(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-26
(45)【発行日】2024-12-04
(54)【発明の名称】電解液シール材料
(51)【国際特許分類】
H01M 50/193 20210101AFI20241127BHJP
H01M 50/191 20210101ALI20241127BHJP
H01M 50/195 20210101ALI20241127BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20241127BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20241127BHJP
C08L 23/16 20060101ALI20241127BHJP
C08L 27/18 20060101ALI20241127BHJP
C09K 3/10 20060101ALI20241127BHJP
H01M 10/0566 20100101ALN20241127BHJP
【FI】
H01M50/193
H01M50/191
H01M50/195
C08K3/04
C08K3/22
C08L23/16
C08L27/18
C09K3/10 Z
H01M10/0566
(21)【出願番号】P 2024507670
(86)(22)【出願日】2023-02-27
(86)【国際出願番号】 JP2023006997
(87)【国際公開番号】W WO2023176394
(87)【国際公開日】2023-09-21
【審査請求日】2024-08-02
(31)【優先権主張番号】P 2022041448
(32)【優先日】2022-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114351
【氏名又は名称】吉田 和子
(72)【発明者】
【氏名】饗庭 貴文
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 昭寛
【審査官】福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-079469(JP,A)
【文献】特開2017-091769(JP,A)
【文献】特開2005-093656(JP,A)
【文献】国際公開第2011/145595(WO,A1)
【文献】国際公開第2004/105160(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/10-50/198
H01M 10/00-10/39
C08L 23/16
C08L 27/18
C08K 3/22
C08K 3/04
C09K 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン・プロピレン系共重合ゴムにPTFEおよび/または二酸化チタンを配合したエチレン・プロピレン系共重合ゴム組成物であって、充填材総量中のPTFEおよび/または二酸化チタンの配合量が10重量%以上である電解液シール材料。
【請求項2】
充填材総量中のPTFEおよび/または二酸化チタンの配合量が45重量%以上である請求項1記載の電解液シール材料。
【請求項3】
エチレン・プロピレン系共重合ゴム組成物が、エチレン・プロピレン系共重合ゴムにPTFEおよび/または二酸化チタンおよびMTカーボンブラックを配合したものである請求項1記載の電解液シール材料。
【請求項4】
MTカーボンブラックが、エチレン・プロピレン系共重合ゴム100重量部当り、150重量部以下の割合で配合された請求項3記載の電解液シール材料。
【請求項5】
エチレン・プロピレン系共重合ゴムが、EPDMである請求項1または3記載の電解液シール材料。
【請求項6】
電池に使用されるシール材の成形材料である請求項1記載の電解液シール材料。
【請求項7】
請求項6記載の電解液シール材料の架橋成形品である電解液シール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解液シール材料に関する。更に詳しくは、電池、電解コンデンサ、電気二重層コンデンサ等に使用されるシール材料として好適に用いられる電解液シール材料に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン・プロピレン共重合ゴム〔EPM〕またはエチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合ゴム〔EPDM〕であるエチレン・プロピレン系共重合ゴムは、耐熱性、耐寒性、耐水性、耐油性などにすぐれているので、各種シール部品(Oリング、ガスケット等)に幅広く用いられている。
【0003】
昨今、自動車電装用途や照明用途などにおいては、電池やコンデンサ等の使用環境が高温化しているため、電池やコンデンサ等自体にも耐熱性が求められている。また、電池やコンデンサ等の寿命を決めるのは、電池やコンデンサ等の内部電解液がゴム封口部からガス状で蒸発することによる特性の低下が主な要因であるが、高温雰囲気下であればある程、電解液の蒸発量も多くなるため、電池やコンデンサ等の耐熱化および長寿命化を図る上からも、気体遮蔽性にすぐれたゴム材料が必要とされる。
【0004】
現在、リチウムイオン電池等に用いられる電解質シール材料としては、高い気体遮蔽性を示し、また電気絶縁性にすぐれていることに加えて、電解液に対して耐性を有することはもちろん、ゴム中の配合物が電解質によって抽出されることによる電池稼働への悪影響を生じさせないことが求められている。具体的には、許容されるゴム配合物抽出量は、5ppmといった極めて少ない量とされる。したがって、ゴム用充填材としては、化学的に安定で、遊離硫黄等が抽出されないMTカーボンブラックのみが、使用可能となっている。
【0005】
