(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-27
(45)【発行日】2024-12-05
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両制御方法及びハイブリッド車両制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 10/08 20060101AFI20241128BHJP
B60K 6/46 20071001ALI20241128BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20241128BHJP
B60W 10/28 20060101ALI20241128BHJP
B60W 20/12 20160101ALI20241128BHJP
B60W 20/13 20160101ALI20241128BHJP
B60L 50/61 20190101ALI20241128BHJP
B60L 58/14 20190101ALI20241128BHJP
【FI】
B60W10/08 900
B60K6/46 ZHV
B60W10/06 900
B60W10/28 900
B60W20/12
B60W20/13
B60L50/61
B60L58/14
(21)【出願番号】P 2021032908
(22)【出願日】2021-03-02
【審査請求日】2023-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平田 武司
【審査官】福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-024400(JP,A)
【文献】国際公開第2018/047224(WO,A1)
【文献】特開2011-051479(JP,A)
【文献】特開2007-245753(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/08
B60K 6/46
B60W 10/06
B60W 10/28
B60W 20/12
B60W 20/13
B60L 50/61
B60L 58/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
前記エンジンにより駆動されて発電する発電用モータジェネレータと、
走行用モータジェネレータと、
前記発電用モータジェネレータにより発電される電力により充電され、前記走行用モータジェネレータに電力を供給するバッテリと、
を備えるハイブリッド車両を制御する方法であって、
前記ハイブリッド車両のコントローラは、
前記バッテリの充電率に基づいて前記発電用モータジェネレータにより前記エンジンを駆動するモータリングを実行し、
前記バッテリの充電率の上昇が予測できる充電率上昇走行区間では、前記バッテリの充電率の上昇が予測できない充電率非上昇走行区間と比べて、前記モータリングの回転速度を高くする、
ことを特徴とするハイブリッド車両制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載のハイブリッド車両制御方法であって、
前記コントローラは、前記充電率上昇走行区間では、前記モータリングの回転速度を高くしないで前記充電率上昇走行区間を走行した場合の前記モータリングの予測実行時間と比べて、前記モータリングを実行する時間を短くする、
ことを特徴とするハイブリッド車両制御方法。
【請求項3】
請求項1に記載のハイブリッド車両制御方法であって、
前記コントローラは、前記充電率上昇走行区間では、前記モータリングの回転速度を高くしないで前記充電率上昇走行区間を走行した場合の前記モータリングの予測実行時間と比べて、前記モータリングを実行する時間を同じ時間以上にする、
ことを特徴とするハイブリッド車両制御方法。
【請求項4】
請求項1に記載のハイブリッド車両制御方法であって、
前記コントローラは、
前記充電率上昇走行区間において前記モータリングの実行中に前記エンジンの冷却液の温度が所定の閾値を下回ると予測できる場合は、前記モータリングの回転速度を高くしないで前記充電率上昇走行区間を走行した場合の前記モータリングの予測実行時間と比べて、前記モータリングを実行する時間を短くし、
前記充電率上昇走行区間において前記モータリングの実行中に前記エンジンの冷却液の温度が前記所定の閾値を下回らないと予測できる場合は、前記予測実行時間と比べて、前記モータリングを実行する時間を同じ時間以上にする、
