(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-27
(45)【発行日】2024-12-05
(54)【発明の名称】リチウム二次電池負極材用シリコン複合酸化物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/38 20060101AFI20241128BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20241128BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20241128BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20241128BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/36 C
H01M4/58
H01M10/052
(21)【出願番号】P 2021564129
(86)(22)【出願日】2020-04-29
(86)【国際出願番号】 KR2020095081
(87)【国際公開番号】W WO2020222628
(87)【国際公開日】2020-11-05
【審査請求日】2022-06-28
(31)【優先権主張番号】10-2019-0049943
(32)【優先日】2019-04-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】517108310
【氏名又は名称】デジュ・エレクトロニック・マテリアルズ・カンパニー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】DAEJOO ELECTRONIC MATERIALS CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【氏名又は名称】駒井 慎二
(72)【発明者】
【氏名】オ・ソンミン
(72)【発明者】
【氏名】パク・ジョンギュ
(72)【発明者】
【氏名】パク・ヒョンス
(72)【発明者】
【氏名】チョン・ヨンミン
(72)【発明者】
【氏名】イム・ジョンチャン
【審査官】福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-170943(JP,A)
【文献】特表2018-519648(JP,A)
【文献】国際公開第2015/145521(WO,A1)
【文献】特開2018-156922(JP,A)
【文献】国際公開第2018/208111(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M 10/05-10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Siクラスター;及び
前記Siクラスターの周辺部に形成されるMg
xSiO
y(0.5≦x≦2、2.5≦y≦4)で示されるマグネシウムケイ酸塩;
を含み、
前記Siクラスター
がコアシェル構造のコアを形成し、前記マグネシウムケイ酸塩
が前記コアシェル構造のシェルを形成する、リチウム二次電池負極材用シリコン複合酸化物。
【請求項2】
前記SiクラスターによるSi(111)のドメインサイズは、12nm以下である、請求項1に記載のリチウム二次電池負極材用シリコン複合酸化物。
【請求項3】
X線回折パターン分析時において、回折角28°<2θ<29°の範囲でSi結晶に帰属されるピークが現われ、
回折角30.5°<2θ<31.5°の範囲でMgSiO
3結晶に帰属されるピークが現われることを特徴とする、請求項1に記載の二次電池負極材用シリコン複合酸化物。
【請求項4】
XRD分析時において、前記SiクラスターによるSi(111))の半値幅(FWHM(deg))は、0.7~1.5(deg)である、請求項1に記載のリチウム二次電池負極材用シリコン複合酸化物。
【請求項5】
前記シリコン複合酸化物は、Mg
2SiO
4(フォルステライト)結晶を含み、
前記Mg
2SiO
4(フォルステライト)結晶の含有量は、MgSiO
3(エンスタタイト)結晶の含有量より少量であることを特徴とする、請求項1に記載の二次電池負極材用シリコン複合酸化物。
【請求項6】
前記シリコン複合酸化物のMg
2SiO
4のフォルステライト結晶相とMgSiO
3結晶相とのピーク強度比I
Mg2SiO4/I
MgSiO3が、0~0.5以下である、請求項1に記載の二次電池負極材用シリコン複合酸化物。
【請求項7】
前記シリコン複合酸化物は、全100重量部当たり、Mgを2~15重量部の割合で含有するものである、請求項1に記載の二次電池負極材用シリコン複合酸化物。
【請求項8】
前記シリコン複合酸化物は、表面に炭素被膜を含むものである、請求項1に記載の二次電池負極材用シリコン複合酸化物。
【請求項9】
前記炭素被膜の平均厚さは、5~100nmである、請求項
8に記載の二次電池負極材用シリコン複合酸化物。
【請求項10】
ケイ素粉末、酸化ケイ素(SiO
x、0.9<x<1.1)粉末、及び二酸化ケイ素粉末を混合してSi/SiO
x/SiO
2原料粉末混合体を準備するステップ;
前記Si/SiO
x/SiO
2原料粉末混合体と金属マグネシウムとをそれぞれ蒸発させ、反応させた後、蒸着させて複合酸化物を形成するステップ;
前記形成されたシリコン複合酸化物を冷却させるステップ;及び、
前記冷却されたシリコン複合酸化物を粉砕するステップ;
を含む、請求項1に記載の二次電池負極材用シリコン複合酸化物の製造方法。
【請求項11】
前記粉砕されたシリコン複合酸化物の表面を炭素で被覆させるステップをさらに含む、請求項10に記載の二次電池負極材用シリコン複合酸化物の製造方法。
【請求項12】
前記ケイ素粉末、前記酸化ケイ素(SiO
x、0.9<x<1.1)粉末、及び前記二酸化ケイ素粉末を混合して前記Si/SiO
x/SiO
2原料粉末混合体を準備するステップでは、前記Si/SiO
x/SiO
2原料粉末混合体におけるO/Siのモル比が、0.9~1.1である、請求項10に記載の二次電池負極材用シリコン複合酸化物の製造方法。
【請求項13】
前記ケイ素粉末、前記酸化ケイ素(SiO
x、0.9<x<1.1)粉末、及び前記二酸化ケイ素粉末を混合して前記Si/SiO
x/SiO
2原料粉末混合体を準備するステップでは、原料として混合される前記ケイ素粉末、前記酸化ケイ素(SiO
x、0.9<x<1.1)粉末、及び前記二酸化ケイ素粉末の平均粒径と比表面積は、10nm~100μm、5~500m
