(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-27
(45)【発行日】2024-12-05
(54)【発明の名称】位置覚補助バンド
(51)【国際特許分類】
A41D 20/00 20060101AFI20241128BHJP
A41D 13/00 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
A41D20/00
A41D13/00 115
(21)【出願番号】P 2024074665
(22)【出願日】2024-05-02
【審査請求日】2024-05-02
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000138554
【氏名又は名称】株式会社ユタックス
(73)【特許権者】
【識別番号】523381918
【氏名又は名称】スポーツアーツJAPAN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123021
【氏名又は名称】渥美 元幸
(72)【発明者】
【氏名】宮下 浩二
(72)【発明者】
【氏名】寺本 佑介
(72)【発明者】
【氏名】北野 優子
【審査官】岡澤 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-042971(JP,A)
【文献】特開2007-308861(JP,A)
【文献】特許第2846798(JP,B2)
【文献】特表2022-525378(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D 20/00
A41D 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸縮性を有する素材で形成され、位置覚を補助するために人体に装着される位置覚補助バンドであって、
伸縮性が維持された領域であるバンド本体と、
伸縮性を低下させ
て、装着者に装着箇所の位置覚を認識させる領域である伸縮性低下部とを備え、
前記バンド本体を伸長させるために必要な力である伸長力に対して、前記伸縮性低下部を伸長させるために必要な力である伸長力が2倍以上になって
おり、
前記伸縮性低下部は、位置覚補助バンドの周長に対して10~20%の長さを有している
ことを特徴とする位置覚補助バンド。
【請求項2】
前記バンド本体および前記伸縮性低下部は、伸縮性のある生地が二重に貼り合わされて構成されており、
生地を貼り合わせる接着剤の塗布面積率が、前記バンド本体よりも前記伸縮性低下部が高い
ことを特徴とする請求項1に記載の位置覚補助バンド。
【請求項3】
前記伸縮性低下部は、前記バンド本体よりも伸縮性の劣る素材を前記バンド本体に重ね合わせて構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の位置覚補助バンド。
【請求項4】
前記伸縮性低下部は、前記バンド本体の編組織と異なる編組織で構成されることにより、伸縮性低下部における伸長力が調整されている
ことを特徴とする請求項1に記載の位置覚補助バンド。
【請求項5】
さらに、
前記伸縮性低下部は、伸縮性低下部であることを示す識別子を備える
ことを特徴とする請求項1に記載の位置覚補助バンド。
【請求項6】
前記バンド本体および前記伸縮性低下部は、それぞれ複数個設けられ、前記バンド本体と前記伸縮性低下部とが交互に配置されるとともに、環状に形成した際に一組の伸縮性低下部が対向する位置に配置される
ことを特徴とする請求項1に記載の位置覚補助バンド。
【請求項7】
複数個設けられた伸縮性低下部のうち、伸縮性をさらに低下させた領域である第二伸縮性低下部を備え、
環状に形成した際に一組の第二伸縮性低下部が対向する位置に配置される
ことを特徴とする請求項6に記載の位置覚補助バンド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、身体に装着して位置覚の認識を補助するバンドに関する。
