(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-27
(45)【発行日】2024-12-05
(54)【発明の名称】原子力設備用クレーン装置及び原子力設備用クレーン装置における吊り荷の巻下げ速度制御方法
(51)【国際特許分類】
B66C 13/23 20060101AFI20241128BHJP
B66C 15/00 20060101ALI20241128BHJP
G21C 13/00 20060101ALI20241128BHJP
B66C 13/12 20060101ALI20241128BHJP
B66D 5/30 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
B66C13/23 B
B66C15/00 A
G21C13/00 761
B66C13/12 D
B66D5/30 C
(21)【出願番号】P 2021210231
(22)【出願日】2021-12-24
【審査請求日】2024-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】坂野 太亮
(72)【発明者】
【氏名】村岡 克英
(72)【発明者】
【氏名】岡森 弘樹
【審査官】太田 義典
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-324978(JP,A)
【文献】特開平07-069582(JP,A)
【文献】特開昭61-037696(JP,A)
【文献】実開平02-007289(JP,U)
【文献】特開2001-341977(JP,A)
【文献】特開2001-163579(JP,A)
【文献】実開昭51-073472(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2015/0130375(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 13/23
B66C 13/00-15/06
B66D 1/00- 5/34
G21C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガーダと、該ガーダの上部に設置されたトロリと、前記ガーダの内部に内蔵された常用電源用制御装置及び非常用バッテリ装置とを備え、前記ガーダに設置されているガーダ走行用車輪によりクレーン走行用レールの上を走行可能であり、
クレーンの通常運転時は、常用電気配線を介して前記常用電源用制御装置からクレーン全体に電力を供給すると共に、前記クレーンに供給される電源が喪失した電源喪失時は、非常用電気配線を介して前記非常用バッテリ装置から吊り荷の非常時吊り下げに用いられる装置に電力を供給するように構成された原子力設備の機器を吊り下げて搬送する原子力設備用クレーン装置であって、
前記トロリは、前記クレーンの通常運転時に作動するディスクブレーキと、前記クレーンの電源喪失時に自動的に前記ディスクブレーキを開放する非常用ブレーキ開放装置と、前記クレーンの電源喪失時に前記吊り荷の吊り下げ速度を調整する非常用巻下げ補助ブレーキと、を少なくとも備えていることを特徴とする原子力設備用クレーン装置。
【請求項2】
請求項1に記載の原子力設備用クレーン装置であって、
前記トロリは、非常用遠心力リミットスイッチと主巻上げドラムを更に備えており、前記非常用遠心力リミットスイッチにより前記主巻上げドラムの回転速度を測定して前記吊り荷の巻下げ速度を探知し、前記吊り荷の巻下げ速度が予め設定された速度より早い場合には、前記非常用巻下げ補助ブレーキを制動させ、前記吊り荷の巻下げ速度が設定速度まで減速されることを特徴とする原子力設備用クレーン装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の原子力設備用クレーン装置であって、
前記クレーンの電源喪失時は、前記非常用バッテリ装置によって供給された電力を用いて前記非常用ブレーキ開放装置を作動させ、前記ディスクブレーキが開放されることを特徴とする原子力設備用クレーン装置。
【請求項4】
請求項3に記載の原子力設備用クレーン装置であって、
前記常用電源用制御装置から非常用電気配線を介して前記非常用バッテリ装置へ常時充電可能な構成となっていることを特徴とする原子力設備用クレーン装置。
【請求項5】
請求項4に記載の原子力設備用クレーン装置であって、
