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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-26
(45)【発行日】2024-12-04
(54)【発明の名称】二重管用スペーサ
(51)【国際特許分類】
   F16L 39/04 20060101AFI20241127BHJP
   F16L 9/18 20060101ALI20241127BHJP
【FI】
F16L39/04
F16L9/18
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021138485
(22)【出願日】2021-08-27
(65)【公開番号】P2023032379
(43)【公開日】2023-03-09
【審査請求日】2023-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】591178300
【氏名又は名称】日本プラスチック工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090181
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 義人
(72)【発明者】
【氏名】服部 博
(72)【発明者】
【氏名】吉田 陽一
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 徹也
【審査官】伊藤 紀史
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第5400828(US,A)
【文献】米国特許第5497809(US,A)
【文献】米国特許第5803127(US,A)
【文献】実開平6-16795(JP,U)
【文献】特開2001-132884(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/83549(US,A1)
【文献】特開2006-132653(JP,A)
【文献】特開2004-278556(JP,A)
【文献】特開2016-138644(JP,A)
【文献】国際公開第1999/017047(WO,A1)
【文献】特開2004-169741(JP,A)
【文献】国際公開第2014/091558(WO,A1)
【文献】米国特許第4100367(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/404588(US,A1)
【文献】中国実用新案第214999917(CN,U)
【文献】特開2022-063590(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内管の外周面と外管の内周面との間に空間が形成されるように前記内管を前記外管内で固定保持する二重管用スペーサであって、
周方向に間欠的に並んで前記内管に当接する複数の内管支持部と、隣り合う前記内管支持部の周方向端部どうしを連結して前記外管に当接する複数の外管支持部とを有する環状のスペーサ本体、
前記スペーサ本体の周方向の一部に形成され、当該スペーサ本体を周方向に開閉可能とする分断部、
前記スペーサ本体の前記分断部と対向する周方向位置に形成され、当該スペーサ本体を周方向に開閉させるときの支点となる弾性変形部、
前記スペーサ本体の周方向における一方端部に形成された第1係合部、
前記スペーサ本体の周方向における他端部に形成され、前記第1係合部と前記スペーサ本体の周方向に係合することで前記スペーサ本体が環状になった状態を保持する第2係合部、および
指掛け部を備え、
前記外管支持部のそれぞれは、外面が前記外管と当接して当該外管を支持する支持壁と、前記支持壁の周方向端部と前記内管支持部の周方向端部とを連結する2つの側壁とを含む、径方向内側に向かって開口する溝状に形成され、
前記第2係合部は、前記分断部を形成する前記外管支持部の両側壁の一方側の側壁を含み、
前記指掛け部は、前記外管支持部の、前記第1係合部に対する前記第2係合部の係合方向の上流側に当該第2係合部と隣り合って配置された他方側の側壁の外側面に形成されている、二重管用スペーサ。
【請求項2】
前記指掛け部は、前記外管支持部の側壁の外側面の少なくとも一部を当該外管支持部の突出方向に対して径方向外側に向かうに従い開く方向に傾斜させた傾斜面を含む、請求項1記載の二重管用スペーサ。
【請求項3】
