(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-27
(45)【発行日】2024-12-05
(54)【発明の名称】肝細胞の長期間培養のための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/02 20060101AFI20241128BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20241128BHJP
【FI】
C12N5/02
C12N5/071
(21)【出願番号】P 2021549702
(86)(22)【出願日】2019-02-26
(86)【国際出願番号】 CN2019076151
(87)【国際公開番号】W WO2020172792
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2021-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】507232478
【氏名又は名称】北京大学
【氏名又は名称原語表記】PEKING UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】No.5, Yiheyuan Road, Haidian District, Beijing 100871, China
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】デン,ホンクイ
(72)【発明者】
【氏名】シャン,チェンガン
(72)【発明者】
【氏名】ドゥ,ユアンユアン
【審査官】小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/148216(WO,A1)
【文献】特許第6968347(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2017/0198254(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00 - 5/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アデニル酸シクラーゼの活性化剤、TGFβ阻害剤、Notch阻害剤、Wnt阻害剤、及びBMP阻害剤からなる群より選択される少なくとも1つの因子を含む、少なくとも2週間の長期間、インビトロで機能性肝細胞の機能を維持するための、補充された肝細胞培養組成物であって、該補充された肝細胞培養組成物中で少なくとも2週間のインビトロでの肝細胞培養の後に、アデニル酸シクラーゼの活性化剤及びTGFβ阻害剤を含まない、補充されていない培養組成物中で培養した肝細胞と比較して、少なくとも1つの肝細胞マーカーの発現の増加として測定される、インビトロで長期間の機能性肝細胞機能を維持するのに有効な量で前記因子を含む、補充された肝細胞培養組成物であって、アデニル酸シクラーゼの活性化剤及びTGFβ阻害剤の組み合わせを含む、補充された肝細胞培養組成物。
【請求項2】
少なくとも、1つのNotch阻害剤、1つのWnt阻害剤、及び1つのBMP阻害剤を更に含む、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記肝細胞が、ヒト肝細胞又は誘導性肝細胞(iHep)である、請求項1又は2記載の組成物。
【請求項4】
少なくとも、1つのアデニル酸シクラーゼの活性化剤、1つのTGFβ阻害剤、1つのNotch阻害剤、1つのWnt阻害剤、及び1つのBMP阻害剤の組み合わせ(「5C」)を含む、請求項1~3のいずれか一項記載の組成物。
【請求項5】
アデニル酸シクラーゼの活性化剤がフォルスコリンである、請求項1~4のいずれか一項記載の組成物。
【請求項6】
TGFβ阻害剤がSB431542(SB43)である、請求項1~4のいずれか一項記載の組成物。
【請求項7】
Notch阻害剤がDAPTである、請求項1~4のいずれか一項記載の組成物。
【請求項8】
Wnt阻害剤がIWP2である、請求項1~4のいずれか一項記載の組成物。
【請求項9】
BMP阻害剤がLDN193189である、請求項1~4のいずれか一項記載の組成物。
【請求項10】
肝細胞機能性タンパク質が、アルブミン(ALB)、CPS1、ARG、NAGS、PXR、CAR、APOA2、APOB、F2、F10、チトクロムP450(CYP)3A4、CYP1A2、CYP2C9、CYP2D6、NTCP、PXR、CAR及びUGT2B7からなる群より選択される、請求項1~9のいずれか一項記載の組成物。
【請求項11】
肝細胞が、少なくとも60日間の培養後に、同一の生物由来の単離したばかりの初代肝細胞(F-PHH)と同一のレベルで、少なくとも6つの肝細胞機能性タンパク質を発現する、請求項1~10のいずれか一項記載の組成物。
【請求項12】
肝細胞が、少なくとも90日間の培養後に、同一の生物由来のF-PHHと同一のレベルで、少なくとも6つの肝細胞機能性タンパク質を発現する、請求項1~10のいずれか一項記載の組成物。
【請求項13】
請求項1~9のいずれか一項記載の組成物を用いることによって、少なくとも2週間の長期間、機能性肝細胞をインビトロ培養するための方法。
【請求項14】
肝細胞が、少なくとも2週間のインビトロでの培養後に、肝細胞形態(多角形形状)、アルブミン分泌及び尿素合成などの確立された肝細胞機能、及び少なくとも1つの既知の肝細胞マーカーの発現からなる群より選択される少なくとも1つの特徴を有する、請求項13記載の方法。
【請求項15】
肝細胞が、3~8週間の培養後に、少なくとも1つの特徴を有する、請求項14記載の方法。
【請求項16】
少なくとも1つの肝細胞マーカーが、チトクロムP450(CYP)3A4;CYP1A2;CYP2C9;CYP2D6;CYP2B6;CYP2C19;UDP-グルクロン酸転移酵素(UGT)1A3;UGT1A4;UGT2B15;UGT2B7、NTCP(Na
+-タウロコール酸共輸送ポリペプチド);ABCG2(ATP結合カセットスーパーファミリーGメンバー2);MRP2(多剤耐性関連タンパク質2);及び有機アニオン輸送ポリペプチド(OATP)1B1からなる群より選択される、請求項13~15のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
肝細胞が、同一の生物由来の単離したばかりの肝細胞によって発現されるレベルと比較した場合、同等の(統計的有意差なしとして測定される)又はそれ以上のレベルで、列挙された少なくとも1つの肝細胞マーカーを発現する、請求項13~16のいずれか一項記載の方法。
【請求項18】
前記肝細胞が、90日間の培養で、同一の生物から得た単離したばかりの肝細胞と同等の
(統計的有意差なしとして測定される)レベルで、次の肝細胞マーカー:APOA2、APOB、F2、F10、CYP3A4、CYP1A2、CYP2C9及びUTG2B7の少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、又は少なくとも6つを発現する、請求項13~17のいずれか一項記載の方法。
【請求項19】
前記肝細胞が、2週間の培養後に、F-PHHのレベルと同等の
(統計的有意差なしとして測定される)レベルで、代謝的に活性なCYP3A4、CYP1A2、CYP2C9、CYP2D6及びCYP2B6を発現する、請求項13~18のいずれか一項記載の方法。
【請求項20】
請求項1~9のいずれか一項記載の組成物を用いることによって、少なくとも2週間の長期間、機能性肝細胞をインビトロで培養すること、
寄生体感染に有効な時間、前記培養された機能性肝細胞に肝寄生体を接種すること、及び
肝細胞培養(HC)用の補充された肝基礎培地において、前記寄生体に感染した細胞をインビトロで培養すること
を含む、インビトロ肝寄生体感染モデルを生産する方法。
【請求項21】
請求項20記載の方法であって、寄生体が肝炎ウイルスであり、方法が、ウイルス感染に有効な時間、請求項13記載の方法によって培養された肝細胞に肝炎ウイルスを接種すること、及び肝細胞培養(HC)用の補充された肝基礎培地において、前記ウイルスに感染した細胞をインビトロで培養することを含む、方法。
【請求項22】
肝炎ウイルスが、B型肝炎、D型肝炎又はC型肝炎である、請求項
21記載の方法。
【請求項23】
インビトロでの4週間の培養で、HBVの共有結合閉環状DNA(cccDNA)を含む、請求項21記載の方法。
【請求項24】
寄生体が、熱帯熱マラリア原虫(P. falciparum)、三日熱マラリア原虫(P. vivax)、卵形マラリア原虫(P. ovale)、及び四日熱マラリア原虫(P. malariae)からなる群より選択されるマラリア寄生虫である、請求項20記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、肝細胞の長期間維持及び肝細胞の機能的成熟に関する。
【背景技術】
【0002】
最終的に分化した細胞は、インビボで機能的に安定であり、微小環境シグナルによる正確な時空間的調節に高度に依存している状態である。一旦単離されると、細胞は、微小環境の変化を受け、機能的な退行をもたらす。インビトロで最終的に分化した細胞の長期間維持は、困難であることが証明されている。一旦単離されると、これらの細胞は一般的にその特異的機能を失う(Haenseler et al., Stem Cell Reports 8, 1727-1742 (2017); Louch, et al., J Mol Cell Cardiol 51, 288-298 (2011); Ootani et al., Nat Med 15, 701-706 (2009); Shulman, et al., Methods Mol Biol 945, 287-302 (2013))。特に、初代ヒト肝細胞(PHH)の長期間維持の失敗は、世界的に流行している疾患である、HBV感染などの肝指向性感染のモデル化におけるそれらの適用を制限する(Zhong, et al., Clin. Chim. Acta: 412:1905-1911 (2011))。B型肝炎ウイルス(HBV)の機能的な受容体である、Na+-タウロコール酸共輸送ペプチド(NTCP)の同定などの進歩は、HBV感染を研究するための肝細胞がん細胞株の確立を可能にした(Yan, et al., eLife 1, (2012))。しかしながら、経時的なHBVライフサイクル、特にcccDNAの持続性を調査する研究は、依然として困難なままである(Liang et al., Hepatology 62, 1893-1908 (2015))。PHHは、デノボヒトHBV感染と非常に類似した感染特性を共有し、HBVモデル化に理想的であると考えられてきたが、それらの長期間の有用性は、インビトロでの限られた生存能及び不安定な機能維持によって制限される(Lu, et al., International journal of medical sciences 1, 21-33 (2004); Xia et al., J Hepatol 66, 494-503 (2017); Elaut et al., Curr Drug Metab 7, 629-660 (2006))。従って、真正ヒト肝細胞の機能維持のための培養条件の確立は、HBV研究に有益でありうる。
【0003】
更に、最終的に分化した細胞の機能を安定化するための効率的な培養条件の欠如は、ヒト多能性幹細胞(hPSC)の分化及び直接系統リプログラミングによる機能的な成熟細胞の生成も制限した。hPSCは、大量の様々なヒト細胞型を生成するための理想的な潜在的細胞源と考えられているが、ほとんどのhPSC由来の細胞は、現在のプロトコル(Hrvatin, et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 111 (8) 3038-3043 (2014)Takayama, et al., Drug Metab Pharmacokinet 32(1): 12-20 (2017))により生成した場合、未成熟な表現型を示した。hPSC由来の細胞の機能的な未熟性の主要な理由の1つは、その最終分化段階の取得を可能にする、利用可能な培養条件の欠如である。従って、最終的に分化した細胞の機能性の維持を支持する培養条件の同定は、それらのインビトロでの適用と生成の両方に利益をもたらす可能性がある。
【0004】
ヒト肝細胞を含む、分化した細胞型の長期間の、機能的維持に対する解決策を提供する細胞培養法が依然として必要である。
【0005】
本発明の目的は、機能的に分化した細胞をインビトロで長期間培養するための方法を提供することである。
【0006】
また、本発明の目的は、機能的に分化した細胞をインビトロで長期間維持するための組成物を提供することである。
【0007】
また、本発明の目的は、インビトロで改善された機能の維持を伴った分化した細胞を提供することである。
【発明の概要】
【0008】
培養における機能性肝細胞を長期間維持するための組成物、インビトロで機能性肝細胞を維持するための改善された方法、及び本明細書に開示された方法による機能性肝細胞培養物が提供される。
。
【0009】
前記組成物は、少なくともアデニル酸シクラーゼの活性化剤、TGFβ阻害剤、Notch阻害剤、Wnt阻害剤、及び/又はBMP阻害剤を含む。いくつかの好ましい実施態様では前記組成物は、アデニル酸シクラーゼの活性化剤、及びTGFβ阻害剤の組み合わせを含む。特に好ましい実施態様では、前記組成物は、少なくとも、1つのアデニル酸シクラーゼの活性化剤、1つのTGFβ阻害剤、1つのNotch阻害剤、1つのWnt阻害剤、及び1つのBMP阻害剤の組み合わせ(本明細書では、「5C」)を含む。アデニル酸シクラーゼの活性化剤の最も好ましい活性化剤はフォルスコリン(FSK)であり;好ましいTGFβ阻害剤はSB431542(SB43)であり;好ましいNotch阻害剤はDAPTであり;好ましいWnt阻害剤はIWP2であり、そして好ましいBMP阻害剤はLDN193189(LDN)である。前記化合物の組み合わせを、インビトロで長期間、機能的な肝細胞機能を維持するための有効量で、任意の肝細胞培養培地に加える。
