(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-27
(45)【発行日】2024-12-05
(54)【発明の名称】プライマーセット、ゲンジボタルの検出方法、及びゲンジボタルの検出キット
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6888 20180101AFI20241128BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20241128BHJP
C12N 15/53 20060101ALN20241128BHJP
【FI】
C12Q1/6888 Z ZNA
C12Q1/686 Z
C12N15/53
(21)【出願番号】P 2019104713
(22)【出願日】2019-06-04
【審査請求日】2021-12-14
【審判番号】
【審判請求日】2023-04-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】大野 貴子
(72)【発明者】
【氏名】上野 嘉之
【合議体】
【審判長】加々美 一恵
【審判官】福井 悟
【審判官】小暮 道明
(56)【参考文献】
【文献】杉山寛晃ほか,環境DNAによるゲンジボタルの種の特定,静岡県小・中・高等学校児童生徒理科研究発表論文集2018年版,2019年7月,179-183頁
【文献】Y.Oba et al,Zoological Science,28(11),p.771-789
【文献】山崎自然科学教育振興会,第35回(平成30年度)山崎賞受賞式プログラム,2019年2月
【文献】第66回日本生態学会大会プログラム修正版,2019年2月
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q1/00-1/70
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Pubmed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1の塩基配列を含む第1のプライマーと、配列番号2の塩基配列を含む第2のプライマーと、からなる、
環境試料中のゲンジボタルに由来する核酸を増幅するためのプライマーセット。
【請求項2】
請求項1に記載のプライマーセットを用いて、任意の
環境試料から抽出された核酸を鋳型とする核酸増幅反応を行う核酸増幅工程と、
前記核酸増幅反応による増幅産物を解析する解析工程と、
を含む、ゲンジボタルの検出方法。
【請求項3】
請求項1に記載のプライマーセットを含む、ゲンジボタルの検出キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プライマーセット、ゲンジボタルの検出方法、及びゲンジボタルの検出キットに関する。
【背景技術】
【0002】
ゲンジボタル(学名:Luciola cruciata)は、日本に生息する水生ボタルの1種である。ゲンジボタルは清浄な水質で生育するため、豊かな環境の指標生物として注目されている。
【0003】
環境中に特定の生物が生育しているかを同定する方法としては、核酸増幅反応(ポリメラーゼ連鎖反応等)を用いた方法が知られる。例えば、特許文献1及び2には、このような方法を用いることで特定の微生物を検出する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-139442号公報
【文献】特開2011-217695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ゲンジボタルを特異的に検出できる技術は十分に確立されていない。
【0006】
本発明は、上記の状況に鑑みてなされたものであり、ゲンジボタルに由来する核酸を特異的に増幅できる新規な技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、核酸増幅反応において、ゲンジボタルのミトコンドリアDNAにおける所定領域を増幅するプライマーセットを用いることで上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的に、本発明は以下を提供する。
【0008】
(1) 配列番号1の塩基配列を含む第1のプライマーと、配列番号2の塩基配列を含む第2のプライマーと、からなる、ゲンジボタルに由来する核酸を増幅するためのプライマーセット。
【0009】
(2) (1)に記載のプライマーセットを用いて、任意の試料から抽出された核酸を鋳型とする核酸増幅反応を行う核酸増幅工程と、
