(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-27
(45)【発行日】2024-12-05
(54)【発明の名称】転圧ローラ車両
(51)【国際特許分類】
E01C 19/26 20060101AFI20241128BHJP
【FI】
E01C19/26
(21)【出願番号】P 2021061008
(22)【出願日】2021-03-31
【審査請求日】2023-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 秀徳
(72)【発明者】
【氏名】眞下 哉葵
(72)【発明者】
【氏名】竹内 裕樹
【審査官】坪内 優佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-074573(JP,A)
【文献】特開平08-218310(JP,A)
【文献】特開2019-157407(JP,A)
【文献】特開2020-032953(JP,A)
【文献】特開2012-224989(JP,A)
【文献】特開2011-074574(JP,A)
【文献】特開2016-089332(JP,A)
【文献】特開2005-256478(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0175344(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01C 19/00 -19/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前部車体と、
前記前部車体に対してアーティキュレート機構を介して屈曲可能に連結される後部車体と、
前記前部車体の前方中央部に取り付けられ、前記前部車体に画成される機器収容部を閉塞するカバーと、
前記前部車体の前方、且つ前記カバーの車幅方向の両側方の位置で前記前部車体に取り付けられた左右一対の前部転圧ローラと、
前記前部車体の車幅方向の両側から車体外側に向かって延設され、前記左右一対の前部転圧ローラの外周面と対応する位置でスクレーパ装置を支持する左右一対のスクレーパブラケットと、
前記前部車体に取り付けられた運転席と、
前記左右一対のスクレーパブラケットの上面にそれぞれ固定され、前記運転席から前記前部転圧ローラの外周を視認するためのミラーを支持する左右一対のステーと、
を備えた転圧ローラ車両において、
前記前部車体の周囲の状態を検出する検出装置を備え、
前記検出装置は、
車幅方向に間隔をあけて配設される一対のユニットからなり、前記一対のユニットを構成する各ユニットが協調して前記車体の前方の障害物を検知するよう構成され、
前記左右一対のスクレーパブラケットの前記上面には、前記左右一対のステーよりも車幅方向の内側にそれぞれ立設する左右一対のセンサブラケットが設けられ、
前記各ユニットは、前記左右一対の前部転圧ローラの回転中心よりも前側に配設され、
前記左右一対のセンサブラケットにそれぞれ支持されている
ことを特徴とする転圧ローラ車両。
【請求項2】
前記検出装置は、送信ユニットと受信ユニットとを分離した障害物センサとして構成される
ことを特徴とする請求項1に記載の転圧ローラ車両。
【請求項3】
前記検出装置は、第1カメラユニットと第2カメラユニットとを分離したステレオカメラとして構成される、
ことを特徴とする請求項1に記載の転圧ローラ車両。
【請求項4】
前記各ユニットは、前記左右一対の前部転圧ローラの回転中心よりも上側、且つ車幅方向において対応する前記左右一対の前部転圧ローラの幅内、且つ前記前部車体の車幅中央を基準として略等距離の位置にそれぞれ配設されている
ことを特徴とする請求項1に記載の転圧ローラ車両。
【請求項5】
前記各ユニットは、左右方向又は上下方向に回動可能に前記左右一対の
センサブラケットにそれぞれ支持されている
ことを特徴とする請求項1に記載の転圧ローラ車両。
【請求項6】
前記左右一対のスクレーパブラケットは、前面及び前記上面からなるアングル材で構成され、
前記各ユニットは、前記ミラーと前記前部転圧ローラとの間にそれぞれ配設されている
