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特許7594884正極活物質層の内部抵抗低減剤、並びにこれを用いた二次電池用正極材料
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  • 特許-正極活物質層の内部抵抗低減剤、並びにこれを用いた二次電池用正極材料 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-27
(45)【発行日】2024-12-05
(54)【発明の名称】正極活物質層の内部抵抗低減剤、並びにこれを用いた二次電池用正極材料
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20241128BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20241128BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20241128BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/38 Z
H01M4/13
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020185781
(22)【出願日】2020-11-06
(65)【公開番号】P2022075170
(43)【公開日】2022-05-18
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小松 秀行
(72)【発明者】
【氏名】小川 止
(72)【発明者】
【氏名】大間 敦史
【審査官】窪田 陸人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/147242(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0079428(KR,A)
【文献】特開2012-150948(JP,A)
【文献】特開2005-251469(JP,A)
【文献】特開2012-146399(JP,A)
【文献】特表2019-517729(JP,A)
【文献】特開2020-140950(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄単体を含む正極活物質を含有する二次電池用正極の正極活物質層に添加されて前記正極活物質層の内部抵抗を低減させるのに用いられ、
イオン結晶性化合物を有効成分として含有し、前記イオン結晶性化合物は、当該イオン結晶性化合物がイオンに解離したときにカチオン原子となる原子Aと、アニオン原子となる原子Bとからなる基本構造を有し、
前記イオン結晶性化合物についての下記数式1で表されるパラメータXが0.032≦X≦0.072を満足する、正極活物質層の内部抵抗低減剤:
【数1】
式中、Eatomは前記イオン結晶性化合物の一原子あたりのエネルギー[eV]を表し、Zcatは前記原子Aの原子番号を表し、Lは前記イオン結晶性化合物の結晶格子aの長さ[Å]を表す。
【請求項2】
前記Xが0.042≦X≦0.072を満たす、請求項1に記載の内部抵抗低減剤。
【請求項3】
前記原子Bが、O、N、P、CまたはSである、請求項1または2に記載の内部抵抗低減剤。
【請求項4】
前記原子Aが、Ta、Pb、Cs、InまたはZnである、請求項1~3のいずれか1項に記載の内部抵抗低減剤。
【請求項5】
前記イオン結晶性化合物が、TaC、PbS、Cs、InまたはZnSを含む、請求項1に記載の内部抵抗低減剤。
【請求項6】
前記イオン結晶性化合物が、Cs、InまたはZnSを含む、請求項5に記載の内部抵抗低減剤。
【請求項7】
硫黄単体を含む正極活物質と、導電材料と、硫化物固体電解質と、請求項1~のいずれか1項に記載の内部抵抗低減剤と、を含む、二次電池用正極材料。
【請求項8】
前記導電材料が細孔を有し、前記正極活物質および前記内部抵抗低減剤が前記細孔の内部に配置されている、請求項に記載の二次電池用正極材料。
【請求項9】
前記内部抵抗低減剤の含有量が、正極材料100質量%に対して2質量%以下である、請求項またはに記載の二次電池用正極材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極活物質層の内部抵抗低減剤、並びにこれを用いた二次電池用正極材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化に対処するため、二酸化炭素量の低減が切に望まれている。自動車業界では、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)の導入による二酸化炭素排出量の低減に期待が集まっており、これらの実用化の鍵を握るモータ駆動用二次電池などの非水電解質二次電池の開発が盛んに行われている。
【0003】
モータ駆動用二次電池としては、携帯電話やノートパソコン等に使用される民生用リチウム二次電池と比較して極めて高い出力特性、および高いエネルギーを有することが求められている。したがって、現実的な全ての電池の中で最も高い理論エネルギーを有するリチウム二次電池が注目を集めており、現在急速に開発が進められている。
【0004】
ここで、現在一般に普及しているリチウム二次電池は、電解質に可燃性の有機電解液を用いている。このような液系リチウム二次電池では、液漏れ、短絡、過充電などに対する安全対策が他の電池よりも厳しく求められる。
【0005】
そこで近年、電解質に酸化物系や硫化物系の固体電解質を用いた全固体リチウム二次電池に関する研究開発が盛んに行われている。固体電解質は、固体中でイオン伝導が可能なイオン伝導体を主体として構成される材料である。このため、全固体リチウム二次電池においては、従来の液系リチウム二次電池のように可燃性の有機電解液に起因する各種問題が原理的に発生しない。また一般に、高電位・大容量の正極材料、大容量の負極材料を用いると電池の出力密度およびエネルギー密度の大幅な向上が図れる。例えば、正極活物質の候補である硫黄単体(S)は、1670mAh/g程度と極めて大きい理論容量を有し、低コストで資源が豊富であるという利点を備えている。
【0006】
しかしながら、硫黄の電子伝導性が低いことなどに起因して、硫黄含有正極活物質の高容量であるという特性を十分に活かすことはできていないのが現状である。
【0007】
硫黄単体などの正極活物質の高容量特性を十分に発揮させることを目的として、例えば特許文献1には、硫黄および/またはその放電生成物に、イオン伝導性物質と、所定値以上の導電率を有する導電材料で被覆された活性炭とを添加して正極材料を調製する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2015-176849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らの検討によれば、特許文献1に記載の技術を用いて二次電池を作製すると、高い充放電レートでの充放電の際に十分な容量が取り出せない(すなわち、いわゆる充放電レート特性が十分ではない)という問題があることが判明した。このように充放電レート特性が不十分である二次電池は、急速充放電に対応して十分な容量を活用することができない。
【0010】
そこで本発明は、硫黄を含む正極活物質を用いた二次電池において、充放電レート特性を向上させうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、所定の数式で定義されるパラメータが所定の範囲内の値を示すイオン結晶性化合物を、硫黄を含む正極活物質とともに正極活物質層に添加することにより、上記課題が解決されうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
本発明の一形態は、硫黄を含む正極活物質を含有する二次電池用正極の正極活物質層に添加されて前記正極活物質層の内部抵抗を低減させるのに用いられ、
イオン結晶性化合物を有効成分として含有し、前記イオン結晶性化合物は、当該イオン結晶性化合物がイオンに解離したときにカチオン原子となる原子Aと、アニオン原子となる原子Bとからなる基本構造を有し、
前記イオン結晶性化合物についての下記数式1で表されるパラメータXが0.032≦X≦0.072を満足する、正極活物質層の内部抵抗低減剤である:
【0013】
【数1】
【0014】
式中、Eatomは前記イオン結晶性化合物の一原子あたりのエネルギー[eV]を表し、Zcatは前記原子Aの原子番号を表し、Lは前記イオン結晶性化合物の結晶格子aの長さ[Å]を表す。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、硫黄を含む正極活物質を用いた二次電池において、充放電レート特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明に係るリチウムイオン二次電池の一実施形態である扁平積層型の全固体リチウムイオン二次電池の外観を表した斜視図である。