前記核酸増幅反応による増幅産物を解析する解析工程と、
を含む、ゲンジボタルの検出方法。
【0010】
(3) (1)に記載のプライマーセットを含む、ゲンジボタルの検出キット。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ゲンジボタルに由来する核酸を特異的に増幅できる新規な技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】ゲンジボタルの成虫体から抽出したDNAの希釈系列を用いた検量線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれに特に限定されない。
【0014】
<プライマーセット>
本発明のプライマーセットは、ゲンジボタル(学名:Luciola cruciata)に由来する核酸を増幅するためのプライマーセットであり、以下の2つのプライマーからなる。
(1)配列番号1の塩基配列(5’- GTCCTCAGTAGACCTYGCA -3’)を含む第1のプライマー
(2)列番号2の塩基配列(5’- GGTCAAAAGTTATTCCGAGGG -3’)を含む第2のプライマー
【0015】
本発明のプライマーセットは、核酸増幅反応において用いられ、ゲンジボタルのミトコンドリアDNA中、シトクロームオキシダーゼサブユニットI(CO1)配列の所定領域を特異的に増幅することができる。本発明のプライマーセットを用いた核酸増幅反応で得られる増幅産物の塩基配列長は、通常、約119bpである。ただし、核酸増幅反応時に生じる非特異的な塩基の侵入(insertion)や欠失(deletion)等により、この値は前後する場合がある。
【0016】
本発明のプライマーセットを用いて増幅される核酸は、DNAである。
【0017】
本発明のプライマーセットを構成するプライマーは、オリゴヌクレオチドの合成法として知られる任意の方法によって合成できる。
【0018】
(第1のプライマー)
配列番号1の塩基配列を含む第1のプライマー(以下、単に「第1のプライマー」ともいう。)は、核酸増幅反応におけるフォワードプライマー(センスプライマー)に相当する。第1のプライマーは、配列番号1の塩基配列からなるものであってもよく、配列番号1の塩基配列の5’末端及び/又は3’末端に、計1~30塩基が付加されたものであってもよい。配列番号1の塩基配列に付加される塩基は、ゲンジボタルのCO1の塩基配列や、得られるプライマーのTm予測値等に基づき適宜設計できる。
【0019】
第1のプライマーは、好ましくは配列番号1の塩基配列からなる。
【0020】
(第2のプライマー)
配列番号2の塩基配列を含む第2のプライマー(以下、単に「第2のプライマー」ともいう。)は、核酸増幅反応におけるリバースプライマー(アンチセンスプライマー)に相当する。第2のプライマーは、配列番号2の塩基配列からなるものであってもよく、配列番号2の塩基配列の5’末端及び/又は3’末端に、計1~30塩基が付加されたものであってもよい。配列番号2の塩基配列に付加される塩基は、ゲンジボタルのCO1の塩基配列や、得られるプライマーのTm予測値等に基づき適宜設計できる。
【0021】
第2のプライマーは、好ましくは配列番号2の塩基配列からなる。
【0022】
<ゲンジボタルの検出方法>
本発明の検出方法は、本発明のプライマーセットを用いて、任意の試料から抽出された核酸を鋳型とする核酸増幅反応を行う核酸増幅工程と、該核酸増幅反応による増幅産物を解析する解析工程と、を含む。
【0023】
(核酸増幅工程)
核酸増幅工程は、任意の試料から抽出された核酸を鋳型として、本発明のプライマーセットを用いて核酸増幅反応を行い、ゲンジボタルのCO1の所定領域の増幅産物を得る工程である。鋳型となる核酸は、通常、DNAである。
【0024】
本発明において「任意の試料」としては、特に限定されないが、任意の環境(水辺地、飼育槽等)から、任意の方法で採取された試料を用いることができる。このような試料としては、例えば、水、土壌、底泥、排泄物、死骸(成虫、幼虫等)、脱皮ガラ、蛹室、卵等が挙げられる。
【0025】
試料からの核酸の抽出方法としては、特に限定されないが、従来知られた核酸抽出方法を採用できる。例えば、フェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール(例えば、フェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール(質量比)=25:24:1)溶液や、市販のキットを用いて核酸抽出を行ってもよい。
【0026】
抽出した核酸は、ろ過等により、適宜濃縮してもよい。
