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  • 特許-ホスト材料、組成物および有機発光素子 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-27
(45)【発行日】2024-12-05
(54)【発明の名称】ホスト材料、組成物および有機発光素子
(51)【国際特許分類】
   H10K 50/12 20230101AFI20241128BHJP
   H10K 85/60 20230101ALI20241128BHJP
   C07D 491/048 20060101ALI20241128BHJP
   C07D 491/153 20060101ALI20241128BHJP
   C07D 495/04 20060101ALI20241128BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20241128BHJP
   H10K 101/20 20230101ALN20241128BHJP
【FI】
H10K50/12
H10K85/60
C07D491/048
C07D491/153
C07D495/04 103
C09K11/06 645
C09K11/06 690
H10K101:20
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2021575851
(86)(22)【出願日】2021-02-04
(86)【国際出願番号】 JP2021004053
(87)【国際公開番号】W WO2021157642
(87)【国際公開日】2021-08-12
【審査請求日】2023-12-28
(31)【優先権主張番号】P 2020017201
(32)【優先日】2020-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020090095
(32)【優先日】2020-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020147167
(32)【優先日】2020-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】516003621
【氏名又は名称】株式会社Kyulux
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】小澤 寛晃
【審査官】酒井 康博
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2018-0138422(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第110498790(CN,A)
【文献】国際公開第2018/155642(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/010136(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第110272427(CN,A)
【文献】特表2017-530945(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0115205(US,A1)
【文献】国際公開第2013/179645(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 50/00 - 50/88
H10K 85/60
C09K 11/06
C07D 491/048
C07D 491/153
C07D 495/04
H10K 101/20
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される構造を有する化合物からなる、遅延蛍光材料とともに用いるためのホスト材料。
【化1】
(式中、R は各々独立にシアノ基を含まない置換基を表し、R はアルキル基およびアリール基からなる群より選択される1つの置換基または2つ以上を組み合わせた置換基を表す。R~Rは、他のR~R と結合して環状構造を形成することはないが、隣り合うR同士は互いに結合してベンゾフロ骨格またはベンゾチエノ骨格を形成してもよい。n1、n3、n5は各々独立に0~4のいずれかの整数を表し、n2は0~3のいずれかの整数を表し、n4は0~2のいずれかの整数を表す。Xは酸素原子または硫黄原子を表す。Arは単環アリーレン基または単環ヘテロアリーレン基を表し、前記単環アリーレン基および前記単環ヘテロアリーレン基はアルキル基およびアリール基からなる群より選択される1つの置換基または2つ以上を組み合わせた置換基で置換されていてもよい。一般式(1)の分子内の水素原子はすべて Hであってもよいし、一部または全部が Hであってもよい。
【請求項2】
前記化合物が下記一般式(2)で表される構造を有する、請求項1に記載のホスト材料。
【化2】
(式中、R 、R は各々独立にシアノ基を含まない置換基を表し、R 、R はアルキル基およびアリール基からなる群より選択される1つの置換基または2つ以上を組み合わせた置換基を表す。R~Rは、他のR~Rと結合して環状構造を形成することはないが、隣り合うR同士は互いに結合してベンゾフロ骨格やベンゾチエノ骨格を形成してもよい。n1、n3、n5は各々独立に0~4のいずれかの整数を表し、n2、n6は各々独立に0~3のいずれかの整数を表し、n4は0~2のいずれかの整数を表す。Xは酸素原子または硫黄原子を表す。一般式(2)の分子内の水素原子はすべて Hであってもよいし、一部または全部が Hであってもよい。
【請求項3】
前記化合物が下記一般式(3)で表される構造を有する、請求項1に記載のホスト材料。
【化3】
(式中、R 、R は各々独立にシアノ基を含まない置換基を表し、R 、R はアルキル基およびアリール基からなる群より選択される1つの置換基または2つ以上を組み合わせた置換基を表す。R~Rは、他のR~Rと結合して環状構造を形成することはないが、隣り合うR同士は互いに結合してベンゾフロ骨格やベンゾチエノ骨格を形成してもよい。n1、n3、n5は各々独立に0~4のいずれかの整数を表し、n2、n6は各々独立に0~3のいずれかの整数を表し、n4は0~2のいずれかの整数を表す。Xは酸素原子または硫黄原子を表す。一般式(3)の分子内の水素原子はすべて Hであってもよいし、一部または全部が Hであってもよい。
【請求項4】
~Rが各々独立にハメットのσp値が-0.3~0.3の範囲内にある置換基であり、
前記単環アリーレン基および前記単環ヘテロアリーレン基に置換していてもよい前記1つの置換基または前記2つ以上を組み合わせた置換基のハメットのσp値が-0.3~0.3の範囲内にある、請求項1に記載のホスト材料。
【請求項5】
~Rが各々独立に、アルキル基およびアリール基からなる群より選択される1つの置換基または2つ以上を組み合わせた置換基である、請求項1~4のいずれか1項に記載のホスト材料。
【請求項6】
Arが置換もしくは無置換の1,3-フェニレン基である、請求項1に記載のホスト材料。
【請求項7】
Xが酸素原子である、請求項1~6のいずれか1項に記載のホスト材料。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のホスト材料に遅延蛍光材料をドープした組成物。
【請求項9】
膜状である、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記遅延蛍光材料が、ベンゼン環に置換しているシアノ基の数が1つであるシアノベンゼン構造を有する化合物である、請求項8または9に記載の組成物。
【請求項11】
前記遅延蛍光材料が、ベンゼン環に置換しているシアノ基の数が2つであるジシアノベンゼン構造を有する化合物である、請求項8または9に記載の組成物。
【請求項12】
前記遅延蛍光材料が、ベンゼン環の環骨格構成炭素原子の少なくとも1つが窒素原子に置換したアザベンゼン構造を有する化合物である、請求項8~11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
前記ホスト材料および前記遅延蛍光材料よりも最低励起一重項エネルギーが低い蛍光性化合物をさらに含む、請求項8~12のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
請求項8~12のいずれか1項に記載の組成物からなる層を有する有機発光素子。
【請求項15】
前記層が、炭素原子、水素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、ホウ素原子およびハロゲン原子からなる群より選択される原子のみからなる、請求項14に記載の有機発光素子。
【請求項16】
前記層が、炭素原子、水素原子、窒素原子、酸素原子および硫黄原子からなる群より選択される原子のみからなる、請求項14に記載の有機発光素子。
【請求項17】
有機エレクトロルミネッセンス素子である、請求項14~16のいずれか1項に記載の有機発光素子。
【請求項18】
前記組成物が、前記ホスト材料および前記遅延蛍光材料よりも最低励起一重項エネルギーが低い蛍光性化合物を含んでおらず、前記素子からの発光の最大成分は前記遅延蛍光材料からの発光である、請求項14~17のいずれか1項に記載の有機発光素子。
【請求項19】
前記組成物が、前記ホスト材料および前記遅延蛍光材料よりも最低励起一重項エネルギーが低い蛍光性化合物を含んでおり、前記素子からの発光の最大成分は前記蛍光性化合物からの発光である、請求項14~17のいずれか1項に記載の有機発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホスト材料として有用な化合物と、その化合物を用いた組成物と有機発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)などの発光素子の発光効率を高める研究が盛んに行われている。特に、有機エレクトロルミネッセンス素子を構成する電子輸送材料、ホール輸送材料、発光材料、ホスト材料などを新たに開発して組み合わせることにより、発光効率を高める工夫が種々なされてきている。その中で、遅延蛍光材料を利用した有機エレクトロルミネッセンス素子が開発され、注目を集めている(非特許文献1参照)。
【0003】
遅延蛍光材料は、励起状態において、励起三重項状態から励起一重項状態への逆項間交差を生じた後、その励起一重項状態から基底状態へ戻る際に蛍光を放射する材料である。こうした経路による蛍光は、基底状態から直接生じた励起一重項状態からの蛍光(通常の蛍光)よりも遅れて観測されるため、遅延蛍光と称されている。ここで、例えば、発光性化合物をキャリアの注入により励起した場合、励起一重項状態と励起三重項状態の発生確率は統計的に25%:75%であるため、直接生じた励起一重項状態からの蛍光のみでは、発光効率の向上に限界がある。一方、遅延蛍光材料では、励起一重項状態のみならず、励起三重項状態も上記の逆項間交差を介した経路により蛍光発光に利用することができるため、通常の蛍光材料に比べて高い発光効率が得られることになる。このような特徴を有する遅延蛍光材料は、一般に有機エレクトロルミネッセンス素子の発光層にホスト材料とともに用いられ、実際に発光効率の向上に寄与している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】Uoyama et al, Nature, 492, 234-238 (2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
遅延蛍光材料と組み合わせるホスト材料には、遅延蛍光材料よりも最低励起一重項エネルギーがより大きな化合物が選択される。しかしながら、遅延蛍光を放射しない従来の蛍光材料と組み合わせて使用されてきたホスト材料を、そのまま遅延蛍光材料と組み合わせても十分な発光性能を実現することはできない。特に遅延蛍光材料を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子では、駆動電圧や発光寿命の点で改善の余地がある。このため、遅延蛍光材料を用いた有機発光素子において、高い発光効率を達成しつつ、駆動電圧を抑え、発光寿命を長くすることを目的として本発明者らは検討を行った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
鋭意検討を進めた結果、本発明者らは、特定の構造を有するホスト材料を遅延蛍光材料と組み合わせて用いれば、駆動電圧を抑えながら長寿命化を達成し、高い発光効率を実現できることを見いだした。本発明は、こうした知見に基づいて提案されたものであり、具体的に以下の構成を有する。
【0007】
[1] 下記一般式(1)で表される構造を有する化合物からなる、遅延蛍光材料とともに用いるためのホスト材料。
【化1】
(式中、R~Rは各々独立にシアノ基を含まない置換基を表す。R~Rは、他のR~RまたはArと結合して環状構造を形成することはないが、隣り合うR同士は互いに結合してベンゾフロ骨格やベンゾチエノ骨格を形成してもよい。n1、n3、n5は各々独立に0~4のいずれかの整数を表し、n2は0~3のいずれかの整数を表し、n4は0~2のいずれかの整数を表す。Xは酸素原子または硫黄原子を表す。Arは単環アリーレン基または単環ヘテロアリーレン基を表し、前記単環アリーレン基および前記単環ヘテロアリーレン基はシアノ基を含まない置換基で置換されていてもよい。)
[2] 前記化合物が下記一般式(2)で表される構造を有する、[1]に記載のホスト材料。
【化2】
(式中、R~Rは各々独立にシアノ基を含まない置換基を表す。R~Rは、他のR~Rと結合して環状構造を形成することはないが、隣り合うR同士は互いに結合してベンゾフロ骨格やベンゾチエノ骨格を形成してもよい。n1、n3、n5は各々独立に0~4のいずれかの整数を表し、n2、n6は各々独立に0~3のいずれかの整数を表し、n4は0~2のいずれかの整数を表す。Xは酸素原子または硫黄原子を表す。)