図2図2は、図1に示す2-2線に沿う断面図である。
図3図3は、硫黄を含む正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池の充電過程および放電過程の双方における律速反応のエネルギー状態図である。
図4A図4Aは、表3に記載の実施例および比較例に記載のイオン結晶性化合物の一原子あたりのエネルギー(Eatom)を規格化したパラメータ要素((Eatom+12.79)/11.77)と、上記反応のギブス自由エネルギー(ΔG)との関係をプロットしたグラフである。
図4B図4Bは、表3に記載の実施例および比較例に記載のイオン結晶性化合物を構成する原子Aの原子番号(Zcat)を規格化したパラメータ要素((Zcat-94)/93)と、上記反応のギブス自由エネルギー(ΔG)との関係をプロットしたグラフである。
図4C図4Cは、表3に記載の実施例および比較例に記載のイオン結晶性化合物の結晶格子aの長さ(L)を規格化したパラメータ要素((L-70.68)/68.54)と、上記反応のギブス自由エネルギー(ΔG)との関係をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、上述した本発明の実施形態を説明するが、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、以下の形態のみに制限されない。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。以下では、二次電池の一形態である、積層型(内部並列接続型)の全固体リチウム二次電池を例に挙げて本発明を説明する。上述したように、全固体リチウム二次電池を構成する固体電解質は、固体中でイオン伝導が可能なイオン伝導体を主体として構成される材料である。このため、全固体リチウム二次電池においては、従来の液系リチウム二次電池のように可燃性の有機電解液に起因する各種問題が原理的に発生しないという利点がある。また一般に、高電位・大容量の正極材料、大容量の負極材料を用いると電池の出力密度およびエネルギー密度の大幅な向上が図れるという利点もある。
【0018】
本発明の一形態は、硫黄を含む正極活物質を含有する二次電池用正極の正極活物質層に添加されて前記正極活物質層の内部抵抗を低減させるのに用いられ、
イオン結晶性化合物を有効成分として含有し、前記イオン結晶性化合物は、当該イオン結晶性化合物がイオンに解離したときにカチオン原子となる原子Aと、アニオン原子となる原子Bとからなる基本構造を有し、
前記イオン結晶性化合物についての上記数式1で表されるパラメータXが0.032≦X≦0.072を満足する、正極活物質層の内部抵抗低減剤である。
【0019】
本形態に係る正極活物質層の内部抵抗低減剤(所定のイオン結晶性化合物を有効成分として含む)は、硫黄を含む正極活物質を含有する二次電池用正極の正極活物質層に添加されることで、当該添加剤と硫黄の表面との間で相互作用が生じ、当該正極活物質層に含まれる硫黄単体(S)がLiと結合してLiを生じる反応(およびその逆反応)におけるギブス自由エネルギー(ΔG)を低下させることができる。その結果、当該正極活物質層の内部抵抗を低減させることができる。そしてその結果として、硫黄を含む正極活物質を用いた二次電池において、充放電レート特性を向上させることが可能となる。なお、本形態に係る内部抵抗低減剤の有効成分である上記所定のイオン結晶性化合物が硫黄含有正極活物質を用いた二次電池の正極活物質層の内部抵抗を低減させる推定メカニズムについては、後述する。
【0020】
図1は、本発明に係るリチウムイオン二次電池の一実施形態である扁平積層型の全固体リチウムイオン二次電池の外観を表した斜視図である。図2は、図1に示す2-2線に沿う断面図である。積層型とすることで、電池をコンパクトにかつ高容量化することができる。なお、本明細書においては、図1および図2に示す扁平積層型の双極型でないリチウムイオン二次電池(以下、単に「積層型電池」とも称する)を例に挙げて詳細に説明する。ただし、本形態に係るリチウムイオン二次電池の内部における電気的な接続形態(電極構造)で見た場合、非双極型(内部並列接続タイプ)電池および双極型(内部直列接続タイプ)電池のいずれにも適用しうるものである。
【0021】
図1に示すように、積層型電池10aは、長方形状の扁平な形状を有しており、その両側部からは電力を取り出すための負極集電板25、正極集電板27が引き出されている。発電要素21は、積層型電池10aの電池外装材(ラミネートフィルム29)によって包まれ、その周囲は熱融着されており、発電要素21は、負極集電板25および正極集電板27を外部に引き出した状態で密封されている。
【0022】
なお、本形態に係るリチウムイオン二次電池は、積層型の扁平な形状のものに制限されるものではない。巻回型のリチウムイオン二次電池では、円筒型形状のものであってもよいし、こうした円筒型形状のものを変形させて、長方形状の扁平な形状にしたようなものであってもよいなど、特に制限されるものではない。上記円筒型の形状のものでは、その外装材にラミネートフィルムを用いてもよいし、従来の円筒缶(金属缶)を用いてもよいなど、特に制限されるものではない。好ましくは、発電要素がアルミニウムを含むラミネートフィルムの内部に収容される。当該形態により、軽量化が達成されうる。
【0023】
また、図1に示す集電板(25、27)の取り出しに関しても、特に制限されるものではない。負極集電板25と正極集電板27とを同じ辺から引き出すようにしてもよいし、負極集電板25と正極集電板27をそれぞれ複数に分けて、各辺から取り出しようにしてもよいなど、図1に示すものに制限されるものではない。また、巻回型のリチウムイオン電池では、タブに変えて、例えば、円筒缶(金属缶)を利用して端子を形成すればよい。
【0024】
図2に示すように、本実施形態の積層型電池10aは、実際に充放電反応が進行する扁平略矩形の発電要素21が、電池外装材であるラミネートフィルム29の内部に封止された構造を有する。ここで、発電要素21は、正極と、固体電解質層17と、負極とを積層した構成を有している。正極は、正極集電体11”の両面に正極活物質を含有する正極活物質層15が配置された構造を有する。負極は、負極集電体11’の両面に負極活物質を含有する負極活物質層13が配置された構造を有する。具体的には、1つの正極活物質層15とこれに隣接する負極活物質層13とが、固体電解質層17を介して対向するようにして、正極、固体電解質層および負極がこの順に積層されている。これにより、隣接する正極、固体電解質層および負極は、1つの単電池層19を構成する。したがって、図1に示す積層型電池10aは、単電池層19が複数積層されることで、電気的に並列接続されてなる構成を有するともいえる。
【0025】
図2に示すように、発電要素21の両最外層に位置する最外層正極集電体には、いずれも片面のみに正極活物質層15が配置されているが、両面に活物質層が設けられてもよい。すなわち、片面にのみ活物質層を設けた最外層専用の集電体とするのではなく、両面に活物質層がある集電体をそのまま最外層の集電体として用いてもよい。また、場合によっては、集電体(11’,11”)を用いることなく、負極活物質層13および正極活物質層15をそれぞれ負極および正極として用いてもよい。
【0026】
負極集電体11’および正極集電体11”は、各電極(正極および負極)と導通される負極集電板(タブ)25および正極集電板(タブ)27がそれぞれ取り付けられ、電池外装材であるラミネートフィルム29の端部に挟まれるようにしてラミネートフィルム29の外部に導出される構造を有している。正極集電板27および負極集電板25はそれぞれ、必要に応じて正極リードおよび負極リード(図示せず)を介して、各電極の正極集電体11”および負極集電体11’に超音波溶接や抵抗溶接などにより取り付けられていてもよい。
【0027】
以下、本形態に係るリチウムイオン二次電池の主要な構成部材について説明する。
【0028】
[集電体]
集電体は、電極活物質層からの電子の移動を媒介する機能を有する。集電体を構成する材料に特に制限はない。集電体の構成材料としては、例えば、金属や、導電性を有する樹脂が採用されうる。
【0029】
具体的には、金属としては、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレス、チタン、銅などが挙げられる。これらのほか、ニッケルとアルミニウムとのクラッド材、銅とアルミニウムとのクラッド材などが用いられてもよい。また、金属表面にアルミニウムが被覆されてなる箔であってもよい。なかでも、電子伝導性や電池作動電位、集電体へのスパッタリングによる負極活物質の密着性等の観点からは、アルミニウム、ステンレス、銅、ニッケルが好ましい。