【背景技術】
【0002】
身体の可動域を広げるために、これまでに色々な取り組みがなされている。例えば、特許文献1では、関節の動きを改善するために、関節部に直接貼るテーピングテープを特殊な形状としたものが開示されている。また、特許文献2では、関節周辺にアーチ状の縫製部を設けて、皮膚表面がスムーズに動くようにして可動域を広げる衣服が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-18247号公報
【文献】国際公開第2012/140754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1のテーピングテープでは、各関節にテーピングテープを貼らなければならず、関節の位置によっては一人で貼ることができないという問題がある。加えて、粘着剤によって皮膚に貼り付けるため、肌荒れのおそれがあるという問題もある。
【0005】
また、上記特許文献2の衣服では、可動域を広げたい部位ごとにアーチ状の縫製部を設けなければならないので、加工が複雑になり、製造に手間がかかるという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、上記のような問題点に鑑みなされたものであり、手間をかけることなく簡単に製造することができて、かつ、容易に着用可能で身体の可動域を広げることができる身体可動域拡張具として、位置覚補助バンドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明に係る位置覚補助バンドは、伸縮性を有する素材で形成され、位置覚を補助するために人体に装着される位置覚補助バンドであって、伸縮性が維持された領域であるバンド本体と、伸縮性を低下させた領域である伸縮性低下部とを備え、前記バンド本体を伸長させるために必要な力である伸長力に対して、前記伸縮性低下部を伸長させるために必要な力である伸長力が2倍以上になっていることを特徴とする。
【0008】
ここで、前記バンド本体および前記伸縮性低下部は、伸縮性のある生地が二重に貼り合わされて構成されており、生地を貼り合わせる接着剤の塗布面積率が、前記バンド本体よりも前記伸縮性低下部が高い、とするのが好ましい。
【0009】
また、前記伸縮性低下部は、前記バンド本体よりも伸縮性の劣る素材を前記バンド本体に重ね合わせて構成されている、としてもよい。
【0010】
さらに、前記伸縮性低下部は、前記バンド本体の編組織と異なる編組織で構成されることにより、伸縮性低下部における伸長力が調整されている、としてもよい。
【0011】
そして、さらに、伸縮性低下部であることを示す識別子を備えるのが好ましい。
【0012】
また、前記バンド本体および前記伸縮性低下部は、それぞれ複数個設けられ、前記バンド本体と前記伸縮性低下部とが交互に配置されるとともに、環状に形成した際に一組の伸縮性低下部が対向する位置に配置される、としてもよい。
【0013】
またさらに、複数個設けられた伸縮性低下部のうち、伸縮性をさらに低下させた領域である第二伸縮性低下部を備え、環状に形成した際に一組の第二伸縮性低下部が対向する位置に配置される、としてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る位置覚補助バンドによれば、装着箇所の位置覚が認識しやすくなるので、結果として身体の可動域を広げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施の形態に係る位置覚補助バンドの構成を示す図である。
【
図2】位置覚補助バンドの別の構成例を示す図である。
【
図3】位置覚補助バンドを装着した状態を示す図である。
【
図5】頸椎回旋角度の試験結果を示すグラフである。
【
図9】肩外旋可動域の試験結果を示すグラフである。
【
図10】股関節屈曲筋力の試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る位置覚補助バンドについて詳細に説明する。