[3] 前記化合物が下記一般式(3)で表される構造を有する、[1]に記載のホスト材料。
【化3】
(式中、R~Rは各々独立にシアノ基を含まない置換基を表す。R~Rは、他のR~Rと結合して環状構造を形成することはないが、隣り合うR同士は互いに結合してベンゾフロ骨格やベンゾチエノ骨格を形成してもよい。n1、n3、n5は各々独立に0~4のいずれかの整数を表し、n2、n6は各々独立に0~3のいずれかの整数を表し、n4は0~2のいずれかの整数を表す。Xは酸素原子または硫黄原子を表す。)
[4] R~Rが各々独立にハメットのσp値が-0.3~0.3の範囲内にある置換基であり、
Arが、ハメットのσp値が-0.3~0.3の範囲内にある置換基で置換されていてもよい単環アリーレン基、または、ハメットのσp値が-0.3~0.3の範囲内にある置換基で置換されていてもよい単環ヘテロアリーレン基である、[1]~[3]のいずれか1つに記載のホスト材料。
[5] R~Rが各々独立に、アルキル基(例えば炭素数1~40)およびアリール基(例えば炭素数6~30)からなる群より選択される1つの基または2つ以上を組み合わせた基であり、
Arが、アルキル基(例えば炭素数1~40)およびアリール基(例えば炭素数6~30)からなる群より選択される1つの基または2つ以上を組み合わせた基で置換されていてもよい単環アリーレン基、または、アルキル基(例えば炭素数1~40)およびアリール基(例えば炭素数6~30)からなる群より選択される1つの基または2つ以上を組み合わせた基で置換されていてもよい単環ヘテロアリーレン基である、[1]~[4]のいずれか1つに記載のホスト材料。
[6] Arが置換もしくは無置換の1,3-フェニレン基である、[1]~[5]のいずれか1つに記載のホスト材料。
[7] Xが酸素原子である、[1]~[6]のいずれか1つに記載のホスト材料。
[8] [1]~[7]のいずれか1つに記載のホスト材料に遅延蛍光材料をドープした組成物。
[9] 膜状である、[8]に記載の組成物。
[10] 前記遅延蛍光材料が、ベンゼン環に置換しているシアノ基の数が1つであるシアノベンゼン構造を有する化合物である、[8]または[9]に記載の組成物。
[11] 前記遅延蛍光材料が、ベンゼン環に置換しているシアノ基の数が2つであるジシアノベンゼン構造を有する化合物である、[8]または[9]に記載の組成物。
[12] 前記遅延蛍光材料が、ベンゼン環の環骨格構成炭素原子の少なくとも1つが窒素原子に置換したアザベンゼン構造を有する化合物である、[8]~[11]のいずれか1つに記載の組成物。
[13] 前記ホスト材料および前記遅延蛍光材料よりも最低励起一重項エネルギーが低い蛍光性化合物をさらに含む、[8]~[12]のいずれか1つに記載の組成物。
[14] [8]~[13]のいずれか1つに記載の組成物からなる層を有する有機発光素子。
[15] 前記層が、炭素原子、水素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、ホウ素原子およびハロゲン原子からなる群より選択される原子のみからなる、[14]に記載の有機発光素子。
[16] 前記層が、炭素原子、水素原子、窒素原子、酸素原子および硫黄原子からなる群より選択される原子のみからなる、[14]に記載の有機発光素子。
[17] 有機エレクトロルミネッセンス素子である、[14]~[16]のいずれか1つに記載の有機発光素子。
[18] 前記組成物が前記蛍光性化合物を含んでおらず、前記素子からの発光の最大成分は前記遅延蛍光材料からの発光である、[14]~[17]のいずれか1つに記載の有機発光素子。
[19] 前記組成物が前記蛍光性化合物を含んでおり、前記素子からの発光の最大成分は前記蛍光性化合物からの発光である、[14]~[17]のいずれか1つに記載の有機発光素子。
【発明の効果】
【0008】
本発明のホスト材料に遅延蛍光材料をドープして有機発光素子に用いれば、低電圧で駆動し、寿命が長く、発光効率が高い有機発光素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】有機エレクトロルミネッセンス素子の層構成例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様や具体例に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。また、本発明に用いられる化合物の分子内に存在する水素原子の同位体種は特に限定されず、例えば分子内の水素原子がすべてHであってもよいし、一部または全部がH(デューテリウムD)であってもよい。本発明の好ましい実施態様では分子内の水素原子はすべてHである。本発明の一態様では、分子内の水素原子はすべてH(デューテリウムD)である。本発明の一態様では、分子内の水素原子は一部がHであり、残りがH(デューテリウムD)である。なお、本発明の説明において「置換」あるいは「置換基」という用語には、H(デューテリウムD)などのH以外の水素原子同位体は含まれない。
【0011】
(一般式(1)で表される化合物)
本発明では、下記一般式(1)で表される化合物を用いる。
【化4】
【0012】
一般式(1)において、R~Rは各々独立にシアノ基を含まない置換基を表す。
本発明の一態様では、R~Rが各々独立にハメットのσp値が-0.3~0.3の範囲内にある置換基である。本発明の好ましい一態様では、R~Rが各々独立にハメットのσp値が-0.2~0.2の範囲内にある置換基である。本発明の好ましい一態様では、R~Rが各々独立にハメットのσp値が-0.1~0.1の範囲内にある置換基である。本発明の一態様では、R~Rが各々独立にハメットのσp値が0より大きく0.3以下の範囲内にある置換基である。本発明の一態様では、R~Rが各々独立にハメットのσp値が-0.3以上で0より小さい範囲内にある置換基である。
ここで、「ハメットのσp値」は、L.P.ハメットにより提唱されたものであり、パラ置換ベンゼン誘導体の反応速度または平衡に及ぼす置換基の影響を定量化したものである。具体的には、パラ置換ベンゼン誘導体における置換基と反応速度定数または平衡定数の間に成立する下記式:
log(k/k0) = ρσp
または
log(K/K0) = ρσp
における置換基に特有な定数(σp)である。上式において、kは置換基を持たないベンゼン誘導体の速度定数、k0は置換基で置換されたベンゼン誘導体の速度定数、Kは置換基を持たないベンゼン誘導体の平衡定数、K0は置換基で置換されたベンゼン誘導体の平衡定数、ρは反応の種類と条件によって決まる反応定数を表す。本発明における「ハメットのσp値」に関する説明と各置換基の数値については、Hansch,C.et.al.,Chem.Rev.,91,165-195(1991)のσp値に関する記載を参照することができる。ハメットのσp値が負の基は電子供与性(ドナー性)を示し、ハメットのσp値が正の基は電子求引性(アクセプター性)を示す傾向がある。
本発明の一態様では、R~Rが各々独立に非共有電子対を有しない置換基である。本発明の一態様では、R~Rが各々独立にπ電子を有しない置換基である。
【0013】
本発明の一態様では、R~Rが各々独立にアルキル基(例えば炭素数1~40)およびアリール基(例えば炭素数6~30)からなる群より選択される1つの基または2つ以上を組み合わせた基である。
【0014】
本発明の一態様では、R~Rが各々独立に炭素数6~20のアリール基で置換されていてもよい炭素数1~30のアルキル基である。本発明の一態様では、R~Rが各々独立に炭素数1~30のアルキル基で置換されていてもよい炭素数6~20のアリール基である。本発明の一態様では、R~Rが各々独立に炭素数1~30の無置換のアルキル基である。本発明の一態様では、R~Rが各々独立に炭素数6~20の無置換のアリール基である。
【0015】
~Rは、他のR~RまたはArと結合して環状構造を形成することはないが、隣り合うR同士は互いに結合してベンゾフロ骨格やベンゾチエノ骨格を形成してもよい。このため、一般式(1)中の左側のジベンゾフラン(3環構造)にさらに環が縮環して4環以上の構造になることはない。また、一般式(1)中の右側のベンゾフロカルバゾール(5環構造)、ベンゾチエノカルバゾール(5環構造)、ビスベンゾフロカルバゾール(7環構造)、ビスベンゾチエノカルバゾール(7環構造)等にさらに環が縮環することはない。なお、一般式(1)の右側の構造は5環構造であることが好ましい。すなわち、本発明の好ましい一態様では、R同士が互いに結合して環状構造を形成しない。
【0016】
一般式(1)において、n1、n3、n5は各々独立に0~4のいずれかの整数を表し、n2は0~3のいずれかの整数を表し、n4は0~2のいずれかの整数を表す。本発明の一態様では、n1~n5は各々独立に0~2のいずれかの整数である。本発明の一態様では、n1は0である。本発明の一態様では、n2は0である。本発明の一態様では、n3は0である。本発明の一態様では、n4は0である。本発明の一態様では、n5は0である。本発明の好ましい一態様では、n1~n5はいずれも0である。
【0017】
一般式(1)において、Xは酸素原子または硫黄原子を表す。本発明の一態様では、Xは硫黄原子である。本発明の好ましい一態様では、Xは酸素原子である。
一般式(1)では、Xの右側に結合しているベンゼン環のオルト位から単結合が左下方向に伸長している。この単結合は、一般式(1)のArの右側に位置するカルバゾール構造の1~4位のいずれに結合してもよい。また、Xも一般式(1)のArの右側に位置するカルバゾール構造の1~4位のいずれに結合してもよい。ただし、単結合とXは、カルバゾール構造の骨格を構成する隣り合う炭素原子にそれぞれ結合する。このため、単結合が2位に結合しているときは、Xは1位か3位に結合する。単結合が3位に結合しているときは、Xは2位か4位に結合する。単結合が1位に結合しているときはXは2位に結合する。単結合が4位に結合しているときはXは3位に結合する。一般式(1)では単結合よりもXが上方に記載されているが、一般式(1)は単結合がXよりも下方に位置する下記一般式(1’)の構造も包含しているものとする。
【化5】
【0018】
一般式(1)のArに結合するベンゾフロカルバゾール-9-イル基として、置換もしくは無置換のベンゾフロ[2,3-a]カルバゾール-9-イル基を採用することができる。また、置換もしくは無置換のベンゾフロ[3,2-a]カルバゾール-9-イル基を採用することもできる。また、置換もしくは無置換のベンゾフロ[2,3-b]カルバゾール-9-イル基を採用することもできる。また、置換もしくは無置換のベンゾフロ[3,2-b]カルバゾール-9-イル基を採用することもできる。また、置換もしくは無置換のベンゾフロ[2,3-c]カルバゾール-9-イル基を採用することもできる。また、置換もしくは無置換のベンゾフロ[3,2-c]カルバゾール-9-イル基を採用することもできる。
一般式(1)のArに結合するベンゾチエノカルバゾール-9-イル基として、置換もしくは無置換のベンゾチエノ[2,3-a]カルバゾール-9-イル基を採用することができる。また、置換もしくは無置換のベンゾチエノ[3,2-a]カルバゾール-9-イル基を採用することもできる。また、置換もしくは無置換のベンゾチエノ[2,3-b]カルバゾール-9-イル基を採用することもできる。また、置換もしくは無置換のベンゾチエノ[3,2-b]カルバゾール-9-イル基を採用することもできる。また、置換もしくは無置換のベンゾチエノ[2,3-c]カルバゾール-9-イル基を採用することもできる。また、置換もしくは無置換のベンゾチエノ[3,2-c]カルバゾール-9-イル基を採用することもできる。
一般式(1)のArに結合するビスベンゾフロカルバゾール-9-イル基として、置換もしくは無置換のビスベンゾフロ[2,3-a:2’,3’-f]カルバゾール-9-イル基を採用することができる。また、置換もしくは無置換のビスベンゾフロ[3,2-a:3’、2’-f]カルバゾール-9-イル基を採用することもできる。また、置換もしくは無置換のビスベンゾフロ[2,3-b:2’、3’-e]カルバゾール-9-イル基を採用することもできる。また、置換もしくは無置換のビスベンゾフロ[3,2-b:3’,2’-e]カルバゾール-9-イル基を採用することもできる。また、置換もしくは無置換のビスベンゾフロ[2,3-c:2’、3’-d]カルバゾール-9-イル基を採用することもできる。また、置換もしくは無置換のビスベンゾフロ[3,2-c:3’、2’-d]カルバゾール-9-イル基を採用することもできる。
一般式(1)のArに結合するビスベンゾチエノカルバゾール-9-イル基として、置換もしくは無置換のビスベンゾチエノ[2,3-a:2’,3’-f]カルバゾール-9-イル基を採用することができる。また、置換もしくは無置換のビスベンゾチエノ[3,2-a:3’、2’-f]カルバゾール-9-イル基を採用することもできる。また、置換もしくは無置換のビスベンゾチエノ[2,3-b:2’、3’-e]カルバゾール-9-イル基を採用することもできる。また、置換もしくは無置換のビスベンゾチエノ[3,2-b:3’,2’-e]カルバゾール-9-イル基を採用することもできる。また、置換もしくは無置換のビスベンゾチエノ[2,3-c:2’、3’-d]カルバゾール-9-イル基を採用することもできる。また、置換もしくは無置換のビスベンゾチエノ[3,2-c:3’、2’-d]カルバゾール-9-イル基を採用することもできる。
【0019】
一般式(1)のArに結合する置換もしくは無置換のベンゾフロカルバゾール-9-イル基と置換もしくは無置換のベンゾチエノカルバゾール-9-イル基の具体例を以下に例示する。ただし、本発明で採用することができる構造はこれらの具体例によって限定的に解釈されることはない。本願において、*は結合位置を示す。Phは無置換のフェニル基を示す。また、本願においてメチル基についてはCHと表記せず、D7の左下のようにCH表記を省略している。
