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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-26
(45)【発行日】2024-12-04
(54)【発明の名称】電池制御装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/44 20060101AFI20241127BHJP
   G01R 31/367 20190101ALI20241127BHJP
   G01R 31/392 20190101ALI20241127BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20241127BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20241127BHJP
【FI】
H01M10/44 P
G01R31/367
G01R31/392
H01M10/48 P
H01M10/48 301
H02J7/00 X
H02J7/00 Y
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021524906
(86)(22)【出願日】2020-06-04
(86)【国際出願番号】 JP2020022182
(87)【国際公開番号】W WO2020246558
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2023-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2019107482
(32)【優先日】2019-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】505083999
【氏名又は名称】ビークルエナジージャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本蔵 耕平
(72)【発明者】
【氏名】坂部 啓
【審査官】宮本 秀一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-017907(JP,A)
【文献】特開2017-162661(JP,A)
【文献】特開2004-015963(JP,A)
【文献】国際公開第2017/199629(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R31/36-31/396
H01M10/42-10/48
H02J7/00-7/12
H02J7/34-7/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池モジュールと、バッテリコントローラと、を備える電池制御装置であって、
前記バッテリコントローラは、
メモリと、
前記メモリに記録されたプログラムを実行して、前記電池モジュールの電池の動作を制御する制御回路と、
を備え、
前記メモリは、直流抵抗成分と充電状態の関係、分極抵抗成分と充電状態の関係を含む電池データを記憶し、
前記制御回路は、
前記電池の劣化状態を推定し、
前記電池データを参照し、推定した、電池の現在の劣化状態に基づいて、直流抵抗成分と充電状態の関係、分極抵抗成分と充電状態の関係を抽出して前記電池を制御するようにした、
電池制御装置。
【請求項2】
前記電池モジュールの電流(I)を計測する電流センサと、
当該電池モジュールの電圧(V)を計測する電圧センサと、そして、
当該電池モジュールの電池の温度(T)を計測する温度センサと、
を備え、
前記制御回路は、電流(I)、電圧(V)、および、温度(T)に基づいて前記電池の容量の減少率を算出して、当該電池の劣化状態を推定する、
請求項1記載の電池制御装置。
【請求項3】
前記制御回路は、電流(I)、電圧(V)、温度(T)、そして、前記電池の等価回路モデルに基づいて、当該電池の充電状態を推定する、
請求項2記載の電池制御装置。
【請求項4】
前記メモリは、前記電池データとして電池データテーブルを備え、
当該電池データテーブルの項目は、電池容量減少率(SOH)、電池温度(T)、電池充電率(SOC)、電池電流(I)、電池直流抵抗(Ro)、電池分極抵抗(Rp)、そして、電池分極容量(Cp)を含む、
