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特許7594909非水電解質、非水電解質蓄電素子、非水電解質蓄電素子の製造方法、及び非水電解質蓄電素子の使用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-27
(45)【発行日】2024-12-05
(54)【発明の名称】非水電解質、非水電解質蓄電素子、非水電解質蓄電素子の製造方法、及び非水電解質蓄電素子の使用方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20241128BHJP
   H01G 11/60 20130101ALI20241128BHJP
   H01G 11/64 20130101ALI20241128BHJP
   H01G 11/84 20130101ALI20241128BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20241128BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01G11/60
H01G11/64
H01G11/84
H01M10/0569
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020549402
(86)(22)【出願日】2019-09-26
(86)【国際出願番号】 JP2019038024
(87)【国際公開番号】W WO2020067370
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-06-28
【審判番号】
【審判請求日】2024-03-06
(31)【優先権主張番号】P 2018185531
(32)【優先日】2018-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(72)【発明者】
【氏名】岸本 顕
【合議体】
【審判長】岩間 直純
【審判官】山本 章裕
【審判官】須原 宏光
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-147740(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587, 10/36-10/39
H01G 11/60, 11/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水溶媒と、
電解質塩と、
ホウ素原子にジカルボキシレート基が結合したアニオンと
を含有し、
上記非水溶媒が、フッ素化環状カーボネート、及びトリフルオロメチル基を含む基を有するフッ素化カルボン酸エステルを含み、
上記フッ素化環状カーボネートがフルオロエチレンカーボネートであり、
上記フッ素化カルボン酸エステルが3,3,3-トリフルオロプロピオン酸メチル又は3,3,3-トリフルオロプロピオン酸メチルと酢酸-2,2,2-トリフルオロエチルとの組み合わせであり、
上記アニオンがジフルオロオキサレートボレートアニオンである非水電解質。
【請求項2】
上記非水溶媒における上記フッ素化環状カーボネートの含有割合が、1体積%以上20体積%未満である請求項に記載の非水電解質。
【請求項3】
上記非水溶媒及び上記電解質塩の総質量に対する上記アニオンの含有割合が、0.01質量%以上1.0質量%以下である請求項2に記載の非水電解質。
【請求項4】
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の非水電解質を備える非水電解質蓄電素子。
【請求項5】
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の非水電解質を非水電解質蓄電素子用容器に入れる工程を備える非水電解質蓄電素子の製造方法。
【請求項6】
通常使用時の充電終止電圧における正極電位が4.4V(vs.Li/Li)以上である請求項に記載の非水電解質蓄電素子の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質、非水電解質蓄電素子、非水電解質蓄電素子の製造方法、及び非水電解質蓄電素子の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池は、エネルギー密度の高さから、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等に多用されている。上記非水電解質二次電池は、一般的には、セパレータで電気的に隔離された一対の電極と、この電極間に介在する非水電解質とを有し、両電極間でイオンの受け渡しを行うことで充放電するよう構成される。また、非水電解質二次電池以外の非水電解質蓄電素子として、リチウムイオンキャパシタや電気二重層キャパシタ等のキャパシタも広く普及している。
【0003】
このような非水電解質蓄電素子に用いられる非水電解質について様々な検討がなされている。
【0004】
例えば、特開2009-289414号公報(特許文献1)には「4-フルオロエチレンカーボネート(4-FEC)と、プロピレンカーボネート(PC)と・・・フッ素化鎖状カルボン酸エステルであるCFCHCOOCHとを20:5:75の体積比で混合させた混合溶媒を用い・・・」た「非水電解液二次電池」が記載されている(段落0063、実施例7)。また、特許文献1には「実施例7の非水電解液二次電池においては、保存後の容量残存率及び容量復帰率がさらに向上していた。」ことが記載されている(段落0077)。
【0005】
特開2017-168375号公報(特許文献2)には「非水溶媒と電解質塩を含む非水電解液二次電池用非水電解液であって、前記非水溶媒が、4-フルオロエチレンカーボネート(FEC)と、3,3,3-トリフルオロプロピオン酸メチル(FMP)とを含み、さらに・・・ホウ酸エステルを含むことを特徴とする非水電解液二次電池用非水電解液」と記載がある(請求項1)。また、特許文献2には、「FEC:FMP=10:90のFEC及びFMPを混合した非水溶媒に」「ホウ酸トリエタノールアミン(BTR)を0.5質量%添加した」非水電解液を用いた電池が記載されており(段落0078及び0079)、「FECとFMPを含む非水電解液である点で共通し、BTRの有無で相違する実施例電池1-1と比較例電池1-1とを対比すると、BTRを添加した実施例電池1-1において、高温保存後の直流抵抗(以下、「保存後抵抗」という。)が顕著に低いことがわかる。」と記載されている(段落0089)。
【0006】