前記第1係合部と前記第2係合部との係合を解除した状態の前記スペーサ本体において、前記複数の内管支持部のうちの前記第1係合部側の一部は、前記内管の外周面に沿う状態となって当該内管に対する仮装着部を構成し、前記複数の内管支持部のうちの前記第2係合部側の他の一部は、前記内管に対して径方向外側に浮いた状態となる、請求項1または2記載の二重管用スペーサ。
【請求項4】
前記分断部は、前記内管支持部と前記外管支持部との連結部分に形成され、
前記第1係合部は、前記スペーサ本体の周方向における一方端部に設けられた前記内管支持部に形成された係止爪を含み、
前記第2係合部は、前記スペーサ本体の周方向における他端部に設けられた前記外管支持部の側壁端部を含む、請求項1から3のいずれかに記載の二重管用スペーサ。
【請求項5】
前記係止爪は、前記スペーサ本体の径方向に弾性変形可能であり、前記係止爪と前記内管の外周面との間には隙間が形成される、請求項4記載の二重管用スペーサ。
【請求項6】
前記傾斜面を含む前記外管支持部の側壁の外側面は、前記第2係合部側に向かって凹む湾曲面となっている、請求項2記載の二重管用スペーサ。
【請求項7】
前記指掛け部は、前記外管支持部の側壁の外側面から突出する突出部を含む、請求項1から6のいずれかに記載の二重管用スペーサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は二重管用スペーサに関し、特にたとえば、内管の外周面と外管の内周面との間に空間が形成されるように内管を外管内で固定保持する、二重管用スペーサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の二重管用スペーサの一例が特許文献1に開示されている。特許文献1の二重管用スペーサは、樹脂材料によって形成されるスペーサであって、内管を支持する内管支持面が形成された円筒状の内管支持部と、外管を支持する複数の外管支持部と、内管支持部と外管支持部とを接続する接続部とを備える。この二重管用スペーサは、接続部を支点として外管支持部が内管支持部に接近するように弾性変形可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-138644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
二重管用スペーサを用いて外管内で内管を固定保持する際には、二重管用スペーサを内管の外周面に取り付けた後、二重管用スペーサを装着した状態の内管を外管内に挿入する。
【0005】
ここで、特許文献1の技術では、二重管用スペーサを内管に取り付ける際には、内管の管端から装着位置まで二重管用スペーサをスライド移動させる必要がある。このため、二重管用スペーサの装着位置が内管の管端から離れているような場合には、内管に対する二重管用スペーサの取り付け作業に手間がかかる。また、二重管用スペーサを内管にスライド移動させて装着する都合上、内管に対する二重管用スペーサの締め付けを緩くせざるを得ず、内管を外管内に挿入する際に、二重管用スペーサが内管からずれるのを防ぐため接着剤で十分に固着する必要があった。
【0006】
それゆえに、この発明の主たる目的は、新規な、二重管用スペーサを提供することである。
【0007】
この発明の他の目的は、内管に対する取り付けが容易な、二重管用スペーサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、内管の外周面と外管の内周面との間に空間が形成されるように内管を外管内で固定保持する二重管用スペーサであって、周方向に間欠的に並んで内管に当接する複数の内管支持部と、隣り合う内管支持部の周方向端部どうしを連結して外管に当接する複数の外管支持部とを有する環状のスペーサ本体、スペーサ本体の周方向の一部に形成され、当該スペーサ本体を周方向に開閉可能とする分断部、スペーサ本体の分断部と対向する周方向位置に形成され、当該スペーサ本体を周方向に開閉させるときの支点となる弾性変形部、スペーサ本体の周方向における一方端部に形成された第1係合部、スペーサ本体の周方向における他端部に形成され、第1係合部とスペーサ本体の周方向に係合することでスペーサ本体が環状になった状態を保持する第2係合部、および指掛け部を備え、外管支持部のそれぞれは、外面が外管と当接して当該外管を支持する支持壁と、支持壁の周方向端部と内管支持部の周方向端部とを連結する2つの側壁とを含む、径方向内側に向かって開口する溝状に形成され、第2係合部は、分断部を形成する外管支持部の両側壁の一方側の側壁を含み、指掛け部は、外管支持部の、第1係合部に対する第2係合部の係合方向の上流側に当該第2係合部と隣り合って配置された他方側の側壁の外側面に形成されている、二重管用スペーサである。
【0009】
