IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本碍子株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-ハニカム構造体及び電気加熱式担体 図1
  • 特許-ハニカム構造体及び電気加熱式担体 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-26
(45)【発行日】2024-12-04
(54)【発明の名称】ハニカム構造体及び電気加熱式担体
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/577 20060101AFI20241127BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20241127BHJP
   F01N 3/20 20060101ALI20241127BHJP
   B01J 35/50 20240101ALI20241127BHJP
   B01J 32/00 20060101ALI20241127BHJP
   B01J 27/224 20060101ALI20241127BHJP
   B01J 35/57 20240101ALI20241127BHJP
   C04B 38/00 20060101ALI20241127BHJP
   C04B 41/88 20060101ALI20241127BHJP
   C04B 41/87 20060101ALI20241127BHJP
   C04B 37/02 20060101ALI20241127BHJP
【FI】
C04B35/577
F01N3/28 301P
F01N3/20 K
B01J35/50 311
B01J32/00
B01J27/224 A
B01J35/57 P ZAB
C04B38/00 303Z
C04B41/88 C
C04B41/87 C
C04B37/02 B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021042752
(22)【出願日】2021-03-16
(65)【公開番号】P2022142543
(43)【公開日】2022-09-30
【審査請求日】2023-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】井上 崇行
(72)【発明者】
【氏名】濱崎 真
(72)【発明者】
【氏名】山田 昂平
【審査官】安積 高靖
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/132837(WO,A1)
【文献】特開2020-204300(JP,A)
【文献】国際公開第2017/086020(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/577
F01N 3/28
F01N 3/20
B01J 35/50
B01J 32/00
B01J 27/224
B01J 35/57
C04B 38/00
C04B 41/88
C04B 41/87
C04B 37/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周壁と、前記外周壁の内側に配設され、一方の端面から他方の端面まで延びる流路を形成する複数のセルを区画形成する隔壁と、を有するセラミックス製のハニカム構造体であって、
前記ハニカム構造体が、
(1)炭化珪素、窒化珪素及び窒化アルミニウムから選択される一種以上を含む粒子と、
(2)ドーパントによりドープされているケイ素と、を含有し、
前記ドーパントが、13族元素または15族元素であり、
前記ハニカム構造体におけるケイ素含有量(B)が、20~80質量%であり、かつ、気孔内がケイ素で充填されることで前記ハニカム構造体の気孔率が30%以下に制御されている、ハニカム構造体。
【請求項2】
前記ケイ素が連続層として存在する、請求項1に記載のハニカム構造体。
【請求項3】
前記ケイ素におけるドーパント量(A)が、1×1016~5×1020個/cm3である、請求項1又は2に記載のハニカム構造体。
【請求項4】
前記ハニカム構造体の全質量から、前記ケイ素含有量(B)を除いたうちの80質量%以上が、前記粒子である、請求項1~3のいずれか一項に記載のハニカム構造体。
【請求項5】
前記粒子の主成分が炭化珪素である請求項1~4のいずれか一項に記載のハニカム構造体。
【請求項6】
前記ハニカム構造体の体積抵抗率が、0.001~100Ω・cmである請求項1~5のいずれか一項に記載のハニカム構造体。
【請求項7】
前記ハニカム構造体の熱伝導率が、30W/m・K以上である、請求項1~6のいずれか一項に記載のハニカム構造体。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のハニカム構造体と、
前記ハニカム構造体の外周壁の表面に設けられた一対の電極部と、
前記一対の電極部上に設けられた金属端子と、
を有する電気加熱式担体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造体及び電気加熱式担体に関する。
【背景技術】
【0002】
電気加熱触媒(EHC)は、導電性セラミックスからなるハニカム構造体に電極を配設し、通電によりハニカム構造体自体を発熱させることで、EHCに担持された触媒をエンジン始動前に活性温度まで昇温させるシステムである。