【0030】
また、後者の導電性を有する樹脂としては、非導電性高分子材料に必要に応じて導電性フィラーが添加された樹脂が挙げられる。
【0031】
非導電性高分子材料としては、例えば、ポリエチレン(PE;高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)など)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリアミド(PA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、またはポリスチレン(PS)などが挙げられる。かような非導電性高分子材料は、優れた耐電位性または耐溶媒性を有しうる。
【0032】
上記の導電性高分子材料または非導電性高分子材料には、必要に応じて導電性フィラーが添加されうる。特に、集電体の基材となる樹脂が非導電性高分子のみからなる場合は、樹脂に導電性を付与するために必然的に導電性フィラーが必須となる。
【0033】
導電性フィラーは、導電性を有する物質であれば特に制限なく用いることができる。例えば、導電性、耐電位性、またはリチウムイオン遮断性に優れた材料として、金属および導電性カーボンなどが挙げられる。金属としては、特に制限はないが、Ni、Ti、Al、Cu、Pt、Fe、Cr、Sn、Zn、In、およびSbからなる群から選択される少なくとも1種の金属もしくはこれらの金属を含む合金または金属酸化物を含むことが好ましい。また、導電性カーボンとしては、特に制限はない。好ましくは、アセチレンブラック、バルカン(登録商標)、ブラックパール(登録商標)、カーボンナノファイバー、ケッチェンブラック(登録商標)、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノバルーン、およびフラーレンからなる群より選択される少なくとも1種を含むものである。
【0034】
導電性フィラーの添加量は、集電体に十分な導電性を付与できる量であれば特に制限はなく、一般的には、集電体の全質量100質量%に対して5~80質量%である。
【0035】
なお、集電体は、単独の材料からなる単層構造であってもよいし、あるいは、これらの材料からなる層を適宜組み合わせた積層構造であっても構わない。集電体の軽量化の観点からは、少なくとも導電性を有する樹脂からなる導電性樹脂層を含むことが好ましい。また、単電池層間のリチウムイオンの移動を遮断する観点からは、集電体の一部に金属層を設けてもよい。さらに、後述する負極活物質層や正極活物質層がそれ自体で導電性を有し集電機能を発揮できるのであれば、これらの電極活物質層とは別の部材としての集電体を用いなくともよい。このような形態においては、後述する負極活物質層がそのまま負極を構成し、後述する正極活物質層がそのまま正極を構成することとなる。
【0036】
[負極(負極活物質層)]
本形態に係る二次電池において、負極活物質層13は、負極活物質を含む。負極活物質の種類としては、特に制限されないが、炭素材料、金属酸化物および金属活物質が挙げられる。炭素材料としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、高配向性グラファイト(HOPG)、ハードカーボン、ソフトカーボン等が挙げられる。また、金属酸化物としては、例えば、Nb、LiTi12等が挙げられる。さらに、ケイ素系負極活物質やスズ系負極活物質が用いられてもよい。ここで、ケイ素およびスズは第14族元素に属し、非水電解質二次電池の容量を大きく向上させうる負極活物質であることが知られている。これらの単体は単位体積(質量)あたり多数の電荷担体(リチウムイオン等)を吸蔵および放出しうることから、高容量の負極活物質となる。ここで、ケイ素系負極活物質としては、Si単体を用いることが好ましい。また同様に、Si相とケイ素酸化物相との2相に不均化されたSiO(0.3≦x≦1.6)などのケイ素酸化物を用いることも好ましい。この際、xの範囲は0.5≦x≦1.5であることがより好ましく、0.7≦x≦1.2であることがさらに好ましい。さらには、ケイ素を含有する合金(ケイ素含有合金系負極活物質)が用いられてもよい。一方、スズ元素を含む負極活物質(スズ系負極活物質)としては、Sn単体、スズ合金(Cu-Sn合金、Co-Sn合金)、アモルファススズ酸化物、スズケイ素酸化物等が挙げられる。このうち、アモルファススズ酸化物としてはSnB0.40.63.1が例示される。また、スズケイ素酸化物としてはSnSiOが例示される。また、負極活物質として、リチウムを含有する金属を用いてもよい。このような負極活物質は、リチウムを含有する活物質であれば特に限定されず、金属リチウムのほか、リチウム含有合金が挙げられる。リチウム含有合金としては、例えば、Liと、In、Al、SiおよびSnの少なくとも1種との合金が挙げられる。場合によっては、2種以上の負極活物質が併用されてもよい。なお、上記以外の負極活物質が用いられてもよいことは勿論である。負極活物質は、金属リチウム、ケイ素系負極活物質またはスズ系負極活物質を含むことが好ましく、金属リチウムを含むことが特に好ましい。
【0037】
負極活物質の形状は、例えば、粒子状(球状、繊維状)、薄膜状等が挙げられる。負極活物質が粒子形状である場合、その平均粒径(D50)は、例えば、1nm~100μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは10nm~50μmの範囲内であり、さらに好ましくは100nm~20μmの範囲内であり、特に好ましくは1~20μmの範囲内である。なお、本明細書において、活物質の平均粒径(D50)の値は、レーザー回折散乱法によって測定することができる。
【0038】
負極活物質層における負極活物質の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば、40~99質量%の範囲内であることが好ましく、50~90質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0039】
負極活物質層は、固体電解質をさらに含むことが好ましい。負極活物質層が固体電解質を含むことにより、負極活物質層のイオン伝導性を向上させることができる。固体電解質としては、例えば、硫化物固体電解質や酸化物固体電解質が挙げられるが、硫化物固体電解質であることが好ましい。
【0040】
硫化物固体電解質としては、例えば、LiI-LiS-SiS、LiI-LiS-P、LiI-LiPO-P、LiS-P、LiI-LiPS、LiI-LiBr-LiPS4、LiPS4、LiS-P、LiS-P-LiI、LiS-P-LiO、LiS-P-LiO-LiI、LiS-SiS、LiS-SiS-LiI、LiS-SiS-LiBr、LiS-SiS-LiCl、LiS-SiS-B-LiI、LiS-SiS-P-LiI、LiS-B、LiS-P-Z(ただし、m、nは正の数であり、Zは、Ge、Zn、Gaのいずれかである)、LiS-GeS、LiS-SiS-LiPO、LiS-SiS-LiMO(ただし、x、yは正の数であり、Mは、P、Si、Ge、B、Al、Ga、Inのいずれかである)等が挙げられる。なお、「LiS-P」の記載は、LiSおよびPを含む原料組成物を用いてなる硫化物固体電解質を意味し、他の記載についても同様である。
【0041】
硫化物固体電解質は、例えば、LiPS骨格を有していてもよく、Li骨格を有していてもよく、Li骨格を有していてもよい。LiPS骨格を有する硫化物固体電解質としては、例えば、LiI-LiPS、LiI-LiBr-LiPS4、LiPSが挙げられる。また、Li骨格を有する硫化物固体電解質としては、例えば、LPSと称されるLi-P-S系固体電解質(例えば、Li11)が挙げられる。また、硫化物固体電解質として、例えば、Li(4-x)Ge(1-x)(xは、0<x<1を満たす)で表されるLGPS等を用いてもよい。なかでも、活物質層に含まれる硫化物固体電解質は、P元素を含む硫化物固体電解質であることが好ましく、硫化物固体電解質は、LiS-Pを主成分とする材料であることがより好ましい。さらに、硫化物固体電解質は、ハロゲン(F、Cl、Br、I)を含有していてもよい。好ましい一実施形態において、硫化物固体電解質はLiPSX(ここで、XはCl、BrもしくはIであり、好ましくはClである)を含む。
【0042】
また、硫化物固体電解質がLiS-P系である場合、LiSおよびPの割合は、モル比で、LiS:P=50:50~100:0の範囲内であることが好ましく、なかでもLiS:P=70:30~80:20であることが好ましい。
【0043】
