(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-27
(45)【発行日】2024-12-05
(54)【発明の名称】リフローハンダ付け後の容量維持率に優れた非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20241128BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20241128BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20241128BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20241128BHJP
H01M 50/437 20210101ALI20241128BHJP
H01M 50/44 20210101ALI20241128BHJP
H01M 50/184 20210101ALI20241128BHJP
H01M 50/188 20210101ALI20241128BHJP
H01M 50/153 20210101ALI20241128BHJP
H01M 50/109 20210101ALI20241128BHJP
H01M 50/536 20210101ALI20241128BHJP
H01M 10/0567 20100101ALI20241128BHJP
H01M 10/0585 20100101ALI20241128BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20241128BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0569
H01M4/505
H01M4/36 C
H01M50/437
H01M50/44
H01M50/184 E
H01M50/188
H01M50/153
H01M50/109
H01M50/536
H01M10/0567
H01M10/0585
H01M4/48
(21)【出願番号】P 2020192696
(22)【出願日】2020-11-19
【審査請求日】2023-09-06
(31)【優先権主張番号】P 2020043762
(32)【優先日】2020-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002325
【氏名又は名称】セイコーインスツル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】三浦 研
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 学史
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-160619(JP,A)
【文献】特開2017-224430(JP,A)
【文献】特開2015-159103(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/052
H01M 10/0569
H01M 4/505
H01M 4/36
H01M 50/40
H01M 50/10
H01M 50/50
H01M 10/0567
H01M 10/0585
H01M 4/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、支持塩及び溶媒を含む電解液と、セパレータが、正極缶と負極缶によって構成された収容容器に収容されてなる非水電解質二次電池であって、
前記正極が活物質としてのスピネル型リチウムマンガン酸化物を含有し、前記負極が活物質としての炭素被覆SiO
xを含有し、前記電解液として、グライム系溶媒にエチレンカーボネート(EC)とビニレンカーボネート(VC)を含有する混合溶媒を含み、前記セパレータにガラス繊維が含まれてなり、
負極容量と正極容量の比である(負極容量/正極容量)の値が、1.7~2.4の範囲であることを特徴とする
リフローハンダ付け後の容量維持率に優れた非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記(負極容量/正極容量)の値が、1.9~2.4の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の
