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特許7594980単純ヘルペスウイルスの再活性化抑制用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-27
(45)【発行日】2024-12-05
(54)【発明の名称】単純ヘルペスウイルスの再活性化抑制用組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20241128BHJP
   A61K 35/747 20150101ALI20241128BHJP
   A61P 31/22 20060101ALI20241128BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20241128BHJP
【FI】
C12N1/20 E ZNA
C12N1/20 Z
A61K35/747
A61P31/22
A23L33/135
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021103189
(22)【出願日】2021-06-22
(65)【公開番号】P2023002149
(43)【公開日】2023-01-10
【審査請求日】2024-01-31
【微生物の受託番号】IPOD  FERM BP-1366
(73)【特許権者】
【識別番号】000006884
【氏名又は名称】株式会社ヤクルト本社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】島 龍一郎
(72)【発明者】
【氏名】松本 敏
(72)【発明者】
【氏名】辻 浩和
(72)【発明者】
【氏名】堀 徹治
【審査官】三須 大樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-511470(JP,A)
【文献】国際公開第2014/038929(WO,A1)
【文献】特開2002-241292(JP,A)
【文献】国際公開第2020/245797(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/101500(WO,A1)
【文献】Int.J. Syst. Evol. Microbiol.,2020年,Vol.70,pp.2782-2858
【文献】Microbiol. Immunol.,Vol.30, No.2,1986年,pp.111-122
【文献】Eur. J. Appl. Physiol.,2016年,Vol.116,pp.1555-1563
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-7/08
A61K 35/747
A61P 31/22
A23L 33/135
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクチカゼイバチルス・パラカゼイに属する乳酸菌の生菌を有効成分として含有する単純ヘルペスウイルス1型の再活性化抑制用組成物であって、前記乳酸菌は受託番号FERM BP-1366に係るラクチカゼイバチルス・パラカゼイ YIT 9029株である、該組成物
【請求項2】
単純ヘルペスウイルス1型に起因する症状の発症リスクの低減のために用いられるものである、請求項1記載の単純ヘルペスウイルス1型の再活性化抑制用組成物。
【請求項3】
前記乳酸菌が1日当たりに生菌数として2×1010cells以上投与されるように用いられるものである、請求項1又は2記載の単純ヘルペスウイルス1型の再活性化抑制用組成物。
【請求項4】
飲食品、医薬品、又はサプリメントの形態である、請求項1~のいずれか1項に記載の単純ヘルペスウイルス1型の再活性化抑制用組成物。
【請求項5】
ラクチカゼイバチルス・パラカゼイに属する乳酸菌の生菌を有効成分とする単純ヘルペスウイルス1型の再活性化抑制剤であって、前記乳酸菌は受託番号FERM BP-1366に係るラクチカゼイバチルス・パラカゼイ YIT 9029株である、該剤
【請求項6】
ラクチカゼイバチルス・パラカゼイに属する乳酸菌の生菌の、単純ヘルペスウイルス1型の再活性化抑制用組成物の製造のための使用であって、前記乳酸菌は受託番号FERM BP-1366に係るラクチカゼイバチルス・パラカゼイ YIT 9029株である、該使用

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単純ヘルペスウイルスの再活性化抑制用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus:HSV)は、ヘルペスウイルス科に属する2本鎖DNAウイルスであり、その亜型として1型(HSV-1)と2型(HSV-2)の2種類がある。単純ヘルペスウイルスによる感染症としては、口唇ヘルペス、単純ヘルペス角膜炎、性器ヘルペスなどが挙げられる。一般に、単純ヘルペスウイルスによる症状の発症は、潜伏ウイルスの再活性化によることが知られている。すなわち、乳幼時期の初感染の多くは症状が顕在化しない不顕性感染であるが、体内に侵入したウイルスは神経を上行して三叉神経節や仙髄神経節に終生潜伏し、全身の免疫力の低下などによってウイルスの再活性化が起こり、上行した神経を伝わって抹消に回帰し、症状を引き起こす。その治療には、アシクロビル、バラシクロビル、ファムシクロビル、ビダラビンなどの抗ウイルス薬が用いられている。
【0003】
一方、乳酸菌には、整腸作用や免疫調節作用などがあることが知られている。すなわち、例えば、「適正な量を摂取することにより宿主に有益な働きを発揮する生きた微生物」と定義されているプロバイオティクス(非特許文献1,2)には、便秘や排便症状のような腹部症状の改善(非特許文献3~5)などの有益な効果が報告されている。また、例えば、特許文献1には、免疫系に関連する障害の治療又は予防のために、熱処理されたラクトバチルス・ジョンソニーLa1NCC533が効果的であることが明らかにされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Hill, C., Guarner, F., Reid, G., Gibson, G.R., Merenstein, D.J., Pot, B., Morelli, L., Canani, R.B., Flint, H.J., Salminen, S., Calder, P.C. and Sanders, M.E.「Expert consensus document. The International Scientific Association for Probiotics and Prebiotics consensus statement on the scope and appropriate use of the term probiotic.」Nature Reviews Gastroenterology & Hepatology (2014) 11: 506-514.
