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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-26
(45)【発行日】2024-12-04
(54)【発明の名称】振動解析システム、および振動解析方法
(51)【国際特許分類】
   G01H 17/00 20060101AFI20241127BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20241127BHJP
【FI】
G01H17/00 Z
G01M99/00 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022551891
(86)(22)【出願日】2021-09-13
(86)【国際出願番号】 JP2021033498
(87)【国際公開番号】W WO2022065103
(87)【国際公開日】2022-03-31
【審査請求日】2024-03-21
(31)【優先権主張番号】P 2020160910
(32)【優先日】2020-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229564
【氏名又は名称】株式会社バルカー
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 央隆
(72)【発明者】
【氏名】米田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】山下 裕也
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-207644(JP,A)
【文献】特開2004-117253(JP,A)
【文献】特開2017-142153(JP,A)
【文献】特開2020-134479(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105300692(CN,A)
【文献】国際公開第2021/090765(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 1/00 - 17/00
G01M 13/00 - 13/045
G01M 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動作中の対象物に取り付けられたセンサにより検出される振動信号の入力を受け付ける信号入力部と、
前記対象物に対応する振動信号を分析することにより、複数の周波数帯域にそれぞれ対応する複数の信号強度を算出する強度算出部と、
予め設定された第1単位空間に対する、前記複数の信号強度で構成される第1信号空間の第1マハラノビス距離を算出する第1距離算出部と、
前記強度算出部により算出された前記複数の信号強度の重心位置を示す2次元の重心データを算出する重心算出部と、
予め設定された第2単位空間に対する、前記2次元の重心データで構成される第2信号空間の第2マハラノビス距離を算出する第2距離算出部と、
前記第1マハラノビス距離と前記第2マハラノビス距離とに基づいて、前記対象物に異常が発生する異常発生時期を予測する異常予測部とを備える、振動解析システム。
【請求項2】
前記第1単位空間は、正常時の前記対象物に対応する振動信号を分析することにより算出される、前記複数の周波数帯域にそれぞれ対応する複数の信号強度で構成され、
前記第2単位空間は、前記第1単位空間を構成する当該複数の信号強度の重心位置を示す2次元の重心データで構成される、請求項1に記載の振動解析システム。
【請求項3】
第1閾値以上の前記第1マハラノビス距離が算出された場合における前記異常発生時期は、前記第1閾値以上の前記第1マハラノビス距離が算出されていない場合における前記異常発生時期よりも近い将来であると予測される、請求項1または2に記載の振動解析システム。
【請求項4】
前記異常予測部は、前記第1閾値以上の前記第1マハラノビス距離が算出されてから数日経過後に前記対象物に異常が発生すると予測する、請求項3に記載の振動解析システム。
【請求項5】
前記第1閾値以上の前記第1マハラノビス距離が算出され、かつ第2閾値以上の前記第2マハラノビス距離が算出された場合における前記異常発生時期は、前記第1閾値以上の前記第1マハラノビス距離が算出され、かつ前記第2閾値以上の前記第2マハラノビス距離が算出されていない場合における前記異常発生時期よりも近い将来であると予測される、請求項3または4に記載の振動解析システム。
【請求項6】
前記異常予測部は、前記第2閾値以上の前記第2マハラノビス距離が算出されてから数時間経過後に前記対象物に異常が発生すると予測する、請求項5に記載の振動解析システム。
【請求項7】
前記第1閾値以上の前記第1マハラノビス距離が算出された場合、第1警告情報を出力し、前記第2閾値以上の前記第2マハラノビス距離が算出された場合、前記第1警告情報よりも警告レベルの大きい第2警告情報を出力する出力制御部をさらに備える、請求項5または6に記載の振動解析システム。
【請求項8】
前記出力制御部は、前記第1マハラノビス距離の時系列データと、前記第2マハラノビス距離の時系列データとをディスプレイに表示させる、請求項7に記載の振動解析システム。
【請求項9】
動作中の対象物に取り付けられたセンサにより検出される振動信号の入力を受け付けるステップと、
前記対象物に対応する振動信号を分析することにより、複数の周波数帯域にそれぞれ対応する複数の信号強度を算出するステップと、
予め設定された第1単位空間に対する、前記複数の信号強度で構成される第1信号空間の第1マハラノビス距離を算出するステップと、
算出された前記複数の信号強度の重心位置を示す2次元の重心データを算出するステップと、
予め設定された第2単位空間に対する、前記2次元の重心データで構成される第2信号空間の第2マハラノビス距離を算出するステップと、
前記第1マハラノビス距離と前記第2マハラノビス距離とに基づいて、前記対象物に異常が発生する異常発生時期を予測するステップとを含む、振動解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、振動解析システム、および振動解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、機械の異常を検査するための手法として、機器の動作中の異常振動に起因する信号を検出することにより、その機器の異常の有無を判定する手法が知られている。
