(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-27
(45)【発行日】2024-12-05
(54)【発明の名称】分析装置、分析方法、及び分析プログラム
(51)【国際特許分類】
G06F 40/279 20200101AFI20241128BHJP
G06Q 30/0201 20230101ALI20241128BHJP
【FI】
G06F40/279
G06Q30/0201
(21)【出願番号】P 2020152288
(22)【出願日】2020-09-10
【審査請求日】2023-07-03
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第21回日本感性工学会大会、令和1年9月12日(発表日)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 〔刊行物等〕 第21回日本感性工学会大会講演予稿集、令和1年9月12日(掲載日)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 〔刊行物等〕 International Symposium on Affective Science and Engineering 2020 講演予稿集、令和2年3月15日(掲載日)
(73)【特許権者】
【識別番号】504163612
【氏名又は名称】株式会社LIXIL
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】藤本 有華
(72)【発明者】
【氏名】高久 由香里
(72)【発明者】
【氏名】椎塚 久雄
【審査官】齊藤 貴孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-086380(JP,A)
【文献】特開2012-256284(JP,A)
【文献】特開2007-157126(JP,A)
【文献】特開2019-207604(JP,A)
【文献】国際公開第2015/119605(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0373547(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0159829(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0090065(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0262431(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 40/00-40/58
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生活空間に関する人の発話又は記述により得られた文章を取得する文章取得部と、
前記文章取得部により取得された文章から、人の感情を表現した感情表現及びその感情の要因を抽出する感情表現抽出部と、
前記感情表現抽出部により抽出された感情表現及び要因を分析することにより、前記生活空間に関する人の感情及び要因の傾向、又は前記生活空間に関する人の感情と要因との関係を取得する分析部と、
を備え
、
前記分析部は、複数の感情表現のそれぞれに対して割り当てられたスコアに基づいて、前記生活空間に関する人の感情を数値化する
分析装置。
【請求項2】
前記分析部は、前記感情表現抽出部により抽出された感情表現を肯定的な感情表現と否定的な感情表現に分類し、それぞれの感情表現及び要因を分析することにより、前記生活空間に関する人の肯定的な感情及び要因の傾向と否定的な感情及び要因の傾向を取得する
請求項1に記載の分析装置。
【請求項3】
前記分析部は、肯定的な感情表現を、活性化する感情を表す感情表現と、鎮静化する感情を表す感情表現に分類し、否定的な感情表現を、面倒な感情を表す感情表現と、沈鬱な感情を表す感情表現に分類し、それぞれの感情表現及び要因を分析する
請求項2に記載の分析装置。
【請求項4】
前記分析部は、前記感情表現抽出部により抽出された感情表現の要因を、自身に関する要因と、自身以外に関する要因に分類し、それぞれの感情表現及び要因を分析する
請求項1から3のいずれかに記載の分析装置。
【請求項5】
スコアは、複数の被験者を対象として実施された複数の感情表現のスコアを問うアンケートに対する複数の被験者の回答に基づいて割り当てられる
請求項
1から4のいずれかに記載の分析装置。
【請求項6】
スコアは、複数の被験者の属性に応じて分類された複数のグループごとに集計された回答に基づいてグループごとに割り当てられ、
前記分析部は、前記感情表現抽出部により抽出された感情表現を発した人が属するグループに割り当てられたスコアに基づいて、前記生活空間に関する人の感情を数値化する