第1の発明では、二重管用スペーサは、環状のスペーサ本体を備える。スペーサ本体は、周方向に間欠的に並ぶ複数の内管支持部と、隣り合う内管支持部の周方向端部どうしを連結する複数の外管支持部とを有する。外管支持部のそれぞれは、外面が外管と当接して当該外管を支持する支持壁と、支持壁の周方向端部と内管支持部の周方向端部とを連結する2つの側壁とを有しており、径方向内側に向かって開口する溝状に形成されている。つまり、スペーサ本体は、内管支持部と外管支持部とが周方向に交互に並ぶ波形状の断面形状を有している。スペーサ本体は、周方向の一部に分断部が形成されると共に、分断部と対向する周方向位置に弾性変形部が形成され、弾性変形部を支点として分断部が離接するように周方向に開閉可能である。また、分断部が形成されたスペーサ本体の周方向両端部には、スペーサ本体の周方向に互いに係合する第1係合部および第2係合部が形成される。この第2係合部は、分断部を形成する外管支持部の両側壁の一方側の側壁を含む。そして、第1係合部に対する第2係合部の係合方向の上流側において、第2係合部と隣り合って配置された外管支持部の他方側の側壁の外側面には、指掛け部が形成されている。
【0010】
第1の発明によれば、スペーサ本体を周方向に開口して内管の側方から外嵌めし、第1係合部と第2係合部とを係合させるだけで、内管に二重管用スペーサを取り付けることができる。また、外管支持部の外側面に指掛け部が形成されているので、第1係合部に対して第2係合部を容易に係合させることができる。したがって、内管に二重管用スペーサを手作業で容易に取り付けることができる。
【0011】
第2の発明は、第1の発明に従属し、指掛け部は、外管支持部の側壁の外側面の少なくとも一部を当該外管支持部の突出方向に対して径方向外側に向かうに従い開く方向に傾斜させた傾斜面を含む。
【0012】
第2の発明によれば、傾斜面を指掛け部として用いるので、径方向外側に力を掛け易くなり、第1係合部に対して第2係合部を容易に係合させることができる。
【0013】
第3の発明は、第1または第2の発明に従属し、第1係合部と第2係合部との係合を解除した状態のスペーサ本体において、複数の内管支持部のうちの第1係合部側の一部は、内管の外周面に沿う状態となって当該内管に対する仮装着部を構成し、複数の内管支持部のうちの第2係合部側の他の一部は、内管に対して径方向外側に浮いた状態となる。
【0014】
第3の発明によれば、内管にスペーサを仮装着したときに、スペーサ本体の第2係合部側の部分が内管から浮いた状態となるので、第1係合部に対して第2係合部をより容易に係合させることができる。
【0015】
第4の発明は、第1から第3のいずれかの発明に従属し、分断部は、内管支持部と外管支持部との連結部分に形成され、第1係合部は、スペーサ本体の周方向における一方端部に設けられた内管支持部に形成された係止爪を含み、第2係合部は、スペーサ本体の周方向における他端部に設けられた外管支持部の側壁端部を含む。
【0016】
第5の発明は、第4の発明に従属し、係止爪は、スペーサ本体の径方向に弾性変形可能であり、係止爪と内管の外周面との間には隙間が形成される。
【0017】
第5の発明によれば、第1係合部(係止爪)に対して第2係合部(外管支持部の側壁端部)を係合させるときに第1係合部が沈み込むので、係合に要する力を低減できる。また、係合完了後は、第1係合部が復元力によって元の状態に戻り、第1係合部と第2係合部とが強固に係合される。
【0018】
第6の発明は、第2の発明に従属し、傾斜面を含む外管支持部の側壁の外側面は、第2係合部側に向かって凹む湾曲面となっている。
【0019】
第6の発明によれば、指掛け部として用いる傾斜面に指がフィットし易くなるので、第1係合部に対して第2係合部をより容易に係合させることができる。
【0020】
第7の発明は、第1から第6のいずれかの発明に従属し、指掛け部は、外管支持部の側壁の外側面から突出する突出部を含む。
【0021】
第7の発明によれば、第1係合部に対して第2係合部を容易に係合させることができる。
【発明の効果】
【0022】
この発明によれば、スペーサ本体を周方向に開口して内管の側方から外嵌めし、第1係合部と第2係合部とを係合させるだけで、内管に二重管用スペーサを取り付けることができる。また、外管支持部の外側面に指掛け部が形成されているので、第1係合部に対して第2係合部を容易に係合させることができる。したがって、内管に二重管用スペーサを手作業で容易に取り付けることができる。
【0023】
この発明の上述の目的、その他の目的、特徴および利点は、図面を参照して行う後述の実施例の詳細な説明から一層明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】この発明の一実施例である二重管用スペーサを用いて外管内で内管を固定保持した状態を示す断面図である。
