(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-27
(45)【発行日】2024-12-05
(54)【発明の名称】屈折波面補正装置
(51)【国際特許分類】
G02B 26/00 20060101AFI20241128BHJP
G02B 26/06 20060101ALI20241128BHJP
G02B 3/12 20060101ALI20241128BHJP
G02B 3/14 20060101ALI20241128BHJP
G02B 7/02 20210101ALI20241128BHJP
G02B 7/04 20210101ALI20241128BHJP
【FI】
G02B26/00
G02B26/06
G02B3/12
G02B3/14
G02B7/02 C
G02B7/04 E
(21)【出願番号】P 2021544594
(86)(22)【出願日】2020-02-03
(86)【国際出願番号】 EP2020052640
(87)【国際公開番号】W WO2020157338
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2023-02-01
(31)【優先権主張番号】102019102570.2
(32)【優先日】2019-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】513139622
【氏名又は名称】アルベアト-ルートヴィヒス-ウニヴェアズィテート フライブルク
【氏名又は名称原語表記】Albert-Ludwigs-Universitaet Freiburg
【住所又は居所原語表記】Fahnenbergplatz,D-79098 Freiburg,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ツァグラー アタマン
(72)【発明者】
【氏名】カウストゥブ ベネルイェー
(72)【発明者】
【氏名】パウヤ ラヤイポウル
(72)【発明者】
【氏名】ハンス ツァッペ
【審査官】鈴木 俊光
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-504778(JP,A)
【文献】特開2002-303783(JP,A)
【文献】特開昭63-229401(JP,A)
【文献】特開2016-122117(JP,A)
【文献】特開2009-186935(JP,A)
【文献】特表2007-526593(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0118413(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102016013023(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 26/00 - 26/08
G02B 3/12 - 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
補償光学系用の屈折波面補正装置(1)であって、
少なくとも一部領域が透明な電極膜(2)と、
区画(3)であって、
前記電極膜(2)に接触する透明な光学液体(4)が充填され、かつ
前記区画(3)の光学特性を規定する光学的な境界(6)を形成する制限膜(14)によってカバーされている区画(3)と、
実施されるべき波面補正を示す制御信号に応答して前記光学的な境界(6)を偏向させるための少なくとも一部領域が透明な複数のアクチュエータ素子(5)と、を備える屈折波面補正装置(1)において、
前記電極膜(2)は、前記複数のアクチュエータ素子(5)を備え、
前記電極膜(2)に少なくとも1つの、前記制限膜(14)の不所望な変形を補償するための、または前記制限膜(14)の凸の偏向を提供するための補償素子(7)が設けられており、
前記屈折波面補正装置(1)は、光路または視野を規定しかつ制限する光学開口(8)有し、
前記複数のアクチュエータ素子(5)および前記電極膜(2)の透明部分は、前記光学開口(8)とオーバラップしていることを特徴とする、
屈折波面補正装置(1)。
【請求項2】
