(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-27
(45)【発行日】2024-12-05
(54)【発明の名称】難燃断熱管および管継手
(51)【国際特許分類】
F16L 59/147 20060101AFI20241128BHJP
F16L 11/04 20060101ALI20241128BHJP
B32B 1/08 20060101ALI20241128BHJP
B32B 5/18 20060101ALI20241128BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20241128BHJP
B29C 44/00 20060101ALI20241128BHJP
B29C 48/09 20190101ALI20241128BHJP
【FI】
F16L59/147
F16L11/04
B32B1/08 B
B32B5/18
B32B27/18 B
B29C44/00 E
B29C48/09
(21)【出願番号】P 2024089644
(22)【出願日】2024-06-03
【審査請求日】2024-10-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000134534
【氏名又は名称】株式会社トヨックス
(74)【代理人】
【識別番号】110002022
【氏名又は名称】弁理士法人コスモ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水島 直人
【審査官】杉山 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-177784(JP,A)
【文献】特開平07-329220(JP,A)
【文献】特開2004-323757(JP,A)
【文献】国際公開第2021/220967(WO,A1)
【文献】特表2008-546575(JP,A)
【文献】特開2021-024903(JP,A)
【文献】特開2000-313748(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 59/147
F16L 11/04
B32B 1/08
B32B 5/18
B32B 27/18
B29C 44/00
B29C 48/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
柔軟な可撓管からなる管本体と、
熱可塑性樹脂と難燃剤とを含有する混合物を押出成形して化学発泡または物理発泡させた独立発泡構造を有するシート状物を前記管本体の外側を覆うように積層した弾性変形可能な発泡材からなる発泡層と、
前記発泡層の外側を覆うように積層された保護フィルムからなる保護層と、を備えた難燃断熱管であって、
前記発泡材はJIS-K-6767に準拠して測定された前記押出成形の押出方向における引き裂き強さが15N/cm以上、且つ、前記押出方向における100%引張後の残留伸び率が10%以下であり、
前記管本体と前記発泡層は非接着であり、且つ、互いに自在に動くように積層されていることを特徴とする難燃断熱管。
【請求項2】
前記管本体の外側周長(A)と前記発泡層の内側周長(B)の比(B)/(A)が、1.05~1.1を満たすことを特徴とする請求項1に記載の難燃断熱管。
【請求項3】
前記可撓管からなる管本体が、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーのいずれか、あるいはそれらの組み合わせからなる混合物を押出成形して形成された柔軟な可撓管である、請求項2に記載の難燃断熱管。
【請求項4】
JIS-K-7111-1に基づいて測定した23℃でのシャルピー衝撃強さが7kJ/m
2以上、JIS-K-7111-1に準じて測定した0℃でのシャルピー衝撃強さが5kJ/m
2以上、JIS-K-7111-1に準じて測定した-20℃でのシャルピー衝撃強さが4kJ/m
2以上であり、被覆材がFM4910の難燃性テスト(FMRC)に基づいて測定した難燃指数FPIが6以下、発煙指数SDIが0.4以下であることを特徴とする請求項3に記載の難燃断熱管。
【請求項5】
冷却水用に使われる請求項3又は4に記載の難燃断熱管。
【請求項6】