また、電池をはじめとした回路の短絡防止のためには、体積固有抵抗が1014Ω・cm以上の絶縁性が要求されるが、EPDMポリマーはこの値を満たすことができることから、リチウムイオン電池等に用いられる電解質シールのゴム材料として用いられている。
【0006】
一方、ゴムに配合される充填材としては、導電性のものと絶縁性のものが存在しており、ゴムに配合される絶縁性の充填材としてはシリカ等が一般的に用いられているものの、電解液から発生するフッ化水素により溶解し、化学的安定性が乏しいことから電解液シール材料には用いることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、高い気体遮蔽性、すぐれた電気絶縁性、電解液に対する耐性に加えて、ゴム中の配合物が電解質によって抽出されることがないといった課題を解決し、リチウムイオン電池等に好適に用いられる電解質シール材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、エチレン・プロピレン系共重合ゴムにPTFEおよび/または二酸化チタンを配合したエチレン・プロピレン系共重合ゴム組成物であって、充填材総量中のPTFEおよび/または二酸化チタンの配合量が10重量%以上である電解液シール材料によって達成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る電解液シール材料は、エチレン・プロピレン系共重合ゴムにゴム用充填材として、電気絶縁性、耐電解液性および耐電解液抽出性を有するPTFEおよび/または二酸化チタンを配合充填剤として所定割合配合することで、所望の絶縁性を満足させ、電池稼働への悪影響を生じさせないといったすぐれた効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
エチレン・プロピレン系共重合ゴムとしては、好ましくはエチレン・プロピレン・非共役ジエン3元共重合ゴムポリマー〔EPDM〕が用いられる。非共役ジエンとしては、ジシクロペンタジエン、1,4-ヘキサジエン、ジシクロオクタジエン、メチレンノルボルネン、ビニルノルボルネン、エチリデンノルボルネン等が少量共重合される。そのムーニー粘度ML1+4(125℃)は、約25~80程度、好ましくは約25~70程度である。ここで、EPDMとしては市販品、例えばJSR製品EP331、三井化学製品EPT-4010M等をそのまま、またはブレンドして用いることができる。
【0012】
エチレン・プロピレン系共重合ゴムに配合される電気絶縁性の充填材としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)および二酸化チタンの少なくとも一種が、充填材総量中の10重量%以上、好ましくはシール材の常態物性の担保といった観点からは45重量%以上の割合で配合されて用いられる。電気絶縁性の充填材が充填材総量中10重量%より少ない割合で用いられると、体積固有抵抗が低くなってしまうようになり、また電気絶縁性の充填材を充填材総量中所定割合用いたとしても、PTFEまたは二酸化チタン以外の充填材、例えば硫酸バリウムやマイカを配合した場合には、後記比較例1~2に示されるように、水に対する耐抽出性などを満足させることができない。ここで、充填材総量とは、電気絶縁性の充填材および導電性充填材の総量を指している。
【0013】
エチレン・プロピレン系共重合ゴムには、さらに導電性充填材として、化学的に安定で遊離硫黄等が抽出されないMTカーボンブラックを、エチレン・プロピレン系共重合ゴム 100重量部当り一般的に150重量部以下、好ましくは50~150重量部、さらに好ましくは75~125重量部の割合で用いることもできる。MTカーボンブラックを所定量配合することにより、得られるシール材の常態物性を担保することができるので、この場合PTFEおよび/または二酸化チタンは、充填材総量中の10~30重量%程度の割合で配合されれば足りる。なお、MTカーボンブラックがこれより多い割合で用いられると、シール性を担保することが難しくなってしまう場合がある。
【0014】
以上の各成分を必須成分とするゴム組成物には、架橋剤として一般的には有機過酸化物が用いられる。有機過酸化物としては、例えば第3ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ第3ブチルパーオキシヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ第3ブチルパーオキシヘキシン-3、第3ブチルクミルパーオキサイド、1,3-ジ第3ブチルパーオキシイソプロピルベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジベンゾイルパーオキシヘキサン、パーオキシケタール、パーオキシエステル等が挙げられる。
【0015】
パーオキシケタールとしては、例えばn-ブチル-4,4-ジ(第3ブチルパーオキシ)バレレート、2,2-ジ(第3ブチルパーオキシ)ブタン、2,2-ジ〔4,4-ジ(第3ブチルパーオキシ)シクロヘキシル〕プロパン、1,1-ジ(第3ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、ジ(3,5,5-トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド、1,1-ジ(第3ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ジ(第3ヘキシルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ジ(第3ブチルパーオキシ)-2-メチルシクロヘキサン等が用いられる。
【0016】
