(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-27
(45)【発行日】2024-12-05
(54)【発明の名称】光拡散フィルム
(51)【国際特許分類】
G02B 5/02 20060101AFI20241128BHJP
【FI】
G02B5/02 B
(21)【出願番号】P 2019032413
(22)【出願日】2019-02-26
【審査請求日】2021-11-29
【審判番号】
【審判請求日】2023-11-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【氏名又は名称】村雨 圭介
(74)【代理人】
【識別番号】100176407
【氏名又は名称】飯田 理啓
(72)【発明者】
【氏名】倉本 達己
(72)【発明者】
【氏名】草間 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】片桐 麦
【合議体】
【審判長】橿本 英吾
【審判官】関根 洋之
【審判官】神谷 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-141591(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0235184(US,A1)
【文献】特開2016-71066(JP,A)
【文献】特開2013-195672(JP,A)
【文献】特開2013-205468(JP,A)
【文献】国際公開第2015/041283(WO,A1)
【文献】特開2017-97219(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム内に、屈折率が相対的に低い領域中に屈折率が相対的に高い複数の領域を備えた内部構造を有する光拡散フィルムであって、
前記光拡散フィルムの23℃における押込弾性率が、30MPa以上であり、
前記内部構造が、屈折率が異なる複数の板状領域をフィルム面に沿った任意の一方向に交互に配置してなるルーバー構造であり、
前記内部構造が、前記光拡散フィルムの厚さ方向の途中において屈曲してなる構造を有しておらず、
前記
光拡散フィルムを形成するための光拡散フィルム用組成物が、シリコーン骨格を有する光硬化性化合物のモノマー、オリゴマー、プレポリマーまたはマクロモノマーを含有しない
ことを特徴とする光拡散フィルム。
【請求項2】
前記光拡散フィルムの23℃における押込弾性率が、500MPa以下であることを特徴とする請求項1に記載の光拡散フィルム。
【請求項3】
前記光拡散フィルムの23℃における引張弾性率が、1MPa以上、500MPa以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の光拡散フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入射角度に依存して入射光を拡散または透過させることができる光拡散フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置や有機発光デバイス等が属する光学技術分野において、特定の方向からの入射光については特定の方向へ強く拡散させることができる光拡散フィルムの使用が検討されている。
【0003】
このような光拡散フィルムの一例としては、屈折率が相対的に低い領域中に、屈折率が相対的に高い複数の領域を備えた内部構造をフィルム内に有するものが存在する。より具体的には、屈折率が異なる複数の板状領域をフィルム面に沿った任意の一方向に沿って交互に配置してなるルーバー構造を有する光拡散フィルムや、屈折率が相対的に低い領域中に屈折率が相対的に高い複数の柱状物を林立させてなるカラム構造を有する光拡散フィルム等が存在する。
【0004】
上述したような光拡散フィルムとして、特許文献1には、所定のウレタン(メタ)アクリレート化合物と、芳香族骨格を有する所定の(メタ)アクリル酸エステル化合物と、所定の光重合開始剤を含有する光拡散フィルム用樹脂組成物を硬化してなる光拡散フィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、従来の光拡散フィルムは、製造時において打痕が生じ易かったり、その他の部材に積層する際に潰れが生じ易いといった問題があった。このような打痕や潰れが生じてしまうと、光拡散フィルムを用いて製造される液晶表示装置等が所望の性能を発揮することができなくなってしまう。
【0007】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、打痕や潰れの発生が抑制された光拡散フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、第1に本発明は、フィルム内に、屈折率が相対的に低い領域中に屈折率が相対的に高い複数の領域を備えた内部構造を有する光拡散フィルムであって、前記光拡散フィルムの23℃における押込弾性率が、30MPa以上であることを特徴とする光拡散フィルムを提供する(発明1)。
【0009】
上記発明(発明1)に係る光拡散フィルムは、23℃における押込弾性率が上述した範囲であることにより、製造時における打痕の発生や、その他の部材に積層する際における潰れの発生が良好に抑制されるものとなる。
【0010】
上記発明(発明1)において、前記光拡散フィルムの23℃における押込弾性率が、500MPa以下であることが好ましい(発明2)。
【0011】
上記発明(発明1,2)において、前記光拡散フィルムの23℃における引張弾性率が、1MPa以上、500MPa以下であることが好ましい(発明3)。
【0012】
上記発明(発明1~3)において、前記光拡散フィルムにおける前記内部構造は、前記屈折率が相対的に低い領域中に、前記屈折率が相対的に高い複数の領域が、フィルム膜厚方向に、所定の長さで延在する内部構造であることが好ましい(発明4)。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る光拡散フィルムは、打痕や潰れが発生しにくい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る光拡散フィルムの内部構造の一例(カラム構造)を概略的に示す斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る光拡散フィルムの内部構造の別の例(ルーバー構造)を概略的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本発明の一実施形態に係る光拡散フィルムは、フィルム内に、屈折率が相対的に低い領域中に屈折率が相対的に高い複数の領域を備えた内部構造を有する。