ことを特徴とする請求項1に記載の転圧ローラ車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転圧ローラ車両に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の転圧ローラ車両は、路面に敷きつめられた砂利やアスファルト舗装材等を転圧する締固め作業に使用され、そのために車体の前後には走行輪を兼ねた転圧ローラが備えられている。オペレータは、車体上の前後の転圧ローラの間に設けられた運転席に着座して運転操作するが、車体の一側や転圧ローラに遮られて死角が形成されるため、前後方向の視認性が良好とは言い難い。しかも、歩道の縁石を転圧ぎわとして路面を転圧する場合等、オペレータは半身を乗り出した姿勢で転圧ローラの端部を目視しながら、転圧ぎわに沿って転圧ローラを移動させるため、周囲に対する注意が疎かになりがちである。
【0003】
そこで、車体の前後に障害物センサを取り付け、この障害物センサにより障害物が検知されると、ブザー等によりオペレータの注意を喚起する対策が講じられることがある。この場合の障害物センサは、車体上の検出領域を遮らない位置に配設する必要があり、例えば、転圧ローラが車体に覆われたタイヤローラ車両等では、転圧ローラの存在に関係なく障害物センサを配設可能である。しかしながら、例えば前部車体と後部車体とをアーティキュレート機構を介して連結したマカダムローラ車両では、前部転圧ローラが前部車体に覆われずに前方に突出し、後部転圧ローラも後部車体に覆われずに後方に突出している。このため、車体に取り付けた障害物センサの検出領域が転圧ローラに遮られ、障害物を検出不能な事態が発生する。
【0004】
その対策として、例えば特許文献1には、マカダムローラ車両を対象とした車両後部のセンサ取付構造が提案されている。このマカダムローラ車両では、後部転圧ローラの後側でスクレーパを支持している取付フレームを利用して障害物センサを取り付けている。取付フレームの左右ブラケットは上方に延設され、各ブラケットの上端にロッドを架け渡して車幅中央に障害物センサを固定しており、これにより転圧ローラに遮られることなく後方障害物を検出可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術を参考にし、そのセンサ取付構造を車体前部に転用することが考えられる。しかしながら、マカダムローラ車両は車体前後の構造(前部車体の前部構造と後部車体の後部構造)が全く異なるため、単純な転用は不可能である。即ち、マカダムローラ車両の車体後部には単一の後部転圧ローラが備えられるが、これに対して車体前部にはエンジンルームが画成され、その左右両側に一対の前部転圧ローラが配設されている。エンジンルームには上方に開閉するエンジンフードが設けられ、エンジンルーム内に収容されているエンジンや油圧ポンプ等の保守は、エンジンフードを開放して実施される。
【0007】
このため障害物センサの配設位置の条件として、前方に形成される障害物センサの検出領域が転圧ローラ等で遮られないことに加えて、エンジンフードの開閉を妨げないことが要求される。仮に特許文献1の技術を転用した場合、左右の前部転圧ローラのスクレーパを支持する取付フレームを利用して車幅中央で障害物センサを支持することになるが、その位置はエンジンフードの直上になるため開閉を妨げてしまう。また、エンジンフード自体に障害物センサを固定する方策も考えられるが、開閉動作によって固定位置にズレが生じて障害物の検出精度が悪化してしまう。このため、従来から抜本的な対策が要望されていた。
【0008】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、転圧ローラ等に遮られることなく前方障害物を検出できると共に、車体前部に設けられたエンジンフードの開閉を妨げることなく障害物センサを配設することができる転圧ローラ車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明の転圧ローラ車両は、前部車体と、前記前部車体に対してアーティキュレート機構を介して屈曲可能に連結される後部車体と、前記前部車体の前方中央部に取り付けられ、前記前部車体に画成される機器収容部を閉塞するカバーと、前記前部車体の前方、且つ前記カバーの車幅方向の両側方の位置で前記前部車体に取り付けられた左右一対の前部転圧ローラと、前記前部車体の車幅方向の両側から車体外側に向かって延設され、前記左右一対の前部転圧ローラの外周面と対応する位置でスクレーパ装置を支持する左右一対のスクレーパブラケットと、