【0003】
EHC用電源には様々な電圧が使われることから、使用する電圧に合わせるために、EHC基材抵抗を、狙い抵抗に合わせ込む必要がある。
【0004】
特許文献1には、Si-SiC材料で形成したハニカム構造体を用いたEHCが開示されている。Si及びSiCは、体積抵抗率がやや高い。このため、特許文献1に記載されたハニカム構造体は、200~500Vという高電圧下で使用されるEHCに用いても、数Ωcm~200Ωcm程度の抵抗域内に調整することができる。この結果、200~500Vという高電圧下で使用したとき、過剰の電流が流れることを抑制することができる。
【0005】
EHC用の電源には、搭載する自動車の種類等によって非常に広範囲の電圧が使用される。特に、EHC用の電源に、60V以下、例えば48Vといった低い電圧が使用される場合、過剰電流の発生を抑制するためには、0.1Ωcmオーダーの抵抗域内に調整することが必要となる。このような問題に対し、特許文献2には、ハニカム構造体を、Siを含有するセラミックスで形成し、セラミックスにおけるSi含有量及びSi中のドーパント濃度を制御することで、低電圧下で使用された場合であっても過剰電流の発生を良好に抑制することができるハニカム構造体を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5735428号公報
【文献】特開2020-204300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のハニカム構造体に用いられているSi-SiC材料では、体積抵抗率が高く、低電圧EHC用途としては改良の余地がある。また、特許文献2に記載のハニカム構造体に用いられている、所定のドーパント濃度を有するSiを含有するセラミックス材料では、耐熱衝撃性が低く、改善の余地がある。
【0008】
本発明は以上の課題を勘案してされたものであり、低抵抗で、且つ、耐熱衝撃性が良好なハニカム構造体及び電気加熱式担体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、以下の本発明によって解決されるものであり、本発明は以下のように特定される。
A.外周壁と、前記外周壁の内側に配設され、一方の端面から他方の端面まで延びる流路を形成する複数のセルを区画形成する隔壁と、を有するセラミックス製のハニカム構造体であって、
前記ハニカム構造体が、
(1)炭化珪素、窒化珪素及び窒化アルミニウムから選択される一種以上を含む粒子と、
(2)ドーパントによりドープされているケイ素と、を含有し、
前記ドーパントが、13族元素または15族元素であり、
前記ハニカム構造体におけるケイ素含有量(B)が、20~80質量%であり、かつ、前記ハニカム構造体の気孔率が30%以下である、ハニカム構造体。
B.前記Aに記載のハニカム構造体と、
前記ハニカム構造体の外周壁の表面に設けられた一対の電極部と、
前記一対の電極部上に設けられた金属端子と、
を有する電気加熱式担体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、低抵抗で、且つ、耐熱衝撃性が良好なハニカム構造体及び電気加熱式担体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態におけるハニカム構造体の外観模式図である。
図2】本発明の実施形態における電気加熱式担体のセルが延びる方向に垂直な断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明のハニカム構造体及び電気加熱式担体の実施の形態について説明するが、本発明は、これに限定されて解釈されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。
【0013】
<ハニカム構造体>
図1は本発明の実施形態におけるハニカム構造体10の外観模式図を示すものである。ハニカム構造体10は、セラミックス製であり、外周壁12と、外周壁12の内側に配設され、一方の端面から他方の端面まで延びる流路を形成する複数のセル15を区画形成する隔壁13とを有し、柱状に形成されている。また、ハニカム構造体10は、外周壁12の表面に、ハニカム構造体10の中心軸を挟んで対向するように配設された一対の電極部14a、14bを有している。なお、電極部14a、14bは設けなくてもよい。
【0014】
ハニカム構造体10は、炭化珪素、窒化珪素及び窒化アルミニウムから選択される一種以上を含む粒子と、ドーパントによりドープされているケイ素と、を含有している。炭化珪素、窒化珪素及び窒化アルミニウムの各粒子は、ハニカム構造体10の骨材粒子として機能するため、ハニカム構造体10を強固にすることができる。特に、当該粒子の主成分が炭化珪素であると、熱伝導率がより高く、ケイ素との熱膨張係数差も小さくなるため好ましい。当該粒子の主成分が炭化珪素であるというときは、当該粒子が、炭化珪素(合計質量)を、全体の80質量%以上含有していることを意味し、より好ましくは、全体の90質量%以上含有する。
【0015】
