(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-27
(45)【発行日】2024-12-05
(54)【発明の名称】工業炉
(51)【国際特許分類】
F27B 5/08 20060101AFI20241128BHJP
F27D 7/04 20060101ALI20241128BHJP
F27D 9/00 20060101ALI20241128BHJP
F27B 5/18 20060101ALI20241128BHJP
F27D 21/00 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
F27B5/08
F27D7/04
F27D9/00
F27B5/18
F27D21/00 G
(21)【出願番号】P 2023077925
(22)【出願日】2023-05-10
【基礎とした実用新案登録】
【原出願日】2020-08-19
【審査請求日】2023-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】591159619
【氏名又は名称】島津産機システムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【氏名又は名称】前田 治子
(72)【発明者】
【氏名】中井 祐斗
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-049694(JP,A)
【文献】特開平04-026723(JP,A)
【文献】特開2005-121308(JP,A)
【文献】特開2009-216344(JP,A)
【文献】特開2006-010097(JP,A)
【文献】特開2011-208821(JP,A)
【文献】特開昭56-034087(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27D 7/00 - 15/02
F27D 17/00 - 99/00
F27B 5/08、5/18
C21D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力容器と、
前記圧力容器の内部空間に配置され、開口を備えた断熱容器本体および該開口を開閉する断熱容器蓋を備えた断熱容器と、
前記断熱容器の内部空間に配置されたヒータと、
前記圧力容器の内部空間に配置されたファンと、
前記圧力容器の内部空間において、ガスの温度を計測する温度計と、
前記温度計で計測された温度に応じて断熱容器蓋を移動させ、該断熱容器蓋で断熱容器本体の開口を開閉させる駆動装置と、
を含み、
前記圧力容器が内壁および外壁を備え、該内壁と外壁の間に冷却液が流れており、
前記ガスが内壁と断熱容器本体の間を流れた後にファンに到達する、工業炉。
【請求項2】
圧力容器と、
前記圧力容器の内部空間に配置され、開口を備えた断熱容器本体および該開口を開閉する断熱容器蓋を備えた断熱容器と、
前記断熱容器の内部空間に配置されたヒータと、
前記圧力容器の内部空間に配置されたファンと、
前記圧力容器の内部空間において、ガスの温度を計測する温度計と、
前記温度計で計測された温度に応じて断熱容器蓋を移動させ、該断熱容器蓋で断熱容器本体の開口を開閉させる駆動装置と、を含み、
前記温度計で計測された温度が第1閾値よりも高い場合、前記駆動装置が断熱容器蓋で断熱容器本体の開口を閉じ、
前記温度計で計測された温度が前記第1閾値よりも低い場合、前記駆動装置が断熱容器蓋で断熱容器本体の開口を開け、当該断熱容器による前記開口の開閉を繰り返しながら前記温度計で計測される温度を低下させていく、工業炉。
【請求項3】
圧力容器と、
前記圧力容器の内部空間に配置され、開口を備えた断熱容器本体および該開口を開閉する断熱容器蓋を備えた断熱容器と、
前記断熱容器の内部空間に配置されたヒータと、
前記圧力容器の内部空間に配置されたファンと、
前記圧力容器の内部空間において、ガスの温度を計測する温度計と、
前記温度計で計測された温度に応じて断熱容器蓋を移動させ、該断熱容器蓋で断熱容器本体の開口を開閉させる駆動装置と、を含み、
前記温度計で計測された温度が第1閾値よりも高い場合、前記駆動装置が断熱容器蓋で断熱容器本体の開口を閉じ、
前記温度計で計測された温度が第2閾値よりも低い場合、前記ファンが回転し、
前記第1閾値よりも第2閾値が低い
、工業炉。
【請求項4】
圧力容器と、
前記圧力容器の内部空間に配置され、開口を備えた断熱容器本体および該開口を開閉する断熱容器蓋を備えた断熱容器と、
