(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-27
(45)【発行日】2024-12-05
(54)【発明の名称】抗体コンジュゲート
(51)【国際特許分類】
C07K 16/46 20060101AFI20241128BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20241128BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
C07K16/46
C07K16/18 ZNA
G01N33/53 D
(21)【出願番号】P 2020557617
(86)(22)【出願日】2019-11-21
(86)【国際出願番号】 JP2019045589
(87)【国際公開番号】W WO2020105700
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2022-10-18
(31)【優先権主張番号】P 2018219558
(32)【優先日】2018-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】306008724
【氏名又は名称】富士レビオ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヤネス ヘールト
(72)【発明者】
【氏名】ダウエ マルチネ
(72)【発明者】
【氏名】石井 雄一
(72)【発明者】
【氏名】岡田 涼
【審査官】長谷川 強
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-189413(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0095492(US,A1)
【文献】特表2014-523742(JP,A)
【文献】特表2018-512863(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 16/46
C07K 16/18
G01N 33/53
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種以上の抗タウタンパク質抗体を
リンカー化合物に結合させた抗体コンジュゲートであって、
2種以上の抗タウタンパク質抗体が、配列番号1のアミノ酸配列において153位~169位の間に存在するエピトープを認識する第1の抗体、
および配列番号1のアミノ酸配列において188位~207位の間に存在するエピトープを認識する第2の抗体を含み、
リンカー化合物は、標識をさらに含み、
抗体コンジュゲートは、ヒトから採取された体液サンプル中のタウタンパク質の検出用である、
抗体コンジュゲート。
【請求項2】
前記2種以上の抗タウタンパク質抗体が、2種以上の抗ヒトタウタンパク質抗体である、請求項1に記載の抗体コンジュゲート。
【請求項3】
前記第1の抗体が認識するエピトープが、PPGQK(配列番号2)であり、前記第2の抗体が認識するエピトープが、DRSGYS(配列番号3)である、請求項1又は2に記載の抗体コンジュゲート。
【請求項4】
標識が
酵素である、請求項1~3のいずれか一項に記載の抗体コンジュゲート。
【請求項5】
以下を含み、ヒトから採取された体液サンプル中のタウタンパク質の検出用である、タウタンパク質検出用キット:
(i)2種以上の抗タウタンパク質抗体を
リンカー化合物に結合させた抗体コンジュゲートであって、
2種以上の抗タウタンパク質抗体が、配列番号1のアミノ酸配列において153位~169位の間に存在するエピトープを認識する第1の抗体、および配列番号1のアミノ酸配列において188位~207位の間に存在するエピトープを認識する第2の抗体を含み、
リンカー化合物は、標識をさらに含む、抗体コンジュゲート;
(ii)抗体コンジュゲートに含まれる抗タウタンパク質抗体とは別のエピトープを認識する抗タウタンパク質抗体。
【請求項6】
前記別のエピトープが、配列番号1のアミノ酸配列において170位~187位の間または209位~233位の間に存在するエピトープである、請求項5に記載のキット。
【請求項7】
前記別のエピトープが、PPAPKTP(配列番号4)またはPPTREPK(配列番号5)である、請求項6に記載のキット。
【請求項8】
2種以上の抗タウタンパク質抗体を
リンカー化合物に結合させた抗体コンジュゲートを用いて、ヒトから採取された体液サンプル中のタウタンパク質を検出することを含み、
2種以上の抗タウタンパク質抗体が、配列番号1のアミノ酸配列において153位~169位の間に存在するエピトープを認識する第1の抗体、および配列番号1のアミノ酸配列において188位~207位の間に存在するエピトープを認識する第2の抗体を含み、
リンカー化合物は、標識をさらに含む、
タウタンパク質の検出方法。
【請求項9】
抗体コンジュゲートに含まれる抗タウタンパク質抗体とは別のエピトープを認識する抗タウタンパク質抗体にサンプルを接触させることをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体コンジュゲートなどに関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病(AD)は、最も一般的な認知症の一つであり、大脳皮質や大脳辺縁系にわたる神経細胞内の神経原線維変化、および細胞外のアミロイド班の蓄積によって組織学的に特徴づけられる神経変性疾患である。神経原線維変化の超微形態は、主に異常リン酸化されたタウタンパク質(pTau)からなるPaired Helical Filaments(PHF)で構成される。タウタンパク質(リン酸化タウタンパク質を含む)のアルツハイマー病等の神経変性疾患の診断マーカーとしての有用性、および体液中のタウタンパク質の免疫学的測定方法が、報告されている(特許文献1および2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表平8-502898号公報
【文献】特表平9-506771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
体液等のサンプル中のタウタンパク質の免疫学的測定において、従来よりもさらに感度を向上させることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討した結果、免疫学的測定において、2種以上の抗タウタンパク質抗体を担体に結合させた抗体コンジュゲートを用いることにより、個別の抗タウタンパク質抗体を用いた場合に比してタウタンパク質の検出感度が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
