(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-26
(45)【発行日】2024-12-04
(54)【発明の名称】断熱シート
(51)【国際特許分類】
F16L 59/02 20060101AFI20241127BHJP
【FI】
F16L59/02
(21)【出願番号】P 2023527641
(86)(22)【出願日】2022-06-01
(86)【国際出願番号】 JP2022022256
(87)【国際公開番号】W WO2022259930
(87)【国際公開日】2022-12-15
【審査請求日】2023-07-12
(31)【優先権主張番号】P 2021096290
(32)【優先日】2021-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【氏名又は名称】進藤 素子
(74)【代理人】
【識別番号】100115646
【氏名又は名称】東口 倫昭
(72)【発明者】
【氏名】中野 資之
(72)【発明者】
【氏名】金原 輝佳
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 和輝
【審査官】杉山 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-068465(JP,A)
【文献】特開2020-122544(JP,A)
【文献】国際公開第2013/141189(WO,A1)
【文献】特開2019-065264(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 59/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状を呈し、厚さが5μm以上50μm以下であ
り、切断時伸びが150%以下である基材と、
該基材の少なくとも一面に配置される断熱層と、
を備え、
該断熱層は、複数の粒子が連結して骨格をなし、内部に細孔を有し、表面および内部のうち少なくとも表面に疎水部位を有する多孔質構造体と、該多孔質構造体同士を結合し、切断時伸びが200%以上であるバインダーと、を有し、
該基材の切断時伸び(E1)に対する該バインダーの切断時伸び(E2)の比(E2/E1)は、3.1以上30以下であることを特徴とする断熱シート。
【請求項2】
前記基材の厚さは、25μm以下である請求項1に記載の断熱シート。
【請求項3】
前記断熱層の厚さは、0.2mm以上1.2mm以下である請求項1に記載の断熱シート。
【請求項4】
前記断熱層は、粒子径分布における90%径(D
90)が150μm以下の前記多孔質構造体を用いて製造される請求項1に記載の断熱シート。
【請求項5】
前記基材は、樹脂フィルム、セロハンフィルム、金属フィルム、または金属蒸着フィルムである請求項1に記載の断熱シート。
【請求項6】
前記バインダーは樹脂およびゴムから選ばれる一種以上を有し、該バインダーのガラス転移温度(Tg)は-20℃以下である請求項1に記載の断熱シート。
【請求項7】
前記断熱層は、さらに増粘剤および補強繊維から選ばれる一種以上を有する請求項1に記載の断熱シート。
【請求項8】
前記断熱層における前記多孔質構造体の含有量は、該断熱層の全体を100体積%とした場合の80体積%以上96体積%以下である請求項1に記載の断熱シート。
【請求項9】
前記多孔質構造体は、複数のシリカ微粒子が連結して骨格をなすシリカエアロゲルである請求項1に記載の断熱シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱伝導率が小さい多孔質構造体を用いた断熱シートに関する。
【背景技術】
【0002】
車載部品、住宅用建材、産業機器などには、従来より熱流制御を目的として種々の断熱材が使用されている。断熱材には、高い断熱性に加えて、用途に応じて種々の仕様が要求される。例えば、配管などの曲面を有する部材の周囲に配置する場合には、部品形状に沿って配置できるよう、曲げ性などの柔軟性が必要になり、筐体内の限られた狭いスペースに配置する場合には、薄さが必要になる。また、商品輸送の用途においては、商品を包装する際に折り曲げたり巻き付けたりできるよう、より高い柔軟性が必要になる。
【0003】