【0010】
前記組成物は、インビトロでの機能性肝細胞の維持を改善するために使用される。
【0011】
また、本明細書に開示された方法により得られる肝細胞(「本明細書では、5C肝細胞」)も提供される。本明細書に開示された方法により培養した場合、前記肝細胞は、インビトロでの肝細胞機能の改善された維持を示す。好ましい実施態様では、前記5C肝細胞は、少なくとも60日間の培養後に、同一の生物から単離したばかりの初代肝細胞と同一のレベルで、少なくとも6つの肝細胞機能性タンパク質を発現する。特に好ましい実施態様では、5C肝細胞は、少なくとも90日間の培養後に、同一の生物から単離したばかりの初代肝細胞と同一のレベルで、少なくとも6つの肝細胞機能性タンパク質を発現する。特に好ましい実施態様では、例示的な肝細胞機能性タンパク質は、アルブミン(ALB)、APOA2、APOB、F2、F10、チトクロムP450(CYP)3A4、CYP1A2、CYP2C9及びUGT2B7を含む。
【0012】
培養における機能性肝細胞の長期間維持のためのキットが提供される。前記キットは、1つのアデニル酸シクラーゼの活性化剤、1つのTGFβ阻害剤、1つのNotch阻害剤、1つのWnt阻害剤、及び1つのBMP阻害剤(本明細書では、「5C」)を含む。アデニル酸シクラーゼ活性化剤の最も好ましい活性化剤はフォルスコリンであり;好ましいTGFβ阻害剤はSB43であり;好ましいNotch阻害剤はDAPTであり;好ましいWnt阻害剤はIWP2であり、そして好ましいBMP阻害剤はLDNである。
【0013】
また、機能性分化細胞、例えば肝細胞のインビトロでの維持を改善する薬剤を特定するための方法が提供される。前記方法は、単離したばかりの初代肝細胞と24時間だけ培養した肝細胞との全体的な遺伝子発現プロファイルを比較し、そして肝細胞の運命のパターン化、分化及びリプログラミングに関与する小分子標的をスクリーニングすることを含む。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、HCM中で24時間培養した肝細胞(24時間培養した肝細胞)及び単離したばかりの肝細胞(F-PHH)における、RNAシーケンス(RNA-Seq)により分析した、機能マーカー遺伝子のmRNAレベルを示す。
【
図2A】
図2A及び2Bは、インビトロでPHH維持を部分的に支持する因子としてのTGF-β阻害剤(SB431542)の同定を示す。
図2Aは、HCM中で24時間培養した肝細胞(24時間培養した肝細胞)及び単離したばかりの肝細胞(F-PHH)中で、TGFβシグナル伝達経路において富化された遺伝子がRNAシーケンスにより検出されたことを示す。
【
図2B】
図2Bは、qRT-PCRによって検出された、異なる条件下で培養したPHHにおける間葉系マーカー遺伝子及び肝細胞機能遺伝子の遺伝子発現を示す。n=2。相対的な遺伝子発現は、F-PHHに対して正規化した。
【
図3A】
図3A及び3Bは、インビトロで、cAMP活性化剤のフォルスコリンが、PHH培養に対して有利であると同定したことを示す。EMTマスター遺伝子の発現を効果的に阻害し、重要な肝細胞遺伝子の発現を維持する候補のための小分子プールのスクリーニング。培養14日目にqRT-PCR分析を実施した;F-PHHを陽性対照として用いた。相対的な遺伝子発現はヌル(Null)に対して正規化した。n=2。
【
図3B】
図3A及び3Bは、インビトロで、cAMP活性化剤のフォルスコリンが、PHH培養に対して有利であると同定したことを示す。EMTマスター遺伝子の発現を効果的に阻害し、重要な肝細胞遺伝子の発現を維持する候補のための小分子プールのスクリーニング。培養14日目にqRT-PCR分析を実施した;F-PHHを陽性対照として用いた。相対的な遺伝子発現はヌル(Null)に対して正規化した。n=2。
【
図4A】
図4A~4Cは、FSKとSB43の併用がPHH維持に及ぼす効果を示す。
図4Aは、異なる培養条件下での細胞生存率を分析するためのMTTアッセイを示す折れ線グラフである。n=3。
【
図4B】
図4Bは、間葉マーカー遺伝子及び肝細胞機能遺伝子発現の調節中に、SB43とFSK(2Cと称される)との間の相乗効果が、RT-qPCRによる検出により観察されたことを示す。相対的な遺伝子発現は、F-PHHに対して正規化される。
【
図4C】
図4Cは、培養4週間後の培養した肝細胞における代理的な肝機能マーカーのqRT-PCR分析を示す。相対的な遺伝子発現は、F-PHHに対して正規化した。n=2。
【
図4D】
図4Dは、異なる条件下で培養したPHHにおけるALB分泌の動態を示す折れ線グラフである。n=3の独立したバッチ。
【
図4E】
図4Eは、培養したPHHにおけるアルブミン分泌及び尿素合成を示す折れ線グラフである。n=2。
【
図4F】
図4Fは、LC/MSにより測定した異なる条件下で培養したPHHにおけるCYP酵素の薬物代謝活性を示す。テストステロン(CYP3A4-T)及びミダゾラム(CYP3A4-M)を用いてCYP3A4の比活性を測定した。結果は百万細胞あたりのpmol/分で示す。n=3。
【
図4G】
図4G~Iは、qRT-PCR(
図4G)及びLC/MS(
図4H)によって検出された2C-PHHにおけるCYP450活性の誘導を示す。Rifは、リファンピン;PBは、フェノバルビタール;ETOHは、エタノール;βNFは、β-ナフトフラボン。n≧2。(
図4I)2C-PHHにおけるCYP450活性の阻害を、2Cで培養した肝細胞においてLC/MSにより検出した。n=3。KCは、ケトコナゾール;SXは、スルファフェナゾール;ANFは、α-ナフトフラボン。
【
図4H】
図4G~Iは、qRT-PCR(
図4G)及びLC/MS(
図4H)によって検出された2C-PHHにおけるCYP450活性の誘導を示す。Rifは、リファンピン;PBは、フェノバルビタール;ETOHは、エタノール;βNFは、β-ナフトフラボン。n≧2。(
図4I)2C-PHHにおけるCYP450活性の阻害を、2Cで培養した肝細胞においてLC/MSにより検出した。n=3。KCは、ケトコナゾール;SXは、スルファフェナゾール;ANFは、α-ナフトフラボン。
【
図4I】
図4G~Iは、qRT-PCR(
図4G)及びLC/MS(
図4H)によって検出された2C-PHHにおけるCYP450活性の誘導を示す。Rifは、リファンピン;PBは、フェノバルビタール;ETOHは、エタノール;βNFは、β-ナフトフラボン。n≧2。(
図4I)2C-PHHにおけるCYP450活性の阻害を、2Cで培養した肝細胞においてLC/MSにより検出した。n=3。KCは、ケトコナゾール;SXは、スルファフェナゾール;ANFは、α-ナフトフラボン。
【
図4J】
図4Jは、4週間培養したPHHの移植後2及び4週間目のマウス血清中のヒトアルブミンのELISAの結果である。
【
図4K】
図4Kは、qRT-PCRにより検出した、2C条件で14日間及び/又は30日間培養したPHHにおける主要なCYP酵素の発現を示す。ウィリアムズ培地E(WME)及びHCMの2つの基礎培地を適用した。相対的な遺伝子発現は、F-PHHに対して正規化する。
【
図5A】
図5A~5Eは、PHHを維持するための最適構成(5C条件)の同定を示す。
図5Aは、SB43及びFSKと相乗的に協力する候補を発見するための化学的スクリーニングを示すスキームである。
【
図5B】
図5Bは、SB43及びFSKと単独で併用した場合の、EMT遺伝子発現(抑制する)又は肝機能遺伝子発現(増加する)に対するDAPT、LDN193189及びIWP2の効果を示す。相対的な遺伝子発現は、DMSOに対して正規化した。n=2。
【
図5C】
図5Cは、SB43及びFSKと併用した場合、培養したPHHにおける間葉系マーカー遺伝子COL1A1の発現を減少させる、3つの追加した小分子(IWP2、DAPT及びLDN193189)の効果を示す。qRT-PCR分析を14日目に実施した。相対的な遺伝子発現は、FSK+SB43に対して正規化した。n=3。
【
図5D】
図5Dは、EMTマーカーを抑制する上で、IWP2、DAPT、及びLDN193189を、同一のシグナル伝達経路を標的とする小分子又はサイトカインで置換する効果を示す。相対的な遺伝子発現は、FSK+SB43に対して正規化した。n=3。
【
図5E】
図5Eは、単一の小分子を含まないアッセイによるPHHの維持に対する5Cのそれぞれの小分子の効果を示す。肝転写因子と機能遺伝子の発現をqRT-PCRにより検出した。相対的な遺伝子発現は5Cに対して正規化した。n=2。
【
図6A】
図6Aは、肝細胞培養培地(ヌル)及び5C培養条件(5C)において2週間培養した、Cryo-PHHの間葉系マーカー遺伝子のqRT-PCR分析を示す。DMSOをビヒクル対照として用いた。n=3。同様の結果が3つの独立したバッチで得られた。
【
図6B】
図6B及び6Cは、5C及び対照条件下に維持された、アジア人のドナー由来の単離したばかりのPHH(
図6B)及び白色人種のドナー由来の復元した凍結保存PHH(
図6C)のヒトアルブミン分泌及び尿素合成の時間経過分析を示す。n=3。
【
図6C】
図6B及び6Cは、5C及び対照条件下に維持された、アジア人のドナー由来の単離したばかりのPHH(
図6B)及び白色人種のドナー由来の復元した凍結保存PHH(
図6C)のヒトアルブミン分泌及び尿素合成の時間経過分析を示す。n=3。
【
図6D】
図6D及び6Eは、2ヶ月以上5Cを用いてPHHを維持した研究を示す。
図6Dは、5Cの条件下で培養したPHHの60日間のアルブミン分泌及び尿素合成アッセイを示す。n=3。同様の結果が2つの独立したバッチで得られた。
【
図6E】
図6Eは、60日及び90日目での、5Cの条件下で培養したPHH(5C-PHH)の重要な肝遺伝子のqRT-PCR分析を示す。相対的な発現レベルは、F-PHHに対して正規化した。n=2。
【
図7】
図7は、異なる条件下で培養したPHH、多能性幹細胞に由来する肝細胞(hiPSC-Hep_rep1/2/3/4)、単離したばかりのヒト肝細胞(PHH0d)及び成体肝組織の全体的な遺伝子発現プロファイルを比較するための階層クラスタリングを示す。PHHの3つの独立したバッチを適用し、対応する成体肝組織を陽性対照として用いた。PHH0d及びhiPSC-Hep_rep1/2/3/4の発現プロファイルは、Gao et al., Stem Cell Reports 9, 1813-1824 (2017)から得たRNAシーケンスデータであった。
【
図8A】
図8Aは、qRT-PCRによる、サンドイッチ培養下で維持された5C-PHH及びPHHにおける肝代理機能マーカー及び間葉系マーカーの遺伝子発現分析を示す。qRT-PCR分析は15日目に実施した。相対的な発現レベルは、F-PHHに対して正規化した。n=2。
【
図8B】
図8Bは、qRT-PCRによる肝転写因子の遺伝子発現分析を示す。相対的な発現レベルは、F-PHHに対して正規化した。n=2。同様の結果が2つの独立したバッチで得られた。
【
図8C】
図8Cは、4週間の培養後にqRT-PCRにより、5つのコアCYP450酵素の遺伝子発現分析としてインビトロで測定された、培養ヒト肝細胞の薬物代謝活性に対する5Cの効果を示す。n=3。
【
図8D】
図8Dは、4週間の培養後の5C-PHHにおける主要な第II相酵素及び第III相輸送体のqRT-PCR分析を示す。相対的な発現レベルは、F-PHHに対して正規化した。n=2。同様な結果が、少なくとも3つの独立したバッチで得られた。
【
図8E】
図8Eは、異なる条件下でのCryo-PHHにおけるqRT-PCRによる薬物代謝関連遺伝子の動的な遺伝子発現分析を示す。再生した凍結保存PHHは、対照条件(ヌル及びDMSO)での1週間の培養後に重度の細胞死を示したため、10日目以降のデータは提示しない。相対的な遺伝子発現は、Cryo-PHHに対して正規化した。n=2。
【
図8F】
図8Fは、2週間の培養後にLC-MSにより、5つのコアCYP450酵素の薬物代謝活性としてインビトロで測定された、培養ヒト肝細胞の薬物代謝活性に及ぼす5Cの効果を示す。n=3。検出されなかったデータは「n.d」とラベル付けした。
【
図9A】
図9A~Fは、PHHにおけるHBV感染の全ライフサイクルに対する5Cの支持を示す。
図9A:qRT-PCRによるNTCPの遺伝子発現分析。n=3。
【
図9B】
図9B:異なる条件下で培養した感染したPHHの上清におけるHBV抗原(HBsAg及びHBeAg)形成の動態。n=3。
【
図9C】
図9C:qRT-PCRにより分析した異なる条件下で培養したPHHにおけるHBVRNA形成の動態。n=2。
【
図9D】
図9D:異なる条件下で培養した感染したPHHの上清におけるHBV DNA形成の動態。n=3。
【
図9E】
図9E:qPCRにより検出した5C-PHHにおけるcccDNA形成の動態。n=2。
【
図9F】
図9F及び9Gは、HVBに感染した5C-PHHの上清を接種したPHHにおける、HBeAg(n=3)(
図9F)及びウイルスDNA(n=2)(
図9G)の検出を示す。
【
図9G】
図9F及び9Gは、HVBに感染した5C-PHHの上清を接種したPHHにおける、HBeAg(n=3)(
図9F)及びウイルスDNA(n=2)(
図9G)の検出を示す。
【
図9H】
図9Hは、感染した5C-PHHにおけるHBVcccDNAのサザンブロット分析である。HBV DNAはコアDNA抽出法(レーン1と4)及び改良したHirtDNA抽出法(レーン2、3、5、及び6)により抽出した。cccDNAの同一性を確認するために、無処理(レーン2及び5)及びSpeI消化(レーン3及び6)で5C-PHHから抽出したHirtDNA調製物をアガロースゲルで分離した。Dpiは、感染後の日数。
【
図10A】