請求項3記載の電池制御装置。
【請求項5】
前記電池データテーブルには、前記電池容量減少率(SOH)、前記電池温度(T)、前記電池充電率(SOC)、そして、前記電池電流(I)の夫々が所定の値である複数の組み合わせ夫々に対して、前記電池直流抵抗Ro(Ω)、前記電池分極抵抗Rp(Ω)、そして、前記電池分極容量Cp(F)夫々の値が設定されている、
請求項4記載の電池制御装置。
【請求項6】
前記制御回路は、現在の電池容量減少率(SOH)、電池温度(T)、そして、電池充電率(SOC)に基づいて、前記電池データテーブルに記憶された、電池直流抵抗(Ro)、電池分極抵抗(Rp)、そして、電池分極容量(Cp)を参照し、前記電池の許容電流を演算する、
請求項5記載の電池制御装置。
【請求項7】
前記電池モジュールは、直列に接続された複数の電池を備え、
前記制御回路は、
前記複数の電池夫々の許容電流を演算し、
絶対値が最小である許容電流を、前記電池モジュールの許容電流とする、
請求項6記載の電池制御装置。
【請求項8】
前記電池モジュールは、複数の電池セルが直列接続された群が複数並列接続された構造を備え、
前記制御回路は、前記複数の群の夫々に許容電流を設定し、夫々の群の許容電流の総和を前記電池モジュールの許容電流にする、
請求項6記載の電池制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体向け蓄電装置や系統連系安定化用蓄電装置、非常用蓄電装置といった、多数の電池を内蔵する電池制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電池制御装置の性能を引き出すために、電池の充電状態(SOC)や電池の劣化状態(SOH)、充放電可能な最大電流(許容電流値)等が適切に定められなくてはならない。電池制御装置が最大電流を算出するために、電池の開回路電圧(OCV)や内部抵抗等の電池の内部状態やパラメータが必要である。特に、常時不規則な電流が流れている移動体向けや系統連係安定化用蓄電装置では、電池に電流を流した瞬間に生じる電圧変化をもたらす内部抵抗(直流抵抗)に加えて、電流を流し続ける場合の電圧変化をもたらす内部抵抗(分極抵抗)の影響が大きい。
【0003】
直流抵抗や分極抵抗などのパラメータは、電池のSOC、および、温度によって変化する。そこで、バッテリコントローラは種々のSOCおよび温度において、直流抵抗および分極抵抗などのパラメータがどのような値になるかのデータテーブル、または、その関数として保持している。そして、バッテリコントローラは、セルコントローラから送られてくる情報に基づいて、SOCを推定したうえで、データテーブル、または、関数からパラメータの値を特定する。
【0004】
ところで、これらのパラメータは、電池の初期状態において定められため、電池が劣化すると、実際の値とは異なる値パラメータの値がデータテーブル、又は、関数から出力されてしまって、SOC、電池電圧値、許容電流値等が正しく算出されない。
【0005】
バッテリコントローラは、電池の劣化による影響を補正するために、電池のSOHに応じて抵抗上昇率を決定し、電池の初期状態の直流抵抗および分極抵抗に抵抗上昇率を乗じて劣化後の直流抵抗および分極抵抗を決定している。複数の電池セルを直列又は並列接続した、電池モジュール、あるいは、電池パックにおいては、全ての電池セルのSOHを決定し、最も劣化が進行した電池セルの抵抗上昇率を用いて、電池モジュール、あるいは、電池パックの許容電流値を計算している。
【0006】
電池の劣化に応じて、直流抵抗成分と分極抵抗成分のデータテーブルを更新することが提案されている。例えば、特許文献1には、初期状態の直流抵抗と拡散係数のデータテーブルを保有する一方で、充放電中の電池電圧波形の測定値と、所定の電池モデルに基づく計算で同定した直流抵抗と拡散係数との値に応じて、測定されたSOCと温度に対応する箇所のデータテーブルを更新する、劣化管理システムのための学習型のアルゴリズムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2013-44598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
