(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-27
(45)【発行日】2024-12-05
(54)【発明の名称】ポリマー水分散液の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 65/08 20060101AFI20241128BHJP
B01D 61/14 20060101ALI20241128BHJP
C02F 1/44 20230101ALI20241128BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20241128BHJP
B01D 69/04 20060101ALI20241128BHJP
B01D 71/02 20060101ALI20241128BHJP
C08J 3/03 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
B01D65/08
B01D61/14 500
C02F1/44 Z
B01D69/02
B01D69/04
B01D71/02
C08J3/03 CFD
(21)【出願番号】P 2021554260
(86)(22)【出願日】2020-10-08
(86)【国際出願番号】 JP2020038175
(87)【国際公開番号】W WO2021079750
(87)【国際公開日】2021-04-29
【審査請求日】2023-08-22
(31)【優先権主張番号】P 2019194377
(32)【優先日】2019-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】迫 郁弥
(72)【発明者】
【氏名】山村 寛
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-103119(JP,A)
【文献】特開2006-231181(JP,A)
【文献】国際公開第2010/067541(WO,A1)
【文献】特開2017-094259(JP,A)
【文献】特開2019-053016(JP,A)
【文献】特表2017-538112(JP,A)
【文献】特開2016-159240(JP,A)
【文献】国際公開第2020/100598(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00-71/82
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー及び水を含むポリマー水分散液をろ過膜を用いてろ過することで、濃縮されたポリマー水分散液と、ポリマーを含まないろ過液を得る膜ろ過工程を含み、
前記ポリマーは、ポリヒドロキシアルカノエートであり、
前記ろ過膜は、多孔質セラミックスで構成されており、
前記ろ過膜は内表面に開孔を有し、開孔の全体数を100%とした場合、孔径が前記ポリマーの最小粒子径より小さい開孔が50%以上存在しており、表面開孔径分布の分散が0.2以下であり、
膜ろ過工程において、下記数式(1)で表される初期SUVA比が0.8以上1.2以下であり、かつ、下記数式(1)で表される初期SUVA比と下記数式(2)で表される二次SUVA比の差の絶対値が0.2以下である、ポリマー水分散液の製造方法。
【数1】
【請求項2】
前記
ポリヒドロキシアルカノエートは、3-ヒドロキシブチレート(3HB)と他の3-ヒドロキシアルカン酸との共重合体である、請求項1に記載のポリマー水分散液の製造方法。
【請求項3】
前
記多孔質セラミックスは、アルミナ、ムライト、ジルコニア、及びコージライトからなる群から選ばれる1種以上である、請求項1又は2に記載のポリマー水分散液の製造方法。
【請求項4】
膜ろ過工程でろ過される前のポリマー水分散液の固形分の濃度は10重量%以上35重量%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリマー水分散液の製造方法。
【請求項5】
膜ろ過工程でろ過された後の濃縮されたポリマー水分散液の固形分の濃度は35重量%以上60重量%以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載のポリマー水分散液の製造方法。
