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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-27
(45)【発行日】2024-12-05
(54)【発明の名称】アルミニウム精錬方法
(51)【国際特許分類】
   C25C 3/06 20060101AFI20241128BHJP
【FI】
C25C3/06 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020168204
(22)【出願日】2020-10-05
(65)【公開番号】P2022060640
(43)【公開日】2022-04-15
【審査請求日】2023-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】591040018
【氏名又は名称】日本エクス・クロン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
(73)【特許権者】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100111224
【弁理士】
【氏名又は名称】田代 攻治
(72)【発明者】
【氏名】中野 正勝
(72)【発明者】
【氏名】松井 信
(72)【発明者】
【氏名】小紫 公也
(72)【発明者】
【氏名】後藤 徹也
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-531973(JP,A)
【文献】特開昭60-096783(JP,A)
【文献】特開2014-040520(JP,A)
【文献】国際公開第2020/016186(WO,A1)
【文献】特開2015-196619(JP,A)
【文献】特開2015-051901(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25C 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融したアルミナを、炭素電極を用いた電気分解によりアルミニウムと酸素に分離し、アルミニウムを抽出すると同時に分離した酸素を炭素電極に反応させて二酸化炭素として排出するホール・エルー法によるアルミニウム精錬方法において、
二酸化炭素に水素を加えて還元するサバチエ反応によって、前記排出された二酸化炭素を水とメタンに置き換え、
前記サバチエ反応で得られた水を電気分解して生成された水素を前記サバチエ反応の還元用に利用すると共に、得られたメタンを炭素と水素に熱分解し、
前記熱分解によって得られた炭素をホール・エルー法の前記炭素電極として利用すると共に、得られる水素を前記サバチエ反応の還元用に利用する一連の反応により、前記ホール・エルー法による二酸化炭素発生量の全量もしくは所定量の放出を抑制することを特徴とするアルミニウム精錬方法。
【請求項2】
前記メタンを炭素と水素に熱分解するに際し、当該メタンをホール・エルー法の溶融炉の冷却材として使用することで当該メタンを予熱し、メタン熱分解に要するエネルギを低減する、請求項1に記載のアルミニウム精錬方法。
【請求項3】
発熱反応である前記サバチエ反応によって生ずる熱エネルギを、前記熱分解されるメタンの予熱に利用してメタン熱分解に要するエネルギを低減する、請求項1または請求項2に記載のアルミニウム精錬方法
【請求項4】
前記サバチエ反応によって得られるメタンを燃料や他の化学物質の原料として再利用する、請求項1から請求項3のいずれか一に記載のアルミニウム精錬方法
【請求項5】
