(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-27
(45)【発行日】2024-12-05
(54)【発明の名称】コークス炉補修用断熱壁の設置方法
(51)【国際特許分類】
C10B 29/06 20060101AFI20241128BHJP
F27D 1/16 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
C10B29/06
F27D1/16 Z
(21)【出願番号】P 2021006231
(22)【出願日】2021-01-19
【審査請求日】2023-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】599090615
【氏名又は名称】株式会社メガテック
(74)【代理人】
【識別番号】100105968
【氏名又は名称】落合 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】長尾 光剛
(72)【発明者】
【氏名】諏訪 雅寛
(72)【発明者】
【氏名】迫 佳司
(72)【発明者】
【氏名】青木 晋平
(72)【発明者】
【氏名】上里 拓司
(72)【発明者】
【氏名】高野 要
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開平6-41538(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1929684(KR,B1)
【文献】特開2010-248389(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10B 29/06
F27D 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コークス炉補修用断熱壁の設置方法であって、
連設された複数の断熱板がフレームで固定されてなる板状の断熱壁を予め作製しておき、
前記コークス炉の押出機側または消火車側のプラットフォームを走行する搬送台車にN枚の前記板状の断熱壁を載置し、
さらに前記搬送台車が走行する通路となる前記プラットフォームに面して開放された第1の窯口に対向する位置で前記搬送台車を停止し、
次いで、前記第1の窯口が開放された炭化室の反対側の第2の窯口も開放しておき、
前記搬送台車に載置したN枚の板状の断熱壁のうちの1枚目を、前記第1の窯口から炭化室内に挿入する最初の断熱壁である第1断熱壁として、
前記第1断熱壁に牽引ワイヤの先端を結合し、前記牽引ワイヤの後端を前記第2の窯口から炉外に延伸して牽引装置に結合したのち、前記牽引装置を作動して、牽引することによって前記第1断熱壁を前記炭化室に引き入れた後、前記牽引装置を停止し、
引き続き、前記搬送台車に載置したN枚の板状の断熱壁のうちの2枚目を、2番目に挿入する第2断熱壁として、前記第2断熱壁を前記第1断熱壁に連結し、前記牽引装置を再作動して前記第2断熱壁も前記炭化室に引き入れた後、前記牽引装置を再停止し、
その後、同様に、互いに隣り合う断熱壁の連結、ならびに前記牽引と前記停止とを第(N-1)断熱壁を前記炭化室に引き入れるまで、繰り返したのち、
最後尾のN番目に挿入する第N断熱壁を前記第(N-1)断熱壁に連結し、前記牽引装置を再び作動して前記第N断熱壁を前記炭化室に引き入れた後、前記牽引装置を再び停止したのち、
前記牽引ワイヤを前記第1断熱壁から分離して炉外に引き出し、
次に、前記第1断熱壁を前記第2の窯口の金具に固定するとともに、前記第N断熱壁を前記第1の窯口の金具に固定して、板状の断熱壁をN枚、炉長方向に連結してなる補修用断熱壁とすることを特徴とする断熱壁の設置方法。
【請求項2】
前記搬送台車が前記消火車側の前記プラットフォームに施設されたレール上を走行することを特徴する請求項1に記載の断熱壁の設置方法。
【請求項3】