2/gである、請求項10に記載の二次電池負極材用シリコン複合酸化物の製造方法。
【請求項14】
前記ケイ素粉末、前記酸化ケイ素(SiO
x、0.9<x<1.1)粉末、及び前記二酸化ケイ素粉末を混合して前記Si/SiO
x/SiO
2原料粉末混合体を準備するステップを行った後、前記Si/SiO
x/SiO
2原料粉末混合体を800~1100℃、常圧で、1時間~3時間熱処理するステップをさらに含む、請求項10に記載の二次電池負極材用シリコン複合酸化物の製造方法。
【請求項15】
前記Si/SiO
x/SiO
2原料粉末混合体と前記金属マグネシウムとをそれぞれ蒸発させ、反応させた後、蒸着させて前記複合酸化物を形成するステップでは、前記Si/SiO
x/SiO
2原料粉末混合体と前記金属マグネシウムとは、別々の反応器でそれぞれ蒸発され、気体状態で反応させるものである、請求項10に記載の二次電池負極材用シリコン複合酸化物の製造方法。
【請求項16】
前記Si/SiO
x/SiO
2原料粉末混合体と前記金属マグネシウムとをそれぞれ蒸発させ、反応させた後、蒸着させて前記複合酸化物を形成するステップでは、前記Si/SiO
x/SiO
2原料粉末混合体は、0.001~5torrの圧力下で、1000~1600℃で蒸発させるものである、請求項10に記載の二次電池負極材用シリコン複合酸化物の製造方法。
【請求項17】
前記Si/SiO
x/SiO
2原料粉末混合体と前記金属マグネシウムとをそれぞれ蒸発させ、反応させた後、蒸着させて前記複合酸化物を形成するステップでは、前記金属マグネシウムは、0.001~2torrの圧力下で、700~1000℃で蒸発させるものである、請求項10に記載の二次電池負極材用シリコン複合酸化物の製造方法。
【請求項18】
前記炭素で被覆させるステップでは、上記シリコン複合酸化物を、メタン、プロパン、ブタン、アセチレン、ベンゼン、及びトルエンからなる群から選択されるいずれか1つ以上の炭素前駆体と、600~1200℃で、ガス状で反応させる、請求項11に記載の二次電池負極材用シリコン複合酸化物の製造方法。
【請求項19】
請求項1に記載の二次電池負極材用シリコン複合酸化物を備えるリチウム二次電池用負極。
【請求項20】
請求項19に記載
のリチウム二次電池用負極を含むリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池負極材用シリコン複合酸化物及びその製造方法に関し、より詳しくは、粒子内にSiクラスター、及び上記Siクラスターの周辺部に形成されるMgxSiOy(0<x≦3、0<y≦5)を含むリチウム二次電池負極材用シリコン複合酸化物及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯機器の小型化・高性能化、さらには電気自動車及び大容量のエネルギー貯蔵産業においても二次電池の必要性が高まり、リチウム二次電池の性能向上への要求が増大している。エネルギー密度を高めるため、正極及び負極活物質の高容量化、極板の高密度化、分離膜の薄膜化及び充放電電圧を高めるなど、研究開発が進められている。
【0003】
しかしながら、分離膜の薄膜化、極板の高密度化及び充放電電圧を高めることは、二次電池の安定性に致命的な問題を生じることがあり、現在技術的な限界に達しているため、正極及び負極活物質の容量を高めるという点に研究開発の方向が向いている。
【0004】
負極活物質は、既存の黒鉛系が持つ理論容量(372mAh/g)より数倍以上の容量を発現できる素材が報告されている。従来、リチウム二次電池の負極活物質としては、炭素系、シリコン系、スズ系、遷移金属酸化物などが主に研究開発されていた。しかし、現在まで開発された負極活物質は、容量、初期充放電効率、膨張率及び寿命特性が満足する水準に達していないため、改善の余地が残っている。
【0005】
特に、Si、Ge、Snのような物質は、高い理論容量を持つため新しい負極材として注目されており、その中でも、シリコンは、理論容量が4,200mAh/gに達する高容量性能を示し、炭素系負極物質の代わりに次世代の代替物質として注目されている。しかし、シリコンの場合、シリコン1つ当たり、リチウムが44個も必要となり、合金(alloy)を形成するとともに高容量を示すが、これによって、約300%以上の体積変化がもたらされる。このような体積変化は、充放電の繰り返しによって負極活物質の微粉化(pulverization)を生じ、負極活物質が電流集電体から電気的に脱離する現象を引き起こす。このような電気的脱離は、電池の容量維持率を著しく減少させる。
【0006】
上述の問題を改善するため、シリコンを炭素と機械的ミーリング加工で複合化し、シリコン粒子表面を化学蒸着法(CVD)により炭素層で被覆する技術も提案されている(特許文献1)が、充放電時に伴う体積の膨張と収縮を抑制するには限界がある。これに対し、酸化ケイ素(SiOx)は、ケイ素に比べて容量が小さいが、炭素系負極容量(約350mAh/g)に比べて数倍以上の高容量(約1,500mAh/g)を有し、二酸化ケイ素マトリックスにシリコンナノ結晶が均一に分散された構造を有しているため、他のシリコン系素材に比べて体積膨張率と寿命(容量維持率)特性が画期的に向上した素材として脚光を浴びている。
【0007】
このように容量と寿命特性に優れた酸化ケイ素は、初期充電時にリチウムと酸化ケイ素とが反応してリチウム酸化物(酸化リチウム及びケイ酸リチウム等を含む。)が生成されるが、生成されたリチウム酸化物は、放電時に可逆的に正極に戻ることができなくなる。このような不可逆反応によりリチウムが失われ、初期充放電効率(ICE)は、75%以下に低下し、二次電池を設計する際に正極の容量を過剰に必要とし、これによって、実際の電池では、負極が持つ単位質量当たりの容量を相殺するという問題があった。酸化ケイ素(SiOx)の初期充放電効率を向上させるための方法として、SiOxを金属リチウム粉末と反応させてSi-SiOx-Li系複合体を製造する方法(特許文献2)があるが、このような方法では、初期効率は向上するが、電池容量が減少し、電極製作時にペーストの安定性が低下し、取り扱い上の難点があって工業的な生産が困難であるという問題を持つ。
【0008】
電極製作時の安定性を向上させるために、SiOxとマグネシウム化合物とを混合して加熱する方法でケイ素-ケイ素酸化物複合体により初期充放電効率を高める方法が提案されている。特許文献3では、SiOxと硝酸マグネシウム(Mg(NO3)2)とを反応させてSi-SiO2-Mg2-SiO4-炭素系複合材を製造しているが、放電容量が900mAh/g、初期充放電効率が73%と低くなっている。これは、マグネシウム前駆体として硝酸マグネシウムを使用しているため、SiOxとの反応で非晶質SiO2とMgOが多量に含まれることで、不可逆反応が抑制されず、充放電容量の発現は、期待する水準に到達しないものであった。