【請求項6】
膜ろ過工程でろ過するポリマー水分散液は、ポリヒドロキシアルカノエートを含有する微生物の破砕物由来のポリヒドロキシアルカノエートの懸濁液である、請求項1~5のいずれか1項に記載のポリマー水分散液の製造方法。
【請求項7】
前記ろ過膜は、管状膜である、請求項1~6のいずれか1項に記載のポリマー水分散液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜ろ過による濃縮工程を有するポリマー水分散液の製造方法に関する。さらに詳しくは、ファウリング(膜閉塞)が低減された膜ろ過による濃縮工程を有するポリマー水分散液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、膜ろ過によって固液分離が行われていた。例えば、特許文献1には、外表面開口率が20%以上であり、かつ最小孔径層孔径が0.03μm以上1μm以下である多孔性中空糸膜で、懸濁水を外圧ろ過することで、懸濁水を除濁することが記載されている。また、特許文献2には、固液分離用の分離膜の内側に流路径が1.5mm以下の流路を形成し、被処理流体の分離処理を行う際、被処理流体を前記流路内に膜面線速が6m/s以上の条件で流通させることで、被処理流体を分離処理することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開2001/053213号
【文献】特開2017-94310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の膜ろ過方法は、ろ過膜内部に懸濁物が進入し、ろ過膜内部でファウリングが発生する、または懸濁液に溶解している成分がろ過膜内部に吸着することによりろ過膜内部でファウリングが発生するという問題があった。また、特許文献2に記載の分離処理方法は、被処理流体に溶解している成分がろ過膜内部に吸着することによりろ過膜内部でファウリングが発生するという問題があった。
【0005】
本発明は、上記の問題を解決するため、ろ過膜内表面及びろ過膜内部におけるファウリングが抑制された膜ろ過によってポリマー水分散液を製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、1以上の実施形態において、ポリマー及び水を含むポリマー水分散液をろ過膜を用いてろ過することで、濃縮されたポリマー水分散液と、ポリマーを含まないろ過液を得る膜ろ過工程を含み、前記ろ過膜は内表面に開孔を有し、開孔の全体数を100%とした場合、孔径が前記ポリマーの最小粒子径より小さい開孔が50%以上存在しており、表面開孔径分布の分散が0.2以下であり、膜ろ過工程において、下記数式(1)で表される初期SUVA比が0.8以上1.2以下であり、かつ、下記数式(1)で表される初期SUVA比と下記数式(2)で表される二次SUVA比の差の絶対値が0.2以下である、ポリマー水分散液の製造方法に関する。
【数1】
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ポリマー分散液の製造方法に用いるろ過膜において、ろ過膜内表面及びろ過膜内部のファウリングを低減することにより、膜の長寿命化を達成でき、ポリマー分散液の生産性を高めることができる。また、ファウリングを低減することで、ろ過膜を洗浄する薬剤の使用頻度の低下が可能となり、薬剤による膜劣化を防ぐことができるため、膜の長寿命化を達成でき、ひいては、ポリマー分散液の生産性を高めることができる。また、ろ過膜を洗浄する薬剤の使用頻度の低下が可能となり、薬剤使用コストの低減を達成でき、ひいては、ポリマー分散液の生産性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施例1及び比較例1において測定したPHBH水分散液の固形分濃度と、初期の透過流束(J0)に対する各固形分濃度における透過流束(J)の比率を示すグラフである。
【
図2】
図2は、実施例1及び比較例1において測定したPHBH水分散液の膜面積あたりの透過流量と、SUVA比の差分(初期SUVA比と所定の膜面積あたりの透過流量におけるSUVA比の差の絶対値)を示すグラフである。
【
図3】