【文献】Reid, G., Sanders, M.E., Gaskins, H.R., Gibson, G.R., Mercenier, A., Rastall, R., Roberfroid, M., Rowland, I., Cherbut, C. and Klaenhammer, T.R.「New scientific paradigms for probiotics and prebiotics.」Journal of Clinical Gastroenterology (2003) 37: 105-118.
【文献】Dimidi, E., Christodoulides, S., Scott, S.M. and Whelan, K.「Mechanisms of Action of Probiotics and the Gastrointestinal Microbiota on Gut Motility and Constipation.」Advances in nutrition (2017) 8: 484-494.
【文献】Jin, L., Deng, L., Wu, W., Wang, Z., Shao, W. and Liu, J.「Systematic review and meta-analysis of the effect of probiotic supplementation on functional constipation in children.」Medicine (Baltimore) (2018) 97: e12174.
【文献】Miller, L.E., Ouwehand, A.C. and Ibarra, A.「Effects of probiotic-containing products on stool frequency and intestinal transit in constipated adults: systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials.」Annals of Gastroenterology (2017) 30: 629-639.
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2012-526751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、乳酸菌について、単純ヘルペスウイルスの再活性化を抑制する機能性については、明らかではなかった。
【0007】
よって、本発明の目的は、乳酸菌を利用して、単純ヘルペスウイルスの再活性化抑制用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究し、ラクチカゼイバチルス・パラカゼイに属する乳酸菌の生菌が、単純ヘルペスウイルスの再活性化を有効に抑制し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、ラクチカゼイバチルス・パラカゼイに属する乳酸菌の生菌を有効成分として含有する単純ヘルペスウイルスの再活性化抑制用組成物を提供するものである。
【0010】
上記組成物においては、前記乳酸菌はラクチカゼイバチルス・パラカゼイ YIT 9029(FERM BP-1366)であることが好ましい。
【0011】
上記組成物においては、単純ヘルペスウイルスに起因する症状の発症リスクの低減のために用いられるものであることが好ましい。
【0012】
上記組成物においては、前記乳酸菌が1日当たりに生菌数として2×1010cells以上投与されるように用いられるものであることが好ましい。
【0013】
上記組成物においては、飲食品、医薬品、又はサプリメントの形態であることが好ましい。
【0014】
一方、本発明の別の観点からは、本発明は、ラクチカゼイバチルス・パラカゼイに属する乳酸菌の生菌を有効成分とする単純ヘルペスウイルス再活性化抑制剤を提供するものである。
【0015】