ハニカム構造体10に含まれるケイ素中のドーパントは、13族元素または15族元素である。13族元素または15族元素は、後述の1×1016~5×1020個/cm3という濃度範囲でケイ素中に容易にドーパントとして含ませることができる。ここで、13族元素とは、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)等を指し、15族元素とは窒素(N)、リン(P)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)等を指す。ハニカム構造体10に含まれるケイ素中のドーパントは同族元素であれば、カウンタードーピングの影響を受けずに導電性を発現できるため、複数の種類の元素を含んでいてもよい。また、ドーパントが、B及びAlから選択される一種または二種であるのがより好ましい。また、N及びPから選択される一種または二種であるのも好ましい。B、Al、N及びPは、1×1016~5×1020個/cm3という濃度範囲でケイ素中により容易にドーパントとして含ませることができる。
【0016】
ハニカム構造体10に含まれるケイ素中のドーパントの濃度は1×1016~5×1020個/cm3であるのが好ましい。ハニカム構造体10に含まれるケイ素中のドーパントの濃度をこのような範囲に制御することで、ハニカム構造体10の体積抵抗率を下げることができる。ハニカム構造体10に含まれるケイ素中のドーパントの濃度は、ハニカム構造体10において所望する体積抵抗率によって適宜調整することができる。一般に、ケイ素中のドーパントの濃度が高くなるとハニカム構造体10の体積抵抗率が下がり、ケイ素中のドーパントの濃度が低くなるとハニカム構造体10の体積抵抗率が上がる。本発明者らは、骨材粒子として機能する前述の炭化珪素、窒化珪素及び窒化アルミニウムなどの化合物ではなく、ケイ素単体にドーピングすることにより、ハニカム構造体10の体積抵抗率を有効に下げることができることを見出した。ケイ素中のドーパントの濃度について、より好ましくは、5×1017~5×1020個/cm3である。
【0017】
ハニカム構造体10に含まれるケイ素中のドーパントの濃度については、例えば、以下の方法によって測定可能である。以下では、ドーパントとしてホウ素を含む場合について記載するが、ホウ素以外のドーパントにおいても同様の方法により測定することができる。
【0018】
まず、ハニカム構造体を中心軸に垂直な面で切断し、切断面を露出させる。次に、ハニカム構造体の断面の凹凸を樹脂で埋め、更に、樹脂で埋めた面に対して研磨を行う。次に、ハニカム構造体の研磨面について観察し、ハニカム構造体を構成する材料の元素分析をエネルギー分散型X線分析(EDX分析:Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)で行う。
【0019】
次に、研磨面中の「ケイ素」と判断された部分について、当該ケイ素中に「その他の元素」が含まれるか否かの判別を、以下の方法で行う。まず、ケイ素元素が検出された部位について、研磨面の断面組織写真及び電子プローブマイクロアナライザー(EPMA分析:Electron Probe Micro Analyzer)によるマッピングで、ケイ素以外の元素が検出された部分を「その他の成分」と判別する。「その他の元素」としては、ホウ素、及びホウ素源としてケイ素中に存在する金属ホウ化物やホウ化物を挙げることができる。
【0020】
次に、EPMA分析にて、ケイ素元素のみ又はケイ素とホウ素が検出され、「ケイ素」と判別された部分について、以下の方法で、ケイ素中のホウ素の量を特定する。まず、「ケイ素」と判別された位置を含むハニカム構造体を、数ミリ厚に切断し、切断したハニカム構造体を、Broad Ion Beam法を用いて、その断面の調製を行うことにより、ホウ素の量を測定するための試料を作製する。Broad Ion Beam法とは、アルゴンイオンビームを使用した、試料断面の作製方法である。具体的には、試料の直上に遮蔽版を置き、その上からアルゴンのブロードイオンビームを照射して試料にエッチングを行うことで、遮蔽版の端面に沿った試料の断面を作製する方法である。次に、断面調製を行った試料について、飛行時間型二次イオン質量分析法(Time-of-Flight Secondary Ion Mass Spectrometry:TOF-SIMS)にて、ケイ素中のホウ素の分析を行う。飛行時間型二次イオン質量分析法では、まず、試料に、一次イオンビームを照射し、試料の表面から二次イオンを放出する。そして、放出させた二次イオンを、飛行時間型質量分析計に導入し、試料の最表面の質量スペクトルを得る。そして、得られた質量スペクトルによって、試料の分析を行い、ケイ素中のホウ素の濃度(個/cm3)について、ケイ素中のホウ素のスペクトル強度と予め測定した濃度に関する測定値(例えば、検量線など)との相関によって換算して求める。
【0021】
ハニカム構造体10に含まれるケイ素は、連続層として存在することが好ましい。このような構成によれば、低い体積抵抗率に制御しやすくなる。ここで、ケイ素が連続層として存在するとは、上記炭化珪素等の粒子をドメインとし、ケイ素をマトリックスとした、マトリックス-ドメイン構造であることを指す。
【0022】
ハニカム構造体10におけるケイ素含有量が20~80質量%である。ハニカム構造体10におけるケイ素含有量が20質量%以上であると、低抵抗なドープされたケイ素が微構造的に直列的に配置された構造をとりやすくなる。その結果、ハニカム構造体10の体積抵抗率を下げることができ、48V等の60V以下の低電圧用としても過剰電流の発生を良好に抑制することができる。また、このような構成により、ハニカム構造体10における強度とヤング率との比が高くなり、耐熱衝撃性が良好となる。ハニカム構造体10におけるケイ素含有量が80質量%以下であると、ハニカム構造体の形状安定性を得ることができる。ハニカム構造体10におけるケイ素含有量は、30~80質量%であるのがより好ましく、40~80質量%であるのが更により好ましい。