【0003】
例えば、特開2019-35585号公報(特許文献1)では、データ間距離に基づく異常か否かの程度を表す指標値を算出して異常か否かを判定する所定の近傍法に基づく異常判定処理を、既存の分析結果データ群を代表する既存の代表データ群に対する、新たな分析結果データ群の各データについて適用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-35585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、対象機器の状態監視結果である多数のデータの中から、異常検知に用いる代表データを適切に選択することを検討している。しかし、機器の予知保全等のために異常の時期を予測する構成については何ら開示も示唆もされていない。
【0006】
本開示のある局面における目的は、対象物の振動状態を解析することにより、対象物の異常発生時期を予測することが可能な振動解析システム、および振動解析方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ある実施の形態に従う振動解析システムは、動作中の対象物に取り付けられたセンサにより検出される振動信号の入力を受け付ける信号入力部と、対象物に対応する振動信号を分析することにより、複数の周波数帯域にそれぞれ対応する複数の信号強度を算出する強度算出部と、予め設定された第1単位空間に対する、複数の信号強度で構成される第1信号空間の第1マハラノビス距離を算出する第1距離算出部と、強度算出部により算出された複数の信号強度の重心位置を示す2次元の重心データを算出する重心算出部と、予め設定された第2単位空間に対する、2次元の重心データで構成される第2信号空間の第2マハラノビス距離を算出する第2距離算出部と、第1マハラノビス距離と第2マハラノビス距離とに基づいて、対象物に異常が発生する異常発生時期を予測する異常予測部とを備える。
【0008】
好ましくは、第1単位空間は、正常時の対象物に対応する振動信号を分析することにより算出される、複数の周波数帯域にそれぞれ対応する複数の信号強度で構成される。第2単位空間は、第1単位空間を構成する当該複数の信号強度の重心位置を示す2次元の重心データで構成される。
【0009】
好ましくは、第1閾値以上の第1マハラノビス距離が算出された場合における異常発生時期は、第1閾値以上の第1マハラノビス距離が算出されていない場合における異常発生時期よりも近い将来であると予測される。
【0010】
好ましくは、異常予測部は、第1閾値以上の第1マハラノビス距離が算出されてから数日経過後に対象物に異常が発生すると予測する。
【0011】
好ましくは、第1閾値以上の第1マハラノビス距離が算出され、かつ第2閾値以上の第2マハラノビス距離が算出された場合における異常発生時期は、第1閾値以上の第1マハラノビス距離が算出され、かつ第2閾値以上の第2マハラノビス距離が算出されていない場合における異常発生時期よりも近い将来であると予測される。
【0012】
好ましくは、異常予測部は、第2閾値以上の第2マハラノビス距離が算出されてから数時間経過後に対象物に異常が発生すると予測する。
【0013】
好ましくは、第1閾値以上の第1マハラノビス距離が算出された場合、第1警告情報を出力し、第2閾値以上の第2マハラノビス距離が算出された場合、第1警告情報よりも警告レベルの大きい第2警告情報を出力する出力制御部をさらに備える。
【0014】
好ましくは、出力制御部は、第1マハラノビス距離の時系列データと、第2マハラノビス距離の時系列データとをディスプレイに表示させる。
【0015】
他の実施の形態に従う振動解析方法は、動作中の対象物に取り付けられたセンサにより検出される振動信号の入力を受け付けるステップと、対象物に対応する振動信号を分析することにより、複数の周波数帯域にそれぞれ対応する複数の信号強度を算出するステップと、予め設定された第1単位空間に対する、複数の信号強度で構成される第1信号空間の第1マハラノビス距離を算出するステップと、算出された複数の信号強度の重心位置を示す2次元の重心データを算出するステップと、予め設定された第2単位空間に対する、2次元の重心データで構成される第2信号空間の第2マハラノビス距離を算出するステップと、第1マハラノビス距離と第2マハラノビス距離とに基づいて、対象物に異常が発生する異常発生時期を予測するステップとを含む。
【発明の効果】
【0016】
本開示によると、対象物の振動状態を解析することにより、対象物の異常発生時期を予測することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】システムの概要を説明するための図である。
図2】振動解析システムの全体構成の一例を示すブロック図である。
図3】解析装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
図4】準備工程の一例を示すフローチャートである。
図5】各周波数帯域の信号強度のデータセットの一例を示す図である。
図6】重心位置のデータセットの一例を示す図である。
図7】解析工程の一例を示すフローチャートである。
図8】第1異常予測工程の一例を示すフローチャートである。
図9】多次元データに基づくマハラノビス距離の時系列データを示す図である。
図10】第2異常予測工程の一例を示すフローチャートである。
図11】2次元データに基づくマハラノビス距離の時系列データを示す図である。
図12】トレンド解析工程の一例を示すフローチャートである。
図13】ユーザインターフェイス画面のレイアウト例を示す図である。
図14】解析装置の機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
【0019】
<システム構成>
図1は、システム1000の概要を説明するための図である。図1を参照して、システム1000は、ポンプ等の保全対象物(以下、単に「対象物」とも称する。)の動作中に発生する振動の信号を解析することにより、対象物の異常発生を予測するためのシステムである。以下では、対象物がポンプであるとして説明するが、これに限られず、動作中に振動(あるいは音)を発生する任意の対象物についてシステム1000を適用することができる。例えば、モータ、振動体からの振動を受けて振動している部位などの異常予測にもシステム1000を適用することができる。
