(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-27
(45)【発行日】2024-12-05
(54)【発明の名称】導電性カーボンの製造方法及び電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20241128BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20241128BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20241128BHJP
H01M 4/04 20060101ALI20241128BHJP
H01G 11/42 20130101ALI20241128BHJP
H01G 11/86 20130101ALI20241128BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/139
H01M4/36 C
H01M4/04 Z
H01G11/42
H01G11/86
(21)【出願番号】P 2020140403
(22)【出願日】2020-08-21
【審査請求日】2023-07-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000228578
【氏名又は名称】日本ケミコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115509
【氏名又は名称】佐竹 和子
(72)【発明者】
【氏名】久保田 智志
(72)【発明者】
【氏名】鯉川 舜
(72)【発明者】
【氏名】石本 修一
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-108234(JP,A)
【文献】特開2011-258348(JP,A)
【文献】特開2019-021427(JP,A)
【文献】特開2019-019014(JP,A)
【文献】特開2016-096125(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M10/00-10/39
H01G11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電デバイスの電極において導電剤として使用されるべき導電性カーボンであって、圧力を受けて糊状に広がる性質を有し、且つ、前記導電性カーボンの電子エネルギー損失スペクトルから求められたSP
2
混成炭素数の全炭素数に対する比率が71.5~76.0%の範囲である導電性カーボンの製造方法であって、
カーボン原料に酸化処理を施すことにより、圧力を受けて糊状に広がる性質を有する酸化処理カーボンを得る、酸化段階、及び、
前記酸化処理カーボンに粉砕処理を施し、但し、該粉砕処理を、得られる導電性カーボンの電子エネルギー損失スペクトルから求められるSP
2混成炭素数の全炭素数に対する比率が71.5~76.0%の範囲になるように実施する、粉砕段階、
を含むことを特徴とする導電性カーボンの製造方法。
【請求項2】
前記粉砕段階において、粉砕処理を、得られる導電性カーボンの電子エネルギー損失スペクトルから求められるSP
2混成炭素数の全炭素数に対する比率が73.0~75.5%の範囲になるように実施する、請求項
1に記載の導電性カーボンの製造方法。
【請求項3】
前記酸化段階において、酸化処理を、得られる酸化処理カーボンにおける親水性部分の含有量が酸化処理カーボン全体の10質量%以上になるように実施する、請求項
1又は
2に記載の導電性カーボンの製造方法。
【請求項4】
蓄電デバイス用の電極の製造方法であって、
請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法によって導電性カーボンを得る、カーボン製造工程、
電極活物質粒子と
前記導電性カーボンとを混合して、前記導電性カーボンの少なくとも一部が糊状に広がって前記電極活物質粒子の表面を被覆している混合物を得る、混合工程、及び、
前記混合物を前記電極のための集電体上に塗布することにより活物質層を形成し、得られた活物質層に圧力を印加して前記導電性カーボンをさらに糊状に広げるとともに緻密化させる、加圧工程
を含むことを特徴とする電極の製造方法。
【請求項5】
前記混合工程において、前記導電性カーボンの導電率より高い導電率を有する別の導電性カーボンをさらに混合し、前記導電性カーボンの少なくとも一部が糊状に広がって前記別の導電性カーボンの表面をも被覆している混合物を得る、請求項
4に記載の電極の製造方法。
【請求項6】
前記混合工程が、
前記導電性カーボンと前記別の導電性カーボンとを混合することにより導電性カーボン混合物を得る、第1の混合段階、及び、
前記導電性カーボン混合物と前記電極活物質粒子とを混合する、第2の混合段階
を含む、請求項
5に記載の電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高いエネルギー密度を有し且つ高温安定性に優れた蓄電デバイスのために用いられる導電性カーボンに関する。本発明はまた、上記導電性カーボンの製造方法及び上記導電性カーボンを用いた蓄電デバイス用の電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池、電気二重層キャパシタ、レドックスキャパシタ及びハイブリッドキャパシタなどの蓄電デバイスは、携帯電話やノート型パソコンなどの情報機器の電源、電気自動車やハイブリッド自動車などの低公害車のモーター駆動電源やエネルギー回生システム等のために広く応用が検討されているデバイスであるが、これらの蓄電デバイスにおいて、高性能化、小型化の要請に答えるために、エネルギー密度の向上が望まれている。
【0003】
これらの蓄電デバイスでは、電解質(電解液を含む)中のイオンとの電子の授受を伴うファラデー反応或いは電子の授受を伴わない非ファラデー反応により容量を発現する電極活物質が、エネルギー貯蔵のために利用される。そして、これらの活物質は一般に導電剤との複合材料の形態で使用される。導電剤としては、通常、カーボンブラック、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンナノチューブ等の導電性カーボンが使用される。これらの導電性カーボンは、導電性の低い活物質と併用されて、複合材料に導電性を付与する役割を果たすが、これだけでなく、活物質の反応に伴う体積変化を吸収するマトリックスとしても作用し、また、活物質が機械的な損傷を受けても電子伝導パスを確保するという役割も果たす。
【0004】
