(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-26
(45)【発行日】2024-12-04
(54)【発明の名称】シミュレーション方法、シミュレーション装置、膜形成装置、物品の製造方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H01L 21/027 20060101AFI20241127BHJP
B29C 59/02 20060101ALI20241127BHJP
【FI】
H01L21/30 502D
B29C59/02 Z
(21)【出願番号】P 2021022043
(22)【出願日】2021-02-15
【審査請求日】2023-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 敬司
(72)【発明者】
【氏名】相原 泉太郎
(72)【発明者】
【氏名】大口 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】勝田 健
【審査官】田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-205413(JP,A)
【文献】特開2020-205416(JP,A)
【文献】特開2020-123719(JP,A)
【文献】特開2013-104751(JP,A)
【文献】特開2012-212833(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
B29C 59/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材の上に配置された硬化性組成物の複数の液滴と第2部材とを接触させ、前記第1部材と前記第2部材との間の空間に前記硬化性組成物の膜を形成する処理における前記硬化性組成物の液滴の挙動を予測するシミュレーション方法であって、
前記硬化性組成物の複数の液滴の
うち互いに隣接する液滴が接合することによって形成される閉領域に閉じ込められる気体のモル値を少なくとも含む気体情報を
、前記閉領域における前記気体の気体面積、前記第1部材と前記第2部材との間の距離、前記気体の気体定数及び温度から求める第1工程と、
前記第1工程で求められた前記気体情報を、当該気体情報に対応する液滴の状態を示す情報とともに表示する第2工程と、
を有することを特徴とするシミュレーション方法。
【請求項2】
前記第2工程では、前記第1工程で求められた前記気体情報を、当該気体情報を求めた前記閉領域の表示位置に表示することを特徴とする請求項1に記載のシミュレーション方法。
【請求項3】
前記気体情報は、前記閉領域に閉じ込められる気体の体積及び圧力の少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のシミュレーション方法。
【請求項4】
前記第2工程では、前記第1工程で求められた前記モル値の大きさを円の大きさで識別可能に表示することを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか1項に記載のシミュレーション方法。
【請求項5】
前記第2工程では、前記第1工程で求められた前記モル値の大きさを色で識別可能に表示することを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか1項に記載のシミュレーション方法。
【請求項6】
前記第2工程では、ユーザの指示に応じて、前記閉領域に前記気体が閉じ込められる時刻、及び、前記気体情報の経時変化のうち少なくとも一方を更に表示することを特徴とする請求項1乃至5のうちいずれか1項に記載のシミュレーション方法。
【請求項7】
前記第2工程では、前記第1部材に設けられているパターンに関する情報及び前記第2部材に設けられているパターンに関する情報の少なくとも一方を、前記第1工程で求められた前記気体情報、及び、当該気体情報に対応する液滴の状態を示す情報とともに表示することを特徴とする請求項1乃至6のうちいずれか1項に記載のシミュレーション方法。
【請求項8】
第1部材の上に配置された硬化性組成物の複数の液滴と第2部材とを接触させ、前記第1部材と前記第2部材との間の空間に前記硬化性組成物の膜を形成する処理における前記硬化性組成物の液滴の挙動を予測するシミュレーション装置であって、
前記硬化性組成物の複数の液滴の
うち互いに隣接する液滴が接合することによって形成される閉領域に閉じ込められる気体のモル値を少なくとも含む気体情報を
、前記閉領域における前記気体の気体面積、前記第1部材と前記第2部材との間の距離、前記気体の気体定数及び温度から求め、
前記気体情報を、当該気体情報に対応する液滴の状態を示す情報とともに表示する、
ことを特徴とするシミュレーション装置。
【請求項9】
請求項
8に記載のシミュレーション装置が組み込まれた膜形成装置であって、
第1部材の上に配置された硬化性組成物の複数の液滴と第2部材とを接触させ、前記第1部材と前記第2部材との間の空間に前記硬化性組成物の膜を形成する処理を、前記シミュレーション装置による前記硬化性組成物の挙動の予測に基づいて制御する、
ことを特徴とする膜形成装置。
【請求項10】
請求項1乃至
7のいずれか1項に記載のシミュレーション方法を繰り返しながら、第1部材の上に配置された硬化性組成物の複数の液滴と第2部材とを接触させ、前記第1部材と前記第2部材との間の空間に前記硬化性組成物の膜を形成する処理の条件を決定する工程と、
前記条件に従って前記処理を実行する工程と、
を含むことを特徴とする物品の製造方法。
【請求項11】
請求項1乃至
7のうちいずれか1項に記載のシミュレーション方法をコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シミュレーション方法、シミュレーション装置、膜形成装置、物品の製造方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子やMEMSなどの微細化の要求が進み、従来のフォトリソグラフィ技術に加えて、基板上のインプリント材(硬化性組成物)を型で成形し、インプリント材の組成物を基板上に形成する微細加工技術が注目されている。かかる微細加工技術は、インプリント技術とも呼ばれ、基板上に数ナノメートルオーダーの微細なパターン(構造体)を形成することができる。
【0003】
インプリント技術では、インプリント材の硬化法の1つとして光硬化法がある。光硬化法は、基板上に配置されたインプリント材と型とを接触させた状態で光を照射してインプリント材を硬化させ、硬化したインプリント材から型を引き離すことでインプリント材のパターンを基板上に形成する。
【0004】
