(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-27
(45)【発行日】2024-12-05
(54)【発明の名称】樹脂組成物およびフィルム
(51)【国際特許分類】
C08L 79/08 20060101AFI20241128BHJP
C08G 73/16 20060101ALI20241128BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20241128BHJP
C08L 67/03 20060101ALI20241128BHJP
C08L 69/00 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
C08L79/08 D
C08G73/16
C08J5/18 CFG
C08L67/03
C08L69/00
(21)【出願番号】P 2021567500
(86)(22)【出願日】2020-12-22
(86)【国際出願番号】 JP2020048036
(87)【国際公開番号】W WO2021132279
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2023-10-16
(31)【優先権主張番号】P 2019232976
(32)【優先日】2019-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020014037
(32)【優先日】2020-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安藤 高史
(72)【発明者】
【氏名】小川 紘平
(72)【発明者】
【氏名】宮本 正広
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04645802(US,A)
【文献】特開2001-323092(JP,A)
【文献】特開2001-240743(JP,A)
【文献】特開平10-273591(JP,A)
【文献】米国特許第04814396(US,A)
【文献】特開2012-040836(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 79/08
C08G 73/16
C08J 5/18
C08L 67/03
C08L 69/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド樹脂と
ポリアリレートを含み、
前記ポリイミド樹脂が、一般式(3)で表される酸二無水物と一般式(4)で表されるジアミンとの反応により得られうる一般式(1)で表される構造単位を含むポリイミドであり、
【化1】
【化2】
【化3】
前記ポリイミドの酸二無水物成分全量に対する一般式(3)で表されるテトラカルボン酸二無水物の量が、30モル%以上である、
樹脂組成物:
ただし、
一般式(1)および一般式(3)において、Xは、群(I)で表される2価の有機基であり、
【化4】
R
1およびR
2は、それぞれ、フッ素原子、炭素原子数1~20のアルキル基、または炭素原子数1~20のフルオロアルキル基であり、mは1~4の整数であり、nは0~4の整数であり;
一般式(1)および一般式(4)において、Yは、フッ素基、トリフルオロメチル基、スルホン基、フルオレン構造および脂環構造からなる群から選択される1以上を含む2価の基である。
【請求項2】
前記ポリイミドが、酸二無水物成分全量に対して、式(6)で表される酸二無水物を30モル%以上含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【化5】
【請求項3】
前記ポリアリレートが式(10)の繰り返し単位を含む、請求項
1または2に記載の樹脂組成物。
【化7】
【請求項4】
前記ポリイミド樹脂と前記
ポリアリレートとを、98:2~2:98の範囲の重量比で含む、請求項1~
3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
ポリイミド樹脂と
ポリカーボネートを含み、
前記ポリイミド樹脂が、一般式(3)で表される酸二無水物と一般式(4)で表されるジアミンとの反応により得られうる一般式(1)で表される構造単位を含むポリイミドであり、
【化8】
【化9】
【化10】
前記ポリイミドの酸二無水物成分全量に対する一般式(3)で表されるテトラカルボン酸二無水物の量が、
60モル%以上である、
樹脂組成物:
ただし、
一般式(1)および一般式(3)において、Xは、群(I)で表される2価の有機基であり、
【化11】
R
1およびR
2は、それぞれ、フッ素原子、炭素原子数1~20のアルキル基、または炭素原子数1~20のフルオロアルキル基であり、mは1~4の整数であり、nは0~4の整数であり;
一般式(1)および一般式(4)において、Yは、フッ素基、トリフルオロメチル基、スルホン基、フルオレン構造および脂環構造からなる群から選択される1以上を含む2価の基である。
【請求項6】
前記ポリイミドが、酸二無水物成分全量に対して、式(6)で表される酸二無水物を
60モル%以上含む、請求項
5に記載の樹脂組成物。
【化12】
【請求項7】
前記ポリカーボネートが、式(8)の繰り返し単位を含む、請求項
5または6に記載の樹脂組成物。
【化6】
【請求項8】
前記ポリイミド樹脂と前記
ポリカーボネートとを、98:2~2:98の範囲の重量比で含む、請求項
5~7のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記ポリイミド樹脂が塩化メチレンに可溶である、請求項
1~8のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
前記ポリイミドの溶解性パラメーターが、8.10~9.10(cal/cm
3)
1/2である、請求項1~
9のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1~
10のいずれか1項に記載の樹脂組成物を含むフィルム。
【請求項12】
厚みが5μm以上300μm以下であり、ヘイズが3.5%以下、YIが5.0以下、厚み位相差Rthが3000nm以下、引張弾性率が3.0GPa以上である、請求項
11に記載のフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物およびフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶、有機EL、電子ペーパー等の表示装置や、太陽電池、タッチパネル等のエレクトロニクスデバイスにおいて、薄型化や軽量化、さらにはフレキシブル化が要求されている。これらのデバイスに使用されるガラス材料をフィルム材料に代えることにより、フレキシブル化、薄型化、軽量化が図られる。ガラス代替材料として、透明ポリイミドフィルムが開発され、ディスプレイ用基板やカバーフィルム等に用いられている。
【0003】
通常のポリイミドフィルムは、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸溶液を支持体上に膜状に塗布し、高温処理することにより、溶媒除去と同時に熱イミド化を行うことにより得られる。しかしながら、熱イミド化のための加熱温度は高く(例えば300℃以上)、加熱による着色(黄色度の上昇)が生じやすく、ディスプレイ用カバーフィルム等の高い透明性が要求される用途への適用が困難である。特許文献1~3では、有機溶媒に可溶であり、フィルム化後の高温でのイミド化を必要としないポリイミド樹脂が報告されている。
【0004】
特許文献1~3等に記載の可溶性ポリイミドを有機溶媒に溶解させ、支持体上に塗布し、有機溶媒を除去することにより、ポリイミドフィルムが得られる。一般に、溶液キャスト法により作製されるフィルムは複屈折が小さいが、ポリイミドは、分子構造に起因して面内に分子が配向しやすく、溶液キャスト法によりフィルムを作製した場合でも、厚み方向の複屈折が大きく、斜め方向から視認した際に、虹ムラや色調のシフトが観察される。
【0005】
特許文献4では、脂環式テトラカルボン酸二無水物を原料とするポリイミドが、透明性と低複屈折性とを両立し得ることが報告されている。しかし、脂環式テトラカルボン酸二無水物を原料とするポリイミドは、重合時に分子量が増大し難く、機械強度の高いフィルムの作製が困難である等の課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-144603号公報
【文献】特開2016-132686号公報