ところで、これらの活物質と導電性カーボンとの複合材料は、一般に活物質の粒子と導電性カーボンを混合する方法により製造される。導電性カーボンは基本的に蓄電デバイスのエネルギー密度の向上に寄与しないため、高いエネルギー密度を有する蓄電デバイスを得るためには、単位体積あたりの導電性カーボン量を減少させて活物質量を増加させる必要がある。そこで、導電性カーボンの分散性を向上させ、或いは、導電性カーボンのストラクチャを低下させることにより、活物質粒子間の距離を接近させて単位体積あたりの活物質量を増加させる検討が行われてきたが、上述のような導電性カーボンを活物質粒子間に効率よく進入させることが困難であり、したがって活物質粒子間の距離を接近させて単位体積あたりの活物質量を増加させることが困難であった。
【0005】
この問題に対し、出願人は、カーボン原料に強い酸化処理を施すことにより得ることができる、圧力を受けて糊状に広がる性質を有する導電性カーボンを蓄電デバイスの電極のために使用することを提案している(特許文献1~15)。ここで、「糊状」とは、倍率25000倍で撮影したSEM写真において、カーボン一次粒子の粒界が認められず、非粒子状の不定形なカーボンがつながっている状態を意味する。
【0006】
従来の蓄電デバイスの電極において導電剤として使用されているカーボンブラック、天然黒鉛、カーボンナノチューブ等の導電性カーボンに圧力を加えても、カーボンの粒子形状は維持される。しかし、これらの導電性カーボンに酸化処理を施すと、粒子の表面から酸化されて、カーボンにヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基、エーテル結合などが導入され、またカーボンの共役二重結合が酸化されて炭素単結合が生成し、部分的に炭素間結合が切断される。さらに酸化処理の強度を強めていくと、圧力を受けて糊状に広がる性質を有する導電性カーボンを得ることができる。
【0007】
この圧力を受けて糊状に広がる性質を有する導電性カーボンは、電極活物質粒子の表面に付着しやすく、また、圧力を受けると一体的に圧縮されて糊状に広がり、ばらばらになりにくいという特徴を有する。そのため、蓄電デバイスの電極のためにこの導電性カーボンと電極活物質粒子とを混合した混合物を得ると、混合の過程で導電性カーボンが活物質粒子の表面に付着して表面を覆い、活物質粒子の分散性を向上させる。上記混合物の製造時に導電性カーボンに及ぼされる圧力が大きいと、導電性カーボンの少なくとも一部が糊状に広がって活物質粒子の表面が部分的に覆われる。そして、電極の集電体上にこの混合物を用いて活物質層を形成し、活物質層に圧力を加えていくと、上記導電性カーボンがさらに糊状に広がって電極活物質粒子の表面を覆いながら緻密化し、活物質粒子が互いに接近し、これに伴って上記導電性カーボンが活物質粒子の表面を覆いながら隣り合う活物質粒子の間に形成される間隙部ばかりでなく活物質粒子の表面に存在する孔(二次粒子において認められる一次粒子間の間隙を含む)の内部にも押し出されて緻密に充填される。そのため、電極における単位体積あたりの電極活物質量が増加し、電極密度が増加する。また、緻密に充填された糊状の導電性カーボンは、導電剤として機能するのに十分な導電性を有するとともに、蓄電デバイス中の電解液の含浸を抑制しない。その結果、蓄電デバイスのエネルギー密度の向上がもたらされる。
【0008】
例えば、特許文献6には、上記導電性カーボンにおける親水性部分の含有量を評価した結果が示されている。ここで、導電性カーボンの「親水性部分」とは、以下の意味を有する。すなわち、pH11のアンモニア水溶液20mLに0.1gの導電性カーボンを添加し、1分間の超音波照射を行ない、得られた液を5時間放置して固相部分を沈殿させる。沈殿せずにpH11のアンモニア水溶液に分散している部分が「親水性部分」である。また、親水性部分の導電性カーボン全体に対する含有量は、以下の方法により求められる。上記固相部分の沈殿後、上澄み液を除去した残余部分を乾燥させ、乾燥後の固体の重量を測定する。乾燥後の固体の重量を最初の導電性カーボンの重量0.1gから差し引いた重量が、pH11のアンモニア水溶液に分散している「親水性部分」の重量である。そして、「親水性部分」の重量の最初の導電性カーボンの重量0.1gに対する重量比が、導電性カーボンにおける「親水性部分」の含有量である。
【0009】
特許文献6には、親水性部分の含有量が導電性カーボン全体の8質量%を超えるように酸化処理の強度を高めると、得られた導電性カーボンを用いて製造された電極の電極密度が増大しはじめ、親水性部分の含有量が導電性カーボン全体の9質量%を超えると、電極密度が急激に増大しはじめ、親水性部分の含有量が導電性カーボン全体の10質量%を超えると、極めて高い電極密度が得られることが示されている(この文献の
図2参照)。この電極密度の向上は、酸化処理の強度を高めるにつれて導電性カーボンに対して圧力を受けると糊状に広がる性質が付与されることに対応している。また、導電性カーボンとしてのアセチレンブラックと正極活物質とを含む正極とリチウム対極とを備えたリチウムイオン二次電池と、アセチレンブラックの半量或いは全量を上述の強い酸化処理により得られた導電性カーボンに置き換えた正極を備えたリチウムイオン二次電池と、を構成して充放電特性を評価すると、後者は前者より優れたレート特性及び充放電サイクル特性を示すことが示されている(この文献の
図6~11,13,14参照)。この改善された充放電サイクル特性は、糊状に広がった導電性カーボンによって電極活物質の表面が被覆されているため、活物質の電解液への溶解が抑制されていることに起因していると考えられる(この文献の表1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2015-079678号公報
【文献】特開2015-079680号公報
【文献】特開2015-079681号公報
【文献】WO2015/056759号
【文献】WO2015/056760号
【文献】WO2015/133586号
【文献】特開2015-181089号公報
【文献】特開2015-181090号公報
【文献】特開2016-001592号公報
【文献】特開2016-096125号公報
【文献】特開2019-019014号公報
【文献】特開2019-021420号公報
【文献】特開2019-021421号公報
【文献】特開2019-021427号公報
【文献】特開2019-200866号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】Surface & Coatings Technology 200(2005)739-743
【文献】Carbon 102(2016)198-207
