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  • 特許-複合材、複合材の製造方法および端子 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-27
(45)【発行日】2024-12-05
(54)【発明の名称】複合材、複合材の製造方法および端子
(51)【国際特許分類】
   C25D 15/02 20060101AFI20241128BHJP
   H01H 1/04 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
C25D15/02 L
C25D15/02 F
H01H1/04 D
H01H1/04 E
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022078052
(22)【出願日】2022-05-11
(65)【公開番号】P2023167129
(43)【公開日】2023-11-24
【審査請求日】2024-03-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】506365131
【氏名又は名称】DOWAメタルテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(72)【発明者】
【氏名】加藤 有紀也
(72)【発明者】
【氏名】冨谷 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】小谷 浩隆
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】平山 愛梨
【審査官】菅原 愛
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-042391(JP,A)
【文献】特開2021-109981(JP,A)
【文献】特開2021-072185(JP,A)
【文献】特開2019-052083(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 15/02
H01H 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素粒子を含有する銀層からなる複合皮膜が素材上に形成されてなる複合材であって、
前記複合皮膜をレーザー顕微鏡で観察したときの観察視野を構成する各ピクセルの、前記観察視野内で最も低いピクセルに対する高低差であるピクセル高さを求め、各ピクセルのピクセル高さを低い順に並べたとき、累積個数割合が10%となるピクセルのピクセル高さを基準高さHとし、前記観察視野内の、ピクセル高さが前記基準高さHより1μm以上高いピクセルを凸部と定義したときに、前記観察視野において凸部が占める割合が12面積%以上である、
複合材。
【請求項2】
前記素材がCu又はCu合金で構成されている、請求項1に記載の複合材。
【請求項3】
前記複合皮膜の銀の結晶子サイズが40nm以下である、請求項1又は2に記載の複合材。
【請求項4】
前記凸部が占める割合が15~75面積%である、請求項1又は2に記載の複合材。
【請求項5】
前記複合皮膜の表面における炭素粒子が占める割合が10~80面積%である、請求項1又は2に記載の複合材。
【請求項6】
前記複合皮膜の厚さが1.5~25μmである、請求項1又は2に記載の複合材。
【請求項7】
前記複合皮膜の表面のビッカース硬度が100以上である、請求項1又は2に記載の複合材。
【請求項8】
前記複合皮膜の算術平均粗さRaが0.6μm以上である、請求項1又は2に記載の複合材。
【請求項9】
前記素材と前記複合皮膜との間にCu、Ni、Sn及びAgからなる群より選択される少なくとも一種からなる下地層が形成されている、請求項1又は2に記載の複合材。
【請求項10】
炭素粒子を含む銀めっき液中で電気めっきを行うことにより、炭素粒子を含有する銀層からなる複合皮膜を素材上に形成する、複合材の製造方法であって、
前記炭素粒子が、水性液体中で2,4-ジヒドロキシ安息香酸で30分以上処理された表面処理炭素粒子であり、
前記銀めっき液が、前記表面処理炭素粒子と、下記一般式(2)で表される化合物Bとを含有し、
前記銀めっき液が濃度5~150g/Lで銀イオンを含み、
前記銀めっき液中の表面処理炭素粒子の濃度が10~150g/Lであり、
前記銀めっき液中の化合物Bの濃度が2~250g/Lであり、
前記銀めっき液中の錯化剤の濃度が30~200g/Lである、複合材の製造方法;
【化1】
(式(2)において、pは1~5の整数であり、
Rdは、カルボキシル基であり、
Reは、アルデヒド基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基又はスルホン酸基であり、
Rfは、水素又は任意の置換基であり、
pが2以上の場合、複数存在するReは互いに同一であっても異なっていてもよく、
pが3以下の場合、複数存在するRfは互いに同一であっても異なっていてもよく、
Rd及びReはそれぞれ独立に、-O-及び-CH -からなる群より選ばれる少なくとも一種で構成される2価の基を介してベンゼン環と結合していてもよい。)。
【請求項11】
前記素材がCu又はCu合金で構成されている、請求項1に記載の複合材の製造方法。
【請求項12】
前記炭素粒子の2,4-ジヒドロキシ安息香酸による処理が、前記炭素粒子及び2,4-ジヒドロキシ安息香酸を含む水性液体を30分以上撹拌することにより実施される、請求項10又は11に記載の複合材の製造方法。
【請求項13】
請求項1又は2に記載の複合材がその構成材料として用いられた電気接点用の端子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、素材上に所定の複合皮膜が形成されてなる複合材およびその製造方法等に関し、特に、スイッチやコネクタなどの摺動電気接点部品などの材料として使用される複合材およびその製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スイッチやコネクタなどの摺動電気接点部品などの材料として、摺動過程における加熱による銅(Cu)や銅合金などの導体素材の酸化を防止するために、導体素材に銀めっきを施した銀(Ag)めっき材が使用されている。
【0003】
しかし、銀めっきは、軟質で摩耗し易く、一般に摩擦係数が高いため、摺動により剥離し易いという問題がある。この問題を解消するため、耐磨耗性、潤滑性などに優れた黒鉛やカーボンブラックなどの炭素粒子のうち、黒鉛粒子を銀マトリクス中に分散させた複合材の皮膜を電気めっきにより導体素材上に形成して耐摩耗性を向上させる方法が提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3054628号公報
【文献】特許第4806808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば自動車業界では自動運転化が進む中で、車載向けのスイッチやコネクタなどの摺動電気接点部品には、導電性に優れていることに加え、今まで以上に高い信頼性(高温環境にさらされた後においても導電性の劣化が少ないこと)が求められる。他の電子機器に使用される摺動電気接点部品においても同様である。
【0006】
このような要求の高度化に対して、特許文献1及び2の複合材は、信頼性が不十分である。
【0007】
特許文献1や2に開示された複合材では、炭素粒子を含む複合皮膜(AgC皮膜)においては、銀マトリクスを構成する結晶同士の粒界を拡散経路として、素材である銅母材から銅が拡散していく。特に複合皮膜が薄い場合には、加熱により容易に銅が複合皮膜中を拡散していき、複合皮膜の表面に到達して酸化されて、抵抗が上昇する。すなわち信頼性が十分でない。複合皮膜を厚くして皮膜表面までの距離を長くすることで信頼性を高め得るが、その場合は複合材の製造コストアップとなる。
【0008】