このようなインプリント技術では、基板上には、インプリント材が液滴の状態で配置され、その後、インプリント材の液滴に型が押し付けられる。これにより、基板上のインプリント材の液滴が広がってインプリント材の膜が形成される。この際、厚さが均一なインプリント材の膜を形成することや膜に気泡が残存しないことなどが重要であり、これを実現するために、インプリント材の液滴の配置やインプリント材への型の押し付けの方法及び条件などが調整される。このような調整を、装置を用いた試行錯誤によって実現するためには、膨大な時間と費用とを必要とする。そこで、このような調整を支援するシミュレータの開発が望まれている。
【0005】
特許文献1には、気液二相流解析を用いて、パターン形成面に配置された複数の液滴の濡れ広がり及び合一(液滴の接合)を予測するシミュレーション方法、及び、それを利用した液滴配置パターンの生成方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
インプリント処理では、インプリント材の液滴間に閉じ込められた気泡(気体)が、型の押し付けを終えた時点でも消失せず、未充填欠陥となることがある。従って、インプリント材の液滴間に閉じ込められた気泡について把握することが必要である。特許文献1に開示された技術では、平面上の液滴の濡れ広がりのみで、高さを考慮していないため、インプリント材の液滴間に閉じ込められた気泡の体積や圧力などの物理量を把握することはできない。インプリント材の液滴間に閉じ込められた気泡の体積や圧力などの物理量は、かかる気泡の消失時間を把握するためには必須の情報である。
【0008】
本発明は、このような従来技術の課題に鑑みてなされ、硬化性組成物の膜を形成する処理における硬化性組成物の液滴の挙動を予測して液滴間に閉じ込められる気体を把握するのに有利な技術を提供することを例示的目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の一側面としてのシミュレーション方法は、第1部材の上に配置された硬化性組成物の複数の液滴と第2部材とを接触させ、前記第1部材と前記第2部材との間の空間に前記硬化性組成物の膜を形成する処理における前記硬化性組成物の液滴の挙動を予測するシミュレーション方法であって、前記硬化性組成物の複数の液滴のうち互いに隣接する液滴が接合することによって形成される閉領域に閉じ込められる気体のモル値を少なくとも含む気体情報を、前記閉領域における前記気体の気体面積、前記第1部材と前記第2部材との間の距離、前記気体の気体定数及び温度から求める第1工程と、前記第1工程で求められた前記気体情報を、当該気体情報に対応する液滴の状態を示す情報とともに表示する第2工程と、を有することを特徴とする。
【0010】
本発明の更なる目的又はその他の側面は、以下、添付図面を参照して説明される実施形態によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、例えば、硬化性組成物の膜を形成する処理における硬化性組成物の液滴の挙動を予測して液滴間に閉じ込められる気体を把握するのに有利な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態における膜形成装置及びシミュレーション装置の構成を示す概略図である。
【
図2】本発明の実施形態におけるシミュレーション方法を説明するためのフローチャートである。
【
図3】硬化性組成物の液滴要素の概念を示す図である。
【
図4】隣接する液滴要素が接合しているかどうかを判定する処理を説明するための図である。
【
図5】
図1に示すシミュレーション装置によって硬化性組成物の液滴の挙動を計算した一例を示す図である。
【
図6】18個の角度で定義された硬化性組成物の液滴要素を示す図である。
【
図7】ディスプレイに表示される画像の一例を示す図である。
【
図8】ディスプレイに表示される画像の一例を示す図である。
【
図9】閉領域に閉じ込められる気体の気体情報を算出する手法を説明するための図である。
【
図10】ディスプレイに表示される画像の一例を示す図である。
【
図11】ディスプレイに表示される画像の一例を示す図である。
【
図12】物品の製造方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。更に、添付図面においては、同一もしくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0014】
図1は、本発明の実施形態における膜形成装置1及びシミュレーション装置30の構成を示す概略図である。膜形成装置1は、基板10の上に配置された硬化性組成物9の複数の液滴と型7(原版、テンプレート)とを接触させ、基板10と型7との間の空間に硬化性組成物9の膜を形成する処理を実行する。膜形成装置1は、本実施形態では、インプリント装置として構成されているが、平坦化装置として構成されてもよい。ここで、基板10と型7とは相互に入れ替え可能であり、型7の上に配置された硬化性組成物9の複数の液滴と基板10とを接触させることで、型7と基板10との間の空間に硬化性組成物9の膜を形成してもよい。従って、包括的には、膜形成装置1は、第1部材の上に配置された硬化性組成物9の複数の液滴と第2部材とを接触させ、第1部材と第2部材との間の空間に硬化性組成物9の膜を形成する処理を実行する装置である。本実施形態では、第1部材を基板10とし、第2部材を型7として説明するが、第1部材を型7とし、第2部材を基板10としてもよい。この場合、以下の説明における基板10と型7とを相互に入れ替えればよい。
【0015】
インプリント装置として構成される膜形成装置1では、パターンを有する型7を用いて、基板10の上の硬化性組成物9に型7のパターンが転写される。膜形成装置1では、パターンが設けられたパターン領域7aを有する型7が用いられる。膜形成装置1は、インプリント処理として、基板10の上の硬化性組成物9と型7のパターン領域7aとを接触させ、基板10のパターンを形成すべき領域と型7との間の空間に硬化性組成物9を充填させ、その後、硬化性組成物9を硬化させる。これにより、基板10の上の硬化性組成物9に型7のパターン領域7aのパターンが転写される。膜形成装置1では、例えば、基板10の複数のショット領域のそれぞれに硬化性組成物9の硬化物からなるパターンが形成される。
【0016】
なお、平坦化装置では、平坦化処理として、平坦面を有する型を用いて、基板の上の硬化性組成物と型の平坦面とを接触させ、硬化性組成物を硬化させることによって、平坦な上面を有する膜が形成される。平坦化装置では、基板の全域をカバーする寸法(大きさ)を有する型が用いられる場合、基板の全域に硬化性組成物の硬化物からなる膜が形成される。
【0017】
硬化性組成物としては、硬化用のエネルギーが与えられることにより硬化する材料が使用される。硬化用のエネルギーとしては、電磁波や熱などが用いられる。電磁波は、例えば、その波長が10nm以上1mm以下の範囲から選択される光、具体的には、赤外線、可視光線、紫外線などを含む。このように、硬化性組成物は、光の照射、或いは、加熱により硬化する組成物である。
【0018】
