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特許7594928誘電体組成物、電子部品および積層電子部品
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  • 特許-誘電体組成物、電子部品および積層電子部品 図1A
  • 特許-誘電体組成物、電子部品および積層電子部品 図1B
  • 特許-誘電体組成物、電子部品および積層電子部品 図2
  • 特許-誘電体組成物、電子部品および積層電子部品 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-27
(45)【発行日】2024-12-05
(54)【発明の名称】誘電体組成物、電子部品および積層電子部品
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/468 20060101AFI20241128BHJP
   H01B 3/12 20060101ALI20241128BHJP
   H01G 4/30 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
C04B35/468 200
H01B3/12 309
H01B3/12 322
H01B3/12 326
H01B3/12 329
H01B3/12 333
H01B3/12 335
H01B3/12 336
H01B3/12 338
H01G4/30 515
H01G4/30 201L
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021019233
(22)【出願日】2021-02-09
(65)【公開番号】P2022122132
(43)【公開日】2022-08-22
【審査請求日】2023-10-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】有泉 琢磨
(72)【発明者】
【氏名】村上 拓
(72)【発明者】
【氏名】森ケ▲崎▼ 信人
(72)【発明者】
【氏名】兼子 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 康裕
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-035026(JP,A)
【文献】特開2015-046589(JP,A)
【文献】特開2011-057511(JP,A)
【文献】特開2006-008460(JP,A)
【文献】特開2017-120853(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/42-35/447
C04B 35/46-35/515
H01B 3/00-3/14
H01G 4/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主相と、希土類元素RE(REはDy、Gd、YおよびYbから選択される1種以上)を含む偏析相と、を含む誘電体組成物であって、
前記主相はBaTiO 3 で表されるペロブスカイト型結晶構造を有する主成分を含み、
前記偏析相のうち、REに対するSiの原子数比が0以上0.20以下である偏析相を第1偏析相、REに対するSiの原子数比が0.20を上回る偏析相を第2偏析相とし、
前記誘電体組成物の断面において、前記第1偏析相の面積割合をS1、前記第2偏析相の面積割合をS2とした場合に、0≦S1/S2≦0.10であり、
前記第2偏析相におけるREに対するSiの原子数比が平均で0.80以下であり、
前記誘電体組成物は、SiおよびREに加えて、Mをさらに含み、
MはMgおよびMnから選択される1種以上であり、
前記主成分に対して、REの含有量がRE 2 3 換算で0.90モル%以上5.00モル%以下、Mの含有量がMO換算で0.10モル%以上2.00モル%以下、Siの含有量がSiO 2 換算で0.50モル%以上1.90モル%以下であり、
前記誘電体組成物は前記主成分以外にBaの酸化物を含み、前記Baの酸化物の含有量が0.70モル%以上2.10モル%以下である誘電体組成物。
【請求項2】
記主成分に対して、REの含有量がRE23換算で0.90モル%以上3.60モル%以下、Mの含有量がMO換算で0.20モル%以上1.00モル%以下、Siの含有量がSiO2換算で0.60モル%以上1.80モル%以下である請求項1に記載の誘電体組成物。
【請求項3】
前記第1偏析相におけるTiに対するBaの原子数比が1.00未満であり、前記第2偏析相におけるTiに対するBaの原子数比が1.00を上回る請求項1または2に記載の誘電体組成物。
【請求項4】
前記誘電体組成物の断面において、前記第1偏析相の平均円相当径をA1、前記第2偏析相の平均円相当径をA2として、0≦A1/A2<1.00である請求項1~3のいずれかに記載の誘電体組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の誘電体組成物を有する電子部品。
【請求項6】
請求項1~4のいずれかに記載の誘電体組成物からなる誘電体層と、電極層と、が交互に積層されてなる積層電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体組成物、電子部品および積層電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化、高密度化に伴い、電子機器に用いられる電子部品および積層電子部品の小型化、大容量化および信頼性の向上が求められている。
【0003】
