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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-26
(45)【発行日】2024-12-04
(54)【発明の名称】車両制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/20 20060101AFI20241127BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20241127BHJP
   H02P 27/08 20060101ALI20241127BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20241127BHJP
   B60W 20/00 20160101ALI20241127BHJP
   B60L 9/18 20060101ALN20241127BHJP
【FI】
B60L15/20 S ZHV
B60L50/16
H02P27/08
B60W10/08 900
B60W20/00 900
B60L9/18 P
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021051846
(22)【出願日】2021-03-25
(65)【公開番号】P2022149616
(43)【公開日】2022-10-07
【審査請求日】2024-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】中平 真一郎
(72)【発明者】
【氏名】千葉 直登
(72)【発明者】
【氏名】矢野 拓也
【審査官】橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-115110(JP,A)
【文献】特開2012-257435(JP,A)
【文献】特開2011-218924(JP,A)
【文献】国際公開第2017/169203(WO,A1)
【文献】特開2006-231977(JP,A)
【文献】特開2013-143861(JP,A)
【文献】特開2014-217112(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0109155(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20-6/547
B60L 1/00-3/12
7/00-13/00
15/00-58/40
B60W 10/00-20/50
H02P 21/00-25/03
25/04
25/10-27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータである第1駆動源を有し、前記第1駆動源から第1車輪へトルクが出力される車両に搭載される車両制御装置であって、
第1共振マップを記憶した記憶部と、
前記車両の車輪に出力されるトルクの値を示すトルク指令値を計算するコントロールユニットと、
前記車両の走行モードを第1モードと第2モードとに設定可能なモード設定部と、
を備え、
前記第1共振マップには矩形波制御される前記第1駆動源の動作領域において共振が生じる1つ又は複数の動作点が第1共振点として示され、
前記コントロールユニットは、
矩形波制御される前記第1駆動源の動作点の予測移動先が前記第1共振点に重なる場合に、前記第2モードであれば、前記トルク指令値を運転操作に基づき計算されるトルクの目標値である目標トルクに一致させ、前記第1モードであれば、前記トルク指令値を前記目標トルクよりも小さい値に減少させることが可能であることを特徴とする車両制御装置。
【請求項2】
前記コントロールユニットは、
矩形波制御される前記第1駆動源の動作点の予測移動先が前記第1共振点に重なる場合に、前記第1モードであれば、前記トルク指令値が前記目標トルクよりも小さい値になっても、前記第1駆動源の制御方式を矩形波制御から正弦波制御に切り替えることを特徴とする請求項1記載の車両制御装置。
【請求項3】
前記第2モードには、第2aモードと第2bモードとが含まれ、
前記コントロールユニットは、
矩形波制御される前記第1駆動源の動作点の予測移動先が前記第1共振点に重なる場合に、前記第2aモードであれば、前記トルク指令値が前記目標トルクに一致する範囲で前記第1駆動源の制御方式を矩形波制御から正弦波制御に切り替え、前記第2bモードであれば、前記第1駆動源の矩形波制御を維持させることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車両制御装置。
【請求項4】
前記車両は、内燃機関又は電動モータである第2駆動源を備え、
前記トルク指令値は、前記第1駆動源に出力させるトルクと前記第2駆動源に出力させるトルクとの合計値を示し、
前記目標トルクは、前記第1駆動源に出力させるトルクと前記第2駆動源に出力させるトルクとの合計の目標値を示すことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の車両制御装置。
【請求項5】
前記第2駆動源は電動モータであり、
前記記憶部は、矩形波制御される前記第2駆動源の動作領域において共振が生じる1つ又は複数の動作点が第2共振点として示された第2共振マップを記憶し、
前記コントロールユニットは、
矩形波制御される前記第2駆動源の動作点の予測移動先が前記第2共振点に重なる場合に、前記第1モードであれば、前記トルク指令値を前記目標トルクよりも小さい値に減少させることが可能であり、前記第2モードであれば、前記トルク指令値を前記目標トルクに一致させることを特徴とする請求項4記載の車両制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
引用文献1には、車両に搭載された回転電機を制御するシステムにおいて、回転電機を正弦波電流で駆動する制御モードと、矩形波電圧で駆動する制御モードとを切り替えることが記載されている。当該システムでは、低速領域では正弦波電流の制御モードが使用され、高速領域では矩形波電圧の制御モードが使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-081658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電動モータを矩形波の電圧で駆動することで正弦波電流で駆動するよりも大きなトルクを出力できる。一方、矩形波の電圧には高次の高調波成分が含まれるため、車両の電動モータを矩形波の電圧で駆動すると、電動モータ及びその周辺の回路に電気的な共振が生じ、当該共振によって車両にノイズ音が発生する。ユーザーは、大きなトルクの出力を望む場合もあれば、走行中の静寂感を望む場合もある。
【0005】
本発明は、車両の電動モータを駆動制御する車両制御装置においてユーザーの要望に応じた制御を実現できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様の車両制御装置は、
電動モータである第1駆動源を有し、前記第1駆動源から第1車輪へトルクが出力される車両に搭載される車両制御装置であって、
第1共振マップを記憶した記憶部と、
前記車両の車輪に出力される総トルクの値を示すトルク指令値を計算するコントロールユニットと、
前記車両の走行モードを第1モードと第2モードとに設定可能なモード設定部と、
を備え、
前記第1共振マップには矩形波制御される前記第1駆動源の動作領域において共振が生じる1つ又は複数の動作点が第1共振点として示され、
前記コントロールユニットは、
矩形波制御される前記第1駆動源の動作点の予測移動先が前記第1共振点に重なる場合に、前記第1モードであれば、前記トルク指令値を運転操作に基づき計算される目標トルクよりも小さい値に減少させることが可能であり、前記第2モードであれば、前記トルク指令値を前記目標トルクに一致させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、コントロールユニットは、第1共振マップに示された第1共振点に基づいて、第1駆動源及びその周辺回路で電気的な共振が生じることを抑制する制御を行うことができる。そして、このような制御が行われる際には、車両の車輪に出力されるトルクを目標トルクよりも小さい値にしなければならない場合がある。そこで、本発明によれば、第1モードの際、第1駆動源の動作点が第1共振点に重なる前に、コントロールユニットは、トルク指令値を目標トルクよりも小さい値に減少させることができる。したがって、電気的な共振に起因するノイズ音の発生を抑制するためにトルクが減少してしまう場合でも、コントロールユニットは、当該トルクに合わせたトルク指令値を出力して、ノイズ音の発生を抑制する制御を実行できる。また、第2モードの際、第1駆動源の動作点が第1共振点に重なる場合でも、コントロールユニットは、トルク指令値を目標トルクに一致させる。したがって、車輪に出力されるトルクが目標トルクよりも小さくなることが抑制される。よって、ユーザーが静寂性を求めるときと、大きなトルクを求めるときとで、走行モードの設定によりユーザーの要望に応じることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態1の車両制御装置が搭載される車両を示すブロック図である。