電池が劣化した場合での直流抵抗および分極抵抗は、全てのSOCにおいて一律に上昇するわけではなく、あるSOCでは、電池の劣化に伴って、直流抵抗、あるいは、分極抵抗が低下する場合がある。電池の直流抵抗と分極抵抗は、電池を構成する正極と負極との直流抵抗と分極抵抗に由来する。正極・負極の直流抵抗または分極抵抗は正極、負極それぞれのSOCへの依存性を持っており、電池の直流抵抗または分極抵抗のSOC依存性は、正極、負極のSOCの対応関係によって決まる。
【0009】
一方、正極、負極のSOCの対応関係は電池の劣化に伴い変化する。このことから、電池の直流抵抗または分極抵抗のSOC依存性が変化し、SOCによっては劣化によって直流抵抗あるいは分極抵抗が低下する。このため、最も劣化が進んだ電池セルに合わせて許容電流値を決定すると、劣化が進んでいない電池セルの許容電流を逸脱し、電池セルの劣化が加速される場合がある。
【0010】
本発明は、劣化度の異なる電池セルの複数が直列接続されても、全ての電池セルに対して電流および電圧の所定範囲からの逸脱を防止し、電池劣化を抑制することができる電池制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明は、電池モジュールと、バッテリコントローラと、を備える電池制御装置であって、前記バッテリコントローラは、メモリと、メモリに記録されたプログラムを実行して、前記電池モジュールの電池の動作を制御する制御回路と、を備え、前記メモリは、直流抵抗成分と充電状態の関係、分極抵抗成分と充電状態の関係を含む電池データを記憶し、前記制御回路は、電池の劣化状態を推定し、前記電池データを参照し、推定した電池の現在の劣化状態に基づいて、直流抵抗成分と充電状態の関係、分極抵抗成分と充電状態の関係を抽出して前記電池を制御するようにした。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、劣化度の異なる電池セルの複数が直列接続されても、全ての電池セルに対して電流および電圧の所定範囲からの逸脱を防止し、電池劣化を抑制することができる電池制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】電動車両等に利用される、本発明の実施形態に係る電池システムのハードウエアブロック図の一例である。
図2】バッテリコントローラの機能ブロック図の一例である。
図3A】電池に矩形波電流を印加した時の電池の電圧挙動の一例を示すグラフであり、電池に印加した矩形波電流Iを示す。
図3B】電池に矩形波電流を印加した時の電池の電圧挙動の一例を示すグラフであり、電池の電圧Vを示す。
図4】電池の等価回路モデルの一例を示す図である。
図5】電池データテーブルの一例を示す図である。
図6A】温度25℃、電流1Cであり、SOHが100%、そして、83%での電池の直流抵抗R0のSOC依存性を示すグラフである。
図6B】温度25℃、電流1Cであり、SOHが100%、そして、83%での電池の分極抵抗RpのSOC依存を示すグラフである。(A)(B)複数のSOHにおける、電池の直流抵抗R0と分極抵抗RpのSOC依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図面を参照して本発明の実施形態について説明する。図1は、電動車両等に利用される電池システム100のハードウエアブロック図の一例である。電池システム100は、電池制御装置1、インバータ2、モータなどの負荷3、上位コントローラ4を備える。
【0015】
電池制御装置1の出力電圧は、電池の残容量や出力電流等により変動する直流電圧であるため、負荷3に直接電力を供給するには適さない場合がある。そこで、インバータ2により電池制御装置1の出力電圧を三相交流に変換し、負荷3に供給している。
【0016】
上位コントローラ4は、電池制御装置1、及び、インバータ2を制御する。負荷3に直流電圧や他の多相交流、単相交流を供給する場合も、電池制御装置1は同じように構成される。
【0017】
負荷3が電力を出力する場合には、インバータ2を双方向インバータとすることにより、負荷3が出力した電力を電池制御装置1内の電池モジュール11に蓄えることができる。インバータ2と並列に充電システムを接続することで、必要に応じて電池モジュール11を充電することは可能である。
【0018】
