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特許7594654量子ドット、量子ドット層、発光素子、及び太陽電池
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-26
(45)【発行日】2024-12-04
(54)【発明の名称】量子ドット、量子ドット層、発光素子、及び太陽電池
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/20 20060101AFI20241127BHJP
   H01L 31/0352 20060101ALI20241127BHJP
   H10K 30/50 20230101ALI20241127BHJP
   B82Y 20/00 20110101ALI20241127BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20241127BHJP
【FI】
G02B5/20 ZNM
H01L31/04 342A
H10K30/50
B82Y20/00
C09K11/08 G
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2023505040
(86)(22)【出願日】2021-03-12
(86)【国際出願番号】 JP2021010042
(87)【国際公開番号】W WO2022190353
(87)【国際公開日】2022-09-15
【審査請求日】2023-08-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147304
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 知哉
(74)【代理人】
【識別番号】100148493
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 浩二
(72)【発明者】
【氏名】北村 亮
(72)【発明者】
【氏名】上田 吉裕
【審査官】藤岡 善行
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2012-0029174(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0269721(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0095239(US,A1)
【文献】国際公開第2010/023921(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/20
C09K 11/08
H01L 31/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面の面積比70%以上が極性面であるか、または、
表面の面積比70%以上が非極性面であり、
閃亜鉛鉱型の結晶系を有し、
前記表面は、(100)面、(-100)面、(010)面、(0-10)面、(001)面、及び(00-1)面と、(111)面、(-111)面、(1-11)面、(-1-11)面、(11-1)面、(-11-1)面、(1-1-1)面、及び(-1-1-1)面と、の14面を含む、量子ドット。
【請求項2】
表面の面積比70%以上が極性面であるか、または、
表面の面積比70%以上が非極性面であり、
閃亜鉛鉱型の結晶系を有し、
前記表面は、(100)面、(-100)面、(010)面、(0-10)面、(001)面、及び(00-1)面の6面を含む、量子ドット。
【請求項3】
表面の面積比70%以上が極性面であるか、または、
表面の面積比70%以上が非極性面であり、
閃亜鉛鉱型の結晶系を有し、
前記表面は、(111)面、(-111)面、(1-11)面、(-1-11)面、(11-1)面、(-11-1)面、(1-1-1)面、及び(-1-1-1)面と、の8面を含む、量子ドット。
【請求項4】
表面の面積比70%以上が極性面であるか、または、
表面の面積比70%以上が非極性面であり、
塩化ナトリウム型の結晶系を有し、
前記表面は、(111)面、(-111)面、(1-11)面、(-1-11)面、(11-1)面、(-11-1)面、(1-1-1)面、及び(-1-1-1)面と、の8面を含む、量子ドット。
【請求項5】
請求項1~の何れか1項に記載の量子ドットと、極性リガンドとを含む、量子ドット層。
【請求項6】
当該量子ドット層に含まれるリガンドの物質量比90%以上が前記極性リガンドである請求項に記載の量子ドット層。
【請求項7】
前記極性リガンドは、下記構造式(1)~(7)
【化1】
(式中、Cは炭素原子を示し、Oは酸素原子を示し、Oは酸化物イオンを示し、Sは硫黄原子を示し、Sは硫化物イオンを示し、Pはリンを示し、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシル基、または不飽和炭化水素基を示す)
で表される構造の少なくとも1つを一部に含む請求項またはに記載の量子ドット層。
【請求項8】
前記極性リガンドは、イオン式Cl、Br、I、SCN、CN、OH、SH、SeH、TeH、Se2-、S2-、Te2-、Sn 4-、SnSe 4-、InSe 2-、InTe 2-、GaSe 2-、SbSe 2-、SbTe 2-で表される無機極性リガンドから成る群から選択される少なくとも1種を含む請求項またはに記載の量子ドット層。
【請求項9】
表面の面積比70%以上が極性面であるか、または、
表面の面積比70%以上が非極性面であり、
閃亜鉛鉱型の結晶系を有し、
前記表面は、(101)面、(-101)面、(011)面、(0-11)面、(110)面、(-110)面、(1-1)面、(-1-10)面、(10-1)面、(-10-1)面、(01-1)面、及び(0-1-1)面の12面を含む、量子ドット。
【請求項10】
表面の面積比70%以上が極性面であるか、または、
表面の面積比70%以上が非極性面であり、
塩化ナトリウム型の結晶系を有し、
前記表面は、(100)面、(-100)面、(010)面、(0-10)面、(001)面、及び(00-1)面の6面を含む、量子ドット。
【請求項11】
表面の面積比70%以上が極性面であるか、または、
表面の面積比70%以上が非極性面であり、
ウルツ鉱型の結晶系を有し、
前記表面は、(1-100)面、(0-110)面、(-1010)面、(-1100)面、(01-10)面、及び(10-10)面と、(11-20)面、(-2110)面、(1-210)面、(-1-120)面、(2-1-10)面、及び(-12-10)面と、の12面を含む、量子ドット。
【請求項12】
表面の面積比70%以上が極性面であるか、または、
表面の面積比70%以上が非極性面であり、
ウルツ鉱型の結晶系を有し、
前記表面は、(1-100)面、(0-110)面、(-1010)面、(-1100)面、(01-10)面、及び(10-10)面の6面を含む、量子ドット。
【請求項13】
表面の面積比70%以上が極性面であるか、または、
表面の面積比70%以上が非極性面であり、
ウルツ鉱型の結晶系を有し、
前記表面は、(11-20)面、(-2110)面、(1-210)面、(-1-120)面、(2-1-10)面、及び(-12-10)面の6面を含む、量子ドット。
【請求項14】
請求項~1の何れか1項に記載の量子ドットと、中性リガンドとを含む、量子ドット層。
【請求項15】
当該量子ドット層に含まれるリガンドの物質量比90%以上が前記中性リガンドである請求項1に記載の量子ドット層。
【請求項16】
前記中性リガンドは、下記構造式(8)~(15)
【化2】
(式中、Oは酸素原子を示し、Oは酸化物イオンを示し、Pはリンを示し、RおよびRおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシル基、または不飽和炭化水素基を示す)
で表される構造の少なくとも1つを一部に含む請求項1または1に記載の量子ドット層。
【請求項17】
請求項および請求項1~1の何れか1項に記載の量子ドット層を備える自発光素子。
【請求項18】
請求項および請求項1~1の何れか1項に記載の量子ドット層を備える太陽電池。
【請求項19】
前記表面は極性面のみまたは非極性面のみを含む請求項1~1の何れか1項に記載の量子ドット。
【請求項20】
コアシェル構造を有し、
コアのバンドギャップは、シェルのバンドギャップよりも小さい1~1の何れか1項または請求項19に記載の量子ドット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子ドット、量子ドット層、発光素子、及び太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
量子ドットの極性面を極性リガンドで保護し、非極性面を中性リガンドで保護する技術が知られている。
【0003】
例えば特許文献1は、量子ドットの極性面をリガンドが結合して保護し、非極性面を別のリガンドが結合して保護する構成を開示している。例えば特許文献2は、量子ドットの極性面をハロゲン化物が保護し、非極性面をアルカリ金属が保護する構成を開示している。
【0004】
非特許文献1,2は各々、量子ドットの作成手順を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】CN110305656A公報
【文献】WO2019/218060A1公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Nat.Mater.2014,13,822
【文献】Angew.Chem.Int.Ed.2009,48,6861-6864
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の特許文献1,2のような従来技術を実現する方法としては、量子ドットを混合した極性リガンドと中性リガンドとで保護する方法、および量子ドットを極性リガンドと中性リガンドとの一方で保護した後、リガンド交換を行う方法がある。
【0008】
しかしながら、何れの方法によっても、工程数の増加およびリガンド量の制御困難などに起因して、表面保護された量子ドットの製造効率が低いという問題があった。また、量子ドットの発光効率および信頼性が低いという問題もあった。
【0009】