断熱材の材料としては、シリカエアロゲルなどの多孔質材料が知られている。シリカエアロゲルは、複数のシリカ微粒子が連結して骨格をなし、10~50nm程度の大きさの細孔構造を有する。シリカエアロゲルを使用した断熱材は、例えば特許文献1~3に記載されているように、シリカエアロゲルとそれを結合するバインダーとを有する液状組成物を、基材に塗布、乾燥して製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2015-528071号公報
【文献】特開2020-122544号公報
【文献】特開2020-139560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
シリカエアロゲル同士を結合するバインダーの熱伝導率は、シリカエアロゲルのそれよりも大きいため、バインダーの配合量が多いと断熱性が低下して不利になる。このため、断熱性を高めるためには、できるだけバインダーの配合量を少なくし、シリカエアロゲルの配合量を多くする必要がある。しかしながらこうすると、シリカエアロゲル同士の物理的な結合力が小さくなるため、曲げなどの変形時にシリカエアロゲル同士が分離してクラックが発生しやすい。
【0006】
例えば特許文献1に記載されているように、基材が不織布などの繊維材料からなる場合には、シリカエアロゲルおよびバインダーを有する液状組成物が不織布に含浸して硬化する。これにより、シリカエアロゲル同士の結合が繊維により補強されるため、シリカエアロゲルの脱落およびクラックの発生を抑制するという点では望ましい。しかしながら、液状組成物が不織布に含浸し、シリカエアロゲルが繊維に担持されることにより、基材を含めた断熱材全体としての剛性は大きくなる。結果、断熱材の柔軟性が低下して、曲げたり、巻き付けたり、包んだりするような用途に適用することが難しくなる。また、基材が不織布などの繊維材料からなる場合には、液状組成物が繊維間の隙間を通って反対側に染み出る「裏抜け」を抑制するため、不織布の厚さをある程度大きくする必要がある。このため、基材を含めた場合に断熱材を薄くするには限界がある。ちなみに、基材を使用せずに断熱層単体では、脆く、シリカエアロゲルが脱落するなどの問題があり実用的ではない。また、シリカエアロゲルの脱落を抑制するためにバインダーの配合量を多くすると、所望の断熱性を得られない。
【0007】
特許文献2の段落[0050]には、基材としてポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用い、その上にシリカエアロゲルを含む断熱層を形成した、全体厚さが5mmのシート状の断熱材が記載されている。特許文献2においては、シリカエアロゲル間に積極的に空隙を存在させて、断熱層中の空隙の体積割合を10%以上55%以下にすることにより、シリカエアロゲルの脱落およびクラック(ひび割れ)を抑制している。特許文献2には、基材を含めた断熱材の薄膜化、柔軟性の向上については検討されていない。
【0008】
特許文献3には、「不織布/シリカエアロゲルを含む断熱層/熱反射層」の三層構造を有する断熱材が記載されている。熱反射層としては、アルミ蒸着フィルムなどが記載されている。特許文献3においては、不織布および断熱層の構成に熱反射層を加えて、熱源から放射された熱を反射させることにより断熱性を高めている。特許文献3には、断熱材の薄膜化、柔軟性の向上については検討されていない。
【0009】
本開示は、このような実情に鑑みてなされたものであり、薄く、曲げ性などの柔軟性に優れる断熱シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本開示の断熱シートは、シート状を呈し、厚さが5μm以上50μm以下である基材と、該基材の少なくとも一面に配置される断熱層と、を備え、該断熱層は、複数の粒子が連結して骨格をなし、内部に細孔を有し、表面および内部のうち少なくとも表面に疎水部位を有する多孔質構造体と、該多孔質構造体同士を結合し、切断時伸びが200%以上であるバインダーと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本開示の断熱シートによると、基材の厚さが5μm以上50μm以下である。このため、断熱シートを薄膜化することができる。よって、本開示の断熱シートは、狭いスペースにも配置することができ、軽量化、薄型化が要求される部品などに好適である。また、断熱シートの厚さを薄くすると、柔軟になるため、折り曲げたり巻き付けたりしやすくなる。例えば、樹脂フィルムには比較的安価なものが多いため、基材に樹脂フィルムを使用して、コストの低減を図ることができる。前述したように、多孔質構造体およびバインダーを有する液状組成物を基材に塗布、乾燥して断熱シートを製造する場合、基材に樹脂フィルムを使用すると、フィルム内部には空隙が無く蒸気が抜けにくいため、繊維間に空隙が有る不織布などを使用する場合と比較して、塗膜が乾燥されにくい。