請求項5に記載の難燃断熱管に適応した管継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば半導体製造分野、医療分野、食品工業分野、工業部品分野などに用いられる断熱性、難燃性に優れ、柔軟性が良好な難燃断熱管および本発明の難燃断熱管に最適化された管継手に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造分野、医療分野、食品工業分野、工業部品分野などに用いられるチューブやホースには、輸送される化学原料などの流体が温度変化により品質低下するのを防いだり、エネルギー損失を防いだりする目的で断熱性が要求され、配管に発泡材を被覆した断熱管が使用されている。
【0003】
また、建造物や工場での火災発生時に延焼し被害が拡大することを抑制する目的で、装置や工場設備及びその構成要素に対する難燃化の必要性が高くなっている。上記断熱管に被覆する発泡材としては、ポリエチレンなどのポリオレフィン系樹脂を発泡させたシートやチューブが一般的であるが、これらは燃えやすく、難燃化の要請に応えるため難燃剤を含有した発泡材が代わりに使用される。
【0004】
一例として半導体の製造では、クリーンルームを使用しなければならない。クリーンルーム中の半導体チップ加工設備や他の備品、例えばウェットベンチ、ウェハー保管キャビネットなどは、一定の着火性試験に合格しなければならない。ファクトリー・ミューテュアル・リサーチ・コーポレーション(Factory Mutual Research Corporation;FMRC)は、「FMRCクリーンルーム材料着火性試験法(FMRC Clean Room Materials Flammability Test Protocol)」(第2改訂版、1997年2月)(「FM4910基準」)という標題のクリーンルーム備品の着火性基準を提案している。本発明に関連する勧告は、損失防止データー,半導体製造施設(ファクトリー・ミューテュアル・エンジニアリング・コーポレーション(Factory Mutual Engineering Corporation),1997年),第2.4節 加工工具および生成物保管に見出される。この出版物の第2.4.1節では、新たなウェットベンチおよび他の加工工具は不燃性材料で構成されることを要求している。「腐食性生成物を処理する可燃物から構成されている現行のウェットベンチは、第2.4.1節に準拠したウェットベンチに代えるべきである」(第2.4.3節)。「不燃性材料、またはFMRC規格試験によるFMRCクリーンルーム材料着火性試験法の基準に合う材料を、ミニ環境の囲い込みに使用すべきである」(第2.4.6節)。
【0005】
クリーンルームに火災が発生すると、火、煙および/または腐食性の燃焼副生成物により損害が生じる可能性がある。火災による損害がごく僅かであっても、煙や腐食性の燃焼副生成物が製品やクリーンルームの加工備品や他の備品を破壊する可能性がある。従って、小さな火災であっても、厖大な金銭的損失を引起す可能性がある。FM4910基準に合格した材料は、半導体チップ加工備品およびクリーンルーム備品に加工することができ、固定式火災防止とも呼ばれる追加の火災感知および消火設備を設置する必要はない。これは、防火設備の誤作動による警報によりウェハー生産の損失、従って金銭的損失を招くことがあるので、望ましいことである。従って、FM4910基準に合格した材料は、半導体チップ加工備品およびクリーンルーム備品で使用するのに好ましい。
【0006】
半導体チップ加工備品およびクリーンルーム備品の製造には、様々な材料が用いられてきた。ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ペルフルオロアルコキシ(PFA)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のような熱可塑性材料が用いられてきた。これらの熱可塑性材料はFM4910基準に合格し、従って追加の火災感知および消火設備なしで用いることができるが、これらは比較的高価なポリマーである。
【0007】