リフローハンダ付け後の容量維持率に優れた非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記(負極容量/正極容量)の値が、1.94~2.39の範囲であることを特徴とする請求項1に記載のリフローハンダ付け後の容量維持率に優れた非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記正極缶が有底円筒状であり、
前記負極缶が前記正極缶の開口部内側にガスケットを介在し固定され、
前記正極缶の開口部を前記負極缶側にかしめたかしめ部を設けることで前記収容容器が密封され、前記収容容器に正極と負極とセパレータと前記電解液が収容されたことを特徴とする請求項1
~請求項3
のいずれか一項に記載の
リフローハンダ付け後の容量維持率に優れた非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リフローハンダ付け後の容量維持率に優れた非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
表面に炭素被覆されたケイ素酸化物(SiOX)を用いた小型非水電解質二次電池に関し、優れた初期容量とサイクル特性を得られることが、以下の特許文献1に記載されている。
また、小型非水電解質二次電池では、近年、回路基板搭載時のハンダ付けの効率を上げるためリフローハンダ付け対応が求められている。
従来、リチウムマンガン酸化物の正極活物質とリチウムアルミニウム合金の負極活物質の組み合わせによる小型非水電解質二次電池において、リフローハンダ付け可能な構成が提供されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述の活物質の組み合わせの替わりに、前記ケイ素酸化物を負極に用いた二次電池をリフロー対応可能とするためには、耐熱性の高い部材を用いることに加え、電極や電解液の予期せぬ反応を抑制し、充放電を安定化することが必要になると考えられる。
特に、リフローハンダ付け時の加熱によりセル容量が低下することが考えられるが、組立後の容量とリフロー後容量の比である容量維持率が大きいことが望ましい。
【0005】
本発明は、上述の問題に鑑み、サイクル特性及び長期保存性に優れ、リフロー実装対応可能な小型のリフローハンダ付け後の容量維持率に優れた非水電解質二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
「1」前記課題を解決するため、本発明の一形態に係るリフローハンダ付け後の容量維持率に優れた非水電解質二次電池は、正極と、負極と、支持塩及び溶媒を含む電解液と、セパレータが、正極缶と負極缶によって構成された収容容器に収容されてなる非水電解質二次電池であって、前記正極が活物質としてのスピネル型リチウムマンガン酸化物を含有し、前記負極が活物質としての炭素被覆SiOxを含有し、前記電解液として、グライム系溶媒にエチレンカーボネート(EC)とビニレンカーボネート(VC)を含有する混合溶媒を含み、前記セパレータにガラス繊維が含まれてなり、負極容量と正極容量の比である(負極容量/正極容量)の値が、1.7~2.4の範囲であることを特徴とする。
【0007】
本形態では、スピネル型リチウムマンガン酸化物を含有する正極活物質と炭素被覆SiOxを含有する負極活物質の組み合わせに、エチレンカーボネートとビニレンカーボネートを含有する混合溶媒からなる電解液を組み合わせ、(負極容量/正極容量)の値を1.7~2.4の範囲とする。この構成により、リフローハンダ付け対応可能であり、リフローハンダ付けに伴う加熱後の容量維持率に優れるとともに、サイクル特性と長期保存性に優れた小型の非水電解質二次電池を提供できる。
【0008】
「2」前記一形態のリフローハンダ付け後の容量維持率に優れた非水電解質二次電池では、前記(負極容量/正極容量)の値が、1.9~2.4の範囲であることが好ましい。
「3」前記一形態のリフローハンダ付け後の容量維持率に優れた非水電解質二次電池では、前記(負極容量/正極容量)の値が、1.94~2.39の範囲であることが好ましい。
【0009】
本形態では(負極容量/正極容量)の値を1.9~2.4の範囲とすることにより、優れた初期容量を得ることができ、優れた容量維持率を得ることができる。
【0010】
「3」前記一形態のリフローハンダ付け後の容量維持率に優れた非水電解質二次電池では、前記正極缶が有底円筒状であり、前記負極缶が前記正極缶の開口部内側にガスケットを介在し固定され、前記正極缶の開口部を前記負極缶側にかしめたかしめ部を設けることで前記収容容器が密封され、前記収容容器に正極と負極とセパレータと前記電解液が収容されたことを特徴とする。
【0011】
