(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-27
(45)【発行日】2024-12-05
(54)【発明の名称】アルミナセラミックス、及びアルミナセラミックスの製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/111 20060101AFI20241128BHJP
【FI】
C04B35/111
(21)【出願番号】P 2021192366
(22)【出願日】2021-11-26
【審査請求日】2023-09-26
(73)【特許権者】
【識別番号】507182807
【氏名又は名称】クアーズテック合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】深沢 祐司
(72)【発明者】
【氏名】中川 卓哉
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-312729(JP,A)
【文献】特開2000-044330(JP,A)
【文献】国際公開第2013/008919(WO,A1)
【文献】特開2020-050536(JP,A)
【文献】特開2003-112963(JP,A)
【文献】特開2012-046365(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al
2O
3を主結晶とし、焼結助剤としてNaとSiを使用することとし、
少なくとも表層から深さ500μmの範囲において、Naの含有量が1000ppm以下、
Siの含有量が10ppm以上2000ppm以下、かつNa/Siの値が
0.1以上0.23以下であり、
さらに、Al
2O
3の純度が99%以上であり、かつTiの含有量が
0.3ppm以上28ppm以下であり、表面抵抗率が
3.2×10
13
Ω/□以上6.5×10
13
Ω/□以下である、ことを特徴とするアルミナセラミックス。
【請求項2】
CVD装置、イオンプレーティング装置、エッチング装置、静電チャックを含むプラズマ生成装置のいずれかにおいて使用する、
ことを特徴とする請求項1に記載のアルミナセラミックス。
【請求項3】
前記請求項1に記載された、Al
2O
3を主結晶とするアルミナセラミックスの製造方法であって、
少なくとも表層から深さ500μmの範囲において、Naの含有量が1000ppm以下、Siの含有量が10ppm以上2000ppm以下、かつNa/Siの値が
0.1以上0.23以下になるように、不純物として含まれるTiの含有量が
0.3ppm以上28ppm以下のアルミナ粉末に対して、NaとSiを含ませて原料粉を作製するステップと、
前記原料粉にバインダーを添加して造粒粉を作製するステップと、
前記造粒粉から成形体を作製するステップと、
前記成形体を焼成し、アルミナ焼結体を得るステップと、
を含むことを特徴とするアルミナセラミックスの製造方法。
【請求項4】
前記アルミナ粉末はAl
2O
3の純度を99%以上とする、
ことを特徴とする請求項3に記載のアルミナセラミックスの製造方法。
【請求項5】
アルミナ粉末に炭酸ナトリウムと二酸化ケイ素を添加することにより、前記Naの含有量を1000ppm以下及び前記Siの含有量を400ppm以上2000ppm以下とし、かつ前記Na/Siの値を
0.1以上0.23以下とする、
ことを特徴とする請求項3または請求項4に記載のアルミナセラミックスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所望の範囲の表面抵抗率を有するアルミナセラミックス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、プラズマ生成装置に用いられるアルミナセラミックスは、その抵抗率が高い場合には帯電が生じやすく、反応生成物を引き寄せる場合がある。そのため、表面に付着するパーティクルが生じやすい。一方、アルミナセラミックスの抵抗率が低い場合には、微弱ながらも導電現象が生じやすく、装置全体の制御に悪影響を与える可能性がある。したがって、プラズマ生成装置においては、帯電と導電現象を抑制可能な抵抗率を有するアルミナセラミックスが求められている。
【0003】
