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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-27
(45)【発行日】2024-12-05
(54)【発明の名称】自己消火性を有する樹脂材料
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/04 20060101AFI20241128BHJP
   C08K 3/016 20180101ALI20241128BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
C08L83/04
C08K3/016
C08K3/22
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2023182531
(22)【出願日】2023-10-24
(65)【公開番号】P2024062961
(43)【公開日】2024-05-10
【審査請求日】2024-07-11
(31)【優先権主張番号】P 2022170654
(32)【優先日】2022-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】391028052
【氏名又は名称】共立エレックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114661
【弁理士】
【氏名又は名称】内野 美洋
(72)【発明者】
【氏名】西山 研吾
(72)【発明者】
【氏名】坂口 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】鷹取 拓弥
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-138205(JP,A)
【文献】国際公開第2011/155119(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/040873(WO,A1)
【文献】特開2008-179819(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 83/00-83/16
C08K 3/016-3/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーン樹脂を100重量部、水酸化物系セラミックス粉末を400~900重量部、非ハロゲン系難燃剤を1~20重量部で配合し、
水酸化物系セラミックス粉末100重量%として、平均粒径が10ミクロン以下の水酸化アルミニウムが50~80重量%、平均粒径が10ミクロン以下の水酸化マグネシウムが10~40重量%、平均粒径が10ミクロン以下の水酸化カルシウムが10~40重量%の複合物を用いたことを特徴とする自己消火性を有する樹脂材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電子機器、リチウムイオン電池等の二次電池などからの燃焼を防止するための難燃性と電気絶縁性を有する樹脂材料の組成に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、高圧受電ケーブルの経年劣化による火災、漏電による火災がしばしば発生している。また、車両においても電池部材、コネクタ、配線ケーブルにおいて難燃性が求められているが、最近では電子機器、EV電池の容量増加により、より厳しい部材への難燃化が求められている。航空機においても同様により厳しい部材の難燃化が求められている。
【0003】
不燃性材料としては火災時の延焼を抑えるためにポリ塩化ビニル系樹脂が用いられることがある。しかしながら、これらポリ塩化ビニル系樹脂には可塑剤が用いられるため、経年劣化で硬く脆くなり、破断等の問題が生じる場合がある。また、可塑剤のブリードアウトにより、装置内部への汚染が発生することがある。
【0004】
また、不燃性を確保するためにガラス繊維織物に樹脂を含浸させた難燃性シートが実用化されている(たとえば、特許文献1、2参照。)。しかしながらこれら不燃性シートを用いた製品は可撓性に劣り平面体への使用に制限されている。また、酸素含有樹脂にマイカ、水酸化マグネシウムを用いて難燃性を付与しているシートが実用化されている(たとえば、特許文献3参照。)。
【0005】
これらシートはある程度の可撓性は有するものの、ASTM規格におけるASTM D 568-56Tおよび、ASTM D 635-56Tにおける燃焼テストでは十分な自己自消性があるとは言い難い。
【0006】
シリコーンゴムについても、水酸化金属化合物で難燃化を付与し、セラミック材料などを添加し熱伝導率を大きくした放熱体も提案されている(たとえば、特許文献4参照。)。
【0007】
しかしながら、特許文献4において難燃性はUL94規格でV-0レベルではあるが、水酸化金属化合物の添加量がシリコーン樹脂100重量部に対して10~150重量部であるため、複数回加熱した場合には自己消化性があるとは言い難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2005-319746号公報
【文献】特開2011-84070号公報
【文献】特開2005-179597号公報
【文献】特開平5-140456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の自己消化性樹脂材料はガラス繊維織物を用いてこれにシリコーン樹脂をコーティングしてシート状にしている。また、シリコーン樹脂に無機セラミックスと水酸化物セラミックスを添加して燃焼性を高めている。
【0010】
しかしながら、ガラス繊維織物を基材に用いてシリコーン樹脂をコーティングしたシートは可撓性に劣り柔軟性がなく、ケーブル等への被覆、電子機器への内面への貼り付けが困難である。また、シリコーン樹脂に無機セラミックスと水酸化物セラミックスを添加して燃焼性を高めている材料においてはUL規格でV-0を達成しているが複数回の加熱により形状保持が困難となる。
【0011】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、自己消火性に優れるシリコーン樹脂材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明では、自己消火性を有する樹脂材料において、シリコーン樹脂を100重量部、水酸化物系セラミックス粉末を400~900重量部、非ハロゲン系難燃剤を1~20重量部で配合し、水酸化物系セラミックス粉末100重量%として、平均粒径が10ミクロン以下の水酸化アルミニウムが50~80重量%、平均粒径が10ミクロン以下の水酸化マグネシウムが10~40重量%、平均粒径が10ミクロン以下の水酸化カルシウムが10~40重量%の複合物を用いることにした。
【発明の効果】
【0019】
