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7594907積層造形のための複数層で設定値可変とする融着及び堆積の方式
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-27
(45)【発行日】2024-12-05
(54)【発明の名称】積層造形のための複数層で設定値可変とする融着及び堆積の方式
(51)【国際特許分類】
   B22F 3/16 20060101AFI20241128BHJP
   B22F 3/105 20060101ALI20241128BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20241128BHJP
   B33Y 50/00 20150101ALI20241128BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20241128BHJP
【FI】
B22F3/16
B22F3/105
B33Y10/00
B33Y50/00
B33Y80/00
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2020519002
(86)(22)【出願日】2018-06-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-08-13
(86)【国際出願番号】 US2018037599
(87)【国際公開番号】W WO2018232156
(87)【国際公開日】2018-12-20
【審査請求日】2020-02-07
【審判番号】
【審判請求日】2022-04-07
(31)【優先権主張番号】62/520,340
(32)【優先日】2017-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519447488
【氏名又は名称】ユニフォーミティ ラブズ,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Uniformity Labs, Inc.
【住所又は居所原語表記】41400 Christy Street, Fremont, CA 94538, the United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】ホプキンズ アダム ベイン
(72)【発明者】
【氏名】トルクァート サルバトーレ
(72)【発明者】
【氏名】ベベルウィク ブランドン
【合議体】
【審判長】粟野 正明
【審判官】佐藤 陽一
【審判官】土屋 知久
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-535169号公報
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-12/90
B29C31/00-73/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続的に融着した、結合した、又は隣り合った層からなる積層造形された組成物であって、前記層は以下の通り構成される:
a.融着した、結合した、又は隣り合った軌跡は、軌跡断面の平均を示し、かつ、領域内に含まれる単一の層内に、又は複数の連続する層にわたって、互いに異なる複数の幾何構造(形状若しくは大きさ又はその両方)を含む前記軌跡断面の平均を有し、
b.前記軌跡によって示される前記軌跡断面の構成は、ユークリッド空間又は他の幾何空間における前記軌跡断面の平均で記述される2以上の基底を有する単位セルによって特徴づけることができ、
c.印刷された前記軌跡は、前記単位セル内の前記軌跡断面の平均の互いに異なる複数の幾何構造が接続される軌跡断面を示し、かつ、前記組成物における前記単位セルの平均で、前記単位セル内に融着せずに接続される空隙空間又は材料の面積が前記単位セル内に含まれる各軌跡断面の部分の面積のうち最大の面積よりも小さく、
d.少なくとも2つの隣接する前記単位セルの部分又は全体が、前記組成物内に部分的又は全体的に含まれる各層に存在する、
組成物。
【請求項2】
印刷された成形物の前記領域内で、被覆問題の解に沿って前記軌跡又は軌跡断面の平均幾何構造が空間的に位置決めされており、前記被覆問題の解は前記領域内に含まれる各層の部分において複数の単位セルを含むものである、
請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
軌跡幾何構造又は軌跡断面は、層nの領域内では実質的に同一であり、連続する層n+1の隣接する領域内では、軌跡幾何構造又は軌跡断面も実質的に同一であるが、層n内のものとは実質的に異なる、
請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
複数の軌跡幾何構造又は軌跡断面が、少なくとも1つの層の領域内又は全体で使用され、これらの軌跡幾何構造又は軌跡断面が、それらを使用する1つ又は複数の層の領域内又は層内で幾何構造として変化するものの、ランダムではなく協調的に空間的な位置決めがなされる、
請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記軌跡が全て平行又は逆平行である、
請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
所定の層の領域内の軌跡が、先の層内の軌跡に対してゼロでない角度で回転させられている、
請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
所定の1つ又は複数の層の領域内の軌跡が1つ以上の非直線的な輪郭線に沿っている、
請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
成形物の領域内の軌跡が印刷される層は非平面である、
請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
印刷された軌跡の幾何構造(大きさ及び/若しくは形状)並びに/又は前記構成が非周期的である、
請求項2に記載の組成物。
【請求項10】
造形された成形物の層が軌跡で構成される積層造形(AM)をする方法であって、1つ以上の層で構成される前記成形物の領域内では、
a.軌跡断面の平均を示す軌跡は、前記領域内に含まれる単一の層内で、又は複数の連続する層にわたって、複数の互いに異なるAM軌跡幾何構造設定値を使用して生成され、
b.前記軌跡断面の平均を示す軌跡は、前記軌跡断面の構成が、それらに関連する積層造形軌跡幾何構造設定値(additive manufacturing track geometry parameters)に従って、ユークリッド空間若しくは他の幾何空間における前記軌跡断面の平均で記述された2以上の基底を有する単位セルによって特徴付けられるように製造され、
c.前記軌跡は、前記単位セル内の前記軌跡断面の平均の互いに異なる複数の幾何構造が接続される軌跡断面の平均を示し、かつ、前記成形物における前記単位セルの平均で、前記単位セル内に融着せずに接続される空隙空間又は材料の面積が前記単位セル内に含まれる各軌跡断面の部分の面積のうち最大の面積よりも小さく、
d.少なくとも2つの隣接する前記単位セルの部分又は全体が、前記領域内に部分的又は全体的に含まれる各層に存在する、
方法。
【請求項11】
軌跡が、2次元の被覆問題を解に沿った軌跡断面を示す、
請求項10に記載の方法。
【請求項12】
軌跡又は軌跡断面は、層nの領域内では同一になるように設計又は作製され、連続する層n+1の隣接する領域内では、軌跡又は軌跡断面も同一になるように設計又は作製されるが、層n内のものとは異なるように設計される、
請求項10に記載の方法。
【請求項13】
複数の軌跡又は軌跡断面が、少なくとも1つの層の領域内又は全体で使用され、これらの軌跡又は軌跡断面は、それらを使用する1つ又は複数の層の領域内又は層内で幾何構造として変化するものの、ランダムではなく協調的に空間的な位置決めがなされる、
請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記軌跡が全て平行又は逆平行である、
請求項10に記載の方法。
【請求項15】
所定の層の領域内の軌跡が、先の層内の軌跡に対してゼロでない角度で回転させられている、
請求項10に記載の方法。
【請求項16】
所定の1つ又は複数の層の領域内の軌跡が1つ以上の非直線的な輪郭線に沿っている、
請求項10に記載の方法。
【請求項17】
成形物の領域内の軌跡が印刷される層は非平面である、
請求項10に記載の方法。
【請求項18】
1つ又は複数の層の領域内の軌跡の印刷順序は、隣接する軌跡又は隣接しない軌跡が順を追って印刷されるように設計される、
請求項10に記載の方法。
【請求項19】
前記印刷順序は、1つの幾何構造の軌跡が全て印刷された後に、異なる幾何構造の軌跡が印刷されるように設計される、
請求項18に記載の方法。
【請求項20】
印刷するために設計された軌跡の幾何構造(大きさ及び/若しくは形状)並びに/又は前記構成が非周期的である、
請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は3次元成形物(three-dimensional articles)を層ごとに設計又は製造するための組成物及び方法に関するものであり、融着、材料の堆積、若しくは経路を基礎とする他の手順又は経路によらない手順であって軌跡に似た形状を生成するものによって単一の層の領域を構築する特定の手法において、単層の領域内又は多層の隣接領域内で、軌跡若しくは軌跡に似た形状、又は軌跡若しくは軌跡に似た形状の印刷設定値のいずれかを変化させるものを開示する。この方法を使用することで単層又は多層の設定値が可変の融着及び堆積方式が得られるので成形物の製造時間を短縮し及び/又は成形物の物理的特性を改善できるが、その一部は被覆問題における重なり及び/又は密な充填の基準を満たす走査経路の分布を対象としていることによる。さらに3次元成形物を設計又は製造するための方法及び組成物を開示するが、これらは印刷中に堆積される材料層厚を、断片の厚み又はステージ又は材料及び/又はエネルギーの堆積用印刷ヘッドの正味の変位量とは異なる値とすることによって実施されるものである。この方法を使用することで、成形物の製造時間の短縮及び/又は印刷成形物の物理的特性の改善が図れ、印刷に好ましいこれらの結果は、印刷手順、原料特性、及び印刷中に使用される供給材料の特性に依拠する。
【背景技術】
【0002】
積層造形(Additive manufacturing, AM)は3Dプリンティングと呼ばれることが多く、成形物の連続層を互いに融着、結合、又は他の方法で付着させることによって、1つ以上の材料からなる3次元の固体又は多孔質の成形物を構築する手順として説明できる。AMにおける層を、3次元成形物の有限の厚みの断片の組み合わせとして、概念的に又はコンピューター若しくは図面に表すことがよくあり、ここで断片(slice)とはそれぞれ、成形物と、積層された有限厚みのユークリッド平面の組みの中の1つとの間の交差(intersection)とするのが最も一般的であり、また平面とは、成形物の組み立てにおいて選択された方向における法線ベクトルを有するものとして定義されるものである。断片は、平面以外の断面の異なる組み合わせによって定義することができるが、断面では、一般に、上記組み合わせによる成形物の全ての断面が指定された順序で結合されるとき、3次元成形物が再現されるという特性が保たれている。例として、非平面断片の組み合わせは、成形物と、半径方向に増加する多数の半球面(断面)との間の交差であってもよく、ここで各連続する断面間の曲率半径の増加は先の断面の半径方向の厚みに等しい。この場合、断片上の各点における肉盛の方向は、断面の球面中心から当該地点に至る方向(半径方向の外側方向)とすることができる。
【0003】
AM成形物の製造方式は、熱溶解積層(fused deposition modeling)、光造形(stereolithography)、選択的レーザー焼結(selective laser sintering)、結合剤噴射(binder jetting)、材料噴射(material jetting)、マルチジェットフュージョン(multi-jet fusion)、粉末床溶融結合(powder bed fusion)、指向性エネルギー堆積(directed energy deposition)、薄膜積層(laminated object manufacturing)など複数ある。これらの方法の各々において、特定の様式の印刷機が使用されるが、この印刷機とは、層を構築し、さらにこれらの層を連続的に融着(fuse)、結合(bond)、又は他の方法で互いに結着(attach)させることで3次元成形物を生成する機械又は機械からなるシステムである。一般に、印刷機及びその構成要素はコンピューターによって制御され、このコンピューターは印刷機のハードウェア構成要素に必要な命令を表す特定のデータをそのメモリに記憶しており、どのように3次元成形物の各断片を近似的に生成し、各断片によって作られる層を前の層及び次の層に融着、結合、又は他の方法で結着するかを決定する。これらの命令は(同じ又は異なる)コンピューターによって生成されることもあり、後者のコンピューターは、3次元成形物のデータに基づく幾何学的表現と、これらの幾何学的表現を断片に分割する(ソフトウェアによる)能力と、一以上の印刷機によって読み取り可能な命令を表すデータを生成する(ソフトウェアによる)能力とを有し、これにより、互いに連続する層を近似的に生成し、融合、結合、又は他の方法で付着させる。
【0004】
全体的に言って印刷機は多種多様な異なる材料から物体を製造することができ、その材料には例えば高分子、熱可塑性樹脂、金属、セラミック、ガラス、及びこれらのいずれかの組み合わせからなる複合材料が含まれる。しかしながら、各様式の印刷機は、一般に、より狭い範囲の材料から3次元物体を生成することを目的としている。例えば、光造形印刷機は一般に感光性高分子から物体を印刷するものであり、まず表面に感光性高分子の薄層を堆積し、次いで、その層における成形物の断片を代表する表面の領域をUV又は他の光に曝露することによって、その領域を硬化又は固化する。次いで積層及び露光の手順は少なくとも1回、一般的には複数回繰り返され、ここで堆積した各層は、堆積方向のあらゆる地点で成形物の高さを作り出しており、また露光された各連続する領域では、同じ3次元成形物中の連続する断片が近似形状を有している。一般に、図1に示すように、作製された成形物を構成する連続層は造形用台座(build platform)の上に置かれ、これがさらに精密ステージの上に置かれ、この精密ステージは、各堆積ステップ及び露光ステップの後に一定の距離だけ下げられ、この距離は各ステップで堆積された感光性高分子の層厚にほぼ等しいものとされる。
【0005】
一般的に印刷では、各層厚のおおよその平均は、以下のいずれかによって横断する距離の絶対値にほぼ等しく;a)光造形印刷で用いるステージ、又はb)場合によっては材料又はエネルギーの堆積ノズルが使用される場所、その距離は1つの断片又はその代表的な層n上の所与の点と連続する断片又は層n+1上の点との間の距離であり、1)n上の点を始点とて積層方向に向いたベクトルと、2)続く層n+1との重なりとして定義されるものである。各断片若しくは各層の全体、又は断片若しくは層上の各地点におけるこの厚みの近似は、一般に層厚(layer thickness)と呼ばれ;図1において、ステージを用いた印刷例では、層厚をLTとする。
【0006】
材料噴射の手順では、平坦な層を製造するために、通常、塗布装置(dispenser)が材料を堆積する場合、材料は懸濁液、スラリー、液体、ゲル、粉末、又は他の形態が多く、整列された隣接する経路上に行うが、直線が多く、また数多くのこれらの材料の軌跡によって覆われる領域の大まかな形状が成形物の断片を代表するようにする。材料噴射印刷機は、材料に加えてエネルギーも堆積させることがあり、また、一度に1つの軌跡又は多数の軌跡を付着することがあり、例えば、複数のノズルを使用することによって、異なる材料を異なるノズルで使用する。
【0007】
材料の軌跡(及び/又はエネルギー)を多数、隣接して堆積させるために使用される特定の手法であって、成形物の断片によって画定される大まかな形状を形成するものは一般に、その断片又は層のための走査方式と呼べる。層内の軌跡生成の順序は必ずしも手順にとって重要ではないが、通常、より速い手順は最も近くに隣接する軌跡を順次に形成することで行われ、これは、印刷ヘッドを移動させるか又は材料又はエネルギーを方向転換することで軌跡を生成する際に、この手法であれば各層に費やされる時間を最小化できるからである。堆積された材料は、一般に、材料又はエネルギーの堆積後、短時間で濃縮し又は固化し、その断片の大まかな形状となる。図2に示すように、堆積された軌跡の高さは層厚とほぼ等しく、その幅とほぼ一致する間隔が設けられ、隣接する軌跡経路間の間隔を平行線間隔(hatch spacing)と呼ぶことが多い。光造形手順と同様に、精密ステージを使用できるが、光造形とは対照的に、単一の又は複数のノズルを、その地点で層厚にほぼ等しい距離だけ積層方向に上昇させることにより、材料を堆積して連続する層を作れる。
【0008】
結合剤噴射手順はいくつかの点で材料噴射手順と類似しており、各層について、隣接する材料の軌跡が、その層を代表する3次元物体の断片のおおまかな形状にて堆積し、いくつかの走査方式のいずれかに従って行われる。しかしながら、結合剤噴射手順では、粉末材料の薄層が構築すべき領域の全体にわたって最初に堆積され、また隣接する経路に堆積される材料は、結合剤(binding agent)又は接着剤(glue)であり、これらが重合(cured)又は他の方法で固化されることで粉末粒子を互いに強固に保持する。連続層で製造される未成熟の成形物(green article)は、粉末粒子及び硬化した結合剤の両方からなる。
【0009】
粉末床溶融結合及びレーザー又は他の焼結手順は粉末堆積の点で結合剤噴射手順に類似しているが、これらの手順では、エネルギー源が粉末粒子を溶融又は焼結することで、溶融後に再凝固した物質又は部分的に溶融(焼結した)した粒子のいずれかから固体層が形成され、空間内で互いの剛性により大まかに固定される。図3aは、粉末床溶融結合及びレーザー焼結手順、ならびに他の印刷手順において一般的に使用される走査方式による2種類の層を示す。この場合、上述した他の手順の場合によく見られるように、走査経路は材料がそれに沿って堆積される1次元経路として定義されるか、又は軌跡を形成するためにエネルギー源が走査される方向として定義されるが、走査経路の方向は、層から層へ制御しつつ回転させることで製造した成形物に好ましい物理的特性を与えることができ、その中には例えば、弾性特性の等方性の増加、空隙率の低下、又は印刷の処理量の増加/印刷の費用の低下を含む。図3bは、図3aに示される走査経路に従って粉末床溶融結合の手順で印刷された単層における走査軌跡を平面視した画像である。図3cは、図3aに示される走査方式を使用して製造された成形物の断面の画像である。また経路を基礎とせず、光造形と同様の様式で模様を基礎とする粉末床溶融結合手順も存在する。これらの手順では、エネルギーの模様が構築表面の広い領域に投影されるのに対し、その領域上でラスタースキャンされる(rastered)又は走査されるエネルギーを伴う小さいスポットは投影されない。
【0010】
いくつかの過去の特許及び研究では走査方式について論じており、それらが印刷に有利であると主張されている理由は、成形物の物理的特性や、印刷の経済的な考慮事項及び/又は製造上の考慮事項を改善することである。例えば、1992年10月13日付けの米国特許第5,155,324号は、選択的なレーザー焼結の手順を説明しており、その中では、連続する層の上で、1つの層内で平行及び逆平行である走査線が、連続する各層において所定量の回転している。2009年8月4日付けの米国特許第7,569,174号は、選択的なレーザー焼結の手順を説明しており、それによって成形物の各層がより高いエネルギーで一度レーザーによって走査され、この時、その断片における成形物の平面断面の全体を覆うようにし、次いで、比較的低いエネルギーで少なくとももう1回走査される。この手順の目的は、成形物の各層をアニール又はさらに溶融することであり、100%に達する強度改善が報告されている。