図2】記憶部に記憶される第1共振マップを示す図である。
図3】バッテリ、インバータ、第1駆動源及びその周辺の回路構成を示す図である。
図4】第1駆動源の動作領域を説明する図である。
図5】第1駆動源を正弦波制御する際の電圧位相とトルクとの関係を示すグラフである。
図6】第1モード及び第2aモードにおける車両制御装置の作用の一例を説明する図である。
図7】第1モードにおける車両制御装置の作用の一例を説明する図である。
図8】第2aモードにおける実施形態1に係る車両制御装置の作用の一例を説明する図である。
図9】コントロールユニットが実行するトルク指令値計算処理を示すフローチャートである。
図10図9のステップSA2で実行される第1モードのトルク指令値計算処理を示すフローチャートである。
図11図9のステップSA3で実行される第2aモードのトルク指令値計算処理を示すフローチャートである。
図12図9のステップSA4で実行される第2bモードのトルク指令値計算処理を示すフローチャートである。
図13】実施形態2の車両制御装置が搭載される車両を示すブロック図である。
図14A】第1モード及び第2aモードにおける実施形態2に係る車両制御装置の作用の一例を説明する図であり、第1駆動源の動作点の遷移を示す。
図14B】第1モード及び第2aモードにおける実施形態2に係る車両制御装置の作用の一例を説明する図であり、第2駆動源の動作点の遷移を示す。
図15A】第1モードにおける実施形態2に係る車両制御装置の作用の一例を説明する図であり、第1駆動源の動作点の遷移を示す。
図15B】第1モードにおける実施形態2に係る車両制御装置の作用の一例を説明する図であり、第2駆動源の動作点の遷移を示す。
図16A】第2aモードにおける実施形態2に係る車両制御装置の作用の一例を説明する図であり、第1駆動源の動作点の遷移を示す。
図16B】第2aモードにおける実施形態2に係る車両制御装置の作用の一例を説明する図であり、第2駆動源の動作点の遷移を示す。
図17A】実施形態2の第1モードのトルク指令値計算処理を示すフローチャートの第1部である。
図17B】実施形態2の第1モードのトルク指令値計算処理を示すフローチャートの第2部である
図18】実施形態2の第2aモードのトルク指令値計算処理を示すフローチャートの一部である。
図19】実施形態2の第2bモードのトルク指令値計算処理を示すフローチャートである。
図20】変形例1において記憶部に記憶される第2共振マップを示す図である。
図21】変形例2のコントロールユニットが実行するトルク指令値計算処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の各実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0010】
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係る車両制御装置を搭載した車両を示すブロック図である。図2Aは、記憶部に記憶された第1共振マップを示す図である。
【0011】
実施形態1の車両制御装置10は、図1に示すように、電動モータである第1駆動源4を備える車両1に搭載される。第1駆動源4は、矩形波制御されることがあり、第1車輪2Aにトルクを出力する。車両制御装置10は、第1共振マップM1を記憶した記憶部11と、第1駆動源4に出力させるトルクの値を示す第1トルク指令値を計算するコントロールユニット12と、車両1の走行モードを設定可能なモード設定部13とを備える。車両1は、第1駆動源4の回転速度を直接又は間接的に計測する速度センサ4aを有し、速度センサ4aの計測値はコントロールユニット12に送られる。車両1は、運転操作部9、バッテリ7及びインバータ6を備える。
【0012】
モード設定部13は、車両1の走行モードが設定され、設定された走行モードを記憶する。モード設定部13は、ユーザーによる設定操作(例えばスイッチ操作)によって設定内容を切り替えることができ、設定された走行モードの情報をコントロールユニット12に送る。
【0013】
設定可能な走行モードには、第1モードと第2モードとが含まれる。第2モードには、第2aモードと第2bモードとが含まれる。各走行モードは、次のように呼んでもよい。
第1モード・・・サイレントモード
第2aモード・・・スタンダードモード
第2bモード・・・アクティブモード
第1モードは、電気的な共振に起因するノイズ音を抑制するために一時的なトルクの減少を許容する走行モードである。第2モードは、上記一時的なトルクの減少を許容しない走行モードである。第2aモードは、一時的なトルクの減少が生じない範囲で電気的な共振に起因するノイズ音を抑制する走行モードである。第2bモードは、電気的な共振に起因するノイズ音を抑制する制御を行わない走行モードである。上記のトルクの減少とは、運転操作に基づき計算される目標トルク(後述)よりも小さい値への減少を意味する。
【0014】
第1共振マップM1には、図2に示すように、矩形波制御されるときの第1駆動源4の動作領域R3において、第1駆動源4又はその周辺に共振が生じる1つ又は複数の動作点の各々が第1共振点X1として示される。図2中、第1共振点X1を記号“*”により示す。第1共振マップM1は、試験又はシミュレーション等に基づき予め作成され、記憶部11に格納される。
【0015】
第1駆動源4の動作領域は、第1駆動源4の回転速度と、第1駆動源4のトルクとを成分とする2次元領域により表わされ、当該領域中の1つの点が、第1駆動源4の1つの動作点に相当する。
【0016】
第1駆動源4の動作領域には、正弦波制御が行われる動作領域R1、矩形波制御が行われる動作領域R3、正弦波制御と矩形波制御との間で過渡的な制御が行われる動作領域R2とが含まれる。
【0017】
正弦波制御とは、インバータ6がスイッチング制御によりPWM(Pulse Width Modulation)変調された正弦波電流を第1駆動源4に出力し、第1駆動源4を力行運転又は回生運転する制御を意味する。矩形波制御とは、インバータ6が第1駆動源4の回転位相に応じた矩形波状のパルス電圧を出力し、第1駆動源4を力行運転する制御を意味する。矩形波状のパルス電圧は、電圧の立上り時と立下り時とにインバータ6のパワー半導体スイッチ素子のオンとオフとが切り替わることで生成される。過渡的な制御は、PWM変調可能な正弦波電流の最大振幅を超える制御が行われることでインバータ6が正弦波に対して歪んだ波形の電流を出力し、第1駆動源4を力行運転する制御を意味する。
【0018】
第1共振マップM1に示される複数の第1共振点X1は、矩形波制御が行われる動作領域R3に含まれる。第1共振点X1は、典型的には、動作領域R3中の特定の回転速度範囲W1に集まる。第1共振点X1が集まる特定の回転速度範囲はW1、1つのみである場合もあれば、複数である場合もある。
【0019】
図3は、バッテリ7、インバータ6、第1駆動源4及びその周辺の回路構成を示す図である。図3に示すように、バッテリ7、インバータ6、第1駆動源4及びこれらの周辺回路(リレー3a、コネクタ3b、3c等)の間には、インダクタンスL1~L4、L7~L9が備わる。また、インバータ6には、スイッチング回路6aの前段にインダクタンスL5、L6及びキャパシタC1が備わる。したがって、第1駆動源4及びインバータ6の周辺ではインダクタンスL1~L9とキャパシタC1とが共振回路となり特定の周波数で電気的な共振が生じる場合がある。第1共振マップM1に示される第1共振点X1は、上記の電気的な共振が物理的な振動となってノイズ音が生じる動作点である。矩形波の電圧には、高次の高調波成分が含まれるため、上記の電気的な共振が生じやすい。このような理由から、第1共振点X1は、矩形波制御が行われる動作領域R3に含まれる。
【0020】
コントロールユニット12は、計算処理を行うCPU(Central Processing Unit)と、CPUがデータを展開するRAM(Random Access Memory)と、CPUが実行する制御プログラムを格納したROM(Read Only Memory)と、CPUとコントロールユニット12の外部の機器との間で信号を授受するインタフェースとを備えるECU(Electronic Control Unit)である。コントロールユニット12は、1つのECUから構成されてもよいし、互いに通信を行って連携して動作する複数のECUから構成されてもよい。
【0021】
コントロールユニット12は、運転操作部9の操作(アクセル操作量及びブレーキ操作量)と、予め定められた制約条件とに基づいて、第1トルク指令値を計算する。より具体的には、まず、コントロールユニット12は、アクセル操作量又はブレーキ操作量に対応する要求トルクを計算する。要求トルクとは、運転操作によって要求されるトルクを意味する。さらに、コントロールユニット12は、急激なトルク変動を抑制するなどの幾つかの制約条件を要求トルクに付加して目標トルクを計算する。目標トルクとは、出力するトルクの目標値を意味する。そして、目標トルクを第1駆動源4の第1トルク指令値とする。なお、複数の駆動源が有る場合には、コントロールユニット12は、目標トルクを各駆動源に割り当てる割合を決定し、第1駆動源4に割り当てられた目標トルクを第1トルク指令値とする。