【0016】
1.光拡散フィルムの物性等
(1)押込弾性率
本実施形態に係る光拡散フィルムの23℃における押込弾性率は、30MPa以上である。これにより、本実施形態に係る光拡散フィルムは、良好な光拡散性を達成しながらも、適度な弾性を有するものとなる。それにより、製造時における打痕の発生が抑制されるとともに、その他の部材に積層される場合であっても、潰れの発生が抑制されるものとなる。この観点から、光拡散フィルムの23℃における押込弾性率は、50MPa以上であることが好ましく、特に100MPa以上であることが好ましい。
【0017】
光拡散フィルムの23℃における押込弾性率の上限値については、特に限定されないものの、良好な光拡散性を達成し易いという観点から、5000MPa以下であることが好ましく、特に1000MPa以下であることが好ましく、さらには300MPa以下であることが好ましい。なお、上記押込弾性率の測定方法の詳細は、後述する試験例に記載の通りである。
【0018】
(2)引張弾性率
本実施形態に係る光拡散フィルムの23℃における引張弾性率は、1MPa以上であることが好ましく、特に5MPa以上であることが好ましく、さらには10MPa以上であることが好ましい。また、上記引張弾性率は、500MPa以下であることが好ましく、特に100MPa以下であることが好ましく、さらには50MPa以下であることが好ましい。引張弾性率がこれらの範囲であることで、光拡散フィルムの23℃における押込弾性率を上述した範囲に調整し易いものとなる。なお、上記引張弾性率の測定方法の詳細は、後述する試験例に記載の通りである。
【0019】
(3)厚さ
本実施形態に係る光拡散フィルムの厚さは、下限値として、20μm以上であることが好ましく、特に50μm以上であることが好ましく、さらには80μm以上であることが好ましい。光拡散フィルムの厚さの下限値が上記範囲であることで、所望の光拡散性を発揮し易いものとなる。また、光拡散フィルムの厚さは、上限値として、700μm以下であることが好ましく、特に400μm以下であることが好ましく、さらには200μm以下であることが好ましい。光拡散フィルムの厚さの上限値が上記範囲であることで、厚さ方向における内部構造形成領域の割合を増大させることができ、光学特性により優れたものとすることができる。
【0020】
(4)変角ヘイズ角度範囲
光拡散フィルムにおける内部構造が後述するカラム構造である場合、拡散フィルムの片方の表面に対して、当該表面の法線方向を0°として-50°~10°の入射角度で光線を照射したときに測定される最大ヘイズ値の90%を閾値とし、当該閾値以上のヘイズ値を示す入射角度の角度範囲(変角ヘイズ角度範囲)は、20°以上であることが好ましく、特に30°以上であることが好ましく、さらには38°以上であることが好ましい。上記変角ヘイズ角度範囲が20°以上であることで、良好な光拡散性を達成し得る入射光の角度範囲がより広いものとなる。なお、上記変角ヘイズ角度範囲の上限値については特に限定されず、例えば、60°以下であってよく、特に55°以下であってよく、さらには50°以下であってもよい。
【0021】
また、光拡散フィルムにおける内部構造が後述するルーバー構造である場合、拡散フィルムの片方の表面に対して、当該表面の法線方向を0°として-50°~10°の入射角度で光線を照射したときに測定される最大ヘイズ値の30%を閾値とし、当該閾値以上のヘイズ値を示す入射角度の角度範囲(変角ヘイズ角度範囲)は、10°以上であることが好ましく、特に15°以上であることが好ましく、さらには20°以上であることが好ましい。上記変角ヘイズ角度範囲が10°以上であることで、良好な光拡散性を達成し得る入射光の角度範囲がより広いものとなる。なお、上記変角ヘイズ角度範囲の上限値については特に限定されず、例えば、50°以下であってよく、特に40°以下であってよく、さらには30°以下であってもよい。
【0022】
なお、上述した変角ヘイズ角度範囲の測定方法の詳細は、後述する試験例に記載の通りである。
【0023】
2.光拡散フィルムの構成
本実施形態に係る光拡散フィルムを構成するための材料は、光拡散フィルムが上述した押込弾性率に関する物性を満たすものとなる限り、特に限定されない。例えば、本実施形態に係る光拡散フィルムは、高屈折率成分と、当該高屈折率成分よりも低い屈折率を有する低屈折率成分とを含有する光拡散フィルム用組成物を硬化させたものであってよい。
【0024】
特に、本実施形態に係る光拡散フィルムは、23℃における押込弾性率を上述した範囲に調整し易いという観点から、1個または2個の重合性官能基を有する高屈折率成分と、当該高屈折率成分よりも低い屈折率を有するとともに、1個または2個の重合性官能基を有する低屈折率成分と、3個以上の重合性官能基を有する多官能性モノマーとを含有する光拡散フィルム用組成物を硬化させてなるものであることが好ましい。以下に、このような光拡散フィルム用組成物について、より詳細に説明する。
【0025】
(1)光拡散フィルム用組成物
(1-1)高屈折率成分
上記光拡散フィルム用組成物が、1個または2個の重合性官能基を有する高屈折率成分を含有することにより、前述したような、屈折率が相対的に低い領域中に屈折率が相対的に高い複数の領域を備えた内部構造を良好に形成し易いものとなる。それにより、得られる光拡散フィルムが所望の光拡散性を発揮し易いものとなる。さらには、得られる光拡散フィルムが、上述した押込弾性率に関する物性を満たし易いものとなる。
【0026】
上記高屈折率成分としては、1個または2個の重合性官能基を有するとともに、得られる光拡散フィルムが所望の光拡散性を発揮することができる限り特に限定されない。上記高屈折率成分の好ましい例としては、芳香環を含有する(メタ)アクリル酸エステルが挙げられ、特に複数の芳香環を含有する(メタ)アクリル酸エステルが好ましく挙げられる。なお、本明細書において、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸およびメタクリル酸の両方を意味する。他の類似用語も同様である。
【0027】
上述した複数の芳香環を含有する(メタ)アクリル酸エステルの例としては、(メタ)アクリル酸ビフェニル、(メタ)アクリル酸ナフチル、(メタ)アクリル酸アントラシル、(メタ)アクリル酸ベンジルフェニル、(メタ)アクリル酸ビフェニルオキシアルキル、(メタ)アクリル酸ナフチルオキシアルキル、(メタ)アクリル酸アントラシルオキシアルキル、(メタ)アクリル酸ベンジルフェニルオキシアルキル等、これらの一部がハロゲン、アルキル、アルコキシ、ハロゲン化アルキル等によって置換されたもの等が挙げられる。
【0028】