よって、樹脂フィルムの厚さが大きいと、基材側からの加熱が充分ではなく、塗膜中の熱の伝わり方にむらが生じるおそれがある。塗膜が均一に加熱されないと、乾燥時に塗膜が膨れたり、乾燥度合いが異なるなどして、クラック発生の原因になる。また、塗膜を充分に乾燥させるために加熱時間を長くすると、生産性が低下する。この点、本開示の断熱シートによると、基材の厚さが小さいため、塗膜が均一に加熱されやすい。よって、基材に不織布以外の樹脂フィルムなどを使用しても、比較的短時間で乾燥することができ、乾燥時の不具合も生じにくい。
【0012】
本開示の断熱シートによると、断熱層において多孔質構造体同士を結合するバインダーの切断時伸びは200%以上である。伸びが大きく柔軟なバインダーを採用することにより、断熱層が柔軟になるため、断熱シートを折り曲げたり巻き付けたりしやすくなる。また、曲げなどの変形時に多孔質構造体同士が分離しにくくなるため、クラックの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例の断熱シートの厚さ方向断面図である。
【
図2】曲げ性の評価に使用した実験装置の概略断面図である。
【
図3】断熱性の評価に使用した実験装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の断熱シートの実施の形態について説明する。なお、実施の形態は以下の形態に限定されるものではなく、当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することができる。
【0015】
<断熱シート>
本開示の断熱シートは、基材と、断熱層と、を備える。
【0016】
[基材]
基材は、厚さが5μm以上50μm以下のシート状を呈する。基材の厚さは、強度の観点から10μm以上であることが望ましく、柔軟性の観点から30μm以下であることが望ましい。基材は、一層からなるものでも、同じ材料または異なる材料が二層以上に積層された積層体でもよい。断熱シートを部品形状に沿って配置するためには、基材には曲げ性などの柔軟性が必要であるが、変形時に断熱層の過度の伸長を抑制してクラックの発生を抑制するという観点から、基材の切断時伸びは150%以下であることが望ましい。
【0017】
基材としては、PET、ポリイミド、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレン(PE)などの樹脂フィルム、パルプなどを原料とするセロハンフィルム、アルミニウム、アルミニウム化合物、マグネシウム、マグネシウム化合物、ステンレス鋼、銀、チタン、チタン化合物、錫などの金属フィルムなどが好適である。また、樹脂フィルムの表面に金属を真空蒸着やスパッタリングにより蒸着した金属蒸着フィルムも好適である。金属蒸着フィルムとしては、アルミ蒸着フィルム、チタン蒸着フィルムなどが挙げられる。金属蒸着フィルムのように、基材が金属層(蒸着膜)と樹脂層(樹脂フィルム)とを有し、断熱層を基材の片面に配置する場合、断熱層を金属層および樹脂層のどちら側に配置するかは、断熱シートの使用形態などを考慮して適宜決定すればよい。金属蒸着フィルムは、蒸着膜の腐食抑制、保護の観点から、蒸着膜がさらに樹脂層で被覆された三層構造のフィルムでもよい。基材と断熱層との接着性を向上させるため、基材の表面にカップリング処理などの下処理を施しておいてもよい。
【0018】
[断熱層]
断熱層は、基材の少なくとも一面に配置される。断熱層は、基材の片面にのみ配置されてもよく、両面に配置されてもよい。断熱層の厚さは、所望の断熱性を確保するという観点から、0.2mm以上、0.3mm以上、0.5mm以上であることが望ましい。また、柔軟性および薄膜化の観点から、1.2mm以下、1mm以下、0.7mm以下であることが望ましい。断熱層は、多孔質構造体と、該多孔質構造体同士を結合するバインダーと、を有する。
【0019】
(1)多孔質構造体
