(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-27
(45)【発行日】2024-12-05
(54)【発明の名称】作業装置
(51)【国際特許分類】
G05G 7/10 20060101AFI20241128BHJP
B23K 9/12 20060101ALI20241128BHJP
B25J 13/02 20060101ALI20241128BHJP
G05G 9/047 20060101ALI20241128BHJP
G05G 23/00 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
G05G7/10 Z
B23K9/12 331F
B25J13/02
G05G9/047
G05G23/00
(21)【出願番号】P 2021032310
(22)【出願日】2021-03-02
【審査請求日】2023-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【氏名又は名称】駒井 慎二
(74)【代理人】
【識別番号】100173532
【氏名又は名称】井上 彰文
(72)【発明者】
【氏名】衞藤 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】蔡 麗佳
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】特開平2-71979(JP,A)
【文献】特開2017-99819(JP,A)
【文献】特表2019-505391(JP,A)
【文献】特開2018-58117(JP,A)
【文献】特開平8-112729(JP,A)
【文献】特表2016-538894(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05G 7/10
G05G 9/047
G05G 23/00
B23K 9/12
B25J 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークに対して作業を行う作業部と、
前記作業部を第1方向と該第1方向と交差する方向の第2方向とに移動させ得る遠隔操作を行う遠隔操作部と、
前記遠隔操作部での入力に対して、前記作業部の移動距離を、前記第1方向と前記第2方向とで異なる比率で変換する距離変換部とを備え
、
前記ワークは、溝を有し、
前記遠隔操作部は、前記溝の長手方向を前記第1方向とし、前記溝の幅方向を前記第2方向として、前記作業部を移動させ、
前記距離変換部は、前記第1方向への前記比率を、前記第2方向への前記比率よりも大とする、
作業装置。
【請求項2】
前記ワークの表面形状を検出する検出部と、
前記検出部での検出結果に基づいて、前記第1方向および前記第2方向を決定する方向決定部とを備える請求項
1に記載の作業装置。
【請求項3】
ワークに対して作業を行う作業部と、
前記作業部を第1方向と該第1方向と交差する方向の第2方向とに移動させ得る遠隔操作を行う遠隔操作部と、
前記遠隔操作部での入力に対して、前記作業部の移動距離を、前記第1方向と前記第2方向とで異なる比率で変換する距離変換部と、
前記ワークの表面形状を検出する検出部と、
前記検出部での検出結果に基づいて、前記第1方向および前記第2方向を決定する方向決定部と、
を備える作業装置。
【請求項4】
前記作業部は、前記作業として、溶接作業を行う請求項1~3のいずれか1項に記載の作業装置。
【請求項5】
前記距離変換部は、前記遠隔操作部での前記第1方向の操作量の入力の変換と、前記遠隔操作部での前記第2方向の操作量の入力の変換とを異なる比率で行う、請求項1~4のいずれか1項に記載の作業装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業装置に関する。
【背景技術】
【0002】
溶接ツールが取り付けられたロボットアームを遠隔操作で操作し、溶接を行う溶接装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の溶接装置では、作業者がジョイスティックを操作することができる。そして、そのジョイスティックの操作方向および操作量(操作距離)に応じて、溶接ツールの位置を変更することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の溶接装置では、ジョイスティックの操作量をそのまま溶接ツールの移動量とすることができる。なお、ジョイスティックの1回分の操作量には、限界がある。