【文献】WO2017/175869号国際公開パンフレット
【文献】特許第6174580号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ポリイミドは、剛直な構造を導入すると、機械強度が向上するものの、有機溶媒への溶解性や透明性の低下、高複屈折化の要因となり、従来の透明ポリイミド樹脂では、透明性を保持したまま、低複屈折と高機械強度を両立することは容易ではない。かかる課題に鑑み、本発明は、複屈折が小さく、かつ十分な機械強度を有する透明フィルム、およびその作製に用いられる樹脂組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、特定の化学構造を有するポリイミドと特定のエステル系樹脂が相溶性を示し、これらを混合した樹脂組成物により透明性の高いフィルムを作製可能であることを見出し、上記課題を解決するに至った。
【0009】
本発明の一態様は、ポリイミド樹脂とエステル系樹脂とを含むフィルムおよび樹脂組成物に関する。樹脂組成物は、ポリイミド樹脂とエステル系樹脂とを、98:2~2:98の範囲の重量比で含むものであってもよい。
【0010】
ポリイミドは、一般式(1)で表される構造単位を含む。
【0011】
【0012】
一般式(1)の構造単位は、一般式(3)で表される酸二無水物と一般式(4)で表されるジアミンとの反応により得られる。
【0013】
【0014】
【0015】
一般式(1)および一般式(3)におけるXは、群(I)で表される2価の有機基である。
【0016】
【0017】
R1およびR2は、それぞれ、フッ素原子、炭素原子数1~20のアルキル基、または炭素原子数1~20のフルオロアルキル基であり、mは1~4の整数であり、nは0~4の整数である。
【0018】
一般式(1)および一般式(4)におけるYは、フッ素基、トリフルオロメチル基、スルホン基、フルオレン構造および脂環構造からなる群から選択される1以上を含む2価の基である。
【0019】
ポリイミドの酸二無水物成分全量に対する一般式(3)で表されるテトラカルボン酸二無水物の比率は、30モル%以上が好ましく、40モル%以上、45モル%以上、または50モル%以上であってもよく、90モル%以下であってもよい。
【0020】
ポリイミドの酸二無水物成分は、上記一般式(3)の酸二無水物として、式(6)で表される酸二無水物を含んでいてもよい。ポリイミドは、酸二無水物成分全量に対して、式(6)で表される酸二無水物を30モル%以上、40モル%以上、45モル%以上、または50モル%以上含んでいてもよい。
【0021】
【0022】
ポリイミド樹脂は、塩化メチレンに可溶であるものが好ましい。ポリイミドの溶解性パラメーター(SP値)は、8.10~9.10(cal/cm3)1/2であってもよい。ポリイミドの溶解性パラメーターは、ポリイミドを構成するジアミンおよび酸二無水物のそれぞれの溶解性パラメーターとモル比との積を合計したものである。
【0023】
エステル系樹脂は、ポリカーボネートまたはポリアリレートである。ポリカーボネートは、式(8)の繰り返し単位を含むものであってもよく、ポリアリレートは式(10)の繰り返し単位を含むものであってもよい。エステル系樹脂がポリカーボネートである場合、ポリイミドの酸二無水物成分全量に対する一般式(3)で表されるテトラカルボン酸二無水物の比率は、60モル%以上が好ましい。エステル系樹脂がポリアリレートである場合、ポリイミドの酸二無水物成分全量に対する一般式(3)で表されるテトラカルボン酸二無水物の比率は、30モル%以上が好ましい。
【0024】
【0025】
【0026】
本発明の一実施形態のフィルムは、厚みが5μm以上300μm以下であり、ヘイズが3.5%以下、YIが5.0以下、厚み位相差Rthが3000nm以下、引張弾性率が3.0GPa以上である。
【発明の効果】
【0027】
樹脂組成物に含まれるポリイミド樹脂とエステル系樹脂が相溶性を示すため、ヘイズが小さい透明フィルムが得られる。また、ポリイミド樹脂とエステル系樹脂が相溶性を示すため、ポリイミドの優れた機械強度を大幅に低下されることなく、複屈折を低減可能であるため、ディスプレイのカバーフィルム等に適した透明フィルムを作製できる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
[樹脂組成物]
本発明の一実施形態は、ポリイミド樹脂とエステル系樹脂とを含む相溶系の樹脂組成物である。ポリイミドは、下記の一般式(1)で表される構造単位を含み、エステル系ポリマーは、一般式(2)で表される構造単位を含む。
【0029】
【0030】
【0031】
一般式(1)において、Yは、フッ素基、トリフルオロメチル基、スルホン基、フルオレン構造、および脂環構造からなる群から選択される1以上を有するジアミン残基である。Xは下記の群(I)から選択される2価の有機基である。
【0032】
【0033】
群(I)のR1およびR2は、フッ素原子、炭素原子数1~20のアルキル基、または炭素原子数1~20のフルオロアルキル基であり、mは1~4の整数であり、nは0~4の整数である。
【0034】
一般式(2)において、Zは任意の2価の有機基であり、R3は、ハロゲン、炭素原子数1~20のアルキル基、または炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基であり、jは0~4の整数である。Qは、直結、または下記の群(II)から選択される2価の有機基である。
【0035】
【0036】
Qが直結である場合、一般式(2)の繰り返し単位を有するポリマーはポリカーボネートである。Qが群(II)から選択される2価の有機基である場合、一般式(2)の繰り返し単位を有するポリマーはポリアリレートである。
【0037】
ポリカーボネートはビスフェノールの炭酸エステルであり、ポリアリレートはビスフェノールとフタル酸とのエステルであり、両者はビスフェノールのエステルである点において共通している。以下では、ポリカーボネートとポリアリレートをまとめて「エステル系ポリマー」と記載し、ポリカーボネート樹脂とポリアリレート樹脂をまとめて「エステル系樹脂」と記載する。
【0038】
<ポリイミド樹脂>
本実施形態におけるポリイミドは、上記の一般式(1)で表される構造単位を含む。ポリイミドは、テトラカルボン酸二無水物(以下、「酸二無水物」と記載する場合がある)とジアミンとの縮合により得られるポリアミド酸を脱水環化することにより得られる。すなわち、ポリイミドは、酸二無水物由来構造(酸二無水物成分)とジアミン由来構造(ジアミン成分)とを有する。
【0039】
(酸二無水物)
本実施形態におけるポリイミドは、酸二無水物成分として、下記の一般式(3)で表されるビス(無水トリメリット酸)エステルを含む。
【0040】
【0041】
一般式(3)におけるXは、一般式(1)におけるXと同一である。すなわち、Xは、下記の(IA)、(IB)、(IC)、(ID)のいずれかである。
【0042】
【0043】
式(IA)におけるR1は、フッ素原子、炭素原子数1~20のアルキル基、または炭素原子数1~20のフルオロアルキル基であり、mは1~4の整数である。式(1A)で表される基は、ベンゼン環上に置換基を有するヒドロキノン誘導体から2つの水酸基を除いた基である。ベンゼン環上に置換基を有するヒドロキノンとしては、tert-ブチルヒドロキノン、2,5-ジ-tert-ブチルヒドロキノン、2,5-ジ-tert-アミルヒドロキノン等が挙げられる。
【0044】
式(IB)におけるR2は、フッ素原子、炭素原子数1~20のアルキル基、または炭素原子数1~20のフルオロアルキル基であり、nは0~4の整数である。式(IB)で表される基は、ベンゼン環上に置換基を有していてもよいビフェノールから2つの水酸基を除いた基である。ベンゼン環上に置換基を有するビフェノール誘導体としては、2,2’-ジメチルビフェニル-4,4’-ジオール、3,3’-ジメチルビフェニル-4,4’-ジオール、3,3’,5,5’-テトラメチルビフェニル-4,4’-ジオール、2,2’,3,3’,5,5’-ヘキサメチルビフェニル-4,4’-ジオール等が挙げられる。
【0045】
式(IC)で表される基は、4,4’-イソプロピリデンジフェノール(ビスフェノールA)から2つの水酸基を除いた基である。式(1D)で表される基は、レゾルシノールから2つの水酸基を除いた基である。
【0046】
