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特許7594537活物質保持部材、電極、鉛蓄電池及び電動車
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  • 特許-活物質保持部材、電極、鉛蓄電池及び電動車 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-26
(45)【発行日】2024-12-04
(54)【発明の名称】活物質保持部材、電極、鉛蓄電池及び電動車
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/76 20060101AFI20241127BHJP
【FI】
H01M4/76 A
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021548344
(86)(22)【出願日】2020-06-22
(86)【国際出願番号】 JP2020024413
(87)【国際公開番号】W WO2021059629
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2023-06-19
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2019/038380
(32)【優先日】2019-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】322013937
【氏名又は名称】エナジーウィズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100160897
【弁理士】
【氏名又は名称】古下 智也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 啓太
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開昭49-116541(JP,A)
【文献】特開昭62-290061(JP,A)
【文献】特開2014-120356(JP,A)
【文献】特開平07-320771(JP,A)
【文献】特開2014-137970(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質を保持するチューブと、封止部材と、を備える活物質保持部材であって、
前記チューブが、一端部と、他端部と、前記一端部及び前記他端部の間の中間部と、を有し、
前記一端部の圧縮強度が前記中間部の圧縮強度より高く、
前記一端部が、スチレン樹脂、アクリル樹脂、及び、エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種を含有し、
前記封止部材が、前記チューブの前記一端部を封止し、かつ、前記チューブの軸方向に延びると共に前記チューブの内壁に接する突起部を有し、
前記一端部が前記突起部と前記内壁との接触部を含む、活物質保持部材。
【請求項2】
前記チューブの前記他端部の圧縮強度が前記中間部の圧縮強度より高い、請求項1に記載の活物質保持部材。
【請求項3】
前記チューブの前記一端部が前記中間部より厚い、請求項1又は2に記載の活物質保持部材。
【請求項4】
活物質を保持するチューブを備える活物質保持部材であって、
前記チューブの一端部の圧縮強度が3N/mm以上であり、
前記一端部が、スチレン樹脂、アクリル樹脂、及び、エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種を含有する、活物質保持部材。
【請求項5】
前記チューブの他端部の圧縮強度が3N/mm以上である、請求項4に記載の活物質保持部材。
【請求項6】
前記チューブの前記一端部を封止する封止部材を更に備え、
前記封止部材が、前記チューブの軸方向に延びると共に前記チューブの内壁に接する突起部を有し、
前記一端部が前記突起部と前記内壁との接触部を含む、請求項4又は5に記載の活物質保持部材。
【請求項7】
前記チューブの平均細孔径が2μmを超える、請求項1~6のいずれか一項に記載の活物質保持部材。
【請求項8】
前記チューブが、前記一端部から他端部に向けて基材が螺旋状に巻き回されることにより形成されている、請求項1~7のいずれか一項に記載の活物質保持部材。
【請求項9】
前記チューブを複数備え、
一の前記チューブを形成する基材と、他の前記チューブを形成する基材とが連続している、請求項1~7のいずれか一項に記載の活物質保持部材。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の活物質保持部材と、当該活物質保持部材の前記チューブに保持された活物質と、を有する、電極。
【請求項11】
正極及び負極を備え、
前記正極及び前記負極からなる群より選ばれる少なくとも一種が、請求項10に記載の電極である、鉛蓄電池。
【請求項12】
前記正極及び前記負極の間に配置されたセパレータを更に備える、請求項11に記載の鉛蓄電池。
【請求項13】
請求項11又は12に記載の鉛蓄電池を備える、電動車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活物質保持部材、電極、鉛蓄電池及び電動車に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、産業用又は民生用の二次電池として広く用いられており、特に、電動車用鉛蓄電池(例えば自動車用鉛蓄電池。いわゆるバッテリー)、又は、UPS(Uninterruptible Power Supply)、防災(非常)無線用電源、電話用電源等のバックアップ用鉛蓄電池の需要が多い。
【0003】