図3は、実施例1及び比較例1において測定したPHBH水分散液の固形分濃度と、SUVA比の差分(初期SUVA比と各固形分濃度におけるSUVA比の差の絶対値)を示すグラフである。
【
図4】
図4Aは、実施例1で用いたろ過膜のポリマー分散液の濃縮を行った後の膜断面のSEM写真であり、
図4Bは、比較例1で用いたろ過膜のポリマー分散液の濃縮を行った後の膜断面のSEM写真である。
【
図5】
図5Aは、実施例1で用いたろ過膜のポリマー分散液の濃縮を行う前の膜断面のSEM写真であり、
図5Bは、比較例1で用いたろ過膜のポリマー分散液の濃縮を行う前の膜断面のSEM写真である。
【
図6】
図6は、実施例2及び比較例2において測定した膜面積あたりの総透過流量と、初期の透過流束(J0)に対する所定の透過流量における透過流束(J)の比率を示すグラフである。
【
図7】
図7は、実施例1及び比較例1においてPHBH水分散液の濃縮に使用したろ過装置の概略図である。
【
図8】
図8は実施例2及び比較例2においてPHBH水分散液の循環に使用したろ過装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の発明者らは、ポリマー分散液の製造時の固液分離に用いるろ過膜において、ろ過膜内表面及びろ過膜内部におけるファウリングを抑制することについて鋭意検討した。その結果、ろ過膜の内表面に存在する開孔の全体数を100%とした場合、孔径がポリマーの最小粒子径より小さい開孔が50%以上であり、かつ表面開孔径分布の分散が0.2以下であるろ過膜を用いるとともに、膜ろ過工程において、初期SUVA比(後述する数式(1)で表される)を0.8以上1.2以下とし、かつ、初期SUVA比と二次SUVA比(後述する数式(2)で表される)の差の絶対値を0.2以下にすることで、ろ過膜内表面及び/又はろ過膜内部におけるファウリングを効果的に低減し得ることを見出した。本発明の1以上の態様において、ろ過膜の「内表面」は、ポリマー分散液と接するろ過面のことを意味する。
【0010】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明は以下の態様に限定されるものではない。
【0011】
本発明の1以上の態様において、ポリマー水分散液の製造方法は、ポリマー水分散液を濃縮する下記の工程(a)を必須の工程として含む。工程(a)は、ポリマー水分散液をろ過膜でろ過して、濃縮されたポリマー水分散液と、ポリマーを含まないろ過液を得る膜ろ過工程である。
【0012】
工程(a)において、ポリマー水分散液をろ過膜内部に送液することで、ポリマー水分散液をろ過膜でろ過する。ろ過の方式としては、特に限定されず、クロスフロー方式(被ろ過液とろ過液との流れの方向が直交する方式)、デッドエンド方式(被ろ過液とろ過液との流れの方向が同じ方式)等が挙げられる。その中でも、ポリマー粒子によるろ過膜表面のファウリングを抑制する観点から、クロスフロー方式が好ましい。
【0013】
本発明の1以上の態様において、ポリマー水分散液は、水及びポリマーを含む。具体的には、水中にポリマー粒子が分散した水分散液である。ポリマーは、特に限定されないが、特に、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、ポリ塩化ビニル等を好適に用いることができる。
【0014】
本発明の1以上の態様において、PHAとは、3-ヒドロキシアルカン酸をモノマーユニットとする重合体の総称である。前記3-ヒドロキシアルカン酸としては特に限定されないが、例えば、3-ヒドロキシプロピオネート、3-ヒドロキシブチレート、3-ヒドロキシバレレート、3-ヒドロキシヘキサノエート、3-ヒドロキシヘプタノエート及び3-ヒドロキシオクタノエート等が挙げられる。前記PHAは、1種の3-ヒドロキシアルカン酸をモノマーユニットとする単独重合体であってもよく、2種以上の3-ヒドロキシアルカン酸をモノマーユニットとする共重合体であってもよい。具体的には、3-ヒドロキシブチレート(3HB)と他の3-ヒドロキシアルカン酸との共重合体、少なくとも3-ヒドロキシヘキサノエート(3HH)をモノマーユニットとして含む3-ヒドロキシアルカン酸の共重合体などが挙げられる。