図2】二重管用スペーサを示す正面図である。
図3】係合部の係合を解除した状態の二重管用スペーサを示す正面図である。
図4】係合部の係合を解除した状態の二重管用スペーサを示す斜視図である。
図5】二重管用スペーサを内管に取り付ける様子を示す図解図である。
図6】二重管用スペーサを内管に仮装着した様子を示す図解図である。
図7】二重管用スペーサを内管に装着した様子を示す図解図である。
図8】この発明の他の実施例である二重管用スペーサを示す正面図である。
図9】係合部の係合を解除した状態の図8の二重管用スペーサを示す正面図である。
図10】この発明のさらに他の実施例である二重管用スペーサを示す正面図である。
図11】この発明のさらに他の実施例である二重管用スペーサを示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1を参照して、この発明の一実施例である二重管用スペーサ10(以下、単に「スペーサ10」と言う。)は、二重管路100を形成するための部材であって、内管(実管)102の外周面と外管(保護管)104の内周面との間に空間が形成されるように、内管102を外管104内で固定保持する。
【0026】
スペーサ10を用いて形成された二重管路100においては、内管102に漏れが発生した場合においても、外管104によって内部流体が直接外部に流出することが防止される。また、外管104によって内管102が外部衝撃から保護されるので、内管102の破損が防止される。さらに、外管104は、透明材料によって形成することもでき、外管104を透明にすることで、内管102からの液漏れを目視で発見可能となる。
【0027】
二重管路100の用途は、特に限定されず、排水ライン、給水ライン、薬液ラインおよび冷却水ライン等、無圧用途にも圧力用途にも適用可能である。また、二重管路100を構成する内管102および外管104の材質は、特に限定されず、硬質ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ABS樹脂(アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体)、およびフッ素樹脂などの合成樹脂、ならびに鉄などの金属などから適宜選択可能である。
【0028】
さらに、内管102および外管104の呼び径(内径)は、外管104内に内管102を収容可能な大きさの組み合わせであれば、特に限定されないが、スペーサ10は、内管102の呼び径が16mm~200mmであって、外管104の呼び径が50mm~300mmである二重管路100に好適に用いられる。
【0029】
この実施例では、呼び径が16mm~40mmの内管102と呼び径が50mm~75mmの外管104とで構成される二重管路100に特に好適に適用されるスペーサ10について説明する。
【0030】
図1と共に図2図4を参照して、スペーサ10は、内管支持部14と外管支持部16とが周方向に交互に並ぶ環状のスペーサ本体12を備える。この実施例のスペーサ本体12は、周方向に間欠的に並ぶ4つの内管支持部14と、隣り合う内管支持部14の周方向端部どうしを連結し、かつ内管支持部14の周方向端部から径方向外側に突出する4つの外管支持部16とを有する。
【0031】
内管支持部14のそれぞれは、円弧板状に形成され、その内面が内管102と当接して内管102を支持する。一方、外管支持部16のそれぞれは、径方向内側に向かって開口するU字溝状に形成され、外面が外管104と当接して外管104を支持する円弧板状の支持壁16aと、支持壁16aの周方向端部と内管支持部14の周方向端部とを連結する側壁16b(連結壁)とを含む。すなわち、スペーサ本体12(つまりスペーサ10)は、円弧板状の内管支持部14と溝状の外管支持部16とが周方向に交互に並ぶ波形環状の断面形状を有している。
【0032】
外管支持部16の側壁16bのそれぞれは、後述する指掛け部32が形成される側壁16bを除いて、外管支持部16の突出方向と平行に延びるように形成される。ここで、外管支持部16の突出方向とは、スペーサ本体12の軸中心Xから、外管支持部16が有する支持壁16aの外管104に対する当接面の周方向中央Yに向かう方向を言う。
【0033】