光の照射により硬化する光硬化性組成物は、少なくとも重合性化合物と光重合開始剤とを含有し、必要に応じて、非重合性化合物又は溶剤を更に含有してもよい。非重合性化合物は、増感剤、水素供与体、内添型離型剤、界面活性剤、酸化防止剤、ポリマー成分などの群から選択される少なくとも一種である。
【0019】
光硬化性組成物は、液体噴射ヘッドによって、液滴状、或いは、複数の液滴が繋がって形成された島状又は膜状で基板上に付与されてもよい。硬化性組成物の粘度(25℃における粘度)は、例えば、1mPa・s以上100mPa・s以下である。
【0020】
基板の材料としては、例えば、ガラス、セラミックス、金属、半導体、樹脂などが用いられる。必要に応じて、基板の表面に、基板とは別の材料からなる部材が設けられてもよい。基板は、例えば、シリコンウエハ、化合物半導体ウエハ、石英ガラスを含む。
【0021】
本明細書及び添付図面では、基板10の表面に平行な方向をXY平面とするXYZ座標系で方向を示す。XYZ座標系におけるX軸、Y軸及びZ軸のそれぞれに平行な方向をX方向、Y方向及びZ方向とし、X軸周りの回転、Y軸周りの回転及びZ軸周りの回転のそれぞれをθX、θY及びθZとする。X軸、Y軸、Z軸に関する制御又は駆動は、それぞれ、X軸に平行な方向、Y軸に平行な方向、Z軸に平行な方向に関する制御又は駆動を意味する。また、θX軸、θY軸、θZ軸に関する制御又は駆動は、それぞれ、X軸に平行な軸の周りの回転、Y軸に平行な軸の周りの回転、Z軸に平行な軸の周りの回転に関する制御又は駆動を意味する。また、位置は、X軸、Y軸及びZ軸の座標に基づいて特定される情報であり、姿勢は、θX軸、θY軸及びθZ軸の値で特定される情報である。位置決めは、位置及び/又は姿勢を制御することを意味する。
【0022】
膜形成装置1は、本実施形態では、光の照射により硬化性組成物9を硬化させる光硬化法を採用するものとして説明する。膜形成装置1は、照射部2と、型保持部3と、基板保持部4と、供給部5と、制御部6と、アライメント計測部21とを有する。また、膜形成装置1は、基板保持部4を載置する基準平面を規定する定盤22と、型保持部3を固定するブリッジ定盤23と、床面からの振動を除去する除振器24と、除振器24を介してブリッジ定盤23を支持する支柱25とを有する。更に、膜形成装置1は、装置外部と型保持部3との間で型7を搬送する型搬送部(不図示)や装置外部と基板保持部4との間で基板10を搬送する基板搬送部なども有する。
【0023】
型保持部3は、真空吸着力や静電気力によって型7を引き付けて保持する型チャック11と、型チャック11を保持して型7(型チャック11)を駆動する型駆動機構12とを含む。型チャック11及び型駆動機構12は、照射部2からの光が基板10の上の硬化性組成物9に照射されるように、中心部(内側)に開口を有する。型駆動機構12は、基板10の上の硬化性組成物9への型7の押し付け(押印)、又は、基板10の上の硬化性組成物9からの型7の引き離し(離型)を選択的に行うように、型7をZ方向に駆動する。型駆動機構12に適用可能なアクチュエータは、例えば、リニアモータやエアシリンダを含む。型駆動機構12は、型7を高精度に位置決めするために、粗動駆動系や微動駆動系などの複数の駆動系から構成されていてもよい。また、型駆動機構12は、Z方向だけではなく、X方向やY方向に型7を駆動可能に構成されていてもよい。更に、型駆動機構12は、型7のθ(Z軸周りの回転)方向の位置や型7の傾きを調整するためのチルト機能を有するように構成されていてもよい。
【0024】
型7は、矩形の外周形状を有し、基板10に対向する面に3次元状に形成されたパターン(回路パターンなどの基板10に転写すべき凹凸パターン)を含むパターン領域7aを有する。型7は、光を透過させることが可能な材料、例えば、石英で構成される。また、型7は、光が照射される面に、平面形状が円形で、且つ、ある程度の深さのキャビティを有する場合もある。
【0025】
照射部2は、インプリント処理において、型7を介して、基板10の上の硬化性組成物9に光(例えば、紫外線)を照射する。照射部2は、光源(不図示)と、光源からの光をインプリント処理に適切な状態(光の強度分布や照射領域など)に調整するための光学系13(レンズ、ミラー、遮光板など)とを含む。本実施例では、光硬化法を採用しているため、膜形成装置1は、照射部2を有している。但し、熱硬化法を採用する場合には、膜形成装置1は、照射部2に代えて、熱硬化性の組成物を硬化させるための熱源を有する。
【0026】
基板保持部4は、真空吸着力や静電気力によって基板10を引き付けて保持する基板チャック14と、基板チャック14を保持して基板10(基板チャック14)を駆動する基板駆動機構16と、補助部材15とを含む。なお、基板チャック14及び基板駆動機構16によって、XY面内で駆動可能な基板ステージが構成される。
【0027】
補助部材15は、基板チャック14に保持された基板10を取り囲むように、基板チャック14の周囲に配置されている。また、補助部材15は、補助部材15の上面と基板チャック14に保持された基板10の上面とがほぼ同じ高さになるように、基板駆動機構16に配置されている。例えば、補助部材15の上面と基板チャック14に保持された基板10の上面との高さの差は1mm以下、好ましくは、0.1mm以下であるとよい。
【0028】
型7のパターン領域7aを基板10の上の硬化性組成物9に押し付ける際に基板保持部4の位置を調整することで、型7の位置と基板10の位置とを互いに整合させる(位置合わせする)。基板駆動機構16に適用可能なアクチュエータは、例えば、リニアモータやエアシリンダを含む。基板駆動機構16は、X方向やY方向だけではなく、Z方向に基板10を駆動可能に構成されていてもよい。また、基板駆動機構16は、基板10のθ(Z軸周りの回転)方向の位置や基板10の傾きを調整するためのチルト機能を有するように構成されていてもよい。
【0029】
本実施形態において、型7の押印及び離型は、型7をZ方向に駆動することで実現する。但し、型7の押印及び離型は、基板10をZ方向に駆動することで実現してもよいし、型7及び基板10の双方を相対的にZ方向に駆動することで実現してもよい。
【0030】
基板保持部4は、その側面に、その側面に、X、Y、Z、ωx、ωy、ωzの各方向に対応した複数の参照ミラー17を有する。また、複数の参照ミラー17のそれぞれに対してヘリウムネオンなどのレーザ光を照射して基板保持部4の位置を計測する複数のレーザ干渉計18が配置されている。なお、
図1では、参照ミラー17とレーザ干渉計18との1つの組のみを図示している。レーザ干渉計18は、例えば、基板保持部4の位置を実時間で計測する。レーザ干渉計18の計測結果に基づいて、基板10(基板保持部4)の位置決めが行われる。なお、レーザ干渉計18に代えて、エンコーダを用いて基板保持部4の位置を計測してもよい。
【0031】
供給部5は、型保持部3の近傍に設けられ、基板10の上(のショット領域)に硬化性組成物9の液滴を配置(供給)する機能を有する。供給部5は、本実施形態では、インクジェット方式を採用し、未硬化の硬化性組成物9を収容する容器19と、容器19に収容されている硬化性組成物9を液滴として吐出する吐出部20とを含む。