本形態では、ガスケットを介し負極缶と正極缶にかしめ部を設けた密閉構造のボタン型の非水電解質二次電池を提供できる。また、この非水電解質二次電池はリフローハンダ付け後の容量低下が少なく、容量維持率に優れるとともに、優れた初期容量を有するボタン型の二次電池を提供できる。
【発明の効果】
【0012】
本形態によれば、リフローハンダ付け対応可能であるとともに、サイクル特性と長期保存性に優れた小型のリフローハンダ付け後の容量維持率に優れた非水電解質二次電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1実施形態に係る非水電解質二次電池を示す断面図である。
【
図2】実施例で作製した複数の非水電解質二次電池に対しリフローハンダ付けに相当する熱処理を加えた場合の容量維持率に関し、正負極容量バランスとの関係を示すグラフ。
【
図3】実施例で作製した複数の非水電解質二次電池に対しリフローハンダ付けに相当する熱処理を加えた後、60℃・90%RHの高温高湿環境に晒し、20日間放置後の容量に関し、正負極容量バランスとの関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態である非水電解質二次電池の例を挙げ、その構成について
図1を参照しながら詳述する。なお、本発明で説明する非水電解質二次電池とは、正極または負極として用いる活物質とセパレータが収容容器内に収容されてなる二次電池である。また、以下の説明に用いる図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更し表示している。
【0015】
[非水電解質二次電池の第1実施形態]
図1に示す本実施形態の非水電解質二次電池1は、いわゆるコイン(ボタン)型の電池である。この非水電解質二次電池1は、有底円筒状の金属製の正極缶12と、正極缶12の開口部を塞ぐ有蓋円筒状の蓋状の金属製の負極缶22と、正極缶12の内周面に沿って設けられたガスケット40を備えている。
この非水電解質二次電池1は、負極缶22の外側にガスケット40を介し正極缶12を配置し、正極缶12の開口部内周縁を内側にかしめ加工して構成された薄型(偏平型)の収容容器2を備えている。収容容器2内には、正極缶12と負極缶22とに囲まれた収容空間が形成され、この収容空間に正極10と負極20とがセパレータ30を介し対向配置され、更に電解液50が充填されている。
正極缶12の材質として、従来公知のものが用いられ、例えば、SUS316LやSUS329JL等のステンレス鋼が挙げられる。
負極缶22の材質は、正極缶12の材質と同様、従来公知のステンレス鋼が挙げられ、例えば、SUS316LやSUS329JL、あるいは、SUS304-BA等が挙げられる。また、負極缶には、ステンレス鋼に銅やニッケル等を圧着してなるクラッド材を用いることもできる。収容容器2の外径は、一例として4~12mm程度とされる。
【0016】
(正極)
本形態において正極10は、正極集電体14を介し正極缶12の内面(
図1では収容容器2の底壁上面)に電気的に接続され、負極20は、負極集電体24を介し負極缶22の内面(
図1では収容容器2の天井壁下面)に電気的に接続されている。なお、正極集電体14と負極集電体24はこれらを略し、正極10を直接正極缶12に接続して正極缶12に集電体の機能を持たせても良いし、負極20を直接負極缶22に接続して負極缶22に集電体の機能を持たせても良い。
ガスケット40は、収容容器2の内部においてセパレータ30の外周縁と接続され、ガスケット40がセパレータ30を保持している。正極10、負極20及びセパレータ30には、収容容器2内に充填された電解液50が含浸されている。
【0017】
正極10において、正極活物質の種類は特に限定されないが、例えば、正極活物質としてスピネル型リチウムマンガン酸化物を含有するものを用いることが好ましい。
正極10中の正極活物質の含有量は、非水電解質二次電池1に要求される放電容量等を勘案し決定され、50~95質量%の範囲とすることができる。正極活物質の含有量が上記好ましい範囲の下限値以上であれば、充分な放電容量が得られやすく、好ましい上限値以下であれば、正極10を成形しやすい。
【0018】
正極10は、導電助剤(以下、正極10に用いられる導電助剤を「正極導電助剤」ということがある)を含有してもよい。
正極導電助剤としては、例えば、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、グラファイト等の炭素質材料が挙げられる。
