(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-26
(45)【発行日】2024-12-04
(54)【発明の名称】無方向性電磁鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20241127BHJP
C22C 38/16 20060101ALI20241127BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20241127BHJP
C21D 8/12 20060101ALI20241127BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20241127BHJP
【FI】
C22C38/00 301U
C22C38/16
C22C38/60
C21D8/12 A
H01F1/147 183
(21)【出願番号】P 2022537614
(86)(22)【出願日】2020-12-09
(86)【国際出願番号】 KR2020017975
(87)【国際公開番号】W WO2021125682
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-08-09
(31)【優先権主張番号】10-2019-0171450
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イ,ヒョンジュ
(72)【発明者】
【氏名】イ,スン‐ゴン
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/102328(WO,A1)
【文献】特表2019-507243(JP,A)
【文献】特開2016-003371(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0078251(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2010-0037705(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 8/12, 9/46
H01F 1/12- 1/38, 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、Si:1.5~4.0%、Al:0.5~1.5%、Mn:0.05~0.55%、C:0.005%以下、Ti:0.004%以下(0%を除く)、N:0.005%以下(0%を除く)、S:0.005%以下(0%を除く)、Cu:0.01%以下(0%を除く)、残部はFeおよび不可避な不純物からなり、
下記式1および式2を満足し、
鋼板の最表面から内部方向に酸化層を含み、
前記酸化層は、Alを50重量%以上含み、
前記酸化層の厚さは、10~50nmであり、
前記鋼板の最表面から20μm深さまでの断面において直径100nm以下のAlN析出物の個数が0.1個/mm
2以下であることを特徴とする無方向性電磁鋼板。
[式1]
[N]≦0.005×([Al]+[Ti])
[式2]
[S]≦0.01×([Mn]+[Cu])
(式1および式2で、[N]、[Al]、[Ti]、[S]、[Mn]および[Cu]は、それぞれN、Al、Ti、S、MnおよびCuの含有量(重量%)を示す。)
【請求項2】
NbおよびVのうちの1種以上をそれぞれ0.004重量%以下にさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項3】
CrおよびNiのうちの1種以上をそれぞれ0.05重量%以下にさらに含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項4】
SnおよびSbのうちの1種以上をそれぞれ0.1重量%以下にさらに含むことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項5】
P:0.02重量%以下、B:0.002重量%以下、Mg:0.005重量%以下およびZr:0.005重量%以下のうちの1種以上をさらに含むことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項6】
平均結晶粒径が50~100μmであることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項7】
請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法であって、