前記クレーンの電源喪失時は、前記非常用電気配線を介して前記非常用バッテリ装置から前記トロリに設置されている照明、及び前記吊り荷の非常時吊り下げに用いられる装置に電力が供給されることを特徴とする原子力設備用クレーン装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の原子力設備用クレーン装置であって、
前記非常用バッテリ装置は、前記クレーンの通常運転時に常時充電が可能であり、かつ、前記クレーンの運転室、照明或いは非常用電動機に電力を供給することを特徴とする原子力設備用クレーン装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の原子力設備用クレーン装置であって、
前記クレーンの通常運転時は、補巻上げ用ドラム及び補巻上げ用減速機から成る補巻上げ用装置が用いられ、前記常用電源用制御装置から供給された電力を用い常用電動機を作動させ、前記ディスクブレーキと主巻上げ用ドラム及び主巻上げ用減速機を作動させることにより、前記吊り荷の巻上げ、巻下げが可能となっていることを特徴とする原子力設備用クレーン装置。
【請求項8】
請求項1に記載の原子力設備用クレーン装置であって、
前記ディスクブレーキは、常用ディスク、常用スラスター、常用ブレーキスプリング、常用ブレーキレバー、常用ブレーキシュー、常用ブレーキシューレバー及び常用主スピンドルから成り、
前記非常用ブレーキ開放装置は、非常用電動機、シャフト、平歯車及びラックから成り、
前記非常用巻下げ補助ブレーキは、非常用ディスク、非常用スラスター、非常用ブレーキスプリング、非常用ブレーキレバー、非常用ブレーキシュー、非常用ブレーキシューレバー及び非常用主スピンドルから成り、
前記原子力設備用クレーン装置の通常運転時には、前記非常用ブレーキ開放装置及び前記非常用巻下げ補助ブレーキは作動せず、かつ、前記ディスクブレーキの開放は、前記常用スラスターに電源が入れられると前記常用スラスターのロッドが上がり、前記常用ブレーキレバー26が持ち上がることで前記常用主スピンドルが押され、前記常用ブレーキシューレバーが開く方向に力が加わることにより、前記常用ブレーキシューが開き前記常用ディスクの支持が解かれ、前記常用ブレーキシューによる前記ディスクブレーキが開放されることで、前記吊り荷の巻上げ、巻下げが行われ、
一方、前記原子力設備用クレーン装置の電源喪失時には、前記ディスクブレーキの前記常用スラスターのロッドが下がることによりブレーキが制動され、そのとき、前記非常用ブレーキ開放装置の前記非常用電動機を始動させ、前記シャフトと前記平歯車を回転させることで前記ラックを引っ張ることにより、制動された前記ディスクブレーキの開放が行われることを特徴とする原子力設備用クレーン装置。
【請求項9】
請求項8に記載の原子力設備用クレーン装置であって、
前記原子力設備用クレーン装置の電源喪失時において、前記非常用巻下げ補助ブレーキの前記非常用スラスターのロッドを下げることで、前記非常用ブレーキスプリングにより前記非常用ブレーキレバーが下がり、前記非常用主スピンドルは、てこの力で引っ張られて前記非常用ブレーキシューレバーが閉じる方向に押し付けられ、前記非常用ブレーキシューで前記非常用ディスクを挟むことにより、前記ディスクブレーキを制動させて前記吊り荷の巻下げ速度を制御することを特徴とする原子力設備用クレーン装置。
【請求項10】
ガーダと、該ガーダの上部に設置されたトロリと、前記ガーダの内部に内蔵された常用電源用制御装置及び非常用バッテリ装置とを備え、前記ガーダに設置されているガーダ走行用車輪によりクレーン走行用レールの上を走行可能であり、
クレーンの通常運転時は、常用電気配線を介して前記常用電源用制御装置からクレーン全体に電力を供給すると共に、前記クレーンに供給される電源が喪失した電源喪失時は、非常用電気配線を介して前記非常用バッテリ装置から吊り荷の非常時吊り下げに用いられる装置に電力を供給するように構成された原子力設備の機器を吊り下げて搬送する原子力設備用クレーン装置における吊り荷の巻下げ速度を制御するに当たって、
前記トロリは、前記クレーンの通常運転時に作動するディスクブレーキと、前記クレーンの電源喪失時に自動的に前記ディスクブレーキを開放する非常用ブレーキ開放装置と、前記クレーンの電源喪失時に前記吊り荷の吊り下げ速度を調整する非常用巻下げ補助ブレーキと、非常用遠心力リミットスイッチ及び主巻上げドラムと、を備えており、