多孔質構造体は、複数の粒子が連結して骨格をなし内部に細孔を有する。骨格をなす粒子(一次粒子)の直径は、2~5nm程度、骨格と骨格との間に形成される細孔の大きさは、10~50nm程度であることが望ましい。細孔の多くは、50nm以下のいわゆるメソ孔である。メソ孔は、空気の平均自由行程よりも小さいため、空気の対流が制限され熱の移動が阻害される。多孔質構造体の形状は、球状、異形状の塊状など、特に限定されないが、面取りされた形状または球状が望ましい。この場合、液中での分散性が向上するため、断熱層を製造するための組成物(断熱層用塗料)の調製が容易になる。また、多孔質構造体間の空隙を少なくして充填量を多くすることができ、断熱性を高めることができる。多孔質構造体は、製造された状態で使用してもよいが、それをさらに粉砕処理して使用してもよい。粉砕処理には、ジェットミルなどの粉砕装置または球状化処理装置などを使用すればよい。粉砕処理することにより、粒子の角が取れ、粒子が丸みを帯びた形状になる。これにより、バインダーにより結合されやすくなり、多孔質構造体が脱落しにくくなる。また、断熱層の表面が平滑になり、クラックが入りにくくなる。
【0020】
断熱層を薄く形成すると共に、表面を平滑にしてクラックを発生しにくくするという観点から、多孔質構造体の粒子径は、比較的小さく均一であるとよい。例えば、粒子径分布における90%径(D90)が150μm以下である多孔質構造体を用いることが望ましい。多孔質構造体の粒子径の調整は、篩かけなどの分級処理により大粒子を除去するなどして行えばよい。
【0021】
多孔質構造体には、表面や内部に親水部位を有する親水性のものと、疎水部位を有する疎水性のものと、がある。このうち、親水性の多孔質構造体は、脆く崩れやすい。また、内部に水分などが浸入して細孔が潰れるおそれがある。したがって、本開示の断熱シートにおいては、表面および内部のうち少なくとも表面に疎水部位を有する疎水性のものを使用する。疎水性の多孔質構造体を用いると、水を溶媒とする水性バインダーを用いた場合に、当該バインダーが多孔質構造体の細孔に浸入しにくいため、断熱性が阻害されにくい。また、多孔質構造体は、表面がシランカップリング剤などで表面処理されたものでもよい。表面処理を施すことにより、多孔質構造体の表面に疎水性などの機能を付与することができる。
【0022】
多孔質構造体の種類は特に限定されない。一次粒子として、例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニアなどが挙げられる。なかでも化学的安定性に優れるという観点から、一次粒子がシリカである、すなわち複数のシリカ微粒子が連結して骨格をなすシリカエアロゲルが望ましい。シリカエアロゲルは白色を呈し赤外線を反射する。よって、シリカエアロゲルを用いると、断熱層に遮熱効果を付与することができる。
【0023】
シリカエアロゲルの製造方法は、特に限定されず、乾燥工程を常圧で行ったものでも、超臨界で行ったものでも構わない。例えば、疎水化処理を乾燥工程前に行うと、超臨界で乾燥する必要がなくなる、すなわち常圧で乾燥すればよいため、より容易かつ低コストに製造することができる。エアロゲルを製造する際の乾燥方法の違いにより、常圧で乾燥したものを「キセロゲル」、超臨界で乾燥したものを「エアロゲル」と呼び分けることがあるが、本明細書においては、その両方を含めて「エアロゲル」と称す。
【0024】
断熱層における多孔質構造体の含有量は、断熱性、柔軟性、機械的強度などを考慮して適宜決定すればよい。例えば、熱伝導率を小さくする(断熱性を高くする)という観点では、多孔質構造体の含有量は、断熱層全体の体積を100体積%とした場合の80体積%以上であることが望ましい。85体積%以上であるとより好適である。一方、多孔質構造体が多くなると、その分バインダーの含有量が少なくなるため、柔軟性が低下したり、多孔質構造体が脱落しやすくなるおそれがある。このため、多孔質構造体の含有量は、断熱層全体の体積を100体積%とした場合の96体積%以下であることが望ましい。92体積%以下であるとより好適である。
【0025】
(2)バインダー
バインダーとしては、切断時伸びが200%以上のものを使用する。切断時伸びが200%未満の場合には、断熱層の柔軟性が低下するため、曲げなどの変形時にクラックが発生しやすくなる。バインダーの切断時伸びは、JIS K6251:2017に準拠した方法により測定すればよい。試験片には、ダンベル3号形(平行部分の厚さ2.0mm)を使用する。また、変形時に断熱層の過度の伸長を抑制してクラックの発生を抑制するという観点から、基材の切断時伸び(E1)に対するバインダーの切断時伸び(E2)の比(E2/E1)は、1.33以上30以下であることが望ましい。基材の切断時伸びも、バインダーと同様の方法により測定すればよいが、試験片は、基材と同じ厚さのダンベル3号形とする。
【0026】
