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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-27
(45)【発行日】2024-12-05
(54)【発明の名称】リーク検査方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0438 20160101AFI20241128BHJP
   H01M 8/04 20160101ALI20241128BHJP
   H01M 8/04664 20160101ALI20241128BHJP
   H01M 8/04746 20160101ALI20241128BHJP
   H01M 8/04858 20160101ALI20241128BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20241128BHJP
【FI】
H01M8/0438
H01M8/04 H
H01M8/04664
H01M8/04746
H01M8/04858
H01M8/10 101
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022137846
(22)【出願日】2022-08-31
(65)【公開番号】P2024033922
(43)【公開日】2024-03-13
【審査請求日】2023-03-28
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【復代理人】
【識別番号】100120363
【弁理士】
【氏名又は名称】久保田 智樹
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【弁理士】
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【弁理士】
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】長▲崎▼ 仁志
(72)【発明者】
【氏名】麦島 丈弘
(72)【発明者】
【氏名】堀合 洸大朗
【審査官】篠原 将之
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-190764(JP,A)
【文献】特表2013-509679(JP,A)
【文献】特開2003-217631(JP,A)
【文献】特開2003-045466(JP,A)
【文献】特開平05-205762(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/04 - 8/0668
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜と、前記電解質膜を挟持するアノード電極およびカソード電極とを含む燃料電池における前記電解質膜からのリークを検査するリーク検査方法であって、
前記燃料電池の燃料ガス流入口と前記燃料電池の燃料ガス流出口との間に形成された前記燃料電池の内部の燃料ガス流路に所定圧の燃料ガスを封止し、または、前記燃料電池の酸化剤ガス流入口と前記燃料電池の酸化剤ガス流出口との間に形成された前記燃料電池の内部の酸化剤ガス流路に前記所定圧の酸化剤ガスを封止するガス封止工程と、
前記燃料ガス流路に前記燃料ガスが封止された場合には前記所定圧以上の圧力の前記酸化剤ガスを前記酸化剤ガス流路に供給し続け、前記酸化剤ガス流路に前記酸化剤ガスが封止された場合には前記所定圧以上の圧力の前記燃料ガスを前記燃料ガス流路に供給し続けるガス供給工程と、
前記電解質膜を経由することなく前記アノード電極と前記カソード電極とを接続する配線に設けられるスイッチがオフの状態において、前記ガス封止工程で封止されたガスの単位時間あたりの圧力変化量を測定する測定工程と、
前記測定工程で測定された前記圧力変化量に基づいて、前記電解質膜からのリークの有無を判定する判定工程と、
を含み、
前記電解質膜に形成されたインターコネクタ部によって、前記アノード電極の一部であるアノード電極部と、前記カソード電極の一部であるカソード電極部とが接続されており
前記判定工程では、制御装置が、前記測定工程で測定された前記圧力変化量を予め設定された基準圧力変化量と比較し、前記圧力変化量と前記基準圧力変化量との差が所定の閾値を超えない場合、前記電解質膜からのリークがないと前記制御装置が判定し、前記圧力変化量と前記基準圧力変化量との差が前記閾値を超える場合、前記電解質膜からのリークがあると前記制御装置が判定し、