スペーサ本体12の周方向の一部には、スペーサ本体を周方向に開閉可能とする分断部20(切欠き)が形成される。つまり、スペーサ本体12は、周方向の一箇所に分断部20を有する環状に形成されている。この実施例では、分断部20は、内管支持部14と外管支持部16との連結部分に形成される。一方、スペーサ本体12の分断部20と対向する周方向位置には、弾性変形部22が形成される。弾性変形部22は、分断部20を離接させるようにスペーサ本体12を周方向に開閉させるときの支点となる部分であり、スペーサ本体12の他の部分よりも小さな力で弾性変形可能な部分である。この実施例では、分断部20と対向する周方向位置に配置される内管支持部14に、スペーサ本体12の他の部分の肉厚(たとえば4mm)よりも小さい肉厚(たとえば2mm)を有する部分を設けることで、この内管支持部14を弾性変形部22として機能させている。
【0034】
また、分断部20が形成されたスペーサ本体12の周方向両端部には、互いに分離可能に係合する一対の係合部24,26が形成される。すなわち、スペーサ本体12の周方向における一方端部に設けられた内管支持部14の先端部には、第1係合部24が形成される。一方、スペーサ本体12の周方向における他端部に設けられた外管支持部16の側壁16bの先端部には、第2係合部26が形成される。
【0035】
この実施例の第1係合部24は、径方向に弾性変形可能に形成された係止爪である。第1係合部24(係止爪)は、内管支持部14の先端部から周方向に延出された薄板状の弾性片28と、弾性片28の先端部から径方向外側に突出する係止突起30とを有する。弾性片28は、内管支持部14の内径よりも少し大きな内径を有しており、後述のようにスペーサ10を内管102に仮装着した際には、第1係合部24(弾性片28の内周面)と内管102の外周面との間には隙間W(図6参照)が形成される。このように、第1係合部24を内管102の外周面から浮く形状に形成しておくことで、第1係合部24に対して第2係合部26を係合させるときに第1係合部24が少し沈み込むので、係合させる際に要する力を低減でき、第1係合部24に対する第2係合部26の係合が容易となる。隙間Wの大きさは、0.5mm~1.0mmであることが好ましく、この実施例では0.5mmである。
【0036】
係止突起30は、断面三角形状に形成され、第2係合部26の第2係止面26aを係止する第1係止面30aと、第1係合部24に対する第2係合部26の係合方向の上流側に配置される案内面30bとを有する。第1係止面30aの突出高さ(つまり第2係止面26aとの係合幅)は、2.0mm~3.0mmであることが好ましく、この実施例では2.5mmである。第1係止面30aの突出高さは、大きくし過ぎると第1係合部24に第2係合部26を係合させる際に大きな力が必要となる一方で、小さくし過ぎると第1係合部24と第2係合部26との意図しない外れ(係合の解除)が生じる恐れがあるが、この範囲に設定することで、係合させる際に要する力を適度に低減しつつ係合外れを適切に防止できる。また、案内面30bは、第2係合部26の係合方向の下流側に向かうに従い徐々に高くなるように傾斜する。案内面30bの接線方向に対する傾斜角度θ1は、15度~45度であることが好ましく、20度~40度であることがより好ましい。この実施例の傾斜角度θ1は、36度である。
【0037】
一方、第2係合部26としては、外管支持部16の側壁16bの端部が用いられる。第2係合部26は、第1係止面30aによって係止される第2係止面26aを有しており、第1係止面30aおよび第2係止面26aは、外管支持部16の突出方向に対して径方向外側に向かうに従い開く方向に少し傾斜させた傾斜面となっている。これにより、第1係合部24と第2係合部26との意図しない外れがより適切に防止される。
【0038】
さらに、第1係合部24に対する第2係合部26の係合方向(移動方向)の上流側に第2係合部26と隣り合って配置された外管支持部16の外側面には、指掛け部32が形成される。この実施例では、外管支持部16の側壁16bの外側面を、外管支持部16の突出方向に対して径方向外側に向かうに従い開く(離れる)方向に傾斜させた傾斜面34とし、この傾斜面34を指掛け部32として用いる。ただし、傾斜面34は、側壁16bの外側面の全体に形成してもよいし、側壁16bの外側面の一部に形成してもよい。外管支持部16の突出方向に対する傾斜面34の傾斜角度θ2は、8度~30度であることが好ましく、この実施例では、21度である。
【0039】
また、傾斜面34が形成される外管支持部16の側壁16bの外側面は、第2係合部26側に向かって凹む湾曲面になっている。この湾曲面(傾斜面34)は、所定半径の仮想円に沿う形状に形成される。湾曲面の曲率半径は、15mm~30mmが好ましく、この実施例では21mmである。
【0040】
さらに、この実施例では、外管支持部16の外側面の端部(支持壁16aと側壁16bとの連結部分)に周方向に突出する角状の突出部36を形成し、この突出部36も指掛け部32として用いる。つまり、この実施例の指掛け部32は、傾斜面34と突出部36とを含む。突出部36は、支持壁16aと側壁16bとの連結部分の肉厚をスペーサ本体12の他の部分の肉厚よりも大きくして、当該連結部分を角張るようにすることで形成される。