前記搬送台車上に立設された櫓構造体に前記断熱壁を立て掛け、かつ前記搬送台車の進行方向に対して直角に前記断熱壁を保持して前記搬送台車を走行させることを特徴とする請求項1または2に記載の断熱壁の設置方法。
【請求項4】
前記牽引装置が、クレーン車またはウインチであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の断熱壁の設置方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コークス炉の補修を行なうにあたって、作業員を保護するための断熱壁を炉内に設置する方法に関し、詳しくはコークス炉の押出機側から消火車側に到る全長にわたって補修を行なう際に好適な、断熱壁を設置する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コークス炉1では、
図6(垂直断面図)、
図7(水平断面図)に模式的に示すように、燃料が燃焼する燃焼室4と、石炭が装入される炭化室2とが交互に配置される。そして、燃焼室4で燃料を燃焼させて生じる熱によって壁体3(以下、燃焼室壁3ともいう)が加熱され、その壁体(燃焼室壁)3からの輻射熱によって炭化室2内の石炭が乾留されてコークスとなる。
【0003】
コークス炉1を長期間にわたって操業すると、石炭の装入による温度低下と燃料の燃焼による温度上昇が繰り返し発生し、さらにコークスを炉外へ押し出す度に摩擦が作用するので、燃焼室壁3に亀裂が生じる。そのまま操業を継続すれば、亀裂が燃焼室4から炭化室2まで貫通し、炭化室2内を浮遊する微細な石炭粉、および炭化室2内の乾留によって発生するCOガスが燃焼室4へ流入する。流入した石炭粉やCOガスは、燃焼室4内の燃料と空気の混合比率(いわゆる空燃比)を乱すので、多量の煤が発生して環境汚染を引き起こす原因となる。
【0004】
したがって燃焼室壁3に亀裂が発生したときは、燃焼室壁3の該当する部位を解体した後、耐火煉瓦を積み替えて新たに燃焼室壁3を構築する、あるいは耐火物の成形体であるブロック(いわゆるモジュール)を用いて燃焼室壁3を構築する等の補修を行なう必要がある。その補修を行なう際には、燃焼室4内に作業員は入れないので、炭化室2内に作業員が入って補修を行なう。ただし、補修の必要のない健全な燃焼室は燃料の燃焼を継続するので、補修は、作業員が高温の炭化室2内に入って行なう、いわゆる熱間補修となる。その主な理由は、
(a)炭化室2内を常温まで冷却するのに長時間を要するばかりでなく、補修が終了した後の昇温に再び長時間を要する、
(b)炭化室2内の温度降下に起因して、燃焼室壁3の耐火煉瓦に亀裂が生じる、
等が原因となって、コークス炉の操業に支障を来すからである。
【0005】
そこで、燃焼室壁からの輻射熱を遮断して炭化室2内の作業員を保護する技術が検討されている。
【0006】
たとえば特許文献1には、炭化室の天井に対向する上面、炭化室の補修しない壁面に対向する広側面、炭化室の補修を要する壁面に対向する狭側面、および炭化室の端壁面に対向する横面の4面に断熱材を充填した箱形状の断熱ボックスが開示されている。しかし、この断熱ボックスを用いてコークス炉燃焼室壁全長にわたって補修を行なう場合、窯口から入った作業員が断熱ボックスを越えてトンネル状の炭化室2内の奥部に進むことは困難である。つまり特許文献1に開示された断熱ボックスは、コークス炉の押出機側から消火車側に到る全長にわたって燃焼室壁の補修を行なう作業には適用できない。
【0007】
特許文献2には、さらに、断熱ボックスを炭化室内に挿入する手段として押出機を用いた断熱ボックスの挿入方法が開示されている。しかし断熱ボックスを炭化室内に挿入するために押出機を使用すれば、補修の必要がない操業中の健全な炭化室からコークスを排出するのに支障を来し、コークス炉の稼働率低下ならびにコークスの生産性低下を招くという問題がある。
【0008】