国際公開第2014/165748号(特許文献3)には「フッ素化非環式カルボン酸エステル」、「フッ素化非環式カーボネート」、および「フッ素化非環式エーテルからなる群から選択される少なくとも1つのフッ素化溶媒」と、「エチレンカーボネート、フルオロオエチレンカーボネート、およびプロピレンカーボネートからなる群から選択される少なくとも1つの共溶媒」と、「フィルム形成化合物」と、「電解質塩」とを含む電解質組成物が記載されている(請求項1)。また、特許文献3には、「70重量%のDFEA/30重量%のEC溶媒比/1MのLiPF 2重量%のFEC、2重量%のLiBOB、96重量%の共溶媒およびLiPF」を用いた電池が記載されている(段落0201、実施例51)。ここで、DFEAとは「2,2-ジフルオロエチルアセテート」のことで、その組成式は「CH-COO-CHCFH」と記載されている(段落0085及び0024)。
【0007】
国際公開第2016/044088号(特許文献4)には、「2,2-ジフルオロエチルアセテートと・・・フルオロエチレンカーボネートとを・・・組み合わせた。・・・1モル濃度の電解質組成物を作るのに十分なLiPFを添加した」電解質組成物Bを「リチウムビス(オキサラト)ボレートと組み合わせて電解質組成物Cを形成した。」と記載されている(段落0056及び0057)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2009-289414号公報
【文献】特開2017-168375号公報
【文献】国際公開第2014/165748号
【文献】国際公開第2016/044088号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
例えば特許文献1に記載された非水電解質を用いた蓄電素子は、高温環境下(例えば、45℃)で高電圧(例えば、充電終止時の正極電位として4.4V(vs.Li/Li))で保存された場合でも、高い放電容量維持率を示す。しかし、このような蓄電素子では、0℃のような低温環境下における充放電サイクル性能が低下するという問題を有することを発明者らは新たに見出した。
【0010】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、低温環境下における充放電サイクル性能に優れた非水電解質、並びにこのような非水電解質を備える非水電解質蓄電素子及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するためになされた本発明の一態様は、非水溶媒と、電解質塩と、ホウ素原子にジカルボキシレート基が結合したアニオンとを含有し、上記非水溶媒が、フッ素化環状カーボネート、及びトリフルオロメチル基を含む基を有するフッ素化カルボン酸エステルを含む非水電解質である。
【0012】
本発明の他の一態様は、当該非水電解質を備える非水電解質蓄電素子である。
【0013】
本発明の他の一態様は、当該非水電解質を非水電解質蓄電素子用容器に入れる工程を備える非水電解質蓄電素子の製造方法である。
【0014】
本発明の他の一態様は、通常使用時の充電終止電圧における正極電位が4.4V(vs.Li/Li)以上である当該非水電解質蓄電素子の使用方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、低温環境下における充放電サイクル性能に優れた非水電解質、このような非水電解質を備える非水電解質蓄電素子、非水電解質蓄電素子の製造方法及び非水電解質蓄電素子の使用方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子を示す斜視図である。
図2図2は、本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子を複数個集合して構成した蓄電装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の構成及び作用効果について、技術思想を交えて説明する。但し、作用機構については推定を含んでおり、その正否は、本発明を制限するものではない。なお、本発明は、その主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、後述の実施形態又は実施例は、あらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、すべて本発明の範囲内のものである。
【0018】
当該非水電解質は、非水溶媒と、電解質塩と、ホウ素原子にジカルボキシレート基が結合したアニオンとを含有し、上記非水溶媒が、フッ素化環状カーボネート、及びトリフルオロメチル基を含む基を有するフッ素化カルボン酸エステルを含む非水電解質である。
【0019】
当該非水電解質は、フッ素化環状カーボネート及びトリフルオロメチル基を含む基を有するフッ素化カルボン酸エステルを含む非水溶媒と、ホウ素原子にジカルボキシレート基が結合したアニオンとを含有することで、低温環境下において優れた充放電サイクル性能を発揮することができる。この理由は定かではないが、以下の理由が推測される。フッ素化環状カーボネート、トリフルオロメチル基を含む基を有するフッ素化カルボン酸エステル、及びホウ素原子にジカルボキシレート基が結合したアニオンはいずれも負極上で分解され、被膜を形成する。ここで、フッ素化環状カーボネート及びホウ素原子にジカルボキシレート基が結合したアニオンが貴な電位で先に分解され、その後、トリフルオロメチル基を含む基を有するフッ素化カルボン酸エステルが分解され、被膜を形成する。このとき、まずホウ素原子にジカルボキシレート基が結合したアニオンが負極上のわずかな電荷の偏りに好適に吸着し、分解されることで良好な被膜が形成される。その上にフッ素原子を含む被膜が形成されることになる。すなわち、ホウ素原子とフッ素原子とが近接する均質な被膜が形成されることで、低温環境下において優れた充放電サイクル性能を発揮するものと考えられる。
【0020】
さらに、当該非水電解質は、高温環境下において保存した場合であっても高い容量維持率を発揮する。すなわち、当該非水電解質は、高温保存性能を維持しつつ、低温環境下において優れた充放電サイクル性能を発揮することができる。
【0021】
当該非水電解質蓄電素子は、上述の当該非水電解質を備える非水電解質蓄電素子(以下、単に「蓄電素子」ともいう)である。当該蓄電素子は、低温環境下において優れた充放電サイクル性能を発揮する。
【0022】
当該非水電解質蓄電素子の製造方法は、上述の当該非水電解質を非水電解質蓄電素子用容器に入れる工程を備える非水電解質蓄電素子の製造方法である。
【0023】
当該製造方法によれば、低温環境下における充放電サイクル性能に優れた非水電解質蓄電素子を製造することができる。
【0024】
当該非水電解質蓄電素子の使用方法は、通常使用時の充電終止電圧における正極電位が、4.4V(vs.Li/Li)以上である。当該非水電解質蓄電素子は、高温環境下での保存後の容量維持率が高いため、このように通常使用時の充電終止電圧における正極電位が比較的高い充電条件で用いられる蓄電素子である場合に、この効果を特に十分に発揮することができる。ここで、通常使用時とは、当該非水電解質蓄電素子について推奨され、又は指定される充電条件を採用して当該非水電解質蓄電素子を使用する場合であり、当該非水電解質蓄電素子のための充電器が用意されている場合は、その充電器を適用して当該非水電解質蓄電素子を使用する場合をいう。なお、例えば、黒鉛を負極活物質とする蓄電素子では、設計にもよるが、充電終止電圧が5.0Vのとき、正極電位は約5.1V(vs.Li/Li)である。