〔1〕2種以上の抗タウタンパク質抗体を担体に結合させた抗体コンジュゲート。
〔2〕前記2種以上の抗タウタンパク質抗体が、2種以上の抗ヒトタウタンパク質抗体である、〔1〕の抗体コンジュゲート。
〔3〕2種以上の抗タウタンパク質抗体が、配列番号1のアミノ酸配列において153位~169位の間に存在するエピトープを認識する第1の抗体、および配列番号1のアミノ酸配列において188位~207位の間に存在するエピトープを認識する第2の抗体を含む、〔2〕の抗体コンジュゲート。
〔4〕前記第1の抗体が認識するエピトープが、PPGQK(配列番号2)であり、前記第2の抗体が認識するエピトープが、DRSGYS(配列番号3)である、〔3〕の抗体コンジュゲート。
〔5〕担体が、標識担体である、〔1〕~〔4〕のいずれかの抗体コンジュゲート。
〔6〕以下を含む、キット:
(i)2種以上の抗タウタンパク質抗体を担体に結合させた抗体コンジュゲート;および
(ii)抗体コンジュゲートに含まれる抗タウタンパク質抗体とは別のエピトープを認識する抗タウタンパク質抗体。
〔7〕前記別のエピトープが、配列番号1のアミノ酸配列において170位~187位の間または209位~233位の間に存在するエピトープである、〔6〕のキット。
〔8〕前記別のエピトープが、PPAPKTP(配列番号4)またはPPTREPK(配列番号5)である、〔7〕のキット。
〔9〕2種以上の抗タウタンパク質抗体を担体に結合させた抗体コンジュゲートを用いて、サンプル中のタウタンパク質を検出することを含む、タウタンパク質の検出方法。
〔10〕サンプルが、ヒトから採取された体液サンプルである、〔9〕の方法。
〔11〕抗体コンジュゲートに含まれる抗タウタンパク質抗体とは別のエピトープを認識する抗タウタンパク質抗体にサンプルを接触させることをさらに含む、〔9〕または〔10〕の方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の抗体コンジュゲートを用いることにより、サンドイッチイムノアッセイ等の免疫学的測定において、個別の抗タウタンパク質抗体を用いた場合に比してタウタンパク質の検出感度が向上する。本発明の抗体コンジュゲートを用いたタウタンパク質の検出は、アルツハイマー病等の神経変性疾患の高精度な診断に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、ハイブリッドコンジュゲートを用いた総タウタンパク質の測定における、各標準溶液の平均カウント値と濃度から作成した標準曲線に基づいて算出した各サンプル(LoQ1~LoQ5)の濃度と、各サンプル(LoQ1~LoQ5)を10回(n=10)測定した際のカウント値の変動係数(CV)をプロットしたグラフ、および精度プロファイル(precision profile)に基づいて求めた定量限界値(LoQ(CV20%))を示す図である。
【
図2】
図2は、抗体混合物を用いた総タウタンパク質の測定における、各標準溶液の平均カウント値と濃度から作成した標準曲線に基づいて算出した各サンプル(LoQ1~LoQ5)の濃度と、各サンプル(LoQ1~LoQ5)を10回(n=10)測定した際のカウント値の変動係数(CV)をプロットしたグラフ、および精度プロファイルに基づいて求めた定量限界値(LoQ(CV20%))を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、2種以上の抗タウタンパク質抗体を担体に結合させた抗体コンジュゲート(「ハイブリッドコンジュゲート」とも呼ぶ)を提供する。
【0010】
タウタンパク質は、ヒトタウタンパク質が好ましい。ヒトタウタンパク質は、複数のアイソフォームを含み、4~6つのアイソフォームが成人脳で検出され、胎生期の脳では1つのアイソフォームのみが検出されることが知られている。このアイソフォームの多様性は、ヒト第17番染色体に存在する一遺伝子からの選択的mRNAスプライシングにより生じる。これらのアイソフォームは、C末端部分における3つまたは4つのリピートドメインと、N末端部分における29個または58個のアミノ酸残基からなる領域の挿入の有無において、互いに異なる。本明細書では、タウタンパク質におけるアミノ酸番号を、配列番号1に示す最も長いアイソフォーム(441アミノ酸)に対応するアミノ酸番号として表す。タウタンパク質には、修飾タウタンパク質を含む。修飾タウタンパク質としては、例えば、リン酸化タウタンパク質が挙げられる。リン酸化タウタンパク質とは、水酸基含有アミノ酸残基(セリン残基、スレオニン残基、チロシン残基)がリン酸化されたタウタンパク質をいう。
【0011】
抗タウタンパク質抗体は、タウタンパク質のアミノ酸配列の少なくとも一部をエピトープとして認識する抗体である。2種以上の抗タウタンパク質抗体は、例えば2~5種、好ましくは2~4種、より好ましくは2~3種、特に好ましくは2種の抗タウタンパク質抗体であってもよい。2種以上の抗タウタンパク質抗体は、それぞれタウタンパク質中の重複しないエピトープを認識することが好ましい。
【0012】
2種以上の抗タウタンパク質抗体は、第1の抗体および第2の抗体を含む。第1の抗体が認識するエピトープは、配列番号1のアミノ酸配列において好ましくは153位~169位の間、より好ましくは155位~167位の間、さらにより好ましくは157位~165位の間に存在するエピトープであってもよく、特に好ましくはPPGQK(159位~163位の間、配列番号2)であってもよい。第2の抗体が認識するエピトープは、配列番号1のアミノ酸配列において好ましくは188位~207位の間、より好ましくは190位~204位の間、さらにより好ましくは192位~201位の間に存在するエピトープであってもよく、特に好ましくはDRSGYS(193位~198位の間、配列番号3)であってもよい。
【0013】
配列番号1のアミノ酸配列における第1の抗体が認識するエピトープと第2の抗体が認識するエピトープと間のアミノ酸残基数は、例えば18アミノ酸以上、好ましくは20アミノ酸以上、より好ましくは22アミノ酸以上、さらにより好ましくは24アミノ酸以上、特に好ましくは26アミノ酸以上であってもよい。前記エピトープ間のアミノ酸残基数は、例えば44アミノ酸以下、好ましくは41アミノ酸以下、より好ましくは38アミノ酸以下、さらにより好ましくは35アミノ酸以下、特に好ましくは33アミノ酸以下であってもよい。より具体的には、前記エピトープ間のアミノ酸残基数は、例えば18~44アミノ酸、好ましくは20~41アミノ酸、より好ましくは22~38アミノ酸、さらにより好ましくは24~35アミノ酸、特に好ましくは26~33アミノ酸であってもよい。