【0032】
容器19は、その内部を、硬化性組成物9の硬化反応を起こさない雰囲気、例えば、酸素を含む雰囲気とし、硬化性組成物9を管理可能とする。また、容器19は、硬化性組成物9にパーティクルや化学的な不純物を混入させないような材質で構成されている。
【0033】
吐出部20は、例えば、複数の吐出口を含むピエゾタイプの吐出機構(インクジェットヘッド)を含む。吐出部20から吐出される硬化性組成物9の量(吐出量)は、0.1~10pL/滴の範囲で調整可能であり、通常、約1pL/滴とすることが多い。なお、硬化性組成物9の全供給量は、型7のパターンの密度や残膜厚に応じて決定される。
【0034】
アライメント計測部21は、基板10に設けられているアライメントマークを検出して基板10の位置を計測する。
【0035】
制御部6は、CPUやメモリなどを含むコンピュータで構成され、記憶部に記憶されたプログラムに従って膜形成装置1の各部を統括的に制御して膜形成装置1を動作させる。例えば、制御部6は、型7を用いて基板上に硬化性組成物9のインプリント材のパターンを形成するインプリント処理を制御する。制御部6は、膜形成装置1の他の部分と一体で(共通の筐体内に)構成してもよいし、膜形成装置1の他の部分とは別体で(別の筐体内に)構成してもよい。
【0036】
ここで、膜形成装置1によるインプリント処理について説明する。インプリント処理では、まず、供給部5を用いて、基板上の硬化性組成物9を配置する(供給工程)。次いで、型駆動機構12を用いて、基板上の硬化性組成物9と型7とを接触させ、基板上の硬化性組成物9に型7のパターン領域7aを押し付ける(押印工程(接触工程))。次に、基板上の硬化性組成物9と型7とを接触させた状態で、照射部2から型7を介して硬化性組成物9に光を照射し、基板上の硬化性組成物9を硬化させる(硬化工程)。そして、型駆動機構12を用いて、基板上の硬化した硬化性組成物9から型7を引き離す(離型工程)。これにより、基板10の上には、型7のパターンに倣った3次元形状の硬化性組成物9のパターン(膜)が形成される。このような一連の処理を、基板上の複数のショット領域のそれぞれに対して行う。
【0037】
なお、基板上の硬化性組成物9と型7とを接触させて、型7のパターンに硬化性組成物9を充填させる際に、型7と基板10との間に存在する空気が型7のパターンに入り込むと、基板上に形成される硬化性組成物9のパターンに未充填欠陥が発生する。従って、型7と基板10との間の空間には、硬化性組成物9に対して高可溶性及び高拡散性の少なくとも一方の性質を有する気体を供給するとよい。
【0038】
シミュレーション装置30は、膜形成装置1において実行される処理における硬化性組成物9の挙動を予測する計算を実行する。具体的には、シミュレーション装置30は、基板10の上に配置された硬化性組成物9の複数の液滴と型7とを接触させ、基板10と型7との間の空間に硬化性組成物9の膜を形成する処理における硬化性組成物9の挙動を予測する計算を実行する。
【0039】
シミュレーション装置30は、例えば、汎用又は専用のコンピュータにシミュレーションプログラム33を組み込むことによって構成される。また、シミュレーション装置30は、FPGA(Field Programmable Gate Arrayの略。)などのPLD(Programmable Logic Deviceの略。)、又は、ASIC(Application Specific Integrated Circuitの略。)によって構成されてもよい。
【0040】
シミュレーション装置30は、本実施形態では、プロセッサ31と、メモリ32と、ディスプレイ34と、入力デバイス35とを有するコンピュータにおいて、メモリ32にシミュレーションプログラム33を格納することによって構成される。メモリ32は、半導体メモリであってもよいし、ハードディスクなどのディスクであってもよいし、他の形態のメモリであってもよい。シミュレーションプログラム33は、コンピュータによって読み取り可能なメモリ媒体に格納されて、又は、電気通信回線などの通信設備を介してシミュレーション装置30に提供されてもよい。
【0041】
本発明のシミュレーション方法及びシミュレーション装置は、基板と型との間の空間に硬化性組成物の膜を形成する処理、即ち、インプリント処理における硬化性組成物の挙動のシミュレーションに関するものである。具体的には、本発明のシミュレーション方法及びシミュレーション装置は、基板上の硬化性組成物の液滴同士の相互作用も含めて液滴の広がりをシミュレーションすることによって、任意の時間における液滴の広がりを予測して視覚的に表示する。また、本発明のシミュレーション方法及びシミュレーション装置は、基板上の硬化性組成物の液滴の接合状態やその変化から液滴間に閉じ込められた気体(気泡)、即ち、気体の物理量を求めて視覚的に表示する。気体の物理量とは、気体のモル値を少なくとも含む気体情報であって、具体的には、気体のモル値に加えて、気体の体積、圧力及び濃度の少なくとも一方を含む。これにより、基板上の硬化性組成物の液滴の広がりの挙動(様子)を視覚的に確認できるとともに、液滴間に閉じ込められた気体の物理量分布から未充填欠陥が発生しやすい箇所を事前に予測(把握)することができる。このような情報に基づいて、例えば、基板上における硬化性組成物の液滴の配置を調整することで、インプリント処理を実際に行うことなく、未充填欠陥を抑制することが可能となる。なお、モル値とは、理想気体の圧力、体積、質量、気体定数及び温度のそれぞれをP、V、n、R及びTとしたときの状態方程式であるPV=nRTにおいて、nに相当し、本実施形態では、気体の量(気体量)を意味するものとする。
【0042】
以下、
図2を参照して、シミュレーション装置30によって実行されるシミュレーション方法について具体的に説明する。かかるシミュレーション方法は、工程として、S001、S002、S003、S004、S005、S006、S007、S008、S009及びS010を含む。シミュレーション装置30は、
図2に示すシミュレーション方法の各工程を実行するハードウェア要素の集合体として理解されてもよい。
【0043】