また、アルミナセラミックスは、セラミック材料としては最もよく知られており、高硬度、高耐摩耗性、耐食性、耐薬品性等の優れた特性を有し、汎用性も高く、様々な分野で応用されている。
【0004】
例えば、非特許文献1には、アルミナセラミックスが静電吸着装置に使用する材料として適していることが記載されている。具体的には、高純度のアルミナセラミックスの体積抵抗率は、室温近傍でおよそ1014Ωcm程度であるため、この抵抗率で発生するクーロン力を利用して、静電吸着装置として使用されている。また、ジョンソンラーベックによる静電吸着力を発生するのに適した体積抵抗率は109~1012Ωcmである。そこで、体積抵抗率を低下させるため、添加物(酸化チタン等)を使用する。具体的には、添加物を数%程度原料のアルミナ粉末と混合し、焼結することによって、必要とする体積抵抗率に調整している。このように、非特許文献1には、アルミナセラミックスの体積抵抗率を所望の体積抵抗率に調整することが記載されている。
【0005】
また、特許文献1には、アルミナセラミックスの抵抗を低下させるためにTi、Ti酸化物を使用することが記載されている。そして、この文献に記載されたアルミナセラミックスは、アルミナを主成分としTi等が分散したものであり、その表面抵抗が104~1011Ω/□であることが開示されている。また、非特許文献2には、各社製造のアルミナセラミックスのサンプルにおける表面抵抗率の測定値が1015~1018Ω/□の間に分布していることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】井口忠士、立川俊洋、茅本隆司、「静電吸着装置の材料と方式」、一般社団法人 日本真空学会発行、真空第45巻、No.8、2002、p.633-636
【文献】Y.Yamamoto, S.Michizono, “CERAMIC STUDY ON RF WINDOWS FOR POWER COUPLER, WAVEGUIDE, AND KLYSTRON IN PARTICLE ACCELERATOR” 2021年9月27日検索,インターネット,<https://accelconf.web.cern.ch/srf2019/papers/mop077.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記先行技術文献等に開示されているように、アルミナセラミックスにTiを代表例とする遷移金属元素等の導電性材料を添加すると、電気抵抗を低下させることができる。しかしながら、アルミナセラミックスに導電性材料を添加すると、焼結が阻害されやすく、熱伝導性の悪化や気孔の生成による機械強度の低下等を招く、という問題があった。例えば、電気抵抗を低下させることを目的としてTiを添加したアルミナセラミックスをプラズマ生成装置に使用する場合には、緻密性を満たさないケースが考えられる。
【0009】
このような問題を回避するためには、Tiのような遷移金属元素を添加することなく所望の範囲の表面抵抗率を有する高純度のアルミナセラミックスを製造することが考えられるが、アルミナセラミックス自体の改善は進められていない。
【0010】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、高純度及び高緻密性を満たしつつ、所望の範囲の表面抵抗率を有するアルミナセラミックス、及びその製造方法、を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明にかかるアルミナセラミックスは、Al2O3を主結晶とし、焼結助剤としてNaとSiを使用することとし、少なくとも表層から深さ500μmの範囲において、Naの含有量が1000ppm以下、Siの含有量が10ppm以上2000ppm以下、かつNa/Siの値が0.1以上0.23以下であり、さらに、Al2O3の純度が99%以上であり、かつTiの含有量が0.3ppm以上28ppm以下であり、表面抵抗率が3.2×10
13
Ω/□以上6.5×10
13
Ω/□以下である、ことを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、高純度及び高緻密性を満たしつつ、所望の範囲の表面抵抗率を有するアルミナセラミックスを提供することができる。
【0013】
また、本発明にかかるアルミナセラミックスは、CVD装置、イオンプレーティング装置、エッチング装置、静電チャックを含むプラズマ生成装置のいずれかにおいて使用することが望ましい。