このような場合、例えば溶接ツールを1m移動させる際には、ジョイスティックを複数回操作して、1m分の操作量を実行しなければならず、溶接ツールに対する遠隔操作性に課題が残されている。
【0005】
これとは反対に、例えば溶接ツールを1mm移動させたい場合には、ジョイスティックの移動量もわずか1mmとしなければならず、その操作は、作業者にとって煩わしかった。また、作業者が誤ってジョイスティックの移動量を1mm以上としてしまうと、溶溶接ツールも1mm以上移動することとなり、溶接ツールの正確な位置決めがなされない。
本発明の目的は、作業部に対する操作性を向上させるとともに、ワークに対する作業部の位置決め精度を向上させることができる作業装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の作業装置の一つの態様は、ワークに対して作業を行う作業部と、
前記作業部を第1方向と該第1方向と交差する方向の第2方向とに移動させ得る遠隔操作を行う遠隔操作部と、
前記遠隔操作部での入力に対して、前記作業部の移動距離を、前記第1方向と前記第2方向とで異なる比率で変換する距離変換部とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、遠隔操作部の1回の操作で、作業部を、例えば第1方向にはできる限り大きく、第2方向にはできる限り小さく正確に移動させることができる。これにより、作業部に対する操作性(遠隔操作性)を向上させることができ、よって、作業部による作業を迅速かつ正確に行うことができる。
また、作業部の不本意な第2方向への移動が抑制されるため、ワークに対する作業部の位置決め精度を向上させることができる。これにより、作業部による作業を正確に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の作業装置の実施形態を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す作業装置の遠隔操作状態を示すイメージ図である。
【
図3】
図3は、
図1に示す作業装置の主要部のブロック図である。
【
図4】
図4は、
図1に示す作業装置でワークの表面形状を検出する過程を説明するため図である。
【
図5】
図5は、トーチの移動距離がX軸方向とY軸方向とで異なる比率で変換されている状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の作業装置を添付図面(
図1~
図5)に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
なお、以下では、説明の都合上、
図1、
図2、
図4および
図5中の上側を「上(または上方)」、下側を「下(または下方)」と言う。また、説明の便宜上、互いに直交する(交差する)3軸をX軸、Y軸およびZ軸を設定する。一例として、X軸とY軸を含むXY平面が水平となっており、Z軸が鉛直となっている。
作業装置(作業システム)1は、溶接車両10(
図1参照)と、遠隔操作装置2(
図2参照)と、表示装置3(
図2参照)と、制御装置4(
図3参照)とを備える。
【0010】
図1に示すように、溶接車両10は、水平に設置された鉄製の板材(鋼板)20上を矢印α方向に移動しながら、溶接対象であるワーク、すなわち、板材20同士を溶接する溶接ロボット(作業車両)である。溶接後、この板材20は、例えば、床として使用される。なお、溶接車両10は、例えば、船舶等の建造時における溶接に適している。
溶接車両10は、車体11と、溶接装置12と、4つの車輪18と、各車輪18を回転駆動させる駆動部16とを備える車両である。
また、
図2、
図3に示すように、溶接車両10は、撮像部17と、レーザ光照射部19とを備える。
【0011】
車体11は、各車輪18(車輪本体)を回転可能に支持する回動支持部(支持部)13を有する。