【化6-1】
【化6-2】
【化6-3】
【0020】
一般式(1)において、Arは単環アリーレン基または単環ヘテロアリーレン基を表す。ここでいう単環アリーレン基とは、縮環していないフェニレン基を意味する。また、単環ヘテロアリーレン基とは、縮環していない単一環状構造の芳香環基であって、環骨格構成原子としてヘテロ原子を含む基を意味する。単環ヘテロアリーレン基の環骨格構成原子数は5~7であることが好ましく、5または6であることがより好ましく、例えば6であるものを採用することができる。単環ヘテロアリーレン基の環骨格を構成するヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子、硫黄原子を例示することができ、窒素原子であることが好ましい。単環ヘテロアリーレン基を構成する環としては、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環を挙げることができる。
一般式(1)の右側に表記されるカルバゾールがArを構成する単環の1位に結合しているとき、一般式(1)の左側に表記されるジベンゾフランはArを構成する単環のいずれの位置に結合していてもよい。好ましくは、Arを構成する単環の3位または4位にジベンゾフランが結合している場合である。本発明の好ましい一態様では、Arを構成する単環の3位にジベンゾフランが結合している(例えばArが置換もしくは無置換の1,3-フェニレン基である場合)。
【0021】
Arが採りうる単環アリーレン基および単環ヘテロアリーレン基は、それぞれシアノ基を含まない置換基で置換されていてもよい。本発明の好ましい一態様では、置換基としてハメットのσp値が-0.3~0.3の範囲内にある置換基を選択する。ハメットのσp値が-0.3~0.3の範囲内にある置換基の説明と好ましい範囲等については、R~Rの対応する説明を参照することができる。本発明の一態様では、置換基として非共有電子対を有しない基を選択する。本発明の一態様では、置換基としてπ電子を有しない基を選択する。本発明の好ましい一態様では、置換基としてアルキル基(例えば炭素数1~40)およびアリール基(例えば炭素数6~30)からなる群より選択される1つの基または2つ以上を組み合わせた基を選択する。本発明の好ましい一態様では、置換基として炭素数1~30のアルキル基を選択する。アルキル基の説明と好ましい範囲については、R~Rの対応する説明を参照することができる。
本発明の好ましい一態様では、Arは1~4つの炭素数1~20のアルキル基で置換されていてもよいフェニレン基、または1~3つの炭素数1~20のアルキル基で置換されていてもよい単環ヘテロアリーレン基である。本発明の好ましい一態様では、Arは無置換のフェニレン基または無置換の単環ヘテロアリーレン基である。
【0022】
一般式(1)のArの具体例を以下に例示するが、本発明で採用することができる構造はこれらの具体例によって限定的に解釈されることはない。t-Buはtert-ブチル基を示し、Phは無置換のフェニル基を示す。
【化7】
【0023】
一般式(1)の左側に表記されるジベンゾフランは、1~4位のいずれでArに結合してもよい。本発明の好ましい一態様ではジベンゾフランは2位でArに結合する。本発明の一態様ではジベンゾフランは1位でArに結合する。本発明の一態様ではジベンゾフランは3位でArに結合する。本発明の一態様ではジベンゾフランは4位でArに結合する。なお、ジベンゾフランの1~4位は下記の通りである。
【化8】
【0024】
一般式(1)のArに結合するジベンゾフラニル基の具体例を以下に例示するが、本発明で採用することができる構造はこれらの具体例によって限定的に解釈されることはない。
【化9】
【0025】
一般式(1)中には、シアノ基は存在しない。本発明の好ましい一態様では、一般式(1)は炭素原子、水素原子、窒素原子、酸素原子および硫黄原子のみからなる。本発明の好ましい一態様では、一般式(1)は炭素原子、水素原子、窒素原子および酸素原子のみからなる。一般式(1)で表される化合物の分子量は499以上であり、700以下であることが好ましく、600以下であることがより好ましく、例えば550以下であってもよく、530以下であってもよい。
【0026】
一般式(1)で表される化合物として、下記一般式(2)で表される化合物を好ましく例示することができる。
【化10】
【0027】
一般式(1)で表される化合物として、下記一般式(3)で表される化合物を好ましく例示することができる。
【化11】
【0028】
一般式(2)および一般式(3)におけるR~R、n1~n5、Xの定義と説明については、一般式(1)の対応する定義と説明を参照することができる。
一般式(2)および一般式(3)におけるRの定義と説明については、一般式(1)のR~Rの定義と説明を参照することができる。一般式(2)および一般式(3)におけるn6は0~3のいずれかの整数である。n6は0~2の範囲内で選択したり、0または1としたりすることができ、0であることも好ましい。一般式(2)および一般式(3)におけるn1~n6は各々独立に0~2の範囲内で選択したり、0または1としたりすることができる。また、n1~n6はすべてが0であってもよい。
【0029】
以下に、一般式(1)で表される化合物の具体例を挙げるが、本発明で用いることができる化合物はこれらの具体例により限定的に解釈されることはない。
【化12】
【0030】
(遅延蛍光材料)
一般式(1)で表される化合物は、遅延蛍光材料とともに用いるためのホスト材料として有用である。
ここでいう「遅延蛍光材料」とは、励起状態において、励起三重項状態から励起一重項状態への逆項間交差を生じ、その励起一重項状態から基底状態へ戻る際に遅延蛍光を放射する有機化合物である。本発明では、蛍光寿命測定システム(浜松ホトニクス社製ストリークカメラシステム等)により発光寿命を測定したとき、発光寿命が100ns(ナノ秒)以上の蛍光が観測されるものを遅延蛍光材料と言う。
一般式(1)で表される化合物と遅延蛍光材料を組み合わせて用いたとき、遅延蛍光材料は、励起一重項状態の一般式(1)で表される化合物からエネルギーを受け取って励起一重項状態に遷移する。また、遅延蛍光材料は、励起三重項状態の一般式(1)で表される化合物からエネルギーを受け取って励起三重項状態に遷移してもよい。遅延蛍光材料は励起一重項エネルギーと励起三重項エネルギーの差(ΔEST)が小さいことから、励起三重項状態の遅延蛍光材料は励起一重項状態の遅延蛍光材料へ逆項間交差しやすい。これらの経路により生じた励起一重項状態の遅延蛍光材料が発光に寄与する。
【0031】
遅延蛍光材料は、最低励起一重項エネルギーと77Kの最低励起三重項エネルギーの差ΔESTが0.3eV以下であることが好ましく、0.25eV以下であることがより好ましく、0.2eV以下であることがより好ましく、0.15eV以下であることがより好ましく、0.1eV以下であることがさらに好ましく、0.07eV以下であることがさらにより好ましく、0.05eV以下であることがさらにまた好ましく、0.03eV以下であることがさらになお好ましく、0.01eV以下であることが特に好ましい。
ΔESTが小さければ、熱エネルギーの吸収によって励起一重項状態から励起三重項状態に逆項間交差しやすいため、熱活性化型の遅延蛍光材料として機能する。熱活性化型の遅延蛍光材料は、デバイスが発する熱を吸収して励起三重項状態から励起一重項へ比較的容易に逆項間交差し、その励起三重項エネルギーを効率よく発光に寄与させることができる。
【0032】
本発明における、化合物の最低励起一重項エネルギー(ES1)と最低励起三重項エネルギー(ET1)は、下記の手順により求めた値である。ΔESTはES1-ET1を計算することにより求めた値である。
(1)最低励起一重項エネルギー(ES1
測定対象化合物の薄膜もしくはトルエン溶液(濃度10-5mol/L)を調製して試料とする。常温(300K)でこの試料の蛍光スペクトルを測定する。蛍光スペクトルは、縦軸を発光、横軸を波長とする。この発光スペクトルの短波側の立ち上がりに対して接線を引き、その接線と横軸との交点の波長値 λedge[nm]を求める。この波長値を次に示す換算式でエネルギー値に換算した値をES1とする。
換算式:ES1[eV]=1239.85/λedge
後述の実施例における発光スペクトルの測定は、励起光源にLED光源(Thorlabs社製、M300L4)を用いて検出器(浜松ホトニクス社製、PMA-12マルチチャンネル分光器 C10027-01)により行った。
(2)最低励起三重項エネルギー(ET1
最低励起一重項エネルギー(ES1)の測定で用いたのと同じ試料を、液体窒素によって77[K]に冷却し、励起光(300nm)を燐光測定用試料に照射し、検出器を用いて燐光を測定する。励起光照射後から100ミリ秒以降の発光を燐光スペクトルとする。この燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対して接線を引き、その接線と横軸との交点の波長値λedge[nm]を求める。この波長値を次に示す換算式でエネルギー値に換算した値をET1とする。
換算式:ET1[eV]=1239.85/λedge
燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対する接線は以下のように引く。燐光スペクトルの短波長側から、スペクトルの極大値のうち、最も短波長側の極大値までスペクトル曲線上を移動する際に、長波長側に向けて曲線上の各点における接線を考える。この接線は、曲線が立ち上がるにつれ(つまり縦軸が増加するにつれ)、傾きが増加する。この傾きの値が極大値をとる点において引いた接線を、当該燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対する接線とする。
なお、スペクトルの最大ピーク強度の10%以下のピーク強度をもつ極大点は、上述の最も短波長側の極大値には含めず、最も短波長側の極大値に最も近い、傾きの値が極大値をとる点において引いた接線を当該燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対する接線とする。
【0033】
本発明の好ましい一態様では、遅延蛍光材料として、ベンゼン環に置換しているシアノ基の数が1つであるシアノベンゼン構造を有する化合物(シアノベンゼン誘導体)を用いる。本発明の別の好ましい一態様では、遅延蛍光材料として、ベンゼン環に置換しているシアノ基の数が2つであるジシアノベンゼン構造を有する化合物(ジシアノベンゼン誘導体)を用いる。本発明の別の好ましい一態様では、遅延蛍光材料として、ベンゼン環の環骨格構成炭素原子の少なくとも1つが窒素原子に置換したアザベンゼン構造を有する化合物(アザベンゼン誘導体)を用いる。
【0034】
本発明の好ましい一態様では、遅延蛍光材料として下記一般式(4)で表される化合物を用いる。
【化13】
一般式(4)において、R21~R23のうち1つはシアノ基または下記一般式(5)で表される基を表し、R21~R23の残りの2つとR24およびR25のうちの少なくとも1つは下記一般式(6)で表される基を表し、R21~R25の残りは水素原子または置換基(ただしここでいう置換基はシアノ基、下記一般式(5)で表される基、下記一般式(6)で表される基ではない)を表す。
【化14】
一般式(5)において、Lは単結合もしくは2価の連結基を表し、R31およびR32は各々独立に水素原子または置換基を表し、*は結合位置を表す。
【化15】
一般式(6)において、Lは単結合または2価の連結基を表し、R33およびR34は各々独立に水素原子または置換基を表し、*は結合位置を表す。
【0035】
本発明の好ましい一態様では、R22がシアノ基である。本発明の好ましい一態様では、R22が一般式(5)で表される基である。本発明の一態様では、R21がシアノ基または一般式(5)で表される基である。本発明の一態様では、R23がシアノ基または一般式(5)で表される基である。本発明の一態様では、R21~R23のうち1つがシアノ基である。本発明の一態様では、R21~R23のうち1つが一般式(5)で表される基である。
【0036】
本発明の好ましい一態様では、一般式(5)におけるLは単結合である。本発明の一態様では、Lは2価の連結基であり、好ましくは置換もしくは無置換のアリーレン基、または置換もしくは無置換のヘテロアリーレン基であり、より好ましくは置換もしくは無置換のアリーレン基であり、さらに好ましくは置換もしくは無置換の1,4-フェニレン基(置換基として例えば炭素数1~3のアルキル基)である。
本発明の一態様では、一般式(5)におけるR31およびR32は各々独立に、アルキル基(例えば炭素数1~40)、アリール基(例えば炭素数6~30)、ヘテロアリール基(例えば環骨格構成原子数5~30)、アルケニル基(例えば炭素数1~40)およびアルキニル基(例えば炭素数1~40)からなる群より選択される1つの基または2つ以上を組み合わせた基である(以下においてこれらの基を「置換基群Aの基」という)。本発明の好ましい一態様では、R31およびR32は各々独立に、置換もしくは無置換のアリール基(例えば炭素数6~30)であり、アリール基の置換基としては置換基群Aの基を挙げることができる。本発明の好ましい一態様では、R31およびR32は同一である。
【0037】
本発明の好ましい一態様では、一般式(6)におけるLは単結合である。本発明の一態様では、Lは2価の連結基であり、好ましくは置換もしくは無置換のアリーレン基、または置換もしくは無置換のヘテロアリーレン基であり、より好ましくは置換もしくは無置換のアリーレン基であり、さらに好ましくは置換もしくは無置換の1,4-フェニレン基(置換基として例えば炭素数1~3のアルキル基)である。