【0014】
2種以上の抗タウタンパク質抗体が認識するエピトープは、非修飾ペプチドまたは修飾ペプチドのいずれであってもよい。修飾ペプチドとしては、例えば、リン酸化ペプチドが挙げられる。リン酸化タウタンパク質とは、水酸基含有アミノ酸残基(セリン残基、スレオニン残基、チロシン残基)がリン酸化されたペプチドをいう。
【0015】
抗タウタンパク質抗体は、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体のいずれであってもよい。抗タウタンパク質抗体は、免疫グロブリン(例、IgG、IgM、IgA、IgD、IgE、IgY)のいずれのアイソタイプであってもよい。抗タウタンパク質抗体はまた、全長抗体であってもよい。全長抗体とは、可変領域および定常領域を各々含む重鎖および軽鎖を含む抗体(例、2つのFab部分およびFc部分を含む抗体)をいう。抗タウタンパク質抗体はまた、このような全長抗体に由来する抗体断片であってもよい。抗体断片は、全長抗体の一部であり、例えば、定常領域欠失抗体(例、F(ab’)2、Fab’、Fab、Fv)が挙げられる。抗タウタンパク質抗体はまた、単鎖抗体等の改変抗体であってもよい。
【0016】
抗タウタンパク質抗体は、従前公知の方法を用いて作製することができる。例えば、抗タウタンパク質抗体は、上記のエピトープを抗原として用いて作製することができる。また、上述したようなエピトープを認識する多数の抗タウタンパク質抗体が市販されているので、このような市販品を使用することもできる。
【0017】
担体は、リンカー化合物または固相であってもよい。リンカー化合物とは、複数の抗体(例、全長抗体、抗体断片)と結合する能力を有する化合物をいう。リンカー化合物は、標識と結合する能力を有するリンカー化合物、標識と結合したリンカー化合物、またはそれ自体が標識であるリンカー化合物であってもよい。リンカー化合物としては、例えば、マレイミド、ハロアセチル、イソチオシアネート、スルホニルクロリド、N-ヒドロキシスクシンイミド、アジド、多糖類(例、デキストラン)、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質(例、ウシ血清アルブミン(BSA))、核酸(DNA、RNA)、およびポリエチレングリコールが挙げられる。固相としては、例えば、液相中に懸濁または分散可能な固相(例、粒子、ビーズ等の固相担体)、ならびに液相を収容または搭載可能な固相(例、プレート、メンブレン、試験管等の支持体、およびウェルプレート、マイクロ流路、ガラスキャピラリー、ナノピラー、モノリスカラム等の容器)が挙げられる。担体のための固相は、液相中に懸濁または分散可能な固相が好ましい。固相の材料としては、例えば、ガラス、シリカ、高分子化合物(例、ポリスチレン、プラスチック)、金属、およびカーボンが挙げられる。固相の材料としてはまた、非磁性材料、または磁性材料を用いることができる。
【0018】
抗体のリンカー化合物への結合方法としては、従前公知の方法を利用することができる。このような方法としては、例えば、物理的吸着法、共有結合法、親和性物質(例、ビオチン、ストレプトアビジン)を利用する方法、およびイオン結合法が挙げられる。共有結合法を利用する場合、例えば、過ヨウ素酸法、グルタルアルデヒド法、マレイミド法、またはN-ヒドロキシスクシンイミド法を用いて、抗体をリンカー化合物に共有結合させることができる。抗体の固相への結合方法としては、抗体のリンカー化合物への結合方法と同様の方法を利用することができる。
【0019】
本発明の抗体コンジュゲートは、標識を含んでいてもよい。本発明の抗体コンジュゲートが標識を含む場合、担体が標識担体であってもよく、または、抗体が標識と結合していてもよく、あるいは、これらの両方の場合であってもよい。標識担体とは、標識と結合した担体、またはそれ自体が標識である担体をいう。標識としては、例えば、酵素(例、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ルシフェラーゼ、βガラクトシダーゼ)、親和性物質(例、ストレプトアビジンおよびビオチンのうちの一方、互いに相補的なセンス鎖およびアンチセンス鎖の核酸のうちの一方)、蛍光物質(例、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、緑色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質)、発光物質(例、ルシフェリン、エクオリン、アクリジニウムエステル、トリス(2,2’-ビピリジル)ルテニウム、ルミノール)、放射性物質(例、3H、14C、32P、35S、125I)、および金コロイドが挙げられる。標識と結合した担体は、例えば、蛍光物質を内部に含む粒子またはビーズ(例、蛍光ビーズ)であってもよい。粒子およびビーズの材料としては、担体のための固相と同様の材料を用いることができる。それ自体が標識である担体としては、例えば、酵素(例、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ルシフェラーゼ、βガラクトシダーゼ)、親和性物質(例、ストレプトアビジンおよびビオチンのうちの一方、互いに相補的なセンス鎖およびアンチセンス鎖の核酸のうちの一方)、蛍光物質(例、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、緑色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質)、および金コロイドが挙げられる。標識を含む抗体コンジュゲートは、標識を抗体コンジュゲートに結合させることにより作製してもよく、抗体を標識担体に結合させることにより作製してもよい。これらの結合方法としては、従前公知の方法を利用することができる。
【0020】