前記前部車体に取り付けられた運転席と、前記左右一対のスクレーパブラケットの上面にそれぞれ固定され、前記運転席から前記前部転圧ローラの外周を視認するためのミラーを支持する左右一対のステーと、を備えた転圧ローラ車両において、前記前部車体の周囲の状態を検出する検出装置を備え、前記検出装置は、車幅方向に間隔をあけて配設される一対のユニットからなり、前記一対のユニットを構成する各ユニットが協調して前記車体の前方の障害物を検知するよう構成され、前記左右一対のスクレーパブラケットの前記上面には、前記左右一対のステーよりも車幅方向の内側にそれぞれ立設する左右一対のセンサブラケットが設けられ、前記各ユニットは、前記左右一対の前部転圧ローラの回転中心よりも前側に配設され、前記左右一対のセンサブラケットにそれぞれ支持されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の転圧ローラ車両によれば、転圧ローラ等に遮られることなく前方障害物を検出できると共に、車体前部に設けられたエンジンフードの開閉を妨げることなく障害物センサを配設することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態のマカダムローラ車両を示す側面図である。
【
図2】マカダムローラ車両の前部車体を左斜め前方から見た斜視図である。
【
図4】右側のスクレーパ装置及び送信ユニットを示す
図2のD部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明をマカダムローラ車両に具体化した一実施形態を説明する。
図1は本実施形態のマカダムローラ車両を示す側面図、
図2はマカダムローラ車両の前部車体を左斜め前方から見た斜視図、
図3はマカダムローラ車両を示す正面図である。以下の説明では、車両を基準として前後、左右及び上下方向を規定する。
【0013】
マカダムローラ車両1(以下、単に車両と称することもある)の車体は、左右一対の前部転圧ローラ2L,2Rを備えた前部車体4と単一の後部転圧ローラ3を備えた後部車体5とにより構成されている。これらの車体4,5はアーティキュレート機構6を介して連結されており、前部車体4に設けられた図示しない操舵シリンダの駆動により、アーティキュレート機構6を中心として前部及び後部車体4,5が水平方向に屈曲することで車両1が旋回するようになっている。
【0014】
前部車体4の前部にはエンジンルーム8(本発明の機器収容部に相当)が画成され、前部転圧ローラ2L,2Rはエンジンルーム8の左右両側に配設され、それぞれ図示しない前部走行用油圧モータにより回転駆動されるようになっている。また、後部車体5からは左右一対の支持アーム5aが後方に延設され、それらの支持アーム5aの間で後部転圧ローラ3が支持されて、図示しない後部走行用油圧モータにより回転駆動されるようになっている。
【0015】
前部車体4上の後部には、左右一対のステアリング10及び前後進レバー11を備えた操作台12が設置され、操作台12の後側には各ステアリング10に対応して左右一対の運転席13が設置されている。前部車体4上の運転席13の後側にはステー14を介してキャノピ15が支持され、操作台12及び左右の運転席13が上方から覆われている。例えば車両1の左側を転圧ぎわとした場合、オペレータは左側の運転席13に着座して、ステアリング10や前後進レバー11或いは足下の図示しないブレーキペダル等を操作することにより転圧ぎわに沿って車両1を走行させる。また、車両1の右側を転圧ぎわとした場合には、右側の運転席13に着座して同様の操作を行う。
【0016】
後部車体5上には水を貯留した貯水タンク16が設置され、図示はしないが前部及び後部転圧ローラ2L,2R,3の近接位置には散水ノズルが配設されている。締め固め作業時には、前部及び後部転圧ローラ2L,2R,3の外周面へのアスファルト舗装材の付着防止を目的として、貯水タンク16内の水が各散水ノズルから前部及び後部転圧ローラ2L,2R,3へと散水される。
【0017】
前部車体のエンジンルーム8内には、HST(Hydro Static Transmission)を構成する図示しないエンジンや油圧ポンプ等の各機器が収容されている。エンジンの駆動により油圧ポンプから作動油が吐出され、オペレータの操作に応じてバルブユニットにより作動油の流路が切り換えられる。これにより作用油が上記した前部及び後部走行用油圧モータ或いは操舵シリンダに供給され、車両1の走行及び旋回が行われる。