ポリプロピレンなどのポリオレフィン材料も、半導体チップ加工備品およびクリーンルーム備品に用いられてきた。半導体用途でのポリプロピレン、FR-ポリプロピレンおよびPVCは、湿潤部品または一次加工薬品収納には用いられない。これらの材料は、構造材料として腐食性の湿潤工具構築に用いられる。それらは、典型的には加工容器、薬品送達装置、ロボットなどを収納するプラスチック製の箱を構成している。それらはまた、加工蒸気収納の機能も有し、幾つかの用途では、プレナム・ドレン(plenum drainage)に用いられ、また加工容器の故障による加工薬品を短期間収納する役割も行う。加工流体との接触は、希薄で断続的な接触、すなわちプレナム・ドレンであるか、または加工容器の洗浄(splashing)、充填またはウェハーボートの水切り(dripping)、移し換えの結果として起こる。ポリオレフィンは廉価なポリマーであるので、それを用いるのが有利である。しかしながら、難燃性ポリオレフィンは、いずれもFM4910基準に合格することができなかった。従って、ポリオレフィン製の半導体チップ加工備品およびクリーンルーム備品には、火災感知および消火設備が必要である。
【0008】
従って、FM4910基準に合格する廉価な難燃性ポリオレフィン組成物が求められている。この組成物は、加工が容易であり、半導体チップ加工備品およびクリーンルーム備品に形成することができるものでなければならない。この組成物は、この備品を作成するのに用いることができるようにする必要な物性を有するべきである。
【0009】
先行技術として、例えば特許文献1には、円管状のさや管と、該さや管に内挿された円管状の断熱材と、該断熱材に内挿された1本の円管状の樹脂管とを有し、該断熱材の外周面がフィルムで被包されている温冷水配管において、該さや管の内径Dと該断熱材の外径Cとの差(D-C)が2~10mm、かつ該断熱材の外周面が凹凸面となっていることを特徴とする温冷水配管が開示されている。また、特許文献2には、ポリエチレン系樹脂と有機難燃剤とを含有する混練物に発泡剤を供給し、押出成形して発泡させるポリエチレン系難燃性樹脂発泡体の製造方法において、示差熱分析による、該ポリエチレン系樹脂の融解ピーク(RTm)と、該有機難燃剤の融解範囲の上限値(ATm)とが、0≦RTm-ATm≦40の関係を有することを特徴とするポリエチレン系難燃性樹脂発泡体の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2007-205551号公報
【文献】特開2006-199760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
近年、半導体製造工場においても難燃化の要請は高まっており、各種半導体製造装置の冷却流路用断熱管もまた難燃断熱管が使用される。例えば、半導体デバイスに回路パターンを形成する電子ビーム描画装置などの精密動作が要求される半導体製造装置は駆動熱で動作精度が低下するのを抑制するために冷却水が循環する冷却流路を備え、冷却水の水温を一定に保つための断熱性と、延焼を抑えるための難燃性が必要とされる。それらの装置では、複雑な内部構造でも狭小配管が可能な柔軟性も要求され、特許文献1や特許文献2に記載の従来の金属管や架橋ポリオレフィン系樹脂管よりも柔軟な、可撓性のホースやチューブが難燃断熱管の内管として好適に使用される。
【0012】
しかし、それらのホースやチューブを内管に使用した場合、従来の難燃断熱管に比べて非常に小さな曲げ半径で曲げて使用することから、特に、曲げの外周側で強く引っ張られた発泡材が伸びて薄くなり、難燃性や断熱性が損なわれるという問題があった。また、難燃断熱管の曲げ伸ばしを繰り返す用途においては、伸びて薄くなった発泡材が復元せず、弛みやシワが装置などとの擦れにより損傷し、発泡材の破片が異物として発生する恐れがあった。
【0013】
恒温恒湿クリーンルーム内結露、過剰の水分を嫌う産業、作業工程などが増えている。その時にも冷却は必要となるが、恒温恒湿条件と冷却水温度、流量条件の組み合わせ次第では結露が生じ、結果としてシビアに制御されている恒温恒湿条件を崩すとか、過剰水分が工程で使用される薬剤と反応し失活させるなどの不具合を生じることも多々ある。
【0014】