【0017】
本発明の実施の形態に係る位置覚補助バンドは、伸縮性のある環状のバンドであり、頭部や、四肢のうちの胴体に近い部位である上腕や大腿部に装着して使用するものである。この位置覚補助バンドを装着することにより、簡単に身体の可動域を広げることができる。
【0018】
位置覚補助バンドは、伸縮自在であることを特徴とするが、その環状のバンドの一部に伸縮性を落とした領域を設けて、頭部や、上腕部、大腿部、胸部等に装着することで、均一な伸縮性のものよりも、身体の可動域をさらに広げることができる。
【0019】
これは環状のバンドを装着することにより、装着箇所の位置覚が認識しやすくなり、結果として身体の可動域を広げることを可能とするものである。また、伸縮性を落とした領域を一部に有する環状のバンドを装着することにより、装着箇所の位置覚がさらに認識しやすくなり、身体の可動域をさらに広げることを可能とするものである。
【0020】
人間には、自分の身体がどのような位置にあり、自分の身体がどのような姿勢でいるかを認識するための感覚である位置覚(身体感覚または身体意識)がある。位置覚は、筋肉や腱、関節包、皮膚などからの情報に基づいて、自分の身体がどのような位置にあり、身体がどのような姿勢でいるのかを認識している。この位置覚は運動をするために必要な身体の情報を脳に提供しており、運動には欠かせない感覚である。例えば脳卒中患者などの脳に疾患のある人は、この位置覚が障害されることで運動がうまくできなくなっている。
【0021】
位置覚補助バンドは、伸縮性のある環状のバンドを頭部や身体の一部、例えば、四肢のうちの胴体に近い部位である、上腕や大腿部等に装着することにより、装着箇所に何らかの刺激(ここでは圧迫による違和感)を与えることにより、位置覚を補助して、脳がバンドを装着した身体の部位の位置や、向きを認識できるようにするものである。
【0022】
さらに、環状のバンドの一部に伸びにくい伸縮性低下部を設けて、伸縮自在であることを特徴とするバンドを装着することにより、装着箇所の一部に何らかの刺激を与えることにより、より位置覚を狭い領域で明確に認識できるようにしている。
【0023】
図1は、本実施形態に係る位置覚補助バンドの構成を示す図である。
【0024】
位置覚補助バンド1は、全体が伸縮性のある素材で構成された環状のバンドであり、バンド本体11と伸縮性低下部12とで構成されている。バンド本体11は、伸縮性のある素材のまま、つまり、伸縮性が維持された状態で構成された領域であり、伸縮性低下部12は、バンド本体11よりも伸縮性が低くなるように構成された領域である。位置覚補助バンド1は、バンド本体11と伸縮性低下部12とがそれぞれ複数箇所、交互に出現するように配置されている。
図1には、環状の位置覚補助バンド1において、2つ一組のバンド本体11をそれぞれが対向するように配置し、2つ一組の伸縮性低下部12をそれぞれが対向するように配置している例が示されている。
【0025】
バンド本体11を構成する伸縮性のある素材とは、例えば、伸縮性のある生地であり、伸縮性のテープや帯状のゴムであってもよい。伸縮性のある素材は、長さ方向と幅方向のいずれにも伸長性(素材の伸びやすさ)を有しており、例えば、試験片幅2.5cmの生地で1.5kg荷重時の長さ方向の伸長性が150%、幅方向の伸長性が110%の生地を用いることができる。なお、ここでの150%は、伸びた部分が元の長さの150%であることを指しており、バンド本体11の全体の長さでいうと2.5倍の長さになっている。
【0026】
伸縮性低下部12は、バンド本体11よりも伸縮性低下部12の伸長性を落とすことにより、伸縮性が低くされている。ここで、伸縮性低下部12における伸長力(伸縮性低下部12を伸長させる時に要する力)が、バンド本体11における伸長力(バンド本体11を伸長させる時に要する力)の2倍以上となるように、伸縮性低下部12の伸長性は落とされている。伸縮性低下部12の伸長性を落とす、つまり、伸縮性低下部12をバンド本体11よりも伸びにくくするために、いくつかの手法が考えられる。
【0027】
