(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-27
(45)【発行日】2024-12-05
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用正極活物質
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20241128BHJP
C01B 25/45 20060101ALI20241128BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20241128BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20241128BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20241128BHJP
【FI】
H01M4/525
C01B25/45 Z
H01M4/36 B
H01M4/36 C
H01M4/36 E
H01M4/505
H01M4/58
(21)【出願番号】P 2020205252
(22)【出願日】2020-12-10
【審査請求日】2023-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塩▲崎▼ 麻由
(72)【発明者】
【氏名】山下 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】大神 剛章
【審査官】山口 大志
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-050104(JP,A)
【文献】特開2016-076317(JP,A)
【文献】特開2014-192142(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
C01B 25/00-25/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)、(B)、及び(C):
(A)下記式(a)で表され
、かつ平均粒径が8μm~15μmである粒子 55質量%~90質量%
LiNi
aCo
bMn
cM
1
wO
2・・・(a)
(式(a)中、M
1はMg、Ti、Nb、Fe、Cr、Si、Al、Ga、V、Zn、Cu、Sr、Mo、Zr、Sn、Ta、W、La、Ce、Pb、Bi及びGeから選ばれる1種又は2種以上の元素を示す。a、b、c、wは、0.3≦a<1、0<b≦0.7、0<c≦0.7、0≦w≦0.3、かつ3a+3b+3c+(M
1の価数)×w=3を満たす数を示す。)
(B)下記式(b)で表され、かつ平均粒径が12μm~25μmである粒子
の集合体であって、表面に1個~2個の窪みが形成されてなる粒子を含む粒子集合体 5質量%~40質量%
Li
fMn
gFe
hM
2
xPO
4・・・(b)
(式(b)中、M
2はMg、Al、Ti、Cu、Zn、Nb、Co、Ni、Ca、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd及びGdから選ばれる1種又は2種以上の元素を示す。f、g、h及びxは、0<f≦1.2、0.3≦g≦1.2、0.2≦h≦1.2、0≦x≦0.3、及び3/7≦g/h≦4を満たし、かつf+(Mnの価数)×g+(Feの価数)×h+(M
2の価数)×x=3を満たす数を示す。)
(C)下記式(c)で表され
、かつ平均粒径が5μm~8μmである粒子 1質量%~10質量%
LiM
3
yMn
jO
4 ・・・(c)
(式(c)中、M
3はNi、Co、Al、Mg、Ti、V、Cr、Fe、Zr、Ga、Cu、及びSiから選ばれる1種又は2種以上の元素を示す。y及びjは、0≦y≦0.1、0<j≦2、及び(M
3の価数)×y+(Mnの価数)×j=7を満たす数を示す。)
の含有
量にて成分(A)、(B)、及び(C)が混合されてなるリチウムイオン二次電池用正極活物質であって、
成分(B)において、全体として水銀圧入法により測定される窪み径の最頻値が1.0μm~2.5μmであり、窪み容積が0.3mL/g~0.8mL/gであり、かつ荷重20kNでの圧密度が2.9g/cm
3
~3.3g/cm
3
であり、
表面に1個~2個の窪みが形成されてなる粒子の粒子数割合が、成分(B)中に55%~100%であり、
セルロースナノファイバー由来の炭素及び/又は水溶性炭素材料由来の炭素が成分(B)の粒子の表面に担持してなるリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項2】
成分(B)の粒子の表面におけるセルロースナノファイバー由来の炭素及び水溶性炭素材料由来の炭素の担持量の合計が、成分(B)100質量%中に1.0質量%~10.0質量%である請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レート特性及びサイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池を得るための、リチウムイオン二次電池用正極活物質に関する。
【背景技術】
【0002】
層状型リチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物(NMC)等の層状型リチウム複合酸化物は、リチウム原子層と遷移金属原子層とが、酸素原子層を介して交互に積み重なった層状結晶構造となっている。かかる層状型リチウム複合酸化物は、高出力及び高容量のリチウムイオン二次電池を構成できる正極活物質として使用されている。
【0003】
こうした層状型リチウム複合酸化物を正極活物質として用いたリチウムイオン二次電池では、リチウムイオンが層状型リチウム複合酸化物に脱離・挿入されることによって充電・放電が行われるが、充放電サイクルを重ねるにつれて容量低下が生じ、特に長期間使用すると、電池の容量低下が著しくなるおそれがある。これは、充電時にリチウム複合酸化物の遷移金属成分が電解液へ溶出することにより、かかる結晶構造の崩壊が生じやすくなることが原因であると考えられている。特に高温になるほど遷移金属の溶出量は多くなり、サイクル特性に与える影響は大きい。また、リチウム複合酸化物の結晶構造の崩壊が生じると、リチウム複合酸化物の遷移金属成分が周囲の電解液へ溶出し、熱的安定性が低下して安全性が損なわれるおそれもある。
【0004】
このような状況下、有用性の高い層状型リチウム複合酸化物を用いつつ、従来より種々の開発がなされている。例えば、特許文献1には、エネルギー密度に優れた二次電池を得るべく、コバルト原子の数を特定したリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物と、マンガン原子の数を特定したリン酸マンガン鉄リチウムとを含む二次電池用正極が開示されており、初期クーロン効率の向上を図っている。また、特許文献2には、リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物とリチウム複合酸化物及びリチウム・マンガン複合酸化物を含む二次電池の正極活物質が開示されており、安全性やサイクル特性等を高める試みがなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-159388号公報
【文献】国際公開第2016/163282号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術であっても、レート特性やサイクル特性を充分に高めることができるか否か定かではなく、また上記特許文献2に記載の技術であっても、レート特性の向上については充分な検討がなされておらず、高いレート特性と優れたサイクル特性とを両立するには、未だ改善の余地がある。
【0007】
したがって、本発明の課題は、レート特性とサイクル特性とをともに充分に高めることのできるリチウムイオン二次電池用正極活物質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、特定の式で表される特定の粒子を各々特定の量で含有することにより、得られるリチウムイオン二次電池において、高いレート特性と優れたサイクル特性との両立を実現することのできるリチウムイオン二次電池用正極活物質を見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、次の成分(A)、(B)、及び(C):