【0011】
さらに、特定の模様での走査を使用して製造される組成物について論じている特許が多くある。組成物が走査時の模様に結び付けられることが多いのは部分(parts)を層ごとに、及び/又は軌跡ごとに構築する必要があるためである。例えば、成形物が、一方向にのみ(及び/又はその方向に対して逆平行にのみ)走査することによって生成される軌跡で製造される場合、厳密な規則性があるわけではないが、成形物の強度、延性、導電性、熱伝導性、及び他の特性がその方向においては増加するが、他の方向、特に走査方向に垂直な2つの方向に近い方向においては減少することが典型的である。成形物の弾性的特性、機械的特性、及び他の物理的特性におけるこの変化は、局所的な位相、結合、及び結晶構造に起因し、またこれらは走査の軌跡が細長いことや、層ごとの形成することによるラメラ性によってもたらされるものである。結晶粒の境界及び他の様式の化学的/微細構造的境界は走査の軌跡の端部に形成される傾向があり、これによりもたらされる弾性及び輸送の態様の実質的変化がこれらの境界の位置及び濃度の関数として表される。先行例では単一の方向に全ての軌跡を走査するが、走査方向(又はこれに対して逆平行の方向)に進行することによって軌跡の境界が交差することはなく、物理的特性が実質的に異方性を持つものとなる。
【0012】
また、角度だけでなく、連続する平面層内の走査線の相対的な位置も指定する特別な走査方式を論じている特許や研究論文も少ないながら存在する。この方法では、走査線が層の間に「差し込み(interleaved)」され、層n+1の走査線は、図4に示すように、回転することなく層nの走査線の中間点に配置される。米国特許第6,596,224号では、この方法を材料噴射又は熱溶解積層の手順に応用することを論じており、成形物の形状の上での頂部付近の約~10層にわたってこのような方法を使用することによって、成形物の表面の仕上がりを改善できることを述べている。米国特許第6,677,554号では、この方法を選択的なレーザー焼結の手順に応用することを論じており、全走査線の数、すなわち、全走査線の長さの合計を、この方法によって減らせることから、成形物の製造における処理量の向上をもたらし、さらに成形物の強度の向上を図れる可能性を述べている。論文誌の記事:X. Su and Y. Yang, Research on track overlapping during Selective Laser Melting of powders, Journal of Materials Processing Technology 212, pp. 2074-2079 (2012)、では、この方法を選択的レーザー溶融(粉体層融合)の手順に応用することで、投入されるエネルギーの分布が不均一になることを避けることを研究している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
定義:
【0014】
充填(packing)問題: 充填は、d次元ユークリッド空間又はd次元湾曲空間の小領域内の重なり合わない物体の構成(空間配置)である。ユークリッド空間における周期的充填(periodic packing)とは、基底と呼ばれるγ個の物体が、空間内で周期的に複製される体積vの単位セル内に含まれるものである。単位セルの形状と対称性は、「d」格子基底ベクトルb(基底物体と混同しないようにする)によって定まる。物体は凸型(円、楕円、球、楕円、円柱など)や凹型(例えばダビデの星、十字形、星形多面体、双曲線放物面)など、任意の形状をとれる。多分散充填(polydisperse packings)では、物体が異なる大きさ及び/又は形状を有する。二元充填(binary packings)は、それらが2つの異なる大きさ及び/又は形状を有する充填である。三元充填(ternary packings)は、それらが3つの異なる大きさ及び/又は形状を有する充填である。各物体は、その座標rによって立体配置が定義され、その位置と方向の両方が定まる;例として3次元では、この座標rは、物体の重心を表す3つの空間座標(x,y,z)と、物体の中心の周りの経度方向及び緯度方向の変位を表す2つの角度座標(θ,φ)とを含む。充填の基本的な特性は比質量偏差(packing fraction)であり、これは物体が占める空間の割合を表す。周期的充填(periodic packing)の比質量偏差(packing fraction)は、単位セル内のγ個の基底物体の総体積をvで割ったものである。効率的な充填(efficient packing)では比質量偏差(packing fraction)が高い。最高の充填(best packing)では、全ての充填の中で比質量偏差(packing fraction)が最高となる。
【0015】
被覆(covering)問題: 被覆は、重なり合う物体の立体配置であり、d次元ユークリッド空間又はd次元湾曲空間の小領域を完全に被覆しているものである。ユークリッド空間における周期的被覆(periodic covering)とは、基底と呼ばれるγ個の物体が空間内で周期的に複製される体積vの単位セル内に含まれることである。単位格子の形状と対称性はd個の格子基底ベクトルb(基底物体と混同しないようにする)で定まる。
物体は、凸型(円、楕円、球、楕円、円柱など)や凹型(例えばダビデの星、十字形、星形多面体、双曲線放物面)など、任意の形状をとれる。多分散被覆(polydisperse coverings)では、物体が異なる大きさ及び/又は形状を有する。二元被覆では、2つの異なる大きさ及び/又は形状を有する。三元被覆では、3つの異なる大きさ及び/又は形状を有する。各物体は、その座標rによって立体配置が定義され、その位置と方向の両方が定まる;例として、3次元では、この座標rは、物体の重心を表す3つの空間座標(x,y,z)と、物体の中心の周りの経度方向及び緯度方向の変位を表す2つの角度座標(θ,φ)とを含む。被覆の基本的な特性は被覆密度(covering density)であり、単位体積あたりの物体の総体積である。周期的被覆(periodic covering)の被覆密度は単位格子内のγ個の基底物体の全体積をvで割ったものである。効率的な被覆では被覆密度が低い。最高の被覆では全ての被覆の中で被覆密度が最も低くなる。
【0016】
軌跡の断面: 表面の交差(intersection)によって定まる形状の平均であり、最も単純に言えば平面であり、そして材料の単一の軌跡であり、そこでは軌跡の走査経路に沿ったさまざまな地点で交差(intersection)がとれることから、本明細書ではこれを軌跡の断面として定義する。最も簡単に言えば、軌跡断面(track cross section)は、軌跡と、その点における軌跡又は走査伝播の方向に平行な単位法線を有する平面との交差(intersection)によって形成され、平均形状(average shape)は、軌跡又は走査経路に沿った異なる点におけるこれらの複数の交差にわたって空間平均化することによって得られる。分かりやすくするために、このようにして形成された軌跡断面(track cross section)を経路―接線軌跡断面(path-tangent track cross sections)と呼ぶことにするが、軌跡―交差(track-intersecting)面とその方向の選択は軌跡断面を形成する上で必須ではないことに留意し、ただし、軌跡間の違いを識別したり、走査方式を設計したりする場合には、交差する面(intersecting-surface)と方向の選択を一貫させておくことが有用である。図5は、レーザー粉末床溶融結合印刷機による異なる経路―接線軌跡断面の画像をいくつか含み、ここで、軌跡断面の形状及び大きさの違いは印刷の設定値に依拠し、その中にレーザー出力及び走査速度も含まれるが、これらに限定されない。
【0017】
角度方向の固定された又はされていない1つ以上の軌跡断面を、被覆問題の解の基底系(basis set)として使用できる。3次元における1つ以上の実際の軌跡の幾何学的近似(最も単純なものは円柱である)についても同様である。さらに、より単純に言えば、1つ以上の同じ大きさの物体又は異なる大きさの物体から成る充填、最も単純に言えば(それらだけでないが)2次元の円板と3次元の円筒が2次元又は3次元の単位セル内でそれぞれ基底として機能するならば、軌跡断面を2次元で表したもの、又は軌跡を3次元で近似したものと考えることができ、走査方式の作成に使用される。このように、マッピングが軌跡断面、充填及び走査方式並びに軌跡断面、被覆問題の解及び走査方式として存在する。
【0018】
断片(slice)の厚み、層(layer)の厚み、材料(material)の厚み、及び正味の変位量(net displacement): 全般的に、断片の厚みと、材料層厚(粉末床を用いる印刷手順におけるエネルギー又は材料の堆積前の粉末層厚)と、各地点の又は断片若しくはその代表となる層ごとのステージ又は材料―(及びおそらくエネルギー)堆積用印刷ヘッドの正味の変位量の絶対値とはいずれも同じ概念として考えられており、層厚と呼ばれるものである。基本的には、断片の厚み、材料/粉体の厚み、及び正味の変位量は同じである必要はないが;特に、印刷で材料の厚みと正味の変位量とに異なる値を使用することで、後に詳しく説明するように、印刷された部分(part)の品質と印刷手順に良い利点がもたらされる。
【0019】
断片の厚み(slice thickness)という用語は、本明細書では、3次元成形物の断片の、その断片上の所定の点の近傍における断片の厚みを意味するために使用され、「断片」は前述の通りである。本明細書では設計に関連して断片という用語を使用する一方、成形物に関しては、一般に層という用語を用いる。この用途では、材料層厚と断片の厚みとは、平均でも特定の地点でも必ずしも同じではない。
【0020】
単層の材料層厚の平均又は層内の特定の地点の局所的な厚みは、実質的に変化を与えることができ、軌跡の最大高さから著しく変化させることもできる。図2において、軌跡高さは局所的に変化し、高さの変化は周期的に軌跡幅の位数(order)にて生じる;これはまた、図3b、3c、及び5に見られるように、粉末床溶融結合印刷の場合でも同様であり、全ての走査及び軌跡を基礎とする印刷手順、又は同様の印刷手順を対象としている。したがって、局所的な視点では、堆積される材料の層又は軌跡の厚みは、断片の厚みと同じではないし:多くの軌跡及び多くの層にわたって堆積された材料の厚みの平均のみが、ほぼ断片の厚みに等しい。この後半の記述は、物理的に成形物を製造する際に、設計上の長さが印刷機によって近似的に複製されるという仮定に基づいている。
【0021】
粉末床溶融結合印刷及び他の粉体に基づく印刷手順においては、断片及び層厚の概念の相違もまた、堆積された粉体層厚の局所的な変動に起因し、粒子の大きさ及び形状の分布に応じて、ごく少量の粉体の粒径の位数(order)によって横方向(laterally)に変化し、また、粉末床溶融結合では、成形物をほぼ完全な密度にするために、予め溶融した層を再溶融することにより、軌跡深さが断片の厚みよりもはるかに大きくなる傾向があるという事実に基づいている。また、本明細書で説明するように、材料厚み又は粉末厚みは、(結合(binding)、融着、溶融、焼結やその他の印刷工程を行う前の)点の近傍に堆積する材料の厚みの平均として単に定まるが、層厚の平均又は断片の厚みと同じである必要はない。これは軌跡の幾何構造の観点からの重要な考慮事項であり、したがって軌跡の断面形状の観点からも重要な考慮事項であるが、その理由は材料の厚みを変えると軌跡と軌跡の断面形状が変わることにある。
【0022】
通常、材料の厚みを、堆積材料の層にわたってほぼ一定とする。それにもかかわらず、堆積した層厚が、材料特性及び印刷機の設定値に左右されるが、例えば、粉体シャトル(powder shuttle)を使用して粉体を付着させ又は散布する場合、粉体シャトル上のブレード、ワイパー、ローラー、又はその他の散布器具と造形する実品の高さとの間の距離は粉体の厚みに強い影響を及ぼす。この後者の距離は多くの場合ステージによって制御されるが、印刷工程中に、層が成形物の造形方向又はその逆方向に数回移動することがある。層を印刷する過程における、このステージの正味の動きは、正味の変位量の一例である。粉体ベッド(powder bed)及びステージを利用する印刷手順の場合、所定の点における正味の変位量は、その点における断片の厚みに最も類似している。重要なことは、粉末はステージの任意の変位量で堆積されるので、粉末の厚み及び正味の変位量は個々に制御できることであり、これは、正味の変位量(断片の厚み)及び粉末の厚みが同じである必要がないことを意味する。図6は、この概念の一例であり、断片の厚み及び正味の変位量は図示された断片にわたって一定であり、正味の変位量50μmに対して粉末厚み35μmとした(また断片の厚み50μm)とした。
【0023】
材料(若しくは粉末)の厚み及び断片の厚みは、印刷ヘッドがあってもステージがないAMの手順、又はステージと印刷ヘッドの両方を有するAMの手順についても変化し得る;断片上のある点の近傍に堆積される材料の厚みの平均は、その点における印刷ヘッドの正味の変位量と同じである必要はない。一例において、位置x=0からx=Lまでの断片にわたって一定である断片の厚みは、層nに対して使用でき、堆積した材料の厚みの平均は、その距離にわたって直線的に変化し、x=0で堆積される材料の最小の厚みから数ミクロンまで、及びx=Lで堆積される材料の最大の材料の厚みから数ミクロンまである。
【0024】
充填の方式、輪郭の走査、支持構造、印刷の格子(print lattices)及びその他:経路、走査及び軌跡による手順を使用する印刷機及び印刷では、成形物の構造的に異なる領域ごとに印刷の設定値を変えることができ、これは成形物の大きさに応じて定められる。重要なのは、異なる印刷の設定値を単一の層内で使用することで、以下を含む走査方式の一式を用いることができるのに対して;充填の方式、輪郭の走査、支持構造、印刷の格子(print lattices)及びその他;異なる印刷の設定値は同じ方式の中では使用されないが、(より小さな)走査の軌跡の尺度で定まる周期的な、交互の、又は他の様式ではなく、(より大きな)目標とする成形物の幾何構造によって定まる成形物の領域にわたって異なる方式を使用することである。
【0025】
輪郭の走査は、その他の理由もあるが特に以下の目的で部分(parts)の表面に使用されて:部分の表面の仕上がりを改善する、製作された成形物と製造すべき成形物の設計、図面、又はコンピューター上のデータとがより幾何学的に整合するようにする、又は成形物の表面の空隙率を低減する。輪郭の走査の軌跡を複数横に並べて配置できるが、このように軌跡が横に並ぶ時の個数は、通常、1個、2個、又は3個に制限される。
【0026】
支持構造を使用することにはその他の理由もあるが、これにより成形物の反りを防止し、印刷物中の熱的に隔離された領域から熱を伝導で逃がし、成形物を造形用台座に保持する。走査の間の印刷されない空間に、支持構造を等間隔に行う単一の走査で形成することはよくあり、これにより1つながりに連結された薄い壁、細い突起(spikes)又は細い柱が形成される。しかしながら、支持構造には成形物完成の際にその一部とする意図はなく、大抵は切り取られ、溶解され、又は印刷後に除去される。
【0027】
印刷の格子(print lattices)は、上で定義した格子の数学的概念とは異なり、単一の3次元単位、又は空間のボクセルからなる足場状の構造であって印刷のされた材料と印刷のされていない材料の両方を含み、多数のボクセルにわたった空間の領域を覆うために何度も複製されるものである。印刷の格子(print lattices)は筋交い(strut)及び結節点(node)の構造を表しており、印刷の材料の筋交い(strut)が様々な方向に延びる結節点(node)からなり、他の結節点(node)で他の筋交い(strut)と接続する。これらは支持構造のように単一の走査によって生成できるし、又は各筋交い(strut)を、隣接して重なり合う又はほぼ重なり合う複数の軌跡によって形成できる。
【0028】
充填の方式は、空間を満たすように設計されるものであり、また固形の領域を生成するに際して、空隙率を非常に小さくするか、又は空隙の大きさが概ね平行線間隔と同等か又はそれより小さくなる確率論的な空隙率を有するものとする点で従来の方式とは異なる。充填の方式の例をいくつか図3aと4とに示す。充填の方式はまた、印刷の格子(print lattices)の筋交い(strut)及び結節点(node)を充填するに際して、これらの筋交い(strut)が単一の軌跡によって形成されないものとすることができる。なお充填の方式と輪郭の走査との間の区別は曖昧なものであり、印刷された成形物の表面の近くでより多数の輪郭の走査が行われる時にそうなる。また、充填の方式のいくつか及び他の方式はスキン(skins)と呼ばれるか、又は他の用語と呼ばており、このような充填の方式の横方向の範囲が、それらの厚みよりも有意に大きいことを意味する。
【0029】
本件発明の概要:
【0030】
本発明は、積層造形の走査の方式、及び関連する方法、体系、及び組成物、並びに印刷中に堆積する材料層厚をステージ又は材料の及び/若しくはエネルギーの堆積用の印刷ヘッド(material and/or energy-depositing print head)の正味の変位量とは異なるものとする、並びに/又は成形物の断片の厚みとは異なるものとするための方法並びに体系である。本発明が有用な用途には:1) 熱溶解積層、2) 材料噴射、3) 結合剤噴射、4) 粉末床溶融結合、5) 選択的レーザー焼結、6) マルチジェットフュージョン、7) 指向性エネルギー堆積、8) 直接金属堆積(direct metal deposition)、9) 電子ビーム積層造形(Electron beam additive manufacturing)、10) アークプラズマ焼結積層造形(arc plasma sintering additive manufacturing)、及び走査経路及び軌跡を使用するものと全般的に考えられる他の積層造形方法であって、その中でより広い領域にわたって材料又はエネルギーの堆積の模様の表面高さが1つながりの軌跡によって現れるものと同様に周期的に変動するものが含まれるがこれらに限定されない。以下では、軌跡、軌跡の断面、走査の方式、及び走査の経路に関する議論には、積層造形方法、体系、及び組成であって走査の経路及び軌跡を使用するもの、並びにより広い領域にわたる材料又はエネルギーの堆積の模様の表面が1つながりの軌跡によって現れるものと同様に変化するもののいずれをも含む。
【0031】
一態様において、本発明は、積層造形された組成物を意図しており、その軌跡の幾何構造又は軌跡の断面の幾何構造は、印刷された層の領域内の全て又はほぼ全ての走査の軌跡と実質的に類似しているが、先行する又は後続する層の隣接する領域内の全て又はほぼ全ての軌跡とは異なっている。一態様において、本発明は積層造形された組成物を意図しており、1つの層、複数の層、又はそれらの部分(portion)を製造する際に軌跡若しくは軌跡断面の形状が2種類以上又は大きさが2種類以上使用され、係る軌跡又は軌跡断面の外形は、1つの層、複数の層、又はそれらの部分(portion)のそれぞれの中で対等でありながら異なるものとなっている(are targeted to differ in coordinated fashion)。一態様において、本発明は積層造形された組成物を意図しており、その中で成形物の領域内の複数の異なる形状又は大きさからなる軌跡又は軌跡断面の外形が、結晶学的な点の模様に沿った位置で特定され、これらの軌跡がこのような模様の単位セルを覆っているためセル内の非印刷領域の大きさが最大の軌跡(又はその断面)より大きくならないようにされており、さらに2つの隣接するセルからなる部分が領域内の各層の一部に少なくとも存在する。
【0032】
一態様において、本発明は積層造形された組成物を意図しており、その中で複数の異なる大きさ及び/又は形状の軌跡又は軌跡断面が、2次元(軌跡断面用)又は3次元(軌跡用)の被覆問題(covering problem)に対する解として使用され、係る解における軌跡又は軌跡断面の外形が、多層走査方式における1つ以上連続する層の一部又は全部を含む領域にわたる走査経路の相対位置を規定するために使用される。