他方、本発明の他の観点からは、本発明は、ラクチカゼイバチルス・パラカゼイに属する乳酸菌の生菌の、単純ヘルペスウイルスの再活性化抑制用組成物の製造のための使用を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ラクチカゼイバチルス・パラカゼイに属する乳酸菌の生菌を有効成分として含有する単純ヘルペスウイルスの再活性化抑制用組成物が提供される。この組成物は、飲食品、医薬品、サプメント等、日常的に一般消費者の判断で摂取する形態としても利用しやすい。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明にかかる組成物は、ラクチカゼイバチルス・パラカゼイ(Lacticaseibacillus paracasei)に属する乳酸菌の生菌を含有するものである。乳酸菌としては、特に限定されないが、例えばラクチカゼイバチルス・パラカゼイ YIT 9029 (旧分類:ラクトバチルス・カゼイ YIT 9029)(FERM BP-1366)が好ましい。乳酸菌は1種類を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、下記に示す2020年4月発行学術誌にもあるとおり、従来ラクトバチルス(Lactobacillus)属に属していた乳酸菌について、その菌属が細分化され、ならびに菌種の一部において属名が変更されることになった。
【0018】
(乳酸菌の再分類について)
・Zheng et al.,「A taxonomic note on the genus Lactobacillus : Description of 23 novel genera, emended description of the genus Lactobacillus Beijerinck 1901, and union of Lactobacillaceae and Leuconostocaceae.」Int. J. Syst. Evol. Microbiol. 2020 Apr; 70(4):2782-2858 DOI 10.1099/ijsem.0.004107
【0019】
本明細書では再分類以降の新分類の表記で示すものとする。また、旧分類においてラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)又はラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)に分類されていた乳酸菌のなかで、新たにラクチカゼイバチルス・パラカゼイ(Lacticaseibacillus paracasei)として分類され得るものは、本願のラクチカゼイバチルス・パラカゼイ(Lacticaseibacillus paracasei)に含まれるものとする。
【0020】
上記乳酸菌は、冷蔵や冷凍で保存管理している凍結乾燥物、凍結状態、冷蔵状態などの菌体含有物や、購入した菌体含有製剤などから、一般的な乳酸菌の培養手段により乳酸菌を増殖させて、所望の菌数となるように適宜調製することが可能である。乳酸菌の培養のための培地としては、限定されないが、MRS培地、LBS培地、BCP培地、ILS培地、変法ILS培地、GAM培地などを例示することができる。そのような栄養培地を含む平型寒天培地上に菌体の少量を塗布して25~37℃の温度環境下において1~3日間静置培養したり、あるいは液体培地中に菌体の少量を添加して、懸濁後、25~37℃の温度環境下において1~3日間静置培養したりするなどにより、上記乳酸菌を所望の菌数になるまで増殖させることができる。培養形態としては、静置培養以外にも、撹拌培養、振盪培養、中和培養などが挙げられる。培養後には、遠心分離等により集菌して培養液を除いたり、これに水等を添加して懸濁したうえ再度遠心分離等かけて洗浄したりして、その菌体を、本発明にかかる組成物中に含有せしめるようにすればよい。あるいは培養に使用した培養液を含む形態で、本発明にかかる組成物中に含有せしめてもよい。
【0021】
ただし、上記乳酸菌は生菌の形態で使用する。すなわち、後述する実施例で示されるとおり、上記乳酸菌は、個体がこれを摂取して腸内に生きた状態で存在させるようにすることで、その個体において単純ヘルペスウイルスの再活性化の指標となる血中のIgM抗体の上昇が抑えられ、ひいては単純ヘルペスウイルスの再活性化を抑制する効果が奏される。