ことを特徴とするハイブリッド車両制御方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1つに記載のハイブリッド車両制御方法であって、
前記コントローラは、前記充電率上昇走行区間における前記モータリングの回転速度を、外気温が低いほど高くする、
ことを特徴とするハイブリッド車両制御方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1つに記載のハイブリッド車両制御方法であって、
前記コントローラは、前記充電率上昇走行区間における前記モータリングの回転速度を、前記充電率上昇走行区間における前記走行用モータジェネレータの推定回生量が多いほど高くする、
ことを特徴とするハイブリッド車両制御方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1つに記載のハイブリッド車両制御方法であって、
前記コントローラは、前記充電率上昇走行区間では、前記エンジンの冷却液の循環量を減少させる、
ことを特徴とするハイブリッド車両制御方法。
【請求項8】
エンジンと、
前記エンジンにより駆動されて発電する発電用モータジェネレータと、
走行用モータジェネレータと、
前記発電用モータジェネレータにより発電される電力により充電され、前記走行用モータジェネレータに電力を供給するバッテリと、
を備えるハイブリッド車両を制御する制御装置であって、
前記バッテリの充電率に基づいて前記発電用モータジェネレータにより前記エンジンを駆動するモータリングを実行し、
前記バッテリの充電率の上昇が予測できる充電率上昇走行区間では、前記バッテリの充電率の上昇が予測できない充電率非上昇走行区間と比べて、前記モータリングの回転速度を高くする、
ことを特徴とするハイブリッド車両制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、エンジンをモータリング可能な第1モータと、走行用の動力を出力可能な第2モータと、を備え、第2モータからの回生電力がバッテリを充電可能な電力の最大値である最大充電電力を超える充電電力超過時には、エンジンの回転を充電電力超過時でないときより制限しながら、最大充電電力の範囲内で第2モータが回生駆動されるようエンジンと第1モータと第2モータとを制御するハイブリッド自動車が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、一般的なハイブリッド車両においては、エンジン停止中にエンジン冷却液温度が暖房装置やデフロスタ装置の性能を確保し得る下限値に到達すると、エンジンは再始動される。
【0005】
しかしながら、バッテリの充電を適切に行うためにエンジンをモータリングしている場合は、エンジンをファイアリング(燃焼作動)させることができない。そのため、エンジン冷却液温度が低下して暖房装置やデフロスタ装置の性能が低下してしまうことが考えられる。
【0006】
そこで本発明は、バッテリの充電を適切に行うとともに、エンジン冷却液温度の低下を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様によれば、エンジンと、エンジンにより駆動されて発電する発電用モータジェネレータと、走行用モータジェネレータと、発電用モータジェネレータにより発電される電力により充電され、走行用モータジェネレータに電力を供給するバッテリと、を備えるハイブリッド車両を制御する方法が提供される。この制御方法において、ハイブリッド車両のコントローラは、バッテリの充電率に基づいて発電用モータジェネレータによりエンジンを駆動するモータリングを実行する。また、コントローラは、バッテリの充電率の上昇が予測できる充電率上昇走行区間では、バッテリの充電率の上昇が予測できない充電率非上昇走行区間と比べて、モータリングの回転速度を高くする。
【発明の効果】
【0008】
上記態様によれば、充電率上昇走行区間では、モータリングの回転速度を高くすることで消費電力が増加するので、バッテリの充電率を速やかに低下させることができる。よって、モータリングを実行する時間を短くでき、エンジンをファイアリングさせる時間が増えてエンジン冷却液温度を上昇させることができる。また、充電率上昇走行区間であることから、バッテリの充電率を一時的に低下させても、その後に充電率を上昇させることができる。よって、バッテリの充電を適切に行うとともに、エンジン冷却液温度の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、ハイブリッド車両の概略構成図である。