前記非常用遠心力リミットスイッチにより前記主巻上げドラムの回転速度を測定して前記吊り荷の巻下げ速度を探知し、前記吊り荷の巻下げ速度が予め設定された速度より早い場合には、前記非常用巻下げ補助ブレーキを制動させ、前記吊り荷の巻下げ速度が設定速度まで減速されることを特徴とする原子力設備用クレーン装置における吊り荷の巻下げ速度制御方法。
【請求項11】
請求項10に記載の原子力設備用クレーン装置における吊り荷の巻下げ速度制御方法であって、
前記非常用巻下げ補助ブレーキは、非常用ディスク、非常用スラスター、非常用ブレーキスプリング、非常用ブレーキレバー、非常用ブレーキシュー、非常用ブレーキシューレバー及び非常用主スピンドルから成り、
前記原子力設備用クレーン装置の電源喪失時においては、前記非常用巻下げ補助ブレーキの前記非常用スラスターのロッドを下げることで、前記非常用ブレーキスプリングにより前記非常用ブレーキレバーが下がり、前記非常用主スピンドルは、てこの力で引っ張られて前記非常用ブレーキシューレバーが閉じる方向に押し付けられ、前記非常用ブレーキシューで前記非常用ディスクを挟むことにより、前記ディスクブレーキを制動させて前記吊り荷の巻下げ速度を制御することを特徴とする原子力設備用クレーン装置における吊り荷の巻下げ速度制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は原子力設備用クレーン装置及び原子力設備用クレーン装置における吊り荷の巻下げ速度制御方法に係り、特に、原子力設備の使用済燃料貯蔵容器や新燃料等の吊り荷の巻下げを行うクレーンに供給される電源が喪失した際にも対応可能な原子力設備用クレーン装置及び原子力設備用クレーン装置における吊り荷の巻下げ速度制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力設備で使用されるクレーンにおいては、何らかの要因によりクレーンに供給される電源が喪失した時に、使用済燃料貯蔵容器や新燃料等の吊り荷を吊った状態で停止する恐れがあり、使用済燃料貯蔵容器や新燃料等の吊り荷を吊った状態で停止することにより、使用済燃料貯蔵容器や新燃料等の吊り荷の荷ぶれが生じる可能性がある。このことは、原子力設備においては、安全上好ましくない。
【0003】
そこで、原子力設備で使用されるクレーンでは、供給される電源が喪失した時には、人力によりクレーンのブレーキを開放し、使用済燃料貯蔵容器や新燃料等の吊り荷を吊った状態で停止することを防止することが行われる。
【0004】
しかし、上記した人力によるクレーンのブレーキ開放手段は、多大な時間を要するため、非常時におけるクレーンのブレーキ開放の手段として効率的ではない。従って、人力以外の手段による使用済燃料貯蔵容器や新燃料等の吊り荷の迅速な巻下げを可能とする必要がある。
【0005】
一方で、クレーンのブレーキ開放の際には、安全な速度で使用済燃料貯蔵容器や新燃料等の吊り荷の巻下げを行えるよう対策を取る必要がある。
【0006】
なお、原子力発電所において、炉心燃料の装荷や取出し等を行うための燃料取扱装置が特許文献1に記載されている。
【0007】
この特許文献1には、クレーンを用いて炉心燃料の装荷や取出し等を行うものではないが、燃料取扱装置周辺での作業性に大きく影響することなくケーブル類を削減することが可能な燃料取扱装置を得るために、床に設けられた走行レールと、前記走行レール上を走行するブリッジと、前記ブリッジ上に一対に設けられた第一のレール及び第二のレールを有する横行レールと、前記横行レール上を走行するトロリと、を備える燃料取扱装置であって、
前記第一のレール又は第二のレールに沿って移動可能に設けられ、前記トロリと着脱可能な第一のバッテリと、前記ブリッジに設けられ、前記第一のバッテリを充電する第一の充電装置と、前記第一のレール又は第二のレールに沿って移動可能に設けられ、前記トロリと着脱可能な第二のバッテリと、前記ブリッジに設けられ、前記第二のバッテリを充電する第二の充電装置と、を備え、
前記第二のバッテリは、前記第一のレールと第二のレールのうち前記第一のバッテリが設けられていないレール上に、又は前記第一のバッテリと同一のレール上、かつ、前記ブリッジを挟んで前記第一のバッテリと反対側に設けられた燃料取扱装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述した原子力設備で使用されるクレーンに供給される電源が喪失した時に行われる、人力によるクレーンのブレーキの開放においては、減速機が起動しないため、吊り荷対象物(例えば、使用済燃料貯蔵容器や新燃料等)の重量により、吊り荷の巻下げ速度を制御できない恐れがある。