上記の中でも、エステル系樹脂との相溶性の観点から、Xは、(IB)、(IC)または(ID)が好ましく、中でも式(IB)が好ましく、特に、n=3であり、ビフェニルの2,2’3,3’,5,5’位に置換基を有するものが好ましい。これらの位置に置換基を有すると、置換基の立体障害等に起因して、ビフェニル骨格のベンゼン環同士の結合にねじれが生じ、ポリイミドの有機溶媒への溶解性が向上するとともに、エステル系樹脂との相溶性が高められる傾向がある。
【0047】
式(IB)で表され、ビフェニルの2,2’3,3’,5,5’位に置換基を有する2価値の有機基の具体例として、下記の式(5)で表される2,2’,3,3’,5,5’-ヘキサメチルビフェニル-4,4’-ジイルが挙げられる。式(3)のXが2,2’,3,3’,5,5’-ヘキサメチルビフェニル-4,4’-ジイルである酸二無水物は、式(6)で表される。
【0048】
【0049】
【0050】
すなわち、一実施形態において、ポリイミドは、酸二無水物として、式(6)で表される化合物:ビス(1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-カルボン酸)-2,2’,3,3’,5,5’-ヘキサメチルビフェニル-4,4’ジイル(略称:TAHMBP)を含む。
【0051】
ポリイミドを構成する酸二無水物成分の全量100モル%に対する一般式(3)の酸二無水物の量は、30モル%以上が好ましい。一般式(3)の酸二無水物の比率が高いほど、ポリイミドとエステル系ポリマーとの相溶性が向上し、フィルムのヘイズが低減し透明性向上する傾向がある。酸二無水物成分の全量100モル%に対する一般式(3)の酸二無水物の量は、40モル%以上が好ましく、45モル%以上がより好ましく、50モル%以上がより好ましく、55モル%以上、60モル%以上、65モル%以上または70モル%以上であってもよい。
【0052】
エステル系ポリマーとの相溶性向上の観点から、ポリイミドを構成する酸二無水物成分の全量100モル%に対する式(6)の酸二無水物の量が30モル%以上であることが好ましい。酸二無水物成分の全量100モル%に対する式(6)の酸二無水物の量は、40モル%以上が好ましく、45モル%以上がより好ましく、50モル%以上がより好ましく、55モル%以上、60モル%以上、65モル%以上または70モル%以上であってもよい。ポリイミドは、酸二無水成分として、TAHMBPに加えて、TAHMBP以外の一般式(3)で表される酸二無水物を含んでいてもよい。
【0053】
一般式(3)の酸二無水物の比率が過度に大きいと、フィルムの複屈折が大きくなる場合がある。酸二無水物成分の全量100モル%に対する一般式(3)の酸二無水物の量は、90モル%以下が好ましく、85モル%以下、80モル%以下、または75モル%以下であってもよい。
【0054】
上記の通り、ポリイミドの酸二無水物成分のうち、一般式(3)の酸二無水物の量は90モル%以下が好ましく、酸二無水物成分の10モル%以上は、一般式(3)以外の酸二無水物であることが好ましい。
【0055】
一般式(3)以外の酸二無水物の例としては、エチレンテトラカルボン酸二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,1’-ビシクロヘキサン53,3’,4,4’テトラカルボン酸‐3,4,3’,4’-二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2-ビス{4-[4-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物、1,3-ビス[(3,4-ジカルボキシ)ベンゾイル]ベンゼン二無水物、1,4-ビス[(3,4-ジカルボキシ)ベンゾイル]ベンゼン二無水物、2,2-ビス{4-[4-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}プロパン二無水物、2,2-ビス{4-[3-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}プロパン二無水物、ビス{4-[4-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}ケトン二無水物、ビス{4-[3-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}ケトン二無水物、4,4’-ビス[4-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]ビフェニル二無水物、4,4’-ビス[3-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]ビフェニル二無水物、ビス{4-[4-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}ケトン二無水物、ビス{4-[3-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}ケトン二無水物、ビス{4-[4-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}スルホン二無水物、ビス{4-[3-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}スルホン二無水物、ビス{4-[4-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}スルフィド二無水物、ビス{4-[3-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}スルフィド二無水物、2,2-ビス{4-[4-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルプロパン二無水物、2,2-ビス{4-[3-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}-1,1,1,3,3,3-プロパン二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8-フェナントレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(1,3-ジヒドロ-1,3-ジオキソ-5-イソベンゾフランカルボン酸)-1,4-フェニレンエステルが挙げられる。
【0056】
上記の中でも、ポリイミドの透明性および有機溶媒への溶解性向上、ならびに低複屈折化の観点から、下記のX-1、X-2、X-3で表される酸二無水物、または脂環式構造を有する酸二無水物を含むことが好ましい。X-3におけるMは、O、SまたはSO2である。
【0057】
【0058】
脂環式の酸二無水物の具体例としては、下記の群(III)の酸二無水物が挙げられる。
【0059】
【0060】
ポリイミドは、酸二無水物成分として、上記のX-1,X-2,X-3および群(III)の酸二無水物を、合計10モル%以上含むことが好ましく、合計15モル%以上、20モル%以上、または25モル%以上含んでいてもよい。
【0061】
(ジアミン)
本実施形態におけるポリイミドは、ジアミン成分として、下記の一般式(4)で表されるジアミンを含む。
【0062】
【0063】
一般式(4)におけるYは、一般式(1)におけるYと同一である。すなわち、Yは、フッ素基、トリフルオロメチル基、スルホン基、フルオレン構造、および脂環構造からなる群から選択される1以上を有するジアミン残基である。これらの官能基を有するジアミン成分を含むことにより、ポリイミドは透明性を示すとともに、有機溶媒に対する優れた溶解性を示す。
【0064】