また、硫化物固体電解質は、硫化物ガラスであってもよく、結晶化硫化物ガラスであってもよく、固相法により得られる結晶質材料であってもよい。なお、硫化物ガラスは、例えば原料組成物に対してメカニカルミリング(ボールミル等)を行うことにより得ることができる。また、結晶化硫化物ガラスは、例えば硫化物ガラスを結晶化温度以上の温度で熱処理を行うことにより得ることができる。また、硫化物固体電解質の常温(25℃)におけるイオン伝導度(例えば、Liイオン伝導度)は、例えば、1×10-5S/cm以上であることが好ましく、1×10-4S/cm以上であることがより好ましい。なお、固体電解質のイオン伝導度の値は、交流インピーダンス法により測定することができる。
【0044】
酸化物固体電解質としては、例えば、NASICON型構造を有する化合物等が挙げられる。NASICON型構造を有する化合物の一例としては、一般式Li1+xAlGe2-x(PO(0≦x≦2)で表される化合物(LAGP)、一般式Li1+xAlTi2-x(PO(0≦x≦2)で表される化合物(LATP)等が挙げられる。また、酸化物固体電解質の他の例としては、LiLaTiO(例えば、Li0.34La0.51TiO)、LiPON(例えば、Li2.9PO3.30.46)、LiLaZrO(例えば、LiLaZr12)等が挙げられる。
【0045】
固体電解質の形状としては、例えば、真球状、楕円球状等の粒子形状、薄膜形状等が挙げられる。固体電解質が粒子形状である場合、その平均粒径(D50)は、特に限定されないが、40μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることがさらに好ましい。一方、平均粒径(D50)は、0.01μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。
【0046】
負極活物質層における固体電解質の含有量は、例えば、1~60質量%の範囲内であることが好ましく、10~50質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0047】
負極活物質層は、上述した負極活物質および固体電解質に加えて、導電助剤およびバインダの少なくとも1つをさらに含有していてもよい。
【0048】
導電助剤としては、例えば、アルミニウム、ステンレス(SUS)、銀、金、銅、チタン等の金属、これらの金属を含む合金または金属酸化物;炭素繊維(具体的には、気相成長炭素繊維(VGCF)、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、活性炭素繊維等)、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンブラック(具体的には、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルランプブラック等)等のカーボンが挙げられるが、これらに限定されない。また、粒子状のセラミック材料や樹脂材料の周りに上記金属材料をめっき等でコーティングしたものも導電助剤として使用できる。これらの導電助剤のなかでも、電気的安定性の観点から、アルミニウム、ステンレス、銀、金、銅、チタン、およびカーボンからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、アルミニウム、ステンレス、銀、金、およびカーボンからなる群より選択される少なくとも1種を含むことがより好ましく、カーボンを少なくとも1種を含むことがさらに好ましい。これらの導電助剤は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を併用しても構わない。
【0049】
導電助剤の形状は、粒子状または繊維状であることが好ましい。導電助剤が粒子状である場合、粒子の形状は特に限定されず、粉末状、球状、棒状、針状、板状、柱状、不定形状、燐片状、紡錘状等、いずれの形状であっても構わない。
【0050】
導電助剤が粒子状である場合の平均粒子径(一次粒子径)は、特に限定されるものではないが、電池の電気特性の観点から、0.01~10μmであることが好ましい。なお、本明細書中において、「導電助剤の粒子径」とは、導電助剤の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離Lを意味する。「導電助剤の平均粒子径」の値としては、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数~数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。
【0051】
負極活物質層が導電助剤を含む場合、当該負極活物質層における導電助剤の含有量は特に制限されないが、負極活物質層の合計質量に対して、好ましくは0~10質量%であり、より好ましくは2~8質量%であり、さらに好ましくは4~7質量%である。このような範囲であれば、負極活物質層においてより強固な電子伝導パスを形成することが可能となり、電池特性の向上に有効に寄与することが可能である。
【0052】
一方、バインダとしては、特に限定されないが、例えば、以下の材料が挙げられる。
【0053】
ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)(水素原子が他のハロゲン元素にて置換された化合物を含む)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリブテン、ポリエーテルニトリル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミド、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物などの熱可塑性高分子、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF-HFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-HFP-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ペンタフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF-PFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ペンタフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-PFP-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-パーフルオロメチルビニルエーテル-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-PFMVE-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-クロロトリフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-CTFE系フッ素ゴム)等のビニリデンフルオライド系フッ素ゴム、エポキシ樹脂等が挙げられる。中でも、ポリイミド、スチレン・ブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアミドであることがより好ましい。
【0054】
負極活物質層の厚さは、目的とする二次電池の構成によっても異なるが、例えば、0.1~1000μmの範囲内であることが好ましい。
【0055】
[固体電解質層]
本形態に係る二次電池において、固体電解質層は、上述した正極活物質層と負極活物質層との間に介在し、固体電解質を必須に含有する層である。
【0056】
固体電解質層に含有される固体電解質の具体的な形態について特に制限はなく、負極活物質層の欄において例示した固体電解質およびその好ましい形態が同様に採用されうる。場合によっては、上述した固体電解質以外の固体電解質が併用されてもよい。ただし、固体電解質の全量100質量%に占める硫化物固体電解質の含有量の割合は、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、さらに好ましくは80質量%以上であり、いっそう好ましくは90質量%以上であり、特に好ましくは95質量%以上であり、最も好ましくは100質量%である。
【0057】
固体電解質層は、上述した固体電解質に加えて、バインダをさらに含有していてもよい。固体電解質層に含有されうるバインダについても、負極活物質層の欄において説明した例示および好ましい形態が同様に採用されうる。
【0058】
固体電解質層の厚みは、目的とするリチウムイオン二次電池の構成によっても異なるが、電池の体積エネルギー密度を向上させうるという観点からは、好ましくは600μm以下であり、より好ましくは500μm以下であり、さらに好ましくは400μm以下である。一方、固体電解質層の厚みの下限値について特に制限はないが、好ましくは10μm以上であり、より好ましくは50μm以上であり、さらに好ましくは100μm以上である。
【0059】
[正極活物質層]