【0010】
従って、従来技術では、クレーンが原子力設備の使用済燃料貯蔵容器や新燃料等の吊り荷を吊った状態で電源を喪失した際、迅速、かつ、安全に吊り荷の巻下げを行うことが困難であったし、上述した特許文献1には、上記した課題に対する解決策は何も記載されていない。
【0011】
本発明は上述の点に鑑みみなされたもので、その第1の目的とするところは、原子力設備の使用済燃料貯蔵容器や新燃料等の吊り荷を、クレーンを用いて巻下げを行う際に、クレーンに供給する電源が喪失したとしても、迅速、かつ、安全な吊り荷の巻下げを行うことができる原子力設備用クレーン装置を提供することにある。
【0012】
また、本発明の第2の目的とするところは、吊り荷の巻下げ速度が制御可能な原子力設備用クレーン装置における吊り荷の巻下げ速度制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の原子力設備用クレーン装置は、上記した第1の目的を達成するために、ガーダと、該ガーダの上部に設置されたトロリと、前記ガーダの内部に内蔵された常用電源用制御装置及び非常用バッテリ装置とを備え、前記ガーダに設置されているガーダ走行用車輪によりクレーン走行用レールの上を走行可能であり、
クレーンの通常運転時は、常用電気配線を介して前記常用電源用制御装置からクレーン全体に電力を供給すると共に、前記クレーンに供給される電源が喪失した電源喪失時は、非常用電気配線を介して前記非常用バッテリ装置から吊り荷の非常時吊り下げに用いられる装置に電力を供給するように構成された原子力設備の機器を吊り下げて搬送する原子力設備用クレーン装置であって、
前記トロリは、前記クレーンの通常運転時に作動するディスクブレーキと、前記クレーンの電源喪失時に自動的に前記ディスクブレーキを開放する非常用ブレーキ開放装置と、前記クレーンの電源喪失時に前記吊り荷の吊り下げ速度を調整する非常用巻下げ補助ブレーキと、を少なくとも備えていることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の原子力設備用クレーン装置における吊り荷の巻下げ速度制御方法は、上記した第2の目的を達成するために、ガーダと、該ガーダの上部に設置されたトロリと、前記ガーダの内部に内蔵された常用電源用制御装置及び非常用バッテリ装置とを備え、前記ガーダに設置されているガーダ走行用車輪によりクレーン走行用レールの上を走行可能であり、
クレーンの通常運転時は、常用電気配線を介して前記常用電源用制御装置からクレーン全体に電力を供給すると共に、前記クレーンに供給される電源が喪失した電源喪失時は、非常用電気配線を介して前記非常用バッテリ装置から吊り荷の非常時吊り下げに用いられる装置に電力を供給するように構成された原子力設備の機器を吊り下げて搬送する原子力設備用クレーン装置における吊り荷の巻下げ速度を制御するに当たって、
前記トロリは、前記クレーンの通常運転時に作動するディスクブレーキと、前記クレーンの電源喪失時に自動的に前記ディスクブレーキを開放する非常用ブレーキ開放装置と、前記クレーンの電源喪失時に前記吊り荷の吊り下げ速度を調整する非常用巻下げ補助ブレーキと、非常用遠心力リミットスイッチ及び主巻上げドラムと、を備えており、
前記非常用遠心力リミットスイッチにより前記主巻上げドラムの回転速度を測定して吊り荷の巻下げ速度を探知し、前記吊り荷の巻下げ速度が予め設定された速度より早い場合には、前記非常時巻下げ補助ブレーキを制動させ、前記吊り荷の巻下げ速度が設定速度まで減速されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、原子力設備の使用済燃料貯蔵容器や新燃料等の吊り荷を、クレーンを用いて巻下げを行う際に、クレーンに供給する電源が喪失したとしても、迅速、かつ、安全な吊り荷の巻下げを行うことができるし、吊り荷の巻下げ速度が制御可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の原子力設備用クレーン装置の実施例1を示す概略構成図である。
【
図2】本発明の原子力設備用クレーン装置の実施例1におけるトロリの概略構成を示す平面図である。
【
図3】本発明の原子力設備用クレーン装置の実施例1におけるディスクブレーキ、非常用ブレーキ開放装置及び非常用巻下げ補助ブレーキの概略構成を示し、ブレーキ制動時の状態を示す図である。