前記電極膜(2)は前記屈折波面補正装置(1)の基板(15)に取り付けられ、かつ前記制限膜(14)は前記電極膜(2)から離間されている、
または、
前記電極膜(2)は、前記電極膜(2)が弾力的に変形可能であるように吊り下げられ、かつ前記制限膜(14)を形成する、
請求項1記載の屈折波面補正装置(1)。
【請求項3】
前記少なくとも1つの補償素子(7)は、前記複数のアクチュエータ素子(5)と共にプッシュプル動作が可能となるように配置されており、かつ/または
前記少なくとも1つの補償素子(7)と前記複数のアクチュエータ素子(5)とは、同じ電圧でアドレシングされるとき、前記光学的な境界(6)の反対の湾曲を生じさせる、
請求項1または2記載の屈折波面補正装置(1)。
【請求項4】
前記少なくとも1つの補償素子(7)は、前記複数のアクチュエータ素子(5)とは独立してアドレシングすることができ、かつ/または
前記少なくとも1つの補償素子(7)は、前記屈折波面補正装置(1)の基板(15)から離れる方向に向けられた、前記制限膜(14)の凸の偏向を提供するように配置されている、
請求項1から3までのいずれか1項記載の屈折波面補正装置(1)。
【請求項5】
前記少なくとも1つの補償素子(7)は、前記光学開口(8)の外側側方にかつ/または
前記複数のアクチュエータ素子(5)の外側側方に少なくとも部分的に延在する、
請求項1から4までのいずれか1項記載の屈折波面補正装置(1)。
【請求項6】
前記複数のアクチュエータ素子(5)内の個々にアドレシング可能な電極(11)の数は、前記少なくとも1つの補償素子(7)の数よりも多い、請求項1から5までのいずれか1項記載の屈折波面補正装置(1)。
【請求項7】
前記少なくとも1つの補償素子(7)は、少なくとも2つの個々にアドレシング可能な電極(9,10)を有する、請求項1から6までのいずれか1項記載の屈折波面補正装置(1)。
【請求項8】
前記少なくとも1つの補償素子(7)が有する、少なくとも2つの個々にアドレシング可能な前記電極(9,10)は、前記複数のアクチュエータ素子(5)の外側および/または前記光学開口(8)の外側に配置されている、請求項7記載の屈折波面補正装置(1)。
【請求項9】
前記少なくとも1つの補償素子(7)は、前記電極膜(2)上の少なくとも1つの電極(9,10)により形成されている、請求項1から8までのいずれか1項記載の屈折波面補正装置(1)。
【請求項10】
前記複数のアクチュエータ素子(5)は、前記電極膜(2)上の電極(11)により形成されている、請求項1から9までのいずれか1項記載の屈折波面補正装置(1)。
【請求項11】
前記複数のアクチュエータ素子(5)は、前記電極膜(2)の第1の側(12)に設けられており、前記少なくとも1つの補償素子(7)は、前記第1の側(12)の反対側の前記電極膜(2)の第2の側(13)に設けられている、請求項1か
ら10までのいずれか1項記載の屈折波面補正装置(1)。
【請求項12】
前記区画(3)をカバーする前記制限膜(14)は、前記電極膜(2)から離間され、かつ/または
前記区画(3)は、前記光学開口(8)を越えて側方に延在する、
請求項1から11までのいずれか1項記載の屈折波面補正装置(1)。
【請求項13】
前記電極膜(2)は、前記屈折波面補正装置(1)の基板(15)に取り付けられている、請求項1から12までのいずれか1項記載の屈折波面補正装置(1)。
【請求項14】
前記電極膜(2)を支持する基板(15)の第1の側に、
第1の複数のアクチュエータ素子(5)と、
透明な光学液体(4)を含む第1の区画(3)と、
第1の制限膜(14)と、
が形成されており、かつ
前記電極膜(2)を支持する前記基板(15)の反対の第2の側に、
第2の複数のアクチュエータ素子(21)と、
透明な光学液体(23)を含む第2の区画(22)と、
第2の制限膜(24)と、
が形成されている、
請求項1から13までのいずれか1項記載の屈折波面補正装置(1)。
【請求項15】
前記第1の区画(3)と前記第2の区画(22)とは、高さ(25)において異なっており、かつ/または
前記第1の区画(3)は、高次収差モードを補正するように構成されており、かつ/または
前記第2の区画(22)は、低次収差モードを補正するように構成されている、