一般式(4)で表されるジアミン、すなわち、フッ素基、トリフルオロメチル基、スルホン基、フルオレン構造、および脂環構造からなる群から選択される1以上を有するジアミンの例としては、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、4,4’-ビス[4-(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)フェノキシ]ジフェニルスルホン、4,4’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]ジフェニルスルホン1,4-ジアミノ-2-フルオロベンゼン、1,4-ジアミノ-2,3-ジフルオロベンゼン、1,4-ジアミノ-2,5-ジフルオロベンゼン、1,4-ジアミノ-2,6-ジフルオロベンゼン、1,4-ジアミノ-2,3,5-トリフルオロベンゼン、1,4-ジアミノ-2,3,5,6-テトラフルオロベンゼン、1,4-ジアミノ-2-(トリフルオロメチル)ベンゼン、1,4-ジアミノ-2,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、1,4-ジアミノ-2,5-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、1,4-ジアミノ-2,6-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、1,4-ジアミノ-2,3,5-トリス(トリフルオロメチル)ベンゼン、1,4-ジアミノ-2,3,5,6-テトラキス(トリフルオロメチル)ベンゼン、2-フルオロベンジジン、3-フルオロベンジジン、2,3-ジフルオロベンジジン、2,5-ジフルオロベンジジン、2,6-ジフルオロベンジジン、2,3,5-トリフルオロベンジジン、2,3,6-トリフルオロベンジジン、2,3,5,6-テトラフルオロベンジジン、2,2’-ジフルオロベンジジン、3,3’-ジフルオロベンジジン、2,3’-ジフルオロベンジジン、2,2’,3-トリフルオロベンジジン、2,3,3’-トリフルオロベンジジン、2,2’,5-トリフルオロベンジジン、2,2’,6-トリフルオロベンジジン、2,3’,5-トリフルオロベンジジン、2,3’,6,-トリフルオロベンジジン、2,2’,3,3’-テトラフルオロベンジジン、2,2’,5,5’-テトラフルオロベンジジン、2,2’,6,6’-テトラフルオロベンジジン、2,2’,3,3’,6,6’-ヘキサフルオロベンジジン、2,2’,3,3’,5,5’、6,6’-オクタフルオロベンジジン、2-(トリフルオロメチル)ベンジジン、3-(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,5-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,6-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3,5-トリス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3,6-トリス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3,5,6-テトラキス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3,3’-トリス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’,5-トリス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’,6-トリス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3’,5-トリス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3’,6,-トリス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’,3,3’-テトラキス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’,5,5’-テトラキス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’,6,6’-テトラキス(トリフルオロメチル)ベンジジン2,2-ジ(3-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ジ(4-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2-(3-アミノフェニル)-2-(4-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、1,3-ビス(3-アミノ-α,α-ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノ-α,α-ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノ-α,α-ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノ-α,α-ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2-ビス[3-(3-アミノフェノキシ)フェニル]-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、4,4’-ビス[4-(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)フェノキシ]ジフェニルスルホン、4,4’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]ジフェニルスルホン、1,2-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,2-ジ(2-アミノエチル)シクロヘキサン、1,3-ジ(2-アミノエチル)シクロヘキサン、1,4-ジ(2-アミノエチル)シクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロへキシル)メタン、2,6-ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,5-ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、9,9’-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン(FDA)、9,9’-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレン(FFDA)が挙げられる。
【0065】
上記の中でも、ポリイミドの低複屈折化の観点から、Y-1~Y-5で表されるジアミンが好ましく、透明性の観点からはY-6で表されるジアミンが好ましい。Y-5のR9は、メチル基または水素である。ポリイミドは、ジアミン成分として、Y-1~Y-5から選択される1以上と、Y-6の両方を含んでいてもよい。
【0066】
【0067】
ジアミン成分の全量100モル%に対する上記のジアミンの量は、5モル%以上が好ましく、10モル%以上がより好ましく、15モル%以上がさらに好ましく、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上または100%であってもよい。Y-1~Y-6の合計がこの範囲であってもよい。
【0068】
ポリイミドの透明性および溶解性の観点から、ジアミン成分全量に対する2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(上記のY-6)の量は、5モル%以上が好ましく、10~99モル%、20~98モル%、30~97モル%、35~96モル%または40~95モル%であってもよい。
【0069】
ポリイミドの透明性および有機溶媒への溶解性を過度に低下させない範囲で、フッ素基、トリフルオロメチル基、スルホン基、フルオレン構造、および脂環構造のいずれも含まないジアミンを用いてもよい。その具体例としては、1,4-フェニレンジアミン、1,3-フェニレンジアミン、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、2,2-ジ(3-アミノフェニル)プロパン、2,2-ジ(4-アミノフェニル)プロパン、2-(3-アミノフェニル)-2-(4-アミノフェニル)プロパン、1,1-ジ(3-アミノフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ジ(4-アミノフェニル)-1-フェニルエタン、1-(3-アミノフェニル)-1-(4-アミノフェニル)-1-フェニルエタン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノベンゾイル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノベンゾイル)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノベンゾイル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノベンゾイル)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)ベンゼン、2,6-