【0025】
以下、本発明の実施形態に係る非水電解質、非水電解質蓄電素子、非水電解質蓄電素子の製造方法及び非水電解質素子の使用方法について詳説する。
【0026】
<非水電解質>
当該非水電解質は、非水溶媒と、電解質塩と、ホウ素原子にジカルボキシレート基が結合したアニオン(以下、単に「アニオン」ともいう)とを含有する。以下、当該非水電解質が含有する各成分について説明する。
【0027】
[非水溶媒]
上記非水溶媒は、フッ素化環状カーボネート、及びトリフルオロメチル基を含む基を有するフッ素化カルボン酸エステル(以下、単に「フッ素化カルボン酸エステル」ともいう)を含む。
【0028】
(フッ素化環状カーボネート)
「フッ素化環状カーボネート」とは、環状カーボネートが有する水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換された化合物をいう。
【0029】
上記フッ素化環状カーボネートとしては、例えばフルオロエチレンカーボネート(以下、「FEC」ともいう)、ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネート、テトラフルオロエチレンカーボネート、(フルオロメチル)エチレンカーボネート、(ジフルオロメチル)エチレンカーボネート、(トリフルオロメチル)エチレンカーボネート、ビス(フルオロメチル)エチレンカーボネート、ビス(ジフルオロメチル)エチレンカーボネート、ビス(トリフルオロメチル)エチレンカーボネート、(フルオロエチル)エチレンカーボネート、(ジフルオロエチル)エチレンカーボネート、(トリフルオロエチル)エチレンカーボネート、4-フルオロ-4-メチルエチレンカーボネート、4,4-ジフルオロ-5-メチルエチレンカーボネート、4,5-ジフルオロ-4,5-ジメチルエチレンカーボネート等が挙げられる。フッ素化環状カーボネートとしては、FECが好ましい。上記フッ素化環状カーボネートがFECである場合には、特に高電圧下において、負極に安定な被膜を形成し、充放電サイクル性能を向上させることができる。上記フッ素化環状カーボネートは、1種を単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0030】
上記非水溶媒における上記フッ素化環状カーボネートの含有割合の下限としては、1体積%が好ましく、3体積%がより好ましく、5体積%がさらに好ましい。フッ素化環状カーボネートの含有割合を上記下限以上とすることで、蓄電素子の高温環境下での保存後の容量維持率をより高めることができる。一方、上記含有割合の上限としては、例えば50体積%が好ましく、30体積%がより好ましく、20体積%がさらに好ましく、15体積%が特に好ましい。フッ素化環状カーボネートの含有割合を上記上限以下とすることで、非水電解質蓄電素子の低温環境下での充放電サイクル性能をより十分なものとすることができる。
【0031】
(フッ素化カルボン酸エステル)
上記フッ素化カルボン酸エステルは、トリフルオロメチル基(-CF)を含む基を有するフッ素化カルボン酸エステルである。
【0032】
上記トリフルオロメチル基を含む基としては、例えばトリフルオロメチル基そのもの、炭素数1から3の1価の炭化水素基が有する水素原子の一部又は全部をトリフルオロメチル基で置換した基などが挙げられる。
【0033】
本明細書において「炭化水素基」は、鎖状炭化水素基及び分岐鎖状炭化水素基を包含する。
【0034】
炭素数1から3の1価の炭化水素基が有する水素原子の一部又は全部をトリフルオロメチル基で置換した基としては、例えば2,2,2-トリフルオロエチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル基、4,4,4-トリフルオロブチル基、2,2,3,3,4,4,4-ヘプタフルオロブチル基などが挙げられる。
【0035】
上記トリフルオロメチル基を含む基としては、2,2,2-トリフルオロエチル基が好ましい。
【0036】
上記フッ素化カルボン酸エステルとしては、例えば下記式(2)で表される化合物などが挙げられる。
【0037】
【化1】
【0038】
上記式(2)中、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1から4の1価の炭化水素基又は炭素数1から4の1価のフッ素化炭化水素基である。但し、R及びRの少なくとも一方は、トリフルオロメチル基を含む基である。
【0039】
本明細書において「フッ素化炭化水素基」とは、炭化水素基が有する水素原子の一部又は全部をフッ素原子で置換した基を意味する。また、「フッ素化炭化水素基」は「トリフルオロメチル基を含む基」を包含する。
【0040】
炭素数1から4の1価の炭化水素基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基などが挙げられる。炭素数1から4の1価のフッ素化炭化水素基としては、例えばフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、2-フルオロエチル基、2,2-ジフルオロエチル基、3-フルオロプロピル基、3,3-ジフルオロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、2,2,3,3-テトラフルオロプロピル基、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル基、4,4,4-トリフルオロブチル基、2,2,3,3,4,4-ヘキサフルオロブチル基、2,2,3,3,4,4,4-ヘプタフルオロブチル基などが挙げられる。
【0041】
上記フッ素化カルボン酸エステルとしては、低温環境下での充放電サイクル性能の観点から、下記式(2-1)で表される酢酸-2,2,2-トリフルオロエチル(以下、「FEA」ともいう)、下記式(2-2)で表される3,3,3-トリフルオロプロピオン酸メチル(以下、「FMP」ともいう)、又はこれらの組み合わせが好ましい。
【0042】
【化2】
【0043】
上記非水溶媒における上記フッ素化カルボン酸エステルの含有割合の下限としては、20体積%が好ましく、30体積%がより好ましく、40体積%がさらに好ましい。上記含有割合を上記下限以上とすることで、低温環境下での充放電サイクル性能を向上させることができる。上記含有割合の上限としては、95体積%が好ましく、90体積%がより好ましい。上記含有割合を上記上限以下とすることで、抵抗増加を抑制することができる。
【0044】
(他の非水溶媒)