また、各回動支持部13の外側には、駆動部16が固定されている。駆動部16は、例えばギアモータ(ギアードモータ)で構成され、車輪18に連結されている。そして、駆動部16が作動することにより、車輪18を回転させることができる。この回転により、溶接車両10は、板材20の表側の面(上面)を走行面201として、走行することができる。
なお、車輪18の配置数は、本実施形態では4つであるが、これに限定されない。
【0012】
車体11上には、溶接装置12が搭載されている。溶接装置12は、トーチ(溶接トーチ)14と、トーチ14を変位可能に支持する変位機構15とを備える。
トーチ14は、板材20に対して溶接作業を行う作業部である。トーチ14は、アーク放電によりアーク溶接を行うよう構成されている。このアーク溶接により、板材20同士を容易かつ強固に溶接することができる。
なお、溶接前の板材20同士の間には、溝202が形成される。そして、トーチ14でワイヤ(図示せず)を溶融して、当該溶融された溶融物で溝202を埋めることにより、板材20同士が溶接される。
溝202は、板材20の用途にもよるが、例えば、全長が5m以上、幅が5mm程度、深さが10mm程度である。
また、本実施形態では、溝202の長手方向がX軸方向と平行であり、溝202の幅方向がY軸方向と平行であり、溝202の深さ方向がZ軸方向と平行となっている。
【0013】
変位機構15は、第1移動機構151と、第2移動機構152と、第3移動機構153と、回動機構(角度調整機構)154とを有する。
第1移動機構151は、トーチ14を車体11に対して、矢印α方向と平行な方向(X軸方向)に移動させる機構である。
【0014】
第1移動機構151には、第2移動機構152が連結されている。第2移動機構152は、トーチ14を車体11に対して、矢印α方向と直交する方向(Y軸方向)に移動させる機構である。
第2移動機構152には、第3移動機構153が連結されている。第3移動機構153は、トーチ14を車体11に対して、上下方向(Z軸方向)に移動させる機構である。
【0015】
第3移動機構153には、回動機構154が連結されている。回動機構154は、連結部155を介してトーチ14と連結されている。この回動機構154は、トーチ14を車体11に対して水平軸回りに回動させる機構である。
このような構成の変位機構15により、板材20同士の継ぎ目に対するトーチ14の位置および姿勢を適宜変更することができ、溶接を容易に行うことができる。
【0016】
図2に示すように、トーチ14には、連結部材171を介して、撮像部17が連結、支持されている。撮像部17は、例えばCMOSカメラやCCDカメラ等で構成され、トーチ14および板材20が含まれる画像を撮像することができる。
また、連結部材171には、レーザ光照射部19も連結、支持されている。レーザ光照射部19は、溝202を含む板材20に向けてレーザ光LBを照射する。
図4に示すように、本実施形態では、レーザ光照射部19は、レーザ光LBとして、Y軸方向に沿ったラインレーザ光を照射するよう構成されている。これにより、後述するように、撮像部17で板材20の表面形状を正確に検出することができる。
【0017】
作業装置1では、板材20の表面の立体形状、特に、本実施形態では溝202を検出する必要がある。この検出方法として、例えば、光切断法を用いることができる。
光切断法では、まず、
図4に示すように、板材20に向けてレーザ光LBを照射した状態とする。このとき、レーザ光LBは、溝202にも当たる。そして、レーザ光LBの照射状態を維持したまま、例えば溶接車両10をX軸方向に移動させる。これにより、板材20上でレーザ光LBを溶接車両10の移動方向に走査させることができる。なお、変位機構15(例えば151第1移動機構)を作動させることによっても、レーザ光LBの走査を行うことができる。
【0018】
また、レーザ光LBの走査に伴って、撮像部17でレーザ光LBの軌跡を撮像する。そして、この撮像部17で撮像された画像は、制御装置4のCPU41に送られて、画像処理が施される。これにより、例えば溝202の側面と底面との境界線等をエッジとして抽出することができる。この抽出により、例えば
図4中の右側の図に示すような、板材20の表面の立体形状Qを検出することができる。また、立体形状Qにより、溝202が延びている方向、すなわち、溝202の長手方向(延在方向)を把握することができる。
なお、溶接車両10の移動は、作業者WKの遠隔操作による移動であってもよいし、プログラムで実行された移動(自動走行)であってもよい。