(A)下記式(a)で表される粒子 55質量%~90質量%
LiNiaCobMncM1
wO2・・・(a)
(式(a)中、M1はMg、Ti、Nb、Fe、Cr、Si、Al、Ga、V、Zn、Cu、Sr、Mo、Zr、Sn、Ta、W、La、Ce、Pb、Bi及びGeから選ばれる1種又は2種以上の元素を示す。a、b、c、wは、0.3≦a<1、0<b≦0.7、0<c≦0.7、0≦w≦0.3、かつ3a+3b+3c+(M1の価数)×w=3を満たす数を示す。)
(B)下記式(b)で表され、かつ平均粒径が12μm~25μmである粒子 5質量%~40質量%
LifMngFehM2
xPO4・・・(b)
(式(b)中、M2はMg、Al、Ti、Cu、Zn、Nb、Co、Ni、Ca、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd及びGdから選ばれる1種又は2種以上の元素を示す。f、g、h及びxは、0<f≦1.2、0.3≦g≦1.2、0.2≦h≦1.2、0≦x≦0.3、及び3/7≦g/h≦4を満たし、かつf+(Mnの価数)×g+(Feの価数)×h+(M2の価数)×x=3を満たす数を示す。)
(C)下記式(c)で表される粒子 1質量%~10質量%
LiM3
yMnjO4 ・・・(c)
(式(c)中、M3はNi、Co、Al、Mg、Ti、V、Cr、Fe、Zr、Ga、Cu、及びSiから選ばれる1種又は2種以上の元素を示す。y及びjは、0≦y≦0.1、0<j≦2、及び(M3の価数)×y+(Mnの価数)×j=7を満たす数を示す。)
を含有するリチウムイオン二次電池用正極活物質を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質によれば、優れたレート特性を発現するとともに、サイクル特性にも優れるリチウムイオン二次電池を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】製造例2で得られた粒子(B1)の一部を示すSEM像である。
【
図2】製造例2で得られた粒子(B1)の水銀圧入法による細孔分布測定において求められる分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質は、次の成分(A)、(B)、及び(C):
(A)下記式(a)で表される粒子 55質量%~90質量%
LiNiaCobMncM1
wO2・・・(a)
(式(a)中、M1はMg、Ti、Nb、Fe、Cr、Si、Al、Ga、V、Zn、Cu、Sr、Mo、Zr、Sn、Ta、W、La、Ce、Pb、Bi及びGeから選ばれる1種又は2種以上の元素を示す。a、b、c、wは、0.3≦a<1、0<b≦0.7、0<c≦0.7、0≦w≦0.3、かつ3a+3b+3c+(M1の価数)×w=3を満たす数を示す。)
(B)下記式(b)で表され、かつ平均粒径が12μm~25μmである粒子 5質量%~40質量%
LifMngFehM2
xPO4・・・(b)
(式(b)中、M2はMg、Al、Ti、Cu、Zn、Nb、Co、Ni、Ca、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd及びGdから選ばれる1種又は2種以上の元素を示す。f、g、h及びxは、0<f≦1.2、0.3≦g≦1.2、0.2≦h≦1.2、0≦x≦0.3、及び3/7≦g/h≦4を満たし、かつf+(Mnの価数)×g+(Feの価数)×h+(M2の価数)×x=3を満たす数を示す。)
(C)下記式(c)で表される粒子 1質量%~10質量%
LiM3
yMnjO4 ・・・(c)
(式(c)中、M3はNi、Co、Al、Mg、Ti、V、Cr、Fe、Zr、Ga、Cu、及びSiから選ばれる1種又は2種以上の元素を示す。y及びjは、0≦y≦0.1、0<j≦2、及び(M3の価数)×y+(Mnの価数)×j=7を満たす数を示す。)
を含有する。
【0013】
このように、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質は、上記特定の式で表される特定の3種の粒子を各々特定の量で含有することから、電極内におけるカーボンの接触を促進し、導電パスを確保しやすくなるとともに、粒子からの金属成分の溶出を効果的に抑制することが可能となり、得られるリチウムイオン二次電池において、レート特性とサイクル特性とをともに有効に高めることができる。
【0014】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質は、成分(A)として、下記式(a)で表される粒子を55質量%~90質量%含有する。
LiNiaCobMncM1
wO2・・・(a)
(式(a)中、M1はMg、Ti、Nb、Fe、Cr、Si、Al、Ga、V、Zn、Cu、Sr、Mo、Zr、Sn、Ta、W、La、Ce、Pb、Bi及びGeから選ばれる1種又は2種以上の元素を示す。a、b、c、wは、0.3≦a<1、0<b≦0.7、0<c≦0.7、0≦w≦0.3、かつ3a+3b+3c+(M1の価数)×w=3を満たす数を示す。)
【0015】
成分(A)の上記式(a)で表される粒子は、リチウム複合酸化物粒子(いわゆるLi-Ni-Co-Mn酸化物粒子(NCM粒子)であり、以下「粒子(A)」とも称する。)であり、層状型岩塩構造を有する粒子であって、一次粒子が凝集することにより形成される二次粒子である。かかる成分(A)を上記量で含有することにより、良好なレート特性を保持しつつ、特に後述する成分(B)と相まって、サイクル特性の向上に寄与することができる。
【0016】
式(a)中のM1は、Mg、Ti、Nb、Fe、Cr、Si、Al、Ga、V、Zn、Cu、Sr、Mo、Zr、Sn、Ta、W、La、Ce、Pb、Bi及びGeから選ばれる1種又は2種以上の元素を示す。
また、上記式(a)中のa、b、c、wは、0.3≦a<1、0<b≦0.7、0<c≦0.7、0≦w≦0.3、かつ3a+3b+3c+(M1の価数)×w=3を満たす数である。
【0017】
上記式(a)で表される粒子(A)において、Ni、Co及びMnは、電子伝導性に優れ、電池容量及び出力特性に寄与することが知られている。また、サイクル特性の観点からは、かかる遷移元素の一部が他の金属元素M1により置換されていることが好ましい。これら金属元素M1により置換されることにより、式(a)で表される粒子(A)の結晶構造が安定化されるため、充放電を繰り返しても結晶構造の破壊が抑制でき、優れたサイクル特性が実現し得ると考えられる。
【0018】
上記式(a)で表されるNCM粒子としては、具体的には、例えばLiNi0.33Co0.33 Mn0.34O2、LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2、LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2、LiNi0.2Co0.4Mn0.4O2、LiNi0.33Co0.31Mn0.33Mg0.03O2、又はLiNi0.33Co0.31Mn0.33Zn0.03O2等が挙げられる。なかでも、LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2、LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2、LiNi0.33Co0.33 Mn0.34O2、LiNi0.33Co0.31Mn0.33Mg0.03O2からなる粒子が好ましい。
【0019】
さらに、互いに組成が異なる2種以上の上記式(a)で表される粒子(A)は、コア部(内部)とシェル部(表層部)とを有するコア-シェル構造を形成していてもよい。このコア-シェル構造を形成してなる粒子(A)とすることによって、電解液に溶出しやすいNi濃度の高いNCM系複合酸化物粒子をコア部に配置し、電解液に接するシェル部にはNi濃度の低いNCM系複合酸化物粒子を配置することができるので、サイクル特性の低下の抑制と安全性の確保をより向上させることができる。このとき、コア部は1相であってもよいし、組成の異なる2相以上で構成していてもよい。コア部を2相以上で構成する態様として、同心円状に複数の相が層状となって積層された構造でもよいし、コア部の表面から中心部に向けて遷移的に組成が変化する構造でもよい。
さらに、シェル部は、コア部の外側に形成されてなるものであればよく、コア部同様に1相であってもよいし、組成の異なる2相以上で構成していてもよい。