本発明は以上の状況の下でなされたものであり、その解決しようとする課題は、銀層中に炭素粒子を含有する複合皮膜が素材上に形成された複合材であって、複合皮膜が薄くても信頼性に優れる複合材、その製造方法及び当該複合材を用いた電気接点用の端子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の安息香酸系化合物で炭素粒子に対して所定の表面処理を施したうえで、当該炭素粒子を含む銀めっき液で電気めっきを実施すると、当該複合皮膜は所定量の凸部を有していることを知見した。また、このような複合皮膜は、薄くても優れた信頼性を備えていることを見出した。以上により、本発明者らは本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、以下のとおりである。
【0011】
[1]炭素粒子を含有する銀層からなる複合皮膜が素材上に形成されてなる複合材であって、
前記複合皮膜をレーザー顕微鏡で観察したときの観察視野を構成する各ピクセルの、前記観察視野内で最も低いピクセルに対する高低差であるピクセル高さを求め、各ピクセルのピクセル高さを低い順に並べたとき、累積個数割合が10%となるピクセルのピクセル高さを基準高さHとし、前記観察視野内の、ピクセル高さが前記基準高さHより1μm以上高いピクセルを凸部と定義したときに、前記観察視野において凸部が占める割合が12面積%以上である、
複合材。
【0012】
[2]前記素材がCu又はCu合金で構成されている、[1]に記載の複合材。
【0013】
[3]前記複合皮膜の銀の結晶子サイズが40nm以下である、[1]又は[2]に記載の複合材。
【0014】
[4]前記凸部が占める割合が15~75面積%である、[1]~[3]のいずれかに記載の複合材。
【0015】
[5]前記複合皮膜の表面における炭素粒子が占める割合が10~80面積%である、[1]~[4]のいずれかに記載の複合材。
【0016】
[6]前記複合皮膜の厚さが1.5~25μmである、[1]~[5]のいずれかに記載の複合材。
【0017】
[7]前記複合皮膜の表面のビッカース硬度が100以上である、[1]~[6]のいずれかに記載の複合材。
【0018】
[8]前記複合皮膜の算術平均粗さRaが0.6μm以上である、[1]~[7]のいずれかに記載の複合材。
【0019】
[9]前記素材と前記複合皮膜との間にCu、Ni、Sn、Agからなる群より選択される少なくとも一種からなる下地層が形成されている、[1]~[8]のいずれかに記載の複合材。
【0020】
[10]炭素粒子を含む銀めっき液中で電気めっきを行うことにより、炭素粒子を含有する銀層からなる複合皮膜を素材上に形成する、複合材の製造方法であって、
前記炭素粒子が、水性液体中で下記一般式(1)で表される化合物Aで30分以上処理された表面処理炭素粒子である、複合材の製造方法;
【化1】
(式(1)において、mは1~5の整数であり、
Raは、カルボキシル基であり、
Rbは、アルデヒド基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基又はスルホン酸基であり、
Rcは、水素又は任意の置換基であり、
mが2以上の場合、複数存在するRbは互いに同一であっても異なっていてもよく、
mが3以下の場合、複数存在するRcは互いに同一であっても異なっていてもよく、
Ra及びRbはそれぞれ独立に、-O-及び-CH-からなる群より選ばれる少なくとも一種で構成される2価の基を介してベンゼン環と結合していてもよい。)。
【0021】
[11]前記銀めっき液が、前記表面処理炭素粒子と、下記一般式(2)で表される化合物Bとを含有する、[10]に記載の複合材の製造方法;
【化2】
(式(2)において、pは1~5の整数であり、
Rdは、カルボキシル基であり、
Reは、アルデヒド基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基又はスルホン酸基であり、
Rfは、水素又は任意の置換基であり、
pが2以上の場合、複数存在するReは互いに同一であっても異なっていてもよく、
pが3以下の場合、複数存在するRfは互いに同一であっても異なっていてもよく、
Rd及びReはそれぞれ独立に、-O-及び-CH-からなる群より選ばれる少なくとも一種で構成される2価の基を介してベンゼン環と結合していてもよい。)。
【0022】
[12]前記素材がCu又はCu合金で構成されている、[10]又は[11]に記載の複合材の製造方法。
【0023】
[13]前記炭素粒子の化合物Aによる処理が、前記炭素粒子及び化合物Aを含む水性液体を30分以上撹拌することにより実施される、[10]~[12]のいずれかに記載の複合材の製造方法。
【0024】
[14]前記銀めっき液中の化合物Bの濃度が2~250g/Lである、[10]~[13]のいずれかに記載の複合材の製造方法。
[15]前記銀めっき液が濃度5~150g/Lで銀イオンを含む、[10]~[14]のいずれかに記載の複合材の製造方法
【0025】
[16]前記銀めっき液中の表面処理炭素粒子の濃度が10~150g/Lである、[10]~[15]のいずれかに記載の複合材の製造方法。
【0026】
[17][1]~[9]のいずれかに記載の複合材がその構成材料として用いられた電気接点用の端子。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、銀層中に炭素粒子を含有する複合皮膜が素材上に形成された複合材であって、複合皮膜が薄くても信頼性に優れる複合材、その製造方法及び当該複合材を用いた電気接点用の端子が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】実施例において、凸部面積率を求めるにあたって作成した、レーザー顕微鏡観察画像を構成する各ピクセルのピクセル高さについての頻度分布図を示す。(a)は実施例6についての、(b)は比較例3についての頻度分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
[複合材の製造方法]
本発明の複合材の製造方法の実施の形態は、所定の表面処理を施された炭素粒子を含む銀めっき液中で電気めっきを行うことにより、銀層中に炭素粒子を含有する複合皮膜を素材上に形成する、複合材の製造方法である。以下、この複合材の製造方法の各構成について説明する。
【0030】
<<素材>>
その上に複合皮膜を形成する素材の構成材料としては、銀めっき可能であり、スイッチやコネクタなどの摺動電気接点部品などの材料に求められる導電性を有するものが好適であり、更にコストの観点から、構成材料としてCu(銅)及びCu合金が好適である。前記Cu合金としては、導電性と強度などの観点から、Cuと、Si(ケイ素),Fe(鉄),Mg(マグネシウム),P(リン),Ni(ニッケル),Sn(スズ),Co(コバルト),Zn(亜鉛),Be(ベリリウム),Pb(鉛),Te(テルル),Ag(銀),Zr(ジルコニウム),Cr(クロム),Al(アルミニウム)及びTi(チタン)からなる群より選ばれる少なくとも一種と、不可避不純物とで構成される合金が好ましい。Cu合金におけるCuの量は、好ましくは85質量%以上であり、より好ましくは92質量%以上である(Cuの量は好ましくは99.95質量%以下である)。
【0031】
素材は後述する通り好ましくは(複合皮膜が形成された複合材として)端子の用途に用いられるが、素材自体がそういった用途の形状をしている場合もあるし、素材は平らな形状(平板形状など)で、複合材となった後に用途の形状に成形される場合もある。
【0032】
<<下地層の形成>>
本発明の複合材の製造方法では、素材に対して下地層を形成して、その下地層に対して後述する電気めっきを施してもよい。下地層は、素材の銅がめっき表面に拡散して酸化し、複合材の導電性が劣化することを防止する目的や、複合皮膜の密着性改善の目的で形成される。下地層の構成金属としては、Cu、Ni、Sn及びAgからなる群より選択される少なくとも一種の金属又は合金が挙げられる。なお下地層は、Cu,Ni,Sn、Ag又はこれらの合金のそれぞれからなる単一層やそれらを組み合わせた(積層構造の)層であってもよく、下地層の形成は、製造される複合材の用途に応じて、素材の表層全体でもよいし、その一部でもよい。