図10A-Bは、感染多重度(MOI)が低下した5C-PHHのHBV感染を示す。HBV感染は、分泌したHBV抗原(HBsAg及びHBeAg)(
図10A)及び細胞内のHBV転写産物(
図10B)により検出した。n=3。
【
図10B】
図10A-Bは、感染多重度(MOI)が低下した5C-PHHのHBV感染を示す。HBV感染は、分泌したHBV抗原(HBsAg及びHBeAg)(
図10A)及び細胞内のHBV転写産物(
図10B)により検出した。n=3。
【
図11A】
図11Aは、白色人種のドナー及びアジア人のドナーから分離したPHH中で、B型又はC型のHBVに感染させ、更に5Cで培養したHBsAg及びHBeAを示す。n=3。
【
図11B】
図11B~Dは、HepAD38から生成したHBV粒子を用いて感染させた5C-PHHの効果を示す。(
図11B)5C-PHHの上清におけるHBsAg及びHBeAgの時間経過分析。n=3。(
図11C)HBV RNA、(
図11D)細胞内のHBV DNA及びcccDNAを7dpi及び18dpiで検出した。n=3。同様の結果が、少なくとも3つの独立したバッチにおいて得られた。
【
図11C】
図11B~Dは、HepAD38から生成したHBV粒子を用いて感染させた5C-PHHの効果を示す。(
図11B)5C-PHHの上清におけるHBsAg及びHBeAgの時間経過分析。n=3。(
図11C)HBV RNA、(
図11D)細胞内のHBV DNA及びcccDNAを7dpi及び18dpiで検出した。n=3。同様の結果が、少なくとも3つの独立したバッチにおいて得られた。
【
図11D】
図11B~Dは、HepAD38から生成したHBV粒子を用いて感染させた5C-PHHの効果を示す。(
図11B)5C-PHHの上清におけるHBsAg及びHBeAgの時間経過分析。n=3。(
図11C)HBV RNA、(
図11D)細胞内のHBV DNA及びcccDNAを7dpi及び18dpiで検出した。n=3。同様の結果が、少なくとも3つの独立したバッチにおいて得られた。
【
図11E】
図11E~Fは、5C-PHHにおけるHBV拡散を中和抗体(抗S抗体)が遮断することを示す。(
図11E)様々なMOIにおいて感染した5C-PHHのHBeAgの時間経過分析。中和抗体(抗S抗体)を1Dpiから加えた。n=3。(
図11F)Dpi28でのHBcAg陽性細胞の定量。n=3。
【
図11F】
図11E~Fは、5C-PHHにおけるHBV拡散を中和抗体(抗S抗体)が遮断することを示す。(
図11E)様々なMOIにおいて感染した5C-PHHのHBeAgの時間経過分析。中和抗体(抗S抗体)を1Dpiから加えた。n=3。(
図11F)Dpi28でのHBcAg陽性細胞の定量。n=3。
【
図12A】
図12A~Dは、HBVに感染した5C-PHHの抗HBV薬に対する反応を示す。
図12A~Dは、感染した5C-PHHにおける、HBV抗原(HBsAg及びHBeAg)(
図12A)、HBV RNA(16Dpiで検出)(
図12B)、HBV DNA(21Dpiで検出)(
図12C)及びHBVcccDNA(34Dpiで検出)(
図12D)に対する抗HBV薬(ETV、LAM、IFN-α)の効果を示す。
【
図12B】
図12A~Dは、HBVに感染した5C-PHHの抗HBV薬に対する反応を示す。
図12A~Dは、感染した5C-PHHにおける、HBV抗原(HBsAg及びHBeAg)(
図12A)、HBV RNA(16Dpiで検出)(
図12B)、HBV DNA(21Dpiで検出)(
図12C)及びHBVcccDNA(34Dpiで検出)(
図12D)に対する抗HBV薬(ETV、LAM、IFN-α)の効果を示す。
【
図12C】
図12A~Dは、HBVに感染した5C-PHHの抗HBV薬に対する反応を示す。
図12A~Dは、感染した5C-PHHにおける、HBV抗原(HBsAg及びHBeAg)(
図12A)、HBV RNA(16Dpiで検出)(
図12B)、HBV DNA(21Dpiで検出)(
図12C)及びHBVcccDNA(34Dpiで検出)(
図12D)に対する抗HBV薬(ETV、LAM、IFN-α)の効果を示す。
【
図12D】
図12A~Dは、HBVに感染した5C-PHHの抗HBV薬に対する反応を示す。
図12A~Dは、感染した5C-PHHにおける、HBV抗原(HBsAg及びHBeAg)(
図12A)、HBV RNA(16Dpiで検出)(
図12B)、HBV DNA(21Dpiで検出)(
図12C)及びHBVcccDNA(34Dpiで検出)(
図12D)に対する抗HBV薬(ETV、LAM、IFN-α)の効果を示す。
【
図13A】
図13Aは、培養した5C-PHHにおける炎症反応の時間経過分析である。相対的な遺伝子発現は、5Cに対して正規化した。n=3。同様の結果が3つの独立したバッチにおいて得られた。
【
図13B】
図13B~Dは、長期間の肝細胞維持及びHBV許容性に関する、5Cと、他に報告されている3つのPHH培養条件との比較である。条件1、C1(Winer et al., Nat Comm. 8:125 (2017));条件2、C2(Lucifora, et al., Science, 343:1221-28 (2014))及び条件3、C3(Xia, et al., J. Hepatol., 66:494-503 (2017))。(
図13B)異なる培養条件下で培養したPHHの肝機能遺伝子発現のqRT-PCR分析。n=3。(
図13C)異なる培養条件下で培養したPHHのヒトアルブミン分泌及び尿素合成の時間経過分析。n=3。(
図13D)HBeAgの時間経過分析。PHHは、B型肝炎患者由来の血漿を用いて感染させ、更に異なる条件下で長期間培養した。n=3。同様の結果が、3つの独立したバッチで得られた。
【
図13C】
図13B~Dは、長期間の肝細胞維持及びHBV許容性に関する、5Cと、他に報告されている3つのPHH培養条件との比較である。条件1、C1(Winer et al., Nat Comm. 8:125 (2017));条件2、C2(Lucifora, et al., Science, 343:1221-28 (2014))及び条件3、C3(Xia, et al., J. Hepatol., 66:494-503 (2017))。(
図13B)異なる培養条件下で培養したPHHの肝機能遺伝子発現のqRT-PCR分析。n=3。(
図13C)異なる培養条件下で培養したPHHのヒトアルブミン分泌及び尿素合成の時間経過分析。n=3。(
図13D)HBeAgの時間経過分析。PHHは、B型肝炎患者由来の血漿を用いて感染させ、更に異なる条件下で長期間培養した。n=3。同様の結果が、3つの独立したバッチで得られた。
【
図13D】
図13B~Dは、長期間の肝細胞維持及びHBV許容性に関する、5Cと、他に報告されている3つのPHH培養条件との比較である。条件1、C1(Winer et al., Nat Comm. 8:125 (2017));条件2、C2(Lucifora, et al., Science, 343:1221-28 (2014))及び条件3、C3(Xia, et al., J. Hepatol., 66:494-503 (2017))。(
図13B)異なる培養条件下で培養したPHHの肝機能遺伝子発現のqRT-PCR分析。n=3。(
図13C)異なる培養条件下で培養したPHHのヒトアルブミン分泌及び尿素合成の時間経過分析。n=3。(
図13D)HBeAgの時間経過分析。PHHは、B型肝炎患者由来の血漿を用いて感染させ、更に異なる条件下で長期間培養した。n=3。同様の結果が、3つの独立したバッチで得られた。
【
図14A】
図14A~Cは、様々なプレーティングフォーマットに対する5Cの培養条件の適用を示す。PHHをマイクロウェルプレート(96ウェルプレート及び384ウェルプレート)にプレーティングし、更に5Cで培養した。(
図14A)2週間の培養後、EMTマーカー及び肝機能遺伝子を分析した。(
図14B)培養の7及び14日後に、ALB分泌及び尿素合成を検出した。(
図14C)マイクロウェルプレートにおいてHBV感染を実施し、HBsAg及びHBeAgを分析した。n=3。同様の結果が、2つの独立したバッチで得られた。
【
図14B】
図14A~Cは、様々なプレーティングフォーマットに対する5Cの培養条件の適用を示す。PHHをマイクロウェルプレート(96ウェルプレート及び384ウェルプレート)にプレーティングし、更に5Cで培養した。(
図14A)2週間の培養後、EMTマーカー及び肝機能遺伝子を分析した。(
図14B)培養の7及び14日後に、ALB分泌及び尿素合成を検出した。(
図14C)マイクロウェルプレートにおいてHBV感染を実施し、HBsAg及びHBeAgを分析した。n=3。同様の結果が、2つの独立したバッチで得られた。
【
図14C】
図14A~Cは、様々なプレーティングフォーマットに対する5Cの培養条件の適用を示す。PHHをマイクロウェルプレート(96ウェルプレート及び384ウェルプレート)にプレーティングし、更に5Cで培養した。(
図14A)2週間の培養後、EMTマーカー及び肝機能遺伝子を分析した。(
図14B)培養の7及び14日後に、ALB分泌及び尿素合成を検出した。(
図14C)マイクロウェルプレートにおいてHBV感染を実施し、HBsAg及びHBeAgを分析した。n=3。同様の結果が、2つの独立したバッチで得られた。
【
図15A】
図15A~Cは、Cryo-PHHにおけるHCV感染に対する5Cの効果を示す。Cryo-PHHをHCVcc(MOI=2)に感染させ、更にDCV処理を用いて、又は用いずに5Cで培養した。(
図15A及B)分泌HCV産物(
図15A)及び細胞内HCV RNA(
図15B)を測定した。n=3。
図15Cは、HCVに感染した5C-PHH(ここではJc1Gと示す)及び非感染5C-PHHにおけるISG発現のqRT-PCR分析を示す。n=3。
【
図15B】
図15A~Cは、Cryo-PHHにおけるHCV感染に対する5Cの効果を示す。Cryo-PHHをHCVcc(MOI=2)に感染させ、更にDCV処理を用いて、又は用いずに5Cで培養した。(
図15A及B)分泌HCV産物(
図15A)及び細胞内HCV RNA(
図15B)を測定した。n=3。
図15Cは、HCVに感染した5C-PHH(ここではJc1Gと示す)及び非感染5C-PHHにおけるISG発現のqRT-PCR分析を示す。n=3。
【
図15C】
図15A~Cは、Cryo-PHHにおけるHCV感染に対する5Cの効果を示す。Cryo-PHHをHCVcc(MOI=2)に感染させ、更にDCV処理を用いて、又は用いずに5Cで培養した。(
図15A及B)分泌HCV産物(
図15A)及び細胞内HCV RNA(
図15B)を測定した。n=3。
図15Cは、HCVに感染した5C-PHH(ここではJc1Gと示す)及び非感染5C-PHHにおけるISG発現のqRT-PCR分析を示す。n=3。
【
図16】
図16は、2Cの条件で培養したヒト胚性幹細胞由来の肝細胞(hESC-Heps)におけるCYP酵素、薬物代謝核内受容体、及び主要な転写因子のパネルの発現の動態を示す。相対的な遺伝子発現はqRT-PCRで検出し、0日目に対して正規化した。n=2。
【0015】
[発明の詳細な説明]
ここで、本発明者らは、初代ヒト肝細胞(PHH)において、小分子の組み合わせを用いて細胞シグナル伝達経路を調節することにより、この基本的な問題を克服できることを実証する。PHHの長期間の機能維持のための5つの化学物質条件(5C)を特定した。5Cで培養したPHHは、単離したばかりのヒト肝細胞に類似した全体的な遺伝子発現プロファイル及び肝細胞の特異的機能を示した。5Cで培養したPHHは、B型肝炎ウイルス(HBV)を許容し、持続的に検出可能なHBVの共有結合閉環状DNA(cccDNA)を維持しながら、4週間にわたりHBV感染の全過程を効率的に再現した。本研究は、HBV病理及び抗ウイルス薬物スクリーニングを理解するための効率的なプラットフォームを提供し、この化学的アプローチは、インビトロでの他の機能的細胞型の維持に適用可能であった。
【0016】
前記開示された培養条件はまた、成熟段階に近づいたhESC-肝細胞を維持及び促進した。本発明者らの条件下で、hESC-肝細胞は1か月以上維持され、そして長期培養したhESC-肝細胞の機能的成熟が観察された。本発明者らの条件下で培養したhESC-肝細胞は、一連のCYP酵素を進行的に発現し、hPSCからの機能的に成熟した細胞の生成を促進する成熟様段階に近いhESC-肝細胞の機能的成熟を示した。
【0017】
I.定義
本明細書で使用するとき、「5C培地」は、少なくとも、1つのアデニル酸シクラーゼの活性化剤、1つのTGFβ阻害剤、1つのNotch阻害剤、1つのWnt阻害剤、及び1つのBMP阻害剤が補充された肝細胞のための基礎細胞培養培地、例えば、フォルスコリン、SB431542、DAPT、IWP2及びLDN193189が補充された、2% B27(Gibco)、1% GlutaMAXを含む、HCM培地(肝細胞培養培地、Lonza)又はウィリアムズE培地を指す。
【0018】
本明細書中で使用するとき、「培養」は、培地中で増殖され、場合により継代された細胞の集団を意味する。細胞培養は、初代培養(例えば、継代されていない培養)であってもよく、二次培養又は後続の培養(例えば、継代培養した又は1回以上継代した細胞の集団)であってもよい。
【0019】
本明細書で使用するとき、「ダウンレギュレーション」又は「ダウンレギュレートする」は、細胞が、外部変数に応じて、例えば、DNA、RNA又はタンパク質などの細胞成分の量及び/又は活性を減少させるプロセスを指す。
【0020】
本明細書で使用するとき、用語「誘導性肝細胞」(iHep)は、天然に存在する肝細胞ではなく、非肝細胞から人工的に派生させた細胞を指す。
【0021】