また、上述した複数の芳香環を含有する(メタ)アクリル酸エステルは、ビフェニル環を含有する化合物であることが好ましく、特に、下記一般式(1)で表されるビフェニル化合物であることが好ましい。光拡散フィルム用組成物が、高屈折率成分として一般式(1)で表されるビフェニル化合物を含有することにより、光拡散フィルム用組成物を硬化させる際に、高屈折率成分と低屈折率成分との重合速度の差が生じ易くなるとともに、高屈折率成分と低屈折率成分との相溶性が低下し易くなる。それにより、両成分同士の共重合性が効果的に低下し、結果として、前述した内部構造がより良好に形成される。また、高屈折率成分に由来した高屈折率領域の屈折率を高めやすくなり、低屈折率領域の屈折率との差を所望の値に調節し易くなる。
【化1】
(上記一般式(1)中、R
1~R
10は、それぞれ独立しており、R
1~R
10の1個または2個は、下記一般式(2)で表される置換基であり、残りは、水素原子、水酸基、カルボキシル基、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシアルキル基、カルボキシアルキル基およびハロゲン原子のいずれかの置換基である。)
【化2】
(上記一般式(2)中、R
11は、水素原子またはメチル基であり、炭素数nは1~4の整数であり、繰り返し数mは1~10の整数である。)
【0029】
上述した一般式(1)で表されるビフェニル化合物の好ましい例としては、下記一般式(3)の化合物(o-フェニルフェノキシエチルアクリレート)や下記一般式(4)の化合物(o-フェニルフェノキシエトキシエチルアクリレート)が挙げられる。
【化3】
【化4】
【0030】
本実施形態における高屈折率成分の重量平均分子量は、上限値として、2500以下であることが好ましく、特に1500以下であることが好ましく、さらに1000以下であることが好ましい。高屈折率成分の重量平均分子量の上限値が上記範囲であることにより、高屈折率成分の重量平均分子量と低屈折率成分の重量平均分子量との差が生じ易くなり、それにより、高屈折率成分の重合速度と低屈折率成分の重合速度との差も生じ易くなる。その結果、所望の内部構造を有した光拡散フィルムを形成し易くなる。
【0031】
また、本実施形態における高屈折率成分の重量平均分子量は、下限値として、150以上であることが好ましく、特に200以上であることが好ましく、さらに250以上であることが好ましい。高屈折率成分の重量平均分子量の下限値が上記範囲であることにより、高屈折率化を実現し易くなり、高屈折率成分が所望の重合速度を有し易いものとなる。その結果、高屈折率成分の重合速度と低屈折率成分の重合速度との差が生じ易くなり、所望の内部構造を有した光拡散フィルムを形成し易くなる。
【0032】
なお、本明細書における重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定した標準ポリスチレン換算の値である。
【0033】
本実施形態における高屈折率成分の屈折率は、下限値として、1.45以上であることが好ましく、1.50以上であることがより好ましく、特に1.54以上であることが好ましく、さらに1.56以上であることが好ましい。高屈折率成分の屈折率の下限値が上記範囲であることで、光拡散フィルム内に形成される、屈折率が相対的に低い領域と屈折率が相対的に高い領域との間において、所望の屈折率差を達成し易くなる。
【0034】
また、本実施形態における高屈折率成分の屈折率は、上限値として、1.70以下であることが好ましく、特に1.65以下であることが好ましく、さらに1.59以下であることが好ましい。高屈折率成分の屈折率の上限値が上記範囲であることで、高屈折率成分と低屈折率成分との相溶性が過度に低下することが抑制され、所望の光拡散フィルムを形成し易いものとなる。
【0035】
なお、上述した高屈折率成分の屈折率とは、光拡散フィルム用組成物を硬化する前における高屈折率成分の屈折率を意味し、また、当該屈折率は、JIS K0062:1992に準じて測定したものである。
【0036】
また、光拡散フィルム用組成物中の高屈折率成分の含有量は、低屈折率成分100質量部に対して、25質量部以上であることが好ましく、特に40質量部以上であることが好ましく、さらには50質量部以上であることが好ましい。また、光拡散フィルム用組成物中の高屈折率成分の含有量は、低屈折率成分100質量部に対して、400質量部以下であることが好ましく、特に300質量部以下であることが好ましく、さらには200質量部以下であることが好ましい。高屈折率成分の含有量がこれらの範囲であることで、形成される光拡散フィルムの内部構造において、高屈折率成分に由来する領域と低屈折率成分に由来する領域とが所望の割合で存在するものとなり、その結果、光拡散フィルムが所望の光拡散性を達成し易いものとなる。
【0037】
(1-2)低屈折率成分
光拡散フィルム用組成物が、高屈折率成分よりも低い屈折率を有するとともに、1個または2個の重合性官能基を有する低屈折率成分を含有することにより、前述したような、屈折率が相対的に低い領域中に屈折率が相対的に高い複数の領域を備えた内部構造を良好に形成し易いものとなる。それにより、得られる光拡散フィルムが所望の光拡散性を発揮し易いものとなる。さらには、得られる光拡散フィルムが、上述した押込弾性率に関する物性を満たし易いものとなる。
【0038】
上記低屈折率成分としては、高屈折率成分よりも低い屈折率を有し、1個または2個の重合性官能基を有するとともに、得られる光拡散フィルムが所望の光拡散性を発揮することができる限り特に限定されない。上記低屈折率成分の好ましい例としては、ウレタン(メタ)アクリレート、側鎖に(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリル系ポリマー、(メタ)アクリロイル基含有シリコーン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等が挙げられるが、特にウレタン(メタ)アクリレートを使用することが好ましい。
【0039】
上記ウレタン(メタ)アクリレートは、(a)イソシアナート基を少なくとも2つ含有する化合物、(b)ポリアルキレングリコール、および(c)ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートから形成されるものであることが好ましい。
【0040】
上述した(a)イソシアナート基を少なくとも2つ含有する化合物の好ましい例としては、2,4-トリレンジイソシアナート、2,6-トリレンジイソシアナート、1,3-キシリレンジイソシアナート、1,4-キシリレンジイソシアナート等の芳香族ポリイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート等の脂肪族ポリイソシアナート、イソホロンジイソシアナート(IPDI)、水素添加ジフェニルメタンジイソシアナート等の脂環式ポリイソシアナート、およびこれらのビウレット体、イソシアヌレート体、さらにはエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ヒマシ油等の低分子活性水素含有化合物との反応物であるアダクト体(例えば、キシリレンジイソシアナート系3官能アダクト体)等が挙げられる。これらの中でも、脂環式ポリイソシアナートであることが好ましく、特にイソシアナート基を2つのみ含有する脂環式ジイソシアナートが好ましい。