【0041】
また、第2係合部26が形成される外管支持部16の側壁16bの外側面には、矩形平板状の器具掛け38が形成される。この器具掛け38は、第1係合部24と第2係合部26との係合を解除するときに、ドライバ等の器具を引っ掛けるために用いられる。内管102に一旦装着したスペーサ10を取り外すことは稀であるが、スペーサ10の装着位置を変更したり、スペーサ10を再利用するために取り外したりするときに、この器具掛け38は利用される。
【0042】
このようなスペーサ10は、図2に示すように、第2係合部26を第1係合部24に係合させることでスペーサ本体12が環状となった状態を保持する。ここで、内管支持部14の内径r(各内管支持部14の内面を結ぶ仮想円の内径)は、第1係合部24と第2係合部26とを係合させた状態において、内管102の外径と略同じ大きさに設定されるが、この際には、内管102の外径よりも少し小さい大きさに設定することが好ましい。具体的には、内管102の外径をR、内管支持部14の内径をrとしたとき、(R-r)/rの値が0.1%~3.0%となるように内管支持部14の内径rを設定することが好ましく、0.3%~2.0%となるように内管支持部14の内径rを設定することがより好ましい。
【0043】
内管支持部14が内管102の外径よりも小さい内径rを有することによって、スペーサ10を内管102に取り付けた際に、外管支持部16が開く方向に変形してスペーサ10全体が外方に少し押し広げられる。これにより、内管支持部14が内管102を押圧する状態、つまり復元力による挟持力(固定力)が発揮される状態で内管102を支持するので、スペーサ10によって内管102を強固に固定保持することができる。
【0044】
外管支持部16の外径(各外管支持部16の支持壁16aの外面を結ぶ仮想円の外径)は、後述のようにスペーサ10を装着した状態の内管102を外管104内に円滑に挿入できるように、外管104の内径よりも少し小さい大きさに設定される。また、スペーサ10の幅L(軸方向長さ)の大きさは、10mm~50mmであることが好ましく、呼び径が大きくなるに従い幅Lの大きさは大きくすることが好ましい。この実施例では、幅Lは15mmである。
【0045】
また、図3に示すように、スペーサ10は、第1係合部24と第2係合部26との係合を解除した自然状態(外力を付加しない状態)においては、弾性変形部22の復元力によって、分断部20が離間してスペーサ本体12が周方向に少し開口した状態を保つ。この際、複数の内管支持部14のうちの第1係合部24側の一部(下半部)は、内管102の外周面に沿う状態となって内管102の仮装着部40を構成する。一方、複数の内管支持部14のうちの第2係合部26側の他の一部(上半部)は、内管102に対して径方向外側に浮いた状態となる(図6参照)。つまり、スペーサ本体12の第2係合部26側の上半部が内管102から浮いた状態となる。また、この係合解除状態において、第2係合部26の案内面30bに対する傾斜面34の角度θ3は、85度~120度であることが好ましい。指掛け部32である傾斜面34に対して、第1係合部24に対する第2係合部26の係合方向(第1係合部24の係止突起30を乗り越える方向)に力を加え易くなるからである。
【0046】
このようなスペーサ10は、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミドおよび硬質ポリ塩化ビニル等の合成樹脂によって形成される。また、軽量化を図るため、発泡させた合成樹脂を用いることもでき、機械的強度を向上させるため、タルク等のフィラーを含有した合成樹脂を用いることもできる。この実施例では、弾性変形部22の屈曲に対する耐久性、成形性、コストおよび耐薬品性を考慮して、ポリプロピレンによってスペーサ10を形成している。また、スペーサ10の製造方法としては、切削加工、射出成形、押出成形、3Dプリンタ、およびこれらの組合せ等の製造方法を採用可能である。これらの製造方法の中でも、スペーサ10の量産が容易なこと、またコスト面を考慮すると、射出成形が最適である。
【0047】