【0009】
また、SiOxの不可逆容量を少なくするために、SiOx粉末を水素化マグネシウム(MgH2)又は水素化カルシウム(CaH2)と反応させてマグネシウム又はカルシウムを含有するケイ素-ケイ素酸化物複合体を製造する方法(特許文献4)が報告されている。このような方法では、SiOx粉末とMgH2又はCaH2との反応時、酸素の混入が低減されるが、局部的な発熱反応によりシリコン結晶の大きさが急激に成長し、Mg又はCaが不均一に分布するようになるため、SiOxに対して容量維持率が低下することが示された。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述のような従来技術の問題点を解決するために、Si/SiOx/SiO2原料粉末混合体とマグネシウムとを蒸発させて気体状態で反応させることにより、粒子形成過程で粒子内にSiクラスターを形成するとともに、上記Siクラスターの周辺部に形成されるMgxSiOy(0<x≦3、0<y≦5)を含むことにより、高容量を示し、かつ高い容量維持率を有する新たな構造のリチウム二次電池負極材用シリコン複合酸化物を提供することを目的とする。
【0011】
本発明は、また、本発明に係るリチウム二次電池負極材用シリコン複合酸化物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上述のような課題を解決するために、Siクラスター、及び上記Siクラスターの周辺部に形成されるMgxSiOy(0.5≦x≦2、2.5≦y≦4)で示されるマグネシウムケイ酸塩を含むリチウム二次電池負極材用シリコン複合酸化物を提供する。
【0013】
本発明のリチウム二次電池負極材用シリコン複合酸化物において、上記Siクラスター、及び上記Siクラスターの周辺部に形成されるMgxSiOy(0.5≦x≦2、2.5≦y≦4)は、コアシェル構造を形成することができる。
【0014】
本発明のリチウム二次電池負極材用シリコン複合酸化物において、上記SiクラスターのSi(220)のドメインサイズは、12nm以下であり得る。
【0015】
本発明のリチウム二次電池負極材用シリコン複合酸化物は、X線回折パターン分析時において、回折角28°<2θ<29°の範囲でSi結晶に帰属されるピークが現れ、回折角30.5°<2θ<31.5°の範囲でMgSiO3結晶に帰属されるピークが現れ得る。
【0016】
本発明のリチウム二次電池負極材用シリコン複合酸化物は、X線回折パターン分析時において、上記SiクラスターによるSi(111)の半値幅(FWHM(deg))は、0.7~1.5(deg)であり得る。
【0017】
本発明のリチウム二次電池負極材用シリコン複合酸化物は、Mg2SiO4(フォルステライト)結晶を含み、上記Mg2SiO4(フォルステライト)結晶の含有量は、MgSiO3(オルソエンスタタイト)結晶の含有量より少量であり得る。
【0018】
本発明のリチウム二次電池負極材用シリコン複合酸化物において、上記シリコン複合酸化物のMg2SiO4(フォルステライト)結晶相とMgSiO3(オルソエンスタタイト)結晶相とのピーク強度比IMg2SiO4/IMgSiO3が、0~0.5以下であり得る。
【0019】
本発明のリチウム二次電池負極材用シリコン複合酸化物は、全100重量部当たり、Mgを2~15重量部の割合で、好ましくは2~10重量部の割合で含有することができる。
【0020】
本発明のリチウム二次電池負極材用シリコン複合酸化物は、表面に炭素被膜を含むことができる。
【0021】
本発明のリチウム二次電池負極材用シリコン複合酸化物において、上記炭素被膜の平均厚さは、5~100nmであり得る。
【0022】
本発明は、また、
ケイ素粉末、酸化ケイ素(SiOx、0.9<x<1.1)粉末、及び二酸化ケイ素粉末を混合してSi/SiOx/SiO2原料粉末混合体を準備するステップ;
上記Si/SiOx/SiO2原料粉末混合体と金属マグネシウムとをそれぞれ蒸発させ、反応させた後、蒸着させて複合酸化物を形成するステップ;
上記形成されたシリコン複合酸化物を冷却させるステップ;及び
上記冷却されたシリコン複合酸化物を粉砕するステップ;
を含む本発明に係る二次電池負極材用シリコン複合酸化物の製造方法を提供する。
【0023】
本発明の二次電池負極材用シリコン複合酸化物の製造方法は、上記粉砕されたシリコン複合酸化物の表面を炭素で被覆するステップをさらに含むことができる。
【0024】
本発明の二次電池負極材用シリコン複合酸化物の製造方法において、上記ケイ素粉末、酸化ケイ素(SiOx、0.9<x<1.1)粉末、及び二酸化ケイ素粉末を混合してSi/SiOx/SiO2原料粉末混合体を準備するステップでは、上記Si/SiOx/SiO2原料粉末混合体におけるO/Siのモル比が、0.9~1.1であり得る。
【0025】
本発明の二次電池負極材用シリコン複合酸化物の製造方法において、上記ケイ素粉末、酸化ケイ素(SiOx、0.9<x<1.1)粉末、及び二酸化ケイ素粉末を混合してSi/SiOx/SiO2原料粉末混合体を準備するステップでは、上記原料として混合されるケイ素粉末、酸化ケイ素(SiOx、0.9<x<1.1)粉末、及び二酸化ケイ素粉末の平均粒径と比表面積は、10nm~100μm、5~500m2/gであり得る。
【0026】
本発明の二次電池負極材用シリコン複合酸化物の製造方法において、ケイ素粉末、酸化ケイ素(SiOx、0.9<x<1.1)粉末、及び二酸化ケイ素粉末を混合してSi/SiOx/SiO2原料粉末混合体を準備するステップを行った後、上記Si/SiOx/SiO2原料粉末混合体を、800~1100℃、常圧で、1時間~3時間熱処理するステップをさらに含むことができる。
【0027】
本発明の二次電池負極材用シリコン複合酸化物の製造方法において、上記Si/SiOx/SiO2原料粉末混合体と金属マグネシウムとをそれぞれ蒸発させ、反応させた後、蒸着させて複合酸化物を形成するステップでは、上記Si/SiOx/SiO2原料粉末混合体と金属マグネシウムとは、別々の反応器でそれぞれ蒸発し、気体状態で反応させることができる。
【0028】
本発明の二次電池負極材用シリコン複合酸化物の製造方法において、上記Si/SiOx/SiO2原料粉末混合体と金属マグネシウムとをそれぞれ蒸発させ、反応させた後、蒸着させて複合酸化物を形成するステップでは、上記Si/SiOx/SiO2原料粉末混合体は、0.001~5torrの圧力下で、1000~1600℃で蒸発させることができる。
【0029】