【0041】
上述した(b)ポリアルキレングリコールの好ましい例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、ポリヘキシレングリコール等が挙げられ、中でも、ポリプロピレングリコールであることが好ましい。
【0042】
なお、(b)ポリアルキレングリコールの重量平均分子量は、2300以上であることが好ましく、特に4300以上であることが好ましく、さらには6300以上であることが好ましい。また、(b)ポリアルキレングリコールの重量平均分子量は、19500以下であることが好ましく、特に14300以下であることが好ましく、さらには12300以下であることが好ましい。(b)ポリアルキレングリコールの重量平均分子量が上記範囲であることで、低屈折率成分の重量平均分子量を後述する範囲に調整し易いものとなる。
【0043】
上述した(c)ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの好ましい例としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でも、得られるウレタン(メタ)アクリレートの重合速度を低下させ、所定の内部構造をより効率的に形成できる観点から、2-ヒドロキシエチルメタクリレートを使用することが好ましい。
【0044】
上述した(a)~(c)の成分を材料としたウレタン(メタ)アクリレートの合成は、常法に従って行うことができる。このとき(a)~(c)の成分の配合割合は、ウレタン(メタ)アクリレートを効率的に合成する観点から、モル比にて、(a)成分:(b)成分:(c)成分=1~5:1:1~5の割合とすることが好ましく、特に1~3:1:1~3の割合とすることが好ましく、さらには2:1:2の割合とすることが好ましい。
【0045】
本実施形態における低屈折率成分の重量平均分子量は、下限値として、3000以上であることが好ましく、特に5000以上であることが好ましく、さらに7000以上であることが好ましい。低屈折率成分の重量平均分子量の下限値が上記範囲であることにより、高屈折率成分の重量平均分子量と低屈折率成分の重量平均分子量との差が生じ易くなり、それにより、高屈折率成分の重合速度と低屈折率成分の重合速度との差も生じ易くなる。その結果、所望の内部構造を有した光拡散フィルムを形成し易くなる。
【0046】
また、本実施形態における低屈折率成分の重量平均分子量は、上限値として、20000以下であることが好ましく、特に15000以下であることが好ましく、さらに13000以下であることが好ましい。低屈折率成分の重量平均分子量の上限値が上記範囲であることにより、高屈折率成分と低屈折率成分との相溶性が過度に低下することが抑制され、光拡散フィルム用組成物を工程シートに塗布する段階における高屈折率成分の析出等を効果的に抑制することができる。
【0047】
本実施形態における低屈折率成分の屈折率は、上限値として、1.59以下であることが好ましく、1.50以下であることがより好ましく、特に1.49以下であることが好ましく、さらに1.48以下であることが好ましい。低屈折率成分の屈折率の上限値が上記範囲であることで、光拡散フィルム内において、屈折率が相対的に低い領域と、屈折率が相対的に高い領域とが、所望の屈折率差を有した状態で形成され易くなる。
【0048】
また、本実施形態における低屈折率成分の屈折率は、下限値として、1.30以上であることが好ましく、特に1.40以上であることが好ましく、さらに1.46以上であることが好ましい。低屈折率成分の屈折率の下限値が上記範囲であることで、高屈折率成分と低屈折率成分との相溶性が過度に低下することが抑制され、所望の光拡散フィルムを形成し易いものとなる。
【0049】
なお、上述した低屈折率成分の屈折率とは、光拡散フィルム用組成物を硬化する前における低屈折率成分の屈折率を意味し、また、当該屈折率は、JIS K0062:1992に準じて測定したものである。
【0050】
また、本実施形態において、高屈折率成分と低屈折率成分との屈折率の差は、0.01以上であることが好ましく、特に0.05以上であることが好ましく、さらには0.1以上であることが好ましい。屈折率の差が上記範囲であることで、形成される光拡散フィルムが所望の光拡散性を達成し易いものとなる。一方、高屈折率成分と低屈折率成分との屈折率の差は、これらの成分の相溶性を適度な範囲に調整する観点から、0.5以下であることが好ましく、特に0.2以下であることが好ましい。
【0051】
(1-3)多官能性モノマー
光拡散フィルム用組成物は、3個以上の重合性官能基を有する多官能性モノマーを前述した含有量で含有することにより、得られる光拡散フィルムが、上述した押込弾性率に関する物性を満たし易いものとなる。
【0052】
上記多官能性モノマーとしては、3個以上の重合性官能基を有するものである限り特に限定されず、特に多官能(メタ)アクリレートを使用することが好ましい。このような3個以上の重合性官能基を有する多官能(メタ)アクリレートとしては、例えばトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等を使用することができる。これらは1種を単独で用いてもよく、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。上述した多官能(メタ)アクリレートの中でも、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートおよびペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートの少なくとも1種を使用することが好ましい。
【0053】
光拡散フィルム用組成物中における多官能性モノマーの含有量は、高屈折率成分と低屈折率成分との合計量100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、特に1質量部以上であることが好ましく、さらには特に4質量部以上であることが好ましい。また、上記含有量は、高屈折率成分と低屈折率成分との合計量100質量部に対して、14質量部以下であることが好ましく、特に10質量部以下であることが好ましく、さらには特に8質量部以下であることが好ましい。多官能性モノマーの含有量がこれらの範囲であることで、得られる光拡散フィルムが、上述した押込弾性率に関する物性をより満たし易いものとなる。