バインダーとしては、樹脂およびゴムから選ばれる一種以上を有し、水(純水、水道水などを含む)を溶媒とするバインダー(水性バインダー)を用いることが望ましい。水性バインダーには、水溶性のバインダー、エマルジョン状のバインダーがあるが、なかでもエマルジョン状のバインダー(水性エマルジョン系バインダー)が好適である。水性エマルジョン系バインダーは、界面活性剤または親水基の導入により乳化されている。水性エマルジョン系バインダーによると、乾燥時に界面活性剤や親水基が揮発することにより親水性が低下し、水に溶解しにくくなるため、断熱層用塗料が硬化した後にべたつきが生じにくいと考えられる。エマルジョン化する方法としては、界面活性剤を乳化剤として使用した強制乳化型でも、親水基が導入された自己乳化型でも構わない。
【0027】
多孔質構造体に対する粘着性が高く、断熱層を柔軟にしてクラックを入りにくくするという観点から、バインダーのガラス転移温度(Tg)は-5℃以下、さらには-20℃以下であることが望ましい。例えば、水性エマルジョン系バインダーの場合、樹脂エマルジョンでもゴムエマルジョンでもよい。樹脂としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂とウレタン樹脂との混合物などが挙げられる。ゴムとしては、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、アクリルゴムなどが挙げられる。断熱層を柔軟にするという観点から、ウレタン樹脂、スチレンブタジエンゴムなどが好適である。断熱層の耐熱性を向上させるという観点から、アクリル樹脂などが好適である。バインダー部分の強度を高めて断熱層の強度を向上させるという観点から、架橋剤などを併用してバインダー成分を架橋させてもよい。
【0028】
(3)その他の成分
断熱層は、多孔質構造体およびバインダーの他に、架橋剤、増粘剤、補強繊維、難燃剤などの他の成分を含んでいてもよい。表面や内部に疎水部位を有する多孔質構造体は、水になじみにくい。なかでもシリカエアロゲルは比重が小さいため、水に浮きやすい。このため、水を溶媒とするバインダー液にシリカエアロゲルを分散させるのは難しく、分散工程に時間を要する。例えば、増粘剤を配合すると、バインダー液の粘性が高くなり、多孔質構造体が分散しやすくなる。これにより、多孔質構造体の分散に要する時間を短縮することができ、生産性を高めることができる。また、断熱層に柔軟性が付与されるため、クラックの発生も抑制される。増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、カルボキシエチルセルロース、カルボキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、キサンタンガム、アガロース、カラギナンなどの多糖類や、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、グルコマンナンなどを用いればよい。
【0029】
補強繊維を配合すると、多孔質構造体の周りに物理的に絡み合って存在することにより、断熱層の機械的強度が向上し、多孔質構造体の脱落を抑制することができる。補強繊維の種類は特に限定されないが、耐熱性などを考慮すると、ガラス繊維、アルミナ繊維などのセラミック繊維が好適である。
【0030】
難燃剤を配合すると、断熱層に難燃性を付与することができる。難燃剤は、ハロゲン系、リン系、金属水酸化物系などの既に公知のものを使用すればよい。環境負荷を考慮すると、リン系難燃剤を用いることが望ましい。リン系難燃剤としては、ポリリン酸アンモニウム、赤リン、リン酸エステルなどが挙げられる。なかでも、使用中に水分と接触しても難燃剤が流出しにくいという理由から、水に不溶なものが望ましく、例えばポリリン酸アンモニウムが好適である。
【0031】
<断熱シートの製造方法>
本開示の断熱シートは、断熱層用塗料を基材に塗布、乾燥して製造することができる。断熱層用塗料は、多孔質構造体、バインダー、および必要に応じて添加される成分を配合し、撹拌して調製すればよい。バインダーが水を有しないものの場合には、適宜、水を加えて調製すればよい。多孔質構造体がシリカエアロゲルの場合には、その分散性を考慮して、バインダー、または水にバインダーを加えた液体に増粘剤を加えて液の粘度を高めてから、シリカエアロゲルを添加することが望ましい。撹拌は、羽根撹拌でもよいが、積極的にせん断力を加えたり、超音波を加えたりしてもよい。自転公転撹拌装置や、メディア型撹拌装置を用いてもよい。
【0032】