【0022】
ここで「生菌」とは、MRS培地等の適当な栄養培地を含む寒天培地上に、菌体の希釈懸濁液を撒いたときに、至適温度である、例えば、25℃~37℃の温度環境下において、その乳酸菌のコロニーが形成することをいう。そのコロニーの形成数に希釈倍率を乗じて元の菌体懸濁液中に含まれる乳酸菌の生菌数を求めることができる。生菌数の測定には、上記方法に限られず、光岡の方法(光岡知足著「腸内菌の世界」、叢文社、東京、p53-65)等、その他常法的に行われている測定方法を利用してもよい。また、後述する実施例においては、試料に予め生菌のDNAにアクセスできないプロピジウムモノアジド(PMA)で処理して定量的PCRを行う方法により、糞便中の特定の乳酸菌の生菌数を測定したが、生菌数の測定にはそのようなPMA-qPCR法を利用してもよい。
【0023】
本発明にかかる組成物中の上記乳酸菌の含有量は、特に制限はない。例えば、乳酸菌の生菌数にして、本発明にかかる組成物の乾燥物の状態における総質量の1g中に2×1010cells以上であってよく、2×1010cells以上3×1011cells以下であってよく、5×1010cells以上3×1011cells以下であってよく、1×1011cells以上3×1011cells以下であってよい。これによれば一日当たりに望まれる摂取量を摂取しやすい。また、一般に乳酸菌を含有する製剤の剤形としては、液状製剤、ゲル状製剤、凍結乾燥製剤等の形態が知られており、そのような乳酸菌を含有する製剤自体が、本発明にかかる上記乳酸菌を含有する組成物を構成してもよい。
【0024】
また、上記乳酸菌は、各種の食品素材や製剤素材等ととともに、適宜、飲食品、医薬品、サプリメント等の形態に調製し、これを本発明にかかる組成物となしてもよい。そのような形態への調製は、飲食品の製造上の公知の手段、ないしは医薬品又はサプリメントの製剤上の公知の手段などによって、行うことができる。
【0025】
飲食品としては、限定されないが、例えば、ハム、ソーセージ等の食肉加工食品、かまぼこ、ちくわ等の水産加工食品、パン、菓子、バター、粉乳、水、果汁、牛乳、清涼飲料、茶飲料等の飲料などが挙げられる。
【0026】
飲食品としては、更に、上記乳酸菌を含有する、発酵乳飲料、発酵豆乳飲料、発酵果汁飲料、発酵野菜汁飲料等の発酵飲食品などが挙げられる。特には、発酵乳飲料が好ましく例示され得る。上記発酵飲食品の製造は常法に従えばよいが、例えば、上記発酵乳飲食品を製造する場合には、殺菌した乳培地に上記乳酸菌を単独又は他の微生物と同時に接種培養し、これを均質化処理して発酵乳ベースを得る。次に別途調製したシロップ溶液を添加混合し、ホモゲナイザー等で均質化し、更にフレーバーを添加して最終製品に仕上げればよい。このようにして得られる発酵乳飲食品は、シロップ(甘味料)を含有しないプレーンタイプ、ソフトタイプ、フルーツフレーバータイプ、固形状、液状等のいずれの形態の製品とすることもできる。
【0027】
上記発酵乳飲料等の発酵飲食品には、例えば、シロップ等の甘味料、乳化剤、増粘(安定)剤、各種ビタミン等を任意に配合することができる。甘味料としては、例えば、グルコース、ショ糖、フルクトース、果糖ブドウ糖液糖、ブドウ糖果糖液糖、パラチノース、トレハロース、ラクトース、キシロース、麦芽糖、蜂蜜、糖蜜等の糖類、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、ラクチトール、パラチニット、還元水飴、還元麦芽糖水飴等の糖アルコール、アスパルテーム、ソーマチン、スクラロース、アセスルファムK、ステビア等の高甘味度甘味料などが挙げられる。また、乳化剤としては、例えば、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、レシチンなどが挙げられる。また、増粘(安定)剤としては、寒天、ゼラチン、カラギーナン、グァーガム、キサンタンガム、ペクチン、ローカストビーンガム、ジェランガム、カルボキシメチルセルロース、大豆多糖類、アルギン酸プロピレングリコールなどが挙げられる。この他にも、ビタミンA、ビタミンB類、ビタミンC、ビタミンE類等のビタミン類、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、鉄、マンガン等のミネラル分、クエン酸、乳酸、酢酸、リンゴ酸、酒石酸、グルコン酸等の酸味料、クリーム、バター、サワークリーム等の乳脂肪、ヨーグルト系、ベリー系、オレンジ系、花梨系、シソ系、シトラス系、アップル系、ミント系、グレープ系、アプリコット系、ペア系、カスタードクリーム系、ピーチ系、メロン系、バナナ系、トロピカル系、ハーブ系、紅茶系、コーヒー系等のフレーバー類、ハーブエキス、黒糖エキスなどを配合してもよい。