中でも、モノマーユニットとして3HHを含む共重合体、例えば、3HB及び3HHの2成分共重合体(PHBH)(Macromolecules,28,4822-4828(1995))、3HB、3-ヒドロキシバレレート(3HV)及び3HHの3成分共重合体(PHBVH)(特許第2777757号公報、特開平08-289797号公報)等が、物性の面から好ましい。前記3HB及び3HHの2成分共重合体PHBHを構成する各モノマーユニットの組成比については特に限定されるものではないが、全モノマーユニットの合計を100モル%とした時に、3HHユニットが1モル%以上99モル%以下であることが好ましく、より好ましくは1モル%以上50モル%以下であり、さらに好ましくは1モル%以上25モル%以下である。また、3HB、3HV及び3HHの3成分共重合体PHBVHを構成する各モノマーユニットの組成比については特に限定されるものではないが、全モノマーユニットの合計を100モル%とした時に、例えば、3HBユニットが1モル%以上95モル%以下、3HVユニットが1モル%以上96モル%以下、3HHユニットが1モル%以上30モル%以下といった範囲が好適である。
【0015】
前記ポリマー水分散液は、1種のポリマーを含んでも良く、2種以上のポリマーを含んでも良い。
【0016】
工程(a)における濃縮対象としてのポリマー水分散液は、水及びポリマー(粒子)に加えて、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、水以外の溶媒、分散剤、界面活性剤、防腐剤等が挙げられる。その他の成分の含有量は目的等に応じて適宜選択可能である。
【0017】
工程(a)における濃縮対象としてのポリマー水分散液は、PHAを含有する微生物の破砕物由来のPHA懸濁液であってもよい。PHA懸濁液は、例えば、国際公開第2010/116681号に記載のとおりに得ることができる。
【0018】
工程(a)、すなわち、膜ろ過工程でろ過される前のポリマー水分散液のポリマー(固形分)の濃度は、特に限定されないが、例えば、5重量%(w/v%)以上40重量%以下であってもよく、10重量%以上35重量%以下であってもよい。工程(a)により、ポリマー水分散液を効果的に濃縮することができる。
【0019】
工程(a)、すなわち、膜ろ過工程でろ過された後の濃縮されたポリマー水分散液のポリマー(固形分)の濃度は、特に限定されないが、例えば、30重量%(w/v%)以上65重量%以下であってもよく、35重量%以上60重量%以下であってもよい。濃縮されたポリマー水分散液から水を除去しやすくなる。
【0020】
本発明の1以上の態様において、ろ過膜は、内表面に存在する開孔の全体数を100%とした場合、孔径がポリマーの最小粒子径より小さい開孔が50%以上であり、かつ表面開孔径分布の分散が0.2以下である(以下において、表面開孔径要件とも記す。)。これにより、ろ過膜表面からろ過膜内部にポリマー粒子が進入することを効果的に阻止し、ろ過膜内部の細孔が閉鎖されることを抑制することができる。好ましくは、ろ過膜は、内表面に存在する開孔の全体数を100%とした場合、孔径がポリマーの最小粒子径より小さい開孔が55%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、65%以上であることがさらに好ましい。また、特に限定されないが、例えば、ろ過膜表面の及び内部のファウリングの抑制効果をより高める観点から、ろ過膜は、内表面に存在する開孔の全体数を100%とした場合、孔径がポリマーの最小粒子径より小さい開孔が100%であることが理想的であるが、85%以下であってもよい。具体的には、上記いずれの下限値及び上限値の範囲内であってもよい。また、ろ過膜は、表面開孔径分布の分散が0.15以下であることが好ましく、0.10以下であることがより好ましく、0.05以下であることがさらに好ましい。また、ろ過膜は、ろ過膜表面の及び内部のファウリングの抑制効果をより高める観点から、表面開孔径分布の分散が0であることが理想的であるが、0.02以上であってもよい。具体的には、上記いずれの下限値及び上限値の範囲内であってもよい。
【0021】
