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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-27
(45)【発行日】2024-12-05
(54)【発明の名称】マウスピースジスク製造方法
(51)【国際特許分類】
   A63B 71/08 20060101AFI20241128BHJP
【FI】
A63B71/08 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021576199
(86)(22)【出願日】2021-02-05
(86)【国際出願番号】 JP2021004423
(87)【国際公開番号】W WO2021157723
(87)【国際公開日】2021-08-12
【審査請求日】2024-01-24
(31)【優先権主張番号】P 2020019902
(32)【優先日】2020-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】524030721
【氏名又は名称】ELEBON株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】水野 芳伸
【審査官】槙 俊秋
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2016-0128652(KR,A)
【文献】特開2018-183246(JP,A)
【文献】特開2014-157874(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 71/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マウスピースジスクの製造方法であって、
第1の樹脂からなる基材の第1の表面にドライエッチングを施す第1表面改質工程と、
前記基材を金型内に配置し、当該金型内に第2の樹脂を供給して、前記第1の表面に第2樹脂層を成形する第2樹脂層成形工程と、
を有し、前記第1の樹脂はグリコール変性ポリエチレンテレフタレート(PETG)であり、前記第2の樹脂はポリウレタン系エラストマーであることを特徴とするマウスピースジスク製造方法。
【請求項2】
前記第1の樹脂として、前記グリコール変性ポリエチレンテレフタレート(PETG)の代わりに、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリシクロへキシレン・ジメチレン・テレフタレート(PCT)及びグリコール変性ポリシクロへキシレン・ジメチレン・テレフタレート(PCTG)の何れか1つを用いることを特徴とする請求項1記載のマウスピースジスク製造方法。
【請求項3】
前記第2の樹脂として、前記ポリウレタン系エラストマーの代わりに、ポリオレフィン系エラストマー又はエチレンビニルアセテート(EVA)を用いることを特徴とする請求項1又は2記載のマウスピースジスク製造方法。
【請求項4】
前記第1の表面の反対側の面である第2の表面にドライエッチングを施す第2表面改質工程と、
前記基材を金型内に配置し、当該金型内に第3の樹脂を供給して、前記第2の表面に第3樹脂層を成形する第3樹脂層成形工程と、
を有し、前記第3の樹脂はポリウレタン系エラストマーであることを特徴とする請求項1記載のマウスピースジスク製造方法。
【請求項5】
前記第3の樹脂として、前記ポリウレタン系エラストマーの代わりに、ポリオレフィン系エラストマー又はエチレンビニルアセテート(EVA)を用いることを特徴とする請求項4記載のマウスピースジスク製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マウスピースジスク製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
動作が激しい体どうしの接触が多いスポーツなどでは、歯の一次的な強い噛み締めや顎への衝撃などから、歯が損傷する場合があることが報告されている。これらの怪我を防止する目的から、マウスピースの装着が義務付けられているスポーツもある。
【0003】
またマウスピースは、歯の矯正を目的とするものや、いびき・歯ぎしりの防止を目的とするものもある。
【0004】