正極導電助剤は、上記のうちの1種を単独で用いてもよく、あるいは、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、正極10中の正極導電助剤の含有量は、2~20質量%が好ましく、4~15質量%がより好ましい。正極導電助剤の含有量が、上記の好ましい範囲の下限値以上であれば、充分な導電性が得られやすくなる。また、電極をペレット状に成型する場合に成型しやすくなる。一方、正極10中の正極導電助剤の含有量が、上記好ましい範囲の上限値以下であれば、正極10による充分な放電容量が得られやすくなる。
【0019】
正極10は、バインダ(以下、正極10に用いられるバインダを「正極バインダ」ということがある)を含有しても良い。
【0020】
正極バインダとして、従来公知の物質を用いることができ、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリル酸(PA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリビニルアルコール(PVA)等を選択でき、これらを複数組み合わせて構成したバインダを用いることができる。
また、正極バインダは、上記のうちの1種を単独で用いてもよく、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。正極10において正極バインダの含有量は、例えば、1~20質量%とすることができる。
なお、本明細書において数値範囲に関し「~」を用いて上限と下限を示す場合、特に説明しない限り上限と下限を含む範囲とする。よって、例えば、1~20質量%と記載した場合、1質量%以上20質量%以下を意味する。
正極集電体14は、従来公知のものを用いることができ、炭素を導電性フィラーとする導電性樹脂接着剤等を例示することができる。
【0021】
また、本実施形態では、正極活物質として、上記のリチウムマンガン酸化物に加え、他の正極活物質を含有していても良く、例えば、モリブデン酸化物、リチウム鉄リン酸化合物、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、バナジウム酸化物等、他の酸化物の何れか1種以上を含有していても良い。
【0022】
(負極)
負極20において、負極活物質の種類は特に限定されないが、例えば、負極活物質としてシリコン酸化物を含有することが好ましい。
負極20において、負極活物質が炭素被覆SiOX、例えば、SiOX(0≦x<2)で表されるシリコン酸化物を炭素被覆したものからなることが好ましい。
【0023】
また、負極20は、負極活物質として、上記のSiOX(0≦x<2)に加え、他の負極活物質を含有していても良く、例えば、Si、C等、他の負極活物質を含有していても良い。
負極活物質として粒状のSiOX(0≦x<2)を用いる場合、これらの粒子径(D50)は、特に限定されないが、例えば、0.1~30μmの範囲を選択することができ、より好ましくは1~10μmの範囲を選択することができる。SiOXの粒子径(D50)が、上記範囲の下限値未満であると、例えば、非水電解質二次電池1を過酷な高温高湿環境下において保管・使用した場合や、リフローハンダ付け処理による反応性が高まり、電池特性が損なわれるおそれがあり、また、上限値を超えると、放電レートが低下するおそれがある。
【0024】
負極20中の負極活物質、即ち、SiOX(0≦x<2)の含有量は、非水電解質二次電池1に要求される放電容量等を勘案して決定され、50質量%以上の範囲を選択することができ、60~80質量%の範囲を選択することが好ましい。
負極20において、上記元素からなる負極活物質の含有量が、上記範囲の下限値以上であれば、充分な放電容量が得られやすく、また、上限値以下であれば、負極20を成形しやすい。
【0025】
負極20は、導電助剤(以下、負極20に用いられる導電助剤を「負極導電助剤」ということがある)を含有してもよい。負極導電助剤は、正極導電助剤と同様のものである。
負極20中の負極導電助剤の含有量は、例えば、1~45質量%とされる。
【0026】
負極20は、バインダ(以下、負極20に用いられるバインダを「負極バインダ」ということがある)を含有してもよい。
負極バインダとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリル酸(PA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)等を選択することができる。
【0027】