電池制御装置1は、インバータ2や負荷3の制御に有用な電池の状態に関する情報として、充電率(SOC)と劣化率(SOH)、電池に流すことができる最大充放電電流(許容電流値)、電池温度、電池異常の有無等を、上位コントローラ4に送信する。上位コントローラ4は、これらの情報に基づき、エネルギーマネージメントや異常検知等を行う。上位コントローラ4は、電池制御装置1をインバータ2または負荷3から切り離すべきと判断した場合は、切断指示を電池制御装置1に対し送信する。
【0019】
電池制御装置1は、電池モジュール11と、電池の状態を監視、推定する等の制御を実行するバッテリコントローラ12と、電池制御装置1の出力を断続するリレー13と、電池モジュール11に流れた電流を計測する電流センサ14と、電池モジュール11の電圧を計測する電圧センサ15と、電池制御装置1とアースとの間の絶縁抵抗を計測する漏電センサ16と、電池温度を計測する温度センサ17と、電池制御装置1の出力電圧に応じてオンオフされる遮断器18と、を備える。電池制御装置1は、遮断器18を介して直列接続された複数(2台)の電池モジュール11を備えている。
【0020】
バッテリコントローラ12は、様々な演算を行うCPU(制御回路)121、後述するデータテーブル(データ構造)が記憶されている記憶部(メモリ)122を備える。
【0021】
電池モジュール11は、複数個の単位電池(電池セル)を有し、電池モジュール11内部の温度を計測する回路、単位電池の電圧を計測する回路、および、必要に応じ単位電池毎での充放電を行う回路を備えている。したがって、単位電池毎での電圧監視や電圧調整が可能である。バッテリコントローラ12は、単位電池の温度情報に基づいて、電池状態の推定、判定、又は、判断が可能になる。
【0022】
複数の電池モジュール11は直列に接続され、さらに、電流センサ14と一対のリレー13とが直列に接続されている。電流センサ14は、バッテリコントローラ12が電池モジュール11の状態を監視・推定するために必要な電流値を計測する。
【0023】
バッテリコントローラ12は、一対のリレー13の開閉を、上位コントローラ4の指令に基づき制御することによって、電池制御装置1の出力を遮断または接続することができる。
【0024】
電池モジュール11が高電圧(例えば、100V)になることに備えて、電池制御装置1への電力入出力を人力で強制的に遮断するためのスイッチをリレー13と直列に追加してもよい。こうすることにより、電池制御装置1の組み立て時、解体時、電池制御装置1を搭載した装置の事故対応時に、例えば、短絡を防ぐことができる。
【0025】
電池モジュール11が複数台並列に接続されている構造に対しては、各列にリレー13、スイッチ、電流センサ14を設けてもよい。又は、電池制御装置1の出力部分にのみリレー13、スイッチ、電流センサ14を設けてもよい。さらに、各列および電池制御装置1の出力部の両方にリレー13、スイッチ、電流センサ14を設けてもよい。
【0026】
リレー13は1台から構成されてもよいし、メインリレーとプリチャージリレー、抵抗の組で構成されてもよい。後者の構成ではプリチャージリレーと直列に抵抗を配置し、これらをメインリレーと並列接続すればよい。
【0027】
バッテリコントローラ12がリレー13を接続する際、まずプリチャージリレーを接続する。プリチャージリレーを流れる電流は直列接続した抵抗により制限されるため、前者の構成で生じうる突入電流を制限することができる。そして、プリチャージリレーを流れる電流が十分小さくなったのちにメインリレーを接続する。メインリレー接続のタイミングはプリチャージリレーを流れる電流を基準にしてもよいし、抵抗にかかる電圧やメインリレーの端子間電圧を基準にしてもよい。または、プリチャージリレーを接続してから経過した時間を基準にしてもよい。
【0028】
電圧センサ15は、バッテリコントローラ12が電池モジュール11の状態を監視、推定するのに必要な電圧値を計測する。電圧センサ15は、1台または複数台の電池モジュール11に対して並列接続される。
【0029】
電池モジュール11には漏電センサ16が接続され、漏電が生じる前に漏電が生じうる状態、すなわち、絶縁抵抗が低下した状態を検知し、事故の発生を予防する。
【0030】
電流センサ14、電圧センサ15、温度センサ17、そして、漏電センサ16のそれぞれは、計測値をバッテリコントローラ12に送信する。バッテリコントローラ12は、受信した計測値に基づいて、電池モジュール11の電池状態を監視、推定し、その結果、電池モジュールを制御する。“制御”は、例えば、各単位電池の電圧を均等化するための単位電池毎の充放電や、各センサの電源の制御、各センサのアドレッシング、バッテリコントローラ12に接続されたリレー13の制御等を含む。CPU121は、電池状態の監視、推定、そして、既述の制御ために必要な演算を行う。