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献6におけるリチウムイオン二次電池の評価では対極としてリチウムが用いられているが、これは半電池としての評価であると言える。そこで、詳細は後述するが、実用的なリチウムイオン二次電池としての性能を評価すべく、リチウム対極に代えてハードカーボンを含む負極を用いたリチウムイオン二次電池を構成して60℃で放置する高温放置試験を行い、直流内部抵抗(以下、「DCIR」と表す。)の変化を評価したところ、試験後にDCIRが初期値の2.5倍を超えるまでに増加することがわかった(表1の比較例1参照)。
【0013】
ところで、上述したように近年の蓄電デバイスに対しては高エネルギー密度化、小型化が要請されており、高集積状態でも使用可能なように、高温使用下での性能の安定性が要請されている。この要請に対し、圧力を受けて糊状に広がる性質を有する導電性カーボンは、高いエネルギー密度を有する蓄電デバイスを与える点では優れているものの、高温使用下での安定性についてはさらに改善されることが望ましい。
【0014】
そこで、本発明の目的は、高いエネルギー密度を有し且つ改善された高温使用下での安定性を有する蓄電デバイスへと導く導電性カーボン及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明者らは、高いエネルギー密度を有する蓄電デバイスへと導くことが分かっている上述の圧力を受けると糊状に広がる性質を有する導電性カーボンを基礎として検討を進め、上記導電性カーボンに粉砕処理を施すことによる影響を調査した。そして、粉砕処理を施した導電性カーボンと正極活物質とを含む正極とハードカーボンを含む負極とを備えた実用的なリチウムイオン二次電池を構成して60℃で放置する高温放置試験を行い、DCIRの変化を評価したところ、粉砕を強めていくにつれ一旦はDCIRの変化が抑制されるものの、さらに粉砕を強めていくと再びDCIRの変化が増大することがわかった。したがって、改善された高温使用下での安定性を得るためには、適度な粉砕条件を選定する必要があった。
【0016】
発明者らは次に、この適度な粉砕を施すことにより得られる導電性カーボンを、この導電性カーボンに含まれるSP2混成炭素数の全炭素数に対する比率(以下、「SP2比率」という。)で特定することを試みた。粉砕をすればSP2比率が減少すると考えられるから、導電性カーボンの特定のためにSP2比率を有効に利用することができると期待される。
【0017】
非特許文献1及び非特許文献2には、電子エネルギー損失スペクトル(EELS)における炭素のK殻吸収端近傍微細構造(ELNES)からSP
2比率を求める手法が記載されており、具体的には、SP
2比率を求めるべき試料と実質的にSP
2混成炭素のみからなる標準のEELSにおける1S軌道からπ
*軌道への励起に対応する強度
I
π
*
と1S軌道からσ
*軌道への励起に対応する強度
I
σ
*
とを用いて、以下の式(1)によってSP
2比率Xを求めることが記載されている(非特許文献1の式(1)、非特許文献2の式(3)参照)。
【化1】
【0018】
図1は、圧力を受けると糊状に広がる性質を有する導電性カーボンに粉砕を加えることによって得られたカーボンについてEELSを測定した結果の例を示している。本発明では、以下の手法により、式(1)を用いてSP
2比率Xを算出するための
I
π
*
と
I
σ
*
を求めた。まず、SP
2比率を求めるべき試料と標準としてのグラファイトのそれぞれに関してEELSを得、得られたそれぞれのスペクトルについてfourier-ratio deconvolutionを行った。次いで、deconvolution後のEELSの270-294eVの範囲を抜き出し、
ピーク1:283.9-284.1eV,半値幅2.0-2.3eV
ピーク2:286.5-286.7eV,半値幅4.0-5.0eV
ピーク3:289.6-289.1eV,半値幅3.9-4.3eV
ピーク4:293.9-294.1eV,半値幅2.8-3.1eV
の4つの成分について、ガウス/ローレンツ混合関数の波形を用いて、各成分のエネルギー損失と半値幅とが上述した範囲内になるように変動させて最小二乗法により波形分離を行い、波形分離により得られたピーク1の面積を
I
π
*
とした。また、deconvolution後のEELSの292-307eVの間のスペクトルの積分強度を
I
σ
*
とした。292-307eVの間のスペクトルから
I
σ
*
を求めたのは、以下の理由による。発明者らが検討したところ、同じ試料についてEELSを測定しても、310eVよりも高エネルギー側のスペクトルが変化して安定したSP
2比率が算出されなかった。そこで、非特許文献2において安定した
I
σ
*
が得られるエネルギー範囲として推奨されている292eVと307eVの間のスペクトルの積分強度から
I
σ
*
を求めることとした。
【0019】
そして、検討の結果、導電性カーボンのEELSから求められたSP2比率が71.5~76.0%の範囲になるように粉砕すれば、改善された高温使用下での安定性を有する蓄電デバイスへと導く導電性カーボンが得られることがわかった。
【0020】
したがって、本発明は、蓄電デバイスの電極において導電剤として使用されるべき導電性カーボンであって、
圧力を受けて糊状に広がる性質を有し、且つ、
上記導電性カーボンのEELSから求められたSP2比率が71.5~76.0%の範囲である
ことを特徴とする導電性カーボンに関する。
【0021】
本発明はまた、本発明の導電性カーボンの製造方法であって、
カーボン原料に酸化処理を施すことにより、圧力を受けて糊状に広がる性質を有する酸化処理カーボンを得る、酸化段階、及び、
上記酸化処理カーボンに粉砕処理を施し、但し、該粉砕処理を、得られる導電性カーボンのEELSから求められるSP2比率が71.5~76.0%の範囲になるように実施する、粉砕段階、
を含むことを特徴とする導電性カーボンの製造方法に関する。
【0022】
上記導電性カーボンのEELSから求められるSP2比率を71.5~76.0%の範囲に調整することにより、上記導電性カーボンを用いて得られた蓄電デバイスの高温使用下での安定性が改善される。蓄電デバイスの高温使用下での安定性は、SP2比率を73.0~75.5%の範囲に調整することにより、より好ましく改善される。
【0023】
本発明の導電性カーボンにおいて、上記導電性カーボンが親水性部分を含み、該親水性部分の含有量が導電性カーボン全体の10質量%以上であると、導電性カーボンにおける圧力を受けて糊状に広がる性質が顕著になるため好ましい。
【0024】