また、負極バインダは、上記のうちの1種を単独で用いてもよく、あるいは、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、負極バインダにポリアクリル酸を用いる場合には、ポリアクリル酸を、予め、pH3~10程度に調整しておくことができる。この場合、pHの調整には、例えば、水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物や水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属水酸化物を用いることができる。
負極20中の負極バインダの含有量は、例えば1~20質量%の範囲とされる。
【0028】
なお、本形態において負極20の大きさ、厚さについては、正極10の大きさ、厚さと同様に形成できる。
また、
図1に示す非水電解質二次電池1においては、図示を省略しているが、負極20の表面、即ち、負極20と後述のセパレータ30との間に、リチウムフォイルなどのリチウム体60を設けた構成を採用することができる。
【0029】
「電解液」
電解液50は、通常、支持塩を非水溶媒に溶解させた液体である。
本形態の非水電解質二次電池1においては、電解液50をなす非水溶媒が、テトラグライム(TEG)を主溶媒とし、ジエトキシエタン(DEE)を副溶媒とし、更にエチレンカーボネート(EC)およびビニレンカーボネート(VC)を添加剤として含有する混合溶媒を用いることができる。非水溶媒は、通常、電解液50に求められる耐熱性や粘度等を勘案して決定されるが、本形態においては、上記の各溶媒からなるものを用いる。
グライム系溶媒を構成するための主溶媒は、テトラグライム、トリグライム、ペンタグライム、ジグライムなどを利用することができる。
【0030】
本形態では、テトラグライム(TEG)とジエトキシエタン(DEE)とエチレンカーボネート(EC)を含有する非水溶媒を用いた電解液50を採用することができる。このような構成を採用することで、支持塩をなすLiイオンに、DEE及びTEGが溶媒和する。
このとき、DEEがTEGよりもドナーナンバーが高いため、DEEが選択的にLiイオンと溶媒和する。このように、支持塩をなすLiイオンにDEE及びTEGが溶媒和し、Liイオンを保護する。これにより、例え、高温高湿環境下において非水電解質二次電池の内部に水分が侵入した場合であっても、水分とLiとが反応するのを防止できるので、放電容量が低下するのを抑制し、保存安定性が向上する効果が得られる。
【0031】
電解液50中の非水溶媒における上記各溶媒の比率は、特に限定されないが、例えば、TEG:30質量%以上48.5質量%以下(30~48.5%)、DEE:30質量%以上48.5質量%以下(30~48.5%)、EC:0.5質量%以上10質量%以下(0.5~10%)、VC:2質量%以上13%以下(2~13%)の範囲(トータル100%)の範囲を選択できる。
非水溶媒に含まれるTEGとDEEとECの割合が上記範囲であると、上述した、DEEがLiイオンに溶媒和することでLiイオンが保護される作用が得られる。
上述の範囲であっても、VCの含有量について、2.5質量%以上10質量%(2.5~10%)の範囲が望ましく、5.0質量%以上7.5質量%(5.0~7.5%)の範囲がより好ましい。TEGとDEEの含有量の上限値については、48.25質量%以下が好ましく、48質量%以下がより好ましい。
VCの含有量が2質量%以上13%以下の範囲の場合、リフローハンダ付け時の加熱を受けたとしても正極缶12と負極缶22からなる収容容器2に生じる厚みの変化が小さく、内部抵抗の増加も少なくできる。また、VCの含有量が2.5質量%以上10.0質量%以下の範囲の場合、リフローハンダ付け時の加熱を受けたとしても収容容器2に生じる厚みの変化をより小さくでき、内部抵抗の増加もより少なくできる。これらの範囲内であっても、VCの含有量が5.0質量%以上7.5質量%以下の範囲が最も好ましい。
【0032】
支持塩は、非水電解質二次電池の電解液に支持塩として用いられる公知のLi化合物を用いることができ、例えば、LiCH3SO3、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiN(CF3SO3)2、LiN(FSO2)2等の有機酸リチウム塩;LiPF6、LiBF4、LiB(C6H5)4、LiCl、LiBr等の無機酸リチウム塩等のリチウム塩等が挙げられる。なかでも、リチウムイオン導電性を有する化合物であるリチウム塩が好ましく、LiN(CF3SO2)2、LiN(FSO2)2、LiBF4がより好ましく、耐熱性及び水分との反応性が低く、保存特性を充分に発揮できるという観点から、LiN(CF3SO2)2が特に好ましい。
支持塩は、上記のうちの1種を単独で用いてもよく、あるいは、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