【
図3】
図3は、パラメータ設定処理のフローチャートである。
【
図4】
図4は、モータリングを実行する時間を短くする場合のタイミングチャートの一例である。
【
図5】
図5は、モータリングを実行する時間を長くする場合のタイミングチャートの一例である。
【
図6】
図6は、比較例を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0011】
図1はハイブリッド車両100の概略構成図である。
図2はコントローラ20の概略構成図である。
【0012】
ハイブリッド車両100は、エンジン1と、発電用モータジェネレータ2と、走行用モータジェネレータ3と、第1インバータ4と、第2インバータ5と、バッテリ6と、ディファレンシャル機構7と、駆動輪8と、コントローラ(制御装置)20と、を備える。以下では、ハイブリッド車両100を車両100と称し、モータジェネレータをMGと称す。
【0013】
エンジン1は、ガソリンエンジン又はディーゼルエンジンといった内燃機関である。エンジン1は図示しない減速機構を介して発電用MG2に接続される。発電用MG2はエンジン1により駆動されて発電する。走行用MG3は、ディファレンシャル機構7を介して駆動輪8と接続される。走行用MG3は、車両100の駆動を行う一方、減速時には回生発電を行う。
【0014】
発電用MG2と走行用MG3とは、第1インバータ4、第2インバータ5及びバッテリ6等とともに高電圧の電圧回路9を形成する。第1インバータ4は発電用MG2の制御に用いられ、第2インバータ5は走行用MG3の制御に用いられる。第1インバータ4及び第2インバータ5それぞれは、コントローラ20からの指令に基づき三相交流を生成し、生成した三相交流を発電用MG2及び走行用MG3のうち対応するMGに印加する。第1インバータ4及び第2インバータ5は、統合されてもよい。バッテリ6は、発電用MG2及び走行用MG3の電力源を構成する。バッテリ6は発電用MG2で発電された電力及び走行用MG3で回生発電された電力により充電される。
【0015】
コントローラ20は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えた1又は複数のマイクロコンピュータで構成される。コントローラ20は、ROM又はRAMに格納されたプログラムをCPUによって実行することで、エンジン1、第1インバータ4、第2インバータ5等を統合的に制御する。
【0016】
コントローラ20には、バッテリ6の充電率(SOC:State of Charge)を検出するためのSOCセンサ22、エンジン1の冷却液の温度Tclを検出する冷却液温センサ23、車外の温度を検出する外気温センサ24の他、様々なセンサ・スイッチ類からの信号が入力される。また、コントローラ20には、ナビゲーションシステム21から後述する種々の情報が入力される。これらの信号及び情報はコントローラ20が行う制御に用いられる。
【0017】
コントローラ20は、車両100の走行モードとして、EVモードとシリーズハイブリッドモード(以下、シリーズHEVモードと称す)とを有する。EVモードは、エンジン1を停止し、バッテリ6から供給される電力によって走行用MG3を駆動し、走行用MG3のみの駆動力によって走行するモードである。シリーズHEVモードは、エンジン1を駆動して、発電用MG2で発電を行いながら走行用MG3を駆動するモードである。
【0018】
コントローラ20は、アクセル開度APOと、ブレーキペダルの踏力BPFと、車速VSPに基づき、図示しない走行モード選択マップを参酌して走行モードを選択し、選択された走行モードが実現されるようエンジン1及び走行用MG3を駆動する。なお、運転者の操作によりEVモードを選択可能なEVモードスイッチを備える場合には、運転者がEVモードを選択するとEVモードが優先的に実行される。
【0019】
上記の通り、
図1に示す車両100のハイブリッドシステムは、エンジン1が専ら発電用MG2の駆動に用いられ、駆動輪8は専ら走行用MG3により駆動される、シリーズ式のハイブリッドシステムである。しかし、本実施形態は、エンジン1が駆動輪8の駆動にも用いられるパラレル式のハイブリッドシステムにも適用可能である。パラレル式の場合も、シリーズ式と同様に、EVモードではエンジン1が停止し、HEVモードではエンジン1が作動する。
【0020】
図2は、コントローラ20の概略構成図である。なお、
図2はコントローラ20の機能の一部をブロック図として表したものであり、各ブロックは物理的な構成を意味するものではない。
【0021】