特許文献1には、誘電体粒子間に存在する粒界相中にγ-RESi(REはY、Dy、Hoのいずれか)の結晶相を有する誘電体組成物が記載されている。当該結晶相は希土類元素とSiとの複合酸化物として粒界相中に存在することで焼結助剤として作用する。さらに、絶縁抵抗も比較的高いため、誘電体組成物の焼結性も向上させ、誘電特性を向上させることができる。したがって、粒界相中にγ-RESiの結晶相を有することで、積層電子部品の積層数の増加および誘電体層自体の薄層化と、信頼性の向上と、の両立を実現させている。
【0004】
しかしながら、γ-RESiの結晶相は焼結助剤としての側面が強く、誘電体粒子の粒成長を抑制する作用が弱い。したがって、γ-RESiの結晶相を含む場合には粒成長のバラツキが生じやすい。粒成長のバラツキが大きい場合には、粒界数が減少し信頼性が低下する場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4663141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、密度が高く、比誘電率、比抵抗および高温負荷寿命がいずれも良好な誘電体組成物等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の誘電体組成物は、
主相と、希土類元素REを含む偏析相と、を含む誘電体組成物であって、
前記主相はABO(AはBa、SrおよびCaから選択される1種以上、BはTi、ZrおよびHfから選択される1種以上)で表されるペロブスカイト型結晶構造を有する主成分を含み、
前記偏析相のうち、REに対するSiの原子数比が0以上0.20以下である偏析相を第1偏析相、REに対するSiの原子数比が0.20を上回る偏析相を第2偏析相とし、
前記誘電体組成物の断面において、前記第1偏析相の面積割合をS1、前記第2偏析相の面積割合をS2とした場合に、0≦S1/S2≦0.10であり、
前記第2偏析相におけるREに対するSiの原子数比が平均で0.80以下である。
【0008】
前記誘電体組成物は、SiおよびREに加えて、Mをさらに含んでもよく、
MはMg、Mn、VおよびCrから選択される1種以上であり、
前記主成分に対して、REの含有量がRE換算で0.90モル%以上3.60モル%以下、Mの含有量がMO換算で0.20モル%以上1.00モル%以下、Siの含有量がSiO換算で0.60モル%以上1.80モル%以下であってもよい。
【0009】
前記第1偏析相におけるTiに対するBaの原子数比が1.00未満であってもよく、前記第2偏析相におけるTiに対するBaの原子数比が1.00を上回ってもよい。
【0010】
前記誘電体組成物の断面において、前記第1偏析相の平均円相当径をA1、前記第2偏析相の平均円相当径をA2として、0≦A1/A2<1.00であってもよい。

【0011】
本発明の電子部品は、上記の誘電体組成物を有する。
【0012】
本発明の積層電子部品は、上記の誘電体組成物からなる誘電体層と、電極層と、が交互に積層されてなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A図1Aは、積層セラミックコンデンサの断面図である。
図1B図1Bは、図1AのIB-IB線に沿う積層セラミックコンデンサの断面図である。
図2図2は、試料番号3のマッピング画像である。
図3図3は、誘電体組成物の断面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.積層セラミックコンデンサ
1.1 積層セラミックコンデンサの全体構成
本実施形態に係る積層電子部品の一例としての積層セラミックコンデンサ1が図1Aおよび図1Bに示される。積層セラミックコンデンサ1は、誘電体層2と、内部電極層3と、が交互に積層された構成の素子本体10を有する。この素子本体10の両端部には、素子本体10の内部で交互に配置された内部電極層3と各々導通する一対の外部電極4が形成してある。素子本体10の形状に特に制限はないが、通常、直方体状とされる。また、素子本体10の寸法にも特に制限はなく、用途に応じて適当な寸法とすればよい。
【0015】
本実施形態では、素子本体10の縦寸法L0(図1A参照)は、5.7~0.4mmであってもよい。素子本体10の幅寸法W0(図1B参照)は、5.0~0.2mmであってもよい。素子本体10の高さ寸法H0(図1B参照)は、5.0~0.2mmであってもよい。
【0016】
素子本体10の具体的なサイズとしては、L0×W0が(5.7±0.4)mm×(5.0±0.4)mm、(4.5±0.4)mm×(3.2±0.4)mm、(3.2±0.3)mm×(2.5±0.2)mm、(3.2±0.3)mm×(1.6±0.2)mm、(2.0±0.2)mm×(1.2±0.1)mm、(1.6±0.2)mm×(0.8±0.1)mm、(1.0±0.1)mm×(0.5±0.05)mm、(0.6±0.06)mm×(0.3±0.03)mm、(0.4±0.04)mm×(0.2±0.02)mmの場合等が挙げられる。また、H0は特に限定されず、たとえばW0と同等以下程度である。
【0017】
1.2 誘電体層
誘電体層2は、後述する本実施形態に係る誘電体組成物から構成されている。
【0018】
誘電体層2の1層あたりの厚み(層間厚み)は特に限定されず、所望の特性や用途等に応じて任意に設定することができる。通常は、層間厚みは20μm以下であってもよく、10μm以下であってもよく、5μm以下であってもよい。また、誘電体層2の積層数は特に限定されないが、積層セラミック本実施形態では、たとえば10以上であってもよく、100以上であってもよく、200以上であってもよい。
【0019】
1.3 内部電極層
本実施形態では、内部電極層3は、各端部が素子本体10の対向する2端面の表面に交互に露出するように積層してある。
【0020】
内部電極層3に含有される導電材としては特に限定されない。導電材として用いられる貴金属としては、たとえばPd、Pt、Ag-Pd合金等が挙げられる。導電材として用いられる卑金属としては、たとえばNi、Ni系合金、Cu、Cu系合金等が挙げられる。なお、Ni、Ni系合金、CuまたはCu系合金中には、Pおよび/またはS等の各種微量成分が0.1質量%程度以下含まれていてもよい。また、内部電極層3は、市販の電極用ペーストを使用して形成してもよい。内部電極層3の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよい。