断熱層用塗料を塗布するには、刷毛塗りしたり、ブレードコーター、バーコーター、ダイコーター、コンマコーター(登録商標)、ロールコーターなどの塗工機や、スプレーなどを使用すればよい。塗布した後、80~150℃の温度下で、0.5分~数分程度保持し、塗膜を乾燥して硬化させればよい。例えば、ロールツーロール方式を採用すると生産性が向上する。
【実施例】
【0033】
次に、実施例を挙げて本開示をより具体的に説明する。
【0034】
<断熱シートの製造>
[実施例1]
まず、表面および内部に疎水部位を有するシリカエアロゲル(平均粒子径90μm)を粉砕処理して球状化した。粉砕処理は、衝突分散機を用い、回転速度4000rpmで10分間行った。粉砕処理後のシリカエアロゲルを、目開き106μmの篩を用いて篩かけし、大粒子を除去した。篩かけ後のシリカエアロゲルの粒子径分布を測定したところ、90%径(D90)は92μmであった。
【0035】
次に、水に、水性エマルジョン系バインダーとしてのウレタン樹脂組成物(日華化学(株)製「エバファノール(登録商標)HA-55」)を添加して、撹拌羽根で撹拌しながら、粒度調整されたシリカエアロゲルを添加した。そのまま、回転速度1000rpmで30分間撹拌し続けた後、60分間静置して、断熱層用塗料を製造した。使用したバインダーのTgは-30℃、切断時伸びは430%である。
【0036】
続いて、製造した断熱層用塗料を、基材としてのPETフィルム(東レ(株)製「ルミラー(登録商標)#12」、厚さ12μm、切断時伸び140%)に、ロールコーターを用いてコーティングした。そして、150℃下で1分間乾燥させて、断熱層の厚さが0.3mmの断熱シートを製造した。
図1に、製造された断熱シートの厚さ方向断面図を示す。
図1に示すように、断熱シート10は、基材11と、基材11の上面に配置される断熱層12と、からなる。
【0037】
断熱層におけるシリカエアロゲルの含有量は、断熱層の全体を100体積%とした場合の90体積%である。基材の切断時伸び(E1)に対するバインダーの切断時伸び(E2)の比(E2/E1、以下適宜、「基材に対するバインダーの伸び比」と称す)は、3.1である。なお、本実施例で示す基材の切断時伸びは、全てフィルム成形方向(MD)の伸びである。製造した断熱シートを、実施例1の断熱シートと称す。
【0038】
[実施例2]
断熱層の厚さを1mmに変更した点以外は、実施例1と同様にして、実施例2の断熱シートを製造した。
【0039】
[実施例3]
基材の厚さを変更した点以外は、実施例1と同様にして、実施例3の断熱シートを製造した。基材には、厚さ50μmのPETフィルム(東レ(株)製「ルミラー#50」、切断時伸び150%)を使用した。実施例3の断熱シートにおける基材に対するバインダーの伸び比は、2.9である。
【0040】
[実施例4]
バインダーを変更し、Tgが-12℃、切断時伸びが250%のウレタン樹脂組成物(日華化学(株)製「エバファノールHA-190」)を使用した点以外は、実施例1と同様にして、実施例4の断熱シートを製造した。実施例4の断熱シートにおける基材に対するバインダーの伸び比は、1.8である。
【0041】
[実施例5]
断熱層用塗料の製造において、バインダーおよびシリカエアロゲルに加えて、増粘剤としてのCMC(重量平均分子量38万)を添加した点以外は、実施例1と同様にして、実施例5の断熱シートを製造した。CMCの添加量は、バインダーの100質量部に対して3質量部とした。
【0042】
[実施例6]
断熱層用塗料の製造において、バインダーおよびシリカエアロゲルに加えて、補強繊維としてのガラス繊維(繊維径6.5μm)を添加した点以外は、実施例1と同様にして、実施例6の断熱シートを製造した。ガラス繊維の添加量は、バインダーの100質量部に対して16質量部とした。
【0043】
[実施例7]
基材の材質を変更した点以外は、実施例1と同様にして、実施例7の断熱シートを製造した。基材には、ポリイミドフィルム(東レ・デュポン(株)製「カプトン(登録商標)50H/V」、厚さ12.5μm、切断時伸び75%)を使用した。実施例7の断熱シートにおける基材に対するバインダーの伸び比は、5.7である。
【0044】
[実施例8]
基材の材質を変更した点以外は、実施例1と同様にして、実施例8の断熱シートを製造した。基材には、アルミ蒸着PETフィルム((株)麗光製「ダイアラスター(登録商標)」、厚さ12μm、切断時伸び100%)を使用した。アルミ蒸着PETフィルムは、PETフィルム層(樹脂層)とアルミニウム蒸着層(金属層)との積層体であり、断熱層はPETフィルム層側に形成した。実施例8の断熱シートにおける基材に対するバインダーの伸び比は、4.3である。
【0045】