前記基準圧力変化量は、前記電解質膜からのリークがない場合に、前記ガス封止工程で封止されたガスの圧力が発電により単位時間あたりに降下する量を示す、リーク検査方法。
【請求項2】
請求項1に記載のリーク検査方法であって、
前記燃料電池に印加される電圧値が所定の電圧閾値未満になった場合、前記ガス封止工程で封止されたガスの封止を解除する解除工程をさらに含む、リーク検査方法。
【請求項3】
請求項2に記載のリーク検査方法であって、
前記解除工程は、前記ガス供給工程で供給されるガスの供給を停止した後、前記ガス封止工程で封止されたガスの封止を解除する、リーク検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池のリーク検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、より多くの人々が手ごろで信頼でき、持続可能かつ先進的なエネルギーへのアクセスを確保できるようにするため、エネルギーの効率化に貢献する燃料電池に関する研究開発が行われている。また、環境に与える負荷を軽減するため、内燃機関を有する自動車等の移動体の排気ガス規制が一段と進んでいる。そのため、移動体において、内燃機関に代替して燃料電池を搭載することが試みられている。燃料電池が搭載された移動体では、CO2、SOXおよびNOX等が排出されないため、環境に与える負荷が軽減される。
【0003】
燃料電池は、電解質膜を含む。燃料電池では、電解質膜が破損してピンホール等が生じると、燃料電池の発電性能が低下する。そのため、電解質膜からのリーク(クロスリーク)を検査するリーク検査方法が実施される。
【0004】
例えば、特許文献1に開示される検査方法では、燃料ガスが供給される燃料ガス流路に高圧ガスが封止され、酸化剤ガスが供給される酸化剤ガス流路が大気に解放される。この状態において、高圧ガスのガス圧が計測され、計測結果に基づいて電解質膜からのリーク(クロスリーク)が判定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-133997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、宇宙空間では大気が存在しないため、特許文献1の検査方法を使用すると、燃料ガス流路と酸化剤ガス流路との間の圧力差が過大になる。そのため、燃料ガス流路と酸化剤ガス流路との間の圧力差によって電解質膜が破損することが懸念される。これに加えて、宇宙空間への運搬には制限があるため、燃料電池の発電に用いられるガス以外のガスを用いるこくとなくリーク検査を実施したいという要請がある。したがって、限られた資源を用いて電解質膜からのリークの検査を実施することが課題として挙がった。
【0007】
本発明は、上述した課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の態様は、電解質膜と、前記電解質膜を挟持するアノード電極およびカソード電極とを含む燃料電池における前記電解質膜からのリークを検査するリーク検査方法であって、前記アノード電極に燃料ガスを供給するための燃料ガス流路に所定圧の前記燃料ガスを封止し、または、前記カソード電極に酸化剤ガスを供給するための酸化剤ガス流路に前記所定圧の前記酸化剤ガスを封止するガス封止工程と、前記燃料ガス流路に前記燃料ガスが封止された場合には前記所定圧以上または前記所定圧以下の圧力の前記酸化剤ガスを前記酸化剤ガス流路に供給し続け、前記酸化剤ガス流路に前記酸化剤ガスが封止された場合には前記所定圧以上または前記所定圧以下の圧力の前記燃料ガスを前記燃料ガス流路に供給し続けるガス供給工程と、前記電解質膜を経由することなく前記アノード電極と前記カソード電極とを接続する配線に設けられるスイッチがオフの状態において、前記ガス封止工程で封止されたガスの単位時間あたりの圧力変化量を測定する測定工程と、を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明の態様によれば、燃料電池の発電に必須のガスのみを用いて、燃料ガス流路と酸化剤ガス流路との間の圧力差による電解質膜の破損を抑制することができる。また、アノード電極とカソード電極とが非接続の状態では燃料電池の発電が抑制される。そのため、本発明の態様では、燃料電池の発電に必須のガスを用いても、燃料電池の発電による圧力変化を抑制することができる。したがって、燃料ガス流路と酸化剤ガス流路との間の圧力差が小さくても、電解質膜からのリークによる圧力変化を捕捉することができる。その結果、限られた資源を用いて電解質膜からのリークの検査を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、燃料電池システムを示す概略図である。