本発明の導電性カーボンを用いて蓄電デバイスの電極を構成することにより、高いエネルギー密度を有し且つ改善された高温使用下での安定性を有する蓄電デバイスが得られる。そこで、本発明はまた、蓄電デバイス用の電極の製造方法であって、電極活物質粒子と本発明の導電性カーボンとを混合して、上記導電性カーボンの少なくとも一部が糊状に広がって上記電極活物質粒子の表面を被覆している混合物を得る混合工程、及び、上記混合物を上記電極のための集電体上に塗布することにより活物質層を形成し、得られた活物質層に圧力を印加して上記導電性カーボンをさらに糊状に広げるとともに緻密化させる加圧工程、を含むことを特徴とする電極の製造方法に関する。
【0025】
電極に含まれる電極活物質の導電率が低く、電極の導電性の向上が望まれる場合には、上記混合工程において、上記導電性カーボンの導電率より高い導電率を有する別の導電性カーボンをさらに混合し、上記導電性カーボンの少なくとも一部が糊状に広がって上記別の導電性カーボンの表面をも被覆している混合物を得ることが好ましい。この好適な混合物の製造においては、上記混合工程を、上記導電性カーボンと上記別の導電性カーボンとを混合することにより導電性カーボン混合物を得る第1の混合段階、及び、上記導電性カーボン混合物と上記電極活物質粒子とを混合する第2の混合段階、を含む方法により実施すると、得られる電極の導電性がさらに向上するため好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明の導電性カーボンは、活物質粒子の表面に付着しやすく、圧力を受けると一体的に圧縮されて糊状に広がる性質を有するため、蓄電デバイスの電極の製造において、活物質粒子と本発明の導電性カーボンとを含む混合物に圧力を印加すると、その圧力により、本発明の導電性カーボンが糊状に広がって活物質粒子の表面を覆いながら緻密化し、蓄電デバイスのエネルギー密度の向上がもたらされる。また、本発明の導電性カーボンを含む電極を備えた蓄電デバイスは、改善された高温使用下での安定性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】強い酸化処理により得られた導電性カーボンのEELSを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(A)導電性カーボン及びその製造方法
本発明の蓄電デバイスの電極のための導電性カーボンは、圧力を受けて糊状に広がる性質を有し、且つ、上記導電性カーボンのEELSから求められたSP2比率が71.5~76.0%の範囲であることを特徴とする。この導電性カーボンは、カーボン原料に酸化処理を施すことにより圧力を受けて糊状に広がる性質を有する酸化処理カーボンを得る酸化段階、及び、上記酸化処理カーボンに粉砕処理を施し、但し、該粉砕処理を得られる導電性カーボンのEELSから求められるSP2比率が71.5~76.0%の範囲になるように実施する粉砕段階、を含む方法により製造することができる。以下、各段階について詳細に説明する。
【0029】
(1)酸化段階
酸化段階では、導電性を有するカーボン原料に比較的強い酸化処理が施される。使用されるカーボン原料としては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ファーネスブラック、チャネルブラック等のカーボンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバ、グラフェン、無定形炭素、炭素繊維、天然黒鉛、人造黒鉛、黒鉛化ケッチェンブラック、メソポーラス炭素、気相法炭素繊維等の、従来の蓄電デバイスの電極のために導電剤として使用されている導電性カーボンを特に限定なく使用することができるが、酸化の容易性の点から、多孔質炭素粉末、ケッチェンブラック、空隙を有するファーネスブラック、カーボンナノファイバ及びカーボンナノチューブのような空隙を有する導電性カーボンが好ましく、中でも、BET法で測定した比表面積が300m2/g以上の空隙を有する導電性カーボンが好ましく、特に、ケッチェンブラック、空隙を有するファーネスブラックのような球状の導電性カーボンが好ましい。
【0030】
カーボン原料の酸化処理のためには、公知の酸化方法を特に限定なく使用することができる。例えば、酸又は過酸化水素の溶液中でカーボン原料を処理することにより、酸化処理カーボンを得ることができる。酸としては、硝酸、硝酸硫酸混合物、次亜塩素酸水溶液等を使用することができる。また、カーボン原料を酸素含有雰囲気、水蒸気、二酸化炭素中で加熱することにより、酸化処理カーボンを得ることができる。さらに、カーボン原料をアルカリ金属水酸化物と混合して酸素含有雰囲気中で加熱し、水洗などによりアルカリ金属を除去することにより、酸化処理カーボンを得ることができる。また、カーボン原料の酸素含有雰囲気中でのプラズマ処理、紫外線照射、コロナ放電処理及びグロー放電処理、オゾン水又はオゾンガスによる処理、水中での酸素バブリング処理により、酸化処理カーボンを得ることができる。
【0031】
カーボン原料、好ましくは上述した空隙を有するカーボン原料に酸化処理を施すと、カーボン粒子の表面から酸化され、カーボンにヒドロキシル基、カルボキシル基やエーテル結合が導入され、またカーボンの共役二重結合が酸化されて炭素単結合が生成し、部分的に炭素間結合が切断され、粒子表面に親水性に富む部分が生成する。そして、酸化処理の強度を強めていくと、カーボン粒子における親水性部分の割合が増加し、圧力を受けて糊状に広がる性質を有する酸化処理カーボンを得ることができる。酸化処理カーボンにおける親水性部分の含有量は、酸化処理カーボン全体の10質量%以上であるのが好ましい。このような酸化処理カーボンは、圧力を受けると一体的に圧縮されて糊状に広がりやすく且つ緻密化しやすい。
【0032】
全体の10質量%以上の親水性部分を含む酸化処理カーボンは、
(a1)空隙を有するカーボン原料を酸で処理する工程、
(b1)酸処理後の生成物と遷移金属化合物とを混合する工程、
(c1)得られた混合物を粉砕し、メカノケミカル反応を生じさせる工程、
(d1)メカノケミカル反応後の生成物を非酸化雰囲気中で加熱する工程、及び、
(e1)加熱後の生成物から、上記遷移金属化合物及び/又はその反応生成物を除去する工程
を含む第1の製造方法によって、好適に得ることができる。
【0033】
(a1)工程では、空隙を有するカーボン原料を酸に浸漬して放置する。この浸漬の際に超音波を照射しても良い。酸としては、硝酸、硝酸硫酸混合物、次亜塩素酸水溶液等のカーボンの酸化処理に通常使用される酸を使用することができる。浸漬時間は酸の濃度や処理されるカーボン原料の量などに依存するが、一般に5分~5時間の範囲である。酸処理後のカーボンを十分に水洗し、乾燥した後、(b1)工程において遷移金属化合物と混合する。