【0054】
(1-4)その他
光拡散フィルム用組成物は、前述した成分以外に、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の添加剤を含有してもよい。その他の添加剤としては、例えば、光重合開始剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、重合促進剤、重合禁止剤、赤外線吸収剤、可塑剤、希釈溶剤、およびレベリング剤等が挙げられる。
【0055】
上述した中でも、光拡散フィルム用組成物は、光重合開始剤を含有することが好ましい。光拡散フィルム用組成物が光重合開始剤を含有することで、所望の内部構造を有する光拡散フィルムを効率的に形成し易いものとなる。
【0056】
光重合開始剤の例としては、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾイン-n-ブチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、アセトフェノン、ジメチルアミノアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、2,2-ジエトキシ-2-フェニルアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノ-プロパン-1-オン、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル-2-(ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、ベンゾフェノン、p-フェニルベンゾフェノン、4,4-ジエチルアミノベンゾフェノン、ジクロロベンゾフェノン、2-メチルアントラキノン、2-エチルアントラキノン、2-ターシャリーブチルアントラキノン、2-アミノアントラキノン、2-メチルチオキサントン、2-エチルチオキサントン、2-クロロチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、ベンジルジメチルケタール、アセトフェノンジメチルケタール、p-ジメチルアミン安息香酸エステル、オリゴ[2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-メチルビニル)フェニル]プロパン]等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
光重合開始剤を使用する場合、光拡散フィルム用組成物中の光重合開始剤の含有量は、高屈折率成分と低屈折率成分との合計量100質量部に対して、0.2質量部以上とすることが好ましく、特に0.5質量部以上とすることが好ましく、さらには1質量部以上とすることが好ましい。また、光重合開始剤の含有量は、高屈折率成分と低屈折率成分との合計量100質量部に対して、20質量部以下とすることが好ましく、特に15質量部以下とすることが好ましく、さらには10質量部以下とすることが好ましい。光拡散フィルム用組成物中の光重合開始剤の含有量を上記範囲とすることで、光拡散フィルムを効率的に形成し易いものとなる。
【0058】
(1-5)光拡散フィルム用組成物の調製
光拡散フィルム用組成物は、前述した高屈折率成分、低屈折率成分および多官能性モノマー、並びに、所望により光重合開始剤等のその他の添加剤を均一に混合することで調整することができる。
【0059】
上記混合の際には、40~80℃の温度に加熱しながら撹拌し、均一な光拡散フィルム用組成物を得てもよい。また、得られる光拡散フィルム用組成物が所望の粘度となるように、希釈溶剤を添加して混合してもよい。
【0060】
(2)内部構造
次に、本実施形態に係る光拡散フィルムの内部構造について、より詳細に説明する。本実施形態に係る光拡散フィルムは、フィルム内に、屈折率が相対的に低い領域中に屈折率が相対的に高い複数の領域を備えた内部構造を有する。より具体的には、本実施形態に係る光拡散フィルムは、屈折率が相対的に低い領域中に、屈折率が相対的に高い複数の領域が、フィルム膜厚方向に、所定の長さで延在する内部構造を有する。なお、ここにおける内部構造は、屈折率が相対的に高い領域がフィルム膜厚方向に延在してなるものである点で、一方の相が他方の相中に明確な規則性なく存在してなる相分離構造や、海成分中にほぼ球状の島成分が存在してなる海島構造とは区別されるものである。
【0061】
本実施形態における内部構造の一例としては、屈折率が相対的に低い領域中に、屈折率が相対的に高い複数の柱状物をフィルム膜厚方向に林立させてなるカラム構造が挙げられる。また、上述した内部構造の別の例としては、屈折率が異なる複数の板状領域をフィルム面に沿った任意の一方向に交互に配置してなるルーバー構造が挙げられる。
【0062】
(2-1)カラム構造
図1は、上述したカラム構造を概略的に示した斜視図である。
図1に示されるように、カラム構造113では、屈折率が相対的に高い柱状物112が厚さ方向に複数林立し、その周囲を、屈折率が相対的に低い領域114を埋める構造となっている。なお、
図1では、柱状物112が、カラム構造113内の厚さ方向全域に存在するものとして描かれているものの、カラム構造113の厚さ方向の上端部および下端部の少なくとも一方に、柱状物112が存在しないものとなっていてもよい。
【0063】
このようなカラム構造113を有する光拡散フィルムに入射された光は、所定の入射角度範囲内となる場合、所定の開き角をもって強く拡散しながら光拡散フィルムから射出される。一方、入射光が上記入射角度範囲外の角度による入射となる場合、拡散することなく透過するか、または、入射角度範囲内の入射光の場合よりも弱い拡散を伴って射出されるものとなる。なお、カラム構造113によって生じる拡散は、ルーバー構造によって生じる拡散とは異なり、射出される光の進行方向が所定の方向のみに制限されず、一般的に等方性拡散と呼ばれる拡散となる。
【0064】
カラム構造113においては、屈折率が相対的に高い柱状物112の屈折率と、屈折率が相対的に低い領域114の屈折率との差が、0.01以上であることが好ましく、特に0.05以上であることが好ましく、さらには0.1以上であることが好ましい。上記差が0.01以上であることで、効果的な拡散を行うことが可能となる。なお、上記差の上限は特に限定されず、例えば、0.3以下であってもよい。
【0065】
上述した柱状物112は、光拡散フィルムの一方の面から他方の面に向かって、直径が増加する構造を有していることが好ましい。このような構造を有する柱状物112は、一方の面から他方の面に向かって直径がほぼ変化しない柱状物と比較して、柱状物の軸線方向と平行な光の進行方向を変更させ易くなり、これにより、光拡散フィルムが効果的に光を拡散させることが可能となる。