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゾニトリル、2,6-ビス(3-アミノフェノキシ)ピリジン、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,4-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,4-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、4,4’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’-ビス[4-(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジフェノキシベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジビフェノキシベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4-フェノキシベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4-ビフェノキシベンゾフェノン、6,6’-ビス(3-アミノフェノキシ)-3,3,3’,3’-テトラメチル-1,1’-スピロビインダン、6,6’-ビス(4-アミノフェノキシ)-3,3,3’,3’-テトラメチル-1,1’-スピロビインダン、1,3-ビス(3-アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン、1,3-ビス(4-アミノブチル)テトラメチルジシロキサン、α,ω-ビス(3-アミノプロピル)ポリジメチルシロキサン、α,ω-ビス(3-アミノブチル)ポリジメチルシロキサン、ビス(アミノメチル)エーテル、ビス(2-アミノエチル)エーテル、ビス(3-アミノプロピル)エーテル、ビス(2-アミノメトキシ)エチル]エーテル、ビス[2-(2-アミノエトキシ)エチル]エーテル、ビス[2-(3-アミノプロトキシ)エチル]エーテル、1,2-ビス(アミノメトキシ)エタン、1,2-ビス(2-アミノエトキシ)エタン、1,2-ビス[2-(アミノメトキシ)エトキシ]エタン、1,2-ビス[2-(2-アミノエトキシ)エトキシ]エタン、エチレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル、ジエチレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル、トリエチレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル、エチレンジアミン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、1,11-ジアミノウンデカン、1,12-ジアミノドデカン、等を例示できる。
【0070】
(ポリイミドの組成)
上記の様に、ポリイミドの組成、すなわち酸二無水物およびジアミンの種類および比率を調整することにより、ポリイミドは、透明性および有機溶媒への溶解性を有するとともに、エステル系ポリマーとの相溶性を示す。ポリイミドの有機溶媒への溶解性および他の樹脂との相溶性を表す指標の1つとして、溶解性パラメーター(SP値)を利用できる。
【0071】
ポリイミドのSP値は、各モノマー(酸二無水物およびジアミン)の単体のSP値と組成比(酸二無水物とジアミンの合計を1としたモル比)との積を合計した値である。ポリイミドと、溶媒および他の樹脂とのSP値の差が小さいほど、溶解性・相溶性が高くなる傾向がある。エステル系樹脂との相溶性の観点から、ポリイミドのSP値は、8.10~9.10(cal/cm3)1/2が好ましく、8.15~9.00(cal/cm3)1/2であってもよい。
【0072】
ポリイミドは、塩化メチレン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、1,1,2,2-テトラクロロエタン、N-メチル-2-ピロリドン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、テトラヒドロフランおよび1,4-ジオキサンから選択される1以上の溶媒に対する溶解性を示すことが好ましい。ポリイミドが溶媒に溶解性を示すとは、5重量%以上の濃度で溶解することを意味する。上記の溶媒の中でも、塩化メチレンは、低沸点でありフィルム作製時の残存溶媒の除去が容易であることから、ポリイミドは、塩化メチレンに可溶であることが好ましい。
【0073】
(ポリイミド樹脂の調製)
酸二無水物とジアミンとの反応によりポリイミド前駆体としてのポリアミド酸が得られ、ポリアミド酸の脱水環化(イミド化)によりポリイミドが得られる。
【0074】
ポリアミド酸の調製方法は特に限定されず、公知のあらゆる方法を適用できる。例えば、酸二無水物とジアミンとを、略等モル量(95:100~105:100のモル比)で有機溶媒中に溶解させ、攪拌することにより、ポリアミド酸溶液が得られる。ポリアミド酸溶液の濃度は、通常5~35重量%であり、好ましくは10~30重量%である。この範囲の濃度である場合に、重合により得られるポリアミド酸が適切な分子量を有するとともに、ポリアミド酸溶液が適切な粘度を有する。
【0075】
ポリアミド酸の重合に際しては、酸二無水物の開環を抑制するため、ジアミンに酸二無水物を加える方法が好ましい。複数種のジアミンや複数種の酸二無水物を添加する場合は、一度に添加してもよく、複数回に分けて添加してもよい。モノマーの添加順序を調整することにより、ポリイミドの諸物性を制御することもできる。
【0076】
ポリアミド酸の重合に使用する有機溶媒は、ジアミンおよび酸二無水物と反応せず、ポリアミド酸を溶解させ得る溶媒であれば、特に限定されない。有機溶媒としては、メチル尿素、N,N-ジメチルエチルウレア等のウレア系溶媒、ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホン、テトラメチルスルフォン等のスルホキシドあるいはスルホン系溶媒、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N’-ジエチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、γ-ブチロラクトン、ヘキサメチルリン酸トリアミド等のアミド系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン等のハロゲン化アルキル系溶媒、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素系溶媒、テトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、1,4-ジオキサン、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、p-クレゾールメチルエーテル等のエーテル系溶媒が挙げられる。通常これらの溶媒を単独でまたは必要に応じて2種以上を適宜組み合わせて用いる。ポリアミド酸の溶解性および重合反応性の観点から、DMAc、DMF、NMP等が好ましく用いられる。
【0077】
ポリアミド酸の脱水環化によりポリイミドが得られる。ポリアミド酸溶液からポリイミドを調製する方法として、ポリアミド酸溶液に脱水剤、イミド化触媒等を添加し、溶液中でイミド化を進行させる方法が挙げられる。イミド化の進行を促進するため、ポリアミド酸溶液を加熱してもよい。ポリアミド酸のイミド化により生成したポリイミドが含まれる溶液と貧溶媒とを混合することにより、ポリイミド樹脂が固形物として析出する。ポリイミド樹脂を固形物として単離することにより、ポリアミド酸の合成時に発生した不純物や、残存脱水剤およびイミド化触媒等を、貧溶媒により洗浄・除去可能であり、ポリイミドの着色や黄色度の上昇等を防止できる。また、ポリイミド樹脂を固形物として単離することにより、フィルムを作製するための溶液を調製する際に、低沸点溶媒等のフィルム化に適した溶媒を適用できる。
【0078】
ポリイミドの分子量(ゲルろ過クロマトグラフィー(GPC)で測定されるポリエチレンオキシド換算の重量平均分子量)は、10,000~200,000が好ましく、20,000~180,000がより好ましく、40,000~180,000がさらに好ましい。分子量が過度に小さい場合、フィルムの強度が不足する場合がある。分子量が過度に大きい場合、エステル系樹脂との相溶性に劣る場合がある。
【0079】