【0018】
車両1のエンジンルーム8は上方に開口する形状をなし、その開口箇所には上方に開閉可能なエンジンフード18(本発明のカバーに相当)が配設されている。詳しくは、エンジンフード18は後端の図示しないヒンジを中心として、エンジンルーム8の開口を上方から覆い閉塞する閉鎖位置(
図2中に実線で示す)と、この閉鎖位置から前端を上動させてエンジンルーム8を上方に開放する開放位置(
図2中に二点鎖線で示す)との間で切換可能となっている。HSTのエンジンや油圧ポンプ等の保守は、エンジンフード18を開放位置に切り換えて実施される。
【0019】
エンジンルーム8の下側には前方に開口する電装室19が画成され、図示はしないが、その内部にはバッテリ、リレーユニット、ヒューズユニット等の電装品が収容されると共に、左右一対の前照灯20が収容されている。電装室19を前方から覆うメンテナンスフード21には左右一対の透孔21aが形成され、これらの透孔21aを介して各前照灯20が前方を照射するようになっている。メンテナンスフード21は上端の図示しないヒンジを中心として、電装室19を前方から覆う閉鎖位置(
図2中に実線で示す)と、この閉鎖位置から下端を上動させて電装室19を前方に開放する開放位置(
図2中に二点鎖線で示す)との間で切換可能となっている。電装品の保守は、メンテナンスフード21を開放位置に切り換えて実施される。
【0020】
図4は右側のスクレーパ装置及び送信ユニットを示す
図2のD部拡大図であり、図示はしないが、左側のスクレーパ装置は
図4とは左右対称の同一構造である。
エンジンルーム8の左右の側壁8aには、それぞれ支持フレーム23が固定され、支持フレーム23はエンジンルーム8の左右両側でそれぞれ上方に延設されている。支持フレーム23の上部は、側面視において前部転圧ローラ2L,2Rの外周面から上方に突出している。これらの突出箇所において、
図4に示すように、右側の支持フレーム23の上部には、右側のスクレーパブラケット24の基端がボルト25により締結され、スクレーパブラケット24は右側の前部転圧ローラ2Rの外周面から離間した位置を保ちつつ右方へと延設されている。詳細な図示はないが、同じく左側の支持フレーム23の上部には、左側のスクレーパブラケット24の基端がボルトにより締結され、スクレーパブラケット24は左側の前部転圧ローラ2Lの外周面から離間した位置を保ちつつ左方へと延設されている。
【0021】
左右のスクレーパブラケット24は前面24a及び上面24bからなるアングル材で製作され、その前面24aには、前部転圧ローラ2L,2Rの後退用のスクレーパ装置27L,27Rがそれぞれ支持されている。詳しくは、各スクレーパブラケット24の前面24aには、それぞれ左右一対の屈曲可能な取付具28の基端が固定され、各取付具28の先端にはそれぞれ四角板状のスクレーパ29の上端が固定されている。各スクレーパ29は引張りバネ30の付勢力を受けて、その下端を前部転圧ローラ2L,2Rの外周面に当接させた作動位置と、下端を前部転圧ローラ2L,2Rの外周面から離間させた休止位置との間で切換可能となっている。スクレーパ29を作動位置とした状態で車両1が後退すると、スクレーパ29の下端が前部転圧ローラ2L,2Rの外周面に摺接し、付着しているアスファルト舗装材を掻き落とす。
【0022】
以上のような構成により左右のスクレーパ装置27L,27Rは、
図1,2中に矢印Aで示すように、前後方向において前部転圧ローラ2L,2Rの回転中心Lよりも前側で、且つ矢印Bで示すように、上下方向において部転圧ローラの回転中心Lよりも上側に配設されると共に、左右方向において前部転圧ローラ2L,2Rの左右幅Cと対応して配設されている。
【0023】
回転中心Lよりも前側の配置は、スクレーパ29の下端を前部転圧ローラ2L,2Rの外周面に摺接させて、剥がれたアスファルト舗装材を直接的に路面上に落下させるためである。また、回転中心Lよりも上側の配置は、スクレーパ29の下端を前部転圧ローラ2L,2Rの外周面に当接させるために、引張りバネ30の付勢力だけでなくスクレーパ29の重量も利用する趣旨である。加えて、作業者が立ち位置でスクレーパ29の清掃等を実施し易いことも理由の1つである。また、左右幅Cと対応した配置は、当然であるが前部転圧ローラ2L,2Rの外周面のアスファルト舗装材を漏れなく掻き落とすためである。