【0022】
第1トルク指令値は、第1駆動源4から出力されるトルクの値を意味する。第1トルク指令値は、インバータ6の制御回路へ送られ、制御回路は第1駆動源4から第1トルク指令値に一致するトルクが出力されるようにフィードバック制御を行ってインバータ6の動作を制御する。インバータ6が動作することで、バッテリ7と第1駆動源4との間で電力が送られ、第1駆動源4が力行運転又は回生運転され、第1トルク指令値のトルクが出力される。
【0023】
実施形態1では、車両1の車輪(第1車輪2A又はその他の車輪)にトルクを出力する駆動源が第1駆動源4のみである場合を想定している。したがって、実施形態1では、第1駆動源4の目標トルクが車両1全体の目標トルクに相当し、第1トルク指令値は車両1全体のトルク指令値に相当する。車両1全体のトルク指令値とは、車両1の全ての車輪に出力される全てのトルクの値を示す。
【0024】
図4は、第1駆動源の動作領域を説明する図である。前述した正弦波制御される動作領域R1、矩形波制御される動作領域R3、並びに、過渡的な制御が行われる動作領域R2(図2を参照)は、通常時における第1駆動源4の制御方式と動作領域との関係を示している。図4においては境界線U1が動作領域R1、R2の境を示し、境界線U2が動作領域R2、R3の境を示す。
【0025】
一方、図4に示すように、第1駆動源4は、動作領域R1よりも広い動作領域R4で第1駆動源4を正弦波制御することができる。図4において、正弦波制御が可能な動作領域R4を網掛けで示す。正弦波制御可能な動作領域R4は、通常時に矩形波制御される動作領域R3と一部がオーバーラップする。
【0026】
図5は、第1駆動源を正弦波制御する際の電圧位相とトルクとの関係を示すグラフである。インバータ6の制御回路は、第1駆動源4から出力されるトルクの推定値と第1トルク指令値とが一致するようフィードバック制御を行って、インバータ6の出力電圧の電圧位相P1を制御している。電圧位相P1とは、第1駆動源4の回転位相角と、インバータ6の出力電圧の位相角との差を意味する。より具体的には、電圧位相P1とは、第1駆動源4が三相モータである場合、各相のモータコイルに発生する誘起電圧の位相角と、インバータ6から出力される電圧の位相角との差を意味する。正弦波制御の際、インバータ6の制御回路は、正弦波電流の振幅と電圧位相P1とを制御することで、第1駆動源4のトルクを変化させる。
【0027】
図5に示すように、正弦波電流の振幅を一定とした場合、電圧位相P1が小さい値から規定位相Pmaxへ進むほど、第1駆動源4のトルクが大きくなる。さらに、電圧位相P1が規定位相よりも進んだ限界位相PLに向かうと、第1駆動源4のトルクが大きくなる。一方、電圧位相P1が限界位相PLを過ぎると、第1駆動源4のトルクが小さくなる。
【0028】
インバータ6の制御回路は、通常時の正弦波制御においては、電圧位相P1を規定位相Pmax以下の範囲で制御している。一方、電圧位相P1の制御範囲を限界位相PLまで広げることで、図4に示したように広い動作領域R4で正弦波制御を行うことができる。
【0029】
正弦波制御可能な動作領域R4は、正弦波制御における電圧位相P1が限界位相PL以下の領域に相当する。そして、動作領域R4の上側の境界線e1(図4に破線で示す)は、正弦波制御での電圧位相P1が限界位相PLに達した動作点に相当する。すなわち、第1駆動源4の動作点が、動作領域R4の境界線e1に位置する場合、当該動作点のトルクの値は、当該動作点の回転速度のときに正弦波制御で出力可能な上限トルクに相当する。
【0030】
したがって、第1駆動源4の動作点が、矩形波制御の動作領域R3に位置していても、境界線e1よりも下側に位置していれば、第1駆動源4のトルクを維持しつつ第1駆動源4の制御方式を矩形波制御から正弦波制御に切り替えることが可能である。一方、第1駆動源4の動作点が、矩形波制御の動作領域R3でかつ境界線e1よりも上側に位置していれば、第1駆動源4のトルクを維持したまま、第1駆動源4の制御方式を矩形波制御から正弦波制御に切り替えることはできない。この場合、第1駆動源4のトルクを下げて動作点を境界線e1より下側に移動させることで、第1駆動源4の制御方式を矩形波制御から正弦波制御に切り替えることが可能となる。ここでは、トルクが大きい方を上側と呼び、トルクが小さい方を下側と呼んでいる。
【0031】
通常時、インバータ6の制御回路は、第1トルク指令値と第1駆動源4の回転速度に応じて、第1駆動源4の制御方式を、正弦波制御、矩形波制御及び過渡的な制御に適宜切り替える。本実施形態においては、第1駆動源4の動作点が、動作領域R3、R4のオーバーラップ部分に位置する際には、コントロールユニット12の制御によって、第1駆動源4の制御方式を正弦波制御と矩形波制御とに切り替えることができるように構成されている。具体的な一例としては、コントロールユニット12が、インバータ6の制御回路に制御方式を指定する信号を出力することで、制御回路が上記の切り替えを行うように構成される。
【0032】
<第1モードの制御>
続いて、第1モードが設定されているときのコントロールユニット12の制御内容を説明する。コントロールユニット12は、第1駆動源4の駆動中、第1駆動源4の動作点の予測軌跡が第1共振点X1に重なるか否かを監視する。ここで、動作点の予測軌跡とは、トルクの変化率(単位時間当たりの変化量)を一定、あるいは、トルクを一定にしたときの動作点の軌跡を意味する。動作点の軌跡を計算する際、コントロールユニット12は、トルクと路面の傾斜度とから第1駆動源4の回転速度の変化量を計算してもよい。あるいは、路面の傾斜度の代わりに、直前のトルクに対する回転速度の変化率を用いて、第1駆動源4の回転速度の変化量を計算してもよい。予測軌跡の各動作点が、第1駆動源4の動作点の予測移動先に相当する。
【0033】
そして、第1駆動源4の動作点の予測軌跡が第1共振点X1に重なる場合、コントロールユニット12は、第1駆動源4の制御方式を矩形波制御から正弦波制御に切り替える。第1駆動源4の動作点が第1共振点X1に重なる前に、第1駆動源4の制御方式が正弦波制御に切り替わることで、電気的な共振に起因したノイズ音の発生を抑制することができる。
【0034】
また、上記のように正弦波制御に切り替える際、コントロールユニット12は、第1駆動源4のトルクが、正弦波制御での上限トルク(そのときの回転速度での上限トルク)より大きい場合、第1トルク指令値を減少させる。具体的には、目標トルクが上記の上限トルクより大きくても、コントロールユニット12は、第1トルク指令値を上記の上限トルク以下にする。なお、コントロールユニット12は、正弦波制御に切り替える際、インバータ6の出力電圧の電圧位相が限界位相PLを超えるか否かを判別することによって、第1駆動源4のトルクが上限トルクより大きいか否かを判別してもよい。
【0035】
さらに、コントロールユニット12は、正弦波制御へ切り替えた後、第1駆動源4の動作点が第1共振点X1を過ぎたと判断したら、第1駆動源4の制御方式の指定を終了する。したがって、その後、動作点の位置に応じた制御方式が適用される。
【0036】
また、コントロールユニット12は、正弦波制御へ切り替える際に、第1トルク指令値を目標トルクよりも小さい値に減少させた場合には、上記の制御方式の指定を終了するのと並行して、第1トルク指令値を目標トルクに戻す。
【0037】
<第2aモードの制御>
続いて、第2aモードが設定されているときのコントロールユニット12の制御内容を説明する。第2aモードでは、コントロールユニット12は、第1モードと同様に、予測軌跡が第1共振点X1に重なるか否かを監視する。
【0038】
そして、第1駆動源4の動作点の予測軌跡が第1共振点X1に重なる場合、コントロールユニット12は、第1駆動源4のトルクが、正弦波制御での上限トルク以下であれば、第1駆動源4の制御方式を矩形波制御から正弦波制御に切り替える。第1駆動源4の動作点が第1共振点X1に重なる前に、第1駆動源4の制御方式が正弦波制御に切り替わることで、電気的な共振に起因したノイズ音の発生を抑制することができる。正弦波制御へ切り替えた後、第1駆動源4の動作点が第1共振点X1を過ぎたと判断したら、コントロールユニット12は、第1駆動源4の制御方式の指定を終了する。したがって、その後、動作点の位置に応じた制御方式が適用される。
【0039】
一方、第1駆動源4の動作点の予測軌跡が第1共振点X1に重なる場合、コントロールユニット12は、第1駆動源4のトルクが、正弦波制御での上限トルクより大きければ、第1駆動源4の制御方式を矩形波制御のままとする。この場合、第1駆動源4の動作点が第1共振点X1に重なり、電気的な共振に起因したノイズ音が発生するが、車両1を駆動する総トルクが目標トルクより小さくなってしまうことが抑制される。
【0040】
<第2bモードの制御>