重量%で、Si:1.5~4.0%、Al:0.5~1.5%、Mn:0.05~0.55%、C:0.005%以下、Ti:0.004%以下(0%を除く)、N:0.005%以下(0%を除く)、S:0.005%以下(0%を除く)、Cu:0.01%以下(0%を除く)、残部はFeおよび不可避な不純物からなり、下記式1および式2を満足するスラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階、
前記熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階、
前記冷延板を最終焼鈍する段階、および
前記最終焼鈍された冷延板を冷却する段階を含み、
前記最終焼鈍された冷延板を冷却する段階で、700℃以下の温度で露点が0℃を超える雰囲気に露出する時間が5~20秒であることを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法。
[式1]
[N]≦0.005×([Al]+[Ti])
[式2]
[S]≦0.01×([Mn]+[Cu])
(式1および式2で、[N]、[Al]、[Ti]、[S]、[Mn]および[Cu]は、それぞれN、Al、Ti、S、MnおよびCuの含有量(重量%)を示す。)
【請求項8】
前記熱延板を製造する段階の前に、スラブを1200℃以下の温度で加熱する段階をさらに含むことを特徴とする請求項7に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記熱間圧延する段階で、仕上げ圧延温度は800℃以上であることを特徴とする請求項7に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記熱間圧延する段階の後、850~1150℃の範囲で熱延板焼鈍する段階をさらに含むことを特徴とする請求項7乃至請求項9のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項11】
前記最終焼鈍する段階は、非酸化性雰囲気で700~1050℃の温度で、50~90秒間焼鈍することを特徴とする請求項7乃至請求項10のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項12】
前記非酸化性雰囲気は、H
2を5体積%以上含み、露点が0℃以下であることを特徴とする請求項11に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無方向性電磁鋼板およびその製造方法に係り、より詳しくは、Al、Mn、Cu、Ti、S、N間の量関係を適切に制御し、AlN析出物の母材表層での形成を抑制することで、磁性を改善した無方向性電磁鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無方向性電磁鋼板は、電気エネルギーを機械的エネルギーに変換させるモータに主に使用されるが、その変換過程で高い効率化を計るために無方向性電磁鋼板の優れた磁気的特性が要求される。特に近年、環境にやさしい技術が注目されるようになり、電気エネルギー使用量全体の過半を占めるモータの効率化が大変重要視されており、このために優れた磁気的特性を有する無方向性電磁鋼板の需要も増加している。
無方向性電磁鋼板の磁気的特性は、主に鉄損と磁束密度で評価される。鉄損は、特定の磁束密度と周波数で発生するエネルギー損失を意味し、磁束密度は、特定の磁場の下で得られる磁化の程度を意味する。鉄損が低いほど同一の条件でエネルギー効率が高いモータを製造することができ、磁束密度が高いほどモータを小型化させ、銅損を減少させることができるため、低い鉄損と高い磁束密度を有する無方向性電磁鋼板を作ることが重要である。
【0003】
モータの作動条件により、考慮しなければならない無方向性電磁鋼板の特性も変わる。モータに使用される無方向性電磁鋼板の特性を評価するための基準として多数のモータが商用周波数50Hzで1.5T磁場が印加された時の鉄損であるW15/50を最も重要視している。しかし、多様な用途のモータの全てがW15/50鉄損を最も重要視しているのではなく、主作動条件により他の周波数や印加磁場での鉄損を評価したりもする。特に最近の電気自動車の駆動モータに使用される厚さ0.35mm以下の無方向性電磁鋼板では、1.0Tまたはそれ以下の低磁場と400Hz以上の高周波での磁気的特性が重要な場合が多いため、W10/400などの鉄損で無方向性電磁鋼板の特性を評価するようになってきている。