鉛蓄電池では、活物質を保持(収容)可能なチューブを備える活物質保持部材が用いられることがある。例えば、鉛蓄電池は、チューブを備える活物質保持部材と、チューブ内に挿入された芯金(集電体)と、チューブ及び芯金の間に充填された電極材(活物質を含有する電極材)とを有する電極を備えている(例えば、下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-203506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、活物質保持部材を有する電極を製造する場合、チューブの端部から鉛粉(活物質の原料)、芯金等をチューブの内部に供給するに際して、鉛粉、芯金等がチューブの端部に接触することによりチューブの当該端部が変形してチューブが破損してしまう場合がある。また、チューブの端部を封止するために、チューブの端部に封止部材が取り付けられる場合があり、当該封止部材によって負荷される応力によってチューブの端部が変形してチューブが破損してしまう場合がある。
【0006】
本発明の一側面は、チューブの破損を抑制可能な活物質保持部材を提供することを目的とする。本発明の他の一側面は、前記活物質保持部材を有する電極、当該電極を備える鉛蓄電池、及び、当該鉛蓄電池を備える電動車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面の第1実施形態は、活物質を保持するチューブを備える活物質保持部材であって、前記チューブが、一端部と、他端部と、前記一端部及び前記他端部の間の中間部と、を有し、前記一端部の圧縮強度が前記中間部の圧縮強度より高い、活物質保持部材を提供する。
【0008】
このような活物質保持部材では、チューブにおける中間部に対して一端部の圧縮強度が相対的に高いことから、当該一端部から鉛粉、芯金等を供給する際にチューブの当該一端部が変形することが抑制されると共に、当該一端部に取り付けられた封止部材によって負荷される応力によってチューブの当該一端部が変形することが抑制される。これにより、チューブが破損してしまうことを抑制できる。
【0009】
本発明の一側面の第2実施形態は、活物質を保持するチューブを備える活物質保持部材であって、前記チューブの一端部の圧縮強度が3N/mm以上である、活物質保持部材を提供する。
【0010】
このような活物質保持部材では、チューブの一端部の圧縮強度が高いことから、当該一端部から鉛粉、芯金等を供給する際にチューブの当該一端部が変形することが抑制されると共に、当該一端部に取り付けられた封止部材によって負荷される応力によってチューブの当該一端部が変形することが抑制される。これにより、チューブが破損してしまうことを抑制できる。
【0011】
本発明の他の一側面は、上述の活物質保持部材と、当該活物質保持部材のチューブに保持された活物質と、を有する、電極を提供する。
【0012】
本発明の他の一側面は、正極及び負極を備え、前記正極及び前記負極からなる群より選ばれる少なくとも一種が上述の電極である、鉛蓄電池を提供する。
【0013】
本発明の他の一側面は、上述の鉛蓄電池を備える、電動車を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一側面によれば、チューブの破損を抑制可能な活物質保持部材を提供することができる。本発明の他の一側面によれば、前記活物質保持部材を有する電極、当該電極を備える鉛蓄電池、及び、当該鉛蓄電池を備える電動車を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係る鉛蓄電池を示す模式断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る鉛蓄電池を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0017】
本明細書において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値と任意に組み合わせることができる。「A又はB」とは、A及びBのどちらか一方を含んでいればよく、両方とも含んでいてもよい。本明細書に例示する材料は、特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。「少なくとも一つ」とは、一つ又は複数を意味する。「少なくとも一部」とは、一部又は全部を意味する。
【0018】
本実施形態に係る鉛蓄電池は、正極及び負極を備え、正極及び負極からなる群より選ばれる少なくとも一種が、本実施形態に係る電極である。本実施形態に係る電極は、本実施形態(第1実施形態及び第2実施形態を包含する。以下も同様)に係る活物質保持部材と、当該活物質保持部材のチューブに保持された活物質と、を有する。活物質は、鉛粉を含んでよい。本実施形態に係る鉛蓄電池は、正極及び負極間に配置されたセパレータを備えてよく、セパレータを備えていなくてもよい。本実施形態に係る鉛蓄電池は、電解液を備えてよい。電解液は、硫酸を含んでよい。本実施形態に係る鉛蓄電池は、液式鉛蓄電池、制御弁式鉛蓄電池等であってよく、密閉型鉛蓄電池、開放型鉛蓄電池等であってよい。
【0019】
活物質保持部材は、電池の活物質を保持するための部材であり、チューブの内部(内部空間)に活物質を保持(収容)することができる。活物質保持部材は、複数のチューブを備えてよい。「活物質」には、化成後の活物質及び化成前の活物質の原料の双方が包含される。
【0020】
第1実施形態に係る活物質保持部材は、活物質を保持するチューブを備える活物質保持部材であって、チューブが、一端部と、他端部と、一端部及び他端部の間の中間部と、を有し、一端部の圧縮強度が中間部の圧縮強度より高い。このような活物質保持部材では、チューブにおける中間部に対して一端部の圧縮強度が相対的に高いことから、当該一端部から鉛粉、芯金等を供給する際にチューブの当該一端部が変形することが抑制されると共に、当該一端部に取り付けられた封止部材によって負荷される応力によってチューブの当該一端部が変形すること(例えば、封止部材が後述の基部及び突起部を有する場合、チューブの一端部と基部との接触に伴う当該一端部の変形、及び、チューブの一端部と突起部との接触に伴う当該一端部の変形)が抑制される。これにより、チューブが破損してしまうことを抑制可能であり、優れた電気特性(例えば放電特性)を得ることができる。
【0021】