以上のように、撮像部17およびレーザ光照射部19は、板材20の表面形状を検出する検出部として機能する。そして、この検出結果は、後述する制御装置4の方向決定部44で用いられる。
【0019】
図2に示すように、遠隔操作装置2は、作業者(オペレータ)WKが溶接車両10から離れた別室等で、溶接車両10に対して遠隔操作を行う装置である。従って、作業装置1は、作業者WKの操作に溶接車両10が遅延なく追従するリーダフォロアシステムとなっている。
遠隔操作装置2は、作業者WKによって把持され、所望の方向に力を加えることができる、もしくは、所望の方向に変位が生じる遠隔操作部21を有する。
【0020】
作業者WKは、遠隔操作部21をX軸方向に力を加えて、または、変位させて、操作すれば、変位機構15の第1移動機構151を介して、トーチ14をX軸方向に移動させることができる。
同様に、作業者WKは、遠隔操作部21をY軸方向に力を加えて、操作すれば、変位機構15の第2移動機構152を介して、トーチ14をY軸方向に移動させることができる。
また、作業者WKは、遠隔操作部21をZ軸方向に力を加えて、操作すれば、変位機構15の第3移動機構153を介して、トーチ14をZ軸方向に移動させることができる。
このように、遠隔操作部21は、変位機構15を作動させて、トーチ14をX軸方向と、Y軸方向と、Z軸方向とに移動させ得る遠隔操作を行うことができる。遠隔操作部21としては、特に限定されず、例えば、ジョイスティック等を用いることができる。
【0021】
また、作業装置1では、溶接車両10および遠隔操作装置2とともに表示装置3も用いられる。
図3に示すように、表示装置3は、表示部31を有する。表示部31は、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等で構成され、撮像部17で撮像された画像を表示することができる。作業者WKは、表示部31に表示された画像を視認しながら、遠隔操作を行うことができる。
【0022】
制御装置4は、例えばパーソナルコンピュータで構成される。制御装置4は、溶接車両10、遠隔操作装置2および表示装置3と電気的に接続されており、これらの作動を制御することができる。なお、「電気的な接続」とは、無線による接続、有線による接続のいずれもでもよい。
制御装置4は、CPU41と、記憶部42と、送信部43とを有する。
CPU41は、記憶部42に記憶されているプログラム等を実行することができる。
送信部43は、遠隔操作装置2からの入力信号、すなわち、命令を溶接車両10の受信部101に送信することできる。そして、受信部101は、遠隔操作装置2からの入力信号を受信することができる。これにより、入力信号どおりに溶接車両10を遠隔操作することができる。
【0023】
また、
図3に示すように、CPU41は、方向決定部44としての機能と、距離変換部45としての機能も有する。
前述したように、撮像部17によって材20の表面の立体形状Qを検出することができる。
方向決定部44は、この検出結果に基づいて、第1方向および第2方向を決定する(同定する)。具体的には、CPU41では、撮像部17での検出結果から、溝202の長手方向が把握される。方向決定部44は、溝202の長手方向を第1方向と決定するとともに、溝202の長手方向と直交する水平方向(溝202の幅方向)を第2方向と決定する。これにより、溶接時のトーチ14の移動方向が決定される。
なお、第1方向は、溶接時にトーチ14が主として移動する方向であり、本実施形態では、X軸方向と平行となる。第2方向は、溝202の幅方向であり、本実施形態では、Y軸方向となる。
【0024】
前述したように、遠隔操作装置2は、遠隔操作部21を有する。遠隔操作部21は、作業者WKによって把持され、所望の方向に力を加えることにより、トーチ14を移動させる遠隔操作を行うことができる。
また、遠隔操作部21の1回分の操作量(操作距離)には、限界がある。そのため、例えばトーチ14を1m移動させる際には、作業者WKは、遠隔操作部21を複数回操作して、トーチ14の移動距離に相当する1m分の操作量を実行しなければならない。結果、トーチ14に対する遠隔操作性が悪くなる。
【0025】