請求項14記載の屈折波面補正装置(1)。
【請求項16】
前記複数のアクチュエータ素子(5)は、圧電素子(26)により形成されている、請求項1から15までのいずれか1項記載の屈折波面補正装置(1)。
【請求項17】
前記光学液体(4,23)と接触し、かつ前記電極膜(2)から離間された前記制限膜(14,24)の、重力により誘発される非対称変形を補償するための、かつ/または
前記屈折波面補正装置(1)の基板(15)から離れる方向に向けられた、前記制限膜(14,24)の凸の偏向を提供するための、かつ/または
幾つかの収差補正の範囲および/または忠実度を改善するための、
請求項1から16までのいずれか1項記載の屈折波面補正装置(1)における少なくとも1つの補償素子(7)の使用。
【請求項18】
低次収差補正のためのストロークおよび/もしくは忠実度、
デフォーカスモード、
第1の球面収差モード、または
第2の球面収差モードを改善するための、
請求項17記載の少なくとも1つの補償素子(7)の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補償光学系用の屈折波面補正装置であって、少なくとも部分的に透明な電極膜と、電極膜に接触する透明な光学液体が充填された区画と、実施されるべき波面補正を示す制御信号に応答して光学的な境界を偏向させるための少なくとも部分的に透明な複数のアクチュエータ素子とを備える屈折波面補正装置に関する。
【0002】
補償光学(AO)は、大気のゆらぎのリアルタイム補正を介して、乱流媒体を通した回折限界画像のための地上望遠鏡内で伝統的に使用される実績のある技術である。最近、多くの生命科学顕微鏡検査技術は、サンプル/照明により誘発される波面誤差のAOに基づく補正により、解像度およびコントラストの向上を達成することが判っている。しかしながら、生命科学顕微鏡検査内でのAOの広範囲な適用は、その法外なコストによって妨げられている。発明者らは、最近、任意の波面誤差を補正するために、動的な/適用性のある素子に基づく屈折AO解決手段を開発した。この装置の概略図は、
図1に示されている。センサーレス波面推定技術と併用する場合、この新しいアプローチは、完全なインラインAO系を構築するために使用することができる。したがって、これは、AO生命科学顕微鏡検査の複雑さ、ひいてはコストを大幅に低減する可能性を有する。発明者らは、このデバイスを実現し、このアプローチの有効性を実験的に証明した。その過程で、システム性能を制限する少なくとも3つの重要な問題が確認された。これらを、以下に列挙することができる:
- 静電作動は、引力を発生させることができるだけであり、
図1に示すタイプの光流体屈折位相変調器の波面補正の能力の範囲、正確性および対称性を制限する。
- プルイン不安定性のため、作動範囲と作動電圧との間に根本的なトレードオフがある。静電的に動作する屈折位相変調器の関連では、このトレードオフは、低次収差と高次収差との補正振幅の間のトレードオフに変換される。
- このような装置を、光軸が地面に対して平行となるように垂直方向で作動する場合、チャンバ内の重力により誘発される圧力勾配のために、液体変位が、重大な寄生波面誤差に追加され、これは、単にアクチュエータによって補正することが極めて困難であるか、または全く不可能である。
【0003】
本発明は、先に列挙された問題のいずれかまたは全てを軽減または回避する改善された屈折波面補正装置を見出すという問題を解決する。
【0004】
これを達成するために、本発明は、請求項1の特徴を考慮する。したがって、冒頭で説明されたような屈折波面補正装置のために、本発明は、少なくとも、電極膜が、複数のアクチュエータ素子を備え、この電極膜に少なくとも1つの補償素子が設けられていることを特徴とする装置を提案する。電極膜に少なくとも1つの補償素子を設けることにより、アクチュエータ素子だけにより誘発される不所望な変形および/または区画内での光学的に透明な液体の(例えば重力により誘発される)挙動に対抗することが可能になる。したがって、本発明により提案された解決手段は、先に述べられた問題に取り組み、その問題を少なくとも部分的に解決することに寄与することができる。
【0005】