本発明の一態様は、表面保護された量子ドットの製造効率および発光効率、信頼性の向上を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る量子ドットは、表面の面積比70%以上が極性面であるか、または、前記表面の面積比70%以上が非極性面である構成である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、表面保護された量子ドットの製造効率を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態1に係る自発光素子を模式的に示す断面図である。
図2】本発明の実施形態1に係る量子ドットの一例の構造を示す斜視図である。
図3図2に示した量子ドットの各結晶面の面方位を示す図である。
図4図2に示した量子ドットの各結晶面の面方位を示す図である。
図5図2に示した量子ドットの表面と、当該表面を保護する極性リガンドとを概略的に示す模式図である。
図6】本発明の実施形態1に係る量子ドットの変形例の構造を示す斜視図である。
図7】本発明の実施形態1に係る量子ドットの変形例の構造を示す斜視図である。
図8】本発明の実施形態1に係る量子ドットを含む光電変換層を備えた太陽電池を模式的に示す断面図である。
図9】本発明の実施形態2に係る量子ドットの一例の構造を示す斜視図である。
図10】本発明の実施形態3に係る量子ドットの一例の構造を示す斜視図である。
図11図10に示した量子ドットの各結晶面の面方位を示す図である。
図12図10に示した量子ドットの一例の製造方法を示す図である。
図13図10に示した量子ドットの一例の製造方法を示す図である。
図14】本発明の実施形態3に係る量子ドットの変形例の構造を示す斜視図である。
図15】本発明の実施形態4に係る量子ドットの一例の構造を示す斜視図である。
図16図15に示した量子ドットの表面と、当該表面を保護する極性リガンドとを概略的に示す模式図である。
図17】本発明の実施形態5に係る量子ドットの一例の構造を示す斜視図である。
図18】本発明の実施形態6に係る量子ドットの一例の構造を示す斜視図である。
図19図1に示した量子ドットの各結晶面の面方位を示す図である。
図20】本発明の実施形態6に係る量子ドットの変形例の構造を示す斜視図である。
図21図20に示した量子ドットの各結晶面の面方位を示す図である。
図22】本発明の実施形態6に係る量子ドットの変形例の構造を示す斜視図である。
図23図22に示した量子ドットの各結晶面の面方位を示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔実施形態1〕
図1は、本発明の実施形態1に係る自発光素子5を模式的に示す断面図である。自発光素子(発光素子)5は、順構造のトップエミッション型素子であり、アノード51、正孔注入層52、正孔輸送層53、発光層54(量子ドット層)、電子輸送層55、カソード56を含む。
【0014】
自発光素子5を形成する各層は、コロイド溶液塗布、塗布焼成、メタルマスクを援用するスパッタ、フォトリソグラフィ、樹脂充填、アッシング及びドライ/ウエットエッチング等の成膜及びパターニングにより作製できる。
【0015】
(アノード)
アノード51は、導電性を有する材料を含む電極部材である。自発光素子5が順構造のトップエミッションである場合、取り出し効率の向上の観点から、アノード51は、反射電極であることが好ましい。アノード51が反射電極である場合、例えば、アノード51は、Al、Ag、あるいはこれらの合金からなっていてもよい。ただし、これらに限られず、アノード51は、透明の導電材料からなっていてもよく、この場合、後述する正孔注入層52との準位整合を考慮すれば、ITO(Indium Tin Oxide)を含むことが好ましい。アノード51は、各材料をスパッタ法により成膜することによって作製してもよい。アノード51の層厚は、例えば100nm以下である。他にも、アノード51は、ITOからなる導電層の下層に、ポリイミド等の絶縁層を介してAlまたはAgからなる反射層を設けることにより形成してもよい。その場合、絶縁層と反射層とに、導電層であるITOをTFTと接続させるためのコンタクトホールをフォトリソグラフィにより形成してもよい。
【0016】
(正孔注入層)
正孔注入層52は、正孔注入性材料を含み、陽極から後述する正孔輸送層53への正孔注入効率を高める機能を有する層である。正孔注入層52に有機材料を用いる場合、当該有機材料は、アノード51の仕事関数に整合するHOMO準位を有するPEDOTが好ましい。正孔注入層52は、例えば、PEDOTを含む塗材を塗布した後、150℃程度でPEDOTを硬化することにより作製してもよい。
【0017】
自発光素子5の長期信頼性向上の観点からは、正孔注入層52が、無機物であることが好ましい。正孔注入層52の無機材料としては、p型のNiO、LaO、LaNiO、ZnO、MgZnO、深いCBMを持ちn型のMoO、WO等、一般に正孔注入層52に用いられる無機物、特には金属酸化物等でよい。正孔注入層52の成膜は、スパッタあるいは蒸着により行うことが可能である。しかしながら、正孔注入層52の材料をナノ粒子化することが可能であれば、正孔注入層52は、適切なコロイド溶液を用いて、塗布により形成することもできる。
【0018】
なお、正孔注入層52は必須ではなく、所望の素子構造及び特性に合わせて省略してもよい。
【0019】
(正孔輸送層)
正孔輸送層53は、正孔輸送性材料を含み、発光層54への正孔輸送効率を高める機能を有する層である。正孔輸送層53に有機材料を用いる場合、当該有機材料には、PVK、TFB、Poly-TPD等を含む、HOMO準位が発光層材料に整合する有機材料を採用することが好ましい。また、正孔輸送層53には、NiO、MgNiO、LaNiO等、VBMが発光層材料に整合する金属残化物、または、p型ZnO等の半導体材料を用いてもよい。例えば、正孔輸送層53の材料にPVKを用いる場合、PVKをトルエン等の溶媒に溶かした溶液を塗布することにより形成してもよい。また、正孔輸送層53の材料に無機材料を用いる場合、スパッタあるいは蒸着を用いて成膜すればよい。正孔輸送層53が、ナノ粒子化が可能な材料を含む場合には、正孔輸送層53を塗布により形成してもよい。
【0020】
(発光層)
発光層54は、量子ドット100を含む。量子ドット100の構造の詳細については、参照する図面を代えて後述する。発光層54はさらに、極性リガンド2を含む。極性リガンド2についても、参照する図面を代えて後述する。本明細書において「リガンド」は、量子ドットの表面に現に結合しているリガンドだけでなく、表面に結合可能なものの結合していないリガンドも包含する。
【0021】
(電子輸送層)
電子輸送層55は、電子輸送材料を含み、発光層54への電子輸送効率を高める機能を有する層である。電子輸送層55の材料としては、ZnO、IZO、ZAO、ZnMgO等のZnO系無機材料、あるいは、TiOを用いることができる。ただし、電子輸送層55は、これに限られず、有機材料を含んでいてもよい。電子輸送層55の成膜は例えばスパッタまたはコロイド溶液の塗布により行われる。
【0022】
(カソード)
カソード56は、導電性を有する材料を含む電極部材である。カソード56は、電子輸送層55と同じく、従来から用いられているAlまたはAg等の比較的浅い仕事関数を持つ金属を蒸着またはスパッタを用いて成膜する。
【0023】
本実施形態に係る自発光素子5はトップエミッション型素子であるが、自発光素子の構造はこれに限られず、ボトムエミッション型であってもよい。自発光素子5がボトムエミッション型素子である場合、アノード51は透過電極であり、カソード56は反射電極であってもよい。自発光素子5は、順構造であっても逆構造であってもよい。例えば、自発光素子5が逆構造である場合、自発光素子5は、各層が、図1に記載した積層順と逆順に積層された構造を有していてもよい。
【0024】
上述の各層は、より優れた特性を持つ材料が見いだされれば適宜置き換えて素子を構成することができる。
【0025】
(ミラーの面指数および方向指数)
本明細書において、結晶面を特定するためにミラーの面指数を用いる。すなわち、六方晶系以外の結晶に関して、単位格子ベクトルa、a、aおよび整数h、k、lを用いて、1/h*ベクトルa、1/k*ベクトルa、1/l×ベクトルaで指定される3点を通る結晶面を、(hkl)面と称する。また、六方晶系の結晶に関して、a:=-a-aで定義される単位格子ベクトルaおよびl:=-h-kで定義される整数mをさらに用いて、上記3点を通る結晶面を、(hkml)面と称する。
【0026】
本明細書において、六方晶系以外の結晶に関して、(hkl)面および(hkl)面と等価な面を包括して、(hkl)等価面と称する。また、六方晶系の結晶に関して、(hkml)面および(hkml)面と等価な面を包括して、(hkml)等価面と称する。
【0027】
本明細書において、結晶方向を特定するためにミラーの方向指数を用いる。すなわち、六方晶系以外の結晶に関して、単位格子ベクトルa、a、aおよび整数p、q、rを用いて、p*ベクトルa+q*ベクトルa+r×ベクトルaで指定される合成ベクトルに沿った方向を、[pqr]方向と称する。また、六方晶系の結晶に関して、a:=-a-aで定義される単位格子ベクトルaおよびs:=-p-qで定義される整数sをさらに用いて、上記合成ベクトルに沿った方向を、[pqsr]方向と称する。
【0028】
(量子ドットの構造)
図2は本実施形態1に係る量子ドット100の一例の構造を示す斜視図である。図3及び図4は、図2に示した量子ドット100の各結晶面の面方位を示す図である。図5は、図2に示した量子ドット100の表面と、当該表面を保護する極性リガンドとを概略的に示す模式図である。
【0029】
本実施形態1に係る量子ドット100は、閃亜鉛鉱型の結晶系を有する。量子ドット100は、閃亜鉛鉱型の結晶系を自発的に取り得る材料を含む群から選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。当該材料は例えば、ZnS,CdSe,ZnSeなどのII―VI族化合物および、InPなどのIII-V族化合物である。本開示において、II-VI族化合物とはII族元素とVI族元素を含む化合物を意味し、III-V族化合物はIII族元素とV族元素を含む化合物を意味する。また、II族元素とは2族元素および12族元素を含み、III族元素とは3族元素および13族元素を含み、V族元素は5族元素および15族元素を含み、VI族元素は6族元素および16族元素を含み得る。また、ローマ数字を用いた元素の族は旧CAS方式に基づき、アラビア数字を用いた元素の族は、IUPACの現行命名法に基づく。
【0030】
