(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-27
(45)【発行日】2024-12-05
(54)【発明の名称】抗タウ抗体およびその使用
(51)【国際特許分類】
C07K 16/18 20060101AFI20241128BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20241128BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20241128BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20241128BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20241128BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20241128BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20241128BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20241128BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20241128BHJP
C12N 5/20 20060101ALI20241128BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20241128BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20241128BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20241128BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20241128BHJP
A61P 25/14 20060101ALI20241128BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20241128BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
C07K16/18 ZNA
C07K16/46
C12N15/63 Z
C12N15/13
C12N5/10
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12P21/08
C12N5/20
A61K39/395 N
A61P25/00
A61P25/28
A61P25/16
A61P25/14
A61K48/00
G01N33/53 D
(21)【出願番号】P 2022503414
(86)(22)【出願日】2020-07-13
(86)【国際出願番号】 KR2020009207
(87)【国際公開番号】W WO2021010712
(87)【国際公開日】2021-01-21
【審査請求日】2023-07-13
(31)【優先権主張番号】10-2019-0085233
(32)【優先日】2019-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【微生物の受託番号】KCTC KCTC14155BP
(73)【特許権者】
【識別番号】522021077
【氏名又は名称】アデル,インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】ADEL,INC.
【住所又は居所原語表記】Department of Brain Science, Asan Medical Center, College of Medicine, University of Ulsan, 88, Olympic-ro 43-gil, Songpa-gu, Seoul 05505, Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】ユン,スン-ヨン
【審査官】西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2018-0072579(KR,A)
【文献】特表2015-530971(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0251731(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
REGISTRY/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE/CAplus(STN)
C07K 16/00-16/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号7により表されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域および配列番号12により表されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む、抗タウ抗体またはその抗原結合フラグメント;
配列番号8により表されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域および配列番号13により表されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む、抗タウ抗体またはその抗原結合フラグメント;
配列番号8により表されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域および配列番号14により表されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む、抗タウ抗体またはその抗原結合フラグメント;
配列番号8により表されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域および配列番号15により表されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む、抗タウ抗体またはその抗原結合フラグメント;
配列番号9により表されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域および配列番号13により表されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む、抗タウ抗体またはその抗原結合フラグメント;
配列番号9により表されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域および配列番号14により表されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む、抗タウ抗体またはその抗原結合フラグメント;
配列番号9により表されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域および配列番号15により表されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む、抗タウ抗体またはその抗原結合フラグメント
;
配列番号10により表されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域および配列番号15により表されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む、抗タウ抗体またはその抗原結合フラグメント;
配列番号11により表されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域および配列番号13により表されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む、抗タウ抗体またはその抗原結合フラグメント
;ならびに
配列番号11により表されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域および配列番号15により表されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む、抗タウ抗体またはその抗原結合フラグメント
からなる群より選択され
る抗タウ抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項2】
フラグメントが、Fab、scFv、F(ab’)2およびFvからなる群より選択されるいずれか1つである、請求項1に記載の抗タウ抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項3】
請求項1に記載の抗タウ抗体またはその抗原結合フラグメントをコードする、ポリヌクレオチド。
【請求項4】
請求項
3に記載のポリヌクレオチドを含む、発現ベクター。
【請求項5】
請求項
4に記載の発現ベクターを含む、宿主細胞。
【請求項6】
請求項1に記載の抗タウ抗体またはその抗原結合フラグメントを生成するための方法であって、請求項
5に記載の宿主細胞を培養するステップを含む、前記方法。
【請求項7】
請求項
1に記載
の重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含む抗体の重鎖
および軽鎖をコードする、ポリヌクレオチド。
【請求項8】
アクセッション番号KCTC 14155BPを有するハイブリドーマ。
【請求項9】
変性性神経疾患を予防または処置するための医薬組成物であって、活性成分として請求項1に記載の抗タウ抗体またはその抗原結合フラグメントを含む、前記医薬組成物。
【請求項10】
変性性神経疾患が、タウタンパク質媒介性神経疾患であり、ここで、タウタンパク質媒介性神経疾患が、タウオパシー、原発性加齢性タウオパシー、慢性外傷性脳症、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、前頭側頭型認知症、リティコ・ボディグ病、パーキンソニズム、亜急性硬化性髄膜炎、鉛脳症, 結節性硬化症、神経節膠腫、神経節細胞腫、髄膜血管腫症、亜急性硬化性全脳炎、ハラーホルデン・スパッツ病、またはリポフスチン沈着症であり、ここで、タウオパシーが、アルツハイマー病(AD)、進行性核上性麻痺(PSP)、大脳皮質基底核変性症(CBD)、ピック病(PiD)、17番染色体に連鎖しパーキンソニズムを伴う前頭側頭型認知症(frontotemporal dementia and parkinsonism linked to chromosome 17:FTDP-17)と集合的に称される一群の関連障害、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)、ボクシング認知症(DP)、ゲルストマン・シュトロイスラー・シャインカー病(GSSD)、レビー小体病、慢性外傷性脳症(CTE)、またはハンチントン病である、請求項
9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
脳内、脳室内、腹腔内、経皮、筋肉内、硬膜内、静脈内、皮下、および鼻の投与の経路からなる群より選択されるいずれか1つの投与の経路を介して投与される、請求項
9に記載の医薬組成物。
【請求項12】
予防または処置が、変性性神経疾患を有するようになることが予測されるかまたはこれを現在有する対象に、請求項1に記載の抗タウ抗体またはその抗原結合フラグメントを投与することを含む、請求項
9に記載の医薬組成物。
【請求項13】
変性性神経を診断するための組成物であって、請求項1に記載の抗タウ抗体またはその抗原結合フラグメントを含む、前記組成物。
【請求項14】
変性性神経疾患を予防、処置または診断するためのキットであって、請求項1に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント、請求項
3に記載のポリヌクレオチド、請求項
4に記載の発現ベクター、または請求項
5に記載の宿主細胞を含む、前記キット。
【請求項15】
変性性神経疾患を予防または処置するために使用される医薬を調製するための、請求項1に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タウタンパク質に特異的に結合する抗タウ抗体、およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
認知症の発症形態のうちの約50%の原因であるアルツハイマー病は、65歳以上で発症率が増加する変性性の頭部の神経疾患であり、それは、高齢化により世界中で迅速に増加している。
アルツハイマー病の発症の原因は、主に、β-アミロイドの蓄積、タウタンパク質の過剰リン酸化、またはプレセニリン1により引き起こされるβ-アミロイド産生の増加が原因であると考えられている。これらの中で、β-アミロイドの蓄積により引き起こされる神経細胞毒性は、アルツハイマー型認知症の発症の主要な原因であると考えられている(Hardy AJ et al., Science, 256, 184-185, 1992)。しかし、イーライリリー・アンド・カンパニーのアルツハイマー病のための新薬候補であったソラネズマブについての第III相試験が失敗したことから、β-アミロイドの蓄積により引き起こされる神経細胞毒性は、顕著なものではないことが見出された。したがって、異常なタウタンパク質の過剰リン酸化がアルツハイマー病の発症の主要な原因として作用するという考えに、焦点が当てられている。
【0003】
タウタンパク質は、細胞の材料を輸送するタンパク質である微小管を安定化させるタンパク質である。タウタンパク質は、ヒトの体内において6つのアイソフォームにおいて存在し、中枢神経系のニューロンにおいて豊富である。加えて、タウタンパク質において変異が生じた場合、タウタンパク質は過剰リン酸化され、これが神経細胞において神経原線維タングル(NFT)を異常に蓄積させ、それにより認知症およびパーキンソン病などの変性性神経疾患を引き起こすことが知られている(Dong Hee Choi et al., Brain & NeuroRehabilitation, 4, 21-29, 2011)。
【0004】
しかし、441アミノ酸からなるヒトタウタンパク質は、翻訳語修飾が起こり得る広範な部位を有し、これが、タウタンパク質において、認知症に対する予防的または治療的効果を発揮する標的部分を見出すことを困難にする。かかる多様な修飾に起因して、治療剤を開発することにおいてもまた困難が存在する。
【発明の概要】
【0005】
発明の開示
技術的課題
したがって、本発明者らは、変性性神経疾患のために有効な治療剤を開発するために研究してきた。結果として、本発明者らは、280番目のリジンがアセチル化されているタウタンパク質のフラグメントに特異的に結合しタウタンパク質の凝集を減少させる抗体を見出した。加えて、本発明者らは、認知症が誘導された動物モデルを用いた実験において、抗体が投与された動物モデルは、改善された運動機能および認知機能を示すことを見出した。
【0006】
課題に対する解決方法
上の課題を解決するために、本発明の側面において、(i)配列番号1により表されるアミノ酸配列を有する重鎖CDR1、配列番号2により表されるアミノ酸配列を有する重鎖CDR2、および配列番号3により表されるアミノ酸配列を有する重鎖CDR3を含む重鎖可変領域(VH)、ならびに(ii)配列番号4により表されるアミノ酸配列を有する軽鎖CDR1、配列番号5により表されるアミノ酸配列を有する軽鎖CDR2、および配列番号6により表されるアミノ酸配列を有する軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域(VL)を含む、抗タウ抗体またはその抗原結合フラグメントが提供される。
【0007】