一般的に言えば、素子は、アクチュエータ素子かまたは補償素子か、またはその両方であってもよい。素子は、波面変調におけるその役割にフォーカスされる場合、アクチュエータ素子として扱われる。素子は、膜の不所望な変形の補償についてのその役割にフォーカスされる場合、補償素子として扱われる。
【0006】
本発明の実施態様は、補償素子はそれぞれ、各々のアクチュエータ素子によりカバーされる面積よりも大きくてもよい面積をカバーすることを特徴とする。したがって、膜の不所望な変形を補償する力を生じさせることができる。
【0007】
本発明の実施態様は、少なくとも部分的に透明な電極膜が、装置の光学開口と比べて半径において少なくとも20%大きいかまたは少なくとも50%大きくさえあることを特徴とする。したがって、バランシング素子を収容するスペースが提供される。
【0008】
本発明の実施態様は、少なくとも1つの補償素子が、装置の開口の外側側方に少なくとも部分的に延在することを特徴とする。したがって、開口によって規定または制限される光路内での画像特性への少なくとも1つの補償素子の影響を軽減または回避することができる。
【0009】
付加的にまたは代替的に、少なくとも1つの補償素子は、複数のアクチュエータ素子の外側側方に延在してもよい。したがって、補償素子は、アクチュエータ素子のいずれかまたは全てによって誘発される区画の変形に対する境界効果を補償するために有用であってもよくかつ/またはそのために使用されていてもよい。
【0010】
本発明の実施態様は、複数のアクチュエータ素子が、開口の外側側方に少なくとも部分的に延在することを特徴とする。したがって、開口により規定または制限された画像または光導波路の全範囲をアクチュエータ素子のアドレシング指定による区画の変形のために使用することができる。
【0011】
本発明の実施態様は、複数のアクチュエータ素子内の個々にアドレシング可能な電極の数が、補償素子の数よりも多いことを特徴とする。したがって、補償要素によるよりも、アクチュエータ素子により細かい解像度を達成することができる。
【0012】
本発明の実施態様は、少なくとも1つの補償素子が、特に複数のアクチュエータ素子の周りに分配された少なくとも2つの個々にアドレシング可能な電極を有することを特徴とする。
【0013】
本発明の実施態様は、少なくとも1つの補償素子が、電極膜上の少なくとも1つの電極により形成されていることを特徴とする。したがって、補償素子が導電性の液体である場合とは対照的に、この場合では、補償素子によって発生させられる反作用についての局所的なスポットを規定することができる。
【0014】
本発明の実施態様は、複数のアクチュエータ素子が、電極膜上の電極により形成されていることを特徴とする。したがって、アクチュエータ素子は、区画の変形のために、個別に静電力を発生させるために使用することができる。
【0015】
本発明の実施態様は、複数のアクチュエータ素子が、電極膜の第1の側に設けられており、少なくとも1つの補償素子が、第1の側の反対側の電極膜の第2の側に設けられていることを特徴とする。この実施態様は、とりわけ、比較的密な電極レイアウトのために有用である。
【0016】
代替的にまたは付加的に、複数のアクチュエータ素子と少なくとも1つの補償素子とは、電極膜の第1の側または第1の側の反対側の第2の側のような、電極膜の共通の側に設けられている。この実施態様は、例えば、製造方法の簡素化のために使用することができる。
【0017】
本発明の実施態様は、区画が、制限膜によってカバーされていることを特徴とする。したがって、制限膜は、透明な光学液体が充填される場合、区画の光学特性を規定する光学的な界面または光学的な境界を形成する。例えば、制限膜は、電極膜から離間されていてもよい。これは、好ましくは、区画全体で、制限膜の遠隔変形を可能にしてもよい。
【0018】
本発明の実施態様は、電極膜が、基板に取り付けられていることを特徴とする。したがって、アクチュエータ素子と補償素子とを、固定された位置に配置することができる。
【0019】
本発明の実施態様は、電極膜の第2の側が、透明な光学液体に接触していることを特徴とする。付加的にまたは代替的に、電極膜の第2の側は、制限膜に向けられていてもよい。
【0020】