前記サバチエ反応に供される前記水素の量を制御することにより、前記サバチエ反応によって処理される二酸化炭素の量を調節する、請求項1から請求項4のいずれか一に記載のアルミニウム精錬方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホール・エルー法(Hall-Heroult Process)によるアルミニウム製錬方法の改善に関し、より具体的には二酸化炭素の排出を抑制する環境に優しい改善されたホール・エルー法によるアルミニウム製錬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムは軽量で加工性も良く、また酸化被膜が表面を覆うことによって内部が保護され耐食性に優れた材料でもあることから、建築材料を初め工業製品に広く使用され、現代では欠くことのできない代表的な金属材料の1つとなっている。加工面では圧延、押し出し、鋳造などの各種方法の適用が可能であり、また合金としてはジュラルミンなどがよく知られている。加えて、熱伝導性、電気伝導性に優れた長所を生かす技術分野での使用もされるほか、燃焼する際に高熱量を発生し、体積当たりのエネルギ密度では石炭や石油にも匹敵するほど(41.9kJ/cm)であることから、将来的にはエネルギ源として活用されるポテンシャルをも備えた有用な金属である。
【0003】
歴史的には、19世紀初頭のアルミナの発見に始まり、アルミナからアルミニウムを単離する技術が確立するまでは貴重な金属として扱われたが、19世紀末のホール・エルー法が見出されたことによってアルミニウムの入手性が高まった。ホール・エルー法はアルミニウム精錬方法として広く実施され既によく知られた技術であるが、その概要としては、アルミナ(Al)を多く含む鉱石であるボーキサイトを水酸化ナトリウムで溶融してアルミナを抽出し(バイヤー法)、これを氷晶石(NaAlF)を用いた電解浴(1000℃)で溶融、炭素電極を用いた電気分解でアルミニウムに精錬する方法である。陽極側となる炭素電極が還元剤としてアルミナ中の酸素と結合してこれを取り除くことでアルミニウムを生成する。この際、アルミニウムの他に炭素と結合した酸素が二酸化炭素となって排出される。
【0004】
ホール・エルー法は現在でもアルミニウム精錬の実質的に唯一の方法として利用されているが、アルミニウムを分離するために多量な電力を消費すること(アルミニウム1トン生産するための消費電力:13,000~14,000kWh)、その際、上述したように二酸化炭素(CO)という温室効果ガスを多量に発生すること(アルミニウム1トンを取り出すために1.3トンの二酸化炭素を排出)も問題となっている。特に後者の問題は、地球温暖化に直接つながる要因でもあり、グローバルな規模でのホール・エルー法の改善、もしくは代替方法の開発が望まれている。
【0005】
ホール・エルー法自身に関しては、そのエネルギ効率の改善に向けての技術開発が見られ(例えば、「特許文献1」参照。)、またホール・エルー法に代わる還元方法の提案もされているが(例えば、「特許文献2」、「特許文献3」参照。)、いずれも上記課題を解決するに至るものではなく、アルミニウム精錬方法(あるいはアルミナ還元方法)は未だホール・エルー法に頼らざるを得ないのが実状である。したがって、ホール・エルー法には未だ改善の余地が残されていると言える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-208252号公報
【文献】米国特許第6440193号明細書
【文献】特表2006-519921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上より、本発明は、現在でも広く利用されているホール・エルー法の上述した課題を解消し、ホール・エルー法を活用しながらも温室効果ガスである二酸化炭素などの環境に有害な物質の排出を最小限のエネルギ投入によって極力抑えることができるアルミニウム精錬方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、アルミナを還元してアルミニウムを得るための直接的手段であるホール・エルー法を基本的に踏襲しつつも、その際に排出される二酸化炭素を水素で還元するメタネーション技術を応用して再利用することにより二酸化炭素の排出を抑制することを骨子とし、その手段としてサバチエ反応その他の手法を組み合わせて利用するものとしている。具体的に、本発明は以下の内容を含む。
【0009】
すなわち、本発明に係る1つの態様は、ホール・エルー法によってアルミナを還元してアルミニウムを取り出すアルミニウム精錬方法であって、二酸化炭素に水素を反応させて水とメタンを生成するサバチエ反応によってアルミニウム製錬時に同時に発生する二酸化炭素に水素を加えてメタンと水に置き換えることにより、発生する二酸化炭素の全量もしくは所定量の放出を抑制することを特徴とするアルミニウム精錬方法に関する。