【0033】
下地層の形成方法は特に限定されず、前記の構成金属のイオンを含むめっき液を用いて、公知の方法により、電気めっきしたり、目的とする合金層を構成する各金属からなる層を順に積層形成した後リフロー(熱処理)することで、形成することができる。なお前記めっき液は、廃水処理コストの点からシアン化合物を実質的に含まないことが好ましい。
【0034】
<<Agストライクめっき>>
素材上に複合皮膜を形成する前に、Agストライクめっきにより非常に薄い中間層を形成して、素材と複合皮膜との密着性を高めることが好ましい。なお、下地層を素材上に形成する場合は、下地層上にAgストライクめっきを行う(それにより下地層と複合皮膜の密着性を高める)。Agストライクめっきの実施方法としては、本発明の効果を損なわない限り、従来公知の方法を特に制限なく採用することができる。Agストライクめっきに使用するめっき液は、廃水処理コストの点からシアン化合物を実質的に含まないことが好ましい。
【0035】
<<電気めっき>>
本発明の複合材の製造方法では、特定の銀めっき液中で、以上説明した素材に対して、必要に応じて下地層の形成及び/又はAgストライクめっきによる中間層の形成を経た後、電気めっきを行うことで、素材上に、銀層中に炭素粒子を含有する複合皮膜を形成する。
【0036】
<銀めっき液>
銀めっき液は、銀イオン、特定の表面処理を施された炭素粒子を含み、好ましくは特定の化合物Bを含有する。
【0037】
{銀イオン}
銀めっき液は銀イオンを含む。この銀めっき液中の銀の濃度は、複合皮膜の形成速度の観点や、複合皮膜の外観ムラ抑制の観点から5~150g/Lであるのが好ましく、10~120g/Lであるのがさらに好ましく、20~100g/Lであるのが最も好ましい。
【0038】
{表面処理炭素粒子}
銀めっき液は後述する表面処理を施された表面処理炭素粒子を含有する。銀めっき液中の表面処理炭素粒子の量は、銀めっき液を使用して複合皮膜を素材上に形成して得られる複合材の耐摩耗性の観点と、複合皮膜中に導入できる炭素粒子の量には限度があることから、10~150g/Lであることが好ましく、15~120g/Lであることがより好ましく、30~100g/Lであることが特に好ましい。
【0039】
表面処理炭素粒子は従来使用されている炭素粒子と同様、電気めっきにより素材上へ複合皮膜(銀めっき膜)が形成される際に、銀マトリクス中に巻き込まれ、複合材の耐摩耗性を高める。このような機能の発揮の観点から、表面処理炭素粒子を構成する炭素粒子は黒鉛粒子であることが好ましい。この炭素粒子の、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置により測定した体積基準の累積50%粒径(D50)は、銀マトリクスへの巻き込みやすさの観点から0.5~15μmであることが好ましく、1~10μmであることがより好ましい。更に、炭素粒子の形状は、略球状、鱗片形状、不定形など特に限定されないが、複合皮膜表面を平滑にすることで複合材の耐摩耗性を高められることから、鱗片形状であることが好ましい。
【0040】
(炭素粒子の酸化処理)
また、この(表面処理を施される前の)炭素粒子を酸化処理することにより、炭素粒子の表面に吸着している親油性有機物を除去することで、炭素粒子の銀めっき液中での分散性を高めることが好ましい。このような親油性有機物として、アルカンやアルケンなどの脂肪族炭化水素や、アルキルベンゼンなどの芳香族炭化水素が含まれる。炭素粒子の酸化処理として、湿式酸化処理の他、Oガスなどによる乾式酸化処理を使用することができるが、量産性の観点から湿式酸化処理を使用するのが好ましく、湿式酸化処理によって表面積が大きい炭素粒子を均一に処理することができる。湿式酸化処理の方法としては、炭素粒子を水中に懸濁させた後に適量の酸化剤を添加する方法などを使用することができる。酸化剤としては、硝酸、過酸化水素、過マンガン酸カリウム、過硫酸カリウム(ペルオキソ二硫酸カリウム)、過塩素酸ナトリウムなどの酸化剤を使用することができる。炭素粒子に付着している親油性有機物は、添加された酸化剤により酸化されて水に溶けやすい形態になり、炭素粒子の表面から適宜除去されると考えられる。また、この湿式酸化処理を行った後、ろ過を行い、さらに炭素粒子を水洗することにより、炭素粒子の表面から親油性有機物を除去する効果をさらに高めることができる。炭素粒子の酸化処理により、炭素粒子の表面から脂肪族炭化水素や芳香族炭化水素などの親油性有機物を除去することができ、300℃加熱ガスによる分析によれば、酸化処理後の炭素粒子を300℃で加熱して発生したガス中には、アルカンやアルケンなどの親油性脂肪族炭化水素や、アルキルベンゼンなどの親油性芳香族炭化水素が殆ど含まれていない。酸化処理後の炭素粒子中に脂肪族炭化水素や芳香族炭化水素が若干含まれていても、炭素粒子を本発明で使用する銀めっき液中に均一に分散させることができるが、炭素粒子中に分子量160以上の炭化水素が含まれず且つ炭素粒子中の分子量160未満の炭化水素の300℃加熱発生ガス強度(パージ・アンド・トラップ・ガスクロマトグラフ質量分析強度)が5,000,000以下になるのが好ましい。
【0041】
(炭素粒子の表面処理)
好ましくは上記の酸化処理を行った炭素粒子に対して、本発明では水性液体中で特定の化合物Aで30分以上処理を行う。このような処理を行った炭素粒子を含む銀めっき液を使用して電気めっきを行うと、所定量の凸部を有する複合皮膜(炭素粒子を含む銀層からなるめっき層)が形成される。このような凸部を有する複合皮膜が素材上に形成されてなる複合材は、信頼性に優れる。
【0042】
前記化合物Aは、下記一般式(1)であらわされる。
【化3】
【0043】
式(1)において、mは1~5の整数であり、Raは、カルボキシル基であり、Rbは、アルデヒド基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基又はスルホン酸基であり、Rcは、水素又は任意の置換基であり、Ra及びRbはそれぞれ独立に、-O-及び-CH-からなる群より選ばれる少なくとも一種で構成される2価の基を介してベンゼン環と結合していてもよい。前記2価の基の例としては、-CH-CH-O-、-CH-CH-CH-O-、(-CH-CH-O-)が挙げられる(nは2以上の整数である)。
【0044】
式(1)において、mが2以上の場合、複数存在するRbは互いに同一であっても異なっていてもよく、mが3以下の場合、複数存在するRcは互いに同一であっても異なっていてもよい。Rcについて、前記「任意の置換基」としては、炭素数1~10のアルキル基、アルキルアリール基、アセチル基、ニトロ基、ハロゲン基、炭素数1~10のアルコキシル基が挙げられる。
【0045】
十分に凸部を形成して信頼性に優れた複合材を得る観点からは、Rbとしてはカルボキシル基が好ましく、mとしては1が好ましく、Rcとしては水素が好ましい。
【0046】
このような化合物Aによる炭素粒子の処理(以下単に表面処理ともいう)は、具体的には、例えば以下のようにして実施することができる。
【0047】
前記炭素粒子及び化合物Aを含む水性液体を30分以上撹拌する。これにより化合物Aが炭素粒子の表面に吸着するものと考えられる。このような表面処理炭素粒子を含む銀めっき液で素材に対して電気めっきを実施すると、表面処理していない炭素粒子を含む銀めっき液での電気めっきの場合と同様、銀マトリクスが形成されるとともに、その中に表面処理炭素粒子が巻き込まれて複合皮膜を形成する。複合皮膜の形成中、その表面には、銀マトリクス中に巻き込まれたが一部が露出した表面処理炭素粒子が存在しているが、当該粒子の露出しておりかつ化合物Aが吸着した部分に銀(Ag)が析出し(通常は銀の上に銀が析出する)、それが成長して凸部になるものと考えられる。すなわち、前記化合物Aが、銀の析出の起点となると考えられる。得られる複合材の信頼性及び製造コストの観点から、炭素粒子及び化合物Aを含む水性液体を撹拌する時間(表面処理時間)は、好ましくは45分~300時間であり、より好ましくは55分~250時間である。なお、化合物Aは後述する化合物Bと同様の化合物であるが、本項で説明する表面処理をしていない炭素粒子及び化合物Bを銀めっき液に添加して、炭素粒子等を含有するめっき液を調製すると、炭素粒子を化合物Bで数秒~数分表面処理したととらえることができる。しかし、このような短時間の処理では本発明の効果は得られない(後述する比較例2参照)。