図2図2は、単位セルを示す断面図である。
図3図3は、リーク検査方法の手順を示すフローチャートである。
図4図4は、リーク検査方法における電圧の監視に関する工程の手順を示すフローチャートである。
図5図5は、平面配列型の単位セルを示す断面図である。
図6図6は、圧力変化量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〈第1実施形態〉
図1は、燃料電池システム10を示す概略図である。燃料電池システム10は、宇宙空間を飛行可能な移動体に搭載される。燃料電池システム10は、燃料ガス供給装置12と、酸化剤ガス供給装置14と、燃料電池16と、制御装置18とを備える。
【0012】
燃料ガス供給装置12は、高圧の燃料ガスを供給可能な装置である。燃料ガスは、水素を含有するガスである。燃料ガス供給装置12は、電気化学式水素ポンプおよび燃料ガスタンクを含んでもよい。電気化学式水素ポンプは、水素の酸化還元反応により水素を圧縮し、高圧の燃料ガスを生成する。燃料ガスタンクは、電気化学式水素ポンプにより生成された高圧の燃料ガスを貯留する。
【0013】
酸化剤ガス供給装置14は、高圧の酸化剤ガスを供給可能な装置である。酸化剤ガスは、酸素を含有するガスである。酸化剤ガスは、空気であってもよい。酸化剤ガス供給装置14は、水電解装置および酸化剤ガスタンクを含んでもよい。水電解装置は、水の電気分解により酸素を圧縮し、高圧の酸化剤ガスを生成する。酸化剤ガスタンクは、高圧の酸化剤ガスを貯留する。
【0014】
なお、燃料ガス供給装置12が電気化学式水素ポンプを含み、酸化剤ガス供給装置14が水電解装置を含む場合、電気化学式水素ポンプは、水電解装置による水の電気分解により生成される水素を圧縮してもよい。この場合、水素の利用効率を向上させることができる。
【0015】
燃料電池16は、燃料ガス流入口16_F1と、燃料ガス流出口16_F2と、酸化剤ガス流入口16_O1と、酸化剤ガス流出口16_O2とを含む。
【0016】
燃料ガス流入口16_F1は、燃料ガス供給管路20の第1端部に接続される。燃料ガス供給管路20の第2端部は、燃料ガス供給装置12に接続される。燃料ガス供給管路20に設けられる第1開閉弁22が閉弁している場合、燃料ガス供給装置12から高圧の燃料ガスが燃料電池16に供給されない。一方、第1開閉弁22が開弁している場合、燃料ガス供給装置12から高圧の燃料ガスが燃料電池16に供給される。この場合、燃料ガスは、燃料ガス流入口16_F1から燃料電池16の内部に流入する。第1開閉弁22の開閉は、制御装置18により制御される。
【0017】
燃料ガス流出口16_F2は、燃料ガス排出管路24の第1端部に接続される。燃料ガス排出管路24の第2端部は、外部空間に配置されてもよい。燃料ガス排出管路24の第2端部は、燃料ガス供給管路20の所定部位に接続されてもよい。この場合、燃料ガスをパージさせずに循環させることができるので、燃料ガスの利用効率を向上させることができる。燃料ガス排出管路24に設けられる第2開閉弁26が閉弁している場合、燃料電池16の内部での燃料ガスの流れが抑制される。一方、第2開閉弁26が開弁している場合、燃料電池16の内部での燃料ガスの流れが抑制されずに、燃料ガス流出口16_F2から燃料ガスを含むオフガスが排出され、燃料ガス排出管路24を流れる。第2開閉弁26の開閉は、制御装置18により制御される。
【0018】
酸化剤ガス流入口16_O1は、酸化剤ガス供給管路28の第1端部に接続される。酸化剤ガス供給管路28の第2端部は、酸化剤ガス供給装置14に接続される。酸化剤ガス供給管路28に設けられる第3開閉弁30が閉弁している場合、酸化剤ガス供給装置14から高圧の酸化剤ガスが燃料電池16に供給されない。一方、第3開閉弁30が開弁している場合、酸化剤ガス供給装置14から高圧の酸化剤ガスが燃料電池16に供給される。この場合、酸化剤ガスは、酸化剤ガス流入口16_O1から燃料電池16の内部に流入する。第3開閉弁30の開閉は、制御装置18により制御される。
【0019】
酸化剤ガス流出口16_O2は、酸化剤ガス排出管路32の第1端部に接続される。酸化剤ガス排出管路32の第2端部は、外部空間に配置されてもよい。酸化剤ガス排出管路32の第2端部は、酸化剤ガス供給管路28の所定部位に接続されてもよい。この場合、酸化剤ガスをパージさせずに循環させることができるので、酸化剤ガスの利用効率を向上させることができる。酸化剤ガス排出管路32に設けられる第4開閉弁34が閉弁している場合、燃料電池16の内部での酸化剤ガスの流れが抑制される。一方、第4開閉弁34が開弁している場合、燃料電池16の内部での酸化剤ガスの流れが抑制されずに、酸化剤ガス流出口16_O2から酸化剤ガスを含むオフガスが排出され、酸化剤ガス排出管路32を流れる。第4開閉弁34の開閉は、制御装置18により制御される。