【0031】
電池制御装置1にはシステム冷却用のファンが含まれてもよく、その制御をバッテリコントローラ12が行うこともある。電池制御装置1が冷却を行うことで、上位コントローラ4との通信量を削減することが可能となる。
【0032】
図1に示す例では、電圧センサ15や漏電センサ16をバッテリコントローラ12とは別部品とすることで自由度を持たせているが、バッテリコントローラ12に電圧センサ15や漏電センサ16を内蔵する構成としてもよい。こうすることで、個別のセンサを用意する場合に比べてハーネスの本数を減らし、センサ取り付けの手間を削減できる。ただし、センサを内蔵することで対応可能な電池制御装置1の規模(最大出力電圧、電流等)が限定されてしまうこともあるので、そのような場合には別部品とするのが望ましい。
【0033】
図2は、バッテリコントローラ12の機能ブロック図の一例である。CPU121は、記憶部122に記録されたプログラムを実行することにより、機能モジュールとしての、劣化状態推定部1201、充電状態推定部1202、許容電流演算部1204を実現する。“部”を、機能、手段、モジュール、ユニット、単位、回路、ステップ等と言い換えてもよい。機能モジュールを半導体回路等のハードウェアによって実現してもよい。記憶部122は、電池データテーブル1205を備える。
【0034】
劣化状態推定部1201、そして、充電状態推定部1202の夫々には、電流センサ、電圧センサ、温度センサなどのセンサ群から電流、電圧、温度の各値が入力される。劣化状態推定部1201は、電流I、電圧V、および、温度Tに基づいて、電池の劣化状態を推定する。“推定”を、設定、判定、判断、又は、判別と言い換えてもよい。これは充電状態推定部1202についても同じである。
【0035】
劣化状態推定部1201は、電池の劣化状態を表す指標として、例えば、電池の容量減少を採用してよい。電池の容量減少を推定する方法として、例えば、以下のことがある。
【0036】
劣化状態推定部1201は、時点Aから別の時点Bまでの充放電量Q_ABを積算する。そして、時点AにおけるOCV_Aと時点BにおけるOCV_Bを計算し、初期状態の電池データテーブルを参照して、OCV_Aに対応する充放電量Q_ABとOCV_Bに対応する充放電量Q’_ABを求める。その上で、Q’_AB/Q_ABを容量減少率とする。この容量減少率をSOHとする。
【0037】
充電状態推定部1202は、電流I、電圧V、および、温度Tと電池(電池セル)の等価回路モデルに基づき電池の充電状態を推定する。図3は、電池に矩形波電流を印加した時の電池の電圧挙動の一例を示す図である。図4は電池の等価回路モデルの一例である。図3Aは電池に印加した矩形波電流Iを示す、図3Bは電池の電圧Vを示す。いずれも横軸は経過時間である。
【0038】
電池に、例えば、図3Aのグラフ31に示す矩形波の電流Iを印加すると、電池の電圧V、すなわち、電池のCCV(閉回路電圧)は、図3Bのグラフ32に示すように変化する。この電圧の変化は、直流電圧成分I×R0、分極電圧成分Vp、OCV変動成分ΔOCVの3つの成分に大別される。R0は直流抵抗成分である。
【0039】
1つ目の成分である直流電圧成分I×R0は、電流Iの変化に対して瞬間的に応答する。すなわち、電流Iの立ち上がりに応じて瞬間的に上昇し、一定のレベルで推移した後に、電流Iの立ち下がりと共に消滅する。
【0040】
2つ目の成分である分極電圧成分Vpは、電流Iの変化に対して遅延して変動する。すなわち、電流Iの立ち上がり後に徐々に上昇し、電流Iの立ち下がり後に徐々に低下する。
【0041】
3つ目の成分である、ΔOCVは、充電開始前のOCV値であるOCV1と充電開始後のOCV値であるOCV2との差に相当する。ΔOCVは、充放電量に応じた、電池の充電状態の変化量に対応する。
【0042】
図4において、直流抵抗成分R0に電流Iをかけることで直流電圧成分が求められる。Rpは分極抵抗成分、Cpは分極容量成分をそれぞれ表しており、これらの値と電流Iと充放電時間tから分極電圧成分Vpが求められる。分極電圧成分Vpは、時定数RpCpに基づいて指数関数的な変動を示す。
【0043】