前記断熱容器の内部空間に配置されたヒータと、
前記圧力容器の内部空間に配置されたファンと、
前記圧力容器の内部空間において、ガスの温度を計測する温度計と、
前記温度計で計測された温度に応じて断熱容器蓋を移動させ、該断熱容器蓋で断熱容器本体の開口を開閉させる駆動装置と、
を含み、
前記ガスの流れる方向を決めるフードを含
み、
前記フードの上部に形成された孔を含む、工業炉。
【請求項5】
前記フードにおける断熱容器のある側に空間を空けて孔を覆い、該フードにおける孔よりもファンのある部分に取り付けられたガードを備えた請求項
4の工業炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業炉に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属または磁性材料などからなる被処理物を減圧または加圧環境下で熱処理している。たとえば、下記の特許文献1に開示される工業炉は、真空炉、断熱容器、加熱部および蓋部を備える。真空炉の中に断熱容器が備えられる。断熱容器の中に加熱部が備えられ、断熱容器の中で被処理物が加熱処理される。断熱容器には2つの開口が形成されており、それぞれの開口が蓋部で開閉される。
【0003】
真空炉の中にファンが備えられる。被処理物の加熱処理終了後、断熱容器の開口が開けられ、ファンによってガスが循環される。ガスを循環させて被処理物を冷却する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、高温のガスによってファンなどの部品が消耗する。ファンなどの部品の消耗を避けるために、断熱容器の蓋を閉じたままにすると、被処理物の冷却時間が長くなる。
【0006】
そこで本発明の目的は、ファンなどの部品の消耗を抑制し、被処理物の冷却時間を早くできる工業炉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題を解決すべく、本発明に係る工業炉は、以下に述べるような構成を有する。
【0008】
本発明の工業炉は、圧力容器と、前記圧力容器の内部空間に配置され、開口を備えた断熱容器本体および該開口を開閉する断熱容器蓋を備えた断熱容器と、前記断熱容器の内部空間に配置されたヒータと、前記圧力容器の内部空間に配置されたファンと、前記圧力容器の内部空間において、ガスの温度を計測する温度計と、前記温度計で計測された温度に応じて断熱容器蓋を移動させ、該断熱容器蓋で断熱容器本体の開口を開閉させる駆動装置とを含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、温度計の温度に応じて断熱容器本体の開口を開閉するため、高温のガスをファンに当てないようにできる。ファンの消耗を抑制することができる。ガスの温度が低くなればファンを回転させて被処理物を一気に冷却することができ、冷却時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】
図1の圧力容器およびその中の部品を拡大した図である。
【
図3】断熱容器蓋およびマッフル蓋を開けた図である。
【
図4】断熱容器蓋およびマッフル蓋を開けてファンを回転させた図である。
【
図5】温度計で計測される温度を示すグラフである。
【
図6】熱交換器を備えた工業炉の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の工業炉について図面を参照して説明する。複数の実施形態を説明するが、異なる実施形態であっても同じ手段には同一の符号を付して説明を省略する場合がある。
【0012】
[実施形態1]
図1、
図2に示す本願の工業炉10は、容器状の圧力容器12、その圧力容器12の内部空間14に配置された断熱容器16、その断熱容器16の内部空間18に配置されたヒータ20、被処理物22が収容されるマッフル(インナーケース)24、ガス源26、そのガス源26から圧力容器12の内部空間14または断熱容器16の内部空間18およびマッフル24の内部空間28をつなぐ供給パイプ30、排気ポンプ32、その排気ポンプ32とマッフル24の内部空間28をつなぐ第1排気パイプ34、排気ポンプ32と圧力容器12の内部空間14または断熱容器16の内部空間18をつなぐ第2排気パイプ36、圧力容器12の内部空間14に配置されたファン38、圧力容器12の内部空間14でガスの温度を計測する温度計40を備える。
【0013】