【0021】
1.4 外部電極
外部電極4に含有される導電材は特に限定されない。たとえばNi、Cu、Sn、Ag、Pd、Pt、Auあるいはこれらの合金、導電性樹脂等公知の導電材を用いればよい。外部電極4の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよい。
【0022】
2.誘電体組成物
図2は本実施形態に係る誘電体層2を構成する誘電体組成物についてSTEM-EDSを用いて作成したマッピング画像、図3は本実施形態に係る誘電体層2を構成する誘電体組成物の模式図である。図2図3に示すように、本実施形態に係る誘電体層2を構成する誘電体組成物は、主相14の間に第1偏析相16および第2偏析相18を含む。また、誘電体組成物は誘電体磁器組成物であってもよい。
【0023】
2.1 主相
本実施形態の主相14はABOで表されるペロブスカイト型結晶構造を有する化合物を主成分として含む。なお、主相14の主成分とは、主相100質量部に対して、80~100質量部を占める成分であり、好ましくは、90~100質量部を占める成分である。
【0024】
Aはバリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)およびカルシウム(Ca)から選択される1種以上である。BaおよびSrから選択される1種以上であってもよい。Aに対して80モル%以上、Baを含んでもよく、90モル%以上、Baを含んでもよい。AはBaのみであってもよい。
【0025】
Bはチタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)およびハフニウム(Hf)から選択される1種以上である。TiおよびZrから選択される1種以上であってもよい。Bに対して70モル%以上、Tiを含んでもよく、80モル%以上、Tiを含んでもよい。BはTiのみであってもよい。
【0026】
AはBa、SrおよびCaから選択される1種以上、BはTiおよびZrから選択される1種以上であるとして、主成分の組成を具体的に記載すれば{Ba1-x-yCaxSry}O}u(Ti1-zZrzv2である。


【0027】
xは好ましくは0≦x≦0.10、さらに好ましくは0≦x≦0.05である。yは好ましくは0≦y≦0.10、さらに好ましくは0≦y≦0.05である。zは好ましくは0≦z≦0.30、さらに好ましくは0≦z≦0.15である。u/vは好ましくは0.997≦u/v≦1.010、さらに好ましくは0.998≦u/v≦1.005である。
【0028】
本実施形態では、誘電体組成物がMとしてマグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、バナジウム(V)およびクロム(Cr)から選択される1種以上を含んでいてもよい。さらに、誘電体組成物がRE(希土類元素から選択される1種以上)およびケイ素(Si)を含む。また、Mは誘電体組成物のうち、主相14に含まれやすい。Mは主にMの酸化物として誘電体組成物に含まれる。
【0029】
主成分に対して、REの含有量はRE換算で0.90モル%以上、3.60モル%以下であってもよい。Mの含有量はMO換算で0.10モル%以上2.00モル%以下であってもよく、0.20モル%以上1.00モル%以下であってもよい。Siの含有量はSiO換算で0.50モル%以上1.90モル%以下であってもよく、0.60モル%以上1.80モル%以下であってもよい。各元素の含有量が上記の範囲内であることにより誘電体組成物を含む積層セラミックコンデンサの信頼性が向上し、高温負荷寿命が向上しやすくなる。
【0030】
REの種類には特に制限はない。例えば、ジスプロシウム(Dy)、ガドリニウム(Gd)、イットリウム(Y)およびイッテルビウム(Yb)から選択される1種以上であってもよい。REのイオン半径が小さいほどREが主成分に固溶しにくくなる。その結果、比誘電率が低下し比抵抗が低下する傾向にある。
【0031】
2.2 偏析相(第1偏析相、第2偏析相)
第1偏析相16はREに対するSiの原子数比が0以上0.20以下である偏析相である。すなわち、第1偏析相16はSiを含まなくてもよい。第2偏析相18はREに対するSiの原子数比が0.20を上回る偏析相である。各偏析相は、REおよびSiの他に、例えばA、Tiおよび酸素(O)を含んでもよい。
【0032】
第1偏析相16におけるO以外の元素の合計含有量に対するRE、A、SiおよびTiの合計含有量が90原子%以上であってもよい。第2偏析相18におけるO以外の元素の合計含有量に対するRE、A、SiおよびTiの合計含有量が90原子%以上であってもよい。
【0033】
積層セラミックコンデンサ1の積層方向に垂直な断面には誘電体層2を構成する誘電体組成物の断面が含まれる。誘電体組成物の断面において、第1偏析相16の面積割合をS1、第2偏析相18の面積割合をS2として、0≦S1/S2≦0.10である。すなわち、誘電体組成物は第1偏析相16を含まなくてもよい。
【0034】
0≦S1/S2≦0.10を満たすように各偏析相が偏析していることにより、良好な特性を有する誘電体組成物を得るために必要な量のSiが粒界に存在するようになる。そのため、0≦S1/S2≦0.10を満たすように各偏析相が偏析していることにより、誘電体組成物の密度が高くなり、比誘電率および比抵抗も高くなる。さらに、誘電体組成物の高温負荷寿命が長くなる。これは、第1偏析相、すなわちTiを多量に含む領域が十分に小さくなるためにTiの価数変化に起因する酸素欠陥の生成が抑制されるためである。
【0035】
以下、誘電体組成物におけるS1/S2の算出方法について説明する。
【0036】