本発明の二次電池負極材用シリコン複合酸化物の製造方法において、上記Si/SiOx/SiO2原料粉末混合体と金属マグネシウムとを蒸発及び蒸着させて複合酸化物を形成するステップでは、上記金属マグネシウムは、0.001~2torrの圧力下で、700~1000℃で蒸発させることができる。
【0030】
本発明の二次電池負極材用シリコン複合酸化物の製造方法において、上記表面を炭素で被覆させるステップでは、上記シリコン複合酸化物を、メタン、プロパン、ブタン、アセチレン、ベンゼン、及びトルエンからなる群から選択されるいずれか1つ以上の炭素前駆体と、600~1200℃で、ガス状で反応させることができる。
【0031】
本発明は、また、本発明に係る二次電池負極材用シリコン複合酸化物を備えるリチウム二次電池用負極を提供する。
【0032】
本発明は、また、本発明に係る二次電池負極材用シリコン複合酸化物を備えるリチウム二次電池用負極を含むリチウム二次電池を提供する。
【0033】
本発明の二次電池負極材用シリコン複合酸化物を備えるリチウム二次電池用負極を含むリチウム二次電池は、2回充電時、dQ/dV曲線において、0.45V付近でのピーク強度が、0.25Vでのピーク強度より大きく表れることになる。
【0034】
本発明のリチウム二次電池用負極を含むリチウム二次電池は、2回放電後、MgxSiOyに由来するXRDピークが現れないことがあり得る。
【発明の効果】
【0035】
本発明の二次電池負極材用シリコン複合酸化物は、粒子内でSiクラスターを形成するとともに上記Siクラスターの周辺部に形成されるMgxSiOy(0≦x≦3、0≦y≦5)を含む新たな構造のリチウム二次電池負極材用シリコン複合酸化物であって、従来の二次電池シリコン系負極材に比べて高容量を示し、かつ非常に高い容量維持率を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】本発明の一実施例で製造されたリチウム二次電池負極材用シリコン複合酸化物の切断試験片のTEM-EDX分析の結果を示す。
【
図2】本発明の実施例及び比較例で製造されたリチウム二次電池負極材用シリコン複合酸化物に対するXRD分析の結果を示す。
【
図3】本発明の実施例及び比較例で製造されたリチウム二次電池負極材用シリコン複合酸化物に対するXRD分析の結果を示す。
【
図4】本発明の実施例及び比較例で製造されたリチウム二次電池負極材用シリコン複合酸化物に対するXRD分析の結果を示す。
【
図5】本発明の実施例及び比較例で製造されたリチウム二次電池負極材用シリコン複合酸化物に対するXRD分析の結果を示す。
【
図6】本発明の実施例及び比較例で製造されたリチウム二次電池負極材用シリコン複合酸化物に対するXRD分析の結果を示す。
【
図7】本発明の実施例及び比較例で製造されたリチウム二次電池負極材用シリコン複合酸化物に対するXRD分析の結果を示す。
【
図8】本発明の実施例及び比較例で製造されたリチウム二次電池負極材用シリコン複合酸化物に対するXRD分析の結果を示す。
【
図9】本発明の実施例及び比較例で製造されたリチウム二次電池負極材用シリコン複合酸化物に対するXPS分析の結果を示す。
【
図10】本発明の一実施例及び比較例で製造されたリチウム二次電池負極材用シリコン複合酸化物の断面に関する構成成分の模式図を示す。
【
図11】本発明の一実施例及び比較例3の負極材を含む電池の電気化学特性を測定した結果を示す。
【
図12】本発明の一実施例及び比較例3の負極材を含む電池の電気化学特性を測定した結果を示す。
【
図13】本発明の一実施例及び比較例の負極材を含む電池の充放電後の電極に対するEx-Situ XRD測定の結果を示す。
【
図14】本発明の一実施例及び比較例で製造されたリチウム二次電池負極材用シリコン複合酸化物に対する100サイクル後のXRD測定の結果を示す。
【
図15】本発明の一実施例及び比較例で製造されたリチウム二次電池負極材用シリコン複合酸化物に対するSTEM測定の結果を示す。
【
図16】本発明の一実施例及び比較例3の負極材を含む電池の充放電前後のTEM、STEM-HAADF、及びSTEM-EDS測定の結果を示す。
【
図17】本発明の一実施例及び比較例3の負極材を含む電池の充放電前後の構造変化を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、実施例を挙げて本発明を詳述する。後述の実施例は、本発明の例示に過ぎず、本発明の範囲は、これらの実施例によって制限解釈されない。
【0038】
本明細書で用いられる「含む」のような表現は、当該表現が含まれる語句または文章で特に言及されない限り、他の実施例を含む可能性を内包する開放型用語(open-ended terms)と理解されるべきである。
【0039】
本明細書で用いられる「好ましい」及び「好ましくは」という語は、特定の状況下で特定の利点をもたらし得る本発明の実施形態を指す。しかしながら、同一又は他の環境下で、他の実施形態も好ましい可能性がある。さらに、1つ以上の好ましい実施形態の記載は、他の実施形態が有用でないことを示唆するものではなく、また、本発明の範囲から他の実施形態を排除することを意図するものでもない。
【0040】
以下、本発明のリチウム二次電池負極材用シリコン複合酸化物について詳述する。
【0041】
本発明は、Siクラスター、及び上記Siクラスターの周辺部に形成されるMgxSiOy(0.5≦x≦2、2.5≦y≦4)で示されるマグネシウムケイ酸塩を含むリチウム二次電池負極材用シリコン複合酸化物を提供する。
【0042】
本発明に係るリチウム二次電池負極材用シリコン複合酸化物の断面を
図1に示す。
図1に示されるように、本発明に係るリチウム二次電池負極材用シリコン複合酸化物は、粒子内にSiの濃度が不均一に凝集されたクラスターを含み、上記Siクラスターの周辺部にマグネシウムケイ酸塩であるMg
xSiO
y(0.5≦x≦2、2.5≦y≦4)を含むことが確認できる。
【0043】
本発明のリチウム二次電池負極材用シリコン複合酸化物は、上記Si/SiOx/SiO2原料粉末混合体と金属マグネシウムとを蒸発させて気体状態で反応させるため、原料が高温で溶解して固溶体状態で減圧により蒸発され、気体状態で反応して冷却されると、生成物間の相分離(Phase Separation)が進行しながら、Siクラスター及び周辺部のMgxSiOy(0.5≦x≦2、2.5≦y≦4)の境界面が形成され得る。
【0044】
従って、本発明のリチウム二次電池負極材用シリコン複合酸化物は、シリコン複合体を形成した後にマグネシウムをドーピングするような従来技術では全く形成されない、Siクラスター及びSiクラスターの周辺部に形成されるマグネシウムケイ酸塩であるMgxSiOy(0.5≦x≦2、2.5≦y≦4)を含むことができる。