本発明の一態様では、一般式(6)におけるR33およびR34は各々独立に、置換もしくは無置換のアルキル基(例えば炭素数1~40)、置換もしくは無置換のアルケニル基(例えば炭素数1~40)、置換もしくは無置換のアリール基(例えば炭素数6~30)、または置換もしくは無置換のヘテロアリール基(例えば炭素数5~30)を表す。ここでいうアルキル基、アルケニル基、アリール基、ヘテロアリール基の置換基としては、ヒドロキシル基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アルキル基(例えば炭素数1~40)、アルコキシ基(例えば炭素数1~40)、アルキルチオ基(例えば炭素数1~40)、アリール基(例えば炭素数6~30)、アリールオキシ基(例えば炭素数6~30)、アリールチオ基(例えば炭素数6~30)、ヘテロアリール基(例えば環骨格構成原子数5~30)、ヘテロアリールオキシ基(例えば環骨格構成原子数5~30)、ヘテロアリールチオ基(例えば環骨格構成原子数5~30)、アシル基(例えば炭素数1~40)、アルケニル基(例えば炭素数1~40)、アルキニル基(例えば炭素数1~40)、アルコキシカルボニル基(例えば炭素数1~40)、アリールオキシカルボニル基(例えば炭素数1~40)、ヘテロアリールオキシカルボニル基(例えば炭素数1~40)、シリル基(例えば炭素数1~40のトリアルキルシリル基)、ニトロ基およびシアノ基からなる群より選択される1つの基または2つ以上を組み合わせた基を挙げることができる(以下においてこれらの基を「置換基群Bの基」という)。
33とR34は、互いに単結合または連結基を介して結合して環状構造を形成してもよい。特にR33とR34がアリール基である場合は、互いに単結合または連結基を介して結合して環状構造を形成することが好ましい。ここでいう連結基としては-O-、-S-、-N(R35)-、-C(R36)(R37)-、-C(=O)-を挙げることができ、-O-、-S-、-N(R35)-、-C(R36)(R37)-が好ましく、-O-、-S-、-N(R35)-がより好ましい。R35~R37は各々独立に水素原子または置換基を表す。置換基としては、上記置換基群Aの基を選択したり、下記置換基群Bの基を選択したりすることができ、好ましくは炭素数1~10のアルキル基および炭素数6~14のアリール基からなる群より選択される1つの基または2つ以上を組み合わせた基である。
【0038】
一般式(6)で表される基は、下記一般式(7)で表される基であることが好ましい。
【化16】
【0039】
一般式(7)のL11は単結合もしくは2価の連結基を表す。L11の説明と好ましい範囲については、上記のLの説明と好ましい範囲を参照することができる。
一般式(7)のR41~R48は各々独立に水素原子または置換基を表す。R41とR42、R42とR43、R43とR44、R44とR45、R45とR46、R46とR47、R47とR48は、互いに結合して環状構造を形成していてもよい。互いに結合して形成する環状構造は芳香環であっても脂肪環であってもよく、またヘテロ原子を含むものであってもよく、さらに環状構造は2環以上の縮合環であってもよい。ここでいうヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子および硫黄原子からなる群より選択されるものであることが好ましい。形成される環状構造の例として、ベンゼン環、ナフタレン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピロール環、イミダゾール環、ピラゾール環、イミダゾリン環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、シクロヘキサジエン環、シクロヘキセン環、シクロペンタエン環、シクロヘプタトリエン環、シクロヘプタジエン環、シクロヘプタエン環、フラン環、チオフェン環、ナフチリジン環、キノキサリン環、キノリン環などを挙げることができる。例えばフェナントレン環やトリフェニレン環のように多数の環が縮合した環を形成してもよい。一般式(7)で表される基に含まれる環の数は3~5の範囲内から選択してもよく、5~7の範囲内から選択してもよい。
41~R48が採りうる置換基として、上記の置換基群Bの基を挙げることができ、好ましくは炭素数1~10の無置換のアルキル基、または炭素数1~10の無置換のアルキル基で置換されていてもよい炭素数6~10のアリール基である。本発明の好ましい一態様では、R41~R48は水素原子または炭素数1~10の無置換のアルキル基である。本発明の好ましい一態様では、R41~R48は水素原子または炭素数6~10の無置換のアリール基である。本発明の好ましい一態様では、R41~R48はすべてが水素原子である。
一般式(7)において、*は結合位置を表す。
【0040】
本発明の好ましい一態様では、遅延蛍光材料としてアザベンゼン誘導体を用いる。本発明の好ましい一態様では、アザベンゼン誘導体は、ベンゼン環の環骨格構成炭素原子の3つが窒素原子に置換したアザベンゼン構造を有する。例えば、1,3,5-トリアジン構造を有するアザベンゼン誘導体を好ましく選択することができる。本発明の好ましい一態様では、アザベンゼン誘導体は、ベンゼン環の環骨格構成炭素原子の2つが窒素原子に置換したアザベンゼン構造を有する。例えば、ピリダジン構造、ピリミジン構造、ピラジン構造を有するアザベンゼン誘導体を挙げることができ、ピリミジン構造を有するアザベンゼン誘導体を好ましく選択することができる。本発明の一態様では、アザベンゼン誘導体は、ベンゼン環の環骨格構成炭素原子の1つが窒素原子に置換したピリジン構造を有する。
【0041】
本発明の好ましい一態様では、遅延蛍光材料として下記一般式(8)で表される化合物を用いる。
【化17】
一般式(8)において、Y、YおよびYは、少なくとも1つが窒素原子で残りがメチン基を表す。本発明の一態様では、Yが窒素原子で、YおよびYがメチン基である。好ましくはYおよびYが窒素原子で、Yがメチン基である。より好ましくは、Y~Yのすべてが窒素原子である。
一般式(8)において、Z~Zは、各々独立に水素原子または置換基を表すが、少なくとも1つはドナー性の置換基である。ドナー性の置換基は、ハメットのσp値が負の基を意味する。好ましくは、Z~Zの少なくとも1つは、ジアリールアミノ構造(窒素原子に結合する2つのアリール基は互いに結合していてもよい)を含む基であり、より好ましくは上記一般式(6)で表される基であり、例えば上記一般式(7)で表される基である。本発明の一態様では、Z~Zの1つだけが一般式(6)または(7)で表される基である。本発明の一態様では、Z~Zの2つだけが各々独立に一般式(6)または(7)で表される基である。本発明の一態様では、Z~Zのすべてが各々独立に一般式(6)または(7)で表される基である。一般式(6)および一般式(7)の詳細と好ましい範囲については、上記の対応する記載を参照することができる。一般式(6)および一般式(7)で表される基ではない、残りのZ~Zは、置換もしくは無置換のアリール基(例えば炭素数6~40、好ましくは6~20)であることが好ましく、ここでいうアリール基の置換基としては、アリール基(例えば炭素数6~20、好ましくは6~14)およびアルキル基(例えば炭素数1~20、好ましくは1~6)からなる群より選択される1つの基または2つ以上を組み合わせた基を例示することができる。本発明の一態様では、一般式(8)はシアノ基を含まない。
【0042】
本発明の好ましい一態様では、遅延蛍光材料として下記一般式(9)で表される化合物を用いる。
【化18】
一般式(9)において、Ar1は、下記AおよびDに置換されていてもよい環状構造を形成し、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、またはフェナントレン環を表す。Ar、Arは、それぞれ環状構造を形成していてもよく、環状構造を形成している場合はベンゼン環、ナフタレン環、ピリジン環、またはシアノ基で置換されたベンゼン環を表す。m1は0~2のいずれかの整数を表し、m2は0~1のいずれかの整数を表す。Aはシアノ基、フェニル基、ピリミジル基、トリアジル基、もしくはベンゾニトリル基を表す。Dは、置換もしくは無置換の5H-インドロ[3,2,1-de]フェナジンー5-イル基、またはナフタレン構造を含まない置換もしくは無置換のヘテロ環縮合カルバゾリル基を表し、一般式(9)中に複数のDが存在する場合それらは同一でも異なっていてもよい。また、Dの置換基は、互いに結合して環状構造を形成していてもよい。
【0043】
以下に、遅延蛍光材料として用いることができる好ましい化合物を挙げるが、本発明で用いることができる遅延蛍光材料はこれらの具体例により限定的に解釈されることはない。
【化19-1】
【化19-2】
【化19-3】
【化19-4】
【化19-5】
【化19-6】
【化19-7】
【0044】
本発明では、上記以外にも公知の遅延蛍光材料を一般式(1)で表される化合物と適宜組み合わせて用いることができる。また、知られていない遅延蛍光材料であっても、用いることが可能である。
遅延蛍光材料として、WO2013/154064号公報の段落0008~0048および0095~0133、WO2013/011954号公報の段落0007~0047および0073~0085、WO2013/011955号公報の段落0007~0033および0059~0066、WO2013/081088号公報の段落0008~0071および0118~0133、特開2013-256490号公報の段落0009~0046および0093~0134、特開2013-116975号公報の段落0008~0020および0038~0040、WO2013/133359号公報の段落0007~0032および0079~0084、WO2013/161437号公報の段落0008~0054および0101~0121、特開2014-9352号公報の段落0007~0041および0060~0069、特開2014-9224号公報の段落0008~0048および0067~0076、特開2017-119663号公報の段落0013~0025、特開2017-119664号公報の段落0013~0026、特開2017-222623号公報の段落0012~0025、特開2017-226838号公報の段落0010~0050、特開2018-100411号公報の段落0012~0043、WO2018/047853号公報の段落0016~0044に記載される一般式に包含される化合物、特に例示化合物であって、遅延蛍光を放射するものを挙げることができる。また、特開2013-253121号公報、WO2013/133359号公報、WO2014/034535号公報、WO2014/115743号公報、WO2014/122895号公報、WO2014/126200号公報、WO2014/136758号公報、WO2014/133121号公報、WO2014/136860号公報、WO2014/196585号公報、WO2014/189122号公報、WO2014/168101号公報、WO2015/008580号公報、WO2014/203840号公報、WO2015/002213号公報、WO2015/016200号公報、WO2015/019725号公報、WO2015/072470号公報、WO2015/108049号公報、WO2015/080182号公報、WO2015/072537号公報、WO2015/080183号公報、特開2015-129240号公報、WO2015/129714号公報、WO2015/129715号公報、WO2015/133501号公報、WO2015/136880号公報、WO2015/137244号公報、WO2015/137202号公報、WO2015/137136号公報、WO2015/146541号公報、WO2015/159541号公報に記載される発光材料であって、遅延蛍光を放射するものを採用することもできる。なお、この段落に記載される上記の公報は、本明細書の一部としてここに引用している。
【0045】
本発明で用いる遅延蛍光材料は金属原子を含まないことが好ましい。例えば、遅延蛍光材料として、炭素原子、水素原子、窒素原子、酸素原子および硫黄原子からなる群より選択される原子からなる化合物を選択することができる。例えば、遅延蛍光材料として、炭素原子、水素原子、窒素原子および酸素原子からなる群より選択される原子からなる化合物を選択することができる。例えば、遅延蛍光材料として、炭素原子、水素原子および窒素原子からなる化合物を選択することができる。
【0046】
なお、本明細書におけるアルキル基、アルケニル基、アリール基、ヘテロアリール基等は、他に断りがない限り下記の内容を表す。
「アルキル基」は、直鎖状、分枝状、環状のいずれであってもよい。また、直鎖部分と環状部分と分枝部分のうちの2種以上が混在していてもよい。アルキル基の炭素数は、例えば1以上、2以上、4以上とすることができる。また、炭素数は30以下、20以下、10以下、6以下、4以下とすることができる。アルキル基の具体例として、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、2-エチルヘキシル基、n-ヘプチル基、イソヘプチル基、n-オクチル基、イソオクチル基、n-ノニル基、イソノニル基、n-デカニル基、イソデカニル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基を挙げることができる。置換基たるアルキル基は、さらにアリール基で置換されていてもよい。「アルコキシ基」、「アルキルチオ基」、「アシル基」および「アルコキシカルボニル基」のアルキル部分についても、ここでいう「アルキル基」の説明を参照することができる。
「アルケニル基」は、直鎖状、分枝状、環状のいずれであってもよい。また、直鎖部分と環状部分と分枝部分のうちの2種以上が混在していてもよい。アルケニル基の炭素数は、例えば2以上、4以上とすることができる。また、炭素数は30以下、20以下、10以下、6以下、4以下とすることができる。アルケニル基の具体例として、エテニル基、n-プロペニル基、イソプロペニル基、n-ブテニル基、イソブテニル基、n-ペンテニル基、イソペンテニル基、n-ヘキセニル基、イソヘキセニル基、2-エチルヘキセニル基を挙げることができる。置換基たるアルケニル基は、さらに置換基で置換されていてもよい。