S001は、シミュレーションに必要な条件(シミュレーション条件)を設定する工程である。S002は、S001で設定されたシミュレーション条件に基づいて、硬化性組成物9の初期状態を設定する工程である。S001及びS002は、それらを併せた1つの工程、例えば、準備工程として理解されてもよい。S003は、型7の運動を計算して、型7の位置(基板10と型7との間の距離)を更新(計算)する工程である。S004は、S003で更新された型7の位置に基づいて、硬化性組成物9の複数の液滴のそれぞれについて、型7で押し広げられる液滴の挙動(液滴の流動)を計算する工程である。S005は、S004で計算された液滴の挙動に基づいて、硬化性組成物9の複数の液滴のうち隣接する液滴(液敵同士)が接合したかどうかを判定する工程である。S006は、S004で判定された隣接する液滴と接合したかどうかに基づいて、硬化性組成物9の複数の液滴のそれぞれについて、接合情報を算出する工程である。S007は、S006で算出された接合情報を表示する工程である。S007では、S006で算出された接合情報を、硬化性組成物9の複数の液滴の状態(硬化性組成物9の挙動)を示す情報とともに表示してもよい。S008は、S006で算出された接合情報に基づいて、硬化性組成物9の液滴間(互いに隣接する液滴が接合することによって形成される閉領域)に閉じ込められる気体のモル値を少なくとも含む気体情報を算出する工程である。S009は、S008で算出された気体情報を、硬化性組成物9の複数の液滴の状態(硬化性組成物9の挙動)を示す情報とともに表示する。S010は、計算(シミュレーション)における時刻が終了時刻に到達したかどうかを判定する工程である。計算における時刻が終了時刻に到達していなければ、時刻を次の時刻に進めて、S003に移行する。一方、計算における時刻が終了時刻に到達していれば、シミュレーションが終了する。
【0044】
以下、
図2に示すシミュレーション方法の各工程について詳細に説明する。
【0045】
S001では、シミュレーションに必要な条件として各種のパラメータが設定される。パラメータは、基板10の上における硬化性組成物9の液滴の配置、各液滴の体積、硬化性組成物9の物性値、型7の表面の凹凸(例えば、パターン領域7aのパターンの情報)に関する情報、基板10の表面の凹凸に関する情報などを含む。また、パラメータは、基板上の硬化性組成物9に型7を接触させる際の条件(押印条件)、具体的には、型7を撓ませる圧力、型7を基板上の硬化性組成物9に接触させるときの速度や力などを含む。更に、パラメータは、基板上の硬化性組成物9に型7を接触させる際に型7と基板10との間の空間に供給される気体の種類や量などを含む。
【0046】
S002では、硬化性組成物9の複数の液滴のそれぞれの初期状態(シミュレーションを開始する際の液滴の状態)が設定される。かかる初期状態は、基板10の上に配置された硬化性組成物9の各液滴が濡れ広がった際の各液滴の輪郭(の形状)及び高さを含む。かかる初期状態は、硬化性組成物9の物性値を用いて静的な釣り合い状態を仮定して算出することも可能である。また、硬化性組成物9の物性値に加えて、硬化性組成物9の液滴を基板10の上に配置してからの経過時間などを入力とし、一般的な流体シミュレーションを実行することで、動的な濡れ広がり挙動から初期状態を算出することも可能である。
【0047】
本実施形態におけるシミュレーション方法では、硬化性組成物9の各液滴は、
図3に示すように、液滴要素DRPとしてモデル化される。
図3は、硬化性組成物9の液滴要素DRPの概念を示す図である。
図3を参照するに、計算領域内のi番目の液滴要素をDRP
iと表記し、以後、下付き添え字iは、液滴要素DRPの番号を表すものとする。
【0048】
まず、硬化性組成物9の液滴要素の内部に代表点が設定される。かかる代表点の座標をCi(x0,y0)とする。硬化性組成物9の液滴要素の代表点は、液滴の重心としてもよいし、液滴の重心とは異なる点(位置)としてもよいが、液滴の輪郭の内側に設定する必要がある。また、硬化性組成物9の液滴要素の代表点から見て、角度θ(代表点と液滴の輪郭上の点とを結ぶ線と基準線とのなす角)の位置にある液滴要素の輪郭上(外周上)の点までの距離を半径r(θ)と表現する。半径r(θ)は、角度θごとに異なる値となる。ここで、液滴要素の輪郭上の各点が隣接する液滴要素に接合(貫入)しているかどうかを示す情報を併せて保持する。隣接する液滴要素に接合した輪郭上の点は、その時点で位置(半径r(θ))が固定される。このように半径r(θ)が固定された角度θの領域を、
図3に斜線で示すように、固定領域FIX
iとする。一方、半径r(θ)が固定されていない角度θの領域を、
図3に実線で示すように、自由領域FRE
iとする。硬化性組成物9の液滴の初期状態において、全ての角度θは自由領域に属する。
【0049】
実際のプログラムとして、本実施形態のシミュレーション方法を実装する場合には、角度θを有限個に分割して取り扱う(即ち、液滴の輪郭を定義するために、液滴の輪郭上に有限個の点が設定される)ことが考えられる。
図6は、18個の角度θ(θ1~θ
18)で定義(分割)された硬化性組成物9の液滴要素を示す図である。この際、角度θは、360度を等分割して設定してもよいし、任意の角度を設定してもよい。有限個の角度で表される輪郭上の隣接する点同士の間の輪郭を求める際には、任意の補間を適用することができる。例えば、隣接する輪郭上の点を線で結んでもよいし、より高次の補間を適用することもできる。
【0050】
S003では、型7の運動が計算され、型7の位置が更新される。型7の運動は、硬化性組成物9の液滴や液敵同士が接合した液膜が押しつぶされる際に発生する力、型7と基板10との間の空間での気体の流動に起因する力、型7に印加する荷重、型7の弾性変形の影響などを考慮した力学計算によって計算される。
【0051】
S004では、型7で押し広げられる液滴要素DRPの挙動が計算される。S004は、液滴要素DRPが型7と接触しているかどうかを判定する工程を含む。S002で得られた液滴要素DRPiの高さhdrp,iと、液滴要素DRPiの代表点Ci(x0,y0)における型7と基板10との間の距離hiとを比較し、以下の式(1)を満たす場合には、液滴要素DRPiが型7と接触したと判定する。
【0052】
【0053】
一方、式(1)を満たさない場合、計算における現在の時刻において、液滴要素DRPiは、型7と接触していないと判定する。この場合、液滴要素DRPiの挙動の計算は行われない。
【0054】
型7と接触したと判定された液滴要素DRPiについて、型7の運動によって押し広げられる挙動を計算する。この過程において、硬化性組成物9の液滴の体積は保存(維持)される。従って、液滴要素DRPiの体積Viと、現在の時刻における液滴要素位置における距離hiとを用いて、現在の時刻における液滴要素DRPiの面積Snewは、以下の式(2)で表すことができる。
【0055】
【0056】
S005では、隣接する液滴要素が接合したかどうかが判定される。S004において、液滴要素の輪郭を計算した結果、自由領域FRE
i
に属する角度θの輪郭上の点が、隣接する液滴要素の内部(輪郭の内側)に入ることが発生する。この場合、かかる角度θにおける半径r(θ)が固定される(即ち、液滴の接合した部分に対応する、代表点から輪郭上の点までの距離を固定する)。換言すれば、かかる角度θは、固定領域FIX
i
に含まれるようになり、それ以降の時刻において、かかる角度θの方向には、硬化性組成物9の液滴要素の広がり(流動)は発生しない。S005では、隣接する液滴要素の全ての組について、上述したように、液滴同士が接合したかどうかを判定する。
【0057】
図4を参照して、隣接する液滴要素が接合しているかどうか、即ち、液滴の輪郭上の点が隣接する液滴の輪郭の内側に位置しているかどうかを判定する処理について説明する。まず、液滴要素DRP