第1実施形態においてチューブは、中間部の圧縮強度より高い圧縮強度を有する部分を一端部の少なくとも一部に有していればよい。チューブの一端部の全体の圧縮強度は、端部の変形を抑制しやすい観点から、中間部の圧縮強度より高くてよい。チューブの一端部の圧縮強度は、端部の変形を抑制しやすい観点から、一端部及び他端部の間の部分の全体の圧縮強度より高くてよい。
【0022】
第1実施形態において中間部は、一端部及び他端部の間の少なくとも一部であってよい。中間部は、チューブの軸方向(長手方向)におけるチューブの中央部であってよい。
【0023】
第1実施形態においてチューブの他端部の圧縮強度は、中間部の圧縮強度より高いことが好ましい。この場合、他端部から鉛粉、芯金等を供給する際に他端部が変形することが抑制されると共に、他端部に取り付けられた封止部材によって負荷される応力によって他端部が変形すること(例えば、封止部材が後述の基部及び突起部を有する場合、チューブの他端部と基部との接触に伴う当該他端部の変形、及び、チューブの他端部と突起部との接触に伴う当該他端部の変形)が抑制されることにより、チューブの破損を更に抑制できる。他端部の圧縮強度は、一端部の圧縮強度と同等又はそれ以下であってよく、一端部の圧縮強度と同等又はそれ以上であってもよい。チューブは、中間部の圧縮強度より高い圧縮強度を有する部分を他端部の少なくとも一部に有していることが好ましい。チューブの他端部の全体の圧縮強度は、端部の変形を抑制しやすい観点から、中間部の圧縮強度より高くてよい。チューブの他端部の圧縮強度は、端部の変形を抑制しやすい観点から、一端部及び他端部の間の部分の全体の圧縮強度より高くてよい。
【0024】
第2実施形態に係る活物質保持部材は、活物質を保持するチューブを備える活物質保持部材であって、チューブの一端部の圧縮強度が3N/mm以上である。このような活物質保持部材では、チューブの一端部の圧縮強度が高いことから、当該一端部から鉛粉、芯金等を供給する際にチューブの当該一端部が変形することが抑制されると共に、当該一端部に取り付けられた封止部材によって負荷される応力によってチューブの当該一端部が変形すること(例えば、封止部材が後述の基部及び突起部を有する場合、チューブの一端部と基部との接触に伴う当該一端部の変形、及び、チューブの一端部と突起部との接触に伴う当該一端部の変形)が抑制される。これにより、チューブが破損してしまうことを抑制可能であり、優れた電気特性(例えば放電特性)を得ることができる。
【0025】
第2実施形態においてチューブは、圧縮強度3N/mm以上の部分を一端部の少なくとも一部に有していればよい。チューブの一端部の全体の圧縮強度は、端部の変形を抑制しやすい観点から、3N/mm以上であってよい。チューブの一端部の圧縮強度は、端部の変形を抑制しやすい観点から、3.25N/mm以上が好ましく、3.3N/mm以上がより好ましく、3.4N/mm以上が更に好ましく、3.5N/mm以上が特に好ましく、3.75N/mm以上が極めて好ましく、4N/mm以上が非常に好ましく、4.25N/mm以上がより一層好ましく、4.5N/mm以上が更に好ましく、4.75N/mm以上が特に好ましく、5N/mm以上が極めて好ましく、5.25N/mm以上が非常に好ましく、5.3N/mm以上がより一層好ましい。チューブの一端部の圧縮強度は、10N/mm以下、9N/mm以下、8N/mm以下、7N/mm以下、6N/mm以下、5.5N/mm以下、5.3N/mm以下、5N/mm以下、4N/mm以下、3.7N/mm以下、3.5N/mm以下、3.4N/mm以下、又は、3.2N/mm以下であってよい。これらの観点から、チューブの一端部の圧縮強度は、3~10N/mmであってよい。
【0026】
第2実施形態においてチューブの他端部の圧縮強度は、3N/mm以上であることが好ましい。この場合、他端部から鉛粉、芯金等を供給する際に他端部が変形することが抑制されると共に、他端部に取り付けられた封止部材によって負荷される応力によって他端部が変形すること(例えば、封止部材が後述の基部及び突起部を有する場合、チューブの他端部と基部との接触に伴う当該他端部の変形、及び、チューブの他端部と突起部との接触に伴う当該他端部の変形)が抑制されることにより、チューブの破損を更に抑制できる。
【0027】
第2実施形態においてチューブは、圧縮強度3N/mm以上の部分を他端部の少なくとも一部に有していることが好ましい。チューブの他端部の全体の圧縮強度は、端部の変形を抑制しやすい観点から、3N/mm以上であってよい。チューブの他端部の圧縮強度は、端部の変形を抑制しやすい観点から、3.25N/mm以上が好ましく、3.3N/mm以上がより好ましく、3.4N/mm以上が更に好ましく、3.5N/mm以上が特に好ましく、3.75N/mm以上が極めて好ましく、4N/mm以上が非常に好ましく、4.25N/mm以上がより一層好ましく、4.5N/mm以上が更に好ましく、4.75N/mm以上が特に好ましく、5N/mm以上が極めて好ましく、5.25N/mm以上が非常に好ましく、5.3N/mm以上がより一層好ましい。チューブの他端部の圧縮強度は、10N/mm以下、9N/mm以下、8N/mm以下、7N/mm以下、6N/mm以下、5.5N/mm以下、5.3N/mm以下、5N/mm以下、4N/mm以下、3.7N/mm以下、3.5N/mm以下、3.4N/mm以下、又は、3.2N/mm以下であってよい。これらの観点から、チューブの他端部の圧縮強度は、3~10N/mmであってよい。
【0028】
第2実施形態においてチューブは、上述した第1実施形態のチューブの構成を有してよい。例えば、チューブの一端部の圧縮強度は、中間部の圧縮強度より高いと共に3N/mm以上であってよい。他端部と中間部の圧縮強度の関係等の他の構成についても同様である。
【0029】
中間部の圧縮強度は、2.0N/mm以上であってよい。中間部の圧縮強度に対する一端部の圧縮強度の比率(一端部の圧縮強度/中間部の圧縮強度)、及び/又は、中間部の圧縮強度に対する他端部の圧縮強度の比率(他端部の圧縮強度/中間部の圧縮強度)は、下記の範囲であってよい。比率は、1.0を超えてよく、1.2以上、1.4以上、1.6以上、1.8以上、又は、2.0以上であってよい。比率は、8.0以下、7.5以下、7.0以下、6.5以下、6.0以下、5.5以下、5.0以下、4.5以下、4.0以下、3.5以下、3.0以下、又は、2.5以下であってよい。これらの観点から、比率は、1.0を超え8.0以下であってよい。