「アリール基」および「ヘテロアリール基」は、単環であってもよいし、2つ以上の環が縮合した縮合環であってもよい。縮合環である場合、縮合している環の数は2~6であることが好ましく、例えば2~4の中から選択することができる。環の具体例として、ベンゼン環、ピリジン環、ピリミジン環、トリアジン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、トリフェニレン環、キノリン環、ピラジン環、キノキサリン環、ナフチリジン環を挙げることができる。アリール基またはヘテロアリール基の具体例として、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-アントラセニル基、2-アントラセニル基、9-アントラセニル基、2-ピリジル基、3-ピリジル基、4-ピリジル基を挙げることができる。「アリーレン基」および「ヘテロアリール基」は、アリール基およびヘテロアリール基の説明における価数を1から2へ読み替えたものとすることができる。「アリールオキシ基」、「アリールチオ基」および「アリールオキシカルボニル基」のアリール部分についても、ここでいう「アリール基」の説明を参照することができる。「ヘテロアリールオキシ基」、「ヘテロアリールチオ基」および「ヘテロアリールオキシカルボニル基」のヘテロアリール部分についても、ここでいう「ヘテロアリール基」の説明を参照することができる。
【0047】
(組成物)
本発明の組成物は、一般式(1)で表される化合物と遅延蛍光材料を含む。本発明の一態様では、組成物は、1種以上の一般式(1)で表される化合物と、1種以上の遅延蛍光材料だけで構成される。本発明の一態様では、組成物は、1種の一般式(1)で表される化合物と、1種の遅延蛍光材料だけで構成される。本発明の一態様では、組成物は一般式(1)で表される化合物と遅延蛍光材料以外に第3の成分を含む。ここでいう第3の成分は、一般式(1)で表される化合物ではなく、また、遅延蛍光材料でもない。第3の成分は1種のみ含まれていてもよいし、2種以上が含まれていてもよい。組成物における第3の成分の含有量は、30重量%以下の範囲内で選択してもよいし、10重量%以下の範囲内で選択してもよいし、1重量%以下の範囲内で選択してもよいし、0.1重量%以下の範囲内で選択してもよい。本発明の一態様では、第3成分は発光しない。本発明の一態様では、第3成分は蛍光を発光する。本発明の好ましい一態様では、本発明組成物からの発光の最大成分は蛍光(遅延蛍光を含む)である。
本発明の組成物において、一般式(1)で表される化合物は遅延蛍光材料よりも重量基準の含有量が多い。一般式(1)で表される化合物の含有量は、遅延蛍光材料の含有量の3重量倍以上の範囲内で選択してもよいし、10重量倍以上の範囲内で選択してもよいし、100重量倍以上の範囲内で選択してもよいし、1000重量倍以上の範囲内で選択してもよく、また、例えば10000重量倍以下の範囲内で選択してもよい。
本発明の組成物では、一般式(1)で表される化合物の励起一重項エネルギーよりも小さい励起一重項エネルギーを有する遅延蛍光材料を選択することが好ましい。励起一重項エネルギーの差は、0.1eV以上としたり、0.3eV以上としたり、0.5eV以上としたりしてもよく、2eV以下としたり、1.5eV以下としたり、1.0eV以下としたりしてもよい。
本発明の組成物は、金属元素を含まないことが好ましい。本発明の一態様では、本発明の組成物は炭素原子、水素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、ホウ素原子およびハロゲン原子からなる群より選択される原子のみからなる。本発明の一態様では、本発明の組成物は炭素原子、水素原子、窒素原子、酸素原子および硫黄原子からなる群より選択される原子のみからなる。
【0048】
また、本発明の一態様では、一般式(1)で表される化合物は、遅延蛍光材料および蛍光性化合物とともに用いるためのホスト材料として有用である。このため、本発明の一態様では、本発明の組成物は一般式(1)で表される化合物と遅延蛍光材料の他に蛍光性化合物も含む。
【0049】
蛍光性化合物は、一般式(1)で表される化合物および遅延蛍光材料よりも最低励起一重項エネルギー(ES1)が小さいことが好ましい。蛍光性化合物は、励起一重項状態の一般式(1)で表される化合物および遅延蛍光材料と、励起三重項状態から逆項間交差して励起一重項状態になった遅延蛍光材料からエネルギーを受け取って一重項励起状態に遷移し、その後基底状態に戻るときに蛍光を放射する。蛍光性化合物としては、このように一般式(1)で表される化合物および遅延蛍光材料からエネルギーを受け取って蛍光を放射し得るものであれば特に限定されず、発光は蛍光であっても、遅延蛍光であっても構わない。中でも、蛍光性化合物として用いる発光体は、最低励起一重項エネルギー準位から基底エネルギー準位に戻るときに蛍光を放射するものであることが好ましい。蛍光性化合物は、2種以上を用いてもよい。例えば、発光色が異なる2種以上の蛍光性化合物を併用することにより、所望の色を発光させることが可能になる。
蛍光性化合物としては、アントラセン誘導体、テトラセン誘導体、ナフタセン誘導体、ピレン誘導体、ペリレン誘導体、クリセン誘導体、ルブレン誘導体、クマリン誘導体、ピラン誘導体、スチルベン誘導体、フルオレン誘導体、アントリル誘導体、ピロメテン誘導体、ターフェニル誘導体、ターフェニレン誘導体、フルオランテン誘導体、アミン誘導体、キナクリドン誘導体、オキサジアゾール誘導体、マロノニトリル誘導体、ピラン誘導体、カルバゾール誘導体、ジュロリジン誘導体、チアゾール誘導体、金属(Al,Zn)を有する誘導体、ジアザボラナフトアントラセン等の含ホウ素多環芳香族骨格を持つ化合物等の多重共鳴効果を有する化合物等を用いることが可能である。これらの例示骨格には置換基を有してもよいし、置換基を有していなくてもよい。また、これらの例示骨格どうしを組み合わせてもよい。
【0050】
蛍光性化合物の具体例としては、遅延蛍光材料の具体例として挙げた化合物を挙げることができる。このとき、本発明の組成物には2種以上の遅延蛍光材料が含まれることになるが、最低励起一重項エネルギーがより高い方がアシストドーパントとして機能し、最低励起一重項エネルギーがより低い方が主として発光する蛍光性化合物として機能する。蛍光性化合物として用いられる化合物は、60%以上のPL発光量子収率を示すことが好ましく、80%以上であることがより好ましい。また、蛍光性化合物として用いられる化合物は、50ns以下の瞬時蛍光寿命を示すことが好ましく、20ns以下であることがより好ましい。この時の瞬時蛍光寿命とは、熱活性型遅延蛍光を示す化合物について、発光寿命測定を行った時に観測される複数の指数減衰成分のうち最も早く減衰する成分の発光寿命のことである。また、第3化合物として用いられる化合物は、最低励起一重項(S1)から基底状態への蛍光放射速度がS1から最低励起三重項(T1)への項間交差速度よりも大きいことが好ましい。化合物の速度定数の算出方法については、熱活性型遅延蛍光材料に関する公知の文献(H. Uoyama, et al., Nature 492, 234 (2012)やK. Masui, et al., Org. Electron. 14, 2721, (2013)等)を参照することができる。
【0051】
以下に、遅延蛍光材料とともに用いる蛍光性化合物として用いることができる好ましい化合物を挙げるが、本発明で用いることができる蛍光性化合物はこれらの具体例により限定的に解釈されることはない。
【0052】
【化20-1】
【化20-2】
【化20-3】
【0053】
また、WO2015/022974号公報の段落0220~0239に記載の化合物も、本発明の蛍光性化合物として、特に好ましく採用することができる。
【0054】
また、本発明の一態様では、一般式(1)で表される化合物を他のホスト材料とともに用いて、複数のホスト材料を含む発光層(組成物)として用いることができる。すなわち、本発明の一態様では、本発明の組成物は一般式(1)で表される化合物を含む複数のホスト材料を含有する。本発明の組成物には、一般式(1)で表される複数種の化合物を用いてもよいし、一般式(1)で表される化合物と一般式(1)で表されないホスト材料を組み合わせて用いてもよい。
以下に、一般式(1)で表される化合物とともに用いられる第二のホスト材料として用いることができる好ましい化合物を挙げるが、本発明で用いることができる第二のホスト材料はこれらの具体例により限定的に解釈されることはない。
【0055】
【化21-1】
【化21-2】
【0056】
本発明の組成物の形態は特に制限されない。本発明の特に好ましい一態様では、本発明の組成物は膜(フィルム)状である。本発明の組成物からなる膜は湿式工程で形成してもよいし、乾式工程で形成してもよい。
湿式工程では、本発明の組成物を溶解した溶液を面に塗布し、溶媒の除去後に発光層を形成する。湿式工程として、スピンコート法、スリットコート法、インクジェット法(スプレー法)、グラビア印刷法、オフセット印刷法、フレキソ印刷法を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。湿式工程では、本発明の組成物を溶解することができる適切な有機溶媒を選択して用いる。ある実施形態では、本発明の組成物に含まれる化合物に、有機溶媒に対する溶解性を上げる置換基(例えばアルキル基)を導入することができる。
乾式工程としては真空蒸着法を好ましく採用することができる。真空蒸着法を採用する場合は、本発明の組成物を構成する各化合物を個別の蒸着源から共蒸着させてもよいし、全化合物を混合した単一の蒸着源から共蒸着させてもよい。単一の蒸着源を用いる場合は、全化合物の粉末を混合した混合粉を用いてもよいし、その混合粉を圧縮した圧縮成形体を用いてもよいし、各化合物を加熱溶融して混合した後に冷却した混合物を用いてもよい。ある実施形態では、単一の蒸着源に含まれる複数の化合物の蒸着速度(重量減少速度)が一致ないしほぼ一致する条件で共蒸着を行うことにより、蒸着源に含まれる複数の化合物の組成比に対応する組成比の膜を形成することができる。形成される膜の組成比と同じ組成比で複数の化合物を混合して蒸着源とすれば、所望の組成比を有する膜を簡便に形成することができる。ある実施形態では、共蒸着される各化合物が同じ重量減少率になる温度を特定して、その温度を共蒸着時の温度として採用することができる。膜を蒸着法により製膜する場合は、組成物を構成する各化合物の分子量は1500以下であることが好ましく、1200以下であることがより好ましく、1000以下であることがさらに好ましく、900以下であることがさらにより好ましい。分子量の下限値は、例えば450であったり、500であったり、600であったりしてもよい。
【0057】
(有機発光素子)
本発明の組成物からなる発光層を形成することにより、有機フォトルミネッセンス素子(有機PL素子)や有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)などの優れた有機発光素子を提供することができる。本発明の有機発光素子は蛍光発光素子であり、素子からの発光の最大成分は蛍光である(ここでいう蛍光には遅延蛍光が含まれる)。
発光層の厚さは例えば1~15nmとしたり、2~10nmとしたり、3~7nmとすることができる。
有機フォトルミネッセンス素子は、基材上に少なくとも発光層を形成した構造を有する。また、有機エレクトロルミネッセンス素子は、少なくとも陽極、陰極、および陽極と陰極の間に有機層を形成した構造を有する。有機層は、少なくとも発光層を含むものであり、発光層のみからなるものであってもよいし、発光層の他に1層以上の有機層を有するものであってもよい。そのような他の有機層として、正孔輸送層、正孔注入層、電子障壁層、正孔障壁層、電子注入層、電子輸送層、励起子障壁層などを挙げることができる。正孔輸送層は正孔注入機能を有した正孔注入輸送層でもよく、電子輸送層は電子注入機能を有した電子注入輸送層でもよい。具体的な有機エレクトロルミネッセンス素子の構造例を図1に示す。図1において、1は基材、2は陽極、3は正孔注入層、4は正孔輸送層、5は発光層、6は電子輸送層、7は陰極を表わす。
本発明の有機発光素子が多波長発光型の有機発光素子であるとき、最も短波長な発光が遅延蛍光を含むものとすることができる。また、最も短波長な発光が遅延蛍光を含まないものとすることもできる。
本発明の組成物を用いた有機発光素子は、熱的または電子的手段で励起されるとき、紫外領域、可視スペクトルのうち青色、緑色、黄色、オレンジ色、赤色領域(例えば420~500nm、500~600nmまたは600~700nm)または近赤外線領域で光を発することができる。例えば有機発光素子は赤色またはオレンジ色領域(例えば620~780nm)で光を発することができる。例えば有機発光素子はオレンジ色または黄色領域(例えば570~620nm)で光を発することができる。例えば有機発光素子は緑色領域(例えば490~575nm)で光を発することができる。例えば有機発光素子は青色領域(例えば400~490nm)で光を発することができる。例えば有機発光素子は紫外スペクトル領域(例えば280~400nm)で光を発することができる。例えば有機発光素子は赤外スペクトル領域(例えば780nm~2μm)で光を発することができる。
本発明の組成物を用いた有機発光素子からの発光の最大成分は、本発明の組成物に含まれる遅延蛍光材料からの発光であることが好ましい。一般式(1)で表される化合物からの発光は、有機発光素子からの発光の10%未満であることが好ましく、例えば1%未満、0.1%未満、0.01%未満、検出限界以下であってもよい。遅延蛍光材料からの発光は、有機発光素子からの発光の例えば50%超、90%超、99%超であってもよい。本発明の組成物を含む層(発光層)が第3成分として蛍光材料を含む場合は、有機発光素子からの発光の最大成分はその蛍光材料からの発光であってもよい。その場合は、発光材料からの発光は有機発光素子からの発光の例えば50%超、90%超、99%超であってもよい。