第2bモードでは、コントロールユニット12は、第1駆動源4の動作点が第1共振点X1に重なることを抑制する制御を行わない。コントロールユニット12は、第1駆動源4の動作点と第1共振点X1とが近接するか否かに関わらず、目標トルクを第1トルク指令値としてインバータ6の制御回路に出力する。第2bモードにおいてコントロールユニット12は、予測軌跡の計算、並びに、予測軌跡が第1共振点X1に重なるか否かの監視も行わなくてもよい。
【0041】
<第1モード及び第2aモードの動作例>
図6は、第1モード及び第2aモードにおける車両制御装置の作用の一例を説明する図である。図6の軌跡J1~J4は、車両1の一つの走行例における第1駆動源4の動作点Aの遷移を示す。図6の走行性では、第1駆動源4のトルクの出力により、第1駆動源4の回転速度が漸次増加し(車両1が加速し)、第1駆動源4の動作点Aが軌跡J1~J4に沿って順に遷移している。
【0042】
軌跡J1では、運転者がアクセル操作量を増加させ、それに伴い第1駆動源4のトルクが増加している。軌跡J2では、運転者がアクセル操作量を維持し、それに伴い第1駆動源4のトルクがほぼ一定に遷移している。矩形波制御が行われる動作領域R3に動作点Aが位置するとき、コントロールユニット12は、動作点Aの予測移動先、すなわち、予測軌跡K3の動作点Aが第1共振点X1と重なるか否かを判断する。図6中、予測軌跡K3を太破線で示す。
【0043】
図6の走行例においては、軌跡J2、J3に沿って動作点Aが遷移する間、運転者はアクセル操作量を維持している。したがって、予測軌跡K3では、トルクが一定で第1駆動源4の回転速度が上昇する動作点Aの軌跡となっており、予測軌跡K3が第1共振点X1と重なっている。
【0044】
図6では、予測軌跡K3に沿って第1駆動源4のトルクが遷移したときに、トルクは正弦波制御での上限トルク(当該回転速度のときの上限トルク)以下である場合を示している。すなわち、上記トルクが限界位相PLを示す境界線e1より下側に位置する場合を示している。この場合、コントロールユニット12は、インバータ6の制御回路へ、制御方式を矩形波制御から正弦波制御へ切り替える信号を出力する。図6中、正弦波制御に切り替わったときの動作点Aの軌跡J3を細破線で示す。
【0045】
図6の走行例においては、正弦波制御されているときの動作点Aの軌跡J3は、第1共振点X1と重なっているが、このとき第1駆動源4は矩形波制御されていないので、第1駆動源4及びインバータ6の周辺に電気的な共振が生じることが抑制される。したがって、当該共振に起因するノイズ音の発生も抑制される。また、第1トルク指令値が目標トルクより小さい値に減少していないので、アクセル操作量を小さくしていないのに車両1のトルクが一時的に減少してしまうといった挙動も生じない。
【0046】
その後、動作点Aが軌跡J3に沿って遷移し、第1共振点X1を通過すると、コントロールユニット12は、動作点Aの予測軌跡が第1共振点X1と重ならないと判別し、インバータ6の制御方式の指定を終了する。その後の軌跡J4では、制御方式の指定が終了されたことで、第1駆動源4の制御方式が矩形波制御に戻っている。
【0047】
<第1モードの動作例>
図7は、第1モードにおける車両制御装置の作用の一例を説明する図である。図7の軌跡J1~J5は、車両1の一つの走行例における第1駆動源4の動作点Aの遷移を示す。図7の走行性では、第1駆動源4のトルクの出力により、第1駆動源4の回転速度が漸次増加し(車両1が加速し)、第1駆動源4の動作点Aが軌跡J1~J5に沿って順に遷移している。
【0048】
軌跡J1、J2は、前述した図6の場合と同様である。動作点Aが軌跡J2の後端に位置するとき、コントロールユニット12は、予測軌跡K3が第1共振点X1と重なると判別している。図7では、上記判別の際の動作点Aのトルクが、正弦波制御での上限トルク(そのときの回転速度における上限トルク)よりも大きい(境界線e1より上側に位置する)場合を示している。この場合、コントロールユニット12は、第1駆動源4の制御方式を正弦波方式に切り替え、かつ、第1トルク指令値を上限トルクよりも小さくなるよう、目標トルクより小さい値に減少させる。正弦波制御に切り替わったときの動作点Aの軌跡J3を細破線で示す。軌跡J3は、正弦波制御の電圧位相が限界位相PLであることを示す境界線e1よりも下側に位置する。
【0049】
軌跡J3では、第1駆動源4の動作点Aが第1共振点X1と重なるが、第1駆動源4の制御方式が正弦波制御に切り替えられていることで、第1駆動源4及びインバータ6の周辺に電気的な共振が生じることが抑制される。したがって、当該共振に起因するノイズ音の発生も抑制される。
【0050】
その後、動作点Aが、第1共振点X1を通過したら、コントロールユニット12が当該通過を判別し、第1駆動源4の制御方式の指定を終了する。さらに、コントロールユニット12は、第1トルク指令値を目標トルクに戻す。軌跡J4は、インバータ6の制御方式が矩形波制御に戻され、第1トルク指令値が目標トルクに戻される際の動作点Aの軌跡を示す。軌跡J4では、動作点Aが徐々に目標トルクに戻るよう、単位時間当たりのトルク変化量が規定値以下に制限されてもよい。軌跡J5は、第1トルク指令値が目標トルクに戻った後の動作点Aの軌跡を示す。
【0051】
<第2aモードの動作例>
図8は、第2aモードにおける車両制御装置の作用の一例を説明する図である。図8の動作例は、図7の動作例と比較して、軌跡J3のときの作用が異なる。図8においても、図7と同様に、予測軌跡K3が第1共振点X1と重なると判別した際の動作点Aのトルクが、正弦波制御での上限トルク(そのときの回転速度における上限トルク)よりも大きい(境界線e1より上側に位置する)場合を示している。この場合、コントロールユニット12は、第1駆動源4の制御方式を正弦波制御に指定せず(矩形波制御のままとし)、かつ、第1トルク指令値として目標トルクを出力する(軌跡J3)。同様に、第1駆動源4の動作点Aが第1共振点X1を過ぎた後も、第1駆動源4の駆動方式を指定せず、第1トルク指令値として目標トルクを出力する(軌跡J5)。
【0052】
このような動作により、第1駆動源4の動作点が第1共振点X1に重なり、電気的な共振に起因したノイズ音が発生する恐れがあるが、車両1を駆動するトルクが目標トルクより小さくなってしまうことが抑制される。
【0053】
<第2bモードの動作例>
第2bモードでは、図6及び図7に示した動作点Aを第1共振点X1から回避させる作用が行われない。第2bモードでは、第1駆動源4の動作点Aと第1共振点X1とが近接するか否かに関わらず、運転操作に応じたトルクが出力され、当該トルクに沿った軌跡で動作点Aが遷移する。
【0054】
<制御処理>
続いて、上記の制御動作を実現するコントロールユニットの制御処理の一例について説明する。図9は、コントロールユニットが実行するトルク指令値計算処理を示すフローチャートである。車両1が走行可能な状態において、コントロールユニット12は、常時、図9のトルク指令値計算処理を繰り返し実行する。
【0055】
トルク指令値計算処理では、コントロールユニット12は、まず、走行モードを判別する(ステップSA1)。そして、第1モード、第2aモード、第2bモードの各モードに応じたトルク指令値計算処理(ステップSA2~SA4)のいずれかを実行する。ステップSA2~SA4のトルク指令値計算処理は、1回の制御サイクル分の処理である。コントロールユニット12は、1回の制御サイクル分のトルク指令値計算処理を実行したら、ステップSA1に処理を戻し、再びステップSA1からの処理を繰り返す。
【0056】
図10は、図9のステップSA2で実行される第1モードのトルク指令値計算処理を示すフローチャートである。第1モードのトルク指令値計算処理に処理が移行すると、コントロールユニット12は、まず、別の制御処理によって計算された目標トルクを受け取る(ステップS1)。目標トルクは、運転操作と予め定められた制約条件とに従って計算される。さらに、コントロールユニット12は、速度センサ4aから第1駆動源4の回転速度の計測値を取得する(ステップS2)。
【0057】
次に、コントロールユニット12は、制御状態iに基づいて処理を分岐する(ステップS3)。制御状態iは、初期値“0”とされる。
【0058】
その結果、制御状態i=0で、ステップS4に処理が進むと、コントロールユニット12は、ステップS1で受け取った目標トルクを第1トルク指令値としてインバータ6の制御回路に出力する(ステップS4)。
【0059】
続いて、コントロールユニット12は、現時点から所定期間前までの各制御タイミングに出力した第1トルク指令値と、上記の各制御タイミングに受け取った第1駆動源4の回転速度の値とを用いて、第1駆動源4の動作点Aの予測軌跡を計算する(ステップS5)。計算される予測軌跡の長さ(期間長)は、動作点が第1共振点X1に重なる前に、第1駆動源4の制御方式を矩形波制御から正弦波制御に切り替えることのできる期間長に設定されるとよい。予測軌跡の計算方法としては、前述した方法を採用できる。
【0060】