このようなマウスピースに求められる基本的な機能は、第一義である衝撃吸収性、歯への装着性(簡単に離脱しない)、噛み締めに対する耐久性、成形形状の持続性などがあるが、材料(一般的にはエンジニアリングプラスチック)として相反する特性もあり、一つの樹脂で製作した場合は上に述べた基本的な機能を、平均的に高めることは難しい。樹脂材の特徴を個々に活かす方法として、マウスピースの形状を保持する形態保持部を形成するためのハード材と、口腔内や歯牙を保護するためのソフト材の2層構造とした2層式のもの(例えば、特許文献1)や、ハード材をソフト材で挟んで3層構造とした3層式のものが考案されている。また、このようなマウスピースは、2層構造や3層構造のジスクを加熱して成形する。
【0005】
【文献】特開2005-118513
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のジスクは2層構造や3層構造にするためにハード材とソフト材を接着剤等で接着していたため、接着剤に含まれる有害物質の人体への影響が懸念されるという問題があった。また、接着剤を用いたものは剥がれやすいという問題もあった。更に、接着剤を用いるとコストがかかる他、ジスクの厚みも大きくなるため、市場に流通している多層マウスピースの材料と厚みの選択肢は、必ずしも広くはなかった。
【0007】
そこで本発明は、2層構造又は3層構造とした接着剤を使用しないマウスピースジスクの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明のマウスピースジスクの製造方法は、第1の樹脂からなる基材の第1の表面にドライエッチングを施す第1表面改質工程と、前記基材を金型内に配置し、当該金型内に第2の樹脂を供給して、前記第1の表面に第2樹脂層を成形する第2樹脂層成形工程と、を有し、前記第1の樹脂はグリコール変性ポリエチレンテレフタレート(PETG)であり、前記第2の樹脂はポリウレタン系エラストマーであることを特徴とする。
【0009】
ここで、前記第1の樹脂として、前記グリコール変性ポリエチレンテレフタレート(PETG)の代わりに、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリシクロへキシレン・ジメチレン・テレフタレート(PCT)及びグリコール変性ポリシクロへキシレン・ジメチレン・テレフタレート(PCTG)の何れか1つを用いてもよい。
【0010】
また、前記第2の樹脂として、前記ポリウレタン系エラストマーの代わりに、ポリオレフィン系エラストマー又はエチレンビニルアセテート(EVA)を用いてもよい。
【0011】
またさらに、前記第1の表面の反対側の面である第2の表面にドライエッチングを施す第2表面改質工程と、前記基材を金型内に配置し、当該金型内に第3の樹脂を供給して、前記第2の表面に第3樹脂層を成形する第3樹脂層成形工程と、を有し、前記第3の樹脂はポリウレタン系エラストマーであってもよい。
【0012】
ここで、前記第3の樹脂として、前記ポリウレタン系エラストマーの代わりに、ポリオレフィン系エラストマー又はエチレンビニルアセテート(EVA)を用いてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、接着剤を使用しないマウスピースジスクの製造方法および接着剤を使用しないマウスピースジスクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明のマウスピースジスクに係る基材を示す斜視図である。
図2】本発明のマウスピースジスク製造方法を示す断面図である。
図3】本発明のマウスピースジスクを示す斜視図である。
図4】本発明のマウスピースジスク製造方法を示す断面図である。
図5】本発明のマウスピースジスクを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明のマウスピースジスクの製造方法を説明する。
【0020】
本発明のマウスピースジスク製造方法は、第1表面改質工程と、第2樹脂層成形工程とで主に構成される。
【0021】
ここで第1表面改質工程とは、第1の樹脂からなる基材1のいずれか一方の面(以下、第1の表面11という)に物理的又は化学的な表面処理を施す工程である。これにより第1の表面11に微細凹凸構造が形成されたり、官能基が生成されたり、あるいは、第1の表面11の濡れ性を向上させたり、汚染物質の除去をすることができるので、当該第1の表面11と第2の樹脂の接着性を向上させることができる。