【0058】
以下において、有機エレクトロルミネッセンス素子の各部材および発光層以外の各層について説明する。
【0059】
基材:
いくつかの実施形態では、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は基材により保持され、当該基材は特に限定されず、有機エレクトロルミネッセンス素子で一般的に用いられる、例えばガラス、透明プラスチック、クォーツおよびシリコンにより形成されたいずれかの材料を用いればよい。
【0060】
陽極:
いくつかの実施形態では、有機エレクトロルミネッセンス装置の陽極は、金属、合金、導電性化合物またはそれらの組み合わせから製造される。いくつかの実施形態では、前記の金属、合金または導電性化合物は高い仕事関数(4eV以上)を有する。いくつかの実施形態では、前記金属はAuである。いくつかの実施形態では、導電性の透明材料は、CuI、酸化インジウムスズ(ITO)、SnOおよびZnOから選択される。いくつかの実施形態では、IDIXO(In-ZnO)などの、透明な導電性フィルムを形成できるアモルファス材料を使用する。いくつかの実施形態では、前記陽極は薄膜である。いくつかの実施形態では、前記薄膜は蒸着またはスパッタリングにより作製される。いくつかの実施形態では、前記フィルムはフォトリソグラフィー方法によりパターン化される。いくつかの実施形態では、パターンが高精度である必要がない(例えば約100μm以上)場合、当該パターンは、電極材料への蒸着またはスパッタリングに好適な形状のマスクを用いて形成してもよい。いくつかの実施形態では、有機導電性化合物などのコーティング材料を塗布しうるとき、プリント法やコーティング法などの湿式フィルム形成方法が用いられる。いくつかの実施形態では、放射光が陽極を通過するとき、陽極は10%超の透過度を有し、当該陽極は、単位面積あたり数百オーム以下のシート抵抗を有する。いくつかの実施形態では、陽極の厚みは10~1,000nmである。いくつかの実施形態では、陽極の厚みは10~200nmである。いくつかの実施形態では、陽極の厚みは用いる材料に応じて変動する。
【0061】
陰極:
いくつかの実施形態では、前記陰極は、低い仕事関数を有する金属(4eV以下)(電子注入金属と称される)、合金、導電性化合物またはその組み合わせなどの電極材料で作製される。いくつかの実施形態では、前記電極材料は、ナトリウム、ナトリウム-カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム-銅混合物、マグネシウム-銀混合物、マグネシウム-アルミニウム混合物、マグネシウム-インジウム混合物、アルミニウム-酸化アルミニウム(Al)混合物、インジウム、リチウム-アルミニウム混合物および希土類元素から選択される。いくつかの実施形態では、電子注入金属と、電子注入金属より高い仕事関数を有する安定な金属である第2の金属との混合物が用いられる。いくつかの実施形態では、前記混合物は、マグネシウム-銀混合物、マグネシウム-アルミニウム混合物、マグネシウム-インジウム混合物、アルミニウム-酸化アルミニウム(Al)混合物、リチウム-アルミニウム混合物およびアルミニウムから選択される。いくつかの実施形態では、前記混合物は電子注入特性および酸化に対する耐性を向上させる。いくつかの実施形態では、陰極は、蒸着またはスパッタリングにより電極材料を薄膜として形成させることによって製造される。いくつかの実施形態では、前記陰極は単位面積当たり数百オーム以下のシート抵抗を有する。いくつかの実施形態では、前記陰極の厚は10nm~5μmである。いくつかの実施形態では、前記陰極の厚は50~200nmである。いくつかの実施形態では、放射光を透過させるため、有機エレクトロルミネッセンス素子の陽極および陰極のいずれか1つは透明または半透明である。いくつかの実施形態では、透明または半透明のエレクトロルミネッセンス素子は光放射輝度を向上させる。
いくつかの実施形態では、前記陰極を、前記陽極に関して前述した導電性の透明な材料で形成されることにより、透明または半透明の陰極が形成される。いくつかの実施形態では、素子は陽極と陰極とを含むが、いずれも透明または半透明である。
【0062】
注入層:
注入層は、電極と有機層との間の層である。いくつかの実施形態では、前記注入層は駆動電圧を減少させ、光放射輝度を増強する。いくつかの実施形態では、前記注入層は、正孔注入層と電子注入層とを含む。前記注入層は、陽極と発光層または正孔輸送層との間、並びに陰極と発光層または電子輸送層との間に配置することがきる。いくつかの実施形態では、注入層が存在する。いくつかの実施形態では、注入層が存在しない。
以下に、正孔注入材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0063】
【化22】
【0064】
次に、電子注入材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【化23】
【0065】
障壁層:
障壁層は、発光層に存在する電荷(電子または正孔)および/または励起子が、発光層の外側に拡散することを阻止できる層である。いくつかの実施形態では、電子障壁層は、発光層と正孔輸送層との間に存在し、電子が発光層を通過して正孔輸送層へ至ることを阻止する。いくつかの実施形態では、正孔障壁層は、発光層と電子輸送層との間に存在し、正孔が発光層を通過して電子輸送層へ至ることを阻止する。いくつかの実施形態では、障壁層は、励起子が発光層の外側に拡散することを阻止する。いくつかの実施形態では、電子障壁層および正孔障壁層は励起子障壁層を構成する。本明細書で用いる用語「電子障壁層」または「励起子障壁層」には、電子障壁層の、および励起子障壁層の機能の両方を有する層が含まれる。
【0066】
正孔障壁層:
正孔障壁層は、電子輸送層として機能する。いくつかの実施形態では、電子の輸送の間、正孔障壁層は正孔が電子輸送層に至ることを阻止する。いくつかの実施形態では、正孔障壁層は、発光層における電子と正孔との再結合の確率を高める。正孔障壁層に用いる材料は、電子輸送層について前述したのと同じ材料であってもよい。
以下に、正孔障壁層に用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0067】
【化24】
【0068】
電子障壁層:
電子障壁層は、正孔を輸送する。いくつかの実施形態では、正孔の輸送の間、電子障壁層は電子が正孔輸送層に至ることを阻止する。いくつかの実施形態では、電子障壁層は、発光層における電子と正孔との再結合の確率を高める。電子障壁層に用いる材料は、正孔輸送層について前述したのと同じ材料であってもよい。
以下に電子障壁材料として用いることができる好ましい化合物の具体例を挙げる。
【0069】
【化25】
【0070】
励起子障壁層:
励起子障壁層は、発光層における正孔と電子との再結合を通じて生じた励起子が電荷輸送層まで拡散することを阻止する。いくつかの実施形態では、励起子障壁層は、発光層における励起子の有効な閉じ込め(confinement)を可能にする。いくつかの実施形態では、装置の光放射効率が向上する。いくつかの実施形態では、励起子障壁層は、陽極の側と陰極の側のいずれかで、およびその両側の発光層に隣接する。いくつかの実施形態では、励起子障壁層が陽極側に存在するとき、当該層は、正孔輸送層と発光層との間に存在し、当該発光層に隣接してもよい。いくつかの実施形態では、励起子障壁層が陰極側に存在するとき、当該層は、発光層と陰極との間に存在し、当該発光層に隣接してもよい。いくつかの実施形態では、正孔注入層、電子障壁層または同様の層は、陽極と、陽極側の発光層に隣接する励起子障壁層との間に存在する。いくつかの実施形態では、正孔注入層、電子障壁層、正孔障壁層または同様の層は、陰極と、陰極側の発光層に隣接する励起子障壁層との間に存在する。いくつかの実施形態では、励起子障壁層は、励起一重項エネルギーと励起三重項エネルギーを含み、その少なくとも1つが、それぞれ、発光材料の励起一重項エネルギーと励起三重項エネルギーより高い。
【0071】
正孔輸送層:
正孔輸送層は、正孔輸送材料を含む。いくつかの実施形態では、正孔輸送層は単層である。いくつかの実施形態では、正孔輸送層は複数の層を有する。
いくつかの実施形態では、正孔輸送材料は、正孔の注入または輸送特性および電子の障壁特性のうちの1つの特性を有する。いくつかの実施形態では、正孔輸送材料は有機材料である。いくつかの実施形態では、正孔輸送材料は無機材料である。本発明で使用できる公知の正孔輸送材料の例としては、限定されないが、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導剤、イミダゾール誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導剤、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリルアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導剤、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、アニリンコポリマーおよび導電性ポリマーオリゴマー(特にチオフェンオリゴマー)、またはその組合せが挙げられる。いくつかの実施形態では、正孔輸送材料はポルフィリン化合物、芳香族三級アミン化合物およびスチリルアミン化合物から選択される。いくつかの実施形態では、正孔輸送材料は芳香族三級アミン化合物である。以下に正孔輸送材料として用いることができる好ましい化合物の具体例を挙げる。
【0072】
【化26】
【0073】
電子輸送層:
電子輸送層は、電子輸送材料を含む。いくつかの実施形態では、電子輸送層は単層である。いくつかの実施形態では、電子輸送層は複数の層を有する。
いくつかの実施形態では、電子輸送材料は、陰極から注入された電子を発光層に輸送する機能さえあればよい。いくつかの実施形態では、電子輸送材料はまた、正孔障壁材料としても機能する。本発明で使用できる電子輸送層の例としては、限定されないが、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド、フルオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン、アントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体、アゾール誘導体、アジン誘導体またはその組合せ、またはそのポリマーが挙げられる。いくつかの実施形態では、電子輸送材料はチアジアゾール誘導剤またはキノキサリン誘導体である。いくつかの実施形態では、電子輸送材料はポリマー材料である。以下に電子輸送材料として用いることができる好ましい化合物の具体例を挙げる。
【0074】
【化27】
【0075】
さらに、各有機層に添加可能な材料として好ましい化合物例を挙げる。例えば、安定化材料として添加すること等が考えられる。
【0076】
【化28】
【0077】
有機エレクトロルミネッセンス素子に用いることができる好ましい材料を具体的に例示したが、本発明において用いることができる材料は、以下の例示化合物によって限定的に解釈されることはない。また、特定の機能を有する材料として例示した化合物であっても、その他の機能を有する材料として転用することも可能である。
【0078】
デバイス:
いくつかの実施形態では、発光層はデバイス中に組み込まれる。例えば、デバイスには、OLEDバルブ、OLEDランプ、テレビ用ディスプレイ、コンピューター用モニター、携帯電話およびタブレットが含まれるが、これらに限定されない。
いくつかの実施形態では、電子デバイスは、陽極、陰極、および当該陽極と当該陰極との間の発光層を含む少なくとも1つの有機層を有するOLEDを含む。
いくつかの実施形態では、本願明細書に記載の構成物は、OLEDまたは光電子デバイスなどの、様々な感光性または光活性化デバイスに組み込まれうる。いくつかの実施形態では、前記構成物はデバイス内の電荷移動またはエネルギー移動の促進に、および/または正孔輸送材料として有用でありうる。前記デバイスとしては、例えば有機発光ダイオード(OLED)、有機集積回線(OIC)、有機電界効果トランジスタ(O-FET)、有機薄膜トランジスタ(O-TFT)、有機発光トランジスタ(O-LET)、有機太陽電池(O-SC)、有機光学検出装置、有機光受容体、有機磁場クエンチ(field-quench)装置(O-FQD)、発光燃料電池(LEC)または有機レーザダイオード(O-レーザー)が挙げられる。
【0079】
バルブまたはランプ:
いくつかの実施形態では、電子デバイスは、陽極、陰極、当該陽極と当該陰極との間の発光層を含む少なくとも1つの有機層を含むOLEDを含む。
いくつかの実施形態では、デバイスは色彩の異なるOLEDを含む。いくつかの実施形態では、デバイスはOLEDの組合せを含むアレイを含む。いくつかの実施形態では、OLEDの前記組合せは、3色の組合せ(例えばRGB)である。いくつかの実施形態では、OLEDの前記組合せは、赤色でも緑色でも青色でもない色(例えばオレンジ色および黄緑色)の組合せである。いくつかの実施形態では、OLEDの前記組合せは、2色、4色またはそれ以上の色の組合せである。
いくつかの実施形態では、デバイスは、
取り付け面を有する第1面とそれと反対の第2面とを有し、少なくとも1つの開口部を画定する回路基板と、
前記取り付け面上の少なくとも1つのOLEDであって、当該少なくとも1つのOLEDが、陽極、陰極、および当該陽極と当該陰極との間の発光層を含む少なくとも1つの有機層を含む、発光する構成を有する少なくとも1つのOLEDと、
回路基板用のハウジングと、
前記ハウジングの端部に配置された少なくとも1つのコネクターであって、前記ハウジングおよび前記コネクターが照明設備への取付けに適するパッケージを画定する、少なくとも1つのコネクターと、を備えるOLEDライトである。