当該非水電解質は、上記フッ素化環状カーボネート及び上記フッ素化カルボン酸エステル以外の他の非水溶媒を含むことができる。他の非水溶媒としては、一般的な蓄電素子用非水電解質の非水溶媒として通常用いられる公知の非水溶媒を用いることができる。上記他の非水溶媒としては、上記フッ素化環状カーボネート以外の環状カーボネート(以下、単に「環状カーボネート」ともいう)、鎖状カーボネート、フッ素化鎖状カーボネート、エステル、エーテル、アミド、スルホン、ラクトン、ニトリル等を挙げることができる。これらの中でも、環状カーボネート又は鎖状カーボネートが好ましく、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用することがより好ましい。
【0045】
上記環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、スチレンカーボネート、1-フェニルビニレンカーボネート、1,2-ジフェニルビニレンカーボネート等が挙げられる。環状カーボネートは、水素原子の一部又は全部がフッ素原子以外の原子又は置換基で置換されたものであってもよいが、置換されていないものが好ましい。環状カーボネートとしては、EC、PC又はBCが好ましく、PC又はBCがより好ましく、PCがさらに好ましい。
【0046】
上記鎖状カーボネートとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジフェニルカーボネート等を挙げることができる。鎖状カーボネートは、水素原子の一部又は全部が他の原子又は置換基で置換されたものであってもよいが、置換されていないものが好ましい。鎖状カーボネートとしては、DEC、DMC又はEMCが好ましく、EMCがより好ましい。
【0047】
上記非水溶媒が上記環状カーボネートや上記鎖状カーボネートを含む場合、上記非水溶媒における上記環状カーボネート及び上記鎖状カーボネートの合計含有量の上限としては、イオン伝導度と低温環境下での充放電サイクル性能の観点から10体積%が好ましく、5体積%がさらに好ましい。
【0048】
上記非水溶媒の組成を上記のようにすることで、誘電率、粘度等が適度になることなどにより、蓄電素子の容量維持率等をさらに改善することなどができる。
【0049】
[電解質塩]
当該非水電解質は、通常、非水溶媒に溶解している電解質塩を含有する。上記電解質塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、オニウム塩などが挙げられる。これらの中でもリチウム塩が好ましい。
【0050】
上記リチウム塩としては、LiPF、LiPO、LiBF、LiPF(C、LiClO、LiN(SOF)等の無機リチウム塩、LiSOCF、LiN(SOCF、LiN(SO、LiN(SOCF)(SO)、LiC(SOCF、LiC(SO等のフッ素化炭化水素基を有するリチウム塩などが挙げられる。これらの中でも、無機リチウム塩が好ましく、LiPFがより好ましい。
【0051】
当該非水電解質における上記電解質塩の含有割合の下限としては、0.1mol/Lが好ましく、0.3mol/Lがより好ましく、0.5mol/Lがさらに好ましく、0.8mol/Lが特に好ましい。上記含有割合の上限としては、特に限定されないが、2.5mol/Lが好ましく、2mol/Lがより好ましく、1.5mol/Lがさらに好ましい。
【0052】
[アニオン]
上記アニオンは、ホウ素原子にジカルボキシレート基が結合したアニオンである。
【0053】
本明細書において「ジカルボキシレート基」とは、ジカルボン酸が有する2つのカルボキシ基からそれぞれ1個の水素原子を除いた基を意味する。
【0054】
ジカルボキシレート基を与えるジカルボン酸としては、例えばシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸などが挙げられる。これらの中でも、シュウ酸又はマロン酸が好ましく、シュウ酸がより好ましい。
【0055】
ジカルボキシレート基としては、上述のジカルボン酸が有する2つのカルボキシ基からそれぞれ1個の水素原子を除いた基が挙げられ、例えばオキサレート基、マロネート基、スクシネート基、グルタレート基、アジピネート基などが挙げられる。これらの中でも、オキサレート基又はマロネート基が好ましく、オキサレート基がより好ましい。
【0056】
上記アニオンは、フッ素原子をさらに含むことが好ましい。上記アニオンがフッ素原子をさらに含むことにより、良好な被膜を形成することができる。より詳細には、上記アニオンは、フッ素原子がホウ素原子に結合していることが好ましい。
【0057】
上記アニオンとしては、下記式(1)で表されるアニオンが好ましい。
【0058】
【化3】
【0059】
上記式(1)中、Rは、単結合又は炭素数1から4の2価の炭化水素基である。nは、1又は2である。nが2の場合、2つのRは互いに同一又は異なる。R及びRは、それぞれ独立して、フッ素原子又は炭素数1から3の1価のフッ素化炭化水素基である。
【0060】
で表される炭素数1から4の2価の炭化水素基としては、例えばメタン、エタン、n-プロパン、n-ブタン等の鎖状炭化水素から2個の水素原子を除いた基が挙げられる。
【0061】
及びRで表される炭素数1から3の1価のフッ素化炭化水素基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基等の1価の炭化水素基の水素原子の一部又は全部をフッ素原子で置換した基などが挙げられる。
【0062】
としては、単結合又はメチル基から2個の水素原子を除いた基が好ましく、単結合がより好ましい。
【0063】
及びRとしては、フッ素原子が好ましい。
【0064】
nとしては、1が好ましい。
【0065】
上記式(1)で表されるアニオンとしては、例えば下記式(1-1)で表されるジフルオロオキサレートボレートアニオン、下記式(1-2)で表されるビスオキサレートボレートアニオン、下記式(1-3)で表されるジフルオロマロネートボレートアニオン、下記式(1-4)で表されるビスマロネートボレートアニオン、下記式(1-5)で表されるマロネートオキサレートボレートアニオンなどが挙げられる。
【0066】
【化4】
【0067】
上記アニオンとしては、上記式(1-1)で表されるジフルオロオキサレートボレートアニオン又は上記式(1-2)で表されるビス(オキサレート)ボレートアニオンが好ましく、上記式(1-1)で表されるジフルオロオキサレートボレートアニオンがより好ましい。上記アニオンとしてこれらのものを用いることにより、良好な被膜を形成することができる。
【0068】
上記アニオンは、通常、カチオンとの塩の形態で当該非水電解質に含有される。カチオンとしては、例えばアルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、オニウムカチオンなどが挙げられる。これらの中でも、アルカリ金属カチオンが好ましく、リチウムイオンがより好ましい。
【0069】
上記アニオンを与える化合物としては、例えば下記式(1-1-1)で表されるリチウムジフルオロオキサレートボレート(以下、「LiDFOB」ともいう)、下記式(1-2-1)で表されるリチウムビスオキサレートボレート(以下、「LiBOB」ともいう)などが挙げられる。