量子ドット100は、コア構造、コアシェル構造または、コアマルチシェル構造の何れであってもよい。本明細書において「量子ドット100の表面」は、量子ドット100の最外層の表面を意味する。本明細書において「量子ドット100の結晶面」は、量子ドット100の最外層の結晶面を意味する。本明細書において「量子ドット100の結晶系」は、量子ドット100の最外層の結晶系を意味する。
【0031】
量子ドット100がコアシェル構造である場合、コアの結晶系とシェルの結晶系とは、互いに同じでも異なってもよい。量子ドット100がコアマルチシェル構造である場合も同様に、コアの結晶系とマルチシェルの最内層の結晶系とは互いに同じでも異なってもよく、マルチシェルの互いに隣接する層の結晶系は互いに同じでも異なってもよい。複数の層を積層する場合、ある層が薄ければ(典型的には、3原子層以下であれば)、当該層の結晶系は通常、当該層の下層の結晶系に従うことが知られている。一方、ある層が厚ければ、当該層の結晶系は通常、当該層を形成する材料がバルクで自発的に取り得る結晶系の1つに従うことが知られている。
【0032】
量子ドット100がコアシェル構造を有する場合、正孔と電子とをコアで捕捉して再結合させるために、コアのバンドギャップはシェルのバンドギャップよりも小さいことが好ましい。具体的には、コアの電子親和力がシェルの電子親和力よりも大きく、かつ、コアのイオン化エネルギーがシェルのイオン化エネルギーよりも小さいことが好ましい。
【0033】
量子ドット100は、複数の結晶面を有する多面体の結晶であり、その表面が主に極性面である。量子ドット100の表面は例えば、(a)図4に示す四角形の(100)面、(-100)面、(010)面、(0-10)面、(001)面、及び(00-1)面と、(b)図3に示す六角形の(111)面、(-111)面、(1-11)面、(-1-11)面、(11-1)面、(-11-1)面、(1-1-1)面、及び(-1-1-1)面と、の14面を含む。この場合、量子ドット100の理想的な形状は、正八面体の各頂点を正方形で切り取って得られる十四面体である。
【0034】
図3は、量子ドット100の結晶面において(111)面と等価な面を示す図である。図3において、(111)面および(111)面と等価な面には、ハッチング処理を施している。量子ドット100の結晶面のうち、(111)面と等価な面は、(-111)面、(1-11)面、(-1-11)面、(11-1)面、(-11-1)面、(1-1-1)面、及び(-1-1-1)面である。図4は、量子ドット100の結晶面において(100)面と等価な面を示す図である。図4において、(100)面および(100)面と等価な面には、ハッチング処理を施している。量子ドット100の結晶面のうち、(100)面と等価な面は、(-100)面、(010)面、(0-10)面、(001)面、及び(00-1)面である。
【0035】
閃亜鉛鉱型の結晶系における(111)等価面および(100)等価面は、極性面である。極性面とは、表面に露出している陽イオンの価数と陰イオンの価数とが偏っている結晶面である。具体的には、極性面とは、表面に陽イオンが陰イオンよりも多く存在することで正に帯電している面で、負に帯電する極性リガンドと強く結合することができる面である。対照的に、非極性面とは、露出している陽イオンの価数と陰イオンの価数とが釣り合っている結晶面である。具体的には、非極性面とは、表面が電気的に中性で帯電は無く、非極性リガンドと強く結合することができる面である。
【0036】
なお、極性面であるか、非極性面であるかの特定方法は、下記「(量子ドットの結晶面分析方法)」に記載する方法で特定することができる。量子ドット100の表面が極性面である場合、図5に示すように、極性リガンド2を用いて量子ドット100の表面を保護(表面保護)できる。極性リガンド2は、極性面に非共有電子対を介して配位結合できる。
【0037】
量子ドットの極性面の割合と発光素子の耐久時間との関係性について、表面の面積比50%が極性面であり、極性リガンドのみを配位させた量子ドットを用い、量子ドット発光素子を作製し耐久時間を測定した。その結果、駆動輝度1000cd/mにて輝度半減時間が約6400時間という結果が得られた。さて、極性面が50%ということは、残り50%の面は非極性面である。これらの非極性面では極性リガンドとの間の結合が弱く、これらの非極性面からは極性リガンドが脱離しやすい。リガンドの脱離は、量子ドット表面での欠陥準位を発生させ、この欠陥準位を経由して励起子の非発光再結合が引き起こされる。したがってこの場合、表面に欠陥準位が存在する割合で非発光再結合確率が決まると仮定すると、非発光再結合確率を0.5pと表せる(非極性面が50%であるため)。ここで、pは、表面の面積比100%が非極性面であり、極性リガンドのみを配位させた量子ドットを用いた場合に、非極性面から極性リガンドが外れて欠陥準位が形成され、この欠陥準位を経由して励起子の非発光再結合が引き起こされる確率をp(0<p<1)としている。
【0038】
なお非発光再結合は量子ドットに熱エネルギーを与え、ある確率で量子ドットを失活させる。非発光再結合によりQDが失活する確率をp(0<p<1)とすると、一回の励起子再結合にかかる平均時間当たりにQDが失活する確率は0.5pであると考えられる。
【0039】
上記で0.5としていた非極性面の割合を一般化してc、時間tでの失活していない量子ドットの数をN(t)、また単位時間における励起子再結合の平均回数をfとすると、単位時間当たりに失活する量子ドットの量dN/dtは、
dN/dt=-pcfN(t)
となる。失活していない量子ドットの数N(t)と量子ドット発光素子の輝度L(t)とは比例関係であるためN=kLとすると(kは任意の正の実数)、
dL/dt=-pcfkL(t) (1)
と表すことができる。(1)式の解は初期条件L(0)=Lとすると、
L(t)=L・exp(-pcfkt) (2)
となる。
【0040】
(2)式より輝度半減時間t1/2は、
1/2=In(2)/pcfk (3)
となる。(3)式に実験値であるc=0.5、t1/2=6400時間を代入するとpfk≒2.17×10^-4となり、(3)式は、
1/2=3200/λ (4)
となる。ここで極性面の割合がそれぞれ70%、80%、90%である場合、非極性面の割合cがそれぞれ0.3、0.2、0.1となり、これらを(4)に代入すると、輝度半減時間t1/2はそれぞれ、10667時間、16000時間、32000時間となる。本願の量子ドットを含む発光素子をテレビのディスプレイに使用することを想定し、一日当たりのテレビ視聴時間を3時間とするとこれらの値は9.74年、14.6年、29.2年という年数となる。
【0041】
以上より、量子ドット発光層54が、量子ドット100を表面保護するリガンドとして、極性リガンド2のみを含む構成について、自発光素子の耐久時間を想定した。量子ドット100の表面に極性面が占める割合(以降、「極性面の面積比」と称する)が70%である量子ドット100を用いた自発光素子5について、1000cd/mでの輝度半減時間1万時間以上の結果が見込まれる。1000cd/mでの輝度半減時間1万時間以上は、ディスプレイの耐用年数に換算して約10年に相当する。耐用年数10年は、一般に、商業的な製品化において、十分な耐久寿命である。また、極性面の面積比が80%以上である量子ドット100を用いた青色発光の自発光素子5について、ディスプレイの耐用年数に換算して約15年に相当する結果が見込まれる。また、極性面の面積比が90%以上である量子ドット100を用いた青色発光の自発光素子5について、ディスプレイの耐用年数に換算して約30年に相当する結果が見込まれる。
【0042】
したがって、量子ドット100の表面の70%以上が極性面である場合、極性リガンド2のみを用いて量子ドット100の表面を十分に保護(表面保護)できる。
【0043】
量子ドット100の表面における極性面の面積比が高いほど、極性リガンド2による表面保護の効果が向上する。故に、本実施形態1に係る量子ドット100の表面は、面積比70%以上が極性面であればよく、80%以上が極性面であることが好ましく、90%以上が極性面であることがより好ましい。また、量子ドット100の表面が極性面のみを含むことが理想的である。
【0044】
ここで、量子ドットの表面のうち、極性面と非極性面とにおける、極性リガンドの結合エネルギーを評価することにより、極性リガンドまたは中性リガンドによる、量子ドットの表面の保護効果を評価する。具体的には、量子ドット100の表面がCdSeから成り、極性リガンド2がカルボン酸系リガンドである場合について、量子ドット100の表面に対する極性リガンド2の1molあたりの結合エネルギーを計算した。当該計算は、密度汎関数法(Density Functional Theory:DFT)に基づいて計算した。この計算結果において、極性面である(100)等価面及び(111)等価面に対する結合エネルギーが240kcal/mol程度である一方、非極性面である(110)等価面に対する結合エネルギーが16kcal/mol程度である。
【0045】
このように、結合エネルギーが1桁以上異なるので、極性面の割合が制御されていない従来の量子ドットを極性リガンド2のみで表面保護した場合、非極性面から従来の量子ドットの劣化が進行する。また、従来の量子ドットを後述の中性リガンド3のみで表面保護した場合、極性面から従来の量子ドットの劣化が進行する。このため、特許文献1,2のような従来技術では、極性リガンドと中性リガンドの両方を用いて従来の量子ドットを表面保護するために、極性リガンドと中性リガンドとを混合する工程またはリガンド交換する工程を必要とする。
【0046】
これに対して、本実施形態1に係る量子ドット100では、極性面の面積比が70%以上である。したがって、量子ドット100における非極性面の面積比が小さい。また、量子ドット100の極性面に結合している極性リガンド2が当該量子ドット100の非極性面への他の量子ドット100の接近を阻害する。これらの結果、量子ドット100を極性リガンド2のみで表面保護しても、量子ドット100の非極性面は劣化しにくい。このため、本実施形態1に係る発光層54の製造方法は、極性リガンドと中性リガンドとを混合する工程もリガンド交換する工程も必要としない。したがって、本実施形態1に係る発光層54は、製造効率が高い。また、量子ドット100の表面保護のために用いるリガンドを、単一種とし得る。
【0047】