【0033】
一態様において、この「発明の概要」の章の第2段落及び第3段落で説明した走査の軌跡であって2つ以上の連続する層の部分を含む領域内にあるものはその全て又はほぼ全てが平行又は逆平行である。一態様において、本章の第2段落及び第3段落で説明した走査の軌跡は、所定の層の領域内にあり、全て又はほぼ全てが、前の層の隣接する領域内の走査の軌跡に対して特定の角度だけ回転している。一態様において、本章の第2段落及び第3段落で説明した走査の軌跡は所定の層の領域内において前の層の隣接する領域内の軌跡に対してその全て又はほぼ全てが平行又は逆平行であるが、連続する層の隣接する領域内の軌跡は特定の角度で回転している。一態様において、本章の第2段落及び第3段落で説明した走査の軌跡は時間順に順序付けられており、成形物の領域内に部分的又は全体的に含まれる各層において、隣接する軌跡又は隣接しない軌跡のいずれもが連続的に印刷される。
【0034】
一態様において、本発明は走査の方式を設計する方法を意図しており、その中で軌跡の幾何構造又は軌跡の断面の幾何構造を、印刷された層の領域内の全て又はほぼ全ての走査の軌跡について実質的に類似させるが、先行する又は後続する層の隣接する領域内の全て又はほぼ全ての軌跡とは異なるものとする。一態様において、本発明は軌跡若しくは軌跡断面の形状を2種類以上又は大きさを2種類以上使用する走査の方式を設計する方法を意図しており、その中で係る軌跡又は軌跡断面の外形は、すでに印刷された層の領域内の走査の軌跡に対して対等でありながら異なるものとされる(are targeted to differ in coordinated fashion)。一態様において、本発明は走査の方式を設計する方法を意図しており、その中で成形物の領域内の複数の異なる形状又は大きさからなる軌跡又は軌跡断面の外形が、結晶学的な点の模様に沿った位置で特定され、これらの軌跡がこのような模様の単位セルを覆っているためセル内の非印刷領域の大きさが最大の軌跡(又はその断面)より大きくならないようにされ、さらに2つの隣接するセルからなる部分が領域内の各層の一部に少なくとも存在するようにされる。
【0035】
一態様において、本発明は走査の方式を設計する方法を意図しており、その中で複数の異なる大きさ及び/又は形状の軌跡又は軌跡断面が、2次元(軌跡断面用)又は3次元(軌跡用)の被覆問題(covering problem)に対する解として使用され、係る解における軌跡又は軌跡断面の外形が、多層走査方式における1つ以上連続する層の一部又は全部を含む領域にわたる走査経路の相対位置を規定するために使用される。
【0036】
一態様において、この「発明の概要」の章の第5段落及び第6段落で説明した走査の軌跡であって2つ以上の連続する層の部分を含む領域内にあるものはその全て又はほぼ全てが平行又は逆平行である。一態様において、本章の第5段落及び第6段落で説明した走査の軌跡は、所定の層の領域内にあり、全て又はほぼ全てが、前の層の隣接する領域内の走査の軌跡に対して特定の角度だけ回転している。一態様において、本章の第5段落及び第6段落で説明した走査の軌跡は所定の層の領域内において前の層の隣接する領域内の軌跡に対してその全て又はほぼ全てが平行又は逆平行であるが、連続する層の隣接する領域内の軌跡は特定の角度で回転している。一態様において、本章の第5段落及び第6段落で説明した走査の軌跡には順序があり、成形物の領域内に部分的又は全体的に含まれる各層において、隣接する軌跡又は隣接しない軌跡のいずれもが順を追って印刷される。
【0037】
一態様において、本発明は積層造形方法を意図しており、その中で成形物の領域内の各層の断片の厚み又は正味の変位量を変化させることで領域内の軌跡(及び/又は断面の軌跡)の幾何学的な形状及び/又は面積の平均を変化させる。一態様において、成形物の領域内の層の材料の厚みは、断片の厚み又は正味の変位量と異なっており(より大きくもなり、また小さくもなる)が、領域内に含まれる各層の部分の断片の厚み又は正味の変位量は領域内の他の層のものと同じであってもよくまた異なっていてもよい。一態様において、本段落でこれまでに述べた態様の成形物の領域内の1つの層又は複数の層に堆積された材料の厚みを、係る領域内の係る1つの層又は複数の層の係る部分の断片の厚み又は正味の変位量とは異なるものとする(より大きくもなり、また小さくもなる)が、これはその領域によって取り囲まれた係る1つの層又は複数の層の係る部分の中で走査の軌跡の幾何学的な形状及び/又は大きさの平均を変化させる方法によるものである。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】(a)は、従来の光造形装置(stereolithography apparatus)の概略図であり、標準的な積層及び露光手順を示している。一例として、造形用台座は、光重合性高分子に浸漬するように(within a bath of photocurable polymer)配置された精密ステージ上に取り付けられる。造形用台座は、造形されるべき層厚(layer thickness,LT)に等しい未重合の高分子の薄層が、その表面上に堆積され、続いて材料を選択的に硬化又は固化させるために成形物(article)の断片を代表する領域内のエネルギー源に暴露するように配置する。
【0039】
(b)は、光造形装置の造形用台座の概略図であり、図1aに示すように、未重合の高分子の新しい層を生成するために同様の間隔(LT)で下げられている。本図及び図1a内に示されているこの露光及び層形成手順が繰り返され、ここでは各々露光された領域と堆積した層との連続により各点で積層方向(build-up direction)に成形物に高さが与えられており、これらは同じ3次元成形物の連続する断片に近似する形状となっている。
【0040】
図2】材料噴射による成形物の平面層の堆積の説明図である。1つ又は複数のノズルが、平行線間隔(hatch spacing)hと呼ぶ周期的な間隔で離間するよう調整された隣接経路に沿って材料を堆積させる。堆積した材料は、平行線間隔(hatch spacing)と一致する幅及び断片化された成形物の層厚(LT)とほぼ等しい高さを有する軌跡を形成しており、軌跡の領域の大まかな形状が成形物の断片を表すものとなっている。同じ3次元成形物の連続的な断片の材料はこれらの走査経路の組み合わせによって堆積させることができ、当該個所での層厚にほぼ等しい分だけ積層方向において間隔を相殺しつつ、精密ステージ又は分配ノズルの動作によって行う。
【0041】
図3】(a)は、粉末床溶融結合及びレーザー焼結の手順において全般的に使用されるエネルギー堆積の走査方式を示す概略図である。この例では、走査方式は、成形物の断片の横方向断面を表す単一の輪郭経路と、平行線間隔(hatch spacing)hによって分離された多数の平行な隣接経路とから構成され、粉末を固結する時に成形物の断片の隣接領域に達する(又は断片を満たす)。エネルギー源を所定の経路で走査することで粉末粒子を溶融又は焼結し、その後再固化することで固体層を形成する。走査方式は層間で同一であったり、類似していたりする必要はなく ― 増加を伴う回転又は移動が走査経路に対して行われる。一例として、成形物の連続する断片を表す層nと層n+1との間で、充填経路は、角度θnからθn+1までの一定の角度増加によって制御される形で回転する。
【0042】
(b)は、粉末床溶融結合によって製造された鋼の走査の軌跡の単層の頂部の光学顕微鏡写真であり、図3aに示したものと同様の走査方式によるものである。I. Yadroitsev, P. Krakhmalev, and I. Yadroitsava, Hierarchical design principles of selective laser meting for high quality metallic objects, Additive Manufacturing 7, pp. 45-56, 2015より転載。
【0043】
(c)は、粉末床溶融結合によって製造された多層成形物のエッチングされた垂直断面の光学顕微鏡写真であり、図3aに示したものと同様の走査方式によるものである。走査の軌跡に沿った再固化粉末の断面は複雑な層状構造と等方性を示しており、これは層間での走査経路の回転を制御することで得られるものである。I. Yadroitsev, P. Krakhmalev, and I. Yadroitsava, Hierarchical design principles of selective laser meting for high quality metallic objects, Additive Manufacturing 7, pp. 45-56, 2015より転載。
【0044】
図4図3aに示す走査方式の具体的な実施態様を表す概略図である。この方法では、所定の層内において、また連続する層との関係において走査経路の位置を定義することで「差し込み(interleaved)」の模様を成すようにする。例えば、層nにおいて、多数の隣接する平行な走査線が平行線間隔(hatch spacing)hによって分離されており、成形物の断面を網掛けで示している。連続する平坦な層、層n+1における塗りつぶした走査線も同様に、平行線間隔(hatch spacing)hで分離されるが、平行線間隔(hatch spacing)の半分に等しい距離だけ先の層に対して横方向に平行移動し、層n+1の走査線を層nにおける走査線の中間点に配置する。
【0045】
図5】(a)は、レーザー出力50 W及びレーザー走査速度60 mm/sでのレーザー出力による床溶融結合によって印刷されたステンレス鋼の走査線の経路―接線軌跡断面(path-tangent track cross section)の画像である。I. Yadroitsev, A. Gusarov, I. Yadroitsava, and I. Smurov, Single track formation in selective laser melting of metal powders, J. Mater. Process. Technol. 210, pp. 1624-1631, 2010より転載。
【0046】
(b)は、レーザー出力50 W及びレーザー走査速度120 mm/sでのレーザー出力による床溶融結合によって印刷されたステンレス鋼の走査線の経路―接線軌跡断面(path-tangent track cross section)の画像である。図5aと比較して、走査速度の増加による断面の形状及び寸法の変化は注目に値する。I. Yadroitsev, A. Gusarov, I. Yadroitsava, and I. Smurov, Single track formation in selective laser melting of metal powders, J. Mater. Process. Technol. 210, pp. 1624-1631, 2010より転載。
【0047】
(c)は、レーザー出力300 W及びレーザー走査速度800 mm/sでのレーザー出力による床溶融結合によって印刷されたステンレス鋼の走査線の経路―接線軌跡断面(path-tangent track cross section)の画像である。断面の形状は、図5a及び図5bに比べて細長い。C. Kamath, B. El-dasher, G. F. Gallegos, and W. E. King, and A. Sisto, Density of additively-manufactured, 316L SS parts using laser powder-bed fusion at powers up to 400W, Int. J. of Adv. Manuf. Technol. 74, pp. 65-78, 2014より転載。
【0048】
(d)は、レーザー出力300 W及びレーザー走査速度1500 mm/sでのレーザー出力による床溶融結合によって印刷されたステンレス鋼の走査線の経路―接線軌跡断面(path-tangent track cross section)の画像である。図5a~5cとの比較から分かるように、再固化された材料の断面の形状及び寸法を表すものには円形度、接触角、幅、材料の蓄積量、及び深さが含まれるもの、これらに限定されず、レーザー出力及び走査速度を含む印刷の限定要素(printing parameters)に依拠する。C. Kamath, B. El-dasher, G. F. Gallegos, and W. E. King, and A. Sisto, Density of additively-manufactured, 316L SS parts using laser powder-bed fusion at powers up to 400W, Int. J. of Adv. Manuf. Technol. 74, pp. 65-78, 2014より転載。
【0049】
図6】(a)は、粉末を用いた手順の一例の概略図であり、成形物のAMの手順に使用される材料の厚み(MT)を画定するものである。造形用台座を精密ステージによって35μm下げることで粉体の床に隙間を形成し、別の供給源からの粉体をローラーで隙間に充填する。材料の厚みは35μmとして定義する。
【0050】
(b)は、粉末を用いたAMの手順における造形用台座の動作の概略図であり、図6aで説明した粉末を堆積させた直後のものである。粉末を固結する前の造形用台座をさらに変位させることで、材料の厚み(MT)に対して、より大きい、これと等しい、又はより小さい正味の変位量(ND)が規定される。
【0051】
(c)は、粉末を用いた手順の概略図であり、正味の変位量(ND)及び材料(粉末)の厚み(MT)を独立して調整し、異なるものとできるが、必ずしもそうである必要はない。粉末の固結前の全工程が結合する際の精密ステージの正味の動きである、図6a及び図6bは正味の変位量の合計を規定しており、この場合、50μmであり、一方、材料の厚みは、図6aに示す積層手順によって規定されるように、35μmである。
【0052】
図7】(a)は、2種の円(binary disks)の密充填(dense packing)の単位セルであり、ここから複数設定値型走査方式を導くことができる。
【0053】
(b)は、3つの異なる大きさ及び形状の物体に対する被覆問題の解であり、固定された角度方向を有し、単位セル当たり2:1:1の比で、2つの大きい物体及び1つずつの小さな2つの物体(互いの鏡像)がある。この場合、物体の幾何構造は、レーザー焼結、粉末床溶融結合、又は同様の手順において、AM軌跡幾何構造設定値(AM track geometry parameters){Pi}1及び{Pi}2の2つの別個の集合から生成された軌跡に対して、経路―接線軌跡断面(path-tangent track cross sections)を表すものであるが、この被覆問題の解は、任意の積層造形のための走査又は軌跡を用いた手順、又は軌跡若しくは走査を用いた手順において生成されたものと同様の表面の模様を生成する積層造形手順に適用できる。符号1、2、及び3は、積層のための時系列的な順序付けを表すものであり、このような順序付けは、解に固有のものではなく、むしろ後付けしたものである。鏡合わせとなる小さな物体が使用されているのは幾何構造の微妙な違いを反映するためであり、これは表面において非対称に高さが変化する位置に軌跡を印刷することによって生じるものである(この場合、先に印刷された走査の軌跡の上部の中心がずれている)。
【0054】
(c)は、既に印刷された層、図7bに示す層1の上に堆積した粉末又は他の材料を横断面視した層を示すものであり、既に印刷された層中の塗りつぶされた点は図の平面に対して垂直な方向に走査する時の走査経路を表す。
【0055】
(d)は、印刷層2が取り得る結果を示す図であり、図7bに示すように、走査経路が層1内の走査経路と平行又は逆平行である。残存する未固結の粉末又は他の材料の図示は焼結材料が存在する可能性を示している。図示された経路―接線軌跡断面(path-tangent track cross sections)は、層1の経路に対する平行又は逆平行の走査方向を示しているが、層2の経路は、層1の経路から特定の(又は任意の)角度に、又は走査の進行に伴って層1の経路に対する角度が変化する輪郭に沿って向けることができる。
【0056】
図8】単一軌跡走査方式によって印刷された部分の経路―接線軌跡断面(path-tangent track cross section)であり、材料噴射によって印刷された熱可塑性材料(ポリ乳酸)の層の繰り返しからなり、図Gbについて説明したような基本的な走査経路を用いたものである。各軌跡を形成するために、ノズル走査速度1800 mm/mであり、押出比が0.35であることを除いて、図12で説明したものと同じ設定を使用した。この部分の作成に使用される設定は、Prusa i3の既定の設定であり、これらの設定は、部分の機械的な破損、表面の粗さ、及び幾何構造の変形を最小限にすると同時に、空隙率を最小限にするように最適化されている。この部分の空隙率の測定値は8%であった。
【0057】
図9】熱可塑性高分子の材料噴射によって印刷された部分の断面図であり、図8と同じ走査方式を使用しているが、押出体積比の設定は0.52であり、これは図10に示す部分に使用される平均押出体積比設定に等しい。本例では、余分な材料が押し出され、印刷機は部分全体を作成できなかった。これは、押し出した材料の量が多すぎたため(過剰な重なりが生じたため)、表面の仕上がりや幾何構造の精度が非常に悪く、部分全体の空隙率が変化し、当該部分の端部から離れるにつれて空隙率が高くなったためである。部分の端部から離れた部分の空隙率の平均値は7%である。この部分に使用された0.52という平均押出体積比は図8に示す部分の0.35に対してはるかに大きいにも関わらず、より高い平均押出体積比設定を有するノズルでの圧力の増加のために、印刷された部分の単位体積当たり押し出され材料の増加は約1%だけであったことが特筆される。
【0058】
図10図16に示す被覆問題の解に基づく軌跡2個の幾何構造型の走査方式を使用する熱可塑性高分子の材料噴射によって印刷された部分の断面図である。図8で説明したものと同じ設定を使用して軌跡を形成したが、大きな軌跡の押出体積比が0.69、小さな軌跡の押出体積比が0.34であった。この部分の空隙率の測定値は0.2 %であった。図8に示す部分に対して用いられた手法と比較して、この軌跡2個の手法では空隙率がかなり減少することが明らかになった。図8に示す部分の0.35に対して、この部分には0.52というはるかに大きい平均押出体積比を使用したにもかかわらず、平均押出体積比がより高いノズルではその圧力の増加のために、押し出された材料の増加が約8.4%だけであったことが特筆される。
【0059】
図11】熱可塑性高分子の材料噴射によって印刷された部分の断面図であり、図26に示す軌跡2個の幾何構造型の走査方式に関するものと同一の基本的な走査経路を使用し、図10に示すものと同一の設定を使用して小さな軌跡及び大きな軌跡を形成する。この部分の空隙率の測定値は2.3 %であった。図8に示す部分に対して用いられた手法と比較して、この2つの軌跡手法でかなりの空隙率減少が得られることは明らかである。図8に示す部分の0.35に対して、この部分では0.47というはるかに大きい平均容積押出比を使用したにもかかわらず、平均押出容積比がより高いノズルではその圧力の増加のために、押し出された材料の増加が約6.4%だけであったことが特筆される。
【0060】
図12図16に詳細を説明する被覆問題の解に基づいて、材料噴射によって印刷された熱可塑性材料(ポリ乳酸)の層の繰り返しからなる走査方式によって印刷された部分の経路―接線の軌跡の断面図である。本図では、走査の軌跡の幾何構造の違いを示すために印刷機の設定を選んでおり、当該部分の空隙率やその他の考慮事項を最適化はしていない。1つの層内では、相異なる走査方式によって、軌跡幅が入れ替わる軌跡断面が得られる。この場合、熱溶融積層の材料噴射型印刷機Prusa i3のノズル直径は400μmであり、印刷設定値は平行線間隔(hatch spacing)及び層厚が200μm、ノズル走査速度900 mm/分、及び押出機温度190 ℃であり、小さな幅の軌跡は押出体積比0.195で印刷され、大きな幅の軌跡は、押出体積比0.39で印刷される。この部分の印刷中、印刷されつつある小さな軌跡は、最も新しく印刷された隣接する大きな軌跡に付着する傾向がありため、画像内で観察される1つの小さな軌跡と1つの大きな軌跡からなる2つの軌跡のグループは空間的に分離される。