【0014】
また、本発明にかかるアルミナセラミックスの製造方法は、上記に記載された、Al2O3を主結晶とするアルミナセラミックスの製造方法であって、少なくとも表層から深さ500μmの範囲において、Naの含有量が1000ppm以下、Siの含有量が10ppm以上2000ppm以下、かつNa/Siの値が0.1以上0.23以下になるように、不純物として含まれるTiの含有量が0.3ppm以上28ppm以下のアルミナ粉末に対して、NaとSiを含ませて原料粉を作製するステップと、前記原料粉にバインダーを添加して造粒粉を作製するステップと、前記造粒粉から成形体を作製するステップと、前記成形体を焼成し、アルミナ焼結体を得るステップと、を含むことを特徴とする。
【0015】
また、本発明にかかるアルミナセラミックスの製造方法においては、アルミナ粉末のAl2O3の純度を99%以上とすることが望ましい。
【0016】
また、本発明にかかるアルミナセラミックスの製造方法においては、アルミナ粉末に炭酸ナトリウムと二酸化ケイ素を添加することにより、Naの含有量を1000ppm以下及びSiの含有量を400ppm以上2000ppm以下とし、かつ前記Na/Siの値を0.1以上0.23以下とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高純度及び高緻密性を満たしつつ、所望の範囲の表面抵抗率を有するアルミナセラミックス、及びその製造方法、を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明にかかるアルミナセラミックスの製造方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明にかかるアルミナセラミックス及びその製造方法の実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0020】
本実施形態のアルミナセラミックスは、主結晶であるAl2O3の純度を99%以上の高純度とする。また、本実施形態のアルミナセラミックスは、上記高純度を満たしつつ、Tiのような遷移金属元素を添加することなく、3.2×10
13
Ω/□以上6.5×10
13
Ω/□以下の表面抵抗率を有する。この表面抵抗率は、例えば、JIS C2141(電気絶縁用セラミック材料試験方法)、JIS C2139(固体電気絶縁材料の誘電特性及び抵抗特性)に従って測定したものである。
【0021】
また、Tiのような遷移金属元素を添加することなくアルミナセラミックスの表面抵抗率を制御するために、本実施形態のアルミナセラミックスは、第一の焼結助剤として炭酸ナトリウム(Na2CO3)が用いられ、第二の焼結助剤として二酸化ケイ素(SiO2)が用いられる。ここで、アルミナセラミックス中のNaの含有量は1000ppm以下であることが好ましく、また、Siの含有量は10ppm以上2000ppm以下であることが好ましい。そして、NaおよびSiの一方が極端に多い場合にはアルミナセラミックスの表面抵抗率を制御することができないため、アルミナセラミックス中に含まれるNaとSiの比率(各金属含有量をppm単位で表した際のNa/Siの値)を0.1以上0.23以下とすることが好ましい。
【0022】
なお、上記NaおよびSiの含有量は、製造されるアルミナセラミックスに対し、少なくとも表層から深さ500μmの範囲において満たす必要がある。この範囲が表面抵抗率に影響を与えるからである。また、Naの含有量が1000ppmを超えると、アルミナセラミックス中にβアルミナと呼ばれるナトリウムを含むアルミナ質結晶が形成されやすくなり、βアルミナ構造が形成されるとNaのイオン伝導性により上記Siの範囲であっても表面抵抗を著しく低下させるため、好ましくない。また、Siの含有量が10ppm未満の場合は、アルミナセラミックスの焼結性を悪化させ、気孔が残留する可能性があるため、好ましくない。一方で、Siの含有量が2000ppmを超えると、粒界にアモルファス質の構造が形成されやすくなり、上記Naを用いてもアモルファス質を結晶質に変化させることは困難であるため、好ましくない。
【0023】