【0020】
システム1000は、振動解析システム100と、複数のセンサ30と、端末装置40と、ネットワーク50と、複数のポンプ70とを含む。振動解析システム100は、ポンプ70の振動解析を実行する。振動解析システム100は、解析装置10と、センサユニット20とを含む。センサユニット20は、複数のセンサ30と電気的に接続されている。システム1000では、2つのセンサユニット20が解析装置10に接続されているが、3つ以上のセンサユニット20、または1つのセンサユニット20が解析装置10に接続される構成であってもよい。各センサユニット20は、1つのセンサ30と電気的に接続されていてもよい。各センサユニット20は、複数のポンプ70にそれぞれ取り付けられた複数のセンサ30と電気的に接続されていてもよい。
【0021】
センサ30は、ポンプ70に取り付けられており、ポンプの振動や音に起因して検出される検出信号(振動信号)を取得する。解析装置10は、センサユニット20を介してセンサ30から入力された振動信号に基づいて、ポンプ70の振動解析を実行する。解析装置10は、ネットワーク50を介して、端末装置40と通信可能に構成される。解析装置10は、振動解析結果等を端末装置40に送信する。
【0022】
解析装置10は、典型的には、汎用的なコンピュータアーキテクチャに従う構造を有しており、予めインストールされたプログラムをプロセッサが実行することで、後述する各種の処理を実現する。解析装置10は、例えば、ラップトップPC(Personal Computer)である。ただし、解析装置10は、以下に説明する機能および処理を実行可能な装置であればよく、他の装置(例えば、デスクトップPC、タブレット端末装置)であってもよい。
【0023】
ネットワーク50は、インターネット等の各種ネットワークを含む。ネットワーク50は、有線通信方式を採用してもよいし、無線LAN(local area network)等のその他の無線通信方式を採用してもよい。
【0024】
端末装置40は、例えば、携帯可能なタブレット端末装置である。ただし、端末装置40は、これに限られず、スマートフォン、デスクトップPC(Personal Computer)などで実現されてもよい。なお、本実施の形態に従う振動解析システム100は、解析装置10と、センサユニット20とが分離した分離型の装置で構成されているが、解析装置10およびセンサユニット20の一体型の装置で構成されていてもよい。
【0025】
図2は、振動解析システム100の全体構成の一例を示すブロック図である。図2を参照して、振動解析システム100は、解析装置10と、センサユニット20とを含む。
【0026】
センサユニット20に接続されるセンサ30は、振動や音の信号を検出可能なセンサであり、例えば、有機圧電素子を用いた加速度センサによって構成される。なお、センサ30は、振動や音の信号を検出可能なセンサであればよく、他の方式(例えば、サーボ型)の加速度センサで構成されていてもよいし、各種の他のセンサで構成されていてもよい。
【0027】
センサ30により得られる信号が電荷信号である場合、チャージコンバータが、センサ30と振動解析システム100との間に設けられる。この場合、チャージコンバータは、センサ30からの電荷信号を電圧信号に変換して、振動解析システム100に出力する。なお、センサ30が、電荷信号を電圧信号に変換する機能を有する場合には、チャージコンバータは不要である。
【0028】
センサユニット20は、センサ30(あるいは、チャージコンバータ)から取得した振動信号を、解析装置10で処理できる信号に変換する。具体的には、センサユニット20は、フィルタ21と、増幅器22と、A/Dコンバータ23とを含む。
【0029】
フィルタ21は、アナログフィルタであり、センサ30から出力される振動信号からノイズ成分を除去する。フィルタ21は、ローパスフィルタ、ハイパスフィルタ等により構成される。
【0030】
増幅器22は、フィルタ21から出力されるアナログ信号を所定倍に増幅し、増幅した信号をA/Dコンバータ23に出力する。
【0031】
A/Dコンバータ23は、所定のサンプリング周波数にて、増幅器22から入力される信号をアナログ信号からディジタル信号に変換する。A/Dコンバータ23は、ディジタル変換した信号を解析装置10へ出力する。
【0032】
図3は、解析装置10のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。図3を参照して、解析装置10は、プロセッサ101と、メモリ103と、ディスプレイ105と、入力装置107と、信号入力インターフェイス(I/F)109と、通信インターフェイス(I/F)111とを含む。これらの各部は、互いにデータ通信可能に接続される。
【0033】
プロセッサ101は、典型的には、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Multi Processing Unit)等といった演算処理部である。プロセッサ101は、メモリ103に記憶されたプログラムを読み出して実行することで、解析装置10の各部の動作を制御する。より詳細にはプロセッサ101は、当該プログラムを実行することによって、解析装置10の各機能を実現する。
【0034】
メモリ103は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read-Only Memory)、フラッシュメモリ、ハードディスクなどによって実現される。メモリ103は、プロセッサ101によって実行されるプログラム等を記憶する。
【0035】
ディスプレイ105は、例えば、液晶ディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等である。ディスプレイ105は、解析装置10と一体的に構成されてもよいし、解析装置10とは別個に構成されてもよい。
【0036】
入力装置107は、解析装置10に対する操作入力を受け付ける。入力装置107は、例えば、キーボード、ボタン、マウスなどによって実現される。また、入力装置107は、タッチパネルとして実現されていてもよい。
【0037】
信号入力インターフェイス109は、プロセッサ101とセンサユニット20との間のデータ伝送を仲介する。信号入力インターフェイス(I/F)109は、センサユニット20を介して、センサ30からの振動信号の入力を受け付ける。具体的には、信号入力インターフェイス109は、A/Dコンバータ23からのディジタル信号の入力を受け付ける。