【0024】
なお、本発明の要旨とは直接関係がないため詳細な説明及び図示は省略するが、各前部転圧ローラ2L,2Rの後側には、車両1の前進時に同様の機能を奏する前進用のスクレーパ装置31が設けられ、後部転圧ローラ3の前後にも、前進用及び後退用のスクレーパ装置32,33がそれぞれ設けられている。
【0025】
図1,2,4に示すように、左右のスクレーパブラケット24の上面24bの車幅外側の位置には、ブラケット34を介してそれぞれポジション灯35が支持されると共に、上面24bの車体内側の位置には、それぞれフロントアンダーミラー36(本発明のミラーに相当)のステー37の基端が固定されている。左右のステー37はそれぞれ上方且つ前方へと延設され、さらに車幅外側へと延設されてフロントアンダーミラー36が支持されている。結果としてフロントアンダーミラー36は、左右方向で前部転圧ローラ2L,2Rと対応する位置で、前部転圧ローラ2L,2Rの外周面に面した姿勢で支持されている。フロントアンダーミラー36は凸面鏡として構成されているため、オペレータが左右の何れの運転席13に着座した場合でも、
図1中に視界領域αで示すように、左右の前部転圧ローラ2L,2Rの外周面及びその直前の路面を視認できるようになっている。
【0026】
ところで、本実施形態の車両1においても、車両1の周囲の状態、特に車両1の前方及び後方に存在する障害物を検出してオペレータに注意を喚起するために障害物センサが設けられている。マカダムローラ車両1では、前部及び後部転圧ローラ2L,2R,3が車体4,5に覆われずに前方や後方に突出しているため、車体4,5に取り付けた障害物センサの検出領域が転圧ローラ2L,2R,3に遮られて障害物を検出不能となる場合がある。その対策として、特許文献1には、マカダムローラ車両の後部に対する障害物センサの取付構造が提案されており、このセンサ取付構造を車両の前部に転用することが考えられる。しかしながら、マカダムローラ車両は車体前後の構造が全く異なるため、単純に転用できずに問題解決にはならなかった。
【0027】
このような不具合を鑑みて本発明者は、マカダムローラ車両1の前部車体4の前部構造について考察した。前部車体4の前方中央にはエンジンルーム8が画成され、その下側に電装室19が画成され、左右両側には前部転圧ローラ2L,2Rが配設されている。そして、エンジンルーム8の上方に障害物センサを配設すると、エンジンフード18の開閉を妨げてしまい、また、エンジンフード18自体に障害物センサを固定すると、開閉動作によって固定位置にズレが生じて検出精度が悪化する可能性がある。また、電装室19のメンテナンスフード21の開閉を妨げないように、前照灯20に障害物センサを固定することも考えられるが、低位置であることから路面からの熱や蒸気、埃の影響を障害物センサが受けてしまう。ここで、路面からの熱や蒸気、埃とは、例えば、路面を形成するアスファルトが高温であるときに転圧作業が行われるために路面が有している熱、さらにその熱と転圧ローラ2L,2Rへの散水等により発生する蒸気、路面近くで舞い上がる埃のことである。これにより、例えば、蒸気や埃を障害物として誤検知する虞がある。また、例えば、路面からの熱を受けて障害物センサ内部が高温になったり、或いは、前述の蒸気が障害物センサ内部に浸入したりすることによって、障害物センサが故障しやすくなる虞がある。
【0028】
これに対してエンジンルーム8の左右両側、換言すると前部転圧ローラ2L,2Rの外周面上は制約なく障害物センサを配設可能である。そこで本実施形態では、以下のような要件1)~3)に基づき、前部転圧ローラ2L,2Rの外周面上において望ましい障害物センサの配設位置が設定されている。
【0029】
1)前部転圧ローラ2L,2Rの左右幅Cに対して車幅内側への障害物センサのはみ出しはエンジンフード18の開閉を妨げ、車幅外側へのはみ出しは走行中に障害物と衝突する可能性が生じることから、何れの事態も防止すべく前部転圧ローラ2L,2Rの左右幅C内に障害物センサを収めること。
【0030】
2)障害物センサの前方に形成される検出領域が前部転圧ローラ2L,2Rにより遮られる事態を防止するために、センサ位置は前部転圧ローラ2L,2Rに遮られることなく前方を見通し可能な位置、換言すると前部転圧ローラ2L,2Rの回転中心L(前部転圧ローラ2L,2Rの外周面の頂点でもある)よりも前側とすること。なお、回転中心Lよりも後側からブラケットを介して高所に障害物センサを支持することも考えられるが、オペレータの視界を妨げる等の不具合が生じてしまうため現実的ではない。
