(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-26
(45)【発行日】2024-12-04
(54)【発明の名称】低放射積層膜付きガラス板及びガラス製品
(51)【国際特許分類】
C03C 17/34 20060101AFI20241127BHJP
B32B 17/06 20060101ALI20241127BHJP
C03C 17/36 20060101ALI20241127BHJP
C03C 27/06 20060101ALI20241127BHJP
C03C 27/12 20060101ALI20241127BHJP
E06B 3/663 20060101ALI20241127BHJP
E06B 3/67 20060101ALI20241127BHJP
【FI】
C03C17/34 Z
B32B17/06
C03C17/36
C03C27/06 101H
C03C27/12 L
E06B3/663 H
E06B3/67 A
(21)【出願番号】P 2021546657
(86)(22)【出願日】2020-09-14
(86)【国際出願番号】 JP2020034734
(87)【国際公開番号】W WO2021054289
(87)【国際公開日】2021-03-25
【審査請求日】2023-03-27
(31)【優先権主張番号】P 2019169555
(32)【優先日】2019-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 透
(72)【発明者】
【氏名】田口 雅文
(72)【発明者】
【氏名】籔田 武司
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/139008(WO,A1)
【文献】特開2018-127366(JP,A)
【文献】特表2015-504035(JP,A)
【文献】特表2017-537046(JP,A)
【文献】特開2000-319543(JP,A)
【文献】国際公開第2019/028296(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C17/00-17/44
C03C27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス板と、
前記ガラス板に支持された低放射積層膜と、
を備え、
前記低放射積層膜は、前記低放射積層膜の最も外側に配置されたZrO
2含有層と、前記ガラス板と前記ZrO
2含有層との間に配置された透明導電層と、を有し、
前記ZrO
2含有層におけるZrO
2の含有率が
50mol%以上72mol%以下であり、
前記ZrO
2含有層におけるSiO
2の含有率が28mol%以上
50mol%以下であり、
前記ZrO
2含有層の表面の算術平均粗さRaは、12nm以下であり、前記透明導電層の表面の算術平均粗さRaよりも小さい、低放射積層膜付きガラス板。
【請求項2】
前記透明導電層の前記表面の前記算術平均粗さRaが14nm以上である、請求項1に記載の低放射積層膜付きガラス板。
【請求項3】
前記透明導電層は、実質的にフッ素含有酸化スズからなる、請求項1又は2に記載の低放射積層膜付きガラス板。
【請求項4】
前記透明導電層は、実質的にフッ素含有酸化スズからなり、かつ、200nm以上400nm以下の厚さを有する層である、請求項1又は2に記載の低放射積層膜付きガラス板。
【請求項5】
前記透明導電層は、実質的にフッ素含有酸化スズからなり、かつ、400nm以上800nm以下の厚さを有する層である、請求項1又は2に記載の低放射積層膜付きガラス板。
【請求項6】
前記透明導電層は、
実質的にアンチモン含有酸化スズからなり、かつ、100nm以上300nm以下の厚さを有する第1透明導電層と、
実質的にフッ素含有酸化スズからなり、かつ、150nm以上400nm以下の厚さを有する第2透明導電層と、を含む、請求項1又は2に記載の低放射積層膜付きガラス板。
【請求項7】
前記低放射積層膜は、前記ガラス板と前記透明導電層との間に配置された下地層をさらに有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の低放射積層膜付きガラス板。
【請求項8】
前記下地層は、酸炭化ケイ素を主成分として含み、かつ、20nm以上120nm以下の厚さを有する層である、請求項7に記載の低放射積層膜付きガラス板。
【請求項9】
前記下地層は、
実質的に酸化スズからなり、かつ、10nm以上90nm以下の厚さを有する第1下地層と、
実質的にSiO
2からなり、かつ、10nm以上90nm以下の厚さを有する第2下地層と、からなる、請求項7に記載の低放射積層膜付きガラス板。
【請求項10】
前記下地層は、
実質的にSiO
2からなり、かつ、10nm以上30nm以下の厚さを有する第1下地層と、
実質的に酸化スズからなり、かつ、10nm以上90nm以下の厚さを有する第2下地層と、
実質的にSiO
2からなり、かつ、10nm以上90nm以下の厚さを有する第3下地層と、からなる、請求項7に記載の低放射積層膜付きガラス板。
【請求項11】
前記ZrO
2含有層の物理膜厚が15nm以上150nm以下である、請求項1~10のいずれか1項に記載の低放射積層膜付きガラス板。
【請求項12】
前記ZrO
2含有層の物理膜厚が30nm以上150nm以下である、請求項1~11のいずれか1項に記載の低放射積層膜付きガラス板。
【請求項13】
建築物の天窓として用いられることによって屋内空間と屋外空間とを分離するガラス製品であって、
前記ガラス製品は、請求項1~12のいずれか1項に記載の低放射積層膜付きガラス板と、空隙層を介して前記低放射積層膜付きガラス板と対向する第2のガラス板と、を備え、
前記低放射積層膜付きガラス板に含まれる前記低放射積層膜が前記屋外空間に接する、ガラス製品。
【請求項14】
前記第2のガラス板に支持され、前記空隙層と接している低放射膜をさらに備えた、請求項13に記載のガラス製品。
【請求項15】
前記低放射膜は、Agを主成分として含む層を有する、請求項14に記載のガラス製品。
【請求項16】
前記低放射膜は、Agを主成分として含む前記層を2つ有する、請求項15に記載のガラス製品。
【請求項17】
建築物の窓として用いられることによって屋内空間と屋外空間とを分離するガラス製品であって、
前記ガラス製品は、請求項1~12のいずれか1項に記載の低放射積層膜付きガラス板と、空隙層を介して前記低放射積層膜付きガラス板と対向する第2のガラス板と、を備え、
前記低放射積層膜付きガラス板に含まれる前記低放射積層膜が前記屋内空間に接する、ガラス製品。
【請求項18】
冷蔵庫又は冷凍庫の扉として用いられることによって庫内空間と庫外空間とを分離するガラス製品であって、
前記ガラス製品は、請求項1~12のいずれか1項に記載の低放射積層膜付きガラス板と、空隙層を介して前記低放射積層膜付きガラス板と対向する第2のガラス板と、を備え、
前記低放射積層膜付きガラス板に含まれる前記低放射積層膜が前記庫外空間に接する、
ガラス製品。
【請求項19】
輸送機材の天窓として用いられることによって機内空間と機外空間とを分離するガラス製品であって、
前記ガラス製品は、請求項1~12のいずれか1項に記載の低放射積層膜付きガラス板を備え、
前記低放射積層膜付きガラス板に含まれる前記低放射積層膜が前記機内空間に接する、ガラス製品。