また、上記Na/Siの値(0.1以上0.23以下)は、上記同様、アルミナセラミックスの表層から深さ500μmの範囲において満たす必要がある。この範囲が表面抵抗率に影響を与えるからである。また、上記Na/Siの値は、例えば、各元素の含有量をICP発光分析で求めることにより得られる。また、深さ500μmの範囲以外のNa/Siの値は、0.1以上0.23以下であることが望ましい。
【0024】
例えば、Na/Siの値が0.1未満の場合は、Siの効果が大きく、アモルファス質が形成されやすくなり表面抵抗を制御できないため、好ましくない。一方で、Na/Siの値が2を超えると、Naの効果が大きくなりβアルミナが形成され、Naのイオン伝導性により表面抵抗を著しく低下させるため、好ましくない。
【0025】
このように、本実施形態においては、NaとSiを適切に混合することで、Tiに代表される遷移金属を含ませることなく表面抵抗率を制御する。
【0026】
また、本実施形態のアルミナセラミックスは、例えば、CVD装置、イオンプレーティング装置、エッチング装置、静電チャック等を含むプラズマ生成装置での使用を想定しているため、その表面特性が重要である。例えば、アルミナセラミックスの表面抵抗率は、アルミナセラミックスを構成する粒子、粒界(結晶粒の境界)、不純物の影響を受ける。具体的には、アルミナセラミックスの表面抵抗率は、アモルファス質部分と関連しており、表層から深さ500μmの範囲の組織構造や不純物(Na、Si等)により大きく影響を受ける。場合によっては表層から深さ200μmの範囲の組織構造や不純物に支配されることもある。
【0027】
特に、粒子同士の接点に生じる粒界や三重点(3つの粒界がぶつかる点)に存在する不純物は粒子に固溶している不純物に比べて移動がしやすい。また、粒界や三重点では、非化学量論的に不純物が偏析しやすく、特に、ガラス質を形成しやすいSiを10ppm以上含有する場合にはアモルファス質が形成されやすく、アルミナセラミックスの電気抵抗を下げる効果がある。
【0028】
一方で、アルカリ金属、特にNaはアモルファス質を結晶質に変化させやすい元素であり、また、アルミナセラミックス中ではNaもSiと同様に粒界や三重点に偏析をしやすい。したがって、アモルファス質を形成するかどうかは、NaとSiの比率(Na/Siの値)で決定される。
【0029】
なお、本実施形態のアルミナセラミックスにおいて規定するNa及びSiの含有量は、上述したように、表層から深さ500μmの範囲で満たされていればよいが、これに限定されるものではなく、例えば、表層から深さ500μmの範囲とその範囲以外の内部との両方で満たされることとしてもよい。
【0030】
また、本実施形態のアルミナセラミックスは、不純物として含まれるTiの含有量を100ppm以下とする。なお、このTiは、不純物として含まれているものであり、アルミナセラミックスの抵抗率を低下させるために積極的に使用されたものではない。
【0031】
このように、本実施形態のアルミナセラミックスは、Al2O3を主結晶とし、焼結助剤としてNaとSiを使用することとし、少なくとも表層から深さ500μmの範囲において、Naの含有量が1000ppm以下、Siの含有量が10ppm以上2000ppm以下、かつNa/Siの値が0.1以上0.23以下である。さらに、本実施形態のアルミナセラミックスは、Al2O3の純度が99%以上を有するとともに、表面抵抗率が3.2×10
13
Ω/□以上6.5×10
13
Ω/□以下である。すなわち、本実施形態によれば、高純度及び高緻密性を満たしつつ、所望の範囲の表面抵抗率を有するアルミナセラミックスを得ることができる。これにより、本実施形態のアルミナセラミックスは、CVD装置、イオンプレーティング装置、エッチング装置、静電チャック等を含むプラズマ生成装置に好適に用いることが可能となる。
【0032】
つづいて、本実施形態のアルミナセラミックスの製造方法を図面に従って説明する。
図1は、アルミナセラミックスの製造方法の一例を示すフローチャートである。
【0033】
まず、原料として、Al2O3の純度が99%以上で、平均粒子径が1~2μmのアルミナ粉末を用意する(ステップS1)。このアルミナ粉末は、純度の高いものであることが好ましいが、不純物として100ppm以下のTiが含まれるものであってもよい。なお、本実施形態においては、あくまでも不純物としてのTiの含有量を規定したものであり、アルミナ粉末に対して積極的にTiを添加するものではない。積極的にTiを添加することによる気孔径増大を回避するためである。