【0020】
燃料電池16は、燃料ガス流路36と、酸化剤ガス流路38と、1以上の単位セル40とをさらに含む。図1では、燃料電池16に含まれる単位セル40が複数である場合の例が示されている。
【0021】
燃料ガス流路36は、燃料電池16の内部に形成される。燃料ガス流路36の第1端部は、燃料ガス流入口16_F1に接続される。燃料ガス流路36の第2端部は、燃料ガス流出口16_F2に接続される。燃料ガス流路36は、単位セル40を経由する。単位セル40が複数である場合、燃料ガス流路36は、燃料電池16の内部で分岐し、互いに交わることなく各単位セル40を経由した後に合流する。
【0022】
酸化剤ガス流路38は、燃料ガス流路36と交わることなく、燃料電池16の内部に形成される。酸化剤ガス流路38の第1端部は、酸化剤ガス流入口16_O1に接続される。酸化剤ガス流路38の第2端部は、酸化剤ガス流出口16_O2に接続される。酸化剤ガス流路38は、単位セル40を経由する。単位セル40が複数である場合、酸化剤ガス流路38は、燃料電池16の内部で分岐し、互いに交わることなく各単位セル40を経由した後に合流する。
【0023】
単位セル40は、燃料ガスと酸化剤ガスとの電気化学反応により発電する。図2は、単位セル40を示す断面図である。単位セル40は、膜電極接合体42と、一対のセパレータ44とを有する。燃料電池16に含まれる単位セル40が複数である場合、複数の単位セル40は積層される。この場合、複数の単位セル40は、電気的に直列に接続される。膜電極接合体42は、電解質膜46と、アノード電極48と、カソード電極50とを有する。
【0024】
電解質膜46は、例えば、水分を含んだパーフルオロスルホン酸の薄膜等の固体高分子電解質膜(陽イオン交換膜)である。電解質膜46は、フッ素系電解質膜であってもよいし、HC(炭化水素)系電解質膜であってもよい。電解質膜46は、アノード電極48とカソード電極50とに挟持される。
【0025】
アノード電極48は、電解質膜46の一方の面に向く。電解質膜46に向くアノード電極48の第1面とは反対側のアノード電極48の第2面は、セパレータ44に向く。アノード電極48とセパレータ44との間に燃料ガス流路36の一部が形成される。アノード電極48とセパレータ44との間に形成される燃料ガス流路36は、アノード電極48の第2面に沿って延びている。アノード電極48の第2面を通る燃料ガスの一部は、アノード電極48で水素イオンと電子とに分解される。アノード電極48は、アノード触媒層およびアノード拡散層を含んでもよい。アノード触媒層は、燃料ガス中の水素の酸化反応に対する触媒を含む層である。アノード拡散層は、燃料ガス流路36を流れる燃料ガスを拡散させてアノード触媒層に供給するための層である。
【0026】
カソード電極50は、電解質膜46の他方の面に向く。電解質膜46に向くカソード電極50の第1面とは反対側のカソード電極50の第2面は、アノード電極48の第2面が向くセパレータ44とは別のセパレータ44に向く。カソード電極50とセパレータ44との間に酸化剤ガス流路38の一部が形成される。カソード電極50とセパレータ44との間に形成される酸化剤ガス流路38は、カソード電極50の第2面に沿って延びている。カソード電極50の第2面を通る酸化剤ガスの一部は、電解質膜46を透過した水素イオンとカソード電極50において反応して水が生成される。カソード電極50は、カソード触媒層およびカソード拡散層を含んでもよい。カソード触媒層は、酸素の還元反応に対する触媒を含む層である。カソード拡散層は、酸化剤ガス流路38を流れる酸化剤ガスを拡散させてカソード触媒層に供給するための層である。
【0027】
アノード電極48とカソード電極50とは、配線52により接続される。配線52は、電解質膜46を経由することなくアノード電極48とカソード電極50とを電気的に接続する。配線52に設けられるスイッチ54がオンの場合、アノード電極48で分解される電子がカソード電極50に導かれる。配線52に設けられるスイッチ54がオフの場合、アノード電極48で分解される電子がカソード電極50に導かれない。
【0028】
制御装置18は、プロセッサおよび記憶媒体を有する。記憶媒体は、揮発性メモリおよび不揮発性メモリによって構成され得る。揮発性メモリとして、RAM等が挙げられ得る。不揮発性メモリとして、例えばROM、フラッシュメモリ等が挙げられ得る。