【請求項20】
前記機外空間に接する第2のガラス板をさらに備えた、請求項19に記載のガラス製品。
【請求項21】
前記低放射積層膜付きガラス板は、前記ガラス板の両方の主表面に形成された圧縮応力層をさらに有する、請求項19に記載されたガラス製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低放射積層膜付きガラス板及びガラス製品に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス板は、その用途によっては、断熱性を有することが求められる。ガラス板の断熱性は、例えば、その表面に低放射(Low-E(Low Emissivity))膜を形成することによって向上できる。低放射膜は、典型的には透明導電層を備え、場合によっては、透明導電層の上に配置されたSiO2層をさらに備えている(例えば、特許文献1及び2)。
【0003】
SiO2層は、例えば、いわゆるゾルゲル法によって、シリコンアルコキシドなどの加水分解性シリコン化合物を加水分解及び縮重合することにより製造できる。SiO2層は、例えば、ナトリウムのケイ酸塩及び/又はカリウムのケイ酸塩の水溶液とリチウムケイ酸塩の水溶液との混合物をガラス板に塗布し、得られた塗膜を乾燥させ、さらに加熱処理することによって製造することもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2006/098285号
【文献】特表2014-514997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の低放射膜付きガラス板は、ガラス製品に必要とされる特性、例えば耐久性、耐擦傷性、表面防汚性などの特性、について改善の余地があった。
【0006】
そこで本発明は、ガラス製品に必要とされる特性が向上した低放射積層膜付きガラス板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、低放射膜の表面の算術平均粗さが耐擦傷性及び表面防汚性に影響を与えることを見出した。本発明者らは、この知見に基づいて検討を進め、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、
ガラス板と、
前記ガラス板に支持された低放射積層膜と、
を備え、
前記低放射積層膜は、前記低放射積層膜の最も外側に配置されたZrO2含有層と、前記ガラス板と前記ZrO2含有層との間に配置された透明導電層と、を有し、
前記ZrO2含有層におけるZrO2の含有率が8mol%以上100mol%以下であり、
前記ZrO2含有層におけるSiO2の含有率が0mol%以上92mol%以下であり、
前記ZrO2含有層の表面の算術平均粗さRaは、12nm以下であり、前記透明導電層の表面の算術平均粗さRaよりも小さい、低放射積層膜付きガラス板を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ガラス製品に必要とされる特性が向上した低放射積層膜付きガラス板を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる低放射積層膜付きガラス板の概略断面図である。
【
図2】低放射積層膜付きガラス板における透明導電層の表面付近を示した拡大断面図である。
【
図4A】屋外の温度が屋内よりも低い環境に置かれた従来のガラス製品の温度分布を説明するための図である。
【
図4B】屋外の温度が屋内よりも低い環境に置かれた
図3のガラス製品の温度分布を説明するための図である。
【
図5】変形例1のガラス製品を示す概略断面図である。
【
図6】変形例2のガラス製品を示す概略断面図である。
【
図7】変形例3のガラス製品を示す概略断面図である。
【
図8】変形例4のガラス製品を示す概略断面図である。
【
図9】ガラス製品が輸送機材の天窓として用いられている状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の詳細を説明するが、以下の説明は、本発明を特定の実施形態に制限する趣旨ではない。
【0012】
<低放射積層膜付きガラス板の実施形態>
図1に示すように、本実施形態の低放射積層膜付きガラス板10は、ガラス板1及び低放射積層膜2を備える。低放射積層膜2は、ガラス板1に支持されている。低放射積層膜2は、例えば、ガラス板1に接しており、ガラス板1の主表面(最も広い面積を有する表面)を被覆している。低放射積層膜2は、例えば、外部雰囲気(典型的には空気)に接している。
【0013】
低放射積層膜2は、ZrO2を含む層(ZrO2含有層3)及び透明導電層4を有する。ZrO2含有層3は、低放射積層膜2の最も外側に配置されており、外部雰囲気に接している。透明導電層4は、ガラス板1とZrO2含有層3との間に配置されており、例えば、ZrO2含有層3に接している。透明導電層4は、ガラス板1と接していてもよく、接していなくてもよい。
【0014】
本実施形態の低放射積層膜付きガラス板10において、ZrO2含有層3の表面(外部雰囲気側の表面3a)の算術平均粗さRaは、12nm以下であり、透明導電層4の表面(ZrO2含有層3側の表面4a)の算術平均粗さRaよりも小さい。表面3aの算術平均粗さRaは、好ましくは10nm以下であり、より好ましくは8nm以下であり、特に好ましくは6nm以下である。表面3aの算術平均粗さRaの下限値は、特に限定されず、例えば1nmである。表面3aの算術平均粗さRaは、JIS B0601:2013の規定に準拠した方法で特定することができる。
【0015】
低放射積層膜付きガラス板10において、透明導電層4の表面4aの算術平均粗さRaは、ZrO
2含有層3の表面3aの算術平均粗さRaより大きい限り、特に限定されず、例えば14nm以上である。表面4aの算術平均粗さRaの上限値は、特に限定されず、50nmであってもよく、25nmであってもよい。表面4aの算術平均粗さRaは、例えば、次の方法によって特定できる。まず、低放射積層膜付きガラス板10の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察する。
図2は、SEM観察によって得られた透明導電層4の表面4a付近の電子顕微鏡像の一例を示している。得られた電子顕微鏡像から表面4aの粗さ曲線を特定する。JIS B0601:2013に規定された算出方法によって、得られた粗さ曲線から表面4aの算術平均粗さRaを特定することができる。なお、表面4aの算術平均粗さRaは、ZrO
2含有層3が形成されていない(透明導電層4の表面4aが外部に露出している)状態で、JIS B0601:2013の規定に準拠した方法によって特定してもよい。なお、透明導電層4の表面4aは、ZrO
2含有層3に完全に覆われておらず、その一部が外部に露出していてもよい。この場合、本発明の効果を十分に得る観点から、ZrO
2含有層3の表面3a、及び、外部に露出している透明導電層4の表面4aの一部は、いずれも算術平均粗さRaが12nm以下であることが好ましい。
【0016】
(ガラス板)
ガラス板1は、フロート板ガラスであってもよく、型板ガラスであってもよい。フロート板ガラスの表面は、優れた平滑性を有している。フロート板ガラスの表面の算術平均粗さRaは、好ましくは1nm以下であり、より好ましくは0.5nm以下である。
【0017】