まず、誘電体組成物の断面の測定箇所について、エネルギー分散型X線分析装置(EDS)を取り付けた走査型透過電子顕微鏡(STEM)を用いてマッピング分析を行う。以下、EDSを取り付けたSTEMのことをSTEM-EDSと呼ぶ。測定範囲の大きさには特に制限はないが、例えば、誘電体組成物の面積が50μm以上となるように測定範囲を設定する。得られたマッピング画像を0.02μm/pixel以上0.05μm/pixel以下のドットに分割し、個々のドットでの各元素のコントラスト強度を数値化する。具体的にはコントラスト強度が最も小さいもの(検出なし)を0とし、最も大きいものを90として、コントラスト強度を0~90までの91段階に分類する。希土類元素のコントラスト強度が75以上のドットは希土類元素が偏析しているドットとする。そして、希土類元素が偏析しているドットが集まっている部分を偏析相とする。なお、個々の偏析相の面積は最低0.005μmとする。0.005μmよりも小さい相は偏析相とはみなさない。
【0037】
第1偏析相16および第2偏析相18におけるRE、A、TiおよびOの含有割合については特に制限はなく、STEM-EDSを用いてRE、A、TiおよびOが含まれていることが確認できればよい。そして、図2に示すように第1偏析相と第2偏析相とで色を変更して区別できるようにしたマッピング画像を準備する。そして、マッピング画像から第1偏析相の面積割合S1および第2偏析相の面積割合S2を算出し、S1/S2を算出する。
【0038】
また、第2偏析相18におけるREに対するSiの原子数比(以下、Si2/RE2と表記する場合がある)が平均で0.80以下である。Si2/RE2が大きすぎる場合には比誘電率および信頼性が低下しやすくなり、高温負荷寿命が低下する。
【0039】
Si2/RE2の平均値の算出方法について説明する。原則としては、上記のマッピング画像に含まれる全ての第2偏析相のドットについてSi2/RE2を測定し、平均することにより算出される。ただし、上記のマッピング画像に含まれるそれぞれの第2偏析相は組成が均一であるとしてよい。すなわち、各第2偏析相に含まれる任意の1つのドットについてSi2/RE2を算出して得られた値を当該第2偏析相に含まれる全てのドットのSi2/RE2としてよい。また、各第2偏析相に含まれる任意の2つ以上のドットについてSi2/RE2を算出して平均した値を当該第2偏析相に含まれる全てのドットのSi2/RE2としてよい。
【0040】
第1偏析相16の平均円相当径をA1、第2偏析相18の平均円相当径をA2として、0≦A1/A2<1.00であってもよい。0≦A1/A2≦0.86であってもよい。A1/A2が1.00未満であることにより、誘電体組成物を含む積層セラミックコンデンサの信頼性が向上し、高温負荷寿命が向上しやすくなる。これは、第1偏析相、すなわちTiを多量に含む領域が十分に小さくなるためにTiの価数変化に起因する酸素結果の生成が抑制されるためである。
【0041】
マッピング画像に含まれる全ての偏析相について円相当径を測定し、第1偏析相の平均円相当径A1および第2偏析相の平均円相当径A2を算出する。そして、A1/A2を算出する。
【0042】
また、第1偏析相におけるTiに対するBaの原子数比が1.00未満であってもよく、0.52以下であってもよい。第2偏析相におけるTiに対するBaの原子数比が1.00を上回ってもよく、1.46以上であってもよい。以下、Tiに対するBaの原子数比のことをBa/Tiと記載する場合がある。第1偏析相におけるBa/Tiおよび第2偏析相におけるBa/Tiが上記の範囲内であることにより、偏析相中のTiの価数変化に起因する酸素欠陥の生成を抑制することができる。そのため、誘電体組成物を含む積層セラミックコンデンサの信頼性が向上し、高温負荷寿命が向上しやすくなる。
【0043】
第1偏析相におけるBa/Tiの算出方法について説明する。原則としては、上記のマッピング画像に含まれる第1偏析相に含まれる全てのドットについてBa/Tiを算出し、平均して第1偏析相のBa/Tiを算出する。ただし、上記のマッピング画像に含まれるそれぞれの第1偏析相は組成が均一であるとしてよい。すなわち、各第1偏析相に含まれる任意の1つのドットについてBa/Tiを算出して得られた値を当該第1偏析相に含まれる全てのドットのBa/Tiとしてよい。また、各第1偏析相に含まれる任意の2つ以上のドットについてBa/Tiを算出して平均した値を当該第1偏析相に含まれる全てのドットのBa/Tiとしてよい。第2偏析相のBa/Tiも同様にして算出する。
【0044】
誘電体組成物全体に対する偏析相の合計面積割合には特に制限はない。例えば0.5%以上3.0%以下であってもよい。偏析相の合計面積割合が小さすぎる場合には、粒界成分が不足することによる不均一な異常粒成長が発生する。そのため、誘電体組成物の信頼性が低下しやすくなる。偏析相の合計面積割合が大きすぎる場合には、主相の面積割合が相対的に減少し、主相成分の含有割合が相対的に減少する。誘電体組成物の誘電性は特に主相成分により発現する。そのため、偏析相の合計面積割合が多すぎる場合には、誘電体組成物の誘電性が十分に確保しにくくなり、誘電体組成物の比誘電率が低下しやすくなる。
【0045】
3.積層セラミックコンデンサの製造方法
次に、図1に示す積層セラミックコンデンサ1の製造方法の一例について以下に説明する。
【0046】
本実施形態の積層セラミックコンデンサ1は、従来の積層セラミックコンデンサと同様に、ペーストを用いた通常の印刷法やシート法によりグリーンチップを作製し、これを焼成した後、外部電極を印刷または転写して焼成することにより製造される。以下、製造方法について具体的に説明する。
【0047】
まず、誘電体層を形成するための誘電体原料を準備し、これを塗料化して、誘電体層用ペーストを調製する。
【0048】
