(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-27
(45)【発行日】2024-12-05
(54)【発明の名称】三角測距式変位センサ
(51)【国際特許分類】
G01C 3/06 20060101AFI20241128BHJP
G01B 11/00 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
G01C3/06 110A
G01B11/00 B
(21)【出願番号】P 2021038554
(22)【出願日】2021-03-10
【審査請求日】2024-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100108213
【氏名又は名称】阿部 豊隆
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 遼介
(72)【発明者】
【氏名】奥田 貴啓
(72)【発明者】
【氏名】駒井 和斉
(72)【発明者】
【氏名】田中 元基
【審査官】山▲崎▼ 和子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-104803(JP,A)
【文献】特開2009-85745(JP,A)
【文献】特開平1-185410(JP,A)
【文献】特開平11-83473(JP,A)
【文献】特開2012-78152(JP,A)
【文献】特開昭62-47613(JP,A)
【文献】米国特許第4830485(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 3/00-3/32
G01B 11/00-11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物に照射されたときに長手方向と短手方向を有するスポット形状となる検出光を投光する投光モジュールと、
前記測定対象物で反射した前記検出光を集光する光学モジュールと、
長方形の受光領域が前記長方形の短辺方向に沿って複数配列されており、前記スポット形状のうち前記長手方向が前記受光領域の長辺方向に沿うように前記光学モジュールによって集光された前記検出光の到達位置に応じた検出信号を出力する受光素子と
を備え、
前記光学モジュールは、前記短辺方向の結像倍率が前記長辺方向の結像倍率よりも大きい倍率調整レンズを含む三角測距式変位センサ。
【請求項2】
前記光学モジュールは、凸レンズと、前記倍率調整レンズを含む請求項1に記載の三角測距式変位センサ。
【請求項3】
前記光学モジュールは、前記倍率調整レンズを複数含む請求項1または2に記載の三角測距式変位センサ。
【請求項4】
前記倍率調整レンズは、トロイダルレンズ及びシリンドリカルレンズから選択される請求項1から3のいずれか1項に記載の三角測距式変位センサ。
【請求項5】
前記投光モジュールは、遠方の測定対象物に照射されるほど前記スポット形状が拡大するように前記検出光を投光し、
前記光学モジュールは、設定された検出範囲において、遠方の測定対象物で反射した前記検出光ほど前記受光素子での結像状態が良好となるように前記検出光を集光する請求項1から4のいずれか1項に記載の三角測距式変位センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三角測距式変位センサに関する。
【背景技術】
【0002】
シャインプルーフ光学系を用いた三角測距式変位センサが知られている。例えば、特許文献1によれば、測定対象物との距離によらず受光素子の受光面における像のサイズが一定になるように、光源から投光される検出光の焦点位置を調整している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
三角測距式変位センサでは、測定対象物に照射される照射光のスポット内で計測値は平均化される。すなわち、測定対象物の表面がある程度の粗面であっても、スポットを大きくすることでその凹凸の影響を平均化することができるので、計測誤差を低減することができる。しかし、受光素子の基線方向に対応する方向のスポット長を大きくしてしまうと受光波形の半値幅が大きくなり、測距の計測精度が低下してしまう。そこで、基線方向のスポット長は長くせず、基線方向に直交する方向であるライン方向のスポット長を長くすることにより、粗面による計測誤差の低減と測距の計測精度の確保を両立することが考えられる。
【0005】
このような観点から、測定対象物に照射されたときに例えば楕円のスポット形状となる検出光が用いられる。このとき、従来のシャインプルーフ光学系を採用すると、測定対象物の距離に応じて受光素子の表面に結像する受光像の大きさが大きく変化してしまい、測定対象物の距離によっては、受光像がライン方向において画素の受光領域からはみ出てしまう場合があった。受光像においてはみ出る領域が存在すると、凹凸に対する平均化効果が低減してしまい、計測誤差の増大につながる。一方で、受光像がはみ出ないように受光素子を大型化すると、装置の大型化や製造コストの増大を招くことになる。