【0070】
【化5】
【0071】
上記アニオンを与える化合物としては、上記式(1-1-1)で表されるリチウムジフルオロオキサレートが好ましい。
【0072】
当該非水電解質における上記アニオンの非水電解質への含有割合の下限としては、当該非水電解質の総質量に対して、0.01質量%が好ましく、0.05質量%がより好ましく、0.1質量%がさらに好ましく、0.3質量%がよりさらに好ましく、0.5質量%がよりさらに好ましい。上記アニオンの含有割合を上記下限以上とすることで、蓄電素子を低温環境下で充放電サイクルした後の容量維持率を高くすることができる。上記含有割合の上限としては、5質量%が好ましく、3質量%がより好ましく、2質量%がさらに好ましく、1質量%がよりさらに好ましく、0.8質量%が特に好ましい。上記アニオンの含有量を上記上限以下とすることで、抵抗の増加を抑制できる。
【0073】
[その他の添加剤]
当該非水電解質は、必要に応じて、上記非水溶媒、上記電解質塩及び上記アニオン以外のその他の添加剤を含有していてもよい。その他の添加剤としては、例えばビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t-ブチルベンゼン、t-アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン等の芳香族化合物;2-フルオロビフェニル、o-シクロヘキシルフルオロベンゼン、p-シクロヘキシルフルオロベンゼン等の前記芳香族化合物の部分ハロゲン化物;2,4-ジフルオロアニソール、2,5-ジフルオロアニソール、2,6-ジフルオロアニソール、3,5-ジフルオロアニソール等のハロゲン化アニソール化合物;無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水イタコン酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物;亜硫酸エチレン、亜硫酸プロピレン、亜硫酸ジメチル、硫酸ジメチル、硫酸エチレン、チオアニソール、ジフェニルジスルフィド、ジピリジニウムジスルフィド、パーフルオロオクタン、ホウ酸トリストリメチルシリル、リン酸トリストリメチルシリル、チタン酸テトラキストリメチルシリル、モノフルオロリン酸リチウム、ジフルオロリン酸リチウム等が挙げられる。当該非水電解質がその他の添加剤を含む場合、その他の添加剤の含有割合の上限としては、当該非水電解質の総質量に対して、5質量%が好ましく、1質量%がより好ましく、0.1質量%がさらに好ましい。
【0074】
<非水電解質蓄電素子>
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子は、非水電解質を備える。また、当該非水電解質蓄電素子は、通常、正極及び負極を備える。以下、当該非水電解質蓄電素子の一例として、二次電池について説明する。上記正極及び負極は、通常、セパレータを介して積層又は巻回により交互に重畳された電極体を形成する。この電極体は非水電解質蓄電素子用容器に収納され、この非水電解質蓄電素子用容器内に非水電解質が充填される。上記非水電解質は、正極と負極との間に介在する。また、上記非水電解質蓄電素子用容器としては、二次電池の容器として通常用いられる公知の金属容器、樹脂容器等を用いることができる。
【0075】
[非水電解質]
当該非水電解質蓄電素子に用いられる非水電解質は、上述した本発明の実施形態に係る非水電解質である。
【0076】
[正極]
上記正極は、正極基材、及び当該正極基材に直接又は中間層を介して配される正極合材層を有することが好ましい。
【0077】
上記正極基材は、導電性を有する。基材の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はそれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ及びコストのバランスからアルミニウム又はアルミニウム合金が好ましい。また、正極基材の形成形態としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの面から箔が好ましい。つまり、正極基材としてはアルミニウム箔又はアルミニウム合金箔が好ましい。なお、アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H-4000(2014年)に規定されるA1085P、A3003P等が例示できる。
【0078】
上記中間層は、正極基材の表面の被覆層であり、炭素粒子等の導電性粒子を含むことで正極基材と正極合材層との接触抵抗を低減する。中間層の構成は特に限定されず、例えば樹脂バインダ及び導電性粒子を含有する組成物により形成できる。なお、「導電性を有する」とは、JIS-H-0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が10Ω・cm以下であることを意味し、「非導電性」とは、上記体積抵抗率が10Ω・cm超であることを意味する。
【0079】
上記正極合材層は、正極活物質を含むいわゆる正極合材から形成される層である。正極合材層は、必要に応じて導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。
【0080】
上記正極活物質としては、通常、金属酸化物が使用される。具体的な正極活物質としては、例えばLiMO(Mは少なくとも一種の遷移金属を表す)で表される複合酸化物(層状のα-NaFeO型結晶構造を有するLiCoO、LiNiO、LiMnO、LiNiαCo(1-α)、LiNiαMnβCo(1-α-β)等、スピネル型結晶構造を有するLiMn、LiNiαMn(2-α)等)、LiMe(AO(Meは少なくとも一種の遷移金属を表し、Aは例えばP、Si、B、V等を表す)で表されるポリアニオン化合物(LiFePO、LiMnPO、LiNiPO、LiCoPO、Li(PO、LiMnSiO、LiCoPOF等)が挙げられる。これらの化合物中の元素又はポリアニオンは、他の元素又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。正極合材層においては、これら化合物の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0081】
上記導電剤としては、蓄電素子性能に悪影響を与えない導電性材料であれば特に限定されない。このような導電剤としては、天然又は人造の黒鉛、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、金属、導電性セラミックス等が挙げられ、アセチレンブラックが好ましい。導電剤の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。
【0082】