【0020】
このような組成が異なる2種以上のNCM粒子によってコア-シェル構造を形成してなる粒子(A)として、具体的には(コア部)-(シェル部)が、例えば(LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2)-(LiNi0.2Co0.4Mn0.4O2)、(LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2)-(LiNi0.33Co0.33Mn0.34O2)、又は(LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2)-(LiNi0.33Co0.31Mn0.33Mg0.03O2)等からなる粒子が挙げられる。
【0021】
さらに、上記式(a)で表される粒子(A)は、金属酸化物、金属フッ化物又は金属リン酸塩で被覆されていてもよい。これら金属酸化物、金属フッ化物又は金属リン酸塩でNCM粒子を被覆することによって、電解液へのNCM粒子からの金属成分(Ni、Mn、Co、M1)の溶出を抑制することができる。かかる被覆物としては、CeO2、SiO2、MgO、Al2O3、ZrO2、TiO2、ZnO、RuO2、SnO2、CoO、Nb2O5、CuO、V2O5、MoO3、La2O3、WO3、AlF3、NiF2、MgF2、LiF、Li3PO4、Li4P2O7、LiPO3、Li2PO3F、及びLiPO2F2から選択される1種又は2種以上、或いはこれらの複合化物を用いることができる。
【0022】
上記式(a)で表される粒子(A)の一次粒子としての平均粒径は、リチウムイオンの挿入及び脱離に伴う上記一次粒子の膨張収縮量を抑制することができ、粒子割れを有効に防止する観点、及びハンドリングの観点から、好ましくは50nm~500nmであり、より好ましくは50nm~300nmである。
ここで、粒子(A)における「一次粒子としての平均粒径」とは、X線回折法において測定された結晶子径を意味する。
また、上記一次粒子が凝集して形成する二次粒子である粒子(A)の平均粒径(単に「粒子(A)の平均粒径」という)は、サイクル特性に優れた電池を得る観点、及びハンドリングの観点から、好ましくは5μm~15μmであり、より好ましくは8μm~12μmである。
ここで、粒子(A)における「平均粒径」とは、レーザー回折・散乱法に基づく体積基準の粒度分布により得られるD50値(累積50%での粒径(メジアン径))を意味する。
【0023】
成分(A)(粒子(A))の含有量は、高いレート特性と優れたサイクル特性との両立を有効に図る観点から、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質中に、55質量%~90質量%であって、好ましくは60質量%~80質量%であり、より好ましくは65質量%~70質量%である。
【0024】
なお、粒子(A)は、例えば、以下の製造方法により得ることができる。
具体的には、ニッケル化合物、コバルト化合物、マンガン化合物、及び水を添加してスラリー水aを調製し、かかるスラリー水aをろ過・乾燥して混合物Aを得る工程(Ia)、得られた混合物Aにリチウム化合物を添加して混合し、次いで焼成する工程(IIa)を備える製造方法である。
【0025】
工程(Ia)において用いるニッケル化合物としては、硫酸ニッケル、酢酸ニッケル等が挙げられ、これらは1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。なかでも、電池特性を高める観点から、硫酸ニッケルが好ましい。
コバルト化合物としては、酢酸コバルト、硝酸コバルト、硫酸コバルト等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。なかでも、電池特性を高める観点から、硫酸コバルトが好ましい。
マンガン化合物としては、酢酸マンガン、硝酸マンガン、硫酸マンガン等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。なかでも、電池特性を高める観点から、硫酸マンガンが好ましい。
なお、これらニッケル化合物、コバルト化合物、及びマンガン化合物とともに、これらの化合物以外の金属(M1)化合物を用いてもよい。
リチウム化合物としては、水酸化物(例えばLiOH・H2O、LiOH)、炭酸塩、硫酸塩、酢酸塩が挙げられる。なかでも、炭酸塩が好ましい。
【0026】
工程(Ia)において、スラリー水aを得るにあたり、pH8~13に調整するのが好ましく、例えばアンモニア水を滴下することにより調整すればよい。
【0027】
工程(IIa)において、焼成する際、まず500℃~1000℃、好ましくは600℃~900℃にて1時間~15時間、好ましくは1時間~6時間で仮焼成した後、500℃~1000℃、好ましくは600℃~900℃にて1時間~15時間、好ましくは5時間~13時間で本焼成するのがよい。また、仮焼成後に解砕してから本焼成に付すのがよい。
【0028】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質は、成分(B)として、下記式(b)で表され、かつ平均粒径が12μm~25μmである粒子を5質量%~40質量%含有する。
LifMngFehM2
xPO4・・・(b)
(式(b)中、M2はMg、Al、Ti、Cu、Zn、Nb、Co、Ni、Ca、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd及びGdから選ばれる1種又は2種以上の元素を示す。f、g、h及びxは、0<f≦1.2、0.3≦g≦1.2、0.2≦h≦1.2、0≦x≦0.3、及び3/7≦g/h≦4を満たし、かつf+(Mnの価数)×g+(Feの価数)×h+(M2の価数)×x=3を満たす数を示す。)
【0029】
成分(B)の上記式(b)で表される粒子は、少なくとも遷移金属としてマンガン(Mn)及び鉄(Fe)の双方を含むオリビン型リン酸遷移金属リチウム化合物(いわゆるLMFP粒子であり、以下「粒子(B)」とも称する。)であって、一次粒子が凝集することにより形成される二次粒子である。かかる成分(B)は、他の成分よりも比較的変形しやすい粒子であることも要因となって、これを上記量で含有することにより、良好なレート特性を保持しつつ、上記成分(A)と相まって、サイクル特性の向上に寄与するとともに、特に後述する成分(C)からの金属成分の溶出を効果的に抑制することができる。
【0030】
上記粒子(B)としては、平均放電電圧の観点から、fについては、0.6≦f≦1.2が好ましく、0.65≦f≦1.15がより好ましく、0.7≦f≦1.1がさらに好ましい。gについては、0.4≦g≦0.8が好ましく、0.5≦g≦0.8がより好ましく、0.7≦g≦0.8がさらに好ましい。hについては、0.2≦h≦0.6が好ましく、0.2≦h≦0.5がより好ましく、0.2≦h≦0.3がさらに好ましい。xについては、0≦x≦0.2が好ましく、0≦x≦0.15がより好ましく、0≦x≦0.1がさらに好ましい。そして、g/hは、いわゆる粒子(B)を構成するMnとFeとのモル比であり、2/3≦g/h≦4が好ましく、1≦g/h≦4がより好ましく、3/2≦g/h≦4がさらに好ましい。
【0031】
具体的には、例えばLiMn0.3Fe0.7PO4、LiMn0.7Fe0.3PO4、LiMn0.9Fe0.1PO4、LiMn0.8Fe0.2PO4、LiMn0.75Fe0.15Mg0.1PO4、LiMn0.75Fe0.19Zr0.03PO4、LiMn0.6Fe0.4PO4、LiMn0.5Fe0.5PO4、Li1.2Mn0.63Fe0.27PO4、Li0.6Mn0.84Fe0.36PO4等が挙げられる。なかでもLiMn0.3Fe0.7PO4、LiMn0.7Fe0.3PO4、LiMn0.8Fe0.2PO4、LiMn0.6Fe0.4PO4、Li1.2Mn0.63Fe0.27PO4、又はLi0.6Mn0.84Fe0.36PO4が好ましい。
【0032】