誘電体原料として、主成分であるABOの原料と、その他の各種酸化物の原料と、を準備する。これらの原料としては、上記した成分の酸化物やその混合物、複合酸化物を用いることができるが、その他、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物、たとえば、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物等から適宜選択し、混合して用いることもできる。本実施形態では、上記した成分の酸化物等を主成分に対して均一に分散させた混合物を用いることが好ましいが、主成分が上記した成分で被覆された誘電体原料を用いてもよい。
【0049】
なお、主成分であるABOの原料は、いわゆる固相法の他、各種液相法(たとえば、シュウ酸塩法、水熱合成法、アルコキシド法、ゾルゲル法など)により製造されたものなど、種々の方法で製造されたものを用いることができる。
【0050】
さらに、誘電体層に、上記した成分以外の成分が含有される場合には、該成分の原料として、それらの成分の酸化物やその混合物、複合酸化物を用いることができる。また、その他、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物を用いることができる。
【0051】
誘電体原料中の各化合物の含有量は、焼成後に上述した誘電体組成物の組成となるように決定すればよい。
【0052】
誘電体層用ペーストは、誘電体原料と有機ビヒクルとを混練した有機系の塗料であってもよく、水系の塗料であってもよい。
【0053】
有機ビヒクルとは、バインダを有機溶剤中に溶解したものである。バインダおよび溶剤は、公知のものを用いればよい。
【0054】
また、誘電体層用ペーストを水系の塗料とする場合には、水溶性のバインダや分散剤などを水に溶解させた水系ビヒクルと、誘電体原料とを混練すればよい。水溶性バインダは特に限定されず、たとえば、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性アクリル樹脂などを用いればよい。
【0055】
内部電極層用ペーストは、上記したNiやNi合金からなる導電材、あるいは焼成後に上記したNiやNi合金となる各種酸化物、有機金属化合物、レジネート等と、上記した有機ビヒクルとを混練して調製すればよい。また、内部電極層用ペーストには、共材が含まれていてもよい。共材としては特に制限されないが、主成分と同様の組成を有していてもよい。
【0056】
外部電極用ペーストは、上記した内部電極層用ペーストと同様にして調製すればよい。
【0057】
上記した各ペースト中の有機ビヒクルの含有量に特に制限はなく、通常の含有量、たとえば、バインダは1~15質量%程度、溶剤は10~60質量%程度とすればよい。また、各ペースト中には、必要に応じて各種分散剤、可塑剤、誘電体、絶縁体等から選択される添加物が含有されていてもよい。これらの総含有量は、10質量%以下としてもよい。
【0058】
印刷法を用いる場合、誘電体層用ペーストおよび内部電極層用ペーストを、PET等の基板上に印刷、積層し、所定形状に切断した後、基板から剥離してグリーンチップとする。
【0059】
また、シート法を用いる場合、誘電体層用ペーストを用いてグリーンシートを形成し、この上に内部電極層用ペーストを印刷した後、これらを積層し、所定形状に切断してグリーンチップとする。
【0060】
焼成前に、グリーンチップに脱バインダ処理を施す。脱バインダ条件としては、昇温速度を好ましくは5~300℃/時間、脱バインダ温度を好ましくは180~900℃、保持時間を好ましくは0.5~48時間とする。また、脱バインダ処理における雰囲気は、空気もしくは還元性雰囲気(例えば加湿したN+H混合ガス雰囲気)とする。
【0061】
脱バインダ後、グリーンチップを焼成する。例えば、昇温速度は200~20000℃/h、焼成温度を1150~1350℃、保持時間を0.1~10時間としてもよい。
【0062】
昇温速度が遅く、焼成温度が高く、保持時間が長いほど、焼成が進行することになる。焼成が進行するほど、第1偏析相の割合が低下し、第2偏析相の割合が上昇する傾向にある。すなわち、S1/S2が低下する傾向にある。また、焼成が進行するほど、第2偏析相の平均円相当径が第1偏析相の平均円相当径と比較して上昇する傾向にある。すなわち、A1/A2が低下する傾向にある。また、誘電体層用ペーストにおけるSiの含有割合が高いほど第1偏析相の含有割合が低下し、焼成が進行しやすくなる。誘電体層用ペーストにおけるSiの含有割合が低いほど第2偏析相の含有割合が低下し、焼成が進行しにくくなる。
【0063】
焼成温度が低い場合には第2偏析相が生成しにくくなる。その結果、誘電体密度が高くなりにくくなる。さらに、主相が粒成長しにくくなる。その結果、比誘電率が低くなりやすくなる。さらに、主相への各種成分の固溶も進行しにくくなり、比抵抗および高温負荷寿命も低下しやすくなる。焼成温度が高い場合には第2偏析相は生成しやすくなる。さらに、主相が異常粒成長しやすくなり、比誘電率が高くなりやすくなる。さらに、主相への各主成分の固溶も進行するため比抵抗は高くなりやすい。しかし、主相の大きさにばらつきがでやすくなり、高温負荷寿命が低下しやすくなる。
【0064】
焼成時の雰囲気も特に限定されない。空気もしくは還元性雰囲気としてもよい。また、酸素分圧を1.0×10-14~1.0×10-9MPaとしてもよい。
【0065】
また、誘電体組成物の組成、特に上記の各種酸化物の含有割合によっても焼成後の誘電体組成物の微細構造が変化する。
【0066】
Siの含有量が多いほど第2偏析相の割合が上昇し、S1/S2が低下する傾向にある。また、誘電体密度が上昇する傾向にある。また、S1/S2を最適化するための焼成温度が低くなる。さらに、Si2/RE2の平均も上昇しやすくなる。
【0067】
Siの含有量が少ないほど第2偏析相の割合が低下し、S1/S2が上昇する傾向にある。また、誘電体密度が低下する傾向にある。また、S1/S2を最適化するための焼成温度が高くなる。さらに、Si2/RE2の平均も低下しやすくなる。
【0068】