本発明の別の側面において、抗タウ抗体またはその抗原結合フラグメント、または抗タウ抗体の重鎖可変領域および/もしくは軽鎖可変領域をコードするポリヌクレオチドが提供される。
本発明の別の側面において、ポリヌクレオチドを含む発現ベクターが提供される。
本発明のさらなる別の側面において、発現ベクターが導入される宿主細胞が提供される。
【0008】
本発明のなおさらに別の側面において、抗タウ抗体またはその抗原結合フラグメントを生成するための方法が提供され、該方法は、宿主細胞を培養するステップを含む。
本発明のなおさらに別の側面において、アクセッション番号KCTC 14155BPを有するハイブリドーマが提供される。
本発明のなおさらに別の側面において、変性性神経疾患を予防または処置するための医薬組成物が提供され、該医薬組成物は、活性成分として、抗タウ抗体またはその抗原結合フラグメントを含む。
【0009】
本発明のなおさらに別の側面において、変性性神経疾患を診断するための組成物が提供され、該組成物は、抗タウ抗体またはその抗原結合フラグメントを含む。
本発明のなおさらに別の側面において、変性性神経疾患を予防、処置または診断するためのキットが提供され、該キットは、抗体またはその抗原結合フラグメント、ポリヌクレオチド、発現ベクター、または宿主細胞を含む。
【0010】
発明の有利な効果
本発明による抗タウ抗体は、280番目のリジンがアセチル化されているタウタンパク質に特異的に結合することができ、異常なタウタンパク質の凝集が阻害される。加えて、本発明による抗タウ抗体が認知症が誘導された動物モデルに投与された場合、抗タウ抗体は、動物モデルの運動機能および認知機能を改善することができる。したがって、本発明による抗タウ抗体は、変性性神経疾患を予防または処置するために有利に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の一態様において調製されるタウタンパク質フラグメントK280-acを模式的に図示する。
【
図2】
図2は、本発明の一態様において用いられる発現ベクターpET-21b-Tau(K18)の模式図である。
【
図3】
図3は、タンパク質フラグメントK280-acに対して特異的に結合するモノクローナル抗体を選択するために、抗体とタンパク質フラグメントK280-acとの間の結合を同定するために行われた、ウェスタンブロット試験の結果を図示する。
【
図4】
図4は、タンパク質フラグメントK280-acに対して特異的に結合するモノクローナル抗体を選択するために、抗体とタンパク質フラグメントK280-acとの間の結合を同定するために行われた、ELISA試験の結果を図示する。
【
図5】
図5は、選択された抗体ADEL-Y01が、アセチル化された野生型タウタンパク質(Tau)、および280番目のアミノ酸リジンがアラニンで置換されたタウタンパク質(Tau K280A)に対して結合するか否かを同定するために行われた、試験の結果を図示する。
【0012】
【
図6】
図6は、アセチル化された野生型タンパク質およびアセチル化されていない野生型タウタンパク質がADEL-Y01h_v01抗体に対して特異的に結合するか否かを同定するために行われた、試験の結果を図示する。
【
図7】
図7は、ADEL-Y01m抗体とタンパク質フラグメントK280-acとの間のアフィニティーを同定するためにOctet(登録商標)K2系を用いて測定された、解離定数(Kd)値を図示する。
【
図8】
図8は、ADEL-Y01h抗体(v01~v12)とタンパク質フラグメントK280-acとの間の結合を同定するために行われた、ELISA試験の結果を図示する。
【
図9】
図9は、4か月齢または12か月齢である正常マウス(野生型)および認知症マウス(Tau P301L)の脳組織における、タウタンパク質(Tau5)およびアセチル化タウタンパク質(Tau-acK208)の発現のレベルおよびパターンを図示する。
【
図10】
図10は、認知症誘導マウスモデルを用いてのADEL-Y01m抗体の脳室内投与の後で達成された行動改善効果を同定するための、実験スケジュールを図示する。
【0013】
【
図11】
図11は、ADEL-Y01m抗体を認知症誘導マウスモデルに脳室内投与した巣作り試験(nesting building test)の結果を図示する(***p<0.001)。
【
図12】
図12は、ADEL-Y01m抗体を認知症誘導マウスモデルに脳室内投与したY迷路試験の結果を図示する(*p<0.05)。
【
図13】
図13は、ADEL-Y01m抗体を認知症誘導マウスモデルに脳室内投与した水迷路試験の結果を図示する。
【
図14】
図14は、ADEL-Y01m抗体を認知症誘導マウスモデルに脳室内投与した水迷路試験において各々のゾーンにおいて滞在して過ごした時間を図示する(**p<0.01)。
【
図15】
図15は、ADEL-Y01m抗体を認知症誘導マウスモデルに脳室内投与した握力試験の結果を図示する(*p<0.05、**p<0.01)。
【0014】
【
図16】
図16は、認知症誘導マウスモデルを用いてのADEL-Y01m抗体の腹腔内投与の後で達成された行動改善効果を同定するための、実験スケジュールを図示する。
【
図17】
図17は、ADEL-Y01m抗体を認知症誘導マウスモデルに腹腔内投与した巣作り試験の結果を図示する(*p<0.05、**p<0.01)。
【
図18】
図18は、ADEL-Y01m抗体を認知症誘導マウスモデルに腹腔内投与したY迷路試験の結果を図示する(*p<0.05)。
【
図19】
図19は、ADEL-Y01m抗体を認知症誘導マウスモデルに腹腔内投与した水迷路試験の結果を図示する。
【
図20】
図20は、水迷路試験において各々のゾーンにおいて滞在して過ごした時間を図示し(*p<0.05)、ここで、水迷路試験を行う前に、ADEL-Y01m抗体を認知症誘導マウスモデルに腹腔内投与する。
【0015】
【
図21】
図21は、ADEL-Y01m抗体と、正常マウス(野生型)または認知症誘導マウスモデル(Tau P301L)の大脳皮質および海馬の組織において発現されるアセチル化タウタンパク質(Tau-acK280)との間の結合を同定するために行われた、免疫沈降およびウェスタンブロット試験の結果を図示する。
【
図22】
図22は、正常な高齢者の脳組織およびアルツハイマー病を有する患者の脳組織をADEL-Y01m抗体を用いた免疫組織化学染色に供した後に取得された写真を図示する。
【
図23A】
図23Aは、正常な高齢者の脳組織またはアルツハイマー病を有する患者の脳組織における、全タウタンパク質(Tau5)、アセチル化タウタンパク質(Tau-acK280)、およびアミロイド-βの発現レベルを同定するために行われた、試験の結果を図示する。
【
図23B】
図23Bは、ADEL-Y01m抗体と、正常な高齢者の脳組織またはアルツハイマー病を有する患者の脳組織において発現されたアセチル化タウタンパク質との間の結合を同定するために行われた、試験の結果を図示する(*p<0.05)。
【
図24】
図24は、正常マウス、認知症誘導マウスモデル、およびADEL-Y01m抗体を脳室内投与した認知症誘導マウスモデルの脳組織における、全タウタンパク質(Tau5)、アセチル化タウタンパク質(Tau-acK280)、およびリン酸化されたタウタンパク質(pSer396)の発現レベルを同定するために行われた、試験の結果を図示する。
【
図25】
図25は、正常マウス、認知症誘導マウスモデル、およびADEL-Y01m抗体を脳室内投与した認知症誘導マウスモデルの脳組織における、全タウタンパク質(Tau5)の発現レベルを図示する(*p<0.05、***p<0.001)。
【0016】
【
図26】
図26は、正常マウス、認知症誘導マウスモデル、およびADEL-Y01m抗体を脳室内投与した認知症誘導マウスモデルの脳組織における、リン酸化されたタウタンパク質(pSer396)の発現レベルを図示する(**p<0.01)。
【
図27】
図27は、正常マウス、認知症誘導マウスモデル、およびADEL-Y01m抗体を脳室内投与した認知症誘導マウスモデルの脳組織における、アセチル化タウタンパク質(Tau-acK280)の発現レベルを図示する。
【
図28】
図28は、ADEL-Y01m抗体で免疫染色された脳組織を示す写真を図示し、ここで、脳組織は、正常マウス、認知症誘導マウスモデル、およびADEL-Y01m抗体を脳室内投与した認知症誘導マウスモデル(Tau-P301L-ADEL-Y01m)から得られたものである。
【
図29】
図29は、正常マウス、認知症誘導マウスモデル、およびADEL-Y01m抗体を脳室内投与した認知症誘導マウスモデル(Tau-P301L-ADEL-Y01m)の脳組織における、AT8およびリン酸化されたタウタンパク質(pT231)の発現レベルを図示する(*p<0.05)。
【
図30】
図30は、正常マウス、認知症誘導マウスモデル、およびADEL-Y01m抗体を腹腔内投与した認知症誘導マウスモデル(Tau-P301L-ADEL-Y01m)の脳組織における、全タウタンパク質(Tau5)、アセチル化タウタンパク質(Tau-acK280)、およびリン酸化されたタウタンパク質(pT231)の発現レベルを図示する。
【0017】
【
図31】
図31は、正常マウス、認知症誘導マウスモデル、およびADEL-Y01m抗体を腹腔内投与した認知症誘導マウスモデルの脳組織における、全タウタンパク質(Tau5)の発現レベルを図示する(*p<0.05)。
【
図32】
図32は、正常マウス、認知症誘導マウスモデル、およびADEL-Y01m抗体を腹腔内投与した認知症誘導マウスモデルの脳組織における、アセチル化タウタンパク質(Tau-acK280)の発現レベルを図示する(*p<0.05)。
【
図33】
図33は、正常マウス、認知症誘導マウスモデル、およびADEL-Y01m抗体を腹腔内投与した認知症誘導マウスモデルの脳組織における、リン酸化されたタウタンパク質(pT231)の発現レベルを図示する(*p<0.05)。
【
図34】
図34は、正常マウス、認知症誘導マウスモデル、およびADEL-Y01m抗体を脳室内投与した認知症誘導マウスモデルの脳組織における、シナプス関連タンパク質(PSD95およびシナプシン-1)の発現レベルを図示する。
【
図35】
図35は、正常マウス、認知症誘導マウスモデル、ADEL-Y01m抗体を脳室内投与した認知症誘導マウスモデルの脳組織における、PSD95の発現レベルを図示する(*p<0.05)。
【0018】
【
図36】
図36は、正常マウス、認知症誘導マウスモデル、ADEL-Y01m抗体を脳室内投与した認知症誘導マウスモデルの脳組織における、シナプシン-1の発現レベルを図示する(*p<0.05)。
【
図37】
図37は、正常マウス、認知症誘導マウスモデル、およびADEL-Y01m抗体を腹腔内投与した認知症誘導マウスモデルの脳組織における、シナプス関連タンパク質(PSD95およびシナプシン-1)の発現レベルを図示する。
【
図38】
図38は、正常マウス、認知症誘導マウスモデル、およびADEL-Y01m抗体を腹腔内投与した認知症誘導マウスモデルの脳組織における、PSD95の発現レベルを図示する(*p<0.05)。
【
図39】
図39は、正常マウス、認知症誘導マウスモデル、およびADEL-Y01m抗体を腹腔内投与した認知症誘導マウスモデルの脳組織における、シナプシン-1の発現レベルを図示する(*p<0.05)。
【
図40】
図40は、ADEL-Y01m抗体が、正常マウス、認知症誘導マウスモデル、およびADEL-Y01m抗体を腹腔内投与した認知症誘導マウスモデルの脳組織に浸透するか否か、ならびに抗体がタウタンパク質に結合するか否かを同定するために行われた試験の結果を図示する。
【0019】
【
図41】
図41は、高齢の認知症誘導マウスモデルを用いてのADEL-Y01m抗体の脳室内投与の後で達成された行動改善効果を同定するための、実験スケジュールを図示する。
【
図42】
図42は、ADEL-Y01m抗体が高齢の認知症誘導マウスモデルに脳室内投与された場合の巣作り試験の結果を図示する(*p<0.05)。
【
図43】
図43は、ADEL-Y01m抗体が高齢の認知症誘導マウスモデルに脳室内投与された場合のY迷路試験結果を図示する(*p<0.05)。
【
図44】
図44は、ADEL-Y01m抗体が高齢の認知症誘導マウスモデルに脳室内投与された場合の水迷路試験において、各々のゾーンにおいて滞在して過ごした時間を図示する(*p<0.05)。
【
図45】
図45は、正常マウス、高齢の認知症誘導マウスモデル、およびADEL-Y01m抗体を腹腔内投与した高齢の認知症誘導マウスモデルの脳組織における、全タウタンパク質(Tau5)、アセチル化タウタンパク質(Tau-acK280)、およびリン酸化されたタウタンパク質(pT231)の発現レベルを図示する。
【0020】
【
図46】
図46は、正常マウス、高齢の認知症誘導マウスモデル、およびADEL-Y01m抗体を腹腔内投与した高齢の認知症誘導マウスモデルの脳組織における、全タウタンパク質(Tau5)の発現レベルを図示する(*p<0.05、**p<0.01)。
【
図47】
図47は、正常マウス、高齢の認知症誘導マウスモデル、およびADEL-Y01m抗体を腹腔内投与した高齢の認知症誘導マウスモデルの脳組織における、アセチル化タウタンパク質(Tau-acK280)の発現レベルを図示する(**p<0.01)。
【
図48】
図48は、正常マウス、高齢の認知症誘導マウスモデル、およびADEL-Y01m抗体を腹腔内投与した高齢の認知症誘導マウスモデルの脳組織における、リン酸化された全タウタンパク質(pT231)の発現レベルを図示する(*p<0.05)。
【
図49】
図49は、各々の画分について、正常マウス、高齢の認知症誘導マウスモデル、およびADEL-Y01m抗体を腹腔内投与した高齢の認知症誘導マウスモデルの大脳皮質における不溶性タウ凝集物を同定するために行われた、試験の結果を図示する。
【
図50】
図50は、アセチル化タウタンパク質により処置されたドナー細胞を溶解させた後で行われるウェスタンブロット試験により同定される、ヘマグルチニン(HA)、全タウタンパク質(Tau5)、およびアセチル化タウタンパク質(Tau-acK280)の発現レベルを図示する。
【0021】
【
図51】
図51は、アセチル化タウタンパク質により処置されたドナー細胞の培地を得た後で行われるウェスタンブロット試験により同定される、ヘマグルチニン(HA)、全タウタンパク質(Tau5)、およびアセチル化タウタンパク質(Tau-acK280)の発現レベルを図示する。
【
図52】
図52は、アセチル化タウタンパク質により処置されたドナー細胞の培養物を神経細胞に適用し、1時間または20時間後に当該神経細胞を溶解させた後で行われるウェスタンブロット試験により同定される、細胞内タウタンパク質凝集物を図示する。
【
図53】
図53は、アセチル化タウタンパク質で処置されたドナー細胞の培養物を神経細胞に適用し、1時間または20時間後に神経細胞を溶解させた後で、ウェスタンブロットおよび免疫沈降試験により同定される細胞内タウタンパク質凝集物を図示する。
【
図54】
図54は、Tau-RD-P301S FRETバイオセンサー細胞をタンパク質フラグメントK280-acまたはその凝集物およびADEL-Y01h01_v01抗体による処置に供した後で行われるFRETにより同定される、タウタンパク質シーディング阻害効果を図示する(**p<0.01、***p<0.001)。
【
図55】
図55は、Tau-RD-P301S FRETバイオセンサー細胞をアルツハイマー病を有する患者からのサルコシル不溶性画分による、およびADEL-Y01h01_v01抗体による処置に供した後で行われる蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)により同定される、タウタンパク質シーディング阻害効果を図示する(**p<0.01)。
【0022】
【
図56】
図56は、抗AT8抗体で免疫染色された脳組織を示す写真を図示し、ここで、脳組織は、アルツハイマー病を有する患者からのサルコシル不溶性画分が、Tau-P301L認知症マウスの左海馬におけるCA1層に投与された後で抽出される(Ipsi:同側、Contra:対側)。