iに着目し、液滴要素DRP
iの自由領域FRE
iに属する角度方向の輪郭上の点Pを考える。液滴要素DRP
iに隣接する液滴要素を液滴要素DRP
jとし、点Pと液滴要素DRP
jの代表点C
j(中心)とを結ぶ線分PC
jの長さを求める。また、線分PC
jと液滴要素DRP
jの基準線とのなす角(角度)θ
jを求め、角度θ
jにおける液滴要素DRP
jの半径QC
jの長さを求める。そして、半径QC
jの長さと線分PC
jの長さとを比較して、半径QC
jの長さが線分PC
jの長さよりも長い場合に、液滴要素DRP
iの輪郭上の点Pが隣接する液滴要素DRP
jの輪郭の内側に位置している、即ち、接合していると判定する。一方、半径QC
jの長さが線分PC
jの長さよりも短い場合には、液滴要素DRP
iの輪郭上の点Pが隣接する液滴要素DRP
jの輪郭の内側に位置していない、即ち、接合していないと判定する。なお、
図4では、液滴要素DRP
iの輪郭上の点Pが隣接する液滴要素DRP
jの内部に大きく貫入しているように図示しているが、これは、本実施形態の特徴を強調して表現したものである。実際の計算においては、時刻の間隔を十分に細かくすることで、液滴要素DRP
iの輪郭上の点Pが隣接する液滴要素DRP
jの内部に貫入する貫入量を無視可能な大きさにすることができる。
【0058】
図5は、本実施形態のシミュレーション方法を実装したシミュレーション装置30によって硬化性組成物9の液滴の挙動(広がり)を計算した一例を示す図である。型7と基板10との間の距離は、
図5の中心ほど近く、
図5の中心から離れるほど遠くなっている。
図5を参照するに、基板10の上の硬化性組成物9の液滴の配置に応じて、複雑な液滴同士の接合の様子などが表現できていることがわかる。
【0059】
S006では、隣接する液滴要素が接合したかどうかの判定の結果を用いて、接合情報が算出される。接合情報は、隣接する液滴との接合の度合いに関する関係を評価する評価値を意味する。例えば、本実施形態では、硬化性組成物9の各液滴の輪郭のうちどれくらいの部分で他の液滴の輪郭と接しているかを示す情報を接合情報とする。具体的には、硬化性組成物9の液滴の輪郭長に対し、他の液滴と接していると判定された部分の割合、即ち、液滴の輪郭の全周のうちの隣接する液滴の輪郭と接している部分の割合を接合情報とする。この際、硬化性組成物9の液滴の輪郭を複数の角度で分割し、他の液滴と接していると判定された角度の割合を接合情報としてもよい。
【0060】
図6を参照して、硬化性組成物9の液滴の輪郭長に対する隣接する液滴との接合の割合、即ち、本実施形態における接合情報の概要について説明する。
図6において、601は、注目する液滴要素の輪郭を示し、602は、注目する液滴要素に隣接する液滴要素の輪郭を示している。注目する液滴要素の輪郭601を複数の点603にサンプリングし、複数の点603のそれぞれについて、隣接する液滴要素
の輪郭602と接しているかどうかを判定する。例えば、複数の点603のうち、点604は、隣接する液滴要素
の輪郭602と接していると判定された点である。最終的に、注目する液滴要素の輪郭601をサンプリングした点603の全数に対する、隣接する液滴要素
の輪郭602に接している点604の割合を接合情報とする。
【0061】
S007では、このようにして求められた接合情報が、例えば、かかる接合情報に対応する硬化性組成物9の液滴の状態(広がり状態)を示す情報とともに、ディスプレイ34に表示される。
図7は、S007でディスプレイ34に表示される、接合情報を含む画像の一例を示す図である。
図7では、基板10のショット領域STに配置された液滴要素DRP
iの分布に対して接合情報を色で表示している。本実施形態では、液滴要素DRP
iのそれぞれについて、液滴の輪郭長に対する隣接する液滴との接合の割合に応じて、液滴要素DRP
iの領域内の色を変更している。
【0062】
型7と基板10の上の硬化性組成物9とを接触させる際に型7を基板10に向けて凸形状に変形させる場合を考える。この場合、ショット領域STの中央に配置された液滴要素DRP
iからショット領域STの外側に配置された液滴要素DRP
iに向けて、順次、液滴要素DRP
iが押し広げられる。従って、ショット領域STの中央に配置された液滴要素DRP
iは、ショット領域STの外側に配置された液滴要素DRP
iに比べて、隣接する液滴と接合する割合が高くなる傾向がある。
図7では、液滴要素DRP
iごとに、隣接する液滴と接合する割合に応じて、液滴要素DRP
iの領域内の明暗度を変更しており、隣接する液滴と接合する割合が高い液滴要素DRP
iの領域を、より暗い色で表示している。具体的には、液滴要素DRP
1、液滴要素DRP
2、液滴要素DRP
3の順に、即ち、ショット領域STの中央から距離が遠くなる順に、それらの領域内の色を明るい色で表示している。また、液滴要素DRP
4のように、隣接する液滴と接していない場合には、その領域の色を白で表示している。なお、液滴要素DRP
iの領域と、液滴要素DRP
iの輪郭とを互いに異なる色で区別して(識別可能に)表示することで、隣接する液滴との境界も確認することができる。
【0063】
本実施形態では、接合情報の大小に応じて、かかる接合情報に対応する液滴の領域の明暗度を変更する場合について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、接合情報の大小に応じて、かかる接合情報に対応する液滴の領域の色相を変更してもよい。また、接合情報の大小を表す色と、かかる色が示す接合情報の大小関係(本実施形態では、隣接する液滴と接合する割合)とを対応づける凡例も表示することで、接合情報を数値的にも捉えることができる。これにより、硬化性組成物9の複数の液滴のそれぞれについて、液滴の広がり状態である液滴の接触状態を視覚的に捉えることができる。
【0064】
S008では、S006で算出された接合情報(及び接合情報の時系列的な変化)から、硬化性組成物9の液滴間に閉じ込められる気体のモル値を少なくとも含む気体情報が算出される。
図9(a)及び
図9(b)を参照して、気体情報として、硬化性組成物9の液滴間に閉じ込められる気体のモル値、即ち、気体量を算出する手法について説明する。本実施形態では、液滴要素DRP
1、DRP
2及びDRP
3によって形成される閉領域に閉じ込められる気体の気体量V
bubを算出する。
図9(a)は、基板10を上から見た状態を示し、
図9(b)は、
図9(a)に示す線901に沿って、基板10を横から見た状態を示している。
【0065】
まず、
図9(a)に示すように、閉領域に閉じ込められる気体を上から見たときの気体面積S
bubを算出する。気体面積S
bubは、以下の式(3)に示すように、閉領域を形成するリンクLKを境界とする閉領域面積S
closeと、閉領域に含まれる液滴要素DRP
1、DRP
2及びDRP
3の面積S
drpとの差として求められる。
【0066】
【0067】