用語「オリゴヌクレオチド」及び「ポリヌクレオチド」は、一般に、修飾されていないRNAもしくはDNA、又は修飾されたRNAもしくはDNAであり得る、任意のポリリボヌクレオチド又はポリデオキシリボヌクレオチドを指す。したがって、例えば、本明細書で使用するとき、ポリヌクレオチドは、とりわけ、一本鎖及び二本鎖DNA、一本鎖領域及び二本鎖領域の混合物であるDNA、一本鎖及び二本鎖RNA、並びに一本鎖領域及び二本鎖領域の混合物であるRNA、一本鎖又は、より典型的には、二本鎖又は一本鎖領域及び二本鎖領域の混合物であり得るDNA及びRNAを含むハイブリッド分子を指す。用語「核酸」又は「核酸配列」はまた、上記で定義されたポリヌクレオチドを包含する。
【0022】
本明細書中で使用するとき、用語ポリヌクレオチドは、1つ以上の修飾された塩基を含有する、上記のDNA又はRNAを含む。したがって、安定性又は他の理由のために修飾されたバックボーンを有するDNA又はRNAは、その用語が本明細書で意図されているように「ポリヌクレオチド」である。更に、ほんの2つの例を挙げると、イノシンなどの異常な塩基、又はトリチル化塩基などの修飾された塩基を含むDNA又はRNAは、その用語が本明細書で使用されるとき、ポリヌクレオチドである。
【0023】
本明細書で使用するとき、「リプログラミング」は、ある特定の細胞型から別の細胞型への変換を指す。例えば、肝細胞でない細胞は、形態学的及び機能的に肝細胞のような細胞にリプログラムすることができる。
【0024】
用語「発現をアップレギュレートする」は、例えば、発現に影響を与えて、発現又は活性を誘導するか、又は未処理の細胞と比較して、増加した/より大きな発現又は活性を誘導することを意味する。
【0025】
本明細書で使用するとき、「アップレギュレーション」又は「アップレギュレートする」は、細胞が、外的変数に応じて、細胞成分、例えば、DNA、RNA又はタンパク質の量及び/又は活性を増加させるプロセスを指す。
【0026】
II.組成物
前記組成物は、少なくとも、1つのアデニル酸シクラーゼの活性化剤、1つのTGFβ阻害剤、1つのNotch阻害剤、1つのWnt阻害剤、及び/又は1つのBMP阻害剤が補充された肝細胞培養培地を含む。
【0027】
いくつかの好ましい実施態様では、前記組成物は、アデニル酸シクラーゼの活性化剤、及びTGFβ阻害剤の組み合わせ(本明細書では、2C)を含む。
【0028】
より好ましい実施態様では、前記組成物は、Notch阻害剤、Wnt阻害剤、及びBMP阻害剤からなる群より選択される少なくとも1つの薬剤と組み合わせて、アデニル酸シクラーゼの活性化剤、及びTGFβ阻害剤を含む。
【0029】
特に好ましい実施態様では、前記組成物は、少なくとも、1つのアデニル酸シクラーゼの活性化剤、1つのTGFβ阻害剤、1つのNotch阻害剤、1つのWnt阻害剤、及び1つのBMP阻害剤の組み合わせ(本明細書では、「5C」)を含む。アデニル酸シクラーゼ活性化剤の最も好ましい活性化剤は、フォルスコリンであり;好ましいTGFβ阻害剤は、SB43であり;好ましいNotch阻害剤は、DAPTであり;好ましいWnt阻害剤は、IWP2であり、そして好ましいBMP阻害剤は、LDN193189である。
【0030】
いくつかの実施態様では、同一の生物由来の単離したばかりの初代肝細胞と同一のレベルで、少なくとも60日間の培養後に、少なくとも6つの肝細胞機能性タンパク質の発現を維持するための有効量として測定される、インビトロで、長期間、機能的な肝細胞機能を維持するための有効量で、前記化合物の組み合わせが、任意の肝細胞培養培地に加えられる。
【0031】
肝細胞培養に使用される有用な細胞培養培地は、当技術分野において公知である(本明細書では、「肝細胞基礎培地」)。有用な例としては、B27、Glutmax及びペニシリンストレプトマイシン(Pen Strep)を含むウイリアムズ培地E;肝細胞培地;ダルベッコ改変イーグル培地(「DMEM」)及びHam’sF12培地の単独又は併用;Waymouth’sMB-752/1、Ham’sF12、RPMI1640、ダルベッコ改変イーグル培地、Leibovitz’L15、HBM(商標)(Lonza)、肝細胞基礎培地WAJC110(MyBiosouirce.com)及び改変Chee’s培地が挙げられるが、これらに限定されない。
【0032】
肝細胞培養培地サプリメント
cAMPアゴニスト
好ましいcAMPアゴニストはフォルスコリンであり、2~100μM、好ましくは5~50μM、より好ましくは18~22μMの範囲の濃度で使用される。しかしながら、任意のcAMPアゴニストを、本明細書に開示するCINPのカクテルに含めることができる。例としては、プロスタグランジンE2(PGE2)、ロリプラム、ゲニステイン、及びDBcAMP又は8-ブロモ-cAMPなどのcAMP類似体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
TGFβ阻害薬
TGFβ阻害剤は、いくつかの実施態様では、好ましくはTGFβ1型受容体アクチビン受容体様キナーゼ(ALK)5を阻害し、他の実施態様では、ALK4及び節性受容体1受容体ALK7を更に阻害することができる。TGFβ受容体阻害剤は、SB431542(4-[4-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-5-(2-ピリジニル)-1H-イミダゾール-2-イル]ベンズアミド)であり得、その構造は以下に示され、2~50μM、好ましくは2~15μM、より好ましくは8~12μMの濃度で使用される。
【化1】
【0034】
当技術分野で公知であり、市販されている他のTGFβ阻害剤。例としては:E-616452([2-(3-(6-メチルピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル)-1,5-ナフチリジン];83-01[3-(6-メチル-2-ピリジニル)-N-フェニル-4-(4-キノリニル)-1H-ピラゾール-1-カルボチオアミド];SB505124[2-[4-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-2-(1,1-ジメチルエチル)-1H-イミダゾール-5-イル]-6-メチル-ピリジン];GW788388[4-[4-[3-(2-ピリジニル)-1H-ピラゾール-4-イル]-2-ピリジニル]-N-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)-ベンズアミド];及びSB525334[6-[2-(1,1-ジメチルエチル)-5-(6-メチル-2-ピリジニル)-1H-イミダゾール-4-イル]キノキサリン]、及びドルソモルフィンが挙げられる。
【0035】
Notch阻害剤
前記組成物は、好ましくは1つ以上のNotch阻害剤、より好ましくはDAPT((2S)-N-[(3,5-ジフルオロフェニル)アセチル]-L-アラニル-2-フェニル]グリシン1,1-ジメチルエチルエステル)を含み、その構造は以下に示され、0.1μM~10μMの間、好ましくは0.5μM~2.5μMの間、そしてより好ましくは、1μM~2μMの間の濃度で使用される。
【化2】
【0036】
他のNotch阻害剤は、当技術分野で公知である。代表的な例としては、MK0752が挙げられ、その構造は以下に示され、0.02μM~20μMの間、好ましくは0.2μM~10μMの間、より好ましくは1μM~5μMの間の濃度で使用される。
【化3】
【0037】
RO4929097(その構造を以下に示す)は、0.02μM~20μMの間、好ましくは0.2μM~10μMの間、より好ましくは1μM~5μMの間の濃度で使用される。
【化4】
【0038】
XXi((S,S)-2-[2-(3,5-ジフルオロフェニル)-アセチルアミノ]-N-(1-メチル-2-オキソ-5-フェニル-2,3-ジヒドロ-1H-ベンゾ[e][1,4]ジアゼピン-3-イル)-プロピオンアミド)(0.2~1μMの間の好ましい濃度で使用される);DBZ(N-[(1S)-2-[[(7S)-6,7-ジヒドロ-5-メチル-6-オキソ-5H-ジベンゾ[b,d]アゼピン-7-イル]アミノ]-1-メチル-2-オキソエチル]-3,5-ジフルオロベンゼンアセトアミド);SAHM1(ペプチド配列AERLRRRIXLCRXHHSTであり、以下の修飾:(Ala-1=N末端Ac、Ala-1=β-Ala、X=(S)-2-(4-ペンテニル)アラニン、X-9及びX-13は二重結合で互いに結合されている)を有する);及びFLI06(シクロヘキシル1,4,5,6,7,8-ヘキサヒドロ-2,7,7-トリメチル-4-(4-ニトロフェニル)-5-オキソ-3-キノリンカルボキシラート)。
【0039】
Wnt阻害薬
前記開示された組成物は、1つ以上のWnt阻害剤を含むことができる。好ましいWnt阻害剤は、IWP2(N-(6-メチル-2-ベンゾチアゾリル)-2-[(3,4,6,7-テトラヒドロ-4-オキソ-3-フェニルチエノ[3,2-d]ピリミジン-2-イル)チオ]-アセトアミド)であり、その構造は以下に示され、例えば、0.01μM~2.5μMの間、好ましくは0.1μM~1μMの間、より好ましくは0.5μM~1μMの間の濃度で使用される。
【化5】
【0040】
IWP2は、Wntのプロセシング及び分泌を阻害する。それは膜結合O-アシルトランスフェラーゼ(MBOAT)であるPORCNを不活性化し、そしてWntのパルミチン酸化を選択的に阻害する。Lrp6受容体及びDvl2のWnt依存性リン酸化、及びβ-カテニンの蓄積を遮断する。
【0041】
他のWntシグナル伝達阻害剤は当技術分野で公知である。代表的な例としては、Dickkopf関連タンパク質1(DKK1)(10ng/mL~1000ng/mLの間の好ましい濃度、より好ましくは50ng/mL~150ng/mLの間の濃度で使用される);IWR1(4-(1,3,3a,4,7,7a-ヘキサヒドロ-1,3-ジオキソ-4,7-メタノ-2H-イソインドール-2-イル)-N-8-キノリニル-ベンズアミド)(0.1μM~5μMの間の好ましい濃度、より好ましくは1μM~2μMの間の濃度で使用される);Wnt-C59(4-(2-メチル-4-ピリジニル)-N-[4-(3-ピリジニル)フェニル]ベンゼンアセトアミド)(0.01μM~5μMの好ましい濃度、より好ましくは0.05μM~1μMの間の濃度で使用される)、IWPL6(N-(5-フェニル-2-ピリジニル)-2-[(3,4,6,7-テトラヒドロ-4-オキソ-3-フェニルチエノ[3,2-d]ピリミジン-2-イル)チオ]アセトアミド)及びIWP12(N-(6-メチル-2-ベンゾチアゾリル)-2-[(3,4,6,7-テトラヒドロ-3,6-ジメチル-4-オキソチエノ[3,2-d]ピリミジン-2-イル)チオ]アセトアミド)が挙げられる。
【0042】
BMP阻害薬
前記組成物は、1つ以上のBMP阻害剤を含む。好ましいBMP阻害剤は、LDN193189 2HCl(4-[6-[4-(1-ピペラジニル)フェニル]ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-イル]キノリン二塩酸塩)であり、その構造は以下に示され、例えば、0.01μM~0.5μMの間の濃度で、好ましくは0.05μM~0.25μMの間の濃度で、そしてより好ましくは0.1μM~0.2μMの間の濃度で使用される。
【化6】
【0043】
LDN193189は、強力かつ選択的なALK2及びALK3阻害薬であり(IC50値はそれぞれ5及び30nMである);BMP4媒介Smad1/5/8活性化を阻害する。TGF-βシグナル伝達よりもBMPシグナル伝達に対して200倍以上の選択性を示す。AMPK、PDGFR及びMAPKシグナル伝達に対する選択性も示す。
【0044】
他の有用なBMP阻害剤は、当技術分野で公知である。代表的な例は、LDN212854(5-[6-[4-(1-ピペラジニル)フェニル]ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-イル]-キノリン)を含むが、それらに限定されず;その構造は以下に示され、0.05μM~5μMの間の好ましい濃度で、より好ましくは0.1μM~2μMの間の濃度で使用される。
【化7】
【0045】
ノギンは、10ng/mL~1000ng/mLの間の好ましい濃度で、より好ましくは50ng/mL~500ng/mLの間の濃度で使用される;ドルソモルフィン2塩酸塩(6-[4-[2-(1-ピペリジニル)エトキシ]フェニル]-3-(4-ピリジニル)-ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン2塩酸塩);及びK02288(3-[(6-アミノ-5-(3,4,5-トリメトキシフェニル)-3-ピリジニル]フェノール。
【0046】
B.小分子が補充された培地中で培養した肝細胞
本明細書に開示された、補充された肝細胞培養培地を用いて培養した肝細胞は、肝細胞の形態(多角形形状)、アルブミン分泌及び尿素合成などの確立された肝細胞機能、及び少なくとも1つの公知の肝細胞マーカーの発現からなる群より選択される少なくとも1つの特徴を有する肝細胞という点で測定された、機能性肝細胞を長期間インビトロで維持する。肝細胞マーカーの発現レベルは、肝細胞マーカーをコードするオリゴヌクレオチドの発現レベルを測定することによって、又は当技術分野で公知であり、そして本明細書で例示した方法を用いてタンパク質レベルを測定することによって決定することができる。
【0047】
1つの実施態様では、機能性肝細胞をインビトロで長期間維持する能力は、肝細胞が少なくとも2週間の培養の後に、上に列挙された特徴の少なくとも1つを有するという点で測定される。いくつかの実施態様では、前記肝細胞は、培養3週間後に、上に列挙された特徴のうちの少なくとも1つを有する。例えば、前記肝細胞は、同一の生物から得られ且つ本明細書に開示された肝細胞培養サプリメントを細胞培養培地に補充することなく培養した肝細胞と比較したとき、改善されたレベルで、4週間培養、5週間培養、6週間培養、7週間培養、8週間、9週間、及び90日以上の培養の後に上に列挙された特徴の少なくとも1つを有する。
【0048】