そして、本発明では、複数回の着火においても自己消火性を示す柔軟性の高い樹脂を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明にかかる自己消化性を示すシリコーン樹脂の具体的な構成について説明する。
【0021】
本発明にかかる水酸化物セラミックスには水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムの複合物が用いられる。また、非ハロゲン系難燃剤には三酸化アンチモン、リン酸エステル系化合物が用いられる。これらの自己消化樹脂はシート成形、押出成形、射出成形およびプレス成形により所望する製品が得られる。
【0022】
シリコーン樹脂100重量部に対して水酸化物系セラミックス粉末を400~900重量部、非ハロゲン系難燃剤を1~20重量部を添加することで、自己消化性を有する樹脂が得られるが、水酸化物系セラミックス粉末の添加量が400重量部よりも少ない場合には自己消化性が発揮されず、水酸化物系セラミックス粉末の添加量が900重量部よりも多い場合には得られた樹脂に可撓性が得られず脆くなる。また、非ハロゲン系難燃剤の添加量が1重量部よりも少ない場合には十分な自己消化性が得られず、添加量が20重量部より多く添加しても自己消化性には差が見られず、得られた樹脂がもろくなる。
【0023】
自己消化性樹脂には一液型もしくは二液型熱硬化性のシリコーン樹脂が用いられ、シリコーン樹脂に対して水酸化物系セラミックス粉末と非ハロゲン系難燃剤を常温で混練する。混練には二本ロール、バッチタイプの混練機、二軸型混練機等が用いられる。シート成形する場合には二軸押出機を用いてローラーによりサイジングし、シートを作成後、加熱してシート成形体を得る。複雑な形状を製造する場合にはインジェクション成形、コンプレッション成形もしくはトランスファー成形にて加熱した型に混練した材料を入れて加圧して成形を行う。
【0024】
水酸化物系セラミックス粉末として水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムの複合物が用いられる。使用する粉末の粒径は10ミクロン以下が望ましく、5ミクロン以下がより望ましい。粉末の粒径が10ミクロンよりも大きい場合には自己消化性が発揮できない。また、使用する水酸化物系セラミックス粉末は水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムの1種もしくは2種以上が用いられるが、水酸化アルミニウムと水酸化カルシウムの2種の混合物もしくは水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムの2種の混合物を用いることで、より自己消化性を発揮することができる。
【0025】
特に水酸化アルミニウムの添加量が50重量%~80重量%、水酸化マグネシウムが10~40重量%、水酸化カルシウムが10~40重量%の範囲にあることでより高い自己消化性を発揮することができる。特に水酸化アルミニウムは200℃付近からの脱水による吸熱反応が生じ、水酸化カルシウムでは400℃付近からの脱水による吸熱反応が生じ、水酸化マグネシウムでは420℃付近からの脱水による吸熱反応が生じる。このため、水酸化アルミニウムのみを添加した場合では200℃付近から350℃付近で脱水反応が生じることで、製品の温度が200℃を超えた時点で自己消化性は発揮できるが同程度の温度に長時間晒された際には成形体表層は水酸化アルミニウムから酸化アルミニウムに変化するため、自己消化性を保持することが困難になる。そこで、水酸化アルミニウムに対して、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムを添加することで200℃を超える温度域での自己消化性を保持することが可能になる。しかしながら、UL94に基づく燃焼試験においてV-0以上の難燃性を示すためには水酸化アルミニウムの添加が50重量%よりも少ない場合には自己消化性を保持することが困難になる。また、水酸化物系セラミックス粉末の分散性を高めるために低分子シロキサンエステル、シラノール等の分散剤およびシランカップリング剤,チタンカップリング剤等の濡れ性付与剤を用いてもよい。
【0026】
以下、実施例及び比較例により発明をさらに説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例
【0027】
[実施例1]
ミラブル型シリコーン樹脂(モメンティブTSE221-3U)を100重量部用いて、これに加硫剤(モメンティブTC-8)0.6重量部、水酸化アルミニウム500重量部、水酸化マグネシウム100重量部、水酸化カルシウム100重量部ならびに三酸化アンチモン10重量部を添加し、加圧混練機を用いて室温化で混練を行った。混練を行った混合物をプランジャータイプの押出成形機を用いてTダイにより肉厚1mm幅100mmのシート成形体を作成した。得られた成形体を170℃で10分一次加硫を行い、次いで200℃4時間で二次加硫を行った。
【0028】
得られたシートをUL94規格での難燃性テストを実施した。得られたシートのUL94燃焼試験での結果では難燃性がV-0であることが確認された。また、試験完了後の試験片を冷却の後、再度燃焼試験を実施した結果においてもV-0であることが確認された。同様の試験を合計で5回繰り返してもV-0であることが確認された。
【0029】
[実施例2、3、4、比較例1、2、3、4]
下記に実施例1における樹脂、加硫剤を用いて、使用した水酸化物系セラミックス粉末の配合を変えてシート成形体を実施例1の条件で作成した。燃焼実験を実施した結果を下記に示す。
【0030】
【表1】
【0031】
[実施例5]
シリコーン樹脂(KE-104GEL)に水酸化アルミニウム(CW-325L,C-301N)を充填して混合した後にシート状にしたシートをUL94規格での難燃性テストを実施した。その結果を下記に示す。
【0032】
【表2】
【0033】
水酸化アルミニウムの充填率(体積%)が20%では、シートを炎から離した後も少しの間燃え続けたが、充填率が40%以上では、シートを炎から離すと直ぐに消え、UL94燃焼試験での結果は難燃性がV-0であることが確認された。さらに、充填率が55%以上では、シートが赤熱したものの燃えはせず、UL94燃焼試験での結果は難燃性が5V-Aであることが確認された。なお、充填率を80%以上とするシート状に成形することが困難であった。これにより、水酸化アルミニウムをシリコーン樹脂に50~75vol%充填することで自己消化性を有するシートを製造することができる。なお、水酸化アルミニウムに限られず、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムなどの水酸化物系セラミックス粉末でも同様である。
【0034】
以上に説明したように、シリコーン樹脂に水酸化物系セラミックス粉末である水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムを添加して成形体を作成することにより、自己消化性の高い成形体を作成することができ、電子機器、自動車等の車両中のコネクタ、EV車両の電池等、火災を防ぐ必要性の高い部材に使用される。