【0045】
本発明のリチウム二次電池負極材用シリコン複合酸化物は、上記Siクラスターと上記Siクラスターの周辺部に形成されるMgxSiOy(0.5≦x≦2、2.5≦y≦4)は、コアシェル構造を形成することができる。
【0046】
また、本発明のリチウム二次電池負極材用シリコン複合酸化物において、上記SiクラスターのSi(220)のドメインサイズは、12nm以下であり得る。
【0047】
さらに、本発明のリチウム二次電池負極材用シリコン複合酸化物は、X線回折パターン分析時において、回折角28°<2θ<29°の範囲でSi結晶に帰属されるピークが現れ、回折角30.5°<2θ<31.5°の範囲でMgSiO3結晶に帰属されるピークが現れ得る。
【0048】
本発明のリチウム二次電池負極材用シリコン複合酸化物は、X線回折パターン分析時において、上記SiクラスターによるSi(111)の半値幅(FWHM(deg))は、0.7~1.5(deg)であり得る。
【0049】
本発明のリチウム二次電池負極材用シリコン複合酸化物は、Mg2SiO4(フォルステライト)結晶を含み、上記Mg2SiO4(フォルステライト)結晶の含有量は、MgSiO3(オルソエンスタタイト)結晶の含有量より少量であり得る。本発明のリチウム二次電池負極材用シリコン複合酸化物において、上記シリコン複合酸化物のMg2SiO4(フォルステライト)結晶相とMgSiO3(オルソエンスタタイト)結晶相とのピーク強度比IMg2SiO4/IMgSiO3が、0~0.5以下であり得る。
【0050】
本発明のリチウム二次電池負極材用シリコン複合酸化物は、全100重量部当たり、Mgを2~15重量部の割合で、好ましくは2~10重量部の割合で含有することができる。
【0051】
本発明のリチウム二次電池負極材用シリコン複合酸化物は、表面に炭素被膜を含むことができる。
【0052】
本発明のリチウム二次電池負極材用シリコン複合酸化物において、上記炭素被膜の平均厚さは、5~100nmであり得る。
【0053】
以下、本発明のリチウム二次電池負極材用シリコン複合酸化物の製造方法について詳述する。
【0054】
本発明は、
ケイ素粉末、酸化ケイ素(SiOx、0.9<x<1.1)粉末、及び二酸化ケイ素粉末を混合してSi/SiOx/SiO2原料粉末混合体を準備するステップ;
上記Si/SiOx/SiO2原料粉末混合体と金属マグネシウムとをそれぞれ蒸発させ、反応させた後、蒸着させて複合酸化物を形成するステップ;
上記形成されたシリコン複合酸化物を冷却させるステップ;及び
上記冷却されたシリコン複合酸化物を粉砕するステップ;
を含む本発明に係る二次電池負極材用シリコン複合酸化物の製造方法を提供する。
【0055】
本発明の二次電池負極材用シリコン複合酸化物の製造方法は、上記粉砕されたシリコン複合酸化物の表面を炭素で被覆させるステップをさらに含むことができる。
【0056】
本発明の二次電池負極材用シリコン複合酸化物の製造方法において、上記ケイ素粉末、酸化ケイ素(SiOx、0.9<x<1.1)粉末、及び二酸化ケイ素粉末を混合してSi/SiOx/SiO2原料粉末混合体を準備するステップでは、Si/SiOx/SiO2原料粉末混合体を乾式混合し、撹拌することができる。
【0057】
本発明の二次電池負極材用シリコン複合酸化物の製造方法において、上記ケイ素粉末、酸化ケイ素(SiOx、0.9<x<1.1)粉末、及び二酸化ケイ素粉末を混合してSi/SiOx/SiO2原料粉末混合体を準備するステップでは、Si/SiOx/SiO2原料粉末混合体におけるO/Siのモル比が、0.9~1.1であり得る。上記Si/SiOx/SiO2原料粉末混合体におけるO/Siのモル比が0.9以下、又は1.1以上である場合、シリコン複合酸化物の収率が顕著に低下することがある。
【0058】
また、上記ケイ素粉末は、表面が酸化状態になり得る。ケイ素粉末の製造過程で空気中の酸素によって表面が酸化されることがあり、ケイ素粉末の酸素含有量は制限されず、酸素含有量がケイ素粉末全体に対して50重量%以下であれば、上記O/Siモル比を調節しやすく、より好ましくは、30重量%以下である。
【0059】
本発明の二次電池負極材用シリコン複合酸化物の製造方法において、上記Si/SiOx/SiO2原料粉末混合体は、原料粉末混合体総量に対して上記酸化ケイ素粉末を30重量%以上含有することができ、好ましくは、50%以上、より好ましくは、70重量%以上含有することが好ましい。
【0060】
本発明の二次電池負極材用シリコン複合酸化物の製造方法では、原料としてSiOxを含むことにより、原料を粉末状態で乾式混合して使用する場合でも、反応速度を調節し、均一な品質の製品を製造することが可能である。上記酸化ケイ素粉末の含有量が30重量%以下であれば、原料粉末混合体を加熱減圧下で蒸発させてマグネシウム蒸気と反応させる際、反応時間によって酸化ケイ素の蒸発速度を調節することが難しいため、均一な品質が得られず、反応生成物の収率が低くなることがある。また、原料粉末混合体の蒸発率を高めるためには、より高い蒸発温度が要求されるという短所がある。
【0061】
また、上記原料として混合されるケイ素粉末、酸化ケイ素(SiOx、0.9<x<1.1)粉末、及び二酸化ケイ素粉末の平均粒径と比表面積は、特に制限されず、10nm~100μm、5~500m2/gであることが好ましい。
【0062】
本発明の二次電池負極材用シリコン複合酸化物の製造方法において、ケイ素粉末、酸化ケイ素(SiOx、0.9<x<1.1)粉末、及び二酸化ケイ素粉末を混合してSi/SiOx/SiO2原料粉末混合体を準備するステップを行った後、上記Si/SiOx/SiO2原料粉末混合体を熱処理するステップをさらに含むことができる。本発明の二次電池負極材用シリコン複合酸化物の製造方法において、上記Si/SiOx/SiO2原料粉末混合体を熱処理するステップでは、前記原料粉末混合体を800~1100℃、常圧で、1時間~3時間熱処理を行うことで、原料粉末混合体の組成均一性を高めることができる。
【0063】
上記熱処理は、アルゴン、窒素、ヘリウムなどの不活性気体や水素のような還元性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。酸化性ガス雰囲気では、ケイ素粉末と酸化ケイ素粉末が酸化され、収率が低下することがある。
【0064】