【0023】
ハニカム構造体におけるケイ素の含有量の算出方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。以下の方法では、セラミックス原料として、ケイ素と炭化珪素を用いた場合の算出方法について説明する。セラミックス原料として、ケイ素と炭化珪素を用いた場合には、ハニカム構造体の形成後の組成としては、ケイ素(Si)、炭化珪素(SiC)及び二酸化珪素(SiO2)で構成される。そして、このハニカム構造体中のSi、SiC、SiO2の組成量については、蛍光X線法により珪素元素量及び酸素元素量を測定し、抵抗加熱式赤外吸収法により炭素元素量を測定することができる。SiC量については、炭素元素は全てSiCによるものとし、分子量計算によりハニカム構造体中のSiC量を算出する。また、SiO2量については、酸素元素が全てSiO2によるものとし、分子量計算によりハニカム構造体中のSiO2量を算出する。Si量については、蛍光X線法により珪素元素量から、上記で算出したSiC量、SiO2量から、SiC中のSi量と、SiO2中のSi量とを合計したSi量を全体の珪素元素量から差し引いたものをSi量として算出することができる。なお、セラミックス原料としては、炭化ケイ素以外を用いた場合は、ハニカム構造体の形成後の組成を確認した後、蛍光X線法、抵抗加熱式赤外吸収法により元素量を測定して算出することが可能である。
【0024】
ハニカム構造体10の全質量から、ケイ素含有量を除いたうちの80質量%以上が、前述の炭化珪素、窒化珪素及び窒化アルミニウムから選択される一種以上を含む粒子であるのが好ましい。このような構成によれば、熱伝導率が高く、良好な耐熱衝撃性を得ることができる。ハニカム構造体10の全質量から、ケイ素含有量を除いたうちの90質量%以上が、当該粒子であるのがより好ましく、95質量%以上が、当該粒子であるのが更により好ましい。
【0025】
ハニカム構造体10に含まれるケイ素はAl及びFeである不純物を含んでもよい。このとき、ハニカム構造体10に含まれるケイ素における、不純物であるAl及びFeの含有量が、ケイ素に対して、それぞれ2質量%以下であるのが好ましい。ハニカム構造体10に含まれるケイ素における、不純物であるAl及びFeの含有量が、ケイ素に対して、それぞれ2質量%以下であると、製造時のハニカム構造体10の形状のバラツキを良好に抑制することができる。ハニカム構造体10に含まれるケイ素における、不純物であるAl及びFeの含有量は、1質量%以下であるのがより好ましく、0.1質量%以下であるのが更により好ましい。
【0026】
なお、本発明の実施形態において、ハニカム構造体10に含まれるケイ素が不純物を含むとき、当該不純物は、ケイ素に付着する形態で存在している。これに対し、本発明の実施形態において、ハニカム構造体10に含まれるケイ素がドーパントを含むとき、当該ドーパントは、ケイ素粒子中に溶け込んで存在している。
【0027】
ハニカム構造体10の気孔率は、30%以下に制御されている。ハニカム構造体10の気孔率が30%以下であることで、ハニカム構造体10の熱伝導率が向上し、これによって耐熱衝撃性が向上する。ハニカム構造体10の気孔率は、20%以下であるのが好ましく、10%以下であるのが更により好ましい。ハニカム構造体10の気孔率の下限値は、理論上、0%以上である。ハニカム構造体10の気孔率は、水銀ポロシメータにより測定した値である。
【0028】
ハニカム構造体10の熱伝導率は、30W/m・K以上であるのが好ましい。このような構成によれば、ハニカム構造体10において良好な耐熱衝撃性が得られる。ハニカム構造体10の熱伝導率は、50W/m・K以上であるのがより好ましく、70W/m・K以上であるのが更により好ましい。
【0029】
ハニカム構造体10の体積抵抗率は、印加する電圧に応じて適宜設定すればよく、特段の制限はないが、例えば0.001~100Ω・cmとすることができる。60Vより大きい高電圧用には2~100Ω・cmとすることができ、典型的には5~100Ω・cmとすることができる。また、48V等の60V以下の低電圧用には0.001~2Ω・cmとすることができ、典型的には0.001~1Ω・cmとすることができ、より典型的には0.01~1Ω・cmとすることができる。特に、ハニカム構造体10に含まれるケイ素中のドーパントの濃度が1×1016~5×1020個/cm3である場合、48V等の60V以下の低電圧用としても過剰電流が発生しないようにハニカム構造体10の体積抵抗率を下げることができる。また、ハニカム構造体の体積抵抗率は0.01Ω・cm以上5Ω・cm以下であってもよい。体積抵抗率が5Ω・cm以下のものは、48Vという低電圧下でも過剰電流の発生を良好に抑制することができる。一方、体積抵抗率が、5Ω・cmより大きいものは、48Vという低電圧下で過剰電流の発生を十分に抑制できない。
【0030】
ハニカム構造体10の外形は柱状である限り特に限定されず、例えば、端面が円形の柱状(円柱形状)、端面がオーバル形状の柱状、端面が多角形(四角形、五角形、六角形、七角形、八角形等)の柱状等の形状とすることができる。また、ハニカム構造体10の大きさは、耐熱性を高める(外周壁の周方向に入るクラックを抑制する)という理由により、端面の面積が2000~20000mm2であることが好ましく、5000~15000mm2であることが更に好ましい。
【0031】