【0029】
制御装置18は、燃料ガス供給装置12を制御する。この場合、制御装置18は、燃料電池16への燃料ガスの供給を開始し、開始した燃料ガスの供給を停止し得る。制御装置18は、酸化剤ガス供給装置14を制御する。この場合、制御装置18は、燃料電池16への酸化剤ガスの供給を開始し、開始した酸化剤ガスの供給を停止し得る。制御装置18は、第1開閉弁22、第2開閉弁26、第3開閉弁30および第4開閉弁34を制御する。この場合、制御装置18は、第1開閉弁22、第2開閉弁26、第3開閉弁30および第4開閉弁34の少なくとも1つを開閉し得る。制御装置18は、スイッチ54をオンにしてアノード電極48とカソード電極50とを電気的に接続し、スイッチ54をオフにしてアノード電極48とカソード電極50との接続を電気的に切断し得る。
【0030】
次に、単位セル40における電解質膜46からのリーク(クロスリーク)を検査するリーク検査方法に関して説明する。図3は、リーク検査方法の手順を示すフローチャートである。
【0031】
リーク検査方法は、ガス封止工程P1と、ガス供給工程P2と、測定工程P3と、判定工程P4とを含む。
【0032】
ガス封止工程P1は、燃料ガス流路36に燃料ガスを封止する工程である。ガス封止工程P1では、制御装置18は、第1開閉弁22を開弁し、第2開閉弁26を閉弁する。その後、制御装置18は、燃料ガス供給装置12を制御して、燃料電池16への燃料ガスの供給を開始する。燃料ガス流路36における燃料ガスの圧力が所定圧力になると、制御装置18は、第1開閉弁22を閉弁する。燃料ガス流路36における燃料ガスの圧力は、圧力センサを用いて測定される。
【0033】
圧力センサは、燃料ガス流路36に設けられる。燃料電池16に含まれる単位セル40が複数である場合、燃料ガス流路36への圧力センサの数および配置は適宜選択され得る。例えば、分岐部分BP(図1)よりも上流の燃料ガス流路36に、1つの圧力センサが設けられてもよい。或いは、合流部分CP(図1)よりも下流の燃料ガス流路36に、1つの圧力センサが設けられてもよい。或いは、各単位セル40のアノード電極48とセパレータ44との間に形成される燃料ガス流路36に、1つずつ圧力センサが設けられてもよい。なお、圧力センサの設置箇所は燃料ガス流路36に限定されない。例えば、圧力センサの設置箇所は、第1開閉弁22よりも下流の燃料ガス供給管路20であってもよいし、第2開閉弁26よりも上流の燃料ガス排出管路24であってもよい。
【0034】
ガス供給工程P2は、酸化剤ガス流路38に酸化剤ガスを供給し続ける工程である。ガス供給工程P2では、制御装置18は、第3開閉弁30および第4開閉弁34を開弁する。その後、制御装置18は、酸化剤ガス供給装置14を制御して、燃料電池16への酸化剤ガスの供給を開始する。本実施形態では、燃料ガス流路36に封止される燃料ガスの圧力よりも大きい圧力の酸化剤ガスが供給される。例えば、30kPaの圧力で燃料ガスが燃料ガス流路36に封止され、40kPaの圧力の酸化剤ガスが酸化剤ガス流路38に供給し続けられる。
【0035】
測定工程P3は、ガス封止工程P1で封止されたガスの単位時間あたりの圧力変化量を測定する工程である。測定工程P3では、制御装置18は、まず、配線52に設けられるスイッチ54をオフにする。制御装置18は、ガス封止工程P1またはガス供給工程P2の前にスイッチ54をオフにしてもよい。スイッチ54がオフの状態では、単位セル40の発電が抑制される。したがって、単位セル40の発電による、燃料ガス流路36に封止された燃料ガスの圧力の降下が抑止される。制御装置18は、スイッチ54をオフにすると、上述した圧力センサにより検出される圧力を記憶媒体に記憶する。また、制御装置18は、記憶媒体に記憶される圧力に基づいて、例えばスイッチ54がオフにされてから所定時間を経過したときの圧力変化量を取得する。
【0036】
電解質膜46が破損してピンホール等が電解質膜46に生じていない場合、燃料ガス流路36に封止された燃料ガスの圧力は概ね一定である。一方、ピンホール等が電解質膜46に生じている場合、燃料ガス流路36と酸化剤ガス流路38との間の圧力差に応じて、ガス封止工程P1で封止されたガスの圧力が変化する。本実施形態では、燃料ガス流路36に封止される燃料ガスの圧力に比べて、酸化剤ガス流路38に供給し続けられる酸化剤ガスの圧力が大きい。したがって、酸化剤ガス流路38の酸化剤ガスが電解質膜46を介して燃料ガス流路36にリークする。そのため、燃料ガス流路36に封止された燃料ガスの圧力は増加する。
