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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-26
(45)【発行日】2024-12-04
(54)【発明の名称】極低温冷凍機
(51)【国際特許分類】
   F25B 9/00 20060101AFI20241127BHJP
   H10N 60/30 20230101ALI20241127BHJP
【FI】
F25B9/00 F
H10N60/30
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021021692
(22)【出願日】2021-02-15
(65)【公開番号】P2022124111
(43)【公開日】2022-08-25
【審査請求日】2024-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】出村 健太
【審査官】西山 真二
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-085220(JP,A)
【文献】特開2003-021413(JP,A)
【文献】特開2010-109187(JP,A)
【文献】特開2001-280724(JP,A)
【文献】特開平11-074572(JP,A)
【文献】特開2000-182821(JP,A)
【文献】特開2012-209381(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 9/00 - 9/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1冷却ステージと、
前記第1冷却ステージよりも低温に冷却される第2冷却ステージと、
前記第1冷却ステージと熱的に結合される第1伝熱端子部と、
前記第2冷却ステージと熱的に結合される第2伝熱端子部と、
結合位置と解除位置とを移動可能であり、前記結合位置にあるとき前記第1伝熱端子部と前記第2伝熱端子部の熱的な結合を媒介し、前記解除位置にあるとき前記第1伝熱端子部と前記第2伝熱端子部それぞれとの熱的な結合が解除される可動伝熱要素と、を備えることを特徴とする極低温冷凍機。
【請求項2】
前記可動伝熱要素は、その移動方向に沿って延在する側面を有し、
前記第1伝熱端子部および前記第2伝熱端子部の少なくとも一方は、前記可動伝熱要素が前記結合位置にあるとき前記可動伝熱要素の前記側面と接触し、前記可動伝熱要素が前記解除位置にあるとき前記可動伝熱要素の前記側面と非接触となる伝熱端子を有することを特徴とする請求項1に記載の極低温冷凍機。
【請求項3】
前記伝熱端子は、前記可動伝熱要素が前記結合位置にあるとき前記可動伝熱要素の前記側面に弾性的に押し付けられることを特徴とする請求項2に記載の極低温冷凍機。
【請求項4】
回転軸まわりに回転可能な操作部をさらに備え、
前記可動伝熱要素は、前記操作部を回転させるとき前記回転軸に沿って移動するように前記操作部と連結されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の極低温冷凍機。
【請求項5】
前記第1伝熱端子部と前記第2伝熱端子部の間に設けられ、前記可動伝熱要素が前記結合位置にあるとき開かれ、前記可動伝熱要素が前記解除位置にあるとき閉じるシャッターをさらに備えることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の極低温冷凍機。
【請求項6】
前記可動伝熱要素は、待機位置にも移動可能であり、前記待機位置にあるとき前記第1伝熱端子部と熱的に結合されるとともに前記第2伝熱端子部との熱的な結合が解除されることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の極低温冷凍機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極低温冷凍機、および極低温装置用の熱スイッチに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱スイッチを極低温冷凍機から超伝導コイルへの伝熱路に設けることが知られている。熱スイッチ作動用の加圧装置が、超伝導コイルを収容する真空容器の外部に設けられ、真空容器を貫通して熱スイッチの接点へと延びている。加圧装置からの加圧により熱スイッチが閉じられ、それにより極低温冷凍機が超伝導コイルと熱接続される。加圧装置を解放することにより熱スイッチが開かれ、極低温冷凍機と超伝導コイルの熱接続が解除される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-209381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、極低温冷凍機を用いて超伝導コイルなどの被冷却物を冷却する上述のような極低温装置においては、その起動に際して被冷却物を室温から目標冷却温度に冷却する初期冷却が行われる。被冷却物の利用は初期冷却の完了後に可能となる。したがって、初期冷却の所要時間はなるべく短いことが望まれる。
【0005】
本発明のある態様の例示的な目的のひとつは、極低温装置の初期冷却時間を短縮することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様によると、極低温冷凍機は、第1冷却ステージと、第1冷却ステージよりも低温に冷却される第2冷却ステージと、第1冷却ステージと熱的に結合される第1伝熱端子部と、第2冷却ステージと熱的に結合される第2伝熱端子部と、結合位置と解除位置とを移動可能であり、結合位置にあるとき第1伝熱端子部と第2伝熱端子部の熱的な結合を媒介し、解除位置にあるとき第1伝熱端子部と第2伝熱端子部それぞれとの熱的な結合が解除される可動伝熱要素と、を備える。
【0007】
本発明のある態様によると、極低温冷凍機は、第1冷却ステージと、第1冷却ステージよりも低温に冷却される第2冷却ステージと、第1冷却ステージと熱的に結合される可動伝熱要素と、第2冷却ステージと熱的に結合される伝熱端子部と、を備える。可動伝熱要素は、結合位置と待機位置とを移動可能であり、その移動方向に沿って延在する側面を有し、結合位置にあるとき側面で伝熱端子部と熱的に結合され、待機位置にあるとき伝熱端子部との熱的な結合が解除される。
【0008】