請求項
5に記載の分析装置。
【請求項7】
前記分析部は、複数の人の発話又は記述から抽出された感情表現及び要因を、人の属性に応じて分類された複数のグループごとに分析することにより、前記生活空間に関する複数の人の感情及び要因の傾向をグループごとに取得する
請求項1から
6のいずれかに記載の分析装置。
【請求項8】
前記文章取得部は、人が前記生活空間にいたときに感じたことを発話又は記述した文章と、人が前記生活空間にいた目的、又は人が前記生活空間にいた前後の行動を取得し、
前記分析部は、目的又は前後の行動ごとに前記生活空間に関する人の感情又は要因の傾向を取得する
請求項1から
7のいずれかに記載の分析装置。
【請求項9】
前記分析部による分析結果を提示する提示部を更に備え、
前記提示部は、感情と要因をそれぞれ軸として前記生活空間に関する人の感情と要因との関係を表した図を提示する
請求項1から
8のいずれかに記載の分析装置。
【請求項10】
コンピュータに、
生活空間に関する人の発話又は記述により得られた文章を取得する工程と、
取得された文章から、人の感情を表現した感情表現及びその感情の要因を抽出する工程と、
抽出された感情表現及び要因を分析することにより、前記生活空間に関する人の感情及び要因の傾向、又は前記生活空間に関する人の感情と要因との関係を取得する工程と、
複数の感情表現のそれぞれに対して割り当てられたスコアに基づいて、前記生活空間に関する人の感情を数値化する工程と、
を実行させる分析方法。
【請求項11】
コンピュータを、
生活空間に関する人の発話又は記述により得られた文章を取得する文章取得部と、
前記文章取得部により取得された文章から、人の感情を表現した感情表現及びその感情の要因を抽出する感情表現抽出部と、
前記感情表現抽出部により抽出された感情表現及び要因を分析することにより、前記生活空間に関する人の感情及び要因の傾向、又は前記生活空間に関する人の感情と要因との関係を取得する分析部と、
として機能させ
、
前記分析部は、複数の感情表現のそれぞれに対して割り当てられたスコアに基づいて、前記生活空間に関する人の感情を数値化する
分析プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、分析技術に関し、とくに、人の発話又は記述により得られる文章を分析するための分析装置、分析方法、及び分析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
商品やサービスの提供者が顧客満足度を高めて市場優位性を得るための手法として、顧客体験価値の向上が注目されている。体験価値は、商品やサービスの性能や使い勝手などの機能的な価値だけでなく、それらを通じてもたらされる楽しさなどの感性的な価値を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
顧客の体験価値を向上させるためには、商品やサービスを利用した顧客の体験価値の感性的な側面を的確に把握する必要がある。本発明者らは、本出願人による特許出願である特許文献1に記載の分析技術を利用して、人が自由に発話又は記述した文章を分析することにより、体験価値の感性的な側面を的確に把握する技術に想到した。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みてなされ、その目的は、文章の分析を適切に支援する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示のある態様の分析装置は、生活空間に関する人の発話又は記述により得られた文章を取得する文章取得部と、文章取得部により取得された文章から、人の感情を表現した感情表現及びその感情の要因を抽出する感情表現抽出部と、感情表現抽出部により抽出された感情表現及び要因を分析することにより、生活空間に関する人の感情及び要因の傾向、又は生活空間に関する人の感情と要因との関係を取得する分析部と、を備える。
【0007】
本開示の別の態様は、分析方法である。この方法は、コンピュータに、生活空間に関する人の発話又は記述により得られた文章を取得する工程と、取得された文章から、人の感情を表現した感情表現及びその感情の要因を抽出する工程と、抽出された感情表現及び要因を分析することにより、生活空間に関する人の感情及び要因の傾向、又は生活空間に関する人の感情と要因との関係を取得する工程と、を実行させる。
【0008】
本開示の更に別の態様は、分析プログラムである。このプログラムは、コンピュータを、生活空間に関する人の発話又は記述により得られた文章を取得する文章取得部と、文章取得部により取得された文章から、人の感情を表現した感情表現及びその感情の要因を抽出する感情表現抽出部と、感情表現抽出部により抽出された感情表現及び要因を分析することにより、生活空間に関する人の感情及び要因の傾向、又は生活空間に関する人の感情と要因との関係を取得する分析部と、として機能させる。