上記式(b)で表される粒子(B)は、レート特性とサイクル特性とをともに有効に高める観点から、変形しやすい粒子、すなわち押し潰されやすいという物性を発現する粒子であるのが好ましい。具体的には、粒子(B)は、表面に1個~2個の窪みが形成されてなる粒子を含む粒子集合体であって、粒子(B)全体として、水銀圧入法により測定される窪み径の最頻値が1.0μm~4.0μmであり、窪み容積が0.2mL/g~0.8mL/gであり、かつ荷重20kNでの圧密度が2.5g/cm3~3.3g/cm3であるのが望ましい。すなわち、粒子(B)が、これを構成する一部の粒子として、その表面に大きな窪みを1個~2個有する粒子を含みつつ、粒子集合体全体として、水銀圧入法により測定される窪み径の最頻値、及び窪み容積が上記のような高い値を示し、容易に変形して崩壊を回避しつつ過度な微粉化も抑制する適度な強度を有するのが望ましい。
【0033】
なお、粒子(B)に含まれる一部の粒子の表面において形成されてなる「窪み」とは、粒子全体を球体とみなし、その球体の表面を仮想表面としたときに、粒子表面が仮想表面から逸脱し、粒子内部に向けて陥没した凹部を意味する。かかる「窪み」は、例えばSEM写真によって認識できるほど、大きな凹部である。
また「窪み径」とは、仮想表面から粒子表面の逸脱が始まった点を連続させて描かれる円を真円とみたてたときの、その真円の直径を意味し、「窪み径の最頻値」は「窪み径」の平均値に相当し、「窪み」の大きさを認識する上での指標となる値である。本発明では、粒子(B)全体について、水銀圧入法により測定される、いわゆる細孔径を「窪み径」とし、細孔径分布図により求められるピーク値を「窪み径の最頻値」とする。
さらに「窪み容積」とは、「窪み」が占める容積であり、みなした球体の体積から、窪みを形成してなる粒子の体積を差し引いた値と同義である。本発明では、粒子(B)全体について、水銀圧入法により測定される細孔径分布図のピーク面積を「窪み容積」とする。
【0034】
このような粒子(B)を上記粒子(A)及び後述する粒子(C)とともに所定の条件下で含有するリチウムイオン二次電池用正極活物質とすることにより、電極内におけるカーボンの接触の促進、及び導電パスの確保を確実なものとしつつ、粒子からの金属成分の溶出を抑制して、リチウムイオン二次電池におけるレート特性とサイクル特性との両立を一層実現可能なものとすることができる。
【0035】
粒子(B)における水銀圧入法により測定される窪み径の最頻値は、1.0μm~4.0μmであって、好ましくは1.0μm~3.0μmであり、より好ましくは1.0μm~2.5μmである。
また、粒子(B)における水銀圧入法により測定される窪み容積(粒子(B)1gあたりの窪み容積)は、0.2mL/g~0.8mL/gであって、好ましくは0.25mL/g~0.8mL/gであり、より好ましくは0.3mL/g~0.8mL/gである。
【0036】
粒子(B)は、容易に圧密されて高い圧密度を示し得ることから、荷重20kNでの圧密度が、2.5g/cm3~3.3g/cm3であって、好ましくは2.7g/cm3~3.3g/cm3であり、より好ましくは2.9g/cm3~3.3g/cm3である。
【0037】
粒子(B)のタップ密度は、かかる粒子(B)を構成する一部の粒子が、表面に大きな窪みを有する大きな粒子である観点から、好ましくは0.7g/cm3~1.1g/cm3であり、より好ましくは0.7g/cm3~1.0g/cm3であり、さらに好ましくは0.7g/cm3~0.9g/cm3である。
なお、タップ密度とは、JIS R 1628「ファインセラミックス粉末のかさ密度測定方法」に規定される方法により測定される「タップかさ密度」を意味する。
【0038】
粒子(B)において、表面に1個~2個の窪みが形成されてなる粒子の粒子数割合は、上記のような窪み径の最頻値及び窪み容積を示し、容易に圧密されることとなる高い圧密度を付与する観点から、粒子(B)全体(粒子(B)の粒子総数)中に、好ましくは30%~100%であり、より好ましくは55%~100%であり、さらに好ましくは70%~100%である。
なお、粒子(B)全体における、表面に1個~2個の窪みが形成されてなる粒子の粒子数割合は、電子顕微鏡での観察を行い、{(表面に窪み径1.0μm以上の窪みを1~2個有する粒子の数)/(5.0μm以上の粒子総数)}×100の値(%)として求めることができる。
【0039】
上記式(b)で表される粒子(B)の一次粒子としての平均粒径は、リチウムイオンの挿入及び脱離に伴う上記一次粒子の膨張収縮量を抑制することができ、粒子割れを有効に防止する観点、及びハンドリングの観点から、好ましくは50nm~250nmであり、より好ましくは100nm~200nmである。
ここで、粒子(B)における「一次粒子としての平均粒径」とは、X線回折法において測定された結晶子径を意味する。
また、上記一次粒子が凝集して形成する二次粒子である粒子(B)の平均粒径(単に「粒子(B)の平均粒径」という)は、サイクル特性に優れた電池を得る観点、及びハンドリングの観点から、12μm~25μmであって、好ましくは12μm~20μmであり、より好ましくは12μm~18μmである。
ここで、粒子(B)における「平均粒径」とは、レーザー回折・散乱法に基づく体積基準の粒度分布により得られるD50値(累積50%での粒径(メジアン径))を意味する。
なお、表面に1個~2個の窪みが形成されてなる粒子についても、いわゆる上記一次粒子が凝集して形成する二次粒子である。
【0040】
粒子(B)は、優れた放電容量を確保する観点から、その粒子の表面に、セルロースナノファイバー由来の炭素及び/又は水溶性炭素材料由来の炭素を担持されてなる粒子としてもよい。
セルロースナノファイバーとは、全ての植物細胞壁の約5割を占める骨格成分であって、かかる細胞壁を構成する植物繊維をナノサイズまで解繊等することにより得ることができる軽量高強度繊維である。かかるセルロースナノファイバーの繊維径は1nm~1000nmであり、水への良好な分散性も有している。また、セルロースナノファイバーを構成するセルロース分子鎖では、炭素による周期的構造が形成されている。そのため、かかるセルロースナノファイバーが炭化されて炭素となり、これが上記粒子(B)の表面に堅固に担持してなると、粒子(B)として押し潰されやすい物性を発現しながらも、容易に変形して崩壊を回避しつつ過度な微粉化も抑制する適度な強度を有することとなり、電子導電パスの低下を有効に抑制して圧密度を有効に高め、得られる電池において優れた放電容量の発現を確保することができる。
【0041】
粒子(B)の表面にセルロースナノファイバー由来の炭素が担持してなる場合、炭化してなるセルロースナノファイバー由来の炭素の原子換算量、すなわちセルロースナノファイバー由来の炭素の担持量は、粒子(B)100質量%中に、好ましくは0.1質量%~10.0質量%であり、より好ましくは0.1質量%~7.0質量%であり、さらに好ましくは0.1質量%~5.0質量%である。
【0042】
水溶性炭素材料とは、セルロースナノファイバーと同様、炭化されて炭素となり、これが粒子(B)の表面に担持してなると、セルロースナノファイバーと同様、電子導電パスの低下を有効に抑制して圧密度を有効に高め、得られる電池において優れた放電容量の発現を確保することができる。
かかる水溶性炭素材料としては、例えば、糖類、ポリオール、ポリエーテル、及び有機酸から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。より具体的には、例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース等の単糖類;マルトース、スクロース、セロビオース等の二糖類;デンプン、デキストリン等の多糖類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ブタンジオール、プロパンジオール、ポリビニルアルコール、グリセリン等のポリオールやポリエーテル;クエン酸、酒石酸、アスコルビン酸等の有機酸が挙げられる。なかでも、溶媒への溶解性及び分散性を高めて炭素材料として効果的に機能させる観点から、グルコース、フルクトース、スクロース、デキストリンが好ましく、グルコースがより好ましい。
【0043】
粒子(B)の表面に水溶性炭素材料由来の炭素が担持してなる場合、水溶性炭素材料由来の炭素の原子換算量、すなわち水溶性炭素材料由来の炭素の担持量は、粒子(B)100質量%中に、好ましくは0質量%~4.0質量%であり、より好ましくは0質量%~3.0質量%であり、さらに好ましくは0質量%~2.0質量%である。
【0044】
これらセルロースナノファイバー由来の炭素、及び水溶性炭素材料由来の炭素は、セルロースナノファイバー由来の炭素のみを担持、水溶性炭素材料由来の炭素のみを担持、或いはセルロースナノファイバー由来の炭素と水溶性炭素材料由来の炭素とを双方とも担持させてもよい。なかでも、粒子(B)の表面の一部のみを覆って、粒子(B)の変形を妨げない観点から、セルロースナノファイバー由来の炭素を担持させるのが好ましい。