【0027】
核酸増幅反応としては、従来知られた核酸増幅方法を採用できる。例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)等が挙げられる。
【0028】
核酸増幅反応においては、本発明のプライマーセット及び鋳型となる核酸とともに、緩衝剤、4種の塩基(dNTP)、酵素(DNAポリメラーゼ等)、プローブ等を用いることができる。
【0029】
核酸増幅反応の条件は、用いる酵素の種類等に応じて適宜設定でき、通常、温度及び時間を適切に設定し、変性、アニーリング、及び伸張からなるサイクルを繰り返して行われる。
【0030】
核酸増幅反応によって得られた増幅産物は適宜精製してもよい。
【0031】
(解析工程)
核酸増幅反応によって、ゲンジボタルのCO1の所定領域を特異的に増幅することができる。例えば、ゲンジボタル以外の生物(ヘイケボタル等)に由来する核酸を用いても、核酸増幅反応によって目的の増幅産物(通常は約119bp)は得られない。かかる点を利用し、核酸増幅工程で得られた増幅産物が、ゲンジボタルのCO1の所定領域の増幅産物であるかの解析を行うことで、ゲンジボタルの検出を行うことができる。
【0032】
本発明において「ゲンジボタルを検出する」とは、解析対象である試料を採取した地にゲンジボタルが存在していたかを判定することを意味する。例えば、解析工程において、目的の増幅産物(通常は約119bp)が得られれば(又は得られなければ)、その試料を採取した地にゲンジボタルが存在していた(又は存在しなかった)と判定できる。さらに、解析工程において増幅産物を定量することで、試料を採取した地におけるゲンジボタルの生息数を推定し得る。
【0033】
増幅産物の解析方法としては、目的とする増幅産物の存否の判定や、増幅産物の配列の特定や、増幅産物中の核酸(DNA等)の定量等ができる任意の方法を採用できる。このような方法としては、電気泳動法、塩基配列のシークエンス解析、定量PCR等が挙げられる。
【0034】
電気泳動法は、増幅産物をアガロースゲル等で電気泳動後、ゲル染色することで、目的の増幅産物(通常は約119bp)の存否を判定する方法である。
【0035】
シークエンス解析は、増幅産物の塩基配列を特定する方法である。シークエンス解析の方法としては、サンガー法や次世代シーケンサーを用いた手法等が挙げられる。このように特定された塩基配列を、塩基配列データベース(例えば、NCBIのBLAST)を用いて照会し、ゲンジボタルの塩基配列との配列同一性が高ければ(例えば、配列同一性が好ましくは95~100%、より好ましくは97~100%であれば)、目的とする増幅産物が得られたことがわかる。
【0036】
定量PCR(リアルタイムPCR等)は、蛍光プローブや、SYBRグリーンを用いて、核酸増幅反応と同時に蛍光強度を測定して増幅産物を定量する方法である。このような方法は、核酸増幅工程と解析工程とが同時に行われる方法に相当する。定量PCRにおいて用いられる好ましい蛍光プローブとしては、Hypercool法(日本遺伝子研究所)によって修飾されたものが挙げられる。
【0037】
定量PCRにおいて、本発明のプライマーセットとともに用いることができる好ましいプローブとして、配列番号3に記載された塩基配列(5’- ATAGTTGAGATGAAATTRACTGCCCCTAAA -3’)を含むものが挙げられる。このプローブには、5’末端側に蛍光物質が付加され、3’末端側にクエンチャーが付加されていてもよい。このような蛍光プローブとして、例えば、「5’- FAM-ATAGTTGAGATGAAATTRACTGCCCCTAAA-BHQ -3’」(「FAM」は、蛍光物質であるフルオレセインを意味し、「BHQ」は、ブラックホールクエンチャーを意味する。)が挙げられる。
【0038】
本発明の検出方法によってゲンジボタルの検出を行うことで、試料を採取した地のホタルの生息有無や、ホタルが蛹化した場所、ホタルの産卵有無を推定することができる。さらには、試料を採取した地がホタルの生育に適しているかを評価することもできる。
【0039】
<ゲンジボタルの検出キット>
上記のとおり、本発明のプライマーセットは、核酸増幅反応を用いる系において、ゲンジボタルに由来する核酸を特異的に増幅できる。そのため、本発明のプライマーセットは、ゲンジボタルの検出キットに好適に含めることができる。ゲンジボタルの検出キットには、本発明のプライマーセットとともに、DNA抽出用試薬、核酸増幅反応(PCR等)用試薬、核酸増幅反応産物の検出用試薬等が含まれていてもよい。
【実施例】
【0040】