本発明の二次電池負極材用シリコン複合酸化物の製造方法において、上記Si/SiOx/SiO2原料粉末混合体と金属マグネシウムとをそれぞれ蒸発させ、反応させた後、蒸着させて複合酸化物を形成するステップでは、上記Si/SiOx/SiO2原料粉末混合体と金属マグネシウムとは、別々の反応器でそれぞれ蒸発され、気体状態で反応させることができる。本発明の二次電池負極材用シリコン複合酸化物の製造方法は、前記Si/SiOx/SiO2原料粉末混合体と金属マグネシウムとを別々の反応器で加熱して蒸発させた後、気体状態で反応することで、上記二次電池負極材用シリコン複合酸化物が、Siクラスター、及び上記Siクラスターの周辺部に形成されるMgxSiOy(0.5≦x2、2.5≦y≦4)で示されるマグネシウムケイ酸塩を含む構造を有することができる。
【0065】
本発明の二次電池負極材用シリコン複合酸化物の製造方法において、上記Si/SiOx/SiO2原料粉末混合体と金属マグネシウムの蒸発は、0.001~2torrの圧力下で、800~1600℃で行われ得る。
【0066】
本発明の二次電池負極材用シリコン複合酸化物の製造方法において、上記Si/SiOx/SiO2原料粉末混合体と金属マグネシウムとを蒸発及び蒸着させて複合酸化物を形成するステップでは、上記Si/SiOx/SiO2原料粉末混合体は、0.001~2torrの圧力下で、1000~1600℃で行われ得る。
【0067】
本発明の二次電池負極材用シリコン複合酸化物の製造方法において、上記Si/SiOx/SiO2原料粉末混合体と金属マグネシウムとを蒸発及び蒸着させて複合酸化物を形成するステップでは、上記金属マグネシウムは、0.001~2torrの圧力下で、800~1000℃で行われ得る。
【0068】
本発明の二次電池負極材用シリコン複合酸化物の製造方法において、上記表面を炭素で被覆させるステップでは、上記シリコン複合酸化物を、メタン、プロパン、ブタン、アセチレン、ベンゼン、及びトルエンからなる群から選択されるいずれか1つ以上の炭素前駆体と、ガス状態において、600~1200℃で反応させることができる。
【0069】
本発明は、また、本発明に係る二次電池負極材用シリコン複合酸化物を備えるリチウム二次電池用負極を提供する。
【0070】
本発明は、さらに、本発明に係る二次電池負極材用シリコン複合酸化物を備えるリチウム二次電池用負極を含むリチウム二次電池を提供する。
【0071】
本発明の二次電池負極材用シリコン複合酸化物を備えるリチウム二次電池用負極を含むリチウム二次電池は、2回充電時、dQdV曲線において、0.45V付近でのピーク強度が、0.25Vでのピーク強度より大きく表れることになる。
【0072】
本発明のリチウム二次電池用負極を含むリチウム二次電池は、2回放電後、MgxSiOyに由来するXRDピークが現れないことがある。
【0073】
以下、本発明を実施例に基づいて詳述するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0074】
[実施例]
<実施例1>シリコン複合酸化物-炭素複合体粉末Mg8-SiOx/Cの製造
平均粒子サイズが20μmのケイ素粉末20kg、平均粒子サイズが20nmの二酸化ケイ素粉末50kg、及び平均粒子サイズが200μmの酸化ケイ素(SiOx、x=1.03)粉末130kgをヘンシェルミキサーで2時間撹拌し、均一に混合して原料粉末混合体を形成した。上記原料粉末混合体を、アルゴン雰囲気下、常圧で、1000℃で2時間熱処理した。
【0075】
上記熱処理された原料粉末混合体と金属マグネシウム16kgとをそれぞれ真空反応器の坩堝-A及び坩堝-Bに投入し、減圧させ、0.1torrに到達した後、加熱し、原料粉末混合体を含む坩堝-Aは、1450℃まで昇温して蒸発させ、金属マグネシウムを含む坩堝-Bは、850℃まで昇温して蒸発させた後、蒸気状態で5時間反応させた。上記高温の気相で反応させ、反応器内の基板に蒸着されたシリコン複合酸化物の塊を水冷基板により室温まで速やかに冷却させた。
【0076】
上記シリコン複合酸化物の塊は、粒度制御のために機械的な方法で粉砕し、平均粒径が6μmになるようにした。
【0077】
上記粉砕されたシリコン複合酸化物粉末50gをチューブ型電気炉内に入れ、Arとメタンガスとをそれぞれ1L/minずつ流しながら1000℃で1時間維持し、表面が炭素で被覆されたシリコン複合酸化物-炭素複合体粉末Mg8-SiOx/Cを製造した。
【0078】
実施例1で製造されたシリコン複合酸化物-炭素複合体粉末中のMg含有量を測定するためにICP-MS分析を行った結果、Mgの含有量は、8重量%と測定された。
【0079】
<実施例2>シリコン複合酸化物-炭素複合体粉末Mg6-SiOx/Cの製造
上記実施例1の金属マグネシウムの含有量を12kg投入にした以外は、上記実施例1と同様にしてシリコン複合酸化物-炭素複合体粉末Mg6-SiOx/Cを製造した。
【0080】
実施例2で製造されたシリコン複合酸化物-炭素複合体粉末中のMg含有量を測定するためにICP-MS分析を行った結果、Mgの含有量は、6重量%と測定された。
【0081】
<実施例3>シリコン複合酸化物-炭素複合体粉末Mg3-SiOx/Cの製造
上記実施例1の金属マグネシウムの含有量を6kg投入にした以外は、上記実施例1と同様にしてシリコン複合酸化物-炭素複合体粉末Mg3-SiOx/Cを製造した。
【0082】
実施例3で製造されたシリコン複合酸化物-炭素複合体粉末中のMg含有量を測定するためにICP-MS分析を行った結果、Mgの含有量は、3重量%と測定された。
【0083】
<実施例4>シリコン複合酸化物-炭素複合体粉末Mg12-SiOx/Cの製造
上記実施例1の金属マグネシウムの含有量を24kg投入にした以外は、上記実施例1と同様にしてシリコン複合酸化物-炭素複合体粉末Mg12-SiOx/Cを製造した。
【0084】
実施例4で製造されたシリコン複合酸化物-炭素複合体粉末中のMg含有量を測定するためにICP-MS分析を行った結果、Mgの含有量は、12重量%と測定された。
【0085】
<比較例1>シリコン複合酸化物-炭素複合体粉末の製造
平均粒子サイズが20μmのケイ素粉末20kg、及び平均粒子サイズが20nmの二酸化ケイ素粉末50kgを水に入れ、12時間撹拌して均一に混合した後、1200℃(又は、200℃温度確認必要)で2時間乾燥して原料粉末混合体を形成した。
【0086】
上記原料粉末混合体と金属マグネシウム11kgとをそれぞれ真空反応器の坩堝-A及び坩堝-Bに投入し、減圧させ、0.1torrに到達した後、加熱し、原料粉末混合体を含む坩堝-Aは、1600℃まで昇温して蒸発させ、金属マグネシウムを含む坩堝-Bは、900℃まで昇温して蒸発させ、坩堝-Aの蒸気及び坩堝-Bの蒸気を3時間反応させた後、実施例1と同様な冷却、粉砕及び炭素被覆工程によって、比較例1のシリコン複合酸化物-炭素複合体粉末を製造した。
【0087】