【0045】
粒子(B)の表面にセルロースナノファイバー由来の炭素及び水溶性炭素材料由来の炭素が担持してなる場合、セルロースナノファイバー由来の炭素の原子換算量及び水溶性炭素材料由来の炭素の原子換算量の合計、すなわちセルロースナノファイバー由来の炭素の担持量及び水溶性炭素材料由来の炭素の担持量の合計は、粒子(B)100質量%中に、好ましくは1.0質量%~10.0質量%であり、より好ましくは1.5質量%~7.0質量%であり、さらに好ましくは2.0質量%~5.0質量%である。
【0046】
成分(B)(粒子(B))の含有量は、高いレート特性と優れたサイクル特性との両立を有効に図る観点から、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質中に、5質量%~40質量%であって、好ましくは10質量%~40質量%であり、より好ましくは20質量%~30質量%である。
【0047】
なお、成分(B)(粒子(B))が、その表面にセルロースナノファイバー由来の炭素及び/又は水溶性炭素材料由来の炭素を担持してなる場合、成分(B)(粒子(B))の含有量には、これらの炭素の担持量も含むものとする。
また、粒子(B)中に存在するセルロースナノファイバー由来の炭素の原子換算量(担持量)、及び水溶性炭素材料由来の炭素の原子換算量(担持量)は、炭素・硫黄分析装置を用いた測定により求められる値を意味する。
【0048】
なお、粒子(B)は、例えば、以下の製造方法により得ることができる。具体的には、次の工程(Ib)~(IVb):
(Ib)リチウム化合物、マンガン化合物及び/又は鉄化合物、リン酸化合物、セルロースナノファイバー、並びに水を添加してスラリー水bを得た後、水熱反応に付して、複合体Bを得る工程
(IIb)得られた複合体B、アクリル酸(共)重合体又はその塩x、平均粒径が10nm~150nmのナノ樹脂粒子y、並びに水を添加してスラリー水cを得る工程
(IIIb)得られたスラリー水cを噴霧乾燥に付して造粒体Zを得る工程
(IVb)得られた造粒体Zを焼成する工程
を備え、
ナノ樹脂粒子yが、ポリスチレン粒子、ポリメタクリル酸メチル粒子、及びポリ乳酸粒子から選ばれる1種又は2種以上である製造方法である。
【0049】
上記工程(Ib)は、リチウム化合物、マンガン化合物、鉄化合物、リン酸化合物、及び水を添加してスラリー水bを得た後、水熱反応に付して、複合体Bを得る工程である。
【0050】
リチウム化合物としては、上記粒子(A)と同様のものを用い得るが、なかでも水酸化物が好ましい。
マンガン化合物としては、上記粒子(A)と同様のものを用い得る。
鉄化合物としては、酢酸鉄、硝酸鉄、硫酸鉄等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。なかでも、電池特性を高める観点から、硫酸鉄が好ましい。
なお、これらマンガン化合物及び鉄化合物とともに、マンガン化合物及び鉄化合物以外の金属(M2)化合物を用いてもよい。
リン酸化合物としては、オルトリン酸(H3PO4、リン酸)、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸、リン酸アンモニウム、リン酸水素アンモニウム等が挙げられる。なかでもリン酸を用いるのが好ましく、70質量%~90質量%濃度の水溶液として用いるのが好ましい。
なお、セルロースナノファイバー由来の炭素を担持させる場合、工程(Ib)においてリチウム化合物等とともにセルロースナノファイバーを添加し、スラリー水bを得ればよい。
【0051】
工程(Ib)は、より具体的には、リチウム化合物を含むスラリー水b'に、リン酸化合物を混合して複合体B'を得る工程(ib-1)、
得られた複合体B'、及び少なくともマンガン化合物及び鉄化合物を含む金属化合物を含有するスラリー水bを水熱反応に付して、複合体Bを得る工程(ib-2)
を備えるのが好ましい。
なお、セルロースナノファイバーを用いる場合、リチウム化合物とセルロースナノファイバーを含むスラリー水b'を調製すればよい。
【0052】
工程(ib-1)において、スラリー水b'におけるリチウム化合物の含有量は、水100質量部に対し、好ましくは5~50質量部であり、より好ましくは7~45質量部である。
セルロースナノファイバーを用いる場合、スラリー水b'におけるその含有量は、水100質量部に対し、炭化処理の残渣量換算で、好ましくは0.2~10.6質量部であり、より好ましくは0.5~8質量部であり、さらに好ましくは0.8~5.3質量部である。
スラリー水b'にリン酸化合物を添加する前に、予めスラリー水b'を撹拌しておくのが好ましい。かかるスラリー水b'の撹拌時間は、好ましくは1分~15分であり、より好ましくは3分~10分である。また、スラリー水b'の温度は、好ましくは20℃~90℃であり、より好ましくは20℃~70℃である。
【0053】
かかる工程(Ib)では、スラリー水b'にリン酸を混合するにあたり、スラリー水を撹拌しながらリン酸を滴下するのが好ましい。リン酸の上記スラリー水b'への滴下速度は、好ましくは15mL/分~50mL/分であり、より好ましくは20mL/分~45mL/分であり、さらに好ましくは28mL/分~40mL/分である。また、リン酸を滴下しながらのスラリー水bの撹拌時間は、好ましくは0.5時間~24時間であり、より好ましくは3時間~12時間である。さらに、リン酸を滴下しながらのスラリー水の撹拌速度は、好ましくは200rpm~700rpmであり、より好ましくは250rpm~600rpmであり、さらに好ましくは300rpm~500rpmである。
なお、スラリー水b'を撹拌する際、さらにスラリー水b'の沸点温度以下に冷却するのが好ましい。具体的には、80℃以下に冷却するのが好ましく、20℃~60℃に冷却するのがより好ましい。
【0054】
リン酸化合物を混合した後のスラリー水b'は、リン酸1モルに対し、リチウムを2.0モル~4.0モル含有するのが好ましく、2.0モル~3.1モル含有するのがより好ましく、このような量となるよう、上記リチウム化合物とリン酸化合物を用いればよい。より具体的には、リン酸化合物を混合した後のスラリー水b'は、リン酸1モルに対し、リチウムを2.7モル~3.3モル含有するのが好ましく、2.8モル~3.1モル含有するのがより好ましい。
【0055】
リン酸化合物を混合した後のスラリー水b'に対して窒素をパージすることにより、かかるスラリー水中での反応を完了させて、粒子(B)の前駆体である複合体B'をスラリーとして得る。窒素がパージされると、スラリー水b'中の溶存酸素濃度が低減された状態で反応を進行させることができ、また得られる複合体B'を含有するスラリー水の溶存酸素濃度も効果的に低減されるため、次の工程で添加する金属化合物の酸化を抑制することができる。かかる複合体B'を含有するスラリー水b'中において、粒子(B)の前駆体は、微細な分散粒子として存在する。かかる複合体B'は、リン酸三リチウム(Li3PO4)とセルロースナノファイバーの複合体として得られる。
【0056】
次いで工程(ib-2)では、工程(ib-1)で得られた複合体B'、及び少なくともマンガン化合物及び鉄化合物を含む金属化合物を含有するスラリー水bを水熱反応に付して、複合体Bを得る。
【0057】
マンガン化合物及び鉄化合物の使用モル比(マンガン化合物:鉄化合物)は、好ましくは20:80~90:10であり、より好ましくは25:75~85:15であり、さらに好ましくは30:70~80:20である。また、これら金属化合物の合計添加量は、スラリー水A中に含有されるリン酸イオン1モルに対し、好ましくは0.99モル~1.01モルであり、より好ましくは0.995モル~1.005モルである。
【0058】
水熱反応に付する際に用いる水の使用量は、金属化合物の溶解性、撹拌の容易性、及び合成の効率等の観点から、スラリー水b中に含有されるリン酸イオン1モルに対し、好ましくは10モル~50モルであり、より好ましくは12.5モル~45モルである。
【0059】
マンガン化合物、鉄化合物及び金属(M2)化合物の添加順序は特に制限されない。また、これらの金属化合物を添加するとともに、必要に応じて酸化防止剤を添加してもよい。かかる酸化防止剤としては、亜硫酸ナトリウム(Na2SO3)、ハイドロサルファイトナトリウム(Na2S2O4)、アンモニア水等を使用することができる。酸化防止剤の添加量は、マンガン化合物、鉄化合物及び必要に応じて用いる金属(M2)塩の合計1モルに対し、好ましくは0.01モル~1モルであり、より好ましくは0.03モル~0.5モルである。