【0034】
つぎに、用意したアルミナ粉末に対し、表層(後述するアルミナ焼結体の表層)から深さ500μmの範囲において、Naの含有量が1000ppm以下、Siの含有量が10ppm以上2000ppm以下、かつNa/Siの値が0.1以上0.23以下となるように、炭酸ナトリウム(Na2CO3)と二酸化ケイ素(SiO2)を添加して原料粉を作製する(ステップS2)。また、バインダーとして、ポリビニルアルコールを原料粉に添加して造粒粉を作製する(ステップS3)。
【0035】
つぎに、上記造粒粉を成形型内に充填し、冷間静水圧プレス(CIP)成形により、80~200MPaの範囲の圧力にて成形体を作製する(ステップS4)。また、この成形体を大気雰囲気または還元雰囲気下において、最高温度が例えば1600℃となるよう焼成し、アルミナ焼結体を得る(ステップS5)。
【0036】
そして、このアルミナ焼結体を所望の形状に研削、研磨し、最終の面状態に仕上げる(ステップS6)。なお、ステップS4のCIP成形の後、脱脂処理を行い、ステップS5において、水素雰囲気下で、例えば1800℃で焼成することとしてもよい。
【0037】
以上のように、本実施形態においては、Al2O3を主結晶とするアルミナセラミックスを製造する際に、少なくともアルミナ焼結体の表層から深さ500μmの範囲において、Naの含有量が1000ppm以下、Siの含有量が10ppm以上2000ppm以下、かつNa/Siの値が0.1以上0.23以下となるように、アルミナ粉末に対してNaとSiを含ませて原料粉を作製する。その後、原料粉にバインダーを添加して造粒粉を作製し、造粒粉から成形体を作製し、そして、成形体を焼成することによりアルミナ焼結体(アルミナセラミックス)を作製した。これにより、表面抵抗率を低下させることを目的としてTiのような遷移金属元素を積極的に添加することなく、3.2×10
13
Ω/□以上6.5×10
13
Ω/□以下の表面抵抗率を有するアルミナセラミックスを得ることができる。
【実施例】
【0038】
本発明にかかるアルミナセラミックス及びその製造方法を、実施例に基づきさらに説明する。
【0039】
[実験方法]
この実験では、焼結助剤としてNaとSiを用いてアルミナセラミックスを製造し、NaとSiの含有量および比率の好ましい範囲について検証した。
【0040】
(実施例1)
実施例1では、原料として、純度が99%以上でかつ平均粒子径が1~2μmのアルミナ粉末を用いた。このアルミナ粉末に対し、表層(アルミナ焼結体の表層)から深さ500μmの範囲において、Naの含有量が90ppmとなるように炭酸ナトリウム(Na2CO3)を添加し、さらに、Siの含有量が900ppmとなるように二酸化ケイ素(SiO2)を添加した。このとき、Na/Siの値は0.1である。また、原料粉中におけるTiの含有量は28ppmであった。
【0041】
また、上記添加剤を含む原料粉に対し、バインダーとしてポリビニルアルコールを添加して造粒粉を作製した。
【0042】
つぎに、上記造粒粉を成形型内に充填し、冷間静水圧プレス(CIP)成形により、80~200MPaの範囲の圧力にて成形体を作製した。そして、この成形体を大気雰囲気下において、最高温度が1600℃となるよう焼成し、アルミナ焼結体(アルミナセラミックス)を得た。
【0043】
得られた焼結体に対しICP発光分析を行うことにより焼結体純度を求め、Na,Si,Tiの含有量を表1に示した。さらに、サンプル形状に加工後、JIS C2141(電気絶縁用セラミック材料試験方法)、JIS C2139(固体電気絶縁材料の誘電特性及び抵抗特性)に従って表面抵抗率を測定し、その測定結果を表2に示した。
【0044】
(実施例2)
実施例2では、アルミナ粉末に対し、表層から深さ500μmの範囲において、Naの含有量が360ppmとなるように炭酸ナトリウム(Na2CO3)を添加し、さらに、Siの含有量が1600ppmとなるように二酸化ケイ素(SiO2)を添加した。このとき、Na/Siの値は0.23である。また、原料粉中におけるTiの含有量は26ppmであった。その他の実施条件は実施例1と同じとした。
【0045】
(実施例3)