電解液50中の支持塩の含有量は、支持塩の種類等を勘案して決定でき、例えば、0.1~3.5mol/Lが好ましく、0.5~3mol/Lがより好ましく、1~2.5mol/Lが特に好ましい。電解液50中の支持塩濃度が高過ぎても、あるいは支持塩濃度が低過ぎても、電導度の低下が起き、電池特性に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0034】
「(負極容量/正極容量)の値」
本形態の非水電解質二次電池1では、「(負極容量/正極容量)=正負極容量バランス」の値が、1.7~2.4の範囲であることが好ましい。
(負極容量/正極容量)の値が1.7未満であると、換言すると正極容量がより多い場合、組立後の容量は十分得られるものの、リフロー加熱後の容量維持率が小さくなり、リフロー加熱後に十分なセル容量が得られない。
一方、(負極容量/正極容量)の値が2.4を超える値であると、換言すると負極容量がより多い場合、容量維持率は十分高い値となるが、相対的に正極量が少なくなり、組立後、リフロー後、ともに十分なセル容量が得られなくなる。
このため、(負極容量/正極容量)の値が、1.7~2.4の範囲であることが好ましい。(負極容量/正極容量)の値が、1.7~2.4の範囲であるならば、リフロー加熱後の容量維持率が大きく、初期容量も大きい非水電解質二次電池1を提供できる。
また、上述の(負極容量/正極容量)の値が、1.9~2.4の範囲であることがより好ましい。この範囲であるならば、組立後の十分に高い容量を得ることができるとともに、リフロー加熱後の容量維持率がより大きくなり、リフロー加熱後により高いセル容量を得ることができる。
上述の範囲内であっても、初期容量を確実に確保し、リフロー加熱後の容量維持率を高い範囲とするためには、1.94~2.39の範囲とすることが最も好ましい。
【0035】
ここで示す負極容量とは、負極における活物質の容量密度と活物質使用量の積を計算して求められる容量を意味する。正極容量とは、正極における活物質の容量密度と活物質使用量の積を計算して求められる容量を意味する。活物質の容量密度として、マンガン酸リチウムは137mAh/g、一酸化ケイ素1775mAh/gを採用した。
前記活物質の容量密度は、正極または負極と金属Liとを対向させた電気化学セルを作成して実際に充放電を行い、得られたセル容量からそれぞれの容量密度を見積もった値である。理論容量として、マンガン酸リチウムは148mAh/g、一酸化ケイ素は2007mAh/gの値が知られているが、本願では先に記載の値を採用した。
【0036】
(負極容量/正極容量):容量バランスの計算例を以下に示す。
正極合剤比は、リチウムマンガン酸化物:グラファイト:ポリアクリル酸=95:4:1(質量比)として、正極合剤を16.4mg(マンガン酸リチウムを15.6mg)使用しているため、正極容量は2.14mAhとなる。
負極合剤比は、一酸化ケイ素:グラファイト:ポリアクリル酸=75:20:5(質量比)として、負極合剤を3.1mg(一酸化ケイ素を2.3mg)使用しているため、負極容量は4.08mAhとなる。
Li量は一酸化ケイ素量に合わせて調整(Li原子数:SiO分子数の比がおよそ4:1となるように設計)する。
以上説明の条件における容量バランス:(負極容量/正極容量)の計算例と設計Li量計算例を以下の表1、表2に記載する。
【0037】
【0038】
【0039】
(セパレータ)
セパレータ30は、正極10と負極20との間に介在され、大きなイオン透過度を有し、かつ、機械的強度を有する絶縁膜が用いられる。
セパレータ30としては、従来から非水電解質二次電池のセパレータに用いられるものを何ら制限無く適用でき、例えば、アルカリガラス、ホウ珪酸ガラス、石英ガラス、鉛ガラス等のガラス、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリアミド、ポリイミド(PI)等の樹脂からなる不織布等が挙げられる。中でも、ガラス製不織布が好ましく、ホウ珪酸ガラス製不織布がより好ましい。ガラス製不織布は、機械強度に優れるとともに、大きなイオン透過度を有するため、内部抵抗を低減して放電容量の向上を図ることができる。
セパレータ30の厚さは、非水電解質二次電池1の大きさや、セパレータ30の材質等を勘案して決定され、例えば5~300μmとすることができる。
【0040】
(ガスケット)
ガスケット40は、例えば、熱変形温度230℃以上の樹脂からなることが好ましい。ガスケット40に用いる樹脂材料の熱変形温度が230℃以上であれば、リフローハンダ処理や非水電解質二次電池1の使用中の加熱によってガスケットが著しく変形し、電解液50が漏出するのを防止できる。