次に、コントロールユニット12は、予測軌跡を第1共振マップM1に照合し、予測軌跡が第1共振点X1に重なるか否か判別する(ステップS6)。その結果、NOと判別されたら、ステップS1に処理を戻すが、YESと判別されたら、制御状態iを第1トルク指令値を増減するための値“1”に切り替えてから(ステップS7)、一回のトルク指令値計算処理を終了する。
【0061】
ステップS3の分岐処理の結果、制御状態i=1であれば、コントロールユニット12はステップS8に処理を分岐させる。すると、コントロールユニット12は、まず、ステップS1の目標トルクが、ステップS2の回転速度での正弦波制御における上限トルク以下か判別する(ステップS8)。目標トルクは急激に変化しないので、ステップS2で受け取った目標トルクは制御方式を正弦波制御に切り替える際の第1駆動源4のトルクと同等の値となる。
【0062】
そして、コントロールユニット12は、ステップS8の判別結果がYESであれば、第1トルク指令値に目標トルクを設定する(ステップS9)。一方、NOであれば、コントロールユニット12は、第1トルク指令値を目標トルクより小さい値(上記の上限トルクより小さい値)に減少させる(ステップS10)。そして、コントロールユニット12は、第1トルク指令値をインバータ6の制御回路へ出力し(ステップS11)、インバータ6の制御回路へ正弦波制御を指定する信号を出力する(ステップS12)。
【0063】
なお、ステップS8において、コントロールユニット12は、正弦波制御に切り替えた場合の電圧位相が限界位相PLを超えるか否かを判別することで、トルクが正弦波制御の上限トルクを超えるか否かを判別してもよい。
【0064】
続いて、コントロールユニット12は、第1駆動源4の動作点が第1共振点X1を過ぎたか否かを判別し(ステップS13)、NOであれば、そのまま一回のトルク指令値計算処理を終了する。一方、YESであれば、コントロールユニット12は、制御状態iを、初期状態に戻すために値“0”に切り替えてから(ステップS14)、一回のトルク指令値計算処理を終了する。
【0065】
そして、制御状態i=0で、コントロールユニット12が、ステップS1~S6のループに処理を戻すことで、制御方式の指定無しで目標トルクが第1トルク指令値として出力される通常時の制御に戻される。
【0066】
なお、ステップS10で第1トルク指令値を正弦波制御での上限トルク以下に減少させる場合、コントロールユニット12は、徐々に第1トルク指令値を小さくして上限トルク以下まで減少させてもよい。また、ステップS10で第1トルク指令値が小さい値まで減少させた後、ステップS4で第1トルク指令値が目標トルクに戻される場合には、コントロールユニット12は、第1トルク指令値を徐々に目標トルクに戻すように処理してもよい。
【0067】
さらに、トルク指令値計算処理において、コントロールユニット12は、第1駆動源4の動作点Aが動作領域R3又は動作領域R2、R3に位置するか否かを判別してもよい。そして、当該判別の結果がYESのときのみ、コントロールユニット12は、予測軌跡を計算する処理(S5)と、予測軌跡を第1共振マップM1に照合する処理(S6)とを行ってもよい。このような制御処理により、第1駆動源4が正弦波制御されているときのコントロールユニット12の制御処理の負荷を低減できる。
【0068】
図11は、図9のステップSA3で実行される第2aモードのトルク指令値計算処理を示すフローチャートである。図11のステップS1~S8、S12~S14は、図10の同一符号のステップと同様である。
【0069】
図11の処理では、ステップS3の分岐処理の結果、制御状態i=1であれば、コントロールユニット12はステップS15に処理を分岐させる。すると、コントロールユニット12は、ステップS1で受け取った目標トルクを第1トルク指令値としてインバータ6の制御回路に出力する(ステップS15)。
【0070】
続いて、コントロールユニット12は、ステップS8の判別を行い、YESであれば、そのままステップS13に処理を移行し、NOであれば、ステップS12で正弦波制御を指定して、ステップS13に処理を移行する。
【0071】
このような第2aモードのトルク指令値計算処理により、図6及び図8に示した制御動作が実現される。すなわち、第1駆動源4の動作点Aの予想移動先が第1共振点X1に重なるときに、トルクが正弦波制御の上限トルク以下であれば、正弦波制御に切り替えられることで、電気的な共振によるノイズ音の発生が抑制される。一方、第1駆動源4の動作点Aの予想移動先が第1共振点X1に重なるときに、トルクが正弦波制御の上限トルクよりも大きければ矩形波制御が継続され、アクセル操作量を小さくしていないのに車両1のトルクが一時的に減少してしまうといった挙動が生じない。
【0072】
図12は、図9のステップSA4で実行される第2bモードのトルク指令値計算処理を示すフローチャートである。当該処理では、コントロールユニット12は、まず、別の制御処理によって計算された目標トルクを受け取り(ステップS17)、受け取った目標トルクを第1トルク指令値としてインバータ6の制御回路に出力する(ステップS18)。そして、1回の制御サイクルの処理が終了する。
【0073】
このような第2bモードの第1トルク指令値処理により、第1駆動源4及びその周辺の電気的な共振に起因するノイズ音を抑制する制御が行われず、車両1を駆動するトルクが目標トルクより小さくなってしまうことが抑制される。
【0074】
以上のように、実施形態1の車両制御装置10によれば、コントロールユニット12は、第1共振マップM1に示された第1共振点X1に基づいて、第1駆動源4及びその周辺回路で電気的な共振が生じることを抑制する制御を行うことができる。そして、このような制御が行われる際には、車両1の車輪に出力されるトルクを目標トルクよりも小さい値にしなければならない場合がある。
【0075】
そこで、実施形態1の車両制御装置10によれば、第1モードの際、第1駆動源4の動作点Aが第1共振点X1に重なる前に、コントロールユニット12は、第1トルク指令値を第1駆動源4の目標トルクよりも小さい値に減少させることができる。したがって、電気的な共振に起因するノイズ音の発生を抑制するためにトルクが減少してしまう場合でも、コントロールユニット12は、当該トルクに合わせた第1トルク指令値を出力して、ノイズ音の発生を抑制する制御を実行できる。また、第2aモード及び第2bモードの際、第1駆動源の動作点が第1共振点に重なる場合でも、コントロールユニット12は、トルク指令値を目標トルクに一致させる。したがって、第1トルク指令値を減少させずに電気的な共振に起案するノイズ音の発生を抑制する制御が可能であれば、コントロールユニット12は、当該制御を実行する。一方、第1トルク指令値の減少を要する場合には、コントロールユニット12は、当該制御を実行しない。したがって、車輪に出力されるトルクが目標トルクより小さくなることが抑制される。よって、ユーザーが静寂性を求めるときと、大きなトルクを求めるときとで、走行モードの設定によりユーザーの要望に応じることができる。
【0076】
さらに、実施形態1の車両制御装置10によれば、コントロールユニット12は、第1モードの際、第1駆動源4の動作点Aが第1共振点X1に重なる際に、第1駆動源4の制御方式を矩形波制御から正弦波制御に切り替える制御を行う。また、そのときに第1トルク閾値が目標トルクより小さい値に減少させる必要があっても、コントロールユニット12は、当該制御を行う。したがって、第1モードにおいては、第1駆動源4及びその周辺回路の電気的な共振に起因するノイズ音の発生が抑制され、静寂性を求めるユーザーの要求に応じることができる。
【0077】
(実施形態2)
図13は、実施形態2の車両制御装置が搭載される車両を示すブロック図である。実施形態2の車両制御装置10が搭載される車両1Aは、実施形態1と同様の構成に加えて、第1車輪2Aにトルクを出力する第2駆動源5を備える。実施形態1と同様の構成要素は同一符号を付して説明を省略する。
【0078】
第2駆動源5は、例えば内燃機関であるエンジンであり、車両1Aは、第2駆動源5を駆動するための補機8を備える。なお、第2駆動源5は、矩形制御されない電動モータであってもよい。また、第1駆動源4と第2駆動源5とは同一の車輪(第1車輪2A)にトルクを出力するのではなく、別々の車輪(第1車輪2Aと第2車輪2B)にそれぞれトルクを出力してもよい。
【0079】
コントロールユニット12は、第1トルク指令値に加えて、第2駆動源5が出力するトルクの値を示す第2トルク指令値を計算する。第2トルク指令値は、補機8の制御回路に出力される。制御回路は第2駆動源5から第2トルク指令値に一致するトルクが出力されるようにフィードバック制御を行って補機8を動作させる。
【0080】
実施形態2においては、第1駆動源4の目標トルクと第2駆動源5の目標トルクとの合計が車両1A全体の目標トルクに相当し、第1トルク指令値と第2トルク指令値との合計が車両1A全体のトルク指令値に相当する。
【0081】
<第1モードの制御>
第1モードが設定されているときの実施形態2のコントロールユニット12は、実施形態1と同様に、第1駆動源4の動作点の予測軌跡が第1共振点X1に重なる場合に、第1駆動源4の制御方式を正弦波制御に切り替える。さらに、その際、第1駆動源4のトルクが正弦波制御での上限トルク(その時点の回転速度に応じた上限トルク)より大きい場合には、第1トルク指令値を例えば上記の上限トルク以下に減少させる。