【0038】
通信インターフェイス111は、プロセッサ101と端末装置40等との間のデータ伝送を仲介する。通信方式としては、例えば、Bluetooth(登録商標)、無線LAN(Local Area Network)等による無線通信方式が用いられる。なお、通信方式として、USB(Universal Serial Bus)等の有線通信方式を用いてもよい。
【0039】
<異常予測方式>
本実施の形態に従う異常予測方式の概要について説明する。異常予測方式は、リファレンスデータを準備する準備工程と、ポンプ70の異常状態を解析する解析工程とを含む。
【0040】
(準備工程)
本実施の形態に係る準備工程においては、例えば、動作開始初期のポンプ70の振動状態が計測される。動作開始初期のポンプ70は新品の状態であることから、正常時のポンプ70の振動状態がリファレンスとして計測される。ただし、ポンプ70の代わりに、ポンプ70と同一種類の正常状態のポンプを別途用意して、当該ポンプの振動状態がリファレンスとして計測されてもよい。
【0041】
図4は、準備工程の一例を示すフローチャートである。典型的には、以下の各ステップは、解析装置10のプロセッサ101がメモリ103に格納されたプログラムを実行することによって実現される。
【0042】
図4を参照して、プロセッサ101は、センサユニット20を介して、センサ30から出力される振動信号を取得する(ステップS10)。具体的には、プロセッサ101は、センサ30から正常時のポンプ70に対応する振動信号(ポンプ70の振動状態を示す振動信号)を取得する。
【0043】
プロセッサ101は、所定時間(例えば、数十~数百m秒)蓄積された振動信号を、オクターブ分析する(ステップS12)。本実施の形態では、1/3オクターブ分析が利用される。そのため、各振動信号は、1/3バンドパスフィルタによって、例えば0.4Hzから20kHzまでの48バンドに分離され、バンド(すなわち、周波数帯域)ごとに信号強度(振動強度)が平均化される。以下の説明では、周波数帯域において平均化された信号強度を、単に「周波数帯域の信号強度」とも称する。
【0044】
プロセッサ101は、各周波数帯域について、正常時のポンプ70に対応する当該周波数帯域の信号強度をリファレンスデータRとしてメモリ103に記憶する(ステップS14)。
【0045】
図5は、各周波数帯域の信号強度のデータセットの一例を示す図である。図5を参照して、データセット310は、各時間T1~Tm(ただし、mは自然数)について、各周波数帯域f1~fn(ただし、nは自然数、n<m)の信号強度Lを含む。各振動信号が48バンドに分離される場合、n=48である。例えば、データセット310は、時間T1においては、各周波数帯域f1~fnの信号強度L1_1~L1_nを含み、時間Tmにおいては、各周波数帯域f1~fnの信号強度Lm_1~Lm_nを含む。リファレンスデータRは、例えば、各時間T1~Tnの各周波数帯域f1~fnの信号強度Lを含む。この場合、時間T1~Tnの期間が動作開始初期期間に対応する。
【0046】
再び、図4を参照して、プロセッサ101は、リファレンスデータRを用いてマハラノビス・タグチ法(MT法)における単位空間U1を設定する(ステップS16)。具体的には、プロセッサ101は、各時間T1~Tnにおける各周波数帯域f1~fnの信号強度Lのデータを、単位空間U1として設定する。単位空間U1は、後述する第1異常予測工程において用いられる。
【0047】
プロセッサ101は、各周波数帯域の信号強度の重心位置を示す2次元の重心データを算出する(ステップS18)。具体的には、プロセッサ101は、データセット310から図6に示すデータセットを生成する。
【0048】
図6は、重心位置のデータセットの一例を示す図である。図6を参照して、データセット320は、時間T1~Tmについて、周波数帯域の重心位置Gxと、信号強度の重心位置Gyとを含む。各時間T1~Tmについて、2次元の重心データ(重心位置Gx,Gy)が生成される。重心位置Gxは以下の式(1)で表され、重心位置Gyは以下の式(2)で表される。
【0049】
【数1】
【0050】
【数2】
【0051】
はi番目の周波数帯域を表わし、Lはi番目の周波数帯域の信号強度を表わし、Sは全周波数帯域の信号強度の総和を表わしている。上記(1)および(2)により、n次元(多次元)のデータ(各周波数帯域f1~fnの信号強度L)で構成されるデータセット310から、2次元のデータ(重心位置Gx,Gy)で構成されるデータセット320が生成される。データセット320では、例えば、時間T1の重心位置Gx,Gyがそれぞれ重心位置Gf_1,GL_1で表され、時間Tmの重心位置Gx,Gyがそれぞれ重心位置Gf_m,GL_mで表される。
【0052】
再び、図4を参照して、プロセッサ101は、動作開始初期期間(例えば、時間T1~Tn)における重心データを用いて、MT法における単位空間U2を設定する(ステップS20)。具体的には、プロセッサ101は、各時間T1~Tnの2次元の重心データ(重心位置Gx,Gy)を、単位空間U2として設定する。単位空間U2は、後述する第2異常予測工程において用いられる。
【0053】
(解析工程)
解析工程は、ポンプ70の振動状態の異常発生時期を予測する第1および第2異常予測工程と、ポンプ70の振動状態の今後の傾向を解析するトレンド解析工程とを含む。
【0054】
図7は、解析工程の一例を示すフローチャートである。図7を参照して、プロセッサ101は、センサユニット20を介して、センサ30から出力される振動信号を取得する(ステップS30)。具体的には、プロセッサ101は、通常期間(例えば、動作開始初期期間終了後の期間)中のポンプ70に対応する振動信号をセンサ30から取得する。
【0055】
プロセッサ101は、所定時間蓄積された振動信号を、オクターブ分析する(ステップS32)。プロセッサ101は、各周波数帯域について、ポンプ70に対応する当該周波数帯域の信号強度をメモリ103に記憶する(ステップS34)。具体的には、ある時間Tsでのポンプ70における各周波数帯域の信号強度が、データセット310の形式で記憶される。ここで、時間Tsでのポンプ70における周波数帯域f1~fnの一連の信号強度Ls_1~Ls_nを、信号強度データPsとも称する。なお、時間T1~Tnの期間が動作開始初期期間に対応するため、通常期間は時間Tn+1~時間Tmの期間に対応する。そのため、時間Tsは、時間Tn+1~時間Tmのいずれかである。