これとは反対に、例えばトーチ14を1mm移動させたい場合には、遠隔操作部21の操作量もわずか1mmとしなければならず、その操作は、作業者WKにとって神経を使い、煩わしかった。また、作業者WKが誤って遠隔操作部21の操作量を1mm以上としてしまうと、トーチ14も1mm以上移動することとなる。結果、トーチ14の正確な位置決めがなされない。
そこで、作業装置1では、このような不具合を解消するよう構成されている。以下、この構成および作用について説明する。
【0026】
CPU41は、距離変換部45としての機能を有する。距離変換部45は、遠隔操作部21での入力信号(入力)、すなわち、遠隔操作部21の所定の操作量に対して、トーチ14の移動量(移動距離)を、X軸方向(第1方向)とY軸方向(第2方向)とで異なる比率で変換することができる。この場合、本実施形態では、距離変換部45は、X軸方向への比率を、Y軸方向への比率よりも大とする。
例えば、
図5に示すように、遠隔操作部21をX軸方向に操作量LX21で操作した場合、トーチ14は、X軸方向に移動量LX14分だけ、移動する。
また、遠隔操作部21をY軸方向に操作量LY21で操作した場合、トーチ14はY軸方向に移動量LY14分だけ、移動する。
【0027】
なお、操作量LX21と、操作量LY21とは、同じ大きさである。
また、移動量LX14は、操作量LX21のM倍の大きさである。但し、Mは、1以上の任意の数値であり、例えば、溝202の全長に応じて、適宜設定される。
また、移動量LY14は、操作量LY21のN倍の大きさである。但し、Nは、0以上1未満の任意の数値であり、例えば、溝202の幅に応じて、適宜設定される。
【0028】
このような構成の距離変換部45により、例えば、遠隔操作部21を10mmの操作量LX21で操作した場合、トーチ14を100mmの移動量LX14で移動させることができる。従って、操作量LX21が10倍に拡大されて、移動量LX14に反映される。
トーチ14は、溶接時、主としてX軸方向に移動する。そのため、遠隔操作部21の1回の操作で、トーチ14をX軸方向にはできる限り大きく移動させるのが好ましい(以下、このような状態を「第1状態」という)。第1状態であれば、溶接の作業効率が向上する。
作業装置1では、操作量LX21が10倍に拡大されて、移動量LX14に反映されるため、第1状態が可能となる。
【0029】
また、例えば、遠隔操作部21を10mmの操作量LY21で操作した場合、トーチ14を1mmの移動量LY14で移動させることができる。従って、操作量LY21が1/10倍に縮小されて、移動量LY14に反映される。
トーチ14は、溶接時、X軸方向に直線的に移動するため、Y軸方向への移動をできる限り抑制するのが好ましい(以下、このような状態を「第2状態」という)。第2状態であれば、溶接時にトーチ14が溝202から外れるのを防止することができる。また、第2状態であれば、遠隔操作部21を誤って20mmの操作量LY21で操作したとしても、トーチ14の移動量LY14を2mmに抑えることができる。この場合も、トーチ14が溝202から外れるのを防止することができる。
作業装置1では、操作量LY21が1/10倍に縮小されて、移動量LY14に反映されるため、第2状態が可能となる。
【0030】
以上のように、作業装置1では、遠隔操作部21の1回の操作で、トーチ14をX軸方向にはできる限り大きく、Y軸方向にはできる限り小さく正確に移動させることができる。これにより、溶接時のトーチ14に対する操作性(遠隔操作性)を向上させることができ、よって、溶接作業を迅速かつ正確に行うことができる。
また、作業装置1では、トーチ14の不本意なY軸方向への移動が抑制されるため、板材2に対するトーチ14の位置決め精度を向上させることができる。これにより、溶接作業を正確に行うことができる。
【0031】
次に、トーチ14の目標位置(移動先の位置)を定める方法として、2つの方法(第1方法および第2方法)について説明する。
<第1方法>
[1]第1方向の同定と、板材20上での作業座標系Σwの定義
第1方向は、溶接時トーチ14が移動する主となる方向である。作業座標系Σwは、その基底ベクトルの1つが第1方向と一致するように定められる。これについては、方向決定部44についての説明で述べたのと同様である。