【0082】
実施形態2においては、さらに、コントロールユニット12は、第1駆動源4の制御方式の切り替えに伴って第1トルク指令値を減少させる際、第2トルク指令値を増加させる。第2トルク指令値を増加量は、第1トルク指令値の減少量に対応させて、第1駆動源4と第2駆動源5の合計トルクの変化量が小さくなるように、あるいは、第1駆動源4と第2駆動源5の合計トルクが車両1A全体の目標トルクに近づくように設定されてもよい。
【0083】
一方、コントロールユニット12は、第1駆動源4の制御方式の切り替えに伴って第1トルク指令値を減少させ、第2トルク指令値を増加させる際、第2トルク指令値が第2駆動源5の上限トルクより大きくなる場合には、第2トルク指令値を上限トルクに制限する。第2駆動源5の上限トルクとは、その時点の回転速度で第2駆動源5(エンジン)から出力できる最大トルクを意味する。
【0084】
<第2aモードの制御>
第2aモードが設定されているときの実施形態2コントロールユニット12は、第1モードと同様に、予測軌跡が第1共振点X1に重なるか否かを監視する。そして、第1駆動源4の動作点の予測軌跡が第1共振点X1に重なる場合、コントロールユニット12は、第1駆動源4のトルクが、正弦波制御での上限トルク以下であれば、第1駆動源4の制御方式を矩形波制御から正弦波制御に切り替える。また、上記の場合で、第1駆動源4のトルクが正弦波制御での上限トルクより大きければ、コントロールユニット12は、第1トルク指令値を上記の上限トルク以下に減少させ、かつ、この減少量と同等の増加量で第2トルク指令値を増加させる。そして、第1駆動源4の制御方式を正弦波制御に切り替える。上記の減少量とは、第1駆動源4の目標トルクと第1トルク指令値との差分に相当する。
【0085】
このような制御により、第1駆動源4及びその周辺で電気的な共振に起因したノイズ音が発生することが抑制される。さらに、第1駆動源4から出力されるトルクと第2駆動源5から出力されるトルクとの合計が、車両1全体の目標トルクよりも小さくなってしまうことが抑制される。
【0086】
一方、上記のように第1駆動源4を正弦波制御に切り替え、第1トルク指令値と第2トルク指令値とを増減させる場合に、第2駆動源5のトルクが上限トルクに達して、第2トルク指令値の増加量を第1トルク指令値の減少量に一致させられない場合が想定される。この場合、第2トルク指令値を上限トルクまで増加させたとしても、車両1A全体のトルク指令値は、車両1A全体の目標トルクより小さくなる。第2aモードが設定されているコントロールユニット12は、このような場合には、第1駆動源4の制御方式を正弦波制御に切り替える制御を行わない。そして、コントロールユニット12は、第1トルク指令値として第1駆動源4の目標トルクを出力し、第2トルク指令値として第2駆動源5の目標トルクを出力する。
【0087】
このような制御により、第1駆動源4の動作点が第1共振点X1に重なり、電気的な共振に起因したノイズ音が発生する恐れがあるが、車両1を駆動する総トルクが車両1全体の目標トルクより小さくなってしまうことが抑制される。
【0088】
<第2bモードの制御>
第2bモードでは、コントロールユニット12は、第1駆動源4の動作点が第1共振点X1に重なることを抑制する制御を行わない。コントロールユニット12は、第1駆動源4の動作点と第1共振点X1とが近接するか否かに関わらず、第1駆動源4の目標トルクを第1トルク指令値としてインバータ6の制御回路に出力する。同様に、コントロールユニット12は、第2駆動源5の目標トルクを第2トルク指令値として補機8の制御回路に出力する。第2bモードにおいてコントロールユニット12は、予測軌跡の計算、並びに、予測軌跡が第1共振点X1に重なるか否かの監視も行わなくてもよい。
【0089】
<第1モード及び第2aモードの動作例>
図14A及び図14Bは、第1モード及び第2aモードにおける実施形態2に係る車両制御装置の作用の一例を説明する図である。図14Aは、車両1Aの一つの走行例における第1駆動源4の動作点Aの遷移を示す。図14Bは、図14Aと同一の走行例における第2駆動源5の動作点Bの遷移を示す。第1駆動源4の動作点が図14Aの軌跡J1~J5に沿って遷移するタイミングと、第2駆動源5の動作点が図14Bの軌跡J11~J15に沿って遷移するタイミングとは一致する。後述する図15A図15B、並びに、図16A図16Bについても同様である。
【0090】
図14A及び図14Bの走行例では、第1駆動源4及び第2駆動源5のトルクの出力により車速が漸次増し、それに伴い第1駆動源4及び第2駆動源5の回転速度が漸次増加している。また、当該走行例では、軌跡J3、J4に沿って動作点Aが遷移する期間、運転者はアクセル操作量を一定に維持している。
【0091】
図14Aにおいて、軌跡J3は、第1共振点X1に第1駆動源4の動作点Aが重なる際の軌跡を示している。すなわち、軌跡J3では、コントロールユニット12が第1駆動源4の制御方式を正弦波制御に切り替え、かつ、第1トルク指令値を正弦波制御での上限トルク以下に減少させている。
【0092】
実施形態2において、コントロールユニット12は、軌跡J3で第1トルク指令値を減少させる際、第2トルク指令値を増加させる(図14Bの軌跡J13)。このように、第1トルク指令値が第1駆動源4の目標トルクから乖離する際、第2トルク指令値を第2駆動源5の目標トルクよりも増加させることで、車両1A全体のトルクの変動を小さくすることができる。あるいは、車両1A全体のトルクを車両1A全体の目標トルクに近づけることができる。第2トルク指令値の増加量は、第1トルク指令値の減少量と一致するように計算される。すなわち、第2トルク指令値の増加量は、第1駆動源4の目標トルクと第1トルク指令値との差分に相当するように計算される。
【0093】
なお、第1駆動源4の制御方式が正弦波制御に切り替わって、第1駆動源4の動作点Aが第1共振点X1に重なる際、第1駆動源4のトルクが正弦波制御での上限トルク以下である場合も想定される。この場合には、第1駆動源4の制御方式の切り替えが行われるだけで、軌跡J3、J13に示したような第1トルク指令値及び第2トルク指令値の増減は行われない。
【0094】
<第1モードの動作例>
図15A及び図15Bは、第1モードにおける実施形態2に係る車両制御装置の作用の一例を説明する図である。ここでは、上述した図14A及び図14Bの動作例と違う点について説明し、同様の点については説明を省略する。
【0095】
図15A及び図15Bの動作例では、動作点Bの軌跡J13は、動作点Aの軌跡J3に対応して第2トルク指令値を増加させたときを示している。軌跡J13において、第2トルク指令値を第2駆動源5の目標トルクより大きい値に増加させる際、第2駆動源5のトルクが上限トルクに達している。そのため、軌跡J13に動作点Bが遷移する際、第2トルク指令値には、第2駆動源5の目標トルクに、第1トルク指令値の減少量に相当する増加量が加えられていない。
【0096】
このような動作においては、第1駆動源4の制御方式が正弦波制御に切り替えられることで、第1駆動源4の動作点Aが第1共振点X1に重なることが回避される。さらに、正弦波制御に切り替えるために、第1トルク指令値が第1駆動源4の目標トルクよりも小さな値に減少される際、第2トルク指令値が増加されることで、車両1全体のトルクが車両1全体の目標トルクより大きく減少してしまうことを抑制できる。ただし、第2駆動源5のトルクが上限トルクに達していることで、動作点A、Bがそれぞれ軌跡J3、J13を遷移する際には、車両1全体のトルクは、車両1全体の目標トルクより下回っている。
【0097】
<第2aモードの動作例>
図16A及び図16Bは、第2aモードにおける実施形態2に係る車両制御装置の作用の一例を説明する図である。当該動作例において、仮想的な軌跡J3v、J13vは、第1駆動源4の動作点Aが第1共振点X1に重なる前に、第1トルク指令値を減少させ、第2トルク指令値を増加させ、かつ、第1駆動源4の制御方式を正弦波制御に切り替えた場合を示す。しかしながら、当該動作例では、第2駆動源5のトルクが大きい値を推移しており、仮想的な軌跡J13vのように、第2トルク指令値を増加させて、第2駆動源5から当該トルクを出力させることができない。
【0098】
このような場合、第2aモードにおける実施形態2のコントロールユニット12は、第1駆動源4の動作点Aが第1共振点X1に重なることを許容し、その際に、第1駆動源4の制御方式を正弦波制御に切り替えない(軌跡J3)。さらに、その際、コントロールユニット12は、第1トルク指令値に第1駆動源4の目標トルクを設定し、第2トルク指令値に第2駆動源5の目標トルクを設定する(軌跡J3、J13)。
【0099】
このような動作により、第1駆動源4の動作点が第1共振点X1に重なり、電気的な共振に起因したノイズ音が発生する恐れがあるが、車両1を駆動する総トルクが車両1全体の目標トルクより小さくなってしまうことが抑制される。
【0100】
<制御処理>