セル15の延伸方向に垂直な断面におけるセルの形状に制限はないが、四角形、六角形、八角形、又はこれらの組み合わせであることが好ましい。これらのなかでも、構造強度及び加熱均一性を両立させやすいという観点から、四角形及び六角形が好ましい。
【0032】
セル15を区画形成する隔壁13の厚みは、0.1~0.3mmであることが好ましく、0.15~0.25mmであることがより好ましい。本発明において、隔壁13の厚みは、セル15の延伸方向に垂直な断面において、隣接するセル15の重心同士を結ぶ線分のうち、隔壁13を通過する部分の長さとして定義される。
【0033】
ハニカム構造体10は、セル15の流路方向に垂直な断面において、セル密度が40~150セル/cm2であることが好ましく、70~100セル/cm2であることが更に好ましい。セル密度をこのような範囲にすることにより、排気ガスを流したときの圧力損失を小さくした状態で、触媒の浄化性能を高くすることができる。セル密度は、外周壁12部分を除くハニカム構造体10の一つの底面部分の面積でセル数を除して得られる値である。
【0034】
ハニカム構造体10の外周壁12を設けることは、ハニカム構造体10の構造強度を確保し、また、セル15を流れる流体が外周壁12から漏洩するのを抑制する観点で有用である。具体的には、外周壁12の厚みは好ましくは0.05mm以上であり、より好ましくは0.1mm以上、更により好ましくは0.2mm以上である。但し、外周壁12を厚くしすぎると高強度になりすぎてしまい、隔壁13との強度バランスが崩れて耐熱衝撃性が低下することから、外周壁12の厚みは好ましくは1.0mm以下であり、より好ましくは0.7mm以下であり、更により好ましくは0.5mm以下である。ここで、外周壁12の厚みは、厚みを測定しようとする外周壁12の箇所をセルの延伸方向に垂直な断面で観察したときに、当該測定箇所における外周壁12の接線に対する法線方向の厚みとして定義される。
【0035】
ハニカム構造体10は、外周壁12の表面に、ハニカム構造体10の中心軸を挟んで対向するように配設された一対の電極部14a、14bを有していてもよい。各電極部14a、14bは、ハニカム構造体10と電気的に接合される。当該構成により、ハニカム構造体10は、電圧を印加した時に、ハニカム構造体10内を流れる電流の偏りを抑制することができ、ハニカム構造体10内の温度分布の偏りを抑制することができる。電極部14a、14bの形状及び大きさは特に限定されず、ハニカム構造体10の大きさや通電性能等に応じて、適宜設計することができる。例えば、各電極部14a、14bは、ハニカム構造体10のセル15の延びる方向に延びる帯状に設けてもよい。
【0036】
電極部14a、14bは導電性を有する材料で形成される。電極部14a、14bは、酸化物セラミック、又は金属若しくは金属化合物と酸化物セラミックとの混合物であることが好ましい。金属として、単体金属又は合金のいずれでもよく、例えばシリコン、アルミニウム、鉄、ステンレス、チタン、タングステン、Ni-Cr合金などを好適に用いることができる。金属化合物として、酸化物セラミック以外の物であって、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属珪化物、金属ホウ化物、複合酸化物等が挙げられ、例えばFeSi2、CrSi2、アルミナ、シリカ、酸化チタンなどを好適に用いることができる。金属と金属化合物は、いずれも、単独一種でもよく、二種以上を併用しても良い。酸化物セラミックとしては、具体的には、ガラス、コージェライト、ムライトなどがある。ガラスは、B、Mg、Al、Si、P、Ti及びZrから選択される少なくとも一種の成分からなる酸化物を更に含んでも良い。上記成分からなる酸化物を更に含んでいると、電極部14a、14bの強度がより向上する点で更に好ましい。電極部14a、14bを構成する材料は、上述のハニカム構造体10を構成する材料と同様に、炭化珪素、窒化珪素及び窒化アルミニウムから選択される一種以上を含む粒子と、ドーパントによりドープされているケイ素と、を含有する材料であるのがより好ましい。このような構成によれば、電極部14a、14bがハニカム構造体10と同質の材料で構成されているため、ハニカム基材-電極部の界面が無くなり、強度が向上する。電極部14a、14bは、炭化珪素と、ドーパントによりドープされているケイ素と、を含有することがより好ましい。
【0037】
<ハニカム構造体の製造方法>
ハニカム構造体10の作製は、公知のハニカム構造体の製造方法におけるハニカム構造体の作製方法に準じて行うことができる。例えば、ハニカム構造体10は、以下に説明する方法に従って製造することができる。
例えば、まず、炭化珪素粉末を含むセラミックス粉末に、バインダ、界面活性剤、水等を添加して成形原料を作製する。
【0038】
バインダとしては、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロポキシルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等を挙げることができる。これらの中でも、メチルセルロースとヒドロキシプロポキシルセルロースとを併用することが好ましい。バインダの含有量は、炭化珪素粉末を含むセラミックス粉末の質量を100質量部としたときに、2.0~10.0質量部であることが好ましい。
【0039】
水の含有量は、炭化珪素粉末を含むセラミックス粉末の質量を100質量部としたときに、20~60質量部であることが好ましい。
【0040】