充電状態推定部1202は、第一の方式として、等価回路モデルに基づいて電池のCCVを解析することによって求めた電池のOCVから電池のSOCとOCVの関係を示す後述の電池データテーブルを参照してSOCを演算する。第二の方式として、電流Iを積算した充放電電気量ΔQに基づいて、ΔQとSOCの関係からSOCを演算してもよい。両方式を組み合わせてSOCを演算してもよい。
【0044】
図5は、電池データテーブル1205の一例である。テーブルの項目は、SOH(%)、温度T(℃)、SOC(%)、電流I(A)、OCV(V)、直流抵抗Ro(Ω)、分極抵抗Rp(Ω)、そして、分極容量Cp(F)(又は、分極時定数τp(s))を含む。電池データテーブルに代えて、データを表す関数でもよい。
【0045】
電池データテーブル1205は、夫々、所定の範囲にある、温度T、SOC、SOH、そして、電流Iについて、これらの所定の組み合わせの夫々に対する直流抵抗Ro(Ω)、分極抵抗Rp(Ω)、分極容量Cp(F)を備える。すなわち、電池データテーブルには、電池容量減少率(SOH)、電池温度(T)、電池充電率(SOC)、そして、電池電流(I)の夫々が所定の値である複数の組み合わせ夫々に対して、電池直流抵抗Ro(Ω)、分極抵抗Rp(Ω)、そして、分極容量Cp(F)夫々の値が設定されている。図5では、SOHがN水準、SOCがM水準、温度がL水準、電流がK水準ある場合を示している。OCV、直流抵抗、分極抵抗、分極容量の組み合わせ数は、N×M×L×Kである。
【0046】
図5の電池データテーブルは、予め実験やシミュレーションによって決定される。例えば、電池パックのセルのうち、SOHがM水準のいずれか(例えばSOH_1)であるセルを、L水準の温度のいずれか(例えばT_1)に設定した恒温槽内で充放電装置に接続し、SOCをN水準のいずれか(例えばSOC_1)に調整した後、電流をK水準のいずれか(例えばI_1)として一定時間充電または放電し、得られたCCVの挙動を解析して直流抵抗Ro、分極抵抗Rp、分極容量Cpを決定する。これにより、SOH_1、T_1、SOC_1、I_1に対応するRo、分極抵抗Rp、分極容量Cpが決定できる。この手順をM×N×L×K個の水準の組み合わせに対して行うことで、図5の電池データテーブルを実現できる。電池データテーブルは、個々の電池セル毎にある必要は無く、電池セルの仕様(メーカー別、モデル別、タイプ別等)毎に、一つの電池テーブルが設けられていればよい。
【0047】
データテーブルの一部または全部を関数で置き換えることも可能である。例えば、Rpの温度依存性について、A、Bを適当な定数として、Rp=A×exp(B/(T+273))のような指数関数で近似し、データテーブルの一部を置き換えることもできる。SOH、SOC、電流についても、実験データの傾向を適当な関数に近似することができれば、同様にデータテーブルの一部を置き換えることもできる。
【0048】
図6Aは、温度25℃、電流1Cであり、SOHが100%、そして、83%での電池の直流抵抗R0のSOC依存性を示すグラフである。図6Bは、温度25℃、電流1Cであり、SOHが100%、そして、83%での電池の分極抵抗RpのSOC依存を示すグラフである。電流1Cとは、電池の全容量を1時間で放電する電流値を意味する。
【0049】
許容電流演算部1204は、電池データテーブル1205に記憶された電池の直流抵抗、分極抵抗、分極容量を現在の電池の温度、SOC、SOHに基づいて参照し、電池の許容電流を演算する。許容電流演算部1204は、電池の過電圧を防ぐ安全機能の一部として、許容電流値を超えないように電流を制限することで、電池制御装置1の安全性を維持すると同時に、電池の急激な劣化を抑制する。そのための許容電流について、それを求めるための演算の一例を以下に示す。
【0050】
【数1】
Icmaxは充電許容電流、Vmaxは上限電圧、Rは電池の内部抵抗である。
放電許容電流は、以下の式(2)を用いて算出される。
【0051】
【数2】
Idmaxは放電許容電流、Vminは下限電圧、Rは電池の内部抵抗である。
【0052】
Rは、例えば、以下の式(3)を用いて算出される。
【数3】
Ro、Rp、Cpは電池データテーブル1205から得られる。tは時間(秒)である。Ro、Rp、Cpをデータベースから選択するには電流を指定する必要がある。そこで、例えば、所定の電流におけるRo、Rp、Cpを用いて簡易的に許容電流を計算する方法がある。また、例えば、指定する電流を変更しながらRo、Rp、Cpの抽出と式(1)から式(3)の計算を繰り返し、式(1)から式(3)が矛盾なく成立する許容電流を探索する方法もある。