【
図57】
図57は、抗AT8抗体で免疫染色された脳組織を示す写真を図示し、ここで、脳組織は、アルツハイマー病を有する患者からのサルコシル不溶性画分が、Tau-P301L認知症マウスの左海馬におけるCA1層に投与された後で抽出される(DG:歯状回、EC:嗅内皮質)。
【
図58】
図58および59は、脳組織が抗AT8抗体で免疫染色される程度を示すグラフであり、ここで、脳組織は、アルツハイマー病を有する患者からのサルコシル不溶性画分が、Tau-P301L認知症マウスの左海馬におけるCA1層に投与された後で抽出される(*p<0.05、**p<0.01)。
【
図59】
図58および59は、脳組織が抗AT8抗体で免疫染色される程度を示すグラフであり、ここで、脳組織は、アルツハイマー病を有する患者からのサルコシル不溶性画分が、Tau-P301L認知症マウスの左海馬におけるCA1層に投与された後で抽出される(*p<0.05、**p<0.01)。
【
図60】
図60は、アセチル化タウタンパク質をIgGまたはADEL-Y01m抗体で処置した後の、アセチル化タウタンパク質の凝集における変化を同定するために行われた、チオフラビン-T検定の結果を図示する。
【0023】
【
図61】
図61は、タウタンパク質(K18)、アセチル化タウタンパク質(K18+P300)、および凝集したアセチル化タウタンパク質(K18+P300+ヘパリン)をADEL-Y01m抗体で処置した後の、凝集したアセチル化タウタンパク質(Tau-acK280)の量の変化を同定するために行われた試験の結果を図示する。
【
図62】
図62は、IgGまたはADEL-Y01m抗体で処置されたマウス由来神経細胞をアセチル化タウタンパク質凝集物で処置した後に得られた上清中に含まれる、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の活性を示すグラフである(***p<0.001)。
【
図63】
図63は、IgGまたはADEL-Y01m抗体で処置されたマウス由来神経細胞をアセチル化タウタンパク質凝集物で処置した後で得られた、神経細胞の生存率を示すグラフである(*p<0.05、***p<0.001)。
【
図64】
図64は、IgGまたはADEL-Y01m抗体で処置されたマウス由来ミクログリアをHiLyte(商標)Fluor 488で標識されたアセチル化タウタンパク質凝集物で処置した後で得られた、ミクログリアのHiLyte(商標)Fluor 488の蛍光を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
発明の詳細な説明
本明細書において以後、本発明を詳細に説明する。
本発明の一側面において、抗タウ抗体またはその抗原結合フラグメントが提供され、これは、配列番号1により表されるアミノ酸配列を有する重鎖CDR1、配列番号2により表されるアミノ酸配列を有する重鎖CDR2、および配列番号3により表されるアミノ酸配列を有する重鎖CDR3を含む重鎖可変領域(VH)、ならびに配列番号4により表されるアミノ酸配列を有する軽鎖CDR1、配列番号5により表されるアミノ酸配列を有する軽鎖CDR2、および配列番号6により表されるアミノ酸配列を有する軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域(VL)を含む。
【0025】
用語「抗体」とは、本明細書において用いられる場合、抗原に結合することができ、それにより抗原の作用を妨害するか、または抗原を除去することができる、免疫タンパク質を意味する。5つの型の抗体:IgM、IgD、IgG、IgAおよびIgEが存在し、これらの抗体は、重鎖定常領域遺伝子により生成される重鎖、それぞれμ、δ、γ、αおよびεを含む。抗体を用いる技術において、IgGが主に用いられる。IgGは、4つのアイソタイプ:IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4を有し、それらの構造的および機能的特徴は、異なり得る。
【0026】
IgGは、2本の重鎖(約50kDa)タンパク質および2本の軽鎖(約25kDa)タンパク質から構成されるY形状の安定な構造(分子量:約150kDa)を形成する。抗体において、軽鎖および重鎖は、そのアミノ酸配列が抗体ごとに異なる可変領域、およびそのアミノ酸配列が抗体の間で同じである定常領域からなる。重鎖定常領域においては、CH1、H(ヒンジ)、CH2およびCH3ドメインが存在する。ドメインの各々は、2つのβ-シートから構成され、ドメインは、分子間ジスルフィド結合を介して互いに連結される。軽鎖および軽鎖の2つの可変領域は、組み合わされて、抗原結合部位を形成する。抗原結合部位は、2つのY形状の腕において存在する。抗原に結合することができる部分は、Fab(抗体結合フラグメント)と称され、抗原に結合しない部分は、Fc(結晶化可能なフラグメント)と称される。FabとFcとは、可撓性のヒンジ領域を介して互いに連結される。
【0027】
用語「CDR」とは、本明細書において用いられる場合、抗体の重鎖および軽鎖の可変領域における部位であって、そのアミノ酸配列が抗体ごとに異なる、高頻度可変領域を意味し、ここで、当該部位が抗原に結合する。抗体の三次元構造において、CDRは、抗体の表面上のループとして形成され、ループの下に、CDRを構造的に支持するためにフレームワーク領域(FR)が存在する。重鎖においては3つのループ構造が存在し、軽鎖においては3つのループ構造が存在し、これら6つの局所ループ構造が一緒に組み合わされて、抗原に対して直接的に接触する。
【0028】
重鎖可変領域は、配列番号7~11からなる群より選択されるいずれか1つのアミノ酸配列を含んでもよく、軽鎖可変領域は、配列番号12~15からなる群より選択されるいずれか1つのアミノ酸配列を含んでもよい。
【0029】
加えて、抗タウ抗体またはその抗原結合フラグメントは、以下の群より選択されるいずれか1つであってよい:
配列番号7により表されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域および配列番号12により表されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む、抗タウ抗体またはその抗原結合フラグメント;
配列番号8により表されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域および配列番号13により表されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む、抗タウ抗体またはその抗原結合フラグメント;
配列番号8により表されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域および配列番号14により表されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む、抗タウ抗体またはその抗原結合フラグメント;
配列番号8により表されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域および配列番号15により表されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む、抗タウ抗体またはその抗原結合フラグメント;
配列番号9により表されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域および配列番号13により表されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む、抗タウ抗体またはその抗原結合フラグメント;
配列番号9により表されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域および配列番号14により表されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む、抗タウ抗体またはその抗原結合フラグメント;
配列番号9により表されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域および配列番号15により表されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む、抗タウ抗体またはその抗原結合フラグメント;
配列番号10により表されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域および配列番号13により表されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む、抗タウ抗体またはその抗原結合フラグメント;
配列番号10により表されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域および配列番号14により表されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む、抗タウ抗体またはその抗原結合フラグメント;
配列番号10により表されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域および配列番号15により表されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む、抗タウ抗体またはその抗原結合フラグメント;
配列番号11により表されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域および配列番号13により表されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む、抗タウ抗体またはその抗原結合フラグメント;
配列番号11により表されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域および配列番号14により表されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む、抗タウ抗体またはその抗原結合フラグメント;ならびに
配列番号11により表されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域および配列番号15により表されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む、抗タウ抗体またはその抗原結合フラグメント。
【0030】
軽鎖可変領域または重鎖可変領域のCDR1、CDR2およびCDR3が同じである場合、そのフレームワーク部分を修飾することが可能である。特に、フレームワーク部分の一部のアミノ酸配列を、ヒト化抗体を調製するために修飾してもよい。
【0031】
本発明の例にかかる抗タウ抗体のアミノ酸配列および配列番号を、以下の表1および2においてまとめる。
【表1】
【0032】
【0033】
本発明の例にかかる抗タウ抗体のヌクレオチド配列を、以下の表3においてまとめる。
【表3】
用語「ADEL-Y01m」は、本明細書において用いられる場合、配列番号25により表されるタウタンパク質の275番目~286番目のアミノ酸配列セクションのアミノ酸配列において280番目のアミノ酸がアセチル化されているタンパク質フラグメントに対して特異的に結合するマウス抗体に関する。加えて、用語「ADEL-Y01h」は、本明細書において用いられる場合、ADEL-Y01m抗体をヒト化することにより得られた抗体を指す。
【0034】
抗体の抗原結合フラグメントは、Fab、scFv、F(ab’)2およびFvからなる群より選択されるいずれか1つであってよい。フラグメントとは、抗原に結合することにより引き起こされる刺激を細胞、補体などに伝達する機能(エフェクター機能)を有する結晶化可能な領域(Fc領域)を除く、抗原結合ドメインを指し、フラグメントは、シングルドメイン抗体およびミニボディーなどの第3世代フラグメントを含んでもよい。
【0035】
フラグメントのサイズは完全な構造のIgGのものよりも小さいので、フラグメントは、血液脳関門中への良好な浸透速度を有するという利点、および、フラグメントは細菌により生成させることができるので、低い生成コストを有するという利点を有する。加えて、抗体フラグメントはFcを欠いているので、抗体フラグメントは、抗原との結合により引き起こされる刺激を細胞、補体などに伝達する能力が所望されない場合に用いられる。フラグメントは、ヒトの体内における短い半減期に起因して、生体における診断のために好適である。しかし、抗体を構成するアミノ酸の中で、いくつかの塩基性、酸性または中性のアミノ酸が互いに置き換えられている場合、抗体自体に固有の等電点(pI)が変化し得る。抗体の等電点のかかる変化は、in vivoでの抗体の毒性の副作用の軽減、または水溶性の増大などの変化をもたらし得る。したがって、治療用抗体の場合、そのアフィニティーまたは構造形態を考慮して、完全な構造のIgGを用いてもよい。
【0036】
抗タウ抗体の重鎖可変領域またはその抗原結合フラグメントは、配列番号7~11から選択されるいずれか1つのアミノ酸配列を含む重鎖可変領域配列を有していてもよく、または、それは、重鎖可変領域配列に対して95%、97%、98%または99%の相同性を有していてもよい。
【0037】
抗タウ抗体の軽鎖可変領域またはその抗原結合フラグメントは、配列番号12~15から選択されるいずれか1つのアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域配列を有していてもよく、または、それは、軽鎖可変領域配列に対して少なくとも95%、97%、98%または99%の相同性を有していてもよい。
【0038】
抗タウ抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号7~11から選択されるいずれか1つのアミノ酸配列を含む重鎖可変領域配列に対して、および配列番号12~15から選択されるいずれか1つのアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域配列に対して、少なくとも95%、97%、98%または99%の相同性を有していてもよい。
【0039】
抗タウ抗体は、モノクローナル抗体を調製するための既知の技術により容易に調製することができる。モノクローナル抗体は、免疫した動物からのBリンパ球を用いてハイブリドーマを得ることにより、または、ファージディスプレイ技術を用いることにより、調製することができる。しかし、モノクローナル抗体を調製するための方法は、それらに限定されない。
【0040】
本発明の一態様において、抗タウ抗体のモノクローナル抗体は、配列番号25の野生型タウタンパク質のアミノ酸配列において280番目のアミノ酸がアセチル化されている、275番目~286番目のアミノ酸配列セクションを有するタンパク質フラグメント(K280-ac)をマウスに注射することにより得られるBリンパ球を調製することにより、ハイブリドーマ細胞株として、容易に調製することができる。
【0041】
本発明の別の側面において、抗タウ抗体またはその抗原結合フラグメントをコードするポリヌクレオチドが提供される。本発明のさらなる別の側面において、抗タウ抗体またはその抗原結合フラグメントの重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含む抗体の重鎖または軽鎖をコードするポリヌクレオチドが提供される。具体的には、ポリヌクレオチドは、配列番号16~20からなる群より選択されるいずれか1つのヌクレオチド配列、および/または配列番号21~24からなる群より選択されるいずれか1つのヌクレオチド配列を含んでもよい。
【0042】
ポリヌクレオチドは、以下の群より選択されるいずれか1つであってよい:
配列番号16により表されるヌクレオチド配列および/または配列番号21により表されるヌクレオチド配列を含む、ポリヌクレオチド;
配列番号17により表されるヌクレオチド配列および/または配列番号22により表されるヌクレオチド配列を含む、ポリヌクレオチド;