作業座標系Σwを基底ベクトルexw、eyw、ezwのうちの1つが第1方向となるように定義する。ここでは、第1方向を基底ベクトルexwとする。残りの基底ベクトルeyw、ezwは、例えば、板材20の上面の法線を基底ベクトルeywとして選ぶ。そして、基底ベクトルexw、eywが決まれば、基底ベクトルezwは一意に定まる。これにより、基底ベクトルexw、eyw、ezwが定まったので、作業座標系Σwが定義されたことになる。
【0032】
なお、基底ベクトルeyw、ezwの選び方は、任意である。基底ベクトルeyw、ezwは、トーチ14の基準座標系Σf(例えばトーチ14が設置されている面について定義されたベース座標系)と、基底ベクトルexwから決定されてもよい。具体的には、トーチ14のベース座標系の基底ベクトルの1つを、基底ベクトルexwに一致させるように回転変換して得られる基準座標系Σfとするという方法が考えられる。
前提としてトーチ14の基準座標系Σfと作業座標系Σwとの間の座標変換則が得られることを仮定する。すなわち、同次変換によって、作業座標系Σwの基底ベクトルを用いて表示したトーチ14の目標位置wpf(t)を、基準座標系Σfの基底ベクトルを用いてfpf(t)と表示することができる。これは、第1方向の同定に用いる撮像部17がトーチ14に固定されている等して、第1方向が基準座標系Σfで記述できる、すなわち、fexwとして第1方向が得られるようにしておけば実現することができる。一般にトーチ14の運動学モデルは、基準座標系Σfを基準として構成されるから、トーチ14の目標位置wpf(t)を基準座標系Σfでfpf(t)と表せば、fpf(t)を実現するための変位機構15の関節変位(第1移動機構151、第2移動機構152、第3移動機構153または回転機構154の変位)を逆運動学によって求めることができる。
【0033】
第1方向の同定と作業座標系Σwの定義は、目的とする作業(本実施形態では溶接作業)の前に実行する必要がある。溶接作業の場合、溶接を行う範囲の板材20を例えば光切断法によって検出し、第1方向と作業座標系Σwとを定めた上で、溶接作業を開始する。
[2]作業座標系Σwと入力側座標系(操作側座標系)ΣLの対応付け
作業座標系Σwの基底ベクトルexw、eyw、ezwと、入力側座標系ΣLの基底ベクトルexL、eyL、ezLを対応させる。例えばX,Y,Z方向が互いに一致するように座標系同士を対応づける。
【0034】
[3]トーチ14の目標位置wpf(t)の決定
作業者WKによって与えられた遠隔操作部21の位置LpL(t)=(X,Y,Z)に対して、トーチ14の目標位置をwpf(t)=(rxX,ryY,rzZ)とする。ここでrx,ry,rzは、各方向の倍率であり、予め決められた値である。例えばrx=1、ry=rz=0.5とした場合、遠隔操作部21の位置に対してトーチ14の目標位置は第1方向(X軸方向)については拡大縮小されず、Y軸方向とZ軸方向には、1/2に縮小される。これについては、距離変換部45についての説明で述べたのと同様である。
【0035】
<第2方法>
[1]第1方向の同定
第1方法と同様に、第1方向をトーチ14の座標系(トーチ座標系)の基準として得る。トーチ座標系で表示した第1方向の単位ベクトルをfepと表す。
[2]遠隔操作部21の速度ベクトルLvL(t)の取得
トーチ14の現在位置は、前回の制御ステップによって決められた位置fpf(t-1)もしくはトーチ座標系の原点である。
作業者WKが遠隔操作部21を操作し、遠隔操作部21の位置がLpL(t)となる。
現在の制御ステップtにおける遠隔操作部21の速度ベクトルLvL(t)を次の方法によって求める。
【0036】
速度ベクトルLvL(t)は、過去の制御ステップにおける入力情報と、現在の制御ステップにおける入力情報との差分から求められる。1ステップ前の遠隔操作部21の3次元位置はLpL(t-1)と表される。遠隔操作部21の速度ベクトルをLvL(t)=LpL(t)-LpL(t-1)とする。
以上の例では、遠隔操作部21の速度ベクトルLvL(t)を現在の制御ステップと1ステップ前の遠隔操作部21の位置の差分として定義したが、速度ベクトルLvL(t)の決定方法は、これに限定されない。例えば、複数ステップ前の位置情報を用いて移動平均によって求めてもよいし、カルマンフィルタ等のアルゴリズムによる推定値としてもよい。
【0037】
次いで、トーチ14の移動方向と、第1方向との一致度cの計算を行う。