【0009】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態に係る分析装置の構成を示す図である。
【
図2】
図2(a)(b)は、感情表現に付与されたスコアの例を示す図である
【
図3】ポジティブな感情表現に付与された男女別のスコアの例を示す図である。
【
図6】
図6(a)(b)は、感情表現と感情要因の分類の例を示す図である。
【
図7】実施の形態に係る分析装置による分析結果の例を示す図である。
【
図8】実施の形態に係る分析装置による分析結果の例を示す図である。
【
図9】実施の形態に係る分析装置による分析結果の例を示す図である。
【
図10】実施の形態に係る分析装置による分析結果の例を示す図である。
【
図11】実施の形態に係る分析装置による分析結果の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の実施の形態として、生活空間に関する人の発話又は記述により得られた文章を分析する技術について説明する。生活空間は、人が生きていく中で多くの時間を過ごす重要な空間であるから、生活の質を向上させるためには、生活空間の体験価値を向上させることが必要である。本実施の形態の分析システムは、生活空間に関する人の発話又は記述により得られた文章から、人の感情を表現した感情表現と、その感情の要因を抽出し、それらを分析することにより、生活空間に関する人の感情及び要因の傾向を取得する。これにより、生活空間におけるユーザの体験価値を的確に把握することができるので、より体験価値の高い生活空間を提供していくことができる。また、多数の人の発話又は記述により得られた文章を短時間で的確に分析することができるので、より多くの人にとって体験価値の高い生活空間を提供していくことができる。この技術は、生活空間に設置される設備や機器などの製造者、販売者、住宅や建材などのメーカーにも、それらの使用者、消費者などの顧客にも、大きなメリットをもたらすことができる。
【0012】
図1は、実施の形態に係る分析装置の構成を示す。分析装置10は、通信装置11、入力装置12、表示装置13、制御装置20、及び記憶装置60を備える。分析装置10は、サーバ装置であってもよいし、パーソナルコンピューターなどの端末装置であってもよいし、携帯電話端末、スマートフォン、タブレット端末などの携帯端末装置であってもよい。
【0013】
通信装置11は、他の装置との間の通信を制御する。通信装置11は、有線又は無線の任意の通信方式により通信を行ってもよい。入力装置12は、分析装置10のユーザによる指示入力を制御装置20に伝達する。入力装置12は、マウス、キーボード、タッチパッドなどであってもよい。表示装置13は、制御装置20により生成される画面を表示する。表示装置13は、液晶表示装置、有機EL表示装置などであってもよい。入力装置12及び表示装置13は、タッチパネルとして実装されてもよい。
【0014】
記憶装置60は、制御装置20により使用されるプログラム、データなどを記憶する。記憶装置60は、半導体メモリ、ハードディスク、クラウドストレージなどであってもよい。記憶装置60は、辞書データベース61、感情表現データベース62、及び文章保持部63を格納する。
【0015】
辞書データベース61は、汎用的な構文解析ツールにより使用される単語のデータを保持する。辞書データベース61は、一般的な単語のデータに加えて、固有名詞や生活空間に関する特殊な単語のデータなどを保持してもよい。
【0016】
感情表現データベース62は、人間が事物や事象などから受ける印象や結果によって生じる精神的反応である感情を表す単語、句、文節、又は節(以降、これらを総称して「感情表現」ともいう)のデータを保持する。感情表現データベース62は、感情表現が表す感情の程度を示すスコアを感情表現ごとに保持する。感情表現データベース62には、感情の程度を表す修飾語と、その修飾語が表す感情の程度を示すスコアが更に格納されてもよい。この場合、修飾語により修飾された感情表現のスコアは、感情表現自体に割り当てられたスコアと、修飾語に割り当てられたスコアとに基づいて算出されてもよい。感情表現データベース62は、性別や年代などのユーザの属性ごとに複数設けられてもよい。
【0017】
文章保持部63は、生活空間に関する人の発話又は記述により得られた文章を保持する。
【0018】
制御装置20は、スコア付与部21、文章取得部22、感情表現抽出部23、感情要因抽出部24、分析部25、及び提示部26を備える。これらの構成は、ハードウエア的には、任意のコンピュータのCPU、メモリ、その他のLSIなどにより実現され、ソフトウエア的にはメモリにロードされたプログラムなどによって実現されるが、ここではそれらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックがハードウエアのみ、またはハードウエアとソフトウエアの組合せなど、いろいろな形で実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0019】