本発明のある態様によると、極低温装置用の熱スイッチは、極低温装置の冷却側または被冷却側の一方に設置可能な第1伝熱端子部と、極低温装置の冷却側または被冷却側の他方に設置可能な第2伝熱端子部と、結合位置と解除位置とを移動可能であり、結合位置にあるとき第1伝熱端子部と第2伝熱端子部の熱的な結合を媒介し、解除位置にあるとき第1伝熱端子部と第2伝熱端子部それぞれとの熱的な結合が解除される可動伝熱要素と、を備える。
【0009】
本発明のある態様によると、極低温装置用の熱スイッチは、極低温装置の冷却側または被冷却側の一方に設置可能な第1伝熱端子部と、極低温装置の冷却側または被冷却側の他方に設置可能な第2伝熱端子部と、結合位置と解除位置とを移動可能であり、結合位置にあるとき第1伝熱端子部と第2伝熱端子部を互いに熱的に結合させ、解除位置にあるとき第1伝熱端子部と第2伝熱端子部との熱的な結合を解除させる可動要素と、を備えること。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、極低温装置の初期冷却時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態に係る極低温装置を模式的に示す図である。
図2】実施の形態に係る熱スイッチを模式的に示す斜視図である。
図3】実施の形態に係る熱スイッチを模式的に示す一部切り欠き斜視図である。
図4】実施の形態に係る熱スイッチのオフ状態を模式的に示す。
図5】実施の形態に係る熱スイッチのオン状態を模式的に示す。
図6】実施の形態に係る熱スイッチの可動伝熱要素を模式的に示す斜視図である。
図7】実施の形態に係る熱スイッチの可動伝熱要素と操作部の縦断面の一部を模式的に示す部分断面図である。
図8】伝熱端子の一例を示す斜視図である。
図9】端子支持部材の一例を示す斜視図である。
図10】比較例に係る熱スイッチを示す概略図である。
図11】実施の形態に係る熱スイッチの待機状態を模式的に示す。
図12図12(a)および図12(b)は、他の実施の形態に係る熱スイッチを模式的に示す図である。
図13図13(a)および図13(b)は、更なる他の実施の形態に係る熱スイッチを模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。説明および図面において同一または同等の構成要素、部材、処理には同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。図示される各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。実施の形態は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0013】
図1は、実施の形態に係る極低温装置を模式的に示す図である。図2は、実施の形態に係る熱スイッチを模式的に示す斜視図であり、図3は、その一部切り欠き斜視図である。図3には、図2に示される熱スイッチの縦断面が示される。図4は、実施の形態に係る熱スイッチのオフ状態を模式的に示し、図5は、実施の形態に係る熱スイッチのオン状態を模式的に示す。
【0014】
極低温装置10は、被冷却物12と、被冷却物12を冷却する極低温冷凍機20と、極低温冷凍機20が設置され、被冷却物12を収容する真空容器30とを備える。
【0015】
この実施の形態では、極低温装置10は、超伝導磁石装置であり、被冷却物12は、超伝導コイルである。超伝導磁石装置は、例えば単結晶引き上げ装置、NMRシステム、MRIシステム、サイクロトロンなどの加速器、核融合システムなどの高エネルギー物理システム、またはその他の高磁場利用機器(図示せず)の磁場源として高磁場利用機器に搭載され、その機器に必要とされる高磁場を発生させることができる。なお、極低温装置10は、極低温環境を利用する様々な装置であってもよく、被冷却物12は、極低温環境で使用する例えばセンサなど様々な機器、さらにはこうした機器を冷却する例えばヘリウムなどの極低温冷媒であってもよい。
【0016】
極低温冷凍機20は、冷媒ガス(たとえばヘリウムガス)の圧縮機(図示せず)と、コールドヘッドとも呼ばれる膨張機とを備え、圧縮機と膨張機により極低温冷凍機20の冷凍サイクルが構成され、それにより極低温冷却を提供する。極低温冷凍機20は、一例として、二段式のギフォード・マクマホン(Gifford-McMahon;GM)冷凍機である。極低温冷凍機20は、極低温に冷却される低温部として、第1冷却ステージ22aと第2冷却ステージ22bを備える。これら冷却ステージは、真空容器30の中に配置される。第1冷却ステージ22aおよび第2冷却ステージ22bは、例えば、銅などの金属材料またはその他の高い熱伝導率をもつ材料で形成される。極低温冷凍機20の運転中、第1冷却ステージ22aは、第1冷却温度、例えば30K~80Kに冷却され、第2冷却ステージ22bは、第1冷却温度よりも低い第2冷却温度、例えば3K~20Kに冷却される。
【0017】
また、極低温冷凍機20は、第1シリンダ24aと、第2シリンダ24bと、駆動部26とを備える。第1シリンダ24aは、駆動部26を第1冷却ステージ22aに接続し、第2シリンダ24bは、第1冷却ステージ22aを第2冷却ステージ22bに接続する。第1冷却ステージ22a、第2冷却ステージ22b、第1シリンダ24a、第2シリンダ24bが真空容器30の開口部から真空容器30内に挿入され、この開口部に駆動部26が取り付けられることによって、極低温冷凍機20が真空容器30に設置される。図示の例では、極低温冷凍機20は、駆動部26を上方に、低温部を下方に向けて、縦向きに真空容器30に設置されているが、他の向きで設置されることも可能である。
【0018】
第1シリンダ24aと第2シリンダ24bは、一例として、円筒形状を有する部材であり、第2シリンダ24bが第1シリンダ24aよりも小径である。第1シリンダ24aと第2シリンダ24bは同軸に配置され、第1シリンダ24aの下端が第2シリンダ24bの上端に剛に連結されている。極低温冷凍機20がGM冷凍機である場合、第1シリンダ24aと第2シリンダ24bにはそれぞれ、蓄冷材を内蔵した第1ディスプレーサと第2ディスプレーサが収容されている。第1ディスプレーサと第2ディスプレーサは互いに連結され、それぞれ第1シリンダ24aと第2シリンダ24bに沿って往復動可能である。
【0019】