【0010】
本発明に係る他の態様は、溶融したアルミナを炭素電極を用いた電気分解によりアルミニウムと酸素に分離し、アルミニウムを抽出すると同時に分離した酸素を炭素電極に反応させて二酸化炭素として排出するホール・エルー法によるアルミニウム精錬方法であって、二酸化炭素に水素を加えて還元するサバチエ反応によって、排出された二酸化炭素から水とメタンを生成し、サバチエ反応で得られた水を電気分解して生成された水素をサバチエ反応の還元用に利用すると共に、同時に得られたメタンを炭素と水素に熱分解し、該熱分解によって得られた炭素をホール・エルー法の前記炭素電極として利用すると共に、同時に得られる水素をサバチエ反応の還元用に利用する一連の反応により、ホール・エルー法による二酸化炭素発生量の全量もしくは所定量の放出を抑制することを特徴とするアルミニウム精錬方法に関する。
【0011】
本発明に係るさらに他の態様は、炭素電極を用いた電気分解により、溶融したアルミナをアルミニウムと酸素に分離し、アルミニウムを抽出すると同時に分離した酸素を炭素電極に反応させて二酸化炭素として排出するホール・エルー法によるアルミニウム精錬方法であって、二酸化炭素に水素を加えて還元するサバチエ反応によって、排出された二酸化炭素から水とメタンを生成し、サバチエ反応で得られたメタンを炭素と水素に熱分解し、該熱分解によって得られた炭素をホール・エルー法の炭素電極として利用すると共に、同時に得られる水素をサバチエ反応の還元用に利用し、さらに必要とされる水素を適宜外部から追加供給してサバチエ反応の還元用に供する一連の反応により、ホール・エルー法による二酸化炭素発生量の全量もしくは所定量の放出を抑制することを特徴とするアルミニウム精錬方法に関する。
【0012】
前記メタンを炭素と水素に熱分解するに際し、メタンをホール・エルー法の溶融炉の冷却材として使用することで当該メタンを予熱し、メタン熱分解に要するエネルギを低減することができる。また、発熱反応であるサバチエ反応によって生ずる熱エネルギを、前記熱分解されるメタンの予熱に利用してメタン熱分解に要するエネルギを低減することもできる。
【0013】
本発明に係るさらに他の態様は、炭素電極を用いた電気分解により、溶融したアルミナをアルミニウムと酸素に分離し、アルミニウムを抽出すると同時に分離した酸素を炭素電極に反応させて二酸化炭素として排出するホール・エルー法によるアルミニウム精錬方法であって、二酸化炭素に水素を加えて還元するサバチエ反応によって、前記排出された二酸化炭素を水とメタンに置き換え、サバチエ反応で得られた水を電気分解して生成された水素をサバチエ反応の還元用に利用し、さらに必要とされる水素を適宜外部から追加供給してサバチエ反応の還元用に供する一連の反応により、ホール・エルー法による二酸化炭素の全量もしくは所定量の発生を抑制し、サバチエ反応によって得られるメタンを任意で燃料や他の化学物質の原料として再利用することを特徴とするアルミニウム精錬方法に関する。
【0014】
ホール・エルー法によるアルミニウム精錬時に二酸化炭素に加えて発生する一酸化炭素を燃焼させて二酸化炭素とし、当該二酸化炭素を前記二酸化炭素と共にサバチエ反応に供することができる。また、サバチエ反応に供される水素の量を制御することにより、サバチエ反応によって処理される二酸化炭素の量を調節することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の実施により、ホール・エルー法により発生する環境に有害な二酸化炭素の発生量の全量もしくは所定量を抑制することができ、環境に優しいアルミニウム精錬の実施ができるようになるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施の形態に係るアルミニウム精錬方法のフローを示す説明図である。
図2】本発明の他の実施の形態に係るアルミニウム精錬方法のフローを示す説明図である。
図3】本発明のさらに他の実施の形態に係るアルミニウム精錬方法のフローを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の第1の実施の形態に係るアルミニウム精錬方法について図面を参照して説明する。