また、パーオキシエステルとしては、例えば第3ブチルパーオキシベンゾエート、第3ブチルパーオキシアセテート、第3ヘキシルパーオキシベンゾエート、第3ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート、第3ブチルパーオキシラウレート、第3ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、第3ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、第3ブチルパーオキシマレイン酸、第3ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート等が用いられる。
【0017】
架橋剤は、エチレン・プロピレン系共重合ゴム100重量部当たり約0.5~10重量部、好ましくは約0.8~5重量部の割合で添加することができる。かかる範囲とすることにより、架橋時に発泡して成形できなくなることを防止でき、また架橋密度が良好となるため十分な物性のものが得やすくなる。
【0018】
さらに、必要に応じて架橋促進剤を含有してもよい。架橋促進剤としては、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、液状ポリブタジエン、N,N’-m-フェニレンジマレイミド、トリメタクリル酸トリメチロールプロパン等を用いることができる。架橋促進剤は、適量配合添加されることにより、架橋効率を向上でき、さらに耐熱性や機械的特性を向上させる。
【0019】
ゴム組成物中には、上記成分以外にも、本発明の目的を阻害しない限り、受酸剤、加工助剤、可塑剤、滑剤、老化防止剤などのゴム工業で一般的に使用されている配合剤が、必要に応じて適宜添加される。
【0020】
ゴム組成物の調製は、各種材料を、例えば一軸押出機、二軸押出機、オープンロール、バンバリーミキサ、ニーダ、高剪断型ミキサ等の混練機を用いて混練することによって行うことができる。
【0021】
それの架橋成形は、約150~220℃で約1~60分間程度行われる一次架橋および必要に応じて行われる約120~200℃で約1~24時間程度行われるオーブン架橋(二次架橋)によって行われる。
【実施例】
【0022】
次に、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、本発明は効果を含めてこの実施例に限定されるものではない。
【0023】
実施例1
EPDM(JSR製品EP331) 60重量部
EPDM(三井化学製品EPT-4010M) 36.5 〃
MTカーボンブラック(キャンカーブ製品Thermax N990) 84 〃
二酸化チタン(石原産業製品タイペークA-100) 10 〃
過酸化物架橋剤(日油製品パークミルD) 3.5 〃
以上の各成分を密閉式ニーダおよびオープンロールで混練し、180℃、6分間の圧縮成形の後、150℃、1時間のオーブン架橋を行い、厚さ2mmのテストピースを得た。得られたテストピースを用いて、常態物性および体積固有抵抗の測定、水抽出試験および電解液浸漬試験が行われた。
常態物性:ISO 37に対応するJIS K6251、
ISO 7619-1に対応する6253準拠
体積固有抵抗:ISO 14309に対応するJIS K6271準拠
二重リング電極法にて印加電圧500Vの条件下で測定
電池をはじめとした回路の短絡防止のためには、
1014Ω・cm以上の絶縁性が要求される
水抽出試験:イオン交換水にテストピースを90℃、70時間浸漬させて
得られた水抽出液について、イオンクロマトグラフィー
を用いてアニオンの定量分析を行い、浸漬させたテスト
ピースの重量に対する検出されたすべてのアニオンの合
計量を評価
電解液シールには、5ppm以下の水抽出性が求められる
電解液浸漬試験:炭酸エチレン/炭酸ジメチル/炭酸エチルメチル=
容積比3/4/3の混合液に、LiPF4濃度が1モル/Lとな
るようにLiPF4を混合し、得られた試験液を用いて、
ISO1817に対応するJIS K6258に準拠して、テストピ
ースを90℃、250時間浸漬させて体積変化率を評価
電解液シールには、10%以下の体積変化率が求めら
れる
【0024】
実施例2
実施例1において、MTカーボンブラック量が70重量部に、二酸化チタン量が16.7重量部に、それぞれ変更されて用いられた。
【0025】
実施例3
実施例1において、MTカーボンブラック量が52.5重量部に、二酸化チタン量が25重量部に、それぞれ変更されて用いられた。
【0026】
実施例4
実施例1において、MTカーボンブラックが用いられず、二酸化チタン量が50重量部に、過酸化物加硫剤量が4.5重量部にそれぞれ変更されて用いられた。
【0027】
実施例5
実施例1において、二酸化チタンの代わりに、PTFE(ダイキン工業製品ルブロンL-5F)14重量部が用いられた。
【0028】
比較例1
実施例1において、二酸化チタンの代わりに、硫酸バリウム(堺化学工業製品バリエースB-54)10重量部が用いられた。
【0029】
比較例2
実施例1において、二酸化チタンの代わりに、マイカ(三信鉱工製品FNSマイカ)10重量部が用いられた。
【0030】
比較例3
実施例1において、MTカーボンブラック量が92重量部に、二酸化チタン量が6.3重量部に、それぞれ変更されて用いられた。
【0031】
比較例4
実施例1において、二酸化チタンが用いられず、MTカーボンブラック量が105重量部に変更されて用いられた。
【0032】
比較例5
実施例5において、PTFE量が6.3重量部に変更されて用いられた。
【0033】
以上の各実施例および比較例で得られた結果は、絶縁性充填剤の割合とともに、次の表に示される。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の電解液シール材料から得られるシール材は、耐電解液性および耐電解液抽出性を示すことから、リチウムイオン電池をはじめニッケル水素電池等の各種電池、電解コンデンサ、電気二重層コンデンサ等に使用されるシール材料として好適に用いられる。