駆動部26は、モータと、モータの出力する回転運動を第1ディスプレーサと第2ディスプレーサの往復動に変換するようにモータをこれらディスプレーサに連結する連結機構とを備える。また、駆動部26は、第1シリンダ24aと第2シリンダ24bの内部の圧力を高圧と低圧に周期的に切り替える圧力切替弁を備え、この圧力切替弁も同じモータによって駆動される。
【0020】
なお、図1では例として、1台の極低温冷凍機20を示しているが、例えば被冷却物12が大型の場合など、必要に応じて、極低温装置10は、一つの同じ被冷却物を冷却する複数台の極低温冷凍機20を備えてもよい。また、極低温冷凍機20は、パルス管冷凍機、スターリング冷凍機、またはそのほかのタイプの極低温冷凍機であってもよい。
【0021】
真空容器30は、真空領域32を外部環境14から隔てるように構成される。真空容器30は、例えばクライオスタットであってもよい。真空領域32は、真空容器30内に定められ、外部環境14は、大気領域であってもよい。被冷却物12と極低温冷凍機20の低温部は、真空領域32に配置され、外部環境14から真空断熱される。断熱性能を高めるために、真空領域32を外部環境14から隔てる真空容器30の壁部材の表面に沿って、または壁部材の内部に、断熱材料が設けられていてもよい。
【0022】
真空領域32には、極低温冷凍機20の低温部および被冷却物12とともに、輻射熱シールド40が配置される。輻射熱シールド40は、第1冷却ステージ22aと熱的に結合され第1冷却温度に冷却される。輻射熱シールド40は、第1冷却ステージ22aに直接取り付けられ、第1冷却ステージ22aと熱的に結合される。あるいは、輻射熱シールド40は、可撓性または剛性をもつ伝熱部材を介して第1冷却ステージ22aに取り付けられてもよい。輻射熱シールド40は、例えば銅などの金属材料またはその他の高い熱伝導率をもつ材料で形成される。輻射熱シールド40は、第2冷却温度に冷却される被冷却物12、極低温冷凍機20の第2冷却ステージ22b、およびその他の低温部を囲むように配置され、外部からの輻射熱からこれら低温部を熱的に保護することができる。
【0023】
被冷却物12は、伝熱部材42を介して第2冷却ステージ22bと熱的に結合され第2冷却温度に冷却される。伝熱部材42は、可撓性または剛性をもつ伝熱部材であってもよく、例えば銅などの金属材料またはその他の高い熱伝導率をもつ材料で形成される。被冷却物12は、第2冷却ステージ22bに直接取り付けられてもよい。
【0024】
極低温冷凍機20は、熱スイッチ50を備える。熱スイッチ50は、第1冷却ステージ22aと熱的に結合される第1伝熱端子部51と、第2冷却ステージ22bと熱的に結合される第2伝熱端子部52とを備える。第1伝熱端子部51は、輻射熱シールド40に取り付けられ、輻射熱シールド40を介して第1冷却ステージ22aと熱的に結合される。第2伝熱端子部52は、伝熱部材42に取り付けられ、伝熱部材42を介して第2冷却ステージ22bと熱的に結合される。第1伝熱端子部51と第2伝熱端子部52は、離間配置され、互いに接触していない。
【0025】
なお第1伝熱端子部51は、輻射熱シールド40とは別の伝熱部材に取り付けられ、この伝熱部材を介して第1冷却ステージ22aと熱的に結合されてもよい。第2伝熱端子部52は、伝熱部材42とは別の伝熱部材に取り付けられ、この伝熱部材を介して第2冷却ステージ22bと熱的に結合されてもよい。
【0026】
また、熱スイッチ50は、可動伝熱要素54と、操作部56とを備える。可動伝熱要素54は、結合位置と解除位置とを移動可能であり、結合位置にあるとき第1伝熱端子部51と第2伝熱端子部52の熱的な結合を媒介し、解除位置にあるとき第1伝熱端子部51と第2伝熱端子部52それぞれとの熱的な結合が解除される。つまり、可動伝熱要素54が結合位置にあるとき熱スイッチ50がオンとされ、可動伝熱要素54が解除位置にあるとき熱スイッチ50がオフとされる。操作部56は、真空容器30の外から熱スイッチ50のオンオフ切替を可能とする。操作部56への操作により、可動伝熱要素54が、解除位置から結合位置へと、または結合位置から解除位置へと移動され、熱スイッチ50がオンオフされる。図1には、解除位置にある可動伝熱要素54が実線により示され、理解のために、結合位置にある可動伝熱要素54が破線で図示される。
【0027】
図6は、実施の形態に係る熱スイッチ50の可動伝熱要素54を模式的に示す斜視図である。図7は、実施の形態に係る熱スイッチ50の可動伝熱要素54と操作部56の縦断面の一部を模式的に示す部分断面図である。
【0028】
図2図6図7を参照すると、可動伝熱要素54は、中空の円筒形状を有し、例えば銅などの金属材料またはその他の高い熱伝導率をもつ材料で形成される。可動伝熱要素54の中心軸の方向が可動伝熱要素54の移動方向にあたる。可動伝熱要素54は、その移動方向に沿って延在する側面54aを有する。この側面54aは、可動伝熱要素54の円筒形状の外周面にあたる。後述するように、可動伝熱要素54が結合位置にあるとき、側面54aが第1伝熱端子部51と第2伝熱端子部52のそれぞれと接触し、それにより、可動伝熱要素54は、第1伝熱端子部51と第2伝熱端子部52の熱的な結合を媒介する。可動伝熱要素54の内周面には、ねじ溝54bが形成されている。また、図示されるように、可動伝熱要素54は、軸方向に全長にわたるスリット54cを側面54aに有する。
【0029】
可動伝熱要素54の先端には、第1伝熱端子部51および第2伝熱端子部52への可動伝熱要素54の挿入を容易にするためのテーパー面54dが形成されてもよい。
【0030】
この実施の形態では、操作部56は、可動伝熱要素54の中心軸まわりに回転可能であり、可動伝熱要素54は、操作部56を回転させるとき中心軸に沿って移動するように操作部56と連結されている。
【0031】
操作部56は、回転軸56aを有する。回転軸56aは、軸まわりに回転可能に真空容器30に支持されている。回転軸56aは、例えばステンレス鋼などの金属材料で形成されてもよく、または合成樹脂材料など断熱材料で形成されてもよい。回転軸56aは、真空容器30の外から中へと真空容器30の壁部を貫通して設けられ、真空容器30の外から回転軸56aを操作して回転させることができる。
【0032】
気密性を保持するために、回転軸シール56bが、回転軸56aが貫通する真空容器30の部位に設けられている。回転軸シール56bは、例えばウイルソンシールなど汎用のシール部材であってもよい。回転軸シール56bを用いることにより、真空容器30外に大きく突出する構造を無くすことができる。
【0033】