界面活性剤としては、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸石鹸、ポリアルコール等を用いることができる。これらは、一種単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。界面活性剤の含有量は、炭化珪素粉末を含むセラミックス粉末の質量を100質量部としたときに、0.1~2.0質量部であることが好ましい。
【0041】
本発明の気孔率に影響を与えない範囲で、造孔材を添加してもよい。造孔材としては、例えば、澱粉、発泡樹脂、吸水性樹脂等を挙げることができる。
【0042】
次に、得られた成形原料を混練して坏土を形成した後、坏土を押出成形して生の(未焼成の)ハニカム成形体を作製する。押出成形に際しては、所望の全体形状、セル形状、隔壁厚み、セル密度等を有する口金を用いることができる。
【0043】
次に、得られたハニカム成形体を乾燥し、脱脂することでハニカム脱脂体を作製する。脱脂工程は400~500℃で大気雰囲気、不活性雰囲気、減圧雰囲気にて実施する。その後、減圧の不活性ガス又は真空中で、ハニカム脱脂体にケイ素(金属ケイ素)を含浸して焼成することによって、ハニカム構造体を得ることができる。ドーパント源としては、ドーパントを添加したケイ素、及び/又は成形原料にドーパント源を添加することで、ハニカム構造体10において、ケイ素中のドーパントの濃度が1×1016~5×1020個/cm3となるように、ドーパント元素に応じて適宜調整する。
【0044】
上述したとおり、減圧の不活性雰囲気又は真空中で、ハニカム脱脂体にドーパントによりドープされているケイ素、又はハニカム脱脂体中のドーパント源と共に含浸焼成することによって、隔壁により区画形成されたセルを有する柱状のハニカム構造体を得ることができる。この含浸焼成によって、ハニカム脱脂体中の気孔を溶融したケイ素が充填されて固化することで、ハニカム構造体の気孔率を30%以下に達成することが可能である。不活性雰囲気としては、窒素ガス雰囲気、アルゴン等の希ガス雰囲気、又はこれらの混合ガス雰囲気が挙げられる。ケイ素の含浸焼成方法としては、ケイ素を含む塊とハニカム脱脂体とが接触するように配置して焼成する方法が挙げられる。
【0045】
焼成温度は、焼結を十分に行うために、1350℃以上とすることが好ましく、1400℃以上とすることがより好ましく、1450℃以上とすることが更により好ましい。焼成温度は、焼成時の製造コストを抑えるため、2200℃以下とすることが好ましく、1800℃以下とすることがより好ましく、1600℃以下とすることが更により好ましい。
【0046】
焼結を十分に行うため、ハニカム脱脂体の上記の焼成温度における加熱時間は、0.25時間以上とすることが好ましく、0.5時間以上とすることがより好ましく、0.75時間以上とすることが更により好ましい。焼成時の製造コストを抑えるために、ハニカム脱脂体の上記の焼成温度における加熱時間は、5時間以下とすることが好ましく、4時間以下とすることがより好ましく、3時間以下とすることが更により好ましい。
【0047】
また、焼成後、耐久性向上のために、1000~1350℃で1~10時間の酸化処理を行うことが好ましい。酸化処理とは、酸化雰囲気(例えば、大気下など)での加熱処理を意味する。
【0048】
次に、必要に応じて、ハニカム構造体10の中心軸を挟んで対向するように一対の電極部14a、14bを配設してもよい。
【0049】
<電気加熱式担体>
図2は、本発明の実施形態における電気加熱式担体20のセルが延びる方向に垂直な断面模式図である。電気加熱式担体20は、ハニカム構造体10と、一対の金属端子24a、24bとを備える。一対の金属端子24a、24bは、ハニカム構造体10の中心軸を挟んで対向するように配設され、それぞれ一対の電極部14a、14b上に設けられており、電気的に接合されている。これにより、金属端子24a、24bは、電極部14a、14bを介して電圧を印加すると通電してジュール熱によりハニカム構造体10を発熱させることが可能である。このため、ハニカム構造体10はヒーターとしても好適に用いることができる。
【0050】
金属端子24a、24bの材質としては、金属であれば特段の制約はなく、単体金属及び合金等を採用することもできるが、耐食性、電気抵抗率及び線膨張率の観点から例えば、Cr、Fe、Co、Ni及びTiから選択される少なくとも一種を含む合金とすることが好ましく、ステンレス鋼及びFe-Ni合金がより好ましい。金属端子24a、24bの形状及び大きさは、特に限定されず、電気加熱式担体20の大きさや通電性能等に応じて、適宜設計することができる。
【0051】
電気加熱式担体20に触媒を担持することにより、電気加熱式担体20を触媒体として使用することができる。複数のセル15の流路には、例えば、自動車排気ガス等の流体を流すことができる。触媒としては、例えば、貴金属系触媒又はこれら以外の触媒が挙げられる。貴金属系触媒としては、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)といった貴金属をアルミナ細孔表面に担持し、セリア、ジルコニア等の助触媒を含む三元触媒や酸化触媒、又は、アルカリ土類金属と白金を窒素酸化物(NOx)の吸蔵成分として含むNOx吸蔵還元触媒(LNT触媒)が例示される。貴金属を用いない触媒として、銅置換又は鉄置換ゼオライトを含むNOx選択還元触媒(SCR触媒)等が例示される。また、これらの触媒から選択される二種以上の触媒を用いてもよい。なお、触媒の担持方法についても特に制限はなく、従来、ハニカム構造体に触媒を担持する担持方法に準じて行うことができる。
【0052】