スコア付与部21は、文章に含まれる感情表現を数値化するためのスコアを感情表現に付与する。スコア付与部21は、複数の被験者を対象として実施された複数の感情表現のスコアを問うアンケートに対する複数の被験者の回答に基づいて感情表現にスコアを付与してもよい。この場合、スコア付与部21は、ポジティブな感情を表す複数の感情表現を提示し、それぞれの感情表現で表される感情を被験者が日常生活の中で感じた場合のポジティブさの程度を例えば10段階で評価させる。スコア付与部21は、複数の被験者による回答を集計し、それぞれの感情表現のスコアを算出して感情表現データベース62に格納する。スコア付与部21は、集計したスコアの平均値、中央値、最頻値などの統計値をスコアとしてもよい。スコア付与部21は、ネガティブな感情を表す複数の感情表現についても同様にアンケートを実施し、複数の被験者による回答を集計してそれぞれの感情表現にスコアを付与する。
【0020】
スコア付与部21は、複数の被験者を属性に応じて複数のグループに分類し、分類された複数のグループごとに回答を集計して、それぞれの感情表現にグループごとにスコアを付与してもよい。例えば、男性と女性に分けて回答を集計し、男性用のスコアと女性用のスコアを付与してもよい。また、年齢、地域などに応じて分類された複数のグループごとにスコアを付与してもよい。
【0021】
図2(a)(b)は、感情表現に付与されたスコアの例を示す。
図2(a)は、ポジティブな感情表現のスコアを示し、
図2(b)は、ネガティブな感情表現のスコアを示す。
【0022】
図3は、ポジティブな感情表現に付与された男女別のスコアの例を示す。
図3に示すように、ポジティブな感情表現に付与されたスコアは、男性の方が女性よりも若干高い傾向が見られた。なお、年代別のスコアの差はあまり見られなかった。
【0023】
このように、感情表現のスコアを属性ごと、とくに性別ごとに付与しておくことにより、分析の精度を向上させることができる。
【0024】
文章取得部22は、分析対象の文章として、生活空間に関する人の発話又は記述により得られた文章を取得して文章保持部63に格納する。分析対象の文章は、調査のために収集された調査データや、インターネットなどの通信網において公開されたオープンデータなどを含む。調査データは、例えば、インタビュー、アンケート(紙面、オンライン、対面形式など)、WEB調査、訪問調査などにより収集されたデータを含む。オープンデータは、例えば、ブログ、SNS、商品やサービスなどの情報を提供するウェブサイトなどに投稿されたテキストデータや、公開された動画像データに含まれる音声などのデータを含む。文章取得部22は、テキストデータを分析対象の文章として取得してもよいし、画像や映像などから自動的に認識されたテキストデータを分析対象の文章として取得してもよいし、画像や映像などのデータを取得して、それらに含まれるテキストデータを自動的に認識することにより、分析対象の文章としてもよい。
【0025】
感情表現抽出部23は、文章取得部22により取得された文章から感情表現を抽出する。感情表現抽出部23は、辞書データベース61及び感情表現データベース62を参照して文章を構成するそれぞれの文を構文解析し、構造化された複数の単語、句、文節、又は節に分解する。感情表現抽出部23は、感情表現データベース62を参照して、分解された単語、句、文節、又は節から感情表現を抽出する。
【0026】
感情要因抽出部24は、感情表現抽出部23により抽出された感情表現が表す感情の要因を文章から抽出する。感情要因抽出部24は、感情表現抽出部23により構造化された単語、句、文節、又は節の修飾関係又は被修飾関係に基づいて感情要因を抽出してもよい。例えば、接続助詞「ので」の前の単語、句、文節、又は節を感情要因として抽出してもよい。
【0027】
分析部25は、感情表現抽出部23により抽出された感情表現及び感情要因抽出部24により抽出された感情要因を分析することにより、生活空間に関する人の感情及び要因の傾向を取得する。分析部25は、感情表現抽出部23により抽出された感情表現を肯定的な感情表現と否定的な感情表現に分類し、それぞれの感情表現及び要因を分析することにより、生活空間に関する人の肯定的な感情及び要因の傾向と否定的な感情及び要因の傾向を取得してもよい。分析部25は、肯定的な感情表現を、活性化する感情を表す感情表現と、鎮静化する感情を表す感情表現に分類し、否定的な感情表現を、面倒な感情を表す感情表現と、沈鬱な感情を表す感情表現に分類し、それぞれの感情表現及び要因を分析してもよい。分析部25は、感情要因抽出部24により抽出された感情要因を、自身に関する要因と、自身以外に関する要因に分類し、それぞれの感情表現及び要因を分析してもよい。分析部25は、感情表現抽出部23により抽出された感情表現及び感情要因抽出部24により抽出された感情要因を分析することにより、生活空間に関する人の感情と要因との関係を取得する。