真空容器30内で回転軸56aの先端には、可動伝熱要素54のねじ溝54bと係合するねじ部56cが設けられている。回転軸56aが軸まわりに回転するとき、ねじ部56cは、回転軸56aと一体に軸まわりに回転する。これらねじ溝54bとねじ部56cは、回転軸56aの回転を可動伝熱要素54の軸方向直線移動に変換する運動変換部として設けられている。
【0034】
また、操作部56は、回転規制部材56dを有する。回転規制部材56dは、回転軸56aに近接してこれと平行に延在し、先端部が可動伝熱要素54のスリット54cに差し込まれている。回転規制部材56dは、例えばステンレス鋼などの金属材料で形成されてもよく、または合成樹脂材料など断熱材料で形成されてもよい。可動伝熱要素54は、回転規制部材56dの先端部がスリット54cに差し込まれた状態で、結合位置と解除位置とを移動可能である。スリット54cに差し込まれた回転規制部材56dの先端部は、回転軸56aにはつながっていない。回転規制部材56dの反対側の端部は、回転軸シール56bの近傍で真空容器30に固定されている。
【0035】
よって、回転規制部材56dは、回転軸56aと可動伝熱要素54が軸まわりに共に回転するのを規制しつつ、可動伝熱要素54の軸方向移動を許容する。回転軸56aが軸まわりに回転するとき、可動伝熱要素54は、ねじ溝54bとねじ部56cの係合により回転規制部材56dに沿って軸方向に移動することができる。
【0036】
なお、可動伝熱要素54には、脱落防止構造54eが設けられてもよい。図示されるように、回転軸56aがねじ部56cよりも小径であってもよく、可動伝熱要素54の端部に径方向内向きの凸部が形成されてもよい。この凸部とねじ部56cの係合により、可動伝熱要素54が操作部56から脱落するのを防ぐことができる。
【0037】
再び図1から図5を参照すると、第1伝熱端子部51と第2伝熱端子部52はそれぞれ、可動伝熱要素54を挿入可能な形状を有し、可動伝熱要素54は、結合位置にあるとき第1伝熱端子部51と第2伝熱端子部52に挿入され、これら伝熱端子部と熱的に結合される。第1伝熱端子部51と第2伝熱端子部52は実質的に同様の構造を有するので、以下、代表として第1伝熱端子部51について説明する。
【0038】
第1伝熱端子部51は、伝熱端子60を有する。伝熱端子60は、可動伝熱要素54が結合位置にあるとき可動伝熱要素54の側面54aと接触し、可動伝熱要素54が解除位置にあるとき可動伝熱要素54の側面54aと非接触となる。
【0039】
伝熱端子60は、中空の円筒形状を有し、例えば銅などの金属材料またはその他の高い熱伝導率をもつ材料で形成される。伝熱端子60は、可動伝熱要素54と同軸に配置される。伝熱端子60の内周面は、可動伝熱要素54が挿入される挿入口60aを定める。伝熱端子60の内周面は、挿入される可動伝熱要素54の受け入れを容易にするためのテーパー面を挿入口60aの入口に有してもよい。可動伝熱要素54が伝熱端子60の挿入口60aに挿入され結合位置にあるとき、可動伝熱要素54の側面54aが伝熱端子60の内周面と面接触し、可動伝熱要素54は、伝熱端子60と熱的に結合される。
【0040】
図8は、伝熱端子60の一例を示す斜視図である。伝熱端子60は、単一の円筒状部材を周方向に分割した複数の部材を円筒状に配置したものであってもよい。例えば、図示されるように、伝熱端子60は、8つの部材を円筒状に配置したものであってもよい。あるいは、伝熱端子60は、2つの半円筒状の部材を有してもよい。
【0041】
また、第1伝熱端子部51は、伝熱端子60を支持する端子支持部材62を備える。端子支持部材62は、中空の円筒形状を有し、例えばステンレス鋼などの金属材料で形成される。端子支持部材62は、伝熱端子60と同軸に(すなわち可動伝熱要素54と同軸に)配置される。端子支持部材62は、伝熱端子60よりも大径であり、端子支持部材62の内側に配置される。第1伝熱端子部51の場合、端子支持部材62は、その端部(例えば、可動伝熱要素54が挿入される入口側とは反対側の端部)で、例えば輻射熱シールド40などの伝熱部材に固定されている。第2伝熱端子部52の場合、端子支持部材62は、伝熱部材42に固定される。
【0042】
伝熱端子60は、軸方向および周方向の変位が拘束された状態で端子支持部材62に対して径方向に変位可能となるように、端子支持部材62に弾性的に支持される。具体的には、伝熱端子60は、複数の弾性部材64により端子支持部材62に弾性的に支持される。伝熱端子60の外周面と端子支持部材62の内周面の間には径方向隙間があり、この径方向隙間に弾性部材64が配置される。各弾性部材64は、伝熱端子60の外周面と端子支持部材62の内周面を接続し、端子支持部材62に対して伝熱端子60を径方向に弾性的に付勢する。弾性部材64は、例えばコイルばねなどのばね部材、またはその他の弾性部材であってもよい。
【0043】
また、端子支持部材62に対して伝熱端子60の軸方向および周方向の変位を拘束する拘束部が設けられている。一例として、この拘束部は、複数の支持ピン66を有する。複数の支持ピン66は、軸方向および周方向に等間隔に配置されてもよい。支持ピン66ごとに弾性部材64が設けられてもよい。
【0044】
図9は、端子支持部材62の一例を示す斜視図である。端子支持部材62には、複数のピン穴62aが端子支持部材62を径方向に貫通して設けられている。各支持ピン66が対応するピン穴62aに挿通され、図4および図5に示されるように、支持ピン66の先端が伝熱端子60に固定される。例えば、支持ピン66の先端がねじであってもよく、伝熱端子60の外周面に対応するねじ穴60bが形成され(図8参照)、支持ピン66が伝熱端子60にねじ止めされてもよい。
【0045】
したがって、伝熱端子60は、端子支持部材62によって弾性部材64を介して弾性的に支持されながら、端子支持部材62に対して支持ピン66に沿って径方向に変位しうる。このとき、支持ピン66は、端子支持部材62に対する伝熱端子60の軸方向および周方向の変位を拘束する。
【0046】
伝熱端子60は、柔軟伝熱部材68を介して伝熱部材と接続され熱的に結合される。柔軟伝熱部材68は、可撓性をもつように例えば細線の束または箔の積層として形成されてもよく、銅などの高熱伝導材料で形成されてもよい。第1伝熱端子部51の場合、伝熱端子60は、柔軟伝熱部材68を介して輻射熱シールド40に接続されてもよい。第2伝熱端子部52の場合、伝熱端子60は、柔軟伝熱部材68を介して伝熱部材42と接続されてもよい。
【0047】
柔軟伝熱部材68は、図示されるように、伝熱端子60の端部に接続されてもよい。端子支持部材62には、柔軟伝熱部材68との干渉を避けるために、柔軟伝熱部材68を通すための切り欠き62bが設けられていてもよい(図9参照)。