比較例1で製造されたシリコン複合酸化物-炭素複合体粉末中のMg含有量を測定するためにICP-MS分析を行った結果、Mgの含有量は、13重量%と測定された。
【0088】
<比較例2>シリコン複合酸化物-炭素複合体粉末の製造
上記比較例1の金属マグネシウムの含有量を13kg投入にした以外は、上記比較例1と同様にして比較例2のシリコン複合酸化物-炭素複合体粉末を製造した。
【0089】
比較例2で製造されたシリコン複合酸化物-炭素複合体粉末中のMg含有量を測定するためにICP-MS分析を行った結果、Mgの含有量は、16重量%と測定された。
【0090】
<比較例3>シリコン複合酸化物-炭素複合体粉末SiOx/Cの製造
平均粒子サイズが20μmのケイ素粉末20kg及び平均粒子サイズが20nmの二酸化ケイ素粉末50kgを水に入れ、12時間撹拌して均一に混合した後、1200℃(又は、200℃温度確認必要)で2時間乾燥して原料粉末混合体を形成した。
【0091】
上記原料粉末混合体を坩堝-A及び坩堝-Bに投入し、減圧させ、1torrに到達した後、加熱し、原料粉末混合体を含む坩堝-Aは、1600℃まで昇温させ、3時間冷却板に蒸着させた後、実施例1と同様な冷却、粉砕及び炭素被覆工程によって、マグネシウムが添加されない比較例3のシリコン酸化物-炭素複合体粉末SiOx/Cを製造した。
【0092】
<実験例>TEM-EDX測定
上記実施例1で製造されたシリコン複合酸化物-炭素複合体粉末Mg8-SiOx/C測定試料について、FIBを用いて測定用試料の表面(多孔質層面)から深さ方向(測定用試料の内部に向かう方向)にFIB加工を行うことで、加工面(断面)を製作した。
【0093】
得られた加工面について、加速電圧2.1kV、倍率6500倍でTEM-EDX測定(反射電子像)を行い、その結果を
図1に示す。
【0094】
図1に示されるように、実施例1で製造されたシリコン複合酸化物-炭素複合体粉末Mg8-SiOx/Cは、Siクラスター、及び上記Siクラスターの周辺部に形成されるMg
xSiO
y(0.5≦x≦2、2.5≦y≦4)で示されるマグネシウムケイ酸塩を含むものであることが確認された。
【0095】
同様の方法で実施例2~4で製造されたものについてTEM-EDX測定を行った結果、実施例2~実施例4で製造されたシリコン複合酸化物-炭素複合体粉末のTEM-EDX測定においても、Siクラスター、及び上記Siクラスターの周辺部に形成されるマグネシウムケイ酸塩を含むものであることが確認された。
【0096】
<実験例>XRD測定
上記実施例1~4及び比較例1~3で製造されたものについてXRDデータ測定を行い、その結果を
図2~
図8に示し、また、各ピークでの強度測定を行い、下記表1に示す。
【表1】
【0097】
マグネシウムがドーピングされない比較例3のものについてXRD測定を行った結果が示された
図8において、非晶質シリコン酸化物(a-SiO
2)によるピークが20°~40°の範囲で現れ、結晶質シリコン酸化物によるピークが28°と45°で最も高い強度で現れることが確認された。
【0098】
実施例1では、
図2に示されるように、MgSiO
3結晶相によるピークのみが現れるのに対し、比較例1及び比較例2では、Mg
2SiO
4のフォルステライト結晶相によるピークが現れることが観察された。 これによって、実施例の場合、32.5°でのMg
2SiO
4のフォルテライト結晶相のピーク強度とMgSiO
3結晶相のピーク強度との比I
Mg2SiO4/I
MgSiO3が、0.5以下であることが確認された。
【0099】
<実験例>ドメインサイズの測定
XRD測定の結果から、ケイ素複合酸化物中のSi結晶サイズ(crystal size)は、以下のように測定することができる。
【0100】
X線回折パターンにおいて、Si(111)に帰属されるピークの半値幅(FWHM、Full Width at Half Meximum)を基に、次の一般式(1)で示されるシェラー式(Sherrer equation)にてドメインサイズを測定し、その結果を上記表1に示す。
C.S.[nm]=K.λ/B.cosθ・・・一般式(1)
(式中、K=0.9、λ=0.154nm、半値幅(FWHM、rad)、θ:ピーク位置(角度))
【0101】
上記表1中、粒子内でのMg含有量に比例して結晶質シリコン粒子Si(220)のドメインサイズが増加することが確認された。
【0102】
<実験例>XPS測定
上記実施例及び比較例3で製造された粒子についてXPS測定を行い、その結果を
図9に示す。
【0103】
図9に示されるように、本発明の実施例では、粒子内でのMg含有量が8重量%である場合、Mg
2SiO
4によるピークは現れず、MgSiO
3 によるピークが現れているのに対し、本発明の比較例では、粒子内でのMg含有量が13重量%である場合、Mg
2SiO
4によるピークが現れることが確認された。
【0104】
また、
図9に示されるように、粒子内でのMg含有量が増加するほど、バインディングエネルギー98~99eVに該当するSiO、及びMgxSiOyに該当するSi
3+によるピーク強度が増加することが確認された。
【0105】
これは、粒子内でのMg含有量が増加するほど、SiOxからSiへの反応が減少し、MgがMgxSiOyに変換されるためであると確認される。
【0106】
<実験例>STEM-EDX測定
上記実施例で製造された粒子のSTEM-EDX測定を行い、その結果を
図15に示す。
図15から、上記製造されたシリコン複合酸化物は、表面が炭素ナノ繊維及びグラフェンなどの形状を持つ数十nmの炭素層で被覆された形状であることがわかった。また、
図15から、本発明によって製造されたシリコン複合酸化物粉末内にマグネシウムが均一に分布していることが確認された。
【0107】
<製造例>ケイ素複合酸化物を適用したリチウム二次電池の製作
上記実施例1~2及び比較例3で製造されたシリコン複合酸化物粉末と天然黒鉛とを73:27の重量比で混合して電極活性物として、リチウム二次電池用負極と電池(コインセル)を製作した。
【0108】
上記混合された活物質、バインダーとしてカルボキシメチルセルロース(CMC、Carboxy Methyl Cellulose)及びスチレンブタジエンゴム(SBR、Styrene Butadiene Rubber)を重量比が97:1.5:1.5になるようにし、水と混合して負極スラリーを製造した。
【0109】
上記組成物を厚さ18μmの銅箔に塗布して乾燥させることにより、厚さ70μmの電極を製造し、上記電極が塗布された銅箔を直径14mmの円形にパンチングしてコインセル用負極を製造し、反対の極に厚さ0.3mmの金属リチウム箔を使用した。