配列番号17により表されるヌクレオチド配列および/または配列番号23により表されるヌクレオチド配列を含む、ポリヌクレオチド;
配列番号17により表されるヌクレオチド配列および/または配列番号24により表されるヌクレオチド配列を含む、ポリヌクレオチド;
配列番号18により表されるヌクレオチド配列および/または配列番号22により表されるヌクレオチド配列を含む、ポリヌクレオチド;
配列番号18により表されるヌクレオチド配列および/または配列番号23により表されるヌクレオチド配列を含む、ポリヌクレオチド;
配列番号18により表されるヌクレオチド配列および/または配列番号24により表されるヌクレオチド配列を含む、ポリヌクレオチド;
配列番号19により表されるヌクレオチド配列および/または配列番号22により表されるヌクレオチド配列を含む、ポリヌクレオチド;
配列番号19により表されるヌクレオチド配列および/または配列番号23により表されるヌクレオチド配列を含む、ポリヌクレオチド;
配列番号19により表されるヌクレオチド配列および/または配列番号24により表されるヌクレオチド配列を含む、ポリヌクレオチド;
配列番号20により表されるヌクレオチド配列および/または配列番号22により表されるヌクレオチド配列を含む、ポリヌクレオチド;
配列番号20により表されるヌクレオチド配列および/または配列番号23により表されるヌクレオチド配列を含む、ポリヌクレオチド;ならびに
配列番号20により表されるヌクレオチド配列および/または配列番号24により表されるヌクレオチド配列を含む、ポリヌクレオチド。
【0043】
ポリヌクレオチドは、少なくとも1塩基の置換、欠失もしくは挿入、またはそれらの組み合わせにより、修飾することができる。ヌクレオチド配列が、化学合成により調製される場合、Engels and Uhlmann, Angew Chem IntEd Engl., 37:73-127, 1988において記載されるものなどの、当該分野において周知の合成方法を用いてもよい。かかる方法は、トリエステル法、ホスファイト法、ホスホルアミダイト法およびH-ホスフェート法、PCRおよび他のオートプライマー(autoprimer)法、固相上でのオリゴヌクレオチド合成などを含んでもよい。
【0044】
本発明のなおさらに別の側面において、ポリヌクレオチドを含む発現ベクターが提供される。発現ベクターは、プラスミドDNA、ファージDNAなどであってよく、それはまた、商業的に開発されたプラスミド(pUC18、pBAD、pIDTSAMRT-AMPなど)、E. coli由来プラスミド(pYG601BR322、pBR325、pUC118、pUC119など)、Bacillus subtilis由来プラスミド(pUB110、pTP5など)、酵母由来プラスミド(YEp13、YEp24、YCp50など)、ファージDNA(Charon4A、Charon21A、EMBL3、EMBL4、λgt10、λgt11、λZAPなど)、動物ウイルスベクター(レトロウイルス、アデノウイルス、ワクシニアウイルスなど)、昆虫ウイルスベクター(バキュロウイルス)などを含んでもよい。発現ベクターにおいて、タンパク質の発現レベル、修飾などは、宿主細胞に依存して変化し、したがって、目的のために最も好適な宿主細胞を選択して使用することが好ましい。
【0045】
本発明のなおさらに別の側面において、発現ベクターを含む宿主細胞が提供される。形質転換された細胞のための宿主細胞として、これらに限定されないが、哺乳動物、植物、昆虫、真菌または細菌の起源を有する細胞が挙げられ得る。哺乳動物細胞として、CHO細胞、F2N細胞、CSO細胞、BHK細胞、Bowesメラノーマ細胞、HeLa細胞、911細胞、AT1080細胞、A549細胞、HEK293細胞、HEK293T細胞などを用いてもよい;しかし、哺乳動物細胞は、これらに限定されない。当業者に公知であって哺乳動物宿主細胞として用いることができる任意の細胞を用いてもよい。
【0046】
加えて、発現ベクターが宿主細胞中に導入される場合、以下の方法を用いてもよい:CaCl2沈殿、効率の増大のためにジメチルスルホキシド(DMSO)と称される還元性物質をCaCl2沈殿と組み合わせて用いるHanahan法、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム沈殿、プロトプラスト融合、シリコンカーバイド繊維を用いた撹拌、アグロバクテリウム属により媒介される形質転換、PEGにより媒介される形質転換、硫酸デキストラン、リポフェクタミン、乾燥/阻害により媒介される形質転換など。
【0047】
本発明のなおさらに別の側面において、抗体またはその抗原結合フラグメントを生成するための方法が提供され、該方法は、宿主細胞を培養することを含む。具体的には、生成方法は、i)宿主細胞を培養して培養物を得るステップ、ii)培養物から抗体またはその抗原結合フラグメントを回収するステップを含んでもよい。
【0048】
宿主細胞を培養するステップは、当該分野において公知の方法を用いて行ってもよい。具体的には、培養は、回分(batch)プロセスにおいて行われても、流加回分(fed-batch)または繰り返しの流加回分プロセスにおいて行われてもよい。
【0049】
培養物から抗体またはその抗原結合フラグメントを回収するステップは、当該分野において公知の方法を用いて行われてもよい。具体的には、回収は、遠心分離、ろ過、抽出、噴霧、乾燥、蒸発、沈殿、結晶化、電気泳動、画分への分解(例えば、硫酸アンモニウム沈殿)、クロマトグラフィー(例えば、イオン交換、アフィニティー、疎水性、または分子ふるいクロマトグラフィー)などを含む方法により行われてもよい。
【0050】
本発明のなおさらに別の側面において、アクセッション番号KCTC14155BPを有するハイブリドーマが提供される。アクセッション番号KCTC14155BPを有するハイブリドーマは、ADEL-Y01mを産生することができる。ADEL-Y01mについて、抗タウ抗体またはその抗原結合フラグメントについての上記の説明に対する参照がなされる。本発明のなおさらに別の側面において、変性性神経疾患を予防または処置するための医薬組成物が提供され、該医薬組成物は、活性成分として抗タウ抗体またはその抗原結合フラグメントを含む。
【0051】
変性性神経疾患は、タウタンパク質媒介性神経疾患であってよい。具体的には、タウタンパク質媒介性神経疾患は、タウオパシー、原発性加齢性タウオパシー、慢性外傷性脳症、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、前頭側頭型認知症、リティコ・ボディグ病、パーキンソニズム、亜急性硬化性髄膜炎(subacute sclerosing meningitis)、鉛脳症(lead encephalopathy)、結節性硬化症、神経節膠腫、神経節細胞腫、髄膜血管腫症(meningioangiomatosis)、亜急性硬化性全脳炎(subacute sclerosing panencephalitis)、ハラーホルデン・スパッツ病、またはリポフスチン沈着症であってよい。
【0052】
加えて、タウオパシーは、アルツハイマー病(AD)、進行性核上性麻痺(PSP)、大脳皮質基底核変性症(CBD)、ピック病(PiD)、17番染色体に連鎖しパーキンソニズムを伴う前頭側頭型認知症(frontotemporal dementia and parkinsonism linked to chromosome 17:FTDP-17)と集合的に称される一群の関連障害、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)、ボクシング認知症(DP)、ゲルストマン・シュトロイスラー・シャインカー病(GSSD)、レビー小体病、慢性外傷性脳症(CTE)、またはハンチントン病であってよい。
【0053】
医薬組成物は、薬学的に受入可能なキャリア、希釈剤およびアジュバントからなる群より選択される1つ以上をさらに含んでもよい。医薬組成物のための好適なキャリアは、当業者に公知であり、これらに限定されないが、タンパク質、糖などを含んでもよい。キャリアは、水性または非水性の、溶液、懸濁液および乳液であってよい。非水性の溶液であるキャリアの例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブオイルなどの可食油、およびオレイン酸エチルなどの注射可能な有機エステルを含んでもよい。
【0054】
水性の溶液であるキャリアの例は、食塩水および緩衝媒を含む、水、アルコール/水溶液、乳液または懸濁液を含んでもよい。非経口投与のためのキャリアの例は、塩化ナトリウム溶液、リンガーデキストロース、デキストロースおよび塩化ナトリウム、乳酸リンガー、または不揮発性油(fixed oil)を含んでもよい。静脈内注射のためのキャリアの例は、リンガーデキストロース、液体、および栄養補助に基づくものなどの電解質補助を含んでもよい。保存剤、および抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤、および不活性ガスなどの他の添加物が、さらに存在してもよい。好ましい保存剤として、ホルマリン、チメロサール、ネオマイシン、ポリミキシンBおよびアンホテリシンBが挙げられる。
【0055】
医薬組成物は、アジュバント(免疫調節剤または免疫増強剤)をさらに含んでもよい。アジュバントとは、免疫応答を増強するか、および/または接種の後の吸収を促進する化合物または混合物を指し、それは、任意の吸収促進剤を含んでもよい。受入可能なアジュバントとして、これらに限定されないが、フロイント完全アジュバント、フロイント不完全アジュバント、サポニン、水酸化アルミニウムなどの鉱物ゲル、リゾレシチンなどの界面活性剤、プルロニックポリオール、ポリアニオン、ペプチド、油脂または炭化水素エマルジョン、キーホールリンペットヘモシアニン、ジニトロフェノールなどが挙げられる。
【0056】
医薬組成物は、脳内、脳室内、腹腔内、経皮、筋肉内、硬膜内、静脈内、皮下、および鼻の投与の経路からなる群より選択されるいずれか1つの投与の経路を通して投与してもよく、それは、好ましくは、脳内、脳室内、硬膜内または腹腔内経路により投与される。
【0057】
特に、脳内、脳室内または硬膜内投与は、血液脳関門(BBB)の浸透の問題を考慮する必要がない点において、有用であり得る。加えて、脳内投与は、脳内の特定の領域に対する薬物の効果を知ることが望ましい場合に、少量の薬物の当該領域への直接投与により用いてもよい。脳室内投与とは、薬物を脳室へ投与する方法であり、脳の全領域に対する薬物の効果を知ることが所望される場合に用いてもよい。さらに、硬膜内投与とは、脊椎の下部における2つの椎骨の間の脊髄の周りの空間中に針を挿入することにより、薬物を脊柱管中に注射する方法であり、脳、脊髄、または脳もしくは脊髄を被覆する組織層(髄膜)に対して、薬物が迅速または局所的な効果を提供することが必要とされる場合に用いてもよい。
【0058】
本発明の一態様により、本発明にかかる抗体は、認知症が誘導された動物モデルにおいて、腹腔内投与ならびに脳室内投与を通して、運動機能認知機能を効果的に改善した。
【0059】
医薬組成物は、治療有効量において投与される。用語「治療有効量」とは、本明細書において用いられる場合、医薬組成物が、副作用または重篤なもしくは過剰な免疫応答を引き起こすことなく治療効果を発揮することを可能にするために十分な量を意味する。有効量のレベルは、処置されるべき障害、障害の重篤度、特定の化合物の活性、投与の経路、タンパク質が除去される速度、処置の期間、タンパク質と組み合わせてまたはこれと同時に用いられる薬物、個体の年齢、体重、性別、食事週間、一般的健康状態、および医学の分野において公知の要因を含む、多様な要因に依存して変化し得る。
【0060】
医薬組成物の用量は、患者の年齢、性別、状態、その活性成分の体内における吸収の程度、不活性化の速度、および組み合わせて用いられる薬物を考慮して、望ましいように決定される。医薬組成物は、抗体またはその抗原結合フラグメントに基づいて、0.0001mg/kg(体重)~300mg/kg(体重)の量において投与してもよい。
【0061】
本発明のさらなる別の側面において、変性性神経疾患を予防または処置するための方法が提供され、該方法は、抗タウ抗体またはその抗原結合フラグメントを、変性性神経疾患を発症することが予測されるかまたは変性性神経疾患を発症している個体に投与するステップを含む。
【0062】
抗タウ抗体またはその抗原結合フラグメントは、上記のとおりである。
抗タウ抗体またはその抗原結合フラグメントの用量は、患者の体重、年齢、性別、健康状態、食事、投与の時間、投与の方法、排出の速度および疾患の重篤度に依存して、その範囲が変化する。単一用量は、1日1回、または週1回に基づいて、約0.001mg/kg~300mg/kgの量において投与してもよい。有効量は、患者を処置する医師が随意に決定することができる。
【0063】
抗タウ抗体またはその抗原結合フラグメントの有効量は、患者の年齢、体重、症状の特徴および程度、現在の処置の型、処置の数、投与形態ならびに投与の経路などの多様な要因に依存して変化し得、関連する分野における専門家により容易に決定され得る。
【0064】
抗タウ抗体またはその抗原結合フラグメントは、上述の薬理学的または生理学的な構成成分と一緒に、またはこれと連続して、投与してもよく、また、さらなる従来の治療剤と組み合わせて投与してもよく、ここで、抗タウ抗体またはその抗原結合フラグメントを、当該従来の治療剤と連続的にまたは同時に投与してもよい。上の要因の全てを考慮して、最小量であって、かつ副作用なしで最大効果を可能にする量を投与することが重要であり、当該量は、当業者により容易に決定され得る。
【0065】
発明のなおさらなる別の側面において、変性性神経疾患を診断するための組成物が提供され、該組成物は、抗タウ抗体またはその抗原結合フラグメントを含む。抗タウ抗体は、修飾されたタウタンパク質に結合する抗体であってよい。抗体は、上で記載される。
【0066】
特に、タウタンパク質のアミノ酸配列における280番目のアミノ酸のアセチル化が、タウの凝集およびタウタンパク質媒介性神経疾患を引き起こすことが同定された。抗タウ抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号25により表されるタウタンパク質のアミノ酸配列において、280番目のアミノ酸がアセチル化されている、278番目~284番目のアミノ酸を含むエピトープに結合し、したがって、抗タウ抗体または抗原結合フラグメントは、タウタンパク質媒介性神経疾患をより効果的に診断するために用いてもよい。
【0067】
抗体が用いられる場合、それに結合する修飾されたタウタンパク質の量を同定するためのアッセイとして、これらに限定されないが、ウェスタンブロッティング、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、同位元素標識免疫拡散法(radioimmunodiffusion)、オークタロニー免疫拡散法、ロケット免疫電気泳動、免疫組織化学染色、免疫沈降アッセイ、補体結合(complement fixation)アッセイ、蛍光活性化セルソーター(FACS)、プロテインチップ法などが挙げられる。
【0068】
本発明のなおさらに別の側面において、変性性神経疾患を予防、処置または診断するためのキットが提供され、該キットは、抗タウ抗体またはその抗原結合フラグメント、ポリヌクレオチド、発現ベクター、または宿主細胞を含む。
【0069】
本発明のなおさらに別の側面において、変性性神経疾患のための診断キットが提供され、該キットは、抗タウ抗体またはその抗原結合フラグメントを含む。
【0070】
キットは、変性性神経疾患を診断するために、個体の試料からの修飾されたタウタンパク質の発現レベルを測定するために用いることができる。加えて、抗体、ならびに、1つ以上の他の構成要素を含み、アッセイ方法のために好適である組成物、溶液またはデバイスが、修飾されたタウタンパク質の発現レベルを測定するためにその中に含まれていてもよい。
【0071】