【0006】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、小型の受光素子を採用しても、測定対象物表面の凹凸に対するライン方向の平均化効果を計測可能範囲にわたって一定程度に維持することができる三角測距式変位センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様における三角測距式変位センサは、測定対象物に照射されたときに長手方向と短手方向を有するスポット形状となる検出光を投光する投光モジュールと、測定対象物で反射した検出光を集光する光学モジュールと、長方形の受光領域が長方形の短辺方向に沿って複数配列されており、スポット形状のうち長手方向が受光領域の長辺方向に沿うように光学モジュールによって集光された検出光の到達位置に応じた検出信号を出力する受光素子とを備え、上記の光学モジュールは、短辺方向の結像倍率が長辺方向の結像倍率よりも大きい倍率調整レンズを含むものである。
【0008】
このように構成することにより、受光素子の受光面上でのスポット像が画素の受光領域に対してライン方向にはみ出ることを抑制することができる。すなわち、測定対象物が計測可能範囲のいずれに位置していても、測定対象物表面の凹凸に対するライン方向の平均化効果を享受することができる。換言すれば、計測可能範囲内の同一距離に存在する測定対象物に対して変位センサが平行に移動しながら距離計測を行う場合において、測定結果にばらつきが生じにくく、高い移動分解能を発揮することができる。
【0009】
上記の三角測距式変位センサにおいて、光学モジュールは、凸レンズと、倍率調整レンズを含むように構成してもよい。また、倍率調整レンズを複数含むように構成してもよい。このように構成することにより、光学モジュールの主点位置を受光素子側へ寄せることができるので、シャインプルーフ光学系から外れても、周辺部のボケを抑制することができる。
【0010】
上記の三角測距式変位センサにおいて、倍率調整レンズは、トロイダルレンズ及びシリンドリカルレンズから選択するとよい。これらのレンズを採用すれば、短辺方向の結像倍率と長辺方向の結像倍率をそれぞれ調整する光学設計を実現しやすい。
【0011】
また、上記の三角測距式変位センサにおいて、投光モジュールは、遠方の測定対象物に照射されるほどスポット形状が拡大するように検出光を投光し、光学モジュールは、設定された検出範囲において、遠方の測定対象物で反射した検出光ほど受光素子での結像状態が良好となるように検出光を集光するように構成してもよい。このように構成すれば、良好な性能を発揮しづらい遠距離の測定においても、近距離の場合と同様に、測定対象物表面の凹凸に対するライン方向の平均化効果が得られる。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、小型の受光素子を採用しても、測定対象物表面の凹凸に対するライン方向の平均化効果を計測可能範囲にわたって一定程度に維持することができる三角測距式変位センサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態に係る三角測距式変位センサの使用状態を示す斜視図である。
【
図2】三角測距方式の原理、各要素の配列、受光素子の構成等を説明する図である。
【
図3】従来技術におけるスポット像と受光素子の関係を説明する図である。
【
図4】本実施形態におけるスポット像と受光素子の関係を説明する図である。
【
図5】光学モジュールの構成を説明する模式図である。
【
図6】平行光を投光した場合の、ワークの測定位置に対するスポット像の結像関係を説明する模式図である。
【
図7】拡散光を投光した場合の、ワークの測定位置に対するスポット像の結像関係を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。なお、各図において、同一の符号を付したものは、同一又は同様の構成を有する。また、各図において、同一又は同様の構成を有する構造物が複数存在する場合には、煩雑となることを回避するため、一部に符号を付し、他に同一符号を付すことを省く場合がある。
【0015】
図1は、変位センサ100の使用状態を示す斜視図である。本実施形態に係る変位センサ100は、三角測距式変位センサの一例であり、例えば工場の製造ラインなどに設置されて利用される。変位センサ100は、例えばレーザダイオードである投光素子から検出光L1を測定対象物であるワークWkへ向けて投光し、ワークWkで反射して戻ってくる検出光L2を、例えばCMOSセンサである受光素子で受光する。受光素子は、検出光L2を受光し、ワークWkまでの距離に応じた検出信号を出力する。