以下に、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0041】
<試験1>
本試験では、本発明のプライマーセットを用いた定量PCRによる、各種試料中のゲンジボタルDNAの検出可能性を検証した。なお、本例で用いたプローブは、Hypercool法(日本遺伝子研究所)を用いて設計した。
【0042】
(1)試料の準備
試料として、以下のものを用意した。
(試料1-1)ゲンジボタルの成虫体の死骸(2個体)
(試料1-2)ゲンジボタルの成虫体の脱皮ガラ
(試料1-3)ゲンジボタルの幼虫体の死骸
(試料1-4)ゲンジボタルの幼虫体の糞
(試料1-5)ゲンジボタルを飼育した水槽から採取した水(異なる2つの水槽から採取した)
(試料1-6)ゲンジボタルが生息していることが確認された野外地から採取した水(互いに離れた3地点から採取した)
(試料1-7)トビケラ(学名:Trichoptera)の幼虫体の死骸
(試料1-8)カワゲラ(学名:Plecoptera)の成虫体の死骸
(試料1-9)滅菌蒸留水
【0043】
なお、上記試料のうち水試料(試料1-5、1-6、1-9)は、滅菌処理を行った1Lの採水瓶を用いて採取後、アスピレーターを用いて吸引ろ過したものである。ろ過には、0.2μmのセルロースアセテート製滅菌済みのろ紙(アドバンテック社製)を使用した。
【0044】
(2)試料からのDNA抽出-1
以下の方法により、各水試料(試料1-5、1-6、1-9)からDNAを抽出した。
【0045】
(2-1)DNA抽出バッファーの調製
以下の組成を有するDNA抽出バッファーを調製した。
表1に記載された組成を有するDNA抽出バッファー:100mL
20% SDS(pH7.2):50mL
イソプロパノール:500mL
3M 酢酸ナトリウム:100mL
TEバッファー(10mM Tris-HCl、1mM EDTA、pH8.0):100mL
7.5M酢酸カリウム:50mL
フェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール(質量比=25:24:1)溶液:500mL
70% エタノール水溶液:500mL
プロテイナーゼK溶液:25mL
【0046】
【0047】
(2-2)DNAの抽出
ろ紙を入れた15mL遠沈管に10mLのDNA抽出バッファーを添加し、懸濁した。懸濁後、プロテイナーゼK 0.5mg相当を添加し、37℃、30分間インキュベートした。インキュベート後、SDS(20%)を1mL添加し、65℃、90分間撹拌しながら、さらにインキュベートした。
インキュべート後、6000g、10分間、室温(15℃)で遠心した。遠心後に得られた上清を2本の15mL遠沈管に等量になるように分注し、上清と等量のイソプロパノール、及び上清の10分の1量の3M酢酸Naを添加し、撹拌した。撹拌後、10,000g、15分間、4℃で遠心した。
遠心後、上清をデカンテーションで捨てた。デカンテーション後、残った沈殿にTEバッファーを200μLずつ添加し、懸濁した。懸濁後の試料を1.5mLマイクロチューブに回収し、7.5M 酢酸カリウムを最終濃度0.5Mとなるように添加し混合した。混合後、4℃、5分間でインキュベートした。
インキュベート後、15,000rpm、20分間、4℃で遠心した。
遠心後、上清を2.0mLマイクロチューブに移し、上清と等量のフェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール(質量比=25:24:1)溶液を添加した。添加後、10秒間ボルテックス撹拌し、さらに、15,000rpm、10分間、4℃で遠心した。
遠心後、上清のみを1.5mLのマイクロチューブにピペットで移した。上清と等量のイソプロパノール、及び上清の10分の1量の3M酢酸ナトリウムを添加し、撹拌した。撹拌後、15,000rpm、15分間、4℃で遠心した。
遠心後、上清をデカンテーションで捨て、冷やした400μL 70%エタノール水溶液を添加し、撹拌した。その後、15000rpm、5分間、4℃遠心した。沈殿物を吸わないようにピペットで上清を除き、沈殿を乾燥させた。
乾燥後、TEバッファーを30μL添加し、撹拌してペレットを溶解させ、DNA抽出液を得て、これを-20℃で冷凍庫で保存した。
【0048】
(3)試料からのDNA抽出-2
商品名「NucleoSpin Soil用キット」(マッハライ・ナーゲル社製)を用いて、各昆虫体由来試料(試料1-1、1-2、1-3、1-4、1-7、1-8)からDNAを抽出した。
【0049】
(4)定量PCR
上記(2)及び(3)で抽出したDNAを用いて、TaqMan probe法による定量PCRを表2に示す条件で行った。なお、表2に記載された「プローブ」において、「FAM」は、蛍光物質であるフルオレセインを意味し、「BHQ」は、ブラックホールクエンチャーを意味する。