本発明の1以上の態様において、ポリマーの最小粒子径は、工程(a)で濃縮する前のポリマー水分散液を試料とし、レーザー回折散乱法で測定される体積基準の粒度分布曲線における最小粒子径Dminを意味する。本発明の1以上の態様において、前記粒度分布曲線は、例えば、マイクロトラック・ベル社製のレーザー回折散乱式粒子径分布測定装置「マイクロトラックMT3300EX II」を使用して測定することができる。なお、工程(a)による濃縮が1回も行われていないポリマー水分散液が測定試料となる。
【0022】
本発明の1以上の態様において、ろ過膜の表面開孔径は、例えば、下記のように測定することができる。
(1)ろ過膜の内表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、画像をコンピューターで取り込む。走査型電子顕微鏡としては、特に限定されないが、例えば、日本電子社製の「JSM-7001FA」を用い、3500倍で観察することができる。なお、孔の大きさにより、顕微鏡の種類及び倍率を適宜変更してもよい。
(2)得られた画像から任意に選んだ5μm×5μmの範囲に存在する全ての孔について、画像処理ソフト(ImageJ、開発元:アメリカ国立衛生研究所)にて解析を行う。具体的には、まず、SEM画像を二値化処理し、空孔部が黒、構造部分が白となった画像を得る。なお、解析画像内のコントラストの差によって、空孔部と構造部分をきれいに二値化できない場合は、空孔部を黒く塗りつぶしてから画像処理を行い、得られた解析範囲内の孔のフェレー径を得る。この際、ノイズをカットするために面積が0.0001μm2以下の孔をデータから除外する。
なお、ろ過膜が管状膜の場合は、管状膜を半筒状に切断し、内表面が露出している状態で、ろ過膜の内表面を走査型電子顕微鏡で観察する。また、ろ過膜が平膜の場合は孔径の小さい側の表面を走査型電子顕微鏡で観察する。
【0023】
本発明の1以上の態様において、ろ過膜は、膜ろ過工程において、初期SUVA比(後述する数式(1)で表される)が0.8以上1.2以下であり、かつ、初期SUVA比と二次SUVA比(後述する数式(2)で表される)の差の絶対値が0.2以下であるという要件(以下において、SUVA比要件とも記す。)を満たす。
【0024】
【0025】
前記初期SUVA比が0.8以上1.2以下である、すなわち、初期SUVA比が1に近似し、かつ、前記初期SUVA比と前記二次SUVA比の差の絶対値が0.2以下である、すなわち、二次SUVA比が初期SUVA比に近似するということは、濃縮されたポリマー分散液と、ろ過液の水質が同じであることを意味する。言い換えると、濃縮されたポリマー分散液とろ過液に含まれる有機夾雑物が同等のレーベルであることを意味する。濃縮されたポリマー分散液とろ過液に含まれる有機夾雑物が同等のレーベルであると、ろ過膜内表面や細孔における有機夾雑物の吸着が少なくなる。
【0026】
本発明の1以上の態様において、「DOC」は、例えば、島津製作所社製の全有機炭素計(TOC-L)を用いて測定する。また、「UV」は、例えば、日立ハイテクサイエンス社製の分光光度計(U-3900)を用いて測定する。
【0027】
本発明の1以上の態様において、ろ過膜は上述した表面開孔径要件の要件を満たせばよく、その材質は特に限定されない。有機材料でもよく、無機材料でもよい。有機材料としては、例えば、ポリプロピレン、フッ素系樹脂、セルロースエステル、ポリスルホン系樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリイミド等の樹脂が挙げられる。フッ素系樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体、エチレン・四フッ化エチレン共重合体等が挙げられる。セルロースエステルとしては、例えば、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート等が挙げられる。ポリスルホン系樹脂としては、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン等が挙げられる。無機材料としては、例えば、アルミナ、ムライト、ジルコニア、コージライト等の多孔質セラミックス、ステンレス鋼等の多孔質焼結金属からなる多孔質体等が挙げられる。中でも、表面細孔の真円度が高く、上述したSUVA比要件を満たしやすい観点から、無機材料が好ましい。また、ろ過膜は、形状も特に限定されず、管状膜、平膜、中空糸膜等のいずれでもよい。中でも、ポリマーによる流路閉塞が起こりにくい観点、及び上述したSUVA比要件を満たしやすい観点から、管状膜が好ましい。