【0034】
(b1)工程においてカーボン原料に添加される遷移金属化合物としては、遷移金属のハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩等の無機金属塩、ギ酸塩、酢酸塩、蓚酸塩、メトキシド、エトキシド、イソプロポキシド等の有機金属塩、或いはこれらの混合物を使用することができる。これらの化合物は、単独で使用しても良く、2種以上を混合して使用しても良い。異なる遷移金属を含む化合物を所定量で混合して使用しても良い。また、反応に悪影響を与えない限り、遷移金属化合物以外の化合物、例えば、アルカリ金属化合物を共に添加しても良い。本発明の導電性カーボンは、蓄電デバイスの電極の製造において、活物質粒子と混合されて使用されることから、活物質を構成する元素の化合物をカーボン原料に添加すると、活物質に対して不純物となりうる元素の混入を防止することができるため好ましい。
【0035】
(c1)工程では、(b1)工程で得られた混合物を粉砕し、メカノケミカル反応を生じさせる。この反応のための粉砕機の例としては、ライカイ器、ボールミル、ビーズミル、ロッドミル、ローラミル、攪拌ミル、遊星ミル、振動ミル、ハイブリダイザー、メカノケミカル複合化装置及びジェットミルを挙げることができる。粉砕時間は、使用する粉砕機や処理されるカーボンの量などに依存し、厳密な制限が無いが、一般には5分~3時間の範囲である。(d1)工程は、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気などの非酸化雰囲気中で行われる。加熱温度及び加熱時間は使用される遷移金属化合物に応じて適宜選択される。続く(e1)工程において、加熱後の生成物から遷移金属化合物及び/又はその反応生成物を酸で溶解する等の手段により除去した後、十分に洗浄し、乾燥することにより、酸化処理カーボンを得ることができる。
【0036】
第1の製造方法では、(c1)工程において、遷移金属化合物がメカノケミカル反応によりカーボン原料の酸化を促進するように作用し、カーボン原料の酸化が迅速に進む。この酸化によって、導電性カーボン全体の10質量%以上の親水性部分を含む酸化処理カーボンが得られる。
【0037】
全体の10質量%以上の親水性部分を含む酸化処理カーボンはまた、
(a2)空隙を有するカーボン原料と遷移金属化合物とを混合する工程、
(b2)得られた混合物を酸化雰囲気中で加熱する工程、及び、
(c2)加熱後の生成物から、上記遷移金属化合物及び/又はその反応生成物を除去する工程
を含む第2の製造方法によっても、好適に得ることができる。
【0038】
(a2)工程においてカーボン原料に添加される遷移金属化合物としては、遷移金属のハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩等の無機金属塩、ギ酸塩、酢酸塩、蓚酸塩、メトキシド、エトキシド、イソプロポキシド等の有機金属塩、或いはこれらの混合物を使用することができる。これらの化合物は、単独で使用しても良く、2種以上を混合して使用しても良い。異なる金属を含む化合物を所定量で混合して使用しても良い。また、反応に悪影響を与えない限り、遷移金属化合物以外の化合物、例えば、アルカリ金属化合物を共に添加しても良い。この導電性カーボンは、蓄電デバイスの電極の製造において活物質粒子と混合されて使用されることから、活物質を構成する元素の化合物をカーボン原料に添加すると、活物質に対して不純物となりうる元素の混入を防止することができるため好ましい。
【0039】
(b2)工程は、酸素含有雰囲気、例えば空気中で行われ、カーボンが部分的には消失するものの完全には消失しない温度、好ましくは200~350℃の温度で行われる。続く(c2)工程において、加熱後の生成物から遷移金属化合物及び/又はその反応生成物を酸で溶解する等の手段により除去した後、十分に洗浄し、乾燥することにより、酸化処理カーボンを得ることができる。
【0040】
第2の製造方法では、遷移金属化合物が、酸化雰囲気中での加熱工程において、カーボン原料を酸化する触媒として作用し、カーボン原料の酸化が迅速に進む。この酸化によって、導電性カーボン全体の10質量%以上の親水性部分を含む酸化処理カーボンが得られる。
【0041】
全体の10質量%以上の親水性部分を含む好適な酸化処理カーボンは、カーボン原料に強い酸化処理を施すことにより得られ、第1の製造方法、第2の製造方法以外の方法でカーボン原料の酸化を促進することも可能である。
【0042】
(2)粉砕段階
粉砕段階において上記酸化処理カーボンに粉砕処理を施すことにより、本発明の導電性カーボンが得られる。粉砕処理は、得られる導電性カーボンのEELSから求められるSP2比率が71.5~76.0%の範囲になるように実施される。SP2比率を73.0~75.5%の範囲に調整することにより、高温使用下での安定性がより好ましく改善される。
【0043】
粉砕のためには、ライカイ器、石臼式摩砕機、ボールミル、ビーズミル、ロッドミル、ローラミル、攪拌ミル、遊星ミル、振動ミル、ハイブリダイザー、メカノケミカル複合化装置及びジェットミルを使用することができる。粉砕の時間は、粉砕に処される上記酸化処理カーボンの量や使用する混合装置により変化するが、一般には10分~1時間の間である。
【0044】
(B)電極の製造方法
本発明の導電性カーボンは、蓄電デバイスの電解質中のイオンとの電子の授受を伴うファラデー反応或いは電子の授受を伴わない非ファラデー反応により容量を発現する電極活物質の粒子と混合された形態で、二次電池、電気二重層キャパシタ、レドックスキャパシタ及びハイブリッドキャパシタなどの蓄電デバイスの電極のために使用される。蓄電デバイスは、一対の電極(正極、負極)とこれらの間に配置された電解質とを必須要素として含むが、正極及び負極の少なくとも一方が、本発明の導電性カーボンと電極活物質粒子とを含む混合物を用いて製造される。
【0045】