培養における機能性肝細胞の長期間の維持を決定するために用いることができる肝細胞マーカーには、チトクロムP450(CYP)3A4;CYP1A2;CYP2C9;CYP2D6;CYP2B6;CYP2C8;CSP1;CYP2C19;UDP-グルクロン酸転移酵素(UGT)1A3;UGT1A4;UGT2B15;UGT2B7;NTCP(Na+-タウロコール酸共輸送ペプチド);ABCG2(BCRPとも知られる、ATP結合カセットスーパーファミリーGメンバー2);MRP2(多剤耐性関連タンパク質2);有機アニオン輸送ポリペプチド(OATP)1B1;APOA2、APOB、F2(凝固因子II)、F10(凝固因子X)が挙げられるが、これらに限定されない。したがって、本明細書に開示された、補充された肝細胞培養培地において培養した肝細胞は、本明細書に開示された小分子を補充せずに、同一の基礎肝細胞培養培地を用いて培養した同一の生物由来の肝細胞と比較した場合、P450(CYP)3A4;CYP1A2;CYP2C9;CYP2D6;CYP2B6;CYP2C19の少なくとも1つの改善された発現を示す。改善された発現は、発現のレベルにおいて統計的有意差として測定することができる。
【0049】
いくつかの好ましい実施態様では、本明細書に開示された方法により培養した肝細胞は、同一の生物由来の単離したばかりの肝細胞によって発現したレベルと比較した場合と同等の(統計的有意差なしとして測定される)又はそれ以上のレベルで、上に列挙された肝細胞マーカーの少なくとも1つを発現する。
【0050】
特に好ましい実施態様では、本明細書に開示された補充された細胞培養培地を用いてインビトロで維持された肝細胞は、以下の肝細胞マーカー:APOA2、APOB、F2、F10、CYP3A4、CYP1A2、CYP2C9及びUTG2B7の少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ又は少なくとも6つを、90日間の培養で、同一の生物から得られた単離したばかりの肝細胞と同等のレベルで発現する。
【0051】
5Cで培養した肝細胞は、2週間の培養後に、代謝的に活性なCYP3A4、CYP1A2、CYP2C9、CYP2D6及びCYP2B6を、F-PHHのそれらと同等のレベルで有する。対照的に、対照群(5Cの補充なしの肝細胞培養培地)で培養したPHHの代謝活性は、同じ時点でほとんど検出されない。
【0052】
III.使用方法
A.肝細胞培養
開示された細胞培養組成物は、機能性肝細胞をインビトロで長期間維持するのための肝細胞培養に使用される。開示された細胞培養組成物は、肝細胞の維持のためだけでなく、肝細胞(例えば、分化又はリプログラミングから生成された肝細胞)の機能的成熟のためにも使用することができる。
【0053】
いくつかの実施態様における開示された方法は、肝細胞と第2の細胞型、例えばサテライト細胞との共培養に依存しない。しかしながら、他の実施態様では、サテライト細胞などの第2の細胞型を含む共培養フォーマットを使用してもよい。いくつかの実施態様では、前記細胞培養は、例えば、Dunn, et al., Biotechnol. Prog., 7:237-245 (1991)に開示されているサンドイッチ培養フォーマットである。
【0054】
任意の供給源からの肝細胞は、本明細書に開示された補充された細胞培養培地を用いて培養することができる。肝細胞は、動物、例えば、マウス、家畜、霊長類又はヒトから単離することができる。好ましい実施態様では、肝細胞はヒトから単離される。肝細胞はまた、誘導性肝細胞(iHep)でもあり得る。例えば、このiHepは、リプログラミング又は分化によって得ることができる。いくつかの好ましい実施態様では、肝細胞は初代肝細胞であり、そしていくつかの実施態様では、肝細胞は、凍結保存した肝細胞であり得る。
【0055】
初代肝細胞は、当技術分野で公知の方法を用いて、例えば、2段階のコラゲナーゼ灌流方法(Lee et al., J Vis Exp, 79, e50615 (2013))を用いてドナーから単離することができる。例えば、肝臓サンプルを適切な灌流緩衝液(PB)で灌流して、血液細胞を除去し、続いて灌流緩衝液+EDTA(PBE)で処理し、次いで灌流緩衝液+コラゲナーゼ(PBC)で処理する。例示的な灌流緩衝液は、(0.15M NaCl;5mM KCl;25mM NaHCO3;5mM グルコース;20mM Hepes)である。肝細胞懸濁液を、肝細胞基礎培地、例えば、ウイリアムズ培地Eで洗浄し、濾過し、そして単離した肝細胞を、肝細胞培養に使用される組織培養プレート/マトリックス中に播種し、そして1つのアデニル酸シクラーゼの活性化剤、1つのTGFβ阻害剤、1つのNotch阻害剤、1つのWnt阻害剤、及び/又は1つのBMP阻害剤が補充された基礎肝細胞培養培地で培養する。
【0056】
いくつかの実施態様では、単離した肝細胞は、コラーゲンの単層上に播種され、そしてコラーゲンの第二層は、サンドイッチタイプの肝細胞培養を提供するために加えても加えなくてもよい。肝細胞はまた、軟又は非粘着性の細胞外マトリックス上で培養した場合、肝スフェロイドのような形態で培養することもできる。
【0057】
好ましい培養条件は、37℃で5%CO2下の加湿インキュベーターにおけるものを含む。
【0058】
前記基礎肝細胞培養培地には、アデニル酸シクラーゼ、TGFβ阻害剤、Notch阻害剤、Wnt阻害剤、及びBMP阻害剤の少なくとも1つが補充される。いくつかの好ましい実施態様では、前記基底肝細胞培養培地には、アデニル酸シクラーゼの活性化剤、及びTGFβ阻害剤の組み合わせが補充される。
【0059】
より好ましい実施態様では、前記基礎肝細胞培養培地には、Notch阻害剤、Wnt阻害剤、及びBMP阻害剤からなる群より選択される少なくとも1つの薬剤と組み合わせたアデニル酸シクラーゼの活性化剤、及びTGFβ阻害剤が補充される。
【0060】
特に好ましい実施態様では、前記基礎肝細胞培養培地には、少なくとも、1つのアデニル酸シクラーゼの活性化剤、1つのTGFβ阻害剤、1つのNotch阻害剤、1つのWnt阻害剤、及び1つのBMP阻害剤の組み合わせ(本明細書では、「5C」)が補充される。アデニル酸シクラーゼ活性化剤の最も好ましい活性化剤は、フォルスコリンであり;好ましいTGFβ阻害剤はSB431542(SB43)であり;好ましいNotch阻害剤はDAPTであり;好ましいWnt阻害剤はIWP2であり、そして好ましいBMP阻害剤はLDN193189である。
【0061】
B.研究関連の用途
本明細書に開示された研究は、本明細書に開示された方法により培養したヒト肝細胞が、長期間薬物代謝活性を保持することができ、したがって、医薬用途のためのプラットフォームを提供することを示す。
【0062】
(i)薬物試験
肝臓が薬物の代謝活性において中心的役割を果たすために、肝実質細胞は、医薬品開発において重要な役割を果たす。現在、薬物候補の失敗の主な原因は、そのADME(吸収、分布、代謝、排泄)が理想的でないことである。創薬研究の根幹は、薬物代謝の全てに関与するヒト肝実質細胞である肝細胞における候補薬物の、代謝及び毒性の効果に対するものである。現在、インビトロでの薬物開発に使用される主な肝細胞は、ヒト成体の初代肝細胞である。初代肝細胞の機能をインビトロで維持することが困難であるために、薬剤開発における薬剤候補の適用は極めて限られている。本明細書に開示された方法により培養した肝細胞は、培養において薬物代謝遺伝子を長期間発現し、そして培養において代謝活性を長期間維持し、そしてインビトロでの薬物代謝研究に使用することができる。上述のように、5Cで培養した肝細胞は、2週間の培養後に、F-PHHと同等なレベルで、代謝的に活性なCYP3A4、CYP1A2、CYP2C9、CYP2D6及びCYP2B6を有する。対照的に、対照群(5C補充の無い肝細胞培養培地)で培養したPHHの代謝活性は、同じ時点でほとんど検出されない。
【0063】
(ii)肝疾患モデル
感染症に関与する研究において遭遇する問題は、適切なモデルの欠如である。インビトロで培養した肝細胞は、肝臓の寄生体による感染、例えば、肝炎ウイルス(B型肝炎、C型肝炎、又はD型肝炎の感染)、マラリアを引き起こす寄生虫による感染の研究のための細胞モデルとして使用することができる。これらのモデルは、感染症、特に肝臓に感染する疾患を処置するためのワクチン及び薬物の開発のための効果的なプラットフォームを提供することができる。
【0064】
本明細書に開示された方法により培養した肝細胞は、肝疾患、例えば肝臓のウイルス感染を研究するためのインビトロでのモデルとして用いることができる。好ましい例は、肝炎ウイルスによる感染及び疾患進行である。特に好ましい実施態様では、肝細胞は、B型及びC型肝炎感染及び疾患進行のモデルとして役立つことができる。
【0065】
従って、本明細書に開示された肝細胞は、開示された肝細胞に、寄生体による感染に有効な時間肝寄生体を接種し、そして肝細胞培養(HC)用の補充された肝基礎培地中でインビトロで寄生体により感染した細胞を培養することを含む方法によって作製されたインビトロでの肝細胞の寄生体による感染モデルとして使用することができる。
【0066】
HBVの産物(分泌されたHBsAg、HBsAg及びDNA粒子)が、5C-PHH培養の上清中において検出されており、本願のこのデータは、(本明細書に開示された方法により培養した)PHHへの、HBVに感染した患者由来の血漿又は細胞培養において生成したHBV粒子の接種が、HBV感染の成功をもたらしたことを示す。この高レベルのHBV産物の生成は、5C-PHHにおいて少なくとも1か月間持続した。HBVcccDNAの形成は、5Cの条件下の培養において4週目で検出することができた。5C-PHHの効率的なHBV感染は、HBVコア抗原(HBcAg)の免疫染色により実証された(データは示さず)。更に、5C-PHHは、MOI(感染の多重度)を10に減少しても、HBV感染に対して依然感受性があった。HBV感染は、MOI=10で達成でき、5C-PHHがHBV感染に対して非常に感受性の高い系であることを示した。
【0067】
重要なことに、5Cは、様々な遺伝子型のHBV及びインビトロ産生細胞株HepAD38を含む、様々な感染源からのHBV感染を安定的に支持できる。5C-PHHはHBVのライフサイクル全体を支持し、HBVの感染粒子を生成することができる。
【0068】
更に、5C-PHHはまた、C型肝炎ウイルス(HCV)などの他の肝炎ウイルスにも感染され得る。
【0069】
本明細書に開示された方法により培養した肝細胞はまた、肝疾患のための処置選択肢/新規治療薬剤の効果をテキスト化するためにも使用され得る。
【0070】
本願におけるデータは、本明細書に開示されたように培養され、ウイルス療法に反応した肝細胞を例示する。5C-PHHの感染モデルは、2つのクラスの臨床抗HBV薬物に敏感に反応した。
【0071】
肝細胞への肝炎ウイルスの接種の成功は、肝臓を感染させる他の寄生体、例えばマラリア原虫に拡大することができる。
【0072】
マラリアは、マラリア原虫群(Plasmodium group)に属する微生物によって引き起こされる蚊が媒介する感染症であり、人間及び他の動物に感染する。5種類のマラリア原虫が、ヒトを感染させ、蔓延させる。三日熱マラリア原虫(P. vivax)、卵形マラリア原虫(P. ovale)、及び四日熱マラリア原虫(P. malariae)は一般に軽度のマラリアを引き起こすため、ほとんどの死亡は熱帯熱マラリア原虫(P. falciparum)によって引き起こされる。この疾患は、感染したメスのハマダラカ属(Anopheles)の蚊によって一般的に伝染される。蚊に刺されると、蚊の唾液に含まれる寄生虫が、刺された対象の血液中に入り込む。寄生虫は肝臓に移動し、そこで成熟して繁殖する。
【0073】
V.キット
培養における機能性肝細胞の長期間維持のためのキットが提供される。前記キットは、1つのアデニル酸シクラーゼの活性化剤、1つのTGFβ阻害剤、1つのNotch阻害剤、1つのWnt阻害剤、及び1つのBMP阻害剤(本明細書では、「5C」)を含む。アデニル酸シクラーゼ活性化剤の最も好ましい活性化剤はフォルスコリンであり;好ましいTGFβ阻害剤はSB431542(SB43)であり;好ましいNotch阻害剤はDAPTであり;好ましいWnt阻害剤はIWP2であり、そして好ましいBMP阻害剤はLDN193189である。前記キットは、少なくとも、1つのアデニル酸シクラーゼの活性化剤、1つのTGFβ阻害剤、1つのNotch阻害剤、1つのWnt阻害剤、及び1つのBMP阻害剤を基礎肝細胞培養培地に補充するための指示を含む。
【実施例】
【0074】
材料及び方法
ヒト肝細胞の単離及び培養
本研究は、日中友好病院の研究倫理委員会によって承認された(倫理承認番号:2009-50)。PHHはヒトのドナーから入手した。ヒト肝細胞は廃棄されたヒト肝臓から単離した。これらの組織から初代ヒト肝細胞を分離するために、修正した2段階のコラゲナーゼ潅流方法を用いた(OOtani, et al., Nat Med., 15:701-706 (2009))。簡単に言うと、この肝組織をPB(灌流緩衝液:0.15M NaCl;5mM KCl;25mM NaHCO3;5mMグルコース;20mM Hepes)で灌流して、残りの血液細胞を除去し、続いてPBE(灌流緩衝液+1mM EDTA)で灌流した。次いで、組織をPBC(灌流緩衝液+1mg/mL IV型コラゲナーゼ、5mM CaCl2、Gibco)で灌流した。全ての緩衝液は、分離工程の前に37℃に予熱した。肝細胞懸濁液を採取し、ウイリアムズ培地E(Gibco)で洗浄し、次いで40μmナイロンセルストレーナー(Falcon)を通して濾過した。次いで、単離した肝細胞をI型コラーゲンでコーティングした(ラット尾部I型コラーゲン、Gibco)プレート上に2.5×105/cm2の密度で播種した。
【0075】
市販の肝細胞:プレート可能な凍結保存したヒト肝細胞(ロット:HVN及びHNN)をBioreclamationIVTから購入した(製品番号:M00995-P)。
【0076】