【0060】
マンガン化合物、鉄化合物及び金属(M2)化合物を添加し、必要に応じて酸化防止剤等を添加することにより得られるスラリー水b中における複合体B'の含有量は、好ましくは10~50質量%であり、より好ましくは15~45質量%であり、さらに好ましくは20~40質量%である。
【0061】
水熱反応は、100℃以上であればよく、130℃~200℃が好ましい。水熱反応は耐圧容器中で行うのが好ましく、130℃~200℃で反応を行う場合、この時の圧力は0.3MPa~1.6MPaであるのが好ましく、140℃~160℃で反応を行う場合の圧力は0.3MPa~0.6MPaであるのが好ましい。水熱反応時間は0.1時間~48時間が好ましく、さらに0.2時間~24時間が好ましい。
得られた複合体Bは、ろ過後、水で洗浄し、乾燥することにより単離する。乾燥手段は、凍結乾燥、真空乾燥が用いられる。
【0062】
上記工程(IIb)は、工程(Ib)により得られた複合体B、アクリル酸(共)重合体又はその塩x、平均粒径が10nm~150nmのナノ樹脂粒子y、並びに水を添加してスラリー水cを得る工程であり、ナノ樹脂粒子yとして、ポリスチレン粒子、ポリメタクリル酸メチル粒子、及びポリ乳酸粒子から選ばれる1種又は2種以上を用いる。このように、工程(Ib)により得られた複合体Bとともに、アクリル酸(共)重合体又はその塩xと、微粒子のナノ樹脂粒子yを用いてスラリー水を調製することにより、物理的及び電気的な作用を及ぼして粒子(B)同士の凝集を抑制しつつ引き離すことができ、後述する工程(IIIb)~(IVb)を経た後に得られる粒子(B)の一部の粒子として、表面に大きな窪みを有する粒子を作製することも可能となる。
【0063】
アクリル酸(共)重合体又はその塩xは、粒子(B)の表面に付着して、粒子(B)粒子同士の凝集を物理的及び電気的な作用により効果的に抑制することができる。
アクリル酸(共)重合体又はその塩xの質量平均分子量は、粒子(B)同士の凝集を効果的に抑制する観点から、好ましくは1000~20万であり、より好ましくは1000~15万であり、さらに好ましくは1000~10万である。
【0064】
かかるアクリル酸(共)重合体又はその塩xとしては、具体的には、ポリアクリル酸ナトリウム塩、ポリアクリル酸アンモニウム塩、アクリル酸/マレイン酸共重合体のナトリウム塩、及びアクリル酸/アクリルアミド/スルホン酸共重合体のナトリウム塩から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。なかでも、スラリー水bの分散性を有効に高める観点から、ポリアクリル酸ナトリウム塩が好ましい。
【0065】
かかるアクリル酸(共)重合体又はその塩xの添加量は、複合体B100質量部に対し、好ましくは0.01質量部~1.5質量部であり、より好ましくは0.05質量部~1.5質量部であり、さらに好ましくは0.1質量部~1.5質量部である。
【0066】
ナノ樹脂粒子yは、粒子(B)の間隙に介入し、粒子(B)同士をさらに引き離すことができるとともに、スラリー水の流動性をも高めることとなり、粒子表面において窪みの形成を容易にすることができる。ナノ樹脂粒子yとしては、ポリスチレン粒子、ポリメタクリル酸メチル粒子、及びポリ乳酸粒子から選ばれる1種又は2種が挙げられるが、表面に大きな窪みを有する粒子を効率的に作製する観点から、ポリスチレン粒子が好ましい。
【0067】
かかるナノ樹脂粒子yの添加量は、複合体B100質量部に対し、好ましくは0.5質量部~15質量部であり、より好ましくは1質量部~12質量部であり、さらに好ましくは2質量部~10質量部である。
【0068】
アクリル酸(共)重合体又はその塩xの添加量とナノ樹脂粒子yの添加量との質量比(x/y)は、好ましくは0.002~3.0であり、より好ましくは0.033~1.0であり、さらに好ましくは0.05~0.2である。
【0069】
スラリー水cの固形分濃度は、好ましくは5質量%~30質量%であり、より好ましくは5質量%~20質量%であり、さらに好ましくは5質量%~15質量%である。
【0070】
水を添加した後、工程(IIIb)へ移行する前にスラリー水cを予め攪拌するのが好ましい。かかるスラリー水cの撹拌時間は、好ましくは3分~60分であり、より好ましくは5分~30分である。また、スラリー水cの温度は、好ましくは10℃~60℃であり、より好ましくは20℃~40℃である。
【0071】
上記工程(IIIb)は、工程(IIb)により得られたスラリー水cを噴霧乾燥に付して造粒体Zを得る工程である。噴霧乾燥では、用いる装置に応じて適宜運転条件を設定すればよい。
例えば、4流体ノズルを備えたマイクロミストドライヤー(藤崎電気(株)製 MDL-050M)での処理条件としては、熱風温度が110℃~300℃であるのが好ましく、150℃~250℃であるのがより好ましい。また、熱風の供給量とスラリー水の供給量の容積比(熱風の供給量/スラリー水の供給量)が、500~10000であるのが好ましく、1000~9000であるのがより好ましい。
【0072】
工程(IIIb)において造粒体Zを得ることにより、続く工程(IVb)を経た際に得られる粒子の一部として、表面に大きな窪みを1個~2個有する粒子を有効に含ませることが可能となる。
すなわち、スラリー水cは、噴霧乾燥に付されることによって、まず噴霧されて液滴となり、かかる液滴中では、粒子(B)が水分中に均一に分散している状態となっている。次いで、この状態の液滴に熱がかかると、液滴表面の水分が蒸発し、それに従い液滴の中心部に存在していた水分が液滴表面に移動し、続いて蒸発する。このように、液滴中において中心部から表面へと水分が移動する際、粒子(B)が水分とともに液滴表面に移動して、表面に粒子(B)が多く分布する状態へと移行する。この状態になった時、液滴の中心部に未だ残留している水分は、その後乾燥された際に行き場がなくなり、液滴表面の粒子(B)の層の一部を破って蒸発していく。この中心部の水分が蒸発した痕跡が、造粒体Zの窪みとなって現れ、のちに後述する工程(IVb)を経ることにより、かかる窪みが、粒子の表面に大きな窪みを形成することとなる。
【0073】
上記工程(IVb)は、工程(IIIb)により得られた造粒体Zを焼成する工程である。かかる工程(IVb)の焼成条件は、還元雰囲気又は不活性雰囲気中であるのが好ましく、焼成温度は、好ましくは500℃~1000℃であり、より好ましくは550℃~900℃であり、焼成時間は、好ましくは0.5時間~12時間であり、より好ましくは1時間~6時間である。
【0074】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質は、成分(C)として、下記式(c)で表される粒子を1質量%~10質量%含有する。
LiM3
yMnhO4 ・・・(c)
(式(c)中、M3はNi、Co、Al、Mg、Ti、V、Cr、Fe、Zr、Ga、Cu、及びSiから選ばれる1種又は2種以上の元素を示す。y及びhは、0≦y≦0.1、0<h≦2、及び(M3の価数)×y+(Mnの価数)×h=7を満たす数を示す。)
【0075】
成分(C)の上記式(c)で表される粒子(以下「粒子(C)」とも称する。)は、スピネル構造を有する粒子であって、一次粒子が凝集することにより形成される二次粒子である。かかる粒子(C)を上記量で含有することにより、飛躍的にレート特性を向上させることができる。
【0076】
上記式(c)で表される粒子(C)としては、具体的には、LiMn2O4、LiNi0.5Mn1.5O4、LiCoMnO4、LiCrMnO4、LiFeMnO4、LiAlMnO4、LiCu0.5Mn1.5O4を用いることができる。なかでも、LiMn2O4が好ましい。
【0077】
上記式(c)で表される粒子(C)の一次粒子としての平均粒径は、優れたレート特性を確保する観点、及びハンドリングの観点から、好ましくは50nm~1μmであり、より好ましくは50nm~800nmである。
ここで、粒子(B)における「一次粒子としての平均粒径」とは、X線回折法において測定された結晶子径を意味する。
また、上記一次粒子が凝集して形成する二次粒子である粒子(C)の平均粒径(単に「粒子(C)の平均粒径」という)は、優れたレート特性を確保しつつ、サイクル特性との両立を有効に図る観点、及びハンドリングの観点から、好ましくは2μm~8μmであり、より好ましくは5μm~8μmである。