近年宇宙開発技術分野を中心に、二酸化炭素を有効活用するための研究が積極的に進められており、その方策の1つとして、二酸化炭素を水素によって還元するサバチエ反応(Sabatier reaction)の利用が注目されている。サバチエ反応は、水素と二酸化炭素を高温(400℃)高圧状態に置き、ニッケル(Ni)やルテニウム(Ru)などを触媒に反応させ、メタン(CH)と水(HO)を生成する化学反応をいう。宇宙船内での活動のために必要となる酸素(O)は水の電気分解によって作られているが、同時に得られる水素(H)は現在は宇宙船外へ投棄されている。また、宇宙飛行士の活動によって消費された酸素は二酸化炭素(CO)として排出されるが、現在はこれも同様に船外投棄されている。これら船外投棄される水素と二酸化炭素を利用してサバチエ反応させれば、上述したように宇宙船には貴重な水が得られることになり、これを電気分解させれば再び酸素が得られるものとなる。また、サバチエ反応の結果として同時に得られるメタンは現状では船外投棄されているが、これを熱分解すればさらに水素を回収することもできる。この一連の処理に従えば、最終的に宇宙船外投棄となるのは熱分解炭素(Pyrolytic carbon)のみとすることもできる。
【0018】
本発明の第1の実施の形態に係るアルミニウム精錬方法は、宇宙開発技術で最終的には酸素を得るために利用されるサバチエ反応を含む一連の処理を、アルミニウム精錬に適用し、これによってアルミナ還元に伴って発生する二酸化炭素の排出量を抑制する新たなアルミニウム精錬技術を提供するものである。図1は、本実施の形態に係るアルミニウム精錬方法の概要を示すもので、主要な構成要素として太枠で囲った(A)ホール・エルー法、(B)サバチエ反応、(C)水の電気分解、そして(D)メタン熱分解の4つの要素を組み合わせることによって構成されている。矢印は各要素への出入りを示しており、この内二重四辺形は投入物質を、楕円形は中間生成物を、そして二重楕円形は出力生成物をそれぞれ示している。
【0019】
まずアルミニウム精錬において周知技術となっている(A)ホール・エルー法では、アルミナ(酸化アルミニウム:2Al)が投入物質となり、さらに溶融および電解用の白抜き矢印で示すエネルギが投入される。当該エネルギは、再生可能エネルギを利用することができる。この他に電解用の陽極電極となり還元剤として利用される炭素Cが投入されるが、これは後述する要素(D)から得られる中間生成物を利用している。なお、アルミナの溶融時に投入される氷晶石(NaAlF)は反応に関与しないため図1では省略している。アルミナを高温融解させて電気分解することにより二重楕円形で示されるアルミニウム(4Al)が取り出され、副産物として二酸化炭素(3CO)が排出される。この二酸化炭素が環境汚染物質となる。その時の化学反応式は次のようであり、図1の(A)ホール・エルー法の太枠周囲にその出入りを示している。
2Al+3C→4Al+3CO
【0020】
次に(B)サバチエ反応では、二酸化炭素と水素を反応させて水とメタンを生成するが、その時の化学反応式は以下のようであり、図1の(B)サバチエ反応の太枠周囲にその出入りを示している。
3CO +12H → 3CH + 6H
ここで入力される二酸化炭素は、(A)ホール・エルー法で排出される中間生成物となる二酸化炭素であり、すなわちアルミニウム精錬時に排出される二酸化炭素を水素で還元し、二酸化炭素の排出量を抑制するものとしている。この二酸化炭素の処理量は、排出される全量に限定されることなく、排出量削減目標等に応じて必要な量だけ処理することで段階的な排出量削減にも対応することが可能である。サバチエ反応の結果得られる中間生成物である水(6HO)とメタン(3CH)は、以下に述べる他の要素(C),(D)において活用される。
【0021】
(C)水の電気分解では、白抜き矢印で示す電解用エネルギを投入する水電解によって水から酸素(3O)と水素(6H)を取り出すが、図示のようにここに投入される水は(B)サバチエ反応により得られた楕円形に示す中間生成物である水(6HO)を使用することができる。この際の電解用のエネルギは再生可能エネルギを利用することができる。生成された水素(6H)は図の矢印でように(B)サバチエ反応に入力され、二酸化炭素の還元用に供される。水素と同時に発生する酸素は、宇宙開発の分野では宇宙船内用などで活用されるものとなるが、本実施の形態では出力物質として酸素のままで回収、貯蔵され、金属精錬などの工業的用途のほか、医療用など他の多くの用途に有効活用することができる。