いくつかの実施形態では、前記OLEDライトは、複数の方向に光が放射されるように回路基板に取り付けられた複数のOLEDを有する。いくつかの実施形態では、第1方向に発せられた一部の光は偏光されて第2方向に放射される。いくつかの実施形態では、反射器を用いて第1方向に発せられた光を偏光する。
【0080】
ディスプレイまたはスクリーン:
いくつかの実施形態では、本発明の発光層はスクリーンまたはディスプレイにおいて使用できる。いくつかの実施形態では、本発明に係る化合物は、限定されないが真空蒸発、堆積、蒸着または化学蒸着(CVD)などの工程を用いて基材上へ堆積させる。いくつかの実施形態では、前記基材は、独特のアスペクト比のピクセルを提供する2面エッチングにおいて有用なフォトプレート構造である。前記スクリーン(またマスクとも呼ばれる)は、OLEDディスプレイの製造工程で用いられる。対応するアートワークパターンの設計により、垂直方向ではピクセルの間の非常に急な狭いタイバーの、並びに水平方向では大きな広範囲の斜角開口部の配置を可能にする。これにより、TFTバックプレーン上への化学蒸着を最適化しつつ、高解像度ディスプレイに必要とされるピクセルの微細なパターン構成が可能となる。
ピクセルの内部パターニングにより、水平および垂直方向での様々なアスペクト比の三次元ピクセル開口部を構成することが可能となる。更に、ピクセル領域中の画像化された「ストライプ」またはハーフトーン円の使用は、これらの特定のパターンをアンダーカットし基材から除くまで、特定の領域におけるエッチングが保護される。その時、全てのピクセル領域は同様のエッチング速度で処理されるが、その深さはハーフトーンパターンにより変化する。ハーフトーンパターンのサイズおよび間隔を変更することにより、ピクセル内での保護率が様々異なるエッチングが可能となり、急な垂直斜角を形成するのに必要な局在化された深いエッチングが可能となる。
蒸着マスク用の好ましい材料はインバーである。インバーは、製鉄所で長い薄型シート状に冷延された金属合金である。インバーは、ニッケルマスクとしてスピンマンドレル上へ電着することができない。蒸着用マスク内に開口領域を形成するための適切かつ低コストの方法は、湿式化学エッチングによる方法である。
いくつかの実施形態では、スクリーンまたはディスプレイパターンは、基材上のピクセルマトリックスである。いくつかの実施形態では、スクリーンまたはディスプレイパターンは、リソグラフィー(例えばフォトリソグラフィーおよびeビームリソグラフィー)を使用して加工される。いくつかの実施形態では、スクリーンまたはディスプレイパターンは、湿式化学エッチングを使用して加工される。更なる実施形態では、スクリーンまたはディスプレイパターンは、プラズマエッチングを使用して加工される。
【0081】
デバイスの製造方法:
OLEDディスプレイは、一般的には、大型のマザーパネルを形成し、次に当該マザーパネルをセルパネル単位で切断することによって製造される。通常は、マザーパネル上の各セルパネルは、ベース基材上に、活性層とソース/ドレイン電極とを有する薄膜トランジスタ(TFT)を形成し、前記TFTに平坦化フィルムを塗布し、ピクセル電極、発光層、対電極およびカプセル化層、を順に経時的に形成し、前記マザーパネルから切断することにより形成される。
OLEDディスプレイは、一般的には、大型のマザーパネルを形成し、次に当該マザーパネルをセルパネル単位で切断することによって製造される。通常は、マザーパネル上の各セルパネルは、ベース基材上に、活性層とソース/ドレイン電極とを有する薄膜トランジスタ(TFT)を形成し、前記TFTに平坦化フィルムを塗布し、ピクセル電極、発光層、対電極およびカプセル化層、を順に経時的に形成し、前記マザーパネルから切断することにより形成される。
【0082】
本発明の他の態様では、有機発光ダイオード(OLED)ディスプレイの製造方法を提供し、当該方法は、
マザーパネルのベース基材上に障壁層を形成する工程と、
前記障壁層上に、セルパネル単位で複数のディスプレイユニットを形成する工程と、
前記セルパネルのディスプレイユニットのそれぞれの上にカプセル化層を形成する工程と、
前記セルパネル間のインタフェース部に有機フィルムを塗布する工程と、を含む。
いくつかの実施形態では、障壁層は、例えばSiNxで形成された無機フィルムであり、障壁層の端部はポリイミドまたはアクリルで形成された有機フィルムで被覆される。いくつかの実施形態では、有機フィルムは、マザーパネルがセルパネル単位で軟らかく切断されるように補助する。
いくつかの実施形態では、薄膜トランジスタ(TFT)層は、発光層と、ゲート電極と、ソース/ドレイン電極と、を有する。複数のディスプレイユニットの各々は、薄膜トランジスタ(TFT)層と、TFT層上に形成された平坦化フィルムと、平坦化フィルム上に形成された発光ユニットと、を有してもよく、前記インタフェース部に塗布された有機フィルムは、前記平坦化フィルムの材料と同じ材料で形成され、前記平坦化フィルムの形成と同時に形成される。いくつかの実施形態では、前記発光ユニットは、不動態化層と、その間の平坦化フィルムと、発光ユニットを被覆し保護するカプセル化層と、によりTFT層と連結される。前記製造方法のいくつかの実施形態では、前記有機フィルムは、ディスプレイユニットにもカプセル化層にも連結されない。
【0083】
前記有機フィルムと平坦化フィルムの各々は、ポリイミドおよびアクリルのいずれか1つを含んでもよい。いくつかの実施形態では、前記障壁層は無機フィルムであってもよい。いくつかの実施形態では、前記ベース基材はポリイミドで形成されてもよい。前記方法は更に、ポリイミドで形成されたベース基材の1つの表面に障壁層を形成する前に、当該ベース基材のもう1つの表面にガラス材料で形成されたキャリア基材を取り付ける工程と、インタフェース部に沿った切断の前に、前記キャリア基材をベース基材から分離する工程と、を含んでもよい。いくつかの実施形態では、前記OLEDディスプレイはフレキシブルなディスプレイである。
いくつかの実施形態では、前記不動態化層は、TFT層の被覆のためにTFT層上に配置された有機フィルムである。いくつかの実施形態では、前記平坦化フィルムは、不動態化層上に形成された有機フィルムである。いくつかの実施形態では、前記平坦化フィルムは、障壁層の端部に形成された有機フィルムと同様、ポリイミドまたはアクリルで形成される。いくつかの実施形態では、OLEDディスプレイの製造の際、前記平坦化フィルムおよび有機フィルムは同時に形成される。いくつかの実施形態では、前記有機フィルムは、障壁層の端部に形成されてもよく、それにより、当該有機フィルムの一部が直接ベース基材と接触し、当該有機フィルムの残りの部分が、障壁層の端部を囲みつつ、障壁層と接触する。
【0084】
いくつかの実施形態では、前記発光層は、ピクセル電極と、対電極と、当該ピクセル電極と当該対電極との間に配置された有機発光層と、を有する。いくつかの実施形態では、前記ピクセル電極は、TFT層のソース/ドレイン電極に連結している。
いくつかの実施形態では、TFT層を通じてピクセル電極に電圧が印加されるとき、ピクセル電極と対電極との間に適切な電圧が形成され、それにより有機発光層が光を放射し、それにより画像が形成される。以下、TFT層と発光ユニットとを有する画像形成ユニットを、ディスプレイユニットと称する。
いくつかの実施形態では、ディスプレイユニットを被覆し、外部の水分の浸透を防止するカプセル化層は、有機フィルムと無機フィルムとが交互に積層する薄膜状のカプセル化構造に形成されてもよい。いくつかの実施形態では、前記カプセル化層は、複数の薄膜が積層した薄膜状カプセル化構造を有する。いくつかの実施形態では、インタフェース部に塗布される有機フィルムは、複数のディスプレイユニットの各々と間隔を置いて配置される。いくつかの実施形態では、前記有機フィルムは、一部の有機フィルムが直接ベース基材と接触し、有機フィルムの残りの部分が障壁層の端部を囲む一方で障壁層と接触する態様で形成される。
【0085】
一実施形態では、OLEDディスプレイはフレキシブルであり、ポリイミドで形成された柔軟なベース基材を使用する。いくつかの実施形態では、前記ベース基材はガラス材料で形成されたキャリア基材上に形成され、次に当該キャリア基材が分離される。
いくつかの実施形態では、障壁層は、キャリア基材の反対側のベース基材の表面に形成される。一実施形態では、前記障壁層は、各セルパネルのサイズに従いパターン化される。例えば、ベース基材がマザーパネルの全ての表面上に形成される一方で、障壁層が各セルパネルのサイズに従い形成され、それにより、セルパネルの障壁層の間のインタフェース部に溝が形成される。各セルパネルは、前記溝に沿って切断できる。
【0086】
いくつかの実施形態では、前記の製造方法は、更にインタフェース部に沿って切断する工程を含み、そこでは溝が障壁層に形成され、少なくとも一部の有機フィルムが溝で形成され、当該溝がベース基材に浸透しない。いくつかの実施形態では、各セルパネルのTFT層が形成され、無機フィルムである不動態化層と有機フィルムである平坦化フィルムが、TFT層上に配置され、TFT層を被覆する。例えばポリイミドまたはアクリル製の平坦化フィルムが形成されるのと同時に、インタフェース部の溝は、例えばポリイミドまたはアクリル製の有機フィルムで被覆される。これは、各セルパネルがインタフェース部で溝に沿って切断されるとき、生じた衝撃を有機フィルムに吸収させることによってひびが生じるのを防止する。すなわち、全ての障壁層が有機フィルムなしで完全に露出している場合、各セルパネルがインタフェース部で溝に沿って切断されるとき、生じた衝撃が障壁層に伝達され、それによりひびが生じるリスクが増加する。しかしながら、一実施形態では、障壁層間のインタフェース部の溝が有機フィルムで被覆されて、有機フィルムがなければ障壁層に伝達されうる衝撃を吸収するため、各セルパネルをソフトに切断し、障壁層でひびが生じるのを防止してもよい。一実施形態では、インタフェース部の溝を被覆する有機フィルムおよび平坦化フィルムは、互いに間隔を置いて配置される。例えば、有機フィルムおよび平坦化フィルムが1つの層として相互に接続している場合には、平坦化フィルムと有機フィルムが残っている部分とを通じてディスプレイユニットに外部の水分が浸入するおそれがあるため、有機フィルムおよび平坦化フィルムは、有機フィルムがディスプレイユニットから間隔を置いて配置されるように、相互に間隔を置いて配置される。
【0087】
いくつかの実施形態では、ディスプレイユニットは、発光ユニットの形成により形成され、カプセル化層は、ディスプレイユニットを被覆するためディスプレイユニット上に配置される。これにより、マザーパネルが完全に製造された後、ベース基材を担持するキャリア基材がベース基材から分離される。いくつかの実施形態では、レーザー光線がキャリア基材へ放射されると、キャリア基材は、キャリア基材とベース基材との間の熱膨張率の相違により、ベース基材から分離される。
いくつかの実施形態では、マザーパネルは、セルパネル単位で切断される。いくつかの実施形態では、マザーパネルは、カッターを用いてセルパネル間のインタフェース部に沿って切断される。いくつかの実施形態では、マザーパネルが沿って切断されるインタフェース部の溝が有機フィルムで被覆されているため、切断の間、当該有機フィルムが衝撃を吸収する。いくつかの実施形態では、切断の間、障壁層でひびが生じるのを防止できる。
いくつかの実施形態では、前記方法は製品の不良率を減少させ、その品質を安定させる。
他の態様は、ベース基材上に形成された障壁層と、障壁層上に形成されたディスプレイユニットと、ディスプレイユニット上に形成されたカプセル化層と、障壁層の端部に塗布された有機フィルムと、を有するOLEDディスプレイである。
【実施例
【0088】
以下に合成例、試験例、実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下に示す材料、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。なお、発光特性の評価は、ソースメータ(ケースレー社製:2400シリーズ)、半導体パラメータ・アナライザ(アジレント・テクノロジー社製:E5273A)、光パワーメータ測定装置(ニューポート社製:1930C)、光学分光器(オーシャンオプティクス社製:USB2000)、分光放射計(トプコン社製:SR-3)、ストリークカメラ(浜松ホトニクス(株)製C4334型)および拡張型絶対量子収率測定装置(浜松ホトニクス(株)製Quantaurus-QY Plus C13534-01)を用いて行った。
【0089】
(合成例1)化合物1の合成
【化29】
窒素雰囲気下、ジベンゾ[b,d]フラン-2-イルボロン酸(5g,23.58mmol)、1-ブロモ-3-ヨードベンゼン(8.01g,28.3mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(1.36g,1.18mmol)および炭酸カリウム(9.78g,70.74mmol)をテトラヒドロフランと純水(60ml/30ml)の混合溶液中に加え、75℃で16時間撹拌した。反応溶液を室温まで冷却し、クロロホルムを加えた。有機層を水で2回洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥、溶媒を除去した。得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:n-ヘキサン)で精製し、2-(3-ブロモフェニル)ジベンゾフランの白色固体を得た(4.94g,65%)。
1H NMR (500MHz, CDCl3, δ): 8.11 (s, 1H), 8.00 (d, J= 8 Hz, 1H), 7.82 (s, 1H), 7.63-7.59 (m, 4H), 7.49 (d, J = 8 Hz, 2H), 7.39-7.33 (m, 2H).
MS (ASAP): 323.62 (M+H+). Calcd for C18H11BrO: 322.00.