【0061】
図13】被覆問題の解によって任意の幾何学的空間を被覆するために、層内で、また層を横断して複製された単位セルの説明図である。図に示すように、個々の単位セルから軌跡を省略することで、被覆すべき空間全体により適合させることができる。
【0062】
図14】(a)は、相異なるAM軌跡幾何構造設定値の複数の対象を使用する走査方式から導かれる被覆問題に走査の軌跡を適合させるために、個々の単位セル内の走査の軌跡を除去することによって、対象の境界に適合するように調整する方法の説明図である。画像は、その断面における被覆問題から導かれる方式の走査経路に対する経路―接線である法線ベクトルを有する断面を表す;しかし、そのような断面は、どの層においても、その成形物の境界の接線や、その境界に近い輪郭の接線を構成する経路というわけではない。一般に、被覆問題の解から導かれる軌跡は、互いに直線又は平行である必要はなく、また相異なる層を横断する輪郭である必要もない。
【0063】
(b)は、被覆問題から導かれた走査方式を用いて設計された成形物の境界における、いくつかの層にわたる輪郭線軌跡(軌跡断面によって表されている)の追加を示す図である。本図では、境界における輪郭線軌跡断面は1層分の厚みであるが、複数の層の分であってもよく、又は複数のAM軌跡幾何構造設定値を使用する追加的な被覆問題より導かれる走査方式からなるものでもよい。さらに、輪郭線軌跡断面を経路―接線断面として描くことで簡単に表しているが、当該輪郭線は、被覆問題から導かれる走査方式の軌跡に対して、当該成形物の任意の断面に対して異なる方向又は角度で移動し得る。図14aに関連して、輪郭を被覆問題から導かれる走査方式に適合させるための単純な手順を図示するために、物体の境界付近の被覆問題から導かれる走査方式の1つの軌跡を除去していることに留意する。
【0064】
図15図7に示した被覆問題から導かれる走査方式と同じものに対する走査輪郭及び各層の相対位置の選択の説明図である。この図では、図7bに示す単位セルを再定義することで、より多くの対象を含めており、層の正味の変位量が一定である体系における層形成の手法を単純化している。単位セルを基準とする新しいベクトル(b1, b2)を断片の厚みの単位で記述すると(3.18, 0.0)及び(0.0, 4.0)であり、本例ではx軸が右向き、z軸が上向きのユークリッド座標系に対して一定である。同じ単位と座標において、大きな軌跡の幅(X軸)は1.84、その全体の高さ(Z軸)は1.79である。小さな軌跡の幅は1.28、高さは1.31である。この走査方式では、各断片の正味の変位量は一定である(ただし、各断片の材料の厚みはここでは指定していない)。より大きな走査の軌跡の間のx軸方向の間隔は1.59であり、より小さな走査の軌跡の間のx軸方向の間隔は1.08及び2.05である。本図から、同じ被覆方式による解に対して異なる単位セルを定義できることがわかる;しかしながら、この特定解では基底が4より小さな単位セル(2つの大きな軌跡の断面、互いに鏡像となっている小さな軌跡の断面が1個ずつのもの)は定義できない。
【0065】
図16】単位セルを有する被覆問題の解から導かれる方式の経路―接線断面図であり、粉末床溶融結合、レーザー焼結、又は結合剤噴射の手順を使用する異なるAM軌跡幾何構造設定値から生成された2つの異なる対象を含むものである。この被覆の解は2つの軌跡のみからなり、単位セルが取り得る最小の基準単位セルである。基準となるベクトル(b1,b2)を断片の厚みの単位で記述すると(1.98,0.0)及び(1.0,1.0)で一定であり、同じ単位において、大きな軌跡の幅1.46及び高さ1.73、並びに小さな軌跡の幅及び高さ1.00である。この図では、X軸方向は右向きであり、Z軸方向は上向きである。軌跡間の走査間隔は0.96でありため、大きな軌跡の間の間隔が1.92、小さな軌跡の間の間隔が1.92となる。軌跡の3つの層を示しており、これらの軌跡は断面において全て平行である。しかしながら、各層に印刷される走査の軌跡の表面の高さを少しずつ変化させるために、軌跡を各層ごと、2層ごと、又はn層ごとに回転させるのが望ましいことに留意する。
【0066】
図17】(a)は、図16に示す被覆問題の解の単位セル(covering problem solution unit cell)を使用する走査方式の平面図である。層nは、異なるAM軌跡幾何構造設定値を交互に使用する線形走査経路からなる。隣接する走査の軌跡は、必ずしも時間順に印刷される必要はない。
【0067】
(b)は、図16に示す被覆問題の解の単位セル(covering problem solution unit cell)を使用する走査方式の平面図であり、連続する層の間で回転が生じている。層n+1は、図17aに示すように、その前の層nと同様に走査経路及びAM軌跡幾何構造設定値からなり、層nに対してz軸を中心に面内で回転している。
【0068】
図18】(a)は、層nの平面図であり、図16に示す被覆問題の解の単位セル(covering problem solution unit cell)における円状走査方式(circular scan strategy)である。交互になっているAM軌跡の幾何構造の設計値の組の走査経路は、表示される点に対して円形対称である。
【0069】
(b)は、図18aに示す層nに連続する層n+1の平面図であり、図16に示す被覆問題の解の単位セル(covering problem solution unit cell)における円状走査方式(circular scan strategy)ある。連続する層n+1は、前の層nに重なる走査経路からなるが、AM軌跡の幾何構造の設計値と交互になっている。走査経路は、表示される点に関して円対称であり、前の層nにおける対称点とともに円筒座標系の経度方向軸を構成している。
【0070】
(c)は、図18a及び図18bにそれぞれ示す層n+1及び層nに対して連続する層n+2の平面図であり、図16に示す被覆問題の解の単位セル(covering problem solution unit cell)における円状走査方式(circular scan strategy)である。走査経路は、前の層n及びn+1に対して円筒対称であり、AM軌跡の幾何構造の設計値が層nと一致し、層n+1に対しては交互になっている。
【0071】
(d)は、3つの連続する層(図18a-cに示すn層、n+1層、n+2層)の経路―接線断面図であり、図18cに示す断面線に沿ったものであり、円筒座標系の経度方向軸を中心とした単位セルの回転を通じた、図16に示す被覆問題の解の適用を示している。しかしながら、走査経路は経度方向軸に関して円形対称である必要はなく、対称点は層間で平行移動可能となっているので、各層に印刷された走査の軌跡の表面の高さがやや変化することが望ましいことに留意する。さらに、走査経路は、経路がほぼ平行であれば、任意の輪郭に沿って描くことができる。
【0072】
図19】2層ごとに約90度の回転を伴う走査方式における走査の軌跡の図であり、図7bに示す被覆問題の解から導かれるものである。図に示す回転角度は約90度であるが、所望の印刷成形物の特性に適するように、又は所定の空隙率における処理量を改善するように、又は他の理由に基づき設定できる。さらに、回転は2つの層ごとに行う必要はなく、全ての層ごとに又はn層ごとに行ってもよい。さらに各層内で軌跡は直線である必要はなく、この図では説明を簡単にするためにそのように示されているだけであり、層の表面に沿って任意の方向に対して平行な経路で構成されてもよい。
【0073】
図20】(a)は、図7に示す被覆問題の解に基づき単位セル上で実行される拡大縮小を示し、それによって、この拡大縮小(及び他の作業)により走査経路の制御がある程度可能になるため、成形物の空隙率に関して例として測定された印刷成形物の印刷速度(印刷機の処理量)並びに物理的特性及び品質に対する制御が可能になる。単位セルは、平行線間隔(hatch spacing)の方向に縮小され、これはAM軌跡幾何構造設定値を固定したまま平行線間隔(hatch spacing)を縮小することで実現される。これは、単位セル内での相似形の(角度保存型の)拡大縮小であり、その係数はX軸方向(右方向)において0.87であり、平行線間隔(hatch spacing)に対する断片の厚み、対象の中心間の角度、及び軌跡の幅に対する断片の厚みの比率もまた同様であり、図15と同様に断片の厚みが一定であるという仮定のもとにある。他の拡大縮小及び歪みの操作ももちろん可能である。一般論として、結合剤噴射、粉末床溶融結合、レーザー焼結、又は同様の手順において、図7bに示す軌跡と比較して軌跡の重なり度合いを増加させることにより、印刷された成形物の空隙率と印刷の速度とがある1点まで減少し、その後、空隙率が再び増加し始める場合がある。材料噴射、熱溶融積層、又は同様の手順において、図7bに示す軌跡の場合と比較し、軌跡の重複のわずかな減少が、空隙率を減少させるために必要とされ得るが、重複がさらに減少すると、最終的には完全に無くなるので、空隙率は増加する。
【0074】
(b)は、図20aに示された単位セルであり、重なりを増加させるように設計されたAM軌跡幾何構造設定値の変化を示し、結合剤噴射、粉末床溶融結合、レーザー焼結、又は類似の手順によって印刷された成形物の空隙率を減らす際に有用な場合がある。この例では、小さな物体に対して印刷速度(AM軌跡幾何構造設定値)が低下する結果、このような物体は17.5 %深くまた広くなり、総面積は38 %増加し、これらの小さな物体は単位セル内でさらに幾分低く再配置されるので、印刷速度がより低い場合に、軌跡による造形がより正確に反映される。他のこのようなAM軌跡幾何構造設定値の変化(及び位置の変更)を、全般的な同様の方法で適用することで、空隙率、印刷処理量、及び他の印刷成形物及び印刷時の特性が増加又は減少する。この図に示す単位セルは、図7dのような層の平面に対して垂直になっている断片及び走査経路と、図19のような2層ごとの回転とを含む。
【0075】
図21】経路―接線方向が切断面の法線となっている成形物の断面図であり、成形物は被覆問題の解に従って印刷され、その被覆問題は球面幾何構造を有し、湾曲しさらに拡大縮小した空間上の単位セルを使用することで導かれるものであり、印刷は材料噴射、熱溶融積層、アークプラズマ焼結、マルチジェットフュージョン、結合剤噴射、又は類似の手順を使用して行う。特に、図7bに示す単位セルと物体の位置とは、変換:z→r,x→θによって拡大縮小され、これは中心点からの距離rと角度θすなわち半径rにおける0度からの回転とを表す動径座標rに対するものであり、さらにここでx-z空間におけるセルの幅wは、図中の第1層(layer one)におけるセルの幅と等しく、これは、第1層(layer one)におけるw2=2*(r1)2*(1-cos(θ))を意味する。この変換では、中心点からのラジアル距離(radial distance)が大きくなるにつれて、各単位セルの面積(又は体積)が大きくなり、各軌跡の中心位置も拡大縮小に応じて変化するが;軌跡の断面は拡大縮小されないため、AM軌跡幾何構造設定値は変更されないことを示す。拡大縮小による歪みを考慮するために、AM軌跡幾何構造設定値を変更することにより軌跡の大きさがラジアル距離に応じて同様に拡大縮小されたり;数層ごとに単位セルを小型化することで層nにおいて、w2=2*(rn)2*(1-cos(θ))としたりできる。符号「1.1」はこれらの軌跡が最初に印刷されることを意味し、続いて軌跡「1.2」が印刷されることで、前の層に印刷された軌跡の表面構造に基づいてより高く最大径方向に蓄積する。軌跡の高さは、半径rの球の表面に垂直な造形方向において、球体の表面の円弧に沿っており、走査経路は曲線又は直線の輪郭に従って進行し、例えば、中心点を通って図中の最も高い点までの軸の周りを又はページ内に至る直線内を進行する。材料の厚み(MT)と正味の変位量(ND)は同じである必要も層間で一貫している必要もない。この例では、MT3>ND3>MT4>ND4である。
【0076】
図22】レーザー粉末床溶融結合によって印刷されたステンレス鋼の部分(part)の単層の経路接線軌跡断面図であり、そのレーザー出力は250W、平行線間隔(hatch spacing)は140μm、ガウスビームウエストは55μm、レーザー走査速度は1046 mm/sである。この単層は、単一軌跡の幾何構造の走査方式における単層を代表するものであり;このような方式では全般的に、連続する層の走査経路の方向は前の層に対して回転するが、ここでは示していない。
【0077】
図23】レーザー粉末床溶融結合によって印刷されたステンレス鋼の部分(part)の2層の経路接線軌跡断面図であり、そのレーザー出力は250W、平行線間隔(hatch spacing)は140μm、ガウスビームウエストは55μm、レーザー走査速度は1210 mm/sである。これは、米国特許第6,596,224号及び第6,677,554号に記載され、また図4に図示されている特定の「差し込み(interleaved)」の走査方式の実施である。各走査の軌跡の経路接線の断面は、最上位の層(第2層)とその下の層(第1層)で似ている。第1層の軌跡断面のうち、第2層の軌跡断面によって覆われている領域は、すでに見えていないことに留意する;これは、軌跡の重なりが発生する断面写真に共通の特徴である。
【0078】
図24図16に詳述する被覆問題の解に基づいて、レーザー粉末床溶融結合によって印刷されたステンレス鋼の部分(part)の単層の経路―接線軌跡断面の写真である。この場合、2つの異なる領域/幾何構造の軌跡断面が、異なる走査方式を利用して作られる。小さな幅の軌跡をレーザー出力250W、ガウスビームウエスト55μm、レーザー走査速度2038 mm/sで印刷し、大きな幅の軌跡をレーザー出力250W、ガウスビームウエスト55μm、レーザー走査速度860 mm/sで印刷し、小さな軌跡と大きな軌跡の中心間距離を140μmに固定した。
【0079】
図25】ステンレス鋼の部分(part)の2層の経路―接線軌跡断面の写真であり、被覆問題の解に基づくレーザー粉末床溶融結合により印刷されたものであり、軌跡の幾何構造を2種利用したものである。この例では、140μmの平行線間隔(hatch spacing)で分離された広い方の幅の走査の軌跡の初期層が50μm厚の粉末から印刷され、この時レーザー出力250W及びガウスビームウエスト55μmである。正味の変位量及び粉末厚みが50μmである第2の層を用いて、狭い方の幅の走査の軌跡を形成するが、その軌跡の断面の中心点が、第1層の広い方の幅の走査の軌跡の断面の中心点に対して約70μm変位しており;同じの設定値を使用するが、走査が1.6倍高速になる。
【0080】
図26】走査の軌跡の半分に接しさらに残り半分に垂直な単位法線の軌跡断面の写真であり、レーザー粉末床溶融結合によってステンレス鋼で印刷された部分(part)のものであり、図25に示す2種の軌跡の幾何構造が反復する手法を使用している。この場合、図25に示すように2つの層を形成した後、走査の軌跡を90度回転させて、再び図25に示すのと同じ様式で次の2つの層を形成する。この2つの層の形成に加えて90度の回転が必要な回数だけ繰り返される。
【0081】
図27】(a)は、単位法線から45度離れた軌跡断面の写真であり、図26に示すものと同様の2種の軌跡の幾何構造による走査方式にてアルミニウム合金が印刷された部分のものであり、本例ではレーザー出力375W及び平行線間隔(hatch spacing)220μmとなっている点が異なり、より小さな軌跡が、より大きな軌跡に対するものより小さなビームウエスト及び速い走査速度にて印刷される。
【0082】
(b)は、単位法線から45度離れた軌跡断面の写真であり、単一軌跡の走査方式にてアルミニウム合金が印刷された部分のものであり、375Wのレーザー出力、46μmのガウスビームウエスト、220μmの平行線間隔(hatch spacing)、及び1311 mm/sの走査速度を使用している。この方式では、走査経路が層ごとに90度回転する。
【0083】
図28】(a)は、レーザー粉末床溶融結合によってニッケル超合金で印刷された部分の断面写真であり、図26で説明したものと同様の2種の軌跡による走査方式を使用している。本例では、269Wのレーザー出力、140μmの平行線間隔(hatch spacing)、50μmの正味の変位量及び粉末厚み、並びに55μmのガウスビームウエストを使用し、より大きな軌跡を形成するために使用される走査速度が、より小さな軌跡を形成するために使用される速度の2倍である。この部分の空隙率の測定値は0.12%であり、図28b及び28cに示す部分の空隙率の測定値よりもはるかに低かったが、これらはここに示す部分と同じ単位質量当たりの総堆積エネルギーを使用して印刷されている。
【0084】
(b)は、レーザー粉末床溶融結合によりニッケル超合金で印刷された部分の断面画像であり、図23で説明したものと同様の単一軌跡の「差し込み(interleaved)」の走査方式を使用している。本例では、269Wのレーザー出力、140μmの平行線間隔(hatch spacing)、50μmの正味の変位量及び粉末厚み、及び55μmのガウスビームウエストを使用して軌跡を形成したが、単位質量当たりの総堆積エネルギーは図28a及び28cに示された部分と同じである。この部分の空隙率の測定値は0.50%であり、図28cに示した部分のそれよりも低いが、図28aに示した部分のそれよりもはるかに高い。
【0085】
(c)は、レーザー粉末床溶融結合によってニッケル超合金で印刷された部分の断面図であり、図8で説明したものと同様の単一軌跡の走査方式を使用している。本例では、269Wのレーザー出力、140μmの平行線間隔(hatch spacing)、50μmの正味の変位量及び粉末厚み、及び55μmのガウスビームウエストを使用して軌跡を形成したが、単位質量当たりの総堆積エネルギーは図28a及び28bに示された部分と同じであった。この部分について測定された空隙率は0.69%であり、図28a及び28bの双方に示された部分について測定されたものより高かった。
【0086】
図29】(a)は、3つの相異なる物体の幾何構造からなる単位セルを示す図であり、粉末床溶融結合、レーザー焼結、又は結合剤噴射の印刷の手順と最も整合する、相異なるAM軌跡幾何構造設定値にて形成される。本例では、各単位セルには、大1個、中2個、小3個の物体が存在し、これが採り得る最小の基礎である。この構成では、いくつかの断片の厚みを使用でき;その結果、基底ベクトル(b1,b2)はx軸に平行なベクトルの長さについて(1.0,0.0)、(0.44,1.03)となる。X軸は右向き、Z軸は上向きである。
【0087】
(b)は、単層の図であり、これに続く層の材料が堆積されており、この場合の正味の変位量ND2は、この断片における材料の厚みMT2より小さい。使用される走査方式は、図29aに示す複数軌跡の物体の幾何学構造及び大きさによる被覆問題の解について設計され、また軌跡の印刷の順序が交互になること、正味の変位量が断片間で異なること、複数の材料の厚みが断片ごとに単一の断片内の正味の変位量より大きいか又は等しいことが含まれる。標識「1.1」は、小さい方の軌跡が最初に印刷され、そのすぐ後に大きい方の軌跡の「1.2」という標識が付けられることを示する。この方式は、いくつかの修正を加えて、任意の印刷手順に適用できるが、本例では、軌跡断面の幾何構造は、粉末床溶融結合、レーザー焼結、又は結合剤噴射といった手順のためにAM軌跡幾何構造設定値を使用して生成された軌跡を反映するように描かれており、後者の場合、この図32に示すものを超える単位セルの拡大は、結合剤の過剰な堆積を防止する上で有利である。
【0088】
(c)は、図29bに示す材料の堆積後に印刷された層の図であり、また次の層の印刷のための材料の堆積の図である。本例では、小さな軌跡(標識付き「2.1」)が最初に印刷され、次に大きな軌跡(標識付き「2.2」)が印刷される。次の層については、材料厚MTと正味の変位量ND3とは同じである。
【0089】