例えば、位置覚補助バンド1を2枚の生地を貼り合わせて構成する場合に、生地同士を接着する接着剤を塗布する割合(接着剤の塗布面積率)についてバンド本体11を構成する箇所では低くし、伸縮性低下部12を構成する箇所では高くする。つまり、バンド本体11では生地同士の接着箇所の密度を下げて、生地の伸びを阻害しないようにして伸長性を確保し、伸縮性低下部12では接着箇所の密度を上げて、生地の伸びを規制して伸びにくくする。このように、バンド本体11と伸縮性低下部12とを、接着箇所の密度の変化により構成することができる。
【0028】
この他に、バンド本体11を構成する編組織と、伸縮性低下部12を構成する編組織とを異ならせることにより、伸縮性低下部12の伸長性や伸長力を調整することもできる。つまり、バンド本体11と伸縮性低下部12とを、それぞれの編組織を変えることにより伸縮性低下部12を伸びにくくするよう構成してもよい。
【0029】
また、生地を二重、三重構造として伸縮性低下部12を構成する等、バンド本体11よりも生地の枚数を増やして重ね合わせることにより、伸縮性低下部12を構成してもよい。生地を二重、三重にする場合には、接着や縫製により生地を重ねるのがよく、このとき、重ねる生地は、同じ生地でも良いし、異なる生地であってもよい。
【0030】
伸長性を落とすために伸縮性低下部12を形成する領域に貼り付ける素材は、バンド本体11と同様の伸縮性のある生地の他に、同程度の伸縮性のあるテープ、帯状のゴムやフィルムを用いることができる。また、バンド本体11よりも伸縮性の劣る素材を用いてもよいし、伸縮性のない素材を用いてもよい。
【0031】
位置覚補助バンド1における伸縮性低下部12の領域の大きさは、位置覚補助バンド1を着用する部位により変えるのが好ましいが、位置覚補助バンド1の周長に対して概ね10~20%の長さとするのが好ましい。例えば、位置覚補助バンド1の周長が40cmであるとすれば、概ね3~7cmの長さの領域とするのが好ましい。また、幅方向については、位置覚補助バンド1の幅に対して概ね30~100%の幅とするのが好ましい。例えば、位置覚補助バンド1の幅が3cmであるとすれば、概ね1~3cmの幅とするのが好ましい。もちろん、位置覚補助バンド1の周長や幅は使用部位や着用者の体型によって変わる。例えば、上腕部などに用いる位置覚補助バンド1は2.5cmの幅とし、胸部に用いる場合は5cmの幅とする等と使い分けるのがよい。
【0032】
また、位置覚補助バンド1における伸縮性低下部12の領域の大きさ(周長や幅)を調整することで、伸縮性低下部12の伸びにくさを調整してもよい。
【0033】
図2は、位置覚補助バンドの別の構成例を示す図である。
【0034】
位置覚補助バンド2は、バンド本体21よりも伸びにくい箇所として伸縮性低下部22と第2伸縮性低下部23とを備えている。そして、伸縮性低下部22と第2伸縮性低下部23とで伸長性に差が設けられており、例えば、伸縮性低下部22よりも第2伸縮性低下部23が伸びにくくなっている。伸縮性低下部22よりも第2伸縮性低下部23を伸びにくくする手法として、上述したような、接着箇所の密度や編組織の変更、重ね合わせる生地の枚数の増加、伸縮性低下部23の領域の大きさの調整などを用いることができる。なお、製造の手間やコストを考慮すると、伸縮性低下部22よりも伸縮性低下部23の周長や幅を大きくして伸縮性低下部23の領域を調整することにより、伸縮性低下部22と第2伸縮性低下部23との伸長性に差をつけるのが好ましいといえる。
【0035】
このように構成された位置覚補助バンド1は、例えば、頭部用バンドとして頭部に装着して用いられる。
図3は、位置覚補助バンドを頭部に装着した状態を示す図である。
図3に示すように、位置覚補助バンド1を頭部に装着したとき、伸長性を落とすことにより伸縮性を低下させた領域である伸縮性低下部12が頭部の正面側と背面側とに位置するように装着する。これにより、位置覚補助バンド1の装着者は、位置覚が認識しやすくなり、身体の可動域を広げることができるようになる。このとき、着用者が位置覚補助バンド1における伸縮性低下部12の位置を認識できるようにするため、伸縮性低下部12であることを示す識別子を伸縮性低下部12に付すのが好ましい。識別子としては、何らかの記号を印として付してもよいし、当該部分の生地の色を変更する等してもよい。