本発明の実施態様は、接地電極が、区画の外側に形成されていることを特徴とする。したがって、接地電極は、区画の外側から、容易にアクセス可能かつ/または容易にアドレシング可能であってもよい。例えば、接地電極は、制限膜、例えば本明細書で他の箇所で説明された制限膜上に形成されていてもよい。例えば、接地電極は、コーティングとして形成されていてもよい。
【0021】
本発明の実施態様は、透明な光学液体が、密度(例えば1~2g/cm3)において一致しかつ/または屈折率において、例えば少なくとも0.2だけ異なるバランシング液体を介して釣り合わせられていることを特徴とする。この釣り合いは、制限膜によって、好ましくは本明細書内で他の箇所で説明された制限膜、または電極膜、またはその両方により媒介されていてもよい。
【0022】
本発明の実施態様は、区画の外側に、好ましくは制限膜上に、特に導電性の透明な液体として接地電極が形成されていることを特徴とする。したがって、堆積またはアブレーションの形態の個別の接地電極は必要なくてもよい。また、透明な液体は、区画内の透明な光学液体の屈折率からかなり異なる屈折率で提供されていてもよい。この場合、制限膜は、区画の光学的な境界を規定するものと見なしてもよい。導電性の透明な液体の密度が適切に選択されている場合、制限膜の外側の導電性の透明な液体は、区画内部の光学的に透明な液体の質量により、制限膜の変形に釣り合わされてもよい。
【0023】
本発明の実施態様は、電極膜を支持する基板の反対の第2の側に、第2の複数のアクチュエータ素子と、透明な光学液体を含む第2の区画と、第2の制限膜とが形成されていることを特徴とする。本明細書の冒頭で説明された区画が、この意味で、第1の区画として機能することができると言うことができる。
【0024】
本発明の実施態様は、第1の区画と第2の区画とが、高さにおいて異なることを特徴とする。したがって、異なる収差モードは、異なる区画により補正することができる。この配置は、天文学的補償光学配置のために一般的に使用されるウーファー・ツイーター型の配置に類似している。これらとは異なり、ウーファー機能とツイーター機能との両方が、1つの装置に統合されている。この点で、ウーファーは、長いストロークを有するが低い周波数補正だけを発生させることが可能である装置と特徴付けることができる。また、ツイーターは、短いストロークを有するが、高い周波数補正が可能である装置と特徴付けることができる。
【0025】
本発明の実施態様は、第1の区画が、高次収差モードを補正するように構成されていることを特徴とする。例えば、これは、低い(例えば<100μmまたは<60μm)高さおよび多数(例えば>50または>67)の電極を有する区画を構成することによって達成することができる。低減された区画高さは、開口面積が制限されているため、面積が減少する電気素子(アクチュエータ素子)が、単位面積当たりより大きな力を発生させることを保証する。したがって、通常では振幅において小さいが空間周波数において高い高次収差をより効果的に補正することができる。
【0026】
付加的にまたは代替的に、本発明の実施態様は、第2の区画が、低次収差モードを補正するように構成されていることを特徴とする。例えば、これは、高い(>60μmまたは>100μm)高さおよび少数(<100または<67)の電極を有する区画を構成することにより達成することができる。増加させられた区画高さは、静電引込みが生じる前に利用可能な変位領域が大きくなることを保証する。したがって、通常では振幅において大きいが空間周波数において低い低次収差をより効果的に補正することができる。
【0027】
本発明の実施態様は、複数のアクチュエータ素子が、圧電素子により形成されていることを特徴とする。したがって、接地電極は、アクチュエータ素子のアドレシング指定のために必要なくなる。
【0028】
本発明の実施態様は、電極膜が、可撓性に変形可能であるように懸架されていることを特徴とする。したがって、電極膜は、アクチュエータ素子を特定の方法で作動させることにより変形することができる。これは、電極膜が、例えば先に説明されたように、透明な光学液体のための制限膜として機能する場合に、特に有利である。
【0029】
本発明の実施態様は、複数のアクチュエータ素子が、区画の外側に配置されていることを特徴とする。したがって、アクチュエータ素子は、区画にアクセスする必要なしに、区画の外側からアドレシングすることができる。