<エステル系樹脂>
本実施形態におけるエステル系樹脂は、ポリカーボネートまたはポリアリレートであり、上記の一般式(2)で表される構造単位を含む。
【0080】
(ポリカーボネート)
ポリカーボネートは、ビスフェノールの炭酸エステルであり、一般式(7)で表される繰り返し単位を有する。
【0081】
【0082】
一般式(7)におけるZ,R3およびjは、一般式(2)におけるZ,R3およびjと同一である。
【0083】
有機溶媒への溶解性および上記のポリイミドとの相溶性の観点から、ポリカーボネートとしては、2価の有機基Zがイソプロピリデン基であり、j=0であるもの、すなわち、式(8)の繰り返し単位を有するビスフェノールAの炭酸エステルが好ましい。
【0084】
【0085】
式(8)の繰り返し単位を含むポリカーボネートの市販品としては、帝人製のパンライトAD-5503、K-1300Y、L-1225L、L-1225LM、L-1225Y、L-1225Z100、L-1225Z100M、L-1225ZL100、L-1250Y、L-1250Z100、LD-1000RM、LN-1010RM、LN-2250Y、LN-2250Z、LN-2520A、LN-2520HA、LN-2525ZA、LN-3000RM、LN-3050RM、LS-2250、LV-2225L、LV-2225Y、LV-2225Z、LV-2250Y、LV-2250Z、MN-4800、MN-4800Z、MN-4805Z;三菱エンジニアリングプラスチックス製のユーピロンK4100、ML200,ML300、ML400等が挙げられる。
【0086】
ポリカーボネートは、ビスフェノールA以外のビスフェノール成分を含んでいてもよい。ビスフェノールの具体例としては、1,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-(3-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-エチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-n-プロピル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-イソプロピル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-sec-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-アリル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、6,6’-ジヒドロキシ-3,3、3’、3’-テトラメチルスピロ(ビス)インダン、2,6-ジヒドロキシジベンゾ-p-ジオキシン、2,6-ジヒドロキシアントレン、2,7-ジヒドロキシフェノキサチン、2,7-ジヒドロキシ-9,10-ジメチルフェナジン、3,6-ジヒドロキシベンゾフラン、3,6-ジヒドロキシアントレン、tert-ブチルヒドロキノン、2,5-ジ-tert-ブチルヒドロキノン、2,5-ジ-tert-アミルヒドロキノン、2,2’-ジメチルビフェニル-4,4’-ジオール、3,3’-ジメチルビフェニル-4,4’-ジオール、イソプロピリデンジフェノール、3,3’,5,5’-テトラメチルビフェニル-4,4’-ジオール、2,2’,3,3’,5,5’-ヘキサメチルビフェニル-4,4’-ジオール、レゾルシノール等が挙げられる。
【0087】
式(7)における2価の有機基Zは、環状構造を含んでいてもよい。環状構造としては、フルオレン骨格、フタルイミド骨格等の芳香族;シクロヘキシルメチリデン、2-[2.2.1]-ビシクロヘプチリデン、シクロヘキシリデン、シクロペンチリデン、シクロドデシリデン、アダマンチリデン等の脂環式骨格が挙げられる。Zが環状構造を含むビスフェノールの具体例としては、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フタルイミジン、2-フェニル-3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フタルイミジン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサン等が挙げられる。
【0088】
フィルムの強度およびポリイミドとの相溶性の観点から、ポリカーボネートの重量平均分子量(ポリスチレン換算)は、5,000~250,000が好ましく、10,000~200,000がより好ましく、15,000~150,000がさらに好ましい。
【0089】
(ポリアリレート)
ポリアリレートは、ビスフェノールとフタル酸(テレフタル酸および/またはイソフタル酸)とのエステルであり、一般式(9)で表される繰り返し単位を有する。
【0090】
【0091】
一般式(9)におけるZ,R3およびjは、一般式(2)におけるZ,R3およびjと同一である。
【0092】
ポリアリレートにおけるイソフタル酸由来構造とテレフタル酸由来構造の比率は特に限定されず、0:100~100:0である。溶媒への可溶性、および上記のポリイミドとの相溶性の観点から、イソフタル酸とテレフタル酸の比率は、2:98~98:2が好ましく、5:95~95:5、または10:90~90:10であってもよい。
【0093】
有機溶媒への溶解性および上記のポリイミドとの相溶性の観点から、ポリアリレートとしては、2価の有機基Zがイソプロピリデン基であり、j=0であるもの、すなわち、式(10)の繰り返し単位を有するビスフェノールAとフタル酸とのエステルが好ましい。
【0094】
【0095】
式(10)の繰り返し単位を含むポリアリレートの市販品としては、ユニチカ製のU-100、T-200等が挙げられる。ポリアリレートの市販品として、ユニチカ製のU-8000、U-8400H,FUN-8000、C300VN、P-1001,P-3001、P-5001、P-1001A、P-3001S、P-5001S等を用いてもよい。
【0096】
ポリアリレートは、ビスフェノールA以外のビスフェノール成分を含んでいてもよい。ビスフェノールA以外のビスフェノールの具体例としては、ポリカーボネートのビスフェノール成分として先に示したものが挙げられる。
【0097】
フィルムの強度およびポリイミドとの相溶性の観点から、ポリアリレートの重量平均分子量(ポリスチレン換算)は、5,000~150,000が好ましく、10,000~130,000がより好ましく、15,000~100,000がさらに好ましい。
【0098】
<樹脂組成物の調製>
上記のポリイミド樹脂とエステル系樹脂とを混合して、樹脂組成物を調製する。樹脂組成物は、エステル系樹脂として、ポリカーボネートとポリアリレートの両方を含んでいてもよい。
【0099】
上記のポリイミド樹脂とエステル系樹脂は、任意の比率で相溶性を示し得るため、樹脂組成物におけるポリイミド樹脂とエステル系樹脂との比率は特に限定されない。ポリイミド樹脂とエステル系樹脂の混合比(重量比)は、98:2~2:98、95:5~10:90、または90:10~15:85であってもよい。ポリイミド樹脂の比率が高いほど、フィルムの弾性率が高くなり、機械強度に優れる傾向がある。エステル系樹脂の比率が高いほど、フィルムの複屈折(特に厚み方向の複屈折)が小さくなる傾向がある。
【0100】
ポリイミドは特殊な分子構造を有するポリマーであり、一般には、有機溶媒に対する溶解性が低く、他のポリマーとは相溶性を示さない。本実施形態では、ポリイミドが酸無水物成分として一般式(3)のビス(無水トリメリット酸)エステルを含み、一般式(1)の構造単位を有することにより、有機溶媒に対して高い溶解性を示すとともに、ポリカーボネートおよびポリアリレートとの相溶性を示す。ポリイミドがポリカーボネートおよびポリアリレートと溶解性を示す理由の1つとして、一般式(1)および一般式(3)におけるフェノールエステルの構造が、ポリカーボネートおよびポリアリレートにおけるビスフェノールエステルの構造との類似性が高いことが挙げられる。
【0101】
ポリカーボネートとの相溶性を持たせるためには、ポリイミドは、酸二無水物成分の合計100モル%に対して、一般式(3)の酸二無水物を、60モル%以上含むことが好ましく、65モル%以上含むことがさらに好ましい。中でも、式(6)の酸二無水物を、60モル%以上含むことが好ましく、65モル%以上含むことがさらに好ましい。
【0102】