型板ガラスの表面は、肉眼で確認できるサイズの巨視的な凹凸を有する。巨視的な凹凸とは、平均間隔RSmがミリメートルオーダー程度の凹凸のことである。平均間隔RSmは、粗さ曲線が平均線と交差する点から求めた山谷一周期の間隔の平均値を意味する。巨視的な凹凸は、粗さ曲線における評価長さをセンチメートルオーダーに設定した場合に確認できる。型板ガラスの表面における凹凸の平均間隔RSmは、0.3mm以上、0.4mm以上又は0.45mm以上であってもよい。平均間隔RSmは、2.5mm以下、2.1mm以下、2.0mm以下又は1.5mm以下であってもよい。型板ガラス板の表面の凹凸は、上記範囲の平均間隔RSmとともに、0.5μm~10μm、特に1μm~8μmの最大高さRzを有することが好ましい。平均間隔RSm及び最大高さRzは、JIS B0601:2013に規定された値である。なお、型板ガラスであっても、例えば、粗さ曲線における評価長さが数百nmである表面粗さ測定では、数nm以下(例えば、1nm以下)の算術平均粗さRaを有することがある。すなわち、型板ガラスの表面は、微視的には、優れた平滑性を有することがある。評価長さが数百nmである表面粗さ測定としては、例えば、原子間力顕微鏡(AFM)観察が挙げられる。
【0018】
ガラス板1の組成は、従来の型板ガラス、建築用板ガラス、自動車用板ガラスなどの組成と同じであってもよい。ガラス板1における酸化鉄の含有率は、Fe2O3に換算して、0.06wt%以下又は0.02wt%以下であってもよい。酸化鉄は、代表的な着色成分である。ガラス板1が着色ガラスである場合、ガラス板1における酸化鉄の含有率は、0.3wt%以上1.5wt%以下であってもよい。
【0019】
ガラス板1の厚さは、特に限定されず、例えば0.5mm~15mmである。
【0020】
(ZrO2含有層)
ZrO2含有層3は、ZrO2を含み、その含有率は、8mol%以上100mol%以下である。ZrO2含有層におけるZrO2の含有率の下限値は、好ましくは10mol%である。ZrO2の含有率の上限値は、好ましくは80mol%であり、より好ましくは60mol%であり、さらに好ましくは30mol%である。ZrO2の含有率は、23mol%以上100mol%以下であってもよく、23mol%以上72mol%以下であってもよい。場合によっては、ZrO2の含有率は、10mol%以上30mol%以下、又は、20mol%以上30mol%以下であってもよい。ZrO2含有層3におけるZrO2の含有率が高ければ高いほど、ZrO2含有層3の耐アルカリ性が向上する傾向がある。一方、ZrO2の含有率が高すぎると、ZrO2含有層3の屈折率が向上し、可視光反射率が高くなりすぎることがある。
【0021】
ZrO2含有層3は、ZrO2以外の成分として、SiO2をさらに含んでいてもよい。ZrO2含有層3におけるSiO2の含有率は、0mol%以上92mol%以下であり、好ましくは0mol%以上77mol%以下であり、より好ましくは28mol%以上77mol%以下である。
【0022】
ZrO2含有層3の物理膜厚は、例えば15nm以上150nm以下であり、20nm以上や30nm以上であってもよく、好ましくは30nm以上150nm以下であり、より好ましくは50nm以上120nm以下である。この程度の物理膜厚を有するZrO2含有層3は、透明導電層4及びガラス板1を含む積層体(透明導電層付きガラス板)の上にZrO2含有層3を配置することによって生じる反射色調の変化を抑制することに適している。
【0023】
(透明導電層)
透明導電層4の第1の例としては、実質的にフッ素含有酸化スズからなり、かつ、200nm以上400nm以下の厚さを有する層が挙げられる。本明細書では、「実質的に~からなる」は、層における成分の含有率が90mol%以上、さらには95mol%以上、特に99mol%以上であることを意味する。第1の例の透明導電層4は、300nm以上400nm以下の厚さを有することが好ましい。第1の例の透明導電層4が用いられる場合、後述する下地層5は、2層構造(例えば、第2の例の下地層5)を有することが好ましい。低放射積層膜2が第1の例の透明導電層4を含むとき、ZrO2含有層3は、10nm以上100nm以下の物理膜厚を有することが好ましい。
【0024】
透明導電層4の第2の例としては、実質的にフッ素含有酸化スズからなり、かつ、400nm以上800nm以下の厚さを有する層が挙げられる。第2の例の透明導電層4は、500nm以上700nm以下の厚さを有することが好ましい。第2の例の透明導電層4が用いられる場合、後述する下地層5は、2層構造(例えば、第2の例の下地層5)を有することが好ましい。低放射積層膜2が第2の例の透明導電層4を含むとき、ZrO2含有層3は、40nm以上250nm以下の物理膜厚を有することが好ましい。
【0025】
透明導電層4の第3の例としては、実質的にアンチモン含有酸化スズからなり、かつ、100nm以上300nm以下の厚さを有する第1透明導電層と、実質的にフッ素含有酸化スズからなり、かつ、150nm以上400nm以下の厚さを有する第2透明導電層とを含む透明導電層が挙げられる。第3の例の透明導電層4は、第1透明導電層及び第2透明導電層からなっていてもよい。第3の例において、第1透明導電層及び第2透明導電層は、例えば、ガラス板1の主表面側から、この順で積層されている。第3の例の透明導電層4において、第1透明導電層は、150nm以上200nm以下の厚さを有することが好ましい。第3の例の透明導電層4において、第2透明導電層は、200nm以上300nm以下の厚さを有することが好ましい。第3の例の透明導電層4が用いられる場合、後述する下地層5は、2層構造(例えば、第2の例の下地層5)を有することが好ましい。低放射積層膜2が第3の例の透明導電層4を含むとき、ZrO2含有層3は、10nm以上100nm以下の物理膜厚を有することが好ましい。
【0026】
(下地層)
低放射積層膜2は、下地層5をさらに備えていてもよい。下地層5は、例えば、ガラス板1と透明導電層4との間に配置されており、ガラス板1及び透明導電層4のそれぞれに直接接していてもよい。
【0027】
下地層5の第1の例としては、酸炭化ケイ素(SiOC)を主成分として含み、かつ、20nm以上120nm以下の厚さを有する層が挙げられる。本明細書では、「主成分」は、モル基準で最も多く含まれる成分を意味する。第1の例の下地層5は、実質的に酸炭化ケイ素からなっていてもよい。第1の例の下地層5は、30nm以上100nm以下の厚さを有することが好ましく、30nm以上60nm以下の厚さを有することがより好ましい。
【0028】
下地層5の第2の例としては、実質的に酸化スズからなり、かつ、10nm以上90nm以下の厚さを有する第1下地層と、実質的にSiO2からなり、かつ、10nm以上90nm以下の厚さを有する第2下地層と、からなる下地層が挙げられる。第2の例において、第1下地層及び第2下地層は、例えば、ガラス板1の主表面側から、この順で積層されている。第2の例の下地層5において、第1下地層は、10nm以上70nm以下の厚さを有することが好ましく、12nm以上40nm以下の厚さを有することがより好ましい。第2の例の下地層5において、第2下地層は、10nm以上70nm以下の厚さを有することが好ましく、12nm以上40nm以下の厚さを有することがより好ましい。
【0029】