(d)は、図29cに示す材料の堆積後に印刷された層の図である。この例の前の層と同様に、小さな軌跡(標識付き「3.1」)は大きな軌跡(標識付き「3.2」)の前に印刷される。この方法で成形物の場合、剪断強度のx軸成分は一方が他方の上に置かれた軌跡を有する走査方式に比べて増加し、これは層内及び層を横断する軌跡のz軸上のわたりが大きいたためである。この方式は結合剤噴射によく適していると考えられ、各層内のより小さな又はより大きな物体を逆に印刷する順序となっており、走査方向(ページに向かう)に沿って降伏強さの高いことが期待され、またx軸内及びその周りでは剪断強さが比較的高いことが期待される。1層ごとに回転を組み込むことでx軸方向の降伏強さ及び剪断強さが上昇する一方、走査方向の降伏強さは低下する。
【0090】
図30】(a)は、レーザー粉末床溶融結合によってステンレス鋼にて印刷された部分の断面写真であり、図8で説明したものと同様の単一軌跡走査方式を使用している。本例では、軌跡を形成するために、260Wのレーザー出力、140μmの平行線間隔(hatch spacing)、50μmの正味の変位量及び粉末厚み、91μmのガウスビームウエスト、及び1004 mm/sの走査速度とした。この部分の空隙率の測定値は0.48%であり、図30bに示す部分の空隙率の測定値よりも高かった。
【0091】
(b)は、レーザー粉末床溶融結合によってステンレス鋼にて印刷された部分の断面写真であり、図8で説明したものと同様の単一軌跡走査方式を使用している。本例では、軌跡を形成するために、260Wのレーザー出力、140μmの平行線間隔(hatch spacing)、50μmの正味の変位量、60μmの粉末厚み、91μmのガウスビームウエスト、及び1004 mm/sの走査速度とした。この部分の空隙率の測定値は0.21%であり、図30aに示す部分の空隙率の測定値よりもかなり低かった。空隙率の減少は、正味の変位量に対する粉末厚みの増加に起因する。
【0092】
図31】(a)は、レーザー粉末床溶融結合によってアルミニウム合金にて印刷された部分(part)の断面写真であり、図27で説明したものと同様の2種の軌跡による走査方式を使用している。本例では、650Wのレーザー出力、200μmの平行線間隔(hatch spacing)、及び50μmの正味の変位量及び粉末厚みとし、大きな軌跡を形成するために走査速度を小さな軌跡を形成するための速度の約1.9倍とし、さらに大きな軌跡を形成するためのガウスビームウエストを小さな軌跡を形成するためもの約2倍の大きさとした。この部分で測定された空隙率は3.29%であり、図31bに示された部分で測定された空隙率よりもはるかに高かったが、これらはここに示された部分と同じ単位質量当たりの総堆積エネルギーを用いて印刷されている。
【0093】
(b)は、レーザー粉末床溶融結合によってアルミニウム合金にて印刷された部分の断面写真であり、図31aで説明したものと同様の2種の軌跡による走査方式を使用している。本例では、この部分に50μmではなく60μmの粉末厚みを適用した点が異なる。この部分の空隙率の測定値は1.79%であり、図31aに示す部分の空隙率の測定値よりもかなり低かった。空隙率の減少は、正味の変位量に対する粉末厚みの増加に起因する。
【0094】
図32】(a)は、レーザー粉末床溶融結合によってステンレス鋼にて印刷された部分の断面写真であり、図26で説明したものと同様の2種の軌跡による走査方式を使用している。本例では、252Wのレーザー出力、140μmの平行線間隔(hatch spacing)、50μmの正味の変位量及び粉末厚み、及び55μmのガウスビームウエストを使用し、大きな軌跡を形成するための走査速度を小さな軌跡を形成するための速度の約1.6倍とした。この部分の空隙率の測定値は0.23%であり、図32b及び32cに示す部分の空隙率の測定値よりもはるかに低かったが、これらはここに示す部分と同じ単位質量当たりの総堆積エネルギーを使用して印刷されている。
【0095】
(b)は、レーザー粉末床溶融結合によりステンレス鋼にて印刷された部分の断面写真であり、図23で説明したものと同様の単一軌跡の「差し込み(interleaved)」の走査方式を使用している。本例では、252Wのレーザー出力、140μmの平行線間隔(hatch spacing)、50μmの正味の変位量及び粉末厚み、及び55μmのガウスビームウエストで軌跡を形成したが、単位質量当たりの総堆積エネルギーは図32a及び32cに示された部分と同じであった。この部分の空隙率の測定値は0.56%であり、図32cに示した部分のそれよりも低いが、図32aに示した部分のそれよりもはるかに高い。
【0096】
(c)は、レーザー粉末床溶融結合によってステンレス鋼にて印刷された部分の断面写真であり、図8で説明したものと同様の単一軌跡走査方式を使用している。本例では、252Wのレーザー出力、140μmの平行線間隔(hatch spacing)、50μmの正味の変位量及び粉末厚み、及び55μmのガウスビームウエストを使用して軌跡を形成したが、単位質量当たりの総堆積エネルギーは図32a及び32bに示された部分と同じであった。この部分について測定された空隙率は1.13%であり、図32a及び32bの双方に示された部分について測定された空隙率よりもはるかに高かった。
【発明を実施するための形態】
【0097】
発明の説明:
【0098】
本題となる体系、手順及び組成物を説明するが、その中では原理として単一の層内において又は異なる層にわたって軌跡及び軌跡断面の形状、大きさ、並びに位置を変化させることで、印刷機の速度及び処理量(throughput)を増大させ(印刷費用を下げ)、加工された成形物の空隙率を低下させ、加工された成形物の強度及び他の必要な物理的特性を改善し、印刷の再現性を向上させる。本題となる体系、手順及び組成物を説明するが、その中では原理として単一の層内において又は異なる層にわたって軌跡及び軌跡の断面の形状、大きさ、並びに位置を変化させることで、印刷機の速度及び処理量を増加させ(印刷費用を下げ)、加工された成形物の空隙率を減少させ、加工された成形物の強度及び他の望ましい物理的特性を改善し、印刷の再現性を向上させる。本明細書の意図する発明はAM又は3D印刷手順(AM or 3D printing process)に使用可能であり、材料及び/若しくは走査経路の軌跡が生成又は使用され、又は1つながりの軌跡によって現れるものと同様に層ごとの様式で表面の高さが変化し、これには、熱溶解積層、材料噴射、結合剤噴射、粉末床溶融結合、選択的レーザー焼結、マルチジェットフュージョン、指向性エネルギー堆積、直接金属堆積(direct metal deposition)、電子ビーム積層造形(Electron beam additive manufacturing)、アークプラズマ焼結積層造形(arc plasma sintering additive manufacturing)が含まれるが、これらに限定されず、また本明細書において意図する本発明の利用は、上述の軌跡及び走査経路に基づく印刷手順及び印刷機又は層ごとの表面変化を生成する同様の手順及び印刷機において使用される単一又は少数の材料に限定されず;むしろ、本発明は、そのような材料の全て又はほとんど全ての使用において都合がよい考えられ、複合材料の使用や複数の材料の印刷もまた含まれる。
【0099】
本明細書で説明する発明は、AM軌跡幾何構造設定値{P}及び原料物質設定値{f}(feedstock parameters {f})を変更することによって目標とする走査方式及び材料堆積方法を用いたときに他の方法よりも堆積エネルギーの使用並びに/又は材料の堆積(deposition)、重合(curing)、溶融(melting)、結合(bonding)、硬化(hardening)、焼結(sintering)、又は融着(fusing)に掛かる時間に関してより効率的なことであり、またこれらの方式による組成部はより優れた物理的特性を持ち、その中には延性、強度、等方性(異方性)、耐疲労性、熱伝導性、電気伝導性、表面粗さ、及びその他の増加が含まれるがこれらに限定されない。AM軌跡幾何構造設定値{P}には以下が含まれるがこれらに限定されない;軌跡経路に沿ったエネルギー堆積の走査速度又は材料及び/若しくはエネルギーを堆積する印刷ヘッドの走査速度、単位時間当たりに堆積するエネルギーの総量又は単位時間当たりに堆積される材料の総質量、走査軌跡が生成される表面の平均勾配、粉末又は材料の厚み及び堆積される材料の体積を制御するための設定値、正味の変位量、材料の圧縮を制御するための設定値、軌跡を生成する際にエネルギー又は材料が堆積される区域の面積、エネルギー又は材料が堆積される区域の形状又はノズルの形状、印刷が行われる領域又は造形用台座の温度、堆積前に原料物質が加熱される温度、造形物の表面上を流れる気体の速度、並びにその他多数。原料物質設定値{f}(feedstock parameters {f})には以下が含まれるがこれらに限定されない;温度に依拠した材料の粘度、材料の溶融温度、材料の流動特性(例えばずり増粘やずり減粘(shear thinning of shear thickening))、粉末状の材料の充填率(タップ充填率など)、懸濁液中の粒子量(loading of particles in suspension)、粉末及び粒子懸濁液における粒径、粒子形状及び粒子表面粗さ、材料の比熱、材料の可塑性、並びにその他多数。
【0100】
走査経路によってエネルギー堆積若しくは材料の動き又はエネルギー堆積用の印刷ヘッドの動きが説明され、これらには(先行する層及び後続する層並びに全体座標系の両方に対する)軌跡の局所的な曲率又は角度、軌跡を印刷する順序、平行線間隔、並びにこれらに関連する方向変数(related directional variables)が含まれるが、AM軌跡幾何構造設定値{P}又は原料物質設定値{f}の集合の中には含まれない点が重要である。これは、これらの成分によって軌跡(又は軌跡の断面)の幾何構造の設定値が大きく変更する傾向はなく、むしろ軌跡がどこに形成されるかを示す指標に過ぎないからである。いくつかの印刷手順において留意すべき点は、その中には粉末床溶融結合及び選択的レーザー焼結を含んでおりまたこれらに限定されるわけではないが、特に層内の平行線間隔及び軌跡印刷の順序が軌跡の幾何構造にいくらか影響することであり、これらは侵食地帯の生成及び他の現象に起因しているが;一般に、充填に係る平行線の位相の間隔にわたるこれらの設定値の変化により、誤差内で測定可能である場合、比較的小さな変化を軌跡の幾何構造に誘発する傾向がある。
【0101】
先行技術との主な相違点の概要。以下の相違点は、網羅的なリストではなく、むしろ、本発明を先行技術との相違が見られる重要な対比事項をいくつか要約したものである。
【0102】
軌跡による幾何構造を用いる積層造形はほとんどの場合、層ごとに行われ、所定の層内の走査方式を任意に設計することでその層に所望の物理的特性と幾何学的特性を与えられるが、経路方向全体の回転や成形物末端付近の経路を考慮すべき場合を除き、これらは先行する層又は後続する層の方式の設計に合わせて設計するものではない。印刷の格子(print lattices)であっても、筋交い(strut)及び結節点(node)を形成するに使用される走査方式は一般に、先行する層又は後続する層における走査方式に関する情報ではなく、当該層に関するデータのみから得られる情報に基づき定式化される。この手法は、とりわけ、コンピューターで走査方式を生成する時に並列計算する(各層の走査経路を同時に計算する)のに適する。
【0103】
米国特許第6,596,224号及び第6,677,554号に記載されている差し込み層による充填方式(interleaved layer filling strategy)は例外であり、その中では層nにおいてこの方式の走査経路の方向が、先行する層(n-1)又は後続する層(n+1)のいずれかにおける経路と同じであり、また層nにおいて経路の位置は、先行する層又は後続する層のいずれの経路に対してもその中間にある様子が、図4に示されている。ただし、この場合、他の場合と同様に、複数のAM軌跡幾何構造設定値を同じ充填方式の中では使用せず;各層における走査経路の位置が上位又は下位の層の経路に依拠する場合であっても、むしろ複数の層にわたって同じAM軌跡幾何構造設定値が使用される。
【0104】
結晶学的観点で言えば、AM軌跡幾何構造設定値の単一集合を用いる走査方式は、1つの物体(object)のみを含む単位セルを周期的に複製するものである。そのような方式は、1を基底とする格子によって数学的に記述することができる。2次元では、そのような格子が5種類しかなく、3次元でも14種類しかないことは、結晶学に詳しい者にはよく知られている。被覆及び走査の方式に関する本願発明では、任意の走査方式又は印刷された組成物であって、AM軌跡幾何構造設定値の基底に関して、基底が1である格子によって記述できるものは除外され;むしろ、本発明では、同じ方式内で異なるAM軌跡幾何構造設定値を適用する必要があるので、1より大きい基底を有する単位セルが必要になる。
【0105】
具体的には、被覆方式及び走査方式に関する方法及び組成物の本発明では、以下の方式についてこれが必要となる:1)軌跡又は軌跡断面において異なるAM軌跡幾何構造設定値を使用することで、通常、単一の層内又は複数の連続する層にわたって、異なる軌跡幾何構造が生成する、2) 軌跡又は軌跡断面の特徴は、それらに関連するAM軌跡幾何構造設定値又は軌跡幾何構造に依拠しつつ、単位セルによって定められ、単位セルはユークリッド空間又は他の幾何学的空間で記述され、2以上の基底を有する、3)未印刷材料の面積(体積)が最大軌跡断面(最大軌跡)よりも大きくないという意味で単位セル内の印刷された軌跡がセルの空間を被覆する場合、及び4)少なくとも2つの隣接する単位セルの部分(portion)又は全部が、その方式が適用される領域内の各層に存在する場合。
【0106】
少なくとも2つの隣接する単位セルの要素が存在するということは、印刷時に異なる単一基底格子方式が1つの層内の異なる領域又は複数の層にわたって適用されることを除外することを意味しており。よくある従来技術では層内の異なる領域に異なる走査方式を用いており、例えば、印刷の格子方式が層の中心に使用され、輪郭走査方式が層の外縁に使用され、充填方式がその間に使用される。大きな基底を有する単一の単位セルによって、その層又はその実質的な部分(portion)、及び任意の類似の先行する層又は後続の層を記述することができる;しかしながら、少なくとも2つのセルに対するそのような要素は、各層内には存在しないであろう。単位セル内の軌跡ではセルの領域内で凝集性固体が形成されることが必要であり、また最大軌跡の又はより大きな軌跡を有する非印刷材料のないことが必要であり、またこれにより材料の大部分又は主要部分が印刷されていない印刷の格子又は類似の周期構造内の単位セルを除外する制限を意図している。大雑把に言えば本発明は充填方式に応用され、その中には輪郭の充填が含まれ、当該輪郭は隣接する走査軌跡、単一の走査線で構成されていない筋交い(strut)を有する印刷の格子、スキン(skins)及び他のそのような印刷された構造で構成される。
【0107】
さらに、被覆すること及び走査方式に関する本発明には、AM軌跡幾何構造設定値を非周期的性のもの又は準結晶に応用するために、印刷設定値又は空間における軌跡の配置のいずれかの形態で利用されることで、印刷空間の充填領域内で使用される場合が含まれる。
【0108】
層厚に関して、先行技術では断片厚み、材料厚み、及び正味の変位量を互いに区別しておらず、(もしあったとしても)そのような区別をつけるような観察が行われている場合、それらは、加工された成形物の品質、印刷機速度、又は他の印刷特性若しくは成形物特性に対して負の影響を持つか又は中立的なものと見られている。本明細書に係る発明では積層造形の視点を説明するが、その中でこれらの概念は異なるものと考えられ、また層を形成する方法を説明するが、その中でこれらの3つのうちのいくつか又は全てが意図的にかつ制御された状態で互い違いになっており、多くの場合、優れた印刷結果をもたらすものである。特に、材料の厚み及び正味の変位量は、独立したAM軌跡幾何構造設定値として用いられ、本明細書で説明する方法によってこれらの設定値の変更が独立して行われるので、優れた印刷結果をもたらす。
【0109】
<複数の軌跡断面形状及び/又は大きさから導き出された走査経路。> 粉末粒子を互いに溶融(melting)、焼結(sintering)、融着(fusing)、又はその他結合(otherwise binding)(以後、別段の定めがない限り、全て「融着する(fusing)」又は「融着した(fused)」に含まれるものとする)することに関し、また懸濁液、スラリー、液体、ゲル、重合する高分子又は他の媒質(以後、別段の定めがない限り、全て「スラリー」という用語に含まれる)を指向性エネルギー、結合剤、又は材料堆積によって固化(solidification)又は硬化(hardening)(特に断らない限り、便宜上「融着する」又は「融着した」を指すものとする)することに関し、先行する断片の加工中に溶融した粒子又はスラリーの再溶融(re-melting)、再焼結(re-sintering)、再融着(re-fusing)、又は再結合(re-binding)(以後、別段の定めがない限り、全て「再融着する」又は「再融着した」に含まれる。)は、空隙率の低い成形物を製造するために、又は未溶融(unmelted)、未焼結(unsintered)、未融着(unfused)、未硬化(unhardened)、未固化(unsolidified)、又は未結合(unbound)(特に指定のない限り、以下、全て「未融着」に含まれる」)の粒子又はスラリーからなる空洞が印刷後に残されないようにするために必要である。これが必要になる全般的な理由が少なくとも2つある。第1の理由は、走査又は軌跡に基づく印刷手順は、全般的に空間をタイル状にしない軌跡を生成することためにあり、複数の軌跡の交差領域において重複する軌跡が再融着をもたらすような、十分に重複する軌跡を採っていなかった走査方式ではいずれも、軌跡間の空間において、融着してない粒子若しくはスラリー、又は粒子若しくはスラリーを欠いた又はそれらが部分的に枯渇した空洞が生じることによる。第2の全般的な理由は、走査及び軌跡に基づく印刷によってそれらの局所的な幾何構造が確率的に変化する軌跡が生成され、これは軌跡の長さにわたって軌跡幅、高さ、深さ、及び表面構造が実質的に変動することを意味し、この確率的変動の程度は、使用される印刷手順、印刷設定値、原料設定値、及び他の変数を含めた制御された変数に依拠しており、また制御されていない変数にも依拠している。その結果、十分な重なりを伴って走査方式が設計されていない場合には、軌跡長に沿った特定の地点における軌跡の境界の近傍において、軌跡形状の局所的な変化によって粒子又はスラリーの融着が欠如する。
【0110】
成形物内の融着されてない空間の体積を減らすために重なりが必要であり、また空隙率が低くほぼ空隙のない部分を形成するために必要である。しかしながら、重なりは非効率であり、先行して融着した粒子又はスラリーを再融着するためにエネルギー又は時間が費やされてしまう。したがって、粒子又はスラリー(過剰重複)の融着を確実にする上で必要がない重なりの領域を低減する又は排除する走査方式とすることがエネルギー及び時間を利用する上でより効率的である。まとめると、1つの幾何構造のみで形成される軌跡又は軌跡断面を利用する場合と比較して、幾何構造(大きさ、形状、表面の状態)が異なる軌跡又は軌跡断面を利用する走査方式では、過剰な重なりを低減できる。
【0111】