コントローラ20には、イベント検出部20A、エネルギ推定部20B,エンジン冷却液温度推定部20C、目標SOC演算部20D、HEVエネルギ管理部20E及びHMI管理部20Fを備える。
【0022】
イベント検出部20A及びエネルギ推定部20Bには、ナビゲーションシステム21から所定区間毎の地図情報が入力される。地図情報とは、例えば、道路勾配、統計上の平均車速、制限速度、目的地までの距離等である。また、イベント検出部20A及びエネルギ推定部20Bには、ディスプレイ等のインタフェース機器を介して運転者により起動された機能に関する情報も入力される。
【0023】
イベント検出部20Aは、入力された情報に基づいて、目的地までの走行経路上のイベント情報を検出する。イベント情報とは、例えば、登坂路や降坂路の有無、交差点や横断歩道等の有無、高速道路か否か、目的地に到着したか否か等といった、車両100の出力や速度等の制御に影響のあるイベントに関する情報である。これらのイベント情報はエネルギ推定部20B及びエンジン冷却液温度推定部20Cへ出力される。
【0024】
エネルギ推定部20Bは、ナビゲーションシステム21から入力された情報及びイベント検出部20Aで検出されたイベント情報に基づいて、所定走行区間毎に電力の使用量、回生量、及び発電量を推定する。推定結果は目標SOC演算部20Dへ出力される。所定走行区間は、例えば、走行経路における車両100の現在位置から所定距離までの区間、特定のイベント情報を含む区間、等である。
【0025】
エンジン冷却液温度推定部20Cは、イベント検出部20Aで検出されたイベント情報と、冷却液温センサ23の検出値及び外気温センサ24の検出値とに基づいて、所定走行区間毎にエンジン冷却液温度Tclの推移を推定する。推定結果はHEVエネルギ管理部20Eへ出力される。
【0026】
目標SOC演算部20Dは、エネルギ推定部20Bによる推定結果に基づいて、バッテリ6の目標SOCを演算する。例えば、この先に登坂路や高速道路がある場合には、高出力に対応するために上限SOC又はこれに近いSOCを目標SOCとする。また、この先に降坂路がある場合には、降坂路における回生電力を受け入れる余裕を設けるため、降坂路に進入する前の目標SOCを低めに設定する。目標SOCはHEVエネルギ管理部20Eへ出力される。
【0027】
HEVエネルギ管理部20Eは、入力された情報に基づいて、エンジン1の作動・停止及び動作点、走行用MG3の動作点等を決定し、これらに基づいてエンジン1や走行用MG3を制御する。エンジン1の動作点等の情報はHMI管理部20Fへ出力される。
【0028】
エンジン1は、基本的には選択された走行モードに応じて作動、停止する。ただし、HEVモードが選択されているときでもバッテリ6のSOCが上限SOCに到達したらエンジン1は停止し、EVモードが選択されているときでも下限SOCに到達したらエンジン1は作動する。上限SOC及び下限SOCは、バッテリ6の劣化防止の観点から予め設定される。また、EVモードが選択されているときに、エンジン冷却液温度Tclが閾値まで低下したらエンジン1は作動する。これは、エンジン冷却液を熱源とする暖房装置及びデフロスタ装置の機能を確保するためである。エンジン冷却液温度Tclの低下に応じて作動したエンジン1は、エンジン冷却液温度Tclが所定温度まで上昇したら停止する。
【0029】
HMI管理部20Fは、HEVエネルギ管理部20Eで決定された情報に基づいて、各アプリケーションの動作状態についての情報を生成し、ナビゲーションシステム21を介してこれらの情報をディスプレイ等のインタフェース機器に表示する。
【0030】
ところで、コントローラ20は、例えば、上述したように、この先に降坂路がある場合には、降坂路における回生電力を受け入れる余裕を設けるため、目標SOCを低めに設定する。
【0031】
さらに、本実施形態では、コントローラ20は、バッテリ6のSOCに基づいて、発電用MG2によりエンジン1を駆動するモータリングを実行する。例えば、発電用MG2を作動させてバッテリ6の電力を消費しながら走行用MG3で回生発電を行うことで、バッテリ6のSOCが目標SOCを超えない状態が維持されるようになっている。
【0032】
ここで、バッテリ6の充電を適切に行うためにエンジン1をモータリングしている場合は、エンジン1をファイアリング(燃焼作動)させることができない。そのため、エンジン冷却液温度Tclが低下して暖房装置やデフロスタ装置の性能が低下してしまうことが考えられる。
【0033】
これに対して、本実施形態のコントローラ20は、