【0030】
第1実施形態及び第2実施形態においてチューブの端部及び中間部の圧縮強度は、例えばオートグラフ(EZ-FX、株式会社島津製作所製)を用いて測定できる。一端部及び他端部としては、例えば、各末端から5mmの長さの領域を用いることができる。一端部及び他端部におけるチューブの断面積は、チューブの断面が真円状である場合、外径に基づく面積から内径に基づく面積を差し引くことにより得ることができる。チューブの端部及び中間部の圧縮強度は、樹脂材料の付与、樹脂材料の種類及び量、チューブの厚み(例えば、チューブを構成する基材の巻き回し回数)等により調整できる。
【0031】
化成後の鉛蓄電池におけるチューブの圧縮強度は、例えば、次の手順により測定することができる。まず、化成後の鉛蓄電池を解体し、チューブを有する電極を流水中で12時間水洗する。次に、電極を45℃で72時間、空気中で乾燥させる。続いて、電極からチューブを取り出す(例えば、上部連座とチューブとの境界位置、及び、下部連座とチューブとの境界位置を切断してチューブを取り出す)。そして、チューブ内から芯金及び活物質を除去した後、チューブの圧縮強度を測定する。
【0032】
チューブにおけるチューブの軸方向に垂直な断面は、真円状、楕円状等であってもよい。チューブは、筒状に成形された基材により形成されていてよい。
【0033】
第1の態様として、チューブは、基材が巻き回されることにより形成されていてよく、チューブの一端部から他端部に向けて基材が螺旋状に巻き回されることにより形成されていてよく、基材が渦巻状に巻き回されることにより形成されていてよい。基材は、反時計回り又は時計回りに螺旋状又は渦巻状に巻き回されてよい。基材は、少なくとも一周巻き回されていればよく、一周を超えて巻き回されていてよく、複数回巻き回されていてよい。「螺旋状」とは、所定方向に延在する中心軸の周囲を周回しながら当該中心軸の延在方向に進行することを意味する。「渦巻状」とは、同一平面内で周回することを意味する。例えば、螺旋状の場合、基材が巻き回されるに伴いチューブが伸長するのに対し、渦巻状の場合、基材が巻き回されるに伴いチューブが厚くなるもののチューブは伸長しない。螺旋状の場合における巻き回し方向(反時計回り又は時計回り)は、中心軸に対する基材の回転方向を意味する。渦巻状の場合における巻き回し方向(反時計回り又は時計回り)は、チューブの内層から外層に向かって基材が巻き回される際の巻き回し方向を意味する。
【0034】
第2の態様として、チューブは、互いに対向する樹脂シートを接合(例えば縫合)することにより形成されていてよい。第2の態様において、活物質保持部材は、チューブを複数備え、一のチューブを形成する基材と、他のチューブを形成する基材とが連続している態様であってよい。この場合、一のチューブと他のチューブとが一連の基材(一連の連続した基材)を有しており、基材は一のチューブと他のチューブとに跨がる。
【0035】
活物質保持部材は、複数のチューブを備えてよく、互いに併設された複数のチューブを有する活物質保持用チューブ群であってよい。複数のチューブが互いに並設した構造は、互いに別体であるチューブを並設することにより得られてもよく、互いに対向する基材間に複数の貫通孔を形成することにより得られてもよい。隣接するチューブ間には、縫目(縫合部)等の接続部が配置されていてもよい。
【0036】
チューブは、不織布、織布等を含んでよく、例えば不織布を含む。チューブは、チューブを構成する基材の構成材料として、樹脂材料を含有することができる。基材は、繊維(例えば樹脂材料の繊維)を含んでよい。樹脂材料としては、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート等のポリアルキレンテレフタレート)、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリカーボネートなどが挙げられる。チューブは、例えばポリエステルを含有することが可能であり、ポリエステルを含有する不織布を含むことができる。
【0037】
基材における樹脂材料の含有量は、基材の全量を基準として、90質量%以上、95質量%以上、98質量%以上、又は、99質量%以上であってよい。基材は、実質的に樹脂材料からなる(基材における樹脂材料の含有量が、基材の全量を基準として実質的に100質量%である)態様であってもよい。基材におけるポリエステルの含有量は、基材の全量、又は、基材を構成する樹脂材料の全量を基準として、50質量%を超えてよく、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、98質量%以上、又は、99質量%以上であってよい。基材は、実質的にポリエステルからなる(基材におけるポリエステルの含有量が、基材の全量を基準として実質的に100質量%である)態様であってもよい。基材を構成する樹脂材料は、実質的にポリエステルからなる(基材を構成する樹脂材料におけるポリエステルの含有量が、当該樹脂材料の全量を基準として実質的に100質量%である)態様であってもよい。チューブは、ポリオレフィンを含有しなくてもよい。基材におけるポリオレフィンの含有量は、基材の全量、又は、基材を構成する樹脂材料の全量を基準として、50質量%未満、40質量%以下、30質量%以下、20質量%以下、10質量%以下、5質量%以下、又は、1質量%以下であってよい。
【0038】