ガスケット40は、
図1に示すように、正極缶12の内周面に沿って円環状に形成され、その環状溝41の内部に負極缶22の外周端部22aが配置されている。
ガスケット40は、正極缶12の開口部内周側に隙間無く挿入される外径を有するリング状の外縁部40Aを有する。ガスケット40は、負極缶22の内周縁に隙間無く挿入される外径を有するリング状の内縁部40Bを有する。また、ガスケット40は、これら外縁部40Aおよび内縁部40Bの下端部どうしを接続した底壁部40Cを有する。
従って、ガスケット40の外周縁上面側には負極缶22の外周端部22aを挿入可能な環状溝41が形成されている。
図1に示す正極缶12の開口部12aの周縁部12bを内側、即ち負極缶22側にかしめることで負極缶22とともにガスケット40を挟み込むことができ、収容空間を密封した構造の収容容器2が構成されている。
【0041】
以上のようなガスケット40の材質としては、例えば、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド、液晶ポリマー(LCP)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂(PFA)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリエーテルニトリル樹脂(PEN)、ポリエーテルケトン樹脂(PEK)、ポリアリレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂(PES)、ポリアミノビスマレイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、フッ素樹脂等が挙げられる。また、これらの材料にガラス繊維、マイカウイスカー、セラミック微粉末等を、30質量%以下の添加量で添加したものを好適に用いることができる。このような材質を用いることで、加熱によってガスケットが著しく変形し、電解液50が漏出するのを防止できる。
【0042】
以上説明した本形態の非水電解質二次電池1によれば、非水溶媒が、テトラグライム(TEG)とジエトキシエタン(DEE)を主体として含み、エチレンカーボネート(EC)と上述のビニレンカーボネート(VC)をいずれも適量範囲含む電解液50を備えているので、リフローハンダ付けに耐え得る耐熱性を有し、リフローハンダ付けに伴う加熱を受けたとしても、溶媒が気化するおそれが少なく、収容容器2の内圧が上昇するおそれが少なく、収容容器2に変形を生じ難い構成を提供できる。
また、溶媒としてテトラグライムとジエトキシエタンを主体として含むグライム系の溶媒であるならば、これら溶媒の沸点が高いことに起因して電解液の耐熱性を高めることができる。
【0043】
また、本形態の非水電解質二次電池1によれば、上述の正極と負極および電解液の組み合わせに加え、(負極容量/正極容量)の値を1.7~2.4の範囲としているので、組立後の高い容量を確保した上でリフロー加熱後の容量維持率を大きくでき、リフロー加熱後に十分なセル容量を得ることができる。よって、本形態によれば、リフローハンダ付け対応した高容量の非水電解質二次電池を提供できる。
【実施例】
【0044】
図1に示す構成の非水電解質二次電池を試作し、後述する評価試験を行った。
正極10として、市販のリチウムマンガン酸化物(Li
1.14Co
0.06Mn
1.80O
4)に、導電助剤としてグラファイトを、結着剤としてポリアクリル酸を、リチウムマンガン酸化物:グラファイト:ポリアクリル酸=95:4:1(質量比)の割合で混合して正極合剤とした。この正極合剤16.4mgを、2ton/cm
2の加圧力で加圧し、直径2.8mmの円盤形ペレットに加圧成形した。
【0045】
得られたペレット(正極)を、ステンレス鋼(SUS316L:t=0.20mm)製の正極缶の内面に、炭素を含む導電性樹脂接着剤を用いて接着し、これらを一体化して正極ユニットを得た。その後、この正極ユニットを、大気中で120℃×11時間の条件で減圧加熱乾燥した。次に、正極ユニットにおける正極缶の開口部の内側面にシール剤を塗布した。
【0046】
次に、負極として、表面全体に炭素(C)が形成されたSiO粉末を準備し、これを負極活物質とした。そして、この負極活物質に、導電剤としてグラファイトを、結着剤としてポリアクリル酸を、それぞれ75:20:5(質量比)の割合で混合して負極合剤とした。この負極合剤3.1mgを、2ton/cm2加圧力で加圧成形し、直径2.8mmの円盤形ペレットに加圧成形した。
【0047】