極性リガンド2は、有機であってもよく、例えば、末端にチオール基、アルコキシル基、カルボキシル基、ホスホン酸基、及びホスフィン酸基の何れか1つ以上を含む有機極性リガンドから成る群から選択される少なくとも1種を含む。末端に一つ以上のチオール基を含むリガンドは、電離した状態で、下記構造式(1)または下記構造式(2)で表される構造を一部に含む。末端にアルコキシル基を含むリガンドは、電離した状態で、下記構造式(3)で表される構造を一部に含む。末端にカルボキシル基を含むリガンドは、電離した状態で、下記構造式(4)で表される構造を一部に含む。末端にホスホン酸基を含むリガンドは、電離した状態で、下記構造式(5)または下記構造式(6)で表される構造を一部に含む。末端にホスフィン酸基を含むリガンドは、電離した状態で、下記構造式(7)で表される構造を一部に含む。
【0048】
【化1】
なお、上記構造式(1)~(7)において、Cは炭素原子を示し、Oは酸素原子を示し、Oは酸化物イオンを示し、Sは硫黄原子を示し、Sは硫化物イオンを示し、Pはリン原子を示し、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシル基、または不飽和炭化水素基を示す。
【0049】
極性リガンド2は、有機であることが好ましい。有機リガンドは、無機リガンドと異なり、鎖状の長い分子構造を備えることができる。このため、有機リガンドは、量子ドット100同士の間の距離を大きく保ち易いので、量子ドット100の溶液中での分散性および保存性を向上することができる。
【0050】
極性リガンド2は、無機であってよく、例えば、電離した状態で、イオン式Cl、Br、I、SCN、CN、OH、SH、SeH、TeH、Se2-、S2-、Te2-、Sn 4-、SnSe 4-、InSe 2-、InTe 2-、GaSe 2-、SbSe 2-、SbTe 2-で表される無機極性リガンドから成る群から選択される少なくとも1種を含む。
【0051】
極性リガンド2は、無機であることも好ましい。有機結合(C-HおよびC-Cなど)は熱および光によって切断されやすい。極性リガンド2が無機である場合、有機結合を含まないため分解されにくく、これによって、発光層54および自発光素子5の信頼性を向上できる。極性リガンド2は、Se2-、S2-、Te2-の何れかであることがより好ましい。なぜならば、Se2-、S2-、Te2-は化学結合を含まないため分解されることがなく、かつ、価数が負の2価であるため量子ドット100の極性面と強く結合できるからである。
【0052】
量子ドット100を分散させたコロイド溶液を用いて塗布製膜する際、至る所均一な厚さかつ表面の凹凸を小さくするためには、(1)溶液中で量子ドット100が凝集することなく、(2)溶媒の流動を阻害しない、ことが必要である。(1)を満たすためには、塗布されたコロイド溶液中の量子ドット100の体積に対して、当該量子ドット100の表面に配位したリガンドが高密度であれば良い。(2)を満たすためには、塗布されたコロイド溶液の溶媒の粘性に対して、当該コロイド溶液中の量子ドット100の慣性が小さければ良い。ここで、コロイド溶液中の量子ドット100のサイズが小さいほど上記(1)及び(2)の双方が満足されやすい。そのため、コロイド溶液の流動性に影響しないサイズを考慮すると、当該量子ドット100のサイズは10nm以下であることが好ましい。換言すれば、10nm以下であれば、発光素子の発光層54(図1参照)を塗布等で成膜する際に均一な膜を作ることができる。
【0053】
ここで、量子ドット100のサイズは、公称値または設計値であっても、測定値であってもよい。測定値の場合、量子ドット100のサイズは例えば、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscopy:TEM)等を用いて、量子ドット100の粒径を複数回測定して平均した値である。
【0054】
(量子ドットの製造方法)
量子ドット100の製法としては、例えば、加熱法、ホットインジェクション、マイクロ波アシスト法、連続フロー法、がある。これらの各製法について説明する。
【0055】
(加熱法)
加熱法とは、有機溶媒中に材料を混合し、加熱することにより、材料を熱分解して反応させて、量子ドット100の各層を合成する手法である。加熱法においては、有機溶媒としてTOP(トリオクチルホスフィン)またはTOPO(トリオクチルホスフィンオキシド)を用い、II族原料としてジメチルカドミニウムを、VI族原料として所望の元素、例えばS、Se、Te等のTOP錯体あるいはメチル基またはエチル基等と結合した有機金属化合物を用いる。有機溶媒にII族及びVI族原料を混合し、300℃程度に加熱して原料を熱分解し、有機溶媒中でII族及びVI族元素の過飽和度を高く維持することでII―VI族化合物への反応を促進し、量子ドット100の各層を合成することができる。
【0056】
(ホットインジェクション)
ホットインジェクションとは、加熱した有機溶媒中に、原料を急速注入することにより、注入領域近傍の過飽和を利用して、均一な結晶成長核を高密度に生成する手法である。ホットインジェクションにおいて、使用する原料はTOPまたはT-TOPOを有機溶媒として、300℃程度に加熱し、II族、VI族原料を有機溶媒中へ急速注入することで、注入領域を中心として局所的に急激に過飽和度を上げ均一な結晶成長核を高密度に生成する。高い過飽和度は注入領域近傍に局在しているため、成長核の成長で消費された原料は濃度勾配により周囲の低過飽和度領域から拡散により随時供給され量子ドットの成長が持続する。この手法は、核生成が高密度であるため量子ドットの凝集を防ぐ界面活性剤あるいは配位子としてアルキルホスフィンおよびトリオクチルホスフィンまたはトリオクチルホスフィンオキシド等のアルキルホスフィンオキシド類、オレイン酸等の長鎖カルボン酸類、オレインルアミン等の長鎖アミン類を添加する。
【0057】
(マイクロ波アシスト法)
マイクロ波アシスト法とは、マイクロ波を利用して成長原料を選択的に加熱する手法である。この手法は、加熱が選択的であることから反応の制御性が良く、反応に要する温度域まで短時間に昇温が可能である。また、インジェクション法に比べて簡単かつ大気下でも量子ドットを合成できる。マイクロ波は、分極を持つ分子に選択的に共鳴吸収されるため、例えばマイクロ波の波長に適合するカルコゲニドを原料に用いると、選択的原料を加熱することができ量子ドットの成長を制御できる。この特徴から、原料は分極を持つ必要があり、上記第一及び第二の手法と異なる原料を用いる。原料の一例としてステアリン酸カドミウムとアルカン溶媒とVI族粉末の混合溶液が挙げられる。
【0058】
(連続フロー法)
連続フロー法とは、原料を混合した有機溶媒を流動させつつ、原料の反応を行うことにより、核生成反応と成長反応とを、互いに異なる反応器において生じさせる手法である。核生成反応と成長反応とを、互いに異なる反応器において生じさせるため、適した温度勾配を精密に設定でき、それぞれの反応を精密に制御できる。この手法は、結晶成長の制御が比較的容易な点で量産に適している。連続フロー法においても、前記三つの製法においても説明した通り、有機溶液中もしくは有機溶液の蒸気を含む気相のいずれでも量子ドット100を成長させることができる。連続フロー法においては、有機溶媒とII族及びVI族原料を混合し、液相または気相の流れに沿って原料を移動させ、量子ドット100の成長の起点となる核形成ステージと、結晶成長ステージにそれぞれ適した温度勾配を設定することで、核生成と成長反応を別々の反応器で精密に制御できる。核形成と結晶成長を個別の容器に分け、各容器間を液相または気相の流れに乗せて輸送することで各ステージに適した条件を精密に独立して制御することができる。
【0059】
結晶成長は、核形成と結晶成長の駆動力である原料の過飽和度を高く維持する点が重要であり、その条件を実現し維持する手段の違いから、例えば、上記4種類の製法が開発されている。
【0060】
量子ドット100を合成するためには、量子ドット100の各層を合成する際の合成条件を制御する必要がある。具体的には、図2のように量子ドット100の表面が(111)等価面及び(100)等価面のみで終端する形状を有するように、量子ドット100の各層の合成条件を制御する必要がある。このように特定の結晶面を選択的に出現させる方法として、各層を合成する工程において、材料を混合させた溶媒のPHを、特定の範囲に制御することが挙げられる。図2に示す結晶面を得るためには溶媒のPHを9~11の範囲に維持すればよいことが実験的に得られた。この範囲のPHでは、PH=7の中性条件よりH+濃度が高い弱塩基性であることから、H+と原料種の中間反応が特定の結晶面を優先的に形成する機構に関わっていると考えられる。
【0061】
また、別の方法として、例えばZnSまたはCdS等のII―VI族またはInP等のIII-V族結晶を用いる場合、VI族またはV族原料を相対的に低下させることで(111)等価面が現れることが分かっている。これは、V族またはVI族原料が減少することで、結合軌道の面密度が高い(111)等価面の未結合軌道が相対的に増えることによる。
【0062】
量子ドット100の最外層(および、最外層が薄い場合、最外層の直下の層)を形成する条件を、前記何れかとすれば、(111)等価面及び(100)等価面の14面を含む量子ドット100が得られる。ここで、一度反応を停止するために温度を下げたのち、熱処理を行うために熱を加えてもよい。一般に反応を止めて熱処理を行うことで量子ドット100の最外層の表面の欠陥を低減することができる。
【0063】
このように製造した量子ドット100に極性リガンド2を配位させるには、量子ドット100作製後に極性リガンド2を十分量追加し150℃で20分間加熱することでリガンドの付け替えを行うことができる。また量子ドット100の結晶成長終盤またはシェル形成時に極性リガンド2を添加することでも、極性リガンド2の配位した極性面を有する量子ドット100が得られる。
【0064】
なお量子ドット100の粒径は、極性リガンド2を含めずに、3nm以上40nm以下であって良い。
【0065】
(量子ドットの結晶面分析方法)
次いで、量子ドット100の結晶面の分析方法について説明する。簡易的には従来からあるX線回折(X-ray Diffraction:XRD)測定装置、エネルギー分散型X線分光(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy:EDS)測定装置、X線光電子分光(X-ray Photoelectron Spectroscopy:XPS)測定装置、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscopy:TEM)等で量子ドット100を観察することにより、量子ドット100の結晶面の分析が可能である。
【0066】