本発明は、以上の点に鑑み、難燃性、断熱性に優れ、柔軟性が良好であり、結露した水分が蒸発飛散しない難燃断熱管および管継手を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、本発明の難燃断熱管により上記の課題を解決できることを見出した。本発明の難燃断熱管は、柔軟な可撓管からなる管本体と、熱可塑性樹脂と難燃剤とを含有する混合物を押出成形して化学発泡または物理発泡させた独立発泡構造を有するシート状物を前記管本体の外側を覆うように積層した弾性変形可能な発泡材からなる発泡層と、前記発泡層の外側を覆うように積層された保護フィルムからなる保護層と、を備えた難燃断熱管であって、前記発泡材はJIS-K-6767に準拠して測定された前記押出成形の押出方向における引き裂き強さが15N/cm以上、且つ、前記押出方向における100%引張後の残留伸び率が10%以下であり、前記管本体と前記発泡層は非接着であり、且つ、互いに自在に動くように積層されていることを特徴とする。
【0016】
本発明の管継手は、上記の難燃断熱管に適応している。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、難燃性、断熱性に優れ、柔軟性が良好であり、結露した水分が蒸発飛散しない難燃断熱管および管継手を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態に係る難燃断熱管の一部切欠正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、
図1を参照して本発明の実施形態について説明する。本発明の実施形態に係る難燃断熱管H1(
図1参照)は、柔軟な可撓管からなる管本体1と、熱可塑性樹脂と難燃剤とを含有する混合物を押出成形して化学発泡または物理発泡させた独立発泡構造を有するシート状物を管本体1の外側を覆うように積層した弾性変形可能な発泡材からなる発泡層2と、発泡層2の外側を覆うように積層された熱可塑性樹脂フィルムからなる保護層3とを備えている。
【0020】
発泡層2を構成する発泡材は、押出成形時の押出方向(以下、「押出方向」という。)におけるJIS-K-6767に準拠して測定された引き裂き強さが15N/cm以上、且つ、押出方向における100%引張後の残留伸び率が10%以下である。管本体1と発泡層2は、非接着であり、且つ、互いに自在に動くように積層されている。
【0021】
本実施形態の難燃断熱管H1の発泡層2を構成する発泡材の引き裂き強度(JIS-K-6767に準拠して測定)を15N/cm以上とすることで、曲げの外周側など応力が繰り返しかかる箇所においても亀裂などの損傷が生じない耐久性を備えたものとなり、長期間の難燃性と断熱性を備えた難燃断熱管H1とすることができる。引き裂き強度が15N/cm未満であると繰り返しの曲げ伸ばしにより発泡材に亀裂が発生し、熱が伝導しやすかったり、火災時に内部の樹脂が溶融されて延焼を防げなかったりするなどして、柔軟な難燃断熱管H1を実現することができない。耐久性をより高いものとするために、引き裂き強度は18N/cm以上が好ましく、20N/cm以上がさらに好ましい。
【0022】
また、本実施形態の難燃断熱管H1の発泡層を構成する発泡材の100%引張後の残留伸び率を10%以下とすることで、曲げの外周側など応力が繰り返しかかる箇所においても厚みの変化や弛みなどが生じない耐久性を備えたものとなり、長期間の難燃性と断熱性を備えた難燃断熱管H1とすることができる。100%引張後の残留伸び率が10%より大きいと繰り返しの曲げ伸ばしにより発生した発泡材に厚みの変化や弛みが復元せず、熱が伝導しやすかったり、装置や設備などとの擦れにより損傷し異物が発生したりするなどして、柔軟な難燃断熱管H1を実現することができない。耐久性をより高いものとするために、残留伸び率は8%以下が好ましく、5%以下がさらに好ましい。
【0023】
このような用途における発泡材は十分な長さを連続的に成形するという製造上の都合から押出成形により形成されるが、一般に押出成形により得られた発泡材は気泡のアスペクト比に偏りがあることから、その物性においても異方性があることが知られている。本実施形態の難燃断熱管H1の発泡層2を構成する発泡材は、成形時に押出方向と可撓管の管軸方向が一致するように積層されており、発泡材の押出方向における引き裂き強度や残留伸び率を規定することで、上記の優れた特性を得ることができる。
【0024】
また、このような用途における管本体1を構成する可撓管は、その流路を確保しつつ柔軟に曲がるようにするために軸方向に伸長や圧縮が可能なもので構成されており著しく柔軟で、非常に小さな曲げ半径で使用することができる。一般に同じ管径の場合は、曲げ半径が小さいほど曲げの外周側における伸長率は大きいことが知られており、それに伴い可撓管の外側に積層された発泡材にかかる応力も大きくなる。本実施形態の難燃断熱管H1は、発泡層2を構成する発泡材の押出方向における引き裂き強度や残留伸び率を規定することで、従来の難燃断熱管と比較して非常に小さな曲げ半径で使用する場合においても、上記の優れた特性を得ることができる。