チューブが繊維を含む場合、繊維は配向していてよい。例えば、不織布は、不織布の製造におけるMD方向(機械方向)と、MD方向と直交するCD方向(幅方向)と、を有してよい。繊維がMD方向に配向しやすいことから、MD方向はCD方向よりも機械強度が高い傾向がある。そのため、CD方向における機械強度が高い樹脂シートは、機械強度が相対的に低い方向(CD方向)においても機械強度が高いシートである。チューブが不織布を含む場合、繊維配向に起因する機械強度の影響を抑制しやすいため活物質の漏出が抑制されやすい観点から、活物質保持部材における少なくとも一つのチューブにおいて、チューブの軸方向に対して不織布のMD方向及びCD方向が傾斜していることが好ましい。チューブの軸方向に対するMD方向又はCD方向の傾斜角度は、繊維配向に起因する機械強度の影響を抑制しやすいため活物質の漏出が抑制されやすい観点から、下記の範囲が好ましい。傾斜角度は、0°を超えることが好ましく、10°以上がより好ましく、20°以上が更に好ましく、30°以上が特に好ましく、40°以上が極めて好ましく、43°以上が非常に好ましい。傾斜角度は、90°未満が好ましく、80°以下がより好ましく、70°以下が更に好ましく、60°以下が特に好ましく、50°以下が極めて好ましく、47°以下が非常に好ましい。これらの観点から、傾斜角度は、0°を超え90°未満が好ましく、10~80°がより好ましく、43~47°が更に好ましい。傾斜角度が45°である場合には、繊維配向に起因する機械強度の影響を最も抑制しやすいと推測される。
【0039】
チューブの一端部及び他端部からなる群より選ばれる少なくとも一種は、基材の構成材料としての上述の樹脂材料とは異なる樹脂材料を含有することが可能であり、基材の構成材料としての上述の樹脂材料とは異なる樹脂材料として、スチレン樹脂、アクリル樹脂、及び、エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種を含有することができる。これらの場合、端部の圧縮強度を高めやすいため、端部の変形を抑制しやすい。また、基材を構成する繊維がほつれること、及び、基材の端部が剥がれることも抑制しやすい。スチレン樹脂は、スチレン由来の構造単位を有する樹脂である。スチレン樹脂としては、ポリスチレン(スチレンポリマー)、ABS樹脂等が挙げられる。チューブの一端部及び他端部からなる群より選ばれる少なくとも一種は、スチレンモノマー等のモノマーを含有してもよい。チューブの一端部及び他端部からなる群より選ばれる少なくとも一種は、基材の構成材料としての上述の樹脂材料とは異なる樹脂材料を含有することにより、チューブの中間部が含有しない樹脂材料を含有してよい。チューブの中間部は、基材の構成材料としての上述の樹脂材料とは異なる樹脂材料を含有しなくてよい。
【0040】
チューブは、細孔を有する多孔質体であってよい。チューブは、下記範囲の平均細孔径を有する部分を備えることが好ましい。チューブの平均細孔径は、電極材の流出を抑制しやすい観点から、60μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、45μm以下が更に好ましく、40μm以下が特に好ましい。チューブの平均細孔径は、電気抵抗が減少しやすい観点から、2μmを超えることが好ましく、5μm以上がより好ましく、10μm以上が更に好ましく、20μm以上が特に好ましく、30μm以上が極めて好ましく、35μm以上が非常に好ましい。これらの観点から、チューブの平均細孔径は、2μmを超え60μm以下が好ましい。平均細孔径は、細孔分布測定装置(例えば、株式会社島津製作所製、AUTO PORE IV 9520)により測定できる。
【0041】
チューブは、下記範囲の厚さ(肉厚。チューブを構成する壁部の厚さ。以下も同様)を有する部分を備えてよい。チューブの厚さは、0.05mm以上、0.1mm以上、又は、0.2mm以上であってよい。チューブの厚さは、1mm以下、0.8mm以下、0.6mm以下、又は、0.4mm以下であってよい。これらの観点から、チューブの厚さは、0.05~1mmであってよい。チューブの一端部及び他端部からなる群より選ばれる少なくとも一種は、端部の変形を抑制しやすい観点から、中間部より厚いことが好ましい。すなわち、チューブの一端部は中間部より厚くてよく、チューブの他端部は中間部より厚くてよい。
【0042】
活物質保持部材における少なくとも一つのチューブの長さは、下記の範囲であってよい。チューブの長さは、50mm以上、100mm以上、120mm以上、160mm以上、又は、200mm以上であってよい。チューブの長さは、800mm以下、750mm以下、700mm以下、650mm以下、600mm以下、又は、580mm以下であってよい。これらの観点から、チューブの長さは、50~800mmであってよい。
【0043】
活物質保持部材における少なくとも一つのチューブ、又は、活物質保持部材における少なくとも一部のチューブにおいて、水銀圧入法で測定される0.006~0.1μmの範囲の孔は、全孔量のうちの10体積%未満であってよい。
【0044】
活物質保持部材における少なくとも一つのチューブ、又は、活物質保持部材における少なくとも一部のチューブにおいて、細孔径10μm未満の細孔の総細孔体積Bに対する、細孔径10μm以上の細孔の総細孔体積Aの比率A/Bは、1.40を超えてよい。総細孔体積は、細孔分布計(例えば、株式会社島津製作所製の商品名:AUTO PORE IV 9520)により測定することができる。比率A/Bは、基材の構成材料の種類又は使用量、基材の構成材料としての樹脂材料とは異なる樹脂材料の種類又は使用量等により調整することができる。
【0045】
本実施形態に係る活物質保持部材は、チューブの一端部を封止する封止部材を備えてよい。本実施形態に係る活物質保持部材は、チューブの他端部を封止する封止部材を備えてもよい。封止部材は、チューブの内部空間においてチューブの軸方向に延びると共にチューブの内壁に接する突起部を有してよく、チューブの一端部及び他端部からなる群より選ばれる少なくとも一種は、突起部と内壁との接触部を含んでよい。本実施形態に係る活物質保持部材では、突起部と内壁とが接触する場合であっても、チューブの端部の圧縮強度が高いことにより、突起部によって負荷される応力によってチューブの端部が変形することが抑制されやすい。チューブの一端部及び他端部からなる群より選ばれる少なくとも一種は、突起部と内壁との接触部の全体を含んでよい。突起部は、チューブの一端部及び他端部からなる群より選ばれる少なくとも一種に嵌合する嵌合部であってよい。封止部材は、チューブの外部に位置すると共に突起部に接続された基部を有してよい。基部は、チューブの端部に接触してよく、チューブの端部に接触していなくてよい。本実施形態に係る活物質保持部材では、基部がチューブの端部に接触する場合であっても、基部によって負荷される応力によってチューブの端部が変形することが抑制されやすい。
【0046】