無方向性電磁鋼板の磁気的特性を向上させるために通常行われる方法は、Siなどの合金元素を添加する方法である。このような合金元素の添加により鋼の比抵抗を増大させることができるが、比抵抗が高まるほど渦電流損失が減少し、全体の鉄損を低下させることができる。その反面、Si添加量が増加するほど磁束密度が劣位となり、脆性が増す短所があり、一定量以上を添加すると冷間圧延が困難となり商業的生産が不可能となる。特に電磁鋼板は、厚さを薄くするほど鉄損が低減する効果が得られるが、脆性による圧延性低下は致命的な問題となる。一方、Si以外に追加的な鋼の比抵抗増加のためにAl、Mnなどの元素の添加が試みられている。
【0004】
電気自動車の駆動モータ用に使用される無方向性電磁鋼板は、400Hz以上の高周波での鉄損が重要であるが、周波数が高まるほど鉄損で渦電流損失の比率が高まるため、比抵抗を高め、厚さを薄くすることが有利である。しかし、上記のように比抵抗を高めるために添加する元素量を増加させると圧延性が低下するため、比抵抗を高めながら厚さを薄くすれば必然的に圧延および連続焼鈍の生産性が低下する。これを改善するために特定の元素を添加したり圧延温度を上げるなどの研究が行われてきたが、製造原価の上昇と実効性の不足で商業生産に適用されていない。
【0005】
電気自動車用駆動モータのように作動周波数が高まると表皮効果(Skin effect)により電流が鋼板の表面に集中する現象が現れる。したがって、高周波特性の向上のためには鋼板表面部の特性が非常に重要な影響を与える。表面比抵抗の向上のためにSi蒸着および拡散研究、物理化学的方法を通じた表面粗さの改善研究などが行われてきたが、既存の工程設備を使っての実現が難しいだけでなく、その効果が小さいか、製造費が大幅上昇するため適用分野が非常に制限される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的とするところは、無方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供することにある。具体的にAl、Mn、Cu、Ti、S、N間の量関係を適切に制御し、AlN析出物の形成を抑制して、磁性を改善した無方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の無方向性電磁鋼板は、重量%で、Si:1.5~4.0%、Al:0.5~1.5%、Mn:0.05~0.55%、C:0.005%以下、Ti:0.004%以下(0%を除く)、N:0.005%以下(0%を除く)、S:0.005%以下(0%を除く)、Cu:0.01%以下(0%を除く)、残部はFeおよび不可避な不純物からなり、下記式1および式2を満足し、
電磁鋼板表面から内部方向に酸化層を含み、酸化層は、Alを50重量%以上含み、酸化層の厚さは、10~50nmであることを特徴とする。
[式1]
[N]≦0.005×([Al]+[Ti])
[式2]
[S]≦0.01×([Mn]+[Cu])
(式1および式2で、[N]、[Al]、[Ti]、[S]、[Mn]および[Cu]は、それぞれN、Al、Ti、S、MnおよびCuの含有量(重量%)を示す。)
【0008】
NbおよびVのうちの1種以上をそれぞれ0.004重量%以下にさらに含むことができる。
CrおよびNiのうちの1種以上をそれぞれ0.05重量%以下にさらに含むことができる。
SnおよびSbのうちの1種以上をそれぞれ0.1重量%以下にさらに含むことができる。
【0009】
P:0.02重量%以下、B:0.002重量%以下、Mg:0.005重量%以下およびZr:0.005重量%以下のうちの1種以上をさらに含むことができる。
表面から20μm深さまでの断面において直径100nm以下のAlN析出物の個数が0.1個/mm2以下であることが好ましい。
平均結晶粒径が50~100μmであることがよい。
【0010】
本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法は、重量%で、Si:1.5~4.0%、Al:0.5~1.5%、Mn:0.05~0.55%、C:0.005%以下、Ti:0.004%以下(0%を除く)、N:0.005%以下(0%を除く)、S:0.005%以下(0%を除く)、Cu:0.01%以下(0%を除く)、残部はFeおよび不可避な不純物からなり、下記式1および式2を満足するスラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階、熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階、冷延板を最終焼鈍する段階、および最終焼鈍された冷延板を冷却する段階を含み、最終焼鈍された冷延板を冷却する段階で、700℃以下の温度で露点が0℃を超える雰囲気に露出する時間が5~20秒であることを特徴とする。