【0048】
次に、図4図5を参照して、熱スイッチ50のオンオフ切替動作を説明する。まず、図4に示されるように、熱スイッチ50がオフのとき、可動伝熱要素54は解除位置にあり、第1伝熱端子部51および第2伝熱端子部52から離れている。可動伝熱要素54は、第1伝熱端子部51と真空容器30の間に配置され、操作部56に保持されている(図1参照)。第1伝熱端子部51および第2伝熱端子部52それぞれの伝熱端子60は、弾性部材64によって径方向内向きに押し出された位置にある。このとき、伝熱端子60の挿入口60aの径D1は、可動伝熱要素54の外径D2に比べて若干小さくなっている。
【0049】
作業者は、真空容器30の外から操作部56を操作する。作業者は、手動により、または適宜の電動機器を用いて、回転軸56aを軸まわりに回転させる。回転軸56aが軸まわりに回転するとき、可動伝熱要素54は、上述のように、ねじ溝54bとねじ部56cの係合により回転規制部材56dに沿って軸方向に移動し(図7参照)、第1伝熱端子部51および第2伝熱端子部52に向かう。可動伝熱要素54は、まず第1伝熱端子部51の伝熱端子60の挿入口60aに挿入され、さらに軸方向に移動して、第2伝熱端子部52の伝熱端子60の挿入口60aに挿入される。このようにして、可動伝熱要素54は、解除位置から結合位置に移動され、熱スイッチ50は、オフからオンに切り替えられる。
【0050】
図5に示されるように、熱スイッチ50がオンのとき、可動伝熱要素54の側面54aが第1伝熱端子部51の伝熱端子60の内周面と面接触する。このとき、可動伝熱要素54は、伝熱端子60を径方向外向きに端子支持部材62に向かって押し込むとともに、弾性部材64を圧縮させる。したがって、伝熱端子60は、可動伝熱要素54が結合位置にあるとき可動伝熱要素54の側面54aに弾性的に押し付けられる。
【0051】
こうして、可動伝熱要素54は、伝熱端子60、柔軟伝熱部材68、輻射熱シールド40を介して、第1冷却ステージ22aと熱的に結合されることになる。同様にして、可動伝熱要素54は、第2伝熱端子部52の伝熱端子60、柔軟伝熱部材68、伝熱部材42を介して、第2冷却ステージ22bと熱的に結合されることになる。このようにして、可動伝熱要素54は、結合位置にあるとき、第1伝熱端子部51と第2伝熱端子部52の熱的な結合を媒介する。それにより、熱スイッチ50は、第1冷却ステージ22aと第2冷却ステージ22bを熱的に結合する。
【0052】
逆に、回転軸56aを軸まわりに反対方向に回転させることにより、可動伝熱要素54が第1伝熱端子部51および第2伝熱端子部52から引き抜かれ、第1伝熱端子部51および第2伝熱端子部52から離れる。このようにして、可動伝熱要素54は、結合位置から解除位置に移動され、熱スイッチ50は、オンからオフに切り替えられる。第1冷却ステージ22aと第2冷却ステージ22bの熱的な結合は解除される。
【0053】
また、図4および図5に示されるように、熱スイッチ50には、シャッター70が設けられてもよい。シャッター70は、第1伝熱端子部51と第2伝熱端子部52の間に設けられ、可動伝熱要素54が結合位置にあるとき開かれ、可動伝熱要素54が解除位置にあるとき閉じる。シャッター70は、図示しないばねまたは弾性部材を介して輻射熱シールド40または第1伝熱端子部51に連結され、この弾性部材により閉鎖されるように付勢されていてもよい。可動伝熱要素54がシャッター70に突き当たるとき、可動伝熱要素54によりシャッター70が押し広げられて外側にスライドすることによって、シャッター70が開かれてもよい。可動伝熱要素54の軸方向移動に伴うシャッター70の外側へのスライドを容易にするために、シャッター70の先端には、可動伝熱要素54の先端が突き当たるテーパー面70aが設けられていてもよい。
【0054】
シャッター70を設けることにより、熱スイッチ50がオフのとき、可動伝熱要素54から第1伝熱端子部51の挿入口60aを通じて第2伝熱端子部52へと入射しうる輻射熱を遮蔽することができる。
【0055】
図示の例では、シャッター70は、輻射熱シールド40または第1伝熱端子部51に設置され、第1伝熱端子部51の挿入口60aの出口側に配置されている。これに代えて、シャッター70は、伝熱部材42または第2伝熱端子部52に設置され、第2伝熱端子部52の挿入口60aの入口側に配置されてもよい。
【0056】
第1冷却ステージ22aと第2冷却ステージ22bを熱スイッチ50を介して熱的に結合することは、極低温装置10の起動時における初期冷却に有利である。初期冷却では、極低温冷凍機20が周囲温度(例えば室温)から目標の極低温まで冷却される。一般的に、極低温冷凍機20の第1冷却ステージ22aでの冷凍能力は第2冷却ステージ22bでの冷凍能力よりも大きい。第2冷却ステージ22bが周囲温度のような高温にあるときは第2冷却ステージ22bの冷却の補助に第1冷却ステージ22aの冷凍能力を利用することによって初期冷却の所要時間を短縮することができる。
【0057】
第2冷却ステージ22bが第1冷却温度まで冷却されたら、操作部56を操作することによって熱スイッチ50がオンからオフに切り替えられる。第2冷却ステージ22bは、第1冷却ステージ22aから切り離され、第2冷却温度へと冷却される。このようにして、極低温冷凍機20の初期冷却が完了すれば、極低温装置10の運転を開始することができる。
【0058】
可動伝熱要素54は、真空容器30の外に露出された部位を有する操作部56に連結されているから、操作部56を通じた外部環境14からの入熱により、極低温装置10の運転中、極低温冷凍機20の冷却ステージおよび被冷却物12に比べて高温となり得る。仮に、可動伝熱要素54が第1伝熱端子部51(または第2伝熱端子部52)と接触していた場合には、可動伝熱要素54から熱伝導により第1伝熱端子部51(または第2伝熱端子部52)へと熱が侵入し、さらには被冷却物12の極低温冷却に影響しうる。しかし、可動伝熱要素54が解除位置にあるとき、可動伝熱要素54は、第1伝熱端子部51と第2伝熱端子部52の両方から切り離されている。よって、極低温装置10の運転中、可動伝熱要素54からの熱伝導による被冷却物12への入熱を抑制することができる。
【0059】