上記バインダとしては、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子等が挙げられる。
【0083】
上記増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。また、増粘剤がリチウムと反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させておくことが好ましい。
【0084】
上記フィラーとしては、電池性能に悪影響を与えないものであれば特に限定されない。フィラーの主成分としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラス等が挙げられる。
【0085】
[負極]
上記負極は、負極基材、及び当該負極基材に直接又は中間層を介して配される負極合材層を有することが好ましい。上記中間層は正極の中間層と同様の構成とすることができる。
【0086】
上記負極基材は、正極基材と同様の構成とすることができるが、材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属又はそれらの合金が用いられ、銅又は銅合金が好ましい。つまり、負極基材としては銅箔が好ましい。銅箔としては、圧延銅箔、電解銅箔等が例示される。
【0087】
上記負極合材層は、負極活物質を含むいわゆる負極合材から形成される。また、負極合材層は、必要に応じて導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。導電剤、結着剤、増粘剤、フィラー等の任意成分は、正極合材層と同様のものを用いることができる。
【0088】
上記負極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材質が用いられる。具体的な負極活物質としては、例えばSi、Sn等の金属又は半金属;Si酸化物、Sn酸化物等の金属酸化物又は半金属酸化物;ポリリン酸化合物;黒鉛(グラファイト)、非黒鉛質炭素(易黒鉛化性炭素又は難黒鉛化性炭素)等の炭素材料等が挙げられる。
【0089】
さらに、負極合材層は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Ta、Hf、Nb、W等の遷移金属元素を含有してもよい。
【0090】
[セパレータ]
上記セパレータの材質としては、例えば織布、不織布、多孔質樹脂フィルム等が用いられる。これらの中でも、強度の観点から多孔質樹脂フィルムが好ましく、非水電解質の保液性の観点から不織布が好ましい。上記セパレータの主成分としては、強度の観点から例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましく、耐酸化分解性の観点から例えばポリイミドやアラミド等が好ましい。また、これらの樹脂を複合してもよい。
【0091】
なお、セパレータと電極(通常、正極)との間に、無機層が配設されていても良い。この無機層は、耐熱層等とも呼ばれる多孔質の層である。また、多孔質樹脂フィルムの一方の面に無機層が形成されたセパレータを用いることもできる。上記無機層は、通常、無機粒子及びバインダとで構成され、その他の成分が含有されていてもよい。無機粒子としては、Al、SiO、アルミノシリケート等が好ましい。
【0092】
当該二次電池(蓄電素子)は、高温環境下での保存後の容量維持率が高いため、高い作動電圧で用いることができる。例えば、当該二次電池の通常使用時の充電終止電圧における正極電位は、例えば4.0V(vs.Li/Li)以上であってもよいが、4.4V(vs.Li/Li)以上が好ましい。一方、この通常使用時の充電終止電圧における正極電位の上限は、5.1V(vs.Li/Li)である。
【0093】
<非水電解質蓄電素子の製造方法>
当該非水電解質蓄電素子は、以下の方法により製造することが好ましい。すなわち、本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子の製造方法は、非水電解質を非水電解質蓄電素子用容器に入れる工程(以下、「非水電解質注入工程」ともいう)を備える。
【0094】
(非水電解質注入工程)
上記非水電解質注入工程は、非水電解質として、上述した本発明の実施形態に係る非水電解質を用いること以外は、公知の方法により行うことができる。すなわち、当該非水電解質を準備し、準備した非水電解質を非水電解質蓄電素子用容器に注入すればよい。
【0095】
当該製造方法は、上記非水電解質注入工程の他、以下の工程等を有していてもよい。すなわち、当該製造方法は、例えば、正極を作製する工程、負極を作製する工程、正極及び負極を、セパレータを介して積層又は巻回することにより交互に重畳された電極体を形成する工程、並びに正極及び負極(電極体)を非水電解質蓄電素子用容器に収容する工程を備えることができる。通常、電極体を非水電解質蓄電素子用容器に収容した後、非水電解質を非水電解質蓄電素子用容器に注入するが、この順番は逆であってもよい。これらの工程の後、注入口を封止することにより二次電池(非水電解質蓄電素子)を得ることができる。
【0096】
<非水電解質蓄電素子の使用方法>
当該非水電解質蓄電素子の使用方法は、通常使用時の充電終止電圧における正極電位が、4.4V(vs.Li/Li)以上である。当該非水電解質蓄電素子は、高温環境下での保存後の容量維持率が高いため、このように通常使用時の充電終止電圧における正極電位が比較的高い充電条件で用いられる蓄電素子である場合に、この効果を特に十分に発揮することができる。なお、例えば、黒鉛を負極活物質とする蓄電素子では、設計にもよるが、充電終止電圧が5.0Vのとき、正極電位は約5.1V(vs.Li/Li)である。
【0097】
<その他の実施形態>
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、上記態様の他、種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。例えば、上記正極又は負極において、中間層を設けなくてもよい。また、当該非水電解質蓄電素子の正極及び負極は、明確な層構造を有していなくてもよい。例えば上記正極は、メッシュ状の正極基材に正極合材が担持された構造などであってもよい。
【0098】
また、上記実施の形態においては、非水電解質蓄電素子が非水電解質二次電池である形態を中心に説明したが、その他の非水電解質蓄電素子であってもよい。その他の非水電解質蓄電素子としては、キャパシタ(電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ)等が挙げられる。
【0099】
図1に、本発明に係る非水電解質蓄電素子の一実施形態である矩形状の非水電解質蓄電素子1(非水電解質二次電池)の概略図を示す。なお、同図は、容器内部を透視した図としている。図1に示す非水電解質蓄電素子1は、電極体2が非水電解質蓄電素子用容器3に収納されている。電極体2は、正極合材層を備える正極と、負極合材層を備える負極とが、セパレータを介して捲回されることにより形成されている。正極は、正極リード4’を介して正極端子4と電気的に接続され、負極は、負極リード5’を介して負極端子5と電気的に接続されている。また、非水電解質蓄電素子用容器3には、本発明の一実施形態に係る非水電解質が注入されている。
