設けられている場合、オゾン処理部400を経た配管404(
図1の矢印Bの箇所)に設けたpH計によって測定された値を用いることもできる。
【0027】
次に、上記水処理システム101を用いた、本発明の水処理方法の一実施形態を説明する。この実施形態では、下水処理場の最終沈殿池200から取り出された被処理水が配管201を通って生物処理部300の生物膜ろ過槽301に導入される。被処理水は、生物膜ろ過槽301の生物ろ過膜を通過する際に、含有されるアンモニアや亜硝酸が硝酸まで硝化されるとともに、粗大な固形物が除去される(以上「生物処理工程」)。
【0028】
次に、被処理水は、配管302を通してオゾン処理部400に送られる。このとき、配管302を通る被処理水のpHがpH計704で測定され、その測定値に基づいて、pH制御装置705が、
図2に示した制御フローにより、ポンプ702を作動させ、必要な量のpH調整剤を被処理水に添加する。これによって、被処理水は、予め定められた所定のpH値に調整されることになる(以上「pH調整工程」)。
【0029】
オゾン処理部400では、オゾン発生器402がオゾンを発生させて、オゾン接触塔401の散気装置403からオゾンを被処理水に吹き込んでオゾン処理がなされる。被処理水のpHが所定の範囲に調整されているので、オゾンが分解されラジカルが発生しやすくなる。そのため、被処理水中に含まれる微細固形物の表面性状が改質されて、後の凝集剤処理工程における凝集性を高めることができる(以上「オゾン処理工程」)。
【0030】
オゾン処理部でオゾン処理された被処理水は、配管404を通って凝集剤添加部500の凝集槽501に送られる。凝集槽501には、凝集剤貯留槽502からポンプ503により凝集剤が添加される。被処理水は、凝集槽501に設けられた急速攪拌部、緩速攪拌部などを経て、凝集剤と混合され、凝集フロックが形成される(以上「凝集剤添加工程」)。このとき、被処理水のpHが所定の範囲に調整されており、オゾン処理工程で被処理水中に含まれる微細固形物の表面性状が改質されて、微細固形物が凝集しやすくなっているので、フロックの形成が良好になされる。
【0031】
次に、被処理水は、配管506を通して膜ろ過部600に送られる。膜ろ過部600では、被処理水が分離膜でろ過され、被処理水中に含まれる凝集フロックが分離膜によって除去される。その結果、分離膜を通過した水は、被処理水中の微細固形物が除かれて、再生水として利用可能な清浄水となる。この処理水は、配管601を通して取り出される(以上「膜ろ過工程」)。
【0032】
上記のように、この実施形態では、pH調整工程により、被処理水のpH値が所定の範囲に調整されることにより、オゾン処理工程において、オゾンを分解させてラジカルを発生しやすくすることができ、被処理水中に含まれる微細固形物の表面性状を効果的に改質して、後の凝集剤処理工程における凝集性を高めることができる。その結果、凝集剤処理工程における凝集フロックの形成を良好にすることができる。
【0033】
その結果、膜ろ過部におけるろ過量を高め、膜差圧上昇速度を低下させて、膜ろ過部600の分離膜の薬品洗浄などのメンテナンス間隔を長くして、メンテナンスの手間と時間と費用を軽減することができる。
【0034】
なお、本発明においては、他の水処理部として、生物ろ過膜により被処理水を処理する生物処理部300及び被処理水に対してオゾン処理を行うオゾン処理部400の少なくとも一方を有し、pH調整部700は、前記生物処理部300及び前記オゾン処理部400の少なくとも一方に設けられていることが好ましい。
【0035】
(第2実施形態)
図3,4には、本発明の第2実施形態が示されている。なお、第1実施形態と実質的に同一部分には同符号を付して、その説明を省略することにする。
【0036】
図3に示すように、この実施形態の水処理システム102は、前述した第1実施形態と比較して、pH調整部700がなく、溶存オゾン濃度制御装置406が設けられている点が相違している。