本実施形態に係る活物質保持部材及び電極は、液式鉛蓄電池において用いられること(液式鉛蓄電池用の活物質保持部材及び電極)が好ましく、本実施形態に係る鉛蓄電池は、液式鉛蓄電池であることが好ましい。一般に、液式鉛蓄電池では、電極の全体が電解液中に浸漬される傾向があり、制御弁式鉛蓄電池等と比較して電解液の量が多い傾向がある。この場合、電解液量によって放電容量が規制されにくいため、放電容量を大きくしやすい傾向がある。しかしながら、液式鉛蓄電池では、電解液の成層化によって電極の下方の領域における硫酸の濃度が高まり、電極におけるチューブの下方の基材が劣化しやすい。また、液式鉛蓄電池では、経年劣化(充放電サイクルに起因する劣化を包含する)が進むことによって活物質(例えば正極活物質)の泥状化が進行し、活物質が漏出しやすい状態となる。これらの場合においてチューブが破損していると、活物質が顕著に漏出する。一方、本実施形態に係る活物質保持部材においては、チューブの破損を抑制できることから、活物質の漏出を抑制しつつ液式鉛蓄電池の長所を活かすことができる。
【0047】
図1及び図2を用いて、本実施形態に係る鉛蓄電池の一例を説明する。図1及び図2は、鉛蓄電池の一例を示す模式断面図である。図1では、図面の手前側から奥側にかけて、セパレータを介して正極及び負極が交互に配置されている。図1(b)は、図1(a)の領域Pを示す拡大図である。図1(a)では、チューブ内の詳細、及び、チューブ同士が隣接する部分の詳細の図示を省略している。図1及び図2に示される鉛蓄電池は、鉛直方向に伸びる電槽を備えており、図2は、鉛直方向の上方(電槽の高さ方向の上方)から鉛蓄電池を見た際の正極、負極及びセパレータの積層構造を示している。
【0048】
図1及び図2に示される鉛蓄電池100は、電極群110と、電極群110を収容する電槽120と、電極群110に接続された連結部材130a,130bと、連結部材130a,130bに接続された極柱140a,140bと、電槽120の注液口を閉塞する液口栓150と、電槽120に接続された支持部材160と、を備えている。
【0049】
電極群110は、複数の正極10と、複数の負極20と、複数のセパレータ30とを備えている。正極10及び負極20は、セパレータ30を介して交互に配置されている。正極10及び負極20の間にシリカ粒子が配置されていなくてよい。セパレータ30間における正極10の周囲の空間には、電解液40が充填されている。電解液40は、硫酸を含んでよい。電解液40は、アルミニウムイオン、ナトリウムイオン等を含んでいてよい。電解液40は、シリカ粒子を含有しなくてよい。
【0050】
正極10は、例えば、板状の電極(正極板)であり、活物質保持部材50と、芯金(集電体)60と、活物質を含む正極材70と、耳部80と、を有している。活物質保持部材50は、活物質保持用の複数のチューブ52と、下部連座(封止部材)54と、上部連座56と、を有している。
【0051】
チューブ52は、正極材70を収容可能な筒状部からなる。チューブ52は、電槽120の高さ方向(鉛直方向)に伸びている。チューブ52は、一端部52a(図中、下側の端部)と、他端部52b(図中、上側の端部)と、一端部52a及び他端部52bの間の中間部52cとを有している。一端部52a及び他端部52bの圧縮強度は、中間部52cの圧縮強度より高くてよく、3N/mm以上であってよい。
【0052】
下部連座54は、チューブ52の一端部52aを封止しており、上部連座56は、チューブ52の他端部52bを封止している。下部連座54及び上部連座56は、チューブ52と、チューブ52内に配置された芯金60及び正極材70とに接している。下部連座54は、チューブ52の軸方向(長手方向。例えば電槽120の高さ方向)に直交する方向に伸びる基部54aと、基部54aに接続されると共にチューブ52の一端部52aに嵌合する複数の嵌合部(突起部)54bとを有している。嵌合部54bには、芯金60の端部が差し込まれる凹部が形成されている。嵌合部54b及びチューブ52の内壁52dは、接触部90において接触している。チューブ52の一端部52aは、嵌合部54bと内壁52dとが接触する接触部90を含む。上部連座56は、下部連座54と同様の構成を有してよく、チューブ52の他端部52bに嵌合する複数の嵌合部(突起部)を有してよい。
【0053】
芯金60は、チューブ52の中心部においてチューブ52の軸方向に伸びている。芯金60の構成材料としては、導電性材料であればよく、例えば、鉛-カルシウム-錫系合金、鉛-アンチモン-ヒ素系合金等の鉛合金が挙げられる。芯金60の軸方向(長手方向)に垂直な断面形状は、円形、楕円形等であってよい。芯金60の長さは、例えば160~650mmである。芯金60の直径は、例えば2.0~4.0mmである。
【0054】
正極材70は、チューブ52及び芯金60の間に充填されている。正極材70は、化成後において正極活物質を含有している。化成後の正極材は、例えば、正極活物質の原料を含む未化成の正極材を化成することで得ることができる。正極活物質の原料としては、鉛粉、鉛丹等が挙げられる。化成後の正極材における正極活物質としては、二酸化鉛等が挙げられる。正極材70は、必要に応じて添加剤を更に含有することができる。正極材70の添加剤としては、補強用短繊維等が挙げられる。補強用短繊維としては、アクリル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維(PET繊維)等が挙げられる。
【0055】
耳部80の一端部(図中、下側の端部)は上部連座56に接続され、耳部80の他端部(図中、上側の端部)は連結部材130aに接続されている。チューブ52内に収容された芯金60は、上部連座56、耳部80及び連結部材130aを介して極柱140aに電気的に接続されている。
【0056】
支持部材160はチューブ52の軸方向に伸びる複数の突起部160aを有しており、下部連座54は複数の突起部160aに当接して固定されている。すなわち、支持部材160は、下部連座54における電槽120の底面側の部分を各突起部160aによって支持している。
【0057】