【0028】
また、入手可能な飲食品の市販品を本発明にかかる組成物として利用することに、特に制限はない。例えば、株式会社ヤクルト本社が製造し、上記乳酸菌を含有する飲料製品として、「Newヤクルト」、「Yakult1000」、「ヤクルト400」等のヤクルト類、「ジョア」、「ソフール」、「プレティオ」、「ヤクルトのはっ酵豆乳」などが市販されているので、それらを好適に利用することができる。特には、生きた乳酸菌を多く含有するヤクルト類を利用することがより好ましい。
【0029】
医薬品やサプリメントとして、その製剤の剤形としては、限定されないが、例えば、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等の固形剤、溶液剤、懸濁剤、乳剤等の液剤、凍結乾燥製剤等が挙げられる。この場合、必要に応じて、製剤担体として、例えば、グルコース、乳糖、ショ糖、澱粉、マンニトール、デキストリン、脂肪酸グリセリド、ポリエチレングリコール、ヒドロキシエチルデンプン、エチレングリコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アミノ酸、ゼラチン、アルブミン、水、生理食塩水などを適宜添加することができる。また、必要に応じて、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、結合剤、等張化剤、賦形剤等の慣用の添加剤を、適宜添加することができる。
【0030】
また、入手可能な医薬品やサプリメントの市販品を本発明にかかる組成物として利用することに、特に制限はない。例えば、株式会社ヤクルト本社が製造し、上記乳酸菌を含有する製品として、「ヤクルトBL整腸薬」、「マルチプロバイオティクスサプリメント」などが市販されているので、それらを好適に利用することができる。
【0031】
本発明にかかる組成物は、例えば、単純ヘルペスウイルスによる感染症である、口唇ヘルペス、ヘルペス性歯肉口内炎、カポジ水痘様発疹症、単純ヘルペス角膜炎、性器ヘルペスなどの発症を抑えるため、その目的を有する対象者に投与されるものであることが好ましい。また、免疫低下が予測し得る対象者、例えば、手術、免疫抑制剤の服用、抗ガン剤投与、放射線照射、ストレス、睡眠不足、加齢等によって全身の免疫低下が起こり得る対象者に、そのような処置の前後に、一定期間、上記ウイルスによる症状の発症を抑える目的で、投与することが好ましい。すなわち、ある実施態様では、本発明にかかる組成物は、単純ヘルペスウイルスに起因する症状の発症リスクの低減のために用いられるものであってもよい。
【0032】
本発明にかかる組成物の投与形態は、対象者が生きた乳酸菌を体内に摂取するようにすればよく、特に制限はないが、後述する実施例で示されるように、摂取した乳酸菌が腸に生きたまま到達するようにすることが好ましい。よって、例えば経口的摂取であることが好ましい。摂取量は、特に制限はない。上記乳酸菌が、1日当たりに菌数として2×1010cells以上投与されるように用いられればよい。摂取量は、1日当たりに菌数として2×1010cells以上3×1011cells以下であってよく、5×1010cells以上3×1011cells以下であってよく、1×1011cells以上3×1011cells以下であってよい。また、上記乳酸菌においては、その食経験から長期摂取しても安全であることが認められることから、例えば、1週間、2週間、3週間、1ヵ月間、2ヵ月間、3ヵ月間、4ヵ月間、5ヵ月間、6ヵ月間、7ヵ月間、8ヵ月間、9ヵ月間、10ヵ月間、11カ月間、1年間、2年間、3年間、4年間、5年間などの期間にわたり投与されるように用いられてもよい。