スペーサ10を用いて外管104内で内管102を固定保持する際には、スペーサ10を内管102の外周面に取り付けた後、スペーサ10を装着した状態の内管102を外管104内に挿入する。具体的には、先ず、図5に示すように、弾性変形部22を支点として分断部20を離間させるようにスペーサ本体12(スペーサ10)を周方向に大きく拡げた状態にし、スペーサ10を内管102の側方から装着位置に外嵌めする。この際には、図6に示すように、第1係合部24側に配置された内管支持部14によって構成される仮装着部40に内管102を保持させる。そして、指掛け部32に指を掛けて第2係合部26を係合方向に移動させ、図7に示すように、第1係合部24に対して第2係合部26を係合させることで、内管102に対するスペーサ10の取り付けが完了する。具体的には、指掛け部32へ親指を掛け、分断部20を挟んだ指掛け部32と反対側の外管支持部16の外側面に人差し指を掛け、指を握ることで第1係合部24に対して第2係合部26を係合させる。
【0048】
この際には、外管支持部16の外側面に指掛け部32が形成されていることから、第1係合部24に対して第2係合部26を容易に係合させることができる。特に、傾斜面34を指掛け部32として用いることで、径方向外側に力を掛け易くなり、第2係合部26を浮かせるようにして第1係合部24の係止突起30を容易に乗り越えさせることができる。また、角状の突出部36を有することで、傾斜面34に指を掛け易くなり、傾斜面34を含む外管支持部16の外側面を凹状の湾曲面とすることで、傾斜面34に指がフィットし易くなるので、第1係合部24に対して第2係合部26をより容易に係合させることができる。さらに、内管102にスペーサ10を仮装着したときには、スペーサ本体12の第2係合部26側の部分が内管102から浮いた状態となるので、第1係合部24に対して第2係合部26をより容易に係合させること(第2係合部26が第1係合部24を容易に乗り越えること)ができる。さらにまた、内管102にスペーサ10を仮装着したときには、第1係合部24と内管102の外周面との間に隙間Wが形成されるので、第1係合部24に対する第2係合部26の係合時に第1係合部24が沈み込んで、係合に要する力を低減できる。また、係合完了後は、第1係合部24が復元力によって元の状態に戻り、第1係合部24と第2係合部26とが強固に係合される。
【0049】
その後、スペーサ10を装着した状態の内管102を外管104内に挿入することで、図1に示すように、スペーサ10によって内管102が外管104内で固定保持される。ここで、内管支持部14が内管102の外径よりも小さい内径rを有することで、スペーサ10によって内管102を強固に固定保持することができるので、内管102を外管104内に挿入する際に、スペーサ10が内管102に対する装着位置からずれてしまうことを防止できる。このため、内管102に対してスペーサ10を固定するための接着剤などを別途施工することが不要となり、内管102に対するスペーサ10の取り付けがより容易になる。ただし、二重管路100が立て配管であって振動が大きい箇所への配管である場合には、安全性を考慮して、内管支持部14と内管102とを接着剤などで固定することもできる。
【0050】
また、スペーサ10を用いて形成された二重管路100においては、外管104に土圧などの外力が加わって外管104が変形した場合でも、溝状の外管支持部16が変形してその力を吸収することができる。このため、内管102および外管104とスペーサ10との当接部に加わる集中応力が緩和され、二重管路100が破壊されてしまうことを防止できる。さらに、スペーサ10に使用する原材料の選定で、剛性(たとえば曲げ強さ、圧縮強さなどの機械的性能)が、管(内管102および外管104)の剛性より小さくものを選定することで、外力が管へ加わった場合にスペーサ10が管より先に変形し、管の破壊を防止できる。たとえば、スペーサ10をポリプロピレン、管をポリ硬質塩化ビニルで形成するのがよい。また、内管支持部14が周方向に間欠的に並ぶように形成されていることから、二重管路100において内管102が破損する等して内部流体が外管104内に流出した際に、その漏液をスペーサ10部分で滞留させることなく通過させて、図示しないドレイン部に導くことができる。
【0051】
以上のように、この実施例によれば、スペーサ10を内管102の側方から外嵌めして第1係合部24と第2係合部26とを係合させるだけで、内管102にスペーサ10を取り付けることができる。また、外管支持部16の外側面に指掛け部32が形成されているので、第1係合部24に対して第2係合部26を容易に係合させることができる。したがって、ドライバ等の器具を用いることなく、内管102にスペーサ10を手作業で容易に取り付けることができる。
【0052】
また、この実施例によれば、土圧などで外管104が変形した場合でも、外管支持部16が変形してその力を吸収することができるので、内管102および外管104とスペーサ10との当接部に加わる集中応力が緩和される。したがって、二重管路100が破壊されてしまうことを適切に防止できる。
【0053】