負極20は、例えば板状であり、例えばペースト式負極板である。負極20は、負極集電体と、当該負極集電体に保持された負極材と、を有する。負極集電体としては、板状の集電体を用いることができる。負極集電体、及び、正極10の芯金60の組成は、互いに同一であってよく、互いに異なっていてよい。負極20は、連結部材130bを介して極柱140bに電気的に接続されている。
【0058】
負極材は、化成後において負極活物質を含有している。化成後の負極材は、例えば、負極活物質の原料を含む未化成の負極材を化成することで得ることができる。負極活物質の原料としては、鉛粉等が挙げられる。化成後の負極材における負極活物質としては、多孔質の海綿状鉛(Spongy Lead)等が挙げられる。負極材は、必要に応じて添加剤を更に含有することができる。負極材の添加剤としては、硫酸バリウム、補強用短繊維、炭素材料(炭素質導電材)、界面活性剤(リグニンスルホン酸塩等)等が挙げられる。補強用短繊維としては、正極材と同様の補強用短繊維を用いることができる。炭素材料としては、カーボンブラック、黒鉛等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック(ケッチェンブラック(登録商標)等)、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラックなどが挙げられる。
【0059】
セパレータ30の材料としては、正極10と負極20との電気的な接続を阻止し、電解液を透過させる材料であれば特に限定されない。セパレータ30の材料としては、微多孔性ポリエチレン;ガラス繊維及び合成樹脂の混合物等が挙げられる。
【0060】
本実施形態に係る鉛蓄電池の製造方法は、活物質保持部材を有する電極を含む構成部材を組み立てて鉛蓄電池を得る組み立て工程を備える。組み立て工程では、例えば、未化成の正極及び未化成の負極を積層すると共に、同極性の電極の集電部をストラップで溶接させて電極群を得る。この電極群を電槽内に配置して未化成の電池を作製する。未化成の正極及び未化成の負極は、セパレータを介して積層してよい。
【0061】
本実施形態に係る鉛蓄電池の製造方法は、組み立て工程の前に、活物質保持部材を作製する活物質保持部材作製工程を備えてよい。活物質保持部材作製工程は、基材を成形してチューブを得るチューブ作製工程を有してよい。活物質保持部材作製工程の第1の態様におけるチューブ作製工程では、基材を巻き回すことによりチューブを形成し、例えば、基材を螺旋状又は渦巻状に巻き回すことによりチューブを形成してよい。活物質保持部材作製工程の第1の態様は、チューブ作製工程の後に、チューブの軸方向に直交する方向に複数のチューブを併設する工程を有してよい。活物質保持部材作製工程の第2の態様におけるチューブ作製工程では、互いに対向する基材を接合することによりチューブを形成してよい。
【0062】
活物質保持部材作製工程は、チューブ作製工程の後に、チューブの一端部を封止部材で封止する封止工程を備えてよい。活物質保持部材作製工程は、チューブ作製工程の後に、チューブの一端部及び他端部からなる群より選ばれる少なくとも一種に、基材の構成材料としての樹脂材料とは異なる樹脂材料を付与する樹脂付与工程を備えてよい。樹脂付与工程では、チューブの一端部及び他端部からなる群より選ばれる少なくとも一種に、スチレン樹脂、アクリル樹脂、及び、エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種を付与してよい。樹脂付与工程では、チューブの一端部及び他端部からなる群より選ばれる少なくとも一種にモノマー(スチレンモノマー等)を付与してよく、チューブの一端部及び他端部からなる群より選ばれる少なくとも一種に、基材の構成材料としての樹脂材料とは異なる樹脂材料(例えばスチレン樹脂)及びモノマー(例えばスチレンモノマー)を付与してよい。
【0063】
チューブの一端部及び他端部からなる群より選ばれる少なくとも一種に、基材の構成材料としての樹脂材料とは異なる樹脂材料(例えばスチレン樹脂)及びモノマー(例えばスチレンモノマー)を付与する場合、当該樹脂材料及びモノマーの合計量を基準とした当該樹脂材料の含有割合は、下記の範囲であってよい。樹脂材料の含有割合は、1質量%以上、3質量%以上、5質量%以上、8質量%以上、10質量%以上、12質量%以上、15質量%以上、20質量%以上、25質量%以上、30質量%以上、又は、35質量%以上であってよい。樹脂材料の含有割合は、50質量%以下、50質量%未満、45質量%以下、40質量%以下、又は、35質量%以下であってよい。これらの観点から、樹脂材料の含有割合は、1~50質量%であってよい。樹脂材料の含有割合が高いほど、チューブの端部の高い圧縮強度が得られやすい。
【0064】
本実施形態に係る鉛蓄電池の製造方法は、活物質保持部材を有する電極を作製する電極作製工程を備えてよい。電極作製工程は、正極作製工程及び負極作製工程を有している。以下では、正極が活物質保持部材を有する場合について説明する。
【0065】
正極作製工程では、活物質保持部材のチューブ内に挿入された芯金と、チューブ及び芯金の間に充填された正極材(未化成の正極材)と、を有する正極を得る。正極作製工程は、例えば、チューブ内に芯金を配置した後、芯金及びチューブの間に活物質の原料(例えば鉛粉)等を充填する充填工程を備える。正極作製工程は、充填工程の後に、チューブの他端部を封止部材で封止する工程を備えてよい。
【0066】
負極作製工程では、例えば、負極活物質の原料等を含む負極材ペーストを負極集電体(例えば集電体格子(鋳造格子体、エキスパンド格子体等))に充填した後に熟成及び乾燥を行うことにより、未化成の負極材を有する負極を得ることができる。
【0067】
本実施形態に係る鉛蓄電池の製造方法は、正極及び負極の化成処理を行う化成処理工程を備えてよい。化成処理工程は、組み立て工程の後に実施されてよく、組み立て工程前の電極作製工程において実施されてもよい(タンク化成)。化成処理工程では、例えば、正極及び負極が電解液に接触した状態で直流電流を通電することにより化成処理を行う。化成後の電解液の比重を適切な比重に調整することにより鉛蓄電池を得ることができる。
【0068】