【0016】
検出信号は、ケーブル112を介してアンプユニットへ送信される。アンプユニットは、受信した検出信号を数値に変換して表示部に表示したり、外部機器であるPLCやPCへ出力したりする。なお、変位センサ100がアンプユニットの機能を内蔵してもよい。その場合、筐体111は数値等を表示する表示ユニットや外部機器と通信を行う通信ユニットを備える。また、図示するようにx軸、y軸及びz軸を定める。以後の図面においても
図1と同様の座標軸を併記することにより、それぞれの図面が表す構成要素の向きを示す。
【0017】
図2は、三角測距方式の原理、各要素の配列、受光素子124の構成等を説明する図である。具体的には、
図2(A)の上図は、ワークWkが検出範囲の中心付近(Center)に位置する場合の検出光(L1,L2)の光路を表し、
図2(A)の下図は、そのときに検出光L2が受光素子124の受光面に形成するスポット像の様子を表す。同様に、
図2(B)の上図は、ワークWkが検出範囲の近端付近(Near)に位置する場合の検出光(L1,L2)の光路を表し、
図2(B)の下図は、そのときに検出光L2が受光素子124の受光面に形成するスポット像の様子を表す。同様に、
図2(C)の上図は、ワークWkが検出範囲の遠端付近(Far)に位置する場合の検出光(L1,L2)の光路を表し、
図2(C)の下図は、そのときに検出光L2が受光素子124の受光面に形成するスポット像の様子を表す。なお、上述のx軸、y軸、z軸に加え、受光素子124の基線方向であるw軸を示している。w軸は、y軸に直交する。
【0018】
それぞれの上図に示すように、筐体111の内部には、投光モジュールとしての投光素子121、投光レンズ122と、受光モジュールとしての光学モジュール123、受光素子124が配置され固定されている。投光モジュールは、ワークWkに照射されたときに楕円のスポット形状となる検出光L1を投光する。本実施形態においては、レーザダイオードである投光素子121から出射されたレーザー光を、投光レンズ122が平行光に調整し、検出光L1としてワークWkへ向けて投光する。投光素子121には、開口絞りとして楕円絞りが設けられている。
【0019】
なお、投光素子121は、コヒーレント光を投光するレーザダイオードに限らず、LEDなどのインコヒーレント光を投光する素子を用いてもよい。また、投光モジュールは、投光素子121自体が平行光を出射する場合などには、投光レンズ122を省いてもよい。また、本実施形態においては、検出光L1がワークWkに照射されたときに楕円のスポット形状となる投光モジュールを採用するが、楕円に限らず、長手方向と短手方向を有するスポット形状となる投光モジュールを採用すればよい。例えば、長方形であってもよい。具体的には後述するが、長手方向(楕円においては長軸方向に相当)が測定対象物表面の凹凸に対する平均化効果を奏するライン方向に対応し、短手方向(楕円においては短軸方向に相当)が測距の計測精度に影響する基線方向に対応する。
【0020】
検出光L1がワークWkで反射すると、その一部は検出光L2となって光学モジュール123へ向かって戻ってくる。光学モジュール123は、検出光L2を集光して受光素子124へ導く。光学モジュール123は、1つ以上の光学レンズを含む。具体的な構成については後に詳述する。受光素子124は、本実施形態においてはラインセンサを採用し、光電変換を行う画素がw軸に沿って配列されている。受光モジュールは、検出光L1の光軸に対してシャインプルーフ条件を満たすように配列されている。すなわち、ワークWkに形成されるスポットは、ワークWkが変位センサ100から検出範囲のいずれの距離に存在しても、受光素子124の受光面に良好に結像される。ただし、本実施形態においては、後述するように光学モジュール123にライン方向の倍率を調整するレンズを含み、ライン方向がシャインプルーフ条件を満たさなくなるので、受光素子124上の像はライン方向(y軸方向)にボケる。
【0021】
図2(A)の上図に示すように、ワークWkが検出範囲の中心付近(Center)に位置する場合には、検出光L2は、受光素子124のw軸に沿った受光面のうち中心付近に到達する。
図2(A)の下図は、光学モジュール123の側から受光素子124の受光面を観察した様子を模式的に表した図であり、ワークWkに形成されたスポットの像であるスポット像Spが、受光素子124の受光面においてw軸方向の中心付近に形成されている様子を示す。
【0022】