【0028】
本発明の1の態様において、ポリマー水分散液は、
図7に示すろ過装置で製造することができる。
図7に示されているように、タンク3中で撹拌機4で撹拌され、ポンプ2を介してろ過膜1に供給されるポリマー水分散液aは、ろ過膜1でろ過されることで、濃縮されたポリマー水分散液bと、ポリマーを含まないろ過液cに区分けられ、濃縮されたポリマー水分散液bはタンク3に戻り、ろ過液cは系外に除かれることによってタンク3中のポリマー水分散液が濃縮される。
【0029】
本発明の1の態様において、ポリマー水分散液は、
図8に示すろ過装置で製造することができる。
図8に示す装置を用いた場合、
図8に示すように、ろ過液cをタンク3に戻すことによってポリマー水分散液の濃度を一定にすることができる。
【0030】
本発明は、例えば、下記の1以上の実施形態を含む。
[1] ポリマー及び水を含むポリマー水分散液をろ過膜を用いてろ過することで、濃縮されたポリマー水分散液と、ポリマーを含まないろ過液を得る膜ろ過工程を含み、
前記ろ過膜は内表面に開孔を有し、開孔の全体数を100%とした場合、孔径が前記ポリマーの最小粒子径より小さい開孔が50%以上存在しており、表面開孔径分布の分散が0.2以下であり、
膜ろ過工程において、下記数式(1)で表される初期SUVA比が0.8以上1.2以下であり、かつ、下記数式(1)で表される初期SUVA比と下記数式(2)で表される二次SUVA比の差の絶対値が0.2以下である、ポリマー水分散液の製造方法。
【数3】
[2] 前記ポリマーは、ポリヒドロキシアルカノエートである、[1]に記載のポリマー水分散液の製造方法。
[3] 前記ろ過膜は、無機材料で構成されている、[1]又は[2]に記載のポリマー水分散液の製造方法。
[4] 膜ろ過工程でろ過される前のポリマー水分散液の固形分の濃度は10重量%以上35重量%以下である、[1]~[3]のいずれか1項に記載のポリマー水分散液の製造方法。
[5] 膜ろ過工程でろ過された後の濃縮されたポリマー水分散液の固形分の濃度は35重量%以上60重量%以下である、[1]~[4]のいずれか1項に記載のポリマー水分散液の製造方法。
[6] 膜ろ過工程でろ過するポリマー水分散液は、ポリヒドロキシアルカノエートを含有する微生物の破砕物由来のポリヒドロキシアルカノエートの懸濁液である、[1]~[5]のいずれか1項に記載のポリマー水分散液の製造方法。
[7] 前記ろ過膜は、管状膜である、[1]~[6]のいずれか1項に記載のポリマー水分散液の製造方法。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0032】
(ポリマーの粒子径の測定)
マイクロトラック・ベル社製のレーザー回折散乱式粒子径分布測定装置「マイクロトラックMT3300EX II」を使用し、粒度分布曲線(体積基準)を測定し、最小粒子径Dmin及びメディアン径D50を算出した。
【0033】
(ろ過膜の表面開孔径の測定)
(1)管状膜を半筒状に切断し、内表面が露出している状態で、ろ過膜の内表面を走査型電子顕微鏡(日本電子社製の「JSM-7001FA」)で3500倍で観察し、画像をコンピューターで取り込んだ。
(2)得られた画像から任意に選んだ5μm×5μmの範囲に存在する全ての孔について、画像処理ソフト(ImageJ、開発元:アメリカ国立衛生研究所)にて解析を行った。具体的には、まず、SEM画像を二値化処理し、空孔部が黒、構造部分が白となった画像を得た。なお、解析画像内のコントラストの差によって、空孔部と構造部分をきれいに二値化できない場合は、空孔部を黒く塗りつぶしてから画像処理を行い、得られた解析範囲内の孔のフェレー径を得た。この際、ノイズをカットするために0.0001μm2以下の面積の孔をデータから除外した。
【0034】
(DOCの測定)
島津製作所製の全有機炭素計(TOC-L)を用いて測定した。
【0035】
(UVの測定)
日立ハイテクサイエンス製の分光光度計(U-3900)を用いて測定した。
【0036】