注意すべき重要な点は、AM軌跡幾何構造設定値と原料物質(粉末又はスラリー)の空間を考慮して融着した軌跡を生成した時にその平均幾何構造もまた平均体積も、その軌跡の形成に費やされるエネルギー又は時間の量に対して正確な直線的関係を有しないことである。したがって、各印刷機に対してスカラー軌跡効率関数{Tj(Pj)}の組み合わせを定義するのが有効であり、この定義は単位時間当たりに印刷される軌跡体積、単位エネルギー当たりに印刷される軌跡体積、単位時間当たりに印刷される軌跡断面積、又は単位体積当たりに印刷される軌跡断面積の単位で行い、その中で印刷機ごとに異なる機能の組み合わせが存在し、それは“j”で表される原料物質(粉末又はスラリー)に関するものであり、また印刷機の能力と原料に固有のAM軌跡幾何構造設定値{Pj i},i=1...Ij, の原料固有の数“Ij”に依拠するものである。まとめると、軌跡又は軌跡断面の幾何構造を表す大きさという特性は、印刷機器及び原料物質の所定の組み合わせによって決められ、またこれらの特性はAM軌跡幾何構造設定値にも依拠する。大きさの特性を関数で定義する例については論文誌の記事が参照でき:C. Kamath, B. El-dasher, G. F. Gallegos, and W. E. King, and A. Sisto, Density of additively-manufactured, 316L SS parts using laser powder-bed fusion at powers up to 400W, Int. J. of Adv. Manuf. Technol. 74, pp. 65-78, 2014、その中では316ステンレス鋼の軌跡をレーザー速度及びレーザー出力といったAM軌跡幾何構造設定値を変化させることで形成しており、他の固定された設定値としては層厚30ミクロン、レーザースポットの大きさ約63ミクロンであり、その中で軌跡の高さ、軌跡の幅、及び軌跡の深さは、2つの可変の設定値として測定される。
【0112】
軌跡の重なりに関して3次元で又は軌跡断面に関して2次元で示される単層又は多層の走査方式をエネルギー又は時間効率に基づいて直接比較することが、上述のAM軌跡幾何構造設定値に依拠する効率関数(efficiency function)によって可能になる。また過剰な重なりは効率の点で望ましくないことから、1つ以上の軌跡幾何構造を生成する特定の組み合わせの印刷機器、原料物質、及びAM軌跡幾何構造設定値を決めて、これらの軌跡幾何構造の被覆問題の解をより良いものにすることが、より時間及びエネルギーの効率の良い走査方式につながる傾向がある。さらに、物体を充填する密度がより高い方式の数々であって、そのような軌跡の幾何構造と同一又は類似のものを被覆問題の解に利用できる場合、そのような充填方式における密度はそれらによる走査方式の時間及びエネルギー効率と正に相関する傾向がある。図7は、円板の高密度二成分充填から導き出された、被覆問題の解に基づく効率的な走査方式の例を示す。この例では、物体の軌跡の断面積は、レーザー粉末床溶融結合を用いて生成した軌跡の断面積の近似値である。
【0113】
所定の印刷機に対し、また“J”供給原料(ここで、整数J>1は、複数の原料又は物質による印刷を表す)を考慮し、また設定値の一式{Pj i}k, k=1...Kjにおける各数値“Kj”に対して、関数値Tj({Pj i}k)を、格子基底ベクトルb及び体積vU(b)と、ΣKj個の軌跡又は軌跡断面(ここで合計Σはj = 1...Jである)として数えられる物体の基底と有する可変単位セルにおいて生じる被覆問題における重み付けとして用いることができ、その中で各軌跡又は軌跡断面の物体はその設定値{Pj i}kに対応する幾何構造を持っている。各物体Oj,kを、その原料物質の指数“j”及び設定値の組み合わせの指数“k”によって識別することにより、その物体に関する立体配置の座標rj,k及び面積又は体積Vj,kを定義することができ、ここで、立体配置rj,kの最も単純な位置成分は、材料及び/又はエネルギーを堆積する印刷ヘッド又は他のAM印刷機の原料若しくはエネルギー源の走査経路に対応する。この重み付き被覆問題は、以下の目的(関数)で表される制約付き最適化問題として記述できる:
【0114】
【数1】
【0115】
ここで、物体の立体配置rj,k及び基底ベクトルbに対する目的関数の最小化は、基底ベクトルbによって定義される単位セルの全体積が物体Oj,kによって被覆されるという制約を受ける。被覆はまた二重、三重、又はそれ以上の多重被覆であり、その中で単位セルが物体によって整数回被覆されるものでもよく、他の制約も同様に設けてよい。例として、物体の正確な幾何構造(と面積又は体積Vj,k)は、単位セル内の他の物体の他の設定値{Pj}k、又はそれらの相対的な立体配置にある程度依拠している可能性があり;そのような立体配置に対する依拠性が分かっている場合、物体の立体配置を、それが分かっている位相空間に拘束することが有効である可能性がある。しかしながら注意すべき重要なことは、たとえそのように分かっていることで走査方式の改善につながることがある場合でも、実行可能な走査方式の開発の上では、相対的な立体配置の依拠性(又は他の依拠性)に関して分かっている必要はないことである。
【0116】
実際の印刷条件に類似した環境で、所定の供給原料の軌跡の幾何構造の平均を測定することが好ましい場合がある。この手法には以下が含まれていてもよいが、これに限定されるものではない:a)軌跡の幾何構造の平均の測定の中に、材料が平滑な表面上に堆積する軌跡ではなく、他の軌跡の上に印刷される軌跡が含まれること、b)複数の原料物質が印刷において使用される場合、印刷された成形物中の目標とされる組成と同様の範囲の組成比からなる層上に印刷される個々の原料物質の軌跡を生成し、それにより、弾性応力、熱伝導率、並びに適用可能な場合には電気伝導率及び他の物理的特性の条件を印刷された成形物のそれらと同様のものとして印刷すること、c)隣接する軌跡があるため軌跡の印刷順序が時間順でない場合、使用される順序に従って軌跡の幾何構造の平均を測定すること、並びにd)印刷された成形物中に幾何構造の平均が異なる軌跡が存在する場合、決められた軌跡幾何構造設定値{Pj}kの組み合わせで生成された軌跡の各組み合わせの幾何構造を測定する上で、(“j”又は“k”の指標が異なる)他の軌跡の幾何構造と近くなるように、できるだけ投影された印刷物の状態に類似した方法で測定すること。
【0117】
一例として、図7に表す単位セルに示された経路-接線軌跡断面に対応する2つの軌跡形状を考慮する場合、これらの軌跡をより小さな軌跡の層(又は複数の層)の上に印刷することによって、より大きな軌跡の平均形状を測定することが有利であり、またその逆も同様である。これは、粉末床溶融結合又は選択的レーザー焼結の手順において特に関連し得るものであり;層nの印刷中に材料が完全に溶融しない場合、例えば、図7dに見られるように、示された経路-接線断面の間に粉末が残る場合、残っている材料はそれでも焼結している又は部分的に焼結している可能性があり、それによって材料の物理的特性、ひいては層n+1内の軌跡の軌跡形状が変化する。これは、最も近くの隣接する軌跡が順番に印刷されず、偶数奇数のパリティとなる場合(“1本おきの軌跡”)又は他の順序で印刷される場合にも該当する。全般的な印刷手順の例として、軌跡の形状は、材料が堆積される表面に依拠するものでもよく、図7の例では、より小さい軌跡とより大きい軌跡の表面は異なっており、それによって、これらの表面に印刷される軌跡の幾何構造を潜在的に変化させ、さらに連続する層の軌跡を変化させる。
【0118】
留意すべき重要な点は、材料噴射、熱溶解積層、マルチジェットフュージョン、アークプラズマ焼結、いくつかの結合剤噴射による手順、及び類似の手順などの軌跡上に材料が堆積される手順では、印刷された成形物の軌跡の幾何構造は、場合によっては、軌跡が印刷される表面に大きく依拠することがあり、その表面には、前の層における軌跡の印刷からの完全に固化した若しくはほぼ固化した(fully or nearly solidified)、硬化した(hardened)又は重合した(cured)材料が含まれやすいことである。結合剤噴射又は同様の手順において、スラリー、液体、溶媒、高分子、懸濁液、又は流動可能な状態の他の材料が、毛管現象や付着力によって、微粒子の層に浸透することで、噴射された材料及び係る微粒子の両方からなる軌跡を形成する場合、先に印刷された軌跡に由来する固化、硬化、又は重合した材料の上に印刷された軌跡の底部形状が先に印刷された軌跡の上部に一致することがある。このような軌跡形状は、同じAM軌跡幾何構造設定値で印刷されているが、平坦な基板上の深い(軌跡の高さに対して)微粒子の層又はより薄い微粒子の層上にある軌跡とは実質的に異なる。材料噴射、マルチジェットフュージョン、アークプラズマ焼結、熱溶解積層、又は同様の手順において、軌跡が印刷される表面の幾何構造も軌跡形状に影響を与えることがあり;このような場合、その効果の程度は、重合、乾燥、又は硬化時間に比べて、印刷された材料の粘度により依拠しており、高粘度の硬化の速い材料はより独立した幾何構造を維持し、一方で低粘度の硬化の遅い材料はその下の表面の形状に従う傾向がある。
【0119】
それにもかかわらず、重なりの被覆問題の解は、例えば図7に示すように、微粒子層(結合剤噴射)又は比較的滑らかな表面(材料噴射、マルチジェットフュージョン、アークプラズマ焼結、熱溶解積層)上への印刷から得られた軌跡形状を有し、これらの材料堆積方法において使用することで好ましい効果を得られる。その理由は、印刷された軌跡の体積がほぼ一定に保たれるからであり、これはAM軌跡幾何構造設定値にほぼ完全に依拠しており、また軌跡が印刷されるサーフェスの幾何構造には関係がなく、そして軌跡の形状が変更された場合でも変わらない。したがって、これらの印刷手順のための、被覆問題の解の単位セルにおける総体積(総面積)に対する重なりの体積(面積)の軌跡(軌跡断面)の比率は、空隙なしでセルの空間を満たすために付着させる必要がある結合剤及び/又は材料を有する溶液の過剰量の尺度として捉えることができる。
【0120】
軌跡を堆積させる中での毛管現象及び付着力は、先に印刷された軌跡間の空間の一部の充填を可能にするが、前述のように、印刷された軌跡の底部は、それらが印刷される表面に完全には一致しない。その結果、軌跡間の重なりを使用するが、重なりをあまり(過剰には)使用しないような被覆問題の良好な解を使用した走査軌跡の設計により、依然として、結合剤噴射及び同様の手順において非常に空隙率が低い未成熟の成形物(green articles)内での溶液に対する粒子(例えば、パウダー)の比率がより大きくなるか、材料噴射、熱溶解積層、アークプラズマ焼結、マルチジェットフュージョン、及び同様の手順において空隙の空間が減少する傾向がある。
【0121】
結合剤噴射では、結合剤を含む十分な溶液を、粒子間の空間の一部を充填するために堆積させなければならないが、必ずしも全てを充填する必要はなく、所定の幾何構造の軌跡のために堆積される溶液の量は、被覆問題の解における軌跡(軌跡断面)の体積(表面積)に正比例し得る。しかしながら、過剰な溶液は、焼結手順の一部であるいずれかの結合剤除去の工程の間に問題を引き起こす可能性があることに加えて、未成熟の成形物(green article)内の微粒子の密度を低下させ、したがって、焼結中の収縮を増加させるか、又は焼結された部分(part)の空隙率を増加させる。
【0122】
その結果、粒子間の空間が十分に充填されることを保証するために、(前述の理由で)重なりを使用する走査方式が必要であるが、被覆問題の良好な解から設計された走査方式であれば、必要最小限の重なりを低減することができ、それによって、焼結中の部分の収縮及び/又は焼結した部分の空隙率を低減する。材料噴射、熱溶解積層、マルチジェットフュージョン、アークプラズマ焼結、及び同様の手順では、重なりが再び必要となり、この場合、(未成熟のもの(green)と、手順の一部である焼結したもの両方の)印刷された成形物内の空隙の減少を確実にすることを助けるが、過剰な重なりは、材料の重なり及び/又は結合剤噴射について述べたものと同様の他の問題を引き起こし得る。
【0123】
走査方式の作成又は使用において過剰な重なりが使用される場合に発生し得る問題の分かりやすい典型例が、図8図9に見られる。図8は、熱可塑性高分子を使用する材料噴射手順(熱溶解積層)を使用して印刷された立方体の断面画像であり、層nの単一形状の軌跡が400μmの間隔で並んで配置され、層n+1では、同じ手法及び軌跡形状が使用されるが、軌跡は層nに対して90度回転している。図8は、機械のノズル速度、温度、及び材料の押出速度などの設定値を使用して印刷された部分の画像であり、機械的な問題を発生させることなく印刷機で部分を印刷し、幾何学的に比較的正確な部分を生成し、表面粗さを最小化するように最適化されている。これらの設定では、印刷された立方体の空隙率は約8%になる。図9は、同じデジタルキューブ(digital cube)(画像は図8に対して90度回転している)の断面画像であるが、1つの設定変更、すなわち、より大きく、時には非円筒形の軌跡をもたらす押出材料の体積の増加を伴って印刷されている。印刷が失敗したのは、押し出された材料が多すぎるためにノズルが成形物に対してこすれてきたためで、これは被覆の問題の観点からは過剰、つまり“過度な”重なりとして見ることができる。図9に見られるように、部分の縁と表面は、幾何学的観点及び表面粗さの観点からも仕様から大きく外れており、当該部分は、その縁から離れたところで平均7%の空隙率を示した。
【0124】
このような問題は、実施例1及び実施例2に記載されているように、複数の幾何構造の走査軌跡が使用される場合に軽減される。2つの軌跡幾何構造を利用する走査方式を使用することを除いて、図9と同じ印刷設定値を使用すると、印刷の失敗、幾何学的公差の損失、又は表面粗さの増加なしに、実質的に空隙率を減少させることができる。図10及び図11は、実施例1及び実施例2において説明され、図8図9に示す同じデジタルキューブの横断面画像であり、それぞれ2つの軌跡幾何構造を使用した2つの異なる走査方式で印刷されている。図12に示す軌跡は、図10及び図11にて配置された軌跡幾何構造を代表しており(しかしながら、図12では、各種類の軌跡に対する材料の体積押出速度は、軌跡幾何構造が明確に識別可能である画像を生成するために、比例的に縮小されている)。図10及び11に示す立方体について測定された空隙率はそれぞれ0.2%及び2.3%であり、デジタル画像に対する立方体の幾何学的精度及び表面粗さは、図8に示す8%の空隙率の立方体と比較して改善されており、使用される複数軌跡の幾何構造による方法の利点を明確に表している。
【0125】
これまで議論してきた被覆最適化問題は拡張することができ、例えばAM軌跡幾何構造設定値に依拠する物体の幾何構造及び大きさが固定ではなく可変であるように、及び/又は基底の組み合わせ内の物体の数及び供給原料が変更可能であるようにしてもよい。このような拡張された問題は、好ましい又は最適な走査経路だけでなく、好ましい又は最適なAM軌跡幾何構造設定値、及びこれら2つの間の関係を明らかにする。拡張された問題にはまた、追加的な制約、例えば、印刷機の能力及び融着する粒子又はスラリーを物理的性質に応じて設定値{Pj}を制限する制約、又は多種の原材料の問題における異なる材料の比を固定するという制約が含まれる場合がある。このような問題では、AM軌跡幾何構造設定値の種々の値で各供給原料の軌跡幾何構造の知識が重要である。
【0126】
問題に対する任意の解が決まると、物体の幾何構造(軌跡又は軌跡断面)とその位置に基づいて、その解から走査方式を選ぶことができる。走査方式を選ぶために、印刷機は、軌跡を生成する際に、設定値の組み合わせ{Pj k}であって当該設定値の組み合わせを有する解の中で物体Oj,kに対応するもので印刷する必要がある。走査経路は印刷ヘッドが配置されなければならない場所並びに/又はエネルギー及び/若しくは材料の堆積が生じなければならない場所によって定義され、これにより物体Oj,kに近似するものの形成(又はその押し出し、軌跡断面の場合)を当該解におけるその位置で行うことができる。エネルギー堆積について最も単純に言えば、これは物体の中心点として定義され得るが、エネルギー堆積と材料堆積の両方の場合、特定の位置、特に、積層方向において、変化し得るので、以下にさらに説明する。一例として、材料を堆積する印刷ヘッドを製造される成形物の表面上の軌跡数個分の高さに配置して軌跡を形成する必要があり、これを図2に一例として示す。
【0127】
所望の空間を被覆するように単位セルを複製することにより、解を任意の空間の大きさにわたって拡張することができる。この概念の実証は、図7及び図13に示す被覆解で行われる。成形物の外側表面に関して、任意の輪郭の走査を決めることで拡張された解によって被覆される空間を縁取ることができ、これは所定の層内の成形物又は断片の横方向の範囲が単位セル内の物体の1つと少なくとも同じ大きさである限りは、解が成形物の幾何構造又は断片の幾何構造に依拠しないことを意味している。この概念を図14に示す。
【0128】
解から層を定義することには柔軟性があり、単位セル内の全ての物体が単一の層内で形成されるわけではない。より具体的に言えば、層を定義する必要はないということであり、場合によっては上下の層とは異なる正味の変位量を有していてもよく、それは立体配置rj,kを有する全ての物体に対して、積層方向において同じ変位量で落ち込んだ物体の空間位置に新しい層を割り当てることで行ってもよい。図7及び図13に示す被覆の解に対する層の定義の例は、断片厚一定の走査方式(AM軌跡幾何構造設定値が一定の正味の変位量を示す)を可能にするものであり、図15に示している。この例では、単位セルを再定義することで走査方式の実施を単純化しており;被覆の解は変更していない。
【0129】
また被覆問題の解の上で連続する層内の走査軌跡は軌跡断面の物体によって示唆される配向に従う必要はない。例えば、図16は被覆問題の解から導き出される走査方式の経路-接線断面を描写したものであり、粉体層融着又はレーザー焼結手順を使用して異なるAM軌跡幾何構造設定値から生成される2つの異なる物体を含む単位セルが示されており、軌跡の3つの層が示されているがこれらの軌跡は断面平面において全て平行である。しかしながら、この場合、各層に印刷された走査軌跡の表面の高さのばらつきが小さい等の理由から、各層ごと、2層ごと又はn層ごとに回転させることが望ましい。図17は、層nに対して層n+1において回転が生じた2つの連続する層を平面視した図を示す。図16に示された被覆問題の解のために、隣接する走査軌跡を時系列順に印刷することはさらに必要ではなく;多くの手順では、最初に小さい軌跡を1層で印刷し、次に大きい軌跡を印刷することが好ましい。さらに、図17に示すように、軌跡が直線である必要はなく;任意の輪郭又は経路を使用できる。例として、図18a~cは、中心点の周りに3層の走査が円形対称で印刷される方式を示し、また図18dは、図18cに示す一点鎖線に沿った3層の経路-接線断面画像であり、実際に同じ被覆問題の解が使用されることで図29に示すような図18a-cの方式が導き出されることを示す。
【0130】
単位セルの角度方向を選択することで層を定義することが時々必要になるが;物体の角度方向は、印刷ヘッドの相対位置並びに/又はエネルギー及び/若しくは材料の堆積の方向性に従って固定でき、それによって単位セルの角度方向を固定できる。セルの角度方向は、非ユークリッド幾何構造によって解かれた被覆問題の場合、又は他の場合でも固定される。それにもかかわらず、問題の解の中に方向に関する制約が課される場合であっても、特定の物体が印刷される層を選択する選択肢のあることがあり、この選択は、異なるセルに現れる同じ基底物体において異なる可能性がある。
【0131】
重要なのは、異なる幾何構造の物体Oj,kが同じ層内に表示される場合や、特定の層が1つの幾何構造の様式の物体のみで立体配置される場合である。図13に示す例では、物体の角度方向はレーザーの位置に従って固定され、単位セルは3つの異なる層に由来する物体を最も単純に含んでおり、これはセルの中心にある3つの異なる基底物体の垂直方向の積層によるものであり(図15では、走査方式をより簡単に定義するために、5つの層が定義されている。)、交互になった層は1種類のみの物体又は異なる2種類の物体を軌跡断面に含んでおり、小さい物体は2つの種類の軌跡断面を呈する物体であって、鏡像となっており、この例では、それらが印刷される異なる表面幾何構造によるものとなっている。
【0132】
AM軌跡幾何構造設定値の複数の組み合わせを使用して印刷された物体を有する走査方式では、層間で又は2,3...若しくはn層ごとに軌跡方向を回転できる。一例として、図19は2層ごとに約90度回転する走査方式における走査軌跡の概略図を示すが、これは図7bに示す被覆問題の解から導き出されるものである。回転角度は、所望の印刷成形物の特性に適合するように、又は所定の空隙率を維持して処理量を改善するように、又は他の理由で選択することができる。さらに、軌跡は、図19に示すように直線である必要はなく、層の表面内の任意の方向の平行経路でもよく、例えば図18に示す円形の模様を含む。