【0048】
表面処理の際に使用する水性液体は、純水であってもよいし、水と有機溶媒の混合溶媒であってもよい。混合溶媒の場合、当該溶媒中の水の含有量は、得られる複合材の信頼性の観点から60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。また環境負荷もあわせて考慮すると、水性液体としては特に純水が好ましい。
【0049】
水性液体100質量部に対する炭素粒子の使用量は、表面処理の効率の観点から2~15質量部であることが好ましく、3~10質量部であることがより好ましい。
【0050】
炭素粒子100質量部に対する化合物Aの使用量は、得られる複合材の信頼性や製造コストの観点から0.8~10質量部であることが好ましく、1.5~5質量部であることがより好ましい。
【0051】
表面処理を行う際の水性液体の温度は、表面処理効率の観点から10~50℃であることが好ましく、20~35℃であることがより好ましい。
【0052】
また表面処理の際の撹拌はスターラや撹拌羽根により行うことができ、その回転速度は、表面処理の効率および得られる複合材の信頼性の観点から250~600rpmが好ましく、300~500rpmがより好ましい。
【0053】
以上のようにして化合物Aによる表面処理を行った後、表面処理炭素粒子を含む水性液体をろ過し、ろ取物を水洗して、表面処理炭素粒子を回収してもよい。
【0054】
{化合物B}
次に、銀めっき液は好ましくは化合物Bを含む。前記化合物Bは、下記一般式(2)で表される。
【0055】
【化4】
【0056】
式(2)において、pは1~5の整数であり、Rdは、カルボキシル基であり、Reは、アルデヒド基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基又はスルホン酸基であり、Rfは、水素又は任意の置換基であり、Rd及びReはそれぞれ独立に、-O-及び-CH-からなる群より選ばれる少なくとも一種で構成される2価の基を介してベンゼン環と結合していてもよい。前記2価の基の例としては、-CH-CH-O-、-CH-CH-CH-O-、(-CH-CH-O-) が挙げられる(は2以上の整数である)。
【0057】
化合物Bは、析出した銀の表面に吸着して銀の結晶が成長することを抑えることで、電気めっきにより形成される複合皮膜における銀の結晶子サイズを小さくするものと考えられる。これにより、硬度に優れ、それゆえ耐摩耗性に優れた複合材が得られる。
【0058】
また上記一般式(2)において、pが2以上の場合、複数存在するReは互いに同一であっても異なっていてもよく、pが3以下の場合、複数存在するRfは互いに同一であっても異なっていてもよくRfについて、前記「任意の置換基」としては、炭素数1~10のアルキル基、アルキルアリール基、アセチル基、ニトロ基、ハロゲン基、炭素数1~10のアルコキシル基が挙げられる。
【0059】
銀めっき液中の化合物Bの濃度は、複合皮膜の外観ムラ抑制や、形成される複合皮膜における銀の結晶子サイズを適切に制御する観点から2~250g/Lであることが好ましく、3~200g/Lであることがより好ましい。
【0060】
{錯化剤}
本発明で使用する銀めっき液は、好ましくは錯化剤を含有する。錯化剤は銀めっき液中の銀イオンを錯体化して、そのイオンとしての安定性を高める。この作用により、銀のめっき液を構成する溶媒への溶解度が高まる。
【0061】
錯化剤は、前記の機能を有するものを広く使用することができるが、形成される錯体の安定性の観点からスルホン酸基を有する化合物が好ましい。スルホン酸基を有する化合物としては、炭素数1~12のアルキルスルホン酸、炭素数1~12のアルカノールスルホン酸及びヒドロキシアリールスルホン酸が挙げられる。これらの化合物の具体例としては、メタンスルホン酸、2-プロパノールスルホン酸及びフェノールスルホン酸が挙げられる。
【0062】
銀めっき液中の錯化剤の量は、銀イオンの安定化の観点から、30~200g/Lであることが好ましく、50~120g/Lであることがより好ましい。
【0063】
{他の添加剤}
他の添加剤として、例えば本発明に使用する銀めっき液は、光沢剤、硬化剤、電導度塩を含有してもよい。前記硬化剤としては、硫化炭素化合物(例えば二硫化炭素)、無機硫黄化合物(例えばチオ硫酸ナトリウム)、有機化合物(スルホン酸塩)、セレン化合物、テルル化合物、周期律表4Bまたは5B族金属等が挙げられる。前記電導度塩としては水酸化カリウム等が挙げられる。
【0064】
{溶媒}
銀めっき液を構成する溶媒は、主に水である。水は、(錯体化した)銀イオンの溶解性、めっき液が含むその他の成分の溶解性や、環境への負荷が小さいことから好ましい。また、溶媒として、水とアルコールの混合溶媒を使用してもよい。
【0065】
{シアン化合物}
本発明で使用する銀めっき液の主要な成分は上記の通りであり、この銀めっき液は典型的にはシアン化合物を実質的に含まない(具体的には、銀めっき液中のシアン化合物の含有量が1mg/L以下である。)。シアン化合物とは、シアノ基(-CN)を含む化合物であり、シアン化合物はJIS K 0102:2019に従って定量できる。シアン化合物は水質汚濁防止法(排水基準)やPRTR(環境汚染物質排出・移動登録)制度の対象物質であり、廃水処理コストが大きい。本発明で使用する銀めっき液は前記の通り典型的にはシアン化合物を実質的に含まないので、その廃水処理コストは小さい。
【0066】
<電気めっき条件>
次に、以上説明した銀めっき液を用いた電気めっきの諸条件について説明する。例えば以下に説明する電気めっきにより、素材上に金属銀が析出するとともに、その際、銀マトリクス中に表面処理炭素粒子が巻き込まれ、複合皮膜が形成される。形成されつつある銀マトリクスから露出した表面処理炭素粒子における化合物Aの部分にて銀が析出、成長した結果、所定量の凸部が形成されると考えられる。また、銀めっき液が化合物Bを含む場合には、その機能により、複合皮膜における銀の結晶子サイズは小さく抑えられている。
【0067】
(カソード及びアノード)
電気めっきする対象である素材がカソードである。溶解して銀イオンを提供する、例えば銀電極板がアノードである。
【0068】
(電流密度)
銀めっき液(めっき浴)にカソード及びアノードを浸漬し、電流を流して銀めっきする。ここでの電流密度は、複合皮膜の形成速度の観点及び複合皮膜の外観のムラ抑制の観点から、0.5~10A/dmが好ましく、1~8A/dmがより好ましく、1~5A/dmが更に好ましい。
【0069】
(温度・撹拌・めっき時間・めっき対象部位)
電気めっきを行う際のめっき浴(銀めっき液)の温度(めっき温度)は、めっきの生産効率および液の過度な蒸発を防ぐ観点から15~50℃であることが好ましく、20~45℃であることがより好ましい。この際のめっき浴のスターラや撹拌羽根による撹拌の速度は、均一なめっきの実施の観点から、200~550rpmであることが好ましく、350~500rpmであることがより好ましい。銀めっきの時間(電流をかける時間)は、目的とする複合皮膜の厚さに応じて適宜調整することができるが、代表的には25~1800秒の範囲である。まためっきする対象部位は、製造される複合材の用途に応じて、素材の表層全体でもよいし、素材の表層の一部でもよい。
【0070】
<<複合皮膜表面の炭素粒子の一部除去処理>>