図3に示す手順に従ってモータリングに関するパラメータを設定することで、エンジン1をファイアリングさせる時間を増加させ、エンジン冷却液温度Tclの低下を抑制している。
図3は、パラメータ設定処理を示すフローチャートである。
【0034】
以下、
図3を参照しながら、コントローラ20が実行するパラメータ設定処理について説明する。なお、以下では、エンジン冷却液温度Tclについて考慮しない場合に用いられるモータリングに関するパラメータの設定を、通常設定と称する。通常設定は、車両100の諸元、実験等に基づいて予め決定された設定である。
【0035】
ステップS10では、コントローラ20は、ナビゲーションシステム21から道路形状を取得する。上述したように、ナビゲーションシステム21の地図情報には道路勾配等が含まれており、道路形状を取得できる。
【0036】
ステップS11では、コントローラ20は、車両100の現在の位置を基準としてこれから走行する直近の所定走行区間(以下、「この先の所定走行区間」という。)において、パラメータを通常設定とした場合にモータリングが実行される時間の長さを予測する。
【0037】
コントローラ20は、この先の所定走行区間を走行した場合の電力の使用量、回生量、及び発電量を推定することで、バッテリ6のSOCの推移を予測できる。よって、例えば、この先の所定走行区間が長い降坂路を含む区間であれば、降坂路においてSOCが目標SOCに到達してモータリングが開始されるタイミングが予測できる。さらに、通常設定の場合のモータリングの消費電力から、SOCがモータリングを終了する判定SOCに到達するタイミングが予測できる。よって、モータリングが実行される時間を予測できる。
【0038】
ステップS12では、コントローラ20は、暖房装置の設定温度に基づいて、エンジン冷却液温度Tclの閾値Tcl1を設定する。閾値Tcl1は、例えば、暖房装置及びデフロスタ装置が要求性能を満たすことが可能な下限温度とする。
【0039】
ステップS13では、コントローラ20は、この先の所定走行区間においてバッテリ6のSOCが上昇するか予測する。上述したように、コントローラ20は、この先の所定走行区間を走行した場合の電力の使用量、回生量、及び発電量を推定することで、バッテリ6のSOCの推移を予測できる。よって、コントローラ20は、バッテリ6のSOCが上昇するか予測できる。
【0040】
コントローラ20は、例えば、この先の所定走行区間が長い降坂路を含んでおり、当該区間における電力の推定回生量が推定使用量を上回る場合は、バッテリ6のSOCが上昇すると予測できる。
【0041】
また、コントローラ20は、例えば、エンジン冷却液温度Tcl及び外気温からエンジン1のファイアリングが必要であることを予測できる。この場合は、エンジン冷却液温度Tclの上昇に必要なエンジン1の動作点に基づく発電用MG2の推定発電量と、この先の走行における電力の推定使用量と、を比較することで、バッテリ6のSOCが上昇するか予測できる。
【0042】
コントローラ20は、この先の所定走行区間でバッテリ6のSOCが上昇すると予測した場合は、処理をステップS14に進める。また、コントローラ20は、この先の所定走行区間でバッテリ6のSOCが上昇しないと予測した場合は、処理をステップS20に進める。
【0043】
ステップS20では、コントローラ20は、モータリングに関するパラメータを通常設定にする。
【0044】
ステップS14では、コントローラ20は、モータリングの設定回転速度を、通常設定の場合よりも高い回転速度に設定する。モータリングの回転速度を高くすることでバッテリ6の消費電力が増加するので、バッテリ6のSOCを速やかに低下させることができる。
【0045】
モータリングの設定回転速度は、例えば、通常設定の場合よりも所定回転速度だけ高くなるように設定することが考えられる。
【0046】
また、モータリングの設定回転速度は、外気温が低いほど高くなるように設定してもよいし、この先の所定走行区間における電力の推定回生量が多いほど高くなるように設定してもよい。このように設定することの作用効果については後で説明する。
【0047】
ステップS15では、コントローラ20は、エンジン1の冷却液の循環量を減少させる。例えば、エンジン1の冷却液の循環経路の一部を遮断することで、エンジン1の冷却液の循環量を減少させることができる。これによれば、モータリング実行中のエンジン冷却液温度Tclの低下が抑制される。
【0048】
ステップS16では、コントローラ20は、外気温と暖房設定温度からエンジン冷却液温度Tclの推移を推定する。
【0049】