[式1]
[N]≦0.005×([Al]+[Ti])
[式2]
[S]≦0.01×([Mn]+[Cu])
(式1および式2で、[N]、[Al]、[Ti]、[S]、[Mn]および[Cu]は、それぞれN、Al、Ti、S、MnおよびCuの含有量(重量%)を示す。)
【0011】
熱延板を製造する段階の前に、スラブを1200℃以下の温度で加熱する段階をさらに含むことがよい。
熱間圧延する段階で、仕上げ圧延温度は800℃以上であることが好ましい。
熱間圧延する段階の後、850~1150℃の範囲で熱延板焼鈍する段階をさらに含むことができる。
最終焼鈍する段階は、非酸化性雰囲気で700~1050℃の温度で、50~90秒間焼鈍する段階をさらに含むことが好ましい。
非酸化性雰囲気は、H2を5体積%以上含み、露点が0℃以下である雰囲気であることがよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一実施形態によれば、無方向性電磁鋼板の最適な合金組成を特定し、焼鈍後の冷却条件を提示することによって、電磁鋼板表面に緻密なAl系酸化層を形成して微細なAlN析出物の形成を抑制することができる。
また、本発明の一実施形態によれば、磁性に優れた無方向性電磁鋼板を提供することでモータおよび発電機の効率向上に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態による無方向性電磁鋼板の断面の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
第1、第2および第3などの用語は、多様な部分、成分、領域、層および/またはセクションを説明するために使用されるが、これらに限定されない。これらの用語は、ある部分、成分、領域、層またはセクションを他の部分、成分、領域、層またはセクションと区別するためだけに使用される。したがって、以下で述べる第1部分、成分、領域、層またはセクションは、本発明の範囲を逸脱しない範囲内で第2部分、成分、領域、層またはセクションと言及され得る。
ここで使用される専門用語は、単に特定の実施形態を言及するためのものであり、本発明を限定することを意図しない。ここで使用される単数の形態は、文言がこれと明確に反対の意味を示さない限り、複数の形態も含む。明細書で使用される「含む」の意味は、特定の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分を具体化し、他の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分の存在や付加を除外させるものではない。
【0015】
ある部分が他の部分の「上に」あると言及する場合、これは直ちに他の部分の上にあるか、またはその間に他の部分が介され得る。対照的に、ある部分が他の部分の「真上に」あると言及する場合、その間に他の部分が介されない。
また、特に言及しない限り、%は重量%を意味し、1ppmは0.0001重量%である。
本発明の一実施形態で追加元素をさらに含むことの意味は、追加元素の追加量の分、残部である鉄(Fe)を代替して含むことを意味する。
異なって定義しない限り、ここで使用される技術用語および科学用語を含む全ての用語は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が一般的に理解する意味と同一の意味を有する。通常使用される辞書に定義された用語は、関連技術文献と現在開示された内容に符合する意味を有すると追加解釈され、定義されない限り、理想的または非常に公式的な意味に解釈されない。
以下、本発明の実施形態について本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施することができるように詳細に説明する。しかし、本発明は多様な異なる形態に実現することができ、ここで説明する実施形態に限定されない。
【0016】
本発明の一実施形態による無方向性電磁鋼板は、重量%で、Si:1.5~4.0%、Al:0.5~1.5%、Mn:0.05~0.55%、C:0.005%以下、Ti:0.004%以下(0%を除く)、N:0.005%以下(0%を除く)、S:0.005%以下(0%を除く)およびCu:0.01%以下(0%を除く)を含み、残部はFeおよび不可避な不純物からなり、下記式1および式2を満足する。