受光素子124は、長方形の受光領域を有する画素124aが長方形の短辺方向、すなわちw軸方向に沿って複数配列されている。このとき、長方形の長辺方向は、y軸方向と平行である。図示するようにスポット像Spは、長軸方向が受光領域の長辺方向に、短軸方向が受光領域の短辺方向に沿うように光学モジュール123によって集光される。換言すれば、スポット像Spと画素124aの関係がこのような関係となるように、筐体111において投光モジュールと受光モジュールが配列されている。なお、このような関係を満たす配列であれば、投光モジュールや受光モジュールに光路を屈折させるミラー等の光学素子が追加されてもよい。
【0023】
受光素子124は、スポット像Spの位置に応じた検出信号を出力する。具体的には、それぞれの画素124aが受光量に応じた電圧値を出力するので、その出力値配列は、スポット像Spの位置に応じた分布波形を示す。
図2(A)の下図の場合、スポット像Spの中心はw軸方向の中心付近の画素に存在するので、受光素子124は、当該画素をピーク値とする検出信号を出力する。アンプユニットは、このような検出信号を受信して、ワークWkまでの距離に換算する。本実施形態においては、分布波形を形成する画素の配列方向(短辺方向)であるw軸方向を基線方向と称し、画素の長辺方向をライン方向と称する。
【0024】
このような三角測距方式においては、ワークWkの表面がある程度の粗面であっても、そこに照射されたスポットの大きさに応じて異常方向への反射量が相対的に減少し、反射光は全体として平均化される。すなわち、ワークWkの表面がある程度の粗面であっても、スポットを大きくすることによりその凹凸の影響を平均化することができるので、計測誤差を低減することができる。しかし、受光素子の基線方向に対応する方向のスポット長を大きくしてしまうと検出信号である分布波形の半値幅が大きくなり、測距の計測精度が低下してしまう。そこで、本実施形態においては、スポット形状として、基線方向が短くライン方向が長い楕円を採用する。また、これに応じて、ライン方向が長辺であり、基線方向が短辺である長方形の受光領域を有する画素を配列した受光素子124を採用する。なお、受光領域の形状は、配線層等の都合により周囲に多少の欠けがあったとしても、実質的に長方形であればよい。なお、本実施形態においては、上記のような長方形の画素がその短辺方向に沿って複数配列されている一次元配列の受光素子124を採用するが、ライン方向に沿ったそれぞれの列を一つのグループとして扱うのであれば、ライン方向にも複数の画素が配列された受光素子を採用し得る。例えば、正方画素が二次元状に配列された受光素子であっても、ラインごとに出力を合算するなどすれば、実質的には長方形の受光領域がその短辺方向に沿って複数配列された受光素子であると言える。
【0025】
図2(B)の上図に示すように、ワークWkを中心付近(Center)から近端付近(Near)へ変位させると、光学モジュール123に対する検出光L2の入射角が変化する。その結果、
図2(B)の下図に示すように、スポット像Spは、受光素子124の受光面において、w軸の正方向へ変位する。受光素子124は、変位したスポット像Spの中心が存在する画素をピーク値とする検出信号を出力する。アンプユニットは、このような検出信号を受信して、ワークWkまでの距離に換算する。
【0026】
図2(C)の上図に示すように、ワークWkを中心付近(Center)から遠端付近(Far)へ変位させると、光学モジュール123に対する検出光L2の入射角が変化する。その結果、
図2(C)の下図に示すように、スポット像Spは、受光素子124の受光面において、w軸の負方向へ変位する。受光素子124は、変位したスポット像Spの中心が存在する画素をピーク値とする検出信号を出力する。アンプユニットは、このような検出信号を受信して、ワークWkまでの距離に換算する。
【0027】
図3は、従来技術におけるスポット像と受光素子の関係を説明する図である。従来技術においては、光学モジュールとして例えば非球面レンズを採用していた。非球面レンズを採用する場合、ライン方向における結像倍率と基線方向における結像倍率が等しい。従来においては、遠端のスポット像Sp-Fが最も小さく、スポット像が近点側へ変位するに連れて徐々にスポット像が大きくなる。すなわち、遠端のスポット像Sp-Fよりも中心のスポット像Sp-Cの方が大きく、中心のスポット像Sp-Cよりも近端のスポット像Sp-Nの方が大きい。そして、中心のスポット像Sp-C、遠端のスポット像Sp-Fは、図示するように、受光領域からライン方向へはみ出てしまうことがあった。受光領域からはみ出てしまった領域の光は光電変換されないので、測定対象物表面の凹凸の影響を平均化する効果がその分失われてしまう。すなわち、スポット像が受光領域からライン方向へはみ出てしまうと、計測誤差が生じやすくなると言える。
【0028】
本実施形態における変位センサ100の光学モジュール123は、形成されるスポット像が受光領域からライン方向へあまりはみ出ないように作用する、基線方向の結像倍率がライン方向の結像倍率よりも大きい倍率調整レンズを含む。