【0037】
判定工程P4は、測定工程P3で測定されたガスの単位時間あたりの圧力変化量に基づいて、電解質膜46からのリークの有無を判定する工程である。判定工程P4では、制御装置18は、測定工程P3で測定された圧力変化量を所定の閾値と比較する。圧力変化量が閾値を超えない場合、制御装置18は、電解質膜46からのリークがないと判定する。この場合、制御装置18は、制御装置18に接続された表示機器等の報知機器を作動させて、電解質膜46からのリークがないことを提示してもよい。一方、圧力変化量が閾値を超える場合、制御装置18は、電解質膜46からのリークがあると判定する。この場合、制御装置18は、制御装置18に接続された表示機器等の報知機器を作動させて、電解質膜46からのリークがあることを警告してもよい。
【0038】
以上のように、本実施形態のリーク検査方法は、燃料ガス流路36に所定圧力で燃料ガスを封止し、封止された燃料ガスの圧力よりも高い圧力の酸化剤ガスを酸化剤ガス流路38に供給し続ける。これにより、本実施形態のリーク検査方法では、燃料ガス流路36と酸化剤ガス流路38との間の圧力差を低減しながら、燃料電池16の発電に必須のガスのみを用いてリーク検査を実施することができる。したがって、燃料ガス流路36と酸化剤ガス流路38との間の圧力差が過大になることによる電解質膜46の破損を抑制することができる。
【0039】
また、本実施形態のリーク検査方法は、電解質膜46を経由することなくアノード電極48とカソード電極50とを接続する配線52に設けられるスイッチ54がオフの状態において、封止された燃料ガスの単位時間あたりの圧力変化量を測定する。アノード電極48とカソード電極50とが非接続の状態では単位セル40の発電が抑制される。そのため、本実施形態のリーク検査方法では、発電に必須のガスを用いても、発電による圧力変化を抑制することができる。したがって、燃料ガス流路36と酸化剤ガス流路38との間の圧力差が小さくても、電解質膜46からのリークによる圧力降下を捕捉することができる。
【0040】
リーク検査方法では、燃料ガス流路36に燃料ガスが封止され、かつ、酸化剤ガス流路38に酸化剤ガスが供給された後に、燃料電池16に印加される電圧が監視される。燃料電池16に含まれる単位セル40が1つである場合、1つの単位セル40に印加される電圧が監視される。一方、燃料電池16に含まれる単位セル40が複数である場合、電気的に直列に接続された複数の単位セル40の両端に印加される電圧が監視されてもよいし、各単位セル40に印加される電圧が監視されてもよい。
【0041】
図4は、リーク検査方法における電圧の監視に関する工程の手順を示すフローチャートである。リーク検査方法は、電圧測定工程P11と、解除工程P12とをさらに含む。
【0042】
電圧測定工程P11は、燃料電池16に印加される電圧を測定する工程である。電圧測定工程P11では、燃料ガス流路36に燃料ガスが封止され、かつ、酸化剤ガス流路38に酸化剤ガスが供給され始めた後に、制御装置18は、燃料電池16に印加される電圧値の測定を開始する。
【0043】
解除工程P12は、電圧測定工程P11で測定された電圧値が所定の電圧閾値未満になった場合に、燃料ガスの封止を解除する工程である。解除工程P12では、制御装置18は、電圧測定工程P11で測定された電圧値を、記憶媒体に記憶された電圧閾値と比較する。
【0044】
電解質膜46からのリークがある場合等では、燃料ガスと酸化剤ガスとが直接反応して最終的に発火が生じ得る。燃料ガスと酸化剤ガスとの直接反応が継続すると、燃料電池16に印加される電圧値が低下する。電圧測定工程P11で測定された電圧値が電圧閾値未満になった場合、制御装置18は、第2開閉弁26を開弁し、燃料ガスの封止を解除する。これにより、未然に単位セル40の発火を抑制することができる。
【0045】
なお、制御装置18は、酸化剤ガス供給装置14を制御して酸化剤ガス流路38への酸化剤ガスの供給を停止した後、第2開閉弁26を開弁して燃料ガスの封止を解除してもよい。このようにした場合、燃料ガス流路36と酸化剤ガス流路38との間の圧力差による電解質膜46の破損を抑止することができる。
【0046】
〈第2実施形態〉
本実施形態では、第1実施形態の単位セル40が、平面配列型の単位セル60(図1)に置換される。図5は、平面配列型の単位セル60を示す断面図である。図5では、第1実施形態において説明した構成と同等の構成に同一の符号が付されている。なお、本実施形態では、第1実施形態と重複する説明は割愛する。
【0047】