ここで、粒子(C)における「平均粒径」とは、レーザー回折・散乱法に基づく体積基準の粒度分布により得られるD50値(累積50%での粒径(メジアン径))を意味する。
【0078】
成分(C)(粒子(C))の含有量は、優れたレート特性を確保しつつ、サイクル特性との両立を有効に図る観点から、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質中に、1質量%~10質量%であって、好ましくは1質量%~8質量%であり、より好ましくは1質量%~4質量%である。
【0079】
なお、粒子(C)は、例えば、実施例に記載の製造方法により得ることができる。
具体的には、リチウム化合物、及びマンガン化合物を添加してボールミルで粉砕・混合し、仮焼成、次いで本焼成する工程を備える製造方法である。
用いるリチウム化合物としては、水酸化物(例えばLiOH・H2O、LiOH)、炭酸塩、酢酸塩、硝酸塩が挙げられる。なかでも、炭酸塩が好ましい。
マンガン化合物としては、酢酸マンガン、硝酸マンガン、酸化マンガン等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。なかでも、電池特性を高める観点から、酸化マンガンが好ましい。
なお、これらリチウム化合物、及びマンガン化合物とともに、これらの化合物以外の金属(M3)化合物を用いてもよい。
焼成する際、まず250℃~700℃、好ましくは300℃~600℃にて1時間~15時間、好ましくは6時間~12時間で仮焼成した後、500℃~1000℃、好ましくは600℃~900℃にて3時間~30時間、好ましくは12時間~24時間で本焼成するのがよい。また、仮焼成後に解砕してから本焼成に付すのがよい。
【0080】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質は、上記成分(A)、(B)、及び(C)の粒子を各々上記含有量となる量に調整した後、常法により混合して得ることができる。なお、成分(A)、(B)、及び(C)の粒子の添加順についても、特に制限はない。
【0081】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質を正極材料として適用し、正極と負極と電解液とセパレータ、又は正極と負極と固体電解質を必須構成とするリチウムイオン二次電池を構築することができる。具体的には、例えば本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質と、アセチレンブラックやケッチェンブラック、ポリフッ化ビニリデン、N-メチル-2-ピロリドン等とを混練して正極スラリーを調製した後、集電体に塗工し、次いでプレス成形して正極を作製する。
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質であれば、上記特定の3種の粒子(A)~(C)が密に関わり合い、プレス成形の際にも容易に圧密されて電極密度を増大させて、レート特性とサイクル特性とを有効に高め得る有用性の高い正極を得ることができる。
【0082】
ここで、負極については、リチウムイオンを充電時には吸蔵し、かつ放電時には放出することができれば、その材料構成で特に限定されるものではなく、公知の材料構成のものを用いることができる。たとえば、リチウム金属、グラファイト、シリコン系(Si、SiOx)、チタン酸リチウム又は非晶質炭素等の炭素材料等を用いることができる。そしてリチウムイオンを電気化学的に吸蔵・放出し得るインターカレート材料で形成された電極、特に炭素材料を用いることが好ましい。さらに、2種以上の上記の負極材料を併用してもよく、たとえばグラファイトとシリコン系の組み合わせを用いることができる。
【0083】
電解液は、有機溶媒に支持塩を溶解させたものである。有機溶媒は、通常リチウムイオン二次電池の電解液に用いられる有機溶媒であれば特に限定されるものではなく、例えば、カーボネート類、ハロゲン化炭化水素、エーテル類、ケトン類、ニトリル類、ラクトン類、オキソラン化合物等を用いることができる。
【0084】
支持塩は、その種類が特に限定されるものではないが、LiPF6、LiBF4、LiClO4及びLiAsF6から選ばれる無機塩、該無機塩の誘導体、LiSO3CF3、LiC(SO3CF3)2及びLiN(SO3CF3)2、LiN(SO2C2F5)2及びLiN(SO2CF3)(SO2C4F9)から選ばれる有機塩、並びに該有機塩の誘導体の少なくとも1種であることが好ましい。
【0085】
セパレータは、正極及び負極を電気的に絶縁し、電解液を保持する役割を果たすものである。たとえば、多孔性合成樹脂膜、特にポリオレフィン系高分子(ポリエチレン、ポリプロピレン)の多孔膜を用いればよい。
【0086】
固体電解質は、正極及び負極を電気的に絶縁し、高いリチウムイオン電導性を示すものである。たとえば、La0.51Li0.34TiO2.94、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3、Li7La3Zr2O12、50Li4SiO4・50Li3BO3、Li2.9PO3.3N0.46、Li3.6Si0.6P0.4O4、Li1.07Al0.69Ti1.46(PO4)3、Li1.5Al0.5Ge1.5(PO4)3、Li10GeP2S12、Li3.25Ge0.25P0.75S4、30Li2S・26B2S3・44LiI、63Li2S・36SiS2・1Li3PO4、57Li2S・38SiS2・5Li4SiO4、70Li2S・30P2S5、50Li2S・50GeS2、Li7P3S11、Li3.25P0.95S4を用いればよい。
【0087】
上記の構成を有するリチウムイオン二次電池の形状としては、特に制限を受けるものではなく、コイン型、円筒型、角型等種々の形状や、ラミネート外装体に封入した不定形状であってもよい。
【実施例】
【0088】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0089】
各製造例の記載にしたがって、各成分の粒子を製造した。なお、粒子(B)の各物性については、下記方法にしたがって測定した。
【0090】
《窪み径の最頻値及び窪み容積の測定》
粒子(B)について、測定装置(AutoPore IV9520,Micromeritics社製)を用いて水銀圧入法により測定を行った。試料セルはModel08(Micromeritics社製)を用い、水銀の表面張力を485dynes/cm、水銀の接触角を130°として求めた。測定圧力範囲は0.1~60000psiaとした。得られた細孔径分布図のピーク値を窪み径の最頻値とし、そのピーク面積を窪み容積として求めた。
【0091】
《一次粒子の平均粒径の測定》
X線回折装置(D8 ADVANCE A-25、BrukerAXS社製)を用いて測定を行った。
測定条件は、ターゲットCuKα、管電圧50kV、管電流350mA、走査範囲10~80°(2θ)、ステップ幅0.0234°、及びスキャンスピード0.13°/stepとした。XRD/ルベール法を用いてXRDパターンを解析して結晶子径を算出し、この値を一次粒子としての平均粒径とした。
【0092】
《粒子(二次粒子)の平均粒径の測定》
粒子の粒度分布は、レーザー回折装置(マイクロトラックMT3000II、MicrotracBEL社製)を用いて測定した。
測定条件は、粒子透過性:透過、粒子形状:非球形、粒子屈折率:1.52とした。溶媒にはエタノールを用い、溶媒屈折率:1.36とした。
【0093】
《圧密度の測定》
粒子(B)について、低抵抗率計(MCP-T610 、三菱アナリテック社製)を用い、荷重20kNを負荷したときの密度を測定した。
【0094】
《窪みを有するリチウム系ポリアニオン粒子の粒子数割合の測定》
粒子(B)について、SEMでの観察を行い、異なる視野を撮影した画像10枚を得た。各画像内において視認される粒子(B)の総数およそ300個をカウントし、また表面に窪み径1.0μm以上の窪みを1~2個有する粒子を「粒子(B)において、表面に1個~2個の窪みが形成されてなる粒子」とみなし、その数をカウントし、{(表面に窪み径1.0μm以上の窪みを1~2個有する粒子の数)/(5.0μm以上の粒子(B)の粒子総数)}×100の値(%)を求め、この値を「粒子(B)中における、表面に1個~2個の窪みが形成されてなる粒子の粒子数割合(窪み粒子の粒子数割合)」とした。