ステップS17では、コントローラ20は、この先の所定走行区間においてモータリングを実行中にエンジン冷却液温度Tclが閾値Tcl1を下回るか予測する。
【0050】
コントローラ20は、この先の所定走行区間においてモータリングを実行中にエンジン冷却液温度Tclが閾値Tcl1を下回ると予測した場合は、処理をステップS18に進める。また、コントローラ20は、この先の所定走行区間においてモータリングを実行中にエンジン冷却液温度Tclが閾値Tcl1を下回らないと予測した場合は、処理をステップS19に進める。
【0051】
ステップS18では、コントローラ20は、モータリングが実行される時間が、ステップS11で予測した通常設定の場合の時間よりも短くなるように、すなわち、モータリングの回転速度を高くしないでこの先の所定走行区間を走行した場合のモータリングの予測実行時間よりも短くなるように、モータリングに関するパラメータを設定する。
【0052】
モータリングが実行される時間を通常設定の場合の時間よりも短くすることで、エンジン1をファイアリングさせる時間が増えてエンジン冷却液温度Tclを上昇させることができる。
【0053】
上述したように、モータリングの回転速度を高くすることでバッテリ6のSOCを速やかに低下させることができるので、モータリングの時間を短くした場合でも、バッテリ6は、目標SOCを超えない状態で回生電力を受け入れることができる。
【0054】
なお、本実施形態では、モータリングの時間は、エンジン冷却液温度Tclが閾値Tcl1を下回らないように短くされる。しかしながら、モータリングの時間を少しでも短くすればファイアリングの時間を増やすことができるので、エンジン冷却液温度Tclを上昇させることができる。
【0055】
具体的には、例えば、ステップS14で設定した回転速度でモータリングを実行した場合のSOCの推移を予測し、エンジン冷却液温度Tclが閾値Tcl1を下回らず、かつ、モータリングの時間が短くなるように、モータリングが終了する判定SOCを設定することが考えらえる。
【0056】
また、モータリングが終了するまでのタイマを設定することで、モータリングの時間を短くしてもよい。
【0057】
ステップS19では、コントローラ20は、モータリングが実行される時間が、ステップS11で予測した通常設定の場合の時間と同じ時間以上になるように、すなわち、モータリングの回転速度を高くしないでこの先の所定走行区間を走行した場合のモータリングの予測実行時間と同じ時間以上になるように、モータリングに関するパラメータを設定する。
【0058】
モータリングが実行される時間を通常設定の場合と同じ時間以上とすることで、モータリングが実行される時間を短くする場合と比べて、エンジン1の作動状態が切り替わる頻度を低減できる。これによれば、運転者に違和感を与えることを抑制できる。
【0059】
なお、本実施形態では、モータリングが実行される時間は、エンジン冷却液温度Tclが閾値Tcl1を下回らないように長くされる。
【0060】
具体的には、例えば、ステップS14で設定した回転速度でモータリングを実行した場合のSOCの推移を予測し、エンジン冷却液温度Tclが閾値Tcl1を下回らず、かつ、モータリングの時間が長くなるように、モータリングが終了する判定SOCを設定することが考えらえる。この場合、判定SOCは、モータリングの時間が短くなるように設定する場合(ステップS18)よりも低く設定される。
【0061】
また、モータリングが終了するまでのタイマを設定することで、モータリングの時間を長くしてもよい。
【0062】
続いて、
図4から
図6を参照して、長い降坂路を走行中の車両100の状態について説明する。
図4は、モータリングを実行する時間を短くする場合(
図3のステップS18)のタイミングチャートの一例である。
図5は、モータリングを実行する時間を長くする場合(
図3のステップS19)のタイミングチャートの一例である。
図6は、比較例を示すタイミングチャートであって、パラメータを通常設定とした場合を示している。
【0063】
まず、モータリングを実行する時間を短くする場合について説明する。
【0064】
図4に示すように、時刻t11でSOCが目標SOCに到達すると、エンジン1のファイアリングが終了して発電用MG2によるモータリングが開始される。
【0065】
時刻t12でSOCが判定SOCに到達すると、モータリングが終了してファイアリングが開始される。
【0066】
図4では、モータリングの回転速度が通常設定の場合(
図6参照)よりも高く設定されている。よって、通常設定の場合よりもSOCの低下が速められる。
【0067】