【0053】
許容電流演算部1204は、電池データテーブル1205に記憶された電池の直流抵抗、分極抵抗、分極容量に基づき、電池の許容入力、許容出力を演算する。
【0054】
許容入力は、以下の式(4)から算出される。
【数4】
【0055】
許容出力は、以下の式(5)から算出される。
【数5】
【0056】
次に、電池制御装置の動作について説明する。電池の初期状態において、図5に示す電池データテーブルに、電池の直流抵抗成分、分極抵抗成分、そして、分極容量成分のそれぞれが、温度、SOC、SOH、そして、電流とに対応付けられている。
【0057】
その後、電池の初期状態から電池が使用され、例えば、エンジン始動時、外部電源による電池充電時、又は、定期点検時において、劣化状態推定部1201は、現在の電池のSOHを更新する。以後は、更新したSOHに対応する等価回路パラメータテーブルを用いる。
【0058】
充電状態推定部1202は、電流センサ14によって検出した電流Iを積算した充放電電気量ΔQに基づいて、充放電電気量とSOCの関係に基づいてSOCを演算する。あるいは、休止中に求めた電池のOCVと、SOCとOCVの関係に基づいてSOCを演算する。あるいは、電流センサ14と電圧センサ15の検出値を等価回路モデルで解析して得られたOCV、直流抵抗、分極抵抗、分極容量のいずれかを用いてSOCを演算する。あるいは、これらの演算方法の複数を組み合わせてSOCを演算する。
【0059】
次に、許容電流演算部1204は、電池データテーブル1205に記憶された電池の直流抵抗、分極抵抗、分極容量に基づき、式(1)~(3)を用いて電池の充電許容電流、放電許容電流を演算する。また、式(4)、(5)を用いて許容入力Iin、許容出力Ioutを演算する。
【0060】
許容電流演算部1204は、上記の許容電流および許容入出力の演算を、電池モジュール(電池パック)を構成する全ての電池セルに対して実行する。このとき、個々の電池セルの温度、SOC、SOHは異なっていることから、電池セルごとに許容電流および許容入出力が異なる。許容電流演算部1204は、電池モジュール(電池パック)のうちで直列に接続された一群の電池セルの許容電流のうち、絶対値が最小である電流を選択して、この直列電池セル群の許容電流とする。
【0061】
以上説明した実施形態によれば、次の作用効果が得られる。電池制御装置1は、複数の劣化状態の電池について、直流抵抗成分と充電状態の関係、分極抵抗成分と充電状態の関係を含む電池データテーブルと、現在の電池の劣化状態を推定する劣化状態推定部1201と、劣化状態推定部1201で推定された現在の電池の劣化状態に応じて、直流抵抗成分と充電状態の関係、分極抵抗成分と充電状態の関係を含む電池データテーブルから現時点の電池の直流抵抗成分と分極抵抗成分を含むパラメータを抽出し、これらに基づき電池セルの許容電流を演算する。
【0062】
直列群を構成する電池セルの許容電流のうち、最小値を直列群全体の許容電流とする。これにより、劣化度の異なる電池セルが直列接続された場合において、全ての電池セルに対して電流および電圧の所定範囲からの逸脱を防止し、電池劣化を抑制することができる。
【0063】
また、電池モジュールが、複数の電池セルが直列接続された群が複数並列接続された構造を備える態様では、許容電流演算部1204は、複数の群の夫々に許容電流を設定し、夫々の群の許容電流の総和を電池モジュールの許容電流にする。
【0064】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の特徴を損なわない限り、本発明の技術思想の範囲内で考えられるその他の形態についても、本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0065】
1 電池制御装置
2 インバータ
3 負荷
4 上位コントローラ
11 電池モジュール
12 バッテリコントローラ
13 リレー
14 電流センサ
15 電圧センサ
16 漏電センサ
17 温度センサ
18 遮断器
100 電池システム
121 CPU
122 記憶部
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6A
図6B