下地層5の第3の例としては、実質的にSiO2からなり、かつ、10nm以上30nm以下の厚さを有する第1下地層と、実質的に酸化スズからなり、かつ、10nm以上90nm以下の厚さを有する第2下地層と、実質的にSiO2からなり、かつ、10nm以上90nm以下の厚さを有する第3下地層と、からなる下地層が挙げられる。第3の例において、第1下地層、第2下地層及び第3下地層は、例えば、ガラス板1の主表面側から、この順で積層されている。第3の例の下地層5において、第1下地層は、10nm以上20nm以下の厚さを有することが好ましい。第3の例の下地層5において、第2下地層は、10nm以上70nm以下の厚さを有することが好ましく、12nm以上40nm以下の厚さを有することがより好ましい。第3の例の下地層5において、第3下地層は、10nm以上70nm以下の厚さを有することが好ましく、12nm以上40nm以下の厚さを有することがより好ましい。
【0030】
(他の低放射膜)
本実施形態の低放射積層膜付きガラス板10は、低放射積層膜2側の表面とは反対側のガラス板1の表面上に配置された他の低放射膜をさらに備えていてもよい。他の低放射膜は、例えば、誘電体層と、Agを主成分として含む層と、別の誘電体層とがこの順に積層された積層体を含む膜である。
【0031】
(低放射積層膜付きガラス板の製造方法)
本実施形態の低放射積層膜付きガラス板10は、例えば、透明導電層4及びガラス板1を含む積層体(透明導電層付きガラス板)における透明導電層4の上にZrO2含有層3を形成することによって作製できる。透明導電層付きガラス板としては、市販のものを用いることができる。ZrO2含有層3は、例えば、次の方法によって作製できる。まず、ZrO2含有層3を形成するためのコーティング液を透明導電層4の上に塗布し、液膜を作製する。
【0032】
コーティング液は、例えば、ZrO2の前駆体及び有機溶媒を含む。ZrO2の前駆体は、例えば、オキシ塩化ジルコニウム及びオキシ硝酸ジルコニウムからなる群より選ばれる少なくとも1つを含み、好ましくはオキシ硝酸ジルコニウムを含む。
【0033】
コーティング液に含まれる有機溶媒は、ZrO2の前駆体を溶解できるもの、又は、ZrO2の前駆体の水溶液と均一に混合できるものであれば特に限定されない。有機溶媒は、好ましくは、炭素数1~5のアルコールを含む。このアルコールに含まれるヒドロキシ基の数は、例えば1~3である。このアルコールは、第1級アルコールであってもよく、第2級アルコールであってもよい。このアルコールは、ヒドロキシ基以外の官能基(例えば、エーテル基)をさらに含んでいてもよい。炭素数1~5のアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)及び3-メトキシ-1-ブタノールが挙げられる。有機溶媒は、炭素数1~5のアルコール以外の他のアルコール類を含んでいてもよい。
【0034】
コーティング液は、シリコンアルコキシド及び/又はその加水分解生成物をさらに含んでいてもよい。シリコンアルコキシドは、例えば、一般式Si(OR)nX4-nで表される。nは、1~4の整数であり、好ましくは2~4の整数である。ORは、それぞれ独立して、炭素数1~4のアルコキシ基である。炭素数1~4のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基及びブトキシ基が挙げられる。Xは、加水分解性を有さない官能基を表している。Xは、それぞれ独立して、炭素数1~6の炭化水素基であってもよい。炭素数1~6の炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基及びフェニル基が挙げられる。シリコンアルコキシドとしては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン及びフェニルトリエトキシシランが挙げられる。
【0035】
コーティング液がシリコンアルコキシドを含むとき、コーティング液は、水及び触媒をさらに含むことが好ましい。コーティング液における水の量は、シリコンアルコキシドの加水分解に必要な水のモル数に対して、1~40当量が好ましく、1~10当量がより好ましく、2~5当量がさらに好ましい。
【0036】
触媒は、加水分解触媒として機能するものであれば特に限定されない。加水分解触媒は、塩基であってもよいが、酸であることが好ましい。酸は、無機酸であってもよく、有機酸であってもよい。酸の沸点は、300℃以下であることが好ましい。酸としては、例えば、塩酸及び硝酸が挙げられる。コーティング液における酸の含有率は、例えば0.001wt%~0.3wt%であり、好ましくは0.001wt%~0.03wt%であり、より好ましくは0.002wt%~0.02wt%である。
【0037】
コーティング液の固形分濃度は、例えば0.1wt%~7wt%であり、好ましくは6wt%以下であり、より好ましくは5wt%以下であり、さらに好ましくは4wt%以下であり、特に好ましくは3wt%以下である。コーティング液の固形分濃度の下限値は、例えば0.5wt%である。
【0038】
コーティング液を透明導電層付きガラス板に塗布する方法としては、特に限定されないが、スプレーコート法、フローコート法、ロールコート法、スピンコート法、スロットダイコート法及びバーコート法を例示することができる。
【0039】
コーティング液を透明導電層付きガラス板に塗布して得られた液膜の厚さは、特に限定されず、例えば数μm~数十μmである。
【0040】
次に、液膜を乾燥し、さらに焼成することによって、ZrO2含有層3が得られる。乾燥工程は、例えば100℃以上500℃以下の温度で2秒以上10分以下の時間、液膜を加熱することによって実施される。焼成工程において、透明導電層付きガラス板が到達する最高温度は、例えば800℃以下である。焼成工程において、好ましくは、透明導電層付きガラス板の温度が400℃以上である時間は、2秒以上である。焼成工程は、乾燥工程を兼ねていてもよい。さらに、焼成工程は、ガラス板1を加熱成形する工程、又は、風冷強化のためにガラス板1を加熱する工程を兼ねてもよい。
【0041】
乾燥工程及び焼成工程は、例えば、熱風乾燥によって実施される。乾燥工程及び焼成工程は、所定の温度に設定された加熱炉中に、液膜が作製された透明導電層付きガラス板を所定の時間保持することによって実施されてもよい。
【0042】
低放射積層膜付きガラス板10の製造方法は、上記の方法に限定されない。例えば、オンラインCVD法を用いて、透明導電層付きガラス板の上にZrO2含有層3を設けることよって低放射積層膜付きガラス板10を作製することもできる。
【0043】
(低放射積層膜付きガラス板の特性)
本実施形態の低放射積層膜付きガラス板10では、ZrO2含有層3の表面3aの算術平均粗さRaが12nm以下である。このような表面3aは、固形物と擦れても傷がつきにくく、耐擦傷性に優れている。さらに、表面3aは、指紋などの油分がつきにくく、表面防汚性にも優れている。本実施形態の低放射積層膜付きガラス板10は、断熱性にも優れている。
【0044】
さらに、低放射積層膜付きガラス板10は、耐久性、特に耐アルカリ性、に優れている。耐アルカリ性は、例えば、次の方法によって評価することができる。まず、低放射積層膜付きガラス板10について耐久性試験を行う。耐久性試験では、濃度が1規定(1mol/L)であり、温度が23℃の水酸化ナトリウム水溶液を準備する。この水酸化ナトリウム水溶液に低放射積層膜付きガラス板10を24時間浸漬させることによって耐久性試験を行う。次に、分光光度計によって、耐久性試験後の低放射積層膜付きガラス板10におけるZrO2含有層3からの反射光のL1