【0066】
また、柱状物112を、軸線方向に水平な面で切断したときの断面における、直径の最大値は、0.1μm以上であることが好ましく、特に0.5μm以上であることが好ましく、さらには1μm以上であることが好ましい。また、当該最大値は、15μm以下であることが好ましく、特に10μm以下であることが好ましく、さらには5μm以下であることが好ましい。直径の最大値が上記範囲であることで、光拡散フィルムが効果的に光を拡散させることが可能となる。なお、柱状物112の軸線方向と垂直な面で切断したときの断面形状については、特に限定されるものではないが、例えば、円、楕円、多角形、異形等とすることが好ましい。
【0067】
カラム構造113においては、隣接する柱状物112間の距離が、0.1μm以上であることが好ましく、特に0.5μm以上であることが好ましく、さらには1μm以上であることが好ましい。また、上記距離は、15μm以下であることが好ましく、特に10μm以下であることが好ましく、さらには5μm以下であることが好ましい。隣接する柱状物112間の距離が上記範囲であることで、光拡散フィルムが効果的に光を拡散させることが可能となる。
【0068】
また、カラム構造113では、柱状物112が、光拡散フィルムのフィルム膜厚方向に対して水平に林立していてもよいし、一定の傾斜角にて林立していてもよい。一定の傾斜角にて林立するときの傾斜角、すなわち、カラム構造113の柱状物112の軸線と、光拡散フィルムの法線とがなす鋭角側の角度は、1°以上であることが好ましく、特に5°以上であることが好ましく、さらには10°以上であることが好ましい。また、上記角度は、50°以下であることが好ましく、特に40°以下であることが好ましく、さらには30°以下であることが好ましい。柱状物112が上記範囲で傾斜していることにより、そのようなカラム構造113を備える光拡散フィルムでは、透過する光を所望の方向に偏らせながら拡散させることが可能となる。
【0069】
なお、以上のカラム構造113の内部構造に係る寸法や所定の角度等は、光学デジタル顕微鏡を用いてカラム構造113の断面を観察することにより測定することができる。
【0070】
(2-2)ルーバー構造
図2は、前述したルーバー構造を概略的に示した斜視図である。
図2に示されるように、ルーバー構造123では、屈折率が相対的に高い板状領域122が、フィルム面に沿った一方向に交互に配置しており、それらの間を、屈折率が相対的に低い領域124が埋める構造となっている。なお、
図2では、板状領域122が、ルーバー構造123内の厚さ方向全域に存在するものとして描かれているものの、ルーバー構造123の厚さ方向の上端部および下端部の少なくとも一方に、板状領域122が存在しないものとなっていてもよい。
【0071】
このようなルーバー構造123を有する光拡散フィルムに入射された光は、その入射角度に応じて、拡散しながら光拡散フィルムから射出されるか、または拡散することなく透過するものとなる。なお、ルーバー構造123を有する光拡散フィルムは、板状領域122の配列方向に垂直な方向に対する拡散が生じ易いという性質を有する。このような、射出される光の進行方向が主として所定の方向のみとなる拡散を、一般的に異方性拡散という。
【0072】
ルーバー構造123においては、屈折率が相対的に高い板状領域122の屈折率と、屈折率が相対的に低い領域124の屈折率との差が、0.01以上であることが好ましい。上記差が0.01以上であることで、ルーバー構造123を備える光拡散フィルムが効果的に光を拡散させることが可能となる。なお、上記差の上限は特に限定されず、例えば、0.3以下であってもよい。
【0073】
ルーバー構造123においては、個々の板状領域122の厚さ(配列方向の長さ)が、0.1μm以上であることが好ましく、特に0.5μm以上であることが好ましく、さらには1.0μm以上であることが好ましい。また、上記厚さは、15μm以下であることが好ましく、特に10μm以下であることが好ましく、さらには5μm以下であることが好ましい。また、隣接する板状領域122の間隔も、上記と同様の範囲であることが好ましい。板状領域122の厚さおよび隣接する板状領域122の間隔がそれぞれ上記範囲であることで、ルーバー構造123内を透過する光が良好にその進行方向を変更できるものとなり、その結果、光拡散フィルムが効果的に光を拡散させることが可能となる。
【0074】
ルーバー構造123では、板状領域122が、その配列方向に沿って傾斜していてもよいし、傾斜を有さず、フィルム法線方向と一致するように配列していてもよい。配列方向に沿って傾斜する場合における傾斜角、すなわち板状領域122の片面と光拡散フィルムの法線とがなす鋭角側の角度は、1°以上であることが好ましく、5°以上であることがより好ましく、特に10°以上であることが好ましく、さらには20°以上であることが好ましい。また、上記傾斜角は、80°以下であることが好ましく、特に60°以下であることが好ましく、さらには45°以下であることが好ましい。板状領域122が上記範囲で傾斜していることにより、そのようなルーバー構造123を備える光拡散フィルムでは、光を所定の方向に偏らせながら拡散させることが可能となる。
【0075】
なお、以上のルーバー構造123の内部構造に係る寸法や所定の角度等は、光学デジタル顕微鏡を用いてルーバー構造123の断面を観察することにより測定することができる。
【0076】
(2-3)その他の内部構造
本実施形態に係る光拡散フィルムの内部構造は、上述したカラム構造113およびルーバー構造123以外の構造を有していてもよい。例えば、光拡散フィルムは、内部構造として、上述したカラム構造113における柱状物112が、光拡散フィルムの厚さ方向の途中において屈曲してなる構造を有していてもよい。また、光拡散フィルムは、内部構造として、上述したルーバー構造123における柱状物112が、光拡散フィルムの厚さ方向の途中において屈曲してなる構造を有していてもよい。あるいは、本実施形態に係る光拡散フィルムは、カラム構造113およびルーバー構造123や、上述した屈曲を有する構造を任意の組み合わせで積層してなる内部構造を有したものであってもよい。
【0077】
3.光拡散フィルムの製造方法
本実施形態に係る光拡散フィルムの製造方法としては、得られた光拡散フィルムが前述した効果を達成できるものとなる限り特に限定されず、例えば従来の方法により製造することができる。より詳細には、工程シートの片面に、前述した光拡散フィルム用組成物を塗布し、塗膜を形成した後、当該塗膜に対して活性エネルギー線を照射して硬化させることにより、光拡散フィルムを得ることができる。
【0078】