特許文献3には、コークス炉の天井上面に吊りビームを配設し、その吊りビームから吊り棒、ガードレール、ロールを有するライナーを組み合せた専用の支持部材を介して板状の断熱材を炉内に垂下できるようにした、コークス炉における加熱壁の断熱装置が開示されている。しかし、この技術では、補修を行なう前に吊りビームを配設するとともに、終了した後に吊りビームを取り外す必要があるので、補修工事の工期の延長を招くとともに、吊りビームや支持部材の製作費が工事費に加わるので、補修コストの上昇を招く、という問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第4846274号公報
【文献】特許第4851127号公報
【文献】実公平2-7860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記した従来の技術の問題点を解消し、コークス炉の押出機側から消火車側に到る燃焼室壁を全長にわたって補修する際に、作業員を保護するための断熱壁を炉内に短期間でかつ安価に設置できる、断熱壁の設置方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記した目的を達成するため、まずフレームを用いて断熱板を板状に組み合わせた断熱壁に着目し、その断熱壁を炉内に挿入する技術について検討した。そして、断熱壁を天井から垂下せず、床面上に設置することに思い至った。この方法によれば、断熱壁を簡便な手段で短期的でかつ安価に設置できることを見出した。
【0012】
本発明は、このような知見に基づいてなされたものである。
すなわち本発明は、コークス炉補修用断熱壁の設置方法であって、
連設された複数の断熱板がフレームで固定されてなる板状の断熱壁を予め作製しておき、
前記コークス炉の押出機側または消火車側のプラットフォームを走行する搬送台車にN枚の前記板状の断熱壁を載置し、
さらに前記搬送台車が走行する通路となる前記プラットフォームに面して開放された第1の窯口に対向する位置で前記搬送台車を停止し、
次いで、前記第1の窯口が開放された炭化室の反対側の第2の窯口も開放しておき、
前記搬送台車に載置したN枚の板状の断熱壁のうちの1枚目を、前記第1の窯口から炭化室内に挿入する最初の断熱壁である第1断熱壁として、
前記第1断熱壁に牽引ワイヤの先端を結合し、前記牽引ワイヤの後端を前記第2の窯口から炉外に延伸して牽引装置に結合したのち、前記牽引装置を作動して、牽引することによって前記第1断熱壁を前記炭化室に引き入れた後、前記牽引装置を停止し、
引き続き、前記搬送台車に載置したN枚の板状の断熱壁のうちの2枚目を、2番目に挿入する第2断熱壁として、前記第2断熱壁を前記第1断熱壁に連結し、前記牽引装置を再作動して前記第2断熱壁も前記炭化室に引き入れた後、前記牽引装置を再停止し、
その後、同様に、互いに隣り合う断熱壁の連結、ならびに前記牽引と前記停止とを第(N-1)断熱壁を前記炭化室に引き入れるまで、繰り返したのち、
最後尾のN番目に挿入する第N断熱壁を前記第(N-1)断熱壁に連結し、前記牽引装置を再び作動して前記第N断熱壁を前記炭化室に引き入れた後、前記牽引装置を再び停止したのち、
前記牽引ワイヤを前記第1断熱壁から分離して炉外に引き出し、
次に、前記第1断熱壁を前記第2の窯口の金具に固定するとともに、前記第N断熱壁を前記第1の窯口の金具に固定して、板状の断熱壁をN枚、炉長方向に連結してなる補修用断熱壁とすることを特徴とする断熱壁の設置方法である。
【0013】
また、本発明では、搬送台車が消火車側のプラットフォームに施設されたレール上を走行することが好ましく、また本発明では、搬送台車上に立設された櫓構造体に板状の断熱壁を立て掛け、かつ搬送台車の進行方向に対して直角に断熱壁を保持することが好ましい。また、本発明では、牽引装置を、クレーン車またはウインチとすることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、コークス炉の押出機側から消火車側に到る燃焼室壁を全長にわたって補修する際に、作業員を保護するための断熱壁を炉内に短期間でかつ安価に設置することが可能となり、産業上格段の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明で使用する板状の断熱壁の例を模式的に示す斜視図である。