得られたペレット(負極)を、ステンレス鋼(SUS316L:t=0.20mm)製の負極缶の内面に、炭素を導電性フィラーとする導電性樹脂接着剤を用いて接着し、これらを一体化して負極ユニットを得た。その後、この負極ユニットを、大気中で160℃×11時間の条件で減圧加熱乾燥した。
このペレット状の負極の上に、さらに、直径2.8mm、厚さ0.44mmに打ち抜いたリチウムフォイルを圧着し、リチウム-負極積層電極とした。
【0048】
上述したように、本実施例においては、実施形態の構造に示す正極集電体及び負極集電体を設けることなく、正極缶に正極集電体の機能を持たせるとともに、負極缶に負極集電体の機能を持たせて、非水電解質二次電池を作製した。
【0049】
次に、ガラス繊維からなる不織布を乾燥させた後、直径3.6mmの円盤型に打ち抜いてセパレータとした。そして、このセパレータを、負極上に圧着されたリチウムフォイル上に載置し、負極缶の開口部に、PEEK樹脂(ポリエーテルエーテルケトン樹脂)製のガスケットを配置した。
【0050】
(電解液の作製)
テトラグライム(TEG)、ジエトキシエタン(DEE)、エチレンカーボネート(EC)、および、ビニレンカーボネート(VC)の各溶媒を混合して非水溶媒とし、得られた非水溶媒に支持塩としてLiTFSI(1M)を溶解させて電解液を得た。この際の、各溶媒の混合比率は、体積比で、TEG:DEE:EC:VC=44.8:42.7:5.0:7.5とした。
上述の如く用意した正極缶及び負極缶に、上記手順で調整した各例の電解液を、電池1個あたりの合計で7μL充填した。
【0051】
次に、セパレータが正極に当接するように、負極ユニットを正極ユニットにかしめた。そして、正極缶の開口部を嵌合することで正極缶と負極缶とを密封した後、25℃で7日間静置して試料とした。
なお、試料を作製する場合、正極における正極活物質量と負極における負極活物質量をそれぞれ上述の「(負極容量)/(正極容量)」の計算例と同様に調節し、(負極容量/正極容量)の値の異なる試料1~試料9の非水電解質二次電池を得た。これら試料の非水電解質二次電池は、いずれも外径4.8mm、高さ2.1mmのコイン型二次電池である。
試料1~試料9の非水電解質二次電池は、後述する表3に示すように(負極容量/正極容量)の値がそれぞれ異なる二次電池である。
【0052】
「評価試験」
(初期容量:mAh)
非水電解質二次電池の各試料を作成後、リフローハンダ付けの温度に加熱する前に容量を計測した。この場合に計測した容量を初期容量とする。
(容量維持率)
非水電解質二次電池の各試料を260℃で10秒間加熱し、加熱後の容量を計測し、初期容量との比較により容量維持率(%)を求めた。260℃で10秒間加熱する加熱処理はリフローハンダ付けに伴う加熱条件に相当する。
【0053】
(高温高湿環境保存後容量)
非水電解質二次電池の各試料を260℃で10秒間加熱し、恒温恒湿試験機を用いて、60℃・90%RHの高温高湿環境に曝しながら20日間放置後の容量を計測した。この場合に計測した容量を高温高湿保存後容量とする。
【0054】
(結果)
試料1~試料9の非水電解質二次電池について、「(負極容量/正極容量)=(正負極容量バランス)」の値と初期容量の値とリフロー後容量維持率の値と高温高湿保存後容量の値を表3に示す。また、
図2に容量維持率と初期容量に関し正負極容量バランスによる関係を示し、
図3に高温高湿保存後容量に関し正負極容量バランスとの関係を、それぞれグラフとして示す。
【0055】
【0056】
表3と
図2に示す測定結果からみて、初期容量が高く、リフロー後容量維持率が70%を超える良好な(負極容量/正極容量)の範囲を選択すると、1.72~2.39の範囲であることがわかる。このため、初期容量が高く、リフロー後の容量維持率も高い範囲とするには(負極容量/正極容量)の値として1.7~2.4の範囲を選択することが望ましいと分かった。
また、初期容量が1.97を超えて高く、リフロー後の容量維持率が80%を超える、より良好な範囲となるのは(負極容量/正極容量)の値が1.9~2.4の範囲であると分かった。
さらにまた、表3に示す高温高湿保存後容量と正負極容量バランスの関係を
図3に示すように参照すると、長期保存後に相当する高温高湿保存後容量が高いことからも、良好な範囲として(負極容量/正極容量)の値が1.7以上であり、より良好な範囲として(負極容量/正極容量)の値が1.9~2.4の範囲であることが言える。
【符号の説明】
【0057】
1…非水電解質二次電池、2…収容容器、10…正極、12…正極缶、12a…開口部、12b…周縁部、13…正極、14…正極集電体、20…負極、22…負極缶、22a…外周端部、24…負極集電体、30…セパレータ、40…ガスケット、41…環状溝、50…電解液。