【0022】
次に(D)メタンの熱分解では、サバチエ反応によって生成されたメタン(3CH)を高温加熱して水素(6H)と炭素(3C)に分解する。この際の熱分解には白抜き矢印で示すように(A)ホール・エルー法における余剰エネルギを好適にメタンの予熱に利用することができる。すなわち、ホール・エルー法ではアルミナの溶融のために電気炉が使用されるが、電気炉内では1000℃~の超高温となるため周囲の冷却が求められる。(B)サバチエ反応から生成されるメタンをこの冷却材として使用し、これを回収することでメタンの予熱が可能となり、熱分解に必要なエネルギを節約することができる。さらに(B)サバチエ反応が発熱反応であることから、やはり白抜き矢印で示すようにこれをメタンの余熱に有効活用することもできる。メタンの熱分解には触媒なしで1000℃以上の高温熱源が必要となるため、予熱による効果は一部に留まるが、いずれにせよ熱分解に必要な投与エネルギの節約となる。生成された水素(6H)は、図の右側に進んで水の電気分解により生成された水素(6H)と合わせてサバチエ反応に供することができる。また、同時に生成された炭素は、(A)ホール・エルー法の炭素電極として再利用することができ、新たな電極用の炭素の投与を不要とし、もしくは節約する。宇宙開発技術においてはメタンの熱分解によって生成される炭素は船外廃棄されることとなるが、アルミニウム精錬においてはこれを有効活用できる点で優れている。
【0023】
以上、(A)から(D)の各構成要素を組み合わせることによって、この間の反応を図の左端にある二重四辺形のアルミナ(2Al)の投入によって、二重楕円に示すアルミニウム(4Al)と酸素(3O)を生成する閉じた循環とすることができ、この系全体を通しての化学反応式としては、
2Al→4Al+3O
と表される。すなわち、(A)~(D)各構成要素の反応がロスなく理論的に進められれば、ホール・エルー法によるアルミニウムの精錬を二酸化炭素の排出ゼロとして実施することも可能となる。実際には各種の制約やロスによって完全とはいえないまでも、排出量を画期的に低減できることは不変である。また、排出量削減目標等に応じて必要な量だけ処理することで段階的な排出量削減を意図することもでき、この場合には例えば(B)サバチエ反応に投入される水素(12H)の投入量を加減することにより処理量を制御することができる。
【0024】
エネルギ的には、図1に示す4Alを得る反応において(A)ホール・エルー法にて2,221kJ、(C)電気分解で1,422kJ、(D)熱分解で225kJとなり、この合計で必要となるエネルギ総量はAlの1モル当たり967kJとなる。
(2,221+1,422+225)/4=967kJ/mol(Al)
すなわち、ホール・エルー法によりアルミナをアルミニウムと酸素に分解する還元エネルギ555kJ/mol(2,221/4)に対してその1.74倍(967/555)のエネルギ投入で二酸化炭素の発生が排除可能であることを意味する。さらに(B)サバチエ反応は反応開始時には加熱するが反応そのものは495kJのエネルギを放出する発熱反応であり、この熱量を有効利用することにより、加えて、上述した(D)熱分解の際にホール・エルー法の冷却用としてメタンを予熱できることも考慮すると、上記1.74倍の比率はより小さく抑えることが可能となる。
【0025】
以上、本実施の形態に係る発明の内容を説明してきたが、本発明の実施によってホール・エルー法により排出される二酸化炭素の排出を無くし、あるいは排出量を大幅に抑制することができ、環境改善に資する貢献効果は大きい。さらなる利点として、本方法によれば大きな投資を要することなく、既存のインフラがそのまま活用できる点が挙げられる。また、宇宙開発と比較すると廃却されるべきメタンあるいは炭素を、ホール・エルー法の電極として有効活用できる点でもメリットが得られる。
【0026】