試料は、既知のプロセスを用いることにより、個体から単離してもよい。用語「試料」とは、本明細書において用いられる場合、これらに限定されないが、組織、細胞、血液および血漿などの試料を含み、これらの各々は、異なる発現レベルの修飾されたタウタンパク質などを有する。
【0072】
加えて、タンパク質を測定するステップは、ウェスタンブロッティング、ELISA、ラジオイムノアッセイ、同位元素標識免疫拡散法、オークタロニー免疫拡散法、ロケット免疫電気泳動、免疫組織化学染色、免疫沈降アッセイ、補体結合アッセイ、FACSまたはプロテインチップ法により行ってもよい。しかし、本発明は、これらに限定されない。
【0073】
上のアッセイ方法を通して、正常な対照において形成された抗原-抗体複合体の量を、個体において形成された抗原-抗体複合体の量と比較して、タウタンパク質媒介性神経疾患を決定することが可能である。
【0074】
用語「抗原-抗体複合体」とは、本明細書において用いられる場合、修飾されたタウタンパク質とそれに対して特異的な抗体とのコンジュゲートを意味し、形成された抗原-抗体複合体の量は、検出標識のシグナルのサイズを通して、定量的に測定することができる。かかる検出標識は、酵素、蛍光物質、リガンド、発光物質、微粒子、酸化還元分子および放射性同位元素からなる群より選択してもよいが、必ずしもこれらに限定されない。検出標識として酵素が用いられる場合、利用可能な酵素として、β-グルクロニダーゼ、β-D-グルコシダーゼ、β-D-ガラクトシダーゼ、ウレアーゼ、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼなどが挙げられる。リガンドとして、これらに限定されないが、ビオチン誘導体などが挙げられる。
【0075】
本発明のなおさらに別の側面において、変性性神経疾患を予防または処置するための、抗タウ抗体またはその抗原結合フラグメントに使用が提供される。
本発明のなおさらに別の側面において、変性性神経疾患の予防または処置のための医薬を調製するための、抗タウ抗体またはその抗原結合フラグメントの使用が提供される。
【0076】
本明細書において以後、本発明は、例により詳細に記載されるであろう。しかし、以下の例は本発明を説明することを意図するにすぎず、本発明はこれらに限定されない。
【0077】
I.修飾タウタンパク質フラグメントおよびそれに対する抗体の調製
調製例1.修飾タウタンパク質フラグメントの調製
修飾タウタンパク質フラグメントを調製するために、441アミノ酸からなるタウタンパク質(2N4R)のアミノ酸配列において、アルツハイマー病の病態形成において作用し、タウ遺伝子が修飾されたマウスモデルの能動免疫により認知機能改善効果を示す、タウタンパク質フラグメントを選択した。
図1において示されるとおり、微小管結合ドメインに位置するタウタンパク質フラグメントのアミノ酸配列において、12アミノ酸からなるセクションを指定した。
【0078】
具体的には、配列番号25の野生型タウタンパク質アミノ酸配列において、280番目のアミノ酸がアセチル化されている、275番目~286番目のアミノ酸配列セクションを有するタンパク質フラグメントを、K280-acとして指定した。K280-acタンパク質フラグメントは、Peptron Inc.にこれを生成するように依頼することにより生成した。
【0079】
加えて、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)がN末端に結合したK280-acタンパク質フラグメントを、ANYGEN Inc.(Nam-myeon, South Korea)にこれを生成するように依頼することにより生成した。KLHがN末端に結合したK280-acタンパク質フラグメントを、Shimadzu HPLC 10AVPシステムを用いて、0.05%TFA中5%~65%のアセトニトリルによる濃度勾配条件下において、精製した(91.8%の純度)。
【0080】
さらに、配列番号25の野生型タウタンパク質アミノ酸配列において、244番目~372番目のアミノ酸(配列番号26)を含む、リピートドメイン(RD)1、2、3および4のタンパク質フラグメントを、K18として指定した。K18タンパク質フラグメントをコードする遺伝子を含むベクターをE. coli細胞中に形質導入して、K18タンパク質フラグメントを産生させた。
【0081】
具体的には、K18タンパク質フラグメントは、以下のとおり生成した。pET-21b-Tau(K18)発現ベクター(
図2)を、初めに、E. coli BL21(DE3)中に形質導入し、アンピシリンを50μg/mlの濃度で含むLB培地中で、600nmの波長における光学密度(O.D.)が0.6~0.8に達するまで、37℃の温度で培養した。その後、0.5mMの濃度のIPTGによる処置を行い、得られたものを、37℃の温度で3時間にわたり培養し、18℃の温度で18時間にわたり培養した。
【0082】
18時間後に、形成された単一のコロニーを、種菌と共に、アンピシリンを50μg/mlの濃度で含む5mlのLB培地中で、37℃の温度および220rpmの条件下において約16時間にわたり培養した。種菌を、アンピシリンを50μg/mlの濃度で含む5LのLB培地を入れたエルレンマイヤーフラスコ中に、1:500の比において植菌し、次いで37℃の温度で4時間にわたり培養した。その後、培養物を3,500rpmで30分間にわたり遠心分離した。次いで、上清を取り除き、残りのペレットを-20℃の温度で凍結した。
【0083】
凍結したペレットを、溶解バッファー(20mMのTris-HCl、1mMのフッ化フェニルメチルスルホニル、pH8.0)中で25ml/gの割合で再懸濁した。細胞を、JY99-IIDN超音波ホモジナイザーを用いて、30分間にわたり1,500Wの条件下において溶解した。その後、得られたものを、4℃の温度および15,000rpmの条件下において20分間にわたり遠心分離し、上清を0.45μmのフィルターでろ過した。
【0084】
ろ過物を、バッファーA(20mMのTris-HCl、pH8.0)で平衡化された5mLのHis-Trap SPカラムを通してろ過した。非特異的結合を取り除くために、5カラム容積(CV)のバッファーAによる洗浄を行い、次いで、10CVのバッファーB(20mMのTris-HCl、pH8.0、300mMのNaCl)を用いて、0~1Mの濃度勾配のNaClで溶離を行った。
【0085】
K18タンパク質フラグメントを含む画分を回収し、次いで、バッファーC(20mMのTris-HCl、pH8.0、300mMのNaCl、50mMのイミダゾール)で平衡化された5mLのHi-Trap SPカラムを通して、当該画分をろ過した。非特異的結合を取り除くために、10CVのバッファーCによる洗浄を行った。その後、20CVのバッファーD(20mMのTris-HCl、pH8.0、300mMのNaCl、100mMのイミダゾール)により、溶離を行った。精製されたK18タンパク質フラグメントを含む溶離液を、10kDaの分子量の遠心フィルターを用いて濃縮した。
【0086】
アセチル化K18タンパク質フラグメント(acK18)は、(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES、10mM、pH7.4)、50mMのNaCl、1.5mMのMgCl2、0.5mMのジチオトレイトール(DTT)、2.5mMのEGTA、0.1mMのEDTAのアセチル化バッファーを、8μMの濃度のK18タンパク質フラグメント、125μMの濃度のアセチルCoA、および0.5μgのP300酵素(これはアセチルトランスフェラーゼである)と、30℃の温度で3時間にわたり反応させることにより調製した。
【0087】
K18タンパク質フラグメントの凝集物は、25μMの濃度のK18タンパク質フラグメントを、25mMのDTT溶液中で1時間にわたり24℃の温度で溶解させ、(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES、10mM、pH7.4)、NaCl(100mM)、ヘパリン(25mM)の溶液中で、Eppendorf Thermomixer Cを用いて、37℃の温度および700rpmの条件下において撹拌を行うことにより調製した。
【0088】
調製例2.修飾タウタンパク質フラグメントに結合する抗体の調製
調製例1において調製されたK280-acタンパク質フラグメントに特異的に結合する抗体は、韓国のマウスモノクローナル抗体開発会社であるAbFrontierにこれを生成するように依頼することにより生成した。K280-acタンパク質フラグメントを抗原としてマウス中に注射することにより得られたBリンパ球を、ハイブリドーマ細胞として生成した。その後、K280-acタンパク質フラグメントに特異的に結合する抗体を産生する細胞株を、ELISAを通してスクリーニングした。加えて、韓国における大学の抗体開発研究者により、K280-acタンパク質フラグメントに対して特異的に結合する抗体を開発するために、ファージディスプレイライブラリースクリーニングが行われた。
【0089】
結果として、1つのマウスハイブリドーマ細胞株(マウスハイブリドーマ細胞株)が最終的に選択され、ファージディスプレイライブラリースクリーニングを通して選択された候補は除外された。なぜならば、それらは、マウスハイブリドーマ細胞株よりも低いアフィニティーを有する抗体を産生するからである。マウスハイブリドーマ細胞株から産生される抗体を、K280-acタンパク質フラグメントとの結合について、ウェスタンブロッティングおよびELISAを通してin vitroでチェックした。
【0090】
結果として、#15E5ハイブリドーマ細胞株(クローン#1)から産生される抗体が、K280-acタンパク質フラグメントと特異的に結合する抗体であることが同定された(
図3および4)。#15E5ハイブリドーマ細胞株から産生される抗体を、最終的に、ADEL-Y01mとして指定した。
【0091】
このマウス抗体から出発して、抗体可変領域分析、CDR調査、分子モデリング、ヒト生殖系列抗体分析、CDR移植および遺伝子配列決定を含む従来から知られている技術を用いて、ヒト化抗体を生成し、それらのヒト化抗体を、ADEL-Y01h(v01~v10)として指定した。
【0092】
一方、#15E5ハイブリドーマ細胞株は、Korean Collection for Type Cultures(KCTC)において、2020年3月18日に寄託し、それは、微生物アクセッション番号KCTC14155BPを割り当てられた。
【0093】
実験例1.抗原特異的結合の同定
調製例2において調製されたADEL-Y01m抗体の、アセチル化タウタンパク質に対する特異的結合を同定するために、野生型タウタンパク質および280番目のアミノ酸リジンがアラニンで置き換えられたタウタンパク質(タウK280A)を、in vitroでアセチル化した。ここで、野生型タウタンパク質およびタウK280Aタンパク質のアセチル化は、調製例1におけるアセチル化K18タンパク質フラグメントの調製方法におけるものと同じ様式において行われた。次いで、ADEL-Y01m抗体の抗原-抗体特異的結合反応を、ウェスタンブロッティングを通してチェックした。
【0094】
初めに、野生型タウタンパク質およびタウK280Aタンパク質の濃度を、ブラッドフォードアッセイを通して測定した。タンパク質の各々を、4×サンプルバッファー(60mMのTris-HCl[pH6.8]、2%w/vのSDS、25%v/vのグリセロール、14.4mMのv/vのβ-メルカプトエタノール、およびブロモフェノールブルー)と混合した。その後、各々のタンパク質を、SDS-PAGEゲル上で電気泳動した。次いで、電気泳動したゲルを分離し、PVDFメンブレン(BioRad, California, USA)上にトランスファーした。ブロッキングバッファー(PBSバッファー中、0.1%v/vのTween-20[PBST]、3%w/vのBSA、または5%v/vのスキムミルク)による処置を行い、1時間にわたり反応を進行させた。次いで、一次抗体として抗アセチル-リジン抗体(抗アセチル-リジン、Cell Signaling, 9441)またはADEL-Y01m抗体による処置を行い、4℃で一晩反応を進行させた。翌日、PVDFメンブレンを、洗浄バッファー(PBSバッファー中、0.1%v/vのTween-20[PBST])で3回洗浄し、次いで、HRP標識抗マウスIgG抗体(Bioxcell、BE0083)で処置した。PVDFメンブレンを、化学発光試薬(Thermo Fisher Scientific)で処置した。次いで、X線フィルムおよびImageJソフトウェア(NIH, Bethesda, MD)を用いて、測定および分析を行った。
【0095】
結果として、ADEL-Y01m抗体は、タウK280Aタンパク質に対して、およびアセチル化されたタウK280Aタンパク質に対して結合しないことが同定された(
図5)。これらの結果から、ADEL-Y01m抗体が、280番目のアミノ酸リジンがアセチル化タウタンパク質に対してのみ特異的に結合する抗体であることが同定された。
【0096】
加えて、調製例2において調製されたADEL-Y01h01_v01抗体との特異的結合を同定するために、ウェスタンブロッティングを、上と同じ様式において、K280-acタンパク質フラグメントおよびK18タンパク質フラグメントを用いて行った。ここで、ADEL-Y01h01_v01抗体およびHRP標識抗ヒトIgG抗体(Bioxcell、BE0297)を用いた。
結果として、ADEL-Y01h01_v01抗体が、K280-acタンパク質フラグメントについて高い抗体アフィニティーを示すことが同定された(
図6)。
【0097】
実験例2.抗原-抗体アフィニティーの同定
調製例1において調製されたK280-acタンパク質フラグメントと調製例2において調製されたADEL-Y01m抗体との間のアフィニティーを、Octet(登録商標)K2システム(Fortebio)を通して測定した。
【0098】
ADEL-Y01m抗体を、AR2Gバイオセンサー上に、製造者のマニュアルに従って固定した。バイオセンサーの表面を、10分間にわたり水で水和し、20mMの1-エチル-3-[3-ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド塩酸塩(EDC)および10mMのN-ヒドロキシスルホスクシンイミド(s-NHS)の混合物を用いて活性化した。ADEL-Y01m抗体を、10mMの酢酸ナトリウムバッファー(pH5.0)を用いて、活性化されたバイオセンサー上に固定し、1Mのエタノールアミン(pH8.0)で5分間にわたりクエンチした。ADEL-Y01m抗体を固定したバイオセンサーを、1×PBSバッファー(pH7.4)中に60秒間にわたり浸漬して、ベースラインを確立した。次いで、バイオセンサーを、60秒間にわたり、様々な濃度のK280-acタンパク質フラグメント(抗原)またはBSA結合ペプチドを含むウェル中に浸漬した。その後、解離が生じるように、バイオセンサーを、1×PBSバッファー(pH7.4)中に10分間にわたり再び浸漬した。実験データは、Octet Data Analysis(SWバージョン:9.0.0.10)により評価した。
結果として、ADEL-Y01m抗体とK280-acタンパク質フラグメントとの間のアフィニティーについて、抗原解離定数(Kd)値は、2.57×10
-10Mとして測定された(
図7)。
加えて、調製例1において調製されたK280-acタンパク質フラグメントの調製例2において調製されたADEL-Y01h(v01~v12)抗体との結合を、ELISAにより測定した。
【0099】
初めに、プレートを、250ng/ウェルのK280-acタンパク質フラグメントで処置し、4℃で一晩反応を進行させた。翌日、洗浄バッファーによる洗浄を3回行い、次いで、一次抗体による処置を、8つの濃度(2μg、1μg、0.5μg、0.25μg、0.12μg、0.06μg、0.03μg、0.01μg)により行った。二次抗体として、HRP標識抗ヒトIgG抗体を用いた。
結果として、ADEL-Y01h(v01~v10)抗体が、K280-acタンパク質フラグメントについて高い抗体アフィニティーを示すことが同定された(
図8)。
【0100】