【0050】
【0051】
(5)結果
図1に、試料1-1より抽出したDNAの希釈系列(0.1~0.000001倍)を用いた検量線を示す。
図1中、Ct値は、検量線を設定するプログラム(使用機器「LightCycler2.0」に内蔵されたもの)を用いて算出した最適値である。
図1においては、Ct値が低いほど、試料中のDNA量が多いことを意味する。
また、表3に、試料1-1の上記希釈系列、及び、試料1-2乃至1-9より採取したDNAの希釈系列(0.1又は0.01倍)を用いた結果を示す。なお、表3中、「N.D.」は、Ct値が高すぎ、値を特定できなかったこと(つまり、試料中にDNAがほぼ含まれていないこと)を意味する。
【0052】
【0053】
図1及び表3に示されるとおり、本発明のプライマーセットを用いた定量PCRにより、ゲンジボタル由来のDNA試料(試料1-1乃至1-6)を、いずれも良好に増幅することができた。
【0054】
他方、ゲンジボタルに由来しないDNA試料(試料1-7乃至1-9)は、本発明のプライマーセットを用いた定量PCRにより増幅されなかった。このことから、本発明のプライマーセットを用いた定量PCRにより、ゲンジボタル由来のDNA試料を特異的に増幅できることがわかった。
【0055】
<試験2>
本試験では、本発明のプライマーセットを用いた定量PCRによる増幅産物の解析を行った。
【0056】
(1)試料の準備
試料として、以下のものを用意した。なお、試料2-3-1及び試料2-3-2は、それぞれ異なる地点から採取した水である。
(試料2-1)ゲンジボタルの成虫体
(試料2-2)ゲンジボタルを飼育した水槽から採取した水
(試料2-3-1)ゲンジボタルが生息していることが確認された野外地から採取した水-1
(試料2-3-2)ゲンジボタルが生息していることが確認された野外地から採取した水-2
(試料2-4)ヘイケボタル(学名:Luciola lateralis)の成虫体
【0057】
(2)試料からのDNA抽出
上記試料のうち水試料(試料2-2、2-3-1、2-3-2)は、上記「(1)試料の準備」と同様にろ過した後、上記「(2)試料からのDNA抽出-1」と同様にDNAを抽出した。
【0058】
上記試料のうち、成虫体試料(試料2-1、2-4)からは、商品名「NucleoSpin Insect用キット」(マッハライ・ナーゲル社製)を用いてDNAを抽出した。
【0059】
(3)定量PCR
上記(2)で抽出したDNAを用いて、TaqMan probe法による定量PCRを表4に示す条件で行い、PCR増幅産物を得た。なお、試料2-1及び2-2からの抽出DNAのPCRでは(定量PCR用試薬組成-1)及び(反応サイクル-1)を採用した。試料2-3-1、2-3-2、及び2-4からの抽出DNAのPCRでは(定量PCR用試薬組成-2)及び(反応サイクル-2)を採用した。
【0060】
なお、下記プライマー配列を用いて得られるPCR増幅産物は、通常は約119bpである。
【0061】
【0062】
(4)PCR増幅産物のシークエンス解析
上記(3)で得られたPCR増幅産物を電気泳動し、配列長さが117kb前後にあるバンドからDNAを回収し、「illustra ExoStar」(GE Healthcare社製)を用いて精製した。得られた精製DNAを、表5に示す条件でシークエンス解析した。シークエンス解析はサンガー法を用いた。
【0063】
なお、試料2-4からはPCR増幅産物が得られなかったため、下記のシークエンス解析を行っていない。
【0064】
【0065】
(5)シークエンス解析の結果
各DNA試料について特定された塩基配列について、塩基配列データベース(NCBIのBLAST(https://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi?PAGE_TYPE=BlastSearch))を用いて検索した。各塩基配列と最も配列同一性が高い塩基配列のアクセッション番号と、その配列同一性を表6に示す。
【0066】
【0067】
表6に示されるとおり、ゲンジボタル自体やその生育場所に関連する試料(すなわち、試料2-4以外)から抽出したDNAのPCR増幅産物は、いずれもゲンジボタルの塩基配列と高い同一性を示した。このような結果は、ゲンジボタルに関連しない試料(試料2-4)では得られなかった。
【0068】
以上のことから、本発明のプライマーセットは、ゲンジボタルに由来するDNAを特異的に増幅でき、ゲンジボタルの検出に好適であることがわかった。
【配列表】