図4は、本実施形態におけるスポット像と受光素子124の関係を説明する図である。具体的には後述するが、光学モジュール123は、遠端側のスポット像Sp-Fが受光素子124の受光面で最も良好な結像状態となるように調整されている。図示するように、遠端側のスポット像Sp-Fは、受光領域からライン方向へはみ出ることがないように調整されている。
【0029】
スポット像が遠端側から中心へ向かって変位しても、倍率調整レンズの作用によりスポット像が受光領域からはみ出る量が抑えられる。ただし、光学モジュール123がライン方向の倍率調整レンズを含むことによりライン方向のシャインプルーフの条件が満たされなくなるので、受光素子124上の基線方向の結像状態は保たれるものの、ライン方向はピントを合わせた一点(本実施形態ではFarの受光位置を想定する)を除き、受光素子124上で結像することはなく、ライン方向にのみボケた像となる。したがって、中心のスポット像Sp-Cは、ライン方向の端にボケが若干生じる。図においては、およその結像部分を黒塗りで、ボケ部分を網線で表している。
【0030】
近端側のスポット像Sp-Nは、中心のスポット像Sp-Cよりもライン方向の端のボケ部分が大きくなるが、それでも従来技術に比べると、受光領域からライン方向へはみ出る量が大幅に抑えられている。したがって、スポット像が受光領域のいずれの位置に存在しても、受光領域からライン方向へはみ出る量は従来技術に比べて大幅に抑えられるので、測定対象物表面の凹凸の影響を平均化する効果が維持され、計測誤差を低減することができると言える。
【0031】
図5は、光学モジュール123の構成を説明する模式図である。ここでは、光学モジュール123が、第1受光レンズ123aと第2受光レンズ123bの2つの倍率調整レンズによって構成されている場合を例として説明する。
図5(A)は、ワークWk上のスポットSpの中心から出射する光線が受光素子124の中心線へ至るまでの光路を、受光素子124の基線方向における到達位置がわかるよう示した図である。
図5(B)は、ワークWk上のスポットSpの長軸方向の端から出射する光線が受光素子124へ至る光路を、受光素子124のライン方向における到達位置がわかるように示した図である。なお、いずれの図もわかりやすくするために、要素間の距離等を実際とは異ならせて表している。
【0032】
基線方向における結像倍率をm、ライン方向における結像倍率をm’とする。nを正の実数として、m’=m/nとする。また、基線方向における第1受光レンズ123aの焦点距離をf0、第2受光レンズ123bの焦点距離を∞とする。また、ライン方向における第1受光レンズ123aの焦点距離をf1、第2受光レンズ123bの焦点距離をf2とする。また、スポットSpから第1受光レンズ123aの主面までの距離をa、第1受光レンズ123aの主面から受光素子124の受光面までの距離をbとする。また、第1受光レンズ123aの主面と第2受光レンズ123bの主面の間の距離をdとし、第1受光レンズ123a、第2受光レンズ123b共にライン方向の有効半径をRとする。また、スポットSpの長軸幅をLspとし、その半分をh0とする。受光素子124の受光領域のライン方向における幅をLCMとする。また、φ,ψ,ψ’,b’,b”,c,h1,h2,h3,h4を図示するように定義する。
【0033】
すると、以下の関係式が成り立つ。
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【数5】
【数6】
【数7】
【数8】
【数9】
【0034】
このような関係式において、h1,h2,h3,h4が、できるだけLCMに収まるように、d,f’,f1,f2を設計すればよい。このような設計を実現する第1受光レンズ123aと第2受光レンズ123bの組み合わせは、トロイダルレンズとシリンドリカルレンズが考えられる。また、第1受光レンズ123aと第2受光レンズ123bを共にトロイダルレンズとしてもよい。また、f0=f1として第1受光レンズ123aを倍率調整の機能を有さない凸レンズとし、第2受光レンズ123bを倍率調整レンズとしてもよい。この場合、第2受光レンズ123bは、トロイダルレンズでもシリンドリカルレンズでもよい。また、第1受光レンズ123aと第2受光レンズ123bに加えて第3受光レンズや第4受光レンズを追加して、設計の自由度を高めてもよい。
【0035】
図6は、投光モジュールが平行光を投光した場合の、ワークWkの測定位置に対するスポット像の結像関係を説明する図である。
図6(A)は、ワークWkが検出範囲の遠端付近(Far)に位置する場合の結像関係を示す。
図6(B)は、ワークWkが検出範囲の中心付近(Center)に位置する場合の結像関係を示す。