【0031】
3)路面からの熱や蒸気、埃の影響を軽減すべく、低位置を避けたある程度高い位置が望ましいため、例えば前部転圧ローラ2L,2Rの回転中心Lよりも上側とすること。但し、本実施形態ではこの要件を採用しているが、必ずしも必須の要件ではない。従って、前部転圧ローラ2L,2Rの回転中心Lよりも下側に障害物センサを配設した場合も本発明に含まれるものとする。
【0032】
結果として望ましい障害物センサの配設位置は、各前部転圧ローラ2L,2Rの左右幅C内で、その回転中心Lよりも前側且つ上側の領域内として定まり、これらの左右の領域はエンジンルーム8の幅相当だけ左右に離間している。
【0033】
一方で、例えば特許文献1に記載されている単一の障害物センサ、換言すると、投光側と受光側とを同一位置とした障害物センサを使用する場合には、必然的に左右の領域内の何れか一方に障害物センサを配設することになる。しかしながら、この場合には、左右方向において障害物センサとは反対側の領域に障害物センサからの光が満遍なく行き届かず、車幅内の障害物を漏れなく検出できない可能性が生じる。これに対して送信ユニットと受信ユニットとが分離した障害物センサ(以下、分離型と称する)では、送受信ユニットが協調して障害物の検出機能を奏する。即ち、送信ユニットから赤外線、超音波、ミリ波等が送信され、車両前方に障害物が存在する場合には、障害物で反射して受信ユニットに受信される。従って、左右の領域の何れか一方に送信ユニットを配設し、何れか他方に受信ユニットを配設すれば、左右の検出感度に偏りがなくなり、車幅内の障害物を漏れなく検出することができる。
【0034】
このように車両1側からは、要件1)~3)に基づき障害物センサの配設位置としてエンジンルーム8の左右両側が求められ、この要求を満足した上で、左右に偏りなく障害物を検出するには、車幅方向に間隔をあけて配設される分離型の障害物センサが好適である。そして、上記のように左右のスクレーパ装置27L,27Rは要件1)~3)を満足する位置に配設されているため、本実施形態では、これらのスクレーパ装置27L,27Rを支持する左右のスクレーパブラケット24を利用して、分離型の障害物センサ39(本発明の検出装置に相当)を構成する送信ユニット39Rと受信ユニット39Lとを配設している。
【0035】
以下、赤外線式の障害物センサ39を使用したものとして、
図4に基づき右側のスクレーパブラケット24に対する送信ユニット39Rの取付構造について説明する。なお、左側の受信ユニット39Lは左右対称の同一構造であるため、重複する説明は省略する。
スクレーパブラケット24の上面24bには、ステー37の左側に隣接してセンサブラケット40が配設されている。センサブラケット40は金属板から製作され、底面部40a上に所定間隔をおいて左右一対の側面部40bを立設してなり、左右一対のボルト41により底面部40aがスクレーパブラケット24の上面24bに締結されている。左右の側面部40bの上側にはそれぞれ固定ベース40cが支持され、これらの固定ベース40c間に直方体状をなす送信ユニット39Rが配設されて、上下一対のボルト42で左右から締結されている(右側のボルト42は不図示)。
【0036】
送信ユニット39Rは、赤外線を投光する投光面39Raを前方且つ若干下方に向けた姿勢でセンサブラケット40に支持され、その指向方向は、ボルト41,42の締結箇所に生じたガタを利用して若干の調整が可能となっている。
詳しくは、スクレーパブラケット24の上面24bにセンサブラケット40の底面部40aがボルト41で締結されており、図示はしないが、ボルト41の軸部と底面部40aのボルト孔との間には多少のガタが形成されている。このためガタ相当だけ、センサブラケット40と一体で送信ユニット39Rの指向方向を左右に角度調整可能(
図4中の矢印X)となっている。
【0037】
また、センサブラケット40の左右の固定ベース40cに送信ユニット39Rがボルト42で締結されており、図示はしないが、ボルト42の軸部と固定ベース40cのボルト孔との間には多少のガタが形成されている。このためガタ相当だけ、送信ユニット39Rの指向方向を上下に角度調整可能(