REの含有量が多くなるとREとSiとが十分に反応するようになる。そのため、Siの含有比率が低い第1偏析相の割合が低下し、S1/S2が低下する傾向にある。また、REの含有量が多いと偏析相の割合が増えることにより比誘電率が低下しやすくなる。さらに、主相および偏析相に含まれないREが増えることにより高温負荷寿命が低下しやすくなる。
【0069】
REの含有量が少なくなるとSiと反応するREの量が減少し、REとSiとの反応物が減少する。そのため、第1偏析相の割合が上昇し、S1/S2が上昇する傾向にある。REとSiとの反応物は誘電体組成物の緻密化を促進する。そのため、REの含有量が少なくなると誘電体密度が低下する傾向にある。また、REの含有量が少ないと主相へのREの固溶が少なくなり比抵抗および高温負荷寿命が低下しやすくなる。
【0070】
REのイオン半径が小さくなるとREが主相に十分に固溶しにくくなる。主相に固溶しないREが粒界成分として残りやすくなる。そのため、REのイオン半径が小さい場合には主相の粒成長が抑制され、主相の粒子径が減少する。そして、誘電体組成物の比誘電率が低下しやすくなる。さらに、REが主相に十分に固溶しにくくなるため、誘電体組成物の比抵抗および高温負荷寿命が低下しやすくなる。REのイオン半径が大きくなるとREが主相に固溶しやすくなる。REの主相への固溶などの粒界成分と主相との反応を介した主相の粒成長が促進され、主相の粒径が増大する。そのため、誘電体組成物の比誘電率が増加しやすくなる。したがって、REのイオン半径の増大によりREの主相への固溶が促進されることで誘電体組成物の比抵抗および高温負荷寿命が上昇しやすくなる。
【0071】
Mの含有量を変化させても各偏析相の形成にはあまり影響がない。しかし、Mは主相へ固溶してアクセプタ成分として働く。したがって、Mが多いと誘電体組成物の高温負荷寿命が低下しやすくなる傾向にある。Mが少ないと比抵抗が低下しやすくなる傾向がある。
【0072】
主成分以外にAの酸化物を含んでもよい。Aの酸化物の含有量が多いほどSi2/RE2の平均が上昇しやすくなる。
【0073】
焼成時の雰囲気は、還元性雰囲気とすることが好ましく、雰囲気ガスとしてはたとえば、NとHとの混合ガスを加湿して用いることができる。
【0074】
また、焼成時の酸素分圧は、内部電極層用ペースト中の導電材の種類に応じて適宜決定されればよいが、導電材としてNiやNi合金等の卑金属を用いる場合、雰囲気中の酸素分圧は、1.0×10-14~1.0×10-9MPaとしてもよい。
【0075】
本実施形態では、焼成後の素子本体に対し、アニール処理(誘電体層の酸化処理)を行うことが好ましい。具体的には、アニール温度は、950~1100℃としてもよい。保持時間は、0.1~20時間としてもよい。酸化処理時の雰囲気は、加湿したNガス(酸素分圧:1.0×10-9~1.0×10-6MPa)としてもよい。
【0076】
上記した脱バインダ処理、焼成およびアニール処理において、Nガスや混合ガス等を加湿する場合には、たとえばウェッター等を使用すればよい。この場合、水温は5~75℃程度が好ましい。
【0077】
脱バインダ処理、焼成およびアニール処理は、連続して行なっても、独立に行なってもよい。
【0078】
上記のようにして得られたコンデンサ素子本体に、たとえばバレル研磨やサンドブラストなどにより端面研磨を施し、外部電極用ペーストを塗布して焼成し、外部電極4を形成する。そして、必要に応じ、外部電極4の表面に、めっき等により被覆層を形成する。
【0079】
このようにして製造された本実施形態の積層セラミックコンデンサは、ハンダ付等によりプリント基板上などに実装され、各種電子機器等に使用される。
【0080】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【0081】
上述した実施形態では、特に組成および焼成条件を制御することで微細構造を制御しているが、本発明は、この方法に限定されず、たとえば第1偏析相および第2偏析相を構成する仮焼き粉末を準備して混合する方法などで微細構造を制御してもよい。
【0082】
変形例
上述した実施形態では、本発明に係る電子部品が積層セラミックコンデンサである場合について説明したが、本発明に係る電子部品は、積層セラミックコンデンサに限定されず、上述した誘電体組成物を有する電子部品であればよい。
【0083】
たとえば、上述した誘電体組成物に一対の電極が形成された単板型のセラミックコンデンサであってもよい。
【0084】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の範囲内において種々の態様で改変してもよい。
【0085】
本発明に係る誘電体組成物を含む電子部品および積層電子部品は、比誘電率が車載用として好適に用いられる範囲内となり、かつ、誘電体密度、比抵抗および高温負荷寿命が高いため、特に車載用として好適に用いられる。
【0086】
比誘電率が高いほど誘電体としての特性は高くなる。しかし、比誘電率が高い誘電体組成物は、電圧の印加による比誘電率の低下幅が大きくなる。そのため、比誘電率が高すぎる誘電体組成物を用いたコンデンサは実効容量が低下する。したがって、車載用のコンデンサに含まれる誘電体組成物は、比誘電率が高すぎても低すぎても好適に用いられない。
【実施例
【0087】
以下、実施例および比較例を用いて、本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0088】
(誘電体ペーストの作製)
まず、原料粉末として、BaTiO粉末(Ba/Ti=1.004)、RE粉末、SiO粉末、BaCO粉末、MgO粉末およびMnCO粉末、を準備した。そして、表1~7に示す各実施例および比較例の組成である誘電体組成物が得られるように秤量した。なお、Mとして含まれるMgおよびMnについては、原子数比でMg:Mn=4:3となるようにした。
【0089】