*値、a1
*値及びb1
*値を測定する。L1
*値、a1
*値及びb1
*値は、L*a*b*表色系(CIE1976)に基づいている。得られたL1
*値、a1
*値及びb1
*値と、耐久性試験前の低放射積層膜付きガラス板10におけるZrO2含有層3からの反射光のL0
*値、a0
*値及びb0
*値とに基づいて算出される反射光の色の変化ΔE*によって耐アルカリ性を評価できる。ΔE*は、以下の式(1)~(4)によって算出することができる。
ΔL*=L0
*-L1
* (1)
Δa*=a0
*-a1
* (2)
Δb*=b0
*-b1
* (3)
ΔE*={(ΔL*)2+(Δa*)2+(Δb*)2}1/2 (4)
【0045】
低放射積層膜付きガラス板10において、上記の試験結果から算出されたΔE*は、例えば5以下であり、好ましくは4以下であり、より好ましくは3以下であり、さらに好ましくは2以下であり、特に好ましくは1.5以下であり、とりわけ好ましくは1以下であり、場合によっては0.5以下であってもよい。ΔE*の下限値は、特に限定されず、例えば0.05である。
【0046】
低放射積層膜付きガラス板10の可視光反射率は、特に限定されず、例えば15%以下であり、好ましくは10%以下であり、より好ましくは8%以下であり、さらに好ましくは7%以下である。低放射積層膜付きガラス板10の可視光反射率の下限値は、例えば1%である。本明細書において、可視光反射率は、JIS R3106:1998の規定によって定められた値であり、その具体的な測定条件は実施例の欄で説明する。
【0047】
<ガラス製品の実施形態>
図3は、建築物の天窓として用いられるガラス製品100の一例を示す。ガラス製品100は、低放射積層膜付きガラス板10と、空隙層30を介して低放射積層膜付きガラス板10と対向する第2のガラス板15とを備える。本明細書では、ガラス製品が備える第2のガラス板15に対して、低放射積層膜付きガラス板10のガラス板1を「第1のガラス板」と呼ぶことがある。ガラス製品100は、第2のガラス板15に支持され、空隙層30と接している低放射膜25(第1の低放射膜)をさらに備えていてもよい。
図3のガラス製品100は、複層ガラスユニットである。
【0048】
ガラス製品100は、ガラスユニットとして単体で、又は窓枠(サッシ)部を備える窓アセンブリとして、建築物の窓構造に組み込まれ、屋内空間と屋外空間とを分離する。低放射積層膜付きガラス板10は、最も屋外空間側に位置しており、低放射積層膜2が屋外空間に接している。第2のガラス板15は、最も屋内空間側に位置しており、屋内空間に接している。
【0049】
複層ガラスユニットの分野では、当業者の慣例として、当該ユニットが備えるガラス板の主表面について、屋外空間側から第1面、第2面、第3面...と順に番号が付される。この慣例に基づけば、
図3に示すガラス製品100において、第1のガラス板1の空隙層30とは反対側の主表面(屋外空間側の主表面)1aが第1面(#1面)、第1のガラス板1の空隙層30に面する主表面1bが第2面(#2面)、第2のガラス板15の空隙層30に面する主表面15aが第3面(#3面)、第2のガラス板15の空隙層30とは反対側の主表面(屋内空間側の主表面)15bが第4面(#4面)である。ガラス製品100において、低放射積層膜2が#1面に形成されており、低放射膜25が#3面に形成されている。
【0050】
ガラス製品100において、第2のガラス板15としては、第1のガラス板1について上述したものを用いることができ、第1のガラス板1と同じであってもよい。
【0051】
低放射膜25は、特に限定されず、公知のものを用いることができる。低放射膜25の一例は、Ag層などの金属層を含む膜である。この膜は、例えば、第2のガラス板15の主表面側から順に、誘電体層/金属層/犠牲層/誘電体層が積層された構造(第1の積層構造)を有する。低放射膜25は、金属層を2つ以上有していてもよい。2つ以上の金属層を有する低放射膜25は、U値(熱貫流率)を低減することに適している。2つ以上の金属層を有する低放射膜25は、例えば、第2のガラス板15の主表面側から順に、誘電体層/金属層/犠牲層/誘電体層/金属層/犠牲層/誘電体層が積層された構造(第2の積層構造)を有する。第2の積層構造では、犠牲層と金属層との間に挟まれた誘電体層を2つの第1の積層構造で共有している。このように、低放射膜25は、第1の積層構造を2つ以上有していてもよい。
【0052】
誘電体層、金属層及び犠牲層の各層は、1つの材料から構成される1つの層であってもよく、互いに異なる材料から構成される2つ以上の層の積層体であってもよい。
【0053】
第1の積層構造において、金属層及び犠牲層を挟持する一対の誘電体層は、同じ材料から構成されていてもよく、互いに異なる材料から構成されていてもよい。
【0054】
金属層を含む低放射膜25は、当該金属層の数をnとすると当該金属層を挟持する誘電体層の数がn+1以上となるため、通常、2n+1又はそれ以上の数の層から構成されている。
【0055】
金属層は、例えば、Ag層である。Ag層は、Agを主成分として含む層であって、実質的にAgからなる層であってもよい。金属層は、パラジウム、金、インジウム、亜鉛、スズ、アルミニウム、銅などの金属をAgにドープした材料を含んでいてもよい。低放射膜25は、Ag層を1つ有していてもよく、Ag層を2つ又は3つ以上有していてもよい。
【0056】
低放射膜25における金属層の厚さの合計は、例えば18~34nmであり、好ましくは22~29nmである。
【0057】
犠牲層は、例えば、チタン、亜鉛、ニッケル、クロム、亜鉛/アルミニウム合金、ニオブ、ステンレス、これらの合金及びこれらの酸化物から選ばれる少なくとも1種を主成分として含む層であり、チタン、チタン酸化物、亜鉛及び亜鉛酸化物から選ばれる少なくとも1種を主成分として含む層が好ましい。犠牲層の厚さは、例えば0.1~5nmであり、好ましくは0.5~3nmである。
【0058】
誘電体層は、例えば、酸化物又は窒化物を主成分として含む層であり、このような誘電体層のより具体的な例は、ケイ素、アルミニウム、亜鉛、錫、チタン、インジウム及びニオブの各酸化物並びに各窒化物から選ばれる少なくとも1種を主成分として含む層である。誘電体層の厚さは、例えば8~120nmであり、好ましくは15~85nmである。
【0059】
金属層、犠牲層及び誘電体層の形成方法は、特に限定されず、公知の薄膜形成手法を利用できる。例えば、スパッタリング法によりこれらの層を形成できる。酸化物又は窒化物から構成される誘電体層は、例えば、スパッタリング法の一種である反応性スパッタリングにより形成できる。犠牲層は、金属層上に誘電体層を反応性スパッタリングにより形成するために必要な層(反応性スパッタリング時に自らが酸化することによって金属層の酸化を防ぐ層)であり、犠牲層との名称は当業者によく知られている。
【0060】
ガラス製品100は、第2のガラス板15に支持され、屋内空間と接している第2の低放射膜(図示せず)をさらに備えていてもよい。第2の低放射膜は、低放射積層膜2について上述したものを用いることができ、低放射積層膜2と同じであってもよい。
【0061】