II.動物モデルを用いたADEL-Y01m抗体により引き起こされる治療効果の同定
調製例3.認知症マウスモデルの調製
Tau-P301L変異体遺伝子を発現するJNPL3マウスをTaconicから購入し、Asan Institute for Life Sciences(韓国)の実験動物室において、C57bl/6マウスと5世代にわたり戻し交配した。次いで、マウスを特定病原体除去(SPE)条件下において生育した。
【0101】
実験例3.認知症マウスモデルの特徴の同定
実験において用いられたTau-P301L認知症マウスモデルは、正常マウスと比較して、脳組織における加齢に伴うタウタンパク質の蓄積における差異を示した。調製例2において調製されたADEL-Y01m抗体を用いたイムノブロッティングを行った。
【0102】
正常マウスおよびTau-P301L認知症マウスから脳を抽出し、次いで、サルコシル画分を通して脳組織から可溶性タンパク質および不溶性タンパク質を分離した。脳試料を、RAバッファーB(100mMのMES、0.75MのNaCl、1mMのEGTA、0.5mMのMgSO4、2mMのDTT、pH6.8+プロテアーゼ/ホスファターゼ阻害剤)によりホモジナイズした。試料を、氷上で20分間にわたりインキュベートし、9,000rpmで20分間にわたり4℃で遠心分離した。遠心分離の後、上清を回収した(可溶性タンパク質)。ペレットを、抽出バッファー(1%サルコシル、10mMのTris、10%スクロース、0.85MのNaCl、1mMのEGTA、pH7.4)でホモジナイズした。試料を、1時間にわたり室温でインキュベートし、13,000rpmで20分間にわたり4℃で遠心分離した。遠心分離の後、上清を回収した(タウ凝集体)。分離したタンパク質を、実験例1と同じ様式においてウェスタンブロッティングに供した。
【0103】
結果として、12か月齢の認知症マウスモデルが、脳組織において、アセチル化タウタンパク質の数の増大を示すことが同定された。特に、4か月齢の認知症マウスモデルは、正常マウスにおけるものと同様のタウタンパク質の発現レベルを示すが、一方で、重篤な認知症の症状を示す12か月齢の認知症マウスモデルは、正常マウスと比較して約2倍のタウタンパク質の発現レベルを示すことが同定された(
図9)。
【0104】
実験例4.ADEL-Y01m抗体により引き起こされる行動改善効果の同定:脳室内投与
ADEL-Y01m抗体により引き起こされる治療効果を同定するために、
図10において図示される実験スケジュールに従って、ADEL-Y01m抗体を、調製例3において調製されたTau-P301L認知症マウスの側脳室に浸透圧ポンプを用いて投与した。
【0105】
実験例4.1.巣作り試験を通した行動改善効果の同定
マウスのマルチモーダルな脳機能を同定することができる巣作り試験を行った。
具体的には、マウスが生育された1つのケージの中の同腹仔のうちの3分の2を取り除き、4層の無菌綿(5cm×5cm)をケージの中に置いた。1個体のマウスを、1つのケージに入らせた。翌朝、巣の完成の程度を分析した。
【0106】
巣の完成に従ったスコアを、1~5ポイントに分けることにより計算した。提供された無菌綿が90%以上維持されているか、またはほとんど触れられていなかったケースについて、当該ケージを1ポイントとして計算し;無菌綿が約50%~90%維持され、部分的に裂かれているケースについて、当該ケースを2ポイントとして計算し;無菌綿が50%以上裂かれてケージ周辺に広がっているケースについて、当該ケースを3ポイントとして計算し;無菌綿が90%以上裂かれてケージの端に集められているケースについて、当該ケースを4ポイントとして計算した。無菌綿が完全に裂かれており、ケージの端に完全な巣の形状が形成されているケースについて、当該ケースを5ポイントとして計算した。
【0107】
結果として、Tau-P301L認知症マウスは、正常マウスと比較して約60%の巣作りスコア(building score)の低下を示し、ADEL-Y01m抗体を投与した認知症マウス(Tau-P301L-ADEL-Y01m)は、正常マウスと同様の巣作りスコアを示すことが同定された(
図11)。
【0108】
実験例4.2.Y迷路試験を通した行動改善効果の同定
認知機能の回復を同定するために、Y迷路試験を行った。Y迷路試験とは、短期記憶能力を同定するための実験である。具体的には、Yの形のボックスの中にA、BおよびCのゾーンを設定し、Bゾーンが遮断された状態において、5分間にわたりマウスを自由に動かせた。1時間後、Bゾーンが遮断された状態を取り除き、全てのゾーンが開いた状態において、5分間にわたりマウスの運動を観察した。
【0109】
結果として、Tau-P301Lマウスの場合、AまたはCゾーンにおいて滞在して過した時間は、100秒間以下であり、これは、正常マウスと比較して約50%低かった。一方、ADEL-Y01m抗体を投与したTau-P301L-ADEL-Y01m認知症マウスの場合、AまたはCゾーンにおいて滞在して過した時間は、約150秒間であり、これは、正常マウスと同様であった。これらの結果から、Tau-P301L-ADEL-Y01m認知症マウスの短期記憶能力が回復したことが同定された(
図12)。
【0110】
実験例4.3.水迷路試験を通した行動改善効果の同定
マウスの学習および記憶の能力を評価するために、水中迷路試験を行った。水中迷路試験のために用いられた設備およびプログラムについては、Asan Institute for Life Sciencesの実験動物室により所有される行動学の設備を用いた。具体的には、水中迷路試験は、全5日間を要した。マウスは、プラットフォームおよびプラットフォームの位置についてのビジュアルキューが置かれた状態において、4日間にわたり訓練された。
【0111】
学習は、プラットフォームを有するスイミングプール(直径1.4m、深さ45cm)を、約26.5cmの深さまで水(29±0.5℃)で満たし、次いで、マウスがプラットフォームをキューのみで記憶できるように、1.5Lの全脂粉乳を加えて水を濁らせることにより行った。次いで、マウスを、60秒間にわたり自由に泳ぐように慣れさせて、プラットフォーム上で1分間にわたり休息させた。実験は、3つの異なる出発位置での4セットにより、全12回にわたり行った。各々の試験の最後に、30秒間の休み時間を与えた。1セットの最後に、30~45分間の休み時間を与えた。
【0112】
4日間の学習の後で、第5日に試験を行った。評価のための実験において、マウスがキューのみを用いてプラットフォームの位置をよく訪れたか否かを同定するために、プラットフォームは置かず、プラットフォームが置かれていた領域における滞在の回数を測定した。加えて、マウスは、1分間以内に、プラットフォームが置かれていた位置に到達させられた。マウスが1分間以内にプラットフォームの位置に到達できなかった場合、マウスを、スイミングプールから取り除いた。
【0113】
初めに、4日間の学習の間にマウスがプラットフォームを見つけるために要した時間を測定した。結果として、Tau-P301Lマウスの場合、4日間の間、プラットフォームを見つけるために要した時間は、20秒間以上であった。一方、正常マウス、およびADEL-Y01m抗体を投与したTau-P301L-ADEL-Y01m認知症マウスの場合、プラットフォームを見つけるために要した時間は、第2日から、20秒間以下まで短縮された(
図13)。
【0114】
加えて、第5日において、プラットフォームが置かれていたNWゾーンにおいて滞在して過した時間について評価を行った。結果として、Tau-P301Lマウスは、10秒間以下にわたりNWゾーンに滞在するが、一方、正常マウスおよびADEL-Y01m抗体を投与したTau-P301L-ADEL-Y01m認知症マウスは、20秒間以下にわたりNWゾーンに滞在することが同定された(
図14)。
【0115】
実験例4.4.握力試験を通した行動改善効果の同定
マウスの筋力を同定するために、握力試験を行った。実験において用いられた鉄バンドルについて、Asan Institute for Life Sciencesにより所有される行動学の設備を用いた。ここで、40gの重量の鉄バンドルを鉄バンドルのために用いた。調製例3において調製されたマウスを、尾の端により保定し、マウスの前足を40gの鉄バンドル上に置かせて、マウスが鉄バンドルを握ることができるようにした。次いで、マウスの尾を保定した状態で、約30cmの高さまでマウスを持ち上げた。マウスが鉄バンドルを放すまでの時間を測定し、それぞれのマウスについて比較を行った。
【0116】
結果として、正常マウスは、握る強さについて20秒間以下の測定時間を示し、Tau-P301L認知症マウスは、握る強さについて5秒間以下の測定時間を示た。対照的に、ADEL-Y01m抗体を投与したTau-P301L-ADEL-Y01m認知症マウスの場合、握る強さについての測定時間は20秒間以上であり、これは、正常マウスよりも長かった(
図15)。これらの結果から、ADEL-Y01m抗体を投与したTau-P301L-ADEL-Y01m認知症マウスの運動能力が回復したことが同定された。
【0117】
実験例5.ADEL-Y01m抗体の行動改善効果の同定:腹腔内投与
ADEL-Y01m抗体の治療効力を同定するために、
図16において図示される実験スケジュールに従って、ADEL-Y01m抗体を、調製例3において調製されたTau-P301L認知症マウスに、3か月間にわたり腹腔内投与した。
【0118】
実験例5.1.巣作り試験を通した行動改善効果の同定
マウスのマルチモーダルな脳機能を同定することができる巣作り試験は、実験例4.1と同様に行った。
結果として、Tau-P301L認知症マウスは、正常マウスと比較して約60%の巣作りスコアの低下を示すこと、およびADEL-Y01m抗体を投与したTau-P301L-ADEL-Y01m認知症マウスは、正常マウスと同様の巣作りスコアを示すことが同定された(
図17)。
【0119】
実験例5.2.Y迷路試験を通した行動改善効果の同定
認知機能の回復を同定するために、Y迷路試験を、実験例4.2におけるものと同じ様式において行った。結果として、Tau-P301Lマウスの場合、AまたはCゾーンにおいて滞在して過した時間は約80秒間であり、これは、正常マウスと比較して約50%低下した。一方、ADEL-Y01m抗体を投与したTau-P301L-ADEL-Y01m認知症マウスの場合、AまたはCゾーンにおいて滞在して過した時間は、約110秒間であり、これは、正常マウスと同様であった。これらの結果から、Tau-P301L-ADEL-Y01m認知症マウスの短期記憶能力が回復したことが同定された(
図18)。
【0120】
実験例5.3.水迷路試験を通した行動改善効果の同定
水中迷路試験を、実験4.3におけるものと同じ様式において行った。4日間の学習の間にマウスがプラットフォームを見つけるために要した時間を測定した。結果として、Tau-P301Lマウスの場合、4日間の間、プラットフォームを見つけるために要した時間は、20秒間以下であった。一方、正常マウスおよびADEL-Y01m抗体を投与したTau-P301L-ADEL-Y01m認知症マウスの場合、プラットフォームを見つけるために要した時間は、第3日から、15秒間以下まで短縮された(
図19)。
【0121】
加えて、第5日において、プラットフォームが置かれていたNWゾーンにおいて滞在して過した時間について評価を行った。結果として、Tau-P301Lマウスは、20秒間以下にわたりNWゾーンに滞在するが、一方、正常マウスおよびADEL-Y01m抗体を投与したTau-P301L-ADEL-Y01m認知症マウスは、約25秒間にわたりNWゾーンに滞在することが同定された(
図20)。
【0122】
実験例6.ADEL-Y01m抗体とマウス組織において発現された修飾タウタンパク質との間の特異的結合の同定I
正常マウスおよび調製例3において調製されたTau-P301L認知症マウスの大脳皮質および海馬の組織を、IgGおよびADEL-Y01m抗体を用いた免疫沈降(IP)およびウェスタンブロッティングに供した。
【0123】
初めに、蒸留水に、1%Tx-100、100mMのNaCl、および50mMのHEPESを添加し、pHをpH7.4に調整することにより、サンプルバッファーを調製した。その後、サンプルバッファーを用いて、正常マウスおよびTau-P301L認知症マウスの大脳皮質および海馬の組織を再懸濁し、それにより再懸濁された試料を得た。得られた試料の各々を、IgGまたはADEL-Y01m抗体で処置し、24時間にわたり反応を進行させた。次いで、試料を、100μlのタンパク質G-アガロースビーズ(GE Healthcare Life Sciences)で処置し、4℃で一晩反応を進行させた。翌日、6,000rpmで1分間にわたり4℃で遠心分離を行って試料を回収し、0.1%のTriton X-100を含むPBSで3回洗浄を行った。試料を、1×サンプルバッファーで処置し、ウェスタンブロッティングに供した。ここで、ウェスタンブロッティングは、実験例1と同じ様式において行われ、IgG、ADEL-Y01m抗体、およびHRP標識抗マウスIgG抗体を用いた。
【0124】
結果として、Tau-P301L認知症マウスの大脳皮質および海馬の組織において、ADEL-Y01m抗体と、280番目のアミノ酸リジンがアセチル化されたタウタンパク質(Tau-acK280)との間に特異的結合反応が存在することが同定された。加えて、これらの結果から、ADEL-Y01m抗体が、in vivoで脳組織において発現される修飾タウタンパク質に良好に結合することが同定された(
図21)。
【0125】
実験例7.ADEL-Y01m抗体とヒト組織において発現された修飾タウタンパク質との間の結合の同定II
ADEL-Y01m抗体とヒト脳組織において発現された修飾タウタンパク質との間の特異的結合を同定するために、正常な高齢者およびアルツハイマー病を有する患者の脳組織における側頭皮質を、ADEL-Y01m抗体を用いた免疫組織化学染色に供した。
【0126】
初めに、正常な高齢者およびアルツハイマー病を有する患者の脳組織における側頭皮質の各々を、薄切し、スライドグラスに貼り付けた。脳組織は、Netherlands Brain Bankにより提供された。切片を、1×PBSで洗浄し、0.1%のTriton X-100を含む1×PBSで 室温で10分間にわたり透過処理を行った。次いで、切片を洗浄し、3%BSAを含むPBSで室温で1時間にわたりブロッティングした。切片を、1×PBSで洗浄し、ADEL-Y01m抗体と4℃で一晩反応させた。
【0127】
翌日、ジアミノベンジジン(DAB)染色のために、一次抗体と一晩反応させることにより得られた切片を、1×PBSで洗浄した。切片を、二次抗体としてビオチン化抗マウスIgG抗体(Vector Laboratories, California, USA)と室温で1時間にわたり反応させた。切片を1×PBSで洗浄し、アビジン-ビオチン-ペルオキシダーゼ複合体で処置し(Vector Laboratories, California, USA)、反応させた。脳組織切片を、10分間にわたりDAB溶液中で反応させ、次いで、1×PBSで洗浄した。切片カナダバルサム(Sigma-Aldrich)上にマウントした。Zeiss顕微鏡(Carl Zeiss, Oberkochen, Germany)を用いて切片をイメージングし、AxioVision Imaging Systemを用いて画像を処理した。
【0128】
結果として、ADEL-Y01m抗体による染色は、正常な高齢者の側頭皮質においては観察されなかったが、一方、アルツハイマー病を有する患者の側頭皮質においては、ADEL-Y01m抗体による染色が観察された。加えて、これらの結果から、ADEL-Y01m抗体が、in vivoで脳組織において発現された修飾タウタンパク質に良好に結合することが同定された(
図22)。
【0129】
加えて、正常な高齢者およびアルツハイマー病を有する患者の脳組織を、ウェスタンブロッティングを通して分析した。ここで、ウェスタンブロッティングは、実験例1と同じ様式において行われ、抗Tau5抗体(Invitrogen、AHB0042)、抗アセチル-K280抗体(Anaspec、AS-56077)、抗アミロイド-β抗体(Covance、SIG-39300)、抗GAPDH抗体(Millipore、MAB374)、およびHRP標識抗ヒトIgG抗体を用いた。