量子ドット100の結晶系はX線回折により測定することができる。20nm程度の厚さであれば、一般的な粉末X線回折法により量子ドット100の各結晶面からの回折ピークを十分な精度で検出することができる。このため、得られたスペクトル形状をデータベースまたは過去文献値と照合することにより、量子ドット100の結晶系が測定できる。
【0067】
また、量子ドット100の組成分析は、EDSまたはXPSにより判明することができる。なぜならば、量子ドット100の組成に応じて、組成に含まれる元素やその結合状態に特有のピークが分光結果に現れるからである。
【0068】
量子ドット100の組成および結晶系に基づき、量子ドット100の結晶面間隔および結晶面指数が算出できる。そして、これら値を用いTEM観察と組み合わせることでナノ粒子表面の面指数と割合を測定することができる。最終的には、組成および結晶系と、結晶面指数とに基づいて、量子ドット100の表面に占める極性面の面積比が算出できる。
【0069】
通常、発光層54は、量子ドット100の形状および面指数、ならびにリガンドの種類および比率などに関して、場所に拠らず均一な構成をしている。このため、発光層54の一部に対して行われた分析結果は、発光層54の全体に対して適用してよい。
【0070】
また、量子ドット100の最外層が分析困難なほど薄い(典型的には、3原子層以下)場合、上記分析方法により分析される対象は、最外層の下層を含む。前述のように、最外層が薄ければ、最外層の結晶系はその下層の結晶系に従う。このため、量子ドット100の最外層の厚さに関わらず、上記分析方法に基づいて導出した結晶系および結晶指数を、量子ドット100の最外層の結晶系および結晶指数と見做して良い。
【0071】
通常、極性面の面積比が100%である量子ドット100を分析しても、分析精度、測定限界、及び不純物などに起因して、算出される極性面の面積比が90%以上100%未満になる傾向がある。このため、算出された極性面の面積比が90%以上であれば、表面の100%が極性面である量子ドットを発光層54が有している蓋然性が高いと考えられる。したがって、分析結果における極性面の面積比が90%以上であれば、発光層54には表面の100%が極性面である量子ドットを含んでいると考えられる。
【0072】
また前述のように、極性面は、量子ドット100の表面の70%以上を占めればよい。極性面の面積比が70%である量子ドット100を用いた場合、算出される極性面の面積比が60%以上80%以下になる傾向がある。このため、算出された極性面の面積比が60%だった場合、発光層54全体には極性面の面積比が70%以上の量子ドット100が含まれる蓋然性が高いと考えられる。前述のように、量子ドット100の表面の70%以上が極性面である場合、極性リガンド2のみを用いて量子ドット100の表面を十分に保護(表面保護)できる。したがって、分析結果における極性面の面積比が60%以上のとき、発光層54に含まれる量子ドット100の少なくとも一部は、極性リガンド2のみで十分に表面保護されると考えられる。
【0073】
また、非極性面の面積比の分析方法も上記と同様の方法で特定できる。算出された非極性面の面積比が90%以上であれば、発光層54には表面の100%が非極性面である量子ドット100を含んでいると考えられる。
【0074】
(リガンドの分析方法)
極性リガンド2および後述の中性リガンド3を含むリガンドの官能基は、質量分析器を用いて割り出すことができる。リガンドが有機である場合、リガンドをイオン化して複数のフラグメントに切断し、各フラグメントのm/z値(質量/電荷)と質量スペクトルにおける強度比とを取得する。そして、m/z値と強度比とに基づいて、データベースを参照して、リガンドの構造式および官能基を割り出すことができる。
【0075】
殆どの有機化合物はデータベースに登録されているため、データベースを参照することによる割り出しが可能である。また、万一、リガンドが登録されていない有機化合物であったとしても、登録済みの有機化合物から類推して探索することができる。
【0076】
また、リガンドが無機である場合も、質量分析器またはEDS測定装置を用いて、リガンドの組成式を割り出すことができる。また前述のように、発光層54の一部に対して行われた分析結果は、発光層54の全体に対して適用してよい。
【0077】
発光層54を上述のように分析して、発光層54に含まれるリガンドとして機能し得る化合物を特定する。発光層54におけるリガンドとして極性リガンド2のみ(または中性リガンド3のみ)を製造時に用いても、分析精度および測定限界などに起因して、極性リガンド2(または中性リガンド3)が特定された化合物の100%未満になる傾向がある。このため、特定された化合物に極性リガンド2(または中性リガンド3)が占める割合が物質量比で90%以上であれば、発光層54が含むリガンドの100%が極性リガンド2(または中性リガンド3)である蓋然性が高いと考えられる。
【0078】
(変形例)
図6および図7は各々、本実施形態1に係る量子ドット100の変形例の構造を示す斜視図である。図8は、本実施形態1に係る量子ドット100を含む光電変換層57を備えた太陽電池6を模式的に示す断面図である。
【0079】
本実施形態1に係る量子ドット100は上述に限らない。量子ドット100の表面が例えば、図6に示すように(100)等価面の6面を含んでもよく、この場合、量子ドット100の理想的な形状は直方体である。あるいは、量子ドット100の表面が例えば、図7に示すように(111)等価面の8面を含んでもよく、この場合、量子ドット100の理想的な形状は正八面体である。
【0080】
図6に示すような六面体の量子ドット100は、反応温度を高くすることによって、製造できる。例えば、量子ドット100がCdSeから成る場合、摂氏275度以上で結晶成長させる。高温によって結晶表面でのリガンドの脱離および再吸着の速度が上昇する結果、表面エネルギーが大きな結晶面への原子の堆積が優勢となる。つまり、未結合手密度の大きい(111)等価面に優先的に原子が堆積する。この結果、量子ドット100の表面が(100)等価面で構成される。
【0081】
ただし、前述したように、量子ドット100を分散させたコロイド溶液を用いて塗布製膜する際、至る所均一な厚さかつ表面の凹凸を小さくするためには、(1)溶液中で量子ドット100が凝集することなく、(2)溶媒の流動を阻害しない、ことが必要である。(2)を満たすためには、量子ドット100が転がりやすい形状、すなわち球形に近い形状であることが好ましい。さらに、自発光素子5の駆動電圧を低減するためには、発光層54における量子ドット100同士の間の隙間が小さいことが必要である。このため、量子ドット100が少ない隙間で充填されやすい形状、すなわち球形に近い形状であることが好ましい。したがって、量子ドット100の形状は、六面体よりも八面体が好ましく、八面体よりも十四面体が好ましい。
【0082】
図8に示すように、本実施形態1は太陽電池6に適用可能である。太陽電池6は、アノード51、正孔注入層52、正孔輸送層53、光電変換層57(量子ドット層)、電子輸送層55、カソード56を含む。光電変換層57は、本実施形態1に係る量子ドット100および極性リガンド2を備える。
【0083】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0084】
本実施形態2に係る自発光素子5(図1参照)は、発光層54が、前述の実施形態1に係る量子ドット100の代わりに、本実施形態2に係る量子ドット200を含む点においてのみ、前述の実施形態1に係る自発光素子5から異なる。
【0085】
(量子ドットの構造)
図9は本実施形態2に係る量子ドット200の一例の構造を示す斜視図である。
【0086】
本実施形態2に係る量子ドット200は、塩化ナトリウム型の結晶系を有する。量子ドット200は、塩化ナトリウム型の結晶系を自発的に取り得る材料を含む群から選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。当該材料は例えば、PbTe,PbSe,PbSなどのIV―VI族化合物である。本開示において、IV-VI族化合物とはIV族元素とVI族元素とを含む化合物を意味する。また、IV族元素とは、4族元素および14族元素を含み得る。
【0087】
本実施形態2に係る量子ドット200がコアシェル構造を有する場合、前述の実施形態1と同様に、コアのバンドギャップはシェルのバンドギャップよりも小さいことが好ましい。
【0088】
量子ドット200は、複数の結晶面を有する多面体の結晶であり、その表面が主に極性面である。量子ドット200の表面は例えば、図9に示す三角形の(111)面、(-111)面、(1-11)面、(-1-11)面、(11-1)面、(-11-1)面、(1-1-1)面、及び(-1-1-1)面、の8面を含む。これら8面は、(111)等価面である。この場合、量子ドット200の理想的な形状は正八面体である。
【0089】
塩化ナトリウム型結晶における(111)等価面は極性面である。本実施形態2に係る量子ドット200の表面も、前述の実施形態1と同様に、面積比70%以上が極性面であればよく、80%以上が極性面であることが好ましく、90%以上が極性面であることがより好ましい。また、量子ドット200の表面が極性面のみを含むことが理想的である。
【0090】
前述の実施形態1と同様に、量子ドット200の結晶面分析の結果において算出された極性面の面積比が90%以上であれば、発光層54には表面の100%が極性面である量子ドット200を含んでいると考えられる。
【0091】
(量子ドットの製造方法)
本実施形態2に係る量子ドット200の製法は、前述の実施形態1と同様に、例えば、加熱法、ホットインジェクション、マイクロ波アシスト法、連続フロー法、がある。
【0092】
図7に示すような八面体の量子ドット100は、非特許文献1に記載の製造方法に加えて、合成時に極性面に優先的に結合する極性リガンド(例えばチオール基を含むリガンド)を用いると共に、反応温度を低くすることによって、製造できる。例えば、量子ドット100がPbSから成る場合、摂氏110度程度で結晶成長させる。
【0093】
本実施形態2も、前述の実施形態1と同様に、太陽電池に適用可能である。
【0094】
〔実施形態3〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0095】
本実施形態3に係る自発光素子5(図1参照)は、発光層54が、前述の実施形態1に係る量子ドット100の代わりに、本実施形態3に係る量子ドット300を含む点においてのみ、前述の実施形態1に係る自発光素子5から異なる。