図4中の矢印Y)となっている。結果として、これらの左右及び上下の調整により、車両1の前方に形成される送信ユニット39Rの投光領域ZR(
図1,3に示す)の位置を調整可能となっている。
【0038】
送信ユニット39Rから延出されたハーネス43は、車両1に搭載された図示しないコントローラと接続され、コントローラにより送信ユニット39Rが駆動制御されるようになっている。以上が送信ユニット39Rの取付構造であり、受信ユニット39Lは左右対称の同一構造のため、その受光領域ZL(
図1,3に示す)についても調整可能となっている。そして、投光領域ZR及び受光領域ZLにより障害物センサ39の検出領域が形成されることから、何れかの領域ZR,ZLが前部転圧ローラ2L,2R等で妨げられる事態は、検出領域の縮小につながる。
【0039】
送受信ユニット39L,39Rの指向方向は、車両1の製造後のキャリブレーション作業により調整される。例えば、障害物センサ39をパソコンに接続して現在の検出領域を画像として表示させ、所期の検出領域との比較に基づき各ユニットの指向方向を上記ボルトのガタを利用して適宜調整する。上記のように送受信ユニット39L,39Rの取付構造を左右対称とした結果、前部車体4の車幅中央を基準として送受信ユニット39L,39Rは略等距離の位置にそれぞれ配設されている。検出領域の比較に基づき調整すべき方向を決定するには作業者の習熟が求められるが、送受信ユニット39L,39Rが左右対称の配置のため調整すべき方向を感覚的に把握し易い。従って、不慣れな作業者であっても、キャリブレーション作業を短時間で完了することができる。
なお、後方障害物を検出する障害物センサについては、本発明の要旨と直接関係がないため詳細は説明しないが、後部車体5の任意の位置に設置すればよく、例えば特許文献1に開示されているセンサ設置構造を適用してもよい。
【0040】
このように構成されたマカダムローラ車両1の走行中において、障害物センサ39の送信ユニット39Rからは赤外線が投光され、車両1の前方に形成された検出領域内に障害物が存在するときには、障害物に反射された赤外線が受信ユニット39Lに受光される。受信ユニット39Lからの検出情報を入力したコントローラは操作台12に設けられた図示しないブザーを作動させてオペレータの注意を喚起する。
なお本発明において、障害物が検出されたときの対処はこれに限定されるものではなく、種々に変更可能である。例えば、ブザーの作動に加えて、コントローラにより障害物の位置を算出して車両1に回避動作を行わせてもよい。具体的には、障害物と自車との位置関係に基づきブレーキを自動作動させて車両1を減速したり、或いは、アーティキュレート機構6により自動操舵して衝突回避が容易な方向に車両1の進路を変更したりしてもよい。
【0041】
そして、以上のように左右のスクレーパブラケット24を利用して送受信ユニット39L,39Rが配設され、結果として送受信ユニット39L,39Rの配設位置も、上記要件1)~3)を満足するものとなる。即ち、送受信ユニット39L,39Rは、前後方向において前部転圧ローラ2L,2Rの回転中心Lよりも前側で、且つ上下方向において回転中心Lよりも上側に配設されると共に、左右方向において前部転圧ローラ2L,2Rの左右幅C内に収まるように配設されている。
【0042】
従って、要件1)で述べたように、障害物センサ39に妨げられることなくエンジンフード18を開閉できると共に、車幅外側にはみ出した障害物センサ39が障害物と衝突する事態を未然に防止できる。また要件2)で述べたように、障害物センサ39の検出領域が前部転圧ローラ2L,2R自体で遮られる事態を防止できることから、所期の検出領域を実現して障害物を確実に検出することができる。さらに要件3)で述べたように、路面からの熱や蒸気、埃の影響を軽減できるため、これらの影響による障害物センサ39の誤検知や故障等を未然に防止することができる。
【0043】
また、前部車体4の車幅中央から等しい距離に送受信ユニット39L,39Rを配設した点は、キャリブレーション作業に関する利点だけでなく、左右の検出感度を均一化することにもつながる。結果として、車幅内の障害物を一層確実に検出することができる。