図9(b)を参照するに、気体量V
bubは、型7と基板10と硬化性組成物9の液滴との間に挟まれた気体の量であり、以下の式(4)によって求められる。ここで、hは、型7と基板10との間の距離(高さ)、又は、残膜厚である。
【0068】
【0069】
なお、式(4)では、閉領域に閉じ込められる気体の気体量として、気体の体積を算出しているが、これに限定されるものではない。例えば、閉領域に閉じ込められる気体の気体量として、以下の式(5)に示すように、気体に含まれる気体の分子数nbubを算出してもよい。ここで、Rは、気体定数であり、Tは、温度である。
【0070】
【0071】
このように、閉領域に閉じ込められる気体の分子数は、気体における気体の圧力と気泡の体積との積に比例する量として求められる。なお、気体の圧力は、例えば、気体が型7の押し付けによって受ける力として算出することができる。
【0072】
S009では、このようにして求められた気体情報が、かかる気体情報に対応する硬化性組成物9の液滴の状態(広がり状態)を示す情報とともに、ディスプレイ34に表示される。
図8は、S009でディスプレイ34に表示される、気体情報を含む画像の一例を示す図である。但し、気体情報は、必ずしも硬化性組成物9の液滴の状態を示す情報とともに表示しなくてもよく、気体情報のみをディスプレイ34に表示することも可能である。
図8では、基板10のショット領域STに配置された液滴要素DRP
iの分布に対して、気体情報40としての気体量を表す円で表示している。また、本実施形態では、隣接する液滴要素によって形成される閉領域の表示位置に、かかる閉領域に対して算出された気体情報40を表示している。従って、基板10のショット領域STに配置された液滴要素DRP
iの分布において、気体情報40は、閉領域に閉じ込められる気体の位置も表している。なお、閉領域に閉じ込められる気体の位置をより視覚的に確認しやすくするために、気体情報40を表す円(輪郭や内部)を特定の色で表示してもよいし、点滅させてもよい。
【0073】
なお、本実施形態では、ディスプレイ34に対して、
図7に示す画像と
図8に示す画像とを単独で表示するように説明しているが、
図7に示す画像と
図8に示す画像とを並列に表示してもよい。また、S006で算出された接合情報とS008で算出された気体情報とを、かかる接合情報及び気体情報に対応する硬化性組成物9の液滴の状態を示す情報とともに、ディスプレイ34に表示してもよい。
【0074】
上述したように、本実施形態では、ショット領域STの中央に配置された液滴要素DRPiからショット領域STの外側に配置された液滴要素DRPiに向けて、順次、液滴要素DRPiが押し広げられる。従って、型7と基板上の硬化性組成物9とが最初に接触する中央の領域から気体情報40が表示され、時間が経過するにつれて、中央の領域には気体情報40が表示されなくなり、外側の領域に向けて気体情報40が表示されていくことになる。硬化性組成物9の液滴の配置や硬化性組成物9への型7の押し付けの方法及び条件などが適切であり、インプリント処理に異常が発生しなければ、最終的には、気体情報40は表示されなくなる。換言すれば、ショット領域STの全域が硬化性組成物9で覆われることになる。
【0075】
図10(a)乃至
図10(d)を参照して、本実施形態において、ディスプレイ34に表示される画像に含まれる気体情報40の表示例について説明する。
図10(a)乃至
図10(d)は、ディスプレイ34に表示される、気体情報40を含む画像の一例を示す図である。
【0076】
図10(a)乃至
図10(d)は、押印工程において、インプリント処理に異常が発生し、硬化性組成物9の隣接する液滴によって形成される閉領域に気体が閉じ込められている(残存している)場合を示している。
図10(a)では、気体情報40は、閉領域に閉じ込められている気体の位置を円で表示している。
図10(b)では、気体情報40は、閉領域に閉じ込められている気体の位置に加えて、気体量の大きさを円の大きさで識別可能に表示している。これにより、閉領域に閉じ込められている気体の気体量(分布)を視覚的に捉えることができる。なお、
図10(b)では、閉領域に閉じ込められている気体の気体量を円の大きさで表示しているが、これに限定されるものではなく、例えば、気体量の大きさを色で識別可能に表示してもよい。
【0077】
また、
図10(c)及び
図10(d)のそれぞれでは、気体情報40は、閉領域に閉じ込められている気体の位置に加えて、気体の圧力及び体積を円の大きさで識別可能に表示している。
図10(c)及び
図10(d)を参照するに、閉領域に閉じ込められている気体の気体量が同じであっても、気体の圧力や体積が異なっていることを視覚的に捉えることができる。例えば、型7と基板上の硬化性組成物9とが最初に接触するショット領域STの中央の領域において、閉領域に閉じ込められている気体は、圧力は大きいが、体積は小さい。これは、気体が閉領域に閉じ込められた(生成された)時間が早く、型7と硬化性組成物9との接触からの経過時間が長いため、各液滴が広がっていくにつれて、体積が小さくなり、圧力が大きくなっていると考えられる。一方、ショット領域STの周辺の領域では、気体が閉領域に閉じ込められた時間が遅く、型7と硬化性組成物9との接触からの経過時間が短いため、各液滴が十分に広がりきれていないため、気体の体積が大きくなっていると考えられる。
【0078】
また、
図10(c)に示す画像と
図10(d)に示す画像とを並列にディスプレイ34に表示することで、硬化性組成物9の隣接する液滴によって形成される閉領域に気体が閉じ込められた要因を把握することができる。これにより、硬化性組成物9の液滴の配置や硬化性組成物9への型7の押し付けの方法及び条件などを容易に最適化(調整)することが可能となる。例えば、気体の圧力が要因であれば、基板上の硬化性組成物9に型7を押し付ける際の力や速度を最適化する。一方、気体の体積が要因であれば、硬化性組成物9の液滴間の距離に問題があるため、硬化性組成物9の液滴の配置を最適化する。
【0079】
また、
図11に示すように、ディスプレイ34に表示されている気体情報40を選択すると、かかる気体情報40に対応する気体のID、位置(座標)及び生成時刻、経時変化、気体量及び体積がグラフで表示されるようにしてもよい。これにより、硬化性組成物9の隣接する液滴によって形成される閉領域に閉じ込められている気体の気体量が大きい要因が、気体の圧力によるものなのか、或いは、気体の体積によるものなのかを判別することが容易となる。閉領域に気体が閉じ込められる要因を明確に把握することで、上述したように、硬化性組成物9の液滴の配置や硬化性組成物9への型7の押し付けの方法及び条件などの最適化が容易となる。
【0080】
また、