また、モータリングを実行する時間(t11からt12までの時間)が通常設定の場合の時間(t31からt33までの時間)よりも短くなるとともに、エンジン冷却液温度Tclが閾値Tcl1を下回る前にモータリングが終了するように、判定SOCが設定されている。
【0068】
その結果、モータリングの時間が短くなってファイアリングの時間が増加する。また、エンジン冷却液温度Tclが閾値Tcl1を下回ることがない。
【0069】
これに対して、通常設定の場合は、
図6に示すように、時刻t32でエンジン冷却液温度Tclが閾値Tcl1を下回ることになる。その後も、時刻t33から時刻t34の間、及び時刻t35から時刻t36の間でファイアリングが実行されるものの、エンジン冷却液温度Tclは閾値Tcl1を下回った状態のままとなる。そして、時刻t37で降坂路が終了すると、コントローラ20は通常の走行制御を実行する。
【0070】
また、モータリングの時間を短くする場合は、
図4に示すように、バッテリ6のSOCは大きく低下するものの、降坂路で回生発電を行っている状態であることから、時刻t12でモータリングが終了すると、SOCが速やかに上昇する。このように、長い降坂路においては、バッテリ6のSOCを一時的に低下させても、その後にSOCを上昇させることができる。
【0071】
その後は、時刻t13でファイアリングが終了してモータリングが開始され、時刻t14でモータリングが終了してファイアリングが開始され、時刻t15でファイアリングが終了してモータリングが開始される。
【0072】
そして、時刻t16で降坂路が終了すると、コントローラ20は通常の走行制御を実行する。
【0073】
続いて、モータリングを実行する時間を長くする場合について説明する。
【0074】
図5に示すように、時刻t21でSOCが目標SOCに到達すると、エンジン1のファイアリングが終了して発電用MG2によるモータリングが開始される。
【0075】
時刻t22でSOCが判定SOCに到達すると、モータリングが終了してファイアリングが開始される。
【0076】
図5では、モータリングの回転速度が通常設定の場合(
図6参照)よりも高く設定されている。よって、通常設定の場合よりもSOCの低下が速められる。
【0077】
また、モータリングを実行する時間(t21からt22までの時間)が通常設定の場合の時間(t31からt33までの時間)よりも長くなるとともに、エンジン冷却液温度Tclが閾値Tcl1を下回る前にモータリングが終了するように、判定SOCが設定されている。
【0078】
その結果、SOCが一旦大きく低下するので、その後のファイアリングにおいて、SOCが目標SOCに到達するまでの時間が長くなる。つまり、ファイアリングの時間が増加する。また、エンジン冷却液温度Tclが閾値Tcl1を下回ることがない。
【0079】
これに対して、通常設定の場合は、上述したように、時刻t32以降はエンジン冷却液温度Tclが閾値Tcl1を下回った状態となる。
【0080】
また、モータリングを実行する時間を長くする場合は、
図5に示すように、バッテリ6のSOCは大きく低下するものの、降坂路で回生発電を行っている状態であることから、時刻22でモータリングが終了すると、SOCが速やかに上昇する。このように、長い降坂路においては、バッテリ6のSOCを一時的に低下させても、その後にSOCを上昇させることができる。
【0081】
その後は、時刻t23でファイアリングが終了してモータリングが開始される。
【0082】
そして、時刻t24で降坂路が終了すると、コントローラ20は通常の走行制御を実行する。
【0083】
以上述べたように、本実施形態の車両100は、エンジン1と、エンジン1により駆動されて発電する発電用MG2と、走行用MG3と、発電用MG2により発電される電力により充電され、走行用MG3に電力を供給するバッテリ6と、を備える。車両100のコントローラ20は、バッテリ6のSOCに基づいて発電用MG2によりエンジン1を駆動するモータリングを実行し、バッテリ6のSOCの上昇が予測できる走行区間(充電率上昇走行区間)では、バッテリ6のSOCの上昇が予測できない走行区間(充電率非上昇走行区間)と比べて、モータリングの回転速度を高くする。
【0084】
これによれば、充電率上昇走行区間では、モータリングの回転速度を高くすることで消費電力が増加するので、バッテリ6のSOCを速やかに低下させることができる。よって、モータリングを実行する時間を短くでき、エンジン1をファイアリングさせる時間が増えてエンジン冷却液温度Tclを上昇させることができる。また、充電率上昇走行区間であることから、バッテリ6のSOCを一時的に低下させても、その後にSOCを上昇させることができる。よって、バッテリ6の充電を適切に行うとともに、エンジン冷却液温度Tclの低下を抑制することができる。