【0095】
[製造例1:粒子(A)(NCM粒子)の製造]
Ni:Co:Mnのモル比が6:2:2となるように、硫酸ニッケル六水和物473g、硫酸コバルト七水和物169g、硫酸マンガン五水和物145g、及び水3Lを混合した後、かかる混合液に25%アンモニア水を、滴下速度300mL/分で滴下して、pHが11の金属複合水酸化物を含むスラリーa1を得た。
次いで、スラリーa1をろ過、乾燥して、金属複合水酸化物の混合物b1を得た後、かかる混合物b1に炭酸リチウム37gをボールミルで混合して粉末混合物c1を得た。得られた粉末混合物c1を、空気雰囲気下で800℃×4時間仮焼成して解砕した後、本焼成として空気雰囲気下で800℃×11時間焼成し、粒子(A)(LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2、一次粒子の平均粒径:250nm、粒子(A)の平均粒径:11.8μm)を得た。
【0096】
[製造例2:粒子(B1)(LMFP粒子)の製造]
LiOH・H2O 1272g、及び水4Lを混合してスラリーx1を得た。次いで、得られたスラリーx1を、25℃の温度に保持しながら3分間撹拌しつつ85%のリン酸水溶液1153gを35mL/分で滴下し、続いてセルロースナノファイバー(Wma-10002、スギノマシン社製、繊維径4~20nm)5892gを添加して、速度400rpmで12時間撹拌し、Li3PO4を含むスラリーy1を得た。得られたスラリーy1に窒素パージして、スラリーy1の溶存酸素濃度を0.5mg/Lとした後、スラリーy1全量に対し、MnSO4・5H2O 1688g、FeSO4・7H2O 834gを添加してスラリーz1を得た。添加したMnSO4とFeSO4のモル比(マンガン化合物:鉄化合物)は、70:30であった。
【0097】
次いで、得られたスラリーz1をオートクレーブに投入し、170℃で1時間水熱反応を行った。オートクレーブ内の圧力は0.8MPaであった。水熱反応後、生成した結晶をろ過し、次いで結晶1質量部に対し12質量部の水により洗浄した。洗浄した結晶を-50℃で12時間凍結乾燥して複合体Cz1を得た。得られた複合体Cz1を100g分取し、これに水1L、ポリアクリル酸ナトリウム塩(アクアリックYS-100、日本触媒社)0.5g、及びポリスチレンナノ粒子(PS05V、ナノ・ミール社製、平均粒径50nm)5.0gを添加して、スラリーEz1を得た。得られたスラリーEz1を超音波攪拌機(T25、IKA社製)で1分間分散処理して、全体を均一に呈色させた後、スプレードライ装置(MDL-050M、藤崎電機株式会社製)を用いてスプレードライ(ノズルエアー流量35L/min、スラリー流量30mL/min、給気温度200℃)に付して造粒体Fz1を得た。得られた造粒体Fz1を、アルゴン水素雰囲気下(水素濃度3%)、700℃で1時間焼成して、セルロースナノファイバー由来の炭素が担持された粒子(B1)(LiMn
0.7Fe
0.3PO
4、炭素の担持量:2.0質量%、一次粒子の平均粒径:100nm、粒子(B1)の平均粒径:15.8μm)を得た。
なお、得られた粒子(B1)において、水銀圧入法により測定される窪み径の最頻値:1.50μm、窪み容積:0.44mL/g、圧密度:3.1g/cm
3であり、表面に1個~2個の窪みが形成されてなる粒子の粒子数割合:72%であった。
得られた粒子(B1)のSEM写真を
図1に示す。
【0098】
[製造例3:粒子(B2)(LMFP粒子)の製造]
製造例2において、スラリーy1全量に対し、MnSO4・5H2O 1688gを723g、FeSO4・7H2O 834gを1946gとした以外、製造例2にしたがって、セルロースナノファイバー由来の炭素が担持された粒子(B2)(LiMn0.3Fe0.7PO4、炭素の担持量:2.0質量%、一次粒子の平均粒径:100nm、粒子(B2)の平均粒径:13.3μm)を得た。
なお、得られた粒子(B2)において、水銀圧入法により測定される窪み径の最頻値:1.67μm、窪み容積:0.48mL/g、圧密度:3.0g/cm3であり、表面に1個~2個の窪みが形成されてなる粒子の粒子数割合:65%であった。
【0099】
[製造例4:粒子(B3)(LMFP粒子)の製造]
製造例2において、スラリーy1全量に対し、MnSO4・5H2O 1688gを241g、FeSO4・7H2O 834gを2502gとした以外、製造例2にしたがって、セルロースナノファイバー由来の炭素が担持された粒子(B3)(LiMn
0.1
Fe
0.9
PO4、炭素の担持量:2.0質量%、一次粒子の平均粒径:100nm、粒子(B3)の平均粒径:12.7μm)を得た。
なお、得られた粒子(B3)において、水銀圧入法により測定される窪み径の最頻値:1.41μm、窪み容積:0.40mL/g、圧密度:3.0g/cm3であり、表面に1個~2個の窪みが形成されてなる粒子の粒子数割合:69%であった。
【0100】
[製造例5:粒子(B4)(LMFP粒子)の製造]
製造例2において、スプレードライ装置(MDL-050M、藤崎電機株式会社製)を用いた造粒工程について、スプレードライ装置の運転条件を、ノズルエアー流量35L/min、スラリー流量30mL/min、給気温度200℃から、ノズルエアー流量5L/min、スラリー流量60mL/min、給気温度200℃とした以外、製造例2にしたがって、セルロースナノファイバー由来の炭素が担持された粒子(B4)(LiMn
0.7
Fe
0.3
PO4、炭素の担持量:2.0質量%、一次粒子の平均粒径:100nm、粒子(B4)の平均粒径:31.2μm)を得た。
なお、得られた粒子(B4)において、水銀圧入法により測定される窪み径の最頻値:6.81μm、窪み容積:20.3mL/g、圧密度:2.2g/cm3であり、表面に1個~2個の窪みが形成されてなる粒子の粒子数割合:54%であった。
【0101】
[製造例6:粒子(C)(LMO粒子)の製造]
Mn:Liのモル比が2:1となるように、酸化マンガン348gと炭酸リチウム739gをボールミルで混合及び粉砕した後、大気雰囲気下において400℃×10時間仮焼成して解砕した。次いで、大気雰囲気下において800℃×24時間本焼成し、粒子(C)(LiMn2O4、一次粒子の平均粒径:500nm、粒子(C)の平均粒径:6.8μm)を得た。
【0102】
[実施例1~6、比較例1~4]
表1に示す配合にしたがい、乳棒及び乳鉢を用いて各成分の粒子を混合し、正極活物質を得た。
次いで、得られた正極活物質を用い、下記方法にしたがって各評価を行った。
結果を表1に示す。
【0103】
《電池特性(レート特性及びサイクル特性)の評価》
得られた各正極活物質を正極材料として用い、リチウムイオン二次電池の正極を作製した。具体的には、得られた各正極活物質、ケッチェンブラック、ポリフッ化ビニリデンを質量比90:5:5の配合割合で混合し、これにN-メチル-2-ピロリドンを加えて充分混練し、正極スラリーを調製した。正極スラリーを厚さ20μmのアルミニウム箔からなる集電体に塗工機を用いて塗布し、80℃で12時間の真空乾燥を行った。その後、ロールプレスを用いて20kNでプレスし、φ14mmの円盤状に打ち抜いて正極とした。
【0104】
次いで、上記正極を用いてコイン型二次電池を構築した。負極には、φ15mmに打ち抜いたリチウム箔を用いた。電解液には、エチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートを体積比3:7の割合で混合した混合溶媒に、LiPF6を1mol/Lの濃度で溶解したものを用いた。セパレータには、高分子多孔フィルムを用いた。これらの電池部品を露点が-50℃以下の雰囲気で常法により組み込み収容し、コイン型二次電池(CR-2032)を得た。
【0105】
得られたコイン型二次電池を用い、放電容量測定装置(HJ-1001SD8、北斗電工社製)にて気温30℃環境での、0.2C(34mAh/g)、5C(850mAh/g)の放電容量を測定し、下記式(x)によるレート特性の値を求めた。
レート特性=(5Cにおける放電容量)/(0.2Cにおける放電容量)・・(x)
さらに、気温30℃環境での1C(170mAh/g)での充放電の50回繰り返しによる、下記式(y)によるサイクル特性の値を求めた。
サイクル特性=(50サイクル後の放電容量)/(50サイクル中の最大放電容量)
・・・(y)
【0106】