以上説明した電気めっきにより、素材上に複合皮膜が形成される。この複合皮膜表面には、銀マトリクスに巻き込まれて(埋まって)おり脱落しにくい炭素粒子と、巻き込まれたというよりも表面に付着しており、脱落しやすい炭素粒子が存在している。後者は複合材の曲げ加工時などに設備を汚染しうる。そこでこのような炭素粒子を洗浄して除去することが好ましい。洗浄方法の一つは、複合皮膜の表面を超音波洗浄する処理である。超音波洗浄は、20~100kHzで1~300秒間行われることが好ましい。また別の洗浄方法としては電解洗浄処理が挙げられる。この場合、電解洗浄が1~30A/dmで10~300秒間行われることが好ましい。
【0071】
[複合材]
以下、本発明の複合材の実施の形態について説明する。当該複合材は、炭素粒子を含有する銀層からなる複合皮膜が素材上に形成されてなる複合材であって、複合皮膜の表面をレーザー顕微鏡観察したときに、観察視野において所定の凸部が占める割合が12面積%以上である複合材である。この複合材は、例えば本発明の複合材の製造方法の実施の形態により製造することができる。以下、この複合材の各構成について説明する。
【0072】
<<素材>>
前記素材は、本発明の複合材の製造方法について上記で説明した素材と同様である。すなわち素材の構成材料としてはCu(銅)及びCu合金が好適であり、前記Cu合金としては、導電性と強度などの観点から、Cuと、Si(ケイ素),Fe(鉄),Mg(マグネシウム),P(リン),Ni(ニッケル),Sn(スズ),Co(コバルト),Zn(亜鉛)及び,Be(ベリリウム),Pb(鉛),Te(テルル),Ag(銀),Zr(ジルコニウム),Cr(クロム),Al(アルミニウム)及びTi(チタン)からなる群より選ばれる少なくとも一種と、不可避不純物とで構成される合金が好ましい。
【0073】
<<複合皮膜>>
素材上に形成された複合皮膜は、炭素粒子を含有する銀層で構成される。この銀層においては、銀からなるマトリクス中に炭素粒子が(好ましくは略均等に)分散している。なお複合皮膜を形成する前にAgストライクめっきを行っている場合は、素材(又は後述する下地層)と複合皮膜の間にこのストライクめっきによる中間層が存在するが、非常に薄くて複合皮膜と区別できない場合も多い。また複合皮膜は素材の表層全体の上に形成されていてもよいし、表層の一部上に形成されていてもよい。
【0074】
<炭素粒子>
前記炭素粒子は、本発明の複合材の製造方法について上記で説明した表面処理炭素粒子と同様である。すなわち炭素粒子は黒鉛粒子であることが好ましく、その形状は、略球状、鱗片形状、不定形など特に限定されないが、複合皮膜表面を平滑にすることで複合材の耐摩耗性を高められることから、鱗片形状であることが好ましい。本発明の複合材が本発明の複合材の製造方法で説明されている場合、前記炭素粒子の表面には化合物Aが吸着していると考えられる。
【0075】
また炭素粒子の平均一次粒子径は、複合材の耐摩耗性の観点から、0.5~15μmであることが好ましく、1~10μmであることがより好ましい。なお平均一次粒子径とは、粒子の長径の平均値であり、長径とは、複合材の複合皮膜中の炭素粒子を適切な観察倍率で観察した画像(平面)における、粒子内にひくことのできる最も長さの長い線分の長さとする。また長径は、50個以上の粒子について求めるものとする。
【0076】
<所定の凸部及び算術平均粗さRa>
本発明の複合材の実施の形態における複合皮膜は、所定の凸部を有しており、これにより優れた信頼性を示す。本明細書において、前記凸部は以下の通り定義される。
【0077】
複合材の複合皮膜をレーザー顕微鏡で倍率1000倍で観察し、得られた観察視野の画像(143μm×107.2μm、1024×768ピクセルで構成される)における各ピクセルの高さ(ピクセル高さ)を求める。このピクセル高さは、前記観察視野内で最も低いピクセルに対する高低差(任意のピクセルの高さX-最も低いピクセルの高さY)として求められる。そして求められた各ピクセルのピクセル高さを低い順に並べたときの累積個数割合が10%となるピクセルのピクセル高さ(10パーセンタイル値)を基準高さHとする。なお観察視野のピクセル総数は786432であり、累積個数割合が初めて10%を超えるピクセルのピクセル高さを前記基準高さH(10パーセンタイル値)とする。基準高さHは、例えば0.1~10μmであり、好ましくは0.3~5μmである。
【0078】
そして、前記観察視野内の、ピクセル高さがHより1μm以上高い箇所(ピクセル)を凸部と定義する。複合皮膜は電気めっきなどの手法により形成することができるが、上記の10パーセンタイル値が、形成される複合皮膜(めっき膜)の、平坦な膜形成ができている部分、すなわち平坦部分の高さと近似することができる。本発明では、この平坦部分よりも所定の高さ(1μm以上)だけ高い箇所を、前記凸部と定義したものである。
【0079】
[発明が解決しようとする課題]の項にて説明したとおり、複合材が加熱されると、素材から銅が複合皮膜の方へ拡散し、当該皮膜の表面に到達して酸化されて、複合材の抵抗が上昇する。一方本発明においては、メカニズムは不明であるが、複合皮膜を構成する凸部は銅が拡散しにくいと考えられる。そして当該凸部は前記の通り基準高さHからの高さが1μm以上と、一定程度以上の高さを有している。
【0080】
本発明の複合材の実施の形態では、複合皮膜を上記レーザー顕微鏡観察したときに、観察視野内において、前記の通り銅が拡散しにくいと考えられ、そして高さの高い凸部が占める割合が12面積%以上であることにより、優れた信頼性が達成される。なお前記の面積割合(凸部面積率)は、前記観察視野を構成する全ピクセルのうち、ピクセル高さがHより1μm以上高いピクセルの個数の、全ピクセルの個数に対する割合として求めることができる。複合材の信頼性の観点と、凸部が占める割合を非常に大きくすることは製造上困難であることから、凸部面積率は好ましくは15~75面積%であり、更に導電性の観点もあわせると、当該割合は特に好ましくは18~70%である。
【0081】
なお、凸部の高さに関して上限は特にないが、上記観察視野を構成するピクセルのうち最も高いピクセルのピクセル高さ(最も高いピクセルの高さX-最も低いピクセルの高さY)は、例えば1.8~25μmであり、好ましくは2.4~20μmである。
【0082】
また、このような凸部を有する本発明の複合材の複合皮膜表面の算術平均粗さRaは、ある程度以上の数値を示し、具体的には例えば0.6μm以上である(通常7.0μm以下である)。
【0083】
<結晶子サイズ及びビッカース硬度>
本発明の複合材の実施の形態における複合皮膜における銀の結晶子サイズは、好ましくは40nm以下と小さい。このように結晶子サイズが小さいことで、ホール・ペッチの関係(一般に、金属材料は結晶粒が小さいほど強度が増す)から複合皮膜の硬度が高く、硬度が高いことで複合皮膜が削れにくくなり複合材の耐摩耗性が高くなる。硬度を高めて耐摩耗性を高める観点と、結晶子サイズを非常に微細にすることは製造上困難であることから、結晶子サイズは好ましくは2~35nmであり、より好ましくは2~30nmである。
【0084】
なお本発明において銀の結晶子サイズとしては、結晶面による偏りを減らすため銀の(111)面と(222)面の結晶子サイズを平均した(足して2で除した)値を採用する。結晶子サイズの更に詳細な測定方法については、実施例で説明する。
【0085】
以上のように好ましい態様の複合皮膜は結晶子サイズが小さいため硬度が高く、具体的には、そのビッカース硬度Hvは、好ましくは100以上であり、より好ましくは120~230である。ビッカース硬度Hvの測定方法の詳細については、実施例で説明する。
【0086】
<炭素の含有量及び面積率>
本発明の複合材の実施の形態における複合皮膜は上記の通り炭素粒子を含有しており、複合皮膜中の炭素の含有量は、複合材の耐摩耗性及び導電性の観点から、好ましくは1~50質量%であり、より好ましくは1.5~40質量%であり、更に好ましくは2~35質量%である。
【0087】