肝細胞の培養に使用した無血清培地(ヌル):B27(50×、Gibco)、Glutmax(Gibco)及びPenStrep(Gibco)を含むウイリアムズ培地E。DMSOビヒクル対照:約0.035%のDMSOを補充したヌル。5C条件:フォルスコリン(10μM)、SB431542(10μM)、IWP2(1μM)、DAPT(1μM)及びLDN193189(0.5μM)を補充したヌル。24時間培養した肝細胞を市販の培地HCM(Lonza)で培養した。
【0077】
ヒト肝細胞の凍結保存及び再生
肝細胞を、60% ウイリアムズ培地E(Gibco)、30% HypoThermosolFRS(BioLife Solutions)及び10% DMSO(Sigma-Aldrich)を含む凍結保存培地を用いて、1×107細胞/mL(1mL/バイアル)の濃度で凍結保存した。次いで、バイアルをクライオ1℃凍結容器(Nalgene)に直ちに移し、-80℃の冷凍庫で24時間凍結した。その後、長期間の貯蔵のためにバイアルを液体窒素に移した。
【0078】
再生のために、凍結保存した肝細胞バイアルを37℃の水浴中で解凍した。次いで、1mLの細胞懸濁液を5mLのヌルに加え、続いて4℃にて160gで5分間遠心分離し、次いで培地中に再懸濁した。細胞生存性はトリパンブルー(Gibco)で確認した。
【0079】
小分子化合物及びサイトカイン
スクリーニングに使用される小分子化合物及びサイトカインは、表1に記載されるように購入又は合成された。それらの濃度を表1に示す。
【0080】
【0081】
薬物代謝活性アッセイ
薬物代謝活性を以前に記載された方法(Kyffin et al., Toxicol. In vitro. An Int, J. Published in assoc with BBIBRA, 48:262-275 (2018).)を用いて評価した。簡単に言うと、肝細胞を細胞懸濁液として採取し、薬物代謝活性を評価した。1mLの予熱したインキュベーション培地(ウイリアムズ培地E、10mM Hepes、PH7.4、GlutaMAX)を1×106細胞に加えた。基質溶液は、基質を個々にインキュベーション培地に加えることにより調製した。250μLの基質溶液を、5mLのポリスチレン丸底管(BD Falcon)中で250μLの細胞懸濁液と混合することにより、代謝反応を開始した。この管を、インキュベーター内で210rpmの振盪速度に設定した軌道振盪機に載せた。37℃で15~120分インキュベートした後、反応管を室温で遠心分離し、上清を採取した。採取した上清に三倍容量のメタノールを加えて、-80℃で凍結することにより薬物代謝反応を停止させた。代謝産物を定量するために、各基質の1%の内部基準物質を加え、液体クロマトグラフィー/質量分析(LC/MS)分析を行った。結果は、100万細胞あたりに1分あたりで形成される代謝物のpmolに対して正規化した。各CYP酵素に特異的な基質及びその濃度を表2に示す。同位体標識した基準代謝物及び標準代謝物を表2に列挙した。
【0082】
【0083】
HBVストックの調製
HBVウイルスは、書面による同意を得て、慢性HBVキャリアの血漿から得た。HepAD38細胞を、10% FBS及び0.1mM 非必須アミノ酸(NEAA)を補充したダルベッコ改変最小必須培地(DMEM)において培養した。3日後に、細胞がコンフルエントに達したとき、培地を3% FBS、0.1mM NEAA、及び2% DMSOからなる培地に変更した。上清を3日ごとに採取し、新たな培地を加えた。採取した培地をプールし、遠心フィルター装置(Amicon Ultra-15, 再生セルロース 100.000, Merck Millipore Corp.)を用いた遠心分離を介して100倍に濃縮した。濃縮したウイルスストックを等分し、-80℃で保存した。
【0084】
Bremer et al. 2009 and Glebe and Gerlich, 2004に記載のように、スクロース密度勾配遠心法によるHBV精製を行った。簡単に言うと、密度60%、45%、35%、25%及び15%で不連続なスクロース勾配を含む、超遠心管上にHBV感染患者血漿をロードした。スクロース溶液をTNE(20mM トリス-HCl、149mM NaCl、1mM EDTA、pH 7.4)で調製した。次いで、血漿をロードした管を、10℃にて、SW32ローター(Beckman)中で112,000gで15時間、遠心分離した。遠心分離後、ウイルス含有画分(リアルタイムPCR法を介した検出キット(KHB, Shanghai, China)を用いて決定された45%と35%の間の画分の間)をTNEで希釈し、10~15% スクロースを介して、SW32ローター中112,000gで15時間かけてペレット化した。ペレットを2mLのヌル培地に再懸濁した。
【0085】
CsCl密度勾配精製のために、密度1.1から1.5g/mL(5段階各2mL)でCsClステップ勾配に血漿をロードした。SW41ローター(Beckman)を用いて4℃で35時間、174,000gで遠心分離した後、勾配画分を採取し、リアルタイムPCR法を介したキット(KHB, Shanghai, China)によりウイルス含有画分を検出した。
【0086】
HBV感染
HBVのウイルス感染は、200のゲノム等価物、すなわち1×105細胞で接種した2×107コピーのゲノム等価物で行った。接種培地は、最初にPEGを4%の最終PEG濃度になるようにヌルに溶解し、DMSOを添加せずに新たに作製した。接種容量はプレーティングフォーマット(25μL(384ウェルプレート用)、100μL(96ウェルプレート用)、500μL(24ウェルプレート用))に調整した。20時間後、接種物を除去し、細胞をPBSで3回洗浄し、次いで3時間後に別に3回洗浄して、3日ごとに培地を変えて異なる条件(Null/DMSO/5C)で培養した。細胞を示された時間培養した(PEGフリー、DMSOフリー)後、収集してさらなる分析を行った。いくつかの比較実験では、接種はMOI滴定(10/50/100/200/400)で行った。
【0087】
再感染のために、HBVに感染した5C-PHHの上清を採取し、遠心フィルター装置((Amicon Ultra-15, 再生したセルロース 100.000, Merck Millipore Corp.)を用いて、4℃で、1時間、3,000gでの遠心分離を経て100倍に濃縮し、次いで、上述の感染方法を用いてナイーブPHHに接種した。
【0088】
HBV産物の検出
HBVウイルス抗原のHBsAg及びHBeAgは、市販のELISAキット(Autobio, Zhengzhou, China)を用いて、製造業者の指示に従って、培養したPHHの上清 50μLを用いて検出した。
【0089】
HBV DNAの定量のため、ウイルスDNAをDNeasy Blood & Tissue Kit (QIAGEN, Cat No: 69504)を用いて単離した。単離したDNAをリアルタイムPCRを介した検出キット(中国上海市KHB)を用いて定量した。ウイルスゲノム等価物コピーは既知のコピー数で作成した標準曲線に基づいて算出した。
【0090】
HBV特異的RNAの定量のため、HBVに感染した細胞からの全RNAをRNeasy Plus Mini Kit (QIAGEN)を用いて単離した。約400ngの全RNAを、TransScript First-Strand cDNA Synthesis SuperMix (TransGen Biotech)を用いてcDNAに逆転写した。プライマー 5’-GAGTGTGGATTCGCACTCC-3’及び5-GAGGCGAGGGAGTTCTTCT-3’をHBV 3.5kbの転写産物に用いた;プライマー 5’-TCACCAGCACCATGCAAC-3’及び5’-AAGCCACCCAAGGCACAG-3’を、全HBVに特異的な転写産物に使用した。3.5kbの転写産物のための123bpの断片及び全HBVに特異的な転写産物のための92bpの産物の増幅は、両方とも95℃で30秒間の変性、続いて95℃で3秒間/サイクルの変性、及び60℃で30秒間のアニーリング/伸長の40サイクルにより行った。
【0091】
この研究で用いたcccDNA検出法を実施した。簡単に言うと、DNeasy Blood & Tissue Kit (QIAGEN, Cat No: 69504)を用いてDNAを単離した。抽出したDNAをPlasmid-safe ATPdependent DNase (Epicentre Technologies)を用いて、37℃で0.5時間消化して、70℃で30分間不活性化した。次いで、10μLの反応物の内の0.5μLを10μLのリアルタイムPCR反応物に加えた。ウイルスゲノム等価物コピーは、既知のコピー数で作成した標準曲線に基づいて算出した。リアルタイムPCRはPower SYBR(登録商標) Green PCR Master Mix (Applied Biosystems)を用いて行い、CFX384(商標) Real-Time PCR detection system (Bio-Rad)で実施した。HBVcccDNAのサザンブロット分析のため、コアDNA抽出法及び改良したHirtDNA抽出法によりHBV DNAを抽出した。サザンブロットについては、調製したDNAサンプルを0.8%アガロースゲルで分離した後、ナイロン膜(Amersham)に転写した。cccDNAの同一性を確認するために、無処理で、且つSpeI消化した5C-PHHからのHirtDNA調製物をアガロースゲルで分離した。また、標識化したHBVプローブ(370bp~705bpのHBV DNA断片、サザンブロットプローブ)を含む1.7k-bp、2.1k-bp及び3.1k-bpのHBV DNA断片も同一のアガロースゲル上で泳動し、サザンブロット分析における弛緩環状DNA(rcDNA)、cccDNA及び一本鎖DNA(ssDNA)の分子マーカーとして用いた。サザンブロットは、DIG High Prime DNA Labeling and Detection Starter Kit II (Roche, 11 585 614 910)を用いて実施した。DNAマーカー(遺伝子型D:Wenhui Li教授のご好意により提供頂いた)を調製するためのプライマー配列は以下の通りである:HBV3.2kbマーカー:HBV-D-EcorI-F 5’-GAATTCCACAACCTTTCACCAAA HBV-D-EcorI-R 5’-GAATTCCACTGCATGGCCTGAGGATGA HBV2.1kbマーカー:HBV-D-EcorI-F 5’-GAATTCCACAACCTTTCACCAAA QYH-2.1kb-R 5’-CCCAGGTAGCTAGAGTCATTAGT HBV1.7kbマーカー:HBV-D-EcorI-F 5’-GAATTCCACAACCTTTCACCAAA QYH-1.7kb-R 5’-AAGGTCGGTCGTTGACATTGCAGAGA
【0092】
HCV感染及びHCV産物の検出
Huh7.5細胞株は、Charles Rice教授のご厚意により提供され、そして10%ウシ胎児血清(Biological industries)、25mM HEPES(Gibco)及び非必須アミノ酸(Gibco)を補充したダルベッコ改変培地中で日常的に維持された。細胞培養したHCVを生成するために、HCV Jc1FLAG2 (p7-nsGluc2A) (本文中では、Jc1G)をコードするプラスミドを、XbaI消化によって最初に直線化し、MEGAスクリプト(Invitrogen)を用いるインビトロでの転写のためのテンプレートとして使用した。HCVccは、前述したように、インビトロで転写されたJc1G RNAのHuh7.5細胞への電気穿孔によって生成した。ウイルス含有上清を、電気穿孔後3日目以降、及び電気穿孔後7日目まで、毎日回収した。上清を合わせ、Amicon(登録商標) Ultra-15 (100K)遠心フィルター装置(Millipore)を用いた遠心分離によって、4℃で30分間、5000gでウイルスを濃縮した。Amicon(登録商標) Ultra-15を用いた反復遠心分離により、緩衝液をPBSに交換した。濃縮したウイルスを限定希釈法によりHuh7.5において力価測定した。
【0093】
細胞内HCV RNAを定量するために、細胞をトリゾール試薬(Invitrogen)に溶解した。RNAは、トリゾール抽出物から精製し、そして、製造者の指示に従って、TaKaRa製のPrimeScript(商標) RT reagent Kit with gDNA Eraser (Perfect Real Time)を使用して、逆転写した。このcDNAサンプルは、次に列挙した特定の遺伝子(GAPDH:(s)GGT ATC GTG GAA GGA CTC ATG A,(as)ATG CCA GTG GCT TCC CGT TCA GC;HCV:(s)CCC TGT GAG GAA CTA CTG TCT TCA CGC,(as)GCT CAT GGT GCA CGG TCTA CGA GAC CT)に対するプライマーを用いて、リアルタイムPCR(SYBR(登録商標) Premix Ex Taq(商標) Tli RNaseH Plus)に供した。相対的なRNAレベルは2-ΔΔCt法を用いて算出した。ローディングの正規化のためのハウスキーピング遺伝子としてGAPDHを使用した。
【0094】
ルシフェラーゼ活性を定量するために、各ウェルから上清を採取し、等容量の2×passive lysis buffer (Promega)と混合した。ルシフェラーゼ活性は、製造業者のプロトコルに従ってレニラルシフェラーゼ基質(Renilla luciferase substrate)(Promega)を用いて測定した。
【0095】
免疫組織化学染色及び免疫蛍光染色