【0056】
プロセッサ101は、信号強度データPsと準備工程で得られたデータとを用いて、第1異常予測工程(ステップS40)、第2異常予測工程(ステップS60)およびトレンド解析工程(ステップS70)を実行する。これらの各工程は、並行して実行されてもよいし、順次実行されてもよい。
【0057】
[第1異常予測工程]
図8は、第1異常予測工程の一例を示すフローチャートである。第1異常予測工程では、多次元データで構成されるデータセット310が用いられる。図8を参照して、プロセッサ101は、図4のステップS16で設定した単位空間U1に対する、複数の信号強度で構成される信号空間X1sのマハラノビス距離MD1(以下、単に「距離MD1」とも称する。)を算出する(ステップS41)。信号空間X1sは、時間Tsでの複数の信号強度Ls_1~Ls_n(すなわち、信号強度データPs)で構成される。
【0058】
プロセッサ101は、距離MD1が閾値Th1(例えば、5)以上であるか否かを判断する(ステップS43)。距離MD1が閾値Th1未満である場合(ステップS43においてNO)、プロセッサ101は第1異常予測工程を終了する。距離MD1が閾値Th1以上である場合(ステップS43においてYES)、プロセッサ101は、近い将来にポンプ70に異常が発生すると予測して、異常アラートを出力して(ステップS45)、第1異常予測工程を終了する。典型的には、異常アラートは、ディスプレイ105に表示される。なお、異常アラートは、スピーカを介して音声出力される構成であってもよい。
【0059】
ここで、図9を参照しながら、プロセッサ101が上記のように予測する理由について説明する。図9は、多次元データに基づくマハラノビス距離の時系列データを示す図である。グラフ410は、ポンプ70と同一種類の参照ポンプにおけるマハラノビス距離MDx1の時系列データを示している。そのため、グラフ410のマハラノビス距離MDx1は、ポンプ70におけるマハラノビス距離MD1と同一の傾向を示すといえる。
【0060】
グラフ410によると、単位空間に対する信号空間のマハラノビス距離MDx1は、時間Ta1のときに初めて閾値Th1(=5)を超えている。その後、時間Ta2,Ta3,Ta4において、マハラノビス距離MDx1は閾値Th1を超え、最終的には時間Ta5において参照ポンプに異常が発生している。時間Ta1から時間Ta5までの期間は、4.5日であり、時間Ta2から時間Ta5までの期間は3日であり、時間Ta3から時間Ta5までの期間は1.5日であり、時間Ta4から時間Ta5までの期間は8.5時間であった。このことから、マハラノビス距離MDx1が閾値Th1を初めて超えてから数日後に異常が発生していることが理解される。
【0061】
したがって、閾値Th1以上のマハラノビス距離MD1が算出された場合には、プロセッサ101は、近い将来にポンプ70に異常が発生すると予測する。特に、プロセッサ101は、閾値Th1以上のマハラノビス距離MD1が初めて算出されたときから数日後にポンプ70に異常が発生すると予測してもよい。この場合、プロセッサ101は、数日後にポンプ70に異常が発生する可能性があることを通知する、比較的警告レベルの高い異常アラートを出力してもよい。
【0062】
[第2異常予測工程]
図10は、第2異常予測工程の一例を示すフローチャートである。図10を参照して、プロセッサ101は、各周波数帯域の信号強度の重心位置を示す2次元の重心データを算出する(ステップS61)。具体的には、プロセッサ101は、ステップS34記憶された信号強度データPsから式(1)および(2)を用いて2次元の重心データ(すなわち、重心位置Gx,Gy)を算出する。
【0063】
プロセッサ101は、図4のステップS20で設定した単位空間U2に対する、2次元の重心データで構成される信号空間X2sのマハラノビス距離MD2(以下、単に「距離MD2」とも称する。)を算出する(ステップS63)。信号空間X2は、時間Tsでの重心位置Gx,Gy(すなわち、Gf_s,GL_s)で構成される。
【0064】
プロセッサ101は、距離MD2が閾値Th2(例えば、5)以上であるか否かを判断する(ステップS65)。距離MD2が閾値Th2未満である場合(ステップS65においてNO)、プロセッサ101は第2異常予測工程を終了する。距離MD2が閾値Th2以上である場合(ステップS65においてYES)、プロセッサ101は、極めて近い将来にポンプ70に異常が発生すると予測して、異常アラートを出力して(ステップS67)、第2異常予測工程を終了する。
【0065】
ここで、図11を参照しながら、プロセッサ101が上記のように予測する理由について説明する。図11は、2次元データに基づくマハラノビス距離の時系列データを示す図である。グラフ420は、ポンプ70と同一種類の参照ポンプにおけるマハラノビス距離MDx2の時系列データを示している。そのため、グラフ420のマハラノビス距離MDx2は、ポンプ70におけるマハラノビス距離MD2と同一の傾向を示すといえる。
【0066】
グラフ420によると、マハラノビス距離MDx2は、時間Tb1のときに初めて閾値Th2(=5)を超えている。その後、時間Tb2において参照ポンプに異常が発生している。時間Tb1から時間Tb2までの期間は、5.5時間であった。このことから、マハラノビス距離MDx2が閾値Th2を最初に超えてから数時間後に異常が発生しているといえる。
【0067】
したがって、閾値Th2以上のマハラノビス距離MD2が算出された場合には、プロセッサ101は、極めて近い将来にポンプ70に異常が発生すると予測する。特に、プロセッサ101は、閾値Th2以上のマハラノビス距離MD2が初めて算出されたときから数時間後にポンプ70に異常が発生すると予測してもよい。この場合、プロセッサ101は、数時間後に異常が発生する可能性があることを通知する、警告レベルの高い異常アラートを出力してもよい。
【0068】
[トレンド解析工程]
図12は、トレンド解析工程の一例を示すフローチャートである。図12を参照して、プロセッサ101は、信号強度データPsから、リファレンスデータRの代表データを減算した差分Hを算出する(ステップS71)。
【0069】
リファレンスデータRは、各時間T1~Tnの各周波数帯域f1~fnの信号強度Lを含むデータ群で構成される。例えば、プロセッサ101は、このデータ群のうち、ある時間Tnの各周波数帯域f1~fnの信号強度Ln_1~Ln_nを代表データとして抽出する。そして、プロセッサ101は、信号強度データPsから代表データを減算した差分Hを算出する。これにより、各周波数帯域の差分Hが算出される。