図17A及び図17Bは、図9のステップSA2で実行される実施形態2の第1モードのトルク指令値計算処理を示すフローチャートである。図17A及び図17BのステップS1~S14は、実施形態1のトルク指令値計算処理のステップS1~S14(図10)と同一である。同一のステップについては、詳細な説明を省略する。
【0101】
実施形態2のトルク指令値計算処理では、ステップS2の後、コントロールユニット12は、別の制御処理によって計算された第2駆動源5の目標トルクを受け取る(ステップS21)。
【0102】
また、ステップS4の後、コントロールユニット12は、ステップS21で受け取った目標トルクを第2トルク指令値として補機8の制御回路に出力する(ステップS22)。
【0103】
また、ステップS9の後、コントロールユニット12は、第2トルク指令値を第2駆動源5の目標トルクに設定する(ステップS23)。
【0104】
また、ステップS10の後、コントロールユニット12は、第2トルク指令値を第2駆動源5の目標トルクよりも大きい値に増加させる(ステップS24)。第2トルク指令値の増加量は、ステップS10の第1トルク指令値の減少量と同等であってもよい。ただし、第2トルク指令値が第2駆動源5の上限トルク(そのときの回転速度での上限トルク)に達する場合には、第2トルク指令値は上限トルク以下に抑えられる。
【0105】
また、ステップS11の後、コントロールユニット12は、第2トルク指令値を補機8の制御回路に出力する(ステップS25)。
【0106】
なお、ステップS24で第2トルク指令値を増加させる場合、コントロールユニット12は、徐々に値が大きくなるように第2トルク指令値を増加させてもよい。また、ステップS12で第2トルク指令値を大きな値に増加させた後、ステップS22で第2トルク指令値が目標トルクに戻される場合には、コントロールユニット12は、第2トルク指令値を徐々に目標トルクに戻すように処理してもよい。
【0107】
上記の制御処理によって、図14A及び図14B、並びに、図15A及び図15Bに示した制御動作が実現される。
【0108】
以上のように、実施形態2の車両制御装置10によれば、コントロールユニット12は、第1トルク指令値を減少させて第1駆動源4の制御方式を正弦波制御に切り替える場合、第2トルク指令値を増加させる。したがって、第1駆動源4、インバータ6及びその周辺の電気的な共振に起因するノイズ音を抑制する際に、車両1A全体のトルクの変動を小さくすることができる。あるいは、車両1A全体のトルクを車両1A全体の目標トルクに近づけることができる。
【0109】
図18は、図9のステップSA3で実行される実施形態2の第2aモードのトルク指令値計算処理を示すフローチャートの一部である。フローチャートの残りの部分は、先に説明した図17Aと同様である。第2aモードのトルク指令計算処理は、第1モードのトルク指令値計算処理(図17A及び図17B)と一部が異なるのみである。次に、異なる箇所のみ説明する。
【0110】
コントロールユニット12は、ステップS10の後、第1トルク指令値の減少量に合わせて第2トルク指令値を増加する(ステップS26)。すなわち、ステップS10における第1駆動源4の目標トルクと第1トルク指令値との差分と、ステップS26における第2駆動源5の目標トルクと第2トルク指令値との差分とが相殺されるように、コントロールユニット12は、第2トルク指令値を増加する。
【0111】
続いて、コントロールユニット12は、ステップS26で増加させた第2トルク指令値が第2駆動源5(エンジン)の上限トルクより大きいか判別する(ステップS27)。そして、NOであれば、ステップS11に処理を移行する。一方、YESであれば、コントロールユニット12は、第1トルク指令値に第1駆動源4の目標トルクを設定して出力し(ステップS28)、第2トルク指令値に第2駆動源5の目標トルクを設定して出力する(ステップS29)。その後、コントロールユニット12は、ステップS13に処理を移行する。
【0112】
このような制御処理により、図14A及び図14B、並びに、図16A及び図16Bに示したような動作が実現される。
【0113】
図19は、図9のステップSA4で実行される実施形態2の第2bモードのトルク指令値計算処理を示すフローチャートである。当該処理では、コントロールユニット12は、まず、別の制御処理によって計算された第1駆動源4の目標トルクと第2駆動源5の目標トルクとを受け取る(ステップS17、S17a)。そして、受け取った第1駆動源4の目標トルクを第1トルク指令値としてインバータ6の制御回路に出力する(ステップS18)。また、受け取った第2駆動源5の目標トルクを第2トルク指令値としてインバータ8の制御回路に出力する(ステップS18a)。そして、1回の制御サイクルの処理が終了する。
【0114】
このような第2bモードの第1トルク指令値処理により、第1駆動源4及びその周辺の電気的な共振に起因するノイズ音を抑制する制御が行われず、車両1を駆動するトルクが目標トルクより小さくなってしまうことが抑制される。
【0115】
以上のように、実施形態2の車両制御装置10によれば、第1モードにおいて、コントロールユニット12は、第1駆動源4の動作点Aの予測移動先が第1共振点X1に重なる際に、車両1A全体のトルク指令値を減少させることができる。具体的には、上記の際に、コントロールユニット12には、車両1A全体のトルク指令値を、車両1A全体の目標トルクよりも小さい値に減少させることができる。したがって、電気的な共振に起因するノイズ音の発生を抑制するためにトルクが減少してしまう場合でも、コントロールユニット12は、当該トルクに合わせた第1トルク指令値と第2トルク指令値とを出力して、ノイズ音の発生を抑制する制御を実行できる。また、第2aモード及び第2bモードの際、第1駆動源の動作点が第1共振点に重なる場合でも、コントロールユニット12は、第1トルク指令値と第2トルク指令値との合計が、車両1A全体の目標トルクに一致させる。したがって、車両1A全体のトルク指令値を車両1A全体の目標トルクよりも小さい値に減少させずに電気的な共振に起案するノイズ音の発生を抑制する制御が可能であれば、コントロールユニット12は、当該制御を実行する。一方、車両1A全体のトルク指令値の上記の減少を要する場合には、コントロールユニット12は、当該制御を実行しない。したがって、車輪に出力されるトルク(車両1A全体のトルク)が車両1A全体の目標トルクより小さくなることが抑制される。よって、ユーザーが静寂性を求めるときと、大きなトルクを求めるときとで、走行モードの設定によりユーザーの要望に応じることができる。
【0116】
さらに、実施形態1の車両制御装置10によれば、コントロールユニット12は、第1モードの際、第1駆動源4の動作点Aが第1共振点X1に重なる際に、第1駆動源4の制御方式を矩形波制御から正弦波制御に切り替える制御を行う。また、そのときに第1トルク閾値を目標トルクより小さい値に減少させる必要がある場合に、コントロールユニット12は、当該トルクの減少量を、第2トルク指令値の増加によって補う。したがって、第1駆動源4及びその周辺回路の電気的な共振に起因するノイズ音の発生を抑制でき、かつ、車両1A全体のトルクが車両1A全体の目標トルクより小さくなってしまうことを抑制できる。
【0117】
一方、第1駆動源4の制御方式を矩形波制御から正弦波制御に切り替える際に、第1トルク閾値を目標トルクより小さい値に減少させる必要があり、かつ、当該トルクの減少量を第2トルク指令値の増加によって補うことができない場合も想定される。このような場合、コントロールユニット12は、第1駆動源4の制御方式を矩形波制御から正弦波制御に切り替えず、第1トルク指令値及び第2トルク指令値を各目標トルクから増減する処理も行わない。したがって、第1駆動源4の動作点が第1共振点X1に重なり、電気的な共振に起因したノイズ音が発生する恐れがあるが、車両1を駆動するトルクが目標トルクより小さくなってしまうことが抑制される。
【0118】
(変形例1)
なお、実施形態2において、第2駆動源5はエンジンでなく、電動モータであってもよい。この場合、補機8はインバータに置き換えられる。
【0119】
また、第2駆動源5は、正弦波制御及び矩形波制御される電動モータであり、第1駆動源4に対する第1共振点X1と同様に、矩形波制御される動作領域において1つ又は複数の共振点(「第2共振点」と呼ぶ)を有してもよい。この場合、記憶部11には、矩形波制御される第2駆動源5の動作領域において共振が生じる1つ又は複数の動作点が第2共振点として示された第2共振マップM2(図20を参照)が記憶される。
【0120】
変形例1においては、コントロールユニット12は、実施形態2において第1駆動源4と第2駆動源5とに対して行われる制御を、変形例1の第1駆動源4と第2駆動源5とに対しても同様に行う。第2駆動源5がエンジンから電動モータに変更されても、実施形態2の制御処理を同様に適用することができる。なお、実施形態2の第2駆動源5(エンジン)の上限トルクは、変形例1の第2駆動源5(電動モータ)において矩形波制御での上限トルクに相当する。
【0121】