細胞を4% パラホルムアルデヒド(DingGuo, AR-0211)中で、室温で20分間固定し、次に透過処理して、3% 正常ロバ血清(Jackson Immuno Research, 017-000-121)及び0.25% Triton X-100 (Sigma-Aldrich, T8787)を含むPBSを用いて室温で60分間遮断した。次いで、細胞を一次抗体と共に4℃で一晩インキュベートした。二次抗体(Jackson ImmunoResearch)を室温で1時間インキュベートした。細胞核をDAPI((Roche Life Science, 10236276001)を用いて染色した。使用した一次抗体を表3に列挙した。
【0096】
【0097】
HBV感染の広がりを検出するため、HBcAgの免疫組織化学的染色を実施した。簡単に言うと、細胞を3.7% パラホルムアルデヒドを用いて室温で10分間固定した。PBS洗浄後、細胞を50% エタノールの蒸留水中で処理し、次いで、70% エタノールの蒸留水中で4℃で少なくとも1時間処理した。少なくとも2時間のブロッキング(ブロッキング溶液:10%FBSを加えたPBS)の後、細胞を抗HBcAg(ブロッキング溶液中で200倍に希釈)と共に4℃で一晩インキュベートした。一次抗体を洗浄除去し、細胞をポスト一次(post-primary)で室温で30分間処理した。細胞を二次抗体と共に室温で30分間インキュベートした。染色メディアを、DAB希釈剤でDABを50倍に希釈することによって新たに作り、次いで150μLの基質溶液を各ウェルに加えた。DAB反応後、細胞をヘマトキシリンで5~10分間、対比染色した。
【0098】
qRT-PCR
全RNAをRNeasy Micro Kit (QIAGEN)を用いて単離した。First-Strand Synthesis SuperMix、qRT-PCR用(Invitrogen)を用いてRNAをcDNAに変換した。PCRは、Power SYBR(登録商標) Green PCR Master Mix (Applied Biosystems)を用いて行い、そしてMX3000P Sequence Detection System (Stratagene)を用いて実施した。データはΔΔCt法を用いて分析した。qRT-PCRのために用いられるプライマーを表4に列挙した。
【0099】
【0100】
RNAシーケンス
全RNAをRNeasy Plus Mini Kit (QIAGEN)を用いて単離した。Illumina mRNA-Seq Prep Kit (Illumina)を用いてRNAシーケンスするライブラリーを構築した。断片化及びランダムにプライミングした150bpの対末端ライブラリーをIllumina HiSeq 4000を用いて配列決定した。
【0101】
トランスクリプトーム分析に使用されるソフトウェア及びアルゴリズムには、Cutadapt 1.16 (http://cutadapt.readthedocs.io/en/stable/guide.html), Salmon 0.8.2 (https://combinelab. github.io/salmon/)、及びR 3.5.0 (https://www.r-project.org)が含まれる。HepG2、F-PHH-3及びF-PHH-4の発現プロファイルを生データとしてダウンロードした。PHH0d、hiPSC-Hep rep1、hiPSC-Hep rep2、hiPSC-Hep rep3及びhiPSC-Hep rep4(Gordillo, et al., Development, 142:2094-2108 (2015))の発現プロファイルを、生のシーケンスリードとしてGEOデータベース(GSM2817112、GSM2753376、GSM2753377、GSM2753378、GSM2753379)からダウンロードした。ペアエンド及びシングルエンドライブラリーの間の遺伝子発現プロファイルを比較するために、本発明者らは、本発明者らが生成したペアエンドリードからのリード1を使用した。リード1及びダウンロードしたシングルエンドのリードは、Cutadaptを用いて同じ40bpの長さにトリミングした。各サンプルの発現値はSalmonにより定量した。RNAシーケンスデータの教師なしの階層的クラスタリングはRにおけるhclustパッケージにより生成した。
【0102】
生化学アッセイ
ヒトアルブミンは、ヒトアルブミンELISA定量キット(Bethyl Laboratories)を用いて測定された。尿素濃度はQuantiChrom(商標) Urea Assay Kit (BioAssay Systems)により測定した。MTTアッセイは、製造業者の指示(Vybrant(登録商標) MTT Cell Proliferation Assay Kit, Invitrogen)に従って、示された時点で行った。
【0103】
統計解析
統計解析には、両側、対応の無いt検定を用いた。結果は平均±SEMで表され、nはPHHの同一のバッチからの反復回数を示す。p値は以下のとおりである:*p<0.05;**p<0.01;*** p<0.001;**** p<0.0001。
【0104】
結果及び考察
PHHをインビトロで長期間維持するために、小分子の組み合わせを用いた新たな化学的戦略が開発された。小分子は、特定の細胞標的の柔軟な時空間的調節を達成するそれらの能力のために、培養した細胞において自然シグナルを相乗的に組織化する利点を与える。PHHの維持を促進する小分子を同定するために、RNAシーケンス(RNA-Seq)を最初に用いて、単離したばかりの初代ヒト肝細胞(F-PHH)の全体的な遺伝子発現プロファイルを、インビトロで24時間だけ培養した肝細胞と比較した。これまでの研究に則して、重要な肝細胞機能遺伝子は24時間培養後に劇的にダウンレギュレーションされた(
図1)。注目すべきことに、TGF-βシグナル伝達経路の主要成分の発現は、24時間培養した肝細胞でアップレギュレートされた(
図2A)。
【0105】
以前の研究は、TGF-βシグナル伝達が肝細胞のための上皮間葉転換(EMT)の主要な誘導因子であることを示した。従って、TGF-βシグナル伝達誘導のEMTを遮断するために、TGF-β阻害剤SB431542(SB43)を使用し、そしてSB43処理をすることにより、培養した肝細胞は、2週間後でもE-カドヘリンの発現を伴う上皮形態を維持した(データは示さず)。しかしながら、TGF-βシグナル伝達の遮断は、EMT関連の転写因子であるカタツムリファミリー転写リプレッサー2(SNAI2);ツイスト関連タンパク質1(TWIST1)の発現を抑制することができず、そして肝機能遺伝子(ALB;CPS1(カルバモイルリン酸シンテターゼ1);CYP3A4及びCYP1A2)の発現を助けることもできず(
図2B)、TGF-βシグナル伝達の遮断が、部分的にEMTを抑制するが、PHHの機能状態の維持には限定的な効果しか持たないことを示した。
【0106】
機能的PHHを維持するために重要な他のシグナル伝達経路を同定するために、培養した肝細胞にSB43と組み合わせた個々の小分子を加えることによって、小分子の化学ライブラリーをスクリーニングした。アデニル酸シクラーゼ(AC)の活性剤であるフォルスコリン(FSK)は、肝機能遺伝子発現(ALB;CSP1;CYP3A4;OATP1B1)を維持し、α-平滑筋アクチン(ASMA)EMTマーカー遺伝子発現をダウンレギュレートし、(
図3A及び
図3B)、肝形態の維持を伴うPHHの生存を維持した。FSK及びSB43(本明細書では、「2C」)を含むこの2つの化学的条件下で、本発明者らは、肝細胞が、2週間の培養後に典型的な肝極性化多角形形態及び稀な細胞死を示すことを観察した。対照的に、FSK及びSB43の非存在下では、肝細胞は2週間以内で形態学的に脱極性化となり、培養細胞の生存率も低かった。
【0107】
長期的に2C条件下で維持されたPHH(2C-PHH)は、それらの単離したばかりの対照物の機能的特性を有する
2C条件が長期的にPHHの機能を維持できるかどうかを試験するための研究を行った。肝臓で合成及び分泌される血清タンパク質(ALB及びApoC1)、窒素代謝の律速酵素(NAGS、CPS1及びOTC)、重要な薬物動態代謝チトクロムP450(CYP)酵素(CYP3A4、CYP2D6及びCYP2C9)及び輸送体(NTCP、MRP2及びBSEP)を含む、重要な肝機能マーカーのパネルの発現を最初に評価した。RT-qPCR分析により、これらの遺伝子の発現は2C-PHHとF-PHHの間で同等であった(
図4B)。更に、アミノ酸及び脂肪酸の代謝ならびに凝固に関与する遺伝子などの、他の肝機能遺伝子の広域スペクトルを分析した。結果は、2C-PHHの遺伝子発現プロファイルがF-PHHのそれと類似していることを示した。2Cが基礎培地型と機能的に独立していることを更に確認するために、2CをWMEとHCMの両方で試験した。RT-qPCR分析は、培養4週間後に、HCMとWMEの両方において2C処理した2C-PHHが、F-PHHと同等のレベルで肝遺伝子を発現することを示した(
図4C;下パネル)。この結果は、2Cが培養培地の種類とは無関係に作用することを示しており、そして以下の実験はWMEに基づいている。重要なことに、SB43と併用したFSKは、潜在的にcAMPを活性化することによって、(FSK又はSB43単独と比較して、FSK+SB43処理における、ALB;N-アセチルグルタミン酸合成酵素(NAGS)、アポリポタンパク質C-I(APOC1);CYP2D6;NTCP発現のアップレギュレーション;及びSNAI2及びTWIST1のダウンレギュレーションとして測定される)肝細胞の維持に対して相乗効果を示した(
図4A-
図4D)。
【0108】
まとめると、これらのデータは、2C条件が、長期培養したPHHの重要な肝機能遺伝子発現を効果的に維持したことを示す。
【0109】
次に、ヒト肝細胞における、タンパク質合成と分泌の能力を示すアルブミン(ALB)分泌、及び窒素の代謝能力を示す尿素合成を定量した。ALBの分泌は、2C無しの肝細胞では1週間以内に劇的に減少したが、2C-PHHでは約4週間良好に維持された。尿素合成についても同様の結果が得られた。これらの結果はPHHの異なるバッチで再現性があった(
図4E)。
【0110】
2C-PHHのインビボ生着能を試験した。4週間後に、2C-PHHは、移植先のマウスの肝臓に強固に再生着し、そしてF-PHHと同等のレベルでヒト血清アルブミン(HSA)を分泌した。対照的に、2C無しで培養した肝細胞は、移植の2週間後にHSAを検出できず、移植の4週間後にはHSAレベルは2C-PHHとは対照的にかろうじて検出されたという事実が示すように、マウス肝臓の再生着は不十分あった(
図4J)。まとめると、これらのデータは、2Cが、少なくとも4週間インビトロでPHHの機能維持を支持できることを示した。
【0111】
2C条件における培養した肝細胞の薬物代謝能の維持
2C-PHHの薬物代謝能を評価するために、重要なCYP酵素の発現をRT-qPCRにより定量した。培養1か月後に、2C-PHHにおけるCYP3A4、CYP1A2、CYP2C9、CYP2D6、CYP2B6及びCYP2C19の発現は、F-PHHのそれと同等であった(
図4)。薬物代謝活性を更に評価するために、液体クロマトグラフィー質量分析(LC/MS)アッセイを使用した。データは、1か月の培養後に、ヒト薬物酸化の80%以上に関わる、2C-PHH中のCYP3A4、CYP2D6、CYP2C9及びCYP1A2の代謝活性が、F-PHHのそれらと同程度であることを示す一方で、2C無しで培養した肝細胞はこれらの代謝活性を消失した(
図4F)。
【0112】
2C-PHHが薬物-薬物相互作用(DDI)を予測するために適用できるかどうかを試験するために、更なる実験を行った。DDI試験において一般的に使用される強力なCYP酵素阻害剤及び誘導剤を適用し(Baranczewski et al., PR, 58:453-472, (2006))、そして結果は2C-PHHがこれらの阻害剤及び誘導剤に効果的に反応することを示した(
図4G、
図4H及び
図4I)。2C-PHHの薬物代謝活性はCYP酵素に特異的な阻害剤により劇的に抑制された(
図4I)。加えて、1か月の培養後、2C-PHHにおける3つの主要なCYP酵素であるCYP3A4、CYP1A2及びCYP2B6の遺伝子発現レベル及び代謝活性は、特定の誘導物質(
図4G及び
図4H)によく反応した。まとめると、これらのデータは、2CがインビトロでのPHHの薬物代謝活性の維持を支持できることを示唆している。
【0113】
追加の小分子を有する2Cにより凍結保存し、再生した肝細胞の維持
2Cが、長期間PHHの強固な機能維持を可能にすることを考慮して、次いで、本発明者らは、2Cが適用におけるヒト肝細胞の主要な資源である凍結保存した初代ヒト肝細胞(Cryo-PHH)の維持を支持できるかどうかを試験した。しかしながら、Cryo-PHHは、凍結保存のプロセスに起因する貧弱な生存率と機能性のため((Donato et al., Current Drug Metabolis, 9:1-11 (2008b))、インビトロで安定に維持することがより困難である。本発明者らは、2C条件下で、培養したCryo-PHHの改善された生存率を観察した。しかしながら、培養の4週間後には多角形の形態が失われ(データは示さず)、2Cで処理したCryo-PHHにおいて、EMTが起こったことが示唆された。
【0114】
このSB43とFSKの併用に基づいて、さらなる化学的スクリーニングを実施して、DAPT(Notch阻害剤)、IWP2(Wnt阻害剤)及びLDN193189(BMP阻害剤)がEMTマーカー遺伝子(コラーゲンI型α1(COL1A1);胸腺細胞抗原1(Thy1);ビメンチン(VIM))の発現を更に遮断することを示した(
図5A-
図5C)。特に、同一のシグナル伝達経路を標的とする小分子又はサイトカインは、EMT遺伝子の同様の抑制をもたらした(
図5D)。5つの化学物質(5C)であるFSK、SB43、DAPT、IWP2及びLDN193189からなるこの最小条件は、培養した凍結保存の初代ヒト肝細胞(Cryo-PHH)において、EMT遺伝子の発現を効果的に遮断し(
図6A及び