次に、本発明の第2の実施の形態に係るアルミニウム精錬方法について図面を参照して説明する。図2は、本実施の形態に係るアルミニウム精錬方法を示しており、ここでは第1の実施の形態に示す図1に対して(C)水の電気分解を除いており、その他(A)、(B)、(D)の各要素は基本的に図1と同様である。すなわち、(A)ホール・エルー法ではアルミナを還元してアルミニウムと二酸化炭素を生成し、得られた二酸化炭素を(B)サバチエ反応によって水とメタンに置き換える。得られたメタンは(D)熱分解されて炭素と水素になり、この内の炭素は(A)ホール・エルー法の炭素電極として、水素は(B)サバチエ反応の還元剤としてそれぞれ有効活用される。
【0027】
宇宙開発技術においては特に宇宙船内での活動のために酸素が必要不可欠となる。このため(C)水の電気分解が酸素を得る有効な手段となり、同時に発生する水素は場合によっては船外投棄となるが、本発明のアルミニウム精錬における技術分野ではこれとは逆に酸素の取り出しは必ずしも必要ではなく、水素の方が(B)サバチエ反応のために有用となる。図2に示すにように、水素(6H)は(D)メタン熱分解によって得られ、これをサバチエ反応に投入するものとなるが、図1と比較すると(C)水の電気分解がないことから、図示の系の反応を維持するために必要な水素(12H)が半減することとなり、この水素の不足量を他のルートから投入物質として補充する必要がある。ただ、水素は製鉄所、ソーダ産業から豊富に得られる水素(副生水素)の利用が可能であることから、調達は容易である。ここで投入される水素の量を適切に制御することによってホール・エルー法により放出される二酸化炭素の処理量を調整するために利用することもできる。図2では、追加水素量を二重四辺形で「6H」と表示し、排出される二酸化炭素全量の処理するものとしているが、この追加水素量は任意に制御することができる。なお、水素量を減ずると(D)熱分解によって生成される炭素の量も低減するため、必要に応じて(A)ホール・エルー法に炭素(炭素電極)を適切に補充する必要が生じる。
【0028】
本実施の形態の実施によって得られる効果は基本的に先の第1の実施の形態と同様であり、ホール・エルー法によってアルミニウムを得る際に同時に発生する二酸化炭素の全量もしくは所定量の排出を抑制することができる。本実施の形態による化学反応式は次式で表される。
2Al+6H→4Al+6H
第1の実施の形態で生成される酸素の代わりに水(6HO)を得ることになるが、図2に示す系の中でいえばこの水は(A)ホール・エルー法の溶融炉の冷却として利用できるほか、他の広範な用途に使用することができる。
【0029】
次に、本発明の第3の実施の形態に係るアルミニウム精錬方法について図面を参照して説明する。図3は、本実施の形態に係るアルミニウム製錬方法を示しており、ここでは第1の実施の形態を示す図1に対して(D)メタン熱分解の要素を除いており、他の(A)~(C)の各要素に関しては基本的に図1と同様である。すなわち(A)ホール・エルー法ではアルミナを還元してアルミニウムと二酸化炭素を生成し、得られた二酸化炭素をサバチエ反応によって水とメタンに置き換える。サバチエ反応に必要な水素は、同反応によって得られる水を(C)の電気分解をすることによって得ることができる。
【0030】
第1の実施の形態との相違点は、(D)メタン熱分解の要素がないことによって(B)サバチエ反応によって得られたメタン(3CH)をそのまま出力生成物として回収し、これを有効活用するものとしている。メタンの活用方法については、まず燃料として使用することがあげられ、これによる化学反応式は以下のようになる。
CH+2O → CO+ 2HO +889kJ
ここで使用される酸素は、必要に応じて(C)水の電気分解によって得られる酸素(3O)を利用することができる。メタンは都市ガスにも使用されているように有力なエネルギ発生源としての利用が可能であるが、この場合には上記反応式にあるように二酸化炭素を発生させることから必ずしも好ましい利用法とは言い難いともいえる。ただし、従来利用されてきた化石燃料に代替するものとして使用されると解釈すれば、ここで発生する二酸化炭素が必ずしも追加の温室効果ガスの発生につながるものでもない。メタンは燃料以外にも、炭素数1のC1化学プロセスに使用する原料としても有用であり、具体的にはメタノール(CHOH)、ホルムアルデヒド(HCHO)、ギ酸(HCOOH)、シアン化水素(HCN)など、その他多数の化学製品の原材料として使用することができる有用な物質である。
【0031】