(実施例1)
国際公開第2010/116681号の実施例1に記載の方法でラルストニア・ユートロファKNK-005株を培養し、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(PHBH)を含有する菌体培養液を作製した。次に、上記で得られた菌体培養液を内温60~80℃で20分間加熱・攪拌処理し、滅菌処理を行った。上記で得られた滅菌済みの菌体培養液に対して、0.2重量%のドデシル硫酸ナトリウムを添加した。さらに、pHが11.0になるように水酸化ナトリウム水溶液を添加した後、50℃で1時間保温した。その後、高圧破砕機(ニロソアビ社製の「高圧ホモジナイザーモデルPA2K型」)を用いて、450~550kgf/cm
2の圧力で高圧破砕を行った。上記で得られた高圧破砕後の破砕液に対して等量の蒸留水を添加した。これを遠心分離した後、上清を除去して2倍濃縮した。この濃縮したPHA水懸濁液に、除去した上清と同量の水酸化ナトリウム水溶液(pH11)を添加して遠心分離し、上清を除去してから再度水を添加して懸濁させ、0.2重量%のドデシル硫酸ナトリウムと、PHAの1/100重量のプロテアーゼ(ノボザイム社製、エスペラーゼ)を添加し、pH10で50℃に保持したまま、2時間攪拌した。その後、遠心分離により上清を除去して4倍濃縮した。さらに水を添加することで、PHBH粒子のメディアン径(D50)が2μmであり、固形分濃度が26重量%(PHBH粒子の含有量:260g/L)であるPHBH水分散液を得た。該PHBH水分散液中のポリマー粒子の最小粒子径(Dmin)は0.75μmである。ろ過膜として管状膜(MEMBRALOX(登録商標) 1T1-70、PALL社製、材質:アルミナセラミック)を用いた
図7に示すろ過装置にて、前記PHBH水分散液を該管状膜に循環供給し、濃縮を実施した。前記管状膜は、開孔の全体数を100%とした場合、孔径が前記PHBH水分散液中のポリマー粒子の最小粒子径より小さい開孔数の割合が67%であり、表面開孔径分布の分散が0.02であり、初期SUVA比が0.83であり、初期SUVA比と二次SUVA比の差の絶対値が0.05以上0.2以下であった。
図7に示すように、タンク3中で撹拌機4で撹拌され、ポンプ2を介してろ過膜1に供給されるポリマー水分散液aは、ろ過膜1でろ過されることで、濃縮されたポリマー水分散液bと、ポリマーを含まないろ過液cに区分けられ、濃縮されたポリマー水分散液bはタンク3に戻り、ろ過液cは系外に除かれることによってタンク3中のPHA水分散液が濃縮される。
【0037】
(比較例1)
実施例1と同様の方法で得られた菌体培養液を用いて、最後に添加する水の量を変更したこと以外は実施例1と同様にして、PHBH粒子のメディアン径D50が2μmであり、固形分濃度が23重量%(PHBH粒子の含有量:230g/L)であるPHBH水分散液を得た。該PHBH水分散液中のポリマー粒子の最小粒子径(Dmin)は0.75μmである。ろ過膜として管状膜(MICRODYN(登録商標) MD020TP2N、Microdyn-Nadir GmbH社製、材質:ポリプロピレン)を用いた
図7に示すろ過装置にて、前記PHBH水分散液を該管状膜に循環供給し、濃縮を実施した。前記管状膜は、開孔の全体数を100%とした場合、孔径が前記PHBH水分散液中のポリマー粒子の最小粒子径より小さい開孔数の割合が38%であり、表面開孔径分布の分散が0.50であり、初期SUVA比が0.90であり、初期SUVA比と二次SUVA比の差の絶対値が0.3であった。
図7に示すように、タンク3中で撹拌機4で撹拌され、ポンプ2を介してろ過膜1に供給されるポリマー水分散液aは、ろ過膜1でろ過されることで、濃縮されたポリマー水分散液bと、ポリマーを含まないろ過液cに区分けられ、濃縮されたポリマー水分散液bはタンク3に戻り、ろ過液cは系外に除かれることによって、タンク3中のPHA水分散液が濃縮される。
【0038】
図1~
図4に結果を示した。
図1は実施例1及び比較例1において測定したPHBH水分散液の固形分濃度と、初期の透過流束(J0)に対する各固形分濃度における透過流束(J)の比率を示すグラフである。