【0110】
分離膜に厚さ0.1mmの多孔質ポリエチレンシートを使用し、電解液としてエチレンカーボネート(EC)とジエチレンカーボネート(DEC)とを体積比1:1で混合した溶液に1M濃度のLiPF6を溶解させて電解質として使用し、上述の構成要素を適用して厚さ2mm、直径32mm(所謂、2032型)のコインセル(電池)を製作した。
【0111】
<実験例>電気化学的特性の評価
上記製造例において各サンプルから製作したコインセルを、0.1Cの定電流で電圧が0.005Vになるまで充電し、0.1Cの定電流で電圧が2.0Vになるまで放電し、充電容量(mAh/g)、放電容量(mAh/g)及び初期充放電効率(%)を求めた。
【0112】
また、上記製造例において各サンプルから製作したコインセルを、1回充放電をさせた後、2回目の充放電では、0.5Cの定電流で電圧が0.005Vになるまで充電し、0.5Cの定電流で電圧が2.0Vになるまで放電し、サイクル特性(容量維持率)を求めた。
【0113】
上記充放電容量、初期充放電効率及び容量維持率の分析結果を表2に示す。
【表2】
【0114】
上記表2中、初期放電容量は、実施例1では1382mAh/gであり、比較例3での1647mAh/gより低いが、初期充放電効率は、実施例1が比較例3より高く、比較例2の場合、初期放電容量が1143mAh/gと最も低かった。
【0115】
マグネシウムがシリコン酸化物と反応して生成されるMgxSiOyは、電気化学的に不活性であることが知られており、実施例1よりは、比較例1において、Mg含有量が高くなるほど、前記電気化学的に不活性であるMgxSiOyが多く生成され、充放電容量が減少していると判断される。
【0116】
図12において、充電過程での電圧は0.1V以下であるが、マグネシウム含有量が増加するほど過電圧が高くなることが確認された。
【0117】
上記本発明の実施例及び比較例で製造された電池を用いて、2回の充放電及び100回の充放電を行った時のdQ/dVを測定し、その結果を
図12に示す。
【0118】
図11に示されるように、本発明の実施例では、2回の充電時、dQ/dV曲線において0.45V付近でのピークが0.25Vでのピークより大きいことが確認された。
【0119】
<実験例>充放電実行による体積変化の測定
上記製造例で製造された電池について、100回充放電実験を行った後、電極に対するSEM分析及び粒子に対するXRD分析を行い、その結果を下記表3に示す。
【表3】
【0120】
上記表3に示されるように、実施例1では、充放電を行う前の電極厚さが23umであるのに対し、100回充放電を行った後の電極厚さが33umに変化し、また、比較例1では、充放電を行う前の電極厚さが18umであり、100回充放電を行った後の電極厚さが40umに変化し、実施例1におけるシリコン複合酸化物の体積変化は、比較例1に比べて減少することが確認された。
【0121】
<実験例>充放電実行前後のEx-situ XRD測定
実施例1及び比較例1のシリコン複合粒子を含む電池について、1回充放電後及び100回充放電後、Ex-situ XRD測定を行い、その結果を
図13に示す。
【0122】
図13中、実施例1では、1回の充放電を行った後、MgSiO
3及び集電体として使用される銅によるピーク以外はピークが現れず、100回の充放電を行った後、リチウム水酸化物やリチウム酸化物のピークが観測されるのに対し、比較例1では、
図13に示されるように、1回の充放電を行った後は、実施例1と同じくMg
2SiO
4の他にはピークが観測されなかったが、100回の充放電を行った後は、初期粒子の場合と類似のピークが現れた。
【0123】
図13から、本発明の実施例では、2回の放電後、Mg
xSiO
yに由来するXRDピークが現れないことが確認された。
【0124】
100回の充放電を行った後の実施例1及び比較例1、比較例3におけるXRDの結果を
図14に示す。
図14から、比較例3及び実施例1においてのみLiOHが検出されることが確認された。
【0125】
<実験例>TEM、STEM-HAADF、STEM-EDXの測定
実施例1、実施例2及び比較例3の粒子に対するTEM、STEM-HAADF、STEM-EDX測定を行い、その結果を
図15に示す。
【0126】
図15中、Mgが混合されない比較例3では、Si(111)、Si(220)に該当する環状パターンが形成された。
【0127】
実施例1は、比較例3とは異なり、結晶構造が比較例3より広く形成され、MgSiO
3スポットが現れるのに対し、比較例1では、非晶質部分が比較例3及び実施例1に比べて狭く、また、大部分が結晶質と観測され、
図15(c)に示されるように、SiとMg
2SiO
4との間の粒界(grain boundary)がはっきりと現れることが確認された。
【0128】
実施例1では、
図15(e)及び
図15(h)に示されるように、Si周辺にSiOxがコアシェル構造で形成されるのに対し、比較例1では、
図15(f)及び
図15(i)に示されるように、Si及びMgxSiOy存在部分が明確に区分され、実施例1及び比較例1での結晶構造が全く異なることがわかった。
【0129】
上述の分析結果に基づいて、
図10には、製造された粒子の断面の構成成分の模式図を示す。
【0130】
炭素成分は黒色で、酸化ケイ素はオレンジ色で、ケイ素成分は緑色で、ケイ酸マグネシウムは青色でそれぞれ表示している。
【0131】
<実験例>充放電前後のEDS写真の測定
実施例1、実施例2及び比較例3の粒子を含む電池について、1回充放電後及び100回充放電後、EDX測定を行い、その結果を
図16に示す。
【0132】
Mg含有量が8%である実施例1では、
図16(a)~
図16(d)に示されるように、1回充放電を行った後、Siコア周辺にMgxSiOy状に凝集されるが、100回充放電を行った後は、MgxSiOyが粒子内に均一に広がり安定しているが、Mg含有量が13%である比較例1では、
図16(e)~
図16(h)に示されるように、初期からMgxSiOyとSiドメインが大きく形成され、安定な形態を揃えるための構造変化が起こり、これによって、充放電に伴う体積変化が生じ、寿命特性が劣化することがわかった。
【0133】
【0134】
以上、本発明の特定の部分について詳しく記述したが、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者であれば、このような具体的な記述は単に好適な具現例であるに過ぎず、これらによって本発明の範囲が制限されるものではないことは明らかである。従って、本発明の実質的な範囲は、特許請求の範囲とその等価物によって定義されると言えよう。