【0036】
以下、実施例を説明する。
【0037】
位置覚の精度は指鼻試験というテストで確認できる。指鼻試験とは、閉眼状態で上肢を肘伸展位での水平位状態から人差し指で自分の鼻を正確に触ることができるかを確認するものである。正確に触ることができることは自分の身体を正確に把握できていることを示す。これを右、正面、左の3方向から行い、正確に鼻先に触れることができた回数で正確性を表示する。閉眼することで視覚に頼らず、空間において自分の身体がどこにあるかを認識できる能力、つまり、位置覚を測ることができる。
【0038】
この指鼻試験を下記の実施例1、実施例2および比較例1について行い、それぞれの場合における位置覚を評価した。
【0039】
実施例1では、1.5kg荷重時の長さ方向の伸長性が150%、幅方向の伸長性が110%の2ウェイの生地、2枚を接着剤にて貼り合わせて頭部装着用の位置覚補助バンドを作成した。接着剤は直径約2mmでドット状に塗布し、伸長性を落とすことにより伸縮性を低くした領域(伸縮性低下部)における接着剤は塗布面積率58%とし、残りの部分(バンド本体)は、中央部の塗布面積率を14%とし、生地端部は剥がれ防止のため塗布面積率を40%とした。バンドの周長は40cmとし、伸縮性低下部の長さは5cmとした。バンドの幅は3cmとした。伸縮性低下部は位置覚補助バンドにおいて対向した位置となるよう2ヵ所作成した。伸縮性低下部を50%伸長させる時に要する力(伸長力)は3447gf、他の部分の伸長力は995gfで、伸縮性低下部の伸長力をその他の部位の約3.5倍とした。なお、実施例1において、伸縮性を低くした領域(伸縮性低下部)を伸長させるために必要な力である伸長力は、他の部分(バンド本体)を伸長させるために必要な力である伸長力の約3.5倍としているが、実験では2倍の差をつけたものでもその効果は確認できている。
【0040】
作成した頭部用の位置覚補助バンドを伸縮性低下部が頭部の前後に位置するように装着して、指鼻試験を行った。
【0041】
実施例2では、実施例1と概ね共通しており、位置覚補助バンドを均等に4分割し、その前後左右の4ヵ所に伸縮性低下部を作成した点が異なる。
【0042】
作成した頭部用の位置覚補助バンドを伸縮性低下部が頭部の前後左右に位置するように装着して、指鼻試験を行った。
【0043】
比較例1として、頭部に何も装着せずに、指鼻試験を行った。
【0044】
【0045】
【0046】
指鼻試験の被験者は16人である。
図4に示すように、頭部用の位置覚補助バンドを装着した場合、実施例1および実施例2のいずれにおいて、頭部に何も装着しない比較例1の場合より有意に正答数が高かった。つまり、伸縮性を低くした領域のある頭部用の位置覚補助バンドを装着することで頭部の位置覚を認識しやすくなっていることが示された。
【0047】
表1に示す各被験者の結果をみると、被験者D,L,M,Nは頭部に何も装着しない場合は0点または1点であり、位置覚が非常に悪かった。しかしながら、実施例1および実施例2の頭部用の位置覚補助バンドを装着することで頭の位置がわかりやすくなり、鼻先の位置がイメージしやすくなったとの感想を述べた。このことも頭部用の位置覚補助バンドの装着による効果を示している。
【0048】
頭部用の位置覚補助バンドを装着することで頭部の位置覚がわかりやすくなる。そのことが運動にどのような影響を及ぼすのかを第2の試験によって示す。
【0049】
第2の試験として、座位にて体幹を固定した状態で、頭部を右に回旋する運動(右に顔を向ける:運動学的には頚椎右回旋運動と表現)の可動域を測定する頸椎回旋角度試験を行った。頸椎回旋角度試験では、正面を向いた状態を0度とし、頭部が真横に向いた状態を90度とする。
【0050】