工業炉10は、被処理物22に対して焼結、半焼結、焼成、脱脂、脱ガス、ろう付け、メタライズ、焼き入れ、容体化処理、焼戻し、焼きなましまたは時効熱処理などをおこなうための装置である。
【0014】
[圧力容器]
図2に示すように、圧力容器12は圧力容器本体42および圧力容器蓋44を備える。圧力容器本体42は筒状になっていて、その両端が開口している。圧力容器蓋44は圧力容器本体42の両端の開口を開閉するものである。圧力容器本体42の両端を圧力容器蓋44で閉じると、圧力容器12の内部空間14は気密にされた空間になる。圧力容器12の内部空間14は減圧されたり、加圧されたりする。
【0015】
圧力容器12は内壁46と外壁48からなる二重構造である。内壁46と外壁48の間を冷却液が流れる。工業炉10は、内壁46と外壁48の間に冷却液を供給するための給液ポンプ(図示省略)を備えてもよい。
【0016】
[断熱容器]
断熱容器16は圧力容器12の内部空間14に配置されている。断熱容器16は断熱容器本体50および断熱容器蓋52を備える。断熱容器本体50は筒状になっていて、その両端は開口している。断熱容器蓋52は断熱容器本体50の両端の開口を開閉するものである。断熱容器16はグラファイトフェルトまたはグラファイトフォイルなどの耐熱性材料で構成される。
【0017】
[駆動装置]
圧力容器蓋44が閉じた状態で断熱容器蓋52が開閉できるように、断熱容器蓋52の駆動装置54を備える。たとえば駆動装置54は空圧シリンダーまたは液圧(油圧)シリンダーなどの装置を含む。駆動装置54は圧力容器蓋44に取り付けられている。たとえばピストンロッド56の先端が断熱容器蓋52に固定されている。ピストンロッド56がシリンダー58に出し入れされることによって断熱容器蓋52が移動する。断熱容器本体50の開口が開閉される。
【0018】
駆動装置54は温度計40で計測された温度によって断熱容器蓋52を移動させる。温度計40で計測された温度が第1閾値よりも高ければ断熱容器蓋52で断熱容器本体50の開口を閉じ、第1閾値未満であれば断熱容器蓋52で断熱容器本体50の開口を開ける。第1閾値はファン38などの部品の耐熱温度よりも高い温度のガスがファン38などに当たらないように考慮して決定する。上記の冷却液で冷却されたガスがファン38などに到達したときに、ガスの温度が耐熱温度よりも低くなるように第1閾値を決定する。したがって、第1閾値はファン38などの耐熱温度よりも高い場合がある。
【0019】
[ヒータ]
断熱容器16の内部空間18に複数のヒータ20が配置されている。ヒータ20はグラファイト製のロッドヒータなど種々のヒータを使用できる。ヒータ20の形状は線状または棒状になっている。複数本のヒータ20がマッフル24の周囲に配置されている。ヒータ20の端子は絶縁体を介して圧力容器12に取り付けられている。ヒータ20に対して電力供給する回路を備える。ヒータ20に電力供給されることでヒータ20が発熱する。ヒータ20の熱は断熱容器16の内部空間18の中に閉じ込められる。
【0020】
[マッフル]
断熱容器16の内部空間18の中にマッフル24が配置されている。マッフル24はグラファイトなどで構成されている。マッフル24はマッフル本体60とマッフル蓋62を備える。マッフル本体60は筒状になっていて、その両端が開口になっている。マッフル蓋62はマッフル本体60の両端の開口を開閉する。マッフル本体60の両端をマッフル蓋62で閉じることで、マッフル24の内部空間28が密閉される。
【0021】
マッフル蓋62は断熱容器蓋52に取り付けられている。マッフル蓋62は耐熱性の取り付け部材63で断熱容器蓋52に取り付けられてもよいし(
図2、
図3、
図4)、断熱容器蓋52に直接取り付けられてもよい。断熱容器蓋52が移動するとマッフル蓋62も一緒に移動する。断熱容器本体50の開口が閉じられればマッフル本体60の開口も閉じられ(
図2)、断熱容器本体50の開口が開けられればマッフル本体60の開口も開けられる(
図3、
図4)。
【0022】
[被処理物]
マッフル24の内部空間28に被処理物22が配置される。被処理物22は、粉体、粒体または所定形状を有した固体である。被処理物22の材料は、超硬金属、鉄系金属、非鉄金属、磁性材料、セラミックス、グラファイト、ハイス鋼、ダイス鋼または低合金鋼などであり、金属は合金を含む。
【0023】
マッフル24の中に被処理物22が収容されることで、被処理物22を脱脂処理したときに被処理物22から放出される放出物がマッフル24の外に放出されることを低減させる。
【0024】
[ガス源]