【0037】
この実施形態では、生物処理部300とオゾン処理部400とを連結する配管302に設けられたpH計704で測定されたpH値に基づいて、溶存オゾン濃度制御装置406により、オゾン発生器402から供給されるオゾン注入量が制御されるようになっている。すなわち、オゾン処理部400は、オゾン接触塔401と、オゾン発生器402と、溶存オゾン濃度制御装置406とを有しており、溶存オゾン濃度制御装置406がオゾン発生器402から供給されるオゾン注入量を制御して、オゾン接触塔401を通過する被処理水へのオゾン注入量が制御されるようになっている。
【0038】
被処理水のpHが所定値より低いと、オゾン処理部400におけるオゾン分解によるラジカル発生量が少なくなる傾向がある。また、被処理水のpHが所定値より高いと、凝集剤による凝集効果が低下する傾向がある。上記いずれの場合も、溶存オゾン濃度を上昇させて、ラジカル発生量を高め、処理水中に含まれる微細固形物の表面性状の改質効果を高めることによって改善することができる。そこで、この実施形態では、あるpHで被処理水中の微細固形物の表面性状を効果的に改質できる溶存オゾン濃度を、被処理水のpHと、被処理水の溶存オゾン濃度での膜ろ過工程の膜差圧上昇速度の関係を予め調べておき、上記膜差圧上昇速度が所定の範囲内となるように、被処理水のpHに応じて、被処理水の溶存オゾン濃度を制御するようにしている。
【0039】
溶存オゾン濃度制御装置406における制御フローを
図4に基づいて説明する。まず、pH計704が配管302を通過する被処理水のpH値が測定し(STEP11)、溶存オゾン濃度制御装置406は上記pH値が所定の範囲にあるか否かを判断する(STEP12)。pH値が所定の範囲にある場合は、オゾンの分解によるラジカル発生が良好になされ、凝集剤による凝集効果も良好に維持されることから、特に溶存オゾン濃度を調整する必要がないので、溶存オゾン濃度制御装置406は処理を終了する(エンド)。
【0040】
なお、上記STEP12で判断するpH値の範囲は、pH6.0~6.8であることが好ましく、pH6.3~6.8であることがより好ましい。
【0041】
そして、溶存オゾン濃度制御装置406は、pH値が所定の範囲にない場合には、STEP13に進む。STEP13では、前述したように、予め求めておいた、膜差圧上昇速度と、被処理水のpHと、被処理水の溶存オゾン濃度との関係から、被処理水のpH値に応じた、必要とされる溶存オゾン濃度を取得(換言すれば算出)する。そして、オゾン発生器402を作動させ、オゾン接触塔401にオゾンを注入する(STEP14)。なお、この予め求めておいた、膜差圧上昇速度と、被処理水のpHと、被処理水の溶存オゾン濃度との関係(以下、対応関係と記す)は、例えば、テーブル形式や、関数形式で、溶存オゾン濃度制御装置406のメモリ(図示しない)に格納されている。
【0042】
ここで、溶存オゾン濃度を算出する際に、膜差圧上昇速度を参照する理由について説明する。膜ろ過装置を安定的に運転するためには、膜差圧上昇速度は低いことが望ましい。膜差圧上昇速度を低くするためには、溶存オゾン濃度を高くして膜ろ過部の目詰まりを抑制すれば良い。しかし、溶存オゾン濃度を高くすると膜ろ過装置の運転コストが上昇する。
【0043】
そこで、膜ろ過装置における安定的運転と運転コストとを比較考量し、発明者は、膜ろ過装置の安定運転を運転コストよりも優先する場合には、膜差圧上昇速度を低くするため、必要とされるオゾン濃度(注入するオゾン量)を高く定める。一方、発明者は、膜ろ過装置の運転コストを安定運転よりも優先する場合には、必要とされるオゾン濃度を低く定める。
【0044】
前記対応関係が関数形式で定められている場合を例示する。なお、下記の関係式は、各種実験の結果、または実機運転の結果を参照して定められたものである。
【0045】
膜差圧状速度が第1の速度よりも大きくても良い場合(運転コスト優先)、前記対応関係を下記(式1)と定める。