上記工程シートとしては、プラスチックフィルム、紙のいずれも使用することができる。このうち、プラスチックフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートフィルム等のポリエステル系フィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム等のポリオレフィン系フィルム、トリアセチルセルロースフィルム等のセルロース系フィルム、およびポリイミド系フィルム等が挙げられる。また、紙としては、例えば、グラシン紙、コート紙、およびラミネート紙等が挙げられる。また、工程シートとしては、熱や活性エネルギー線に対する寸法安定性に優れたプラスチックフィルムであることが好ましい。このようなプラスチックフィルムとしては、上述したもののうち、ポリエステル系フィルム、ポリオレフィン系フィルムおよびポリイミド系フィルムが好ましく挙げられる。
【0079】
また、上記工程シートに対しては、硬化した塗膜を工程シートから剥離し易くするために、工程シートにおける光拡散フィルム用組成物の塗布面側に、剥離層を設けることが好ましい。かかる剥離層は、シリコーン系剥離剤、フッ素系剥離剤、アルキッド系剥離剤、オレフィン系剥離剤等、従来公知の剥離剤を用いて形成することができる。
【0080】
上述した塗布の方法としては、例えば、ナイフコート法、ロールコート法、バーコート法、ブレードコート法、ダイコート法、およびグラビアコート法等が挙げられる。また、光拡散フィルム用組成物は、必要に応じて溶剤を用いて希釈してもよい。
【0081】
塗膜に対する活性エネルギー線の照射は、形成しようとする内部構造に応じて、異なる態様により行う。例えば、前述したカラム構造113を形成する場合には、塗膜に対して、光線の平行度が高い平行光を照射する。ここで、平行光とは、発せられる光の方向が、いずれの方向から見た場合であっても広がりを持たない略平行な光を意味する。このような平行光は、例えば、レンズや遮光部材といった公知の手段を用いて用意することができる。照射の際には、コンベア等を用いて塗膜と工程シートとの積層体をその長手方向に移動させながら、上記平行光を照射することが好ましい。なお、上記平行光の照射角度を調整することで、カラム構造113内に形成される柱状物112の傾斜角度を調整することもできる。
【0082】
なお、上記活性エネルギー線とは、電磁波または荷電粒子線の中でエネルギー量子を有するものをいい、具体的には、紫外線や電子線などが挙げられる。活性エネルギー線の中でも、取扱いが容易な紫外線が特に好ましい。
【0083】
活性エネルギー線として紫外線を用い、カラム構造113を形成する場合、その照射条件としては、塗膜表面におけるピーク照度を0.1~10mW/cm2とすることが好ましい。なお、ここでいうピーク照度とは、塗膜表面に照射される活性エネルギー線が最大値を示す部分での測定値を意味する。さらに、塗膜表面における積算光量を、5~200mJ/cm2とすることが好ましい。
【0084】
また、活性エネルギー線として紫外線を用い、カラム構造113を形成する場合、上記積層体に対する、活性エネルギー線の光源の相対的な移動速度は、0.1~10m/分とすることが好ましい。
【0085】
一方、前述したルーバー構造123を形成する場合には、活性エネルギー線の光源として線状光源を用い、積層体表面に対して幅方向(TD方向)にはランダムかつ流れ方向(MD方向)には略平行な帯状(ほぼ線状)の光を照射する。なお、上記光の照射角度を調整することで、ルーバー構造123内に形成される板状領域122の傾斜角度を調整することもできる。
【0086】
活性エネルギー線として紫外線を用い、ルーバー構造123を形成する場合、その照射条件としては、塗膜表面におけるピーク照度を0.1~50mW/cm2以下とすることが好ましい。さらに、塗膜表面における積算光量を、5~300mJ/cm2以下とすることが好ましい。また、上記積層体に対する、活性エネルギー線の光源の相対的な移動速度は、0.1~10m/分以下とすることが好ましい。
【0087】
なお、より確実な硬化を完了させる観点から、前述したような平行光や帯状の光を用いた硬化を行った後に、通常の活性エネルギー線(平行光や帯状の光に変換する処理を行っていない活性エネルギー線,散乱光)を、積層体に対して照射することも好ましい。このとき、均一に硬化させる観点から、塗膜表面に対して、剥離シートを積層してもよい。
【0088】
4.光拡散フィルムの使用
本実施形態に係る光拡散フィルムの用途は特に限定されず、従来の光拡散フィルムと同様に使用することができる。例えば、本実施形態に係る光拡散フィルムは、液晶表示装置、有機発光デバイス、電子ペーパー等を製造するために使用することができる。
【0089】
本実施形態に係る光拡散フィルムは、その製造時における打痕の発生、および、その他の部材に積層する際における潰れの発生を良好に抑制することができる。そのため、本実施形態に係る光拡散フィルムは所望の光拡散性を良好に発揮することができ、このような光拡散フィルムを用いて製造される、上述した液晶表示装置等も所望の性能を良好に発揮することができる。
【0090】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【実施例】
【0091】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0092】
〔実施例1〕
1.光拡散フィルム用組成物の調製
低屈折率成分としての、ポリプロピレングリコールとイソホロンジイソシアナートと2-ヒドロキシエチルメタクリレートとを反応させて得られた重量平均分子量9,900のポリエーテルウレタンメタクリレート40質量部(固形分換算値;以下同じ)に対し、高屈折率成分としての、分子量268のo-フェニルフェノキシエトキシエチルアクリレート60質量部と、多官能性モノマーとしてのジペンタエリスリトールヘキサアクリレート5質量部(高屈折率成分および低屈折率成分の合計量100質量部に対して5質量部)と、光重合開始剤としての2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン8質量部とを添加した後、80℃の条件下にて加熱混合を行い、光拡散フィルム用組成物を得た。
【0093】
なお、上記高屈折率成分および上記低屈折率成分の屈折率を、アッベ屈折計(アタゴ社製,製品名「アッベ屈折計DR-M2」,Na光源,波長589nm)を用いてJIS K0062-1992に準じて測定したところ、それぞれ1.58および1.46であった。
【0094】
2.光拡散フィルムの形成
得られた光拡散フィルム用組成物を、工程シートとしての、長尺のポリエチレンテレフタレートシートの片面に塗布し、塗膜を形成した。これにより、当該塗膜と工程シートとからなる積層体を得た。