第1の実施の形態と比較したときの他の相違点は、(D)メタン熱分解がないことによって炭素(図1の3C)と水素(同、6H)が得られない点が挙げられる。この内、炭素は図1では(A)ホール・エルー法の陽極側の電極に利用することが想定されているが、代替案として従来のホール・エルー法で利用されていた電極調達ルートをそのまま活用できることから問題はない。また、水素は(C)水の電気分解によって発生する水素(6H)を(B)サバチエ反応の還元剤とし投入できるほか、先の第二の実施の形態と同様に、製鉄所、ソーダ産業などの外部から得られるので調達は容易である。この追加する水素の量を適切に制御することによってホール・エルー法により放出される二酸化炭素の処理量を調整できることも先の実施の形態と同様である。極端には電気分解によって得られる水素(6H)のみを投入することでもよく、さらにはこの量自身を制御することでもよい。なお、図1に示す(D)メタン熱分解の要素を取り除いたため炭素(3C)の供給が得られなくなるが、これは従来のホール・エルー法で利用していた調達ルートがそのまま利用できるので問題はない。
【0032】
本実施の形態の実施によって得られる効果は基本的に先の第1の実施の形態と同様であり、ホール・エルー法によってアルミニウムを得る際に同時に発生する二酸化炭素の全量もしくは所定量の排出を有効に抑制することができる。本実施の形態による化学反応式は次式で表される。
2Al+3C+6H→4Al+3CH+3O
【0033】
次に、本実施の第4の実施の形態に係るアルミニウム精錬方法について説明する。本実施の形態に係るアルミニウム製錬方法は、本発明の骨子となる二酸化炭素の発生を排除し、もしくは抑制することに的を絞った最も簡略化された構成に関する。すなわち、図1に示す(C)水の電気分解、(D)メタンの熱分解の二つの要素を除き、(A)ホール・エルー法によって排出される二酸化炭素(3CO)に、還元剤となる水素(12H)を反応させ、(B)サバチエ反応によってメタン(CH)と水(6HO)に置き換えて二酸化炭素の発生を抑制するものである。このときの化学反応式は:
2Al+3C+12H→4Al+3CH+6H
と表すことができる。サバチエ反応に必要な水素は、先の第2、第3の実施の形態と同様に外部からの副生水素の利用が可能である。アルミニウムと共に生成されるメタンと水は、先に実施の形態で示したものと同様に、ともに有効活用することができる。
【0034】
以上、本発明の各実施の形態のアルミニウム精錬方法について説明してきたが、本発明では宇宙開発事業で知られたサバチエ反応を全く異なる産業分野であるアルミニウム精錬に適用し、精錬時に発生する二酸化炭素の排出量を廃止し、もしくは一定量抑制し、温暖化現象などの環境問題の改善に寄与することにある。酸素や水が貴重となる宇宙開発技術とは異なり、地上での実施を前提とするアルミニウム製錬では各種制約が取り除かれることによって宇宙技術では場合によって廃棄されている水素、メタン、炭素を廃棄することなく有効活用することが可能となり、また宇宙では得られにくい酸素、水素を地上では容易に入手して利用することができる。したがい、サバチエ反応の処理に対してもフレキシブルに取り組む余地がある点で有利である。
【0035】
ただし、本発明に係る技術は将来的には宇宙開発において惑星や小惑星の砂(レゴリス)からアルミニウム(機械材料)と酸素(人間活動に必須な物質)生み出す技術としても活用できるポテンシャルを備えたものである。また、製錬で得られたアルミニウムは、エネルギを貯蔵するエネルギサイクルに利用できる将来性のある物質でもある。
【0036】
なお、上記各実施の形態では二酸化炭素の発生のみに言及しているが、ホール・エルー法における反応では二酸化炭素のほかに僅かではあっても一酸化炭素も発生する。しかしながらこの一酸化炭素は燃焼することにより二酸化炭素となるため、後は発生した他の二酸化酸素と一緒にして処理することができる。この際の燃焼に必要であれば、(C)水の電気分解で得られた酸素を利用することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明に係るアルミニウム精錬方法は、アルミナを還元してアルミニウムを製造する産業分野において利用することができる。
【符号の説明】
【0038】
(A):ホール・エルー法、
(B):サバチエ反応、
(C):(水の)電気分解、
(D):(メタンの)熱分解。
図1
図2
図3