空隙層30は、空隙層30を挟持する一対のガラス板(第1及び第2のガラス板1,15)の周縁部(空隙層30に面する主表面の周縁部)に配置されたスペーサー40によってその厚さが保持されている。空隙層30内の空間は、スペーサー40のさらに外周に配置された封着材45によって密閉されている。スペーサー40とガラス板1,15との間には、さらなる封着材が配置されていてもよい。スペーサー40及び封着材45には、公知の構成を適用できる。空隙層30には、例えば、空気(乾燥空気);アルゴン、クリプトンなどの不活性ガスが導入、充填されている。ガラス製品100のU値をより小さく設計する観点から、空隙層30に充填された気体は、アルゴン又はクリプトンであることが好ましく、クリプトンであることがより好ましい。本明細書では、空気が充填された空隙層30を「空気層」と呼ぶことがある。空隙層30内は、減圧されていてもよく、真空(圧力が約10Pa以下)であってもよい。
【0062】
空隙層30の厚さは、例えば4~16mmであり、好ましくは6~16mmである。空隙層30内が減圧状態又は真空状態である場合、空隙層30の厚さは、0.3~1mmであってもよい。
【0063】
ガラス製品100の厚さは、例えば10~22mmであり、12~22mmであってもよい。空隙層30内が減圧状態又は真空状態である場合、ガラス製品100の厚さは、5~15mmであってもよい。
【0064】
ガラス製品100では、低放射積層膜2が#1面に形成されていることによって、屋外の温度が屋内より低い場合であっても#1面の温度の低下を抑制することができる。例えば、従来、#2面に低放射膜が形成されたガラス製品が知られている。
図4Aのガラス製品150は、#1面に低放射積層膜2が形成されておらず、#3面の代わりに#2面に低放射膜25が形成されている。以上を除き、ガラス製品150の構造は、ガラス製品100と同じである。
図4Aでは、スペーサー40及び封着材45の構成が省略されている。ガラス製品150に十分な日射が入射しておらず、屋外の温度が屋内よりも低い環境、例えば早朝の環境、にガラス製品150が置かれている場合、ガラス製品150には、屋内から屋外に向かって熱(遠赤外線)が移動する。ガラス製品150の低放射膜25は、この熱を反射し屋内に戻す。これにより、屋外側に位置する第1のガラス板1には、十分な熱が供給されず、#1面の温度が低下する。#1面の温度が屋外の空気の露点以下に低下すると結露(例えば、朝露)が生じる。
【0065】
これに対して、
図4Bに示すように、ガラス製品100では、屋内側からの熱は、第1のガラス板1内を移動した後に、低放射積層膜2で反射される。低放射積層膜2で反射された熱は、第1のガラス板1内を再度移動し、屋内に戻される。これにより、第1のガラス板1には、屋内からの熱が十分に供給され、#1面の温度の低下が抑制される。#1面の温度の低下が抑制されると、#1面に形成された低放射積層膜2の温度の低下も抑制される。ガラス製品100では、低放射積層膜2の屋外側の表面の温度が屋外の空気の露点以下に低下することが抑制されるため、当該表面での結露が抑制される傾向がある。結露が抑制されれば、ガラス製品100を通じた視界を良好な状態に維持することができる。
【0066】
なお、ガラス製品100は、建築物の天窓以外の窓構造に用いられてもよく、後述する輸送機材の窓構造に用いられてもよい。
【0067】
<ガラス製品の変形例1>
本発明の低放射積層膜付きガラス板10を備えたガラス製品の用途は、建築物の天窓に限定されない。第一の変形例において、ガラス製品は、建築物の壁などに設けられた通常の窓として用いられる。詳細には、変形例1のガラス製品は、建築物の窓構造に組み込まれ、屋内空間と屋外空間とを分離する。
【0068】
変形例1のガラス製品において、低放射積層膜付きガラス板10は、単独で用いられてもよい。この場合、ガラス製品の構造は、例えば、後述する変形例4のガラス製品300の構造と同じである。このガラス製品は、低放射積層膜2が屋内空間側に位置するように用いられることが好ましい。言い換えると、低放射積層膜2が、ガラス板1の屋内空間側の主表面に形成されていることが好ましい。
【0069】
変形例1のガラス製品は、中間膜を介して、低放射積層膜付きガラス板10が別のガラス板と貼り合わされた合わせガラスであってもよい。この場合、ガラス製品の構造は、例えば、後述する変形例3のガラス製品200の構造と同じである。このガラス製品は、低放射積層膜2が屋内空間側に露出するように用いられることが好ましい。言い換えると、低放射積層膜付きガラス板10が最も屋内空間側に位置しており、低放射積層膜2が、ガラス板1の屋内空間側の主表面に形成されていることが好ましい。
【0070】
変形例1のガラス製品は、空隙層を介して、低放射積層膜付きガラス板10が別のガラス板と対向して保持された複層ガラスユニットであってもよい。
図5は、複層ガラスユニットである変形例1のガラス製品110を示す。ガラス製品110は、低放射積層膜付きガラス板10と、空隙層30を介して低放射積層膜付きガラス板10と対向する第2のガラス板15とを備える。ガラス製品110では、低放射積層膜付きガラス板10が最も屋内空間側に位置しており、低放射積層膜2が屋内空間に接している。第2のガラス板15は、最も屋外空間側に位置しており、屋外空間に接している。ガラス製品110は、第2のガラス板15に支持された低放射膜25を備えていない。以上を除き、本実施形態のガラス製品110の構造は、ガラス製品100の構造と同じである。したがって、ガラス製品100と本実施形態のガラス製品110とで共通する要素には同じ参照符号を付し、それらの説明を省略することがある。
【0071】
ガラス製品110が備えるガラス板の主表面について、屋外空間側から第1面、第2面、第3面...と順に番号を付した場合、
図5に示すガラス製品110において、第2のガラス板15の空隙層30とは反対側の主表面(屋外空間側の主表面)15aが第1面(#1面)、第2のガラス板15の空隙層30に面する主表面15bが第2面(#2面)、第1のガラス板1の空隙層30に面する主表面1aが第3面(#3面)、第1のガラス板1の空隙層30とは反対側の主表面(屋内空間側の主表面)1bが第4面(#4面)である。ガラス製品110において、低放射積層膜2は、#4面に形成されている。
【0072】
ガラス製品110において、第2のガラス板15としては、第1のガラス板1について上述したものを用いることができ、第1のガラス板1と同じであってもよい。
【0073】
ガラス製品110の使用時において、低放射積層膜付きガラス板10は、屋内空間から屋外空間へ、赤外線の形で失われようとする熱を反射することに適している。すなわち、ガラス製品110は、屋内空間から屋外空間への断熱性能の上昇に適している。
【0074】
<ガラス製品の変形例2>
第二の変形例において、ガラス製品は、冷蔵庫又は冷凍庫の扉として用いられる。詳細には、変形例2のガラス製品は、冷蔵庫又は冷凍庫の扉構造に組み込まれ、庫内空間と庫外空間とを分離する。
【0075】
変形例2のガラス製品は、空隙層を介して、低放射積層膜付きガラス板10が別のガラス板と対向して保持された複層ガラスユニットであることが好ましい。
図6は、複層ガラスユニットである変形例2のガラス製品120を示す。ガラス製品120は、低放射積層膜付きガラス板10と、空隙層30を介して低放射積層膜付きガラス板10と対向する第2のガラス板15とを備える。ガラス製品120では、低放射積層膜付きガラス板10が最も庫外空間側に位置しており、低放射積層膜2が庫外空間に接している。第2のガラス板15は、最も庫内空間側に位置しており、庫内空間に接している。以上を除き、本実施形態のガラス製品120の構造は、ガラス製品110の構造と同じである。