【0030】
本発明の実施態様は、少なくとも1つの補償素子が、透明な導電性の液体により形成されていることを特徴とする。したがって、少なくとも1つの補償素子を形成するための堆積方法は必要なくてもよい。付加的に、透明な導電性の液体は、特に区画の外側に配置される場合、(例えば、第1の)区画の重力により誘発される変形に釣り合わせるための質量バランシング素子として機能することができる。
【0031】
本発明の実施態様は、電極膜が、圧電材料を含むことを特徴とする。したがって、電極膜を、電極膜の層または全体の厚さにおいて統合することができる。代替的なアプローチは、アクチュエータ素子を電極の形態で形成することを回避する。
【0032】
本発明の実施態様は、特に先に説明されたように、少なくとも1つの区画、特に第1および/または第2の区画が閉鎖されていることを特徴とする。特に、この(これらの)区画は、例えば、充填後の回復および/または密封により、かつ/または流体ポートの閉鎖により閉鎖することができる。区画を閉鎖することにより、引張力だけを生じさせることができる素子を使用することにより、プッシュプル変形を比較的容易に達成することができる。
【0033】
上述のことに加えて、本発明は、液体の制限膜の、重力により誘発される非対称変形を補償するための、本発明による、特に屈折波面補正装置に関する請求項のいずれか1項記載の屈折波面補正装置への少なくとも1つの補償電極の使用を提案する。付加的にまたは代替的に、本発明は、液体の制限膜の正の偏向を提供するための上述の使用を提案する。この正の(凸の)偏向は、基板から離れる方向に向けられていてもよい。
【0034】
ここで、本発明を、特定の実施態様を参照して説明する。しかしながら、本発明は、決してこれらの実施態様により限定されるものではない。更なる実施態様は、請求項のいずれかの特徴を別の請求項の特徴または実施態様の特徴と組み合わせることにより導き出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】(a)公知のタイプの光流体屈折位相変調器[屈折波形補正装置1]の概略図である。
【
図2】2つの垂直に積層された、空間的に重ならない電極セットを備えた屈折波形変調器の概略図であり、(a)は断面図であり、(b)は上面図である。
【
図3】重力の影響を軽減することができるか、または本質的に影響を受けない別の配置を示す。
【
図4】単一の基板に実装されたウーファー/ツイーター型の配置を示す。
【
図5】本発明による屈折波面補正装置についての別の作動方法である。
【0036】
図1は、部分(a)で、公知のタイプの光流体屈折位相変調器[屈折波形補正装置1]の概略図を示す。ハイドロメカニカルカップリングによって、この装置は、アクチュエータ電極5の中心電極30の作動により正のデフォーカスが達成され(b)、アクチュエータ電極5のエッジ電極31の作動により負のデフォーカスが達成される(c)。
【0037】
図2は、2つの垂直に積層された、空間的に重ならない電極セット[アクチュエータ素子5と補償素子7]を備えた屈折波面変調器[屈折波形補正装置1]の概略図である。(a)は断面図であり、(b)は上面図である。内部電極[アクチュエータ素子5]は、最大67個(図では37個)であり、高次収差補正を提供する。これらは、六角形またはキーストーンパターンまたは他のパターンで分配することができる。外部電極[補償素子7]は、最大16個の半径方向に分配された電極(図では4個)を有し、幾つかの範囲および/または忠実度を改善し、実際に全ての収差補正のこの例では、特に低次収差補正のためのストロークおよび忠実度を、特にデフォーカスおよび第1および第2の球面収差モードにおいて改善する。このような配置は、全てのアクチュエータ[アクチュエータ素子5]が引力でしか作動しないにもかかわらず、完全なプッシュプル動作を可能にする。外部電極[補償素子7]を収容するために、変形可能な膜[少なくとも部分的に透明な電極膜2]は、(b)に示されるように、光学開口8と比較して半径において少なくとも50%大きい。装置の背面に堆積された薄い不透明フィルム32(例えば酸化イリジウム)は、正確に規定された開口面積を提供する。2つの電極層[アクチュエータ素子5と補償素子7とを形成する]は、CytopまたはParylene Cのような薄膜誘電体を介して電気的に絶縁されている。外部電極[補償素子7]の別の利点は、変調器[屈折波形補正装置1]が垂直で作動させられる場合に明らかになる。これらは、重力によって誘発される寄生膜変形の部分的な解除を可能にする大きな補正力を提供する。