【0046】
被処理水の溶存オゾン濃度(必要とされる溶存オゾン濃度)=a1×被処理水のpH値+b1…(式1) ただし、a1,b1は定数。
【0047】
一方、膜差圧状速度を第1の速度以下に抑えたい場合には(安定運転優先)、前記対応関係を下記(式2)と定める。
【0048】
被処理水の溶存オゾン濃度=a2×被処理水のpH値+b2…(式2) ただし、a1、a2が正の定数の場合、a2はa1よりも大きい定数、b2はb1よりも大きい定数。
【0049】
なお、上記(式1)、(式2)は一例であり、各種実験の結果、または実機運転の結果により各種変形が可能である。
【0050】
その後、溶存オゾン濃度計405が溶存オゾン濃度を測定し(STEP15)、溶存オゾン濃度制御装置406は、溶存オゾン濃度の測定値が算出した溶存オゾン濃度の範囲にあるか否かを判断する(STEP16)。溶存オゾン濃度制御装置406は、溶存オゾン濃度の測定値が上記範囲にある場合は、処理を終了し(エンド)、上記範囲にない場合は、STEP14に戻り、再度オゾンの注入を行う。溶存オゾン濃度制御装置406は、STEP15、STEP16の処理を繰り返すことにより、オゾン処理された被処理水の溶存オゾン濃度を、算出した上記溶存オゾン濃度の範囲に調整する。
【0051】
こうして、算出した溶存オゾン濃度の範囲となるようにオゾン処理された被処理水は、配管404を通して凝集剤添加部500に送られる。その他の構成は、前記第1実施形態と同様であるから、その説明を省略する。
【0052】
この実施形態では、被処理水のpHに応じて、オゾン処理部400におけるオゾン注入量を制御することにより、オゾン処理部400におけるオゾンの分解によるラジカル発生量が良好に保たれるようにして、被処理水中の微細固形物の表面性状を効果的に改質し、凝集工程におけるフロックの形成を良好にして、膜ろ過工程における目詰まりを抑制し、膜ろ過部600の分離膜のメンテナンス間隔を長くして、メンテナンスの手間と時間と費用を軽減することができる。
【0053】
また、STEP11のpH値の取得は、例えば、オゾン処理部400と凝集剤添加部500とを連結する配管404(
図3の矢印Bの箇所)に設けたpH計によって測定された値を用いることもできる。
【0054】
(第3実施形態)
図5,6には、本発明の第3実施形態が示されている。なお、第1実施形態及び第2実施形態と実質的に同一部分には同符号を付して、その説明を省略することにする。
【0055】
この実施形態の水処理システム103は、
図5に示すように、pH調整部700と、オゾン処理部400の溶存オゾン濃度制御装置406とを備えている点が、前述した第1実施形態及び第2実施形態と異なっている。
【0056】
すなわち、生物処理部300とオゾン処理部400とを連結する配管302に、第1実施形態と同様なpH調整部700が設けられている。pH調整部700は、pH調整剤槽701と、配管703を通してpH調整剤を配管302を通る被処理水に添加するポンプ702と、配管302を通る被処理水のpHを測定するpH計704と、pH計704で測定されたpH値に基づいてポンプ702を制御し、pH調整剤の添加量を調整するpH制御装置705とを有している。
【0057】
また、オゾン処理部400には、溶存オゾン濃度制御装置406が設けられ、溶存オゾン濃度制御装置406は、pH計704で測定されたpH値に基づいて、オゾン発生器402によるオゾン発生量を制御し、オゾン接触塔401を通る被処理水へのオゾン注入量を制御するようになっている。
【0058】
pH制御装置705と溶存オゾン濃度制御装置406とにおける制御フローを
図6に基づいて説明する。まず、pH計704が、被処理水のpH値を測定し(STEP21)、溶存オゾン濃度制御装置406は測定されたpH値が所定の範囲にあるか否かを判断する(STEP22)。溶存オゾン濃度制御装置406はpH値が所定の範囲にある場合は、処理を終了する(エンド)。