ポリアリレートとの相溶性を持たせるためには、ポリイミドは、酸二無水物成分の合計100モル%に対して、一般式(3)の酸二無水物を、30モル%以上含むことが好ましく、40モル%以上含むことがより好ましく、45モル%以上含むことがさらに好ましい。中でも、式(6)の酸二無水物を、30モル%以上含むことが好ましく、40モル%以上含むことがより好ましく、45モル%以上含むことがさらに好ましい。
【0103】
樹脂組成物は、ポリイミド樹脂とエステル系樹脂とを含む混合溶液であってもよい。樹脂の混合方法は特に限定されず、固体の状態で混合してもよく、液体中で混合して混合溶液としてもよい。ポリイミド樹脂溶液およびエステル系樹脂溶液を個別に調製し、両者を混合してポリイミド樹脂とエステル系樹脂との混合溶液を調製してもよい。
【0104】
ポリイミド樹脂およびエステル系樹脂を含む溶液の溶媒としては、ポリイミド樹脂およびエステル系樹脂の両方に対する溶解性を示すものであれば特に限定されない。溶媒の例としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、1,1,2,2-テトラクロロエタン、N-メチル-2-ピロリドン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、塩化メチレン等が挙げられる。ポリイミド樹脂とエステル系樹脂との相溶性に優れ、かつ低沸点でありフィルム作製時の残存溶媒の除去が容易であることから、溶媒としては塩化メチレンが特に好ましい。
【0105】
フィルムの加工性向上や各種機能の付与等を目的として、樹脂組成物(溶液)に、有機または無機の低分子または高分子化合物を配合してもよい。樹脂組成物は、難燃剤、紫外線吸収剤、架橋剤、染料、顔料、界面活性剤、レベリング剤、可塑剤、微粒子、増感剤等を含んでいてもよい。微粒子には、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン等の有機微粒子、コロイダルシリカ、カーボン、層状珪酸塩等の無機微粒子等が含まれ、多孔質や中空構造であってもよい。
【0106】
[フィルム]
上記のポリイミド樹脂およびエステル系樹脂を含む溶液を、支持体上に塗布し、溶媒を乾燥除去することにより、フィルムが得られる。
【0107】
樹脂溶液を支持体上に塗布する方法としては、バーコーターやコンマコーター等を用いた公知の方法を適用できる。支持体としては、ガラス基板、SUS等の金属基板、金属ドラム、金属ベルト、プラスチックフィルム等を使用できる。生産性向上の観点から、支持体として、金属ドラム、金属ベルト等の無端支持体、または長尺プラスチックフィルム等を用い、ロールトゥーロールによりフィルムを製造することが好ましい。プラスチックフィルムを支持体として使用する場合、製膜ドープの溶媒に溶解しない材料を適宜選択すればよく、プラスチック材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリアクリレート、ポリエチレンナフタレート等が用いられる。
【0108】
溶媒の乾燥時には加熱を行うことが好ましい。加熱温度は溶媒が除去でき、かつ得られるフィルムの着色を抑制できる温度であれば特に制限されず、室温~250℃程度で適宜に設定され、50℃~220℃が好ましい。この範囲の温度であれば、フィルムの着色を抑制し、フィルムの厚み方向の位相差(複屈折)を緩和できる。加熱温度は段階的に上昇させてもよい。溶媒の除去効率を高めるために、ある程度乾燥が進んだ後に、支持体から樹脂膜を剥離して乾燥を行ってもよい。溶媒の除去を促進するために、減圧下で加熱を行ってもよい。
【0109】
フィルムの厚みは特に限定されず、用途に応じて適宜設定すればよい。フィルムの厚みは、例えば5~300μmである。自己支持性と可撓性とを両立し、かつ透明性の高いフィルムとする観点から、フィルムの厚みは20μm~100μmが好ましく、30μm~90μm、40μm~85μm、または50μm~80μmであってもよい。ディスプレイのカバーフィルム用途としてのフィルムの厚みは、50μm以上が好ましい。
【0110】
フィルムのヘイズは5%以下が好ましく、4%以下がより好ましく、3.5%以下がさらに好ましく、3%以下、2%以下または1%以下であってもよい。フィルムのヘイズは低いほど好ましい。上記の様に、ポリイミド樹脂とエステル系樹脂が相溶性を示すため、ヘイズが低く、透明性の高いフィルムが得られる。ポリイミドの酸二無水物成分のうち、一般式(3)の酸二無水物の比率が高いほど、フィルムのヘイズが低くなる傾向があり、特に式(6)の酸二無水物の比率が高いほどフィルムのヘイズが低くなる傾向がある。
【0111】
フィルムの黄色度(YI)は、5.0以下が好ましい。上記のように、一般式(1)で表される構造単位を有するポリイミドは、可視光の吸収が少ないため、透明性が高く、YIが小さいフィルムが得られる。
【0112】
画面の着色等に起因する視認性の低下を抑制する観点から、フィルムの厚み方向位相差Rthは3000nm以下が好ましい。強度の観点から、フィルムの引張弾性率は3.0GPa以上が好ましい。ポリイミド樹脂とエステル系樹脂が相溶性を示すため、Rthおよび引張弾性率は、ポリイミド樹脂単独のフィルムとエステル系樹脂単独のフィルムの中間的な値となり、両者の配合比を調整することにより、上記のRthと引張弾性率を両立するフィルムが得られる。
【実施例】
【0113】
以下、実施例および比較例に基づき、本発明の実施形態についてさらに具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0114】
[ポリイミド樹脂の製造例]
セパラブルフラスコにジメチルホルムアミドを投入し、窒素雰囲気下で撹拌した。そこに、表2に示す比率(モル%)で、ジアミンおよび酸二無水物を投入し、窒素雰囲気下にて5~10時間撹拌して反応させ、固形分濃度18重量%のポリアミド酸溶液を得た。製造例1A~1C、製造例3A,3B、製造例4A,4B、製造例6A,6Bおよび製造例11A,11Bでは、反応時間を変更することにより、分子量を調整した。
【0115】
ポリアミド酸溶液100gに、イミド化触媒としてピリジン5.5gを添加し、完全に分散させた後、無水酢酸8gを添加し、90℃で3時間攪拌した。室温まで冷却した後、溶液を攪拌しながら、2-プロピルアルコール(以下、IPAと記載)100gを、2~3滴/秒の速度で投入し、ポリイミドを析出させた。さらにIPA150gを添加し、約30分撹拌後、桐山ロートを使用して吸引ろ過を行った。得られた固体をIPAで洗浄した後、120℃に設定した真空オーブンで12時間乾燥させて、ポリイミド樹脂を得た。
【0116】
[フィルム作製例]
<フィルム1~14>
塩化メチレンに、上記の製造例で得られたポリイミド(PI)と市販のポリアリレート(PC)を、表3に示す比率で混合し、樹脂分11重量%の塩化メチレン溶液を調製した。この溶液を無アルカリガラス板上に塗布し、40℃で60分、70℃で30分、150℃で30分、170℃で30分、200℃で60分、大気雰囲気下で加熱乾燥し、厚さ約50μmのフィルム1~14を作製した。
【0117】
<フィルム21~28>
塩化メチレンに、上記の製造例で得られたポリイミド(PI)と市販のポリカーボネート(PC)を、表4に示す比率で混合し、樹脂分11重量%の塩化メチレン溶液を調製した。この溶液を用いて、上記のフィルム1~14の作製と同様の条件で塗布および乾燥を行い、厚さ約50μmのフィルム21~28を作製した。
【0118】
<参考例A~D>
参考例A,Cでは、ポリイミド樹脂の塩化メチレン溶液を調製し、上記と同様の条件で厚さ約50μmのフィルムを作製した。参考例Bではポリアリレートの塩化メチレン溶液を調製し、上記と同様の条件で厚さ約50μmのフィルムを作製した。参考例Dではポリアリカーボネートの塩化メチレン溶液を調製し、上記と同様の条件で塗布および乾燥を行い、厚さ約50μmのフィルムを作製した。
【0119】
[評価方法]
<ポリイミド樹脂の評価>
(塩化メチレンへの溶解性)
ポリイミド樹脂に塩化メチレンを固形分濃度10重量%になるように加え、室温で12時間攪拌した後、目視で溶液を確認した。いずれの製造例のポリイミド樹脂も、不溶物が確認されず、塩化メチレンに対する溶解性を有していた。
【0120】
(分子量)
ポリイミドを、濃度0.4重量%となるように溶離液に溶解し、表1に示す条件でGPCによる分析を行い、重量平均分子量(Mw)を求めた。
【0121】
【0122】
<フィルムの評価>
(ヘイズ)
フィルムを3cm角に切り出し、スガ試験機製のヘイズメーター「HZ-V3」により、JIS K7136に従って測定した。ヘイズが20%を超えたものについては、以下の黄色度、引張弾性率、および厚み方向位相差の測定は実施しなかった(表3,4において、NDと記載)。
【0123】
(黄色度)