<排気ガス浄化装置>
本発明の実施形態に係る電気加熱式担体20は、排気ガス浄化装置に用いることができる。当該排気ガス浄化装置は、電気加熱式担体20と、当該電気加熱式担体20を保持する缶体とを有する。排気ガス浄化装置において、電気加熱式担体20は、エンジンからの排気ガスを流すための排気ガス流路の途中に設置される。缶体としては、電気加熱式担体20を収容する金属製の筒状部材等を用いることができる。
【実施例
【0053】
以下、本発明及びその利点をより良く理解するための実施例を例示するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0054】
[実施例1]
<1.ハニカム構造体の作製>
炭化珪素原料として双峰性粒度分布をもつ炭化珪素(SiC)粉末を用意し、ドーパント源として窒化ホウ素粉末を用意した。この炭化珪素粉末と窒化ホウ素粉末とを混合し、セラミックス原料を調製した。次に、セラミックス原料に、バインダとしてメチルセルロースとヒドロキシプロポキシルセルロースとを添加し、造孔材として吸水性樹脂を添加すると共に、水を添加して成形原料とした。そして、成形原料を真空土練機により混練し、円柱状の坏土を作製した。炭化珪素粉末の平均粒子径は20μmであった。炭化珪素粉末の平均粒子径は、レーザー回折法で粒度の頻度分布を測定したときの、体積基準による算術平均径を指す。
【0055】
得られた円柱状の坏土を碁盤目状の口金構造を有する押出成形機を用いて成形し、セルの流路方向に垂直な断面における各セル形状が六角形である円柱状ハニカム成形体を得た。このハニカム成形体を高周波誘電加熱乾燥した後、熱風乾燥機を用いて120℃で2時間乾燥し、ハニカム乾燥体を作製した。
【0056】
ハニカム乾燥体を脱脂した後、真空中でハニカム脱脂体中にドーパント(ホウ素:B)がドープされているケイ素(金属ケイ素)を含浸して、1500℃で焼成することによって、ハニカム焼成体を得た。このとき、ケイ素中のドーパントの濃度が表1の数値となるように調整した。得られたハニカム構造体は、炭化珪素等の粒子をドメインとし、ケイ素をマトリックスとした、マトリックス-ドメイン構造を有することが、走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)による断面観察によって確認され、ケイ素が連続層として存在していた。
【0057】
<2.電極部の形成>
炭化珪素(SiC)粉末、窒化ホウ素粉末、メチルセルロース、グリセリン、及び水を、自転公転攪拌機で混合して、電極部形成ペーストを調製した。炭化珪素(SiC)粉末を100質量部としたときに、メチルセルロースは0.5質量部であり、グリセリンは10質量部であり、水は38質量部であった。炭化珪素粉末の平均粒子径は20μmであった。これらの平均粒子径はレーザー回折法で粒度の頻度分布を測定したときの、体積基準による算術平均径を指す。
次に、この電極部形成ペーストを曲面印刷機によって、ハニカム焼成体に対して適切な面積及び膜厚で塗布し、ハニカム構造体を作製した。
【0058】
[実施例2~6]
ケイ素中のドーパントの濃度を表1の数値となるように調整した以外は、実施例1と同様にしてハニカム構造体を作製した。
【0059】
[実施例7~14、比較例1]
ハニカム構造体における炭化珪素(SiC)粉末と金属珪素(Si)との質量割合を適宜調製し、また、ケイ素中のドーパントの濃度を表1の数値となるように調整した以外は、実施例1と同様にしてハニカム構造体を作製した。
【0060】
[比較例2]
珪素粉末、炭化珪素粉末、及び、窒化ホウ素を混合して、セラミック原料を調製した。そして、セラミック原料に、バインダとしてヒドロキシプロピルメチルセルロース、造孔材として吸水性樹脂を添加すると共に、水を添加して成形原料とした。そして、成形原料を真空土練機により混練し、円柱状の坏土を作製した。水の含有量は珪素粉末と炭化珪素粉末の合計を100質量部としたときに42質量部とした。
得られた円柱状の坏土を押出成形機を用いて成形し、各セルの断面形状が正方形である未焼成の柱状ハニカム構造部を得た。当該未焼成の柱状ハニカム構造部を高周波誘電加熱乾燥した後、熱風乾燥機を用いて120℃で2時間乾燥し、両底面を所定量切断し、ハニカム構造体とした。
次に、乾燥後のハニカム構造体を、脱脂(仮焼)し、焼成し、更に酸化処理してハニカム焼成体を得た。脱脂の条件は、550℃で3時間とした。焼成の条件は、アルゴン雰囲気下で、1400℃、2時間とした。酸化処理の条件は、1300℃で1時間とした。
【0061】
<3.気孔率>
ハニカム構造体における気孔率を、SEMによる断面観察結果の画像解析により測定した。具体的には、倍率500倍のSEMで得られたハニカム構造体の複数枚(本実施例及び本比較例では4枚)の断面観察写真から、実寸の観察面積が0.08mm2以上の領域(本実施例及び本比較例では0.1mm×0.2mm×4枚=0.08mm2)において、ハニカム構造体の面積S1における気孔の合計面積S2を求め、(S2/S1)×100%の式によって、ハニカム構造体における気孔率を算出した。
【0062】
<4.Si、SiC、SiO2含有率>
ハニカム構造体の隔壁及び外周壁中のSi、SiC、SiO2の組成量については、蛍光X線法により珪素元素量及び酸素元素量を測定し、抵抗加熱式赤外吸収法により炭素元素量を測定した。SiC量については、炭素元素は全てSiCによるものとし、分子量計算により隔壁及び外周壁中のSiC量を算出した。また、SiO2量については、酸素元素が全てSiO2によるものとし、分子量計算により隔壁及び外周壁中のSiO2量を算出した。Si量については、蛍光X線法により珪素元素量から、上記で算出したSiC量、SiO2量から、SiC中のSi量と、SiO2中のSi量とを合計したSi量を全体の珪素元素量から差し引いたものをSi量として算出した。