【0059】
溶存オゾン濃度制御装置406は、上記pH値が所定の範囲にない場合は、予め求めて置いた、膜差圧上昇速度と、被処理水のpHと、被処理水の溶存オゾン濃度との関係から、被処理水のpH値に応じた、必要とされる溶存オゾン濃度を取得する。次に、溶存オゾン濃度制御装置406は、オゾン発生器402を作動させ、オゾンを注入する(STEP24)。その後、溶存オゾン濃度計405が溶存オゾン濃度を測定し(STEP25)、溶存オゾン濃度制御装置406は溶存オゾン濃度の測定値が、算出した溶存オゾン濃度の範囲にあるか否かを判断する(STEP26)。溶存オゾン濃度制御装置406は、溶存オゾン濃度の測定値が算出した溶存オゾン濃度の範囲にある場合は、処理を終了し(エンド)、算出した溶存オゾン濃度の範囲にない場合は、オゾン発生器402の出力から見て調整可能な上限値を超えているか否かを判断する(STEP27)。
【0060】
溶存オゾン濃度制御装置406は、オゾン注入量が調整可能な上限値を超えていない場合には、STEP24に戻り、再度オゾンを注入する。一方、溶存オゾン濃度制御装置406は、オゾン注入量が調整可能な上限値を超えている場合には、STEP25で測定した溶存オゾン濃度に見合ったpH値を算出する(STEP28)。この時、算出したpH値は、任意で定めた許容値を有するpH値の範囲と置き換えて判断してもよい。
【0061】
次に、STEP21で測定したpH値がSTEP28で算出したpH値であるか否かを判断する(STEP29)。pH制御装置705は、STEP21で測定したpH値が算出したpH値である場合には処理を終了し(エンド)、STEP21で測定したpH値が算出したpH値と異なる場合には、ポンプ702を作動させ、pH調整剤を、配管302を通る被処理水に添加する(STEP30)。その後、pH計704がpHを測定し(STEP31)、pH制御装置705は、STEP31で測定したpH値が算出したpH値であるか否かを判断する(STEP32)。pH制御装置705は、pH値が算出したpH値である場合は、STEP33に進み、ポンプ702を停止し(STEP33)、処理を終了し(エンド)、pH値が算出したpH値と異なる場合は、STEP30に戻り、再度pH調整剤を添加する。pH制御装置705は、STEP30、STEP31、STEP32の処理を繰り返すことにより、pH値を算出したpH値に調整する。
【0062】
こうして、算出した溶存オゾン濃度の範囲または算出したpH値となるようにオゾン処理された被処理水は、配管404を通して凝集剤添加部500に送られる。その他の構成は、前記第1実施形態及び第2実施形態と同様であるから、その説明を省略する。
【0063】
また、STEP21のpH値の取得は、例えば、オゾン処理部400と凝集剤添加部500とを連結する配管404(
図5の矢印Bの箇所)に設けたpH計によって測定された値を用いることもできる。
【0064】
この実施形態においては、被処理水のpHに応じて、オゾン処理後の被処理水の溶存オゾン濃度及び被処理水のpHを調整することにより、オゾン処理部400におけるオゾンの分解によるラジカル発生量が良好に保たれるようにして、被処理水中の微細固形物の表面性状を効果的に改質し、凝集工程におけるフロックの形成を良好にして、膜ろ過工程における目詰まりを抑制し、膜ろ過部600の分離膜のメンテナンス間隔を長くして、メンテナンスの手間と時間と費用を軽減することができる。
【0065】
なお、前記第1実施形態では、他の水処理部として、生物処理部300及びオゾン処理部400を設けた例を説明したが、同実施形態は、生物処理部300及びオゾン処理部400のいずれか1方が設けられているシステムにも適用することができる。
【0066】
ここでは、一例として、オゾン注入量の上限値を実際に出力できるオゾン注入量として示したが、任意のオゾン注入量に設定してもよい。また、被処理水のpH値を目標pH値に近づけた後に、オゾン注入量を設定してもよい。