[実施例9]
基材の材質を変更した点以外は、実施例1と同様にして、実施例9の断熱シートを製造した。基材には、PPSフィルム(東レ(株)製「トレリナ(登録商標)#12-3K30」、厚さ12μm、切断時伸び82%)を使用した。実施例9の断熱シートにおける基材に対するバインダーの伸び比は、5.2である。
【0046】
[実施例10]
基材の材質を変更した点以外は、実施例1と同様にして、実施例10の断熱シートを製造した。基材には、セロハンフィルム(フタムラ化学(株)製「PL#300」、厚さ25μm、切断時伸び15%)を使用した。実施例10の断熱シートにおける基材に対するバインダーの伸び比は、28.7である。
【0047】
[実施例11]
使用したシリカエアロゲルのD90を変更した点以外は、実施例1と同様にして、実施例11の断熱シートを製造した。実施例11の断熱シートにおいては、実施例1と同様に粉砕処理したシリカエアロゲルを、目開き210μmの篩を用いて篩かけし、D90が146μmのシリカエアロゲルを使用した。
【0048】
[実施例12]
バインダーを変更し、Tgが-5℃、切断時伸びが280%のアクリル樹脂組成物((株)イーテック製「AE982」)を使用した点以外は、実施例1と同様にして、実施例12の断熱シートを製造した。実施例12の断熱シートにおける基材に対するバインダーの伸び比は、2.0である。
【0049】
[比較例1]
基材の厚さを変更した点以外は、実施例1と同様にして、比較例1の断熱シートを製造した。基材には、厚さ75μmのPETフィルム(東レ(株)製「ルミラー#75」、切断時伸び150%)を使用した。比較例1の断熱シートにおける基材に対するバインダーの伸び比は、2.9である。
【0050】
[比較例2]
バインダーを変更し、Tgが72℃、切断時伸びが87%のウレタン樹脂組成物(第一工業製薬(株)製「スーパーフレックス(登録商標)126)を使用した点以外は、実施例1と同様にして、比較例2の断熱シートを製造した。比較例2の断熱シートにおける基材に対するバインダーの伸び比は、0.6である。
【0051】
<断熱シートの評価>
製造した断熱シートについて、断熱層の状態、曲げ性、および断熱性を評価した。
【0052】
[評価方法]
(1)断熱層の状態
断熱層用塗料をコーティングし乾燥させた直後の断熱層の表面を目視で観察し、クラックの有無、ならびにクラックが有る場合にはその大きさおよび深さを確認した。そして、断熱層の状態について、クラックが無い場合を極めて良好(後出の表1の評価欄に◎印で示す)、クラックは有るが小さく、表面からの深さが断熱層の厚さの90%未満の場合を良好(同欄に○印で示す)、大きなクラックが有り、表面からの深さが断熱層の厚さの90%以上の場合を不良(同欄に×印で示す)、と評価した。
【0053】
(2)曲げ性
図2に、曲げ性の評価に使用した実験装置の概略断面図を示す。
図2に示すように、実験装置5は、断熱シート50と、丸棒部材51と、重り52と、クリップ部材53と、を備えている。丸棒部材51は、ステンレス鋼製であり、直径50mmの円柱状を呈している。丸棒部材51は、図示しないジグにより、長手方向が水平になるように設置されている。断熱シート50は、幅20mm、長さ300mmの帯状を呈している。断熱シート50は、断熱層を表側にして丸棒部材51に掛けられている。断熱シート50は、丸棒部材51の周面に沿って曲げられている。断熱シート50の長さ方向両端部は、重ね合わされてクリップ部材53により固定されている。断熱シート50の長さ方向両端部には、クリップ部材53を介して重り52が吊り下げられている。重り52の質量は、1kgである。
【0054】
断熱シート50に重り52を吊り下げてから1時間後の断熱層の表面を目視で観察し、クラックの有無、ならびにクラックが有る場合にはその大きさおよび数を確認した。そして、クラックが無い場合を曲げ性に極めて優れる(後出の表1の評価欄に◎印で示す)、クラックは有るが小さく数も少ない場合を曲げ性に優れる(同欄に○印で示す)、クラックが多数有る場合を曲げ性に劣る(同欄に×印で示す)、と評価した。
【0055】
(3)断熱性
図3に、断熱性の評価に使用した実験装置の概略図を示す。
図3に示すように、実験装置6は、断熱シート60と、ホットプレート61と、リング部材62と、接触温度計端子63と、を備えている。断熱シート60は、一辺が100mmの正方形状を呈している。断熱シート60は、断熱層を下側にして、ホットプレート61の上面に載置されている。リング部材62は、ポリアセタール(POM)製であり、高さ20mm、内径80mm、厚さ5mmのリング状を呈している。リング部材62は、断熱シート60の上面(基材側の面)に載置されている。ホットプレート61の温度は85℃に調整されている。