【
図4】本発明の原子力設備用クレーン装置の実施例1におけるディスクブレーキ、非常用ブレーキ開放装置及び非常用巻下げ補助ブレーキの概略構成を示し、ブレーキ開放時の状態を示す図である。
【
図5】本発明の原子力設備用クレーン装置の実施例1における非常用ブレーキ開放装置の一部の詳細構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図示した実施例に基づいて本発明の原子力設備用クレーン装置及び原子力設備用クレーン装置における吊り荷の巻下げ速度制御方法を説明する。なお、各図において、同一構成部品には同符号を使用する。
【実施例1】
【0018】
図1に、本発明の原子力設備用クレーン装置100の実施例1を示す。
該図に示す本実施例の原子力設備用クレーン装置100は、ガーダ1の上部にトロリ2が設置された構造となっており、ガーダ1下部の内部には照明3が設置されている。また、ガーダ1の内部には、常用電源用制御装置4と非常用バッテリ装置5が内蔵されており、この非常用バッテリ装置5は、原子力設備用クレーン装置100の通常運転時に常時充電が可能であり、クレーンの運転室、照明3、後述する非常用電動機30に電力を供給することができる。なお、トロリ2には、補巻上げ装置6と主巻上げ装置7及びトロリ横行用車輪8が設置されている。
【0019】
また、ガーダ1に設置されているガーダ走行用車輪9により、原子力設備用クレーン装置100は、クレーン走行用レール10の上を走行可能な構造となっている。
【0020】
原子力設備用クレーン装置100の通常運転時は、常用電気配線11を介して常用電源用制御装置4からクレーン全体に電力を供給し、更に、非常用電気配線12を介して常用電源用制御装置4から非常用バッテリ装置5へ常時充電可能な構成となっている。
【0021】
また、原子力設備用クレーン装置100に供給される電源が喪失した電源喪失時においては、非常用電気配線12を介して非常用バッテリ装置5から照明3及び吊り荷の非常時吊り下げに用いられる装置に電力を供給することが可能となっている。
【0022】
図2に示すトロリ2は、補巻上げ用ドラム13と補巻上げ用減速機14及び非常用ブレーキ開放装置15が設置されており、更に、常用電動機16、ディスクブレーキ17、主巻上げ用ドラム18、主巻上げ用減速機19、非常用遠心力リミットスイッチ20及び非常用巻下げ補助ブレーキ21が、トロリ2に設置されている。
【0023】
そして、本実施例のトロリ2は、トロリ横行用車輪8によりトロリ横行用レール22の上を横行可能な構造となっている。
【0024】
原子力設備用クレーン装置100の通常運転時は、キャスク等を運搬する際に用いられるツール類等の吊り荷の運搬を目的として、補巻上げ装置6(補巻上げ用ドラム13及び補巻上げ用減速機14から成る)が用いられ、常用電源用制御装置4から供給された電力を用い常用電動機16を作動させ、ディスクブレーキ17と主巻上げ用ドラム18及び主巻上げ用減速機19を作動させることにより、使用済燃料貯蔵容器や新燃料等の吊り荷の巻上げ、巻下げが可能となっている。
【0025】
また、原子力設備用クレーン装置100の電源喪失時は、非常用バッテリ装置5によって供給された電力を用い、非常用ブレーキ開放装置15を作動させることにより、制動したディスクブレーキ17の開放が可能になっている。
【0026】
更に、ガーダ1の内部に搭載されている常用電源用制御装置4、主巻上げ用ドラム18の側面には非常用遠心力リミットスイッチ20が設置されており、この非常用遠心力リミットスイッチ20を用いることにより、主巻上げ用ドラム18の回転速度を測定し、吊り荷の巻下速度を探知することができる。
【0027】
そして、探知した吊り荷の巻下げ速度が予め設定された速度より早い場合には、非常用巻下げ補助ブレーキ21を制動させ、吊り荷の巻下げ速度を設定速度まで減速させることにより、設定速度以下での吊り荷の巻下げが可能になっている。
【0028】
図3及び
図4に、
図2に示したディスクブレーキ17、非常用ブレーキ開放装置15及び非常用巻下げ補助ブレーキ21の概略構成を示し、
図5に、非常用ブレーキ開放装置15の一部の詳細構成を示す。
【0029】
図3及び
図4に示すように、ディスクブレーキ17は、常用ディスク23、常用スラスター24、常用ブレーキスプリング25、常用ブレーキレバー26、常用ブレーキシュー27、常用ブレーキシューレバー28及び常用主スピンドル29で構成されている。
【0030】