図10は、比較例に係る熱スイッチ80を示す概略図である。この熱スイッチ80は、伝熱体81と伝熱板82で構成される。伝熱体81は伝熱板82に対して移動可能であり、伝熱体81と伝熱板82は互いに対向する表面を有する。伝熱体81が伝熱板82に接近し、それら二表面が瞬間的に接触し、熱スイッチ80はオンとなる。伝熱体81と伝熱板82が接触する界面は、伝熱体81の相対移動方向83に直交する。伝熱体81と伝熱板82の間に働く接触面圧は、伝熱体81を伝熱板82に押し付けることによって発生し、この力の方向は相対移動方向83に一致する。
【0060】
比較例に係る熱スイッチ80の構成では、伝熱体81と伝熱板82の間の接触面圧ひいては熱抵抗は、押し付け力に密接に相関する。言い換えれば、伝熱体81と伝熱板82の間の熱抵抗は、押し付け力の僅かな変化により敏感に変動する。所望の熱抵抗を精度よく実現するためには、熱スイッチ80をオンにするたびに押し付け力を正確に調整する必要がある。しかし、これは必ずしも容易でない。加えて、熱抵抗を十分に小さくするには、接触面圧すなわち伝熱体81と伝熱板82を押し付け合う力をかなり大きくすることが求められ、そのため、機構的に大掛かりになりがちである。言い換えれば、比較例に係る熱スイッチ80は、熱スイッチをオンにするとき熱抵抗の再現性に欠け、なおかつ、実現される熱抵抗の低減には限界がある。
【0061】
したがって、比較例に係る熱スイッチ80では、接触面圧が不足し、熱抵抗が高くなり、伝熱体81と伝熱板82の間に温度差が生じやすい。そうすると、伝熱板82に接続された超電導コイルなどの被冷却物の冷却温度は、極低温冷凍機が実現しうる到達温度ほどには十分に下がらないかもしれない。被冷却物の冷却不良を避けるために、より大きな冷凍能力をもつ極低温冷凍機の採用や、追加の極低温冷凍機の増設を考慮しなければならないかもしれない。
【0062】
これに対して、実施の形態に係る熱スイッチ50によれば、可動伝熱要素54は、その移動方向に沿って延在する側面54aを有する。第1伝熱端子部51および第2伝熱端子部52にはそれぞれ、可動伝熱要素54が結合位置にあるとき可動伝熱要素54の側面54aと接触し、可動伝熱要素54が解除位置にあるとき可動伝熱要素54の側面54aと非接触となる伝熱端子60が設けられている。
【0063】
可動伝熱要素54の側面54aを利用することにより、比較例に比べて、第1伝熱端子部51および第2伝熱端子部52との接触面積をより広く確保し、熱スイッチ50の熱抵抗を低減することが容易となる。
【0064】
なお、実施の形態に係る熱スイッチ50を複数設置することによって、接触面積を広くし確保することも可能である。
【0065】
また、実施の形態に係る熱スイッチ50によれば、伝熱端子60は、可動伝熱要素54が結合位置にあるとき可動伝熱要素54の側面54aに弾性的に押し付けられる。可動伝熱要素54と第1伝熱端子部51および第2伝熱端子部52との間の接触面圧を弾性部材64の設計により決定することができるので、所望の熱抵抗の大きさを実現することが容易になる。
【0066】
ここで注目すべきは、接触面圧が相対移動の方向とは異なる方向、たとえば、おおむね直交する方向に生じることである。そのため、接触面圧および熱抵抗は、相対移動を生じさせる力の大きさから独立し、またはほとんど依存しない。可動伝熱要素54を挿脱することができる限り、移動方向の力は小さくて良い。そのため、操作部56は、簡素な構成を採用しうる。
【0067】
可動伝熱要素54と伝熱端子60の間に働く接触面圧すなわち熱抵抗は、主として、可動伝熱要素54と伝熱端子60の形状、寸法、材料など、これら伝熱部品の設計により直ちに決定されうる。比較例の熱スイッチ80のように、押し付け力など動的な因子は、熱抵抗の決定に全くまたは殆ど関与しない。したがって、実施の形態に係る熱スイッチ50を使用すれば、熱抵抗の管理がしやすく、再現性も高まる。
【0068】
熱スイッチ50は、冷却による熱収縮にも対処することができる。第1伝熱端子部51と第2伝熱端子部52がそれぞれ冷却されるとき、熱収縮により各々の中心軸が可動伝熱要素54に対してずれることが懸念される。しかしながら、伝熱端子60が弾性的に支持されているので、伝熱端子60に可動伝熱要素54が挿入されるとき、仮に軸ずれがあったとしてもこれを弾性的に吸収することができる。熱スイッチ50は、熱収縮や組立精度による可動伝熱要素54と伝熱端子部との間の軸ずれを自己調整することができる。
【0069】
さらに、実施の形態に係る熱スイッチ50では、操作部56は、回転軸56aまわりに回転可能であり、可動伝熱要素54は、操作部56を回転させるとき回転軸56aに沿って移動するように操作部56と連結されている。したがって、簡単な操作により極低温冷凍機20の1段部と2段部を熱的に脱着することができる。
【0070】
ところで、極低温装置10が超伝導磁石装置である場合、クエンチとも呼ばれる超伝導の消失への対策は重要である。クエンチが発生した場合には超伝導コイルに急激な温度上昇が起こりうる。場合によっては、超伝導コイルは、約4Kの第2冷却温度から、輻射熱シールド40の第1冷却温度を超える温度(例えば50K)にまでごく短時間で昇温されうる。
【0071】
実施の形態に係る極低温装置10および熱スイッチ50は、クエンチのような不測の事態による昇温から元の冷却状態への速やかな復帰にも利用可能である。すなわち、可動伝熱要素54を解除位置から結合位置に移動させることにより、第1冷却ステージ22aと第2冷却ステージ22bを熱スイッチ50を介して熱的に結合し、第1冷却ステージ22aの冷凍能力を利用して第2冷却ステージ22bおよび被冷却物12を再冷却することができる。
【0072】
また、より短い時間で第2冷却ステージ22bおよび被冷却物12を再冷却するために、可動伝熱要素54は、第1冷却ステージ22aと予め熱的に結合され、第1冷却温度に維持されていてもよい。あるいは、可動伝熱要素54が第1冷却ステージ22aと熱的に常時結合され、第1冷却温度に維持されていてもよい。このような実施の形態を図11図12(a)および図12(b)を参照して以下に説明する。
【0073】
結合位置と解除位置に加えて、可動伝熱要素54は、「待機位置」にも移動可能であってもよい。待機位置は、結合位置と解除位置の中間の位置にあたる。
【0074】
図11に示されるように、可動伝熱要素54は、待機位置にあるとき、可動伝熱要素54の側面54aで第1伝熱端子部51と熱的に結合され、第2伝熱端子部52との熱的な結合が解除される。また、可動伝熱要素54は、上述のように、結合位置にあるとき、可動伝熱要素54の側面54aで第1伝熱端子部51および第2伝熱端子部52と熱的に結合され(図5参照)、解除位置にあるとき、第1伝熱端子部51と第2伝熱端子部52の両方から離れる(図4参照)。