【0070】
なお、代表データは、時間T1~Tnの各周波数帯域f1~fnの信号強度Lの平均値で構成されていてもよい。この場合、例えば、代表データに含まれる周波数帯域f1の信号強度L1は、信号強度L1_1~Ln_1の平均値で構成され、代表データに含まれる周波数帯域fnの信号強度Lnは、信号強度L1_n~Ln_nの平均値で構成される。
【0071】
続いて、プロセッサ101は、周波数帯域ごとに差分Hと複数の基準値Z1,Z2,Z3とを比較することにより、各周波数帯域におけるポンプ70の振動状態の異常レベルを判定する(ステップS73)。例えば、差分Hが0以上かつ基準値Z1(例えば、3dB)未満である場合には、異常レベルは「0」であり、振動状態は「正常」となる。差分Hが基準値Z1以上かつ基準値Z2(例えば、6dB)未満である場合には、異常レベルは「1」であり、ポンプ70の状態確認が推奨される。差分Hが基準値Z2以上かつ基準値Z3(例えば、10dB)未満である場合には、異常レベルは「2」であり、ポンプ70のメンテナンスが推奨される。差分Hが基準値Z3以上である場合には、異常レベルは「3」であり、ポンプ70の交換等が必要な危険な状態である。
【0072】
プロセッサ101は、ポンプ70における振動状態の異常レベルの判定結果に基づいて、異常アラートを出力する(ステップS75)。具体的には、プロセッサ101は、異常レベルが「3」である場合(すなわち、H≧Z3の場合)には、警告レベルが高い異常アラート(例えば、「危険」)を出力し、異常レベルが「2」である場合(すなわち、Z2≦H<Z3の場合)には、警告レベルが比較的高い異常アラート(例えば、「メンテナンス推奨」)を出力し、異常レベルが「1」である場合(すなわち、Z1≦H<Z2の場合)には、警告レベルが低い異常アラート(例えば、「注意」)を出力する。なお、プロセッサ101は、異常レベルが「0」である場合(すなわち、H<Z1の場合)には、ポンプ70の振動状態が「正常」であることを出力してもよい。続いて、プロセッサ101は、異常レベルの判定結果を記憶する(ステップS77)。
【0073】
プロセッサ101は、各周波数帯域におけるポンプ70の振動状態のうち、基準時点(例えば、現時点)において異常レベルが高い上位所定数(例えば、5つ)の振動状態を特定し、当該特定した振動状態に対応する周波数帯域を抽出する(ステップS79)。基準時点は、ユーザにより任意に選択可能に構成される。
【0074】
プロセッサ101は、抽出された周波数帯域(以下、「抽出周波数帯域」とも称する。)の振動状態について、トレンド予測処理を実行する(ステップS81)。具体的には、プロセッサ101は、抽出周波数帯域における既存(過去)の差分Hの時系列データに基づいて、未来の差分Hの傾向を予測する。例えば、プロセッサ101は、基準時点よりも過去の差分Hの時系列データを近似曲線(例えば、線形近似、指数近似等)により近似して、基準時点よりも未来の差分Hを予測する。また、プロセッサ101は、過去の差分Hの時系列データを回帰分析することによって回帰直線を取得し、当該回帰直線の傾きおよび切片に基づいて未来の差分Hを予測してもよい。
【0075】
プロセッサ101は、トレンド予測処理の結果をトレンドグラフとしてディスプレイ105に表示する(ステップS83)。プロセッサ101は、トレンドグラフに関するデータをメモリ103に記憶して(ステップS85)、トレンド解析工程を終了する。例えば、プロセッサ101は、抽出周波数帯域、トレンドグラフ等の各種データをメモリ103に記憶する。
【0076】
<画面例>
図13は、ユーザインターフェイス画面500のレイアウト例を示す図である。ただし、ユーザインターフェイス画面500は、後述する機能を実現できるレイアウトであればよく、図13以外のレイアウトであってもよい。
【0077】
図13を参照して、ユーザインターフェイス画面500は、表示領域502~512と、計測条件および設定値の表示領域514と、各種ボタン516と、表示領域520~540と、グラフ550~570を含む。
【0078】
表示領域502には、センサユニット20の識別番号(ユニット番号)、センサ30の識別番号(センサ番号)、計測対象名(例えば、ポンプ)等が表示される。表示領域504には、多次元データを用いたMT法により算出された距離MD1に基づくステータスが表示される。このステータスは、算出された距離MD1の値に応じて変化する。例えば、閾値Th1(例えば、5)以上の距離MD1が算出されている場合にはステータス「危険」が表示され、閾値Th1未満かつ閾値Th1a(例えば、4)以上の距離MD1が算出されている場合にはステータス「メンテナンス推奨」が表示され、閾値Th1a未満かつ閾値Th1b(例えば、3)以上の距離MD1が算出されている場合にはステータス「注意」が表示され、閾値Th1b未満の距離MD1が算出されている場合にはステータス「正常」が表示される。このように、距離MD1が大きいほどステータスの警告レベルは高くなる。
【0079】
表示領域506には、2次元データを用いたMT法により算出された距離MD2に基づくステータスが表示される。このステータスは、距離MD2の値に応じて変化する。例えば、閾値Th2(例えば、5)以上の距離MD2が算出されている場合にはステータス「危険」が表示され、閾値Th2未満かつ閾値Th2a(例えば、4)以上の距離MD2が算出されている場合にはステータス「メンテナンス推奨」が表示され、閾値Th2a未満かつ閾値Th2b(例えば、3)以上の距離MD2が算出されている場合にはステータス「注意」が表示され、閾値Th2b未満の距離MD2が算出されている場合にはステータス「正常」が表示される。このように、距離MD2が大きいほどステータスの警告レベルは高くなる。
【0080】
表示領域508には、トレンド解析に基づくステータスが表示される。このステータスは、基準時点における差分Hに応じて変化する。例えば、基準時点の差分Hが基準値Z3(例えば、10dB)以上の場合にはステータス「危険」が表示され、差分Hが基準値Z3未満かつ基準値Z2(例えば、6dB)以上の場合にはステータス「メンテナンス推奨」が表示され、差分Hが基準値Z2未満かつ基準値Z1(例えば、3dB)以上の場合にはステータス「注意」が表示され、差分Hが基準値Z1未満の場合にはステータス「正常」が表示される。このように、差分Hが大きいほどステータスの警告レベルは高くなる。
【0081】