【0056】
断熱シート60をホットプレート61の上面に載置してから5分後に、接触温度計端子63を断熱シート60の上面中心部分に10秒間接触させ、その間の温度を測定した。その後、接触温度計端子63をホットプレート61の上面に10秒間接触させ、その間の温度を測定した。各々において計測された温度のうちの最大値を採用して、次式(i)により温度差(ΔT)を算出した。
ΔT(℃)=(ホットプレート温度の最大値)-(断熱シート温度の最大値) ・・・(i)
算出されたΔTの値により、断熱性を高、中、低の三段階で評価した。すなわち、ΔTが25℃以上の場合は断熱性「高」(後出の表1の評価欄に◎印で示す)、ΔTが15℃%以上25℃未満の場合は断熱性「中」(同欄に○印で示す)、ΔTが15℃未満の場合は断熱性「低」(同欄に×印で示す)、と評価した。
【0057】
[評価結果]
表1に、断熱シートの構成および評価結果をまとめて示す。
【表1】
【0058】
表1に示すように、実施例1~12の断熱シートによると、断熱層の状態も良く、曲げ性に優れ、断熱性も「中」以上で実用性が高いことが確認された。以下に、実施例1の断熱シートを基準にして説明する。実施例2では断熱層の厚さが大きいため、曲げ性は若干低下したが、断熱層は向上した。実施例3では基材の厚さが大きいため、曲げ性が若干低下した。実施例4および実施例12ではバインダーのTgが高く切断時伸びが小さいため、曲げ性が若干低下した。実施例5ではCMCを配合したことにより、断熱層に柔軟性が付与される。このため、断熱層用塗料の乾燥時や断熱シートの湾曲時にクラックが生じにくくなり、断熱層の状態および曲げ性が向上した。実施例6ではガラス繊維を配合した。ガラス繊維は、シリカエアロゲルの周りに物理的に絡み合って存在し、断熱層を補強する役割を果たす。このため、断熱層用塗料の乾燥時や断熱シートの湾曲時にクラックが生じにくくなり、断熱層の状態および曲げ性が向上した。実施例7~10では基材の材質が異なるが、断熱層の状態、曲げ性、断熱性のいずれも実施例1と同等程度であった。実施例11ではD90が大きい、換言すると実施例1よりも粒子径が大きい粒子を含むシリカエアロゲルを使用した。このため、断熱シートの湾曲時に、大粒子が起点となりクラックが発生しやすくなったため、曲げ性が若干低下したと考えられる。このように、本開示の断熱シートは、薄く、断熱性は勿論、曲げ性などの柔軟性に優れることが確認された。
【0059】
他方、比較例1では基材の厚さが50μmより大きい。このため、断熱層用塗料の乾燥時に基材側からの加熱が充分ではなく、塗膜中の熱の伝わり方にむらが生じてしまう。このため、乾燥時に塗膜が膨れてしまい、塗膜(断熱層)にクラックが多く発生した。また、基材が厚いため、剛性が大きくなり湾曲しにくくなった。このため、湾曲時に断熱層に加わる応力が大きくなり、クラックが多く発生した。結果、断熱層における熱移動が大きくなり断熱性は低下した。比較例2ではTgが高く切断時伸びが小さいバインダーを用いており、基材に対するバインダーの伸び比も小さい。このため、断熱層は柔軟性に乏しく、乾燥後においても湾曲時においてもクラックが多く発生した。結果、断熱層における熱移動が大きくなり断熱性は低下した。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本開示の断熱シートは、自動車分野、物流分野、住宅分野、産業機器分野、情報通信機器分野などにおける様々な部品、部材に適用することができる。自動車分野としては、ドアトリム、天井材、インストルメントパネル、コンソールボックス、アームレストなどの内装部品や、ホース、配管などの部材が挙げられる。物流分野としては、食品、医薬品などを搬送する際に使用される断熱容器が挙げられる。住宅分野としては、建材、壁材、屋根裏材、窓のサッシなどが挙げられる。産業機器分野としては、モーター部、センサ部などに使用される断熱部材が挙げられる。情報通信機器分野としては、パソコンやスマートフォンに用いられる断熱部材が挙げられる。これ以外にも、インソールなどの靴用の断熱部材、クーラーボックスなどの日用品にも好適である。
【符号の説明】
【0061】
10:断熱シート、11:基材、12:断熱層、5:実験装置、50:断熱シート、51:丸棒部材、52:重り、53:クリップ部材、6:実験装置、60:断熱シート、61:ホットプレート、62:リング部材、63:接触温度計端子。