【
図2】断熱壁を炭化室に設置した状態を模式的に示す断面図(垂直断面図)である。
【
図4】板状の断熱壁(1枚)を炭化室に挿入した状態を模式的に示す断面図である。
【
図5】板状の断熱壁(4枚)を炭化室に挿入した状態を模式的に示す断面図である。
【
図6】コークス炉の炭化室と燃焼室の配置の例を模式的に示す垂直断面図である。
【
図7】コークス炉の炭化室と燃焼室の配置の例を模式的に示す水平断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明で使用する板状の断熱壁5の一例を
図1に示す。この板状の断熱壁5は、骨材で形成された板状のフレーム7に、複数の断熱板6を連ねて配設(以下、連設という)して、固定したものである。
図1には、9枚の断熱板6を連設する例を示したが、本発明では1枚の断熱壁5に配設する断熱板6の枚数は特に限定しない。つまり、断熱壁5を挿入する炭化室2の大きさ、あるいは断熱板6の寸法に応じて、断熱板6の枚数を設定する。
【0017】
なお、断熱板6の材質はとくに限定しないが、常用のセラミックファイバー及びセラミックボード等の耐火材料がいずれも好適に適用できる。また、断熱壁5を画成するフレーム7は、骨材を用いて形成されるが、使用する骨材としては、高温の炭化室2に挿入された後の変形するのを防止するために、耐熱性を備えた金属材料(たとえばステンレス鋼、耐熱鋼等)を使用することが好ましい。なお、骨材として管材を使用すれば、フレーム7内に冷却用水や冷却用空気を流通させることが可能となり、フレーム7の変形を防止する効果が向上する。
【0018】
つぎに、
図1に示す板状の断熱壁5をコークス炉1の炭化室2へ挿入する方法については説明する。
【0019】
断熱壁5を炭化室2内に設置する場所は、
図2に示すように、補修を行なう燃焼室壁3Bを含む所定の炭化室2内で、健全な燃焼室壁3Gに隣接した場所である。
図2において、符号3Gは補修の必要のない健全な燃焼室壁、符号3Bは補修を行なう燃焼室壁を示す。
図2では、断熱壁5を2箇所に設置している。
【0020】
燃焼室壁3Bの補修を行なうにあたって、作業員が燃焼室壁3Bと燃焼室壁3Gの間の炭化室2に入る前に、断熱壁5を健全な燃焼室壁3Gに隣接させて設置する。こうすることによって、健全な燃焼室壁3Gからの輻射熱を断熱壁5で遮断することが可能となる。その後、作業員が断熱壁5と燃焼室壁3Bの間の空間に入って、古い燃焼室壁3Bの解体と新しい燃焼室壁3Bの構築(すなわち補修作業)を行なう。
【0021】
まず、断熱壁5を炭化室2内に、挿入する。本発明では、補修対象となる燃焼室壁3Bに隣接する燃焼壁3G全長にわたり断熱が可能な長さとなるように、所定の炭化室2内に、所定寸法の板状の断熱壁5を複数枚(N枚)、順次挿入し、炉長方向に連結して、熱間補修用断熱壁50とする。
【0022】
ここで、Nは炭化室2の全長にわたって設置するために必要な断熱壁5の枚数を指す整数である。なお、板状の断熱壁5は、補修の作業を開始する前に予め製作しておくものとする。
【0023】
まず、予め製作しておいた複数枚の断熱壁5を搬送台車9に載置する。たとえば、N=4の場合は、搬送台車9に4枚ずつ合計8枚の断熱壁5を載置する。
【0024】
使用する搬送台車9の例を
図3に示す。搬送台車9は、コークス炉の押出機側ならびに消火車側に設けられる作業用通路(いわゆるプラットフォーム)の何れか片方を走行するものである。搬送台車9の動力は、特に限定せず、電力で駆動するモーターや石油燃料で駆動するエンジン等、従来から知られている技術を使用する。あるいは人力で搬送台車9を動かしても良い。
【0025】
なお、通常、消火車側のプラットフォームには消火車が走行するためのレールが設置されているので、その既設のレール上を走行できる車輪を備えた搬送台車9を使用すれば、多数の断熱壁5を一度に搬送することができるので、断熱壁5を炭化室2内に効率良く設置することが可能となる。一方、押出機側のプラットフォームにはレールが設置されていないので、車輪にタイヤを装着した搬送台車9とすることが好ましい。ただし、大重量である多数の断熱壁5を搬送するためには、必要に応じて搬送台車9の車軸等の強度を増やす必要がある。