【0076】
ガラス製品120が備えるガラス板の主表面について庫外空間側から第1面、第2面、第3面...と順に番号を付した場合、
図6に示すガラス製品120において、第1のガラス板1の空隙層30とは反対側の主表面(庫外空間側の主表面)1aが第1面(#1面)、第1のガラス板1の空隙層30に面する主表面1bが第2面(#2面)、第2のガラス板15の空隙層30に面する主表面15aが第3面(#3面)、第2のガラス板15の空隙層30とは反対側の主表面(庫内空間側の主表面)15bが第4面(#4面)である。ガラス製品120において、低放射積層膜2は、#1面に形成されている。
【0077】
ガラス製品120において、第2のガラス板15としては、第1のガラス板1について上述したものを用いることができ、第1のガラス板1と同じであってもよい。
【0078】
<ガラス製品の変形例3>
第三の変形例において、ガラス製品は、輸送機材の天窓として用いられる。
図7は、変形例3のガラス製品200を示す。輸送機材としては、例えば、車両、航空機及び船舶が挙げられる。車両としては、例えば、鉄道車両及び自動車が挙げられる。輸送機材は、典型的には、自動車である。ガラス製品200は、低放射積層膜付きガラス板10を備え、例えば、第2のガラス板15をさらに備える。ガラス製品200は、第1のガラス板1と第2のガラス板15との間に配置された中間膜50をさらに備えていてもよい。
図7のガラス製品200は、合わせガラスである。
【0079】
ガラス製品200は、輸送機材の窓構造に組み込まれ、機内空間と機外空間とを分離する。低放射積層膜付きガラス板10は、最も機内空間側に位置しており、低放射積層膜2が機内空間に接している。第2のガラス板15は、最も機外空間側に位置しており、機外空間に接している。
【0080】
ガラス製品200が備えるガラス板の主表面について、機外空間側から第1面、第2面、第3面...と順に番号を付した場合、
図7に示すガラス製品200において、第2のガラス板15の中間膜50とは反対側の主表面(機外空間側の主表面15a)が第1面(#1面)、第2のガラス板15の中間膜50に面する主表面15bが第2面(#2面)、第1のガラス板1の中間膜50に面する主表面1aが第3面(#3面)、第1のガラス板1の中間膜50とは反対側の主表面(機内空間側の主表面)1bが第4面(#4面)である。ガラス製品200において、低放射積層膜2は、#4面に形成されている。
【0081】
ガラス製品200において、第2のガラス板15としては、第1のガラス板1について上述したものを用いることができ、第1のガラス板1と同じであってもよい。
【0082】
中間膜50としては、公知のものを用いることができる。中間膜50は、例えば、ポリビニルアセタール樹脂及び可塑剤を含む。ポリビニルアセタール樹脂としては、特に限定されず、例えば、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂が挙げられる。可塑剤としては、特に限定されず、例えば、トリエチレングリコールジ(2-エチルヘキサノエート)、トリエチレングリコールジ(2-エチルブチレート)、テトラエチレングリコールジ(2-エチルブチレート)、テトラエチレングリコールジ(2-エチルヘキサノエート)などが挙げられる。
【0083】
ガラス製品200は、第2のガラス板15に支持され、機外空間と接している低放射膜(図示せず)をさらに備えていてもよい。低放射膜は、低放射積層膜2について上述したものを用いることができ、低放射積層膜2と同じであってもよい。
【0084】
ガラス製品200の使用時において、低放射積層膜付きガラス板10は、機外空間側からの日射に含まれる赤外光を反射して遮熱することに適している。すなわち、ガラス製品200は、機内空間の温度の上昇を抑制することに適している。
【0085】
なお、ガラス製品200は、輸送機材の天窓以外の窓構造に用いられてもよく、建築物の窓構造に用いられてもよい。
【0086】
<ガラス製品の変形例4>
図8は、変形例4のガラス製品300の概略断面図である。ガラス製品300は、第2のガラス板15及び中間膜50を備えていないことを除き、ガラス製品200の構造と同じである。
【0087】
ガラス製品300は、ガラス製品200と同様に、輸送機材の窓構造に組み込まれ、機内空間と機外空間とを分離する。ガラス製品300では、ガラス板1の機外空間側の主表面1aが第1面(#1面)、ガラス板1の機内空間側の主表面1bが第2面(#2面)である。低放射積層膜2は、#2面に形成されている。
【0088】
ガラス製品300において、低放射積層膜付きガラス板10は、ガラス板1の両方の主表面に形成された圧縮応力層(図示せず)をさらに有していてもよい。すなわち、ガラス製品300において、ガラス板1は、強化ガラス板であってもよい。圧縮応力層は、ガラス板1に風冷強化(熱強化)などの強化処理を施すことによって形成することができる。風冷強化は、ガラス板を加熱した後に、ガラス板の表面に気体を吹き付けて急冷し、その表面に圧縮応力層を形成することにより、ガラス板の強度を向上させる周知の処理である。ガラス板の加熱温度は、典型的にはそのガラス板を構成するガラス組成物の歪点以上軟化点以下である。
【0089】
ガラス製品300は、ガラス製品200と同様に、機内空間の温度の上昇を抑制することに適している。ガラス製品300は、輸送機材の天窓以外の窓構造に用いられてもよく、建築物の窓構造に用いられてもよい。
【0090】
<輸送機材の実施形態>
図9は、ガラス製品200(又は300)を天窓として備えた輸送機材500の一例を示す。
図9の輸送機材500は、自動車である。輸送機材500のルーフ501には、機外(車外)と機内(車内)とを連通する略四角形状のサンルーフ開口502が形成されている。サンルーフ開口502の縁部には、開閉機構(図示せず)が設けられており、ガラス製品200は、この開閉機構によって支持されている。開閉機構は、例えば、ガイドレール、スライダ及びアクチュエータを有する。ガイドレールは、サンルーフ開口502の左右の縁部に設けられており、輸送機材500が前進する方向に延びている。スライダは、ガラス製品200を支持するとともに、ガイドレールに沿ってスライドすることができる。アクチュエータは、スライダをガイドレールに沿って移動させることができる。開閉機構によってガラス製品200を移動させることで、サンルーフ開口502を開閉することができる。詳細には、ガラス製品200は、開閉機構によって、サンルーフ開口502に嵌り込む閉位置と、サンルーフ開口502に対して輸送機材500の機外側かつ後方に位置する開位置との間を移動する。
【実施例】
【0091】
以下、実施例及び比較例により、本発明をさらに詳細に説明する。
【0092】
(参照例1)
[透明導電層付きガラス板]
まず、透明導電層付きガラス板(日本板硝子社製のLow-Eガラス)を、その主表面が一辺10cmの正方形状となるように切り出し、洗浄した。この透明導電層付きガラス板は、厚さ3mmのフロート板ガラスの一方の主表面上に、物理膜厚25nmのSnO2層(第1下地層)、物理膜厚25nmのSiO2層(第2下地層)及び物理膜厚340nmのSnO2:F層(透明導電層)がこの順番で積層されていた。
【0093】
[コーティング液の作製]