【0025】
さらに、本実施形態の難燃断熱管H1の管本体1と発泡層2を非接着、且つ、互いに自在に動くように積層することで、発泡材が管本体1の伸長や圧縮に追従して応力がかかることを抑制し、繰り返しの曲げ伸ばしによる発泡材の亀裂やシワが発生せず、長期間の難燃性と断熱性を備えた難燃断熱管H1とすることができる。
【0026】
仮に難燃断熱管H1の管本体1と発泡層2が接着されている場合、繰り返しの曲げ伸ばしにより管本体1と一体となって伸長や圧縮を繰り返し、発泡材に亀裂やシワが発生するなどして柔軟な難燃断熱管H1を実現することができない。また、難燃断熱管H1の管本体1と発泡層2が非接着であっても、テープや熱収縮チューブなどで管本体に密着され互いに自在に動かないように固定されている場合も、発泡材が管本体の伸長や圧縮に追従して応力がかかることから同様の問題が発生し柔軟な難燃断熱管H1を実現することができない。難燃断熱管H1の管本体1端部を、継手などを用いて別の装置に接続する際にも、管本体1と発泡層2が非接着であることから容易に除去が可能で施工作業において有利である。
【0027】
本実施形態の難燃断熱管H1の管本体1と発泡層2のクリアランスは、管本体1の外側周長(A)と発泡層2の内側周長(B)の比(B)/(A)により規定することができる。(B)/(A)は1.01~1.15の範囲にあることが好ましく1.05~1.10がさらに好ましい。クリアランスがこの範囲内にあると、管本体1と発泡層2が互いに自在に動くことが可能であり、弛みやシワの原因となる発泡材の余剰が少なく、発泡層2を積層する際の生産性も良好なものとなる。
【0028】
本実施形態の管本体1を構成する可撓管は、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーのいずれか、およびそれらの組み合わせからなる混合物を押出成形して形成され、必要に応じて種々の構造のものを使用することができる。
【0029】
上記の可撓管の構造としては、単一の材料からなる単層チューブや、物性が異なる複数の層を積層した多層チューブ、層間に補強材を備えたホースなどを例示することができる。
【0030】
上記の補強材としては、ポリエステル、PET、ナイロン(登録商標)またはアラミド繊維等からなる複数本または単数本のブレード、オレフィン樹脂、ポリエステル樹脂等からなるモノフィラメント、細いモノフィラメント(monofilament:単繊維)を編んだマルチフィラメント、テープ状の糸からなるフラットヤーン(またはテープヤーン)、ステンレス等からなる金属線またはステンレスに類する硬質材料からなるコイル、およびそれらを組み合わせたものなどを例示することができる。
【0031】
本実施形態の発泡層2を構成する発泡材は、熱可塑性樹脂と難燃剤とを含有する混合物を押出成形して発泡させたシート状に形成され、管本体1の外側を覆うように積層される。上記の熱可塑性樹脂としては、低分子量ポリオレフィン樹脂、中高分子量ポリオレフィン樹脂、塩化ビニル樹脂、ウレタン樹脂、ポリアミド樹脂を例示することができ、特にポリオレフィン樹脂が好ましいが、これに限定されるものではない。
【0032】
上記の熱可塑性エラストマーとしては、シリコーン、ウレタン、ニトリルゴム、スチレン-ブタジエンゴム、クロロプレン、ホスファゼン、フルオロエラストマー、ペルフルオロエラストマー、ペルフルオロポリエーテルエラストマー、メチルシリコーン、フェニルシリコーン、フルオロシリコーン、又はこれらの組み合わせを例示することができる。
【0033】
ポリエチレン樹脂としては、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-メチルアクリレート共重合体及びエチレン-エチルアクリレート共重合体などのエチレン-アクリレート系共重合体、エチレン-メチルメタクリレート共重合体及びエチレン-エチルメタクリレート共重合体などのエチレン-メタクリレート系共重合体、及びそれらを組み合わせたものなどを例示することができる。
【0034】