【0133】
被覆問題に対する全体的な解は、好ましい走査方式を生成するために必要ではなく;局所的に最適であるか、又は局所的に最適な解から導き出された被覆が、成形物の目標とされる機械的特性又は他の要件に応じて、さらに好ましい場合がある。例えば、局所的に最適な被覆問題の解には、物体の境界付近の空間の領域又地点であって1つの物体だけで被覆されるものがよくある。走査及び軌跡に基づく印刷方法がそれらの局所的幾何構造において確率的に変化する軌跡を生成する傾向があるという事実があるため、物体の境界付近又は境界上の空間の領域又は地点であって一度だけ被覆されるものは印刷中に粉末又はスラリーの融着の欠如が起こり得る領域又は地点になる可能性がより高い。したがって、そのような融着の欠如した領域がより少ない場合、又は同様に、成形物の空隙率がより低いことが望まれる場合、これらの領域における重なりを増加させることが望ましい場合がある。
【0134】
これを実現するのは容易であり、単位セルの単純な拡大縮小によって、又は拡大縮小と物体位置のわずかな再調整との組合せによって、又は物体の面積又は体積を増加させることが知られている方法で特定の物体の軌跡幾何構造設定値{Pj i}kを変更することによって、又はこれらの方法の全て又は他の方法の組合せによって行うことができる。図20は、図7に示す例についてのそのような手法を示す。図20aでは、AM軌跡幾何構造設定値を固定したまま平行線間隔を小さくすることで、単位セルを平行線間隔方向に縮小している。図20bでは、印刷速度(AM軌跡幾何構造設定値)はより小さい物体に対して低くしており、その結果そのような物体はより深くより広くなり、これらのより小さい物体はセル内でさらにいくぶん低く再配置されるため所定のAM軌跡幾何構造設定値及び物体相対位置を与えられた軌跡の形成に対してより正確に反映される。
【0135】
セルは物体と同様に拡大縮小でき、特に、格子が定義されている空間の幾何構造が湾曲しているか、拡大縮小されている場合に有効である。図21は印刷された軌跡の断面画像の例であり、球形幾何構造を有し湾曲し拡大縮小化された空間上の単位セルを使用して導き出された被覆問題の解に沿っており、材料噴射、熱溶解積層、アークプラズマ焼結、マルチジェットフュージョン、結合剤噴射又は同様の手順を使用している。図の場合、各単位セルは、中心点からの半径距離rに応じて湾曲しており、球中心から遠い単位セルほど、中心点に近い単位セルよりも面積(又は体積)が大きい。これは、断片や層と同様の球状幾何構造を意味する。この場合の軌跡は、セルと同様に径方向の距離に従って大きさを拡大縮小できるし(又は潜在的に)(AM軌跡の幾何構造設定値を変更する必要がある)、大きさと幾何構造を一定に保てる。
さらに、軌跡は、曲線状又は直線状の輪郭にしたがって進んでもよく、例えば、中心点を通過してその最高点に至る軸の周りを進むか、又はページに対して交差する直線上を進むが、積層方向には球の表面の円弧に沿って進む。
【0136】
異なる幾何構造の平均の目標を有する軌跡を組み込む走査方式は、例えば印刷機、AM軌跡幾何構造、供給原料、及び他の設定値を変更することによって作成され、幾何構造の平均の単一の目標を使用して生成されるものとは基本的に異なる組成の成形物が得られる。材料の観点から見ると、走査軌跡は様々な物体であり、それらは軌跡の表面近傍を基本として異なる結晶学的(あるいは無秩序であり、連結されている)構造及び化学組成を示す傾向があり、これらは、冷却速度、分子拡散速度、高分子の結合特性、ガス吸収速度などの違いによる。さらに、それらの表面が印刷機の雰囲気(又は真空に近い)に曝されるので、軌跡の中心と比較して、軌跡の表面は、より多くの酸化物、窒化物、炭素化合物、及び不純物を形成する傾向があり、これは比較的不活性な雰囲気、例えば99.99% N2、Ar、又は他の不活性ガスのような雰囲気、及び真空に近い雰囲気においても起こる。これらの結果として、また他の違いの結果として、異なる軌跡断面の軌跡が、形成された成形物の機械的、熱的、電気的、及び他の物理的特性に違いを生じる。
【0137】
異なる走査方式及び軌跡の幾何構造によって生成される微視的構造及び巨視的構造の相違はいくつかの手順に沿って印刷された種々の材料について図12及び図22~27中に視覚的に示す。図22の経路接線断面像は、酸を使用してエッチングすることで結晶粒及び軌跡境界構造を明らかにした、レーザー粉末床溶融結合の手順で印刷された鋼の単層であり、レーザー出力250W、平行線間隔140μm、レーザー走査速度1046mm/sで、ほぼガウスビーム強度プロファイルを有し、F-シータレンズによって形成された、ビームウエスト約55μmのものを使用している。これは図23~25と比較することができ、それらの中では同じ粉末及び手順を使用して印刷されているが、異なる走査方式を使用しており;図23は、米国特許第6,596,224号及び同第6,677,554号で説明されている「差し込み(interleaved)」方式の2層の画像であり;図24は、図16で説明した被覆問題の解に基づく方式の単層の画像であり;図25は、より大きな軌跡とより小さな軌跡の層を交互にしている方式の2つの層の画像であり、連続する各層の軌跡が先の層の軌跡の間にほぼ印刷される。
【0138】
軌跡の方向と軌跡の大きさは成形物の巨視的な特性に大きな影響を与える。例えば、常にX方向又は負のX方向にある走査経路を有する軌跡による成形物と、X、Y、負のX、及び負のY方向の間で回転する走査経路を有する軌跡から成形物とを比較すると、前者の成形物は後者の成形物と異なり、Y方向と比較したときにX方向において大きく異なる機械的特性を示し、この中には延性及び引張強さを含むが、それらに限定されない。これは、熱特性及び電気特性についても同様である。
【0139】
幾何構造の平均の目標が異なる軌跡を組み込んだ走査方式を、成形物の機械的、電気的、熱的、及び他の物理的特性に影響を与えることを目的として設計してもよい。より全般的に言えば、そのように設計された走査方式を利用することで、冶金学的及び微細構造的観点で基本的に異なる組成の成形物が得られ、成形物の物理的特性に影響を与えられる。このような組成の変化が好ましい場合がある。例として、図7、16及び29において、層ごとに高さが異なる軌跡断面を有する軌跡を使用することで、同じ幾何構造の軌跡を有する成形物と比較して、Y方向のせん断強度が向上した成形物が得られる。これは、後者の場合には、Z方向における層の間の明瞭なコントラストは、各層の間のせん断面を生じるが、前者ではコントラストが低減しており生じないからである。
【0140】
一例として、図26の軌跡の半分に接し、残りの半分に垂直な断面の断面画像であり、鋼粉末により印刷された部分であり、図25に示す軌跡を形成したものと同様の軌跡の設定を有する。この場合、2つの層が平行な(又は逆平行の)軌跡で印刷され、第1の層はより遅い走査速度によって生成されたより大きな軌跡を有し、また第2の層はより速い走査速度によって生成されたより小さな軌跡を有しており; 同様の方法で、軌跡を最初の2つの層に対して90度回転させて、さらに2つの層を印刷する。この手順が繰り返される。実施例3aでは空隙率の差について説明しており、これはレーザー出力、平行線間隔、ビームウエスト、及び単位質量当たりの堆積された総エネルギーが等しくなるように印刷しているが、3つの異なる走査軌跡方式を使用することによって得られるものであり、図26に微細構造が示されている複数軌跡の幾何構造の方式を使用することによって空隙率が実質的に減少することを示している。図32は、3つの異なる方式を用いて印刷された部分の画像からなり、空隙率の違いを視覚的に示している。実施例3bでは、米国特許第6,596,224号及び第6,677,554号に記載された単一軌跡方式に従って印刷されたクーポンと、図25及び図26に示された複数軌跡方式に従って印刷されたクーポンとの間の機械的特性の相違を説明している。異なる方式で印刷されたクーポン間で空隙率が類似しているにもかかわらず、軌跡の幾何構造が変化する方式を使用すると、降伏強さ、極限引張強さ、及び破断伸びの実質的な増加が見られる。図26及び図25は、軌跡の可変する幾何構造の方式によって製造される物質の組成を明確に示すものであり、材料の巨視的構造及び微視的構造における相違を表す画像によるものであり、単一の軌跡の幾何構造の方式によって製造される部分と比較するものであり、また実施例3bは、軌跡の可変する幾何構造と単一の軌跡の幾何構造との間の機械的特性の相違を明確に示す。
【0141】
実施例4は、粉体層溶融機で印刷する場合に見られる空隙率の減少を説明しており、図16に示す被覆問題の解から導き出される複数軌跡方式を使用するものであり、単一軌跡方式を使用する印刷と比較している。図27aは、図Fで用いた2軌跡の幾何構造の方式と同様の方式を使用してアルミニウム合金中に形成された組成物の画像であり、図27bと比較して見るものであり、図27aに示された組成物と同じレーザー出力、平行線間隔、及び単位質量当たりの堆積エネルギーの合計を使用して形成したが、ビームウエスト及び走査軌跡が異なる部分の画像であり、単一軌跡方式と複数軌跡方式における巨視的構造及び微視的構造の違いをさらに視覚的に示している。実施例6では、図27aに示す複数軌跡方式を利用するアルミニウム合金における機械的特性及び空隙率に対する利点を図27bに示す単一軌跡方式と比較しながら説明する。図28は、ニッケル超合金での印刷について2つの単一軌跡方式及び1つの複数軌跡方式の間の空隙率、巨視的組織及び微視的組織における相違を視覚的に示すものであり、やはりレーザー出力、平行線間隔、ビームウエスト、及び単位質量当たりの堆積された総エネルギーを同一とするが、走査軌跡は異なるものである。図28に示すように、実施例5では空隙率の差が生じたことを説明する。
【0142】
複数の印刷手順、材料一式、単一軌跡及び複数軌跡走査方式を考慮して、複数軌跡で組成物が製造されることで、単一軌跡方式を用いて製造された部分と比較して様々な利点がある。印刷設定値を変更して複数軌跡の組成物を製造することは、物理的特性の改善及び製造特性の改善が見られ、例えば同等の空隙率でより高速に製造することで機械処理量が向上するが、これは様々な層及び軌跡に基づく製造手順として明らかに望ましい手法であるといえる。
【0143】
<正味の変位量とは異なる材料の厚みを使用する。> 前述したように、材料の厚みと正味の変位量は、一般に同じ概念と考えられ、断片の厚みとともに、層厚と呼ばれる。しかしながら、各種の印刷機を適切に制御することで、材料(粉末)の厚み及び正味の変位量を個別に制御できる装置となる。正味の変位量に対して異なる材料厚みを使用する場合の例は、製造される成形物の特性に有利であり得るが、種々の印刷方法にわたって多数存在する。好ましい使用のいくつかのそのような例は、以下の通りであるが、以下の列挙は包括的な列挙ではない。
【0144】
結合剤噴射又は同様の手順において、層中に堆積したときに完全には固化していない粉末を考慮する。結合剤を含む溶液の付着時の集約(consolidation)に関わる要素によって、付着した粉末の厚みが正味の変位量よりも大きくなる場合、溶液に対して粉末の割合がより大きい未成熟の部分(green part)が生じる。堆積後のこのような集約(consolidation)が起きるのは、例えば、溶液が軌跡を形成するために粉末粒子上に堆積される際、溶液の表面張力が粉末粒子を軌跡中心に引き寄せる傾向がある時である。粒子の集約が起きるのは、軌跡内の溶液の部分的な蒸発の間に粒子を軌跡中心に引き寄せる表面張力による場合、若しくは軌跡に対する加熱又は他のエネルギー処理による場合、又は他の理由がある。軌跡内に堆積される溶液の量が固定され、粉末の厚みが正味の変位量に対して増加すると、その結果、懸濁された後にさらに固化する粒子を含む粉末層において、溶液に対する粉末粒子の濃度が高くなる。
【0145】
粉末床溶融結合又は同様の手順では、軌跡の幾何構造(及び軌跡断面)は、粉末の厚みに依拠する。これはまた材料噴射手順でもあり得ることであり、その中では原料が硬化、固化し、又はエネルギー源若しくは他の原料液(material agent)に暴露することで硬化又は固化する。したがって、粉末厚みを変更することにより、印刷速度を特に変更することなく、軌跡幾何構造を変更することができる。さらに、空隙は層の特定の領域における粒子の不足に起因し、その不足は隣接する軌跡、不均一な積層、又は他の理由に起因する可能性があるが、粉末を単純に追加することで正味の変位量よりも厚い粉末層が得られれば軽減できる。すなわち、正味の変位量よりも厚い粉末層を利用することで、軌跡形成において変数が制御されないため(確率論的に)生じる細孔を低減できる。
【0146】
図29は、被覆問題の解から設計された走査方式の説明図であり、軌跡の物体の幾何構造及び大きさを複数とすること、正味の変位量を複数とすること、軌跡の印刷の順序を互い違いにすること、並びに単一の層内での正味の変位量以上の材料厚みを複数とすることを、層に応じて行っている。この方法は、何らかの修正を加えて、任意の印刷手順に適用することができるが、この場合、軌跡断面の幾何構造は、粉末床溶融結合、レーザー焼結、又は可能であれば結合剤噴射の手順に用いるAM軌跡幾何構造設定値で形成された軌跡を反映するものとなる。
【0147】
粉末床溶融結合又は同様の手順では正味の変位量に対してより薄い粉末層が好ましい場合もある。軌跡(及び軌跡断面)の幾何構造の特徴はAM軌跡の幾何構造及び供給原料の設定値に依拠するが、設定値を用いることで、より薄い粉末層を使用することにより、正味の変位量の厚みに等しい厚みの粉末層と比較してより深さが大きく及びより幅が狭い軌跡が得られるようにすることが多い。
【0148】
平行線間隔が十分に小さいが、連続する層が完全に融着されることを確実にするには層間の融着及び再融着が不十分である場合には、軌跡幅を減少させながら軌跡深さを増加させることが空隙率を減少させる上で好ましい。
【0149】
図30は、同じ単一軌跡走査方式を使用して鉄が印刷された部分の断面画像の比較であるが; 図30aに示す部分では、材料の厚みと正味の変位量は両方とも50μmであり、図30bに示す部分では、正味の変位量は50μmであるが、粉末の厚みは60μmである。部分の空隙率、巨視的組織及び微視的組織の改善が明確に見られ: 実施例7は、空隙率の向上を定量的に説明している。図31は、同じ複数軌跡走査方式を使用してアルミニウムが印刷された部分の断面画像の比較であるが; 図31aに示す部分では、材料の厚みと正味の変位量は両方とも50μmであり、図31bに示す部分では、正味の変位量は50μmであるが、粉末の厚みは60μmである。部分の空隙率、巨視的組織及び微視的組織の改善が見られ: 実施例8は、空隙率の向上を定量的に説明している。
【0150】
例:
【0151】
以下の全ての例において、使用される標準偏差は、特に指定のない限り、1回の造形中に造形用台座上の異なる場所にて造形された複数の部分又はクーポンについて計算されたものである。
【0152】
例1. この実施例では、それぞれ異なる印刷設定値を有する3つの20 mm立方体を印刷するために、単一の400μmのノズルとポリ乳酸を主成分とする熱可塑性高分子供給ワイヤーとを有する熱溶融積層印刷機を介した材料噴射を展開する。図26に示す方式に沿って、各立方体が異なる押出体積比設定で印刷される点を除いて同一の印刷機設定を有する単一軌跡走査方式(single track scan strategies)を2つの立方体に使用し、2つの押出体積比設定の間の入れ替わりが連続する軌跡を印刷するために使用される結果、2つの別個の走査の軌跡幾何構造が得られる点を除いて単一軌跡方式と同じ設定値設定を有する複数軌跡走査方式(multi-track scan strategy)を1つの立方体に使用する。この例では、各種類の立方体が1つだけ印刷されており;したがって、空隙率の標準偏差は、立方体内の異なる位置で撮影された複数の画像にわたって測定されたものである。質量に対して与えられる標準偏差は、精密秤の再現性の尺度である。
【0153】
単一軌跡型立方体(Single Track Cubes):
【0154】
図8及び9は、Prusa i3装置上で以下の印刷機設定(及びここに記載されていないもの)を使用して印刷された、単一軌跡幾何構造立法体(single track geometry cubes)の断面画像である:
【0155】
床温:40 ℃
押出機温度:190 ℃
ファン出力:100 %
送り速度(すなわちヘッドの動き速度):1800 mm/秒
平行線間隔(hatch spacing):400μm
ノズルの直径:400μm
層厚:200μm
立方体1の押出体積比:0.35
立方体2の押出体積比:0.52
【0156】
立方体1の空隙率の測定値は8%±0.6%、総質量8.704g±0.005g;立方体2の空隙率は端から離れたところで7%±1.3%、総質量3.071g±0.005g、主な原因は、造形の失敗により印刷が完了せず、「立方体」の約36%しか印刷されなかったことである。
【0157】
複数軌跡型立方体(Multi-Track Cube):
【0158】
図11は、Prusa i3装置上で以下の印刷機設定(及びここに記載されていないもの)を使用して印刷された、複数軌跡幾何構造立法体(multi-track geometry cube)の断面図である:
【0159】
床温:40 ℃
押出機温度:190 ℃
ファン出力:100 %
送り速度(すなわちヘッドの動き速度):1800 mm/秒
平行線間隔(hatch spacing):400μm
ノズルの直径:400μm
層厚:200μm
小さい方の軌跡の押出体積比:0.31
大きい方の軌跡の押出体積比:0.63
【0160】
複数軌跡型立方体の空隙率の測定値は2.3%±0.2%、総質量9.260g±0.005g。データから明らかなように軌跡用に押し出される材料の量は押出体積比の設定に対して比例するものではない;しかしながら複数軌跡方式を実施した結果は明快であり:幾何構造部分の精度を犠牲にしたり表面粗さを増加させたりすることなく空隙率が実質的に減少した。
【0161】
例2. それぞれ異なる印刷設定値を有する3つの20 mm立方体を印刷するために、単一の400μmノズルとポリ乳酸を主成分とする熱可塑性高分子供給ワイヤーを有する熱溶融積層印刷機を介した材料噴射を展開する。図16に示す方式と図Dの例示に沿って、各立方体が異なる押出体積比設定で印刷される点を除いて同一の印刷機設定を有する単一軌跡走査方式(single track scan strategies)を2つの立方体に使用し、2つの押出体積比設定の間の入れ替わりが連続する軌跡を印刷するために使用される結果、2つの別個の走査の軌跡幾何構造が得られる点を除いて単一軌跡方式と同じ設定値設定を有する複数軌跡走査方式(multi-track scan strategy)を1つの立方体に使用する。この例では、各種類の立方体が1つだけ印刷されており;したがって、空隙率の標準偏差は、立方体内の異なる位置で撮影された複数の画像にわたって測定されたものである。質量に対して与えられる標準偏差は、精密秤の再現性の尺度である。
【0162】
単一軌跡型立方体(Single Track Cubes):
【0163】
図8及び9は、Prusa i3装置上で以下の印刷機設定(及びここに記載されていないもの)を使用して印刷された、単一軌跡幾何構造立法体(single track geometry cubes)の断面画像である:
【0164】
床温:40 ℃
押出機温度:190 ℃
ファン出力:100 %
送り速度(すなわちヘッドの動き速度):1800 mm/秒
平行線間隔(hatch spacing):400μm
ノズルの直径:400μm
層厚:200μm
立方体1の押出体積比:0.35
立方体2の押出体積比:0.52
【0165】
立方体1の空隙率の測定値は8%±0.6%、総質量8.704g±0.005g;立方体2の空隙率は端から離れたところで7%±1.3%、総質量3.071g±0.005g、主な原因は、造形の失敗により印刷が完了せず、「立方体」の約36%しか印刷されなかったことである。
【0166】
複数軌跡型立方体(Multi-Track Cube):
【0167】
図10は、Prusa i3装置上で以下の印刷機設定(及びここに記載されていないもの)を使用して印刷された、複数軌跡幾何構造立法体(multi-track geometry cube)の断面図である:
【0168】
床温:40 ℃
押出機温度:190 ℃
ファン出力:100 %
送り速度(すなわちヘッドの動き速度):1800 mm/秒
平行線間隔(hatch spacing):400μm
ノズルの直径:400μm
層厚:200μm
小さい方の軌跡の押出体積比:0.34
大きい方の軌跡の押出体積比:0.69
【0169】
複数軌跡型立方体の空隙率の測定値は0.2%±0.06%、総質量9.440g±0.005g。データから明らかなように軌跡用に押し出される材料の量は押出体積比の設定に対して比例するものではない;しかしながら複数軌跡方式を実施した結果は明快であり:幾何構造部分の精度を犠牲にしたり表面粗さを増加させたりすることなく空隙率が実質的に減少した。
【0170】
例3. この実施例では、粉末床溶融結合で印刷した部分(parts)の空隙率及び機械的特性の結果を、実施例3aのd50が18μmのものと、実施例3bのd50が45μmのものとの2つの316Lステンレス鋼粉末について表す。3つの方式(2つの単一軌跡型、1つの複数軌跡型)の各々に対して4つの1 cm空隙率立方体を、実施例3aに記載した印刷設定を用いて印刷し、2つの方式(1つの単一軌跡型、1つの複数軌跡型)の各々に対して3つの長さ7.5 cm(2.5 cmゲージ)のドッグボーン型引張クーポン(dogbone tensile coupons)を、実施例3bに記載した印刷設定を用いて印刷する。実施例3aの単一軌跡型の手法では、図32c及び32bに示す走査方式を展開し、複数軌跡方式では、図32aに示す走査方式を展開する。実施例3bにおける単一及び複数軌跡方式のための走査経路は、それぞれ図32cと32aと示されたものと同様である。
【0171】
例3a.空隙率
【0172】
単一軌跡型立方体(Single Track Cubes):
【0173】
レーザー出力:252 W
平行線間隔(hatch spacing):140μm
ガウスビームウエスト(Gaussian Beam Waist):55μm
正味の変位量(Net Displacement):50μm
粉体の厚み(Powder Thickness):50μm
走査速度:1190 mm/秒
【0174】
図32bに示す方式に沿って印刷された立方体で測定した平均空隙率は0.56%±0.073%、図32cに示す方式に沿って印刷された立方体では1.127%±0.147%である。
【0175】
複数軌跡型立方体(Multi-Track Cube):
【0176】
レーザー出力:252 W
ガウスビームウエスト(Gaussian Beam Waist):55μm
平行線間隔(hatch spacing):140μm
正味の変位量(Net Displacement):50μm
粉体の厚み(Powder Thickness):50μm
走査速度比:1.6
【0177】
図32aに示す方式に沿って印刷された立方体で測定した平均空隙率は0.231%±0.030%であり、単一軌跡方式の多孔率よりもはるかに低い。この場合、3つの方式の全てにおいて印刷された立方体の単位質量当たり堆積されたエネルギー(及び合計印刷時間)は同一であることから、同じエネルギー入力及び印刷時間に対して複数軌跡方式であれば実質的に低い空隙率を提供できることが明確に分かった。別の角度において、エネルギー入力、及びその結果としての印刷時間は、上述の複数軌跡方式を使用することで、生成された立方体の空隙率を単一軌跡方式の1つの空隙率と等しくすることで低減することができた。この場合、同じ空隙率がかなり高速の印刷速度でもたらされるため、複数軌跡方式の間で比較される場合もあるが、複数軌跡方式の処理量は実質的に増大する。
【0178】
例3b.機械的特性
【0179】
単一軌跡型引張バー:
【0180】
レーザー出力:252 W
平行線間隔(hatch spacing):140μm
ガウスビームウエスト(Gaussian Beam Waist):55μm
正味の変位量(Net Displacement):50μm
粉体の厚み(Powder Thickness):50μm
走査速度:1066 mm/秒
【0181】
複数軌跡型引張バー:
【0182】
レーザー出力:252 W
平行線間隔(hatch spacing):140μm
ガウスビームウエスト(Gaussian Beam Waist):55μm
正味の変位量(Net Displacement):50μm
粉体の厚み(Powder Thickness):50μm
走査速度比:1.6
【0183】
単位質量(及び合計印刷時間)当たりで堆積したエネルギーは、印刷した単一軌跡型と複数軌跡型バーの両方で同じであった。造形室(build chamber)内の全てのバーの向きは同じであり、回転前の走査経路の方向は同じであった。しかしながら、単位質量当たりに堆積された全エネルギーは、実施例3aで印刷された立方体と比較して、実施例3bで印刷されたバーの方が大きかった。これは、バーの引張特性がほぼ同等の空隙率に基づいて比較できるように、単一幾何構造走査方式と複数軌跡型走査方式との間の空隙率の差をなくすのに役立つ。この目的に加えて、実施例3bにおいて印刷するために用意された粉末の変更では、実施例3aの立方体を印刷するのに比べて、さらなる空隙率の減少をもたらした。米国特許第6,596,224号及び第6,677,554号に記載されている「インターリーブ」方式にて印刷された単一幾何構造方式バーは、777MPa±10.5MPaの平均極限引張強さ、621MPa±12.9MPaの降伏強さ、及び22%±1.7%の破断伸びを示した。複数軌跡方式バーは、802MPa±4.0MPaの極限引張強さ、645MPa±16.5MPaの降伏強さ、及び36%±1.7%の破断伸びを示した。
【0184】
測定した機械的性質の結果から、複数軌跡方式は、同等の空隙率でも、複数の機械的性質に関して単一軌跡方式で印刷した部分(part)を超える物質の組成をもたらすことが明らかになった。信頼度の値を計算するためにWelchのt検定を行ったところ、96.94%の信頼度で極限引張強さが複数軌跡方式印刷バーについてより大きく、92.93%の信頼度で降伏強さが複数軌跡方式印刷バーについてより大きく、99.97%の信頼度で破壊への伸びが複数軌跡方式印刷バーについてより大きいことが分かった。したがって、複数軌跡方式によって生成された巨視的構造及び微視的構造は、機械的性質によって測定され、単一軌跡方式によって生成されたものとは異なる組成を生成することが明らかになった。
【0185】
例4. 実施例3bのバーの印刷に使用したものと同様の316Lステンレス鋼粉末から粉末床溶融結合印刷した部分(parts)の空隙率の測定結果を示す。2つの方式(1つの単一軌跡型、1つの複数軌跡型)のそれぞれに対して、以下に述べる印刷設定を用いて、4つの長さ1 cmの空隙率立方体を印刷した。単一軌跡方式のための走査経路は、図32cについて記載されたものと同様であり、複数軌跡方式は図16に示した被覆問題の解を基礎とし、図12の材料噴射について記載されたものと同様である。
【0186】
単一軌跡型立方体(Single Track Cubes):
【0187】
レーザー出力:252 W
平行線間隔(hatch spacing):120μm
ガウスビームウエスト(Gaussian Beam Waist):55μm
正味の変位量(Net Displacement):50μm
粉体の厚み(Powder Thickness):50μm
走査速度:1161 mm/秒
【0188】
複数軌跡型立方体(Multi-Track Cube):
【0189】
レーザー出力:252 W
平行線間隔(hatch spacing):120μm
ガウスビームウエスト(Gaussian Beam Waist):55μm
正味の変位量(Net Displacement):50μm
粉体の厚み(Powder Thickness):50μm
走査速度比:1.5
【0190】
単位質量(及び合計印刷時間)当たりで堆積したエネルギーは、印刷した単一軌跡型及び複数軌跡型の立方体の双方で同じであった。単一軌跡方式により印刷した立方体の平均測定空隙率は0.844%±0.110%であり、複数軌跡方式により印刷した立方体では0.580%±0.076%であった。Welchのt検定を行ったところ、複数軌跡方式で印刷された立方体は、単一軌跡方式で印刷された立方体と比較して空隙率が減少したことを99.46%の信頼度で示すことができ;この結果は、これら2つの方式で比較するための印刷について測定された他の結果と一致する。
【0191】
例5. 本実施例では、d50が21μmのニッケル超合金粉末から粉末床溶融結合印刷した部分(parts)の空隙率の測定結果を示す。1×1×0.5 cmの4個の空隙率クーポンが、以下に説明する印刷設定に基づき、3つの方式(単一軌跡型×2、複数軌跡型×1)の各々について印刷される。単一軌跡型の手法は図28b及び28cに示す走査方式で展開するし、複数軌跡方式は図28aで示した走査方式で展開する。全ての立方体について、単位質量当たりの堆積エネルギーと総印刷時間は同一であった。
【0192】
単一軌跡型立方体(Single Track Cubes):
【0193】
レーザー出力:269 W
平行線間隔(hatch spacing):140μm
ガウスビームウエスト(Gaussian Beam Waist):55μm
正味の変位量(Net Displacement):50μm
粉体の厚み(Powder Thickness):50μm
走査速度:1071 mm/秒
【0194】
図28bに示す方式、「差し込み(interleaved)」方式に沿って印刷された立方体について測定された平均空隙率、は0.497% ± 0.065%、図28cに示す方式に沿って印刷された立方体は0.691% ± 0.092%である。
【0195】
複数軌跡型立方体(Multi-Track Cube):
【0196】
レーザー出力:252 W
平行線間隔(hatch spacing):140μm
ガウスビームウエスト(Gaussian Beam Waist):55μm
正味の変位量(Net Displacement):50μm
粉体の厚み(Powder Thickness):50μm
走査速度比:1.6
【0197】
図28aに記載の方式に従って印刷された立方体について測定された平均空隙率は0.117% ± 0.015%であり、単一軌跡方式の場合よりもはるかに低い。展開された総印刷時間及びエネルギーが同一であったことを考えると、複数軌跡方式が構造及び効率の改善をもたらすという結論は明らかである。別の角度で見れば、上述の複数軌跡方式を使用して生成された立方体の空隙率をある単一軌跡方式の1つの空隙率と等しくすることで、エネルギー入力、及びその結果としての印刷時間を低減することができた。この場合、同じ空隙率がかなり高い印刷速度でもたらされ、それによって、複数軌跡方式の処理量の実質的な増加を伴うが、方式全体で比較可能な部分をもたらす。
【0198】
例6. 実施例6aのd50が32μm、実施例3bのd50が41μmの2つのアルミニウム合金(AlSi10Mg)粉末から粉末床溶融結合印刷した部分(parts)について、空隙率及び機械的性質の測定結果を示す。実施例6aに示す印刷設定を用いて、各方式、1つの単一軌跡方式及び1つの複数軌跡方式に対して、4つの1 cm空隙率立方体が印刷され、そして3つの長さ7.5 cm(2.5 cmゲージ付)のドッグボーン型引張クーポンが、実施例6bに示す印刷設定を用いて、2つの同様の方式(1つの単一軌跡方式と1つの複数軌跡方式)で印刷される。実施例6a及び6bの単一軌跡型の手法は、図27bに示す走査経路で展開し、ここで図27bは、実施例6aとして印刷された立方体の1つの断面画像であり、実施例6a及び6bの複数軌跡型の手法は、図27aに示す走査経路で展開し、図27aは、実施例6aとして印刷された立方体の1つの断面画像である。
【0199】
例6a. 空隙率
【0200】
単一軌跡型立方体(Single Track Cubes):
【0201】
レーザー出力:375 W
平行線間隔(hatch spacing):220μm
ガウスビームウエスト(Gaussian Beam Waist):46μm
正味の変位量(Net Displacement):50μm
粉体の厚み(Powder Thickness):50μm
走査速度:1311 mm/秒
【0202】
複数軌跡型立方体(Multi-Track Cube):
【0203】
レーザー出力:375 W
ガウスビームウエスト比(Gaussian Beam Waist Ratio):1.3
平行線間隔(hatch spacing):220μm
正味の変位量(Net Displacement):50μm
粉体の厚み(Powder Thickness):50μm
走査速度比:1.4
【0204】
図27bに示す単一軌跡方式に従って印刷された立方体の平均測定空隙率は1.211%±0.158%であり、図27aに示す複数軌跡方式に従って印刷された立方体の平均測定空隙率は0.663%±0.086%であり、単一軌跡方式の空隙率よりもはるかに低い。双方の方法で印刷された立方体の単位質量当たりで堆積されたエネルギー(及び合計印刷時間)は同一であり、複数軌跡方式は同じエネルギー入力及び印刷時間でも実質的に低い空隙率となることが明確になった。別の角度を言えば、上述した複数軌跡方式を使用することで得られた立方体の空隙率を単一軌跡方式の空隙率と等しくすることで、エネルギー入力、及びその結果としての印刷時間を低減することができた。この場合、かなり高速の印刷速度でも同じ空隙率を得ることができ、それによって、複数軌跡方式の間で比較可能な部分がもたらされるが、複数軌跡方式の処理量は実質的に増大する。
【0205】
例6b.機械的性質
【0206】
単一軌跡型の引張バー
【0207】
レーザー出力:375 W
平行線間隔(hatch spacing):180μm
ガウスビームウエスト(Gaussian Beam Waist):88μm
正味の変位量(Net Displacement):50μm
粉体の厚み(Powder Thickness):50μm
走査速度:1389 mm/秒
【0208】
複数軌跡型引張バー(Multi-Track Cube):
【0209】
レーザー出力:375 W
平行線間隔(hatch spacing):180μm
ガウスビームウエスト比(Gaussian Beam Waist Ratio):1.3
正味の変位量(Net Displacement):50μm
粉体の厚み(Powder Thickness):50μm
走査速度比:1.4
【0210】
この場合、単位質量当たりの堆積エネルギー及び総印刷時間は複数軌跡印刷方式では、単一軌跡方式に比べてそれぞれ3.3 %低かった。全てのバーは造形室(build chamber)内で同じ方向を向き、走査経路の方向は同じであった。単一軌跡方式のバーは、平均引張強さ386.6 Mpa±7.2 MPa、降伏強さ238.8 MPa±2.9M Pa、破断伸び3.63%±0.05%であった。複数軌跡方式のバーは、極限引張強さ373.9 MPa±15.3 MPa、降伏強さ234.4 MPa±11.5 MPa、及び破断伸び8.33%±3.37%であった。
【0211】
破断伸びの測定結果は、複数軌跡方式において、堆積されるエネルギー及び総印刷時間が低減されたとしても、単一軌跡方式で印刷された部分(parts)の破断伸びを超える物質の組成を生み出したことを示す。信頼度を計算するためにWelchのt検定を用いて,著者らは、異なる方式で印刷されたバーの極限引張強さと降伏強さがお互いの1つの標準偏差内に収まることを見出し,それらが区別できないことを示唆した;しかし、複数軌跡方式の印刷バーの方が破断伸びの大きいことが93.1%の信頼度で分かった。したがって、複数軌跡方式によって生成された巨視的構造及び微視的構造は、機械的特性によって測定され、単一軌跡方式によって生成される組成とは異なる好ましい組成を生成することが明らかとなった。この結果は、組成物と単一軌跡方式によって生成された部分との間の機械的特性を区別するものであり(単位質量当たりに沈着する保持エネルギーと印刷時間とはほぼ同等である)、複数軌跡方式の部分において良好な結果が得られたことは、他の比較試験の間でもまた見られる。これは、複数の軌跡幾何構造で行う方式で利用可能な最適化の位相空間が、単一の軌跡幾何構造を導入した方式で利用可能な最適化の位相空間よりもはるかに大きいためある。
【0212】
例7. 実施例3bの立方体の印刷に使用したものと同様の316Lステンレス鋼粉末から粉末床溶融結合印刷した部分(parts)の空隙率の測定結果を示す。2つの方式(正味の変位量と粉体の厚みとが相等しい単一軌跡方式、正味の変位量と粉体の厚みとが相異なる単一軌跡方式)のそれぞれについて、以下の印刷設定に基づき4つの1 cm空隙率立方体を印刷する。走査方式は図30に示す通りであり、単位質量(及び合計印刷時間)当たりの堆積エネルギーは両方法で同一であった。
【0213】
正味の変位量と粉体の厚みとが相等しい:
【0214】
レーザー出力:252 W
平行線間隔(hatch spacing):140μm
ガウスビームウエスト(Gaussian Beam Waist):91μm
正味の変位量(Net Displacement):50μm
粉体の厚み(Powder Thickness):50μm
走査速度:1004 mm/秒
【0215】
正味の変位量と粉体の厚みとが相異なる:
【0216】
レーザー出力:252 W
平行線間隔(hatch spacing):140μm
ガウスビームウエスト(Gaussian Beam Waist):91μm
正味の変位量(Net Displacement):50μm
粉体の厚み(Powder Thickness):60μm
走査速度:1004 mm/秒
【0217】
正味の変位量と粉体の厚みとが相等しい方式で印刷した立方体の平均測定空隙率は0.478%±0.062%であり、正味の変位量と粉体の厚みとが相異なる方式で印刷した立方体では0.206%±0.027%であった。Welchのt検定を適用したところ、正味の変位量と粉体の厚みとが相異なる方式で印刷された立方体は、相等しい正味の変位量と粉体の厚みとで印刷された立方体と比較して空隙率が減少したことの信頼度は99.94%であった。
【0218】
例8. d50が27μmのアルミニウム合金粉末から粉末床溶融結合印刷した部分(parts)の空隙率の測定結果を示す。2つの方式(正味の変位量と粉体の厚みとが相等しい1つの複数軌跡方式、正味の変位量と粉体の厚みとが相異なる1つの複数軌跡方式)のそれぞれについて、以下の印刷設定に基づき4つの1 cm空隙率立方体を印刷する。走査方式は、図31に示す通りであり、単位質量(及び合計印刷時間)当たりの堆積エネルギーは、両方の方式について同一であった。
【0219】
正味の変位量と粉体の厚みとが相等しい:
【0220】
レーザー出力:650 W
平行線間隔(hatch spacing):200μm
ガウスビームウエスト比(Gaussian Beam Waist Ratio):1.4
正味の変位量(Net Displacement):50μm
粉体の厚み(Powder Thickness):50μm
走査速度比:1.9
【0221】
正味の変位量と粉体の厚みとが相異なる:
【0222】
レーザー出力:650 W
平行線間隔(hatch spacing):200μm
ガウスビームウエスト比(Gaussian Beam Waist Ratio):1.9
正味の変位量(Net Displacement):50μm
粉体の厚み(Powder Thickness):60μm
走査速度比:1.9
【0223】
正味の変位量と粉体の厚みとが相等しい方式で印刷した立方体の平均測定空隙率は3.29%±0.43%であり、正味の変位量と粉体の厚みとが相異なる方式で印刷した立方体では1.79%±0.23%であった。Welchのt検定を適用したところ、正味の変位量と粉体の厚みとが相異なる方式で印刷した立方体は、相等しい正味の変位量と粉体の厚みとで印刷された立方体と比較して空隙率を減少したことの信頼度は99.82%であった。これは、アルミニウム合金粉末を用いた複数軌跡方式を利用する場合のことであるが、実施例7の鋼粉末を用いた単一軌跡方式の存在下でも同様であった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32