また、炭素粒子を含んでいる複合皮膜の表面における炭素粒子が占める割合(面積率)は、耐摩耗性の指標になり、耐摩耗性と導電性のバランスの観点から、好ましくは10~80面積%であり、より好ましくは12~50面積%である。本発明の複合材の製造方法の説明にて説明した通り、複合皮膜の表面には、付着しているだけで脱落しやすい炭素粒子が存在している場合がある。この場合には、<<複合皮膜表面の炭素粒子の一部除去処理>>の項にて説明したのと同様の超音波洗浄処理を施してから複合皮膜表面の炭素の面積率を求めるものとする。前記面積率の測定方法の詳細については、実施例で説明する。
【0088】
<銀と炭素の含有量の合計>
本発明の複合材の実施の形態における複合皮膜の元素組成については、典型的には実質的に銀と炭素とからなる。
【0089】
<複合皮膜の厚さ>
複合皮膜の厚さは特に制限されないが、耐摩耗性や信頼性や導電性の点で、最低限の厚さがあることが好ましい。また厚さが大きすぎても複合皮膜の効果は飽和し、原料コストが高まる。以上の観点から、複合皮膜の厚さは0.5~45μmであることが好ましく、1~35μmであることがより好ましく、1.5~25μmであることが更に好ましい。本発明の複合材は、複合皮膜に所定量の凸部があるので、複合皮膜の厚さが薄くとも、優れた信頼性を示す。なお複合皮膜の厚さは蛍光X線膜厚計で測定するが、測定方法の詳細については、実施例で説明する。
【0090】
<<下地層>>
素材と複合皮膜の間に、種々の目的で下地層が形成されていてもよい。下地層の構成金属としては、Cu、Ni、Sn及びAgからなる群より選択される少なくとも一種の金属又は合金が挙げられる。例えば素材中の銅が複合皮膜表面に拡散して導電性が劣化することを防止する目的では、Niからなる下地層を形成することが好ましい。素材が黄銅などの亜鉛を含む銅合金で、素材中の亜鉛が複合皮膜表面に拡散することを防止する目的では、Cuからなる下地層を形成することが好ましい。複合皮膜の素材への密着性改善の目的では、Agからなる下地層を形成することが好ましい。下地層の厚さは特に限定されないが、その機能発揮とコストの観点から、0.1~2μmであることが好ましく、0.2~1.5μmであることがより好ましい。また、電気・電子部品の端子にはCu下地やNi下地を含むSnめっきまたはリフローSnめっきを施した(素材側からCu下地、Ni下地、Sn下地の積層構造の)材料が使用されることが多く、本発明においてもこのような積層構造の下地層を形成してもよい。したがって本発明において、複合皮膜の下地にCu,Ni,Sn、Ag又はこれらの合金のそれぞれからなる単一層やそれらを組み合わせた(積層構造の)層があってもよく、また例えば素材の電気接点部に本発明で規定する複合皮膜を形成し(下地層は形成してもしなくてもよい)、電線加締め部にリフローSnめっき下地層を形成する(複合皮膜は形成しない)など、場所によって異なる層を形成してもよい。
【0091】
<<複合材の信頼性>>
本発明の複合材の実施の形態は、複合皮膜が上述した凸部を所定量有するものであり、信頼性に優れる。また従来技術と同等程度の優れた導電性を備えている。
【0092】
具体的には、後述する実施例の方法(四端子法)で測定した接触抵抗が、好ましくは、荷重0.5Nでは0.6~3.0mΩであり荷重1.0Nでは0.4~2.5mΩであり荷重2.0Nでは0.3~2.0mΩであり、より好ましくは荷重0.5Nでは0.6~2.8mΩであり荷重1.0Nでは0.4~2.3mΩであり荷重2.0Nでは0.3~1.8mΩである。
【0093】
そして、複合材を大気雰囲気下、200℃で120hr保管した後の後述する実施例の方法(四端子法)で測定した接触抵抗が、好ましくは、荷重0.5Nでは0.6~3.0mΩであり荷重1.0Nでは0.5~2.5mΩであり荷重2.0Nでは0.4~2.0mΩであり、
より好ましくは荷重0.5Nでは0.6~2.8mΩであり荷重1.0Nでは0.5~2.3mΩであり荷重2.0Nでは0.4~1.8mΩである。
【0094】
また、信頼性の観点から、複合材を大気雰囲気下、200℃で120hr保管する前後の接触抵抗の比率(加熱保管後の接触抵抗/加熱保管前の接触抵抗)は、0.5N、1.0N、2.0Nのいずれにおいても、好ましくは0.6~2.0であり、より好ましくは0.7~1.5であり、更に好ましくは0.75~1.4である。
【0095】
以上のように本発明の複合材の実施の形態は、加熱前後でほとんど接触抵抗が変化せず、信頼性に優れている。さらに1.0Nといった低荷重であっても十分に低い抵抗を示すことから、例えばコネクタなどの端子(端子は例えば本発明の複合材を曲げ加工することで製造できる)といった嵌合部品では、端子に所定の応力(上記1.0N等よりも大きな力)がかかるように設計されているが、長期間使用されて応力緩和の現象により端子にかかる応力が低下して1.0N程度になったとしても、十分な導通を確保することができる。
【0096】
なお、信頼性に加えて導電性の観点からは、凸部面積率が30面積%以上でありかつ複合皮膜の厚さが2.8μm以上であることが好ましく、凸部面積率が35~62面積%でありかつ複合皮膜の厚さが3.0μm以上であることがより好ましい。
【0097】
[端子]
本発明の複合材の実施の形態は信頼性に優れ、好ましい態様の複合材は硬度にも優れる(それゆえ耐摩耗性に優れる)ので、電気接点用の端子、特にスイッチやコネクタなどの、その使用において摺動がなされる電気接点部品における端子の構成材料として好適である。
【実施例
【0098】
以下、本発明による複合材およびその製造方法の実施例について詳細に説明する。
【0099】
[実施例1]
<炭素粒子の準備 酸化処理>
炭素粒子として平均粒径4.8μmの鱗片形状黒鉛粒子(日本黒鉛工業株式会社製のPAG-3000)80gを1.4Lの純水中に添加し、この混合液を攪拌しながら50℃に昇温させた。なお前記平均粒径は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製のMT3300(LOW-WET MT3000II Mode))を用いて測定した、体積基準の累積値が50%の粒径である。次に、この混合液に酸化剤として0.1モル/Lのペルオキソ二硫酸カリウム水溶液0.6Lを徐々に滴下した後、2時間攪拌することで酸化処理を行い、その後、ろ紙によりろ別を行ない、得られた固形物に対して水洗を行った。
【0100】
この酸化処理の前後の炭素粒子について、パージ・アンド・トラップ・ガスクロマトグラフ質量分析装置(加熱脱着装置として日本分析工業株式会社製のJHS-100およびガスクロマトグラフ質量分析計として株式会社島津製作所製のGCMS QP-5050Aを組み合わせた装置)を使用して、300℃加熱発生ガスの分析を行ったところ、上記の酸化処理により、炭素粒子に付着していた(ノナン、デカン、3-メチル-2-ヘプテンなどの)親油性脂肪族炭化水素や、(キシレンなどの)親油性芳香族炭化水素が除去されていることがわかった。
【0101】
<炭素粒子の準備 表面処理>
酸化処理後の炭素粒子50gを1Lの純水中に添加した後、2,4-ジヒドロキシ安息香酸(化合物A)を1g加え、液温25℃の状態でスターラにより400rpmで1h攪拌することで炭素粒子に対する表面処理を行った。その後、ろ紙によりろ別を行い、得られた固形物(炭素粒子)に対して水洗を行った。
【0102】
<Agストライクめっき>
縦5.0cm、横5.0cm、厚さ0.2mmのCu-Ni-Sn-P合金からなる板材(1.0質量%のNiと0.9質量%のSnと0.05質量%のPを含み、残部がCuおよび不可避不純物である銅合金の板材)(DOWAメタルテック株式会社製のNB-109EH)を用意した。この板材を素材として、当該素材をカソード、(チタンのメッシュ素材を酸化イリジウムコーティングした)酸化イリジウムメッシュ電極板をアノードとして使用して、錯化剤としてメタンスルホン酸を含むスルホン酸系銀ストライクめっき液(大和化成株式会社製のダインシルバーGPE-ST、シアン化合物を実質的に含まない。銀濃度3g/L、メタンスルホン酸濃度42g/L)中において、液温25℃、電流密度5A/dmで60秒間電気めっき(銀ストライクめっき)を行った。なお銀ストライクめっきは素材の表層全体に対して行った。
【0103】
<AgCめっき>