【0026】
本発明で使用する搬送台車9上には櫓状の構造体11(以下、櫓構造体という)を立てた状態で設置(以下、立設という)する。さらに、搬送台車9の櫓構造体11に隣接する位置に高さ調整棚12を配設する。このような搬送台車9に断熱壁5を載置するにあたって、断熱壁5を高さ調整棚12上に載せ、かつ櫓構造体11にもたれさせて立て掛けることが好ましい。このとき、断熱壁5を搬送台車9の進行方向に対して直角(すなわち車輪10の車軸に平行)に立て掛けることが好ましい。その理由は、断熱壁5を炭化室2内に効率良く設置できるからである。
【0027】
また、高さ調整棚12を使用することによって、高さ調整棚12の上面(すなわち断熱壁5の下端)と炭化室2の床面とを同じ高さに保持することができるので、断熱壁5を炭化室2内に効率良く設置することが可能となる。
【0028】
なお
図3には、搬送台車9上に立設させた櫓構造体11の片側のみに高さ調整棚12を配設する例を示したが、櫓構造体11の両側に高さ調整棚12を配設して、断熱壁5を櫓構造体11の両側に立て掛けても良い。たとえばN=4の場合、断熱壁5を櫓構造体11の片側に4枚ずつ(合計8枚)載置して搬送できるので、断熱壁5を一層効率良く設置することが可能となる。
【0029】
次いで、断熱壁5を載置した搬送台車9は、プラットフォームを走行し、断熱壁5を挿入する所定の炭化室2の開放された窯口に対向する位置で停止する。なお、断熱壁5を挿入する所定の炭化室2の、搬送台車9が走行する通路となるプラットフォームに面した窯口(以下、第1の窯口ともいう)は、予め開放しておく。搬送台車9が消火車側のプラットフォームを走行する場合は、消火車側の窯口が第1の窯口、押出機側の窯口が第2の窯口とする。一方、押出機側のプラットフォームを搬送台車9が走行する場合は、押出機側の窯口が第1の窯口、消火車側の窯口が第2の窯口とする。
【0030】
そして、断熱壁5を挿入する炭化室2の第2の窯口も開放しておく。こうすることによって、当該炭化室は、押出機側から消火車側に到る全長にわたってトンネル状に開通させることになる。
【0031】
ついで、搬送台車9に載置したN枚の板状の断熱壁のうちの1枚を、炭化室2に最初に挿入する板状の断熱壁51(以下、第1断熱壁ともいう)として、開放された第1の窯口14aから、炭化室2に挿入する。
【0032】
挿入に当たっては、断熱壁51(以下、第1断熱壁という)に牽引ワイヤ13の一方の端部(以下、先端という)を結合し、他方の端部(以下、後端という)を第2の窯口14bから炉外に延伸させ、牽引装置15に結び付ける。
【0033】
牽引ワイヤ13の先端を第1断熱壁51に連結する手段は、特に限定せず、ボルトや溶接等の従来から知られている手段を使用することが好ましい。ただし、ボルトを使用すれば、作業中あるいは作業終了後、適宜、容易に着脱することが可能になるので好ましい。
【0034】
なお、牽引ワイヤ13の後端を炭化室2の第2の窯口14bから引き出す方法はとくに限定する必要はなく、長尺の補助材等を利用して引き出すなど、常用の方法がいずれも好ましい。
【0035】
次に、炭化室2の第2の窯口14bから引き出した牽引ワイヤ13の後端を牽引装置15に結び付ける。その牽引装置15としてクレーン車を使用する例を
図4に示す。つまり牽引ワイヤ13の後端をクレーン車15のフック16に結び付けて、滑車17を介して上方へ引き挙げることによって、第1断熱壁51を第1の窯口14aから炭化室2内に引き入れることができる。
【0036】
図示を省略するが、牽引装置15としてウインチで牽引ワイヤ13を後端から巻き取ることによって、第1断熱壁51を第1の窯口14aから炭化室2内に引き入れることも可能である。
こうして第1断熱壁51を炭化室2に引き入れた後、牽引装置15を停止する。
【0037】