図11に示すように、硬化性組成物9の隣接する液滴によって形成される閉領域に気体が閉じ込められる時刻(生成時刻)や気体情報の経時変化も表示させるとよい。このように、ユーザの指示に応じて、生成時刻及び気体情報の経時変化のうち少なくとも一方を表示させることで、閉領域に閉じ込められている気体がどのくらいの時間で消失するのかを予測して、押印工程に要する時間を算出することが可能となる。例えば、押印工程に要する時間が著しく長い場合には、生産性の観点で不利となるため、硬化性組成物9の液滴の配置や硬化性組成物9への型7の押し付けの方法及び条件などの最適化が必要となる。なお、
図11では、閉領域に閉じ込められている気体の気体量の経時変化を示しているが、圧力や体積の経時変化を同時に表示させてもよい。
【0081】
また、型7のパターンや基板10の表面に設けられているパターンに起因して、硬化性組成物9の隣接する液滴によって形成される閉領域に気体が閉じ込められる可能性もある。例えば、型7や基板10に設けられているパターンが上下方向に延在するラインアンドスペースのようなパターンである場合、硬化性組成物9の液滴は、上下方向に広がりやすく、左右方向には広がりにくくなる。また、アライメントマークなどの比較的大きなパターンに対しては、多くの硬化性組成物9を必要とするため、アライメントマークの周辺では硬化性組成物9が不足する傾向があり、閉領域に気体が閉じ込められる要因となる。
図10(a)乃至
図10(d)及び
図11に示す画像に対して、型7のパターンや基板10の表面に設けられているパターンを重ねて表示させるとよい。換言すれば、型7に設けられているパターンに関する情報及び基板10に設けられているパターンに関する情報の少なくとも一方を、閉領域に閉じ込められている気体の気体情報、及び、かかる気体情報に対応する液滴の状態を示す情報とともに表示するとよい。
【0082】
S003、S004、S005、S006及びS008を含む計算工程は、予め設定された複数の時刻について実行される。複数の時刻は、例えば、型7が初期位置から降下を開始する時刻から、複数の液滴と接触し、複数の液滴がつぶされながら広がり、複数の液滴が相互に結合し、最終的に1つの膜を形成し、硬化性組成物の硬化がなされるべき時刻までの期間内で任意に設定される。複数の時刻は、典型的には、一定の時間間隔で設定される。
【0083】
S010では、計算における時刻が終了時刻に達したかどうかが判定される。上述したように、計算における時刻が終了時刻に達していなければ、時刻を次の時刻に進めてS003に移行し、計算における時刻が終了時刻に達していれば、シミュレーションを終了する。一例において、S010では、現在の時刻が指定された時間刻み分だけ進められて、新たな時刻とされる。そして、新たな時刻が終了時刻に達した場合、シミュレーションを終了する。
【0084】
本実施形態では、硬化性組成物9の硬化法として光硬化法を採用しているため、式(5)から求められる気体量は、インプリント環境の温度を一定として、気体の圧力と体積で表すことができる。一方、硬化性組成物9の硬化法として熱硬化法を採用する場合には、気体の温度も関係するため、気体の温度や型7や基板10の温度分布をあわせて表示してもよい。
【0085】
また、型7と基板10との間の空間の雰囲気を、例えば、液滴間に閉じ込められた気体が消滅しやすいように、硬化性組成物9に対して高可溶性又は高拡散性を有するガスで置換する場合がある。このような場合、型7と基板10との間の空間に供給するガスの種類や濃度分布をあわせて表示してもよい。なお、硬化性組成物9に対して高可溶性又は高拡散性を有するガスは、例えば、ヘリウム、二酸化炭素、ペンタフルオロプロパンなどを含む。
【0086】
本実施形態によれば、基板10の上に配置された硬化性組成物9の複数の液滴の挙動、特に、液滴間に閉じ込められる気体を視覚的に認識することができる。従って、膜形成装置1における硬化性組成物9の形成する処理において、液滴間に閉じ込められた気体に起因する未充填欠陥が発生しやすい箇所を予測することが可能となる。また、本実施形態におけるシミュレーション方法及びその結果を用いて、硬化性組成物9の液滴の配置や硬化性組成物9への型7の押し付けの方法及び条件などの調整を繰り返すことで、未充填欠陥を抑制しながら、これらを容易に設定することができる。
【0087】
本発明は、上述の実施形態の1つ以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1つ以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0088】
シミュレーション装置30が組み込まれた膜形成装置1は、第1部材の上に配置された硬化性組成物と第2部材とを接触させ第1部材の上に硬化性組成物の膜を形成する処理を、シミュレーション装置30による硬化性組成物の挙動の予測に基づいて制御する。
【0089】
実施形態の物品製造方法は、上述したシミュレーション方法を繰り返しながら第1部材の上に配置された硬化性組成物と第2部材とを接触させ第1部材の上に該化性組成物の膜を形成する処理の条件を決定する工程と、該条件に従って該処理を実行する工程とを含む。ここまでは、型がパターンを有する形態について説明したが、本発明は、基板がパターンを有する形態にも適用できる。
【0090】
図12(a)乃至
図12(f)には、物品の製造方法のより具体的な例が示されている。
図12(a)に示すように、絶縁体などの被加工材が表面に形成されたシリコンウエハなどの基板を用意し、続いて、インクジェット法などにより、被加工材の表面にインプリント材(硬化性組成物)を付与する。ここでは、複数の液滴状になったインプリント材が基板上に付与された様子を示している。
【0091】
図12(b)に示すように、インプリント用の型を、その凹凸パターンが形成された側を基板上のインプリント材に向け、対向させる。
図12(c)に示すように、インプリント材が付与された基板と型とを接触させ、圧力を加える。インプリント材は、型と被加工材との隙間に充填される。この状態で硬化用のエネルギーとして光を型を介して照射すると、インプリント材は硬化する。
【0092】
図12(d)に示すように、インプリント材を硬化させた後、型と基板を引き離すと、基板上にインプリント材の硬化物のパターンが形成される。この硬化物のパターンは、型の凹部が硬化物の凸部に、型の凸部が硬化物の凹部に対応した形状になっており、即ち、インプリント材に型の凹凸のパターンが転写されたことになる。
【0093】
図12(e)に示すように、硬化物のパターンを耐エッチングマスクとしてエッチングを行うと、被加工材の表面のうち、硬化物がない、或いは、薄く残存した部分が除去され、溝となる。
図12(f)に示すように、硬化物のパターンを除去すると、被加工材の表面に溝が形成された物品を得ることができる。ここでは、硬化物のパターンを除去したが、加工後も除去せずに、例えば、半導体素子などに含まれる層間絶縁用の膜、即ち、物品の構成部材として利用してもよい。
【0094】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0095】
30:シミュレーション装置 31:プロセッサ 32:メモリ 33:シミュレーションプログラム 34:ディスプレイ 35:入力デバイス