【0090】
【化30】
窒素雰囲気下、2-(3-ブロモフェニル)ジベンゾフラン(2.51g,7.77mmol)、12H-ベンゾフロ[3,2-a]カルバゾール(2.0g,7.77mmol)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)(0.36g,0.39mmol)、トリ-tert-ブチルホスホニウムテトラフルオロボラート(0.23g,0.78mmol)およびナトリウム tert-ブトキシド(1.49g,15.5mmol)を60mlのトルエンに加え、24時間還流した。反応溶液を室温まで冷却し、クロロホルムを加えた。得られた有機層を水で2回洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥、溶媒を除去した。得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム/n-ヘキサン=1:5)により精製した。さらに再結晶(トルエン/メタノール)を行い、化合物1の白色固体を得た(3.48g,90%)。
1H NMR (500MHz, CDCl3, δ): 8.28 (d, J = 8 Hz, 1H), 8.21 (d, J = 8 Hz, 1H), 8.06 (s, 1H), 7.97 (d, J = 8 Hz, 1H), 7.88 (m, 2H), 7.79 (t, J = 8Hz, 1H), 7.70-7.65 (m, 8H), 7.46-7.26 (m, 4H), 6.90 (t, J = 8Hz, 1H), 5.93 (d, J = 8Hz, 1H).
MS (ASAP): 500.19 (M+H+). Calcd for C36H21NO2: 499.16.
【0091】
(合成例2)化合物2の合成
【化31】
窒素雰囲気下、2-(3-ブロモフェニル)ジベンゾフラン(2.26g,7mmol)、5H-ベンゾフロ[3,2-c]カルバゾール(1.8g,7mmol)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)(320mg,0.35mmol)、トリ-tert-ブチルホスホニウムテトラフルオロボラート(205mg,0.7mmol)およびナトリウム tert-ブトキシド(1.35g,14mmol)を50mlのトルエンに加え、24時間還流した。反応溶液を室温まで冷却し、クロロホルムを加えた。得られた有機層を水で2回洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥、溶媒を除去した。得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム/n-ヘキサン=1:9から1:4)により精製した。さらに再結晶(トルエン/ヘキサン)により、化合物2の白色固体を得た(2.3g,66%)。
1H NMR (500MHz, CDCl3, δ): 8.61 (d, J = 8 Hz, 1H), 8.23 (s, 1H), 8.00-7.94 (m, 4H), 7.84 (d, J = 8 Hz, 1H), 7.76 (m, 3H), 7.67-7.34 (m, 11H).
MS (ASAP): 500.17 (M+H+). Calcd for C36H21NO2: 499.16.
【0092】
(合成例3)化合物3の合成
【化32】
窒素雰囲気下、2-(3-ブロモフェニル)ジベンゾフラン(0.75g,2.33mmol)、12H-ベンゾフロ[2,3-a]カルバゾール(0.60g,2.33mmol)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)(0.11g,0.12mmol)、トリ-tert-ブチルホスホニウムテトラフルオロボラート(67mg,0.23mmol)およびナトリウム tert-ブトキシド(0.45g,4.66mmol)を20mlのトルエンに加え、24時間還流した。反応溶液を室温まで冷却し、クロロホルムを加えた。得られた有機層を水で2回洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥、溶媒を除去した。得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム/n-ヘキサン=1:4)により精製した。さらに再結晶(トルエン/メタノール)を行い、化合物3の白色固体を得た(0.521g,45%)。
1H NMR (400MHz, CDCl3, δ): 8.31 (s, 1H), 8.23 (d, 2H), 8.17 (d, J = 8 Hz, 1H), 8.06 (d, J = 8 Hz, 1H), 7.92-7.82 (m, 4H), 7.74 (m, 2H), 7.74 (d, J = 9 Hz, 2H), 7.58 (d, J = 8 Hz, 1H), 7.55-7.30 (m, 7H).
MS (ASAP): 500.38 (M+H+). Calcd for C36H21NO2: 499.16.
【0093】
(合成例4)化合物14の合成
【化33】
窒素雰囲気下、ジベンゾ[b,d]フラン-4-イルボロン酸、2-ブロモ-3-フルオロ-1-ニトロベンゼン、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)および炭酸カリウムをTHFと純水(2:1)の混合溶液中に加え、75℃で16時間撹拌する。反応溶液を室温まで冷却し、クロロホルムを加える。有機層を水で2回洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥、溶媒を除去する。得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:n-ヘキサン/クロロホルム=6:4)で精製し、白色固体として中間体Aを得る。
【0094】
【化34】
窒素雰囲気下、中間体A、2-クロロフェノール、および炭酸セシウムをジメチルスルホキシド(DMSO)中に加え、150℃で16時間撹拌する。反応溶液を室温まで冷却し、水を加え、沈殿物を濾過する。得られたろ物を水で洗浄した。得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:n-ヘキサン/クロロホルム=6:4)で精製し、白色固体の中間体Bを得る。
【0095】
【化35】
窒素雰囲気下、中間体B、酢酸パラジウム、トリシクロヘキシルフォスフィン、炭酸セシウムをトルエンに加え、24時間還流する。反応溶液を室温まで冷却し、有機層を水で2回洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥、溶媒を除去する。得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム/n-ヘキサン=1:1)により精製し、白色固体の中間体Cを得る。
【0096】
【化36】
窒素雰囲気下、中間体Cを亜リン酸トリエチル中に加え、150℃で16時間撹拌する。亜リン酸トリエチルを除去し、メタノールを加え、得られた固体をさらにメタノールで洗浄する。その固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:n-ヘキサン/クロロホルム=4:6)で精製し、白色固体の中間体Dを得る。
【0097】
【化37】
窒素雰囲気下、中間体D、2-(3-ブロモフェニル)ジベンゾフラン、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)、トリ-tert-ブチルホスホニウムテトラフルオロボラートおよびナトリウムtert-ブトキシドをトルエンに加え、24時間還流する。反応溶液を室温まで冷却し、クロロホルムを加える。得られた有機層を水で2回洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥、溶媒を除去する。得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム/n-ヘキサン=4:6)により精製する。さらに再結晶(トルエン/メタノール)を行い、白色固体として化合物14を得る。
【0098】
(試験例)ホール移動度の測定
膜厚50nmのインジウム・スズ酸化物(ITO)からなる陽極が形成されたガラス基板上に、HAT-CNを10nmの厚さで蒸着し、次に、α-NPDを10nmの厚さで蒸着し、化合物1を100nmの厚さで形成し、次いでアルミニウム(Al)を100nmの厚さで蒸着することにより陰極を形成し、ホール移動度測定用デバイス1を作製した。各薄膜は真空蒸着法により、真空度5.0×10-5Paで積層した。
化合物1の代わりに、化合物2、化合物3、比較化合物Aの各化合物を用いて、それぞれホール移動度測定用デバイス2~4を作製した。
作製したホール移動度用デバイス1~4の電流密度と電圧特性を測定し、下記の空間制限電流(SCLC)の式からホール移動度を求めた結果を以下の表に示す。一般式(1)で表される化合物1~3を用いたデバイス1~3は、比較化合物Aを用いたデバイス4と比較して一桁以上大きいホール移動度が得られた。このことから、一般式(1)で表される化合物はホスト材料として良好なホール輸送性を有することが確認された。
【数1】
【表1】
【化38】
【0099】
(実施例1)有機フォトルミネッセンス素子の作製と評価
回転基板上に真空蒸着法にて、真空度5.0×10-5Paで化合物1とTADF1とを異なる蒸着源から蒸着し、TADF1の濃度が20質量%である薄膜を75nmの厚さで形成することにより有機フォトルミネッセンス素子を作製した。この素子をFL素子1とした。
また、化合物1とTADF1の代わりに、以下の表に示す材料をそれぞれ用いてFL素子2~8も作製した。
作製したFL素子1~8について、280nm励起光を用いて発光量子収率(PLQY)を測定した結果を以下の表に示す。一般式(1)で表される化合物1~3のホスト材料に遅延蛍光材料をドープした混合膜では良好な発光量子収率が得られた。一方、比較化合物Bをホスト材料とした混合膜の発光量子収率は極端に低かった。このことから、ベンゾフロカルバゾール基およびジベンゾフラノ基を有しない比較化合物は遅延蛍光材料のホスト材料として機能しないことが示唆された。
【表2】
【化39】
【0100】
(実施例2)有機エレクトロルミネッセンス素子の作製と評価
膜厚50nmのインジウム・スズ酸化物(ITO)からなる陽極が形成されたガラス基板上に、以下の各薄膜を真空蒸着法にて、真空度5.0×10-5Paで積層することにより有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
まず、ITO上にHAT-CNを10nmの厚さに形成し、その上に、α-NPDを30nmの厚さに形成した。次にTris-PCzを10nmの厚さに形成し、その上にPYD2Czを5nmの厚さに形成した。次に、遅延蛍光材料(TADF3)と化合物1を異なる蒸着源から共蒸着し、30nmの厚さの層を形成して発光層とした。このとき遅延蛍光材料の含有量は45質量%、化合物1の含有量は55質量%とした。次に、SF3-TRZを10nmの厚さに形成した後、LiqとSF3-TRZを異なる蒸着源から共蒸着し、30nmの厚さの層を形成した。この層におけるLiqとSF3-TRZの含有量はそれぞれ30質量%と70質量%とした。さらにLiqを2nmの厚さに形成し、次いでアルミニウム(Al)を100nmの厚さに蒸着することにより陰極を形成し、有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。この素子をEL素子1とした。
また、化合物1の代わりに比較化合物Aを用いて、EL素子2を作製した。
作製した各有機エレクトロルミネッセンス素子の電流密度12.6mA/cmにおける駆動電圧を測定したところ、EL素子1(本発明)はEL素子2(比較例)よりも0.4eV低かった。このことから一般式(1)で表される化合物を遅延蛍光材料のホスト材料として用いた有機エレクトロルミネッセンス素子は、良好な電気伝導性を有することが確認された。
【化40】
【0101】
(実施例3)別の有機エレクトロルミネッセンス素子の作製と評価
実施例2における化合物1の代わりに、化合物2、化合物3の各化合物を用いて、それぞれEL素子3~4を作製した。
各EL素子について、実施例2と同じ方法により駆動電圧を測定した。以下の表に、EL素子2の駆動電圧を基準として、各EL素子の駆動電圧の差を計算した結果を「駆動電圧」として示した。値が小さいほど、駆動電圧が低いことを示している。また、EL素子2~4を電流密度12.6mA/cmの定電流密度で連続駆動させたときの発光輝度が初期輝度の95%になるまでの時間を測定し、EL素子2の測定時間に対する各EL素子の測定時間の比を計算した結果を以下の表に「素子寿命」として示した。値が大きいほど素子寿命が長いことを示している。
一般式(1)で表される化合物2~3を用いたEL素子3~4は、比較化合物Aを用いたEL素子2と比較して低い電圧での駆動が観測された。また、一般式(1)で表される化合物2~3を用いたEL素子3~4は、比較化合物Aを用いたEL素子2と比較して輝度劣化を抑制できることが確認された。このことから一般式(1)で表される化合物を遅延蛍光材料のホスト材料として用いた有機エレクトロルミネッセンス素子は、良好な電気伝導性と素子耐久性を有することが確認された。
【表3】
【0102】
(実施例4)遅延蛍光材料をアシストドーパントとして用いた有機エレクトロルミネッセンス素子の作製と評価
次に、実施例2の発光層を、遅延蛍光材料(TADF4)と化合物3とD35とをそれぞれ異なる蒸着源から共蒸着した発光層に変更し、その他は実施例2と同様の素子を作製してEL素子5とした。このとき、発光層における遅延蛍光材料の含有量は30質量%、化合物3の含有量は69.5質量%、D35の含有量は0.5質量%とした。D35の最低励起一重項エネルギーは、遅延蛍光材料(TADF4)よりも低かった。
また、遅延蛍光材料と化合物3の含有量を変更し、それぞれEL素子6~7を作製した。さらに、EL素子6の化合物3を比較化合物Aに変更し、比較例であるEL素子8とした。
作製した各有機エレクトロルミネッセンス素子の電流密度50mA/cmにおける駆動電圧および素子寿命を実施例2~3と同様に評価した。EL素子5~8からの発光の最大成分はD35からの発光であった。
遅延蛍光材料をアシストドーパントとし、一般式(1)で表される化合物3を用いたEL素子5~7においても、比較化合物Aを用いたEL素子8と比較して低い電圧での駆動が観測された。また、一般式(1)で表される化合物3を用いたEL素子6は、同じホスト材料含有量で比較化合物Aを用いたEL素子8と比較して輝度劣化を大幅に抑制できることが確認された。このことから一般式(1)で表される化合物を遅延蛍光材料および蛍光性材料のホスト材料として用いた有機エレクトロルミネッセンス素子は、良好な電気伝導性と素子耐久性を有することが確認された。
【0103】
【表4】
【化41】
【符号の説明】
【0104】
1 基材
2 陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 発光層
6 電子輸送層
7 陰極
図1