さらに、変形例1においては、コントロールユニット12は、実施形態2において第1駆動源4と第2駆動源5に対して行われる制御を、第1駆動源4と第2駆動源5とを入れ替えて、変形例1の第2駆動源5と第1駆動源4とに対しても同様に行う。第1駆動源4及び第2駆動源5は両方とも電動モータであるので、これらを入れ替えた場合でも、同様の制御処理を適用することができる。
【0122】
変形例1の車両制御装置10によれば、第1駆動源4及びその周辺の電気的な共振に起因するノイズ音を、走行モードの選択に応じて同様に抑制することができる。さらに、第2駆動源5及びその周辺の電気的な共振に起因するノイズ音を、走行モードの選択に応じて同様に抑制することができる。
【0123】
図20は、変形例1において記憶部に記憶される第2共振マップを示す図である。第2駆動源5の動作領域には、正弦波制御が行われる動作領域R11、矩形波制御が行われる動作領域R13、正弦波制御と矩形波制御との間で過渡的な制御が行われる動作領域R12とが含まれる。第2共振マップM2に示される複数の第2共振点X2は、矩形波制御が行われる動作領域R13に含まれる。複数の第2共振点X2は、典型的には、動作領域R13中の特定の回転速度範囲W2に集まる。第2共振点X2が集まる特定の回転速度範囲W2は、1つのみである場合もあれば、複数である場合もある。
【0124】
第2駆動源5の動作領域においても、矩形波制御が行われる動作領域R13と、正弦波制御が可能な動作領域とは、一部でオーバーラップする。正弦波制御が可能な動作領域の上側の境界線e2を、図20に示す。境界線e2は、正弦波制御でのインバータ8の電圧位相が、限界位相に達した動作点に相当する。すなわち、第2駆動源5の動作点が、境界線e2に位置する場合、当該動作点のトルクの値は、正弦波制御で第2駆動源5が出力可能な上限トルク(上記動作点の回転速度のときの上限トルク)に相当する。
【0125】
変形例1の車両1Aにおいては、第1駆動源4と第2駆動源5との両方がトルクを出力する場合、第1駆動源4の回転速度と第2駆動源5の回転速度とは所定の第1比率に拘束される。例えば、第1駆動源4の回転運動が1/4の減速比で第1車輪2Aに出力され、かつ、第2駆動源5の回転運動が1/2の減速比で第1車輪2Aに出力される場合、第1駆動源4の回転速度は第2駆動源5の回転速度に第1比率“2”を乗じた値となる。以下では、第1比率が“1”である場合、すなわち、第1駆動源4の回転速度が第2駆動源5の回転速度に一致する場合について説明するが、第1比率は“1”以外であってもよい。
【0126】
当該変形例1においては、第1共振マップM1の第1共振点X1が位置する回転速度範囲W1(図2を参照)と、第2共振マップM2の第2共振点X2が位置する回転速度範囲W2に後述の第1比率“1”を乗じた範囲とは、重ならないように設定されてもよい。
【0127】
このような設定により、第1駆動源4の動作点が第1共振点X1に重なることと、第2駆動源5の動作点が第2共振点X2に重なることとが、同時に生じることが抑制される。したがって、第1共振点X1に起因して第1駆動源4の制御方式を切り替える第1制御と、第2共振点X2に起因して第2駆動源5の制御方式を切り替える第2制御とが同時に生じることが抑制される。よって、第1モードの際に、上記の第1制御の際に第1トルク指令値を減少させる処理と、上記の第2制御の際に第2トルク指令値を減少させる処理とが、同時に生じてしまうことを抑制できる。
【0128】
このような設定は、第1駆動源4及びその周辺回路の共振周波数特性と第2駆動源5及びその周辺回路の共振周波数特性とを異ならせることで、あるいは、第1駆動源4のギヤ比と第2駆動源5のギヤ比とを異ならせることで実現できる。または、上記の設定は、上記の共振周波数特性と上記のギヤ比との両方を適宜異ならせることで実現できる。
【0129】
(変形例2)
実施形態1、実施形態2及び変形例1では、第1モードにおいて電気的な共振に起因するノイズ音の発生を抑制するために、車両1、1A全体のトルク指令値が車両1、1A全体の目標トルクより小さくなる場合がある。
【0130】
変形例2の車両制御装置10は、車両1A全体のトルク指令値が車両1A全体の目標トルクより小さくなった場合に、経過時間に応じて、車両1、1A全体のトルク指令値を車両1、1A全体の目標トルクに戻すようにした例である。
【0131】
図21は、変形例2のコントロールユニットが実行するトルク指令値計算処理を示すフローチャートである。変形例2のトルク指令値計算処理では、コントロールユニット12は、まず、走行モードを判別する(ステップSA1)。そして、第1モード、第2aモード、第2bモードの各モードに応じたトルク指令値計算処理(ステップSA2~SA4)のいずれかを実行する。さらに、第1モードのトルク指令値計算処理を行ったら、コントロールユニットは、車両1A全体のトルク指令値が車両1A全体の目標トルクよりも小さいか判別する(ステップSA5)。そして、YESであれば、コントロールユニット12は計数値IにステップSA2の制御サイクル数を計数する(ステップSA6)が、NOであれば、計数値Iをゼロにリセットする(ステップSA7)。さらに、コントロールユニット12は、計数値Iが閾値(例えば3秒に相当する値)以上になったか判別し(ステップSA8)、NOであれば、そのままステップSA1に処理を戻す。一方、YESであれば、コントロールユニット12は、走行モードを第2aモードに切り替え(ステップSA9)、その後、ステップSA1に処理を戻す。
【0132】
第1モードにおいて電気的な共振に起因するノイズ音の発生を抑制するために、車両1A全体のトルク指令値が車両1A全体の目標トルクより小さくなっても、運転者が大きなトルクを求めてアクセル操作を維持又は強くする場合がある。このような場合に、変形例2の車両制御装置10によれば、自動的に走行モードが第2aモードに切り替わり、アクセル操作に応じたトルクを出力させることができる。
【0133】
上述したトルク指令値計算処理のプログラムは、コントロールユニット12のROMなど、非一過性の記憶媒体(non transitory computer readable medium)に記憶されている。コントロールユニット12は、可搬型の非一過性の記録媒体に記憶されたプログラムを読み込み、当該プログラムを実行するように構成されてもよい。上記の可搬型の非一過性の記憶媒体は、上述したトルク指令値計算処理のプログラムを記憶していてもよい。
【0134】
以上、本発明の各実施形態について説明した。しかし、本発明は上記実施形態に限られない。例えば、上記実施形態では、第1駆動源4及びその周辺回路の電気的な共振に起因するノイズ音を抑制するための制御として、第1駆動源4の動作点Aの予測移動先が第1共振点X1に重なる場合に、第1駆動源4の制御方式を正弦波制御に切り替える例を示した。しかし、第1駆動源4及びその周辺回路の電気的な共振に起因するノイズ音を抑制するための制御は、上記の例に限定されない。例えば、第1駆動源4の矩形波制御される動作領域R3において、トルクが大きい側に第1共振点X1が存在するが、トルクが小さい側には第1共振点X1が存在しない場合がある。このような場合には、コントロールユニット12は、動作点Aの予測移動先が第1共振点X1に重なる場合に、第1共振点X1を避けるように第1トルク指令値を第1駆動源4の目標トルクよりも小さい値に減少させる制御を行ってもよい。このような制御によって、第1駆動源4のトルクは目標トルクより小さくなるが、第1駆動源4及びその周辺回路の電気的な共振に起因するノイズ音を抑制することができる。また、車両が第2駆動源5を有する場合には、第1共振点X1を避けるために第1トルク指令値を減少させたときに、コントロールユニット12は、第2トルク指令値を増加させる制御を行ってもよい。この場合にも、実施形態2で示したように、第2駆動源5のトルクが上限トルクに達して、第2トルク指令値を第1トルク指令値の減少量を相殺するように増加させることができないときがある。したがって、コントロールユニット12は、走行モードと、上記ノイズ音を抑制する制御を行った場合に車両全体のトルク指令値が車両全体の目標トルクよりも小さいくなるか否かの判別結果に基づいて、上記ノイズ音を抑制する制御を行うか否かを決定すればよい。ここで、第2駆動源5が矩形波制御される電動モータであれば、上記と同様の制御であって第1駆動源4と第2駆動源5とを入れ替えた場合の制御が加えて行われてもよい。その他、実施形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0135】
1、1A 車両
2A 第1車輪
2B 第2車輪
4 第1駆動源
4a 速度センサ
5 第2駆動源
6 インバータ
7 バッテリ
8 補機
9 運転操作部
10 車両制御装置
11 記憶部
12 コントロールユニット
13 モード設定部
M1 第1共振マップ
M2 第2共振マップ
X1 第1共振点
X2 第2共振点
R3、R13 矩形波制御の動作領域
R4 正弦波制御可能な動作領域
e1、e2 境界線
W1、W2 回転速度範囲
A、B 動作点
K3 予測軌跡
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14A
図14B
図15A
図15B
図16A
図16B
図17A
図17B
図18
図19
図20
図21