ガス源26は窒素、アルゴン、水素、一酸化炭素、ヘリウム、メタンなどを貯蔵、生成またはその両方をおこなう。ガス源26と圧力容器12の内部空間14または断熱容器16の内部空間18およびマッフル24の内部空間28は供給パイプ30で接続されている。供給パイプ30は分岐しており、それぞれにバルブ64、66が設けられている。バルブ64、66の開閉によってガスの流量を制御できる。ガス源26から供給パイプ30を介して圧力容器12の内部空間14または断熱容器16の内部空間18およびマッフル24の内部空間28にガスが導入される。ガス源26を複数にして、複数種のガスを圧力容器12の内部空間14または断熱容器16の内部空間18およびマッフル24の内部空間28に供給してもよい。供給パイプ30を複数設け、複数種のガスが供給されるようにする。なお、断熱容器16は完全に気密にされていないため、圧力容器12の内部空間14または断熱容器16の内部空間18の一方にガスを導入することで、他方にもガスを導入することができる。
【0025】
[排気ポンプ]
排気ポンプ32は圧力容器12の内部空間14または断熱容器16の内部空間18およびマッフル24の内部空間28に対して排気をおこなう。排気ポンプ32とマッフル24の内部空間28は第1排気パイプ34で接続されている。排気ポンプ32と圧力容器12の内部空間14または断熱容器16の内部空間18は第2排気パイプ36で接続されている。排気ポンプ32によって、圧力容器12の内部空間14、断熱容器16の内部空間18およびマッフル24の内部空間28が減圧される。第1排気パイプ34と第2排気パイプ36にはそれぞれバルブ68、70が備えられていて、バルブ68、70の開閉によっても排気を制御することができる。なお、断熱容器16は完全に気密にされていないため、圧力容器12の内部空間14または断熱容器16の内部空間18の一方からガスを排気することで、他方もガスが排気される。
【0026】
被処理物22が脱脂された際に、被処理物22から放出されたガス状のバインダー、粉状または粒状のダスト、またはその両方を含む放出物が放出される。第1排気パイプ34に放出物を捕捉するトラップ72が備えられている。トラップ72はフィンおよびフィルターを含む。フィンは放出物を冷却し、液体にして溜める装置である。液状になった放出物はさらに冷却されて固体になることもある。フィルターは粉状または粒状の放出物を集塵する装置である。放出物が排気ポンプ32まで到達されない。
【0027】
[ファン]
圧力容器12の内部空間14にファン38が備えられる。ファン38の材料はステンレスまたは鉄などである。さらにファン38を回転させるためのモータ74が圧力容器蓋44に取り付けられている。ファン38は、圧力容器蓋44が閉じられており、かつ、断熱容器蓋52が開けられたときに回転する。圧力容器12の内部空間14および断熱容器16の内部空間18をガスが循環する。上記のように断熱容器蓋52が開けられるとマッフル蓋62も開けられ、マッフル24の内部空間28もガスが循環する。
【0028】
ファン38は温度計40で計測された温度が第2閾値よりも低い場合に回転する。第2閾値は第1閾値よりも低い。断熱容器蓋52とマッフル蓋62を開けた状態で第2閾値よりも低くなった時にファン38が回転する。第2閾値は、断熱容器蓋52とマッフル蓋62を常時開けておいてもガスがファン38などの耐熱温度を超えなくなる温度に設定する。
【0029】
断熱容器16の内部空間18およびマッフル24の内部空間28の高温のガスがいきなりファン38に当たらないように、断熱容器16と内壁46の間を通った後にファン38にガスが当たるようにする(
図4の符号W2)。このようにガスが流れる構造のファン38を用いる。
【0030】
[フード]
圧力容器12の内部空間14においてガスの流れる方向を決めるためのフード76、78を備える。フードは第1フード76と第2フード78を備える。第1フード76は断熱容器本体50からファン38に向かって配置されている。第1フード76の材料はステンレスまたは鉄などである。第1フード76はガスが循環する方向を定める。ガスの方向を定められれば第1フード76の形状は限定されない。圧力容器12は二重構造になっており、その内部に冷却液が流れるため、その冷却液によって循環するガスが冷却される。ガスは、断熱容器本体50と内壁46の間を通って冷却された後、ファン38からマッフル24の内部空間28に流れるようにする。冷却されたガスがファン38と第1フード76に触れるため、ファン38と第1フード76の消耗を抑制できる。
【0031】