上記の指鼻試験における実施例1および比較例1に加えて、比較例2として、市販されている汗止めバンドで全周が同じ強度になっているものを装着した。
【0051】
比較例1、実施例1、比較例2、比較例1の順に試験を行った。
【0052】
試行順のバイアスの影響がないことを示すために、最後にもう一度、比較例1で試験を行っている。最後の比較例1を比較例1(2回目)とする。
【0053】
【0054】
被験者9人である。実施例1と比較例2は、何も装着していない比較例1よりも、ともに有意に頚椎回旋角度が増加した。つまり、頭部にバンド状のものを装着すると位置覚がよりわかりやすくなり、運動しやすくなることが証明された。つまり、運動する際に、頭部の位置が認識できることで、安心して身体を動かせる状態になることが示されている。
運動は感覚のフィードバックを常に受けながら遂行されるため、頭部に刺激があることが頭部の運動範囲を広げたと考えられる。ただし、統計量(「装着なし」の比較例1と実施例1と比較例2との差の程度)は実施例1が5.72で、比較例2が3.99であり、実施例1の方がかなり大きく、実施例1の効果の方がより高いことが示された。つまり、位置覚を刺激する感覚刺激は一定であるより、強弱が付けられている方がより感覚を刺激しやすく、効果的であることが示されたといえる。
【0055】
また、測定順のバイアスを考慮して、最後に再度、比較例1「装着なし」(2回目)で測定した結果と比較すると、実施例1は有意に高値を示した。比較例2の市販されている頭部用汗止めバンドは「装着なし」(2回目)より高い傾向はあるが、有意な差ではなかった。このことからも、本発明の実施例1は着用することで効果があり、なおかつ市販のものより効果が高いことが示されているといえる。
【0056】
次に、頭部自体の運動でなく、頭部も含んだ全身運動への頭部用位置覚補助バンドの装着による影響を示すべく、第3の試験を行った。第3の試験の運動課題は、立位体前屈である。立位体前屈は頭部が正面を向いた状態から足下に向かう運動であり、頭部の位置が大きく変化する。そのため頭部の位置覚が運動に大きな影響を与えると考えられる。
【0057】
比較例1、実施例1、比較例2、比較例1の順に試験を行った。
【0058】
試行順のバイアスの影響がないことを示すために、最後にもう一度、比較例1で試験を行っている。最後の比較例1を比較例1(2回目)とする。
【0059】
【0060】
足裏の位置を0として、足裏より下になる方向を正とした。
【0061】
実施例1と比較例2は、着用のない比較例1よりも、ともに有意に体前屈量が増加した。このように頭部が大きく移動する運動では頭部の位置覚の認識がより重要になる。頭部の位置が認識しやすくなることで、運動量が増加したと考えられる。ただし、統計量(「装着なし」の比較例1と実施例1と比較例2との差の程度)は実施例1が5.93で、比較例2が3.56であり、実施例1の方が非常に大きい効果の高さが示された。
【0062】
また、比較例1の2回目で測定した結果と比較すると、実施例1は有意に高値を示した。比較例2は比較例1の2回目より高い傾向はあるが、有意な差ではなかった。このことから本発明の実施例1は着用することで効果があり、なおかつ伸びが均等の比較例2のものより効果が高いことが示されているといえる。
【0063】
これまでの試験により、全く伸縮性低下部を有しないバンドよりも、伸縮性低下部を2ヵ所または4ヵ所設けた位置覚補助バンドにより、位置覚が補助され、身体の可動域を広げる効果があることを証明したが、伸縮性低下部が1ヵ所の場合でも、同様な効果があることが、立位体前屈の試験より判明している。
【0064】
図7は立位体前屈の試験結果を示す図である。
実施例3は、実施例1および実施例2と概ね共通しており、位置覚補助バンドの伸縮性低下部を1ヵ所のみ設け、伸縮性低下部が前頭部に位置するように頭に装着して試験を行ったものである。
【0065】
実施例4は、実施例3と同様の構成で、伸縮性低下部が後頭部に位置するように頭に装着して試験を行ったものである。
【0066】
図7に示されるように、比較例1よりも実施例3、実施例4、実施例2の方が身体がよく曲がっている。