【0095】
続いて、得られた積層体を、コンベア上に載置した。このとき、積層体における塗膜側の面が上側となるとともに、工程シートの長手方向がコンベアの流れ方向と平行になるようにした。そして、積層体を載置したコンベアに対して、中心光線平行度を±3°以内に制御した紫外線スポット平行光源(ジャテック社製)を設置した。このとき、当該光源が、積層体における塗膜側の面の法線方向に対して、コンベアの流れ方向と反対側に15°傾斜した方向の平行光を照射できるように設置した。また、上記塗膜の表面と上記光源との距離が240mmとなるように設置した。
【0096】
その後、コンベアを作動させて、積層体を0.2m/分の速度で移動させながら、塗膜表面におけるピーク照度2.00mW/cm2、積算光量53.13mJ/cm2の条件で、平行度が2°以下の平行光(主ピーク波長365nm、その他254nm、303nm、313nmにピークを有する高圧水銀ランプからの紫外線)を照射することにより、積層体中の塗膜を硬化させた(当該硬化を、便宜的に「一次硬化」という場合がある。)。
【0097】
続いて、上記塗膜を十分に硬化させる観点から、積層体における塗膜側の面に、厚さ38μmの紫外線透過性を有する剥離シート(リンテック社製,製品名「SP-PET382050」,紫外線照射側の表面における中心線平均粗さ:0.01μm,ヘイズ値:1.80%,像鮮明度:425,波長360nmの透過率84.3%)を積層した後、当該剥離シートを介して、塗膜に対して、ピーク照度10mW/cm2、積算光量150mJ/cm2の条件で紫外線(散乱光)を照射することで、積層体中の塗膜を硬化させた(当該硬化を、便宜的に「二次硬化」という場合がある。)。なお、上述したピーク照度および積算光量は、受光器を取り付けたUV METER(アイグラフィックス社製,製品名「アイ紫外線積算照度計UVPF-A1」)を上記塗膜の位置に設置して測定したものである。
【0098】
以上の一次硬化および二次硬化により、上述した塗膜が硬化してなる厚さ75μmの光拡散フィルムを、剥離シートと工程シートとの間に積層された状態で得た。なお、光拡散フィルムの厚さは、定圧厚さ測定器(宝製作所社製,製品名「テクロック PG-02J」)を用いて測定したものである。
【0099】
なお、形成された光拡散フィルムの断面の顕微鏡観察等を行ったところ、光拡散フィルムの内部に、厚さ方向に複数の柱状物を林立させてなるカラム構造が形成されていることが確認された。特に、当該柱状物は、光拡散フィルムの厚さ方向に対してコンベアの進行方向と反対側に20°傾斜している(傾斜角-20°)ことが確認された。なお、当該傾斜角は、フィルム面法線方向を0°とし、コンベア進行方向をプラス、その反対方向をマイナスと表記する。
【0100】
〔実施例2,3〕
多官能性モノマーの種類および厚さを表1に示すように変更した以外、実施例1と同様にして光拡散フィルムを製造した。
【0101】
〔比較例1〕
多官能性モノマーを使用しないこと以外、実施例1と同様に光拡散フィルムを製造した。
【0102】
〔試験例1〕(押込弾性率の測定)
実施例および比較例で製造した光拡散フィルムから工程シートおよび剥離フィルムを剥離して露出した片面について、超微小硬度計(島津製作所社製,「島津ダイナミック超微小硬度計DUH-W201S」)を使用して、23℃における押込弾性率(MPa)を測定した。結果を表1に示す。
【0103】
〔試験例2〕(引張弾性率の測定)
実施例および比較例で製造した光拡散フィルムから工程シートおよび剥離フィルムを剥離して除去した後、15mm×140mmのサイズに裁断することで、光拡散フィルムの試験片を得た。当該試験片について、JIS K7127:1999に準拠して、23℃における引張弾性率を測定した。具体的には、上記試験片を、引張試験機(島津製作所社製,製品名「オートグラフAG-IS 500N」)にて、チャック間距離100mmに設定した後、200mm/minの速度で引張試験を行い、引張弾性率(MPa)を測定した。結果を表1に示す。
【0104】
〔試験例3〕(打痕抑制の評価)
実施例および比較例で製造した光拡散フィルムから工程シートを剥離した。これにより得られた、光拡散フィルムと剥離フィルムとからなる積層体を、剥離フィルム側の面を上にして硬質の支持台の上に置いた。そして、光拡散フィルムに対し、剥離フィルム越しに点荷重を印加することで打痕を付けた。具体的には、押芯の先端が直径2.54mmの半球となっている硬度計(高分子計器社製,製品名「アスカー硬度計C2」)を用いて、225gの荷重を10秒間印加した。
【0105】
上記点荷重の印加から5分経過した後、光拡散フィルムから剥離フィルムを剥離し、それにより露出した光拡散フィルムの露出面に残る打痕の深さを、光干渉顕微鏡(Veeco社製,製品名「表面形状測定装置 WYKO NT110」)を用いて測定した。そして、以下の基準に基づいて、打痕抑制について評価した。結果を表1に示す。
◎…残る打痕の深さが、0nm以上、10nm以下であった。
〇…残る打痕の深さが、10nm超、20nm以下であった。
×…残る打痕の深さが、20nm超であった。
【0106】
また、点荷重を印加する際の荷重を443gに変更して、上記と同様の測定を行い、打痕抑制について評価した。その結果も表1に示す。
【0107】
〔試験例4〕(変角ヘイズ測定)
実施例および比較例にて作製した光拡散フィルムについて、変角ヘイズメーター(東洋精機製作所社製,製品名「ヘイズガードプラス、変角ヘイズメーター」)を用いて、ヘイズ値(%)を測定した。具体的には、光拡散フィルムから工程シートおよび剥離フィルムを剥離した後、当該光拡散フィルムの片面に対し、その法線に対する入射角度を、光拡散フィルムの長手方向に沿って-50°~10°の範囲を変えながら光線を照射し、順次ヘイズ値(%)を測定した。
【0108】
続いて、順次測定された結果について、入射角度の測定範囲(-50°~10°)のうち、ヘイズ値が90%以上となった入射角度の範囲を特定し、さらに当該範囲の端点となる2つの角度の差を算出し、これを90%以上のヘイズ値をもたらす角度範囲(変角ヘイズ角度範囲)とした。その結果を表1に示す。
【0109】
【0110】
表1に示されるように、実施例に係る光拡散フィルムによれば、打痕の発生を良好に抑制することができた。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明の光拡散フィルムは、液晶表示装置等の製造に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0112】
112…屈折率が相対的に高い柱状物
113…カラム構造
114…屈折率が相対的に低い領域
122…屈折率が相対的に高い板状領域
123…ルーバー構造
124…屈折率が相対的に低い領域