【0130】
結果として、アルツハイマー病を有する患者の脳組織において、正常な高齢者の脳組織と比較して、より高い発現レベルの全タウタンパク質、アセチル化タウタンパク質、およびアミロイド-βが観察された(
図23A)。特に、アルツハイマー病を有する患者の脳組織において、約3倍多いアセチル化タウタンパク質(Tau-acK280)が観察された(
図23B)。
【0131】
実験例8.ADEL-Y01m抗体の脳室内投与の後のタウオパシー軽減効果の同定
ADEL-Y01m抗体の投与の後のタウオパシー軽減効果を同定するために、IgGまたはADEL-Y01m抗体を脳室内投与したTau-P301L認知症マウスおよび正常マウスの脳組織を抽出し、全タウタンパク質(Tau5)、アセチル化タウタンパク質(Tau-acK280)、およびタウタンパク質のアミノ酸配列における396番目のアミノ酸であるセリンをリン酸化することにより得られたタウ(Ser396)の発現レベルを、ウェスタンブロッティングを通してチェックした。ここで、ウェスタンブロッティングは、実験例1と同じ様式において行われ、抗Tau5抗体(Invitrogen、AHB0042)、抗pSer396抗体(Thermo、44-752G)、抗アセチル-K280抗体(Anaspec、AS-56077)、およびHRP標識抗マウスIgG抗体(Bioxcell、BE0083)を用いた。
【0132】
結果として、全タウタンパク質、アセチル化タウタンパク質、およびリン酸化されたタウタンパク質が、IgGを脳室内投与したTau-P301L認知症マウスの脳組織において、正常マウスの脳組織より高い量において存在することが同定された。一方、全タウタンパク質、アセチル化タウタンパク質、およびリン酸化されたタウタンパク質は、ADEL-Y01m抗体を脳室内投与したTau-P301L認知症マウスの脳組織において、IgGを脳室内投与したTau-P301L認知症マウスの脳組織よりも低い量において存在した(
図24~27)。
【0133】
加えて、マウスの脳組織における、タウタンパク質のアミノ酸配列における202番目のアミノ酸であるセリンおよび205番目のアミノ酸であるスレオニンをリン酸化することにより得られたタウタンパク質(pSer202/pThr205)、ならびにリン酸化タウ(pT231)の発現レベルを同定するために、免疫組織化学染色を行った。ここで、免疫組織化学染色は、実験例7におけるものと同じ様式において行い、抗AT8抗体(Thermo、MN1020)および抗pT231抗体(Thermo、MN1040)を一次抗体として用いた。
【0134】
結果として、IgGを脳室内投与したTau-P301L認知症マウスの脳組織において、正常マウスの脳組織と比較して、より高い発現レベルのリン酸化タウタンパク質が観察された。一方、ADEL-Y01m抗体を脳室内投与したTau-P301L認知症マウスの脳組織において、IgGを脳室内投与したTau-P301L認知症マウスの脳組織と比較して、より低い発現レベルのリン酸化されたタウタンパク質が観察された(
図28および29)。
【0135】
実験例9.ADEL-Y01m抗体の腹腔内投与の後のタウオパシー軽減効果の同定
ADEL-Y01m抗体の投与の後のタウオパシー軽減効果を同定するために、IgGまたはADEL-Y01m抗体を50mg/kgの量において腹腔内投与したTau-P301L-ADEL-Y01m認知症マウス、および正常マウスの脳組織を抽出し、全タウタンパク質(Tau5)、アセチル化タウ、およびリン酸化タウ(pT231)の発現レベルを、半変性(semi-denaturating)ウェスタンブロッティングを通してチェックした。ここで、半変性ウェスタンブロッティングは、マウス脳組織をβ-メルカプトエタノールなしの2×レムリ(laemmli)サンプルバッファーと混合したことを除いて、実験例1におけるウェスタンブロッティングと同じ様式において行った。加えて、抗Tau5抗体(Invitrogen、AHB0042)、抗pT231抗体(Thermo、MN1040)、抗アセチル-K280抗体(Anaspec、AS-56077)、およびHRP標識抗マウスIgG抗体(Bioxcell、BE0083)を用いた。
【0136】
結果として、全タウタンパク質、リン酸化されたタウタンパク質、およびアセチル化タウタンパク質のオリゴマー形態は、IgGを腹腔内投与したTau-P301L認知症マウスの脳組織において、正常マウスの脳組織より高い量において存在することが同定された。一方、全タウタンパク質、リン酸化されたタウタンパク質、およびアセチル化タウタンパク質は、ADEL-Y01m抗体を腹腔内投与したTau-P301L-ADEL-Y01m認知症マウスの脳組織において、IgGを腹腔内投与したTau-P301L認知症マウスの脳組織におけるものよりも、著しくより低い量において存在した(
図30~33)。
【0137】
実験例10.ADEL-Y01m抗体により引き起こされるシナプス改善効果の同定:脳室内投与
ADEL-Y01m抗体の投与の後のシナプス改善効果を同定するために、IgGまたはADEL-Y01m抗体を50mg/kgの量において脳室内投与したTau-P301L認知症マウス、および正常マウスの脳組織を抽出し、シナプス関連タンパク質についてウェスタンブロッティングを行った。ここで、ウェスタンブロッティングは、実験例1と同じ様式において行われ、抗PSD95抗体(Abcam、ab2723)、抗シナプシン-1抗体(Chemicon, MAB355)、抗β-アクチン抗体(Sigma、A5441)、およびHRP標識抗マウスIgG抗体(Bioxcell、BE0083)を用いた。
【0138】
結果として、IgGを脳室内投与したTau-P301L認知症マウスの脳組織において、正常マウスの脳組織と比較して、より高い発現レベルのPSD59およびシナプシン-1が観察された。一方、ADEL-Y01m抗体を脳室内投与したTau-P301L認知症マウスの脳組織において、IgGを脳室内投与したTau-P301L認知症マウスの脳組織と比較して、より低い発現レベルのPSD59およびシナプシン-1が観察された(
図34~36)。
【0139】
実験例11.ADEL-Y01m抗体により引き起こされるシナプス改善効果の同定:腹腔内投与
ADEL-Y01m抗体の投与の後のシナプス改善効果を同定するために、IgGまたはADEL-Y01m抗体を50mg/kgの量で腹腔内投与したTau-P301L認知症マウスおよび正常マウスの脳組織を抽出し、シナプス関連タンパク質についてウェスタンブロッティングを行った。ここで、ウェスタンブロッティングは、実験例10と同じ様式において行われた。
【0140】
結果として、IgGを腹腔内投与したTau-P301L認知症マウスの脳組織において、正常マウスの脳組織と比較して、より高い発現レベルのPSD59およびシナプシン-1が観察された。一方、ADEL-Y01m抗体を腹腔内投与したTau-P301L認知症マウスの脳組織において、IgGを腹腔内投与したTau-P301L認知症マウスの脳組織と比較して、より低い発現レベルのPSD59およびシナプシン-1が観察された(
図37~39)。
【0141】
実験例12.ADEL-Y01m抗体の腹腔内投与の後のADEL-Y01m抗体の脳組織中への浸透および抗原に対するその結合の同定
ADEL-Y01m抗体の腹腔内投与の後の脳組織における抗体の分布を同定するために、ADEL-Y01m抗体を50mg/kgの量において腹腔内投与したTau-P301L認知症マウス、および正常マウスを、生理食塩水による心灌流に供した。次いで、それらから脳組織を抽出し、タンパク質-Gセファロース(PGS)による免疫沈降に供した。その後、抗マウスIgG抗体を用いてウェスタンブロッティングを行った。ここで、ウェスタンブロッティングは、実験例1と同じ様式において行われ、抗Tau5抗体(Invitrogen、AHB0042)、抗アセチル-K280抗体(Anaspec、AS-56077)、およびHRP標識抗マウスIgG抗体(Bioxcell、BE0083)を用いた。
【0142】
結果として、IgGを腹腔内投与したTau-P301L認知症マウスの脳組織においては、いずれの抗体も検出されなかった。一方、ADEL-Y01m抗体を腹腔内投与したTau-P301L認知症マウスの脳組織において、抗体が存在することが同定された(
図40)。
【0143】
実験例13.高齢の認知症マウスモデルにおいてADEL-Y01m抗体により引き起こされた行動改善効果の同定:腹腔内投与
ADEL-Y01m抗体の治療効力を同定するために、高齢の14か月齢のマウスを調製例3におけるものと同じ様式において用いて、高齢の認知症マウスモデルを作製した。
図41において図示される実験スケジュールに従って、高齢の認知症マウスモデルを用いて、調製例2において調製されたADEL-Y01m抗体をそれに投与した。
【0144】
実験例13.1.巣作り試験を通した行動改善効果の同定
マウスのマルチモーダルな脳機能を同定することができる巣作り試験を、実験例4.1と同じ様式において行った。
結果として、Tau-P301L認知症マウスは、正常マウスと比較して約60%の巣作りスコアの低下を示すこと、およびADEL-Y01m抗体を投与したTau-P301L-ADEL-Y01m認知症マウスは、正常マウスと同様の巣作りスコアを示すことが同定された(
図42)。
【0145】
実験例13.2.Y迷路試験を通した行動改善効果の同定
認知機能の回復を同定するために、Y迷路試験を、実験例4.2におけるものと同じ様式において行った。
結果として、Tau-P301Lマウスの場合、AまたはCゾーンにおいて滞在して過した時間は、約80秒間であり、これは、正常マウスと比較して約25%低かった。一方、ADEL-Y01m抗体を投与したTau-P301L-ADEL-Y01m認知症マウスの場合、AまたはCゾーンにおいて滞在して過した時間は、約120秒間であり、これは、正常マウスと同様であった。これらの結果から、Tau-P301L-ADEL-Y01m認知症マウスの短期記憶能力が回復したことが同定された(
図43)。
【0146】
実験例13.3.水迷路試験を通した行動改善効果の同定
水中迷路試験は、実験4.3におけるものと同じ様式において行われた。
結果として、第5日において、プラットフォームが置かれていたNWゾーンにおいて滞在して過した時間について評価を行った。結果として、Tau-P301Lマウスは、10秒間以下にわたりNWゾーンに滞在するが、一方、正常マウスおよびADEL-Y01m抗体を投与したTau-P301L-ADEL-Y01m認知症マウスは、25秒間以上にわたりNWゾーンに滞在することが同定された(
図44)。
【0147】
実験例14.高齢の認知症マウスモデルにおいてADEL-Y01m抗体により引き起こされたタウオパシー軽減効果の同定:腹腔内投与
ADEL-Y01m抗体の投与の後のタウオパシー軽減効果を同定するために、IgGまたはADEL-Y01m抗体を50mg/kgの量で腹腔内投与した高齢のTau-P301L認知症マウスおよび正常マウスの脳組織を抽出し、全タウタンパク質(Tau5)、アセチル化タウタンパク質(Tau-acK280)、およびリン酸化タウ(pT231)の発現レベルを、ウェスタンブロッティングを通してチェックした。ここで、ウェスタンブロッティングは、実験例1と同じ様式において行われ、抗Tau5抗体(Invitrogen、AHB0042)、抗pT231抗体(Thermo、MN1040)、抗アセチル-K280抗体(Anaspec、AS-56077)、およびHRP標識抗マウスIgG抗体(Bioxcell、BE0083)を用いた。
【0148】
結果として、IgGを腹腔内投与したTau-P301L認知症マウスの脳組織において、より高い発現レベルの全タウタンパク質、リン酸化されたタウタンパク質およびアセチル化タウタンパク質のオリゴマー形態が観察された。一方、ADEL-Y01m抗体を腹腔内投与したTau-P301L認知症マウスの脳組織において、IgGを腹腔内投与したTau-P301L認知症マウスの脳組織と比較して、著しくより低い発現レベルの全タウタンパク質、リン酸化されたタウタンパク質、およびアセチル化タウタンパク質が観察された(
図45~48)。
【0149】
加えて、IgGまたはADEL-Y01m抗体を50mg/kgの量で腹腔内投与した高齢のTau-P301L認知症マウスおよび正常マウスの脳組織を抽出し、ギ酸を用いてそれらから大脳皮質組織を部分的に単離した。大脳皮質組織において、半変性ウェスタンブロッティングを通して不溶性タウ凝集物をチェックした。ここで、半変性ウェスタンブロッティングは、実験例9におけるものと同じ様式において行われた。
【0150】
結果として、IgGを腹腔内投与したTau-P301L認知症マウスの脳組織において、不溶性タウ凝集物の増加が観察された。一方、ADEL-Y01m抗体を腹腔内投与したTau-P301L認知症マウスの脳組織において、IgGを腹腔内投与したTau-P301L認知症マウスの脳組織と比較して、不溶性タウ凝集物の著しい減少が観察された(
図49)。
【0151】
III.抗タウ抗体のタウシーディング阻害効果の同定
実験例15.タウの凝集およびアセチル化タウタンパク質のシーディングの同定
初めに、野生型タウタンパク質(Tau)を、in vitroで、アセチルトランスフェラーゼであるP300酵素と反応させた。培養された神経細胞を、P300と反応させたアセチル化タウタンパク質(Tau-K280-ac)で処置した。アセチル化タウタンパク質が細胞内凝集を誘導するか否かを同定するために、アセチル化タウタンパク質または野生型タウタンパク質による処置を行い、1時間または20時間が経過した時点で、ドナー細胞ライセートに対して、抗HA抗体(Sigma-Aldrich、#11867423001)を用いてウェスタンブロッティングを行った。
【0152】
ここで、ウェスタンブロッティングは、実験例1と同じ様式において行われ、抗Tau5抗体(Invitrogen、AHB0042)、抗アセチル-K280抗体(Anaspec、AS-56077)、抗β-アクチン抗体(Sigma、A5441)、抗HA抗体(Sigma、#11867423001)、およびHRP標識抗マウスIgG抗体(Bioxcell、BE0083)を用いた。結果として、アセチル化タウタンパク質で処置されたドナー細胞のライセートにおいて、全タウタンパク質(Tau5)およびアセチル化タウタンパク質(Tau-acK280)の凝集の増加が観察された(
図50)。
【0153】
加えて、細胞の外に分泌されるタウタンパク質の量が変化するか否かを同定するために、ドナー細胞の培地を、抗HA抗体(Sigma-Aldrich、#11867423001)を用いた免疫沈降に供し、次いで、ウェスタンブロッティングを行った。
【0154】
具体的には、ドナー細胞培地を、13,000rpmで1分間にわたり遠心分離して、細胞デブリを取り除いた。次いで、ドナー細胞培地を、タンパク質G-アガロースビーズ(GE Healthcare Life Sciences, Piscataway, NJ, USA)で処置し、4℃で1時間にわたり反応させた。その後、1μlの抗HA抗体による処置を行い、4℃で一晩反応を進行させた。翌日、タンパク質Gセファロースビーズをこれに添加し、4℃で1時間にわたり反応を進行させた。次いで、6,000rpmで1分間にわたり4℃で遠心分離を行って、試料を回収した。試料の各々を、0.1%のTriton X-100を含むPBSで2回洗浄した。試料を、サンプルバッファーで処置し、次いで、ウェスタンブロッティングを行った。ここで、ウェスタンブロッティングは、ドナー細胞ライセートについて行われたものと同じ様式において行われた。
【0155】
結果として、アセチル化タウタンパク質で処置されたドナー細胞の培地において、全タウタンパク質(Tau5)およびアセチル化タウタンパク質(Tau-acK280)の量の増加が観察された(
図51)。
【0156】