次に、上記の全ての原料粉末の合計を100質量部としてポリビニルブチラール樹脂10重量部と、可塑剤としてのジオクチルフタレート(DOP)5重量部と、溶媒としてのアルコール100重量部とをビーズミルで混合してペースト化し、誘電体層用ペーストを得た。
【0090】
(内部電極層用ペーストの作製)
Ni粉末、テルピネオール、エチルセルロースおよびベンゾトリアゾールを、質量比が44.6:52.0:3.0:0.4となるように準備した。そして、これらを3本ロールにより混練し、スラリー化して内部電極層用ペーストを作製した。
【0091】
(グリーンチップの作製)
上記の誘電体層用ペーストを用いてPETフィルム上にグリーンシートを形成した。グリーンシートの厚みは、乾燥後の厚みが4.0~5.0μmとなるようにした。次に、グリーンシートの上に内部電極層用ペーストを用いて、電極層を所定パターンで印刷した。その後、PETフィルムからグリーンシートを剥離することで、電極層を有するグリーンシートを作製した。次いで、電極層を有するグリーンシートを複数枚積層し、加圧接着することによりグリーン積層体を得た。このグリーン積層体を所定のサイズに切断することにより、グリーンチップを作製した。
【0092】
(素子本体の作製)
次いで、得られたグリーンチップについて、脱バインダ処理、焼成および酸化処理を行い、焼結体である素子本体を得た。
【0093】
脱バインダ処理条件は、昇温速度を25℃/h、脱バインダ温度を235℃、保持時間を8時間、雰囲気を空気中とした。
【0094】
焼成条件は表1~表7に記載した通りである。また、雰囲気は加湿したN+H混合ガス雰囲気とし、酸素分圧は1.0×10-12MPaまたは1.0×10-13MPaとした。表1~4、表6では、酸素分圧は1.0×10-12MPaとした。表5、表7では、酸素分圧が1.0×10-12MPaの場合を「高」、酸素分圧が1.0×10-13MPaの場合を「低」とした。
【0095】
酸化処理条件は、昇温速度および降温速度を200℃/h、酸化処理温度を1050℃、保持時間を3時間、雰囲気を加湿したNガス雰囲気とし、酸素分圧は1.0×10-7MPaとした。
【0096】
焼成および酸化処理時の雰囲気の加湿にはウェッターを用いた。
【0097】
(積層セラミックコンデンサ試料の作製)
次いで、得られた素子本体の端面をサンドブラストにて研磨した後、外部電極としてCuを塗布し、図1に示す積層セラミックコンデンサの試料を得た。得られたコンデンサ試料のサイズは、3.2mm×1.6mm×0.7mmであり、誘電体層の厚みが3.2~4.2μm、内部電極層の厚みが0.8~1.2μmであった。また、誘電体層の数は10層とした。
【0098】
(偏析相の確認)
得られた積層セラミックコンデンサ試料を、誘電体層に垂直な方向の断面(積層方向の断面)で切断した。得られた断面のうち、偏析相の有無を判定する箇所について、STEM-EDSマッピング分析を行った。5層以上の内部電極層が観察される大きさの視野において、得られたマッピング画像を0.027μm/pixelのドットに分割し、個々のドットでの各元素のコントラスト強度を数値化した。具体的にはコントラスト強度が最も小さいもの(検出なし)を0とし、最も大きいものを90として、コントラスト強度を0~90までの91段階に分類した。希土類元素のコントラスト強度が75以上のドットは希土類元素が偏析しているドットとした。希土類元素が偏析しているドットが集まっている部分を偏析相とした。そして、偏析相のうち、REに対するSiの原子数比が0以上0.20以下である偏析相を第1偏析相、REに対するSiの原子数比が0.20を上回る偏析相を第2偏析相とした。また、STEM-EDSにより各偏析相にRE、A、TiおよびOが含まれていることを確認した。そして、図2に示すように第1偏析相と第2偏析相とで色を変更して区別できるようにしたマッピング画像を準備した。
【0099】
得られたマッピング画像に含まれる第1偏析相の面積割合および第2偏析相の面積割合からS1/S2を算出した。
【0100】
得られたマッピング画像に含まれる偏析相について円相当径を測定した。そして、第1偏析相の平均円相当径A1および第2偏析相の平均円相当径A2を算出し、A1/A2を算出した。
【0101】
また、各第1偏析相におけるBa/Tiの平均および各第2偏析相におけるBa/Tiの平均を上記の方法で算出した。
【0102】
さらに、Si2/RE2の平均を上記の方法で算出した。結果を表1~表7に示す。
【0103】
(磁器特性の測定)
比誘電率は、積層セラミックコンデンサ試料に対し、デジタルLCRメータ(YHP社製4274A)を用いて測定した。具体的には、基準温度25℃、周波数1kHz、入力信号レベル(測定電圧)1.0Vrmsとして静電容量を測定し、静電容量から算出した。比誘電率は2000以上3000以下である場合を良好とし、2200以上2800以下を特に良好とした。
【0104】
比抵抗は、積層セラミックコンデンサ試料に対し、絶縁抵抗計(アドバンテスト社製R8340A)を用いて測定した。具体的には、温度を125℃として、積層セラミックコンデンサに対して20V/μmの直流電圧を10秒間、印加してから50秒間放置した後の絶縁抵抗を測定した。測定した絶縁抵抗と、電極面積と、層間厚みと、から比抵抗を測定した。比抵抗は1.0×10Ω・m以上を良好とし、1.0×1010Ω・m以上を特に良好とした。
【0105】
高温負荷寿命は、積層セラミックコンデンサ試料について、190℃にて、40V/μmの直流電圧を印加した状態に保持して寿命時間を測定することにより、高温負荷寿命を評価した。本実施例においては、印加開始から絶縁抵抗が一桁落ちるまでの時間を寿命時間とした。また、本実施例では、上記の評価を20個のコンデンサ試料について行い、各コンデンサ試料の寿命時間から平均故障寿命(MTTF)を算出した。MTTFが2.0時間以上である場合に高温負荷寿命を良好とし、MTTFが5.0時間以上である場合に高温負荷寿命を特に良好とした。
【0106】