【0028】
分析部25は、感情表現データベース62を参照し、複数の感情表現のそれぞれに対して割り当てられたスコアに基づいて、生活空間に関する人の感情を数値化してもよい。感情表現のスコアが、複数の被験者の属性に応じて分類された複数のグループごとに割り当てられている場合、分析部25は、感情表現抽出部23により抽出された感情表現を発した人が属するグループに割り当てられたスコアに基づいて、生活空間に関する人の感情を数値化してもよい。分析部25は、複数の人の発話又は記述から抽出された感情表現及び要因を、人の属性に応じて分類された複数のグループごとに分析することにより、生活空間に関する複数の人の感情及び要因の傾向をグループごとに取得してもよい。
【0029】
提示部26は、分析部25による分析結果を表示装置13に提示する。分析部25及び提示部26の動作及び機能の詳細は、提示部26により表示装置13に表示される表示画面を参照して後述する。
【0030】
図4は、感情表現の分類の例を示す。アンケートの回答を集計した結果、ポジティブな感情表現では、「ほっとする」、「癒される」などの鎮静化する感情を表す感情表現に比較的低いスコアが付与され、「ウキウキ」、「わくわく」などの活性化する感情を表す感情表現に比較的高いスコアが付与される傾向が見られた。ネガティブな感情表現では、「面倒くさい」、「億劫」、「テンションが低い」、「義務感」などの面倒な感情を表す感情表現に比較的高い(ネガティブ度の低い)スコアが付与され、「辛い」、「ショック」、「萎える」、「申し訳ない」などの沈鬱な感情を表す感情表現に比較的低い(ネガティブ度の高い)スコアが付与される傾向が見られた。すなわち、一般的な被験者が持っているポジティブ又はネガティブな感情表現に対する感情の度合いには、単純な感情の強弱ではなく、意味性の違いが反映されていることが分かる。
【0031】
図5は、感情要因の分類の例を示す。全ての感情要因は、自分自身に関する感情要因と、他からの感情要因とに分類される。自分自身に関する感情要因は、自身の精神的要因である「Mind」、自身の内的、外的身体的要因である「Body」、自身の行為、行動、思考に関わる要因である「Action」に分類される。他からの感情要因は、自分以外の人が関わる要因である「Person」、有形、無形の対象物が関わる要因である「Object」、自身の居る場所に関わる要因である「Place」、周辺環境、複合的状況、その他の抽象的要因である「Context」に分類される。
【0032】
図6(a)(b)は、感情表現と感情要因の分類の例を示す。
図6(a)は、ポジティブな感情表現の分類の例を示す。
図4に示したように、ポジティブな感情表現は「鎮静化」、「活性化」に分類され、
図5に示したように、感情要因は、自分自身に関する感情要因と他からの感情要因に分類される。これらを総合すると、ポジティブな感情表現は、自分自身に関する感情要因により誘起された活性的な感情表現である「客観的フィードバックによる自己満足」、自分自身に関する感情要因により誘起された鎮静的な感情表現である「主観的フィードバックによる状態満足、他からの感情要因により誘起された活性的な感情表現である「知覚的フィードバックによる状況満足」、他からの感情要因により誘起された鎮静的な感情表現である「嗜好的フィードバックによる専有満足」に分類される。また、
図6(b)は、ネガティブな感情表現の分類の例を示す。
図4に示したように、ネガティブな感情表現は「面倒」、「沈鬱」に分類され、
図5に示したように、感情要因は、自分自身に関する感情要因と他からの感情要因に分類される。これらを総合すると、ネガティブな感情表現は、自分自身に関する感情要因により誘起された面倒さを表す感情表現である「心理的フィードバックによる状態不全」、自分自身に関する感情要因により誘起された沈鬱さを表す感情表現である「身体的フィードバックによる自己嫌悪」、他からの感情要因により誘起された面倒さを表す感情表現である「経験的フィードバックによる行動無精」、他からの感情要因により誘起された沈鬱さを表す感情表現である「感覚的フィードバックによる状況嫌悪」に分類される。
【0033】
分析部25は、感情表現抽出部23により抽出された感情表現及び感情要因抽出部24により抽出された感情要因を上記のように分類し、それぞれの出現頻度やスコアなどを算出することにより、生活空間に関する人の感情及び要因の傾向を取得する。
【0034】
以下、分析装置10による分析の一例として、洗面空間を使用又は清掃しているときに被験者が感じた感情を発話又は記述した文章を分析する例について説明する。
【0035】