【0038】
補償光学系用の屈折波面補正装置1は、少なくとも部分的に透明である電極膜2を有する。補正装置1はさらに、透明な光学液体4が充填された区画3を有する。液体4は、流体ポート34を介して出し入れすることができる。充填が完了した後に、液体を収容するためにポート34が閉鎖されてもよい。
【0039】
液体4は、電極膜2に接触する。
【0040】
複数の少なくとも部分的に透明なアクチュエータ素子5は、光学的な境界6を偏向するために形成される。この偏向は、実施されるべき波面補正を示す制御信号に応答して誘導される。
【0041】
電極膜2は、複数のアクチュエータ素子5を備えている。さらに、電極膜2上には、少なくとも1つの補償素子7が設けられている。
【0042】
補正装置1は、光路または視野を規定しかつ制限する開口8を有する。
【0043】
少なくとも1つの補償素子7は、装置1の開口8の外側側方に少なくとも部分的に延在する。
【0044】
図2(a)から解るように、少なくとも部分的に透明な電極膜2は、開口8よりも半径において少なくとも50%大きい領域にわたって延在する。
【0045】
特に、少なくとも1つの補償素子7は、複数のアクチュエータ素子5の外側側方に延在する。
【0046】
複数のアクチュエータ素子5は、開口8の外側側方に少なくとも部分的に延在する。しかしながら、複数のアクチュエータ素子5の主要な部分は、開口8により規定される空間内にある。
【0047】
複数のアクチュエータ素子5内の個別にアドレシング可能な電極11の数は、補償素子7の数よりも多い。
【0048】
少なくとも1つの補償素子7は、少なくとも2つの個別にアドレシング可能な電極9,10を有する。これらの電極9,10は、複数のアクチュエータ素子5の周りに分配されている。この実施態様では、電極9,10は、完全な円を形成している。
【0049】
電極9,10の各々は、電極11の各々よりも面積において大きい。
【0050】
少なくとも1つの補償素子7は、電極膜2上の少なくとも1つの電極9,10により形成されている。
【0051】
複数のアクチュエータ素子5は、電極膜2上の電極9,10により形成されている。
【0052】
複数のアクチュエータ素子5は、電極膜2の第1の側12に設けられている。少なくとも1つの補償素子7は、第1の側12とは反対側の電極膜2の第2の側13に設けられている。
【0053】
区画3は、制限膜14によりカバーされている。制限膜14と電極膜2とは、スペーサ33と区画3とにより互いに離間されている。2つの膜2,14は、第1の区画3の境界を規定していると言うことができる。
【0054】
電極膜2は、基板15に取り付けられている。制限膜14は、可撓性であり、スペーサ33上に懸架されている。
【0055】
電極膜2の第2の側13は、透明な光学液体4に接触している。また、電極膜2の第2の側13は、制限膜14に向けられている。
【0056】
接地電極16は、区画3の外側に形成されている。この接地電極16は、コーティングとして制限膜14上に形成されている。
【0057】
図3は、本質的に重力の影響を受けないか、または少なくともその影響を軽減するのに役立ってもよい別の配置を示す。2つのチャンバ[第1の区画3と外側区画29]は、質量密度において一致していて、屈折率差の大きい2つの光学液体[透明な光学液体4と導電性の透明な液体19と]が充填されている。さらに、上方の液体19は、導電性であり、接地電極16として機能することができる。別の実施態様では、上方の液体は、導電性である必要はない。接地電極16は、
図2のように形成されていてもよい。
【0058】
図3に戻ると、第1の区画3の垂直な配置では、透明な光学液体4は、密度において一致しかつ屈折率において対照的なバランシング液体19により制限膜14を通して釣り合わせられる。
【0059】
したがって、接地電極16は、導電性の透明な液体19として、制限膜14上の区画の外側に形成されている。