表示領域520には、センサ30により検出された時系列のセンサデータ(生データ)が示される。表示領域530には、時系列のセンサデータをFFT(fast Fourier transform)解析した解析結果(周波数スペクトル)が表示される。表示領域540には、時系列のセンサデータを1/3オクターブ分析することによって得られる信号強度データが棒グラフで表示される。
【0082】
グラフ550は、距離MD1の時系列データを示している。グラフ560は、距離MD2の時系列データを示している。グラフ570は、図12のステップS83の処理によって得られるトレンドグラフである。
【0083】
上述したように、閾値Th1以上の距離MD1が最初に算出されたときから数日後にポンプ70に異常が発生すると予測され、閾値Th2以上の距離MD2が最初に算出されたときから数時間後にポンプ70に異常が発生すると予測される。そのため、ユーザは、グラフ550および560を確認することにより、ポンプ70の異常の発生時期を推測することができる。
【0084】
例えば、ユーザは、グラフ550において閾値Th1以上の距離MD1が確認された場合、状態変化を確認しながら保全の準備を進めておき、グラフ560において閾値Th2以上の距離MD2が確認された場合、すぐに保全に着手することができる。これにより、ポンプ70の点検、メンテナンス、修理等の機器保全の時期を精度よく予測できるため、機器保全を計画的に実施することができる。
【0085】
<機能構成>
図14は、解析装置10の機能ブロック図である。図14を参照して、解析装置10は、主たる機能構成として、信号入力部202と、強度算出部204と、第1距離算出部206と、重心算出部208と、第2距離算出部210と、異常予測部212と、トレンド解析部214と、出力制御部216とを含む。これらの各機能は、例えば、解析装置10のプロセッサ101がメモリ103に格納されたプログラムを実行することによって実現される。なお、これらの機能の一部または全部はハードウェアで実現されるように構成されていてもよい。
【0086】
信号入力部202は、動作中のポンプ70に取り付けられたセンサ30により検出される振動信号の入力を受け付ける。具体的には、信号入力部202は、センサユニット20を介して、センサ30により検出された振動信号(ディジタル信号)を受信する。
【0087】
強度算出部204は、信号入力部202により受け付けられた振動信号を分析することにより、複数の周波数帯域にそれぞれ対応する複数の信号強度を算出する。具体的には、強度算出部204は、ポンプ70に対応する振動信号をオクターブ分析(例えば、1/3オクターブ分析)することにより、各周波数帯域の信号強度(例えば、各周波数帯域f1~fmの信号強度L)を算出する。なお、強度算出部204は、高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)により、各周波数帯域の信号強度を算出する構成であってもよい。
【0088】
第1距離算出部206は、MT法を用いて、予め設定された単位空間(例えば、単位空間U1)に対する、複数の信号強度で構成される信号空間(例えば、信号空間X1)のマハラノビス距離(例えば、距離MD1)を算出する。典型的には、単位空間U1は、正常時のポンプ70に対応する振動信号を分析することにより算出される、複数の周波数帯域f1~fnにそれぞれ対応する複数の信号強度Lで構成される。正常時のポンプ70に対応する振動信号は、例えば、各時間T1~Tn(すなわち、動作開始初期期間)におけるポンプ70の振動状態を示す振動信号であってもよいし、ポンプ70と同一種類の正常状態のポンプの振動状態を示す振動信号であってもよい。各時間(例えば、時間Tn+1~Tm)についての距離MD1が算出されることで、距離MD1の時系列データが生成される。
【0089】
重心算出部208は、強度算出部204により算出された複数の信号強度の重心位置を示す2次元の重心データ(例えば、重心位置Gx,Gy)を算出する。
【0090】
第2距離算出部210は、MT法を用いて、予め設定された単位空間(例えば、単位空間U2)に対する、2次元の重心データで構成される信号空間(例えば、信号空間X2)のマハラノビス距離(例えば、距離MD2)を算出する。典型的には、単位空間U2は、単位空間U1を構成する複数の信号強度Lの重心位置を示す2次元の重心データで構成される。各時間(例えば、時間Tn+1~Tm)についての距離MD2が算出されることで、距離MD2の時系列データが生成される。
【0091】
異常予測部212は、距離MD1と距離MD2とに基づいて、ポンプ70に異常が発生する異常発生時期を予測する。ある局面では、閾値Th1以上の距離MD1が算出された場合における異常発生時期は、閾値Th1以上の距離MD1が算出されていない場合における異常発生時期よりも近い将来であると予測される。具体的には、異常予測部212は、閾値Th1以上の距離MD1が算出されてから数日経過後にポンプ70に異常が発生すると予測する。なお、異常予測部212は、現時点において閾値Th1以上の距離MD1が算出されていない場合には、現時点から数日以内にポンプ70に異常が発生する可能性は低いと予測してもよい。
【0092】
他の局面では、閾値Th1以上の距離MD1が算出され、かつ閾値Th2以上の距離MD2が算出された場合における異常発生時期は、閾値Th1以上の距離MD1が算出され、かつ閾値Th2以上の距離MD2が算出されていない場合における異常発生時期よりも近い将来であると予測される。具体的には、異常予測部212は、閾値Th2以上の距離MD2が算出されてから数時間経過後にポンプ70に異常が発生すると予測する。なお、現時点において閾値Th1以上の距離MD1が算出されているが、閾値Th2以上の距離MD2が算出されていない場合には、異常予測部212は、現時点から数時間以内にポンプ70に異常が発生する可能性は低いと予測してもよい。
【0093】
トレンド解析部214は、複数の周波数帯域の各々について、ポンプ70に対応する当該周波数帯域の信号強度と、参照ポンプに対応する当該周波数帯域の信号強度との差分Hを算出する。トレンド解析部214は、ポンプ70に対応する各周波数帯域の信号強度と、所定の基準値とに基づいて、各周波数帯域におけるポンプ70の振動状態の異常レベルを判定する。具体的には、トレンド解析部214は、複数の周波数帯域の各々について、当該周波数帯域における差分Hと複数の基準値Z1~Z3とを比較することにより、当該周波数帯域におけるポンプ70の振動状態の異常レベルを判定する。