【0075】
操作部56への操作により、可動伝熱要素54は、待機位置から結合位置へと、または結合位置から待機位置へと移動される。同様に、操作部56への操作により、可動伝熱要素54は、待機位置から解除位置へと、または解除位置から待機位置へと移動される。
【0076】
極低温装置10の運転中(すなわち初期冷却の完了後)、可動伝熱要素54は、待機位置で待機する。その後、例えばクエンチのような不測の事態が発生し伝熱部材42が昇温された場合、可動伝熱要素54が待機位置から結合位置に移動され、輻射熱シールド40と伝熱部材42が熱スイッチ50を介して熱的に結合される。この場合、可動伝熱要素54が解除位置にあった場合とは異なり、可動伝熱要素54は待機位置で第1冷却温度に既に冷却されているから、可動伝熱要素54を常温から第1冷却温度まで冷却する時間が不要になる。そのため、第1冷却ステージ22aにより熱スイッチ50を介して第2冷却ステージ22bおよび被冷却物12を速やかに冷却し始めることができる。
【0077】
第2冷却ステージ22bおよび被冷却物12が第1冷却温度まで再冷却されたら、可動伝熱要素54は、図11に示される待機位置に再び戻される。あるいは、可動伝熱要素54は、図4に示される解除位置に移動されてもよい。第2冷却ステージ22bは、第1冷却ステージ22aから切り離され、第2冷却温度へと再冷却される。このようにして、第2冷却ステージ22bおよび被冷却物12の再冷却が完了すれば、極低温装置10の運転を再開することができる。
【0078】
図12(a)および図12(b)は、他の実施の形態に係る熱スイッチ50を模式的に示す図である。図12(a)には待機位置にある熱スイッチ50が示され、図12(b)には結合位置にある熱スイッチ50が示される。
【0079】
熱スイッチ50は、第1冷却ステージ22aと熱的に結合される可動伝熱要素54と、第2冷却ステージ22bと熱的に結合される第2伝熱端子部52と、を備える。この実施の形態では、第1伝熱端子部51は設けられず、第2伝熱端子部52のみが設けられる。
【0080】
上述の実施の形態と同様に、可動伝熱要素54は、その移動方向に沿って延在する側面54aを有する。可動伝熱要素54は、柔軟伝熱部材68を介して、輻射熱シールド40に、または第1冷却ステージ22aと熱的に結合されるその他の部位に接続される。可動伝熱要素54は、柔軟伝熱部材68を介して第1冷却ステージ22aに接続されてもよい。よって、可動伝熱要素54は、第1冷却ステージ22aと熱的に常時結合され、第1冷却温度に維持される。
【0081】
可動伝熱要素54は、結合位置と待機位置とを移動可能であり、結合位置にあるとき可動伝熱要素54の側面54aで第2伝熱端子部52と熱的に結合され、待機位置にあるとき第2伝熱端子部52との熱的な結合が解除される。熱スイッチ50は、操作部56を備え、操作部56への操作により、可動伝熱要素54が、待機位置から結合位置へと、または結合位置から待機位置へと移動され、熱スイッチ50がオンオフされる。
【0082】
熱スイッチ50には、シャッター70が設けられてもよい。シャッター70は、第2伝熱端子部52と待機位置にあるときの可動伝熱要素54との間に設けられている。シャッター70は、可動伝熱要素54が結合位置にあるとき開かれ、可動伝熱要素54が待機位置にあるとき閉じる。
【0083】
図12(a)および図12(b)に示される実施の形態によると、上述の実施の形態と同様に、初期冷却の際、可動伝熱要素54を結合位置に移動させ、第1冷却ステージ22aと第2冷却ステージ22bを熱スイッチ50を介して熱的に結合することができる。よって、第2冷却ステージ22bの冷却の補助に第1冷却ステージ22aの冷凍能力を利用することによって初期冷却の所要時間を短縮することができる。
【0084】
クエンチの発生により伝熱部材42が昇温された場合にも、可動伝熱要素54が待機位置から結合位置に移動され、第1冷却ステージ22aと第2冷却ステージ22bが熱スイッチ50を介して熱的に結合される。可動伝熱要素54は待機位置で第1冷却温度に冷却されているため、第1冷却ステージ22aにより熱スイッチ50を介して第2冷却ステージ22bおよび被冷却物12を速やかに冷却し始めることができる。第2冷却ステージ22bおよび被冷却物12が第1冷却温度まで再冷却されたら、可動伝熱要素54は再び待機位置に戻される。第2冷却ステージ22bは、第1冷却ステージ22aから切り離され、第2冷却温度へと再冷却される。
【0085】
図13(a)および図13(b)は、更なる他の実施の形態に係る熱スイッチ50を模式的に示す図である。図13(a)には解除位置にある熱スイッチ50が示され、図13(b)には結合位置にある熱スイッチ50が示される。
【0086】
第1伝熱端子部51は、第2伝熱端子部52の径方向内側に同軸に配置されている。熱スイッチ50が解除位置にあるとき、第1伝熱端子部51と第2伝熱端子部52が径方向に離間し、熱スイッチ50が結合位置にあるとき、第1伝熱端子部51と第2伝熱端子部52が互いに接触する。
【0087】
熱スイッチ50は、可動伝熱要素54に代えて、可動要素154を備える。可動要素154は、可動伝熱要素54と同じ形状および構造を有してもよい。よって、操作部56への操作により、可動要素154が、解除位置から結合位置へと、または結合位置から解除位置へと移動され、熱スイッチ50がオンオフされる。操作部56は、可動要素154の中心軸まわりに回転可能であり、可動伝熱要素54は、操作部56を回転させるとき中心軸に沿って移動するように操作部56と連結されている。可動伝熱要素54が銅などの高熱伝導材料で形成されるのに対し、可動要素154は、後述のように伝熱を担う必要が無いから、断熱材料またはそのほか適宜の材料で形成されてもよい。
【0088】
第1伝熱端子部51は、可動要素154を挿入可能な形状を有する伝熱端子60と、伝熱端子60を支持する端子支持部材62とを備える。伝熱端子60は、柔軟伝熱部材68により輻射熱シールド40に接続され、端子支持部材62は、輻射熱シールド40に固定されている。伝熱端子60と端子支持部材62の間には弾性部材64が介装され、それにより、伝熱端子60は、端子支持部材62に対して径方向に弾性的に移動可能である。弾性部材64は、熱スイッチ50を確実にオフとするためのものであり、軽荷重ばねで良い。弾性部材64は、輻射熱シールド40の熱収縮による第1伝熱端子部51の位置ずれを吸収することにも役立つ。端子支持部材62は、パイプ形状でも良い。