本発明の抗体コンジュゲートは、イムノアッセイによるタウタンパク質の検出に用いることができる。このようなイムノアッセイとしては、例えば、直接競合法、間接競合法、サンドイッチ法、ウエスタンブロット法、および免疫組織化学的染色法が挙げられる。このようなイムノアッセイは、好ましくはサンドイッチ法であってもよい。また、このようなイムノアッセイとしては、化学発光イムノアッセイ(CLIA)(例、化学発光酵素免疫測定法(CLEIA))、免疫比濁法(TIA)、酵素免疫測定法(EIA)(例、直接競合ELISA、間接競合ELISA、およびサンドイッチELISA)、放射イムノアッセイ(RIA)、ラテックス凝集反応法、蛍光イムノアッセイ(FIA)、イムノクロマトグラフィー法が挙げられる。サンドイッチ法において、本発明の抗体コンジュゲートは、検出抗体または捕捉抗体として用いてもよく、好ましくは検出抗体として用いてもよい。本発明の抗体コンジュゲートを検出抗体として用いる場合、標識を抗体コンジュゲートに結合させ、抗体コンジュゲートに結合した標識を検出することによりタウタンパク質を検出することができる。あるいは、担体が標識担体である抗体コンジュゲートを検出抗体として用いる場合、タウタンパク質に結合した抗体コンジュゲート中の標識を検出することによりタウタンパク質を検出することができる。
【0021】
標識の検出は、標識の種類に応じて公知の手法から適宜選択した手法に基づいて行うことができる。標識が酵素である場合、シグナル発生基質(例、蛍光基質、発光基質、発色基質)を用いて酵素活性を検出することにより、標識を検出することができる。標識が親和性物質である場合、親和性物質と結合する能力を有する酵素またはシグナル発生物質を用いて、親和性物質に結合した酵素またはシグナル発生物質を検出することにより、標識を検出することができる。そのような親和性物質と結合する能力を有する酵素またはシグナル発生物質は、親和性物質と結合する能力を有する物質を結合した酵素またはシグナル発生物質であってもよい。標識が蛍光物質、発光物質、または放射性物質である場合、これらの標識から発生するシグナルを検出することにより、標識を検出することができる。
【0022】
本発明の抗体コンジュゲートは、組成物の形態(例、溶液)で提供されてもよい。あるいは、本発明の抗体コンジュゲートは、デバイスの形態(例、抗体コンジュゲートがデバイス中に収容された形態)で提供されてもよい。
【0023】
本発明はまた、以下を含む、キットを提供する:
(i)2種以上の抗タウタンパク質抗体を担体に結合させた抗体コンジュゲート;および
(ii)抗体コンジュゲートに含まれる抗タウタンパク質抗体とは別のエピトープを認識する抗タウタンパク質抗体。
【0024】
「2種以上の抗タウタンパク質抗体を担体に結合させた抗体コンジュゲート」は、上述したとおりである。
【0025】
「抗体コンジュゲートに含まれる抗タウタンパク質抗体とは別のエピトープを認識する抗タウタンパク質抗体」(以下、「別の抗タウタンパク質抗体」と呼ぶ)が認識するエピトープ(以下、「別のエピトープ」と呼ぶ)は、例えば、抗体コンジュゲートに含まれる抗タウタンパク質抗体が認識するエピトープと重複しないエピトープであってもよく、配列番号1のアミノ酸配列において好ましくは170位~187位の間または209位~233位の間、より好ましくは172位~185位の間または212位~230位の間、より好ましくは174位~183位の間または215位~227位の間に存在するエピトープであってもよく、特に好ましくはPPAPKTP(176位~182位の間、好ましくは、Tはリン酸化スレオニン残基である、配列番号4)またはPPTREPK(218位~224位の間、配列番号5)であってもよい。別のエピトープは、非修飾ペプチドまたは修飾ペプチドのいずれであってもよい。修飾ペプチドとしては、例えば、上述したものが挙げられる。別のエピトープ中の修飾アミノ酸残基としては、例えば、配列番号1のアミノ酸配列における181位のリン酸化スレオニンが挙げられる。別のエピトープが修飾ペプチドである場合、本発明のキットは、修飾タウタンパク質の検出に用いることができる。
【0026】
別の抗タウタンパク質抗体は、固相へ固定されてもよい。抗体の固相への固定化(結合)方法としては、上述した、抗体のリンカー化合物への結合方法と同様の方法を利用することができる。
【0027】
本発明のキットは、タウタンパク質に対するイムノアッセイにおいて利用することができる。このようなイムノアッセイとしては、例えば、上述した方法が挙げられ、好ましくはサンドイッチ法であってもよい。サンドイッチ法において、好ましくは、抗体コンジュゲートおよび別の抗タウタンパク質抗体をそれぞれ、検出抗体および捕捉抗体として用いてもよい。
【0028】
本発明のキットは、(i)2種以上の抗タウタンパク質抗体を担体に結合させた抗体コンジュゲート(抗体コンジュゲート);および(ii)抗体コンジュゲートに含まれる抗タウタンパク質抗体とは別のエピトープを認識する抗タウタンパク質抗体(別の抗タウタンパク質抗体)を、互いに隔離された形態で含むことが好ましい。具体的には、抗体コンジュゲートと別の抗タウタンパク質抗体はそれぞれ異なる容器(例、チューブ、プレート)に収容されてもよい。あるいは、抗体コンジュゲートおよび別の抗タウタンパク質抗体は組成物の形態(例、溶液)で提供されてもよい。あるいは、本発明のキットは、デバイスの形態で提供されてもよい。具体的には、抗体コンジュゲートと別の抗タウタンパク質抗体を含む、その構成成分の全部がデバイス中に収容されてもよい。あるいは、構成成分の一部がデバイス中に収容され、残りのものがデバイス中に必ずしも収容されていなくてもよい(例、異なる容器に収容された形態)。この場合、デバイス中に収容されない構成成分は、タウタンパク質の検出の際に、デバイス中に注入されてもよい。
【0029】
好ましい実施形態では、本発明のキットは、採用されるべきイムノアッセイの種類に応じた構成を有していてもよい。例えば、サンドイッチ法が採用される場合、本発明のキットは、任意の構成成分として、標識、希釈液(緩衝液)、標識と反応する基質、およびタウタンパク質標品を含んでいてもよい。好ましくは、抗体コンジュゲートまたは別の抗タウタンパク質抗体は、磁性粒子に固相化されていてもよい。本発明のキットの構成の具体例は、標識担体を含む抗体コンジュゲート、固相(例、磁性粒子、支持体、容器)に固定化された別の抗タウタンパク質抗体、標識と反応する基質、およびタウタンパク質標品である。
【0030】
本発明はまた、タウタンパク質の検出方法を提供する。本発明の方法は、2種以上の抗タウタンパク質抗体を担体に結合させた抗体コンジュゲートを用いて、サンプル中のタウタンパク質を検出することを含む。「2種以上の抗タウタンパク質抗体を担体に結合させた抗体コンジュゲート」は、上述したとおりである。
【0031】
サンプル中のタウタンパク質の検出は、イムノアッセイによって行われてもよい。このようなイムノアッセイとしては、例えば、上述したものが挙げられ、好ましくはサンドイッチ法であってもよい。本発明の方法において、抗体コンジュゲートは、検出抗体または捕捉抗体として用いてもよく、好ましくは検出抗体として用いてもよい。