また、スクレーパブラケット24を利用して送受信ユニット39L,39Rを配設していることから、新たなブラケット等の追加が不要になる。例えば送受信ユニット39L,39Rを支持するために、左右の前部転圧ローラ2L,2Rの外周面上にブラケットを追加した場合、それらのブラケットによりオペレータの視界が妨げられる可能性が生じると共に、前部車体4の構造が複雑化してしまう。既存のスクレーパブラケット24を利用することにより、これらの不具合を未然に回避することができる。
【0044】
また、車体4,5の振動等を受けて送受信ユニット39L,39Rにブレが生じると確実な障害物の検出に支障をきたすことから、送受信ユニット39L,39Rが固定される部材には高い剛性が要求される。スクレーパブラケット24は、位置的に送受信ユニット39L,39Rの配置に好適なだけでなく、かなりの重量を有するスクレーパ装置27L,27Rを支持するために元々高い剛性を有している。従って、このスクレーパブラケット24上に送受信ユニット39L,39Rを配設することは、送受信ユニット39L,39Rのブレを防止して本来の障害物の検出機能を発揮させることに大きく貢献する。
【0045】
付言すると、本実施形態では、左右のスクレーパブラケット24上にセンサブラケット40及び送受信ユニット39L,39Rが追加されるが、オペレータの視界を妨げる要因にはなり得ない。オペレータは、左右方向のエンジンフード18の領域では、エンジンフード18越しに直前の路面を直接的に視認しているのに対し、左右の前部転圧ローラ2L,2Rの領域では、フロントアンダーミラー36を介して前部転圧ローラ2L,2Rの外周面や直前の路面を間接的に視認しているためである。従って、スクレーパブラケット24上に障害物センサ39を備えない従来からのマカダムローラ車両1と遜色のない前方視界を確保することができる。
【0046】
一方、
図1中の視界領域αに基づき説明したように、オペレータはフロントアンダーミラー36を介して前部転圧ローラ2L,2Rの外周面及び直前の路面を視認しており、スクレーパブラケット24上に固定され、フロントアンダーミラー36と前部転圧ローラ2L,2Rの外周面との間にそれぞれ配設された送受信ユニット39L,39Rもフロントアンダーミラー36を介して視認可能となる。送受信ユニット39L,39Rの投光面39Raや受光面39Laが汚れた場合には検出性能が低下してしまうが、このような事態をオペレータが認識できることから、清掃等の適切な対処により常に良好な障害物の検出機能を維持することができる。
【0047】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、障害物の検出のために赤外線、超音波、ミリ波等を利用する障害物センサ39を用いたが、これに代えてステレオカメラを適用してもよい。左右の視差により障害物を検出するステレオカメラは、分離型の障害物センサ39と同じく、エンジンルーム8の左右両側の分離配置に好適である。
【0048】
このため、ステレオカメラを構成する左側カメラ(本発明の第1カメラユニットに相当)を左側のスクレーパブラケット24上に配設し、右側カメラ(本発明の第2カメラユニットに相当)を右側のスクレーパブラケット24上に配設する。ステレオカメラによる障害物の検出原理は周知技術のため詳細は説明しないが、左側及び右側カメラにより撮像された左右の画像に対してステレオマッチングを行い、得られた3次元の位置情報に基づき画像中の障害物を抽出して自車からの距離を演算する。重複する説明はしないが、実施形態で述べた各作用効果を達成することができる。
【0049】
また上記実施形態では、左右のスクレーパブラケット24を利用して送受信ユニット39L,39Rを配設したが、必ずしもスクレーパブラケット24を利用する必要はなく、別のブラケットをエンジンルーム8の左右両側に設けて送受信ユニット39L,39Rを支持してもよい。また、左右のスクレーパブラケット24を利用する場合であっても、送受信ユニット39L,39Rの固定位置は上面24bに限るものではなく、例えば前面24aに固定してもよい。
【符号の説明】
【0050】
1 マカダムローラ車両(転圧ローラ車両)
2L,2R 前部転圧ローラ
3 後部転圧ローラ
4 前部車体
5 後部車体
6 アーティキュレート機構
8 エンジンルーム(機器収容部)
13 運転席
18 エンジンフード(カバー)
24 スクレーパブラケット
27L,27R スクレーパ装置
36 フロントアンダーミラー(ミラー)
39 障害物センサ(検出装置)
39R 送信ユニット
39L 受信ユニット
40 センサブラケット