【0060】
図4は、単一の基板15に実装されたウーファー/ツイーター型の配置を示す。第1のチャンバ[第1の区画3]は、密に充填された電極アレイ[アクチュエータ素子5]と単位面積当たり大幅に高める低いチャンバ高さとを特徴とする。このチャンバ[第1の区画3]は、低ないし中程度の振幅で高次収差を補正するように最適化されている。第2のチャンバ[第2の区画22]は、低い電極密度と、高いチャンバ高さを有し、低次収差での大きなストロークを可能とする。タンデムのこの配置は、固有のストローク対領域のトレードオフ静電作動を排除する。高次収差は、ほとんどいつでも、低次収差に比べて振幅においてかなり小さいため、このような配置は、AO顕微鏡検査のために特に有用である。この装置のウーファー部分とツイーター部分とは、別々に独立した基板に実装することもできる。
【0061】
電極膜2を支持する基板15の反対の第2の側20には、第2の複数のアクチュエータ素子21と、透明な光学液体23を含む第2の区画22と、第2の制限膜24とが形成される。第1の区画3は、示されているように、第2の区画22と流体接続されていてもよい。したがって、第2の透明な光学液体23は、透明な光学液体4と同一であってもよい。
【0062】
第1の区画3と第2の区画22とは、高さにおいて異なっている。
【0063】
第1の区画3は、高次収差モードを補正するように構成されていて、第2の区画22は、低次収差モードを補正するように構成されている。
【0064】
図5は、本発明による屈折波面補正装置1の別の作動方法を示す:変形可能な膜[少なくとも部分的に透明な電極膜2]を達成するために、圧電活性ポリマー、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)をアクチュエータ素子5として使用することもできる。膜2は、膜2の一方の側12の少なくとも1つの接地電極16と、他方の側の少なくとも部分的に透明なアクチュエータ素子5を形成するパターン化された信号電極との電極層35および36により挟まれている圧電活性ポリマーを有する。個別にアドレシング可能な信号電極11は、必要な膜2を発生させるように局所的な電場を発生させるために使用することができる。膜の製造を単純化するために、接地電極層35は、
図5に示すように、電気的に接地されたイオン性の光学液体[導電性の透明な液体19]を使用することを優先することで、省くことができる。圧電作動は双方向であるため、この構成は、
図2に示された構成の代替である。
【0065】
この実施態様では、複数のアクチュエータ素子5は、圧電素子により形成されている。
【0066】
電極膜2は、可撓性に変形可能なように懸架されている。
【0067】
複数のアクチュエータ素子5は、区画3の外側に配置されている。
【0068】
少なくとも1つの補償素子7は、区画3の内側で、透明な導電性の液体によって形成されている。
【0069】
要約すると、本発明は、例えば重力の影響によって誘発される、区画3の不所望な変形を補償または無効化するためのかつ/または制限膜14の正の(凸の)偏向を発生させるためのアクチュエータ素子5を提供する補償素子7を少なくとも部分的に透明な膜2に形成することを使用することを提案する。複数のアクチュエータ素子5と少なくとも1つの補償素子7とは、共通の電極膜2に設けられている。
【符号の説明】
【0070】
1 屈折波面補正装置
2 少なくとも部分的に透明な電極膜
3 (第1の)区画
4 透明な光学液体
5 少なくとも部分的に透明なアクチュエータ素子
6 光学的な境界
7 補償素子
8 開口
9 補償素子の電極
10 補償素子の電極
11 アクチュエータ素子の電極
12 電極膜の第1の側
13 電極膜の第2の側
14 制限膜
15 基板
16 接地電極
17 コーティング
18 バランシング液体
19 導電性の透明な液体
20 基板の反対の第2の側
21 第2の複数のアクチュエータ素子
22 第2の区画
23 透明な光学液体
24 第2の制限膜
25 高さ
26 圧電素子
27 圧電材料
28 正の偏向
29 外側区画
30 中心電極
31 エッジ電極
32 不透明フィルム
33 スペーサ
34 流体開口部
35 電極層
36 電極層