【0032】
タウタンパク質の検出は、例えば、サンプルを抗体コンジュゲートで処理して抗体コンジュゲートをサンプル中のタウタンパク質に結合させる工程(例、サンプルと抗体コンジュゲートを接触させる工程)、およびタウタンパク質に結合した抗体コンジュゲートを検出する工程により行われてよい。タウタンパク質の検出は、タウタンパク質に結合していない抗体コンジュゲートを除去する工程(例、洗浄工程)をさらに含んでもよい。タウタンパク質に結合した抗体コンジュゲートの検出は、標識を抗体コンジュゲートに結合させる工程、および抗体コンジュゲートに結合した標識を検出する工程により行われてよい。抗体コンジュゲートが標識を含む場合、タウタンパク質に結合した抗体コンジュゲートの検出は、抗体コンジュゲート中の標識を検出する工程により行われてよい。
【0033】
本発明の方法は、抗体コンジュゲートに含まれる抗タウタンパク質抗体とは別のエピトープを認識する抗タウタンパク質抗体(「別の抗タウタンパク質抗体」)にサンプルを接触させることをさらに含んでもよい。「別の抗タウタンパク質抗体」は、上述したとおりである。この場合において、タウタンパク質の検出は、例えば、サンプルを別の抗タウタンパク質抗体で処理してサンプル中のタウタンパク質を別の抗タウタンパク質抗体に結合(捕捉)させる工程(例、サンプルと別の抗タウタンパク質抗体を接触させる工程)、別の抗タウタンパク質抗体に結合したタウタンパク質を抗体コンジュゲートで処理して、抗体コンジュゲートを、別の抗タウタンパク質抗体に結合したタウタンパク質に結合させる工程(例、別の抗タウタンパク質抗体に結合したタウタンパク質と抗体コンジュゲートを接触させる工程)、およびタウタンパク質に結合した抗体コンジュゲートを検出する工程により行われてよい。タウタンパク質の検出は、遊離のタウタンパク質または別の抗タウタンパク質抗体を除去する工程(B/F分離または洗浄工程)、もしくはタウタンパク質に結合していない抗体コンジュゲートを除去する工程(例、洗浄工程)、またはその両方の工程をさらに含んでもよい。タウタンパク質に結合した抗体コンジュゲートの検出は、上述したとおりである。
【0034】
サンプルは、例えば、液体サンプル(例、体液、標品)、組織サンプル、ブロッティングサンプルであってもよい。特に、サンプルは、ヒトから採取された体液サンプルであってもよい。体液サンプルとしては、例えば、血液サンプル(例、全血、血漿、血清)、脳脊髄液、尿、および唾液が挙げられ、好ましくは、脳脊髄液、血漿、または血清であってもよい。
【0035】
タウタンパク質の検出としては、例えば、タウタンパク質の存在もしくは非存在または量の評価、修飾タウタンパク質(例、リン酸化タウタンパク質)の存在もしくは非存在または量の評価、タウタンパク質の修飾(例、リン酸化)の程度の評価が挙げられる。これらのタウタンパク質の評価に基づいて、アルツハイマー病等の神経変性疾患を診断することができる。タウタンパク質の評価に基づくアルツハイマー病等の神経変性疾患の診断は、公知の手法(例、特表平8-502898号公報、特表平9-506771号公報)に基づいて行うことができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を参照して本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0037】
実施例1:アルカリホスファターゼ標識ハイブリッドコンジュゲートの作製
タウタンパク質を特異的に認識するモノクローナル抗体BT2(エピトープ:DRSGYS(配列番号3)、フジレビオヨーロッパ社製)とペプシンをクエン酸緩衝液(pH3.5)中で混合し、37℃で1時間インキュベートしてペプシン消化を行った。反応を停止させた後、Superdex200カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)によりゲルろ過精製を行い、F(ab’)2断片を得た。次に、精製したF(ab’)2断片の濃度を決定し、必要に応じて、2.5mg/mLの濃度になるように調整した。
タウタンパク質を特異的に認識するモノクローナル抗体HT7(エピトープ:PPGQK(配列番号2)、フジレビオヨーロッパ社製)とブロメラインを混合し、37℃で1時間インキュベートしてブロメライン消化を行った。反応を停止させた後、ゲルろ過精製を行い、F(ab’)2断片を得た。次に、精製したF(ab’)2断片の濃度を決定し、必要に応じて、2.5mg/mLの濃度になるように調整した。
得られたBT2のF(ab’)2断片およびHT7のF(ab’)2断片を重量比1:1で混合し、2-メルカプトエチルアミン(2-MEA)塩酸塩を添加して、37℃で90分間インキュベートして、両断片を還元(チオール化)した。さらに脱塩処理し、BT2のFab’断片とHT7のFab’断片の混合物を得た。
【0038】
一方、脱塩したアルカリホスファターゼ(ALP)とN-(4-マレイミドブチリロキシ)-スクシンイミド(GMBS)をモル比1:10で混合し、30℃で1時間インキュベートして、ALPのマレイミド化を行った。脱塩した後、BT2のFab’断片とHT7のFab’断片の混合物と、マレイミド化ALPとを、モル比2:1で混合し、25℃で1時間インキュベートしてカップリングを行った。カップリング反応は、2-MEA塩酸塩を添加することによって停止し、さらに25℃で30分間インキュベートした。次いで、0.5Mヨードアセトアミドを添加し、25℃で30分間インキュベートすることで、反応をクエンチし、コンジュゲート反応混合物を得た。
【0039】
得られたコンジュゲート反応混合物を脱塩、精製した後、HiLoad Superdex200カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)に添加し、抗体のゲルろ過精製を行った。得られた画分の吸光度280nmにおける複数のピークのうち、ALP1つに対し2つ以上のFab’が結合している画分をプールし、ハイブリッドコンジュゲートとした。ハイブリッドコンジュゲートを精製後、0.1M MES緩衝液(1mM MgCl2、0.1mM ZnCl2、0.1%NaN3、0.1%BSA、pH6.8)中に、0.1 mg/mLの濃度になるように調整した。
【0040】
比較例1:アルカリホスファターゼ標識単一モノクローナル抗体の作製
モノクローナル抗体BT2とペプシンをクエン酸緩衝液(pH3.5)中で混合し、37℃で1時間インキュベートしてペプシン消化を行った。反応を停止させた後、Superdex200カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)によりゲルろ過精製を行い、F(ab’)2断片を得た。次に、精製したF(ab’)2断片の濃度を決定し、必要に応じて、2.5mg/mLの濃度になるように調整した。