本形態に係る二次電池において、正極活物質層は、硫黄を含む正極活物質を含む。硫黄を含む正極活物質の種類としては、特に制限されないが、硫黄単体(S)のほか、有機硫黄化合物または無機硫黄化合物の粒子または薄膜が挙げられ、硫黄の酸化還元反応を利用して、充電時にリチウムイオンを放出し、放電時にリチウムイオンを吸蔵することができる物質であればよい。有機硫黄化合物としては、ジスルフィド化合物、国際公開第2010/044437号パンフレットに記載の化合物に代表される硫黄変性ポリアクリロニトリル、硫黄変性ポリイソプレン、ルベアン酸(ジチオオキサミド)、ポリ硫化カーボン等が挙げられる。なかでも、ジスルフィド化合物および硫黄変性ポリアクリロニトリル、およびルベアン酸が好ましく、特に好ましくは硫黄変性ポリアクリロニトリルである。ジスルフィド化合物としては、ジチオビウレア誘導体、チオウレア基、チオイソシアネート、またはチオアミド基を有するものがより好ましい。ここで、硫黄変性ポリアクリロニトリルとは、硫黄粉末とポリアクリロニトリルとを混合し、不活性ガス下もしくは減圧下で加熱することによって得られる、硫黄原子を含む変性されたポリアクリロニトリルである。その推定構造は、例えばChem. Mater. 2011,23,5024-5028に示されているように、ポリアクリロニトリルが閉環して多環状になるとともに、Sの少なくとも一部はCと結合している構造である。この文献に記載されている化合物はラマンスペクトルにおいて、1330cm-1と1560cm-1付近に強いピークシグナルがあり、さらに、307cm-1、379cm-1、472cm-1、929cm-1付近にピークが存在する。一方、無機硫黄化合物は安定性に優れることから好ましく、具体的には、硫黄単体(S)、TiS、TiS、TiS、NiS、NiS、CuS、FeS、LiS、MoS、MoS等が挙げられる。なかでも、S、S-カーボンコンポジット、TiS、TiS、TiS、FeSおよびMoSが好ましく、硫黄単体(S)、TiSおよびFeSがより好ましく、高容量であるという観点からは硫黄単体(S)が特に好ましい。なお、硫黄単体(S)としては、S構造を有するα硫黄、β硫黄、またはγ硫黄が用いられうる。これらの硫黄単体は、放電時においてはリチウムイオンを吸蔵してリチウムの(多)硫化物の形態で正極活物質層中に存在する。
【0060】
ここで、正極活物質として硫黄単体(S)が用いられる場合、正極活物質としての硫黄単体(S)は、導電材料と複合化されてなる複合材料の形態で正極活物質中に含まれることが好ましい。この複合材料は、硫黄単体と導電材料との混合物を加熱処理または機械的混合に供することによって複合化した状態のものである。より詳細には、導電材料の表面や細孔内に硫黄が分布している状態、硫黄と導電材料がナノレベルで均一に分散し、それらが凝集して粒子となっている状態、細かな硫黄粒子の表面や内部に導電材料が分布している状態、または、これらの状態が複数組み合わさった状態のものである。
【0061】
上記複合材料を構成する導電材料として、好ましくは炭素材料が用いられる。炭素材料としては、特に限定されないが、例えば、活性炭(例えば、関西熱化学株式会社製MSC-30)、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、カーボンファイバー、グラフェン等が挙げられる。また、これらを組み合わせて使用することも可能であり、例えば、活性炭とケッチェンブラック(登録商標)とを組み合わせて使用した場合には、充放電におけるプラトー領域が広がり、充放電サイクルを重ねても充放電容量の維持率が高くなるという利点がある。なかでも、炭素材料は細孔を有するものであることが好ましく、活性炭であることがより好ましい。また、導電材料が細孔を有する場合に、正極活物質および内部抵抗低減剤が当該細孔の内部に配置されていることが特に好ましい。
【0062】
正極活物質層は、硫黄を含む正極活物質に加えて、硫黄を含まない正極活物質をさらに含んでもよい。硫黄を含まない正極活物質としては、例えば、LiCoO、LiMnO、LiNiO、LiVO、Li(Ni-Mn-Co)O等の層状岩塩型活物質、LiMn、LiNi0.5Mn1.5等のスピネル型活物質、LiFePO、LiMnPO等のオリビン型活物質、LiFeSiO、LiMnSiO等のSi含有活物質等が挙げられる。また上記以外の酸化物活物質としては、例えば、LiTi12が挙げられる。
【0063】
場合によっては、2種以上の正極活物質が併用されてもよい。なお、上記以外の正極活物質が用いられてもよいことは勿論である。ただし、正極活物質の全量100質量%に占める硫黄を含む正極活物質の含有量の割合は、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、さらに好ましくは80質量%以上であり、いっそう好ましくは90質量%以上であり、特に好ましくは95質量%以上であり、最も好ましくは100質量%である。
【0064】
正極活物質の形状は、例えば、粒子状(球状、繊維状)、薄膜状等が挙げられる。正極活物質が粒子形状である場合、その平均粒径(D50)は、例えば、1nm~100μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは10nm~50μmの範囲内であり、さらに好ましくは100nm~20μmの範囲内であり、特に好ましくは1~20μmの範囲内である。なお、本明細書において、活物質の平均粒径(D50)の値は、レーザー回折散乱法によって測定することができる。
【0065】
正極活物質層における正極活物質の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば、35~99質量%の範囲内であることが好ましく、40~90質量%の範囲内であることがより好ましい。なお、正極活物質が上記複合材料の形態である場合、この含有量の値は、導電材料を除く正極活物質(硫黄単体)のみの質量を基準に算出するものとする。
【0066】
また、正極活物質層は、導電助剤および/またはバインダをさらに含んでもよく、これらの具体的な形態および好ましい形態については、上述した負極活物質層の欄において説明したものが同様に採用されうる。同様に、正極活物質層は固体電解質をさらに含むことが好ましく、硫化物固体電解質をさらに含むことが特に好ましい。硫化物固体電解質などの固体電解質の具体的な形態および好ましい形態についても、上述した負極活物質層の欄において説明したものが同様に採用されうる。
【0067】
したがって、本発明の好ましい実施形態によれば、硫黄を含む正極活物質と、導電材料と、硫化物固体電解質と、本形態に係る内部抵抗低減剤とを含む、二次電池用正極材料が提供される。また、本発明の他の好ましい実施形態によれば、硫黄を含む正極活物質と、細孔を有する導電材料と、硫化物固体電解質と、本形態に係る内部抵抗低減剤とを含み、正極活物質および内部抵抗低減剤が当該細孔の内部に配置されている、二次電池用正極材料もまた、提供される。これらの実施形態に係る二次電池用正極材料によれば、硫黄の電極反応が進行する反応場に内部抵抗低減剤を多く存在させることができ、また、硫黄への電子伝導パスについても十分に確保することができる結果、本発明の作用効果をよりいっそう発現させることができるという利点がある。
【0068】
本形態に係る正極活物質層の内部抵抗低減剤において、有効成分は、原子Aと原子Bとからなる基本構造を有するイオン結晶性化合物である。ここで、内部抵抗低減剤の有効成分であるイオン結晶性化合物の基本構造を構成する原子Aは、当該イオン結晶性化合物がイオンに解離したときにカチオン原子となる原子である。一方、上記基本構造を構成する原子Bは、当該イオン結晶性化合物がイオンに解離したときにアニオン原子となる原子である。イオン結晶性化合物が「原子Aおよび原子Bからなる基本構造を有する」とは、原子Aおよび原子Bがそれぞれ規則的に配列することによって形成される結晶構造を当該化合物の主成分として含有することを意味する。したがって、この定義および後述する数式1に関する定義を満たす限り、イオン結晶性化合物は原子Aまたは原子Bの少なくとも一部が他の原子によって置換されたものであってもよい。原子Aおよび/または原子Bを置換しうる原子の具体的な種類について特に制限はなく、イオン結晶性化合物の原子価を満足する任意の原子によって置換されうる。また、上記「主成分」に関して、原子Aおよび/または原子Bを置換する他の原子の含有量は、イオン結晶性化合物を構成する全原子100モル%を基準として、好ましくは5原子%以下であり、より好ましくは3原子%以下であり、さらに好ましくは1原子%以下であり、最も好ましくは0原子%である。
【0069】
また、内部抵抗低減剤の有効成分であるイオン結晶性化合物は、当該化合物についての下記数式1で表されるパラメータXが0.032≦X≦0.072を満足するという特徴をも有している。
【0070】
【数2】
【0071】