第1フード76の上部またはその付近に複数の孔80が形成されている。ファン38を回転させずに断熱容器蓋52とマッフル蓋62を開けたときに、断熱容器16の内部空間28とマッフル24の内部空間28にある高温のガスが孔80を通じて温度計40の方に流れる。
【0032】
第1フード76の断熱容器蓋52の側において、空間を開けて孔80を覆うガード82を備える。ガード82は第1フード76に取り付けられ、その取り付けられる部分は孔80よりもファン38のある部分である。断熱容器16とマッフル24の内部空間にある高温のガスが孔80を通過し(
図3)、ファン38によって流されるガスは孔80通過しないようにする(
図4)。
【0033】
第2フード78は、断熱容器16におけるファン38の反対側に配置されている。第2フード78は圧力容器12の内壁46に平行に配置されている。第2フード78によって、断熱容器16の内部空間18から出た高温のガスが第2フード78に沿って進み、その後、第2フード78と内壁46の間を進む(
図4)。ガスが触れる内壁46の面積を増やすことで、ガスの冷却能力を高めている。
【0034】
図3に示すように、第1フード76と第2フード78に高温のガスが当たるため、第1フード76と第2フード78の耐熱温度をファン38の耐熱温度よりも高くすることが好ましい。
【0035】
[温度計]
圧力容器12の内部空間14のガスの温度を計測する温度計40が備えられる。温度計40は熱電対を用いた温度計である。温度計40は圧力容器12の内部空間14の上部のガスの温度を計測する。高温のガスは上昇するためである。圧力容器12の内部空間14、特に内部空間14の上部のガスの温度が監視される。
図1等では温度計40は2つであるが、さらに温度計40の数を増やしてもよい。ガスの温度が第1閾値よりも高ければ、断熱容器蓋52は閉じられ、第1閾値未満であれば断熱容器蓋52は開けられる。高温のガスがファン38などに触れないようにする。ガスの温度が第2閾値よりも低ければファン38が回転する。被処理物22が急速に冷却される。
【0036】
温度計40の数が複数の場合、上記第1閾値と第2閾値は最も高い温度を利用する。圧力容器12の内部空間14の中で最も高い温度を利用して断熱容器蓋52の開閉を制御したりファン38の回転を制御したりすることで、ファン38などに耐熱温度以上のガスを当てない。ファン38などの消耗を抑制できる。
【0037】
[その他]
温度計40の温度が入力され、駆動装置54の駆動を制御する制御装置(図示省略)を備える。制御装置はPLC(Programmable Logic Controller)またはCPU(Central Processing Unit)などの演算回路および駆動装置54を駆動させる回路を備えた装置である。制御装置は上記のように温度が第1閾値よりも高ければ断熱容器蓋52を閉じ、第1閾値未満になれば断熱容器蓋52を開けるように駆動装置を制御する。さらに、制御装置は温度が第2閾値より低くなればファン38を回転させるように駆動装置54を制御する。
【0038】
[熱処理]
次に本願の工業炉10を使用した熱処理について説明する。なお、説明する熱処理は一例であり、被処理物22の種類および処理方法に応じて適宜変更される。
【0039】
(1)マッフル24の内部空間28に被処理物22を収容し、圧力容器蓋44を閉じる。駆動装置54によって断熱容器蓋52を閉じることで、マッフル蓋62も閉じられる。
【0040】
(2)排気ポンプ32を駆動させ、圧力容器12の内部空間14、断熱容器16の内部空間18およびマッフル24の内部空間28からガスを排気する。この排気と同時に、ガス源26から圧力容器12の内部空間14、断熱容器16の内部空間18およびマッフル24の内部空間28にガスを供給し、それらの空間14、18、28を所定のガスで満たす。ガスの供給量と排気量を調整することで、圧力容器12の内部空間14、断熱容器16の内部空間18およびマッフル24の内部空間28を所定圧力にする。
【0041】
(3)ヒータ20に電力供給し、断熱容器16の内部空間18を昇温させる。断熱容器16の内部空間18に配置されたマッフル24が加熱され、さらに被処理物22が加熱される。
【0042】
マッフル24の内部空間28にある被処理物22の温度が上昇し、被処理物22が脱脂される。脱脂するときに、排気ポンプ32を駆動させ、被処理物22から生じた放出物は第1排気パイプ34の途中にあるトラップ72で捕捉される。必要に応じてガス源26からマッフル24の内部空間28にガスを供給する。吸気と排気によってマッフル24の内部空間28を所定の圧力にする。マッフル24の内部空間28以外に圧力容器12の内部空間14と断熱容器16の内部空間18にもガス源26からガスを供給してもよい。