【0096】
(量子ドットの構造)
図10は本実施形態3に係る量子ドット300の一例の構造を示す斜視図である。図11は、図10に示した量子ドット300の各結晶面の面方位を示す図である。
【0097】
本実施形態3に係る量子ドット300は、ウルツ鉱型の結晶系を有する。量子ドット300は、ウルツ鉱型の結晶系を自発的に取り得る材料を含む群から選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。当該材料は例えば、ZnS,CdSe,ZnSeなどのII―VI族化合物である。なお、II―VI族化合物は結晶成長条件によって、閃亜鉛鉱型の結晶系も取り得る。
【0098】
本実施形態3に係る量子ドット300がコアシェル構造を有する場合、前述の実施形態1と同様に、コアのバンドギャップはシェルのバンドギャップよりも小さいことが好ましい。
【0099】
量子ドット300は、複数の結晶面を有する多面体の結晶であり、その表面が主に極性面である。量子ドット300は例えば、図11に示す六角形の(0001)面及び(000-1)面の2面を上面及び底面として含む[0001]方向に薄い平板形状である。
【0100】
図11は、量子ドット300の結晶面において、(0001)と等価な面を示す図である。図11において、(0001)面および(0001)面と等価な面には、ハッチング処理を施している。量子ドット300の結晶面のうち、(0001)面と等価な面は、(0001)面の反対側の(000-1)面である。
【0101】
ウルツ鉱型結晶における(0001)等価面および(1-101)等価面は極性面である。量子ドット300において(1-101)等価面は、(1-101)面、(01-11)面、(-1011)面、(-1101)面、(0-111)面、(10-11)面、(1-10-1)面、(01-1-1)面、(-101-1)面、(-110-1)面、(0-11-1)面、(10-1-1)面、の12面である。本実施形態3に係る量子ドット300の表面も、前述の実施形態1と同様に、面積比70%以上が極性面であればよく、80%以上が極性面であることが好ましく、90%以上が極性面であることがより好ましい。また、量子ドット300が平板形状であることが理想的である。
【0102】
前述の実施形態1と同様に、量子ドット300の結晶面分析の結果において算出された極性面の面積比が90%以上であれば、発光層54には表面の100%が極性面である量子ドット300を含んでいると考えられる。
【0103】
量子ドット300の上面と底面との間の面は、非極性面を含んでもよく、例えば、(1-100)等価面を含んでよい。量子ドット300において(1-100)等価面は、(1-100)面、(01-10)面、(-1010)面、(-1100)面、(0-110)面、(10-10)面、の6面である。量子ドット300の上面と底面との間の面は、極性面を含むことが好ましく、例えば、(0001)等価面に対して傾斜している(1-101)等価面を含むことが好ましい。量子ドット300の上面と底面との間の面は、非極性面と極性面との双方または片方のみを含んでもよい。
【0104】
図10に示すように、量子ドット300は、当該量子ドット300の表面における(0001)等価面の面積の割合が大きいために、[0001]方向に薄い平板形状を有する。このため、量子ドット300における励起子の再結合の方向は、主に、[0001]方向に略垂直な方向である。これによって、励起子の再結合によって放出される光は、[0001]方向に略平行な方向に強く放出される。発光層54の形成時に、量子ドット300は、自重により、量子ドット300の(0001)等価面の何れかが、発光層54の上面側または底面側に位置するように堆積しやすい。これらの結果、自発光素子5において発光層54は光を主に、発光層54の上面および底面に略直交する方向に放射する。このため、入射角が小さいので、放射された光が自発光素子5における境界面で反射され難くなり、自発光素子5内部での光の減衰が低減される。これによって、自発光素子5から光を取出す効率が向上する。
【0105】
(量子ドットの製造方法)
本実施形態3に係る量子ドット300の製法は、前述の実施形態1と同様に、例えば、加熱法、ホットインジェクション、マイクロ波アシスト法、連続フロー法、がある。
【0106】
図12および図13は各々、図10に示した量子ドット300の一例の製造方法を示す図である。
【0107】
図10に示すような平板形状かつウルツ鉱型の量子ドット300は、ウルツ鉱型の結晶系を有する材料をシート状に作成し、必要に応じてイオンを置換することによって製造できる。例えば、量子ドット300がCdSeから成る場合、まず、CdClにオレイルアミン(図12にOAで示す)を添加することによって、CdClのナノシート状の錯体を形成する。CdClは、ウルツ鉱型の結晶系を通常有する材料である。
【0108】
続いて、Seを融解したオクチルアミン溶液を、前述のCdCl錯体と混和し、摂氏100度で24時間反応させる。この結果、図13に示すように、2つの塩化物イオンClが1つのセレン化物イオンSeに置換されて、CdSeのナノシート状の錯体を形成する。このように形成されたCdSeは、平板形状かつウルツ鉱型の結晶系を有する。
【0109】
(変形例)
図14は、本実施形態3に係る量子ドット300の変形例の構造を示す斜視図である。
【0110】
量子ドット300の上面と底面との間の面は、非極性面として、例えば、図14に示すように(11-20)面および(11-20)面と等価な面を含んでもよい。量子ドット300の上面と底面との間の面は、極性面として、例えば、(11-21)面および(11-21)と等価な面を含んでもよい。(11-20)と等価な面は、(-2110)面、(1-210)面、(-1-120)面、(2-1-10)面、及び(-12-10)面、である。(11-21)と等価な面は、(-2111)面、(1-211)面、(-1-121)面、(2-1-11)面、(-12-11)、(-2111)面、(11-2-1)面、(1-21-1)面、(-1-12-1)面、(2-1-1-1)面、及び(-12-1-1)面である。
【0111】
以降、(11-20)面および(11-20)面と等価な面を包括して、(11-20)等価面と総称し、(11-21)面および(11-21)と等価な面を包括して(11-21)等価面と総称する。
【0112】
本実施形態3も、前述の実施形態1と同様に、太陽電池に適用可能である。
【0113】
〔実施形態4〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0114】
本実施形態4に係る発光層54(図1参照)は、前述の実施形態1に係る量子ドット100および極性リガンド2の代わりに、本実施形態4に係る量子ドット400および中性リガンド3を含む点においてのみ、前述の実施形態1に係る自発光素子5から異なる。
【0115】
(量子ドットの構造)
図15は本実施形態4に係る量子ドット400の一例の構造を示す斜視図である。図16は、図15に示した量子ドット400の表面と、当該表面を保護する中性リガンド3とを概略的に示す模式図である。
【0116】
本実施形態4に係る量子ドット400は、閃亜鉛鉱型の結晶系を有する。量子ドット400は、閃亜鉛鉱型の結晶系を自発的に取り得る材料を含む群から選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。当該材料は例えば、ZnS,CdSe,ZnSeなどのII―VI族化合物および、InPなどのIII-V族化合物である。
【0117】
本実施形態4に係る量子ドット400がコアシェル構造を有する場合、前述の実施形態1と同様に、コアのバンドギャップはシェルのバンドギャップよりも小さいことが好ましい。
【0118】
量子ドット400は、複数の結晶面を有する多面体の結晶であり、その表面が主に非極性面である。量子ドット400の表面は例えば、図15に示す菱形の(110)面、(011)面、(101)面、(1-10)面、(01-1)面、(-101)面、(-110)面、(0-11)面、(10-1)面、(-1-10)面、(0-1-1)面、(-10-1)面、の12面を含む。この場合、量子ドット400の理想的な形状は、十二面体である。量子ドット400の結晶面のうち、(110)面と等価な面は、(011)面、(101)面、(1-10)面、(01-1)面、(-101)面、(-110)面、(0-11)面、(10-1)面、(-1-10)面、(0-1-1)面、(-10-1)面である。
【0119】
閃亜鉛鉱型の結晶系における(110)等価面は、非極性面である。量子ドット400の表面が非極性面である場合、図16に示すように、中性リガンド3のみを用いて量子ドット400の表面を十分に保護(表面保護)できる。中性リガンド3は、非極性面に非共有電子対3aを介して結合できる。
【0120】
本実施形態4に係る量子ドット00の表面の70%以上が非極性面である場合、前述の実施形態1と類似の理由で、中性リガンド3のみを用いて量子ドット400の表面を十分に保護(表面保護)できる。
【0121】
量子ドット400の表面における非極性面の面積比が高いほど、中性リガンド3による表面保護の効果が向上する。故に、本実施形態4に係る量子ドット400の表面は、前述の実施形態1と逆に、面積比70%以上が非極性面であればよく、80%以上が非極性面であることが好ましく、90%以上が非極性面であることがより好ましい。また、量子ドット400の表面が非極性面のみを含むことが理想的である。
【0122】
前述の実施形態1と同様に、量子ドット400の結晶面分析の結果において算出された非極性面の面積比が60%以上であれば、発光層54に含まれる量子ドット400の少なくとも一部は中性リガンド3のみで十分に表面保護されると考えられる。また90%以上であれば、発光層54には表面の100%が非極性面である量子ドット400を含んでいると考えられる。
【0123】
非極性面は極性面と比較して、表面電荷が小さく、未結合手濃度が小さい。このため、非極性面は反応性が比較的低い傾向にあり、量子ドットの表面からリガンドが脱離したときに、非極性面は不純物などと比較的反応しにくい傾向にある。したがって、本実施形態4に係る量子ドット400は、劣化しにくいので、発光層54および自発光素子5の信頼性を向上できる。
【0124】