誘電体密度は、上記の誘電体層用ペーストを用いて作製した円盤形状の誘電体の密度を測定した。脱バインダ処理、焼成および酸化処理の条件は積層セラミックコンデンサ作製時の条件と同一とした。誘電体の直径および厚みはそれぞれ3か所、測定して平均することによって得られた。得られた直径および厚みから体積を算出し、誘電体の質量と体積から誘電体密度を算出した。
【0107】
本実験例の主成分であるBaTiOの理論密度は6.02g/cmである。本実験例では誘電体密度が主成分の理論密度の90%以上(5.4g/cm以上)である場合を良好とし、誘電体密度が主成分の理論密度の95%以上(5.7g/cm以上)である場合を特に良好とした。
【0108】
【表1】
【0109】
【表2】
【0110】
【表3】
【0111】
【表4】
【0112】
【表5】
【0113】
【表6】
【0114】
【表7】
【0115】
表1はREの含有量以外を同条件としてREの含有量のみ変化させた結果を示す。S1/S2が0以上0.10以下であり、かつ、Si2/RE2の平均が0.80以下である場合には良好な特性を示す。
【0116】
REの含有量が少ないほどS1/S2が大きくなる。REの含有量が少ないほど偏析相が生成しにくくなり、特に第2偏析相が第1偏析相と比べて生成しにくくなるためである。そして、S1/S2が0.10を超える場合には、誘電体組成物が緻密化しにくくなる。その結果、誘電体密度が低下する。さらに、REの主成分への固溶が不足する。その結果、比誘電率が高くなりすぎ、MTTFが低下する。
【0117】
REの含有量が多いほどS1/S2が小さくなる。これは、REの含有量が多いほど偏析相が生成しやすくなり、特に第2偏析相が第1偏析相と比べて生成しやすくなるためである。そして、Reの含有量が多いほど比誘電率が低下する。さらに、REが単独で存在する箇所も増えるためにMTTFも低下する。
【0118】
表2はSiOの含有量以外を同条件としてSiOの含有量のみを変化させた結果を示す。SiOの含有量が多くなるほどS1/S2が小さくなる傾向にある。S1/S2が0以上0.10以下である場合には良好な特性を示す。SiOの含有量が少なく、S1/S2が大きすぎる場合には、Ti-Dy比が高くなりすぎ、誘電体組成物が緻密化しにくくなる。その結果、誘電体密度が低下し、比誘電率が低下し、比抵抗が低下し、MTTFが低下する。SiOの含有量が多い場合には、Si2/RE2の平均が上昇しやすくなる。Si2/RE2の平均が大きすぎる場合には比誘電率が高くなりやすくなりMTTFが低下する。
【0119】
表3はMOの含有量以外を同条件としてMOの含有量のみ変化させた結果を示す。全ての実験例でS1/S2=0であり、良好な特性が得られた。また、MOの含有量が多くなるほど比誘電率が低くなり、比抵抗が高くなる傾向にあった。また、MOが多くても少なくてもMTTFが低下する傾向にあった。
【0120】
表4はBaOの含有量以外を同条件としてBaOの含有量のみ変化させた結果を示す。BaOの含有量が多くなるほどS1/S2が小さくなる傾向にある。S1/S2が0以上0.10以下である場合には良好な特性を示す。BaOの含有量が少なく、S1/S2が大きすぎる場合には、Ti-Dy比が高くなりすぎ、誘電体組成物が緻密化しにくくなる。その結果、誘電体密度が低下し、比誘電率が低下し、比抵抗が低下し、MTTFが低下する。BaOの含有量が多い場合には、Si2/RE2の平均が上昇しやすくなる。そして、比誘電率が高くなりやすくなりMTTFが低下しやすくなる。
【0121】
表5は熱処理条件を変化させた点以外、同条件とした場合の結果を示す。焼成温度が低く焼成時間が短いほど第2偏析相が形成されにくくなり、S1/S2が大きくなる傾向にある。そして、S1/S2が0.10を超えるほど焼成温度が低い場合には、誘電体組成物が緻密化しにくくなり誘電体密度が低下する。さらに、主成分の粒成長が不足し、比誘電率が低くなる。さらに、REの主成分への固溶も不足するために比抵抗もMTTFも低下しやすくなる。
【0122】
焼成温度が高く焼成時間が長い場合には、第2偏析相は十分に形成されるが第1粒界相が形成されにくくなり、S1/S2が小さくなる傾向にある。ただし、Si2/RE2の平均も高くなる傾向にある。そして、焼成温度が高すぎSi2/RE2が高すぎる場合には、主成分が異常粒成長する場合があり、比誘電率が大きくなりすぎる。さらに、REの主成分への固溶が進行するために比抵抗は高くなる。そして、主成分の粒径のばらつきが大きくなりやすく、MTTFが低下する傾向にある。
【0123】
表6はREの種類を変化させた点以外は同条件で実施した試料番号51~54の結果を記載したものである。なお、REの含有量およびSiOの含有量が異なる試料番号3も併せて記載している。イオン半径が小さいREを用いるほど、主成分にREが固溶しにくくなる。その結果、粒成長が抑制され、比誘電率が高くなり、比抵抗およびMTTFが低下する傾向にある。なお、表6に記載したREのイオン半径の大きさはGd>Dy>Y>Ybである。
【0124】
表7はSiOの含有量、BaOの含有量および焼成条件を主に変化させた場合の結果を示す。基本的に、SiOの含有量およびBaOの含有量が多いほど低い焼成温度で誘電体が緻密化しやすくなる。したがって、SiOの含有量およびBaOの含有量が多いほど好適な焼成温度が低くなる傾向にある。
【0125】
S1/S2が所定の範囲内であり、Si2/RE2の平均が所定の範囲内である各実施例は良好な特性を示す。これに対し、S1/S2が大きすぎる試料番号61、62は誘電体組成物が緻密化しにくくなる。その結果、誘電体密度が低下し、比誘電率が低下し、比抵抗が低下し、MTTFが低下する。Si2/RE2の平均が高すぎる試料番号67、70は、比誘電率が高くなりすすぎMTTFが低下する。
【符号の説明】
【0126】
1… 積層セラミックコンデンサ
10… 素子本体
2… 誘電体層
14… 主相
16… 第1偏析相
18… 第2偏析相
3… 内部電極層
4… 外部電極
図1A
図1B
図2
図3