フィルムを3cm角に切り出し、スガ試験機製の分光測色計「SC-P」によりて、JIS K7373に従って黄色度(YI)を測定した。
【0124】
(引張弾性率)
フィルムを幅10mmの短冊状に切り出し、島津製作所製の「AUTOGRAPH AGS-X」を用いて、つかみ具間距離100mm、引張速度20.0mm/minの条件で測定した。
【0125】
(厚み方向位相差)
フィルムを3cm角に切り出し、王子計測機器製の位相差測定装置「KOBRA」を用いて、波長590nmにおける面内位相差および斜め方向位相差を測定し、平均屈折率を1.60として厚み方向位相差Rthを算出した。
【0126】
[評価結果]
ポリイミドの製造例におけるジアミンおよび酸二無水物の組成、ならびにポリイミドのSP値および重量平均分子量(Mw)を表2に示す。表2におけるSP値の単位は(cal/cm3)1/2であり、ポリイミドのSP値は、各モノマーのSP値と、ジアミンおよび酸二無水物の合計に対するモル比との積を足し合わせた値である。
【0127】
表2において、化合物は以下の略称により記載している。
<ジアミン>
TFMB:2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン
3,3’-DDS:3,3’-ジアミノジフェニルスルホン
<酸二無水物>
TAHMBP:ビス(1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-カルボン酸)-2,2’,3,3’,5,5’-ヘキサメチルビフェニル-4,4’ジイル
OCBP-TME:ビス(1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-カルボン酸)-3,3’-ジメチルビフェニル-4,4’ジイル
BP-TME:ビス(1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-カルボン酸)-ビフェニル-4,4’ジイル
Bis-DA2000:4,4’-(4,4’-イソプロピリデンジフェノキシ)ジフタル酸二無水物
TMHQ:p-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)
s-BPDA:3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
α-BPDA:ジフェニル-2,3,3’,4’-テトラカルボン酸二無水物
CBDA:1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物
6FDA:2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物
【0128】
【0129】
フィルム作製例で作製したフィルム1~14(ポリイミドとポリアリレートの組成物)の樹脂組成およびフィルム特性を表3に示し、フィルム21~28(ポリイミドとポリカーボネートの組成物)の樹脂組成およびフィルム特性を表4に示す。表3には、参考例A,Bの結果を合わせて示し、表4には、参考例C,Dの結果を合わせて示している。
【0130】
表3および表4では、ポリイミド(PI)の酸二無水物成分のうち、一般式(3)で表されるポリイミドに該当するものを抽出して記載している。括弧内の数字は、酸二無水物成分全量に対する当該酸二無水物の比率(モル%)である。
【0131】
表3におけるポリアリレート(PAR)および表4におけるポリカーボネート(PC)は下記の通りである。Mwは、GPCにより測定したポリスチレン換算の重量平均分子量である。
PAR1:ユニチカ製「U-100 Dシリーズ」 Mw=71,000
PAR2:ユニチカ製「U-100 Lシリーズ」 Mw=45,600
PC1:三菱エンジニアリングプラスチック製「ユーピロン K4100」 Mw=38,400
PC2:帝人製「パンライト L-1225LM」 Mw=42,000
【0132】
【0133】
【0134】
ポリイミド1Aのみを用いて作製した参考例Aのポリイミドフィルム、およびポリイミド10のみを用いて作製した参考例Cのポリイミドフィルムは、ヘイズが小さく透明性に優れ、高い引張弾性率を示したが、Rthが大きいものであった。ポリアリレートのみを用いて作製した参考例Bのポリアリレートフィルム、およびポリカーボネートのみを用いて作製した参考例Dのポリカーボネートフィルムは、透明性に優れ、小さなRthを示したが、引張弾性率が2GPa程度であり、機械強度が十分といえるものではなかった。
【0135】
表3に示す様に、酸二無水物成分としてTAHMBP等の一般式(3)で表されるビス(無水トリメリット酸)エステルを含むポリイミドと、ポリアリレートとの組成物を用いたフィルム1~10は、高い透明性を示すとともに、引張弾性率およびRthが、ポリイミドとポリアリレートの中間の値を示した。
【0136】
フィルム1とフィルム2とを対比すると、ポリイミドの比率が高いほど引張弾性率が大きく、ポリアリレートの比率が高いほどRthが小さくなる傾向があることが分かる。なお、フィルム2とフィルム3との対比から、ポリイミドの分子量の相違は、ヘイズ、引張弾性率、Rthに大きな影響を与えないと考えられる。
【0137】
酸二無水物成分として一般式(3)で表されるビス(無水トリメリット酸)エステルを含まないポリイミドと、ポリアリレートとの組成物を用いたフィルム11~14は、ヘイズが高く、光学用途としての実用に乏しいものであった。これらのフィルムの作製に用いたポリイミド樹脂およびポリアリレートは、いずれも単独では透明なフィルムが得られることから、樹脂の相溶性が乏しいことが白濁の原因であると考えられる。
【0138】
これらの結果から、一般式(3)で表されるビス(無水トリメリット酸)エステルを含むポリイミドとポリアリレートは相溶性を示しており、透明性の高いフィルムが作成可能であるとともに、両者の混合比を調整することにより、高引張弾性率と低Rthを両立可能なフィルムを作製可能であることが分かる。
【0139】
酸二無水物全量に対するTAHMBPの量が45モル%であるポリイミド2とポリアリレートを80:20の重量比で混合したフィルム4は、透明性を保持していたものの、フィルム1に比べてヘイズの上昇がみられた。酸二無水物全量に対するTAHMBPの量が40モル%であるポリイミド9とポリアリレートを80:20の重量比で混合したフィルム10では、さらにヘイズが上昇していた。これらの結果から、ポリイミドの酸二無水物成分におけるTAHMBPの比率が高いほど、ポリアリレートとの相溶性に優れていることが分かる。
【0140】
酸二無水物として、50モル%のTAHMBPに加えて、Bis-DA2000を含むポリイミド3Aと、ポリアリレートとを混合したフィルム5は、フィルム1~3と同様の小さなヘイズを示した。フィルム6,7も同様であった。
【0141】
酸二無水物成分として、40モル%のTAHMBPに加えて、ビフェノールと無水トリメリット酸とのエステルであるBP-TMEを含むポリイミド7と、ポリアリレートとを混合したフィルム8は、フィルム10と同様、約3%のヘイズを示した。酸二無水物成分としてOCBP-TMEを含むポリイミド8を用いたフィルム9も同様であった。
【0142】
上記の結果から、一般式(3)の化合物の中でも、各ベンゼン環上に3個の置換基を有するビフェニル骨格を含むTAHMBPが、特にポリアリレートとの相溶性向上への寄与が大きいことが分かる。
【0143】
表4に示す様に、酸二無水物成分としてTAHMBP等の一般式(3)で表されるビス(無水トリメリット酸)エステルを含むポリイミドと、ポリカーボネートとの組成物を用いたフィルム21は、高い透明性を示すとともに、引張弾性率およびRthが、ポリイミドとポリカーボネートの中間の値を示した。
【0144】
酸二無水物成分として一般式(3)で表されるビス(無水トリメリット酸)エステルを含まないポリイミドと、ポリカーボネートとの組成物を用いたフィルム26~28は、ヘイズが高く、光学用途としての実用に乏しいものであった。これらのフィルムの作製に用いたポリイミド樹脂およびポリカーボネートは、いずれも単独では透明なフィルムが得られることから、樹脂の相溶性が乏しいことが白濁の原因であると考えられる。
【0145】
酸二無水物として、50モル%のTAHMBPに加えて、Bis-DA2000を含むポリイミド22~25は、フィルム26~28に比べると小さなヘイズを有していたものの、フィルム21に比べるとヘイズが上昇していた。これらの結果から、ポリイミドとポリカーボネートとの混合においても、ポリイミドの酸二無水物成分としてのTAHMBPによる相溶性向上への寄与が大きいことが分かる。