実施例3では、アルミナ粉末に対し、表層から深さ500μmの範囲において、Naの含有量が75ppmとなるように炭酸ナトリウム(Na2CO3)を添加し、さらに、Siの含有量が450ppmとなるように二酸化ケイ素(SiO2)を添加した。このとき、Na/Siの値は0.17である。また、原料粉中におけるTiの含有量は5ppmであった。その他の実施条件は実施例1と同じとした。
【0046】
(参考例1)
参考例1では、アルミナ粉末に対し、表層から深さ500μmの範囲において、Naの含有量が490ppmとなるように炭酸ナトリウム(Na2CO3)を添加し、さらに、Siの含有量が300ppmとなるように二酸化ケイ素(SiO2)を添加した。このとき、Na/Siの値は1.6である。また、原料粉中におけるTiの含有量は73ppmであった。その他の実施条件は実施例1と同じとした。
【0047】
(参考例2)
参考例2では、アルミナ粉末に対し、表層から深さ500μmの範囲において、Naの含有量が820ppmとなるように炭酸ナトリウム(Na2CO3)を添加し、さらに、Siの含有量が500ppmとなるように二酸化ケイ素(SiO2)を添加した。このとき、Na/Siの値は1.6である。また、原料粉中におけるTiの含有量は34ppmであった。その他の実施条件は実施例1と同じとした。
【0048】
(実施例4)
実施例4では、アルミナ粉末に対し、表層から深さ500μmの範囲において、Naの含有量が3ppmとなるように炭酸ナトリウム(Na2CO3)を添加し、さらに、Siの含有量が15ppmとなるように二酸化ケイ素(SiO2)を添加した。このとき、Na/Siの値は0.2である。また、原料粉中におけるTiの含有量は0.3ppmであった。
【0049】
また、造粒粉を成形型内に充填し、冷間静水圧プレス(CIP)成形により80~200MPaの範囲の圧力にて成形体を作製した後、脱脂処理を行い、水素雰囲気下において1800℃で焼成し、アルミナ焼結体(アルミナセラミックス)を得た。その他の実施条件は実施例1と同じとした。
【0050】
(実施例5)
実施例5では、アルミナ粉末に対し、表層から深さ500μmの範囲において、Naの含有量が20ppmとなるように炭酸ナトリウム(Na2CO3)を添加し、さらに、Siの含有量が150ppmとなるように二酸化ケイ素(SiO2)を添加した。このとき、Na/Siの値は0.13である。また、原料粉中におけるTiの含有量は13ppmであった。その他の実施条件は実施例4と同じとした。
【0051】
(比較例1)
比較例1では、アルミナ粉末に対し、表層から深さ500μmの範囲において、Naの含有量が250ppmとなるように炭酸ナトリウム(Na2CO3)を添加し、さらに、Siの含有量が2100ppmとなるように二酸化ケイ素(SiO2)を添加した。このとき、Na/Siの値は0.12である。また、原料粉中におけるTiの含有量は55ppmであった。その他の実施条件は実施例1と同じとした。
【0052】
(比較例2)
比較例2では、アルミナ粉末に対し、表層から深さ500μmの範囲において、Naの含有量が30ppmとなるように炭酸ナトリウム(Na2CO3)を添加し、Siの含有量が1800ppmとなるように二酸化ケイ素(SiO2)を添加した。このとき、Na/Siの値は0.02である。また、原料粉中におけるTiの含有量は88ppmであった。その他の実施条件は実施例4と同じとした。
【0053】
(比較例3)
比較例3では、アルミナ粉末に対し、表層から深さ500μmの範囲において、Naの含有量が5ppmとなるように炭酸ナトリウム(Na2CO3)を添加し、Siの含有量が66ppmとなるように二酸化ケイ素(SiO2)を添加した。このとき、Na/Siの値は0.08である。また、原料粉中におけるTiの含有量は8ppmであった。その他の実施条件は実施例4と同じとした。
【0054】
(評価)
実施例1~4、参考例1,2及び比較例1~3の条件を表1に示し、評価結果として得られた表面抵抗率を表2に示す。
【0055】
【0056】
【0057】
実験の結果、上記製造方法における規定の範囲(NaとSiの含有量および比率の好ましい範囲)内で製造した場合には、表面抵抗率を低下させることを目的としてTiのような遷移金属元素を積極的に添加することなく、3.2×10
13
Ω/□以上6.5×10
13
Ω/□以下の表面抵抗率を有するアルミナセラミックスが得られることを確認した。一方、上記規定の範囲外の条件で製造した場合には、所望の表面抵抗率を有するアルミナセラミックスを得ることができなかった。