【0089】
第2伝熱端子部52は、上述の実施の形態と同様であり、伝熱端子60、端子支持部材62、弾性部材64、支持ピン66、柔軟伝熱部材68を備える。
【0090】
可動要素154は、結合位置と解除位置とを移動可能であり、その移動方向に沿って延在する側面154aを有する。この側面154aは、可動要素154の円筒形状の外周面にあたる。可動要素154は、解除位置から結合位置に移動されるとき、第1伝熱端子部51に挿入される。このとき、可動要素154は、側面154aで第1伝熱端子部51の伝熱端子60と接触し、伝熱端子60を径方向外側に押し広げる。それにより、第1伝熱端子部51の伝熱端子60が第2伝熱端子部52の伝熱端子60と接触する。このようにして、可動要素154は、結合位置にあるとき第1伝熱端子部51と第2伝熱端子部52を互いに熱的に結合させる。第1伝熱端子部51と第2伝熱端子部52は、可動要素154を介して熱的に結合されるのではなく、それぞれの伝熱端子60の接触により直に熱的に結合される。
【0091】
一方、可動要素154は、結合位置から解除位置に移動されるとき、第1伝熱端子部51から引き抜かれる。このとき、第1伝熱端子部51の伝熱端子60は、弾性部材64の弾性的な復元力により端子支持部材62に対して径方向内側に移動し初期位置に戻される。これにより、第1伝熱端子部51の伝熱端子60は、第2伝熱端子部52の伝熱端子60から離れる。こうして、可動要素154は、解除位置にあるとき第1伝熱端子部51と第2伝熱端子部52の熱的な結合を解除させる。
【0092】
図1から図10を参照して説明した上述の実施の形態では、第1伝熱端子部51と第2伝熱端子部52が軸方向(可動要素154の移動方向)に離間配置されているが、図13(a)および図13(b)に示される実施の形態では、第1伝熱端子部51と第2伝熱端子部52は、軸方向に同じ位置に配置することができる。これにより、コンパクトな熱スイッチ50を実現できる。
【0093】
また、図1から図10を参照して説明した上述の実施の形態では、熱接触の界面が2つあるが(可動伝熱要素54と第1伝熱端子部51の接触面、および可動伝熱要素54と第2伝熱端子部52の接触面)、図13(a)および図13(b)に示される実施の形態では、接触面が1つだけ(第1伝熱端子部51と第2伝熱端子部52の接触面のみ)となる。これは熱スイッチ50の伝熱効率の向上につながる。
【0094】
さらに、図13(a)および図13(b)に示される実施の形態では、初期冷却時間を短縮することができるだけでなく、クエンチ後の再冷却にも有利である。可動要素154は薄肉で軽量で良いため、熱容量を小さくすることができる。そのため、熱スイッチ50のオフのとき可動要素154が室温にあったとしても、熱スイッチ50をオンとしたときの可動要素154から低温部への入熱は小さく、再冷却への影響は少ない。
【0095】
熱スイッチ50には、シャッター70が設けられてもよい。熱スイッチ50が輻射熱シールド40の内側に設けられているため、シャッター70は、輻射熱シールド40の外側に設けられてもよい。シャッター70は、可動要素154が結合位置にあるとき開かれ、可動要素154が解除位置にあるとき閉じる。
【0096】
図13(a)および図13(b)に示される実施の形態では、第1伝熱端子部51が第1冷却ステージ22aと熱的に結合され、第2伝熱端子部52が第2冷却ステージ22bと熱的に結合されるが、これと逆の接続も可能である。つまり、第1伝熱端子部51が第2冷却ステージ22bと熱的に結合され、第2伝熱端子部52が第1冷却ステージ22aと熱的に結合されてもよい。この場合、第1伝熱端子部51の伝熱端子60が柔軟伝熱部材68により伝熱部材42に接続され、第2伝熱端子部52の伝熱端子60が柔軟伝熱部材68により輻射熱シールド40に接続されてもよい。
【0097】
以上、本発明を実施例にもとづいて説明した。本発明は上記実施形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。ある実施の形態に関連して説明した種々の特徴は、他の実施の形態にも適用可能である。組合せによって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態それぞれの効果をあわせもつ。
【0098】
上述の実施の形態では、可動伝熱要素54が解除位置にあるとき、可動伝熱要素54は、真空容器30と第1伝熱端子部51の間に収納されている。これに代えて、例えば、第1伝熱端子部51側の空きスペースが限られている場合には、可動伝熱要素54は、第2伝熱端子部52側に配置され、可動伝熱要素54が解除位置にあるとき、真空容器30と第2伝熱端子部52の間に収納されてもよい。
【0099】
上述の実施の形態では、第1伝熱端子部および第2伝熱端子部の両方が伝熱端子60を備えるが、一方の伝熱端子部(例えば第1伝熱端子部51)のみに伝熱端子60が設けられてもよい。この場合、他方の伝熱端子部(例えば第2伝熱端子部52)は、比較例に係る熱スイッチ80のように、可動伝熱要素54の先端が当該伝熱端子部に突き当てられることによって、可動伝熱要素54と熱的に結合されてもよい。
【0100】
ある実施の形態においては、熱スイッチ50は、極低温冷凍機20とは別個に設けられてもよい。極低温装置10用の熱スイッチ50は、極低温装置10の冷却側または被冷却側の一方に設置可能な第1伝熱端子部51と、極低温装置10の冷却側または被冷却側の他方に設置可能な第2伝熱端子部52と、結合位置と解除位置とを移動可能であり、結合位置にあるとき第1伝熱端子部51と第2伝熱端子部52の熱的な結合を媒介し、解除位置にあるとき第1伝熱端子部51と第2伝熱端子部52それぞれとの熱的な結合が解除される可動伝熱要素54と、を備えてもよい。
【0101】
実施の形態にもとづき、具体的な語句を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用の一側面を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0102】
10 極低温装置、 20 極低温冷凍機、 22a 第1冷却ステージ、 22b 第2冷却ステージ、 50 熱スイッチ、 51 第1伝熱端子部、 52 第2伝熱端子部、 54 可動伝熱要素、 54a 側面、 56 操作部、 56a 回転軸、 60 伝熱端子、 70 シャッター。
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