【0043】
(4)被処理物22の脱脂が完了した後、ヒータ20に流す電流の値を変えて、断熱容器16の内部空間18の温度を変える。ヒータ20に流れる電流を増加させ、被処理物22の温度を高める。たとえば、約1500℃以上で被処理物22を熱処理する。
【0044】
(5)被処理物22が熱処理された後、被処理物22を冷却する。温度計40で計測された温度が第1閾値未満の場合に駆動装置54を駆動させて断熱容器蓋52とマッフル蓋62を開ける(
図3)。その際、ファン38は回転しない。断熱容器16の内部空間18とマッフル24の内部空間28から圧力容器12の内部空間14に高温のガスが流れる。ガスの流れは
図3に符号W1の矢印で示す。ガスは断熱容器本体50およびマッフル本体60の両端の開口から圧力容器12の内部空間14に流れる。ガスは高温であるため、上方にガスが流れる。一部のガスが孔80を通って上部に流れる。ガスがファン38に到達しにくくなっている。圧力容器12の内壁46と外壁48の間を冷却液が流れており、ガスが冷却される。
【0045】
温度計40で計測された温度が第1閾値よりも高ければ、駆動装置54を駆動させて断熱容器蓋52とマッフル蓋62を閉じる(
図2)。ファン38、第1フード76および第2フード78などを保護する。
【0046】
断熱容器蓋52とマッフル蓋62の開閉が繰り返されるため、温度計40で計測されるガスの温度は第1閾値T1の付近を上下し、徐々に低下する(
図5)。断熱容器蓋52とマッフル蓋62の開閉間隔が短くなりすぎないように、PID(Proportional Integral Differential)制御によって駆動装置54を制御してもよい。断熱容器蓋52とマッフル蓋62を閉じたままガスの温度が低下するのを待つよりも、断熱容器蓋52とマッフル蓋62の開閉を繰り返すことでガスの冷却速度が速くなっている。
【0047】
断熱容器蓋52が開けられた状態で、温度計40で計測された温度が第2閾値よりも低くなれば、ファン38を回転させてガスを循環させ、被処理物22を冷却させる(
図4)。ガスの流れは
図4に符号W2の矢印で示す。ファン38が回転されているため、ガスの流れが決められる。ガスは、マッフル24の内部空間28、断熱容器本体50と内壁46の間、ファン38の順番で通過し、再びマッフル24の内部空間28に戻される。
【0048】
給液ポンプで内壁46と外壁48の間に冷却液が供給されており、圧力容器12が冷却される。圧力容器12が冷却されることで、ガスが断熱容器本体50と内壁46の間を通過する際、ガスは圧力容器12の内壁46に触れて冷却される。ガスが冷却されることで、被処理物22がガスに触れて冷却される。さらに、高温のガスが直接ファン38と第1フード76に触れることはなく、ファン38と第1フード76の消耗を抑制することができる。ガスの温度が第2閾値T2よりも低くなってファン38が回転することで、マッフル24の内部空間28の中を冷却されたガスが通過し、被処理物22の冷却速度が速くなる(
図5)。
【0049】
冷却する際、ガス源26から圧力容器12の内部空間14、断熱容器16の内部空間18およびマッフル24の内部空間28にガスを導入し、排気ポンプ32によって排気してもよい。ガスによって冷却時間を短縮する。
【0050】
(6)被処理物22が冷却されれば、圧力容器蓋44を開ける。圧力容器蓋44に駆動装置54が取り付けられており、駆動装置54に断熱容器蓋52が取り付けられているため、断熱容器蓋52およびマッフル蓋62も開けられる。被処理物22が外部に開放され、被処理物22を取り出すことができる。
【0051】
以上のように、本願は高温のガスがファン38と第1フード76に到達する前に内壁46と外壁48の間を流れる冷却液によって冷却される。ファン38と第1フード76が熱によって消耗することを抑制できる。ファン38と第1フード76の交換サイクルを長くすることができる。従来に比べてガスの冷却速度が速く、被処理物22の冷却速度も速くなっている。
【0052】
[実施形態2]
実施形態1は第1閾値と第2閾値によって断熱容器蓋52の開閉とファン38の回転を制御ししたが、2つの閾値を使用しなくもよい。たとえば、温度計40の温度が第1閾値未満なれば、断熱容器蓋52を開けるとともにファン38を回転させてもよい。第1閾値よりも高ければ断熱容器蓋52を閉じてファン38の回転も停止させる。
【0053】
[実施形態3]