次に、テトラエトキシシラン(正ケイ酸エチル)5.2g、エタノール7.99g、精製水1.66g、濃度が1規定(1mol/L)の硝酸0.15gを混合した。得られた混合液を40℃で8時間エージングすることによって、テトラエトキシシランの加水分解生成物を含む液体を15g得た。次に、この液体1.22g、エタノール4.67g、オキシ硝酸ジルコニウム2水和物(第一稀元素化学工業製、商品名「ジルコゾールZN」、25wt%水溶液)0.11gを混合することによって、コーティング液を6g得た。コーティング液における固形分濃度は、2.5wt%であった。
【0094】
[コーティング液の塗布]
次に、スピンコート法によって、コーティング液を透明導電層付きガラス板に塗布した。スピンコート法は、次の方法で実施した。まず、スピンコーターの回転台の中央に透明導電層付きガラス板をセットして、透明導電層付きガラス板を回転させた。回転数が1000rpmで安定した後に、駒込ピペットを用いて、作製したコーティング液のうち1.5gを透明導電層付きガラス板の中央部に滴下した。このとき、余剰のコーティング液が透明導電層付きガラス板の周縁部から飛び散った。コーティング液が飛び散らなくなったのを確認してから、透明導電層付きガラス板の回転を停止した。
【0095】
[乾燥]
次に、コーティング液の塗布によって得られた液膜を乾燥させた。液膜の乾燥は、液膜が作製された透明導電層付きガラス板をトンネル型搬送炉内に搬送することによって行った。搬送炉内の設定温度は300℃であり、搬送炉の加熱ゾーンの長さは1.6mであった。透明導電層付きガラス板は、搬送速度0.8m/minで搬送され、2分間加熱された。
【0096】
[焼成]
次に、得られた乾燥膜を焼成することによってZrO2含有層を作製した。焼成は、760℃に設定された電気炉内に、透明導電層付きガラス板を4分45秒保持することによって行った。このとき、透明導電層付きガラス板が到達する最高温度は、650℃であった。これにより、参照例1の低放射積層膜付きガラス板を得た。
【0097】
(参照例2~5、実施例5~6、比較例1及び2)
ZrO2含有層におけるZrO2の含有率及びコーティング液における固形分濃度が表1に記載された値になるようにコーティング液の組成を調整したことを除き、参照例1と同じ方法によって参照例2~5、実施例5~6、比較例1及び2の低放射積層膜付きガラス板を得た。
【0098】
(比較例3)
ZrO2含有層を作製しなかったことを除き、参照例1と同じ方法によって比較例3の低放射積層膜付きガラス板を得た。比較例3の低放射積層膜付きガラス板は、参照例1で用いられた透明導電層付きガラス板と同じ構成を有していた。
【0099】
(低放射積層膜付きガラス板の評価)
次に、参照例1~5、実施例5~6、及び比較例1~3の低放射積層膜付きガラス板について、以下の方法で評価を行った。
【0100】
[物理膜厚]
ZrO2含有層の物理膜厚は、次の方法によって測定した。まず、低放射積層膜付きガラス板を切断し、その断面を走査型電子顕微鏡(日立ハイテク社製のS-4700)で観察した。得られた電子顕微鏡像からZrO2含有層の物理膜厚を特定した。
【0101】
[光学特性]
低放射積層膜付きガラス板の光学特性は、次の方法によって評価した。まず、分光光度計(日立製作所製、U-4100型)によって、低放射積層膜付きガラス板の分光透過率スペクトル及び分光反射率スペクトルを測定した。分光反射率スペクトルは、ZrO2含有層(又は透明導電層)の面を測定面とし、反射角5°の絶対反射測定を行った。得られたスペクトルからJIS R3106:1998に定められたD65光源に対する可視光透過率及び可視光反射率を算出した。さらに、分光反射率スペクトルの測定条件で、ZrO2含有層からの反射光のL0
*値、a0
*値及びb0
*値を測定した。なお、L0
*値、a0
*値及びb0
*値は、L*a*b*表色系(CIE1976)に基づいている。
【0102】
[表面防汚性]
低放射積層膜付きガラス板の表面防汚性は、次の方法によって評価した。まず、オレイン酸を染み込ませたガーゼに、直径15mmのゴム板を押し付けて、ゴム板にオレイン酸を付着させた。次に、そのゴム板をZrO2含有層(又は透明導電層)の表面に、100g/cm2の圧力で10秒間密着させることによって、当該表面にオレイン酸を付着させた。次に、この表面において、精製水で湿らせた綿布を25g/cm2の圧力で10回往復させることによってオレイン酸を拭った。次に、表面に呼気を吹きかけてから、目視でオレイン酸の跡の有無を確認した。オレイン酸の跡が確認できなかった場合、表面防汚性が良好(〇)であると評価した。オレイン酸の跡が確認できた場合、表面防汚性が不良(×)であると評価した。
【0103】
[耐擦傷性]
低放射積層膜付きガラス板の耐擦傷性は、次の方法によって評価した。まず、100円硬貨(銅75%、ニッケル25%の合金)の表面がZrO2含有層(又は透明導電層)の表面と直交するように、硬貨の側面をZrO2含有層の表面に接触させた。次に、50gの荷重を印加しながら硬貨の厚さ方向に硬貨を10mm移動させることによって、ZrO2含有層の表面を硬貨で擦った。ZrO2含有層の表面について、硬貨の跡が目視で確認できなかった場合、耐擦傷性が良好(〇)であると評価した。硬貨の跡が目視で確認できたが、それが不明瞭である場合は、不十分(△)であると評価した。硬貨の跡が目視で明瞭に確認できた場合、耐擦傷性が不良(×)であると評価した。
【0104】
[耐久性]
低放射積層膜付きガラス板の耐久性(耐アルカリ性)は、次の方法によって評価した。まず、低放射積層膜付きガラス板について上述した耐久性試験を行った。次に、上述した分光反射率スペクトルの測定条件で、耐久性試験後の低放射積層膜付きガラス板におけるZrO2含有層(又は透明導電層)からの反射光のL1
*値、a1
*値及びb1
*値を測定した。得られたL1
*値、a1
*値及びb1
*値と、上述したL0
*値、a0
*値及びb0
*値とを用いて、上記の式(1)~(4)に基づいて、反射光の色の変化ΔE*を算出した。
【0105】
[表面の算術平均粗さRa]
低放射積層膜付きガラス板のZrO2含有層(又は透明導電層)の表面の算術平均粗さRaは、次の方法によって評価した。まず、ZrO2含有層の表面形状を走査型プローブ顕微鏡(エスアイアイ-エヌティー社製、SPA-400型)を用いて測定した。視野内で互いに交わる3本の直線を選び、これらの直線における断面曲線のそれぞれについて、算術平均粗さを求めた。得られた値の算術平均をZrO2含有層の表面の算術平均粗さRaとして特定した。
【0106】
【0107】
表1からわかるとおり、ZrO2含有層の表面の算術平均粗さRaが12nm以下であり、透明導電層の表面の算術平均粗さRa(15.1nm:比較例3)よりも小さい参照例1~5及び実施例5~6の低放射積層膜付きガラス板は、表面防汚性及び耐擦傷性に優れていた。さらに、参照例1~5、実施例5~6、比較例1及び2の結果から、ZrO2含有層におけるZrO2の含有率が高ければ高いほど、反射光の色の変化ΔE*が低減し、耐久性(耐アルカリ性)が向上する傾向が読み取れる。比較例1及び2では、ZrO2含有層におけるZrO2の含有率が低く、耐アルカリ性が十分ではなかった。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明の低放射積層膜付きガラス板は、複層ガラスユニット、合わせガラスなどのガラス製品に適している。