[式1]
[N]≦0.005×([Al]+[Ti])
[式2]
[S]≦0.01×([Mn]+[Cu])
(式1および式2で、[N]、[Al]、[Ti]、[S]、[Mn]および[Cu]は、それぞれN、Al、Ti、S、MnおよびCuの含有量(重量%)を示す。)
以下に無方向性電磁鋼板の成分限定の理由を説明する。
【0017】
Si:1.5~4.0重量%
シリコン(Si)は、鋼の比抵抗を増加させて鉄損中の渦流損失を低下させるために添加される主要な元素である。Siが過度に少なく添加されると、鉄損を抑えられない問題が発生する。反対に、Siが過度に多く添加されると、磁束密度が大きく減少し、加工性に問題が発生する虞がある。したがって、上記の範囲でSiを含むことがよい。より好ましくは、Siを2.0~3.9重量%含むことであり、さらに好ましくは、3.0~3.5重量%含むことである。
【0018】
Al:0.5~1.5重量%
アルミニウム(Al)は、Siと共に比抵抗を増加させて鉄損を減少させる重要な役割を果たし、また磁気異方性を減少させて圧延方向と圧延垂直方向の磁性偏差を減少させる役割を果たす。Alが過度に少なく添加されると、微細な窒化物を形成したり、表層部酸化層が緻密に生成されず、磁性改善効果を得難くなる。Alが過度に多く添加されると、窒化物が過多に形成されて磁性を劣化させる虞があり、製鋼と連続鋳造などの工程段階で問題が発生する。したがって、上記範囲でAlを含むことがよい。より好ましくは、Alを0.5~1.0重量%含むことである。
【0019】
Mn:0.05~0.55重量%
マンガン(Mn)は、材料の比抵抗を高めて鉄損を改善し、硫化物を形成させる役割を果たす。Mnが過度に少なく添加されると、硫化物が微細に形成されて磁性の劣化を起こす虞がある。反対に、Mnが過度に多く添加されると、MnSが過多に析出され、磁性に不利な{111}集合組織の形成を助長して磁束密度が急激に減少する虞がある。より好ましくはにMnを0.05~0.50重量%含むことである。
【0020】
C:0.005重量%以下
炭素(C)は、磁気時効を起こし、他の元素と結合して炭化物を生成して磁気的特性を低下させるためその含量は、低いほど好ましく、0.005重量%以下、より好ましくは0.003重量%以下に管理することである。
【0021】
Ti:0.004重量%以下
チタン(Ti)は、鋼内に析出物を形成する傾向が非常に強い元素であり、母材内部に微細な炭化物または窒化物または硫化物を形成して結晶粒成長を抑制し、鉄損を増大させる。したがって、Ti含有量は、各0.004重量%以下、より好ましくは0.002重量%以下に管理することである。
【0022】
N:0.005重量%以下
窒素(N)は、母材内部に微細なAlN析出物を形成するだけでなく、その他の元素と結合して微細な析出物を形成して結晶粒の成長を抑制し、鉄損を悪化させるためその含量は少ないほど好ましい。したがって、N含有量は、各0.005重量%以下、より好ましくは0.003重量%以下に管理することである。
Nは、Al、Tiとの関係で下記式1を満足することがよい。
[式1]
[N]≦0.005×([Al]+[Ti])
(式1で、[N]、[Al]および[Ti]は、それぞれN、AlおよびTiの含有量(重量%)を示す。)
窒化物形成を助長するAlおよびTi含有量の合計の0.005倍以下に管理することによって、微細な析出物形成を防止することができる。
【0023】
S:0.005重量%以下
硫黄(S)は、微細な析出物であるMnSおよびCuSを形成して磁気特性を悪化させ、熱間加工性を悪化させるため、その含量を低く管理することが好ましい。したがって、S含有量は各0.005重量%以下、より好ましくは0.003重量%以下に管理することである。
Sは、Mn、Cuとの関係で下記式2を満足することがよい。
[式2]
[S]≦0.01×([Mn]+[Cu])
(式2で、[S]、[Mn]および[Cu]は、それぞれS、MnおよびCuの含有量(重量%)を示す。)
硫化物形成を助長するMnおよびCu含有量の合計の0.01倍以下に管理することによって、微細な析出物形成を防止することができる。
【0024】
Cu:0.01重量%以下
銅(Cu)は、微細な硫化物を形成して磁気特性を悪化させ、熱間加工性を低下させるためその含量を低く管理することが好ましい。鋼中に必ず不可避に存在する元素であり、0.01重量%以下に管理することがよい。より好ましくは、Cuを0.001~0.01重量%含むことである。
【0025】
NbおよびVのうちの1種以上をそれぞれ0.004重量%以下でさらに含むことができる。