得られたBT2のF(ab’)2断片を、2-MEA塩酸塩を用いて、37℃で90分間インキュベートし、還元して、BT2のFab’断片を得た。
【0041】
一方、脱塩したアルカリホスファターゼ(ALP)とN-(4-マレイミドブチリロキシ)-スクシンイミド(GMBS)をモル比1:10で混合し、30℃で1時間インキュベートして、ALPのマレイミド化を行った。脱塩した後、BT2のFab’断片と、マレイミド化ALPとを、モル比1:1の割合で混合し、25℃で1時間インキュベートしてカップリングを行った。カップリング反応は、2-MEA塩酸塩を添加し、25℃で30分間インキュベートすることで停止し、ALP標識BT2 Fab’断片を得た。
【0042】
得られたALP標識BT2 Fab’断片をSuperdex200カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を用いてゲルろ過精製を行った。得られた画分の吸光度280nmにおける複数ピークのうち、1つのALPに対し2つ以上のFab’が結合している画分について低分子側と高分子側の二つのグループに分けてプールした。低分子側の画分を第1のALP標識BT2 Fab’断片(1:X)とし、高分子側の画分を第2のALP標識BT2 Fab’断片(1:XX)とした。各ALP標識BT2 Fab’断片を精製後、それぞれ、0.1M MES緩衝液(1mM MgCl2、0.1mM ZnCl2、0.1%NaN3、0.1%BSA、pH6.8)中に、0.05mg/mLの濃度になるようよう調整した。
第1および第2のALP標識HT7 Fab’断片は、第1および第2のALP標識BT2 Fab’断片と同様に調製した。
上記にて調製した第1のALP標識BT2 Fab’断片溶液と、第1のALP標識HT7 Fab’断片溶液とを容量比1:1で混合して、第1のALP標識Fab’断片混合物を得た。また、上記にて調製した第2のALP標識BT2 Fab’断片溶液と、第2のALP標識HT7 Fab’断片溶液とを容量比1:1で混合して、第2のALP標識Fab’断片混合物を得た。
【0043】
実施例2:抗体結合磁性粒子の作製
固相結合抗体として、181番目のスレオニンがリン酸化されたタウタンパク質を特異的に認識するマウスモノクローナル抗体AT270(エピトープ:PPAPKT(p)P(配列番号4)、T(p)はリン酸化スレオニン残基を示す)、およびタウタンパク質を特異的に認識するマウスモノクローナル抗体AT120(エピトープ:PPTREPK(配列番号5))をそれぞれ磁性フェライト粒子に結合した。
具体的には、カルボキシル化された磁性フェライト粒子(富士レビオ社製)にエチル(ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)、およびN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)を添加し、25℃で30分ゆるやかに撹拌しながらインキュベートした。洗浄後、マウスモノクローナル抗体AT270を添加し、25℃で1時間ゆるやかに攪拌しながらインキュベートした。反応後、トリスヒドロキシメチルアミノメタンを添加し、25℃で30分ゆるやかに撹拌しながらインキュベートして反応停止させた。反応停止後、磁性フェライト粒子を磁石で集めて反応液から分離し、粒子を50mM Tris緩衝液(0.15M NaCl、3%BSAを含む、pH7.2)にて洗浄し、AT270結合磁性粒子を得た。得られたAT270結合磁性粒子を0.25mg/mLの濃度になるように50mM MOPS緩衝液に懸濁してAT270結合磁性粒子液を得た。
AT120結合磁性粒子も、AT270結合磁性粒子と同様の方法で作製した。
【0044】
実施例3:リン酸化タウペプチドの測定
タウタンパク質の181番目のスレオニンがリン酸化されているリン酸化タウペプチド抗原を、100mM Tris緩衝液を用いて希釈し、各濃度が0、4.5、9、18、36、72、150pMになるようにリン酸化タウ標準溶液を調製した。
実施例2で作製したAT270結合磁性粒子液150μLと、希釈したリン酸化タウ標準溶液100μLを反応槽に分注し、撹拌後37℃で10分間インキュベートした。その後、B/F分離および洗浄を行った。洗浄は、「Lumipulse G(登録商標)」専用洗浄液(Lumipulse G Wash Solution、富士レビオ社製)を用いた。洗浄後、反応槽に、実施例1で作製したハイブリッドコンジュゲートを50mM MOPS緩衝液(1%BSAを含む、pH6.8)で0.2μg/mLに希釈した溶液250μLを分注し、37℃で10分間インキュベートした。その後、B/F分離および洗浄を行った。洗浄後、反応槽に、化学発光基質である3-(2’-スピロアダマンタン)-4-メトキシ-4-(3’’-ホスホリルオキシ)フェニル-1,2-ジオキセタン・2ナトリウム塩(AMPPD)を含む基質液(Lumipulse G Substrate Solution、富士レビオ社製)200μLを分注し、撹拌後、37℃で5分間反応させ、発光量をルミノメーターで測定し、カウント値を得た。実際の測定は全自動化学発光酵素免疫測定システム「Lumipulse G」(富士レビオ社製)を用いて行った。
【0045】
対照として、ハイブリッドコンジュゲート溶液の代わりに、比較例1で作製したALP標識単一抗体(第1のALP標識Fab’断片混合物および第2のALP標識Fab’断片混合物)を用いて、同様に標準溶液を測定し、カウント値を求めた。
【0046】
結果を表1に示す。各リン酸化タウ標準溶液のカウント値は、二重で測定したカウント値の平均値として示す。また、0pMにおけるカウント値に対する4.5pMにおけるカウント値の比率(S/N比)をそれぞれ求めた。その結果、第1のALP標識Fab’断片混合物は、低いカウントを生じていた。第2のALP標識Fab’断片混合物は、高濃度の標準溶液でのみハイブリッドコンジュゲートと同様のカウント値を生じていた。一方で、ハイブリッドコンジュゲートのみが低濃度の標準溶液に対しても非常に高いカウント値を示した。結果として、ブランク(0pM)のカウント値に対する、最も低い標準溶液(4.5pM)のカウント値の比(S/N比)は、ハイブリッドコンジュゲートを用いた場合、ALP標識Fab’断片混合物(ALP標識単一抗体)を用いた場合に比べて約6倍高いことが明らかとなった。
【0047】