錯化剤としてメタンスルホン酸を含む、銀濃度30g/L、メタンスルホン酸濃度60g/Lのスルホン酸系銀めっき液(大和化成株式会社製のダインシルバーGPE-HB(一般式(2)に該当する化合物Bを4.2g/Lの濃度で含み、溶媒は主に水である))に、上記の酸化処理および表面処理を行った炭素粒子(黒鉛粒子)を添加して、濃度50g/Lの表面処理炭素粒子と濃度30g/Lの銀と濃度60g/Lのメタンスルホン酸を含む炭素粒子含有スルホン酸系銀めっき液を用意した。この銀めっき液は、実質的にSb及びシアン化合物を含まない。
【0104】
次に、上記のAgストライクめっきした素材をカソード、銀電極板をアノードとして使用して、上記の炭素粒子含有スルホン酸系銀めっき液中において、スターラにより400rpmで撹拌しながら、温度25℃、電流密度3A/dmで180秒間電気めっきを行い、銀層中に炭素粒子を含有する複合皮膜(AgCめっき皮膜)が素材上に形成されてなる複合材を得た。なお複合皮膜は素材の表層全体上に形成した。
【0105】
<超音波洗浄処理>
得られた複合材の複合皮膜表面に対して、超音波洗浄器(AS ONE製のVS-100III出力100W、槽内寸法:縦140mm×横240mm×深さ100mm)を使用して、液媒体を水として28kHzで4分の超音波洗浄処理を実施した。
【0106】
以上の複合材の製造条件等を、後述する実施例2~7及び比較例1~5の製造条件等とともに、後記表1及び2にまとめた。
【0107】
得られた複合材について、以下の評価を行った。
【0108】
<複合皮膜の銀の結晶子サイズ>
複合皮膜の表面について、JIS H 7805:2005に準拠し、X線回析装置(株式会社リガク製のRINT‐2000)を用いてX線回折測定(Cu Kα線管球、管電圧:30kV、管電流:10mA、ステップ幅:0.02°、走査範囲:2θ=10°~154°、スキャンスピード:10°/分、測定時間:約15分、(111)面のピーク:2θ=37.9~38.7°、(222)面のピーク:2θ=79~82.2°)を行った。検出された銀の(111)面、(222)面のピークから、X線解析ソフトウェア(株式会社リガク製のPDXL)を用いて半値全幅(FWHM:Full Width at Half Maximum)を求め、Scherrerの式から銀のそれぞれの結晶面における結晶子サイズを計算した。結晶面による偏りを減らすため銀の(111)面と(222)面の結晶子サイズを平均した値を、銀の結晶子サイズとした。結晶子サイズは26.3nmだった。
【0109】
なお、Scherrerの式は以下の通りである。
D=K・λ/(β・cosθ)
D:結晶子サイズ
K:Scherrer定数、0.9とした
λ:X線の波長、CuKα線なので1.54Å
β:半値全幅(FWHM)(rad)
θ:測定角度(deg)
【0110】
<複合皮膜表面の炭素面積率>
卓上顕微鏡(株式会社日立ハイテク製のTM4000 Plus)を使用して加速電圧5kVで1000倍に拡大して複合皮膜の表面を観察した反射電子組成(COMPO)像(1視野)をGIMP 2.10.10(画像解析ソフト)にて2値化し、複合皮膜表面において炭素が占める面積率を算出した。具体的には、全ピクセルのうち最も高い輝度を255、最も低い輝度を0とすると、輝度が127以下のピクセルが黒、輝度が127を超えるピクセルが白になるように階調を二値化し、銀の部分(白い部分)と炭素粒子の部分(黒い部分)に分離して、画像全体のピクセル数Xに対する炭素粒子の部分のピクセル数Yの比Y/Xを、表面の炭素面積率(%)として算出した。炭素面積率は26.2%だった。
【0111】
<複合皮膜表面のビッカース硬度Hv>
複合皮膜表面のビッカース硬度Hvは、微小硬度計(株式会社ミツトヨ製のHM221)を使用して、荷重0.01Nを複合材の平らな部分に15秒間加えて、JIS Z 2244に従って測定し、3回の測定の平均値を採用した。結果、ビッカース硬度Hvは174だった。
【0112】
<複合皮膜の厚さ>
この複合皮膜(の縦5.0cm、横5.0cmの面における中央部分の直径0.2mmの円形の範囲)の厚さを蛍光X線膜厚計(株式会社日立ハイテクサイエンス製のFT9450)で測定したところ、3.3μmであった。なお蛍光X線膜厚計では(炭素粒子の)C原子の検出は困難でAg原子を検出して厚さを求めているが、本発明ではこれにより求まる厚さを複合皮膜の厚さとみなす。
【0113】
<複合皮膜の算術平均粗さ>
上記複合皮膜の表面について、レーザー顕微鏡(株式会社キーエンス製のVKX-110)により倍率1000倍で撮影した複合皮膜表面の画像について、解析アプリケーション(株式会社キーエンス製のVK-HIXAバージョン3.8.0.0)によりJIS B 0601(2001年)に基づいて、(複合皮膜の観察面全体における)表面粗さを表すパラメータである算術平均粗さRaを算出したところ2.6μmであった。
【0114】
<基準高さH及び最大高さ>
前記算術平均粗さRaを求めるためにレーザー顕微鏡で観察して得られた観察視野(143μm×107.2μm、1024×768ピクセルで構成される)の、当該観察視野を構成する各ピクセルの高さデータを包含する画像について、解析アプリケーション(株式会社キーエンス製のVK-HIXAバージョン3.8.0.0)の「面傾き補正(自動)」を実施し、当該アプリケーションで前記観察視野の画像を構成する各ピクセルの高さ(ピクセル高さ)についての頻度分布図を作成した。なお各ピクセルのピクセル高さは、観察視野内で最も低いピクセルのピクセル高さを0とし、これに対する高さ(高低差)として求めた。統計ソフトRstudio(Version 1.4.1103 フリーソフト)を用いて、作成した頻度分布図の10パーセンタイル値を求めた。これが本発明における基準高さHであり、具体的には1.6μmだった。また、最も高さの高いピクセルの高さ(最大高さ)は17.1μmだった。
【0115】
<凸部の面積率>
基準高さHを求めた上記観察視野の画像において、ピクセル高さが(H+1)μm以上であるピクセル個数の、観察視野を構成する全ピクセルの個数に対する割合、すなわち凸部の面積割合を求めた。その結果、凸部の面積率は67.8面積%だった。
【0116】
<信頼性の評価>
(初期の抵抗値)
実施例1で使用したのと同じCu-Ni-Sn-P合金板材から横2.0cm×縦3.0cmの大きさの素材を切り出して、実施例1と同じ条件でAgストライクめっき及びAgCめっきを実施して複合材(平板状試験片)を得た。
【0117】
実施例1で使用したのと同じCu-Ni-Sn-P合金板材を縦4.0cm横1.0cmに切り出し、中央に内径1.0mmのインデント(半球形状に押し出す)加工を施し、インデントの突き出た凸部側の面(下記の、平板状試験片に押し当てられる面)に後述する比較例4と同様のめっき処理(AgSbめっき)を施し、インデント試験片を得た。
【0118】
この平板状試験片を摺動摩耗試験機(株式会社山崎精機研究所製 CRS-G2050-DWA)に設置し、インデント付き試験片の凸部を一定の荷重(0.5、1.0、2.0N)で押し当てた際の接触抵抗を四端子法で測定したところ、0.5Nでは1.5mΩ、1.0Nでは1.3mΩ、2.0Nでは1.0mΩだった。
【0119】
(加熱保管後の抵抗値の評価)
上記平板状試験片を大気雰囲気下、200℃で120hr保管した(インデント付き試験片については加熱保管は行わなかった)。その後、接触抵抗を前記と同様の方法で四端子法で測定したところ、0.5Nでは1.8mΩ、1.0Nでは1.2mΩ、2.0Nでは0.9mΩだった。
【0120】
以上の評価結果は、後述する実施例2~7及び比較例1~5の評価結果とともに後記表3及び4にまとめた。
【0121】
[実施例2]
AgCめっきのめっき時間を120秒とした以外は実施例1と同様にして複合材を作成した。
【0122】
得られた複合材について、実施例1と同様に、複合皮膜の厚さ、ビッカース硬度Hv、凸部面積率、最大高さ、算術平均粗さRa、複合皮膜表面の炭素面積率及び信頼性を評価した。基準高さHは2.9μmだった。
【0123】