上記のポリプロピレン樹脂としては、ホモポリプロピレン、プロピレンを50質量%以上含有するプロピレン-α-オレフィン共重合体、及びそれらを組み合わせたものなどを例示することができる。
【0035】
FM4910基準に合格するポリマーは、典型的には極限酸素指数(LOI)が高く、45を上回る。難燃性ポリオレフィン材料の典型的な方法は、LOIを増加させる気相FRを添加することである。これらの気相FRは、火災の周囲の区域における利用可能な酸素を包み込むことによって、炎を酸素不足にする。この理論を支持すれば、PVDFおよびPFAはLOIが約100であり、またエチレン-トリフルオロエチレン(ECTFE)はLOIが約60でありFM4910基準に合格する。ポリフッ化ビニリデン(PVDF)はLOIが45であり、ボーダーライン上にあるが、エチレン-トリフルオロエチレン(ETFE)はLIOが38であり不合格になると推定される。過去において用いられてきたポリプロピレンおよび難燃性ポリプロピレンはLOIが約30~35の範囲であり、これもまた不合格となると推定される。結果として、高LOIを有する樹脂もしくは難燃材を添加し充分に複合化された樹脂であればFM4910基準に合格すると思われる。
【0036】
上記の難燃剤としては、臭素や塩素を含有するハロゲン化合物、リン化合物、水和帰属化合物、ホウ酸亜鉛などを例示することができる。特に、水和帰属化合物が好ましい。これは、水和帰属化合物中の水が蒸発することにより、熱を表面から極めて速やかに取除くためである。これにより、極めて高い耐発火性および耐火災伝播性を与え、樹脂は炭化物層を形成し、炎の伝播を阻害する。
【0037】
また、難燃剤と併用することで難燃性を向上する難燃助剤を使用することもできる。上記難燃助剤としては、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、スズ酸亜鉛、硫化亜鉛、ホウ酸亜鉛、モリブデン化合物、鉄酸化物などを例示することができる。コストやポリオレフィン系樹脂との相溶性に優れることから、難燃剤としてはハロゲン化合物が好ましく、ハロゲン化合物との相乗効果が大きいことから、難燃助剤としては三酸化アンチモンや五酸化アンチモンが好ましい。
【0038】
上記の発泡体の製造方法としては、直鎖又は分岐脂肪族炭化水素や脂環式炭化水素からなる揮発性発泡剤を混合した溶融樹脂をシート状あるいは管状に押出成形する方法や、有機あるいは無機系の熱分解型発泡剤を混合した溶融樹脂をシート状に押出成形した後に電離性放射線を照射して架橋し、架橋したシートを更に加熱することで発泡させる方法などを例示することができる。
【0039】
上記の発泡体は十分な断熱性を備えるため、みかけ密度が0.065g/cm3以下(発泡倍率で表すと約15.4倍以上)であることが好ましく、0.05g/cm3以下(発泡倍率で表すと約20倍以上)であることがより好ましい。
【0040】
本実施形態の発泡層2の積層方法としては、管本体1の外側を覆うように発泡材を管状に押出成形して積層する方法や、あらかじめシート状に押出成形した発泡材を、管本体1の外側を覆うように丸めて突き合せた端面を熱融着して管状に形成し積層する方法などを例示することができる。
【0041】
上記の発泡層2は十分な難燃性、断熱性、および柔軟性を備えるため、発泡層2の厚みが1~15mmであることが好ましく、3~10mmであることがさらに好ましい。
【0042】
本実施形態の保護層3の積層方法、熱可塑性樹脂や熱可塑性エラストマーなどを、Tダイ法やインフレーション押出法などにより成形した保護フィルムを発泡層2の外側を覆うように巻回する方法や、シート状に押出成形した発泡材の表面にあらかじめ押出ラミネーション法により直接形成する方法などを例示することができる。
【0043】
また、本実施形態の難燃断熱管H1は、JIS-K-7111-1に基づいて測定した23℃でのシャルピー衝撃強さが7kJ/m2以上、JIS-K-7111-1に準じて測定した0℃でのシャルピー衝撃強さが5kJ/m2以上、JIS-K-7111-1に準じて測定した-20℃でのシャルピー衝撃強さが4kJ/m2以上であり、被覆材がFM4910の難燃性テスト(FMRC)に基づいて測定した難燃指数FPIが6以下、発煙指数SDIが0.4以下であることが好ましい。
【0044】