加えて、他の神経細胞(レシピエント細胞)を、ドナー細胞培地で処置し、1時間または20時間が経過した時点でレシピエント細胞のライセートを回収した。各々の試料に対して、タウ抗体を用いてウェスタンブロットを行った。ここで、ウェスタンブロッティングは、実験例1と同じ様式において行われ、抗Tau5抗体(Invitrogen、AHB0042)、抗アセチル-K280抗体(Anaspec、AS-56077)、抗β-アクチン抗体(Sigma、A5441)、抗HA抗体(Sigma、#11867423001)、およびHRP標識抗マウスIgG抗体(Bioxcell、BE0083)を用いた。
【0157】
結果として、アセチル化タウタンパク質で処置されたドナー細胞の培地(Tau-ac-HA)で処置されたレシピエント細胞のライセートにおいて、タウタンパク質凝集物が観察された(
図52および53)。
【0158】
実験例16.ADEL-Y01h抗体により引き起こされたタウシーディング阻害効果の同定:In vitro
ADEL-Y01h01_v01抗体によりin vitroで引き起こされたタウシーディング阻害効果を同定するために、アルツハイマー病を有する患者の脳組織における、K280-acタンパク質フラグメント(mAC)、その凝集物(aAC)、またはサルコシル不溶性画分を、タウ-FRETの安定な細胞系に投与し、タウシーディングのレベルを測定した。タウがシーディングされた細胞に対して、それぞれ、IgGおよびADEL-Y01h01_v01抗体を投与した。それらについての比較分析を行った。
【0159】
初めに、細胞を処置するために用いられるべきK280-acタンパク質フラグメントの凝集物を、以下のとおり調製した。25μMの濃度を有するK280-acタンパク質フラグメントを、25mMのDTT溶液中で24℃の温度で1時間にわたり溶解し、生じた生成物を、撹拌しながら、(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES、10mM、pH7.4)、NaCl(100mM)、およびヘパリン(25mM)の溶液中で、Eppendorf Thermomixer Cを用いて、700rpmで37℃の温度の条件下において溶解した。そうすることにより、K280-acタンパク質フラグメントの凝集物を調製した。
【0160】
その後、HEK293 Tau RD P301S-FRET Biosensor(ATCC CRL-3275)を、96ウェルのプレート中に3.5×104細胞/ウェルで分注した。18時間後、各々のウェルのうちの約60%がHEK 293 Tau RD P301S-FRET Biosensorで被覆されたか否かを同定した。次いで、8.75μlのOPTI-MEM、1.25μlのリポフェクタミン2000(Invitrogen)、およびK280-acタンパク質フラグメント、その凝集物、またはサルコシル不溶性画分を混合して、混合物を室温で20分間にわたり反応させた。その後、各々のウェルを、混合物による処置に供し、次いで、37℃の温度で24時間にわたりインキュベーションを行った。次いで、CLARIOstar(登録商標)(BMG Labtech)装置を用いて蛍光波長分析を行った。
【0161】
結果として、ADEL-Y01h01_v01抗体が投与された場合、K280-acタンパク質フラグメントで処置された細胞は、統合されたFRET密度の低下を示し;ADEL-Y01h01_v01抗体が投与された場合、K280-acタンパク質フラグメントの凝集物で処置された細胞もまた、統合されたFRET密度の低下を示した(
図54)。加えて、ADEL-Y01h抗体が投与された場合、アルツハイマー病を有する患者の脳組織におけるサルコシル不溶性画分で処置された細胞は、統合されたFRET密度の低下を示した(
図55)。これらの結果から、ADEL-Y01h01_v01抗体が投与された場合、タウシーディングが阻害されることが同定された。
【0162】
実験例17.ADEL-Y01m抗体により引き起こされたタウシーディング阻害効果の同定:In vivo
ADEL-Y01m抗体によりin vivoで引き起こされたタウシーディング阻害効果を同定するために、IgGまたはADEL-Y01m抗体の静脈内注射を開始して2週間後に、調製例3において作製されたTau-P301L認知症マウスの左海馬におけるCA1層に対して、アルツハイマー病を有する患者からのサルコシル不溶性画分を投与した。サルコシル不溶性画分は、Tau-P301L認知症マウスの左海馬におけるCA1層に投与した。その後、各々のマウスを安楽死させて脳組織を抽出し、次いで、凍結して薄切した。脳切片を、抗AT8抗体による免疫組織化学染色に供し、タウシーディングのレベルをチェックした。
【0163】
具体的には、BraakステージIVにおけるアルツハイマー病を有する患者の脳組織におけるサルコシル不溶性フラグメント(3μl、3.3μg/μl)を、超音波処理に供し、6か月齢のTau-P301L認知症マウスの左海馬のCA1層(前-後:-1.9mm、内側-外側:1.5mm、左:-1.8mm)中に注射した。Tau-P301L認知症マウスに、IgGまたはADEL-Y01m抗体を20mg/kg/週の量において静脈内注射を開始し、2週間後に、サルコシル不溶性フラグメントを投与した;および、マウスに、IgGまたはADEL-Y01m抗体を、サルコシル不溶性フラグメントの投与の週から第12週まで、週1回静脈内投与した。ここで、サルコシル不溶性フラグメントは、0.2μl/分の速度で、10μlのガラスシリンジ(Hamilton、0.49mm、Reno, NV)を用いて注射し、逆流を防ぐために、取り除く前に5分間待った後で、針を取り除いた。12週間後、各々のマウスを安楽死させて脳組織を抽出し、Leica CM1860を用いて30μm厚の凍結切片に切った。
【0164】
免疫組織化学染色のために、脳切片の各々をバッファーA(1%のNGS、0.2%のTriton X-100および30%のH2O2、およびPBS)で洗浄した。脳切片を、1%のNGSおよび0.2%のTriton X-100を含むPBS、ならびにIgGまたはADEL-Y01m抗体による処置に供し、4℃で一晩反応させた。脳切片を、PBS溶液で数回洗浄し、次いで、二次抗体(Vector Laboratories)と、室温で1時間にわたり反応させた。その後、脳切片を、Vectastain ABCキット(Vector Laboratories)を用いて免疫染色に供し、製造者のマニュアルに従って免疫染色を行った。染色された脳切片を、ImageJソフトウェア(NIH, Bethesda, MD)を用いて分析し、海馬を含む3つの脳切片を定量した。抗AT8抗体で染色された神経細胞について、3人の盲検試験者により、実験において用いられた脳切片による測定を行い、特定の閾値において定量的分析を行った。IgGを投与した7個体のTau-P301L認知症マウス、およびADEL-Y01m抗体を投与した8個体のTau-P301L認知症マウスにおける、十字縫合-1.75と十字縫合-2.25との間の3つの脳切片を、分析のために用いた。統計学的分析のために、t検定を用いた。
【0165】
結果として、IgGを投与したTau-P301L認知症マウスについて、患者の不溶性フラグメントが投与された側とは反対側の脳領域(皮質、海馬)において、神経細胞体の染色が強力に観察された。一方、ADEL-Y01m抗体を投与したTau-P301L認知症マウスについて、海馬および皮質において、低下した染色が観察された(
図56~59)。
【0166】
実験例18.ADEL-Y01m/ADEL-Y01h抗体により引き起こされたタウの凝集およびシーディング阻害効果の同定
ADEL-Y01m抗体により引き起こされたタウ凝集阻害効果を同定するために、in vitroタウ凝集アッセイを行った。in vitroで生成されたK18タンパク質フラグメントを、1.5μgのP300および1mMのアセチル-CoAと、30℃の温度で3時間にわたり反応させることによりアセチル化した。その後、単量体K18タンパク質フラグメントを、25μMのアセチル化K18タンパク質フラグメント(K18-P301L)と、室温で1時間にわたり反応させた。次いで、得られたものを、25mMのヘパリン57、HEPES(10mM、pH7.4)およびNaCl(100mM)で処置し、700rpmの条件下において撹拌して、タウタンパク質の凝集を誘導した。次いで、ADEL-Y01m抗体を用いて、ウェスタンブロッティングおよびチオフラビン-Tアッセイを通して、タウの凝集およびそのシーディング阻害効果を分析した。チオフラビン-Tアッセイにより、ADEL-Y01h抗体による処置を行った場合、アセチル化タウタンパク質が凝集した場合と比較して、アセチル化タウタンパク質の凝集が阻害されることが同定された。
【0167】
初めに、細動反応のために、10M~20Mのアセチル化タウタンパク質(2N4R)を、ヘパリン(Sigma-Aldrich)およびDTTを2mMの濃度で100mMの酢酸ナトリウムバッファー(pH7.0)中に添加することにより得られた溶液中で、37℃でインキュベートした。タンパク質およびThT溶液(1:1の比におけるもの)を、各々のウェルに添加した。様々な時点におけるThT蛍光分析を、CLARIOstar(登録商標)(BMG Labtech, Ortenberg, Germany)を450nm(励起)および510nm(発光)波長において用いて測定した。
【0168】
培養されたマウス神経細胞を、アセチル化されたタンパク質の凝集物で処置し、ウェスタンブロッティングを行って、結果を同定した。
実験のために、初代大脳皮質ニューロン(DIV10)を、3μg/mlの濃度の単量体K18-P301L、凝集したK18-P301L、またはアセチル化K18-P301Lで、24時間にわたり処置した。ニューロンを、K18タンパク質処置の前に、3μg/mlのADEL-Y01m抗体で30分間にわたり前処置した。
【0169】
結果として、多くのタウ凝集体が神経細胞に侵入し、内在性タウタンパク質の凝集を誘導することが観察された;しかし、ADEL-Y01m抗体と同時に処置された場合、かかる現象が減少することが同定された(
図60および61)。
【0170】
実験例19.ADEL-Y01m抗体により引き起こされた神経細胞保護効果の同定
ADEL-Y01m抗体抗体により引き起こされた神経細胞保護効果を同定するために、大脳皮質神経細胞を、初めに、胎生期の間にマウス脳から単離した。具体的には、16日齢のマウスを安楽死させて脳組織を抽出し、それから大脳皮質を単離した。その後、大脳皮質組織を、カルシウムおよびマグネシウムを含まないハンク平衡化塩溶液(HBSS)中で解離させて、0.125%トリプシン溶液中で、37℃で15分間にわたりインキュベートした。20%ウシ胎仔血清を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)による処置により、トリプシンを不活化させて、ピペットを用いて大脳皮質組織を微粉砕した。得られた細胞懸濁液を、B27(登録商標)サプリメント(GibcoBRL)を補充したNB培地(Neurobasal(登録商標)培地)中で希釈し、50μg/mlのポリ-D-リジン(Sigma)および1μg/mlのラミニン(GibcoBRL)でコーティングされたプレート上に分注した。神経細胞を、37℃および5%CO2の条件下において10日間にわたり培養した。次いで、培養された神経細胞を、3μg/mlのアセチル化K18タンパク質フラグメントの凝集物、およびIgGまたはADEL-Y01m抗体で処置し、24時間にわたり反応させた。
【0171】
24時間後、上清を回収し、細胞毒性検出キット(LDH、Roche Applied Sciences)を用いて分析した。細胞死を定量する比色アッセイとして、損傷を受けた神経細胞の細胞質ゾルから上清中に放出された乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の活性を測定する方法を用いた。Tecan Infinite(登録商標)200装置を用いて、490nmの波長における吸光度を測定した。結果は、陰性対照(ブランク)と比較した細胞生存率のパーセンテージにおいて表した。
【0172】
加えて、細胞生存率は、MTT(チアゾリルブルーテトラゾリウム臭化物、Sigma-Aldrich, St. Louis, MO, USA)還元アッセイを用いて測定した。540nmの波長における吸光度を、TecanInfinite(登録商標)200装置を用いて測定し、結果は、陰性対照(ブランク)と比較したパーセンテージにおいて表した。
【0173】
加えて、結果は、2回の独立した培養および6個のウェルの条件下において得たものであり、全ての値は、平均値±平均値のs.e.として表した。統計学的分析のために、Tukey多重比較検定を伴う一方向ANOVAを用いた。
【0174】
結果として、
図62において示されるとおり、IgG処置された神経細胞においては、高いLDH活性が観察された。一方、ADEL-Y01m抗体処置された神経細胞においては、IgG処置された神経細胞と比較して、低下したLDH活性が観察された。加えて、
図63において示されるとおり、IgG処置された神経細胞においては、大きく低下した生存率が観察された。一方、ADEL-Y01m抗体処置された神経細胞においては、IgG処置された神経細胞と比較して、著しく増大した生存率が観察された。これらの結果から、ADEL-Y01m抗体が、アセチル化タウタンパク質の凝集により引き起こされた神経細胞における損傷に対して、保護効果を発揮することが同定された。
【0175】
実験例20.ADEL-Y01m抗体により引き起こされたミクログリア食作用促進効果の同定
ADEL-Y01m抗体により引き起こされたミクログリア食作用促進効果を同定するために、初代ミクログリアを、初めに、2日齢~3日齢のマウスの大脳皮質から単離し、McDonald DR et al., J Neurosci. 1997; 17: 2284-94において記載される方法に従って培養した。
【0176】
その後、ミクログリア食作用の分析のために、アセチル化K18タンパク質フラグメントを、HiLyte(商標)Fluor 488で、製造者の指示に従って標識した。HiLyte(商標)Fluor 488で標識されたアセチル化K18タンパク質の凝集のために、タンパク質を、その凝集が誘導されるように、ヘパリン(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO, USA)および2mMのDTTを含む100mMの酢酸ナトリウムバッファー(pH7.0)中で、37℃でインキュベートした。
【0177】
12ウェルプレート中に5×10
4細胞/ウェルでミクログリアを分注し、次いで、アセチル化K18タンパク質フラグメントの凝集物(3μg/ml)を、37℃で2時間にわたり反応させた。4.5μg/mlの濃度におけるIgGまたはADEL-Y01m抗体による前処置は、アセチル化K18タンパク質フラグメントの凝集物と共に、処置の30分前に行った。
食作用の分析のために、細胞を、トリプシンによる処置で分離し、次いで、1%パラホルムアルデヒド(PFA)で固定した。フローサイトメトリーのために、200μlの2%ウシ胎仔血清を含むHBSS溶液による処置を行い、FACSCanto(商標)II(BD Biosciences)装置および488蛍光フィルターを用いて分析を行った。
結果として、ADEL-Y01m抗体で処置されたミクログリアにおいて、IgG処置されたミクログリアと比較して、促進された食作用が観察された(
図64)。
【0178】
統計学的分析
統計学的分析は、GraphPadソフトウェア(GraphPad Prism v7.0およびGraphPad Prism v8.0、GraphPad Softwere、San Diego, CA, USA)を用いて行った。データは、一方向ANOVA(Tukeyの事後試験)およびStudentのt検定により分析した。0.05より低いP値を、有意とみなした。
【0179】
[アクセッション番号]
受託機関の名称:Korean Collection for Type Cultures(KCTC)
アクセッション番号:KCTC14155BP
アクセッションの日付:2020年3月18日
【配列表】