平面配列型の単位セル60では、複数のセルブロック62が形成される。図5では、理解を容易にするために、セルブロック62の一部が破線で囲まれている。各セルブロック62は、構成要素として、1つのアノード電極部48PTと、1つのカソード電極部50PTと、それら電極部の間に配置された電解質膜46とを含む。
【0048】
アノード電極部48PTは、アノード電極48の一部分である。アノード電極部48PTは、分割溝64によって形成される。つまり、アノード電極48は、分割溝64によって複数のアノード電極部48PTに分割される。分割溝64は、アノード電極48の第1辺縁から、第1辺縁とは反対側の第2辺縁まで、アノード電極48とセパレータ44との間の燃料ガス流路36に沿って延びる。アノード電極部48PTは、分割溝64の延伸方向を長辺、2つの分割溝64間を短辺とする矩形状であってもよい。
【0049】
カソード電極部50PTは、カソード電極50の一部分である。カソード電極部50PTは、分割溝66によって形成される。つまり、カソード電極50は、分割溝66によって複数のカソード電極部50PTに分割される。分割溝66は、カソード電極50の第1辺縁から、第1辺縁とは反対側の第2辺縁まで、カソード電極50とセパレータ44との間の酸化剤ガス流路38に沿って延びる。カソード電極部50PTは、分割溝66の延伸方向を長辺、2つの分割溝66間を短辺とする矩形状であってもよい。
【0050】
複数のセルブロック62は、インターコネクタ部68によって直列に接続される。インターコネクタ部68は、アノード電極部48PTと、カソード電極部50PTとを電気的に接続する。インターコネクタ部68は、電解質膜46の面方向に沿って隣り合うセルブロック62の一方のアノード電極部48PTと、当該隣り合うセルブロック62の他方のカソード電極部50PTとを接続する。インターコネクタ部68は、電解質膜46に形成される。インターコネクタ部68は、例えば、電解質膜46の局部を加熱して局部を炭化させることによって形成される。インターコネクタ部68は、プロトン伝導性樹脂由来の導電性炭化物であってもよい。プロトン伝導性樹脂として、芳香族ポリアリーレンエーテルケトン類、芳香族ポリアリーレンエーテルスルホン類等の炭化水素系ポリマーにスルホン酸基を導入した芳香族系高分子化合物が挙げられる。
【0051】
平面配列型の単位セル60では、インターコネクタ部68によってアノード電極部48PTと、カソード電極部50PTとが電気的に接続される。そのため、配線52に設けられるスイッチ54がオフにされても、単位セル60がわずかに発電する傾向にある。単位セル60が発電すると、測定工程P3で測定された圧力変化量が、単位セル60の発電に起因するか電解質膜46からのリークに起因するのか区別できない。
【0052】
そこで、平面配列型の単位セル60における電解質膜46からのリークを検査する場合、判定工程P4で圧力変化量と比較される閾値として、基準圧力変化量が用いられる。基準圧力変化量は、電解質膜46からのリークがない場合に、封入されたガス圧が発電により単位時間あたりに降下する量を示す基準として予め設定される。基準圧力変化量は、電解質膜46からのリークがないと判定された燃料電池16に対して、上記のガス封止工程P1、ガス供給工程P2および測定工程P3が実施されることにより取得される。基準圧力変化量は、地上において取得されてもよい。基準圧力変化量は、電解質膜46からのリークがない場合に、封入されたガス圧の発電による変化を示すマップ(グラフ)であってもよい。
【0053】
本実施形態の判定工程P4では、制御装置18は、測定工程P3で測定された圧力変化量を、記憶媒体に記憶された基準圧力変化量と比較する。電解質膜46からのリークがある場合、ガス圧の発電による変化(基準圧力変化)に比べて、測定工程P3で測定されるガス圧の変化が大きくなる(図6参照)。したがって、測定工程P3で測定される圧力変化量は、基準圧力変化量よりも増加する。
【0054】
測定工程P3で測定された圧力変化量と基準圧力変化量との差が所定の閾値を超えない場合、制御装置18は、電解質膜46からのリークがないと判定する。一方、圧力変化量と基準圧力変化量との差が閾値を超える場合、制御装置18は、電解質膜46からのリークがあると判定する。
【0055】
このように、燃料電池16が平面配列型の単位セル60を含む場合、測定工程P3で測定された圧力変化量は、基準圧力変化量と比較される。これにより、測定工程P3で測定された圧力変化量が、単位セル40の発電に起因するか電解質膜46からのリークに起因するか区別することができる。
【0056】
上記の実施形態は、下記のように変形してもよい。
【0057】