[実施例3]
AgCめっきのめっき時間を300秒とした以外は実施例1と同様にして複合材を作成した。
【0124】
得られた複合材について、実施例1と同様に、複合皮膜の厚さ、ビッカース硬度Hv、凸部面積率、最大高さ、算術平均粗さRa、複合皮膜表面の炭素面積率及び信頼性を評価した。基準高さHは2.5μmだった。
【0125】
[実施例4]
AgCめっきのめっき時間を600秒とした以外は実施例1と同様にして複合材を作成した。
【0126】
得られた複合材について、実施例1と同様に、複合皮膜の厚さ、ビッカース硬度Hv、凸部面積率、最大高さ、算術平均粗さRa、複合皮膜表面の炭素面積率及び信頼性を評価した。基準高さHは0.3μmだった。
【0127】
[実施例5]
AgCめっきのめっき時間を1200秒とした以外は実施例1と同様にして複合材を作成した。
【0128】
得られた複合材について、実施例1と同様に、複合皮膜の厚さ、ビッカース硬度Hv、凸部面積率、最大高さ、算術平均粗さRa、複合皮膜表面の炭素面積率及び信頼性を評価した。基準高さHは1.3μmだった。
【0129】
[実施例6]
炭素粒子の表面処理の時間を180時間とした以外は、実施例1と同様にして複合材を作成した。
【0130】
得られた複合材について、実施例1と同様に、複合皮膜の厚さ、ビッカース硬度Hv、凸部面積率、最大高さ、算術平均粗さRa、複合皮膜表面の炭素面積率及び信頼性を評価した。基準高さHは2.6μmだった。なお、前記凸部面積率を求めるにあたって作成した、横軸にレーザー顕微鏡観察画像を構成する各ピクセルのピクセル高さを、縦軸にその頻度(個数)をとった頻度分布図を、図1(a)に示す。
【0131】
[実施例7]
実施例1と同様の素材をカソード、Ni電極板をアノードとして使用して、濃度342g/Lのスルファミン酸ニッケル(Ni濃度として80g/L)と濃度45g/Lのホウ酸からなるニッケルめっき浴(水溶液)中において、液温55℃、電流密度4A/dmで攪拌しながら40秒間電気めっき(Niめっき)を行って、素材上に厚さ0.3μmのNi皮膜(Ni下地層)を形成した。下地層の厚さは複合皮膜の厚さを求める方法と同様の方法で測定した。
【0132】
Ni下地を形成した素材に対してAgストライクめっきを施した以外は、実施例1と同様にして複合材を作成した。
【0133】
得られた複合材について、実施例1と同様に、複合皮膜の厚さ、ビッカース硬度Hv、凸部面積率、最大高さ、算術平均粗さRa、複合皮膜表面の炭素面積率及び信頼性を評価した。基準高さHは3.1μmだった。
【0134】
[比較例1]
炭素粒子含有スルホン酸系銀めっき液の代わりに、錯化剤としてメタンスルホン酸を60g/Lの濃度で含むAg濃度30g/Lのスルホン酸系銀めっき液(大和化成株式会社製のダインシルバーGPE-HB(一般式(2)に該当する化合物を含み、溶媒は主に水である))を使用してAgめっきを行った以外は、実施例1と同様にして、銀めっき皮膜が素材上に形成されてなる銀めっき材を作成した。
【0135】
得られた複合材について、実施例1と同様に、銀めっき皮膜の厚さ、ビッカース硬度Hv、凸部面積率、最大高さ、算術平均粗さRa、複合皮膜表面の炭素面積率及び信頼性を評価した。基準高さHは2.5μmだった。
【0136】
[比較例2]
炭素粒子に表面処理を行わなかった以外は、実施例1と同様にして複合材を作成した。なお、炭素粒子含有スルホン酸系銀めっき液を調製してから電気めっきを実施するまでの時間は、約10分だった。
【0137】
得られた複合材について、実施例1と同様に、複合皮膜の厚さ、ビッカース硬度Hv、凸部面積率、最大高さ、算術平均粗さRa、複合皮膜表面の炭素面積率及び信頼性を評価した。基準高さHは2.4μmだった。
【0138】
[比較例3]
実施例3で作成された複合材について、卓上型試料研磨機(株式会社ストルアス製のラボポール20)にセットした琢磨布(株式会社ストルアス製のMD‐Mol、型番40500220、タフタ織ウール100%)に研磨剤(株式会社ストルアス製のDPルーブリカント赤、型番40700070、エマルジョンベース(粒子径3μm以下のダイヤモンド砥粒を含有))を3滴たらし、琢磨布を100rpmで回転させながら複合皮膜を5秒間琢磨布に押し付けることでバフ研磨を行った。研磨後、実施例1と同様にレーザー顕微鏡にて複合皮膜の算術平均粗さを算出した。また、実施例1と同様に複合皮膜の厚さを測定したところ0.2μm減少していた。この作業を繰り返し、表面粗さRaが初めて1.0μm以下になった時点で研磨を終了とした。
【0139】
得られた(研磨された)複合材について、実施例1と同様に、複合皮膜の厚さ、ビッカース硬度Hv、凸部面積率、算術平均粗さRa、複合皮膜表面の炭素面積率及び信頼性を評価した。基準高さHは2.9μmだった。なお、前記凸部面積率を求めるにあたって作成した、横軸にレーザー顕微鏡観察画像を構成する各ピクセルのピクセル高さを、縦軸にその頻度(個数)をとった頻度分布図を、図1(b)に示す。
【0140】
[比較例4]
<Agストライクめっき>
実施例1と同様の素材を用意し、この素材をカソード、(チタンのメッシュ素材を白金めっきした)チタン白金メッシュ電極板をアノードとして使用して、錯化剤としてシアン化合物を含むシアン系Agストライクめっき液(一般試薬から建浴、シアン化銀濃度3g/L、シアン化カリウム濃度90g/L、溶媒は水)中において、25℃で電流密度5A/dmで30秒間電気めっき(Agストライクめっき)を行った。
【0141】
<AgSbめっき>
錯化剤としてシアン化合物を含む銀濃度60g/L、アンチモン(Sb)濃度2.5g/Lのシアン系Ag-Sb合金めっき液(溶媒は水)を用意した。前記シアン系Ag-Sb合金めっき液は、10質量%のシアン化銀と30質量%のシアン化ナトリウムとニッシンブライトN(日進化成株式会社製)を含み、前記めっき液中のニッシンブライトNの濃度は50mL/Lである。そしてニッシンブライトNは、光沢剤と三酸化二アンチモンを含み、ニッシンブライトNにおける三酸化二アンチモンの濃度は6質量%である。
【0142】
次に、上記のAgストライクめっきした素材をカソード、銀電極板をアノードとして使用して、上記のシアン系Ag-Sb合金めっき液中において、スターラにより400rpmで撹拌しながら、温度18℃、電流密度3A/dmで300秒間電気めっきを行い、複合皮膜(銀-アンチモン皮膜)が素材上に形成された複合材を得た。
【0143】
得られた複合材について、実施例1と同様に、複合皮膜の厚さ、ビッカース硬度Hv、凸部面積率、最大高さ、算術平均粗さRa、複合皮膜表面の炭素面積率及び信頼性を評価した。基準高さHは2.2μmだった。
【0144】
[比較例5]
実施例1のスルホン酸系銀めっき液の代わりに、錯化剤としてメタンスルホン酸を60g/Lの濃度で含む銀濃度30g/Lのスルホン酸系銀めっき液(大和化成株式会社製のダインシルバーGPE-PL(一般式(2)に該当する化合物を含まず、溶媒は水))を使用し、これに実施例1と同様の酸化処理を行った炭素粒子(黒鉛粒子)を添加して、得られた炭素粒子含有スルホン酸系銀めっき液を使用して、めっき時間を300秒としてAgCめっきを行った以外は、実施例1と同様にして複合皮膜が素材上に形成されてなる複合材を作成した。
【0145】
得られた複合材について、実施例1と同様に、複合皮膜の厚さ、ビッカース硬度Hv、凸部面積率、最大高さ、算術平均粗さRa、複合皮膜表面の炭素面積率及び複合皮膜の銀の結晶子サイズを評価した。基準高さHは3.2μmだった。なお本比較例5については、信頼性評価は行わなかった。
【0146】
以上の実施例1~7及び比較例1~5の、製造条件等を表1及び2に、各種評価結果を表3及び4にまとめる。
【0147】
【表1】
【0148】
【表2】
【0149】
【表3】
【0150】
【表4】
【0151】
比較例2より、炭素粒子に化合物Aによる処理(表面処理)を行わないと凸部は十分には形成されず、信頼性が悪くなることがわかる。比較例3から、前記表面処理を行った複合皮膜でも、凸部がとりのぞかれると信頼性が悪くなることが分かる。
図1