図6における比較例1の数値は5cmである。
図6に合わせて数値で表現すると、
図7の実施例3は10.9cm、実施例4は8.1cm、実施例2は8.8cmであった。実施例3の方が、実施例2より良い結果となっているが、実施例4は、実施例2よりも、僅かに悪い結果となっている。我々の検証結果からは、伸縮性を落とした領域は身体の動く方向によって、より適した箇所があることが分かっている。位置覚を研ぎ澄ますには適切な場所を圧迫するように位置覚補助バンドの伸縮性を落とした領域が位置するように着用するのが好ましい。ただし、実際の運動の場面では、様々な方向へ身体を動かすため、実施例1や実施例2のように伸縮性を落とした領域を2ヵ所や4ヵ所にしたものを着用することが好ましい。ただ、トレーニングなどでは、実施例3や、実施例4のように伸縮性を低くした領域を1ヵ所にしたバンドを使用した方が、効果が最大限に発揮される。
【0067】
位置覚補助バンドを身体の別の部位に装着した場合についても試験を行った。
【0068】
【0069】
肩外旋可動域の試験では、実施例5の位置覚補助バンドを上腕部近辺に装着し、腕を90度曲げて、前腕部と上腕部とが地面と水平になる状態から、前腕部を上方向へ回転させ、最大の回転角度を計測した。なお、実施例5は、実施例2と概ね共通しており、バンドの長さを22cmとした点が異なるものである。
【0070】
図9は、肩外旋可動域の試験結果を示すグラフである。
図9に示されるように、バンドを装着していない状態では、119.3度、実施例5の位置覚補助バンドを上腕部近辺に装着した場合は、123.8度であった。
【0071】
実施例5の位置覚補助バンドを上腕部近辺に装着することにより、上腕部に部分的な圧迫が発生し、意識しやすくなることで、腕の可動域を最大限に活用できるようになったと考えられる。
【0072】
実施例6として、実施例2と同様の構成でバンド幅のみ5cmとした位置覚補助バンドを作成し、大腿部近位に装着して股関節屈曲筋力を測定する試験を行った。
図10は、股関節屈曲筋力の試験結果を示すグラフである。
【0073】
バンドを装着していない場合の股関節屈曲筋力は202.3N・mであり、実施例6の位置覚補助バンドを装着した場合の股関節屈曲筋力は222.8N・mとなり、大腿部をより良く動かせていることが分かる。
【0074】
以上、本発明に係る位置覚補助バンドについて、実施の形態に基づいて説明したが本発明はこれに限定されるものではなく、本発明の目的を達成でき、かつ発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々設計変更が可能であり、それらも全て本発明の範囲内に包含されるものである。
【0075】
例えば、上記実施の形態では、位置覚補助バンドを環状のバンで説明したが、環状でなくてもよく、例えば、直線的なテープ状のものの両端部に面ファスナーを取り付け、着用する際に面ファスナー同士を接着させて環状になるようにしてもよい。この場合に、面ファスナーの接着部を伸縮性低下部として機能させるとしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明に係る位置覚補助バンドは、身体の可動域を広げるための身体可動域拡張具として好適である。
【符号の説明】
【0077】
1,2 位置覚補助バンド
11,21 バンド本体
12,22 伸縮性低下部
23 第2伸縮性低下部
【要約】
【課題】 手間をかけることなく簡単に製造することができて、かつ、容易に着用可能で身体の可動域を広げることができる身体可動域拡張具として、位置覚補助バンドを提供する。
【解決手段】 伸縮性を有する素材で形成され、位置覚を補助するために人体に装着される位置覚補助バンドであって、伸縮性が維持された領域であるバンド本体11と、伸縮性を低下させた領域である伸縮性低下部12とを備え、バンド本体11を伸長させるために必要な力である伸長力に対して、伸縮性低下部12を伸長させるために必要な力である伸長力が2倍以上になっていることを特徴とする。
【選択図】
図1