【0067】
また、前記第2実施形態及び第3実施形態においても、他の水処理部として、生物処理部300及びオゾン処理部400を設けた例を説明したが、生物処理部300は、必ずしも必要ではない。
【実施例】
【0068】
次に、上記の実施の形態で説明した水処理システムについて実施した試験について説明する。
<試験例1>オゾン処理前pH調整によるろ過量の変化
(1)試験方法
下水処理場の最終沈殿池から採取したpH5.8の原水を被処理水として、下記の方法により、試験を行った。
(a)オゾン処理前にpHを調整する。すなわち、試料Aは原水そのまま(pHを5.8)で、BのpHを6.2、CのpHを6.7に調整する。
(b)オゾンを溶存オゾン濃度が0.3mg/Lとなるまで加える。
凝集剤(20mgPACl/L)を加え、ジャーテストを実施する。
(c)1分間静置する。
(d)ディスクフィルター(1μm、直径25mm)で上澄みをろ過して、ろ過量を測定する。
【0069】
(2)試験結果
試験結果を下記表1に示す。
【0070】
【0071】
上記表1の結果から初期pHを比較すると、pH5.8よりpH6.2の方が、ろ過量がUPすることがわかる。pH6.7とすると、よりろ過量がUPすることがわかる。
【0072】
<試験例2>凝集前pH調整によるろ過量の変化
(1)試験方法
試験例1と同じpH5.8の原水を被処理水として、下記の方法により、試験を行った。
(a)オゾンを溶存オゾン濃度が0.3mg/Lとなるまで加える。
(b)凝集前にpHを調整する。すなわち、試料Dはオゾン処理で自然に変化したpHのまま(pH6.2)で、試料Eは、pHを6.5に調整する。
(c)凝集剤(20mgPACl/L)を加え、ジャーテストを実施する。
(d)1分間静置する。
(e)ディスクフィルター(1μm、直径25mm)で上澄みをろ過して、ろ過量を測定する。
【0073】
(2)試験結果
試験結果を下記表2に示す。
【0074】
【0075】
上記表2の結果から、凝集前pHを比較すると、pH6.2よりpH6.5の方が、ろ過量がUPすることがわかる。
【0076】
また、試験例1(オゾン処理前pH調整によるろ過量の変化)と試験例2(凝集前pH調整によるろ過量の変化)の結果を踏まえると、オゾン処理前でも凝集前でも調整地点に関わらずpHを調整すると、ろ過量は上がることがわかる。ただし、オゾン処理前に調整した方が、その効果がより高まることがわかる。
【0077】
<試験例3>溶存オゾン濃度調整によるろ過量の変化
(1)試験方法
試験例1と同じpH5.8の原水を被処理水として、下記の方法により、試験を行った。
(a)算出した溶存オゾン濃度になるようオゾンを加え調整する。すなわち、試料Dはオゾン濃度:0.3mg/Lに調整し、試料Fは溶存オゾン濃度:0.5mg/Lに調整する。
(b)凝集剤(20mgPACl/L)を加え、ジャーテストを実施する。
(c)1分間静置する。
(d)ディスクフィルター(1μm、直径25mm)で上澄みをろ過して、ろ過量を測定する。
【0078】
(2)試験結果
試験結果を下記表3に示す。
【0079】
【0080】
上記表3の結果から、pHが低いとき、溶存オゾン濃度が0.3mg/Lから0.5mg/Lに増えると、ろ過量がUPすることがわかる。
【符号の説明】
【0081】
101,102,103 水処理システム
200 最終沈殿池
201 配管
202 pH計
300 生物処理部
301 生物膜ろ過槽
302 配管
400 オゾン処理部
401 オゾン接触塔
402 オゾン発生器
403 散気装置
404 配管
405 溶存オゾン濃度計
406 溶存オゾン濃度制御装置
500 凝集剤添加部
501 凝集槽
502 凝集剤貯留槽
503 ポンプ
504 配管
505 pH計
506 配管
600 膜ろ過部
601 配管
700 pH調整部
701 pH調整剤槽
702 ポンプ
703 配管
704 pH計
705 pH制御装置