【実施例
【0033】
以下実施例を挙げて更に具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。以下では、ラクチカゼイバチルス・パラカゼイ YIT 9029(FERM BP-1366)のことを「LcS菌」と称する。
【0034】
〔1.被験者〕
試験には80名の日本人健常成人が参加し、ヘルシンキ宣言の主旨に沿って行われた。全ての被験者から文書による同意を得た。
【0035】
〔2.糞便の一次処理〕
被験者より収集した糞便は重量を測定した後、10倍容になるようにPBSを添加し、φ5.0mmジルコニアビーズを加えて、多検体細胞破砕装置(「シェイクマスター」、株式会社バイオメディカルサイエンス製)を使用して10分間よく懸濁した後、200μLの糞便懸濁液を新たな2mLチューブに移した。更に800μLのPBSを添加した後、遠心分離(13,000×g、5分間)により800μLの上清を除き、プロピジウムモノアジド(propidium monoazide:PMA)による処理を行うまで-30℃で保管した。
【0036】
〔3.プロピジウムモノアジド処理〕
収集した糞便中に含まれるLcS菌の生菌数を定量的PCRにより測定するため、プロピジウムモノアジド処理を利用した。すなわち、プロピジウムモノアジド(propidium monoazide:PMA)は二重鎖DNAを修飾する色素であり、所定のエネルギー・波長の光照射をうけたときその修飾されたDNAが分解する。そこで、試料に予めPMA処理を施して定量的PCRを行うPMA-qPCR法は、PMAが細胞膜不透過性であり生菌のDNAにアクセスできない現象を利用して、生菌だけを検出することができる。
【0037】
-30℃で保存された糞便希釈液200μLに、5mMプロピジウムモノアジド(propidium monoazide:PMA)の2μLを添加した(終濃度:50μM)。ボルテックス混和後、氷上で5分間静置(遮光)し、光照射装置(「LED Crosslinker 」、タカラバイオ株式会社製)で10分間光照射した。PMA処理後の糞便検体は、DNA抽出まで-30℃で保管した。
【0038】
〔4.糞便中のLcS菌の生菌数の測定〕
上記3.においてPMA処理した糞便試料から、常法に従いDNAを抽出し、下記配列に示す、LcS菌を特異的に検出するためのPCRプライマーを使用した定量的PCRを行って、糞便1g中に存在するLcS菌の菌数を算出した。
【0039】
フォワード:5’-CTCAAAGCCGTGACGGTC-3’(配列番号1)
リバース:5’-ACGTGGTGCTAATAATCCTAGTG-3’(配列番号2)
【0040】
〔5.ウイルス抗体価の測定〕
血清中に含まれる単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)に対するIgG抗体価単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)に対する特異的IgM抗体価、水痘帯状ヘルペスウイルス(varicella-zoster virus:VZV)に対する特異的IgM抗体価、サイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)に対する特異的IgM抗体価は、それぞれ酵素免疫測定(ELISA)法により解析した。
【0041】
〔6.アンケート調査〕
被験者は、基本情報(性別、年齢、身長、体重)のほか、1週間あたりのLcS菌を含有する乳製品の摂取回数(0-7)を回答してもらった。また、服薬に関しては、試験開始前及び便提出時に、便提出前1週間の服薬状況を回答してもらい、1週間以内に抗生物質、整腸剤、下剤を服用していた場合、解析から除外した。
【0042】
〔7.層別解析〕
アンケートの乳酸菌摂取状況の結果からLcS菌を含む乳製品を1週間当たり6回以上摂取する被験者を高頻度摂取群、LcS菌を含む乳製品を1週間あたり1回以上6回未満摂取する被験者を低頻度摂取群とした。更に、PMA-qPCR法によりLcS菌の生菌が検出された群を生菌LcS検出群、生菌LcSが検出されなかった群(検出限界:5.9×105cells/g)を非検出群とした。
【0043】