蓄電デバイスにおいて正極と負極との間に配置される電解質は、セパレータに保持された電解液であっても良く、固体電解質であっても良く、ゲル状電解質であっても良く、従来の蓄電デバイスにおいて使用されている電解質を特に限定なく使用することができる。以下に、代表的な電解質を例示する。リチウムイオン二次電池のためには、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート等の溶媒に、LiPF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2等のリチウム塩を溶解させた電解液が、ポリオレフィン繊維不織布、ガラス繊維不織布などのセパレータに保持された状態で使用される。この他、Li5La3Nb2O12、Li1.5Al0.5Ti1.5(PO4)3、Li7La3Zr2O12、Li7P3S11等の無機固体電解質、リチウム塩とポリエチレンオキサイド、ポリメタクリレート、ポリアクリレート等の高分子化合物との複合体からなる有機固体電解質、電解液をポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル等に吸収させたゲル状電解質も使用される。電気二重層キャパシタ及びレドックスキャパシタのためには、(C2H5)4NBF4等の第4級アンモニウム塩をアクリロニトリル、プロピレンカーボネート等の溶媒に溶解させた電解液が使用される。ハイブリッドキャパシタのためには、リチウム塩をプロピレンカーボネート等に溶解させた電解液や、第4級アンモニウム塩をプロピレンカーボネート等に溶解させた電解液が使用される。
【0046】
本発明の導電性カーボンを用いた蓄電デバイスの正極又は負極は、一般的には、電極活物質粒子と本発明の導電性カーボンとを必要に応じてバインダを溶解した溶媒と共に混合して、上記導電性カーボンの少なくとも一部が糊状に広がって上記電極活物質粒子の表面を被覆している混合物を得る混合工程、及び、上記混合物を上記電極のための集電体上に塗布することにより活物質層を形成し、得られた活物質層に圧力を印加して上記導電性カーボンをさらに糊状に広げるとともに緻密化させる加圧工程、を含む方法により製造される。正極と負極との間の電解質として、固体電解質又はゲル状電解質が使用される場合には、本発明の導電性カーボンと電極活物質粒子とを含む混合物に、活物質層におけるイオン伝導パスを確保する目的で固体電解質を加え、これらを必要に応じてバインダを溶解した溶媒と共に十分に混練し、得られた混合物を用いて集電体上に活物質層を形成する。上記集電体としては、白金、金、ニッケル、アルミニウム、チタン、鋼、カーボンなどの導電材料を使用することができる。集電体の形状は、膜状、箔状、板状、網状、エキスパンドメタル状、円筒状などの任意の形状を採用することができる。
【0047】
上記混合工程において、本発明の導電性カーボンが活物質粒子の表面に付着して表面を覆うため、活物質粒子の凝集を抑制することができる。また、上記混合工程において本発明の導電性カーボンに及ぼされる圧力が大きいと、導電性カーボンの少なくとも一部が糊状に広がって活物質粒子の表面が部分的に覆われる。また、加圧工程において活物質層に印加される圧力により、本発明の導電性カーボンがさらに糊状に広がって活物質粒子の表面を覆いながら緻密化し、活物質粒子が互いに接近し、これに伴って本発明の導電性カーボンが活物質粒子の表面を覆いながら隣り合う活物質粒子の間に形成される間隙部ばかりでなく活物質粒子の表面に存在する孔の内部にも押し出されて緻密に充填される。そのため、電極における単位体積あたりの活物質量が増加し、電極密度が増加する。また、緻密に充填された糊状の導電性カーボンは、導電剤として機能するのに十分な導電性を有するとともに、蓄電デバイス中の電解液の含浸を抑制しない。その結果、蓄電デバイスのエネルギー密度の向上がもたらされる。
【0048】
上記混合工程において本発明の導電性カーボンと混合される正極活物質及び負極活物質としては、従来の蓄電デバイスにおいて使用されている電極活物質を特に限定なく使用することができる。活物質は、単独の化合物であっても良く、2種以上の化合物の混合物であっても良い。
【0049】
二次電池の正極活物質の例としては、まず、層状岩塩型LiMO2、層状Li2MnO3-LiMO2固溶体、及びスピネル型LiM2O4(式中のMは、Mn、Fe、Co、Ni又はこれらの組み合わせを意味する)が挙げられる。これらの具体的な例としては、LiCoO2、LiNiO2、LiNi4/5Co1/5O2、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2、LiNi1/2Mn1/2O2、LiFeO2、LiMnO2、Li2MnO3-LiCoO2、Li2MnO3-LiNiO2、Li2MnO3-LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2、Li2MnO3-LiNi1/2Mn1/2O2、Li2MnO3-LiNi1/2Mn1/2O2-LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2、LiMn2O4、LiMn3/2Ni1/2O4が挙げられる。また、イオウ及びLi2S、TiS2、MoS2、FeS2、VS2、Cr1/2V1/2S2などの硫化物、NbSe3、VSe2、NbSe3などのセレン化物、Cr2O5、Cr3O8、VO2、V3O8、V2O5、V6O13などの酸化物の他、LiNi0.8Co0.15Al0.05O2、LiVOPO4、LiV3O5、LiV3O8、MoV2O8、Li2FeSiO4、Li2MnSiO4、LiFePO4、LiFe1/2Mn1/2PO4、LiMnPO4、Li3V2(PO4)3などの複合酸化物が挙げられる。
【0050】
二次電池の負極活物質の例としては、Fe2O3、MnO、MnO2、Mn2O3、Mn3O4、CoO、Co3O4、NiO、Ni2O3、TiO、TiO2、SnO、SnO2、SiO2、RuO2、WO、WO2、ZnO等の酸化物、Sn、Si、Al、Zn等の金属、LiVO2、Li3VO4、Li4Ti5O12などの複合酸化物、Li2.6Co0.4N、Ge3N4、Zn3N2、Cu3Nなどの窒化物が挙げられる。
【0051】
電気二重層キャパシタの分極性電極における活物質としては、比表面積の大きな活性炭、カーボンナノファイバ、カーボンナノチューブ、フェノール樹脂炭化物、ポリ塩化ビニリデン炭化物、微結晶炭素などの炭素材料が例示される。ハイブリッドキャパシタでは、二次電池のために例示した正極活物質を正極のために使用することができ、この場合には負極が活性炭等を用いた分極性電極により構成される。また、二次電池のために例示した負極活物質を負極のために使用することができ、この場合には正極が活性炭等を用いた分極性電極により構成される。レドックスキャパシタの正極活物質としてはRuO2、MnO2、NiOなどの金属酸化物を例示することができ、負極はRuO2等の活物質と活性炭等の分極性材料により構成される。
【0052】
活物質粒子の形状や粒径には限定がないが、平均粒径が2μmより大きく25μm以下であるのが好ましい。このような比較的大きな粒径を有する活物質粒子は、それ自体で電極密度を向上させる上に、混合工程において、上記活物質粒子の押圧力により、導電性カーボンの糊状化を促進させる。また、電極製造において集電体上の活物質層に圧力を印加する過程で、このような比較的大きな粒径を有する活物質粒子が、少なくとも一部が糊状化した導電性カーボンをさらに押圧し、導電性カーボンをさらに糊状に広げて緻密化させる。その結果、電極密度がさらに増加し、蓄電デバイスのエネルギー密度がさらに向上する。