【0022】
ここで、第1の表面改質工程における表面処理としては、第1の表面11と第2の樹脂の接着性を向上させることができればどのようなものでもよいが、例えば、ドライエッチングを用いることができる。ここでドライエッチングには、反応ガス中に材料を曝す反応性ガスエッチングとプラズマによりガス(N、O、Ar、H、CO等)をイオン化・ラジカル化してエッチングする反応性イオンエッチングがある。
【0023】
また、第2樹脂層成形工程とは、第1の表面11に第2の樹脂を供給して第2樹脂層2を成形する工程である。
【0024】
ここで、第1の樹脂は、主にマウスピースの形状を保持する形態保持部を構成するためのもので、第2の樹脂は、主に口腔内や歯牙を保護するためのものである。
【0025】
第1の樹脂は、マウスピースの使用時において、強く咬合した際にも変形をせずマウスピースとしての形状を保持できるものであればどのようなものでもよく、少なくとも第2の樹脂よりも高い硬度を有するものを用いることができる。また、口腔内で使用されることから、第1の樹脂は、毒性のないものが用いられる。このような樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリシクロへキシレン・ジメチレン・テレフタレート(PCT)を用いることができる。特に、審美性の観点からは、透明で加熱等により白化しない点で、グリコール変性ポリエチレンテレフタレート(PETG)やグリコール変性ポリシクロへキシレン・ジメチレン・テレフタレート(PCTG)が好ましい。
【0026】
また、第2の樹脂は、口腔内や歯牙を保護することができるものであればどのようなものでもよく、第1の樹脂より柔らかい樹脂であって、衝撃等を吸収し、口腔内や歯牙を保護できる程度に柔らかい、弾性又は粘弾性を有するものが好ましい。また、口腔内で使用されることから、第2の樹脂は、毒性のないものが用いられる。このような樹脂としては、具体的には、ポリオレフィン系エラストマーやエチレンビニルアセテート(EVA)、ポリウレタン系エラストマー等の低融点の熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0027】
また、基材1は、図1に示すように、マウスピースに成形した際にその形状を保持する形態保持部となるものである。基材1の形状は、板状又はシート状のもので、マウスピースを成形するのに適した大きさであればどのようなものでもよい。例えば、直径を120~125mm等にすることができる。また、基材1の厚みも、マウスピースを成形したり使用したりするのに適した大きさであればどのようなものでもよい。例えば、0.1~2.0mmの厚さにすればよい。
【0028】
第2樹脂層成形工程は、第1の表面11に第2の樹脂を供給して第2樹脂層2を成形できればどのような方法を用いてもよいが、例えば、基材1を金型5内に配置し、当該金型5に第2の樹脂を供給して、基材1の第1の表面11に第2樹脂層2を成形すればよい。
【0029】
具体的には、まず、図2(a)に示すように、上金型5aと下金型5bからなる金型5を用意する。当該、金型5としては、射出成形やインサート成形に用いる一般的なものを使用することができる。次に、図2(b)に示すように、基材1を下金型5bに配置する。そして、図2(c)に示すように、上金型5aを下金型5bと嵌合して基材1の第1の表面11側に空隙51を形成する。空隙51は、上金型5aに対する下金型5bの位置によって大きさを変えることができ、これにより、第2樹脂層2の厚さを調節することができる。次に、図2(d)に示すように、上金型5aに形成された供給流路52を介して空隙51に流動性のある第2の樹脂を供給し、所定厚さの第2樹脂層2を形成する。第2樹脂層2が固化した後、図2(e)に示すように、上金型5aを外し、最後に、図2(f)に示すように、マウスピースジスクを取り出す。
【0030】
このようにして、本発明のマウスピースジスクを作製することができる。当該マウスピースジスクは、例えば図3に示すように、第1の樹脂からなり、第1の表面11に微細凹凸構造や化学結合に寄与する官能基を有する基材1と、第2の樹脂からなり、第1の表面11に接合された第2樹脂層2の2層構造となる。
【0031】