図6に示すように、ファン38と断熱容器蓋52との間に液冷式の熱交換器90を配置し、その熱交換器90でもガスを冷却してもよい。熱交換器90によってガスの冷却能力が高まり、被処理物22を冷却する時間を短縮できる。ガスが熱交換機90を通過できるように第1フード76の形状を適宜変更してもよい。
【0054】
熱交換器90の位置は断熱容器蓋52とファン38の間に限定されず、ガスが流れる位置であれば、他の位置であってもよい。ガスを冷却することで被処理物の冷却能力が高まり、さらにファン38と第1フード76の消耗を抑制することができる。熱交換機90を設置する場所によっては第2フード78の消耗も抑制することができる。
【0055】
[実施形態4]
圧力容器12の内壁46に凹凸を形成したり、フィンを取り付けたりして内壁46の断面積を広くしてもよい。内壁46で生じる熱交換を大きくする。
【0056】
(第1項)一態様に係る工業炉は、圧力容器と、前記圧力容器の内部空間に配置され、開口を備えた断熱容器本体および該開口を開閉する断熱容器蓋を備えた断熱容器と、前記断熱容器の内部空間に配置されたヒータと、前記圧力容器の内部空間に配置されたファンと、前記圧力容器の内部空間において、ガスの温度を計測する温度計と、前記温度計で計測された温度に応じて断熱容器蓋を移動させ、該断熱容器蓋で断熱容器本体の開口を開閉させる駆動装置とを含む。
【0057】
第1項に記載の工業炉によれば、圧力容器の内部空間のガスの温度に応じて断熱容器本体の開口が開閉されるため、高温のガスをファンに当てないように制御できる。ファンの消耗を抑制できる。ガスが低温になれば断熱容器本体の開口を開けたままにしてファンを回転させることができ、被処理物の冷却を早くすることができる。
【0058】
(第2項)前記圧力容器が内壁および外壁を備え、該内壁と外壁の間に冷却液が流れており、前記ガスが内壁と断熱容器本体の間を流れた後にファンに到達する。
【0059】
第2項に記載の工業炉によれば、ガスを冷却液で冷却させた後にファンに到達させるため、高温のガスをファンに当てない。ファンの消耗が抑制される。
【0060】
(第3項)前記温度計で計測された温度が第1閾値よりも高い場合、前記駆動装置が断熱容器蓋で断熱容器本体の開口を閉じる。
【0061】
第3項に記載の工業炉によれば、ファンの耐熱温度よりも高いガスをファンに当てないようにすることができる。
【0062】
(第4項)前記温度計で計測された温度が第2閾値よりも低い場合、前記ファンが回転し、前記第1閾値よりも第2閾値が低い。
【0063】
第4項に記載の工業炉によれば、ガスの温度がファンの耐熱温度よりも常時低くなればファンを回転させて被処理物を急速に冷却することができる。
【0064】
(第5項)前記ガスの流れる方向を決めるフードを含む。
【0065】
第5項に記載の工業炉によれば、フードによってガスの流れを制御して高温のガスがファンに当たらないようにする。
【0066】
(第6項)前記フードの上部またはその上部付近に形成された孔を含む。
【0067】
第6項に記載の工業炉によれば、ファンが回転していないとき、孔を通してガスが上部に抜けるようにする。
【0068】
(第7項)前記フードにおける断熱容器蓋のある側に空間を空けて孔を覆い、該フードにおける孔よりもファンのある部分に取り付けられたガードを備える。
【0069】
第7項に記載の工業炉によれば、ファンが回転していないときは孔を通してガスが上部に抜け、ファンが回転している場合は孔からガスが通らずに断熱容器の内部空間にガスを入れることができる。
【0070】
(第8項)前記温度計が圧力容器の内部空間の上部のガスの温度を計測する。
【0071】
第8項に記載の工業炉によれば、高温のガスは上昇するため、その高温のガスの温度を温度計で計測することができる。
【0072】
その他、本発明は、その主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づき種々の改良、修正、変更を加えた態様で実施できるものである。説明した各実施形態は独立したものではなく、当業者の知識に基づき適宜組み合わせて実施できるものである。
【符号の説明】
【0073】
10:工業炉
12:圧力容器
16:断熱容器
20:ヒータ
22:被処理物
24:マッフル
26:ガス源
32:排気ポンプ
38:ファン
42:圧力容器本体
44:圧力容器蓋
46:内壁
48:外壁
50:断熱容器本体
52:断熱容器蓋
60:マッフル本体
62:マッフル蓋
76、78:フード
80:孔
82:ガード
90:熱交換器