そして、搬送台車9に載置したN枚の板状の断熱壁のうちの1枚(2枚目)を炭化室2に2番目に挿入する断熱壁52(以下、第2断熱壁という)として、第2断熱壁52を第1断熱壁51に連結する。第2断熱壁52を第1断熱壁51に連結する手段は、特に限定せず、ボルトや溶接等の従来から知られている手段を使用する。例えば、ボルトを使用すれば、作業中あるいは作業終了後、適宜、容易に着脱することが可能になる。また、作業員は炉内に入ることなく、プラットフォーム上で断熱壁の連結作業を行なうことができる。
【0038】
次いで、牽引装置15を再び作動させて第2断熱壁52を第1の窯口14aから炭化室2内に引き入れる。こうして第2断熱壁52も炭化室2に引き入れた後、牽引装置15を再び停止する。
【0039】
その後、3番目から(N-1)番目までの断熱壁について上記したように、順次、連結、牽引、停止を繰返して、第(N-1)の断熱壁5(N-1)を炭化室2に引き入れる。そして、炭化室2に引き入れられた第(N-1)断熱壁5(N-1)に、最後尾のN番目に挿入する第N断熱壁5Nを連結して、牽引装置15を再び作動させて第N断熱壁5Nを第1の窯口14aから炭化室2内に引き入れる。こうして炭化室2に引き入れた後、牽引装置15を再び停止する。
【0040】
このようにして第1断熱壁51から第N断熱壁5Nまでを順次、炭化室2の床面を摺動して炭化室2に挿入する。N=4とした場合の断熱壁5の挿入状況を
図5に示す。
【0041】
断熱壁の挿入に際し、炭化室2の床面の損傷を防止するために、断熱壁5の下端に車輪あるいは橇板等を配設することが好ましい。
【0042】
このように本発明では、炭化室2に板状の断熱壁5を複数枚(N枚)、挿入し、隣接する断熱壁同士を順次、連結しながら、補修する燃焼壁全長(炭化室2の全長)にわたり断熱することが可能な補修用断熱壁50とする。
【0043】
補修用断熱壁50を所定の炭化室2に設置したのち、牽引ワイヤ13の先端を第1断熱壁51から分離させて炉外へ引き出す。さらに、第1断熱壁51を第2の窯口14bの金具に固定し、さらに第N断熱壁5Nを第1の窯口14aの金具に固定する。これにより、補修用断熱壁50の転倒を防止できる。
【0044】
以上のように、本発明を適用して、所定の炭化室2内に一つの補修用断熱壁50を設置したのち、さらに必要に応じ同様に、他の所定の炭化室2内にもう一つの補修用断熱壁50を設置する。
【0045】
このようにして、炭化室2の第1の窯口14aから第2の窯口14bに到る全長にわたって補修用断熱壁50を設置した後、作業員が炭化室2に入って燃焼室壁3の補修(つまり古い燃焼室壁の解体と新しい燃焼室壁の構築)を行なう。本発明を適用して断熱壁50を設置すれば、燃焼室壁3を全長にわたって補修することが可能となる。
【0046】
補修が終了した後、牽引ワイヤ13の先端を第1断熱壁51に連結し、さらに第1断熱壁51を第2の窯口14bの金具から分離し、第N断熱壁5Nを第1の窯口14aの金具から分離したのち、牽引装置15で第1断熱壁51を第2の窯口14bから炉外へ引き出す。引き続き第1断熱壁51と第2断熱壁52を分離して、第2断熱壁52を第2の窯口14bから炉外へ引き出す。この作業を第N断熱壁5Nを炉外に引き出すまで繰り返すことによって、作業員が炉内に入ることなく、第1断熱壁から第N断熱壁までを全て炉外へ取り出すことができる。
【0047】
牽引装置15としてクレーン車を使用する場合は、取り出した断熱壁をプラットフォームから吊り上げて、搬出用の運搬手段(たとえばトラック等)に積み込むことが可能である。また、クレーン車を第1の窯口14a側へ移動させれば、断熱壁を第1の窯口14aから炉外へ引き出すことも可能である。
【実施例】
【0048】
図2に示すように、補修の必要がない燃焼室壁3Gと、補修を必要とする燃焼室壁3Bの間に位置する2ケ所の炭化室2にそれぞれ、補修用断熱壁50を設置した。
【0049】
まず、