速度ベクトルLvL(t)から同次変換によってfvL(t)を得る。そして、fvL(t)方向の単位ベクトルfev(t)=fvL(t)/|fvL(t)|を得る。
内積fev(t)×fep(t)の大きさc(t)=|fev(t)×fep(t)|を求める。この値は0から1までの値を取る。
単位ベクトルfevと単位ベクトルfepとが直交していれば0となり、平行であれば1となる。これにより、一致度cは、トーチ14の移動方向と第1方向との一致度として扱える。
【0038】
次いで、拡大・縮小比rを決定する。
内積fev(t)・fep(t)の大きさc(t)を用いて、動作の拡大・縮小比r(t)を次のように定める。
r(t)=a×c(t)+bとする。なお、aおよびbは、定数であり、その値は作業条件によって予め決定される。aおよびbは、記憶部42に予め記憶されていてもよいし、作業者WKによって変更可能としてもよい。
【0039】
次いで、トーチ14の目標位置fpf(t)を決定する。
トーチ14の目標位置をfpf(t)=fpf(t-1)+r(t)×fvL(t)とする。
そして、aおよびbは、正の定数であれば、トーチ14の移動方向と第1方向が一致しているときr(t)は最大となり、トーチ14は大きく動くことになる。トーチ14の移動方向が第1方向と異なると、トーチ14は小さく動くことになる。これについては、距離変換部45についての説明で述べたのと同様である。
【0040】
以上、本発明の作業装置を図示の実施形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、作業装置を構成する各部は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のものと置換することができる。また、任意の構成物が付加されていてもよい。
板材20の表面の立体形状を検出する方法として、前記実施形態では光切断法を用いているが、これに限定されない。他の検出方法として、まず、撮像部17で上方から板材20を撮像して、溝202を含む板材20の濃淡画像を取得する。次いで、この濃淡画像に対して二値化処理を行い、例えば溝202の側面と底面との境界線、すなわち、エッジを抽出する。そして、このエッジに基づいて、溝202を検出してもよい。
【0041】
なお、板材20の表面の立体形状が既に得られている、すなわち、既知であれば、検出方法の実行を省略することができる。
また、制御装置4は、距離変換部45の機能が発揮される状態と、距離変換部45の機能を停止する状態とが切り替えられるよう構成されていてもよい。
また、トーチ14の移動は、前記実施形態では溝202内でX軸方向に沿った直線的な移動であったが、これに限定されず、例えば、溝202内を蛇行する移動であってもよい。
【0042】
また、作業装置1の用途は、前記実施形態では溶接であったが、これに限定されず、例えば、塗装、手術等であってもよい。
また、作業装置1は、前記実施形態では車体11と溶接装置12とで構成されていたが、これに限定されず、例えば、据置型のロボットアームのように車体を持たず、作業部(トーチ14)と、作業部を変位させる変位機構15とで構成された装置であってもよい。
また、車体11は、車輪18で移動するものに限定されず、例えば、レール上を走行するもの、その他、ベルトやコンベヤ機構によって移動するものであってもよい。
また、距離変換部45は、前記実施形態では第1方向への比率を、第2方向への比率よりも大としているが、これに限定されず、作業装置の用途によっては、例えば、第1方向への比率を、第2方向への比率よりも小としてもよい。
【符号の説明】
【0043】
1 作業装置(作業システム)
2 遠隔操作装置
21 遠隔操作部
3 表示装置
31 表示部
4 制御装置
41 CPU
42 記憶部
43 送信部
44 方向決定部
45 距離変換部
10 溶接車両
101 受信部
11 車体
12 溶接装置
13 回動支持部(支持部)
14 溶接トーチ
15 変位機構
151 第1移動機構
152 第2移動機構
153 第3移動機構
154 回動機構(角度調整機構)
155 連結部
16 駆動部
17 撮像部
171 連結部材
18 車輪
19 レーザ光照射部
20 板材(鋼板)
201 走行面
202 溝
LB レーザ光
LX14 移動量
LY14 移動量
LX21 操作量
LY21 操作量
WK 作業者(オペレータ)
Q 立体形状
α 矢印