また、2層構造のマウスピースジスクは、マウスピースとして使用できればどのような厚さでもよいが、接着剤を使用しないため、例えば、基材1と第2樹脂層2を合わせた厚みが3mm以下のものや、1.5mm以下のもの、1mm以下のものを製造することができ、種々の厚みの選択肢を提供することができる。
【0032】
また、本発明のマウスピースジスクの製造方法は、更に第2表面改質工程と、第3樹脂層成形工程とを有してもよい。
【0033】
第2表面改質工程とは、基材1の第1の表面11の反対側の面である第2の表面12に物理的又は化学的な表面処理を施す工程である。これにより第2の表面12に微細凹凸構造が形成されたり、官能基が生成されたり、あるいは、第2の表面12の濡れ性を向上させたり、汚染物質の除去をすることができるので、当該第2の表面12と第3の樹脂の接着性を向上させることができる。
【0034】
ここで、第2の表面改質工程における表面処理としては、第2の表面と第3の樹脂の接着性を向上させることができればどのようなものでもよいが、例えば、ドライエッチングを用いることができる。ここでドライエッチングには、反応ガス中に材料を曝す反応性ガスエッチングとプラズマによりガス(N、O、Ar、H、CO等)をイオン化・ラジカル化してエッチングする反応性イオンエッチングがある。
【0035】
また、第3樹脂層成形工程とは、第2の表面12に第3の樹脂を供給して第3樹脂層3を成形する工程である。
【0036】
ここで第3の樹脂は、口腔内や歯牙を保護することができるものであればどのようなものでもよく、第1の樹脂より柔らかい樹脂であって、衝撃等を吸収し、口腔内や歯牙を保護できる程度に柔らかい、弾性又は粘弾性を有するものが好ましい。また、口腔内で使用されることから、第3の樹脂は、毒性のないものが用いられる。このような樹脂としては、具体的には、ポリオレフィン系エラストマーやエチレンビニルアセテート(EVA)、ポリウレタン系エラストマー等の低融点の熱可塑性樹脂を用いることができる。なお、第3の樹脂は第2の樹脂と同じ樹脂を用いてもよいし、異なる樹脂を用いてもよい。
【0037】
第3樹脂層成形工程は、第2の表面12に第3の樹脂を供給して第3樹脂層3を成形できればどのような方法を用いてもよいが、例えば、図4に示すように、第2樹脂層2が形成された基材1を金型5に配置し、当該金型5に第3の樹脂を供給して、基材1の第1の表面11に第2樹脂層2を成形すればよい。
【0038】
具体的には、まず、図4(a)に示すように、上金型5aと下金型5bからなる金型5を用意する。当該、金型5としては、射出成形やインサート成形に用いる一般的なものを使用することができ、第2樹脂層形成工程で用いた金型を利用することもできる。次に、図4(b)に示すように、第2樹脂層2が形成された基材1を下金型5bに配置する。そして、図4(c)に示すように、上金型5aを下金型5bと嵌合して基材1の第2の表面12側に空隙53を形成する。空隙53は、上金型5aに対する下金型5bの位置によって大きさを変えることができ、これにより、第3樹脂層3の厚さを調節することができる。次に、図4(d)に示すように、上金型5aに形成された供給流路52を介して空隙53に流動性のある第3の樹脂を供給し、所定厚さの第3樹脂層3を形成する。第3樹脂層3が固化した後、図4(e)に示すように、上金型5aを外し、最後に、図4(f)に示すように、マウスピースジスクを取り出す。
【0039】
このようにして、本発明のマウスピースジスクを作製することができる。当該マウスピースジスクは、例えば図5に示すように、第1の樹脂からなり、第1の表面11および第2の表面12に微細凹凸構造や化学結合に寄与する官能基を有する基材1と、第2の樹脂からなり、第1の表面11に接合された第2樹脂層2と、第3の樹脂からなり、第2の表面12に接合された第3樹脂層3の3層構造となる。
【0040】
また、3層構造のマウスピースジスクは、マウスピースとして使用できればどのような厚さでもよいが、接着剤を使用しないため、例えば、基材1、第2樹脂層2および第3樹脂層を合わせた厚みが4.5mm以下のものや、2.5mm以下のもの、2.3mm以下のものを製造することができ、種々の厚みの選択肢を提供することができる。
【符号の説明】
【0041】
1:基材
2:第2樹脂層
3:第3樹脂層
5:金型
5a:上金型
5b:下金型
11:第1の表面
12:第2の表面
51:空隙
52:供給流路
53:空隙
図1
図2
図3
図4
図5