【0053】
また、活物質粒子が、0.01~2μmの平均粒径を有する微小粒子と、該微小粒子と同じ極の活物質として動作可能な2μmより大きく25μm以下の平均粒径を有する粗大粒子と、から構成されているのが好ましい。混合工程において、本発明の導電性カーボンが微小粒子の表面ばかりでなく粗大粒子の表面にも付着して表面を覆うため、活物質粒子の凝集を抑制することができ、活物質粒子と導電性カーボンとの混合状態を均一化させることができる。また、粗大粒子は、上述したように、本発明の導電性カーボンの糊状化及び緻密化を促進させ、電極密度を増加させ、蓄電デバイスのエネルギー密度を向上させる。さらに、電極製造における圧延処理により集電体上に形成された活物質層に印加される圧力によって、微小粒子が、本発明の導電性カーボンを押圧しながら、糊状に広がった導電性カーボンと共に隣り合う粗大粒子の間に形成される間隙部に押し出させて充填されるため、電極密度がさらに増加し、蓄電デバイスのエネルギー密度がさらに向上する。
【0054】
電極に含まれる電極活物質の導電率が低く、電極の導電性の向上が望まれる場合には、上記混合工程において、上記導電性カーボンの導電率より高い導電率を有する別の導電性カーボンをさらに混合し、上記導電性カーボンの少なくとも一部が糊状に広がって上記別の導電性カーボンの表面をも被覆している混合物を得ることが好ましい。上記別の導電性カーボンとしては、従来の蓄電デバイスの電極のために使用されているケッチェンブラック、アセチレンブラック、ファーネスブラック、チャネルブラック等のカーボンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバ、グラフェン、無定形炭素、炭素繊維、天然黒鉛、人造黒鉛、黒鉛化ケッチェンブラック、メソポーラス炭素、気相法炭素繊維が例示される。上記導電性カーボンと、上記別の導電性カーボンとの質量比は、一般に3:1~1:3の範囲である。
【0055】
この形態では、混合工程において、本発明の導電性カーボンの少なくとも一部が糊状に広がって電極活物質の表面ばかりでなく上記別の導電性カーボンの表面にも付着して表面を覆うため、上記別の導電性カーボンの凝集を抑制することができる。さらに、加圧工程において集電体上に形成された活物質層に印加される圧力によって、上記別の導電性カーボンが糊状に広がった本発明の導電性カーボンと共に隣り合う活物質粒子により形成される間隙部に密に充填され、電極全体の導電性が向上するため、蓄電デバイスのエネルギー密度がさらに向上する。
【0056】
上記別の導電性カーボンを含む好適な混合物の製造においては、上記混合工程を、上記導電性カーボンと上記別の導電性カーボンとを混合することにより導電性カーボン混合物を得る第1の混合段階、及び、上記導電性カーボン混合物と上記電極活物質粒子とを混合する第2の混合段階、を含む方法により実施すると、加圧工程の後に得られる電極の導電性がさらに向上するため好ましい。
【0057】
混合工程を実施するための混合方法には特に限定がなく、公知の混合方法を使用することができるが、活物質粒子、本発明の導電性カーボン及び必要に応じて併用される別の導電性カーボンを乾式混合により混合し、次いで必要に応じてバインダを溶解した溶媒と共に混合ことが好ましい。乾式混合のためには、ライカイ器、ボールミル、ビーズミル、ロッドミル、ローラミル、攪拌ミル、遊星ミル、振動ミル、ハイブリダイザー、メカノケミカル複合化装置及びジェットミルを使用することができる。活物質粒子と、本発明の導電性カーボン又は本発明の導電性カーボンと必要に応じて併用される別の導電性カーボンの合計との割合は、高いエネルギー密度を有する蓄電デバイスを得るために、質量比で、90:10~99.5:0.5の範囲であるのが好ましく、95:5~99:1の範囲であるのがより好ましい。導電性カーボンの割合が上述の範囲より少ないと、活物質層の導電性が不足し、また導電性カーボンによる活物質粒子の被覆率が低下する傾向がある。また、導電性カーボンの割合が上述の範囲より多いと、電極密度が低下し、蓄電デバイスのエネルギー密度が低下する傾向がある。
【0058】
活物質粒子、本発明の導電性カーボン及び必要に応じて併用される別の導電性カーボンと混合されるバインダとしては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、ポリフッ化ビニル、カルボキシメチルセルロースなどの公知のバインダが使用される。バインダの含有量は、混合材料の総量に対して1~30質量%であるのが好ましい。1質量%以下であると活物質層の強度が十分でなく、30質量%以上であると、電極の放電容量が低下する、内部抵抗が過大になるなどの不都合が生じる。活物質粒子、本発明の導電性カーボン及び必要に応じて併用される別の導電性カーボンと混合される溶媒としては、N-メチルピロリドン等の他の材料に悪影響を及ぼさない溶媒を特に限定なく使用することができる。
【実施例】
【0059】
本発明を以下の実施例を用いて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0060】
比較例1
40%硝酸300mLにケッチェンブラック(商品名EC300J、ケッチェンブラックインターナショナル社製)10gを添加し、得られた液に超音波を10分間照射した後、ろ過してケッチェンブラックを回収した。回収したケッチェンブラックを3回水洗し、乾燥することにより、酸処理ケッチェンブラックを得た。この酸処理ケッチェンブラック1.8gと、Fe(CH3COO)20.5gと、Li(CH3COO)0.19gと、C6H8O7・H2O0.28gと、CH3COOH0.33gと、H3PO40.33gと、蒸留水250mLとを混合し、得られた混合液をスターラーで1時間攪拌した後、空気中100℃で蒸発乾固させて混合物を採集した。次いで、得られた混合物を振動ボールミル装置に導入し、20hzで10分間の粉砕を行なった。粉砕後の粉体を、窒素中700℃で3分間加熱し、ケッチェンブラックにLiFePO4が担持された複合体を得た。
【0061】
濃度30%の塩酸水溶液100mLに、得られた複合体1gを添加し、得られた液に超音波を15分間照射させながら複合体中のLiFePO4を溶解させ、残った固体をろ過し、水洗し、乾燥させた。乾燥後の固体の一部を、TG分析により空気中900℃まで加熱し、重量損失を測定した。重量損失が100%、すなわちLiFePO4が残留していないことが確認できるまで、上述の塩酸水溶液によるLiFePO4の溶解、ろ過、水洗及び乾燥の工程を繰り返し、LiFePO4フリーの酸化処理カーボンを得た。