【0063】
<5.Si中のドーパント種、ドーパント量>
まず、ハニカム構造体を中心軸に垂直な面で切断し、切断面を露出させた。次に、ハニカム構造体の断面の凹凸を樹脂で埋め、更に、樹脂で埋めた面に対して研磨を行った。次に、ハニカム構造体の研磨面について観察し、ハニカム構造体を構成する材料の元素分析をエネルギー分散型X線分析(EDX分析:Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)で行った。
次に、研磨面中の「珪素」と判断された部分について、当該珪素中にホウ素が含まれるか否かの判別を、以下の方法で行った。まず、珪素元素が検出された部位について、研磨面の断面組織写真及び電子プローブマイクロアナライザー(EPMA分析:Electron Probe Micro Analyzer)によるマッピングで、珪素以外の元素が検出された部分をホウ素と判別した。
次に、EPMA分析にて、珪素元素のみ又はケイ素とホウ素が検出され、「珪素」と判別された部分について、以下の方法で、珪素中のホウ素の量を特定した。まず、「珪素」と判別された位置を含むハニカム構造体を、数ミリ厚に切断し、切断したハニカム構造体を、Broad Ion Beam法を用いて、その断面の調製を行うことにより、ホウ素の量を測定するための試料を作製した。Broad Ion Beam法とは、アルゴンイオンビームを使用した、試料断面の作製方法である。具体的には、試料の直上に遮蔽版を置き、その上からアルゴンのブロードイオンビームを照射して試料にエッチングを行うことで、遮蔽版の端面に沿った試料の断面を作製する方法のことをいう。次に、断面調製を行った試料について、飛行時間型二次イオン質量分析法(Time-of-Flight Secondary Ion Mass Spectrometry:TOF-SIMS)にて、珪素中のホウ素の分析を行った。飛行時間型二次イオン質量分析法では、まず、試料に、一次イオンビームを照射し、試料の表面から二次イオンを放出した。そして、放出させた二次イオンを、飛行時間型質量分析計に導入し、試料の最表面の質量スペクトルを得た。そして、得られた質量スペクトルによって、試料の分析を行い、珪素中のホウ素の濃度[ドーパント量](個/cm3)について、珪素中のホウ素のスペクトル強度と予め測定した濃度に関する測定値(例えば、検量線など)との相関によって換算して求めた。
【0064】
<6.体積抵抗率>
ハニカム構造体の体積抵抗率は、ハニカム構造体から棒状に切り出した試料に、銀ペーストと銀線とを軸方向に4箇所配置し、これを4端子法で測定した。
【0065】
<7.熱伝導率>
ハニカム構造体の熱伝導率の値は、光交流法による熱拡散率測定値、示差走査熱量計(DSC)による比熱測定値およびアルキメデス法による真密度測定値を測定した。熱拡散率測定値と比熱測定値と真密度測定値の積を熱伝導率の値とした。
【0066】
<8.耐熱衝撃性>
ハニカム構造体を収納する金属ケースと、当該金属ケース内に加熱ガスを供給することができるプロパンガスバーナーと、を備えたプロパンガスバーナー試験機を用いてハニカム構造体の加熱冷却試験を実施した。上記加熱ガスは、ガスバーナー(プロパンガスバーナー)でプロパンガスを燃焼させることにより発生する燃焼ガスとした。そして、上記加熱冷却試験によって、ハニカム構造体にクラックが発生するか否かを確認することにより、耐熱衝撃性を評価した。具体的には、まず、プロパンガスバーナー試験機の金属ケースに、得られたハニカム構造体を収納(キャニング)した。そして、金属ケース内に、プロパンガスバーナーにより加熱されたガス(燃焼ガス)を供給し、ハニカム構造体内を通過するようにした。金属ケースに流入する加熱ガスの温度条件(入口ガス温度条件)を以下のようにした。まず、5分で指定温度まで昇温し、指定温度で10分間保持し、その後、5分で100℃まで冷却し、100℃で10分間保持した。このような昇温、冷却、保持の一連の操作を「昇温、冷却操作」と称する。その後、ハニカム構造体のクラックを確認した。そして、指定温度を825℃から25℃ずつ上昇させながら上記「昇温、冷却操作」を繰り返した。以下の評価基準に基づき、ハニカム構造体の耐熱衝撃性の評価を行った。
評価AA:指定温度1000℃でクラックの発生が無い。
評価A:指定温度950℃~975℃でクラックの発生が無く、1000℃でクラックが発生。
評価B:指定温度900℃~925℃でクラックの発生が無く、950℃でクラックが発生。
【0067】
【表1】
【0068】
<9.考察>
実施例1~14に係るハニカム構造体は、いずれも、炭化珪素と、ドーパント(ホウ素)によりドープされているケイ素と、を含有し、ハニカム構造体の気孔率が30%以下であった。このため、低抵抗で、熱伝導率及び耐熱衝撃性が良好となった。
比較例1は、Si含有量が5質量%と少ないために高抵抗となり、加えて熱伝導率及び耐熱衝撃性が実施例1~14に比べて劣っていた。
比較例2は、ハニカム構造体の気孔率が30%を超えたため、熱伝導率及び耐熱衝撃性が実施例1~14に比べて劣っていた。
【符号の説明】
【0069】
10 ハニカム構造体
12 外周壁
13 隔壁
14a、14b 電極部
15 セル
20 電気加熱式担体
24a、24b 金属端子
20 電気加熱式担体
図1
図2