数式1において、Eatomは前記イオン結晶性化合物の一原子あたりのエネルギー[eV]を表し、Zcatは前記原子Aの原子番号を表し、Lは前記イオン結晶性化合物の結晶格子aの長さ[Å]を表す。以下、上記パラメータXを用いた関係式(0.032≦X≦0.072)の導出過程について、説明する。
【0072】
本発明者らは、硫黄を含む正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池における充放電反応における律速段階を特定すべく、密度汎関数理論(DFT)に基づく電子状態計算法である密度汎関数法を用いて、上記充放電反応を構成する素反応について解析を行った。ここで、密度汎関数理論(DFT)(密度汎関数法)は、実験データや経験パラメータを用いることなくシュレーディンガー方程式(ディラック方程式)から物性や化学反応を予測する第一原理計算の1種であり、計算対象となる分子構造について、生成エネルギーEgや、分子軌道(その分子を構成する電子が存在できる軌道)のエネルギー準位を算出する手法である。
【0073】
ここで、硫黄単体(S)はリチウムを含まないため、これを正極活物質として見ると、当該正極活物質を含むリチウムイオン二次電池は最も充電が進行した状態にあるということができる。一方、このリチウム二次電池の放電が進行すると、正極活物質である硫黄単体(S)は徐々にリチウムと結合することにより種々の還元生成物を経由し、最終的にはLiSとなる。つまり、LiSのみを正極活物質として含むリチウムイオン二次電池は最も放電が進行した状態にあるということができる。
【0074】
ここで、硫黄単体(S)とLiSとの間で硫黄原子およびリチウム原子の含有モル比が異なる還元生成物(中間体)としては、(S)→Li→Li→Li→Li→Li→Li→Li→(LiS)が想定されうる。そこで本発明者らは、硫黄単体(S)およびLiS並びにこれらの想定される還元生成物(中間体)のそれぞれについて、DFTに基づいて構造最適化(分子を構成する原子の位置を変化させ、生成エネルギーが最低となる構造を求める計算)を行い、安定な原子配置での生成エネルギーを算出した。そして、反応物と生成物との組み合わせとして想定されるすべての場合について、生成物の生成エネルギー(Eproducts)から反応物の生成エネルギー(Ereactants)を引いた値を各反応におけるギブス自由エネルギー(ΔG)とみなした。なお、詳細な計算条件は以下の通りである:
シミュレーションプログラム:Vienna ab-initio simulation package (VASP)
相関汎関数:B3LYP
カットオフエネルギー:400 [eV]
擬ポテンシャル:PAW GGA
電子緩和アルゴリズム:preconditioned residuum-minimization
イオン緩和アルゴリズム:RMM-DIIS。
【0075】
ここで、充電反応においては各反応におけるΔGは正の値であり、反応物よりも生成物の方がエネルギー的に不安定である。このため、充電反応においては、反応物を固定した場合に想定される反応のうち、ΔGが最小である反応が実際に進行していると判断した。最も放電が進行した状態であるLiSを正極活物質として含むリチウム二次電池の充電反応が進行する場合を想定して、実際に計算を行った結果を下記の表1に示す(小数第三位で四捨五入した値を示している)。
【0076】
【表1】
【0077】
表1に示すように、LiSについては、例えば、リチウムを放出してLiを生成する反応(2LiS→Li+2Li)が想定される。この際の反応物の生成エネルギー(Ereactants)および反応物の生成エネルギー(Eproducts)はそれぞれ14.41[eV]および15.44[eV]であり、これらの差として算出されるギブス自由エネルギー(ΔG=Eproducts-Ereactants)は1.02[eV]と算出される。
【0078】
また、LiSについて想定される反応としては、上記のもののほか、Li、Li、Li、Li、Li、Liと反応してLi、Li、Li、Li、Li、Liをそれぞれ生成する反応もある。これらの各反応のΔGは上記表1に示す通りであるが、いずれもLiを生成する反応におけるΔGよりも大きい。したがって、LiSについて実際には、ΔGが最小となるLiの生成反応が進行するものと結論付けた。また、このような解析をその後も同様に進め、各反応物について想定される反応のうち、ΔGが最小の値(表1に太字で示した)となる反応が実際に進行するものと結論付けた。その結果、充電反応において、LiSはLiを生成した後にLi、Li、Li、Li、Li、LiおよびSを順次生成するものと考えられた。ここで、LiSからSに至る8つの反応のうちΔGが最大のものは、最終段階におけるLiSからのSの生成反応(Li→S+2Li)である。このことから、このSの生成反応が充電過程において反応速度が最も遅い反応(律速反応)であると考えられた。
【0079】
一方、放電反応については、最も充電が進行した状態であるSを正極活物質として含むリチウム二次電池の放電反応が進行する場合を想定して、実際に計算を行った結果を下記の表2に示す。なお、放電反応においては各反応におけるΔGは負の値であり、反応物よりも生成物の方がエネルギー的に安定である。このため、放電反応においては、反応物を固定した場合に想定される反応のうち、ΔGの絶対値が最大である反応が実際に進行していると判断した。
【0080】
【表2】
【0081】
表2に示すように、SについてはLiを生成する反応(S+2Li→Li)のみが想定される。その後、ΔGの絶対値が最大(表2に太字で示した)となるように、LiはLiを生成し(Li+2Li→2Li)、LiはLiを生成し(Li+2Li→2Li)、LiはLiSを生成する(Li+2Li→2LiS)と考えられた。ここで、上述したように、放電反応においては反応物よりも生成物の方がエネルギー的に安定である。ただし、実際に反応が進行するには各反応の反応物における励起エネルギーを超える必要がある。したがって、上述したSからLiSに至る4つの反応のそれぞれについて、反応物(S、Li、Li、Li)の励起エネルギーを算出した。具体的には、各反応物のLUMO(最低非占有分子軌道;電子が入っていない分子軌道のうちエネルギー準位が最低の軌道)のエネルギー準位(ELUMO)とフェルミ準位(電子の存在確率が50%であるエネルギー準位;Efermi)との差が励起エネルギーに相当するとみなして、励起エネルギーE°をE°=ELUMO-Efermiの式に従って算出した。その結果、上記4つの反応のそれぞれの励起エネルギーE°は上記表2に示す値として算出された。ここで、SからLiSに至る4つの反応のうち励起エネルギーE°が最大のものは、最初の段階におけるSからのLiの生成反応(S+2Li→Li)である。このことから、SからのLiの生成反応が放電過程において反応速度が最も遅い反応(律速反応)であると考えられた。
【0082】
以上述べたようなDFTに基づく計算から、硫黄を含む正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池の充電過程における律速反応は、LiSからのSの生成反応(Li→S+2Li)であると特定された。同様に、硫黄を含む正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池の放電過程における律速反応はSからのLiの生成反応(S+2Li→Li)であると特定された。ここで、上記の2つの律速反応のエネルギー状態図を図3に示す。図3に示すように、放電反応における律速反応であるSからのLiの生成反応(S+2Li→Li)は、ΔGが負の値を示す発熱反応である。ただし、この反応は発熱反応ではあるものの、バンドギャップエネルギー(活性化エネルギー)Eを超えるエネルギーが与えられなければ進行しない。これに対し、充電反応における律速反応であるLiSからのSの生成反応(Li→S+2Li)は、ΔGが正の値を示す吸熱反応である。この反応は、ギブス自由エネルギー(ΔG)と上述したバンドギャップエネルギー(活性化エネルギー)Eの合計であるエネルギー障壁(E)を超えるエネルギーが与えられなければ進行しない。
【0083】
これらの知見に基づき、本発明者らは、上記の2つの律速反応のうち、専らLiSからのSの生成反応(Li→S+2Li)におけるエネルギー障壁の指標の1つであるΔGを低減させうる添加剤を探索した。具体的に、本発明者らは、各種のイオン結晶性化合物を対象として検討を進めた。その過程で、各種のイオン結晶性化合物の有する26種類の物性パラメータについて、上記反応のギブス自由エネルギー(ΔG)の低減に及ぼす影響が大きい(すなわち、上記反応のギブス自由エネルギー(ΔG)の低減との相関係数が大きい)物性パラメータを統計解析により調べた。この際、26種類の物性パラメータの値については、Materials Projectのウェブサイト(https://materialsproject.org/)に記載された値を採用した。一方、Liがそれぞれのイオン結晶性化合物と接触した際の上記反応のギブス自由エネルギー(ΔG)の値については、上記と同様のシミュレーションプログラムを用いて算出した。詳細な計算条件は以下の通りである:
シミュレーションプログラム:Vienna ab-initio simulation package (VASP)
相関汎関数:B3LYP
カットオフエネルギー:500 [eV]
擬ポテンシャル:PAW GGA
電子緩和アルゴリズム:preconditioned residuum-minimization
イオン緩和アルゴリズム:RMM-DIIS。
【0084】
なお、統計解析には種々のソフトウェアが使用可能であるが、ここではJUSE-StatWorks(株式会社日本科学技術研修所)を用いた。その結果、上記反応のギブス自由エネルギー(ΔG)の低減との相関係数が大きい物性パラメータとして、以下の3種類を特定するに至った:
(1)イオン結晶性化合物の一原子あたりのエネルギー(Eatom)[eV];
(2)前記原子Aの原子番号(Zcat)[-];
(3)イオン性化合物の結晶格子aの長さ(L)[Å]。
【0085】
このようにして特定された3種類の物性パラメータは、単位系や桁数が異なっている。このため、3種類の物性パラメータのそれぞれを規格化した上で掛け合わせたのが上記数式1である。なお、上記(1)Eatomの値としては、Materials Projectのウェブサイトの当該化合物についての「Calculation Summary」のページに記載の「Final Energy/Atom」の値を用いる。また、上記(2)Zcatの値としては、元素周期律表に記載された値を用いる。さらに、上記(3)Lの値としては、Materials Projectのウェブサイトの当該化合物についての「Lattice Parameters」のaの値を採用する。
【0086】
このように導出された数式1に、11種類のイオン性化合物の物性パラメータの値を代入して得られたパラメータXについて、上記で算出された上記反応のギブス自由エネルギー(ΔG)の値との関係を調べた。その結果を下記の表3に示す。
【0087】
【表3】
【0088】
表3に示すように、各種のイオン結晶性化合物のうち、パラメータXが0.032≦X≦0.072を満たすものであれば、添加剤としてグラファイトを添加した場合と比較して、当該化合物がLiと接触したときの上記反応のギブス自由エネルギー(ΔG)が正でより小さい値となることがわかる。ΔGが正でより小さい値となることは、上記反応が不安定化することなく反応障壁が小さくなることを意味するため、好ましい。
【0089】
以上のことから、添加剤としてのイオン結晶性化合物のうち、グラファイトを添加剤として用いた場合と比較してΔGが正でより小さくなるものとして、パラメータXの範囲を0.032~0.072(0.032≦X≦0.072)としたのである。ΔGの低減効果に優れるという観点から、パラメータXは、好ましくは0.037≦X≦0.072を満たし、より好ましくは0.042≦X≦0.072を満たし、さらに好ましくは0.061≦X≦0.072を満たす。ここで、図4Aは、表3に記載の実施例および比較例に記載のイオン結晶性化合物の一原子あたりのエネルギー(Eatom)を規格化したパラメータ要素((Eatom+12.79)/11.77)と、上記反応のギブス自由エネルギー(ΔG)との関係をプロットしたグラフである。また、図4Bは、表3に記載の実施例および比較例に記載のイオン結晶性化合物を構成する原子Aの原子番号(Zcat)を規格化したパラメータ要素((Zcat-94)/93)と、上記反応のギブス自由エネルギー(ΔG)との関係をプロットしたグラフである。さらに、図4Cは、表3に記載の実施例および比較例に記載のイオン結晶性化合物の結晶格子aの長さ(L)を規格化したパラメータ要素((L-70.68)/68.54)と、上記反応のギブス自由エネルギー(ΔG)との関係をプロットしたグラフである。図4A図4Cに示すグラフからわかるように、これらの3種類の規格化パラメータ要素のそれぞれについて見ると、ΔGとの相関がそれほど大きいわけではなく、これらの規格化パラメータ要素(または規格化前のパラメータ)が大きいほどΔGの低減効果が大きくなると結論付けることはできない。これに対し、本発明によれば、上述した数式1で表されるパラメータXを所定の範囲内の値に制御することで、上記反応のギブス自由エネルギー(ΔG)の低減作用を介して正極活物質層の内部抵抗低減剤として好適に利用可能であることを見出したものである。
【0090】
上述したようなパラメータXに関する規定を満足する具体的なイオン結晶性化合物について特に制限はなく、上述した算出過程によって算出されたパラメータXの範囲が上記の範囲内の値となるものであれば特に制限なく用いられうる。本発明の作用効果に優れるという観点から、本形態に係る内部抵抗低減剤の有効成分として用いられうるイオン結晶性化合物を構成する原子Aおよび原子Bの好ましい一例を挙げると、解離によってアニオンとなる原子Bとしては、以下のものに制限されないが、O、N、P、CおよびSが挙げられる。一方、解離によってカチオンとなる原子Aとしては、以下のものに制限されないが、Ta、Pb、Cs、InおよびZnが挙げられる。また、これらの原子Aおよび原子Bからなる基本構造を有するイオン結晶性化合物の具体例としては、TaC、PbS、Cs、InまたはZnSが挙げられる。なかでも、ΔGの低減効果がいっそう高いという観点からは、好ましくはPbS、Cs、InまたはZnSが用いられ、より好ましくはCs、InまたはZnSが用いられ、さらに好ましくはInまたはZnSが用いられ、最も好ましくはZnSが用いられる。これらの好ましい化合物を添加剤として用いるとLiからSを生じる反応(充電過程における律速反応)のギブス自由エネルギー(ΔG)の値は特に小さい値となり、正極活物質層の内部抵抗を低下させて、二次電池の充放電レート特性を大幅に向上させることが可能となる。
【0091】
上述したように、本形態に係る正極活物質層の内部抵抗低減剤は、硫黄を含む正極活物質を含有する二次電池用正極の正極活物質層に添加されることで、当該正極活物質層の内部抵抗を低減させることができる。その結果、硫黄を含む正極活物質を用いた二次電池において、充放電レート特性を向上させることができる。ここで、なお、本形態に係る内部抵抗低減剤が硫黄を含む正極活物質を用いた二次電池の正極活物質層において内部抵抗を低減させる推定メカニズムについては、以下のように推測される。
【0092】
すなわち、上述した統計解析の結果、LiからSを生じる反応(充電過程における律速反応)のギブス自由エネルギー(ΔG)の低減との相関係数が大きい物性パラメータとして、上記3種類の物性パラメータが特定されている。これら3種類の物性パラメータがΔGの低減に及ぼしうる影響について考察すると、まず、イオン結晶性化合物の一原子あたりのエネルギー(Eatom)については、この値が大きいほどイオン結晶性化合物の基本構造の結晶の安定性が高いことを意味する。このため、一原子あたりのエネルギー(Eatom)が大きいイオン結晶性化合物を添加すると、他の原子との相互作用がある場合であってもSのLiへの反応が促進されるものと考えられる。原子Aの原子番号については、この値が大きいほどより電子数が多く、結晶の原子間距離が長くなる。このため、原子Aの原子番号が大きいイオン結晶性化合物を添加すると、当該化合物が硫黄原子とより強く相互作用する結果、S-S結合が切れやすくなり、SのLiへの反応が促進されるものと考えられる。最後に、イオン結晶性化合物の結晶格子aの長さ(L)については、この値が大きいほど硫黄との静電反発が小さくなる。このため、イオン結晶性化合物の結晶格子aの長さ(L)が大きいイオン結晶性化合物を添加すると、当該化合物が硫黄原子とより強く相互作用する結果、S-S結合が切れやすくなり、SのLiへの反応が促進されるものと考えられる。
【0093】
本形態に係る二次電池用正極材料において、上述した内部抵抗低減剤の含有量は特に制限されないが、正極材料100質量%に対して、好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは2質量%以下であり、さらに好ましくは1質量%以下である。このような構成とすることで、正極材料に含まれる正極活物質の含有量が必要以上に少なくなり過ぎることが防止され、電池のエネルギー密度の向上に有効に寄与しうる。また、正極活物質層における各成分の配合バランスが適切なものとなり、電子伝導およびイオン伝導の経路がそれぞれ十分に確保されうる。なお、内部抵抗低減剤の含有量の下限値について特に制限はないが、内部抵抗低減剤としての機能を発現させるという観点からは、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは0.3質量%以上であり、特に好ましくは0.5質量%以上である。また、本形態に係る二次電池用正極材料が導電材料を硫化物固体電解質とともに含む場合において、内部抵抗低減剤と導電材料との質量比率は特に制限されない。ただし、硫黄への電子伝導パスを十分に確保するという観点から、内部抵抗低減剤の質量に対する導電材料の質量の比率(導電材料/内部抵抗低減剤)は、好ましくは8以上であり、より好ましくは10以上であり、さらに好ましくは13以上であり、特に好ましくは17以上である。なお、この値の上限値について特に制限はないが、一例としては200以下であり、好ましくは150以下であり、より好ましくは100以下であり、特に好ましくは50以下である。