図5E)(間葉系の典型的なバイオマーカーであるCOL1A1の発現は、5C処理後に効果的にダウンレギュレートされた)、そして4週間にわたりF-PHH及びCryo-PHHの両方の典型的な多角形の維持を支持した(データは示さず)。更に、5Cで培養したPHH(5C-PHH)は、4週間培養後に、極性化とともに代理肝機能マーカー(ALB、AAT(α1-アンチトリプシン)、CPS1、CYP3A4;CYP1A2)を発現し、細胞-細胞境界でCDFDAの沈着として測定された(データは示さず)。また5C-PHHにおけるアルブミン分泌及び尿素合成も、少なくとも3週間維持され、PHHの9バッチで再現性があった(
図6B-
図6E)。興味深いことに、高い生存能力を有するPHHのバッチは、5Cの条件下で2か月間機能的に維持することができた。
【0115】
次に、全体的な遺伝子発現プロファイリングの時間経過分析を、単離から1か月間にわたって5C-PHHのRNAシーケンスにより実施した。よく用いられる肝細胞培養条件(Dunn, et al., Biotechnol. Prog., 7:237-245 (1991))である、サンドイッチ培養法(すなわち、2層のゲル化コラーゲン間の肝細胞の培養)を同様に比較のために分析した。階層的クラスタ化は、12時間後の長期培養では、サンドイッチ培養におけるPHHのトランスクリプトームはヌル及びDMSO群のものと類似したが、5C-PHHのみがF-PHHとともにクラスタ化されたことを例証した。注目すべきことは、サンドイッチ培養は5Cと組み合わされなかったことである。全体的な肝遺伝子発現を支持する5C条件の能力は、PHHの別の3つの独立したバッチで再現性があった(
図7)。更に、qRT-PCR分析は、サンドイッチ法と比較して、5C条件が代理肝細胞機能マーカーの発現を維持し、間葉系マーカー遺伝子の発現を抑制するのにより有効であることを確認した(
図8A)。また、5Cは、肝細胞機能において重要な役割を果たす転写因子の発現を効率的に維持した(
図8B)。まとめると、これらの結果から、5C条件は、ヒト肝細胞の全体的な遺伝子発現パターンをインビトロで長期間維持できることが示された。
【0116】
肝細胞は、外因性薬物の代謝及び解毒に重要であることが知られている;しかしながら、肝細胞のCYPの代謝活性は培養において急速に失われる(
図1)。開示された5C系では、4週間培養したPHHは、F-PHHと同等のレベルでコアCYP酵素を発現することが見出された。更に、5C-PHHにおける主要な第II相薬物代謝酵素及び第III相薬物代謝関連輸送体は、F-PHHと同レベルで発現した(
図8D及び
図8E)。これらのデータは、5Cが薬物代謝遺伝子の発現を効果的に維持することを示唆した。
【0117】
次に、ヒトにおける臨床薬物の約80~90%の代謝に関与するCYP3A4、CYP1A2、CYP2C9、CYP2D6及びCYP2B6を含む重要なCYP酵素を特性化した。液体クロマトグラフィー-質量分析は、培養2週間後に、5C-PHHにおけるこれらの主要酵素の代謝活性がF-PHHのそれらと同等であることを示した(
図8F)。対照的に、対照群で培養したPHHの代謝活性はほとんど検出されなかった(
図8F)。これらの結果は、PHHの3つの異なるバッチで再現性があった。まとめると、これらの結果は、5Cが培養ヒト肝細胞の薬物代謝活性をインビトロで維持することを示した。
【0118】
5C培養条件によるヒト肝細胞の強固な機能維持は、インビトロでのHBV感染をモデル化するためのプラットフォームを提供する。qRT-PCR分析は、4週間、5C条件下で培養したF-PHHとPHHの間でNTCPの同等の発現レベルを確認した(
図9A)。次に、PHHにHBV感染患者由来の血漿を接種することにより、5C-PHH培養物の上清中で検出されたHBV産物(分泌されたHBsAg、HBeAg及びDNA粒子)を伴う、HBV感染の成功が達成された(
図9B及び
図9D)。細胞内HBV-3.5kb及びHBV全RNA転写産物のレベルも時間とともに増加した(
図9C)。HBV産物の高レベルでの生成は5C-PHHにおいて少なくとも1か月間持続された。重要なことに、HBVcccDNAの形成は、5C-PHHにおけるサザンブロットによって検出可能であり(
図9H)、qPCR分析は、cccDNAが5C条件下の4週間の培養で持続的に検出可能であることを示した(
図9E)。5C-PHHの効率的なHBV感染は、HBVコア抗原(HBcAg)の免疫染色により実証された(データは示さず)。更に、5C-PHHは、MOIを10に減少しても、HBV感染に対して感受性があった(
図10A及び
図10B)。5Cで支持されたHBV感染は、Cryo-PHHを含むPHHの追加バッチ(>5バッチ)において良く再現された(
図11A-
図11E)。重要なことに、5Cは、様々な遺伝子型のHBV及びインビトロ産生細胞株HepAD38を含む、様々な感染源からのHBV感染を安定的に支持することができた(
図11A-
図11D)。
【0119】
ウイルス粒子をHBVに感染した5C-PHHの上清から回収し、それらを用いてナイーブPHHに接種した。HBVに感染した5C-PHHの上清を接種したPHHにおいてHBeAg及びHBV DNAが検出され(
図9F-
図9G)、5C-PHHがHBVライフサイクル全体を支持し、HBVの感染粒子を生成できることを示した。更に、HBVに感染した5C-PHHの割合は、培養時間の延長とともに増加し(データは示さず;
図11E)、細胞間の感染及び/又はHBV粒子のデノボ感染によるHBV拡散の可能性を示唆した。
【0120】
5C-PHH感染モデルは、2つのクラスの臨床抗HBV薬物:エンテカビル(ETV)及びラミブジン(LAM)などのインターフェロン-α(IFN-α)及びヌクレオシド(ヌクレオチド)逆転写酵素阻害剤に敏感に反応することが分かった。HBVに感染した5C-PHHの3つの薬物全て(ETV、LAM及びIFN-α)による処理は、HBV産物の減少をもたらした(
図12A-
図12D)。5Cで培養した凍結保存PHHでも、IFN-αによるcccDNAの著しい減少が見られ、同様の結果が得られた。更に、インターフェロン刺激遺伝子(ISG)は、IFN-αで処理した場合、長期間培養した5C-PHHにおいて有意にアップレギュレートしたが、HBV感染に対しては弱く反応し、肝細胞の自然免疫からHBVが回避されるという以前の報告(Cheng, et al., Hepatol., 66:1779-1793 (2017))と一致した(
図13A)。
【0121】
更に、前記培養条件をPHHにおける長期間HBV感染に対する他の報告されている培養条件(Lucifira, et al., Science, 343:1221-1228 (2014), Winner, et al., Nat. Comm., 8:1256 (2017), Xia, et al., J. Hepatol., 656:494-5603 (2017))と比較し、そして5Cが、特に肝機能の長期間維持及びHBV感染の安定支持において、明らかな利点を示すことを見出した(データは示さず;
図13B、
図13C及び
図13D)。重要なことに、5C条件は、マイクロウェルフォーマットに小型化することができ、高スループットアプリケーションに適用可能である(
図14A-
図14C)。更に、これらの結果は、インビトロでのPHHの長期間維持のために、単純ではあるが、非常に効果的且つ安定した培養条件として5Cを確立しており、そしてHBV感染の研究に大きな価値がある。
【0122】
HBVに加えて、5C-PHHはC型肝炎ウイルス(HCV)のような他の肝炎ウイルスにも感染する可能性がある。5C-PHHを分泌型ガウシアルシフェラーゼ(Gluc)レポーターを発現するHCVJc1Gの感染性ウイルス粒子に曝露した。ウイルス複製は5C-PHHで検出され、そしてC型肝炎処置のための直接作用抗ウイルス薬であるDCVにより効果的に遮断された(
図15A及び
図15B)。HBVとは異なり、HCVは5C-PHHにおいて強固なISG発現を誘導した(
図15C)。まとめると、これらの結果は、5C-PHHが肝指向性感染をモデル化し、そして抗ウイルス戦略を研究するための有効なモデルとして役立つことを示す。
【0123】
要約すると、初代ヒト肝細胞の機能を長期間維持するための化学的アプローチが開発された。このプラットフォームを用いて、PHHにおける全ウイルスライフサイクルに及び、インビトロで子孫ウイルスを放出する持続性HBV感染が実証された。特に、HBVcccDNAの形成はPHHにおいて捕捉されたが、これはHBVがウイルスライフサイクルに再び入り、そしてヒト肝臓においてHBVの再発を誘導するための鍵である。このプラットフォームは、単純であり、そして新しい抗ウイルス戦略を考案するための、特に慢性肝炎の治癒を見出すために不可欠の可能性がある、cccDNAを標的とする化合物のためのハイスループットスクリーニングに容易に適用できる。方法論的には、小分子は、細胞シグナルを正確にバランスさせ、そして成熟細胞の細胞同一性と機能性を安定化するために分子ネットワークを調節する、高度に調節可能な機能性を有し、他の機能性細胞型の維持にも拡張が可能な戦略を有する。
【0124】
2C及び5C条件で培養した肝細胞の全体的な遺伝子発現
全培養工程中のPHHの動的遺伝子発現変化をモニターするために、2C及び5Cを用いて又は用いずに、それぞれ培養した2つの異なるバッチ(B1及びB2)の肝細胞を、RNAシーケンスによる遺伝子発現プロファイリングのために1.5、3、5、8、15及び27日目に回収した。F-PHHとCryo-PHHの両方を陽性対照として使用した。階層的クラスタリングは、2C-PHH及び5C-PHHが単離したばかりの対照物と同等な全体的な遺伝子発現プロファイルを有することを例証した(データは示さず)。機能維持と同様に、結果は、2C及び5Cの条件が肝細胞の重要な転写因子(TF)の発現を維持し、その発現レベルはF-PHHのそれらと同等であることを示した(データは示さず)。これらのデータは、2C/5Cが、F-PHHと同様に培養したPHHの全体的な遺伝子発現プロファイルの長期間の維持を支持することを示す。
【0125】
cAMP-PKAとcAMP-EPACの両方はPHHの維持に不可欠である
本発明者らの化学的条件の根底にある潜在的なメカニズムを調査するために、ヒト肝細胞を維持するコア小分子の組み合わせであるFSK及びSB43を、同一のシグナル伝達経路を遮断するか又は刺激するかどちらかのそれらの類似体で置き換えた。一方、培養した肝細胞の遺伝子発現レパートリーは、RNAシーケンスによりプロファイリングされた。階層的クラスタリング分析は、FSKがPHHの維持において中心的役割を果たすことを示した(データは示さず)。NKH477(cAMPアゴニスト)及びdb-cAMP(cAMP類似体)は、FSKを置き換え、PHHの全体的な遺伝子発現を維持した。対照的に、FSKの不活性類似体である1、9-ジデオキシホルスコリン(1,9-dFSK)で処理した肝細胞は、FSK無しの対照群と同様の発現プロファイルを誘導した。肝マーカー遺伝子発現、ALB分泌及び尿素合成に対するdb-cAMPの効果を調査した(データは示さず)。このデータは、FSKがPHHの維持に必須の小分子であり、ACの活性化を介して機能していたことを示した(データは示さず)。
【0126】
cAMPの下流標的を更に調査した。結果は、PKA又はEPACのいずれかの阻害が個々に間葉系マーカーの発現を増強することを示し、肝細胞培養の間のEMTの発生を示唆した(データは示さず)。更に、PKA又はEPACのいずれかの単独の活性化は、2CからのFSKの離脱を完全に補償することができなかった(データは示さず)。これらのデータは、cAMPが、PHH維持において相乗的であるが非重複的であるPKA、EPAC、及びcAMPの下流経路の中心的なシグナル伝達ハブである可能性を示唆する。
【0127】
hESC由来の肝細胞の機能的成熟を促進する化学物質カクテル
2Cがヒト肝細胞の成熟機能を維持できること考慮して、開示された化学培養条件がヒト胚性幹細胞由来の肝細胞(hESC-Heps)の成熟を促進できるかどうかを試験する研究を行った。hESC-Hepsは確立されたプロトコル(Zhao et al., Cell Res., 23:157-161 (2013))の修正を用いて生成した。免疫蛍光分析は、hESC-Hepsが、肝細胞に特異的なTFである、FOXA2、HNFA4、HNF6、PROX1及びCEBPAを発現することを示した(データは示さず)。アルブミンはhESC-Hepにおいて検出された。hESC-HepはAFP及びALB(データは示さず)及びCYP3A4に対して免疫陽性であったが、CYP1A2、CYP2C9、CYP2A6及びCYP2E1(データは示さず)に対して免疫陽性ではなかった。これらのデータはhESC-Hepの胎児様機能の特徴を示した。
【0128】
対照的に、hESC-Hepsを2C条件に移した後に、hESC-Hepsは小さな核-細胞質比を有する多角形様形態を獲得した(データは示さず)。更に、肝機能マーカー遺伝子(HNFA4、HNF6、PROX1、CEBPA、CYP2C9、CYP2A6、CYP1A2など)は、2Cで培養7日目から徐々にアップレギュレートされた(示されないデータ及び
図16)。特に、細胞間毛細胆管は、培養2週間後に構成され(データは示さず)、そして低下したAFP発現を有した(データは示さず)。重要なことに、2Cで培養したhESC-Hepは、CYP3A4、CYP1A2、CYP2C9、CYP2C19、CYP2A6及びCYP2E1を含むCYP酵素のスペクトルを発現した(データは示さず)。薬物代謝に関連する二つの重要な核内受容体であるPXR及びCARは、2C条件下で著しくアップレギュレートされた(
図16)。2C条件下で、成体肝細胞に特異的な遺伝子のマスターレギュレーターである、HNF4Aの発現が観察され、そしてCEBPA、PROX1及びATF5を含む成熟因子の発現が増加した。それ以外の肝細胞に特異的な遺伝子は2Cの処理なしで徐々に減少した(
図16)。まとめると、これらのデータは、成体肝細胞に対する開示された化学的条件が、hPSC-Hepの機能的成熟を成熟肝細胞のそれに近い形で促進したことを示す。