ガス封止工程P1では、酸化剤ガス流路38に酸化剤ガスが封止されてもよい。この場合、ガス供給工程P2では、燃料ガス流路36に燃料ガスが供給し続けられる。
【0058】
また、ガス封止工程P1で封止されるガス(燃料ガスまたは酸化剤ガス)の圧力に比べて、ガス供給工程P2で供給し続けられるガス(酸化剤ガスまたは燃料ガス)の圧力が小さくてもよい。
【0059】
なお、燃料電池16が平面配列型の単位セル60を含む場合、ガス封止工程P1で封止されるガス(燃料ガスまたは酸化剤ガス)の圧力と、ガス供給工程P2で供給し続けられるガス(酸化剤ガスまたは燃料ガス)の圧力とは同じであってもよい。
【0060】
以上に基づいて把握される発明を以下に記載する。
【0061】
(1)本発明は、電解質膜(46)と、前記電解質膜(46)を挟持するアノード電極(48)およびカソード電極(50)とを含む燃料電池(16)における前記電解質膜(46)からのリークを検査するリーク検査方法であって、前記アノード電極(48)に燃料ガスを供給するための燃料ガス流路(36)に所定圧の前記燃料ガスを封止し、または、前記カソード電極(50)に酸化剤ガスを供給するための酸化剤ガス流路(38)に前記所定圧の前記酸化剤ガスを封止するガス封止工程(P1)と、前記燃料ガス流路(36)に前記燃料ガスが封止された場合には前記所定圧以上または前記所定圧以下の圧力の前記酸化剤ガスを前記酸化剤ガス流路(38)に供給し続け、前記酸化剤ガス流路(38)に前記酸化剤ガスが封止された場合には前記所定圧以上または前記所定圧以下の圧力の前記燃料ガスを前記燃料ガス流路(36)に供給し続けるガス供給工程(P2)と、前記電解質膜(46)を経由することなく前記アノード電極(48)と前記カソード電極(50)とを接続する配線(52)に設けられるスイッチ(54)がオフの状態において、前記ガス封止工程(P1)で封止されたガスの単位時間あたりの圧力変化量を測定する測定工程(P3)と、を含む。
【0062】
本発明によれば、燃料電池の発電に必須のガスのみを用いて、燃料ガス流路と酸化剤ガス流路との間の圧力差による電解質膜の破損を抑制することができる。また、アノード電極とカソード電極とが非接続の状態では燃料電池の発電が抑制される。そのため、本発明によれば、燃料電池の発電に必須のガスを用いても、燃料電池の発電による圧力変化を抑制することができる。したがって、燃料ガス流路と酸化剤ガス流路との間の圧力差が小さくても、電解質膜からのリークによる圧力変化を捕捉することができる。その結果、限られた資源を用いて電解質膜からのリークの検査を実施することができる。
【0063】
(2)本発明は、リーク検査方法であって、前記電解質膜(46)に形成されたインターコネクタ部(68)によって、前記アノード電極(48)の一部であるアノード電極部(48PT)と、前記カソード電極(50)の一部であるカソード電極部(50PT)とが接続されている場合、前記測定工程(P3)で測定された前記圧力変化量は、予め設定された基準圧力変化量と比較され、前記基準圧力変化量は、前記電解質膜(46)からのリークがない場合に、前記ガス封止工程(P1)で封止されたガスの圧力が発電により単位時間あたりに降下する量を示す。これにより、測定工程で測定された圧力変化量が、発電に起因するか電解質膜からのリークに起因するか区別することができる。
【0064】
(3)本発明は、リーク検査方法であって、前記燃料電池(16)に印加される電圧値が所定の電圧閾値未満になった場合、前記ガス封止工程(P1)で封止されたガスの封止を解除する解除工程(P12)をさらに含む。これにより、電解質膜からのリークがある場合に、燃料ガスと酸化剤ガスとが直接反応して発火することを未然に防止することができる。
【0065】
(4)本発明は、リーク検査方法であって、前記解除工程(P12)は、前記ガス供給工程(P2)で供給されるガスの供給を停止した後、前記ガス封止工程(P1)で封止されたガスの封止を解除する。これにより、燃料ガス流路と酸化剤ガス流路との間の過度の圧力差による電解質膜の破損を抑止することができる。
【符号の説明】
【0066】
10…燃料電池システム 12…燃料ガス供給装置
14…酸化剤ガス供給装置 16…燃料電池
18…制御装置 36…燃料ガス流路
38…酸化剤ガス流路 40…単位セル
42…膜電極接合体 46…電解質膜
48…アノード電極 50…カソード電極
48PT…アノード電極部 50PT…カソード電極部
52…配線 54…スイッチ
68…インターコネクタ部 P1…ガス封止工程
P2…ガス供給工程 P3…測定工程
P4…判定工程 P12…解除工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6