上記のFM4910の難燃性テスト(FMRC)とは、北米を根拠地とする産業相互保険組織(ファクトリー・ミューチアル・システム)が定める評価基準のClass Number4910として挙げられているクリーンルーム材料の難燃性テスト(FMRC Clean Room Materials Flammability Test)のことである。
【0045】
FM4910(クリーンルーム材料可燃性試験プロトコール)は、材料の火災伝播挙動と煙による汚染の可能性を特に評価するものである。これはどちらもクリーンルーム用途にとって重要な尺度となり、この規格は「記載されている製品が、性能、安全性、品質に関して明示された最低限の条件を満たしていることを検証すること」を目的とする。材料が準拠するには、火災伝播指数(FPI)と煙害指数(SDI)を生成するために3つのテストを行うことで評価される。
【0046】
1.着火試験
着火試験中、サンプルは固定された状態で様々な外部熱流束にさらし、以下の視点について視覚的に観察および測定する。
・燃焼ガスが発生するまでの時間
・持続着火までの時間
この試験の結果は、臨海熱流束(それ以下では発火が起こらない最大熱流束)と、材料の耐発火性の指標である熱応答パラメーターを計算するために使用する。
【0047】
2.燃焼試験
燃焼試験では、サンプルを50kW/m2の外部熱流束にさらした後、次の項目を測定する。
・蒸発までの時間
・持続着火の確認
・炎の高さ
・熱、CO、CO2、炭化水素、煙の放出率
この導出された煙量の数値は、火災伝播中の環境の煙による汚染の程度を示す煙害指数(SDI)の計算に使用する。
【0048】
3.火災伝播試験
大規模な火災活況をシミュレーションするため、火災伝播試験は酸素40%のチャンバー内で行う。サンプルの底部はパイロット火炎の存在下で50kW/m2の外部熱流束にさらされる。サンプルが燃焼し始めると、目に見える炎がなくなり、サンプルのどの面からも物質蒸気が発生しなくなるまで試験を続ける。
【0049】
この試験の目的は、火が自らの炎の熱流束から自然に伝播するかどうかを確認することであり、結果は、「火災伝播なし」と「火災伝播の加速」の間に分類される。この試験では最終的に火災伝播指数(FPI)を決定する。これは材料が火災の伝播を促進する傾向を表す指数である。
【0050】
本実施形態における難燃断熱管H1としては、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーから選択することが出来る。特に材質に指定はないが、軟質塩化ビニル、ポリオレフィン、フッ素系樹脂、ウレタン樹脂やポリオレフィン系熱可塑性エラストマーを例示することが出来る。
【0051】
本実施形態の難燃断熱管H1は、食品、飲料、半導体製造、医療機器、化学やその他の工業の分野における、各種化学原料や薬品、空気、各種ガス、水等の配管として使用することができる。特に冷却水用ホースとして好ましいものである。
【0052】
なお本発明は、本実施形態に係る難燃断熱管H1に適応した管継手にも適用することができる。
【0053】
以上説明した本実施形態に係る難燃断熱管H1によれば、以下に示す効果を得ることができる。即ち、本実施形態の難燃断熱管H1は、従来の難燃断熱管と比較して非常に小さな曲げ半径で使用する場合や、繰り返しの曲げ伸ばしを行う場合において、柔軟で難燃性、断熱性に優れ、発泡層2の損傷がないことから長期間にわたって難燃性、断熱性を損なうことがない、従来品よりはるかに長寿命なものとして使用できる。
【0054】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0055】
1 管本体 2 発泡層
3 保護層 H1 難燃断熱管
【要約】
【課題】難燃性、断熱性に優れ、柔軟性が良好であり、結露した水分が蒸発飛散しない難燃断熱管および管継手を提供すること。
【解決手段】難燃断熱管H1は、柔軟な可撓管からなる管本体1と、熱可塑性樹脂と難燃剤とを含有する混合物を押出成形して化学発泡または物理発泡させた独立発泡構造を有するシート状物を管本体1の外側を覆うように積層した弾性変形可能な発泡材からなる発泡層2と、発泡層の外側を覆うように積層された保護フィルムからなる保護層3と、を備えた難燃断熱管H1であって、発泡材はJIS-K-6767に準拠して測定された押出成形の押出方向における引き裂き強さが15N/cm以上、且つ、押出方向における100%引張後の残留伸び率が10%以下であり、管本体1と発泡層2は非接着であり、且つ、互いに自在に動くように積層されている。
【選択図】
図1