【0100】
本発明に係る非水電解質蓄電素子の構成については特に限定されるものではなく、円筒型電池、角型電池(矩形状の電池)、扁平型電池等が一例として挙げられる。本発明は、上記の非水電解質蓄電素子を複数備える蓄電装置としても実現することができる。蓄電装置の一実施形態を図2に示す。図2において、蓄電装置30は、複数の蓄電ユニット20を備えている。それぞれの蓄電ユニット20は、複数の非水電解質蓄電素子1を備えている。上記蓄電装置30は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源として搭載することができる。
【実施例
【0101】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0102】
実施例、比較例及び参考例で用いた非水溶媒及び添加剤の略称を以下に示す。
【0103】
[非水溶媒]
EMC:エチルメチルカーボネート
FEC:フルオロエチレンカーボネート
FMP:3,3,3-トリフルオロプロピオン酸メチル
FEA:酢酸-2,2,2-トリフルオロエチル
DFEA:酢酸-2,2-ジフルオロエチル
【0104】
[添加剤]
LiDFOB:リチウムジフルオロオキサレートボレート
LiBOB:リチウムビスオキサレートボレート
VEC:ビニルエチレンカーボネート
【0105】
[実施例1]
(非水電解質の調製)
FECとFMPとを体積比10:90で混合し、非水溶媒とした。この非水溶媒に、電解質塩としてヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を1.2mol/Lの含有量となるように、また、添加剤としてLiDFOBを非水溶媒と電解質の総質量に対して0.2質量%となるように溶解させ、非水電解質を調製した。
【0106】
(正極の作製)
正極活物質として、LiNi1/3Mn1/3Co1/3を用いた。質量比で、正極活物質:ポリフッ化ビニリデン(PVdF):アセチレンブラック(AB)=94:3:3の割合(固形物換算)で含み、N-メチルピロリドンを分散媒とする正極ペーストを作製した。この正極ペーストを正極活物質が単位電極面積あたり18.6mg/cm含まれるように、正極基材としての帯状のアルミニウム箔の両面に塗布し、乾燥することにより分散媒であるN-メチルピロリドンを除去した。これをローラープレス機により加圧して正極合材層を成型した後、100℃で14時間減圧乾燥して、正極合材層中の水分を除去した。このようにして正極を得た。
【0107】
(負極の作製)
負極活物質として、黒鉛を用いた。質量比で、負極活物質(黒鉛):スチレンブタジエンゴム(SBR):カルボキシメチルセルロース(CMC)=97:2:1の割合(固形分換算)で含み、水を分散媒とする負極ペーストを作製した。この負極ペーストを、負極活物質が単位電極面積あたり9.9mg/cm含まれるように、負極基材としての帯状の銅箔集電体の両面に塗布し、乾燥することにより分散媒である水を除去した。これをローラープレス機により加圧して負極合材層を成型した後、100℃で12時間減圧乾燥して、負極合材層中の水分を除去した。このようにして負極を得た。
【0108】
(非水電解質蓄電素子の作製)
セパレータとして、無機層が塗工されたポリオレフィン製微多孔膜を用いた。このセパレータを介して、上記正極と上記負極とを積層することにより電極体を作製した。この電極体をアルミニウム製の角形の非水電解質蓄電素子用容器に収納し、正極端子及び負極端子を取り付けた。この非水電解質蓄電素子用容器内部に上記非水電解質を注入した後、封口し、実施例1の非水電解質蓄電素子(二次電池)を得た。
【0109】
(実施例2から6及び比較例1から3)
電解質塩の種類と含有量、非水溶媒の種類と体積比あるいは添加剤の種類と添加量を表1、2に示すとおりとしたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2から6及び比較例1から3の非水電解質蓄電素子を得た。なお、表中の「-」は相当する非水溶媒あるいは添加剤を用いていないことを示す。
【0110】
(実施例7)
電解質塩としてヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を0.4mol/L及び、リチウムビス(フルオロスルホニル)アミド(LiFSA)を0.8mol/Lの含有量としたこと以外は、実施例2と同様にして、実施例7の非水電解質蓄電素子を得た。なお、表の「-」は相当する非水溶媒あるいは添加剤を用いていないことを示す。
【0111】
(参考例1から3)
非水溶媒として、FMPの代わりにDFEAを用いた以外は、比較例1、実施例5及び実施例2と同様にしてそれぞれ、参考例1から3の非水電解質蓄電素子を得た。なお、表の中の「-」は相当する非水溶媒あるいは添加剤を用いていないことを示す。ここで、「DFEA」は下記式(3)で表される。「DFEA」は、「FEA」と類似の構造ではあるが、カルボニルオキシ基のオキシ酸素原子に結合する基の末端がトリフルオロメチル基(-CF)ではなく、ジフルオロメチル基(-CFH)である化合物である。
【0112】
【化6】
【0113】
上述の手順で作製した非水電解質蓄電素子のうち、比較例1、2及び実施例2に係る非水電解質蓄電素子は複数用意し、下記「初期充放電」に供したものを、「45℃保存試験」あるいは「0℃充放電サイクル試験」にそれぞれ供した。比較例3、実施例1、3から7及び参考例1から3に係る非水電解質蓄電素子は「初期充放電」に供したものを、「0℃充放電サイクル試験」に供した。
【0114】
[評価]
<初期充放電>
得られた非水電解質蓄電素子について、25℃で以下(1)から(4)の工程にて初期充放電を行った。
(1)充電工程
0.2Cの電流値で4.3Vまで定電流充電を行う。4.3Vに到達後、その電圧を維持し、充電の開始から8時間経過したときを充電の終わりとし(いわゆる定電流定電圧充電)、10分間の休止を行う。
(2)放電工程
0.2Cの電流値で2.75Vまで定電流放電を行う。2.75Vに到達したときを放電の終わりとし、10分間の休止を行う。
(3)充電工程
1Cの電流値で4.3Vまで定電流充電を行う。4.3Vに到達後、その電圧を維持し、充電の開始から3時間経過したときを充電の終わりとし、10分間の休止を行う。
(4)放電工程
1Cの電流値で2.75Vまで定電流放電を行う。2.75Vに到達したときを放電の終わりとし、10分間の休止を行う。
上記(4)の工程における放電容量を「初期充放電試験における2回目の放電容量」として記録した。
【0115】
<45℃保存試験>
上記初期充放電後の非水電解質蓄電素子を、下記の工程にて45℃保存試験を行った。
(1’)充電工程