図2は、実施例1及び比較例1において測定したPHBH水分散液の膜面積あたりの透過流量と、SUVA比の差分(初期SUVA比と膜面積あたりの透過流量におけるSUVA比の差の絶対値)を示すグラフである。
図3は、実施例1及び比較例1において測定したPHBH水分散液の固形分濃度と、SUVA比の差分(初期SUVA比と各固形分濃度におけるSUVA比の差の絶対値)を示すグラフである。
図4Aは、実施例1で用いたろ過膜のポリマー分散液の濃縮を行った後の膜断面のSEM写真であり、
図4Bは、比較例1で用いたろ過膜のポリマー分散液の濃縮を行った後の膜断面のSEM写真である。
【0039】
図1から、実施例1では、濃縮が完了し、ポリマーの水分散液の固形分濃度が約40重量%になった場合でも、初期の透過流束に対する透過流束の比率が0.5以上であり、ファウリングが効果的に抑制されていることが確認できた。
図2及び
図3から、実施例1では、膜ろ過工程において、初期SUVA比が0.8以上1.2以下であり、かつ、初期SUVA比と二次SUVA比の差の絶対値が0.2以下であることにより、ろ過膜内部への夾雑物の付着が抑制され、ろ過膜内部のファウリングが低減されたことが確認できた。
図5Aは、実施例1で用いたろ過膜のポリマー分散液の濃縮を行う前の膜断面のSEM写真である。
図4A及び
図5Aの対比から、実施例1では、ろ過膜内部へのPHBH粒子の進入を阻止できたため、ろ過膜内部のファウリングが低減されたことが確認できた。
【0040】
一方、
図1から分かるように、濃縮が完了し、ポリマーの水分散液の固形分濃度が約40重量%になった場合、比較例1では、初期の透過流束に対する透過流束の比率が0.2未満となり、ファウリングを抑制することができなかった。また、
図2及び3から分かるように、膜ろ過工程において、初期SUVA比と二次SUVA比の差の絶対値が0.3以上であったため、ろ過膜内部への夾雑物の付着を抑制することができず、ろ過膜内部のファウリングを抑制することができなかった。
図5Bは、比較例1で用いたろ過膜のポリマー分散液の濃縮を行う前の膜断面のSEM写真である。
図4B及び
図5Bの対比から分かるように、比較例1では、膜内部へのPHBH粒子の進入を阻止できなかったため、膜内部のファウリングを抑制することができなかった。
【0041】
(実施例2)
実施例1と同様の方法で得られた菌体培養液を用いて、最後に添加する水の量を変更したこと以外は実施例1と同様にして、PHBH粒子のメディアン径D50が2μmであり、固形分濃度が25重量%(PHBH粒子の含有量:250g/L)であるPHBH水分散液を得た。該PHBH水分散液中のポリマー粒子の最小粒子径(Dmin)は0.75μmであった。実施例1と同様の管状膜を用い、該管状膜にPHBH水分散液を循環供給し、循環を実施した。
図8に示すように、ろ過液cをタンク3に戻すことによってPHBH水分散液の濃度を一定とし、ファウリング以外の透過流束低下要因をなくした状態で循環を実施することで、ファウリングを評価した。
【0042】
(比較例2)
実施例2と同様にして、PHBH粒子のメディアン径が2μmであり、固形分濃度が25重量%(PHBH粒子の含有量:250g/L)であるPHBH水分散液を得た。該PHBH水分散液中のポリマー粒子の最小粒子径(Dmin)は0.75μmであった。比較例1で用いたのと同様の管状膜を用い、該管状膜にPHBH水分散液を循環供給し、実施例2と同様に循環を実施した。
図8に示すように、ろ過液cをタンク3に戻すことによってPHBH水分散液の濃度を一定とし、ファウリング以外の透過流束低下要因をなくした状態で循環を実施することで、ファウリングを評価した。
【0043】
図6に結果を示した。
図6は実施例2及び比較例2において測定した膜面積あたりの透過流量と、初期の透過流束(J0)に対する所定の透過流量における透過流束(J)の比率を示すグラフである。
図6から分かるように、実施例1では、膜面積に対する透過液量が10000kg/m
2の段階で初期の透過流束に対する透過流束の比率が0.8以上であり、ファウリングを抑制することができた。一方、比較例2では、膜面積に対する透過液量が10000kg/m
2の段階で初期の透過流束に対する透過流束の比率が0.5未満であり、ファウリングを抑制することができなかった。
【符号の説明】
【0044】
1 ろ過膜
2 ポンプ
3 タンク
4 攪拌機