ニオブ(Nb)およびバナジウム(V)は、鋼内で析出物を形成する傾向が非常に強い元素であり、母材内部に微細な炭化物または窒化物または硫化物を形成して結晶粒成長を抑制することによって鉄損を悪化させる。したがって、NbおよびVは、それぞれ0.004重量%以下、より好ましくは0.003重量%以下に管理することである。
【0026】
CrおよびNiのうちの1種以上をそれぞれ0.05重量%以下でさらに含むことができる。
クロム(Cr)、ニッケル(Ni)は、微細析出物を形成する傾向が強くはないが、Cr系炭化物を形成して磁性を悪化させたり表層部のAl系酸化層形成を妨害する虞があるため、それぞれ0.05重量%以下に管理することがよい。より好ましくは、0.01~0.05重量%に管理することである。
【0027】
SnおよびSbのうちの1種以上をそれぞれ0.1重量%以下でさらに含むことができる。
スズ(Sn)、アンチモン(Sb)は、鋼の表面と粒界に偏析して再結晶初期{111}方位の発達を抑制することによって磁性に有利な集合組織を形成するが、加工性および表面品質を悪化させる虞があるため、それぞれ0.1重量%以下に管理されることがよい。より好ましくは、それぞれ0.01~0.1重量%含むことである。
【0028】
前記の元素以外にも、リン(P)、ホウ素(B)、マグネシウム(Mg)、ジルコニウム(Zr)などの不可避に混入される不純物が含まれることがある。これら元素は、微量であるが、鋼内介在物を形成するため磁性の悪化を招く虞があるため、P:0.02%以下、B:0.002%以下、Mg:0.005%以下、Zr:0.005%以下に管理されなければならない。
【0029】
残部は、Feおよび不可避な不純物からなる。不可避な不純物については、製鋼段階、および方向性電磁鋼板の製造工程過程で混入される不純物であり、これは当該分野で広く知られているため、具体的な説明は省略する。本発明の一実施形態で上記合金成分以外の元素の追加を排除するもののではなく、本発明の技術思想を害しない範囲内で多様に含むことができる。追加元素をさらに含む場合、残部のFeを代替して含む。
上記のように、本発明の一実施形態では、Al、Mn、Cu、Ti、S、N間の関係を適切に制御し、Al系酸化層を形成して、磁性を向上させることができる。
【0030】
図1は本発明の一実施形態による無方向性電磁鋼板の断面の概略図を示した。
図1に示したとおり、無方向性電磁鋼板100の表面から内部方向に酸化層10を含む。酸化層10は、Alを50重量%以上含み、酸化層10の厚さは10~50nmである。
酸化層10は、後述する最終焼鈍後の冷却段階で雰囲気中の酸素が鋼板に浸透して酸化物が形成される。
酸化層10は、酸素(O)が25重量%以上存在することができる。
酸化層10内には、Alの表面濃縮によって、Alを50重量%以上含むことができる。より具体的にAlを50~60重量%含むことができる。Al以外に残りの合金成分は上記の無方向性電磁鋼板の合金成分と同一である。酸化層10の厚さが無方向性電磁鋼板100の全体厚さに比べて非常に薄いため、方向性電磁鋼板全体の合金成分にも実質的に影響がない。
このように酸化層10内にAlが緻密に形成されるため、母材表層付近でAlN析出物の形成が抑制され、究極的に磁性向上に寄与する。
【0031】
Alも酸素と同様に酸化層10内に濃度勾配が存在する。本発明の一実施形態で酸化層10内のAl含有量は、酸化層10内の平均Al含有量を意味する。
酸化層10の厚さは10~50nmである。酸化層10内の厚さが過度に薄ければ、Al濃縮が適切に行われず、上記のAlN抑制効果が十分に得られない虞がある。酸化層10の厚さが過度に厚ければ、酸素が鋼板内に多量浸透して磁性が劣位となる虞がある。より好ましくは、酸化層10の厚さは10~30nmである。
酸化層10は、無方向性電磁鋼板100全面に対して厚さが不均一になることがある。本発明の一実施形態で酸化層10の厚さとは、無方向性電磁鋼板100の全面に対する平均厚さを意味する。
【0032】
上記のとおり、酸化層10の存在によりAlN析出物の形成が抑制される。具体的に表面から20μm深さまでの断面において直径100nm以下のAlN析出物の個数が0.1個/mm2以下であることが好ましい。AlN析出物の直径および個数は、鋼板の厚さ方向と平行に切断した断面、つまり、鋼板の厚さ方向(ND方向)を含む面(TD面、RD面など)を基準とする。
鋼板の厚さは0.1~0.3mmである。平均結晶粒径が50~100μmである。適切な厚さおよび平均結晶粒径を有する場合、磁性が向上する。平均結晶粒直径は、〔(測定面積÷結晶粒個数)0.5〕の式で計算することができる。圧延面(ND面)と平行な面を基準とする。