図1に示すように、骨材を用いて成形したフレーム7に、断熱板6を1列に3枚ずつ合計9枚(=3列)連設固定した板状の断熱壁5を8枚用意した。なお、この板状の断熱壁5を4枚炉長方向に連結すれば、補修すべき燃焼室壁の全長に対向できる補修用断熱壁50を1列形成できる。また、断熱板6は、断熱材としてセラミックファイバー及びセラミックボードを用い、板状(厚さ:60mm×高さ6500mm×長さ4000mm)に成形したものを使用した。骨材は鋼材を用いた。ついで、搬送台車上に櫓構造体11を立設し、かつ該櫓構造体11の両側に高さ調整棚12を配設し、消火車側のプラットフォームに敷設されたレールを走行可能な搬送台車9を作製した。
【0050】
次に、上記した搬送台車9をプラットフォームのレール上に載せ、さらに予め作製しておいた板状の断熱壁5を4枚ずつ(合計8枚)高さ調整棚12に載置した。
【0051】
そして、レール上の搬送台車9を走行させ、2箇所の炭化室2のうちの一方の炭化室の第1の窯口(消火車側の窯口)に対向する位置に停止させた。なお、当該炭化室2の窯口は、第1の窯口(消火車側)および第2の窯口(押出機側)をともに、予め開放しておいた。
【0052】
そして、高さ調整棚12に載置された8枚の断熱壁5のうちの1枚を第1断熱壁51として、第1断熱壁51の下面が、高さ調整棚12を作動して炭化室2の床面と同じ高さとなるように調整したのち、牽引ワイヤ13の先端を結合した。なお、牽引ワイヤの挿入、引き出しには、長尺の補助材(長尺棒材)を使用し、牽引ワイヤの後端は、当該炭化室2の第2の窯口14bから炉外に引き出しておいた。
【0053】
次に、牽引ワイヤの後端をクレーン車15のフック16に結び付けた。そして、クレーン車15を作動させて牽引ワイヤを滑車を介して上方へ引き挙げて、第1断熱壁を第1の窯口14aから炭化室2内に挿入した(
図4参照)。第1断熱壁51を炭化室2に挿入したのち、クレーン車15の作動を停止した。
【0054】
そして、高さ調整棚12に載置された断熱壁5のうちから、さらに1枚を、第2断熱壁52として、第2断熱壁52を第1断熱壁51に連結した。なお、連結はボルト結合とした。
【0055】
そして、第1断熱壁51と同様に、クレーン車(牽引装置)15を作動させて、牽引ワイヤを滑車17を介して、上方へ引き挙げて、第2断熱壁52を第1の窯口14aから炭化室2内に挿入した。挿入後、クレーン車(牽引装置)15の作動を停止した。
【0056】
第3断熱壁および第4断熱壁についても、上記した工程と同様に、連結、牽引、停止を繰り返し行なって、炭化室2内に挿入し、燃焼室壁全長にわたり断熱することができる補修用断熱壁50とした(
図5参照)。さらに、補修用断熱壁50の転倒を防止するために、第1断熱壁を第2の窯口の金具に固定し、第4断熱壁を第1の窯口の金具に固定した。
【0057】
引き続き、レール上の搬送台車9を移動させ、他の所定の炭化室の第1の窯口に対向する位置に停止させ、同様に、4枚の板状の断熱壁を順次、所定の炭化室内に挿入し、補修用断熱壁50を設置した。さらに、断熱壁の転倒防止のために同様に、第1の断熱壁51を第2の窯口の金具に、また第4の断熱壁54を第1の窯口の金具にそれぞれ、固定した。
【0058】
このようにして、作業員が炭化室に入ることなく、2箇所の炭化室にそれぞれ、燃焼室全長にわたり断熱可能な補修用断熱壁を設置できた。
【0059】
その後、作業員が炭化室に入って燃焼室壁全長にわたり補修を行なった。そして補修が終了すると、作業員が炭化室から退避し、夫々の炭化室の第2の窯口から断熱壁を順次引き出した。この作業においても、作業員が炉内に入ることなく、断熱壁を全て取り出した。
【符号の説明】
【0060】
1 コークス炉
2 炭化室
3 燃焼室壁(壁体)
3G 補修の必要がない燃焼室壁
3B 補修を行なう燃焼室壁
4 燃焼室
5 断熱壁
50 補修用断熱壁
51 第1断熱壁
52 第2断熱壁
53 第3断熱壁
54 第4断熱壁
6 断熱板
7 フレーム
9 搬送台車
10 車輪
11 櫓構造体
12 高さ調整棚
13 牽引ワイヤ
14a 第1の窯口
14b 第2の窯口
15 牽引装置(クレーン車)
16 フック
17 滑車
18 連結部