〔8.統計解析〕
解析対象は、試験に参加した80名のうち、除外項目(採便前1週間以内に抗生物質、整腸剤及び下剤を服用)に該当する被験者4名、アンケートが不正確だった被験者3名、ならびに別途実施した細菌叢解析のための16S rRNA遺伝子増幅産物の遺伝子配列解析におけるシークエンスリード数が10,000本未満であった被験者1名を除外した、72名とした男性52名、女性20名の合計72名とした(平均年齢38.3±9.0)。
【0044】
統計解析には、2群間の統計解析として対応のないStudent’s T testあるいはMann-Whitney U-検定を用いた。なお、検出限界値未満のデータには、検出限界値の半値を代入した。
【0045】
〔9.結果〕
結果を下記表1~3にまとめて示す。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
【表3】
【0049】
その結果、以下のことが明らかとなった。
(1)表1に示されるとおり、LcS菌の生菌を含有する乳製品を高頻度で摂取している被験者群と、低頻度で摂取している被験者群とで比較を行った結果、高頻度摂取群の方が低頻度摂取群に比べて、糞便中LcS菌の生菌数が有意に高かった。
(2)表2に示されるとおり、糞便中にLcS菌の生菌が検出された被験者群と、検出されなかった被験者群とで比較を行った結果、LcS菌の摂取菌数、LcS菌含有乳製品の摂取頻度、糞便中LcS菌の生菌数などのLcS菌に関する検査項目について、糞便中LcS菌検出群の方が非検出群に比べて、有意に数値が高いといった相関がみられるとともに、血清中の単純ヘルペスウイルスIgM抗体についての抗体価についても、糞便中にLcS菌の生菌が検出された被験者群のほうが、検出されなかった被験者群に比べて有意に数値が高かった(p値<0.01)。一方、血清中の単純ヘルペスウイルスIgG抗体、水痘帯状ヘルペスウイルスIgM抗体、サイトメガロウイルスIgM抗体についての各抗体価については、糞便中LcS菌検出群と非検出群との間で、単純ヘルペスウイルスIgG抗体についての有意性p値は0.809であり、水痘帯状ヘルペスウイルスIgM抗体についての有意性p値は0.353であり、サイトメガロウイルスIgM抗体についての有意性のp値は0.661であり、いずれも有意な相関はみられなかった。
(3)単純ヘルペスウイルスに一度感染した場合、体内にウイルスが残存するため、血清中の単純ヘルペスウイルスIgG抗体が検出される。より詳細に単純ヘルペスウイルスの再活性化が抑制されていることを確認するため、IgG抗体検出群に被験者を限定し、糞便中にLcS菌の生菌が検出された被験者群と、検出されなかった被験者群とで比較を行った。その結果、表3に示されるとおり、IgG抗体検出群に被験者を限定して評価した場合でも、糞便中にLcS菌の生菌が検出された被験者群のほうが、検出されなかった被験者群に比べて、血清中の単純ヘルペスウイルスIgM抗体についての抗体価が減少傾向にあることが確認された。
【0050】
以上の結果によると、LcS菌の生菌を含有する乳製品を高頻度で摂取すると、糞便中LcS菌の生菌数が有意に高くなり、また、糞便中にLcS菌の生菌が検出された被験者群のほうが、検出されなかった被験者群に比べて、血清中で単純ヘルペスウイルスIgM抗体についての抗体価が有意に抑えられた。一般に、血清中で単純ヘルペスウイルスIgM抗体についての抗体価が高いということはウイルスの再活性化を予兆しているといえる(Luc Letenneur et al.「Seropositivity to herpes simplex virus antibodies and risk of Alzheimer's disease: a population-based cohort study」PLoS One. 2008;3(11):e3637. doi: 10.1371/journal.pone.0003637. Epub 2008 Nov 4.)。したがって、LcS菌の生菌の摂取により、単純ヘルペスウイルスの再活性化を有効に抑制し得るものと考えられた。
【配列表】
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