【0033】
上記のように、本発明の一実施形態でAl、Mn、Cu、Ti、S、N間の関係を適切に制御し、Al系酸化層を形成して、磁性を向上させることができる。具体的に0.27mm厚さを基準に無方向性電磁鋼板の鉄損(W15/50)が1.9W/Kg以下、鉄損(W10/400)が12.5W/kg以下、磁束密度(B50)が1.67T以上であることがよい。鉄損(W15/50)は、50Hzの周波数で1.5Tの磁束密度を誘起した時の鉄損である。鉄損(W10/400)は400HZの周波数で1.0Tの磁束密度を誘起した時の鉄損である。磁束密度(B50)は、5000A/mの磁場で誘導される磁束密度である。より好ましくは無方向性電磁鋼板の鉄損(W15/50)が1.9W/Kg以下、鉄損(W10/400)が12.0W/kg以下、磁束密度(B50)が1.68T以上である。
【0034】
本発明の一実施形態による無方向性電磁鋼板の製造方法は、スラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階、熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階、冷延板を最終焼鈍する段階、および最終焼鈍された冷延板を冷却する段階を含む。
まず、スラブを熱間圧延する。
スラブの合金成分については、上記の無方向性電磁鋼板の合金成分で説明したため、重複する説明は省略する。無方向性電磁鋼板の製造過程で合金成分が実質的に変動しないため、無方向性電磁鋼板とスラブの合金成分は実質的に同一である。
【0035】
具体的にスラブは、重量%で、Si:1.5~4.0%、Al:0.5~1.5%、Mn:0.05~0.55%、C:0.005%以下、Ti:0.004%以下(0%を除く)、N:0.005%以下(0%を除く)、S:0.005%以下(0%を除く)、Cu:0.01%以下(0%を除く)、残部はFeおよび不可避な不純物からなり、下記式1および式2を満足することができる。
[式1]
[N]≦0.005×([Al]+[Ti])
[式2]
[S]≦0.01×([Mn]+[Cu])
(式1および式2で、[N]、[Al]、[Ti]、[S]、[Mn]および[Cu]は、それぞれN、Al、Ti、S、MnおよびCuの含有量(重量%)を示す。)
その他の追加元素については、無方向性電磁鋼板の合金成分で説明したため、重複する説明は省略する。
【0036】
スラブを熱間圧延する前にスラブを加熱することができる。スラブの加熱温度は制限されないが、スラブを1200℃以下に加熱することができる。スラブ加熱温度が過度に高ければ、スラブ内に存在するAlN、MnSなどの析出物が再固溶された後、熱間圧延および焼鈍時に微細析出されて結晶粒成長を抑制し、磁性を低下させる虞がある。
スラブを熱間圧延して熱延板を製造する。熱延板厚さは2~2.3mmである。熱延板を製造する段階で仕上げ圧延温度は800℃以上である。好ましくは800~1000℃である。熱延板は700℃以下の温度で巻取りされる。
【0037】
熱延板を製造する段階の後、熱延板を熱延板焼鈍する段階をさらに含む。この時、熱延板焼鈍温度は850~1150℃である。熱延板焼鈍温度が過度に低ければ、組織が成長しないか微細となり、冷間圧延後の焼鈍時に磁性に有利な集合組織を得ることが困難となる。焼鈍温度が過度に高ければ磁結晶粒が過度に成長し、鋼板の表面欠陥が過多になる虞がある。熱延板焼鈍は、必要に応じて磁性に有利な方位を増加させるために行われるものであり、省略も可能である。焼鈍された熱延板を酸洗することができる。
次に、熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する。冷間圧延は0.1mm~0.3mmの厚さに最終圧延する。必要に応じ、冷間圧延する段階は1回の冷間圧延段階または中間焼鈍を間に置いた2回以上の冷間圧延段階を含むことができる。この時、中間焼鈍温度は850~1150℃である。
【0038】
次に、冷延板を最終焼鈍する。冷延板を焼鈍する工程で焼鈍温度は、通常無方向性電磁鋼板に適用される温度であれば制限はない。無方向性電磁鋼板の鉄損は、結晶粒サイズと密接に関連しているため、700~1050℃であれば好適であり、最終焼鈍過程で平均結晶粒径が50~100μmになることができ、前段階である冷間圧延段階で形成された加工組織が全て(99%以上)再結晶される。
【0039】
最終焼鈍する段階は、非酸化性雰囲気で50~90秒間焼鈍することができる。非酸化性雰囲気は、H2を5体積%以上含み、露点が0℃以下である雰囲気である。