高いS/N比は、安定したアッセイシステムを得るために、かつ高い感度を得るために重要な要素であり、ハイブリッドコンジュゲートを用いることで、高感度かつ安定したアッセイシステムを構築できることが示された。
【0048】
【0049】
実施例4:総タウタンパク質の測定
実施例2で作製したAT120結合磁性粒子液150μLと、総タウタンパク質測定用のキャリブレータ試薬(「LUMIPULSE G Total Tau Calibrators set」、富士レビオ社製)または当該キャリブレータ試薬を50mM Tris緩衝液を用いて希釈して調製したタウタンパク質標準溶液75μLと、実施例1で作製したハイブリッドコンジュゲートを50mM Tris緩衝液を用いて0.2μg/mLに希釈した溶液50μLを反応槽に分注し、撹拌後37℃で20分間インキュベートした。その後、B/F分離および洗浄を行った。洗浄後、反応槽に、AMPPDを含む基質液(Lumipulse G Substrate Solution、富士レビオ社製)200μLを分注し、撹拌後、37℃で5分間反応させ、発光量をルミノメーターで測定し、カウント値を得た。実際の測定は全自動化学発光酵素免疫測定システム「Lumipulse G」(富士レビオ社製)を用いて行った。
【0050】
対照として、ハイブリッドコンジュゲート溶液の代わりに、ビオチン化モノクローナル抗体BT2(フジレビオヨーロッパ社製)、ビオチン化モノクローナル抗体HT7(フジレビオヨーロッパ社製)、およびストレプトアビジン標識ALPを用いて、以下のとおり、標準溶液を測定した。
実施例2で作製したAT120結合磁性粒子液150μLと、上記タウタンパク質標準溶液75μLと、ビオチン化モノクローナル抗体BT2およびビオチン化モノクローナル抗体HT7を含む溶液(抗体混合物)50μL(総抗体8μg/mL)を反応槽に分注し、撹拌後37℃で10分間インキュベートした。その後、B/F分離および洗浄を行った。洗浄後、反応槽に、0.08μg/mLストレプトアビジン標識ALP(SA-ALP)溶液250μLを分注し、37℃で10分間インキュベートした。その後、B/F分離および洗浄を行った。洗浄後、反応槽に、AMPPDを含む基質液(Lumipulse G Substrate Solution、富士レビオ社製)200μLを分注し、撹拌後、37℃で5分間反応させ、発光量をルミノメーターで測定し、カウント値を得た。
【0051】
また、脳脊髄液検体を緩衝液で希釈したサンプル(LoB、LoQ1~LoQ5)についても同様に測定し、カウント値を得た。
【0052】
結果を表2に示す。表2は、両アッセイ系で決定された、測定カウント値、S/N比、LoQ(定量限界値)を示す。各標準溶液(CAL)のカウント値は、二重で標準溶液を測定したカウント値の平均値として示す。サンプルのカウント値は、n=10でサンプルを測定したカウント値の平均値として示す。S/N比は、ブランク(0pg/mL)のカウント値に対する600pg/mLのカウント値の比として求めた。なお、600pg/mLのカウント値は、標準溶液のカウント値から算出した。
【0053】
図1(ハイブリッドコンジュゲート)および
図2(抗体混合物)は、各標準溶液の平均カウント値と濃度から作成した標準曲線に基づいて算出した各サンプル(LoQ1~LoQ5)の濃度と、各サンプル(LoQ1~LoQ5)をn=10で測定した際のカウント値の変動係数(CV)をプロットしている。
図1および2において、精度プロファイル(precision profile)に基づいて、両アッセイ系に対してLoQ(CV20%)を求めた。
【0054】
その結果、総タウタンパク質に関して、ハイブリッドコンジュゲートの使用は、各標識抗体の混合物よりも、非常に高いカウント値を生じ、S/N比もハイブリッドコンジュゲートの方が、各標識抗体の混合物よりも約6倍増加した。さらに、ハイブリッドコンジュゲートを用いた場合のLoQは、各標識抗体の混合物を用いた場合のLoQと比べて約1/10であった。よって、ハイブリットコンジュゲートの使用により低濃度の総タウタンパク質を定量できることが分かった。
【0055】
以上の結果から、総タウタンパク質アッセイ系においても、ハイブリッドコンジュゲートを使用することによって、高感度かつ安定したアッセイシステムを構築できることが示された。
【0056】
【0057】
実施例5: ウシ血清アルブミン(BSA)リンカーハイブリッドコンジュゲートの作製1
ウシ血清アルブミン(BSA)とGMBSをモル比1:10で混合し、30℃で1時間インキュベートして、BSAのマレイミド化を行った。脱塩した後、実施例1で得られたBT2のFab’断片とHT7のFab’断片の混合物と、マレイミド化BSAとを、モル比2:1で混合し、25℃で1時間インキュベートしてカップリングを行った。カップリング反応は、2-MEA塩酸塩を添加することによって停止し、さらに25℃で30分間インキュベートした。次いで、0.5Mヨードアセトアミドを添加し、25℃で30分間インキュベートすることで、反応をクエンチし、コンジュゲート反応混合物を得た。
【0058】
得られたコンジュゲート反応混合物を、リン酸緩衝液(pH6.8)で平衡化したHiLoad Superdex200カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)に添加し、抗体のゲルろ過精製を行った。得られた画分の吸光度280nmにおける複数のピークのうち、BSA1つに対し2つ以上のFab’が結合している画分をプールし、BSAリンカーハイブリッドコンジュゲートを得た。
【0059】
得られたBSAリンカーハイブリッドコンジュゲートとNHS-PEG4-Bition(サーモフィッシャー社製)をモル比1:30で混合し、25℃45分インキュベートしてBSAリンカーハイブリッドコンジュゲートのビオチン化を行った。さらに脱塩処理し、ビオチン化BSAリンカーハイブリッドコンジュゲート1を得た。さらに、50mM MOPS緩衝液(150mM塩化ナトリウム、1.0%BSA、pH6.8)に0.4μg/mLに希釈し、アルカリホスファターゼ標識ストレプトアビジン(ALP-SA)(Streptavidin、 Alkaline Phosphatase Conjugate、Invitrogen社製)を0.4μg/mLの濃度で添加し、ALPで標識されたBSAリンカーハイブリッドコンジュゲート1を含む反応溶液(ハイブリッドコンジュゲート反応溶液1)を得た。
【0060】
実施例6:BSAリンカーハイブリッドコンジュゲートの作製2