【0085】
コントローラ20は、充電率上昇走行区間では、モータリングの回転速度を高くしないで充電率上昇走行区間を走行した場合のモータリングの予測実行時間と比べて、モータリングを実行する時間を短くすることができる。
【0086】
これによれば、充電率上昇走行区間では、エンジン1をファイアリングさせる時間が増えてエンジン冷却液温度Tclを上昇させることができる。また、充電率上昇走行区間であることから、バッテリ6のSOCを一時的に低下させても、その後にSOCを上昇させることができる。
【0087】
コントローラ20は、充電率上昇走行区間では、モータリングの回転速度を高くしないで充電率上昇走行区間を走行した場合のモータリングの予測実行時間と比べて、モータリングを実行する時間を同じ時間以上にすることができる。
【0088】
これによれば、充電率上昇走行区間では、エンジン1をファイアリングさせる時間が増えてエンジン冷却液温度Tclを上昇させることができる。また、充電率上昇走行区間であることから、バッテリ6のSOCを一時的に低下させても、その後にSOCを上昇させることができる。また、モータリングを実行する時間を短くする場合よりもエンジン1の作動状態が切り替わる頻度を低減できるので、運転者に違和感を与えることを抑制できる。
【0089】
コントローラ20は、充電率上昇走行区間においてモータリングの実行中にエンジン冷却液温度Tclが所定の閾値Tcl1を下回ると予測できる場合は、モータリングの回転速度を高くしないで充電率上昇走行区間を走行した場合のモータリングの予測実行時間と比べて、モータリングを実行する時間を短くし、充電率上昇走行区間においてモータリングの実行中にエンジン冷却液温度Tclが所定の閾値Tcl1を下回らないと予測できる場合は、モータリングの回転速度を高くしないで充電率上昇走行区間を走行した場合のモータリングの予測実行時間と比べて、モータリングを実行する時間を同じ時間以上にすることができる。
【0090】
これによれば、充電率上昇走行区間では、エンジン1をファイアリングさせる時間が増えてエンジン冷却液温度Tclを上昇させることができる。また、充電率上昇走行区間であることから、バッテリ6のSOCを一時的に低下させても、その後にSOCを上昇させることができる。さらに、エンジン冷却液温度Tclを暖房装置及びデフロスタ装置が要求性能を満たすことが可能な温度(閾値Tcl1)以上に保ちつつ、エンジン1の作動状態が切り替わる頻度を低減することができる。
【0091】
コントローラ20は、充電率上昇走行区間におけるモータリングの回転速度を、外気温が低いほど高くするようにしてもよい。
【0092】
外気温が低いほど暖房により熱を奪われてエンジン冷却液温度Tclが低下しやすい。そのため、外気温が低いほどモータリングの回転速度を高くしてバッテリ6のSOCを速やかに大きく低下させることで、その後のファイアリングの時間を長くすることができ、エンジン冷却液温度Tclを上昇させることができる。
【0093】
コントローラ20は、充電率上昇走行区間におけるモータリングの回転速度を、充電率上昇走行区間における走行用MG3の推定回生量が多いほど高くするようにしてもよい。
【0094】
例えば、長い降坂路のように推定回生量が多い場合は、バッテリ6のSOCを一時的に大きく低下させても、その後にSOCを上昇させることができる。よって、推定回生量が多いほど、モータリングの回転速度を高くしてバッテリ6のSOCを速やかに大きく低下させることができ、その後のファイアリングの時間を長くすることができる。
【0095】
コントローラ20は、充電率上昇走行区間では、エンジン1の冷却液の循環量を減少させるようにしてもよい。
【0096】
これによれば、モータリング実行中のエンジン冷却液温度Tclの低下が抑制される。
【0097】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0098】
例えば、上記実施形態では、主に車両100が降坂路を走行する場合を例として本発明によるモータリングについて説明した。しかしながら、本発明によるモータリングは、例えば、極低温環境で車両100が停車している場合や、消費電力が少ない状態で車両100が走行している場合においても実行することができる。
【符号の説明】
【0099】
100 ハイブリッド車両
1 エンジン
2 発電用モータジェネレータ
3 走行用モータジェネレータ
6 バッテリ
20 コントローラ(制御装置)