次に、最終焼鈍された冷延板を冷却する。冷延板は最終100℃以下まで冷却された後、絶縁被膜を形成することができる。
最終焼鈍過程で700℃以下に冷却される過程で雰囲気内の酸素が浸透して酸化層10を形成する。この時、酸素を含む雰囲気に露出する時間を調節することによって、酸化層10の厚さを調節することができる。300℃未満では鋼板への酸素浸透が困難であり、この時の露出時間は酸化層10厚さに影響を与えない。
【0040】
露出する時間は5~20秒である。時間が過度に短ければ酸化層10が薄く形成され、露出時間が過度に長ければ、酸化層10が厚く形成される。より具体的に10~17秒であることがよい。
雰囲気は、露点が0℃を超える酸化性雰囲気である。
以下、実施例を通じて本発明をより詳細に説明する。しかし、このような実施例は単に本発明を例示するためのものであり、本発明がこれに限定されるのではない。
【0041】
実施例
実験室で真空溶解して表1および表2並びに残部Feおよび不可避な不純物を含む鋼塊を製造した。これを1150℃で再加熱し、880℃の仕上げ温度で熱間圧延して、板厚さ2.0mmの熱延板を製造した。熱間圧延された熱延板は、1030℃で100秒間熱延板焼鈍後、冷間圧延してそれぞれの厚さを表3のように作製した。これを1000℃で約80秒間、N280体積%、H220体積%の雰囲気で最終再結晶焼鈍を施行した。その後、700℃から300℃まで冷却する時、露点が0℃超過である雰囲気に露出する時間を下記表3のように調節した。
各試片に対する結晶粒径、酸化層の厚さ、酸化層のAl含有量、表面から20μm深さでの直径100nm以下のAlN分布を下記表3に示した。
結晶粒径は、試片の圧延垂直方向の断面を研磨後にエッチングし、光学顕微鏡で結晶粒が1500個以上含まれるように十分な面積を撮影して、〔(測定面積÷結晶粒個数)0.5〕の式で計算した。
【0042】
磁束密度、鉄損などの磁気的特性は、それぞれの試片に対して幅60mm×の長さ60mm×枚数5枚の試片を切断して単板試験器(Single sheet tester)で圧延方向と圧延垂直方向に測定して平均値を示した。この時、W10/400は、400Hzの周波数で1.0Tの磁束密度を誘起した時の鉄損であり、B50は、5000A/mの磁場で誘導される磁束密度を意味する。
酸化層の厚さは、試片をFIBで加工して滑らかな断面を作製し、これをTEM高配率に撮影して10地点以上の酸化層の厚さ測定平均値を求めた。酸化層Al含有量は、TEM-EDS方法で酸化層の成分を測定した時、重量%で示すAl含有量を意味する。100nm以下のAlNは、TEMで析出物を観察した時、表層から20μm深さまでの領域に存在する直径100nm以下のAlN析出物の個数を示した。
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
表1~表3に示すように、A3、A4、B3、B4、C3、C4、D3、D4、E3、E4の場合には、成分含有量および製造方法の全てが本発明の特定範囲を満足して結晶粒径、酸化層の厚さおよびAl含有量、表層部100nm以下のAlN分布などが良好に形成され、高周波での磁性が優れることが確認できる。
一方、A1、A2、B2、C2の場合、N、S、Ti、Cuの含有量が本発明の範囲を超えて100nm以下のAlNが表層部に過多に形成されて優れた高周波磁性を確保することができなかった。
B1、C1の場合、酸化雰囲気の露出時間が長いかまたは短くて酸化層が厚く形成されるか、または薄く形成された。そのために、高周波磁性が比較的に劣位であることが確認できる。
【0047】
C2は、焼鈍後冷却する時、非酸化雰囲気である15%H2と露点-20℃から300℃まで冷却した。そのために、酸化層が形成されず、高周波磁性が比較的に劣位であることを確認できる。
D1、D2、E1、E2は、AlとMnの含有量が本発明の範囲に未達または超過となり、表層部に微細なAlNが形成されたり、過多に厚い表層部酸化層が形成されて高周波での磁性が悪化した。
【0048】
本発明は、前記実施形態に限定されるのではなく、互いに異なる多様な形態で製造可能であり、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明の技術的な思想や必須の特徴を変更せずに他の具体的な形態で実施可能であることを理解できるはずである。したがって、上記した実施形態は全ての面で例示的なものであり、限定的なものではないことを理解しなければならない。
【符号の説明】
【0049】
100:無方向性電磁鋼板
10:酸化層