BSAに2-MEA塩酸塩を添加して、37℃で60分間インキュベートして、還元(チオール化)した。さらに脱塩処理し、チオール化BSAを得た。さらに、チオール化BSAとNHS-PEG4-Bition(サーモフィッシャー社製)をモル比1:25、チオール化BSAと1、2―ビス(マレイミド)エタン(東京化成工業社製)をモル比1:350で混合し、30℃で1時間インキュベートして、BSAのビオチン化、マレイミド化を同時に行った。脱塩した後、実施例1で得られたBT2のFab’断片とHT7のFab’断片の混合物と、ビオチン化マレイミド化BSAとを、モル比2:1で混合し、25℃で1時間インキュベートしてカップリングを行った。カップリング反応は、2-MEA塩酸塩を添加することによって停止し、さらに25℃で30分間インキュベートした。次いで、0.5Mヨードアセトアミドを添加し、25℃で30分間インキュベートすることで、反応をクエンチし、ビオチン化BSAリンカーハイブリッドコンジュゲート2を得た。
【0061】
得られたビオチン化BSAリンカーハイブリッドコンジュゲート2を50mM MOPS緩衝液(150mM塩化ナトリウム、1.0%BSA、pH6.8)に0.2μg/mLに希釈し、ALP-SA(Streptavidin、 Alkaline Phosphatase Conjugate、Invitrogen社製)を0.4μg/mLの濃度で添加し、ALPで標識されたBSAリンカーハイブリッドコンジュゲート2を含む反応溶液(ハイブリッドコンジュゲート反応溶液2)を得た。
【0062】
比較例2:BSAリンカー単一モノクローナル抗体の作製
モノクローナル抗体BT2とペプシンをクエン酸緩衝液(pH3.5)中で混合し、37℃で1時間インキュベートしてペプシン消化を行った。反応を停止させた後、Superdex200カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)によりゲルろ過精製を行い、F(ab’)2断片を得た。次に、精製したF(ab’)2断片の濃度を決定し、必要に応じて、2.5mg/mLの濃度になるように調整した。
得られたBT2のF(ab’)2断片を、2-MEA塩酸塩を用いて、37℃で90分間インキュベートし、還元して、BT2のFab’断片を得た。
【0063】
一方、脱塩したBSAとGMBSをモル比1:10で混合し、30℃で1時間インキュベートして、BSAのマレイミド化を行った。脱塩した後、BT2のFab’断片と、マレイミド化BSAとを、モル比2:1の割合で混合し、25℃で1時間インキュベートしてカップリングを行った。カップリング反応は、2-MEA塩酸塩を添加することによって停止し、さらに25℃で30分間インキュベートした。次いで、0.5Mヨードアセトアミドを添加し、25℃で30分間インキュベートすることで、反応をクエンチし、BSAリンカーBT2 Fab’断片を得た。
【0064】
得られたBSAリンカーBT2 Fab’断片をリン酸緩衝液(pH6.8)で平衡化したSuperdex200カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を用いてゲルろ過精製を行った。得られた画分の吸光度280nmにおける複数ピークのうち、1つのALPに対し2つ以上のFab’が結合している画分についてプールした。
BSAリンカーHT7 Fab’断片は、BSAリンカーBT2 Fab’断片と同様に調製した。
【0065】
得られたBSAリンカーBT2 Fab’断片およびBSAリンカーHT7 Fab’断片を50mM MOPS緩衝液(150mM塩化ナトリウム、1.0%BSA、pH6.8)にそれぞれ0.2μg/mLで希釈し、ALP-SA(Streptavidin、 Alkaline Phosphatase Conjugate、Invitrogen社製)を0.4μg/mLの濃度で添加し、ALP標識BSAリンカーBT2 Fab’断片とALP標識BSAリンカーBT2 Fab’断片との混合物(混合コンジュゲート反応溶液)を得た。
【0066】
実施例7:リン酸化タウペプチドの測定
タウタンパク質の181番目のスレオニンがリン酸化されているリン酸化タウペプチド抗原を、100mM Tris緩衝液を用いて希釈し、各濃度が0、40、100、200、400pg/mLになるようにリン酸化タウ標準溶液を調製した。
実施例2で作製したAT270結合磁性粒子液150μLと、希釈したリン酸化タウ標準溶液30μLを反応槽に分注し、撹拌後37℃で10分間インキュベートした。その後、B/F分離および洗浄を行った。洗浄は、「Lumipulse G(登録商標)」専用洗浄液(Lumipulse G Wash Solution、富士レビオ社製)を用いた。洗浄後、反応槽に、実施例5で作製したハイブリッドコンジュゲート反応溶液1または実施例6で作製したハイブリッドコンジュゲート反応溶液2を、250μL分注し、37℃で10分間インキュベートした。その後、B/F分離および洗浄を行った。洗浄後、反応槽に、AMPPDを含む基質液(Lumipulse G Substrate Solution、富士レビオ社製)200μLを分注し、撹拌後、37℃で5分間反応させ、発光量をルミノメーターで測定し、カウント値を得た。実際の測定は全自動化学発光酵素免疫測定システム「Lumipulse G」(富士レビオ社製)を用いて行った。
【0067】
対照として、ハイブリッドコンジュゲート反応溶液の代わりに、比較例2で作製した混合コンジュゲート反応溶液を用いて、同様に標準溶液を測定し、カウント値を求めた。
【0068】
結果を表3に示す。各リン酸化タウ標準溶液のカウント値は、二重で測定したカウント値の平均値として示す。また、0pg/mLにおけるカウント値に対する40pg/mLにおけるカウント値の比率(S/N比)をそれぞれ求めた。その結果、混合コンジュゲート反応溶液を用いた場合は、低いカウントを生じていた。一方で、ハイブリッドコンジュゲート反応溶液1およびハイブリッドコンジュゲート反応溶液2を用いた場合は、低濃度の標準溶液に対しても非常に高いカウント値を示した。結果として、ブランク(0pg/mL)のカウント値に対する、最も低い標準溶液(40pg/mL)のカウント値の比(S/N比)は、ハイブリッドコンジュゲート反応溶液1を用いた場合、混合コンジュゲート反応溶液(ALP標識単一抗体の混合物)を用いた場合に比べて約9倍高く、また、ハイブリッドコンジュゲート反応溶液2を用いた場合、混合コンジュゲート反応溶液を用いた場合に比べて約13倍高いことが明らかとなった。
【0069】
高いS/N比は、安定したアッセイシステムを得るために、かつ高い感度を得るために重要な要素であり、ハイブリッドコンジュゲートを用いることで、高感度かつ安定したアッセイシステムを構築できることが示された。
【0070】
【配列表】