図6(C)は、ワークWkが検出範囲の近端付近(Near)に位置する場合の結像関係を示す。いずれの図も
図5(B)と同様に、ワークWk上のスポットSpの長軸方向の端から出射する光線が受光素子124へ至る光路を、受光素子124のライン方向における到達位置がわかるように示した図である。ここでは、投光モジュールが平行光を投光するので、スポットSpの長軸方向の幅はいずれもL
Spである。
【0036】
本実施形態においては、ワークWkが検出範囲の遠端付近(Far)に位置する場合に、スポット像が最も良好に受光素子124の受光面に結像するように調整されている。このように調整すると、ワークWkが検出範囲の中心付近(Center)に位置する場合には、スポットSpの長軸方向の端から出射する光線は、受光素子124の受光面の少し手前で結像する。したがって、受光面へは少し拡散して到達する。すなわち、
図4でも示したように、スポット像の周辺部が若干ボケる。
【0037】
ワークWkが検出範囲の近端付近(Near)に位置する場合には、スポットSpの長軸方向の端から出射する光線は、受光素子124の受光面のさらに手前で結像する。したがって、受光面へはより拡散して到達する。すなわち、
図4でも示したように、スポット像の周辺部がさらにボケる。そして、
図6(C)の状態では、ボケの一部が受光素子124の受光領域からはみ出ている。しかしながら、ワークWkが遠端付近に位置する場合を基準に結像状態を調整すると、中心付近や近端付近を基準に調整する場合よりも、ボケ量が抑えられ、受光領域からのはみだし量も抑えられる。
【0038】
本実施形態の変形例として、さらに受光領域からのはみだし量を抑制する構成について説明する。
図7は、拡散光を投光した場合の、ワークWkの測定位置に対するスポット像の結像関係を説明する図である。
図7(A)は、ワークWkが検出範囲の遠端付近(Far)に位置する場合の結像関係を示す。
図7(B)は、ワークWkが検出範囲の中心付近(Center)に位置する場合の結像関係を示す。
図7(C)は、ワークWkが検出範囲の近端付近(Near)に位置する場合の結像関係を示す。
【0039】
それぞれ図示するように、
図6の場合のそれぞれと比べて、スポットSpの長軸方向の幅が互いに異なる。すなわち、本変形例においては、投光モジュールが遠方のワークWkに照射されるほどスポット形状が拡大するように検出光L1を投光する。具体的には、投光素子121から出射されたレーザー光を、投光レンズ122が少しだけ拡散させるように調整する。拡散の度合いは、設定される検出範囲に応じて決定される。
【0040】
本変形例においても、ワークWkが検出範囲の遠端付近(Far)に位置する場合に、スポット像が最も良好に受光素子124の受光面に結像するように調整されている。このように調整すると、ワークWkが検出範囲の中心付近(Center)に位置する場合には、スポットSpの長軸方向の端から出射する光線は、受光素子124の受光面の少し手前で結像する。したがって、受光面へは少し拡散して到達する。しかし、スポットSpの長軸方向の幅がL
Sp-FからL
Sp-Cへ短くなっている分、
図6(B)の場合に比べて主光線が光軸に近づくので、スポット像の周辺部のボケが抑制される。
【0041】
ワークWkが検出範囲の近端付近(Near)に位置する場合には、スポットSpの長軸方向の端から出射する光線は、受光素子124の受光面のさらに手前で結像する。したがって、受光面へはより拡散して到達する。しかし、スポットSpの長軸方向の幅がL
Sp-CからL
Sp-Nへ短くなっている分、
図6(C)の場合に比べて主光線が光軸に近づくので、やはりスポット像の周辺部のボケが抑制される。このように検出光L1を調整すれば、スポット像の受光領域からのはみだし量をさらに抑制することができる。
【0042】
[付記]
測定対象物(Wk)に照射されたときに長手方向と短手方向を有するスポット形状となる検出光(L1)を投光する投光モジュール(121、122)と、
前記測定対象物(Wk)で反射した前記検出光(L2)を集光する光学モジュール(123)と、
長方形の受光領域(124a)が前記長方形の短辺方向に沿って複数配列されており、前記スポット形状のうち前記長手方向が前記受光領域の長辺方向に沿うように前記光学モジュール(123)によって集光された前記検出光(L2)の到達位置に応じた検出信号を出力する受光素子(124)と
を備え、
前記光学モジュール(123)は、前記短辺方向の結像倍率が前記長辺方向の結像倍率よりも大きい倍率調整レンズ(123a、123b)を含む三角測距式変位センサ。
【符号の説明】
【0043】
100…変位センサ、111…筐体、112…ケーブル、121…投光素子、122…投光レンズ、123…光学モジュール、123a…第1受光レンズ、123b…第2受光レンズ、124…受光素子、124a…画素