中性リガンド3は、有機であり、例えば、末端に一つ以上のホスフィン基、ホスフィンオキシド基、及びアミン基を含む有機中性リガンドから成る群から選択される少なくとも1種を含む。末端にホスフィン基を含むリガンドは、下記構造式(8)または下記構造式(9)で表される構造を一部に含む。末端にホスフィンオキシド基を含むリガンドは、下記構造式(10)で表される構造を一部に含む。末端にアミン基を含むリガンドは、下記構造式(11)~(15)の何れか1つで表される構造を一部に含む。
【0125】
【化2】
なお、上記構造式(8)~(15)において、Hは水素原子を示し、Nは窒素原子を示し、Oは酸素原子を示し、Pはリン原子を示し、RおよびRおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシル基、または不飽和炭化水素基を示す。
【0126】
(量子ドットの製造方法)
量子ドット400の製法としては、前述の実施形態1と同様に、例えば、加熱法、ホットインジェクション、マイクロ波アシスト法、連続フロー法、がある。
【0127】
図15に示すような十二面体の量子ドットは、最外層の合成時に非極性面に優先的に結合する中性リガンドを用いて、製造できる。例えば、量子ドット400がCdSeから成る場合、中性リガンドを多めに添加して、250度程度の反応温度で結晶成長させる。中性リガンドは、アミン系リガンドが好ましい。アミン系リガンドはCdSeの(110)等価面への強く結合し、その他の面に弱く結合するか結合しない。この結果、(110)等価面以外の面で結晶成長が進み、量子ドット400の表面が(110)等価面で構成される。
【0128】
本実施形態4も、前述の実施形態1と同様に、太陽電池に適用可能である。
【0129】
〔実施形態5〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0130】
本実施形態5に係る発光層54(図1参照)は、前述の実施形態1に係る量子ドット100および極性リガンド2の代わりに、本実施形態5に係る量子ドット500および中性リガンド3を含む点においてのみ、前述の実施形態1に係る自発光素子5から異なる。
【0131】
(量子ドットの構造)
図17は本実施形態5に係る量子ドット500の一例の構造を示す斜視図である。
【0132】
本実施形態5に係る量子ドット500は、塩化ナトリウム型の結晶系を有する。量子ドット00は、塩化ナトリウム型の結晶系を自発的に取り得る材料を含む群から選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。当該材料は例えば、PbTe,PbSe,PbSなどのIV―VI族化合物である。
【0133】
本実施形態5に係る量子ドット500がコアシェル構造を有する場合、前述の実施形態1と同様に、コアのバンドギャップはシェルのバンドギャップよりも小さいことが好ましい。
【0134】
量子ドット500は、複数の結晶面を有する多面体の結晶であり、その表面が主に非極性面である。量子ドット500の表面は例えば、図17に示す四角形の(100)等価面、(-100)面、(010)面、(0-10)面、(001)面、及び(00-1)面の6面を含む。これら6面は、(100)等価面である。この場合、量子ドット500の理想的な形状は、直方体である。
【0135】
塩化ナトリウム型の結晶系における(100)等価面は、非極性面である。本実施形態5に係る量子ドット500の表面も、前述の実施形態4と同様に、面積比70%以上が非極性面であればよく、80%以上が非極性面であることが好ましく、90%以上が非極性面であることがより好ましい。また、量子ドット500の表面が非極性面のみを含むことが理想的である。
【0136】
前述の実施形態1と同様に、量子ドット500の結晶面分析の結果において算出された非極性面の面積比が90%以上であれば、発光層54にはの表面の100%が非極性面である量子ドット500を含んでいると考えられる。
【0137】
(量子ドットの製造方法)
本実施形態5に係る量子ドット500の製法は、前述の実施形態1と同様に、例えば、加熱法、ホットインジェクション、マイクロ波アシスト法、連続フロー法、がある。
【0138】
図17に示すような六面体の量子ドット500は、非特許文献1に記載の製造方法に加えて、最外層の合成時に非極性面に優先的に結合する中性リガンド(アミン系リガンド)を用いて、反応温度を低くすることによって、製造できる。例えば、量子ドット100がPbSから成る場合、摂氏110度程度で結晶成長させる。
【0139】
本実施形態5も、前述の実施形態1と同様に、太陽電池に適用可能である。
【0140】
〔実施形態6〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0141】
本実施形態6に係る自発光素子5(図1参照)は、発光層54が、前述の実施形態1に係る量子ドット100および極性リガンド2の代わりに、本実施形態6に係る量子ドット600および中性リガンド3を含む点においてのみ、前述の実施形態1に係る自発光素子5から異なる。
【0142】
(量子ドットの構造)
図18は本実施形態6に係る量子ドット600の構造を示す斜視図である。図19は、図18に示した量子ドット600の各結晶面の面方位を示す図である。
【0143】
本実施形態6に係る量子ドット600は、ウルツ鉱型の結晶系を有する。量子ドット600は、ウルツ鉱型の結晶系を自発的に取り得る材料を含む群から選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。当該材料は例えば、ZnS,CdSe,ZnSeなどのII―VI族化合物である。なお、II―VI族化合物は結晶成長条件によって、閃亜鉛鉱型の結晶系も取り得る。
【0144】
量子ドット600は、複数の結晶面を有する多面体の結晶であり、その表面が主に極性面である。量子ドット600は例えば、図19に示す長方形の(1-100)面、(0-110)面、(-1010)面、(-1100)面、(01-10)面、及び(10-10)面の6面を側面として含む[0001]方向に細長い棒状である。棒の形状は、六角柱形状及び、六角柱の1つ以上の角を切り取った形状を含む。
【0145】
図19は、量子ドット600の結晶面において、(1-100)面と等価な面を示す図である。図19において、(1-100)面および(1-100)面と等価な面には、ハッチング処理を施している。量子ドット600の結晶面のうち、(1-100)面と等価な面は、(0-110)面、(-1010)面、(-1100)面、(01-10)面、及び(10-10)である。
【0146】
ウルツ鉱型結晶における(-1100)等価面は非極性面である。本実施形態6に係る量子ドット600の表面も、前述の実施形態4と同様に、面積比70%以上が非極性面であればよく、80%以上が非極性面であることが好ましく、90%以上が非極性面であることがより好ましい。また、量子ドット600の表面が非極性面のみを含むことが理想的である。
【0147】
前述の実施形態1と同様に、量子ドット600の結晶面分析の結果において算出された非極性面の面積比が90%以上であれば、発光層54には量子ドット600の表面の100%が非極性面である量子ドット600を含んでいると考えられる。
【0148】
量子ドット600は、側面同士の一方側の間の面と、側面同士の他方側の間の面とが極性面であってもよく、例えば(0001)等価面および/または(1-101)等価面を含んでよい。
【0149】
図18に示すように、量子ドット600は、当該量子ドット600の表面における(-1100)等価面の面積の割合が大きいために、[0001]方向に細長い棒状の形状を有する。このため、量子ドット600における励起子の再結合の方向は、主に、[0001方向]に略平行な方向である。これによって、励起子の再結合によって放出される光は、量子ドット600の[0001]方向に略垂直な方向に強く放出される。発光層54の形成時に、量子ドット600は、自重により、量子ドット600の(-1100)等価面の何れかが、発光層54の上面側または底面側に位置するように堆積しやすい。これらの結果、自発光素子5において発光層54は光を主に、発光層54の上面および底面に略直交する方向に放射する。このため、放射された光が自発光素子5における境界面で反射され難くなり、自発光素子5内部での光の減衰が低減される。これによって、自発光素子5から光を取出す効率が向上する。
【0150】
(量子ドットの製造方法)
本実施形態6に係る量子ドット600の製法は、前述の実施形態1と同様に、例えば、加熱法、ホットインジェクション、マイクロ波アシスト法、連続フロー法、がある。
【0151】
図18に示すような棒状かつウルツ鉱型の量子ドットは、コアとしてウルツ鉱型のナノ結晶を形成し、そのコアの(0001)等価面の上に、シェルとしてウルツ鉱型のナノ結晶をエピタキシャル成長させることによって製造できる。
【0152】
例えば、量子ドット600がCdSeのコアとCdSのシェルから成る場合、まず、三口フラスコを用意し、1.5mmolのCdO、6mmolのnテトラデシルホスホン酸(n-tetradecylphosphonic acid:TDPA)、24mmolのオレイルアルコール、および10gのTOPOを三つ口フラスコに入れて混合する。これを窒素環境下にて摂氏150度で1時間加熱する。その後、350度に向けて昇温させ、この溶液が透明になった瞬間にTOPをフラスコに2ml注入する。この溶液が摂氏350度に達したら、体積モル濃度1.7mol/lのSeのTOP錯体(trioctylphosphine selenide:TOP-Se)溶液をフラスコに1.5ml注入する。数秒間の反応後、フラスコを摂氏80度の水に浸すことで降温し、反応を停止させる。続いて、この溶液に20mlのメタノールを加え、ナノ粒子を沈殿させる。このナノ粒子は、CdSeのウルツ鉱型の結晶である。このCdSeのナノ結晶を、体積濃度2.4mol/lの硫化物TOP(trioctylphosphine sulfide:TOP-S)溶液に分散させる。
【0153】
続いて、三口フラスコを用意し、5gのTOPO、任意量のオクタデシルホスホン酸(octadecylphosphonic acid:ODPA)、任意量のドデシルホスホン酸(dodecylphosphonic acid:DDPA)、および任意量のCdOをフラスコに入れて混合する。これを窒素環境下にて摂氏150度で1時間加熱する。その後、350度に向けて昇温させ、この溶液が透明になった瞬間にTOPをフラスコに1ml注入する。この溶液が摂氏350度に達したら、前述のCdSeナノ結晶をTOP-Sに分散させた溶液をフラスコに2ml注入する。なおここで、CdとSとのモル比率を1.2:1に維持することによって、CdS結晶がカチオンリッチの面を露出しやすいように留意する。十分な時間の反応後、フラスコを摂氏80度の水に浸すことで降温し、反応を停止させる。続いて、この溶液に5mlのトルエンおよび10mlのメタノールを加え、ナノロッドを沈殿させる。このナノロッドが量子ドット600である。