図7は、実施の形態に係る分析装置10による分析結果の例を示す。分析部25は、被験者の年代、職業の有無ごとに、ポジティブな感情表現とネガティブな感情表現の比率を算出する。30~40代の有職女性(何らかの職業に就いている女性)、30~40代の無職女性(専業主婦など報酬の発生する職業を持たない女性)、50~60代の無職女性では、ポジティブな感情表現とネガティブな感情表現の比率がほぼ同じであったが、50~60代の有職女性では、ポジティブな感情表現が8割を占めていた。
【0036】
図8は、実施の形態に係る分析装置10による分析結果の例を示す。分析部25は、被験者の年代、職業の有無ごとに、感情要因の比率を算出する。全てのグループにおいて、「Body」の比率が最も多かった。また、無職女性では「Body」がほとんどを占めるのに対して、有職女性では「Action」、「Object」、「Context」の比率も多かった。
【0037】
図9は、実施の形態に係る分析装置10による分析結果の例を示す。
図8に示した分析結果を更に詳細に分析するために、感情表現と感情要因をテーブル化し、2以上の頻度があったエリアに色づけして比較した。無職女性では「Body」を感情要因とする感情表現しか見られなかったのに対して、有職女性では多くのバリエーションが見られることが分かった。50~60代の有職女性では、ネガティブな感情要因が「Body」のみであり、「Action」、「Object」、「Contest」などのネガティブ要因が見られなかったため、ポジティブな感情表現が8割を占めていたと考えられる。
【0038】
図10は、実施の形態に係る分析装置10による分析結果の例を示す。
図10(a)は、無職女性が朝の身支度をするために洗面空間を使用したときの感情要因の因果関係を示す。無職女性は、自身の身体的状態や身支度の仕上がり具合だけでポジティブな感情とネガティブな感情の間を行き来していると考えられる。
図10(b)は、有職女性が朝の身支度をするために洗面空間を使用したときの感情要因の因果関係を示す。有職女性は、朝の身支度における自身自身に関する感情要因だけでなく、他からの感情要因も加わって複雑に絡み合った感情を持っていることが分かった。有職女性は、家族以外の他者と接する機会が多いので、日常的に感性的な刺激を多く受けているためと考えられる。
【0039】
図11は、実施の形態に係る分析装置10による分析結果の例を示す。提示部26は、感情と要因をそれぞれ軸として生活空間に関する人の感情と要因との関係を表した図を提示する。
図11において、縦軸は感情を表す。
図4に示した分類にしたがって、ポジティブ(活性)、ポジティブ(鎮静)、ネガティブ(面倒)、ネガティブ(沈鬱)の4つに感情表現が分類される。
図11において、横軸は感情の要因を表す。
図5に示した分類のうち、自分自身に関する2つの要因(身体、行動)、他からの2つの要因(モノ、状況)に感情の要因が分類される。分析対象の文章における人の感情と要因との関係を図式化することにより、生活空間において人が感じる感情とその要因を視覚的に分かりやすく分析者に提示することができるので、分析者による分析を支援することができる。
【0040】
このように、洗面空間における身支度という個人的な行為にも、社会的な繋がりの強さなどの他との関係が影響を及ぼしていることが分かる。このような分析結果から、洗面空間において求められる体験価値を的確に把握することにより、洗面空間に設置される設備や機器などや、洗面空間を演出するための照明、空調、スピーカー、内装などを設計、製造、販売、提案していくことができる。
【0041】
生活空間において人が感じる感情は、生活空間にいる目的や、前後の行動などによっても変わりうる。したがって、このような生活文脈による影響を把握するために、文章取得部22は、人が生活空間にいたときに感じたことを発話又は記述した文章と、人が生活空間にいた目的、又は人が生活空間にいた前後の行動を取得し、分析部25は、目的又は前後の行動ごとに生活空間に関する人の感情又は要因の傾向を取得してもよい。これにより、生活文脈における生活空間の体験価値を的確に把握することができる。
【0042】
分析装置10は、上記の機能のいずれか1つのみを有していてもよいし、2以上の組合せを有していてもよい。後者の場合、提示部26は、ユーザからの指示に応じて、2以上の機能の画面を任意に切り替えて提示してもよい。
【0043】
以上のように、本実施の形態の分析装置10によれば、生活空間に関する文章に含まれる感情表現及び感情要因を分析して視覚的に理解しやすい態様で提示するので、分析者による文章の分析を適切に支援し、分析者の工数や労力を大幅に低減させることができる。また、文章に含まれる感情表現及び感情要因の種類、程度、出現数などを可視化することができるので、生活空間における人の感情の分析を適切に支援し、商品開発やマーケティングなどに活用させることができる。
【符号の説明】
【0044】
10 分析装置、20 制御装置、21 スコア付与部、22 文章取得部、23 感情表現抽出部、24 感情要因抽出部、25 分析部、26 提示部、60 記憶装置、61 辞書データベース、62 感情表現データベース、63 文章保持部。