【0062】
次いで、得られた酸化処理カーボンの0.1gをpH11のアンモニア水溶液20mLに添加し、1分間の超音波照射を行なった。得られた液を5時間放置して固相部分を沈殿させた。固相部分の沈殿後、上澄み液を除去した残余部分を乾燥させ、乾燥後の固体の重量を測定した。乾燥後の固体の重量を最初の酸化処理カーボンの重量0.1gから差し引いた重量の最初の酸化処理カーボンの重量0.1gに対する重量比を、酸化処理カーボンにおける「親水性部分」の含有量とした。親水性部分の含有量は酸化処理カーボン全体の10.2%であった。
【0063】
また、得られた酸化処理カーボンと標準としてのグラファイトのそれぞれについて、日立ハイテクノロジー社製の走査透過顕微鏡HD2700を用いてEELSを測定した。得られたそれぞれのスペクトルについて、Gaten社のソフトウェアを用いてfourier-ratio deconvolutionを行い、次いで、解析ソフト(spectra manager)のフィッティング解析ソフトを用いて、deconvolution後のEELSの270-294eVの範囲を抜き出して上述した手法によりI
π
*
を求め、さらに、deconvolution後のEELSの292-307eVの間のスペクトルの積分強度からI
σ
*
を求めた。そして、上述した式(1)を用いてSP2比率を算出した。
【0064】
さらに、96質量部の市販のLiNi0.5Mn0.3Co0.2O2粒子(平均粒径5μm)、2質量部の上記酸化処理カーボン、及び2質量部のポリフッ化ビニリデンに適量のN-メチルピロリドンを加えて十分に混錬してスラリーを形成した。このスラリーをアルミニウム箔上に塗布して乾燥した後、1.5t/cmの条件下で3回の加圧を行って、リチウムイオン二次電池用の正極を得た。
【0065】
また、93質量部のハードカーボン、1質量部のアセチレンブラック、及び6質量部のポリフッ化ビニリデンに適量のN-メチルピロリドンを加えて十分に混錬してスラリーを形成した。このスラリーを銅箔上に塗布し、乾燥した後加圧して、1.0g/ccの電極密度を有するリチウムイオン二次電池用の負極を得た。また、正極容量と負極容量との比は、1:1.2とした。
【0066】
得られた正極と負極とを100℃で12時間真空乾燥させた後、1MのLiPF6のエチレンカーボネート/ジメチルカーボネート/プロピレンカーボネート1:1:1溶液を電解液としてリチウムイオン二次電池を作成した。
【0067】
得られた電池について高温放置試験を行った。まず、得られた電池をSOC(残容量(Ah)/満充電容量(Ah)×100)が50%になるまで充電した後、10秒間定電流で放電を行い、電圧降下から初期のDCIRを算出した。次いで、電池を4Vまで充電し、60℃の恒温槽に2週間放置した後に電池を恒温槽から取り出し、SOCが50%になるまで充電した後、10秒間定電流で放電を行い、電圧降下から放置後のDCIRを算出した。そして、放置後のDCIRの初期のDCIRからの抵抗増加率を高温保持安定性の尺度として算出した。
【0068】
実施例1
比較例1において得られたLiFePO4フリーの酸化処理カーボンを振動ボールミル装置に導入し、10Hzの条件下で20分間の粉砕を行った。得られた粉砕後の導電性カーボンを比較例1の酸化処理カーボンの代わりに用いて比較例1と同じ手順でリチウムイオン二次電池を作成し、得られた電池について比較例1と同じ手順で高温放置試験を行った。
【0069】
実施例2
比較例1において得られたLiFePO4フリーの酸化処理カーボンを振動ボールミル装置に導入し、15Hzの条件下で20分間の粉砕を行った。得られた粉砕後の導電性カーボンを比較例1の酸化処理カーボンの代わりに用いて比較例1と同じ手順でリチウムイオン二次電池を作成し、得られた電池について比較例1と同じ手順で高温放置試験を行った。
【0070】
実施例3
比較例1において得られたLiFePO4フリーの酸化処理カーボンを振動ボールミル装置に導入し、15Hzの条件下で30分間の粉砕を行った。得られた粉砕後の導電性カーボンを比較例1の酸化処理カーボンの代わりに用いて比較例1と同じ手順でリチウムイオン二次電池を作成し、得られた電池について比較例1と同じ手順で高温放置試験を行った。
【0071】
実施例4
比較例1において得られたLiFePO4フリーの酸化処理カーボンを振動ボールミル装置に導入し、20Hzの条件下で60分間の粉砕を行った。得られた粉砕後の導電性カーボンを比較例1の酸化処理カーボンの代わりに用いて比較例1と同じ手順でリチウムイオン二次電池を作成し、得られた電池について比較例1と同じ手順で高温放置試験を行った。
【0072】
実施例5
比較例1において得られたLiFePO4フリーの酸化処理カーボンを振動ボールミル装置に導入し、30Hzの条件下で20分間の粉砕を行った。得られた粉砕後の導電性カーボンを比較例1の酸化処理カーボンの代わりに用いて比較例1と同じ手順でリチウムイオン二次電池を作成し、得られた電池について比較例1と同じ手順で高温放置試験を行った。
【0073】
比較例2
比較例1において得られたLiFePO4フリーの酸化処理カーボンを振動ボールミル装置に導入し、30Hzの条件下で60分間の粉砕を行った。得られた粉砕後の導電性カーボンを比較例1の酸化処理カーボンの代わりに用いて比較例1と同じ手順でリチウムイオン二次電池を作成し、得られた電池について比較例1と同じ手順で高温放置試験を行った。
【0074】
表1に、実施例1~5及び比較例1,2について、導電性カーボンのEELSから求められたSP
2比率と、リチウムイオン二次電池の高温放置試験において算出された抵抗増加率と、をまとめて示す。
【表1】
【0075】
表1から明らかに把握されるように、比較例1の酸化処理カーボンに粉砕処理を施した後、得られた導電性カーボンを用いて実用的なリチウムイオン二次電池を構成すると、高温放置試験における抵抗増加率が好ましく低下するものの、粉砕処理の強度を強めていくと、一旦は低下した高温放置試験における抵抗増加率が再び増加に転じることがわかった。したがって、高いエネルギー密度を有し且つ改善された高温使用下での安定性を有する蓄電デバイスを得るためには、EELSから求められたSP2比率が71.5~76.0%の範囲になるような粉砕を酸化処理カーボンに施す必要がある。また、蓄電デバイスのより高い高温使用下での安定性を得るためには、EELSから求められたSP2比率が73.0~75.5%の範囲になるような粉砕を酸化処理カーボンに施すことが重要である。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の導電性カーボンの使用により、高いエネルギー密度を有し且つ改善された高温使用下での安定性を有する蓄電デバイスが得られる。