さらに、この実施例によれば、内管支持部14の内径が内管102の外径よりも小さく設定されているので、スペーサ10によって内管102を強固に固定保持することができる。したがって、内管102に対してスペーサ10を固定するための接着剤などを別途施工することが不要となり、内管102に対するスペーサ10の取り付けがより容易になる。
【0054】
なお、上述の実施例では、スペーサ本体12が内管支持部14および外管支持部16を4つずつ有しているが、内管支持部14および外管支持部16は少なくとも2つずつあればよく、内管支持部14および外管支持部16の数は適宜変更可能である。
【0055】
たとえば、図8および図9に示す実施例のように、スペーサ本体12が内管支持部14および外管支持部16を8つずつ有することもできる。なお、内管支持部14および外管支持部16の数が異なる以外は、上述の実施例と同様であるので、重複する説明は省略する。外管支持部16の数を増やすことによって、スペーサ本体12(スペーサ10)の強度を上げることができるので、より呼び径の大きい二重管路100に対応可能となる。なお、図示は省略するが、外管支持部16の数は、6個または10個などであってもよい。特に管の径が大きくなれば12個、14個などに増やすのがよい。なお、外管支持部16の数は、奇数個であってもよい。外管支持部16の数の増加によって外管支持部16の形状のバランスがよくなり、支持強度も増加する。ただし、分断部20を挟んで隣り合う外管支持部16の間隔が広すぎると指が届き難くなり嵌合させ難くなる一方で、間隔が狭すぎると外管支持部16の間に指先が入らなくなってしまう。そのような状態にならないよう、管の呼び径に合わせ外管支持部16の数を増減して調整するとよい。
【0056】
また、図10に示す実施例のように、外管支持部16の内側面どうしを連結する補強部42を設けることもできる。ただし、補強部42の位置、数および形状などの具体的態様は、適宜変更可能である。たとえば、図10に示す実施例では、第2係合部26が形成される外管支持部16を除く全ての外管支持部16に補強部42が形成されているが、補強部42が形成されない外管支持部16が他にあってもよい。このような補強部42を設けることで、スペーサ10の強度を上げることができるので、より呼び径の大きい二重管路100に対応可能となる。
【0057】
さらに、上述の実施例では、傾斜面34と突出部36とで指掛け部32を構成したが、指掛け部32は、傾斜面および突出部のいずれか一方のみで構成することもできる。たとえば、図11に示す実施例のように、係合方向上流側に第2係合部26と隣り合って配置された外管支持部16の外側面に矩形平板状の突出部44を形成し、この突出部44を指掛け部32として用いることもできる。さらに、分断部20を挟んだ指掛け部32と反対側の外管支持部16の外側面に、傾斜面または図11に示すような突出部46の少なくとも一方で構成される第2の指掛け部を形成することもできる。
【0058】
また、外管支持部16の断面形状は、U字溝状に限定されず、半円溝状、矩形溝状および台形溝状などであってもよい。さらに、第1係合部24および第2係合部26を互いに係合可能な鋸刃状に形成することもできる。さらにまた、分断部20を形成する周方向位置も適宜変更可能であり、内管支持部14と外管支持部16との連結部分ではなく、内管支持部14または外管支持部16を中央部分で分割するように分断部20を形成することもできる。
【0059】
また、スペーサ本体12には、強度に問題がない範囲内で肉盗みまたは中空部を形成してもよい。たとえば、スペーサ本体12(内管支持部14および外管支持部16)に対して六角柱状の孔を並べて形成するハニカム構造を採用すれば、スペーサ10の強度低下を抑制しつつ、スペーサ10の製造に必要な樹脂量を低減することができる。特に、3Dプリンタでスペーサ10を製造する場合には、樹脂量(充填率)を低減することで成形時間を短縮できるので好適である。
【0060】
なお、上で挙げた寸法などの具体的数値および各部位の具体的形状は、いずれも単なる一例であり、製品の仕様などの必要に応じて適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0061】
10 …二重管用スペーサ
12 …スペーサ本体
14 …内管支持部
16 …外管支持部
20 …分断部
22 …弾性変形部
24 …第1係合部(係止爪)
26 …第2係合部
32 …指掛け部
34 …傾斜面
36,44,46 …突出部
40 …仮装着部
100 …二重管路
102 …内管
104 …外管
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11