【0094】
[正極集電板および負極集電板]
集電板(25、27)を構成する材料は、特に制限されず、二次電池用の集電板として従来用いられている公知の高導電性材料が用いられうる。集電板の構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金等の金属材料が好ましい。軽量、耐食性、高導電性の観点から、より好ましくはアルミニウム、銅であり、特に好ましくはアルミニウムである。なお、正極集電板27と負極集電板25とでは、同一の材料が用いられてもよいし、異なる材料が用いられてもよい。
【0095】
[正極リードおよび負極リード]
また、図示は省略するが、集電体(11’、11”)と集電板(25、27)との間を正極リードや負極リードを介して電気的に接続してもよい。正極および負極リードの構成材料としては、公知のリチウムイオン二次電池において用いられる材料が同様に採用されうる。なお、外装から取り出された部分は、周辺機器や配線などに接触して漏電したりして製品(例えば、自動車部品、特に電子機器等)に影響を与えないように、耐熱絶縁性の熱収縮チューブなどにより被覆することが好ましい。
【0096】
[電池外装材]
電池外装材としては、公知の金属缶ケースを用いることができるほか、図1および図2に示すように発電要素を覆うことができる、アルミニウムを含むラミネートフィルム29を用いた袋状のケースが用いられうる。該ラミネートフィルムには、例えば、PP、アルミニウム、ナイロンをこの順に積層してなる3層構造のラミネートフィルム等を用いることができるが、これらに何ら制限されるものではない。高出力化や冷却性能に優れ、EV、HEV用の大型機器用電池に好適に利用することができるという観点から、ラミネートフィルムが望ましい。また、外部から掛かる発電要素への群圧を容易に調整することができることから、外装体はアルミニウムを含むラミネートフィルムがより好ましい。
【0097】
本形態に係る積層型電池は、複数の単電池層が並列に接続された構成を有することにより、高容量でサイクル耐久性に優れるものである。したがって、本形態に係る積層型電池は、EV、HEVの駆動用電源として好適に使用される。
【0098】
以上、リチウムイオン二次電池の一実施形態を説明したが、本発明は上述した実施形態において説明した構成のみに限定されることはなく、特許請求の範囲の記載に基づいて適宜変更することが可能である。
【0099】
例えば、本発明に係るリチウムイオン二次電池が適用される電池の種類として、集電体の一方の面に電気的に結合した正極活物質層と、集電体の反対側の面に電気的に結合した負極活物質層とを有する双極型電極を含む、双極型(バイポーラ型)の電池も挙げられる。
【0100】
また、本形態に係る二次電池は、全固体型でなくてもよい。すなわち、固体電解質層は、従来公知の液体電解質(電解液)をさらに含有していてもよい。固体電解質層に含まれうる液体電解質(電解液)の量について特に制限はないが、固体電解質により形成された固体電解質層の形状が保持され、液体電解質(電解液)の液漏れが生じない程度の量であることが好ましい。
【0101】
用いられうる液体電解質(電解液)は、有機溶媒にリチウム塩が溶解した形態を有する。用いられる有機溶媒としては、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、プロピオン酸メチル(MP)、酢酸メチル(MA)、ギ酸メチル(MF)、4-メチルジオキソラン(4MeDOL)、ジオキソラン(DOL)、2-メチルテトラヒドロフラン(2MeTHF)、テトラヒドロフラン(THF)、ジメトキシエタン(DME)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、およびγ-ブチロラクトン(GBL)などが挙げられる。中でも、有機溶媒は、急速充電特性および出力特性をより向上できるとの観点から、好ましくは鎖状カーボネートであり、より好ましくはジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)およびジメチルカーボネート(DMC)からなる群から選択される少なくとも1種であり、より好ましくはエチルメチルカーボネート(EMC)およびジメチルカーボネート(DMC)から選択される。
【0102】
リチウム塩としては、Li(FSON(リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド;LiFSI)、Li(CSON、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiCFSO等が挙げられる。中でも、リチウム塩は、電池出力および充放電サイクル特性の観点から、好ましくはLi(FSON(LiFSI)である。
【0103】
液体電解質(電解液)は、上述した成分以外の添加剤をさらに含有してもよい。かような化合物の具体例としては、例えば、エチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、ジメチルビニレンカーボネート、フェニルビニレンカーボネート、ジフェニルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、ジエチルビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、1,2-ジビニルエチレンカーボネート、1-メチル-1-ビニルエチレンカーボネート、1-メチル-2-ビニルエチレンカーボネート、1-エチル-1-ビニルエチレンカーボネート、1-エチル-2-ビニルエチレンカーボネート、ビニルビニレンカーボネート、アリルエチレンカーボネート、ビニルオキシメチルエチレンカーボネート、アリルオキシメチルエチレンカーボネート、アクリルオキシメチルエチレンカーボネート、メタクリルオキシメチルエチレンカーボネート、エチニルエチレンカーボネート、プロパルギルエチレンカーボネート、エチニルオキシメチルエチレンカーボネート、プロパルギルオキシエチレンカーボネート、メチレンエチレンカーボネート、1,1-ジメチル-2-メチレンエチレンカーボネートなどが挙げられる。これらの添加剤は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。また、添加剤を電解液に使用する場合の使用量は、適宜調整することができる。
【0104】
[組電池]
組電池は、電池を複数個接続して構成した物である。詳しくは少なくとも2つ以上用いて、直列化あるいは並列化あるいはその両方で構成されるものである。直列、並列化することで容量および電圧を自由に調節することが可能になる。
【0105】
電池が複数、直列にまたは並列に接続して装脱着可能な小型の組電池を形成することもできる。そして、この装脱着可能な小型の組電池をさらに複数、直列にまたは並列に接続して、高体積エネルギー密度、高体積出力密度が求められる車両駆動用電源や補助電源に適した大容量、大出力を持つ組電池(電池モジュール、電池パックなど)を形成することもできる。何個の電池を接続して組電池を作製するか、また、何段の小型組電池を積層して大容量の組電池を作製するかは、搭載される車両(電気自動車)の電池容量や出力に応じて決めればよい。
【0106】
[車両]
電池またはこれらを複数個組み合わせてなる組電池を車両に搭載することができる。本発明では、長期信頼性に優れた高寿命の電池を構成できることから、こうした電池を搭載するとEV走行距離の長いプラグインハイブリッド電気自動車や、一充電走行距離の長い電気自動車を構成できる。電池またはこれらを複数個組み合わせてなる組電池を、例えば、自動車ならばハイブリッド車、燃料電池車、電気自動車(いずれも四輪車(乗用車、トラック、バスなどの商用車、軽自動車など)のほか、二輪車(バイク)や三輪車を含む)に用いることにより高寿命で信頼性の高い自動車となるからである。ただし、用途が自動車に限定されるわけではなく、例えば、他の車両、例えば、電車などの移動体の各種電源であっても適用は可能であるし、無停電電源装置などの載置用電源として利用することも可能である。
【符号の説明】
【0107】
10a 積層型電池、
11’ 負極集電体、
11” 正極集電体、
13 負極活物質層、
15 正極活物質層、
17 固体電解質層、
19 単電池層、
21 発電要素、
25 負極集電板、
27 正極集電板、
29 ラミネートフィルム。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C