【0154】
(変形例)
図20および図22は各々、本実施形態6に係る量子ドット600の変形例の構造を示す斜視図である。図21は、図20に示した量子ドット600の各結晶面の面方位を示す図である。図23は各々、図22に示した量子ドット600の各結晶面の面方位を示す横断面図である。
【0155】
本実施形態6に係る量子ドット600は、上述に限らない。
【0156】
量子ドット600は例えば、図20および図21に示す長方形の(11-20)面、(-2110)面、(1-210)面、(-1-120)面、(2-1-10)面、及び(-12-10)面の6面を側面として含む細長い棒状であってもよい。(11-20)面と等価な面は、(-2110)面、(1-210)面、(-1-120)面、(2-1-10)面、及び(-12-10)面である。この場合、量子ドット600は、側面同士の一方側の間の面と、側面同士の他方側の間の面とが、例えば(0001)等価面および/または(11-21)等価面を含んでよい。
【0157】
図21は、図20に示した量子ドット600の結晶面において、(11-20)等価面を示す図である。
【0158】
ウルツ鉱型結晶において、(11-20)等価面は非極性面である。
【0159】
量子ドット600は例えば、図22に示すように、(1-100)等価面と(11-20)等価面との12面を側面として含む長い棒状であってもよい。この場合、棒の形状は十二角柱形状及び、十二角柱の1つ以上の角を切り取った形状を含む。図23は、図22に示した量子ドット600の横断面図である。この場合、量子ドット600は、側面同士の一方側の間の面と、側面同士の他方側の間の面とが、例えば(0001)等価面を含んでもよく、加えて/あるいは(1-101)等価面および(11-21)等価面を含んでよい。
【0160】
本実施形態6も、前述の実施形態1と同様に、太陽電池に適用可能である。
【0161】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係る量子ドットは、表面の面積比70%以上が極性面であるか、または、表面の面積比70%以上が非極性面である構成である。
【0162】
なお、上記態様1における「面積比」は、実際の値である。上述したように、分析結果において、前記極性面(あるいは前記非極性面)が占める割合が60%以上であれば、発光層全体には極性面(あるいは非極性面)の面積比が70%以上の量子ドットが含まれると考えられる。したがって、分析結果における極性面(あるいは非極性面)の面積比が60%以上のとき、量子ドット層に含まれる量子ドットの少なくとも一部は、極性リガンド(あるいは中性リガンド)のみで十分に表面保護されると考えられる。
【0163】
本発明の態様2に係る量子ドットは、前記態様1において、前記表面は極性面のみまたは非極性面のみを含む構成であってもよい。
【0164】
なお、上述したように、分析結果において、前記極性面(あるいは前記非極性面)が占める割合が90%以上であれば、実際に量子ドット層が量子ドットの表面の面積比100%が前記極性面(あるいは前記非極性面)である量子ドットを含んでいると考えられる。
【0165】
本発明の態様3に係る量子ドットは、前記態様1または2において、コアシェル構造を有し、コアのバンドギャップは、シェルのバンドギャップよりも小さい構成であってもよい。
【0166】
本発明の態様4に係る量子ドットは、前記態様1~3の何れか1態様において、閃亜鉛鉱型の結晶系を有し、前記表面は、(100)面、(-100)面、(010)面、(0-10)面、(001)面、及び(00-1)面と、(111)面、(-111)面、(1-11)面、(-1-11)面、(11-1)面、(-11-1)面、(1-1-1)面、及び(-1-1-1)面と、の14面を含む構成であってもよい。
【0167】
本発明の態様5に係る量子ドットは、前記態様1~3の何れか1態様において、閃亜鉛鉱型の結晶系を有し、前記表面は、(100)面、(-100)面、(010)面、(0-10)面、(001)面、及び(00-1)面の6面を含む構成であってもよい。
【0168】
本発明の態様6に係る量子ドットは、前記態様1~3の何れか1態様において、閃亜鉛鉱型の結晶系を有し、前記表面は、(111)面、(-111)面、(1-11)面、(-1-11)面、(11-1)面、(-11-1)面、(1-1-1)面、及び(-1-1-1)面と、の8面を含む構成であってもよい。
【0169】
本発明の態様7に係る量子ドットは、前記態様1~3の何れか1態様において、塩化ナトリウム型の結晶系を有し、前記表面は、(111)面、(-111)面、(1-11)面、(-1-11)面、(11-1)面、(-11-1)面、(1-1-1)面、及び(-1-1-1)面と、の8面を含む構成であってもよい。
【0170】
本発明の態様8に係る量子ドットは、前記態様1~3の何れか1態様において、ウルツ鉱型の結晶系を有し、前記表面は、(0001)面及び(000-1)面の2面を含む構成であってもよい。
【0171】
本発明の態様9に係る量子ドット層は、前記態様4~8の何れか1態様に係る量子ドットと、極性リガンドとを含む構成である。
【0172】
本発明の態様10に係る量子ドット層は、前記態様9において、当該量子ドット層に含まれるリガンドの物質量比90%以上が前記極性リガンドである構成であってもよい。
【0173】
なお、上記態様10における「物質量比」は、分析結果である。上述したように、分析結果において前記極性リガンドが占める割合が90%以上であれば、実際に量子ドットに含まれるリガンドの物質量比100%が前記極性リガンドである蓋然性が高いと考えられる。
【0174】
本発明の態様11に係る量子ドット層は、前記態様9または10において、前記極性リガンドは、下記構造式(1)~(7)で表される構造の少なくとも1つを少なくとも一部に含む構成であってもよい。
【0175】
【化3】

式中、Cは炭素原子を示し、Oは酸素原子を示し、Oは酸化物イオンを示し、Sは硫黄原子を示し、Sは硫化物イオンを示し、Pはリンを示し、R およびR は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシル基、または不飽和炭化水素基を示す。
【0176】
本発明の態様12に係る量子ドット層は、前記態様9または10において、前記極性リガンドは、イオン式Cl、Br、I、SCN、CN、OH、SH、SeH、TeH、Se2-、S2-、Te2-、Sn 4-、SnSe 4-、InSe 2-、InTe 2-、GaSe 2-、SbSe 2-、SbTe 2-で表される無機極性リガンドから成る群から選択される少なくとも1種を含む構成であってもよい。
【0177】
本発明の態様13に係る量子ドットは、前記態様1~3の何れか1態様において、閃亜鉛鉱型の結晶系を有し、前記表面は、(101)面、(-101)面、(011)面、(0-11)面、(110)面、(-110)面、(1-1-)面、(-1-10)面、(10-1)面、(-10-1)面、(01-1)面、及び(0-1-1)面の12面を含む構成であってもよい。
【0178】
本発明の態様14に係る量子ドットは、前記態様1~3の何れか1態様において、塩化ナトリウム型の結晶系を有し、前記表面は、(100)面、(-100)面、(010)面、(0-10)面、(001)面、及び(00-1)面の6面を含む構成であってもよい。
【0179】
本発明の態様15に係る量子ドットは、前記態様1~3の何れか1態様において、ウルツ鉱型の結晶系を有し、前記表面は、(1-100)面、(0-110)面、(-1010)面、(-1100)面、(01-10)面、及び(10-10)面と、(11-20)面、(-2110)面、(1-210)面、(-1-120)面、(2-1-10)面、及び(-12-10)面と、の12面を含む構成であってもよい。
【0180】
本発明の態様16に係る量子ドットは、前記態様1~3の何れか1態様において、ウルツ鉱型の結晶系を有し、前記表面は、(1-100)面、(0-110)面、(-1010)面、(-1100)面、(01-10)面、及び(10-10)面の6面を含む構成であってもよい。
【0181】
本発明の態様17に係る量子ドットは、前記態様1~3の何れか1態様において、ウルツ鉱型の結晶系を有し、前記表面は、(11-20)面、(-2110)面、(1-210)面、(-1-120)面、(2-1-10)面、及び(-12-10)面の6面を含む構成であってもよい。
【0182】
本発明の態様18に係る量子ドット層は、前記態様13~17の何れか1態様に係る量子ドットと、中性リガンドとを含む構成である。
【0183】
本発明の態様19に係る量子ドット層は、前記態様18において、当該量子ドット層に含まれるリガンドの物質量比90%以上が前記中性リガンドである構成であってもよい。
【0184】
なお、上記態様19における「物質量比」は、分析結果である。上述したように、分析結果において前記中性リガンドが占める割合が90%以上であれば、実際に量子ドットに含まれるリガンドの物質量比100%が前記中性リガンドである蓋然性が高いと考えられる。
【0185】
本発明の態様20に係る量子ドット層は、前記態様18または19において、前記中性リガンドは、下記構造式(8)~(15)で表される構造の少なくとも1つを一部に含む構成であってもよい。
【0186】
【化4】
式中、Oは酸素原子を示し、Oは酸化物イオンを示し、Pはリンを示し、RおよびRおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシル基、または不飽和炭化水素基を示す。
【0187】
本発明の態様21に係る発光素子は、前記態様9~12および前記態様18~20の何れか1態様に係る量子ドット層を備える構成である。
【0188】
本発明の態様22に係る太陽電池は、前記態様9~12および前記態様18~20の何れか1態様に係る量子ドット層を備える構成である。
【0189】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。
【符号の説明】
【0190】
2 極性リガンド
3 中性リガンド
5 自発光素子(発光素子)
6 太陽電池
54 発光層(量子ドット層)
57 光電変換層(量子ドット層)
100,200,300,400,500,600 量子ドット
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