【0094】
また、トレンド解析部214は、各周波数帯域におけるポンプ70の振動状態の中から、異常レベルが高い方から上位所定数(例えば、5つ)の振動状態を特定し、当該特定された振動状態に対応する周波数帯域を抽出する。トレンド解析部214は、メモリ103に記憶された各周波数帯域の差分Hの時系列データに基づいて、各周波数帯域の未来の差分Hを予測する。具体的には、トレンド解析部214は、基準時点よりも過去の差分Hの時系列データを回帰分析することにより未来の差分Hを予測する。あるいは、トレンド解析部214は、過去の差分Hの時系列データを近似曲線により近似することにより未来の差分Hを予測する。
【0095】
出力制御部216は、異常予測部212の予測結果等の各種情報を出力する。ある局面では、出力制御部216は、閾値Th1以上の距離MD1が算出された場合、第1警告情報(例えば、近い将来におけるポンプ70の異常発生を警告する情報)を出力し、閾値Th2以上の距離MD2が算出された場合、第1警告情報よりも警告レベルの大きい(ユーザに対して警戒を強く促す)第2警告情報(例えば、極めて近い将来におけるポンプ70の異常発生を警告する情報)を出力する。
【0096】
例えば、第1警告情報が、中程度の緊急度を示す警告レベルである場合、第2警告情報は、高程度の緊急度を示す警告レベルである。すなわち、第2警告情報は、第1警告情報よりも緊急度の高い情報となる。この場合、出力制御部216は、第1警告情報の表示態様よりも第2警告情報の表示態様を強調して(すなわち、第1警告情報よりも第2警告情報の方が目立つように)ディスプレイ105に表示してもよい。
【0097】
他の局面では、出力制御部216は、ユーザインターフェイス画面500に示す各種情報をディスプレイ105に表示させる。具体的には、出力制御部216は、距離MD1の時系列データ(例えば、図13中のグラフ550)と、距離MD2の時系列データ(例えば、図13中のグラフ560)とをディスプレイ105に表示させる。さらに他の局面では、出力制御部216は、予測された各周波数帯域の未来の差分H(例えば、グラフ570に示すトレンドグラフ)をディスプレイ105に表示させる。また、出力制御部216は、トレンド解析部214により判定された異常レベルの判定結果に基づく異常アラートを出力(例えば、ディスプレイ105に表示)する。
【0098】
<利点>
本実施の形態によると、MT法による距離MD1および距離MD2を確認することにより、ポンプ70の異常発生時期が近い将来(例えば、数日後)なのか、極めて近い将来なのか(例えば、数時間後)を予測できる。さらに、トレンドグラフによる傾向も併せて参照することにより様々な角度からポンプ70の異常を事前に予測することができる。そのため、機器保全を計画的に実施することができる。
【0099】
<その他の実施の形態>
(1)上述した実施の形態では、解析装置10は、閾値Th1以上となるマハラノビス距離MD1が初めて算出されてから数日後に異常発生すると予測する構成について説明した。これに関して、図9に示されるように、時間Taのときに初めて閾値Th1以上となってから、時間Ta2,Ta3,Ta4において、マハラノビス距離MDx1は閾値Th1以上となり、時間Ta5において参照ポンプに異常が発生している。そのため、マハラノビス距離MDx1が閾値Th1以上となる回数が多くなるほど、異常発生時期が近づいているといえる。そのため、解析装置10(異常予測部212)は、閾値Th1以上となる距離MD1が算出される回数が多いほど、より近い将来にポンプ70の異常が発生すると予測してもよい。
【0100】
(2)上述した実施の形態において、コンピュータを機能させて、上述のフローチャートで説明したような制御を実行させるプログラムを提供することもできる。このようなプログラムは、コンピュータに付属するフレキシブルディスク、CD-ROM(Compact Disk Read Only Memory)、二次記憶装置、主記憶装置およびメモリカードなどの一時的でないコンピュータ読取り可能な記録媒体にて記録させて、プログラム製品として提供することもできる。あるいは、コンピュータに内蔵するハードディスクなどの記録媒体にて記録させて、プログラムを提供することもできる。また、ネットワークを介したダウンロードによって、プログラムを提供することもできる。
【0101】
プログラムは、コンピュータのオペレーティングシステム(OS)の一部として提供されるプログラムモジュールのうち、必要なモジュールを所定の配列で所定のタイミングで呼出して処理を実行させるものであってもよい。その場合、プログラム自体には上記モジュールが含まれずOSと協働して処理が実行される。このようなモジュールを含まないプログラムも、本実施の形態にかかるプログラムに含まれ得る。また、本実施の形態にかかるプログラムは他のプログラムの一部に組込まれて提供されるものであってもよい。その場合にも、プログラム自体には上記他のプログラムに含まれるモジュールが含まれず、他のプログラムと協働して処理が実行される。このような他のプログラムに組込まれたプログラムも、本実施の形態にかかるプログラムに含まれ得る。
【0102】
(3)上述の実施の形態として例示した構成は、本発明の構成の一例であり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、一部を省略する等、変更して構成することも可能である。また、上述した実施の形態において、その他の実施の形態で説明した処理や構成を適宜採用して実施する場合であってもよい。
【0103】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0104】
10 解析装置、20 センサユニット、21 フィルタ、22 増幅器、23 コンバータ、30 センサ、40 端末装置、50 ネットワーク、70 ポンプ、100 振動解析システム、101 プロセッサ、103 メモリ、105 ディスプレイ、107 入力装置、109 信号入力インターフェイス、111 通信インターフェイス、202 信号入力部、204 強度算出部、206 第1距離算出部、208 重心算出部、210 第2距離算出部、212 異常予測部、214 トレンド解析部、216 出力制御部、310,320 データセット、500 ユーザインターフェイス画面、1000 システム。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14