また、非常用ブレーキ開放装置15は、非常用電動機30、シャフト31、平歯車32及びラック33で構成されている。
【0031】
更に、非常用巻下げ補助ブレーキ21は、非常用ディスク34、非常用スラスター35、非常用ブレーキスプリング36、非常用ブレーキレバー37、非常用ブレーキシュー38、非常用ブレーキシューレバー39及び非常用主スピンドル40で構成されている。
原子力設備用クレーン装置100の通常運転時には、非常用ブレーキ開放装置15及び非常用巻下げ補助ブレーキ21は作動せず、原子力設備用クレーン装置100の運転に影響を与えないようになっている。
【0032】
また、ディスクブレーキ17の開放は、常用スラスター24に電源が入れられると、常用スラスター24のロッドが上がり、常用ブレーキレバー26を持ち上げる。そして、常用主スピンドル29が押され、常用ブレーキシューレバー28が開く方向(
図3の左右方向)に力が加わることにより、常用ブレーキシュー27が開き常用ディスク23の支持が解かれ(
図3から
図4の状態)、常用ブレーキシュー27によるディスクブレーキ17が開放されることで、吊り荷の巻上げ、巻下げが可能となっている。
【0033】
一方、原子力設備用クレーン装置100の電源喪失時には、ディスクブレーキ17の常用スラスター24のロッドが下がることにより、ブレーキが制動される。そのとき、非常用ブレーキ開放装置15の非常用電動機30を始動させ、シャフト31と平歯車32を回転させることでラック33を引張り(
図5参照)、常用スラスター24のロッド上昇の代わりを担うことにより、制動されたディスクブレーキ17の開放が可能となっている。
【0034】
また、原子力設備用クレーン装置100の電源喪失時において、吊り荷の巻下げ速度を制御する際には、非常用巻下げ補助ブレーキ21の非常用スラスター35のロッドを下げることで、非常用ブレーキスプリング36により非常用ブレーキレバー37は下がる。その結果、非常用主スピンドル40は、てこの力で引っ張られるので、非常用ブレーキシューレバー39が閉じる方向(
図3の左右方向)に押し付けられ、非常用ブレーキシュー38で非常用ディスク34を挟むことにより、ディスクブレーキ17を制動させて吊り荷の巻下げ速度が制御可能となる。
【0035】
このような本実施例によれば、原子力設備の使用済燃料貯蔵容器や新燃料等の吊り荷を、上述した本実施例の原子力設備用クレーン装置100を用いて巻下げを行う際に、原子力設備用クレーン装置100に供給する電源が喪失したとしても、迅速、かつ、安全な吊り荷の巻下げを行うことができるし、吊り荷の巻下げ速度が制御可能となる。
【0036】
なお、本発明は上述した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上述した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明したすべての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換える事が可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加える事も可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をする事が可能である。
【符号の説明】
【0037】
1…ガーダ、2…トロリ、3…照明、4…常用電源用制御装置、5…非常用バッテリ装置、6…補巻上げ装置、7…主巻上げ装置、8…トロリ横行用車輪、9…ガーダ走行用車輪、10…クレーン走行用レール、11…常用電気配線、12…非常用電気配線、13…補巻上げ用ドラム、14…補巻上げ用減速機、15…非常用ブレーキ開放装置、16…常用電動機、17…ディスクブレーキ、18…主巻上げ用ドラム、19…主巻上げ用減速機、20…非常用遠心力リミットスイッチ、21…非常用巻下げ補助ブレーキ、22…トロリ横行用レール、23…常用ディスク、24…常用スラスター、25…常用ブレーキスプリング、26…常用ブレーキレバー、27…常用ブレーキシュー、28…常用ブレーキシューレバー、29…常用主スピンドル、30…非常用電動機、31…シャフト、32…平歯車、33…ラック、34…非常用ディスク、35…非常用スラスター、36…非常用ブレーキスプリング、37…非常用ブレーキレバー、38…非常用ブレーキシュー、39…非常用ブレーキシューレバー、40…非常用主スピンドル、100…原子力設備用クレーン装置。