本実施形態に係る電動車(例えば電気車)又は電源装置は、本実施形態に係る鉛蓄電池を備える。本実施形態に係る電動車又は電源装置の製造方法は、本実施形態に係る鉛蓄電池の製造方法により鉛蓄電池を得る工程を備える。本実施形態に係る電動車又は電源装置の製造方法は、例えば、本実施形態に係る鉛蓄電池の製造方法により鉛蓄電池を得る工程と、前記鉛蓄電池を含む構成部材を組み立てて電動車又は電源装置を得る工程とを備えている。電動車としては、フォークリフト、ゴルフカート等が挙げられる。電源装置としては、UPS、防災(非常)無線用電源、電話用電源等が挙げられる。本実施形態によれば、電動車用の鉛蓄電池(例えば電気車用の鉛蓄電池)が提供され、例えば、フォークリフト用の鉛蓄電池が提供される。本実施形態によれば、電源装置用の鉛蓄電池が提供される。
【0069】
電動車用の鉛蓄電池では、電池の高さ方向に電極の高さを大きく設計されやすい。そのため、電解液中の硫酸が下方に沈降しやすいことから、成層化を防止するためのメンテナンスが重要である。そこで、充電末期に過充電をかけることによりガッシングさせて電解液を撹拌させる場合がある。この場合、チューブが破損して活物質が漏出していると、このガッシングによって活物質が舞い上がって電極(例えば負極)上に堆積することにより短絡が生じやすい。一方、本実施形態に係る鉛蓄電池は、チューブの破損を抑制できることから、ガッシングに起因する短絡を抑制できるため、電動車においても好適に用いることができる。
【実施例
【0070】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明の内容を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0071】
<チューブの作製>
(実施例1)
ポリエステル製の不織布シート(平均細孔径:40μm、目付量:100g/m)にアクリル樹脂のエマルジョンをシート積層体に1分間含浸させた。その後、100℃の恒温槽で1時間乾燥させて、ポリエステル基材にアクリル樹脂が保持された不織布を得た。この不織布を9mmφの心棒に巻くと共に熱溶着により不織布の端部同士を溶着することによりチューブ(断面形状:円形、内径:9mm、厚さ:0.4mm、長さ:294mm)を作製した。続いて、スチレンポリマー35質量%及びスチレンモノマー65質量%からなる溶液を、樹脂加工長さが10mmとなるようにチューブの両端部に付着させた後、スチレンモノマーが乾くまで乾燥することにより樹脂加工を施した。
【0072】
(実施例2)
チューブの両端部に付与する溶液がスチレンポリマー15質量%及びスチレンモノマー85質量%からなること以外は実施例1と同様に行いチューブを得た。
【0073】
(実施例3)
チューブの両端部に付与する溶液がスチレンポリマー10質量%及びスチレンモノマー90質量%からなること以外は実施例1と同様に行いチューブを得た。
【0074】
(実施例4)
チューブの両端部に付与する溶液がスチレンポリマー5質量%及びスチレンモノマー95質量%からなること以外は実施例1と同様に行いチューブを得た。
【0075】
(比較例1)
チューブの両端部(両末端)に溶液を付与しないこと以外は実施例1と同様に行いチューブを得た。
【0076】
<圧縮強度の測定>
型崩れしないようにチューブの両方の末端部5mmを裁断することにより2つの試験片を得た。試験片の裁断部を鉛直方向の下方に向けて配置した状態で、オートグラフ(EZ-FX、株式会社島津製作所製)を用いて試験片の裁断部(断面)を圧縮速度5mm/minで圧縮することにより圧縮強度を測定した。末端部の圧縮強度は、実施例1において共に5.3N/mmであり、実施例2において共に3.7N/mmであり、実施例3において共に3.4N/mmであり、実施例4において共に3N/mmであり、比較例1において共に2.5N/mmであった。
【0077】
型崩れしないように実施例1~4のチューブの中間部を5mm裁断し、チューブの中央部が一方の裁断部(断面)に位置する試験片を得た。上記と同様の方法により圧縮強度を測定した。中間部の圧縮強度は、2.5N/mmであった。
【0078】
<厚さの測定>
圧縮強度の測定と同様に実施例1~4のチューブの両方の末端部及び中間部を裁断して試験片を得た。末端部及び中間部のチューブの厚さ(肉厚)をノギスで測定した。両方の末端部の厚さは中間部よりも厚いことが確認された。
【0079】
<細孔の評価>
実施例1~4のチューブにおいて、水銀圧入法で測定される0.006~0.1μmの範囲の孔は、全孔量のうちの10体積%未満であった。
実施例1~4のチューブにおいて、細孔径10μm未満の細孔の総細孔体積Bに対する、細孔径10μm以上の細孔の総細孔体積Aの比率A/Bは1.40を超えていた。チューブの細孔体積比は、細孔分布に基づき算出した。チューブの細孔分布は、細孔分布計(株式会社島津製作所製、商品名:AUTO PORE IV 9520)を用いて測定した。チューブの細孔体積比は、細孔分布の測定結果より得られた各細孔の体積を「細孔径10μm以上の細孔の総細孔体積」と「細孔径10μm未満の細孔の総細孔体積」とに分離し、「細孔径10μm以上の細孔の総細孔体積」/「細孔径10μm未満の細孔の総細孔体積」に基づき算出した。
【0080】
<電極の作製>
15本のチューブを並べた後、連座をチューブの一端に取り付けた。そして、鉛-アンチモン(4.0質量%)-ヒ素(0.2質量%)-スズ(0.015質量%)系合金製の芯金(直径2.7mmφ×長さ299mmの円柱状)をチューブの他端側からチューブ内に挿入すると共に、一酸化鉛を主成分とする鉛粉をチューブの他端側からチューブ内に充填することにより、15本のチューブを有する電極板を得た。
【0081】
<チューブ破損の確認>
上述の電極板のチューブの他端を目視で確認することにより、破損(変形)の有無を確認した。実施例1~4では、破損が確認されなかった。比較例1では、破損が確認された。チューブの破損が抑制されることにより、活物質の漏れが抑制され、活物質の脱落由来の短絡に伴う寿命低下を抑制できる。
【符号の説明】
【0082】
10…正極、20…負極、30…セパレータ、50…活物質保持部材、52…チューブ、52a…一端部、52b…他端部、52c…中間部、52d…内壁、54…下部連座(封止部材)、54b…嵌合部(突起部)、90…接触部、100…鉛蓄電池。

図1
図2