25℃の恒温槽中にて1Cの電流値で4.3Vまで定電流充電を行う。4.3Vに到達後、その電圧を維持し、充電の開始から3時間経過したときを充電の終わりとし、10分間の休止を行う。
(2’)45℃保存工程
非水電解質蓄電素子を開回路状態とし、45℃の恒温槽中に静置(保存)した。保存開始から30日経過した時点で、保存工程終了とし、蓄電素子を取り出し、5時間以上室温にて静置した。
(3’)放電工程
25℃の恒温槽中にて1Cの電流値で2.75Vまで定電流放電を行う。2.75Vに到達したときを放電の終わりとし、10分間の休止を行う。
(1’)、(2’)、(3’)の工程後、上記初期充放電における(3)、(4)の工程を25℃の恒温槽中で行い、そのときの放電容量を「保存後の放電容量」として記録した。初期充放電試験における2回目の放電容量に対する保存後の放電容量の百分率を「45℃保存試験後容量維持率/%」として求めた。
【0116】
<0℃充放電サイクル試験>
上記初期充放電後の非水電解質蓄電素子を、0℃の恒温槽中に5時間静置したのち下記の工程にて0℃充放電サイクル試験を行った。
(1’’)充電工程
1Cの電流値で4.3Vまで定電流充電を行う。4.3Vに到達後、その電圧を維持し、充電の開始から3時間経過したときを充電の終わりとし、10分間の休止を行う。
(2’’)放電工程
1Cの電流値で2.75Vまで定電流放電を行う。2.75Vに到達したときを放電の終わりとし、10分間の休止を行う。
上記(1’’)、(2’’)の工程を1回の充放電とし、350回の充放電サイクルを行った。1サイクル目の放電容量に対する350サイクル目の放電容量の百分率を「0℃サイクル試験後容量維持率/%」として求めた。また、添加剤を用いていない比較例1又は参考例1に対する0℃サイクル試験後容量維持率の差分を「0℃サイクル試験後容量維持率の未添加品との差分/%」として求めた。参考例2から3に関しては、参考例1に対する差分を、比較例3及び実施例1から7に関しては、比較例1に対する差分を求めた。この値はすなわち、添加剤を用いることで、低温環境下における充放電サイクル性能が改善された効果の大きさを表す指標である。
試験前後で、非水電解質蓄電素子の厚さを測定し、0℃充放電サイクル試験前後の厚さ変化を求めた。添加剤を用いていない比較例1又は参考例1に対する0℃充放電サイクル試験前後の厚さ変化の差分を「0℃サイクル試験後電池厚み変化の未添加品との差分/mm」として求めた。参考例2から3に関しては、参考例1に対する差分を、比較例3及び実施例1から7に関しては、比較例1に対する差分を求めた。この値が負の値であれば、添加剤を用いることで、0℃サイクル試験後の電池厚さの増加が抑制できていることを意味する。
【0117】
上記の試験では、非水電解質蓄電素子の電圧が4.3Vであるとき、正極の電位は4.4V(vs.Li/Li)であった。
【0118】
実施例2、比較例1及び比較例2に係る非水電解質蓄電素子について、上述の「45℃保存試験」にて得られた「45℃保存試験後容量維持率/%」及び、「0℃充放電サイクル試験」によって得られた「0℃サイクル試験後容量維持率/%」を表1にまとめた。
【0119】
【表1】
【0120】
比較例1と比較例2を比べると、非水溶媒としてFECとFMPとを用いることで、FECとEMCとを用いたときと比べて、「45℃保存試験後容量維持率」が向上するが、一方で「0℃サイクル試験後容量維持率」(以下、低温特性と呼ぶこともある)が、低下することがわかる。
実施例2と比較例1を比べると、添加剤としてLiDFOBを加えることで、「45℃保存試験後容量維持率」が向上し、さらに「0℃サイクル試験後容量維持率」が大きく向上していることがわかる。
これらの結果から、本発明の非水電解質は、高温保存性能を維持しつつ、低温環境下における充放電サイクル性能に優れることがわかった。
【0121】
実施例1から7、比較例1、3及び参考例1から3に係る非水電解質蓄電素子について、「0℃充放電サイクル試験」によって得られた「0℃サイクル試験後容量維持率の未添加品との差分/%」、「0℃サイクル試験後電池厚み変化の未添加品との差分/mm」を表2にまとめた。
【0122】
【表2】
【0123】
実施例1から4と、比較例1を比較すると、添加剤としてLiDFOBを用いることで、添加量によらず、低温特性が改善し、0℃充放電サイクル試験後の電池厚さの増加も抑制できていた。
【0124】
実施例5と、比較例1及び3を比較すると、添加剤としてLiBOBを用いた場合でも、低温特性の改善効果が見られることがわかる。しかしながら、VECを用いた場合では、顕著に低下することがわかる。
【0125】
実施例7と、比較例1を比較すると、電解質塩としてLiFSAを用いた場合でも、低温特性の改善効果が見られることがわかる。
【0126】
実施例6と、比較例1を比較すると、非水溶媒としてFEAを用いた場合でも、低温特性の改善効果が見られることがわかる。また、0℃充放電サイクル試験後の電池厚さの増加も抑制されていた。
【0127】
参考例1と、参考例2及び3を比較すると、非水溶媒としてDFEAを用いた場合では、LiDFOBを添加しても低温特性の改善効果は小さく、また、0℃充放電サイクル試験後の電池厚さの増加の抑制効果もないことがわかる。すなわち、非水溶媒としてFEA又はFMPを用いたときのほうが、低温特性の改善効果が顕著であることがわかる。
このメカニズムに関しては以下のような理由が考えられる。PM3(Parameterized Model number 3)法によるLUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital)計算の結果、LUMOは、DFEA、FEA及びFMPの中では、DFEAが最も大きく、FMPが最も小さかった。LUMOの値が大きいほど、耐還元性に優れるといわれている。すなわち、FEA及びFMPはDFEAと比較して還元されやすいといえ、「ジフルオロメチル基を含む基を有するフッ素化カルボン酸エステル」と「トリフルオロメチル基を含む基を有するフッ素化カルボン酸エステル」とを比較すると、「トリフルオロメチル基を含む基を有するフッ素化カルボン酸エステル」のほうが還元されやすい傾向にあるといえる。そのため、DFEAと比べて還元されやすいFEA又はFMPを非水溶媒として用いた非水電解質蓄電素子は、FEA又はFMPが添加剤として含有されているLiDFOBと共に負極上で分解され、ホウ素原子とフッ素原子とが近接する均質な被膜が形成されることで、低温環境下において優れた充放電サイクル性能を発揮すると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明は、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等の電源として使用される非水電解質蓄電素子等に適用できる。
【符号の説明】
【0129】
1 非水電解質蓄電素子
2 電極体
3 非水電解質蓄電素子用容器
4 正極端子
4’ 正極リード
5 負極端子
5’ 負極リード
20 蓄電ユニット
30 蓄電装置
図1
図2